令和3年2月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(行ウ)第311号異議決定取消等請求事件口頭弁論終結日令和2年12月10日判決 原告 A同補佐人弁理士河野生吾 被告国 同代表者法務大臣上川陽子処分行政庁審判長特許庁審判官 B特許庁審判官 C特許庁審判官 D被告指定代理人守谷純子 同阿部拓海同大江摩弥子同今福智文同尾 﨑 友美主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が異議2019-700851号事件について令和2年1月27日に した決定を取り消す。 第2 事案の概要弁理士である原告は,平成31年4月24日に発行された特許公報に掲載された特許第6506414号の請求項1ないし12に係る特許(以下「本件特許」という。)について,特許庁長官に対し,佐川急便株式会社(以下「佐川急便」という。)が提供する特許法19条所定の信書便を利用して,令和元年10 月24日付け特許異議申立書(以 (以下「本件特許」という。)について,特許庁長官に対し,佐川急便株式会社(以下「佐川急便」という。)が提供する特許法19条所定の信書便を利用して,令和元年10 月24日付け特許異議申立書(以下「本件申立書」という。)を提出することにより,特許異議の申立て(以下「本件申立て」という。)をしたところ,特許庁の審判合議体を構成する特許庁審判官B,同C及び同D(以下「本件審判官ら」という。)は,本件申立書の通信日付印が不明瞭である以上,本件申立ての申立日は,本件申立書が特許庁に到達した同月25日となり,本件申立ては,特許 異議申立期間の末日である同月24日を経過してなされた不適法なものであるなどとして,本件申立てを却下する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。 本件は,原告が,被告に対し,⑴特許異議の申立ての却下決定に対しては不服を申し立てることができないと規定する特許法120条の8第2項につい て,原告は,本件申立書の通信日付印に係る瑕疵について無過失である上,これは同年12月5日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)によって治癒されたのに,これを無視してなされた本件決定に対して,不服を申し立てることができないことになるし,本件特許の有効性について利害関係がない以上,特許無効審判を請求することもできず,手続保障が十分でないから, 同項は,憲法31条に反し違憲無効であるとして,本件訴えが適法であると主張した上,⑵①本件決定は,上記のとおり,原告は本件申立書の通信日付印に係る瑕疵について無過失である上,これは本件補正によって治癒されたのに,これを無視してなされたものであり,憲法31条に反し違憲であるし,②特許法19条は,郵便によって発送した特許異議申立書については,郵便物の受領 証又は郵便物 は本件補正によって治癒されたのに,これを無視してなされたものであり,憲法31条に反し違憲であるし,②特許法19条は,郵便によって発送した特許異議申立書については,郵便物の受領 証又は郵便物の通信日付印によって発送された日時等が証明された場合,発信 主義を適用するのに対し,信書便によって発送したものについては,信書便物の通信日付印によって発送された日時等が証明された場合のみ,発信主義が適用され,信書便物の受領証によって発送された日時等が証明された場合は,発信主義が適用されない旨を規定しているところ,同条は,元国営事業である郵便と民間事業である信書便とを合理的理由なく差別して取り扱うものであっ て,憲法14条に反し違憲であり,それゆえ,本件補正によって本件申立書の発送日が同年10月24日であることが明らかな本件申立ての申立日を同月25日と認定した本件決定は違憲であると主張して,本件決定の取消しを求めた事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。) ⑴ 本件特許(特許第6506414号)は,平成31年4月5日に設定登録がなされ,同月24日に発行された特許公報(甲1)に掲載されたため,その特許異議申立期間の末日は,同特許公報の発行日の6か月後である令和元年10月24日であった(特許法113条)。 ⑵ 弁理士である原告は,令和元年10月24日,佐川急便が提供する「飛脚 特定信書便」を利用して,本件申立書(乙3)等の書類を発送することにより,特許庁長官に対し,本件申立てをした。 佐川急便は,民間事業者による信書の送達に関する法律2条7項1号,3号に係る特定信書便役務に関する特定信書便事業を営むことについて同法29条の許可を受けており,同法2条9項の特定信書便事業者 佐川急便は,民間事業者による信書の送達に関する法律2条7項1号,3号に係る特定信書便役務に関する特定信書便事業を営むことについて同法29条の許可を受けており,同法2条9項の特定信書便事業者に該当する。 また,「飛脚特定信書便」は,佐川急便が提供する特定信書便役務の名称であり,同条2項,特許法19条の信書便に該当する。 (以上につき,甲2~4,乙2,3)⑶ 本件申立書等の書類は,令和元年10月25日,特許庁に到達した。 なお,本件申立書,その包装及びこれに封入されていた一切の内容物のい ずれにも,佐川急便の過失により,信書便の発送日を示す通信日付印は押印 されていなかった(甲7,乙3,4)。 ⑷ 特許庁長官は,令和元年10月30日付けで,原告に対し,本件申立ての申立日が同月25日であること等を通知した(甲5)。 ⑸ 原告は,特許庁に到達した本件申立書に,佐川急便による信書便の発送日を示す通信日付印が押印されていなかったことを知り,令和元年11月29 日付けで上申書(乙5)を,同年12月5日付けで手続補正書(甲6)及び上申書(乙6)を,それぞれ提出したところ,本件補正に係る同手続補正書には,佐川急便による信書便の発送日を示す通信日付印が押印された本件申立書の表紙(1頁目)が添付されている(甲6,7,乙5,6)。 ⑹ 本件審判官らは,令和2年1月27日付けで,本件申立書の通信日付印は 不明瞭であり,これは特許異議申立期間の経過後である令和元年10月25日に特許庁に到達したと認められるため(特許法19条),本件申立ては,同期間を経過した後になされた不適法なものであり,その補正をすることができないものであるから,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により却下する 特許法19条),本件申立ては,同期間を経過した後になされた不適法なものであり,その補正をすることができないものであるから,特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により却下する旨の本件決定(甲8)をし,その謄本は,令和 2年2月6日に原告に送達された。 ⑺ 原告は,令和2年8月5日,被告に対し,本件訴訟を提起した。 2 争点⑴ 本件訴えの適法性-特許法120条の8第2項が憲法31条に反し違憲無効であるといえるか(争点1) ⑵ 本件決定に違法事由があるといえるか(争点2)ア本件審判官らが本件補正を認めることなく本件申立ての申立日を令和元年10月25日と認定したことが憲法31条に反するといえるか(争点2-1)イ本件審判官らが適用した特許法19条が憲法14条に反し違憲であり, 特許法19条に従って本件申立ての申立日を令和元年10月25日と認 定したことが違憲であるといえるか(争点2-2) 3 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(本件訴えの適法性-特許法120条の8第2項が憲法31条に反し違憲無効であるといえるか)ア原告の主張 特許法120条の8第2項は,本件決定のような特許異議の申立ての却下決定に対しては,不服を申し立てることができないと規定している。 しかし,原告が,本件補正により本件申立書の表紙を差し替えたことにより,本件申立書に通信日付印が押印されていなかったという瑕疵は治癒されたにもかかわらず,それを無視してなされた本件決定に対して,何ら 不服を申し立てることができないというのは,適正手続の観点から,到底認めることができない。 また,特許法120条の8第2項の趣旨は,特許異議申立人において,特許異議の申立ての却下決 不服を申し立てることができないというのは,適正手続の観点から,到底認めることができない。 また,特許法120条の8第2項の趣旨は,特許異議申立人において,特許異議の申立ての却下決定に対して不服を申し立てることができないとしても,別途特許無効審判によって特許の有効性を争うことができると いう手続保障がされているため,特許異議の申立ての却下決定に対する不服の申立てを認める必要がないというところにある。しかし,特許異議の申立ては,「何人」も行うことができるのに対し,特許無効審判の請求は,「利害関係人」しか行うことができないのであって,特許異議申立人のうち利害関係人に当たらない者については,手続保障が十分でない。また, 特許異議の申立制度は,公益的見地のみならず,私的見地をも踏まえて設けられた制度であり,公益的見地のみを捉えて特許異議申立人に手続保障を与える必要がないというのは,法の趣旨を自己に都合の良いように解釈するものであって,到底認めることができない。 したがって,特許法120条の8第2項は,憲法31条に反し違憲無効 であり,本件訴えは,適法である。 イ被告の主張特許法120条の8第2項が,特許異議の申立ての却下決定について,不服を申し立てることができないと規定したのは,特許異議の申立制度が,当事者間の具体的紛争の解決を主たる目的とするものではなく,特許権の早期安定化を目的とするもの,すなわち特許庁が自らの処分の適否を見直 し,瑕疵ある場合にはその是正を図ることによって,特許に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成することを主眼とした制度であるため,特許異議申立人の地位は専ら公益的見地から与えられたものであり,特許異議申立人の利益が保護されるのは反射的利益 ,特許に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成することを主眼とした制度であるため,特許異議申立人の地位は専ら公益的見地から与えられたものであり,特許異議申立人の利益が保護されるのは反射的利益にすぎないと考えられたからである。 そのため,特許異議申立人による特許異議の申立てが却下されたとしても,法律上保護された利益が侵害されるものではない。このように解しても,特許異議申立人が当該特許について利害関係を有する場合には,別途特許無効審判を請求することができるから,そのような特許異議申立人の利益が侵害されることはない。また,特許異議の申立ての却下決定は,審 判合議体による審理を経てなされるものであり,あえて再度の判断をするための不服の申立ての手段を設ける必要もない。 したがって,特許法120条の8第2項は,憲法31条に反するものではなく,本件訴えは,不適法である。 ⑵ 争点2(本件決定に違法事由があるといえるか) ア争点2-1(本件審判官らが本件補正を認めることなく本件申立ての申立日を令和元年10月25日と認定したことが憲法31条に反するといえるか) 原告の主張本件決定は,本件申立書に通信日付印が押印されていなかったという 瑕疵が,本件補正によって治癒されたにもかかわらず,それを無視して なされたものである。そして,本件申立書に通信日付印が押印されなかったのは,佐川急便の過失によるものであって,原告には何らの過失もなかった。 このように,原告に何らの過失もないにもかかわらず,その治癒の機会を与えずに,本件申立てを却下した本件決定は,憲法31条に反し違 憲である。 被告の主張原告の上記主張については,争う。 イ争点2-2(本件審 かわらず,その治癒の機会を与えずに,本件申立てを却下した本件決定は,憲法31条に反し違 憲である。 被告の主張原告の上記主張については,争う。 イ争点2-2(本件審判官らが適用した特許法19条が憲法14条に反し違憲であり,特許法19条に従って本件申立ての申立日を令和元年10月 25日と認定したことが違憲であるといえるか) 原告の主張特許法19条は,郵便又は信書便によって発送した特許異議申立書等について,いわゆる発信主義を採用する旨を定めた規定である。しかし,特許法19条は,郵便によって発送された特許異議申立書については, 郵便物の受領証又は郵便物の通信日付印によって発送された日時等が証明された場合,発信主義を適用するのに対し,信書便によって発送されたものについては,信書便物の通信日付印によって発送された日時等が証明された場合のみ,発信主義が適用され,信書便物の受領証によって発送された日時等が証明された場合には,発信主義が適用されない旨を 規定している。このように,特許法19条は,元国営事業である郵便と民間事業である信書便とを合理的理由なく差別して取り扱うものであって,憲法14条に反し違憲である。 したがって,本件補正によって,本件申立書の発送日が令和元年10月24日であることが明らかであるにもかかわらず,本件申立ての申立 日を同月25日と認定した本件決定は,違憲である。 被告の主張原告の上記主張については,争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件訴えの適法性-特許法120条の8第2項が憲法31条に反し違憲無効であるといえるか)について ⑴ 原告は,本件決定のような特許異議の申立ての却下決定に対して不服を申 判断 1 争点1(本件訴えの適法性-特許法120条の8第2項が憲法31条に反し違憲無効であるといえるか)について ⑴ 原告は,本件決定のような特許異議の申立ての却下決定に対して不服を申し立てることができないと規定する特許法120条の8第2項は,憲法31条に反し違憲無効であるから,本件訴えは適法である旨を主張する。 ⑵ 特許法120条の8第2項及びこれが準用する同法114条5項は,特許異議の申立ての却下決定(同法120条の8第1項,135条)に対しては, 維持決定(同法114条4項)の場合と同様に,不服を申し立てることができないと規定しており,これにより特許異議の申立ての却下決定に対しては取消訴訟の提起等をすることができないこととなる。 その趣旨は,①特許異議の申立制度が,当事者間の具体的紛争の解決を主たる目的とするものではなく,特許権の早期安定化を目的とするもの,すな わち特許庁が自らの処分の適否を見直し,瑕疵ある場合にはその是正を図ることによって,特許に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成することを主眼とした制度であるため,特許異議申立人の地位は専ら公益的見地から与えられたものであり,特許異議申立人の利益が保護されるのは反射的利益にすぎないこと,②当該特許に関する利害関係人については,特許無効審 判を請求することができるとされており(特許法123条),当該特許の有効性を争うための手続保障がされていること,③特許異議の申立ての却下決定は,維持決定の場合と同様に,審判合議体による審理を経てなされるものであり,特許異議申立人に不服の申立てを認める必要はないこと等のところにあるものと解されるところ,これらに鑑みれば,上記については,十分な合 理性を有するものと解される。 そうすると ,特許異議申立人に不服の申立てを認める必要はないこと等のところにあるものと解されるところ,これらに鑑みれば,上記については,十分な合 理性を有するものと解される。 そうすると,特許異議申立人は,あくまで上記のような公益的な目的を達成しようとする特許異議の申立制度によって生じた反射的利益を有しているにすぎないものというべく,立法政策の結果として,特許異議の申立ての却下決定に対して不服を申し立てることができないこととされたとしても,それによって法律上保護された利益が侵害されることとなるとはいえず,また, 当該特許に関する利害関係人に該当する場合には,別途特許無効審判を請求することにより,当該特許の有効性を争うための手続保障も与えられているのであるから,そもそも特許法120条の8第2項について,憲法31条(「何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ…ない。」)の手続保障の問題が生じることとなるものではない。これらに照ら せば,原告の上記主張は理由がないか,その主張の前提を欠くものといわざるを得ない。 ⑶ 以上によれば,特許法120条の8第2項が憲法31条に反するとの原告の上記主張は採用することができず,本件訴えは不適法というべきであるから,争点2(本件決定に違法事由があるといえるか)について検討するまで もなく,これを却下するのが相当である。 2 結論よって,本件訴えは不適法であるからこれを却下することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官田中孝一 裁判官奥俊彦 裁判官西尾信員 裁判長 裁判官田中孝一 裁判官奥俊彦 裁判官西尾信員
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