- 1 -主文 原判決を次のとおり変更する。 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して金30万円及びこれに対する平成13年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その1を被控訴人らの,その余を控訴人の各負担とする。 事実及び理由 第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して金300万円及びこれに対する平成13年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 仮執行宣言第2事案の概要 本件は,三原市立α小学校の教務主任の職にあった控訴人が,同校のA校長から年休取得の許可を得た上で広島県教職員組合広教組の平成13年度定期大会本()(件定期大会)に参加したところ,許可後に,違法な時季変更権を行使され,これを前提として欠勤を理由とする給与・勤勉手当の減額,教務主任の命課換え,文書訓告をされるという不利益を受け,精神的苦痛を被ったとして,被控訴人三原市と被控訴人広島県に対し,国家賠償法に基づき,慰謝料300万円及び文書訓告を受けた日である平成13年10月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 原判決は,①A校長の時季変更権の行使は,労働基準法上違法であり無効であるとの前提に立って検討するとした上で,②時季変更権行使及びこれに伴う職務命令違反を理由とする文書訓告は,客観的に重大な瑕疵があり違法・無効であるが,命課換えについての判断はA校長の裁量の範囲内であり,③また,時季変更権行使が違法・無効であったとしても,これが直ちに不法行為に該当するとはいえず,仮に不法 的に重大な瑕疵があり違法・無効であるが,命課換えについての判断はA校長の裁量の範囲内であり,③また,時季変更権行使が違法・無効であったとしても,これが直ちに不法行為に該当するとはいえず,仮に不法行為に該当するとしても,控訴人が休暇を取得し,未払賃金の支払を受けることで慰謝されて,損害はなく,④給与・勤勉手当の減額がその前提を欠き違法・無効であっても,三原市教育委員会(市教委)と広島県教育委員会(県教委)に不法行為は成立せず,損害も既に填補されており,⑤本件文書訓告が違法・無効としても,市教委と県教委には不法行為は成立せず,損害についても,文書訓告の違法・無効が判決で明らかにされることによって慰謝される程度のものであるとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。そのために控訴人が控訴したものである。 その他の事案の概要は,原判決3頁16行目から17行目の「命課換えをした」「()」,「」「」の次に本件命課換えを加え23行目以下の本件訓告処分を本件訓告と改め,以下に当事者の当審における主張を付加するほか,原判決の事実及び理由- 2 -中の「第2事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 (控訴人の当審における主張)(1)事実誤認ア控訴人は,平成13年(以下,特に記載のない限り同年を指す)6月3。 日以前の時点で,A校長から研修参加を強制するような通知は受けていない。すなわち,A校長が控訴人に対し,①5月31日に「6月5日の主任,研修には是非行ってください」と話した事実,②6月1日の大休憩の際に。 「主任研修は義務研修だから絶対に行ってもらわんといけん」と言った事。 実,③6月3日,午後8時30分ころ「明日もあさっても年休は受け付け,ますが,5日は是非研修に行ってください」と言った事実はない 主任研修は義務研修だから絶対に行ってもらわんといけん」と言った事。 実,③6月3日,午後8時30分ころ「明日もあさっても年休は受け付け,ますが,5日は是非研修に行ってください」と言った事実はない。これら。 に沿うA校長の証言等は信用性がない。 イ6月1日には「6月4日の年休は受理するが,6月5日分は再考して欲,しい」旨要請され,結局,最終的判断には「時間が欲しい」として結論。 。 が先延ばしされたにすぎない。6月1日に職務命令が発せられていたとすれば,控訴人としては年休申請をするはずがなく,A校長が年休申請を最終的に受理するはずもない。 ウ6月3日にしたとされるA校長の上記発言も,同人がその会話の中で年休を受け付けると述べているのであるから,時季変更権を直ちに行使しない限り,研修に参加するよう命ずることは相矛盾することであり,そのよ。 ,,うな命令をするはずはない市教委段階では控訴人申請の年休を許可し後の予備研修に参加させればよいと考えていた可能性がある。 エ以上のような状況をも踏まえると5月31日についてもA校長はそ,,「れに出て行って欲しい,出て行っていただきたい」と述べただけというべ。 きである。 (2)時季変更権行使についてア6月5日の年休の取得(本件年休)は「事業の正常な運営」を妨げるものではないことは原審での主張のとおりである。 イ時季変更権行使の意思表示について(ア)A校長が,控訴人に対し,6月1日,同月3日に,研修に参加するよう命じていないことは前記(1)のとおりであり,したがって,この事実を前提として時季変更権の行使を肯定することは誤りである。 (イ)また,時季変更権の行使は,事業の正常な運営を妨げる事由の存在を理由として,職員の指定した時季の年休を認めない旨の明確な意思表示を 実を前提として時季変更権の行使を肯定することは誤りである。 (イ)また,時季変更権の行使は,事業の正常な運営を妨げる事由の存在を理由として,職員の指定した時季の年休を認めない旨の明確な意思表示を要するというべきである。A校長が,仮に前記(1)アに指摘のような発言をしていたとしても,①6月1日の発言については,年休を思いとどまるよう求めているだけで,本件年休の自主的撤回または変更の要請をしているにすぎず,指定した時季の年休を認めない旨の意思が表明されているとは到底いえないし,②6月3日の発言についても,控訴人との再度の話合いの余地を残すようなものとなっているから,時季変- 3 -更権の行使とはいえず,控訴人に自主的に本件年休を変更するよう説得している域に止まっていることは人事委員会の認定するとおりであり,。 これらのA校長の発言をもって時季変更権の行使があったとはいえない(ウ)さらに,6月1日の発言について,原判決が,A校長は「どのように確定的に対応すべきなのか即座に判断できなかった」としながら,時。 季変更権の行使があったとすることは矛盾である。6月3日の発言についても,控訴人は「ありがとうございます」と礼を述べ,翌4日朝に,。 最終結論を確認した際にもA校長は「年休を2日間とも受理します」と。 述べたにすぎない。A校長が時季変更権を行使していたというのであれば,上記のように控訴人が礼を述べることはなく,これに対しA校長も異論を差し挟むはずであるのに,そのような対応はない。 ウ時季変更権行使の時期についてA校長は,遅くとも6月4日午前の電話の際には時季変更権を行使すべきであったが,上記のとおり,6月4日午前までの間に時季変更権を行使した事実はなく,同日夕方に至ってようやく時季変更権の行使を通告したものである。しかし,この 午前の電話の際には時季変更権を行使すべきであったが,上記のとおり,6月4日午前までの間に時季変更権を行使した事実はなく,同日夕方に至ってようやく時季変更権の行使を通告したものである。しかし,この時点における時季変更権の行使は,不当に遅延したものとして効力を生じず,控訴人による時季指定の効力を覆すものとはならないというべきである。 エ権利濫用について年休申請が権利濫用になることがあるとしても,自ら嫌悪する特定の業務を回避するため,その業務予定日時に年休を取得しようとする場合等に限られる。本件の場合,控訴人は,地区支部長として広教組の本件定期大会に出席する義務があり,片や,教務主任として本件主任研修に参加する義務もあり,この二律背反に遭遇して苦悩していたものである。控訴人にとってはいずれもが重要な職務であり,しかも,主任研修はこれまでは強制としていなかったという歴史的な経過があった上,予備日も設定されているため,この日に変更されることもあり得ると考え,取りあえず年休申請をしたものである。これが権利濫用でないことは明らかであり,A校長としては,時季変更権を行使すれば足りたものである。 (3)職務命令の認定前記(1)アに指摘のような事実はなく,仮にこれがあったとしても,職務命令と認めることは到底できない。A校長自身,職務命令であることを明。 ,言して控訴人に通知したのは6月4日の夕方である旨証言しているさらに仮にこれらが職務命令であったとしても,6月4日午前には年休申請を2日間とも受理しているのであるから,これにより職務命令は撤回ないし取り消されたものというべきである。 (4)時季変更権行使等の違法性,過失学校教育法28条3項により,校長は,職員の勤務時間管理の責任者であることが明記されており,この権限行使に法律違反があれば違 り消されたものというべきである。 (4)時季変更権行使等の違法性,過失学校教育法28条3項により,校長は,職員の勤務時間管理の責任者であることが明記されており,この権限行使に法律違反があれば違法行為として- 4 -責任は免れず,校長が,時季変更権行使の要件や行使態様を知らなかったことは過失となっても,これを免責事由とすることはできない。過失の立証責任が原則として被害者にあるとしても,現実にはその立証は困難であることが少なくなく,被害者が公務員の違法な公権力の行使によって損害が生じたことを立証した場合には,過失が一応推認されるというべきである。本件においてA校長がした時季変更権の行使は,少なくとも遅れたものであって違法とされる以上,A校長及びこれを指示した県教委や市教委に過失があることは当然である。A校長は,事前に市教委に相談し,市教委は県教委に相談しているのであるから,適切な指示がされることは当然の前提である。そもそも,職員の勤務時間管理者としては,時季変更権行使の要件を知らないことだけでも過失というべきである。 また,時季変更権の適切な行使を怠り,控訴人に年休を取らせたのであれば,その年休取得は有効なものであって,これを後に欠勤などとして扱うことは到底できないことは明らかであるのに,A校長と市教委は,県教委の指導の下にこれをしている。A校長については,仮に同校長が時季変更権行使の要件を詳しく知らないために,その行使が遅れたことについて過失に該当しないとしても,その後に,控訴人の年休取得を欠勤として扱い,さらに,その年休取得を理由に訓告処分することは二重の過失である。 A校長の過失は明らかであるのに,原判決は,これを放置しながら,控訴人の対応について「A校長が時季変更権を行使しないことはほとんどあり得,ない客観的状況にあるこ 告処分することは二重の過失である。 A校長の過失は明らかであるのに,原判決は,これを放置しながら,控訴人の対応について「A校長が時季変更権を行使しないことはほとんどあり得,ない客観的状況にあることを熟知しながら,事業の正常な運営を妨げる年休の時季指定を敢えて行い,A校長のミスを誘発した」とする。しかし,A校長が時季変更権を行使しないことはほとんどあり得ない客観的状況にあることを熟知していたとの証拠はない。むしろ,控訴人は何とか休暇の承認を得て本件定期大会に出席しようと努力し,B広教組書記長から「一度,年休届けを出してみて,これを拒絶されたり,時季変更権が行使された場合は,研修に参加するよう」指導され,これに従って年休届けを出したところ,A校長はこれを承認し,時季変更権を行使しなかったため,本件定期大会に参加し,本件主任研修に参加しなかったにすぎない。年休申請は無条件に可能であり,業務の正常な運営を妨げる場合には時季変更権を行使すれば足りることである。控訴人の対応が悪質であるかのごとくに位置づけて被控訴人らを救済することは許されない。 (5)命課換えについて命課換えについてA校長に裁量権があるとしても,無限定,無定型なものではなく,選解任(命課換え)に他の(違法)目的が介在している場合はこの命課換え自体が違法となる。 本件においては,A校長や市教委が従来どおり控訴人を教務主任に就任させることについて何ら問題としていなかったにもかかわらず,広教組に対し,,て一連の不当労働行為を繰り返してきた県教委が指導と称して横槍を入れ- 5 -市教委やA校長がこれに従って命課換えをしたという事情がある。本件命課換えは,このような県教委の不当労働行為の一環としてされたものである。 本件命課換えは,県教委や市教委が広教組の活動を抑える目的で行っ 教委やA校長がこれに従って命課換えをしたという事情がある。本件命課換えは,このような県教委の不当労働行為の一環としてされたものである。 本件命課換えは,県教委や市教委が広教組の活動を抑える目的で行った指示にA校長が盲目的に従ったものであり,明らかに裁量権を逸脱した不当労働行為そのものであり,違法,無効である。 (6)責任本件では,控訴人は違法に時季変更権を行使された上,年休の取得が認められるべきであるのに欠勤扱いとされて給与等を減額され,理由もなく命課換えや文書訓告という不名誉な処分まで受けたものであり,県教委,市教委及びA校長によるこれら一連の行為が,いずれもその理由を欠いた違法なものであって,被控訴人らに控訴人の損害を賠償すべき責任のあることは明らかである。 (7)損害(精神的苦痛について)控訴人が受けた精神的苦痛は,以下のとおりであり,控訴人が現実に休暇を取得し,未払賃金の支払を受けることにより慰謝される程度のものとは到底いえない。 ア給与の減額欠勤扱いにより給与は減額され,その説明はまったくなく,7月16日の給料日に給料明細書を受け取り,これにより8時間の欠勤で2万2736円が減額されていることを知った。それを妻が知り,様々な心配をして夫婦の信頼関係にも影響を生じている。 イ文書訓告「訓告」処分は,市町村教育委員会が,懲戒処分の形式はとらないものの,県費負担教職員らに対する当局の組合運動対抗手段として常用されてきた。特に,文書訓告の内容は「戒める」というものであって,まさに服務規律違反に対する制裁措置そのものである。文書訓告は,控訴人が措置要求を行ったことに対する報復措置としてされたものである上,加害者と被害者をすり替えるものである。控訴人は,これまでまじめに勤務してきていながら,定年前にしてこのような処分を受け 告は,控訴人が措置要求を行ったことに対する報復措置としてされたものである上,加害者と被害者をすり替えるものである。控訴人は,これまでまじめに勤務してきていながら,定年前にしてこのような処分を受けたこと自体が屈辱的なことであり,教師としての努めに背いたと判断されたもので,これまでの勤務自体を否定されたような屈辱的な気持となった。しかも,市教委は,未だ時季変更権の行使さえ正当なものであり,訓告処分も正当であるとしており,控訴人にやりきれない思いをさせている。 被控訴人広島県は,訓告によって何ら不利益を受けることはなく,人事記録の管理対象ではないとするが,県教委は,懲戒処分の事由として過去に訓告を受けたことを摘示しているのであり,この訓告「処分」を人事記録に残し,この前歴を懲戒処分をする際に不利益に考慮している。 また,本件文書訓告の内容は,当局から「叱りおかれた」と認識し,これまでの自らの経歴を傷付けられた上,子供たちに対して熱心に行ってき- 6 -た職務行為を否定されたと受け止めても無理からぬものである。しかも,本件においては,適法な年休取得を違法視されて叱責までされたものであり,二重の意味で精神的に傷付けられている。 ウ命課換え控訴人は,本件命課換えによりいきなり教務主任の地位を剥奪され,他の若年の教師に替えられた。その屈辱は言いようのないものであり,慰謝されるべきである。 (被控訴人三原市の当審における主張)(1)時季変更権の行使についてA校長は「時季変更権」という法律用語は使用しなかったものの,6月1,日,同月3日に研修出席の必要があるという理由で年休届の撤回を促しているのは,時季変更権そのものを行使したというべきであり,A校長の時季変更権の行使は全体的にみて適法なものである。 (2)訓告について訓告は,懲戒処分に 必要があるという理由で年休届の撤回を促しているのは,時季変更権そのものを行使したというべきであり,A校長の時季変更権の行使は全体的にみて適法なものである。 (2)訓告について訓告は,懲戒処分に至らない職員の義務違反に対し,服務監督権者によって行われる矯正措置であり,訓告を受けた職員が職務上又は経済上の不利益を受けることはない。その他のこの点についての主張は,後記(被控訴人広島県の当審における主張(4)記載のとおりである。もともと本件主任研修)は義務研修であり,A校長がこれに参加するよう職務命令を発したのに,控訴人は,これを無視して参加しなかったものであって,その行為は法令等及び上司の命令に従う義務を定めた地方公務員法第32条に違反するものであり,この行為に対する訓告は正当である。 (3)まとめ本件主任研修については,5月中旬にはその開催日,会場等の実施要綱が定まっており,控訴人にもその旨通知されていた。控訴人はそのことを充分に承知しており,また,A校長から研修への出席を強く要請されていたのに,。 ,かかわらずあえて年休届を提出したものであるこのような事情に加えて,控訴人の給与・賞与の減額分がすでに填補されていることなどを総合すればいずれにしても本件につき控訴人の慰謝料請求権は発生しないというべきである。 (被控訴人広島県の当審における主張)(1)職務命令についてア職務命令が有効に成立するためには,きちんと職務命令であることを明言しなければならないというものではない「権限ある上司から発せられた。 こと「その職務に関するものであること「実行可能な職務命令である」,」,」,,,ことの各要件を充足していることが必要であるが5月14日20日,,,31日6月1日3日にされたものはいずれもこ るものであること「実行可能な職務命令である」,」,」,,,ことの各要件を充足していることが必要であるが5月14日20日,,,31日6月1日3日にされたものはいずれもこの要件を充足しており職務命令と解すべきである。また,職務命令の手続及び形式については,別段の制限はなく,要式行為ではないから,口頭によっても文書によって- 7 -もよく,この点でも問題はない。 イ控訴人は,研修参加を強制するような通知は受けていない旨,また,研修参加の職務命令が発せられたのであれば控訴人が年休申請をするはずはない旨主張するが,控訴人自身,3回か4回かは研修への出席を求める話を聞いている旨,また,研修が優先することは理解しながら様子を窺うために年休申請した旨供述しており,上記の控訴人の主張は誤りである。 (2)時季変更権行使についてア控訴人は,6月3日午後8時30分ころにA校長が時季変更権を行使した事実はなく,その理由として,市教委段階では年休を許可し,後の予備の研修に参加させればよいと考えた可能性があると主張するが,臨時研修があったことを前提に上記日時にA校長が時季変更権を行使しなかった理由とすることはできない。臨時研修が開催されることになったのは本件主任研修が終了した後であり,あくまで事後的な事情にすぎない。また,教務主任研修は平成12年度から実施されたものであるが,同年度においても予備日を設けていた事実はなく,平成13年度においても,第1回の研修の欠席者の状況をみた上で,同年6月13日ころに開催を決定したものである。 イ時季変更権の行使の有無を判断するにあたっては,A校長の対応を一体的に見て全体として時季変更権が適法に行使されたとみるべきである。 ウ控訴人は,A校長が時季変更権を行使しないことはほとんどあり得な 時季変更権の行使の有無を判断するにあたっては,A校長の対応を一体的に見て全体として時季変更権が適法に行使されたとみるべきである。 ウ控訴人は,A校長が時季変更権を行使しないことはほとんどあり得ない客観的状況にあることを熟知していたことはない旨主張するが,A校長が明確な判断をしていれば控訴人は本件主任研修に参加していたとのB証言等からすれば,広教組ないし控訴人としては,A校長が時季変更権を行使することを当然の前提として対処していたことは明らかである。また,控訴人は組合幹部として地方公務員の勤務時間制度の基本的な事柄について承知していないということはあり得ない。 (3)年休申請について控訴人は,業務の正常な運営を妨げる場合や,それを認識した場合に年休権を行使してはならない等の記載や解釈はなく,年休申請は無条件にできる旨主張するが,その行使の意図等によっては権利濫用となることがあり得ることは当然の法理である。 (4)訓告についてア市教委における訓告は,地方公務員法に基づく懲戒処分ではなく,県費負担教職員の服務の監督権を有する者として当該教職員に対して将来を戒めるために行う事実上の行為にすぎず,これによって直接法的効果をもたらすところはない。 イ文書訓告は「履歴事項」として記録されるものではないし,給与上の措,置に結びつくものでもないから,全く制裁的実質を備えていない。したがって,これを訓告「処分」と呼ぶことは当を得ない。文書訓告を受けた者- 8 -が再び同様の行為をした場合には懲戒処分を受けるという関係にもない。 懲戒処分中の最も軽い処分である戒告と対比しても,文書訓告は,文書を交付する体裁をとるが発令行為ではなく,人事記録の管理対象とならず,昇給延伸を伴わず,特別昇給の適用除外とはされず,勤勉手当の支給割合にまったく影響 い処分である戒告と対比しても,文書訓告は,文書を交付する体裁をとるが発令行為ではなく,人事記録の管理対象とならず,昇給延伸を伴わず,特別昇給の適用除外とはされず,勤勉手当の支給割合にまったく影響がなく,基本的に事案内容を公表しないなどの点で差異があり,何ら不利益を課すものではない。 もっとも,このことは,文書訓告を受けた者について,文書訓告の対象。 となった非違行為自体が存在しないものとして扱われることを意味しないまた,県費負担教職員について文書訓告を行う意思決定に係る文書は,当該市町村教育委員会において永久保存される。 (5)命課換え等について控訴人は,A校長が幾度となく本件研修への参加を命令,説得などしたにもかかわらず,期待される教務主任の職責や,それを果たす上での本件研修の重要性を認識しながら,あえて,公務外の職員団体活動の方を優先させて本件研修に参加しなかったものである。このような行動は教務主任として不適任な事情と認められる。本件年休の取得が結果的に適法であったことや,職員団体活動が妨害されるべきでないことと,教務主任としてなすべき業務があるときに年休を取得したり職員団体活動をしたりすることが,教務主任として期待されるところにかなうかどうかとは別次元の問題である。 第3当裁判所の判断 当裁判所は,控訴人の本件請求は,被控訴人らに対し,連帯して,30万円とこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおり付加訂正するほか,原判決の事実及び理由中の「第3当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1)原判決20頁1行目の「①同日分の」から同8行目末尾までを次のとおり改める。 「,「,。」同人に対し6月4日の年休は受理するが5日 断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1)原判決20頁1行目の「①同日分の」から同8行目末尾までを次のとおり改める。 「,「,。」同人に対し6月4日の年休は受理するが5日の分は再考して欲しい旨要請した。これに対し,控訴人は「校長からは何度も指導を受けたが最,終的には年休届を出すことにした。年に1度の定期大会であり出席しないわけにはいかない。日程が重ならなければ必ず出席するのに・・・」と述。 べ,再度,5日についても年休を取得したい旨要望した。A校長は,本件主任研修が義務研修であるため,どのように対応してよいか即座に結論を出せず,市教委に相談しようと考え,控訴人に,後に結論を出すので時間が欲しい旨伝え,控訴人もその結論を待つこととした」。 (2)同20頁17行目から18行目の「指示を仰いだ上で,C次長に対し,原告を本件主任研修に必ず参加させるよう指示した。そこで」を次のとおり改める。 「指示を仰いだところ,当時の県教委事務局教育部指導第一課課長補佐兼企画研修係長であったDは,E課長に対しては,今までどおり研修に参加す- 9 -るよう指導を続けてもらいたいと答える一方で,争訟に発展する可能性が,。 ,あることを危惧し法務担当に報告してその指示を待つこととした他方Dの指示を受けたE課長は,C次長に対し,昨日お願いしたところである旨回答し,これを受けて」(3)同21頁5行目から6行目の「指導すると共に」の次に「6月5日の時季,指定についてはこれを変更ないし撤回するよう協力を求め,協力を得られなかった場合には」を加え,6行目の「年給届」を「年休届」に改める。 ,(4)同22頁2行目の「5日は是非研修に行ってください」を削除する。 。 (5)同22頁17行目から18行目の「受け入れられないときは」 には」を加え,6行目の「年給届」を「年休届」に改める。 ,(4)同22頁2行目の「5日は是非研修に行ってください」を削除する。 。 (5)同22頁17行目から18行目の「受け入れられないときは」の次に「時季変更権を行使し,それも受け入れられないときには」を加える。 (6)同25頁4行目から33頁6行目までを次のとおり改める。 「2争点(1(時季変更権行使の適法性)について)(),, 控訴人は年休の申請を受理すれば時季変更権行使の余地はなく以後は承認の撤回行為に該当し,行政行為の取消し又は撤回の問題として,処分に瑕疵があるか特別の事情のない限り許されないものであるのに,本件においては,A校長は,遅くとも6月4日午前の時点では控訴人のした年休申請を受ける旨回答してこれを承認しているから,その後の時季変更権の行使はあり得ず,また,仮に時季変更権が行使されたものであるとしても違法・無効である旨主張する。 (2)年休は,労働者がその有する休暇日数の範囲内で,具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは,客観的に労基法39条4項ただし書所定の事由(請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合)が存在し,かつ,これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり,労働者の時季指定によって年休が成立し,当該労働日における就労義務が消滅するもの,すなわち,年休の時季指定の効果は,使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって,年休の成立要件として,使用者の承認の観念を容れる余地はないものと解すべきである(最高裁昭和41年(オ)第848号昭和48年3月2日第二小法廷判決・民集27巻2号191頁。 )したがって,このような意味での労働者からの時季指定に対し,使用者側から承認ない のと解すべきである(最高裁昭和41年(オ)第848号昭和48年3月2日第二小法廷判決・民集27巻2号191頁。 )したがって,このような意味での労働者からの時季指定に対し,使用者側から承認ないし不承認の意思表示がされたと認められる場合においては,それらの意思表示は,それぞれ,時季変更権を行使しない旨の意思表示ないし時季変更権行使の意思表示としての意味を持つものというべきである。そして,そのような意思表示がされていない場合における時季変更権の行使は勿論,年休が一旦承認された場合においても,その後に予測し得ない事情の変更が生じるなど,やむを得ない理由があれば,その後の時季変更権の行使(年休- 10 -承認の撤回)が許されないわけではないが,時季変更権の行使は適切な時期に遅滞なくされるべきであり,特に,承認等によって労働者に休暇取得の期待を生じさせているような場合には,その期待を保護する必要がある。この意味で,時季変更権の行使に必要な合理的期間を徒過した不適切な時期における時季変更権の行使ないし一旦与えた承認の撤回は,労基法39条4項ただし書に該当する事由が客観的に認められる場合であっても,権利の濫用ないし信義則上許されないものとして違法,無効と解すべきである。 (3)本件においては,前記認定のとおり,県教委は,6月1日のA校長からの市教委を介した問合わせに対し,年休届を受理した上で,場合によっては時季変更権を行使することなどの方針を決定しているところ,このような処理を前提とする「受理」は,直接的には上記のような年休取得の要件に直接関わるものではなく,内部手続上求められている事実上の措置にすぎず,この意味での「受理」がされたからといって,これが直ちに年休の承認(時季変更権不行使の意思表示)を意味するものということはできない。し るものではなく,内部手続上求められている事実上の措置にすぎず,この意味での「受理」がされたからといって,これが直ちに年休の承認(時季変更権不行使の意思表示)を意味するものということはできない。しかし,このような意味の「受理」であっても,個別的,具体的な場合において,それが同時に,申請者に対する年休の承認(時季変更権不行使)の意思表示をも兼ね併せた意味で用いられ,又は用いたものと認められる場合があることは別論である。本件においては,6月1日に年休届が提出された際,A校長は,控訴人に対し,再考を要請し,さらに,検討のために時間が必要であるとして回答を留保した後,6月3日と4日に,特に4日午前9時30分ころには,最終確認のためにされた控訴人からの電話に対して,いずれも年休を受理する旨回答し,ほかには連絡先を確認する程度のやりとりに止まったことは前記認定のとおりである。その内容からすれば,それが時季変更権の行使の留保を前提とするものであることが明示されていたということはできない。このようなA校長の対応は,一方では,年休の受理について使用者側の判断を前提とする行為として位置づけており,他方で,受理の表明に際し,時季変更権の行使などが留保されていることを示すものでもなく,これを一連の経過に即して客観的にみれば,少なくとも同人が6月4日午前に「年休を受理する」旨の回答をしたことは,上記のような「受理」の意味に止まらず,6月5日の年休を承認したもの,すなわち同日についての時季変更権を行使しないとの意思を表示したものと認めるのが相当である。 したがって,これを前提とする限り,6月4日午後6時ころに,A校長が控訴人に対して時季変更権を行使する旨伝えたことは,既にされた年休の承認(時季変更権不行使の意思表示)を撤回する旨の意思表示を意味するという ,これを前提とする限り,6月4日午後6時ころに,A校長が控訴人に対して時季変更権を行使する旨伝えたことは,既にされた年休の承認(時季変更権不行使の意思表示)を撤回する旨の意思表示を意味するというべきである。そして,そのような形態- 11 -での時季変更権の行使であっても,前述のとおり,事情によっては許されないものではなく,また,本件主任研修の実施日に休暇を与えることが労基法39条4項ただし書にいわゆる「事業の正常な運」,,,営を妨げる場合に当たるとしても本件では前記認定のとおりA校長が年休の承認をしたものというべき6月4日午前の時点において,6月5日に本件主任研修が開催される予定であることは明白な事実であって,承認後に予測できない事態が生じたというものではなく(仮に,A校長において,県教委から時季変更権を行使すべき旨の具体的な指示があることを予測していなかったとしても,前記の事情からすれば当然予測すべき事柄である,むしろ,そのよ。),うな問題があったからこそ検討に時間を要するとして判断を留保しその結果として,受理する旨の回答をしたものである。そして,6月1日の控訴人による時季指定の後,A校長が時季変更権を行使する機会は十分に存したものであり,遅くとも6月4日午前の控訴人からの最終確認の電話の際には,これを行使すべきものであったということができる。さらに,A校長が時季変更権を行使する旨の意思表示をしたのは6月4日午後6時ころのことであって,その時点においては,既に本件定期大会は同日から開催されていて,控訴人は同日に引き続き翌日も本件定期大会に参加するために,予約した宿泊場所に赴いており,また本件定期大会の運営についても控訴人の参加を前提とした準備や打合せがされていて,この時点で時季変更権の行使(年休承認の 引き続き翌日も本件定期大会に参加するために,予約した宿泊場所に赴いており,また本件定期大会の運営についても控訴人の参加を前提とした準備や打合せがされていて,この時点で時季変更権の行使(年休承認の撤回)をすることは,控訴人は勿論,その関係者にも予期せぬ不利益を与えるものである。これらの事情を総合すれば,本件主任研修の必要性ないし非代替性を考慮したとしても,6月4日午後6時ころにされたA校長の時季変更権の行使(年休承認の撤回)は,既に時季変更権の行使のために必要と考えられる合理的期間を徒過した後にされたものと認められ,信義則上許されず,違法かつ無効なものというべきである。 本件では,控訴人は,年休届のとおりに6月5日も引き続き本件定期大会に参加したことから,上記の時季変更権の行使(年休承認の撤回)自体による損害が具体的に生じたとはいえないものの,時季変更権の行使(年休承認の撤回)が違法・無効であることに変わりはない。 (4)なお,仮に6月3日夜ないし翌4日午前の時点におけるA校長の回答が年休承認に当たらないとしても,A校長が時季変更権を行使したのは6月4日午後6時ころの時点であり,この時点における時季変更権の行使は,上記のような本件の事情のもとにおいては,同様に,時季変更権の行使に必要な合理的期間を徒過し,不適切な時期にされた違法,無効なものというべきである。 - 12 -この点,被控訴人三原市は,A校長は「時季変更権」という法律,用語は使用しなかったものの,6月1日,同月3日に研修出席の必要があるという理由で年休届の撤回を促しており,これは時季変更権そのものを行使したものであり,A校長の時季変更権の行使は全体的にみて適法なものである旨主張し,被控訴人広島県も,職務命令の観点から,職務命令の手続及び形式については別段の制限はな これは時季変更権そのものを行使したものであり,A校長の時季変更権の行使は全体的にみて適法なものである旨主張し,被控訴人広島県も,職務命令の観点から,職務命令の手続及び形式については別段の制限はなく,口頭によってもよく「権限ある上司から発せられたこと」等の,要件を充足していることが必要であるが,5月14日,20日,31日,6月1日,3日にされたものはいずれもこの要件を充足するものであって,職務命令と解すべきであり,また,時季変更権の行使の有無を判断するにあたっては,A校長の対応を一体的に見て全体として時季変更権が適法に行使されたとみるべきである旨主張する。 しかし,上記認定のとおり,A校長は,控訴人からの年休届の提出を受けた後,独自の判断で対応することはできないとして,市教委ないし県教委に状況を報告し,その判断を仰いでいたものであるところ,県教委は,6月3日の段階に至って対応策を作成したものの,教育長決裁が得られたのは翌6月4日午後4時ころであり,しかも,その対応策の内容も,控訴人に対して研修参加の指導をし,時季指定の変更・撤回の協力を求め,これが受け入れられない場合に時季変更権を行使し,これにも応じない場合には職務命令を発するとするものであって,時季変更権の行使や職務命令は未だされていないことを前提としたものであった。これらの事情からしても,6月4日の午後6時ころより前に,A校長により時季変更権の行使ないしこれを前提とする研修参加の職務命令がされたと認めることは困難である。 もっとも,県教委ないし市教委の指導とは別個に,A校長自身がその独自の判断で時季変更権を行使し,職務命令を発する余地は否定できないところ,これらの意思表示を口頭ですることも許されることは被控訴人広島県の主張するとおりである。また,職務命令であると称する その独自の判断で時季変更権を行使し,職務命令を発する余地は否定できないところ,これらの意思表示を口頭ですることも許されることは被控訴人広島県の主張するとおりである。また,職務命令であると称する必要はなく,それが命令であることなど,その意思内。 ,容が相手方に伝わるものであれば足りるものとも解されるしかしこれらの行為は,通常は任意の協力等を求める要請や指導として行われることで目的を達成する場合が多いため,当初から法的な権利行使としてされることは少なく,そのために,任意の協力等を求める要請ないし指導との区別が問題になること,他方,法的な時季変更権の行使や職務命令としてされた場合には,労働者の意思に反した法的不利益を課すことになるものであることからすれば,時季変更権の行使や職務命令があったというためには,それが要請等の任- 13 -意の協力を求める行為とは異なるものであることが客観的に明らかなことが必要であるというべきである。しかし,以下に検討するとおり,6月4日午後6時ころより前に,A校長が被控訴人らの主張するような時季変更権の行使ないし職務命令を発したものと認めることはできない。 すなわち,5月31日までのやりとりにおいては,前記認定のようなA校長の発言内容及び市教委のA校長に対する指導内容のいず,。 れの面からみてもこれが職務命令であると認めることはできない次に,6月1日午前に控訴人が年休届を提出した後のやりとりについて,A校長は「義務研修だから絶対に行ってもらわないといけな,い」旨言ったとし,これが時季変更権の行使ないしこれを前提とす。 る職務命令を発令したものであるかのような陳述をする。しかし,同人は,他方では「多分言ったと思うのですが」とも述べ,同人の。 記憶が曖昧であることは否定できない。のみならず,この これを前提とす。 る職務命令を発令したものであるかのような陳述をする。しかし,同人は,他方では「多分言ったと思うのですが」とも述べ,同人の。 記憶が曖昧であることは否定できない。のみならず,この時点において,控訴人はA校長に対し,本件定期大会を優先してこれに出席する意思を明らかしており,そのために同校長は,どうすればよいか迷い,同日午後にC次長に相談したものである。しかも,控訴人は,A校長は「時間がほしい,後で結論を出す」旨言ったと陳述す。 る。そして,A校長はその発言について記憶がない旨述べるに止まっている上,上記の控訴人の陳述内容は,A校長のその後の行動に,。 も合致しているものでありその信用性は否定することはできないこれらの事情からすると「絶対に行ってもらわないといけない」,。 旨の発言をしたとのA校長の陳述は直ちには採用できず,むしろ,控訴人の側がより強くその希望を表明した状態のまま,A校長が結論を先送りする形で話合いが終了したものと推認される。このような状況からすれば,仮にA校長が上記のような発言をしていたとしても,暫定的な希望の表明ないし任意の翻意を促す指導として発言されたというに止まり,これが確定的な年休取得の否定(時季変更権の行使ないし研修参加の職務命令)の趣旨でされたものと認めることはできない。6月1日午後の控訴人とA校長の電話でのやりとりについても,A校長は「絶対行ってもらわないと困る」と述べ,。 たとするが,他方で「もう一度考え直してほしい」との言葉を添,。 えたとしており,その表現及び文脈からしても,これが職務命令であると断定するにはなお疑問がある。のみならず,控訴人はそのような電話を否定し,記憶にないとしているだけでなく,以下のようなその後の控訴人とA校長とのやりとり及び前記のような県教委 これが職務命令であると断定するにはなお疑問がある。のみならず,控訴人はそのような電話を否定し,記憶にないとしているだけでなく,以下のようなその後の控訴人とA校長とのやりとり及び前記のような県教委の指導内容等の客観的状況を考慮すると,この時点において控訴人とA校長との間のやりとりがあったとしても,そのなかで職務命令ないし時季変更権の行使がされたものということはできない。また,- 14 -6月3日午後8時30分ころにA校長が控訴人に対して電話で話した内容について,A校長は「5日は是非研修に行って欲しい」旨伝。 えたというが,控訴人は,そのような話は聞いていないとする。また,仮にそのような発言があったとしても,その文言自体も,これを時季変更権の行使ないしそれを前提とする職務命令というには十分ではない。しかも,控訴人は,最終確認のためとして翌4日午前9時ころに電話をする旨約束してやりとりを終え,現に4日午前9時30分ころにA校長に電話をしているのであり,最終的な判断が留保されていることは客観的状況からみても明らかである。そのような状況にもかかわらず,上記の発言をもって確定的な年休取得の否定(時季変更権の行使ないし研修参加の職務命令)の意思表示が。 ,,されたものと認めることはできないそもそも前記認定のとおり同日当時,A校長は,年休と時季変更権行使の法的意味についての理解ないし自覚が十分でなく,むしろ,年休申請の受理ですべてが決するかのような理解をし,そのために年休申請の受理自体を留保していたものであるところ(この点は,市教委自体も同様の考えをもっていたことが窺われる,C次長の指示を受けて,4日と5日。)の年休を受理するとの結論を伝えているのである。当時のA校長の理解からすれば,年休申請の受理は研修参加の命令とは矛盾する 様の考えをもっていたことが窺われる,C次長の指示を受けて,4日と5日。)の年休を受理するとの結論を伝えているのである。当時のA校長の理解からすれば,年休申請の受理は研修参加の命令とは矛盾するものであり,そのような矛盾する命令をしたとみることは不自然である。 なお,被控訴人広島県は,控訴人自身が,本件主任研修が優先することを理解しながら様子を窺うために年休申請をした旨供述しており,控訴人が年休申請をしたことをもって職務命令が発せられていない理由とはできず,また,広教組ないし控訴人としては,A校長が時季変更権を行使することを当然の前提として対処していた旨主張する。しかし,当時の,特に県教委において本件主任研修を義務的なものと位置づけていたなどの客観的な状況からみて,職務命令等が発せられる可能性が大きいということと,現に一定の時点に,おいて特定の命令権者がこれを発しているか否かとは別問題でありその一般的な可能性が大きかったとの一事をもって,具体的な状況を考慮することなく,職務命令が発せられ,あるいは時季変更権が。 ,,行使されていたと認めることはできないまた前記認定のとおり控訴人においても,Bと相談した際に,とりあえず年休を申請し,これに対して職務命令が発せられたり,年休が受理されなかった場,合には本件研修に参加するとのアドバイスを受けていたものであり職務命令や年休申請の不承認(時季変更権の行使)があり得ることは十分に予想していたものということはできるが,上記アドバイスの内容からしても,職務命令ないし時季変更権の行使が確定的な当- 15 -然の前提とされていたものでもない。したがって,この点に関する被控訴人広島県の主張は理由がない。 争点(2(本件給与減額,本件訓告及び本件命課換えの適法性)につ)いて(1 な当- 15 -然の前提とされていたものでもない。したがって,この点に関する被控訴人広島県の主張は理由がない。 争点(2(本件給与減額,本件訓告及び本件命課換えの適法性)につ)いて(1)本件給与減額及び本件訓告の適法性について上記判示のとおり,A校長がした時季変更権の行使は違法・無効なものというべきであり,これが適法にされたことを前提とする6月5日の控訴人の就労義務は存在せず,同日につき欠勤として取り扱うことはできない。したがって,同日に欠勤したことを理由としてされた本件給与減額は,その理由を欠くものとして,違法・無効といわざるを得ない。 また,本件訓告についても,その理由は,時季変更権の行使及び職務命令が発せられたにもかかわらず,控訴人が本件主任研修に参加せず,また,所属校においても勤務しなかったことが,地方公務,。 ,員法32条33条及び35条に抵触するという点にあるしかし6月5日の年休についての時季変更権の行使が違法・無効であることは前記判示のとおりであり,したがって,同日の研修参加を内容とする職務命令は無効というべきである。また,6月4日午後6時ころより前に職務命令が発せられたとは認められないことは上記判示のとおりである。したがって,本件訓告もまた,その前提を欠く理由のないものであり,客観的に重大な瑕疵があるものとして違法かつ無効というべきである。 (2)本件命課換えの適法性について校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督するもの(学校教育法28条3項)であって,教務主任の任免は校長の権限であるところ,教務主任に適任か否かは当該人物の能力,経験,識見,専門性等を総合的に考慮し,任免権者である校長がその専門的知見等をも踏まえて判断すべきものであって,その意味で,校長には任免権者として一定の裁量権が 務主任に適任か否かは当該人物の能力,経験,識見,専門性等を総合的に考慮し,任免権者である校長がその専門的知見等をも踏まえて判断すべきものであって,その意味で,校長には任免権者として一定の裁量権があり,その裁量権を逸脱したものというべき事情がない限り,当不当を理由に任免の適法性を判断することはできないというべきである。 しかしながら,本件命課換えは,もっぱら,控訴人が,時季変更権の行使や職務命令があったにもかかわらず,本件主任研修を欠席したことが教務主任には不適格であると県教委が判断し,市教委を介した指導に基づきA校長も同意見であるとしてされたものであるところ,前記判示のとおり,その判断の前提とされた時季変更権の行使ないし職務命令は,違法・無効であるか存在しないものであって,その判断ないし裁量の前提を欠くものであり,そのような前提があるものとしてされた本件命課換えについては,これが裁量の問- 16 -題であるとして適法とすることはできないというべきである。 もっとも,教務主任は,教育計画の立案その他の教務に関する事項について連絡調整及び指導,助言に当たり(学校教育法施行規則22条の3第3項,当該学校の運営の中核的存在としてリーダーシ)ップを発揮することが期待されるものであるところ,本件主任研修は義務研修とされ,控訴人もそれを認識していたこと,平成13年4月段階から再三にわたり本件主任研修に参加するよう指導を受けていたことからすれば,控訴人が,このような指導に従わず,年休届を提出したこと自体をもって,控訴人が教務主任に不適任であるとする考え方もないわけではない。しかし,そのような扱いは,年休取得の権利行使を実質的に抑制する危険がある点で問題である。 また,教務主任の上記のような位置づけ,役割からすれば,その適格性の判断にあたって 考え方もないわけではない。しかし,そのような扱いは,年休取得の権利行使を実質的に抑制する危険がある点で問題である。 また,教務主任の上記のような位置づけ,役割からすれば,その適格性の判断にあたっては,対象者の行為の適法性のみならず,妥当性ないし相当性をも考慮することも許されるものとは解されるが,そもそも,本件においては,そのような事由は,本件命課換えがされた当時,A校長は勿論,これを指導した県教委ないし市教委にお,,,いても想定していたものではなくこのことは前記認定のとおりA校長が,6月7日に,控訴人に対し,次回の教務主任研修には参加してほしいと述べ,6月22日の時点においても,控訴人を本件臨時研修に参加させようとしていたことなどの事実からすれば,当初は,本件主任研修を欠席した控訴人が適任でないとまでは考えていなかったものと認められることからも明らかである。これらの事情からすれば,本件命課換えは,裁量権行使の前提を欠くものである点で任免権者としての裁量権を逸脱し,違法なものというべきである。 なお,控訴人は,本件命課換えが広教組の活動を抑える目的で行った不当労働行為であるとも主張するが,本件全証拠によっても,本件命課換えに関しては,未だそのような不当労働行為の意思の存在を認めることはできない。 争点(3(被告らの責任原因)について)(1)時季変更権の行使についてA校長がした時季変更権の行使は,一旦した年休の承認(時季変更権不行使の意思表示)の撤回として,また,そのような年休の承,,認がなかったものとしてもその行使に必要な合理的期間を徒過し不当に遅延したものであり,労働者に予期せぬ不利益を課すものとして違法・無効であることは前記判示のとおりである。A校長が,6月4日午前までの時点において,前記認定のような に必要な合理的期間を徒過し不当に遅延したものであり,労働者に予期せぬ不利益を課すものとして違法・無効であることは前記判示のとおりである。A校長が,6月4日午前までの時点において,前記認定のような状況のもとで年休申請を受理する旨控訴人に告げ,事後の連絡のために連絡先を確認した程度で,その後に時季変更権の行使等があり得ることを明- 17 -示しなかったのは,A校長自身が,年休の申請や時季変更権の行使についての理解が不十分であったことや,市教委の指導もそのようなものと理解していたことに基づくものではないかとも思われる。 しかし,少なくとも,6月4日午後6時ころの時点においては,控訴人が翌日の本件定期大会にも引き続き参加するために,予約した宿泊場所に赴き,また本件定期大会の運営についても控訴人の参加を前提とした準備や打合せがされており,この時点で時季変更権の行使(年休承認の撤回)をすることは,控訴人は勿論,その関係者にも予期せぬ不利益を与えるものであるところ,このような事態に至るであろうことは,A校長においても十分に予測し得たものということができる。他方,そのような状態に至る以前に時季変更権を行使することは,控訴人が5月中から本件定期大会に参加したい意向をA校長に告げており,年休の届出も6月1日の午前中にされていたことからすれば,A校長において市教委等との協議をすることを考慮しても,十分に可能であったというべきであり,それにもかかわらず上記の時点に至ってようやく時季変更権を行使した(年休承認を撤回した)ことについては,A校長に過失があったものというべきである。もっとも,現実には,前記認定のとおり,A校長は県教委ないし市教委の指示を待ち,それに従おうとしたために時期を失したものであるが,A校長にはその独自の権限として時季変更権行使な というべきである。もっとも,現実には,前記認定のとおり,A校長は県教委ないし市教委の指示を待ち,それに従おうとしたために時期を失したものであるが,A校長にはその独自の権限として時季変更権行使などの年休処理の権限があったのであるから,自らの判断により市教委等の指示を待ち,これに従ったものとして,やはり過失を否定することはできない。A校長が時季変更権等についての理解が十分でなかったことが,過失を否定する理由とならないことはいうまでもない。 また,県教委が,時季変更権の行使や職務命令の発令を前提とする対応策について教育長の決裁を得たのは,6月4日午後4時ころの時点であり,これに基づき市教委を介してA校長に指示をしたとしても,同校長において控訴人に対して時季変更権等の行使をする時点においては,既に控訴人に上記のような予期せぬ不利益を与える状況になっていることは十分に予測しえたはずであり,この点は市教委についても同様である。それにもかわわらず,県教委及び市教委が上記のような指示をしたことにも過失があったものというべきである。 (2)本件給与減額,本件訓告及び本件命課換えについて本件給与減額,本件訓告及び本件命課換えが,いずれも,A校長による時季変更権の行使や職務命令の発令が適法にされていたことを前提とするものであり,その前提を欠く以上,いずれも違法・無効であることは前記判示のとおりである。そして,A校長が時季変- 18 -更権を行使したと認められる6月4日午後6時ころの状況については,A校長は勿論,前記認定のような報告と指導とがされていた状況からすれば,市教委や県教委においても十分に認識し,また,認識し得たものというべきであって,それにもかかわらず,A校長のした時季変更権の行使が適法であることを前提として本件給与減額や本件訓告を 況からすれば,市教委や県教委においても十分に認識し,また,認識し得たものというべきであって,それにもかかわらず,A校長のした時季変更権の行使が適法であることを前提として本件給与減額や本件訓告をしたことには,県教委や市教委に過失があったものと,。 いうべきであり本件命課換えをしたA校長についても同様であるまた,職務命令の点についても,前記認定のような県教委の対応策の内容や決裁の時期等からすれば,6月4日午前の時点においては,,未だ職務命令が発せられていない状態にあることは県教委は勿論,その対応策に従うべく指示を受けていた市教委やA校長においてもその当時から認識し,少なくとも認識し得たはずであり,それにもかかわらず,職務命令が発令されたことを前提にその違反を理由としてされた本件訓告や本件命課換えについては,市教委やA校長に過失があったものというべきである。 争点(4(損害)について)本件給与減額に関しては,人事委員会の判定により,6月5日を年休として処理すべきものとされた結果,平成13年7月分給与及び同年12月分勤勉手当の各減額分が既に控訴人に支払われたことは前記認定のとおりである。しかし,減額の理由は,客観的には違法と評価すべき時季変更権が適法に行使されたことを前提として,控訴人が欠勤したものとの扱いをされたことに基づくものであって,そのような扱いをすること自体が控訴人にとっては不名誉なことであり,相応の精神的苦痛が生じるのは否定できず,その是正のために人事委員会に対する措置要求までしなければならなかったことを考慮すると,減額分が後に支払われた。 ことによって当然に精神的苦痛が回復されるものということはできないまた,そのような時季変更権の行使のほか,職務命令についても,これが客観的には認められないにもかかわら と,減額分が後に支払われた。 ことによって当然に精神的苦痛が回復されるものということはできないまた,そのような時季変更権の行使のほか,職務命令についても,これが客観的には認められないにもかかわらず,これがあるものとしてされた本件訓告や本件命課換え,特に,事実に相違する理由が明示された本件訓告は,控訴人の名誉感情を害し,屈辱感を与えるものであることは明らかである。被控訴人らは,訓告が,地方公務員法に基づく懲戒処分ではなく,県費負担教職員の服務の監督権を有する者として当該教職員に対して将来を戒めるために行う事実上の行為にすぎず,これによる直接的な法的効果や制裁的実質はなく,経済的不利益をもたらすものでもない旨主張するが,それが処分性を有するか否か,経済的不利益をもたらすものであるか否かと,特定の個人に対して精神的苦痛を与える違法行為と評価し得るかとは別問題である。しかも,証拠(甲25)によれば,県教委は,教諭が過去に文書訓告を受けた事実があることをも理由として戒告処分をしている事例の存することが認められるのであり,- 19 -訓告が一定の法的な不利益に結びつく可能性のある制裁的実質があることも否定できないのであって,被控訴人らの主張は採用できない。さらに,命課換えについては,給与の減額や文書訓告とは違って,その措置が採られたことが,具体的な職務分担の変更という形で外部的にも明らかにされるものでもある。 そして,上記のような本件の事実経過,県教委,市教委及びA校長の各違法行為の内容,控訴人が被ったであろう精神的苦痛の程度,その他本件に現れた諸事情を勘案すると,控訴人に対する慰謝料としては30万円が相当と認められる。 まとめ以上によれば,被控訴人三原市は,市教委及びA校長の行為に関して,被控訴人広島県は,県教委及びA校長(その費 諸事情を勘案すると,控訴人に対する慰謝料としては30万円が相当と認められる。 まとめ以上によれば,被控訴人三原市は,市教委及びA校長の行為に関して,被控訴人広島県は,県教委及びA校長(その費用負担者として)の行為に関して,それぞれ控訴人に生じた損害を賠償すべき責任があるところ,前記認定の事実からすれば,両者は共同不法行為の関係に立つものとして,連帯してその責任を負うものというべきである」。 以上によれば,控訴人の本件請求は,被控訴人らに対し,連帯して,30万円とこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がない。なお,仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないものとする。よって,これと異なる原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部裁判長裁判官西島幸夫裁判官齋藤憲次裁判官永谷幸恵
▼ クリックして全文を表示