平成16(ネ)261 損害賠償請求控訴及び同附帯控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成16年11月26日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 平成15(ワ)4166
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判決文本文7,325 文字)

主文 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 被控訴人の本件附帯控訴を棄却する。 4 訴訟費用は第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の申立て 1 控訴人の本件控訴について(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 2 被控訴人の本件附帯控訴について(1) 原判決を次のとおり変更する。 (2) 控訴人は,被控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成15年10月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,被控訴人を原告,被控訴人の妻であった者らを被告らとする別件の民事訴訟事件(別件訴訟)の実質上最初の口頭弁論期日であった第2回口頭弁論期日において,同事件の担当裁判官(別件担当裁判官)が被控訴人に対して同期日の呼出手続が欠缺していたのに,そのまま審理の上,即日弁論を終結し,次の判決言渡期日に判決を言い渡したことにつき,同裁判官の訴訟手続上の措置(以下「別件手続上の措置」という。)が違法であるなどとして,被控訴人が控訴人に対して国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料100万円の内金10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり,本件の原判決がこのうち5万円及びこれに対する遅延損害金を認容し,その余は棄却したところ,控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴したものである。 2 前提事実並びに争点及び当事者の主張は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決3頁23行目から4頁1行目までを次のように改める。 「(9) 平成15年10月15日,被控訴人は,別件判決に対 事実及び理由」欄の第2の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決3頁23行目から4頁1行目までを次のように改める。 「(9) 平成15年10月15日,被控訴人は,別件判決に対し,控訴の趣旨を「被控訴人等は夫々原告に対して慰謝料として金10万円及び第1審訴状送達の翌日から支払いずみに至る迄の間,1ヶ月複利日歩20銭を加算して支払う事。訴訟費用は第1審,2審共に被告等の負担とする。」とする控訴状を岐阜地方裁判所に提出し,その控訴理由として,別件判決には,判断の脱漏,事実誤認,審理不尽などとともに,被控訴人に対する別件第2回口頭弁論期日の呼出手続を欠缺したまま証拠調べをし判決を言い渡したことにより被控訴人に立証をさせないという訴訟手続の違法があることを指摘した(乙4)。」(2) 同4頁9,10行目を次のように改める。 「 いう。)を言い渡した。 別件控訴審判決は,別件訴訟を原裁判所に差し戻すという結論に至る理由の中で,別件控訴審において訴状陳述以後の審理をやり直す方法も考えられなくはないが,そのような方法による場合,別件控訴審の口頭弁論期日に当事者双方ともに出頭が見込まれず,訴訟代理人も選任していないことから,控訴の取下げが擬制されるおそれがあるところ(民事訴訟法292条2項,263条後段),違法な訴訟手続に基づきなされた請求棄却の原判決が確定することは相当ではない旨の説示をしている(乙10)。 (11) 別件控訴審判決に対する上告提起等はなく,別件訴訟は,岐阜地方裁判所において差戻審の審理がなされ,口頭弁論期日として平成16年4月6日及び同年5月14日が指定されたが,いずれの期日にも当事者双方が連続して出頭せず,民事訴訟法263条後段により,訴えの取下げがあったものとみなされ,同年5月14日終了した。なお,被 成16年4月6日及び同年5月14日が指定されたが,いずれの期日にも当事者双方が連続して出頭せず,民事訴訟法263条後段により,訴えの取下げがあったものとみなされ,同年5月14日終了した。なお,被控訴人は,同年6月9日付けの書面で口頭弁論期日指定の申立てをしたことから,差戻審は,同年7月2日上記のとおり別件訴訟が終了したことを宣言し,同判決は同月20日の経過をもって確定した。(乙11,12)(12) 被控訴人は,平成a年b月c日からd刑務所においてe刑に服しており,その残刑期終了日は平成f年g月h日であるところ,同刑務所においては,民事裁判の場合にその当事者である受刑者を出廷させることはほとんどなく,別件訴訟での4回,本件訴訟での4回(期日の呼出しをしないことが許される場合のある判決言渡期日及び本件で問題となっている別件第2回口頭弁論期日を除く。)の口頭弁論期日にいずれも欠席している。また,被控訴人はいずれにおいても訴訟代理人を選任していない。(弁論の全趣旨,乙13,顕著な事実)」(3) 同5頁3行目と4行目の間に次を加える。 「 別件訴訟における別件担当裁判官の行為は,単なる手続違法にとどまらず,当事者平等原則(武器平等原則),憲法14条(法の下の平等),同82条(裁判の公開),国際法にも違反する。」(4) 同9頁5行目の「という精神的苦痛を受けた」の前に次を加える。 「③裁判官の不法を主張することにより,いわゆる報復として岐阜地方裁判所における他の事件の審理に悪影響が発生する可能性がある」第3 当裁判所の判断 1 裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法1条1項所定の違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには,同裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず,当該裁判官 判につき国家賠償法1条1項所定の違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには,同裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とするというべきであり(最高裁判所昭和57年3月12日第二小法廷判決・民集36巻3号329頁参照),裁判官の職務行為にも国家賠償法の適用を排除する規定はなく,その適用が肯定されるにもかかわらず,このように適用が制約されることについては,裁判行為の相対的性格や裁判官の独立の保障とともに,争訟の裁判のなかに瑕疵が存する場合には,上訴等により是正されることが予定され,上訴手続を経て確定するに至ったときは,その結論をもって当該紛争の最終的な解決とするという裁判制度の本質によるものと考えられるのであって,合理的な根拠に基づくものと解される。 そして,上記の法理は争訟の裁判における裁判官の実体的な判断に関する場面に最も当てはまるものであろうが,手続上の措置についても,それらが裁判官の判断作用とも関連するものであり,そこに瑕疵が存したとしても上訴等で是正が予定されていることについて変わりはないことからすれば,これを除外する理由はないから,裁判官の訴訟手続上の措置にかかわる瑕疵についても,上記のように国家賠償法の適用が制約されるものというべきである。 そうすると,本件のように,訴訟における担当裁判官の訴訟手続上の措置について,控訴人に国家賠償法1条1項所定の責任を問題とする場合にも,上記のような国家賠償法の適用が制約されるとの法理のもとに判断することになる。 2 そこで,上記の観点から別件担当裁判官の別 置について,控訴人に国家賠償法1条1項所定の責任を問題とする場合にも,上記のような国家賠償法の適用が制約されるとの法理のもとに判断することになる。 2 そこで,上記の観点から別件担当裁判官の別件手続上の措置について国家賠償法1条1項所定の責任の有無を検討する。 (1) 原判決も指摘するとおり,民事訴訟法は,期日の呼出しは裁判所が常に職権で行うことを定めており(同法94条1項),期日の呼出しが適法に行われていない場合には,期日を開くことはできないものとされるところ,この趣旨が,訴訟当事者に対して期日を知らせることにより,期日に出頭して十分な訴訟活動を行う機会を保障することにあると解されることからすると,期日の呼出しは訴訟上重要な意味を有する基本的な手続というほかはなく,訴訟を担当する裁判官が各訴訟当事者に対して適法な期日の呼出状の送達がなされたか否かを確認し,その手続が未了の場合には当該期日を開いてはならないことは当然のことであって,これに反した別件担当裁判官の別件手続上の措置は違法といわざるを得ない。 (2) しかしながら,別件訴訟は,原告であった被控訴人がd刑務所に在監中であり,訴訟代理人も選任されておらず,適法な期日の呼出手続がなされていたとしても,期日における出頭が見込めない事案であった(なお,裁判を受ける権利を保障する憲法32条は,裁判所に出廷して自ら訴訟を追行する権利まで保障するものではなく,受刑者については刑の執行を担う刑務所長の裁量により出廷の許否がなされるもので,出頭の確保は困難な状況にあり,補正後の原判決「事実及び理由」欄の第2の1(12)のとおり,実際,被控訴人は別件訴訟の各期日にも本件訴訟の各期日にも一度も出頭していない。)ところ,同欄の第2の1(5)のとおり,別件担当裁判官は,別件第2回口頭弁論期日におい 欄の第2の1(12)のとおり,実際,被控訴人は別件訴訟の各期日にも本件訴訟の各期日にも一度も出頭していない。)ところ,同欄の第2の1(5)のとおり,別件担当裁判官は,別件第2回口頭弁論期日において,被控訴人が提出していた訴状,準備書面をすべて擬制陳述させた上,その期日外申請にかかる別件被告ら各本人尋問を採用して証拠調べを実施し,不出頭であった被控訴人の主張,立証を訴訟手続上可能な限り取り入れて審理しているということができるのであり,期日の呼出手続が未了であった点を別とすれば,同裁判官の措置に別段非難されるところはないというべきである。また,同裁判官が同口頭弁論期日に即日弁論を終結し,その後判決を言い渡したことについても,被控訴人の続行期日への出頭が見込まれない以上,被控訴人の更なる主張を陳述させることや書証の提出などはできないばかりか,その続行期日に当事者双方が不出頭の場合には訴えの取下げが擬制されることからすると,それ自体に不当な点はない。さらに,期日の呼出手続の確認については,実務上一般に当事者が不出頭の場合に,それが同手続の未了に起因するものではないか懸念されることから,特に注意を要することになるが,別件訴訟においては,上記のように被控訴人について適法な期日の呼出手続がなされていても期日への出頭が見込めない状況にあったことにかんがみると,被控訴人の不出頭が直ちに期日の呼出手続の未了を疑わせる事由になり難い面があったともいえなくはない。なお,被控訴人は,別件担当裁判官がことさら被控訴人の訴訟活動を妨害した旨の主張をするが,それを窺わせるような事情は見当たらない。 (3) してみると,別件担当裁判官の別件手続上の措置は,上記(1)のとおり確かに訴訟手続上違法であり,その内容が基本的かつ重要な手続の瑕疵であることに照らし,違法の せるような事情は見当たらない。 (3) してみると,別件担当裁判官の別件手続上の措置は,上記(1)のとおり確かに訴訟手続上違法であり,その内容が基本的かつ重要な手続の瑕疵であることに照らし,違法の程度も決して軽いものではなく,むしろ重大というべきであるが,上記(2)の事情をも考慮すると,別件手続上の措置について,同裁判官が違法又は不当な目的をもって訴訟手続を行うなど,同裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があるということは困難である。 (4) したがって,別件担当裁判官の別件手続上の措置について,控訴人に国家賠償法1条1項所定の責任を認めることはできない。 3 なお,別件担当裁判官の別件手続上の措置により被控訴人が被ったとする損害についてみても,次の諸点を考慮すると,慰謝料の支払を命じることを相当とする程の実質的な損害が生じたものとは認め難い。 (1) 別件第2回口頭弁論期日について,仮に原告であった被控訴人に対して適法な期日の呼出手続がなされていたとしても,上記2の(2)のとおり被控訴人が同期日に出頭することは困難であったことからすれば,別件訴訟の審理は,被控訴人の不出頭のまま,別件手続上の措置のもとになされた原判決「事実及び理由」欄の第2の1(5)と同様になさざるを得なかったものとも考えられる。この点について,被控訴人は,同期日の呼出しを受けていれば,同期日までに主張の変更等をする機会があった旨指摘するところ,確かに,その場合には予め訴え変更書面や準備書面を提出したり人証等の証拠申出をすることができ,同期日においてその擬制陳述や人証等の証拠申出の採否の判断を受ける機会があったことは否定できないものの,他方,被控訴人自身が出頭しない以上,書証の提出,反対尋問権の行使や被控訴人 をすることができ,同期日においてその擬制陳述や人証等の証拠申出の採否の判断を受ける機会があったことは否定できないものの,他方,被控訴人自身が出頭しない以上,書証の提出,反対尋問権の行使や被控訴人の本人尋問の実施はできず,当該期日のみで被控訴人が有効な訴訟活動を行うことは事実上困難であり,また,次回期日以降に続行しても,被控訴人が出頭できる可能性は極めて低い上,別件訴訟の被告らも不出頭の可能性が高く(乙10),その場合は結果として訴えの取下げが擬制されることによりかえって被控訴人は訴訟活動を行えないことが予想される。そうすると,被控訴人は,そもそも十分な訴訟活動を期待できない状況下で別件訴訟を提起していたものであるところ,期日の呼出手続は基本的かつ重要な手続であって,上記のような事情に照らしても同手続の欠缺が違法であることはいうまでもないが,損害発生の観点からすると,これを欠缺したことによる被控訴人の攻撃防御の機会の逸失は実質的にみてそれ程大きなものとはいい難い。 (2) しかも,補正後の原判決「事実及び理由」欄の第2の1(9)ないし(11)のとおり,被控訴人は,被控訴人の請求を棄却した別件判決について控訴を提起し,別件控訴審が別件手続上の措置の違法を理由に別件判決を取り消して原裁判所に差し戻したことから,改めて差戻審により口頭弁論期日の指定を経た上,適法な期日の呼出手続を受けており,上訴等を含めた別件訴訟手続内で別件手続上の措置に関する違法は是正されている。 (3) もっとも,別件手続上の措置の違法が是正されるまでに別件控訴審及び差戻審の手続を要したことになるが,そもそも裁判は上訴等による是正が予定された制度であること,補正後の原判決「事実及び理由」欄の第2の1(9)のとおり,被控訴人は,別件判決に対する控訴において,判断の脱漏, 続を要したことになるが,そもそも裁判は上訴等による是正が予定された制度であること,補正後の原判決「事実及び理由」欄の第2の1(9)のとおり,被控訴人は,別件判決に対する控訴において,判断の脱漏,事実誤認,審理不尽,別件手続上の措置に関する違法などを理由として本案の判断を求めており,被控訴人が控訴の提起を必要としたのは別件手続上の措置に関する違法の是正だけではないこと,同欄の第2の1(10)によると,別件控訴審において,被控訴人に期日への出頭の見込みがある状況であったならば,引き続き実体審理を行う方法もなかったわけではなく,別件判決が差し戻されたことについては,被控訴人側の事情も考えられること,別件控訴審及び差戻審の手続を要したことについての経済的負担は訴訟費用の問題に帰着するところ,訴訟費用の負担は当該訴訟手続内で確定されるものであり,その結果について国家賠償といった別個の手続でこれと異なる結果をもたらすことは相当ではない上,同欄の第2の1(11)のとおり別件訴訟は訴えの取下げ擬制により終了し,その間の訴訟費用の負担者は未だ確定していないこと,また,その費用のうち別件手続上の措置の違法と相当因果関係のある額は全てを負担するとしても多くとも2万数千円と予測されること(当裁判所に顕著)を勘案すると,別件手続上の措置の違法の是正について,別件控訴審及び差戻審の手続を要したとして,慰謝料を認める根拠とすることは相当でない。 なお,被控訴人が主張するその他の損害についても,その存在自体が認めるに足りないか,または,慰謝料を認める根拠とすることは相当でないものである。 4 その他,被控訴人は,別件訴訟における審理及び別件判決について,憲法14条,82条違反等の違法があるなどとるる主張するが,そのような違法が認められないことは明らかであって でないものである。 4 その他,被控訴人は,別件訴訟における審理及び別件判決について,憲法14条,82条違反等の違法があるなどとるる主張するが,そのような違法が認められないことは明らかであって,いずれも採用できない。 第4 結論以上によれば,被控訴人の請求は理由がなく全部棄却すべきであるから,これを一部認容した原判決はその限度で取消しを免れない。 よって,控訴人の本件控訴に基づき原判決中控訴人敗訴部分を取り消して,被控訴人の請求を棄却し,被控訴人の本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部裁判長裁判官熊田士朗裁判官川添利賢裁判官多見谷寿郎

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