昭和47(う)1041 業務上過失致死被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和48年1月18日 東京高等裁判所
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判決文本文4,890 文字)

主文 原判決を破棄する。被告人を免訴する。理由 本件控訴の趣意は弁護人二瓶広志提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。第一、 控訴趣意の要旨所論は、要するに、被告人は本件公訴事実の内容をなす過失と同一事実につき、既に労働基準法第四十二条、第四十五条、第百十九条第一号、労働安全衛生規則第百十二条により、罰金五千円に処せられ、右裁判は確定しているところ、右労働基準法違反の罪と本件業務上過失致死の罪とは一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、前者の既判力は後者に及び、本件については免訴の判決がなさるべきである。しかるに、原判決は之を併合罪の関係にありとして、本件につき被告人を罰金三万円に処したのは、憲法第三十九条、刑法第四十五条、第五十四条の解釈適用を誤つたものであり、破棄を免れない、というにある。第二、 当裁判所の判断(一)、 記録によれば、(1)被告人は昭和四十六年五月十三日大森簡易裁判所において、略式命令により、労働基準法違反の罪につき同法第四十二条、第四十五条、第百十九条第一号、労働安全衛生規則第百十二条を適用の上、罰金五千円に処せられ、同裁判は同年六月二十六日確定していること及び右略式命令において「罪となるべき事実」として認定されている事実は別紙一、略式命令写引用の起訴状が「公訴事実」として記載している事実と同一であること、(2)墨田区検察庁検察官は昭和四十六年十月二十七日被告人を業務上過失致死の罪名のもとに起訴し、公訴事実並びに罰条を別紙二、起訴状写記載のとおり主張し、原判決は右公訴事実についてなされたものであることが認められる。(二)、 略式命令の「罪となるべき事実」において認定された罪と「本件訴 し、公訴事実並びに罰条を別紙二、起訴状写記載のとおり主張し、原判決は右公訴事実についてなされたものであることが認められる。 墨田区検察庁検察官は昭和四十六年十月二十七日被告人を業務上過失致死の罪名のもとに起訴し、公訴事実並びに罰条を別紙二、起訴状写記載のとおり主張し、原判決は右公訴事実についてなされたものであることが認められる。(二)、 略式命令の「罪となるべき事実」において認定された罪と「本件訴 し、公訴事実並びに罰条を別紙二、起訴状写記載のとおり主張し、原判決は右公訴事実についてなされたものであることが認められる。(二)、 略式命令の「罪となるべき事実」において認定された罪と「本件訴因」において指摘されている罪との罪数に関する所論の当否判定の前提としての両罪の構成要件的行為の比較並びに両行為の関連性等について。(Ⅰ) 記録によれば、被告人は実兄Aと共に鉄骨工事請負業を営むB組の共同経営者であり、同組は昭和四十六年一月C株式会社より東京都品川区ab丁目c番d号D株式会社E工場増改築工事(以下増改築工事と略称する)を下請し、被告人は現場責任者として従業員の安全管理の責務を有していること、右請負工事の工事内容には増改築建物の外壁に鉄骨を取り付ける等の作業(以下胴ぶち作業と略称する)があり、この作業はその工程上右増改築工場に隣接する旧工場の屋根の上で之を施工するのほか方法がない状況であつたところ、右屋根は地上から七・三メートルの高さで、しかも、損壊し易いスレート瓦で葺かれているため、右屋根上での作業には踏み抜き等による危害発生のおそれが顕著であつたこと及び前記増改築工事の作業は昭和四十六年一月十日ころより着工、前記屋根上での胴ぶち作業は同月三十日午前八時ころ開始、同日午後四時三十分ころ同作業に従事中のFが前記スレート屋根を踏み抜いて地上に墜落し、本件死亡事故が発生したことが認められる。(Ⅱ) よつて(一)の(1)の労働基準法違反の罪を構成する危害防止の義務の内容並びに犯行の形態等について按ずるに、記録、特に前記(Ⅰ)の認定事実によれば、前記屋根上での胴ぶち作業は前記(Ⅰ)認定の如き形態で行われ、屋根の踏み抜きによる危害発生の蓋然性が極めて強いから、被告人はCより前記増改築工事につき前記胴ぶち作業を含む鉄骨取付等の作業を下請 れば、前記屋根上での胴ぶち作業は前記(Ⅰ)認定の如き形態で行われ、屋根の踏み抜きによる危害発生の蓋然性が極めて強いから、被告人はCより前記増改築工事につき前記胴ぶち作業を含む鉄骨取付等の作業を下請したとき、労働者を使用する使用者として、右危害の発生防止のため、屋根上に幅三十センチメートル以上の歩み板を設け、且つ、屋根下に防網を張る等の措置を講ずべき義務を負担したことは当時の労働安全衛生規則第百十二条に照し明白であり、被告人のこの義務が右時点以降遅くとも労働者を右胴ぶち作業に就労させる前に履行されなければならないことは労働基準法第四十二条が労働者を作業上の危険から守るために規定された趣旨に鑑み多言を要しない。 使用する使用者として、右危害の発生防止のため、屋根上に幅三十センチメートル以上の歩み板を設け、且つ、屋根下に防網を張る等の措置を講ずべき義務を負担したことは当時の労働安全衛生規則第百十二条に照し明白であり、被告人のこの義務が右時点以降遅くとも労働者を右胴ぶち作業に就労させる前に履行されなければならないことは労働基準法第四十二条が労働者を作業上の危険から守るために規定された趣旨に鑑み多言を要しない。ところで、記録によれば、被告人は昭和四十六年一月十日ころ右下請工事に着工し、同月三十日Fら労働者を右胴ぶち作業に就労させたにも拘らず、右屋根上等作業現場に右踏み抜き防止の措置を講じなかつたことが明白である。(Ⅲ) 次に(一)の(2)の業務上過失致死の罪を構成する業務上の注意義務の内容並びに犯行、特に過失行為の形態等について按ずるに、記録、特に前記(Ⅰ)の認定事実によれば、前記屋根上での前記胴ぶち作業は前記(Ⅰ)認定の如き形態で行われ屋根の踏み抜きによる労働者の死傷等の事故発生の可能性が極めて強い。従つて、被告人には右作業の施工業者として、また現場責任者として、右事故の発生防止のため、作業現場における労働者の操業の安全性を確保する等の措置を講じ、以て労働者の死傷等の事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。その安全性確保の措置が、当該危害の態様等に徴し、(Ⅱ)と同様屋根上に幅三十センチメートル以上の歩み板を設け、且つ、屋根下に防網を張る等であることは建築工事上の経験則に照し明らかである。而して、この措置が右下請の時点以 、当該危害の態様等に徴し、(Ⅱ)と同様屋根上に幅三十センチメートル以上の歩み板を設け、且つ、屋根下に防網を張る等であることは建築工事上の経験則に照し明らかである。而して、この措置が右下請の時点以降遅くとも労働者が前記胴ぶち作業に就労する前の段階で講じられなければならないことはこの義務を認めた趣旨に鑑み当然の事理である。しかるに、記録によれば、被告人はFらに従前屋根上での工事に経験のあることを過大に評価し、右措置を講じなくても、事故の発生はあるまいと軽信して、右措置を講ぜず工事を進めた結果、本件死亡事故が発生したこと及び被告人において右措置を右履行時限内に講じていれば同事故は発生しなかつたことが認められる。<要旨>(Ⅳ)以上の認定事実によれば、(一)の(1)の労働基準法違反の罪を構成する(二)の(Ⅱ)の行為と(一)の(2)の業務上過</要旨>失致死の罪を構成する(二)の(Ⅲ)の過失行為とは、その違法性の原点としての義務自体、―その性格の点は暫くおいて―その形態並びにこれを履行すべき時及び場所、ひいては懈怠の形態等当該犯罪の構成要件的行為がその重要部分において相一致し重なり合つていることが明らかであり、また、両者の間に、社会生活上前者が成立する場合後者が通常は相随伴して成立する関連性の存在することも否定できない。 2)の業務上過</要旨>失致死の罪を構成する(二)の(Ⅲ)の過失行為とは、その違法性の原点としての義務自体、―その性格の点は暫くおいて―その形態並びにこれを履行すべき時及び場所、ひいては懈怠の形態等当該犯罪の構成要件的行為がその重要部分において相一致し重なり合つていることが明らかであり、また、両者の間に、社会生活上前者が成立する場合後者が通常は相随伴して成立する関連性の存在することも否定できない。両罪を構成する犯行が右の如き関係にある場合には、右両罪は刑法第五十四条第一項前段にいわゆる「一個ノ行為」によつておかされたものと認めるのが相当である。検察官は、この点に関し、労働基準法違反の罪は挙動犯、業務上過失致死の罪は結果犯であり、しかも、両罪を構成する義務は異質のものであるから、両罪は本件のような形態でおかされても「一個ノ行為」には該当しない旨主張する。按ずるに、挙動犯と結果犯との間に「個ノ行為」と認め得る関係があるか り、しかも、両罪を構成する義務は異質のものであるから、両罪は本件のような形態でおかされても「一個ノ行為」には該当しない旨主張する。按ずるに、挙動犯と結果犯との間に「個ノ行為」と認め得る関係があるか否かは、挙動犯を構成する行為と結果犯を構成する行為(但し、結果は除外)―本件の場合は過失行為―に付これを比較検討し、両者の間に構成要件的行為の重要部分において重なり合い等の関係を認め得るときは、これに対し刑法第五十四条第一項前段を適用し得べきものと解する。而して犯罪を構成する義務が異質であるか否かは別個の犯罪が成立するか否かの根拠たるに止まり罪数の認定に影響を来すものではない。(なお、本件とは事案を異にしているが、道路交通法違反の罪と業務上過失致死の罪に関する最高裁判所昭和三十三年四月十日決定、刑集十二巻五号八七七頁以下参照)。検察官の主張は理由がない。(三)、 さすれば、(一)の(2)の業務上過失致死の罪は(一)の(1)の労働基準法違反の罪と一所為数法の関係に立つものであるところ、後者については、(一)で認定のとおり、既に略式命令により罰金刑に処する旨の裁判があり、しかも、同裁判は確定しており、この裁判の既判力は前者、即ち、業務上過失致死の罪に関する本件公訴事実にも及ぶから、本件公訴事実については刑事訴訟法第三百三十七条第一号により免訴の言渡をなすべきものである。 (一)の(2)の業務上過失致死の罪は(一)の(1)の労働基準法違反の罪と一所為数法の関係に立つものであるところ、後者については、(一)で認定のとおり、既に略式命令により罰金刑に処する旨の裁判があり、しかも、同裁判は確定しており、この裁判の既判力は前者、即ち、業務上過失致死の罪に関する本件公訴事実にも及ぶから、本件公訴事実については刑事訴訟法第三百三十七条第一号により免訴の言渡をなすべきものである。しかるに、原判決が事ここに出ず、右両罪を併合罪の関係にあるものとして、被告人に対し有罪の判決を言渡したことは違法であり、原判決は破棄を免れない。所論は理由がある。(四) よつて、刑事訴訟法第三百八十条、第三百九十七条により、原判決を破棄し、同法第四百条但書により、当裁判所において、更に次のとおり判決する。本件公訴事実は、別紙二、起訴状写公訴事実欄に記載のとおりであるところ 事訴訟法第三百八十条、第三百九十七条により、原判決を破棄し、同法第四百条但書により、当裁判所において、更に次のとおり判決する。本件公訴事実は、別紙二、起訴状写公訴事実欄に記載のとおりであるところ、本件には前記(三)で説示した事由があるので、刑事訴訟法第四百四条、第三百三十七条第一号に則り、被告人に対し免訴の言渡をすることとし、主文のとおり判決する。(裁判長判事八島三郎判事吉沢潤三判事中村憲一郎)別紙一<記載内容は末尾1添付>別紙二<記載内容は末尾2添付>

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