【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する 理 由 弁護人今西貞夫上告趣意書は原判決は刑の量定著しく過当であると思料する。即 ち記録に基き其の情状を視るに(一)本件犯罪の動機
主文 本件上告を棄却する 理由 弁護人今西貞夫上告趣意書は原判決は刑の量定著しく過当であると思料する。即ち記録に基き其の情状を視るに(一)本件犯罪の動機並に果した役割、被告人が本件の犯行に陥る様になつた最初の動機は洵に単純にして深き悪性の認められないものがある。即ちそれは原審公判廷で被告人が供述して居る如く最初昭和二十一年二月中旬頃広島県a町所在のB工業株式会社の倉庫に於て工具類等を窃取したる際は共犯者工員が被告人宅に来て前記会社に知つた守衛が居つて文具類を安く売つて呉れるから行かうと誘うので金銭にも窮して居つた際とて良い儲けがあるならという気になり現場へ行つたものである。決して初めから窃盗をする様な気持があつたものではなく安く買えるものならそれを買いて転売して多少なりとも儲けやうかという様な気持であつたものである勿論現場に行つてからは泥棒をするのだといふことは気付いたのであるがお人好しの誘惑に陥り易い被告人としてはそれを振切つて帰る勇気もなく犯行に陥入つたものである。其の後も遂に犯行を重ねる様になつたものであるがこれも泥田に一歩足を踏み込んだ被告人としては誘はれる儘に動いたもので結果から見ると悪性の反覆に違いないが動機よりすれば洵に偶発的なものと言へるのであつて深き悪性は決して認めることは出来ないのである。尚亦犯行中に於て被告人の果した役割も常に従属的消極的なもので或る時は見張を為し、或る時は運搬の役を勤める等決してその行動に積極性はないことは紙背に徹する御明察を以てすれば容易に看取出来得る処である之は畢竟被告人の寧ろ女性的なる性格常に良心の呵責に戦き乍らの犯行であることを如実に物語つてゐるものである。(二)被告人の人物、被告人は前記の如くその性格は極めて温順な無口の人間であつて他人より る之は畢竟被告人の寧ろ女性的なる性格常に良心の呵責に戦き乍らの犯行であることを如実に物語つてゐるものである。(二)被告人の人物、被告人は前記の如くその性格は極めて温順な無口の人間であつて他人より誘はれた場合等に於ては之を拒否する如き意思の強さは持ち合はせないことが- 1 -最大の欠点である身体も肋膜をやつた後は兎角健康に恵まれず従つて充分なる収入も得ることが出来ないで生活に困つて遂に誘惑に掛つたものと思料される、家庭には毋と妻長女並に弟があるが毋は御嶽教の祈祷師として貧しきに甘んじ清節を保つて早く夫に死別し乍らも被告人及その弟をして中等学校へも進学させた(被告人は中途で海軍に志願の為め退学した)様な情況である。(三)改悛の情況、被告人は本件犯行後は深く前非を悔いその改悛の情は顕著なものがある身体の弱い被告人は労働を為すことは不可能であるので現在は広島市d駅前に些細なる古本屋を開業し熱心に正業に精励して居るのである。又貧しき乍らも一家の柱石として毋を中心に円満なる家庭を営んでゐるので今遽かに被告人を囹圄の人たらしむるよりは与へるに刑の執行猶予を以てし充分に改化遷善の余地を作つてやることが肝要と思料するに原審が之に臨むに一年六月の実刑を以てせられたことは余りにも苛酷である刑の執行猶予の御恩典を賜はるべき情状があるものと確信するものであると言い、弁護人森西隆恒上告趣意書第四点は、事情、被告人ハ性質温厚同情心ニ富ム青年ニシテ決シテ悪人ニアレズ否寧ロ普通人以上ノ好人物ナリ唯意志薄弱ナリシガ為悪友ノ勧誘ヲ拒否スルヲ得ズ其ノ仲間ニ引込マレ本件犯行ヲ為スニ至リタルモノニシテ本件犯行ハ決シテ被告人ノ自発的意思ニ出シモノニアラズ、而シテ被告人ハ本件ニ付検挙セラルルヤ直ニ自己ノ非行ヲ悟リテ改俊シ保釈セラルルや自ラ被害者A方ニ赴キテ陳謝シタル上被害ノ弁償 至リタルモノニシテ本件犯行ハ決シテ被告人ノ自発的意思ニ出シモノニアラズ、而シテ被告人ハ本件ニ付検挙セラルルヤ直ニ自己ノ非行ヲ悟リテ改俊シ保釈セラルルや自ラ被害者A方ニ赴キテ陳謝シタル上被害ノ弁償ヲ為シタル程ナリ被告人ハ現在サヽヤカナル書店(本屋)ヲ開キ正業ニ従事シテ只管更生ノ道ヲ辿リツヽアルモノナルが被告人ノ家庭ハ母ト妻ト二才ノ長女ト被告人ノ弟トノ五人暮シニシテ被告人ノ働ニ依リ僅ニ其ノ生計ヲ維持シ居ルモノナルヲ以テ若シ被告人が懲役一年六月ノ刑ニ服スルニ於テハ一家ノ支柱ヲ失イタル被告人ノ家族ハ忽チ生活ニ窮シ路頭ニ迷フ悲惨事ヲ惹起スル虞アルハ勿論被告人ヲシテ刑務所内ノ悪風ニ感染セシメ自暴自棄ニ陥ラシムル危険ナシトセズ事情斯クノ如クナルヲ以テ本件ハ特別ノ御同情ヲ以テ御審理ノ上原判決ヲ破毀- 2 -セラレン事ヲ願フ。と云ふのであるが、日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十三条によれば、刑事訴訟法第四百十二条の規定は、憲法施行の日からこれを適用しないことゝなつたのであるから所論のような事由は、これを上告の理由とすることができないので本論旨は理由がない。 弁護人森西隆恒上告趣意書第一点は原判決ハ第一及第二ノ事実トシテ窃盗事実ヲ認メ更ニ第三ノ事実トシテ被告人ハ前記工員D及同じく当審相被告人であつたEと共謀の上同月十一日頃広島市c町de番地A方に押入り右工員DはAの寝室で同女を見張り被告人と右Eに於て右A所有のラジオ一台シンガーミシン一台(但し頭部丈けを取りはずす)黒色洋服三揃一着洋傘一本煙草ケース一個を窃取したものであるト認定シ法律ノ適用トシテ右被告人ノ所為ハ刑法第二百三十五条第六十条第五十五条ニ該当スル旨説示セリ。即チ原判決ハ右ノ如クA方ニ押入リト明ニ住居侵入ノ事実ヲ認定シナガラ法律ノ適用トシテ住居侵入ノ条文ヲ掲記セザル 律ノ適用トシテ右被告人ノ所為ハ刑法第二百三十五条第六十条第五十五条ニ該当スル旨説示セリ。即チ原判決ハ右ノ如クA方ニ押入リト明ニ住居侵入ノ事実ヲ認定シナガラ法律ノ適用トシテ住居侵入ノ条文ヲ掲記セザルヲ以テ理由不備ノ違法アリ或ハA方ニ押入リタル事ハ事情トシテ記載シタルモイニシテ犯罪事実トシテ記載シタルモノニアテズトノ弁解アルヤモ知レザルモ苛モ刑ノ量定ノ基礎トナリ若シクハ刑ノ量定ニ影響ヲ及ボスベキ事実ヲ判文中ニ掲記セル以上然モ其ノ事実が犯罪ヲ構成スルモノナルニ於テハ之が如何ナル法律ニ該当スベキヤヲ明示セザレバ理由不備ナリ而シテ判文中ニ掲示セル事実が刑ノ量定ニ関係アル事実ナリヤ否ヤハ独リ判決文作成者ノ主観ニノミ依リ定ムベキモノニアラズシテ判文自体ニ依リ之ヲ定ムベキモノトス今本件判決文ニ付之ヲ見ルニ被告人等がA方ニ侵入シタル事実ノ記載方法ハ之ヲ公訴事実トシテ一般ニ記載スル場合ノ記載方法ト何等異ナル処ナキノミナラズ本件窃盗ト住居侵入トハ手段結果ノ関係アリテ一罪ヲ為シ右住居侵入ノ事実モ本件公訴ノ範囲ニ属スルモノナルヲ以テ苟モ公訴ノ範囲ニ属スル犯罪事実ヲ判文中ニ掲記シタル以上(例へ判決文作成者が其ノ主観ニ於テハ其ノ事実ヲ事情トシテ記載シタル場合ニ於テモ)右事実ガ如何ナル法令ニ該当スベキカヲ説明セザ- 3 -レバ刑事訴訟法第三百六十条第一項ニ悖リ違法ナリトスと言うのである。原判決は、被告人がA方居宅に侵入した事実を判示しながら刑法第百三十条の適用を遺脱したことは所論の通りであつて、この点において原判決には違法があるが住居を侵す罪は窃盗罪の手段たる関係にあるので、其の処断は重い後者の刑によるべきことは刑法第五十四条第一項により明かであるから、原判決が刑法第二百三十五条だけを適用して処断したとしても、刑の量定その他に異なるところがないから、右の違法は原 で、其の処断は重い後者の刑によるべきことは刑法第五十四条第一項により明かであるから、原判決が刑法第二百三十五条だけを適用して処断したとしても、刑の量定その他に異なるところがないから、右の違法は原判決に影響を及ぼさないので上告の理由とはならない。 同第二点は原審第一回公判調書ニハ裁判長ハ証拠調ヲ為ス旨ヲ告ゲ一件記録中各訊問調書各聴取書検証調書各始末書及強盗難届書公判調書其ノ他ノ書類ノ各要旨ヲ告ゲ又ハ読聞ケト記載シアリテ又原審第二回公判調書ニハ裁判長ハ証拠調ヲ為ス旨ヲ告ゲ一件記録中各訊問調書各聴取書検証調書各始末書及強盗難届書公判調書其ノ他ノ書類ノ各要旨ヲ告ゲ又ハ読聞ケト記載シアルモ斯クノ如キハ其ノ記載方法余リ簡略ニ過ギ単ニ本件記録ノ要旨ヲ告ゲタリト云フニ等シク具体的ニ如何ナル書類ニ付例へバ何人ニ対スル訊問調書ニ付証拠調ヲ為シタルカ分明ナラズ、従テ原判決が証拠説明ニ引用シタル証拠書類其ノ他ノ文書(証拠物)ニ付適法ナル証拠調アリタルヤ否ヤ之ヲ知ルニ由ナシ仍テ原判決ハ破毀ヲ免レズと言うのであるが、公判調書に記載すべき証拠調の表示としては原審公判調書に記載した程度で足りるのであつて、その点に違法はないから、論旨は理由がない。 同第三点は原審第二回公判調書ニハ裁判長ハ被告人ニ対シ右検事陳述ノ公訴事実ヲ告ゲ事件ニ付陳述スベキコトガアルカ否ヲ問フタ処被告人ハ第一回公判調書記載ト同様ニ陳述シタ、裁判長ハ被告人ニ対シ第一回公判調書記載ノ通リ犯罪事実及其ノ他ノ事実ヲ問フタ処被告人ハ第二回公判調書ト同趣旨ノ陳述ヲシタト記載シアリ、然レドモ原審第二回公判調書ニハ特ニ被告人ノ供述トシテ記載ノ見ルベキモノナキヲ以テ第二回公判調書(審理更新調書)ニ依リテハ原審々理ノ経過殊ニ其ノ審理ガ- 4 -十分尽サレタルヤ否ヤ之ヲ知ルニ由ナシ、仍テ原判決ハ此点ヨリスルモ破毀ヲ 被告人ノ供述トシテ記載ノ見ルベキモノナキヲ以テ第二回公判調書(審理更新調書)ニ依リテハ原審々理ノ経過殊ニ其ノ審理ガ- 4 -十分尽サレタルヤ否ヤ之ヲ知ルニ由ナシ、仍テ原判決ハ此点ヨリスルモ破毀ヲ免レズと言うのであるが所論第二回公判調書の記載は正規の手続によつて第一回公判調書を訂正したものであることは、原審第二回公判調書を精査すれば明かであるから論旨は理由がない。 以上の理由は裁判官全員の一致した意見であるので、刑事訴訟法第四百四十六条により主文の通り判決する。 検察官安原政吉関与昭和二十二年十一月七日最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官長谷川太一郎裁判官庄野理一裁判官島保裁判官河村又介- 5 -
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