- 1 -平成21年4月10日判決言渡東京簡易裁判所平成20年(少コ)第2812号原状回復費用等請求事件(通常手続移行)判決主文 原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求被告らは,原告ら各自に対し,連帯して30万1751円及びこれに対する平成20年10月25日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2事案の概要 請求原因の要旨( )原告A及び原告B(以下「原告ら」という)は,平成19年10月2 ,。 3日,被告株式会社C(以下「被告会社」という)との間で,東京都新宿。 区a町bc丁目d番e号所在のEビル2階110.25平方メートル(以下「本件建物」という)について,原告らを賃貸人,被告会社を賃借人,被。 告Dを連帯保証人とし,賃料は月額44万1221円(消費税込み,共益)費は月額10万5052円(消費税込み,賃料等は毎月末日限り翌月分を)支払う,保証金は306万8200円との約定で,賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という)を締結した。 。 ( )本件賃貸借契約は,被告会社の平成20年1月11日付け賃貸借契約の 解除届により,同年7月10日に終了した。 ( )被告会社は本件賃貸借契約に基づき,被告Dは連帯保証契約に基づき, - 2 -原告ら各自に対し,連帯して,次の金員の合計336万9951円(遅延損害金を除きいずれも消費税込み)の支払義務を負っている。 ①賃料2か月分相当の償却費(本件賃貸借契約書10条6項)88万2441円②平成20年5月分賃料,管理費及び公共料金等の合計額59万9295円(同年3月分賃料等に対する遅延損害金を含む)。 ③同年6月分賃料,管理費及び公共料金等の合計額59万1944円(同年4月分 ②平成20年5月分賃料,管理費及び公共料金等の合計額59万9295円(同年3月分賃料等に対する遅延損害金を含む)。 ③同年6月分賃料,管理費及び公共料金等の合計額59万1944円(同年4月分賃料等に対する遅延損害金を含む)。 ④同年7月分賃料,管理費及び公共料金の合計額20万5444円⑤原状回復費用(本件賃貸借契約書の特約条項1項)85万8009円⑥同年6月4日から同年7月17日までの公共料金5万1853円⑦同年3月分から同年7月分までの賃料等に対する遅延損害金(本件賃貸借契約書11条)18万0965円( )被告らの上記債務額336万9951円に本件預り保証金306万82 00円を充当すると,被告らの原告らに対する残債務は30万1751円である。 ( )よって,原告ら各自は,被告らに対し,連帯して,30万1751円及 びこれに対する平成20年10月25日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。 争点 ( )本件賃貸借契約における原状回復特約の成否 ( )本件賃貸借契約における保証金の償却特約の効力 争点についての原告ら及び被告らの意見( )原告ら ア争点( )について 本件賃貸借契約における原状回復特約(以下「本件原状回復特約」とい- 3 -。),,,うは本件賃貸借契約書に全額借主負担と明記約定されておりまた国土交通省のガイドラインはオフィスビルには適用されないから,有効に成立している。 イ争点( )について 本件賃貸借契約における保証金の償却特約(以下「本件償却特約」という)は礼金の後払的性質のものであり,経済的合理性がある。 。 ( )被告ら ア争点( )について 本件原状回復特約条項は,被告らが原状回復費用を負担すべき通 特約(以下「本件償却特約」という)は礼金の後払的性質のものであり,経済的合理性がある。 。 ( )被告ら ア争点( )について 本件原状回復特約条項は,被告らが原状回復費用を負担すべき通常損耗の範囲を明白に定めたものとはいえない。 イ争点( )について 本件償却特約に基づく保証金の償却は,通常損耗についての原状回復費用に充当するものとしてのみ許されるものと思慮される。 第3当裁判所の判断 請求原因( )の事実は,当事者間に争いはない。 証拠及び弁論の全趣旨によれば,ア請求原因( )の事実,イ被告らは原告 ら各自に対し,連帯して,請求原因( )の②,③,④,⑥の各債務及び平成2 0年5月分から同年7月10日までの賃料等に対する各弁済期から同日までの遅延損害金6万6053円の債務を負っていること,ウ本件償却特約に基づ(),,く償却費に相当する金額は88万2441円消費税込みであること及びエ原告らが支出した本件建物の原状回復費用は85万8009円(消費税込み)であることが認められる。 争点( )について ( )原告らは,本件建物に被告会社の義務違反ないし故意過失による損耗は 存しないことを認めたうえで,本件原状回復特約に基づいて,本件建物の通常損耗についての原状回復費用を請求するものであると主張する。本件賃貸- 4 -借契約書の特約条項1項は「借主は,本貸室を事業用の事務所として賃借,する為,本契約書第20条に基づく解約明渡時における原状回復工事は,床タイルカーペット貼替,壁クロス貼替,天井クロス貼替及び室内全体クリーニング仕上げ等工事を基本にして借主負担とする」と定める(甲1)が,。 この特約条項は,被告らの原状回復義務の範囲を被告会社の義務違反ないし故意過失に基づく損耗に限定し クロス貼替及び室内全体クリーニング仕上げ等工事を基本にして借主負担とする」と定める(甲1)が,。 この特約条項は,被告らの原状回復義務の範囲を被告会社の義務違反ないし故意過失に基づく損耗に限定していないから,通常損耗を含めて被告らに原。 ,,状回復義務を負わせたものと解せられるそこで本件賃貸借契約において被告らが通常損耗についての原状回復義務を負う旨の特約が締結されたか否かについて検討する。 ア「賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。 そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という)が明確に合意されていることが必要であると解。 するのが相当である(最高裁判所第二小法廷平成17年12月16日判」- 5 -決。 )イ るなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という)が明確に合意されていることが必要であると解。 するのが相当である(最高裁判所第二小法廷平成17年12月16日判」- 5 -決。 )イこれを本件についてみると,本件原状回復特約条項は「原状回復工事,は,床タイルカーペット貼替,壁クロス貼替,天井クロス貼替及び室内全体クリーニング仕上げ等工事を基本にして借主負担とする」と記載する。 のみであり,補修工事の具体的範囲,方法,程度等について何ら定めていないから,被告らが負担することになる通常損耗の範囲が一義的に明白であるとはいえない。また,同条項中の「・・・等工事を基本にして借主負担とする」との文言の意味するところも必ずしも明確とはいえない。し。 たがって,被告らが補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているとは認められない。また,被告らが補修費用を負担することになる通常損耗の範囲について,原告らが口頭で説明し,被告らがその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件賃貸借契約において,被告らが通常損耗についての原状回復義務を負う旨の特約が成立しているとはいえない。 ウ原告らは,本件賃貸借契約はオフィスビルについての契約であり,国土交通省のガイドラインはこれに適用されないから,本件原状回復特約は有効に成立していると主張する。しかし,オフィスビルの賃貸借契約においても,通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,原則として,賃料の支払を受けることによって行われるべきものである。賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせることは賃借人にとって二重の負担になるので,オフィスビルの賃貸借契 の減価の回収は,原則として,賃料の支払を受けることによって行われるべきものである。賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせることは賃借人にとって二重の負担になるので,オフィスビルの賃貸借契約においても,賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるためには,原状回復義務を負うことになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,賃貸人がそのことについて口頭で説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それ- 6 -を合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解すべきであり,このことは居住用の建物の賃貸借契約の場合と異ならないというべきである。したがって,原告らの主張は採用しない。 ( )以上によれば,本件原状回復特約の成立は認められないから,本件原状 回復特約の成立を前提とする通常損耗についての原状回復費用の請求は理由がない。 争点( ) について 本件賃貸借契約書10条6項は「本契約に基づく解約においては,契約終,了後乙が本物件を明渡した日より6カ月経過後直ちに甲は預り保証金額内から解約時賃料の2カ月分を償却費として控除し,返還すべき保証金額からこれらの乙の債務の金額を控除することができる」と定めている。 。 被告らは,本件償却特約は通常損耗についての原状回復費用に充当するものとしてのみ許されると主張する。しかし,保証金についての償却特約は,原告ら主張のように礼金の後払的性質を有するものとしてだけではなく,設備の償却費の一部負担,建設協力費等様々な目的で定められるものであるが,本件償却特約が原状回復費用に充当するものとしてのみ締結されたことを認めるに足りる証拠はない。 ,,,証拠及び弁論の全趣旨によれば被告らは本件償却特約の内容を了承して 定められるものであるが,本件償却特約が原状回復費用に充当するものとしてのみ締結されたことを認めるに足りる証拠はない。 ,,,証拠及び弁論の全趣旨によれば被告らは本件償却特約の内容を了承して本件償却特約が付された本件賃貸借契約を締結したものと認められる。したがって,被告らには,本件賃貸借契約書の償却特約条項に基づき,原告ら各自に対し,連帯して,本件賃貸借契約解約時の賃料の2か月分に相当する88万2441円(消費税込み)の支払義務がある。 以上によれば,原告らは通常損耗についての原状回復費用を請求し得ないのであるから,原状回復費用を除く被告らの前記未払賃料等の債務に本件保証金を充当すると,同未払賃料等の債務は消滅し,なお保証金に残余が生じること- 7 -になる。したがって,本件賃貸借契約に基づく被告らの債務に本件保証金を充当しても被告らの債務は完済されず,なお債務が残るとして残債務の支払を求める原告らの請求は理由がない。 よって,原告らの請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京簡易裁判所民事第9室裁判官石堂和清
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