- 1 - 主文 1 被告は,原告に対し,578万5144円及びこれに対する平成27年6月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを20分し,その11を原告の負担とし,その余は被告の 負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,1247万5201円及びこれに対する平成27年6月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,京都市立堀川高等学校(以下「堀川高校」という。)ソフトボール部(以下「ソフトボール部」という。)のノック練習中,同校生徒であり同部部員である原告が,同部監督(同校講師)のノックした打球を捕球した際に左手小 指を骨折した事故(以下「本件事故」という。)につき,同監督には部員に対する安全配慮義務を怠った過失があると主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項による損害賠償請求権に基づき,1247万5201円及びこれに対する本件事故日である平成27年6月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。 2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)⑴ア原告は,平成27年6月当時,被告の設置する堀川高校の3年生であり,ソフトボール部に所属していた。3年時のポジションはキャッチャーであった。 イ Aは,同月当時,堀川高校の講師であり,ソフトボール部の主顧問兼監- 2 - 督をしていた。 ⑵アソフトボール部が,平成27年4月から同年5月までの間に複数回行った他校との練習試合において,サードを守備していたB 師であり,ソフトボール部の主顧問兼監- 2 - 督をしていた。 ⑵アソフトボール部が,平成27年4月から同年5月までの間に複数回行った他校との練習試合において,サードを守備していたBが三塁線への強い打球を捕球できず,本塁打にしてしまうことが数回あった。 Aは,Bの捕球能力向上のため,Aがノックする打球を捕球する練習を Bに対して行っていた。 イ原告は,同年5月中旬,左手親指を負傷した。 ウ Aは,本件事故があった同年6月2日の数日前から,Bに対する見本とするため,原告をサードの守備に就かせてノック練習をするようになった(以下「本件ノック練習」という。)。本件事故時と同程度の強さのノック 練習をしたことは2回程度あった。なお,ノック練習1回当たり,一人につき少なくとも7,8本のノックを行っていた。 ⑶アソフトボール部は,平成27年6月2日の放課後,同校敷地内にあるグラウンドにおいて練習をしていた。 Aは,数日前から行っていたのと同様に,Bと交代で原告をサードの守 備に就かせ,ノック練習をした(本件ノック練習)。 イ原告は,同日,本件ノック練習において,グローブを装着していた左手で打球を捕球したところ,左手小指を骨折した(本件事故)。 ⑷ 原告は,平成27年6月2日,公益社団法人京都保健会京都民医連中央病院(以下「京都民医連中央病院」という。)の整形外科を受診したところ,「左 小指中節骨骨折」と診断され,同月4日,同病院に入院し,同月5日,手術を受け,同月6日,退院した(甲1)。 ⑸ア原告は,平成28年3月7日,傷病名を「左小指中節骨骨折,左手指捻挫」として症状固定と診断された(甲3)。 イ原告の本件事故による実通院日数は合計20日であった。 )。 ⑸ア原告は,平成28年3月7日,傷病名を「左小指中節骨骨折,左手指捻挫」として症状固定と診断された(甲3)。 イ原告の本件事故による実通院日数は合計20日であった。 ⑹ 原告は,独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「スポーツ振興セ- 3 - ンター」という。)に対し,障害見舞金の支払請求を行ったところ,同センターは,精神・神経系統の障害については,「通常の学校生活を送ることはできるが,受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの」として,障害等級14級9「局部に神経症状を残すもの」,機能障害については,同13級の7「一手の小指の用を廃したもの」に該当し,これらは,通常派生する関係にある ため,同13級として140万円の給付金を原告に対して支払った(甲4)。 3 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 本件事故におけるAの過失の有無(原告の主張)ア学校教育に付随する部活動においては,これによって生徒が危害を受け ることがないよう,指導・監督に当たる教員に安全を確保すべき義務が課されている。打球や飛球が飛び交うソフトボール練習には危険があり,特にノック練習においては傷害を伴う事故が生じやすい。 堀川高校における部活動としてのソフトボール練習は,体力や心身の増強と生涯スポーツの楽しさを育成することを主たる目的としているのであ るから,最優先されるのは生徒の健康の維持と安全であり,部活動指導に携わるAには高度の危険防止義務が課されていた。 しかし,Aは,原告の身体の安全性を犠牲にして試合を成立させることを優先していた。 イ打球の強さについて 通常,内野のノック練習の際,ノッカーは適切な守備範囲に安全な速度のゴロを打つことを要請され,バットを強くスイングすること 合を成立させることを優先していた。 イ打球の強さについて 通常,内野のノック練習の際,ノッカーは適切な守備範囲に安全な速度のゴロを打つことを要請され,バットを強くスイングすることはしない。 しかし,本件事故当時,Aはフルスイングに等しい状況で打撃を行った。 Aは,本件ノック練習の前,バットをフルスイングしながら「今日はストレスが溜まっている。」などと話していた。原告は,当日,誰かが怪我をす るのではないかと不安を感じていた。 - 4 - 原告の技量であれば,左手を負傷していない状況で,試合における対戦相手校選手の打力程度のノックであれば,適切な捕球体勢でほぼ捕球することができる。しかし,本件事故当時のAの打球は速度,強度ともに対戦相手の打球を大きく上回っていた。原告は,負傷していた左手親指への打球の衝撃を顧みず,打球が体に当たることも厭わない覚悟で,恐怖を捨て て必死にボールの軌道に入ることで何とか捕球の可能性を上げることができていたにすぎない。このような危険な状態での成功実績を見て,Aが安易に「原告の技量と比して不相当な打球ではない。」と判断したのであれば,それ自体が重大な注意義務の懈怠である。 Aの打球は,全てが安全なゴロではなく,試合で飛球することのありえ ない成人男性が全力で打った強度であり,バットコントロールが十分利かずにライナーとなることが多くあった。強打であるため,Bは捕球できないことが多く,原告も決して適切に捕球できていたわけではなかった。本件事故時の打球が当日の他の打球に比べて殊更強度であったということはなく,Aが原告に対して打った全ての打球が極めて強度であった。Aは, ソフトボールの競技経験も指導歴もなく,自身の最大限の力で打つノックの強さと試合での打球の強さを区別し であったということはなく,Aが原告に対して打った全ての打球が極めて強度であった。Aは, ソフトボールの競技経験も指導歴もなく,自身の最大限の力で打つノックの強さと試合での打球の強さを区別して打てていなかった。 ウ原告の負傷への配慮についてソフトボール部に備え付けられていたキャッチャーミットは,左手指を入れる箇所が大きく,左手指がうまく固定されずフィットしていなかった。 キャッチャーミットの紐を締めても紐が外れてしまい,左手指にフィットさせるには至らなかった。原告やそのキャッチャーミットを使用した他の部員らは,キャッチャーミットをつけて捕球をしても球の勢いを抑えることができず,その勢いで左手の親指が後ろにはじかれる形になった。これにより,原告は左手親指を痛めた。 Aは,部員の怪我の状況を把握し,適切に対処すべき立場にある。原告- 5 - が左手親指を負傷していれば,無意識的にその部分をかばって健常時とは異なる動作となってしまい,それに伴い怪我が生じるリスクが増大する。 Aは,本件事故当時,原告が左手親指を負傷していることを認識していた。 本件事故の前,医師は,原告の左手親指の負傷について「後一月かかります」,「テーピングしてみましょう」などと説明しており,軽微と評価し ていたわけではない。原告は,左手親指の痛みに耐えられず,試合中に何度もタイムをしてアイシングしてもらったり,Aに対して交代を求めたりしていたのであるから,Aは,原告の左手親指の負傷が軽微なものではなく,配慮を要するものであったことを認識していた。 仮にAのノック練習の打球が,練習試合でBが捕球できていなかった程 度の強さ(以下「試合用の強さ」という。)であったとしても,左手親指を負傷中で,サード守備が専門外である原告に本 していた。 仮にAのノック練習の打球が,練習試合でBが捕球できていなかった程 度の強さ(以下「試合用の強さ」という。)であったとしても,左手親指を負傷中で,サード守備が専門外である原告に本件ノック練習を強要したことこそ,Aの判断の誤りであり,原告の負傷を招いた重大な過失である。 エ本件ノック練習の必要性について本件事故時に行っていた本件ノック練習は,原告の技術向上を目的とす るものではなく,Bの技術向上を目的とするものであったが,Bが強い打球を捕球できない理由は,打球を怖がって顔が逃げてしまうというBの個人的なくせにあり,原告の捕球を見せてもBが捕球できるようになるわけではなかったから,原告に本件ノック練習をさせる必要性も相当性もなかった。 Aには,不適切な練習方法を選択し,原告にその練習を行わせていたという過失ないし安全配慮義務違反がある。 (被告の主張)アスポーツは,危険を内在しているものであり,競技者は,その危険を引き受けてスポーツに参加している。ソフトボールにおいては,バットでボ ールを打ち,そのボールを捕るという競技の特性上,競技者は常にボール- 6 - が体に当たって怪我をする可能性があるという内在的危険を引き受けた上で練習又は試合に臨んでいる。部活動の指導に当たり,教員に生徒の安全を確保すべき義務が課されていることは認めるが,その安全配慮義務は,許容されている危険にまでは及ばない。スポーツの内在的危険の範囲内の事故が発生したとしても,部活動でスポーツの指導を行う教員は責任を負 わない。 内野のノック練習において,ノッカーが責任を問われるとすれば,ノックをミスして練習場外の歩行者に傷害を負わせる,内野手ではなく外野手にボールを当ててしまう,ノックを受 責任を負 わない。 内野のノック練習において,ノッカーが責任を問われるとすれば,ノックをミスして練習場外の歩行者に傷害を負わせる,内野手ではなく外野手にボールを当ててしまう,ノックを受ける者を負傷させる目的で試合でも生じ得ないような強さのノックを行うなど極めて例外的な場合に限られる べきである。 イ打球の強さについてAは,平成27年4月から同年5月までの間にソフトボール部が他校と練習試合を行った際,Bが三塁線への強い打球を捕球できなかったことから,Bの捕球技術の向上のため,本件ノック練習の際に試合用の強さのノ ックをB及び原告に対して打ったことがあった。 Aは,試合用の強さのノックは原告やBなど部員の中でも技量を有していた者に対してのみ行い,堀川高校でソフトボールを始めた部員には弱いノックを行うなど,部員の技量に応じた指導を行っていた。 Aは,本件事故の数日前から,原告に対して試合用の強さのノックを打 っており,原告はこれを捕球できていた。本件事故時のノックは,それまでの打球より強かったわけではない。Aは,自分がフルスイングで打つと原告ら部員にとって危険な打球となることは認識しており,意識して練習として相当な程度に力を抑えてノックを打っていた。 ゴロの打球は,イレギュラーなバウンドをすることも多く,適切に捕球 できずにボールを体に当ててしまうことがあり,安全とはいえない。ライ- 7 - ナー性の打球がゴロより危険であるとはいえず,実際の試合でライナー性の打球が飛ぶことはままあるため,ノックの際にライナー性の打球を打ったとしても問題はない。 なお,原告の左手小指の骨折は日常生活やスポーツでよく生じる突き指の範囲内であり,グローブを着けて捕球した場合でも骨折を伴う突き指は ックの際にライナー性の打球を打ったとしても問題はない。 なお,原告の左手小指の骨折は日常生活やスポーツでよく生じる突き指の範囲内であり,グローブを着けて捕球した場合でも骨折を伴う突き指は 十分発生し得る。試合用の強さのノックでなくても,捕球の際に手を突き指することはあり得る。 本件事故の発生は,高校の部活動でソフトボールをする者としての内在的危険の範囲内であり,Aに安全配慮義務違反はない。 ウ原告の負傷への配慮について 原告の左手親指捻挫の程度は,医師に「不安定性なし」,「休む必要までない」,「6/6最後の試合でてもいいです」と診断されるなど軽微なものであり,原告の捕球動作に影響が出るようなものではなかった。A監督が,原告に対し,試合を想定したノック練習を行ったとしても,原告への配慮が不足していたとはいえない。 また,Aは,原告がサードの守備に就くことについて,本件ノック練習を始める前に原告に打診し,了解を得た上で原告にノックを受けさせている。なお,Aは,原告が練習試合に出場する際には,試合前にキャッチャーの守備に就けるか原告に打診していた。練習の際は,原告自身の判断でキャッチボールやノック等の練習に参加しないことはあったものの,原告 が練習に参加しているときは,キャッチボールの練習中に左手親指の負傷の具合を尋ねるなど,Aは,原告に対し,練習に参加できるかどうか折に触れて確認している。Aは,練習や試合の参加の可否については,原告の気持ちを優先させており,原告の左手親指の負傷に十分配慮していた。 原告が負傷中であっても,負傷が考慮された上で行われた本件ノック練 習は許容される。 - 8 - エ本件ノック練習の必要性について本件ノック練習は,Bの捕球技術向上 原告が負傷中であっても,負傷が考慮された上で行われた本件ノック練 習は許容される。 - 8 - エ本件ノック練習の必要性について本件ノック練習は,Bの捕球技術向上を目的とするものであり,原告が他の部員より捕球能力が高いことから,Bの見本とし,また原告がBに対してアドバイスするのを期待して行ったものであって,原告を本件ノック練習に参加させる必要性があった。 ⑵ 原告の損害(原告の主張)原告は,本件事故により次の損害(合計1247万5201円)を被った。 ア治療関係費合計8738円 文書料 4238円(甲5,6) 入院雑費 4500円(1日1500円×3日)(甲7)イ傷害慰謝料 160万4999円入院期間 23日(固定期間を含む)入院期間を除いた通院期間 257日ウ後遺障害慰謝料 180万円 後遺障害等級13級相当エ逸失利益 792万7355円 計算式489万8600円(平成28年の賃金センサス・男女全学歴・全年齢計)×0.09(労働能力喪失率9%)×17.9810(就労可能 年数47年(20歳から67歳まで)のライプニッツ係数)原告の左手小指にはスクリューが入っているが,神経を痛めるおそれがあるために抜くことができない。そのため外形から認識可能な変形が残存しており,常時の痺れと疼痛がある。これにより原告の選択可能な労働の幅を狭めること自体が労働能力の喪失といえる。 実際,原告にはアルバイト採用やアルバイトの勤務時に影響が出てお- 9 - り,また日常生活の細かいところで支障が出ている。 原告は,将来空間デザインを行ったりその図面を作成したりするインテリア ,原告にはアルバイト採用やアルバイトの勤務時に影響が出てお- 9 - り,また日常生活の細かいところで支障が出ている。 原告は,将来空間デザインを行ったりその図面を作成したりするインテリアコーディネーターとして,住宅メーカーや工務店等で働くことを希望している。痺れや痛みにより左手小指が使えないことは,パソコンへの入力や図面の作成時にその事務処理スピートを遅滞させる原因とな り,通常業務にも多大な支障をもたらす。また,商品や家具の配置等も行う必要があるが,左手小指の負傷により力が入らないと作業を独力で行うことができない。 オ弁護士費用相当額 113万4109円(被告の主張) ア治療関係費原告は,医療費に関してスポーツ振興センターから10万4521円の給付を受けているため,同額を損益相殺すべきである。 イ傷害慰謝料入院期間は3日であり,ギプス固定期間を入院期間と見るべきではない。 また,通院期間は20日として慰謝料を算定すべきである。入院慰謝料は5万3000円,通院慰謝料は58万3000円,合計63万6000円を超えることはない。 ウ後遺障害慰謝料原告は,スポーツ振興センターから障害見舞金140万円の支給を受け ているため,同額を損益相殺すべきである。 エ逸失利益左手小指の可動域制限等は,一般的に大学生が就職する可能性が高い民間企業等の事務職に就いた場合に具体的な支障があるとはいえず,将来における収入の減少があるとは考えられないため,逸失利益は発生しない。 原告は関西学院大学総合政策学部に在学しており,左手小指の可動域制限- 10 - が理由で収入の減少が生じ得るような事情はない。 オ弁護士費用相当額 は発生しない。 原告は関西学院大学総合政策学部に在学しており,左手小指の可動域制限- 10 - が理由で収入の減少が生じ得るような事情はない。 オ弁護士費用相当額争う。 ⑶ 過失相殺又は素因減額等の可否(被告の主張) ア原告は,左手小指を骨折していることからすると,その捕球方法に問題があった。通常どおりに捕球を行えば,ボールはグローブのポケットに収まるため,左手小指を骨折することはない。原告は,通常どおりの捕球を行わず,小指付近で捕球し小指に当ててしまったものと考えられる。 原告は,部員の中で最も技量があり,試合用の強さのノックを捕球でき ていた。 この点についての原告の過失割合は4割を大きく上回る。 イ原告は,平成27年5月29日の受診時点において,本件事故で骨折した箇所と同じ箇所を負傷していた。Aは,本件事故前に原告が左手小指を痛めていたことを知っていたが,原告は,Aに対し,左手小指の負傷に配 慮するよう申出をしたことはなかった。 仮に,原告の左手小指の負傷が本件事故に影響しており,これについてAに安全配慮義務違反が認められたとしても,原告は,Aに対し,本件事故前に左手小指の負傷の程度について伝えていなかったのであるから,相当の過失相殺がされるべきである。 ウ原告が使用していたソフトボール部備付けのキャッチャーミットは,サイズが小さめであったことから,原告の引退後に新しいものに買い替えた。キャッチャーミットに手を入れて余裕がある場合には,キャッチャーミットの紐を締めることで調整できる。原告が左手親指を負傷した原因は,キャッチャーミットが大きかったからではない。 エ仮に,原告の左手小指又は左手親指の負傷が本件事故に影響しており,- ットの紐を締めることで調整できる。原告が左手親指を負傷した原因は,キャッチャーミットが大きかったからではない。 エ仮に,原告の左手小指又は左手親指の負傷が本件事故に影響しており,- 11 - これについてAに安全配慮義務違反が認められるとしても,素因減額又は原因競合により相当の減額がされるべきである。 (原告の主張)ア原告の本件事故時の捕球体勢及び捕球動作には一切問題がなかった。 イ原告が本件事故前に痛めていたのは,主に左手親指と左手人差し指の間 やその付け根付近であり,格別に左手小指の痛みを抱えていたわけではない。 ウソフトボール部でキャッチャーのポジションにつく者は,ソフトボール部備付けのキャッチャーミットを使用していた。しかし,当該キャッチャーミットは,左手指を置く箇所が女子の手にはめるには大きく,キャッチ ャーミットの中で左手指が上手く固定されずフィットしないという問題があった。そのため,当該キャッチャーミットをつけてピッチャーの球を捕球しても,キャッチャーミットによって球の勢いを抑えることはできず,ボールの勢いで左手親指が後ろにはじかれるような形になってしまっていた。これが,原告が左手親指を痛めた原因である。原告の左手指の負傷 について,原告に元々病的・器質的な素因があったわけではない。 原告以外にキャッチャーのポジションについた者も,原告と同様の考えを持っていた。原告の引退後にキャッチャーのポジションについた部員も左手親指の付け根を痛めて病院に通院した。当該キャッチャーミットは,紐を締めても左手にフィットするには至らず,紐が何度も外れてしまう状 態であった。 キャッチャーミットについては,その後,Aが部員と一緒に買い替えた。 このように,原告が左手親指を 紐を締めても左手にフィットするには至らず,紐が何度も外れてしまう状 態であった。 キャッチャーミットについては,その後,Aが部員と一緒に買い替えた。 このように,原告が左手親指を痛めた原因は,Aを含めた堀川高校が,原告らのような女子の左手に合う適切なキャッチャーミットを使わせていなかったことにあるから,原告の左手親指の負傷を原告に帰責するのは 不適切である。 - 12 - エ本件事故当時,高校生であった原告は,いまだ社会に出ておらず知識経験に乏しい。生徒であるうちは学校の教員の指示は絶対的なものであり,部活動の顧問を兼ねていれば尚更である。 他方,Aは,ソフトボール部の顧問として原告と毎日のように接し観察する中で,原告の左手親指や左手小指の負傷の原因がソフトボール部備付 けのキャッチャーミットにあることを認識していたし,原告が左手指に対して配慮を求めていたことも認識していた。 本件において,生徒である原告に過失相殺や素因減額等をすべき程の原因や落ち度があるとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提となる事実,証拠(甲1~4,12,乙2,14,16~18,証人A,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 ⑴ 当事者等ア原告は,平成9年4月18日生まれの女性であり,本件事故当時,堀川 高校3年生であった。原告は,本件事故当時,ソフトボール部のキャプテンであり,ポジションはキャッチャーであった(乙17[3頁])。 原告には小学5,6年生時に少年野球の経験があり(甲12[2頁]),ソフトボール部では,1年時から試合に出場し,1,2年時には主にセンター,ショートを守備していたが,サードを守備したこともあった。 原告は,堀川高 に少年野球の経験があり(甲12[2頁]),ソフトボール部では,1年時から試合に出場し,1,2年時には主にセンター,ショートを守備していたが,サードを守備したこともあった。 原告は,堀川高校を卒業後,関西学院大学総合政策学部都市政策学科に進学し,在学中である。 イ Aは,本件事故当時,堀川高校で主に地理を担当していた講師であり,ソフトボール部の主顧問兼監督であった。堀川高校は,Aが初めて勤務した学校である。 Aは,高校時代硬式野球部に所属しており,所属校は高校3年夏の全国- 13 - 高等学校野球選手権の大分県大会でベスト8になった。大学時代は軟式野球サークル,大学院時代は地域の軟式野球チーム(草野球チーム)で活動した。Aは,堀川高校に勤務するまで,野球やソフトボールの指導を行った経験はなかった。 ウ C教諭は,本件事故当時,ソフトボール部の顧問であった。Cは,中学 時代にソフトボールの部活動をしていたが,指導の経験はない(乙18[1頁])。 エソフトボール部の部員は,本件事故当時,マネージャー1名を含めて14名であった。なお,ソフトボールの試合出場には少なくとも9名の選手が必要である。 ⑵アソフトボール部には,平成26年4月当時,D,C,E,Fという4名の顧問がいたが,ソフトボールの技術指導を行うことができたのは主顧問のDのみであった。 イ同年6月,ソフトボール部から3年生の部員が引退した。 2年生の部員は,原告とマネージャーの2名だけであり,1年生の部員 の大半は入部するまでソフトボールの経験がなかった。Dは,他校と試合をする際,原告と1年生の中で技術がある部員を主要な守備に交代で就かせ,試合が成り立つような守備体制を模索した。原告は,シ の大半は入部するまでソフトボールの経験がなかった。Dは,他校と試合をする際,原告と1年生の中で技術がある部員を主要な守備に交代で就かせ,試合が成り立つような守備体制を模索した。原告は,ショートやセンターの守備に就くことが多かったが,サード,ファースト,キャッチャーの守備に就くこともあった。 ウ同年6月頃,ソフトボール部に新たに2年生1名が入部した(乙18[3頁])。 ⑶ア平成27年度にDが堀川高校から異動することになり,代わってAが同校に常勤講師として任用されて着任した。Aは,平成28年3月まで同校に勤務していた(乙17[1頁])。 ソフトボール部には,平成27年4月時点で,A,C,E,Gという4- 14 - 名の顧問がいたが,ソフトボールの技術指導を行うことができたのはAのみであった。 Aは,前年度の主顧問であったDから「部員はソフトボールの初心者が多く,試合をしても試合が成り立たない状態である。」,「アウト一つ取るのが大変だった。」などの説明を受けた。Aが初めてソフトボール部の練習を 見たとき「キャッチボールも満足にできない部員が多いな。」という感想を持った。(乙17[2頁],証人A[6頁])イ平成27年4月,ソフトボール部に1年生が2名入部したが,ソフトボールの経験はなく,チームの守備体制が大きな課題であった。 当時,ピッチャーが制球を乱すことが多く,試合ではキャッチャーが頻 繁にピッチャーの球を後ろに逸らしてしまうと試合が成り立たなくなるため,最も捕球技術の高い原告をキャッチャーにした(乙17[4頁])。 ウソフトボール部の練習は週4回程度で,内容は,キャッチボール,トスバッティング,ノック練習又はバッティング練習(ピッチャーが投げ 捕球技術の高い原告をキャッチャーにした(乙17[4頁])。 ウソフトボール部の練習は週4回程度で,内容は,キャッチボール,トスバッティング,ノック練習又はバッティング練習(ピッチャーが投げる球を打つもの)の順番で行うことが多かった。ノック練習は,外野手のノッ クをしてから,内野手のファースト,セカンド,ショート,サード,キャッチャー(バントを想定してキャッチャーの目の前に打球を転がす)の順にノックを行い,主に捕球してからファーストに送球する形で行っていた。 (乙17[2頁])⑷ア原告は,平成27年4月以降,キャッチャーのポジションとなったが, ソフトボール部に備え付けられていたキャッチャーミットを着けても,左手指がうまく固定されず,紐で調整することもできなかった。そのため,キャッチャーミットをつけて捕球をしたとき,ボールの勢いで左手の親指が後ろにはじかれることがあった。(原告本人[4,5頁])Aは,ソフトボール部備付けのキャッチャーミットが,原告の手に合わ ないことを知っていた(証人A[20,25~27頁])。 - 15 - イ原告は,同月末頃,練習試合にキャッチャーとして出場した。原告は,試合中,Aに対し,「ピッチャーの球を受ける際に左手小指が痛い。」と訴えた。Aは,原告の意見を聞いた上,ポジションをセンターに変更して引き続き出場させた。(乙17[4,5頁],証人A[27頁])ウ原告は,同年5月中旬,練習試合にキャッチャーとして出場した。原告 は,その際に左手親指を突き指し,左手親指の付け根に痛みを覚えたことから,左手親指が痛い旨をAに申告した(乙17[5頁],証人A[28頁])。 原告は,左手親指を突き指した日以降,Aに対し,ピッチャーの球を捕球する際に 突き指し,左手親指の付け根に痛みを覚えたことから,左手親指が痛い旨をAに申告した(乙17[5頁],証人A[28頁])。 原告は,左手親指を突き指した日以降,Aに対し,ピッチャーの球を捕球する際に痛みを訴えることがあった。練習試合では,原告以外の部員をキャッチャーとすると試合が成り立たなくなる可能性があるため,主に原 告がキャッチャーを務めていたが,原告が左手の痛みによりキャッチャーとして出場できない旨申告したときは,原告を別のポジションに変えて試合を続行した(乙17[5頁])。Aは,原告はキャッチャーミットを使っているときは左手に痛みがあるが,原告自身のグローブを使っているときは,痛みは比較的和らぐと考えていた(証人A[32,39頁])。 エ原告は,同月29日,公益社団法人京都保健会京都民医連太子道診療所(以下「太子道診療所」という。)の整形外科を受診し,左手指捻挫と診断された。同日のカルテには,主訴として「母指示指小指痛い」,医師のコメントとして「小指PIP 示指MP 圧痛」,「ROMOk」,「不安定性なし」,「捕球の負担で痛みつづくのでしょう」,「休む必要まではない」,「6 /6 最後の試合でてもいいです」,「基本は小指PIP 関節捻挫でしょう」,「後一月かかります」,「テーピングしてみましょう」との記載がある(乙14[3,5頁])。 原告は,Aに対し,医療機関を受診して様子見と言われた旨を報告した(原告本人[6頁])。 オ同月31日頃の練習試合において,原告は,1試合を通じてキャッチャ- 16 - ーを務めた。 ⑸アソフトボール部が,平成27年4月から同年5月までの間に複数回行った他校との練習試合において,サードを守備していたBが三塁線への強い打球を捕球できず,本塁打 - 16 - ーを務めた。 ⑸アソフトボール部が,平成27年4月から同年5月までの間に複数回行った他校との練習試合において,サードを守備していたBが三塁線への強い打球を捕球できず,本塁打にしてしまうことが数回あった。 Aは,Bの捕球能力向上のため,ノック練習をBに対してしていた。 イ Aは,本件事故があった同年6月2日の数日前から,Bに対する見本とするため,原告をサードの守備に就かせて本件ノック練習をするようになった。本件事故時と同程度の強さのノック練習をしたことは2回程度あった。 Aが原告をサードの守備に就かせて本件ノック練習を行った理由は,原 告が他の部員より捕球能力が高いことから,Bの見本とし,また,原告がBに対してアドバイスするのを期待したためであった(証人A[15,16,31頁])。 Aは,Bと原告に対してサード方向にノックするときは,ソフトボール部が,それまで対戦した強豪校の打球の中で,一番強かったものを思い出 しながら,同程度の強さになるように意識してノックしていた(証人A[14,19頁])。 ⑹アソフトボール部は,平成27年6月2日の放課後,堀川高校敷地内にあるグラウンドにおいて練習をしていた。同日の練習内容はAが決め,本件ノック練習も行われた。 Aは,数日前から行っていたのと同様に,Bと交代で原告をサードの守備に就かせ,ノック練習をした(本件ノック練習)。サードの守備位置は,本塁から見て三塁の1mほど手前であり,本塁からの距離は約17mである。原告は,キャッチャーミットではなく,野手が使用するグローブを着けていた(乙17[7頁])。 イ Aがノックを数回行い,原告がこれらを捕球した後,原告の腹部付近に- 17 - 打たれたライ キャッチャーミットではなく,野手が使用するグローブを着けていた(乙17[7頁])。 イ Aがノックを数回行い,原告がこれらを捕球した後,原告の腹部付近に- 17 - 打たれたライナー性の打球を,原告はグローブを装着していた左手でグローブの先を下に向けた体勢(フォアハンド)で捕球した。原告の捕球方法に特に問題はなかったが(証人A[34頁],原告本人[12頁]),この際,原告は,左手小指を骨折した(本件事故)。 本件事故の発生時刻は午後5時30分頃である。なお,当日の日没時刻 は午後7時6分であった(乙16)。 ウ原告は,同日の練習を中断した。 Cは,原告を保健室に連れて行き,その後,CとAが原告をタクシーで京都民医連中央病院に連れて行った。原告の母親も同病院に到着し,CとAは原告の母親に対して謝罪した。(乙17[8,9頁]) エ原告は,同日,京都民医連中央病院整形外科を受診し,原告の左手小指の骨折について,「左小指中節骨骨折」と診断された(甲1)。 ⑺ア原告は,同月3日,太子道診療所整形外科を受診し,原告の左手小指の骨折について,「背側脱臼伴う関節内骨折,①関節内骨折正確な整復が必要,②背側脱臼伴う極めて不安定な骨折」と診断された(甲2[5頁])。 イ原告は,同月4日,京都民医連中央病院に入院し,同月5日,全身麻酔下で観血的整復固定術を受け,同月6日,退院した。 ⑻ 原告は,退院後,ソフトボール部が出場していたインターハイ予選大会を見に行ったが,出場はできなかった(甲12[7頁],原告本人[13頁])。 原告がソフトボール部を引退した後,原告より1学年下の部員がキャッ チャーのポジションを務めたが,原告が使用していたソフトボール部備 きなかった(甲12[7頁],原告本人[13頁])。 原告がソフトボール部を引退した後,原告より1学年下の部員がキャッ チャーのポジションを務めたが,原告が使用していたソフトボール部備付けのキャッチャーミットは手に合わなかった(証人A[26頁])。 イ Aは,原告がソフトボール部を引退した後,ソフトボール部として新たなキャッチャーミットを購入した。購入するキャッチャーミットの選択は,キャッチャーのポジションの部員に行わせた(証人A[20,25頁])。 ア原告は,平成28年3月7日,傷病名を「左小指中節骨骨折,左手指捻- 18 - 挫」として症状固定と診断された。 原告は,症状固定の時点において,小指の可動域制限(MP関節については健側(右手)が屈曲90度であるのに対して左手は60度,PIP関節については健側が屈曲90度伸展0度であるのに対して左手は屈曲45度伸展-15度,DIP関節については健側が屈曲80度であるのに対し て左手は30度)が生じ,外形からも確認可能な左小指の変形残存,握力低下(健側が28㎏であるのに対し,左手が17㎏),常時の痺れ,疼痛及び加力時の強度の疼痛の発症などの症状が残った(甲3)。 イ原告の本件事故による実通院日数は合計20日であった。 原告は,スポーツ振興センターに対し,障害見舞金の支払請求を行ったと ころ,同センターは,精神・神経系統の障害については,「通常の学校生活を送ることはできるが,受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの」として,障害等級14級9「局部に神経症状を残すもの」,機能障害については,同13級の7「一手の小指の用を廃したもの」に該当し,これらは,通常派生する関係にあるため,同13級として障害見舞金140万円を原告に対し 級14級9「局部に神経症状を残すもの」,機能障害については,同13級の7「一手の小指の用を廃したもの」に該当し,これらは,通常派生する関係にあるため,同13級として障害見舞金140万円を原告に対して支払 った。なお,スポーツ振興センターは,原告に対し,医療費10万4521円を支給したが,原告は,医療機関への医療費を負担していない(乙2)。 2 争点⑴(本件事故におけるAの過失の有無)について⑴ 前記1認定の事実関係によると,原告は,ソフトボール部において最も捕球技術が高かったこと,Aは,本件事故があった平成27年6月2日の本件 ノック練習において,ソフトボール部がそれまで対戦した強豪校の打球の中で一番強かったものを思い出しながら同程度の強さになるように意識してノックしていたこと,原告は,同年4月末頃,ソフトボール部の練習試合中に左手小指を痛め,同年5月中旬には練習試合中に左手親指を突き指したこと,原告の同月29日のカルテには,主訴として「母指示指小指痛い」,医師 のコメントとして「小指PIP 示指MP 圧痛」,「ROMOk」,「不安- 19 - 定性なし」,「休む必要まではない」,「基本は小指PIP 関節捻挫でしょう」,「後一月かかります」との記載があること,原告は,腹部付近に飛来したライナー性の打球をグローブを着けた左手で特に問題なく捕球したこと,原告は,本件事故により左小指中節骨について背側脱臼を伴う関節内骨折をしたことが認められ,これらによると,原告は,通常の身体状態であれば強度の ノック練習も問題のない技量を有していたものの,本件事故前に左手親指及び左手小指を負傷しており,その身体状態に問題があったところ,Aが原告に対して強度の高いノック練習を行ったことによって本件事故が発生したものという ない技量を有していたものの,本件事故前に左手親指及び左手小指を負傷しており,その身体状態に問題があったところ,Aが原告に対して強度の高いノック練習を行ったことによって本件事故が発生したものというべきである。 ⑵ また,前記1認定の事実関係によると,原告は,平成27年5月中旬に左 手親指を突き指して以降,Aに対し,ピッチャーの球を捕球する際に痛みを訴えることがあったこと,ソフトボール部の練習試合の際,原告が左手の痛みによりキャッチャーとして出場できない旨申告することがあり,その際,Aは,原告を別のポジションに変えていたことが認められ,原告は,本件事故があった同年6月2日の前に左手親指及び左手小指を負傷し,少なくとも 左手親指については試合や練習において相当な配慮が必要な状態にあり,Aは,それを認識していたといえる。 この点,高校での部活動においては,生徒自身が体調を考慮し,練習への参加の可否等についても一定程度判断する能力が備わっているといえるものの,高校生の知識・経験ではいまだ的確に判断をすることは困難であること, 高校の部活動が教員である顧問の指導の下で行われるものであり,生徒である部員としては,立場上顧問の指示に従うべきとの考えが働きがちであること,部活動内での人間関係への配慮から,自己の体調よりも部活動を優先させてしまう可能性があることからすると,高校の部活動の指導に当たる教員は,生徒の自主的な判断に任せてしまうのではなく,個々の生徒の体調等に 配慮した適切な指導を行うべき義務がある。生徒が負傷した状態で部活動に- 20 - 参加しようとする場合は,負傷部位を更に痛めたり,負傷部位を意識的又は無意識的にかばうことなどにより別の部位を負傷しやすくなると考えられることから,事前に負傷の部位,内容, 動に- 20 - 参加しようとする場合は,負傷部位を更に痛めたり,負傷部位を意識的又は無意識的にかばうことなどにより別の部位を負傷しやすくなると考えられることから,事前に負傷の部位,内容,程度や本人が感じている痛みの程度などを聞き取って参加の可否等を見極めなければならないというべきであり,また,練習に参加させる場合であっても,上記負傷の状態に照らして更なる 負傷の可能性を高めないよう練習内容を工夫するなどの配慮すべき義務を負う。 ⑶ 本件において,原告が参加した本件ノック練習は,野球経験の豊富なAが強度の高いノックを行うものであって,ソフトボール部における練習の中でも比較的負傷の危険性が高いものであったと考えられる上,そもそも原告自 身の能力向上ではなく他の部員の手本とするものであったという点で,原告を本件ノック練習に参加させる必要性が必ずしも高かったとはいえないことに加え,Aが原告を本件ノック練習に参加させるに当たり,原告が何度も痛みを訴える程度に左手親指を負傷していることを認識していたにもかかわらず,Aは,本件ノック練習への参加の可否について原告の判断に任せた だけで,原告の負傷について聞き取りを行うなどの配慮をしたとは認められない。また,Aは,原告を本件ノック練習に参加させるに当たり,原告の負傷の状態に照らして更なる負傷の可能性を高めないようノックの強さを調節するなど練習内容を工夫したとも認めることができない。そうすると,原告の捕球能力が他の部員よりも高く,本件事故前に原告が同程度の強度の打 球を捕球できていたことを考慮しても,指導に当たったAにおいて原告に対する安全面への配慮に欠けるところがあったというべきである。 ⑷ア被告は,原告の左手親指捻挫の程度は軽微なものであり,原告の捕球動作に影 きていたことを考慮しても,指導に当たったAにおいて原告に対する安全面への配慮に欠けるところがあったというべきである。 ⑷ア被告は,原告の左手親指捻挫の程度は軽微なものであり,原告の捕球動作に影響が出るようなものではなかったから,原告への配慮が不足していたことにはならない旨主張する。 しかしながら,前記⑵判示のとおり,原告の左手親指の負傷は,試合や- 21 - 練習において相当な配慮が求められる状態にあり,Aもそれを認識していた。また,仮に原告の左手親指の負傷が捕球動作について目に見える影響が出る程度のものではなかったとしても,負傷部位を更に痛めたり,負傷部位をかばうことなどにより別の部位を負傷する可能性を高めることがあるのであるから,原告の負傷状態に照らして更なる負傷の可能性を高めな いよう練習内容を工夫するなどの配慮が求められるというべきである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。 イ被告は,Aは,原告がサードの守備に就くことについて,本件ノック練習を始める前に原告に打診し,了解を得た上で原告にノックを受けさせた旨主張する。 しかしながら,Aが本件事故当日の本件ノック練習に原告を参加させる前に,原告との間でどのようなやりとりをしたのかについて,被告は具体的な主張,立証をしていない。また,前記⑵判示のとおり,負傷している生徒を練習に参加させる場合には,教員において事前に傷害の部位,内容,程度や本人が感じている痛みの程度などを聞き取って参加の可否を見極め, 参加させる場合であっても負傷の状態に照らして更なる負傷の可能性を高めないよう練習内容を工夫するなどの配慮を行うべきであり,高校生である原告が自己判断でノック練習への参加を了承したとしても,それによって直ちに指導 あっても負傷の状態に照らして更なる負傷の可能性を高めないよう練習内容を工夫するなどの配慮を行うべきであり,高校生である原告が自己判断でノック練習への参加を了承したとしても,それによって直ちに指導教員が行うべき上記各行為が不要になるわけではない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。 ⑸ 以上によると,Aは,前記⑵の注意義務を怠った過失があるから,被告には本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務があるというべきである。 3 争点⑵(原告の損害)について⑴ 入院雑費及び文書料 前記1⑺認定の事実関係及び証拠(甲5,6の1~3)によると,原告は,- 22 - 本件事故後,平成27年6月4日から同月6日まで入院したこと,原告の入通院に関する文書料は合計4238円であることが認められるから,入院雑費として4500円(=1日1500円×3日)及び文書料4238円の合計8738円が原告の損害と認められる。 ⑵ 傷害慰謝料 原告が3日間入院したこと及び合計20日間通院したことによる精神的苦痛を慰謝するには,63万6000円が相当である。 ⑶ 後遺障害慰謝料前記1⑽認定の事実関係によると,原告は,平成28年3月7日に症状固定となったこと,症状固定時点において小指の可動域制限,外形から確認 可能な左小指の変形残存などの後遺症が残っていること,スポーツ振興センターから障害等級13級の認定を受けたことが認められ,かかる後遺障害による精神的苦痛を慰謝するには,180万円が相当である。 ⑷ 後遺障害逸失利益原告は,本件事故当時,高校3年生の女子であり,現在,大学生であること, 原告は,本件事故により傷害を受け,その後遺障害につき障害等級13級の認定を受けたことなどからすると 後遺障害逸失利益原告は,本件事故当時,高校3年生の女子であり,現在,大学生であること, 原告は,本件事故により傷害を受け,その後遺障害につき障害等級13級の認定を受けたことなどからすると,原告の後遺障害による逸失利益は,次のとおり,601万7343円と認められる。 計算式:457万2300円(基礎収入,平成28年の賃金センサス,女性の大学・大学院卒,全年齢計)×0.09(労働能力喪失率)×14.62 27(18.1687(症状固定時18歳から67歳まで49年のライプニッツ係数)-3.5460(症状固定時18歳から大学卒業時22歳まで4年のライプニッツ係数))=601万7343円(小数点以下四捨五入。以下同様)⑸ 以上によると,原告の損害の合計額は846万2081円となる。 4 争点⑶(過失相殺又は素因減額の可否)について- 23 - ⑴ 前記2⑵判示のとおり,負傷している生徒を部活動に参加させる場合には,指導する教員において,事前にその生徒に傷害の部位,内容,程度や本人が感じている痛みの程度などを聞き取って参加の可否を見極め,参加させる場合であっても負傷の状態に照らして更なる負傷の可能性を高めないよう練習内容を工夫するなどの配慮をすべきであるが,他方,生徒においても自己の 負傷と参加する練習内容に照らして,指導する教員に対し,練習への参加自体が難しい旨を伝えたり,練習内容について変更を求めたりすることによって,更なる負傷の可能性を抑えることができる。 本件においても,原告がAに対し,本件ノック練習への参加自体が難しい旨を伝えたり,打球の強さを弱めるなどの要望をしたりすることによって本 件事故の発生を防ぐことができた可能性があったところ,本件において,原告は,これらの申出をしていな 習への参加自体が難しい旨を伝えたり,打球の強さを弱めるなどの要望をしたりすることによって本 件事故の発生を防ぐことができた可能性があったところ,本件において,原告は,これらの申出をしていないことを考慮すると,原告の被った損害については衡平の観点から過失相殺を行うのが相当である。もっとも,原告は,本件事故当時,高校3年生であったこと,Aと原告は教員である顧問兼監督と生徒である部員という関係であったことなども考慮すると,原告の過失割 合は2割とするのが相当である。 ⑵ア被告は,原告の捕球方法にも問題があった旨主張するが,Aは原告の捕球方法には問題がなかった旨証言しており,その他原告の捕球方法に問題があったことを認めるに足りる証拠はない(本件事故において,原告が左手小指を骨折しているということは,その付近に打球を受けている可能性 が高く,その意味において,グローブのポケット部分で捕球するという理想的な捕球ができていない可能性が高いものの,ノック練習においては,捕球困難な打球についても捕球すべく努力することが要求されるのであるから,上記のような理想的な捕球態様とならないこともあり得るというべきであり,そのような態様の捕球だからといって,それが直ちに捕球者の 過失ということはできない。)から,被告の上記主張は採用することができ- 24 - ない。 イ被告は,原告の左手小指又は左手親指の負傷が本件事故に影響しており,これについてAに安全配慮義務違反が認められたとしても,素因減額又は原因競合により相当の減額がされるべきであると主張する。 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが 共に原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者 がされるべきであると主張する。 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが 共に原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の規定を類推適用して,被害者の疾患を斟酌することができる(最高裁昭和63年第1094号平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻 4号400頁参照)。この趣旨は,公立学校の部活動指導者に安全配慮義務違反があることを原因とする損害賠償請求においても,基本的に同様に解すべきものである。 ただし,部活動指導者と部員の関係は継続的なものであり,部活動指導者が部員の疾患を事前に知っていた場合には,疾患の存在を踏まえた 対応をとることも可能であるから,かかる関係性を考慮して,損害賠償の額を定めるに当たり部員の疾患を斟酌するかどうかを検討する必要がある。 前記1認定の事実関係によると,原告は,ソフトボール部の練習試合中に左手小指と左手親指を負傷し,負傷についてAに伝えていたことが 認められ,これらの負傷の発生について疾患に当たるような原告の身体的特徴が寄与したことはうかがわれない。そして,Aは,判示のとおり,原告に対し,事前に負傷の部位,内容,程度や本人が感じている痛みの程度などを聞き取って練習参加の可否等を見極めなければならず,練習に参加させる場合であっても,上記負傷の状態に照らして 更なる負傷の可能性を高めないよう練習内容を工夫するなどの配慮が- 25 - 求められていたところ,かかる配慮の不足により本件事故が発生している。そうすると,本件事故前に原告が左手親指及び左手小指を負傷していた 高めないよう練習内容を工夫するなどの配慮が- 25 - 求められていたところ,かかる配慮の不足により本件事故が発生している。そうすると,本件事故前に原告が左手親指及び左手小指を負傷していたことは,原告の疾患に当たるとはいえるものの,損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に照らし,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の規定を類推適用して,原告が本件事故前に左手小指と 左手親指を負傷していたことを斟酌するのは相当であるとはいえない。 なお,前記1認定の事実関係によると,原告が平成27年4月以降使用していたソフトボール部備付けのキャッチャーミットは原告の左手にフィットしておらず,原告が引退した後にそのキャッチャーミットを使用した部員の手にも合わなかったため,その後,Aは,ソフトボール 部として新たなキャッチャーミットを購入したこと,原告が左手小指と左手親指を負傷したのはソフトボール部備付けのキャッチャーミットを使用し始めた平成27年5月頃であったことが認められ,原告の左手小指及び左手親指の負傷には,ソフトボール部備付けのキャッチャーミットの使用が影響したものと推認される。Aは,そのキャッチャーミッ トが,原告の手に合わないことを知っていたにもかかわらず,それについての対応を怠っていたのであるから,原告の左手小指及び左手親指の負傷について,Aに全く落ち度がないということはできない。かかる点からしても,2割の過失相殺を超えて,原告の左手小指又は左手親指の負傷を理由として素因減額又は原因競合による減額をすることは相当 ではない。 したがって,原告の左手小指又は左手親指の負傷に関して,素因減額又は原因競合として損害額の減額を認めることはできない。 5 まとめ前記3⑸判示のとおり,原告の損害の合計 ではない。 したがって,原告の左手小指又は左手親指の負傷に関して,素因減額又は原因競合として損害額の減額を認めることはできない。 5 まとめ前記3⑸判示のとおり,原告の損害の合計額は846万2081円であると ころ,これについて2割の過失相殺を行うと,676万9665円となる。 - 26 - また,原告は,スポーツ振興センターから合計150万4521円の給付金を受けているから,これを損害から控除すると,526万5144円となる。 そして,本件訴訟の内容等を考慮すると,本件における弁護士費用相当損害金は52万円が相当である。 第4 結論 以上によると,原告の請求は,578万5144円及びこれに対する平成27年6月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する限度で理由があるから認容し,原告のその余の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言については,相当でないから付さないこととする。 京都地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官井上一成 裁判官加藤優治 裁判官友延裕美
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