令和5年12月20日宣告広島高等裁判所令和5年第78号公職選挙法違反被告事件原審広島地方裁判所令和4年(わ)第124号 主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人坂下宗生(主任)、同宮崎翔太及び同小田憲太朗共同作成の控訴趣意書に記載のとおりであるからこれを引用するが、論旨は、被告人に被買収の故意を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というものである。 そこで、記録を調査して検討する(なお、略称については原判決のそれと同様である。)。 1 原判決の判断概要原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者である被告人が、Aを当選させる目的をもって同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、同年5月26日頃、広島市内のB事務所において、Aの配偶者であるBから現金30万円の供与を受けた、というものである。 原判決は、被告人とBとの関係、本件選挙の状況、本件現金が交付されるに至った経緯等に関する事実を認定した上、被告人は、以前からBの選挙に協力していたところ、Bから直接電話があるのは同人の選挙活動への協力を依頼されたときだけであり、また、被告人は、平成31年3月の時点でAが本件選挙に立候補する旨をBから直接伝えられ、Aの選挙情勢からBが本件選挙を取り仕切っていると理解していた中、本件選挙まで2か 月を切った時期にBから直接電話連絡を受けて呼び出された上で、これまで渡されたことのなかった当選祝いの名目で本件現金の交付を受けたのであり、このような状況 ていた中、本件選挙まで2か 月を切った時期にBから直接電話連絡を受けて呼び出された上で、これまで渡されたことのなかった当選祝いの名目で本件現金の交付を受けたのであり、このような状況からすると、Bが本件現金を交付してきた趣旨について、当選祝い以外にも本件選挙でAを当選させるために選挙活動への協力を被告人に依頼する趣旨も含まれているのではないかという程度のことは被告人の念頭にあったものと強く推認でき、また、純粋な当選祝いであれば収支報告書に記載することに特段の支障はないのに、Bから秘密であると伝えられ収支報告書に記載していないことも指摘し、これらの事情は、被告人が当選祝いとは別に公にできない意図すなわち本件選挙に関わる趣旨が含まれると認識していたことを示すものと考えられ、被告人は、Aに当選を得しめるために選挙運動を依頼することの報酬として本件現金を交付するというBの意図を認識していたことが認められ、被告人に被買収の故意があったとの認定判断を示したものである。 その他原審弁護人の主張に対する説示を含め、原判決の認定判断に論理則・経験則等に照らし特段不合理なところは認められない。 2⑴ 所論は、Bが自身の選挙に対する協力を求めるときにのみ、B本人が被告人に直接電話をすることがあったという原判決の事実認定について、被告人は、過去にB本人が被告人に直接電話をかけてきたことについては曖昧な記憶しかなく、この点に関する供述は僅かであり、その供述内容も断定的なものではないことに加え、選挙以外のことでも被告人に電話をかけていたことが推測されるようなBの供述もみられるのであるから、原判決の事実認定には誤りがあり、原判決は、このような誤った事実認定を前提として、これまでとは大きく異なる事情が本件電話であるとして、従前Bから受け取っていた ようなBの供述もみられるのであるから、原判決の事実認定には誤りがあり、原判決は、このような誤った事実認定を前提として、これまでとは大きく異なる事情が本件電話であるとして、従前Bから受け取っていた現金と本件現金との意味合いの違いを基礎付け、本件電話を現金交付と選挙協力とを結び付けるものと評価しているが、Bが選挙以外の件で被告人に直接電話をかけたこと があるという疑いが残る本件において、本件電話をもってこれまでとは大きく異なる事情と評価することはできないなどというのである。 しかしながら、原審における被告人供述には断定的ではない部分もみられるが、被告人は、氷代・餅代の交付の際はB自身から来るように言われたことはなかったと思う、B自身からの電話は頻繁にはないなどと供述し、さらに、どのようなときにBから電話があるかという質問に対しては、「主にやはり選挙の時ですね」「応援要請の電話がかかってきます」「専らBさんの衆院選のときですね」などと述べ、選挙以外でBが電話をかけてきた記憶はあるかとの質問に対しても、「選挙以外は、おそらくなかったとは思いますけども」と述べているのであって、このような被告人の供述を踏まえれば、原判決の事実認定が不合理であるなどとはいえない。また、所論が指摘するBの供述部分は、Bが主催する会食に被告人を含む数名には欠かさず案内をしていたというものであり、その内容からすれば、Bが自身の選挙に対する協力を求める以外の用件で直接被告人に電話をかけていたことを具体的にうかがわせるものではないのであって、このようなBの供述部分からうかがわれる事情は原判決の事実認定を大きく左右するまでの事情とはいえない。そして、そもそも、仮にBが選挙以外の要件で被告人に直接電話をかけたことが全くなかったとはいえないとしても、本件にお 分からうかがわれる事情は原判決の事実認定を大きく左右するまでの事情とはいえない。そして、そもそも、仮にBが選挙以外の要件で被告人に直接電話をかけたことが全くなかったとはいえないとしても、本件において指摘すべきは、Bから直接電話があるのはどのようなときと被告人が認識していたかであるから、Bが自身の選挙に対する協力を求めるときにのみB本人が直接電話をすることがあったと被告人が認識していたことを、本件現金交付に選挙協力の依頼の趣旨も含まれているのではないかとの認識を推認する一つの事情として考慮した原判決の判断に誤りがあるなどとはいえない。さらに、原判決は、Bから直接電話があったことを含め、これまでとは大きく異なる事情があったと説示しているのであって、本件電 話のほか、本件選挙までの時期や当時の本件選挙に関連する状況、当時3期目の市議会議員であった被告人が、Bにこれまで1期目の選挙から当選祝いの言葉はかけられていたものの、Bから当選祝い名目で金銭を交付されたことは本件が初めてであったことなどの諸事情を指摘し、これらの諸事情を総合考慮して判断しているのであり、結局、所論は、原判決の認定判断を的確に論難するものとはいえない。 ⑵ また、所論は、本件電話の前には、Bの秘書と被告人とが当選祝いの受取りをめぐって電話で口論になったという事情があり、Bも、秘書を通じて何度も接触を試みたが都合がつかなかった旨を述べているのであるから、B自身が直接被告人に電話をしたのは、秘書を通じてでは接触できなかったからと推認するのが一般的で自然であるのに、原判決は、上記口論の事実を認定評価することなく本件電話について誤った意味付けを行っているともいうのである。しかしながら、本件電話の前にBの秘書と被告人が口論になったことは、Bによる本件電話の直接の 判決は、上記口論の事実を認定評価することなく本件電話について誤った意味付けを行っているともいうのである。しかしながら、本件電話の前にBの秘書と被告人が口論になったことは、Bによる本件電話の直接の理由が上記口論を受けてのものと被告人に思わせる事情とはいえるが、既に述べたとおり、本件選挙までの時期や当時の本件選挙に関連する状況といった事情は、被告人と面会しようとするBの意図が本件選挙に関わることかもしれないと被告人が認識するに足るものであり、その前に所論が指摘するような口論があったからといって、本件電話が本件選挙に関するものである可能性の認識を妨げるような事情とはいえない。 なお、所論は、原判決は、被告人が被買収の趣旨を認識した上でこれを認容していたといえる理由を全く示すことなく被告人の故意を認定しているなどともいうのであるが、被告人は、Bから受領した本件現金について、収支報告書に記載することもなく生活費等に費消したと述べているのであるから、被告人は、Bの被買収の意図を認識した上で、その趣旨を受け入れたものと認められ、被告人には被買収の認識のみなら ず認容もあったことは明らかというべきである。原判決は、被告人に認識が認められる以上、そのような事実経過等からして認容もしていたといえることから、争点に対する判断の項において、認容については明示的に説示していないにすぎないとみられるのであって、結論として被告人に故意があったと認定した原判決の判断に何ら誤りはない。 3 所論を踏まえて検討してみても、原判決に事実の誤認があるとは認められない。 論旨は理由がない。 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 令和5年12月20日広島高等裁判所第1部 裁 主文 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 理由 論旨は理由がない。 令和5年12月20日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官森浩史 裁判官富張真紀 裁判官家入美香
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