- 1 -主文原判決を破棄する。 被告人を懲役4年に処する。 原審における未決勾留日数中250日をその刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は検察官見越正秋作成の控訴趣意書提出書添付の検察官松田成作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は弁護人前川哲明(主任)および同大国和江連名作成の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。論旨は「被告人が,①平成17年4月24日午前10時17分,,「」,,ころ広島市a区b町c丁目d番e号甲において情を知らないBを介し釣り具等12点を購入し,その代金4337円を支払うに際し,偽造の日本銀行券(1万円)1枚を真正なもののように装って,同社従業員Cに手交して行使し,②同日午前10時21分ころ,同区b町c丁目d番f号「乙」において,自らまたは情を知らないDを介し,うなぎめし等13点を購入し,その代金4238円を支払うに際し,偽造の日本銀行券(1万円)を真正なもののように装って,同店従業員Eに手交して行使し,③Aと共謀の上,同日午後7時38分ころ,同市g区h町i番j号「丙」株式会社広島駅から同社岡山駅に向けて走,,行中の新幹線のぞみ32号車内において乗車券および指定席特急券を購入しその代金1万8240円を支払うに際し,偽造の日本銀行券(1万円)2枚を真正なもののように装って,同社従業員Fに手交して行使し,④同日午後8時28分ころ,広島市g区k町m丁目n番o号「丁」において,情を知らないDを介し,飲料水等22点を購入し,その代金5936円を支払うに際し,偽造の日本銀行券(1万円)1枚を真正なもののように装って,同店従業員Gに手交して行使し,⑤同月25日午前9時40分ころ,同市(以下省略)日本銀行広島支- 2 -店において,使用することが困難となった日本銀行券の (1万円)1枚を真正なもののように装って,同店従業員Gに手交して行使し,⑤同月25日午前9時40分ころ,同市(以下省略)日本銀行広島支- 2 -店において,使用することが困難となった日本銀行券の引換え名下に,偽造の日本銀行券(1万円)100枚を真正なもののように装って,同支店発券課長Hに手交して行使したものである」という公訴事実に対して,原判決が,被告人が,Aから偽造の日本銀行券(聖徳太子の肖像が印刷された1万円札紙幣。以下「本件紙幣」ともいう)985枚を受け取った際に,これらが偽造通貨であると認識していたことについては合理的な疑いが残り,かつ,その収得後に行使した際の知情性についても合理的な疑いが残るとして,被告人に対し無罪を言い渡したことについて,被告人は,Aから本件紙幣985枚を収得した際,これらが偽造通貨であることを認識していたことは優に認定できるにもかかわらず,被告人に対し無罪を言い渡した原判決は,証拠の取捨選択および評価を誤っており,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。 所論にかんがみ記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討するに,被告人は,Aから本件紙幣985枚を受け取った時点において,本件紙幣が偽札であることを,少なくとも未必的に認識していたことは,優に認めることができ,被告人については偽造通貨行使罪が成立するから,同罪の成立を否定し,収得後知情行使罪にも当たらないとして,被告人を無罪とした原判決の判断は是認することができない。その理由は,以下に説示するとおりである。 原審で取り調べた関係証拠によれば,原判決の「第3争点に対する判断の前提となる認定事実」の項の1ないし12の各事実が認められる。そして,偽造通貨行使罪の成否を検討するに当たり,被告人が,Aから本件紙幣を受領 り調べた関係証拠によれば,原判決の「第3争点に対する判断の前提となる認定事実」の項の1ないし12の各事実が認められる。そして,偽造通貨行使罪の成否を検討するに当たり,被告人が,Aから本件紙幣を受領した前後の状況は,重要な前提事実であるところ,原審の上記認定事実と関係証拠とを総合すると,この点について,要旨以下の事実が認められる(以- 3 -下,かっこ内の甲乙を付した数字は原審検察官請求証拠の標目番号,弁を付した数字は原審弁護人請求証拠の標目番号である)。 被告人は,平成17年4月22日午後10時ころ,被告人の長男であるTの運転するワゴン車で,AおよびDとともに,Aの宿泊先のホテルに向かう途中ファミリーレストランに立ち寄った。その店内で,Aは,本件紙幣が入ったアタッシュケースを膝の上に乗せ,これを全開して中身を被告人に見せた。被告人らは,同店を出た後,駐車場に止めていた上記ワゴン車に乗り込んだ。Aは,同車の発進前,アタッシュケースを膝に置いて,そのチャックを開け,隣りの席に座っている被告人に対し,その中に入っている本件紙幣995枚を見せた。被告人は,Aに対し,東京で5万円を抜き取った札束がどれかを尋ね,同人の報酬分として,その札束から10万円を抜くように言った。Aがこれを抜き取ろうとすると,被告人は,1枚見せてほしいと言って,Aから本件紙幣1枚を受け取り,手に持って上の方にかざした後「は,い母さん,これだよ」と言って,助手席のDに渡した。Dは「私が昔収集,してたのと同じじゃないの,ああ懐かしいわね」と言って,これを運転席のTに渡し,Tは「ああ,そうですね」と答えた。Aは,被告人に対し,本件紙幣を束ねている帯封について,日銀の帯封はこのようなものであったかを,「,」。 ,尋ねると被告人はうんそうだったかなあと曖昧 「ああ,そうですね」と答えた。Aは,被告人に対し,本件紙幣を束ねている帯封について,日銀の帯封はこのようなものであったかを,「,」。 ,尋ねると被告人はうんそうだったかなあと曖昧な返事をしたAは本件紙幣985枚をアタッシュケースから紙袋に詰め直したところ,その作業の最中,被告人は,Aが本件紙幣15枚を抜いた札束の帯封にボールペンで丸い印をつけた。そして,被告人は,Aから,本件紙幣985枚を入れた紙袋を受け取り,同人の宿泊先のホテル到着後,その紙袋ごとボストンバッグに入れ,同人と別れて自宅に戻った。そして,被告人は,紙袋から本件紙幣を取り出し,本件紙幣を改めて確認するとともに,85枚の束の帯封をは- 4 -ずし,輪ゴムで止めて保管した。 なお,被告人は,原審および当審各公判で,上記ファミリーレストランの駐車場のワゴン車内において,本件紙幣を透かして見たりDに手渡したりしたことはない旨供述している。 しかし,Aは,原審公判で,ワゴン車内の状況について,上記認定に沿う供述をしているところ,Aは,被告人が代表者を務める戊の取締役論説委員の肩書で活動していた者であり,被告人について,誠実な人物であり尊敬しており「先生」と呼んでいた旨供述していること,Aは,起訴状記載の公,訴事実第3の偽造通貨行使の共犯者とされているものの,被告人に罪をなすりつけようという供述態度は窺われないことに照らすと,Aが,敢えて虚偽の事実を述べてまで被告人に不利な供述をするとは考え難い。また,その供述内容は,具体的かつ詳細で,反対尋問にも動揺がない。しかも,Aは,原審公判で,自らの証言によって,自分の罪にもなり相手の罪にもなるという怖さがあることを自覚し,非常に慎重に供述しており,公判ではっきりした形で供述している事柄は,自信を持って言える部分で ,Aは,原審公判で,自らの証言によって,自分の罪にもなり相手の罪にもなるという怖さがあることを自覚し,非常に慎重に供述しており,公判ではっきりした形で供述している事柄は,自信を持って言える部分であるという趣旨の供述をしている。そして,Dの警察官調書には,ワゴン車内での状況について,Aの原審公判供述と符合する供述が記載されている。以上を総合すると,ワゴン車内の状況に関するAの原審公判供述は,十分に信用することができるというべきである。 また,被告人は,原審および当審各公判で,Aをホテルに送って自宅に戻った後,洋服を入れる部屋に本件紙幣をバッグごと保管したところ,その際に中身を確認したということはない旨供述している。 しかし,後述のとおり,被告人が,本件紙幣を預金口座に振り込んでほしいというMからの依頼について,本件紙幣がひょっとすると偽札であるかも- 5 -しれないという漠然とした不安を感じていたというのであるから,自宅に戻,。 った後本件紙幣が偽札であるか否かを確認しないというのは不自然であるまた,被告人の同年5月16日付け警察官調書(乙21)には「自宅に戻ってから,私は再度,紙幣を確認したのです」という供述が記載され,被告人の同年4月26日付け警察官調書(乙17)にも「旧一万円札985枚を自宅に持ち帰った後,私はこの大げさな帯封を全て取り外し,100枚を一つの束にして輪ゴムで留めました」と,本件紙幣を確認する機会があったことを窺わせる供述が記載されている。しかも,被告人の捜査段階の供述調書中には,これらの供述を否定するような記載は見当たらない。そして,被告人は,捜査段階において,弁護人から「被疑者ノート」(弁1,2)を差し入れられ,取調べの都度,そのときの取調べ内容や状況,作成された供述調書の問題点などを,そのノートに記載し たらない。そして,被告人は,捜査段階において,弁護人から「被疑者ノート」(弁1,2)を差し入れられ,取調べの都度,そのときの取調べ内容や状況,作成された供述調書の問題点などを,そのノートに記載していたところ「被疑者ノート」の同年4月26,日および同年5月16日の各欄にも,それ以外の日の欄にも,自宅に戻った後で本件紙幣を確認した旨供述調書に記載されたことに対する不満は,一切記載されていない。以上を総合すると,被告人の警察官調書中,自宅に戻った後本件紙幣を確認した旨の供述を記載した部分は,十分に信用することができるというべきであり,これを否定する被告人の原審および当審各公判供述は,たやすく信用することができない。 なお,原判決は,被告人が,Aから本件紙幣を受け取った後,自宅において,帯封をはずしたり,本件紙幣3枚を被告人の妻に手渡した以外に本件紙幣に触れたことを窺わせる証拠はない旨説示する。しかし,この説示は,被告人が,本件紙幣が偽札であるかもしれないという漠然とした不安を感じていたことを看過し,かつ,関係証拠によれば「AL168816D」ない,し「AL168900D」の連番で印刷された本件紙幣85枚の札束のうち- 6 -「AL168816D「AL168818D「AL168820D」の」」番号が印刷された3枚が,被告人の妻Dに渡されて広島市内で代金支払の際に行使されたことが認められ,原判決が説示する以外には本件紙幣に触れていないというのに,この3枚の紙幣が連番になっていないのはいささか不自然であることを軽視して,信用できない被告人の原審公判供述を前提とした説示であり,首肯することができない。 ところで,原判決は,以下の諸点を指摘して,被告人が,本件紙幣をAから受領した時点で,本件紙幣が偽札であると認識した旨認定するには合理 審公判供述を前提とした説示であり,首肯することができない。 ところで,原判決は,以下の諸点を指摘して,被告人が,本件紙幣をAから受領した時点で,本件紙幣が偽札であると認識した旨認定するには合理的に見て大いに疑問が残るとして,偽造通貨行使罪の成立を否定している。 (1)被告人が,30万円程度の報酬で,大量の偽札の換金という,発覚する危険が少なくなく,発覚すれば重い処罰が予想される役割を担ったと認めるには,かなりの疑問が残る。 (2)被告人は,Aに対し,Mから受け取った本件紙幣を確認するように指示した時点では,Mに対する漠然とした不安のようなものを抱いていたに過ぎず,それは本件紙幣が偽札であるという未必的な認識とまでいえるものではない。 (3)本件紙幣は,それなりに精巧な印刷がなされ,透かしもあり,番号も連番であり,肉眼で一見して偽札と見破ることができるような特徴はないことなどに照らすと,夜間,車内灯をつけていない自動車内において,本件紙幣を見たり手に取ったりした際に,偽札と見抜けなかったとしても,一概に不自然とはいい難い。 (4)被告人が,本件紙幣が偽札であるという認識を有していたとすれば,一般には紙幣の真偽を見分ける最高度の能力を持つと考えられる日本銀行(以下「日銀」ともいう)の支店に,偽札を無造作に持ち込むことは考え難- 7 -く,仮に偽札であるとの未必的な認識を有していたとすると,新幹線の車内でAが職務質問を受けて,被告人の偽札所持が警察に発覚しそうな状況,。 であると認識したはずであることに照らすと極めて不合理な行動である しかし,被告人は,ワゴン車内で本件紙幣をAから受領した時点では,少なくとも,本件紙幣が偽札かもしれないということを未必的に認識したというべきであり,自宅に戻って本件紙幣を確認した時点では,こ しかし,被告人は,ワゴン車内で本件紙幣をAから受領した時点では,少なくとも,本件紙幣が偽札かもしれないということを未必的に認識したというべきであり,自宅に戻って本件紙幣を確認した時点では,これが偽札であると認識したと認めるのが相当であって,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は以下のとおりである。 (1)原判決も説示するように,被告人は,Aから本件紙幣を受領するまでの間,本件紙幣が偽札であることを未必的にせよ認識していたとは認められない。 しかし,原判決が説示する,被告人がMに対して抱いていた「漠然とした不安のようなもの」の中には,本件紙幣がひょっとすると偽札なのでは。 ,ないかという漠然とした不安も含まれていたというべきであるすなわち1の認定事実と関係証拠とを合わせると,被告人は,平成16年夏ころ,Mから,その知人がガーナ人から譲り受けた莫大な資産を日本に移動する計画を持ちかけられ,これに応じて合計150万円を支出したものの,同年12月ころ,Mから,上記知人が殺害され,資産の所有権移転証明書が偽物であったため,計画が頓挫したことや,同人の兄が,生命保険金で上記150万円を返済すると言っている旨の説明を受けたにもかかわらず,なかなか返済を受けられないでいたこと(以下「ガーナの件」という),被告人は,それから間もない時期に,Mから,アメリカの老人が,日本企業,,に投資するため蓄財していた本件紙幣2000枚を沖縄に持ち込むので報酬30万円を支払うから,これをM名義の預金口座に振り込んでほしい- 8 -と依頼されたこと(以下「Mの依頼」という),被告人は,Mに対し本件紙,,幣を自分で口座入金すればよいのではないかと何度か言ったもののMは被告人に引き受けてもらいたいとして,これに応じなかったことが認められ と(以下「Mの依頼」という),被告人は,Mに対し本件紙,,幣を自分で口座入金すればよいのではないかと何度か言ったもののMは被告人に引き受けてもらいたいとして,これに応じなかったことが認められる。聖徳太子の肖像図柄の旧札とはいえ,本件紙幣が真札であったとすると,M名義の預金口座に入金することに特段の危険を伴うということは通常は考え難く,Mが自ら行えばよいのであって,本件紙幣を表に出すことのできない事情があったとしても,30万円もの報酬を支払ってまで,これを他人に依頼するということ自体,相当にうさんくさい話であって,被告人の原審公判供述および被告人とTとの間で交わされたメールの内容からも,被告人が,Mの依頼について,まゆつばであるなどとして不安を。 ,,抱いていたことが認められるそして上記の一連の経過にかんがみると被告人としては,Mが本件紙幣の口座入金を自分でやりたがらないのは,本件紙幣が偽札であるからではないかという不安を抱くのが自然な状況である。そうすると,被告人が,Mに対しガーナの件で150万円貸しがあり,30万円の報酬は,その埋め合わせの趣旨もあると考えた旨供述していることを考慮しても,被告人が,Mの依頼を引き受けた時点で,本件紙幣がひょっとすると偽札なのではないかという漠然とした不安すら感じなかったとは,到底考えられない。被告人の平成17年4月25日付け警察官調書(乙16)には,同月22日午後3時ころ,日本銀行に電話をかけて,本件紙幣の鑑定を依頼をしたのは,日本銀行でお金を見てもらった方がいい,悪いお金であると私も悪者になってしまうなどという気持ちを抱いていたからである旨記載されているところ,この供述は,被告人が,本件紙幣が真札であると確信できず,偽札かもしれないという不安を抱いていたことを前提とする供述であり,同 てしまうなどという気持ちを抱いていたからである旨記載されているところ,この供述は,被告人が,本件紙幣が真札であると確信できず,偽札かもしれないという不安を抱いていたことを前提とする供述であり,同警察官調書は,被告人が,日銀に持ち込- 9 -んだ本件紙幣100枚が偽札であることが発覚した当日,警察による任意の事情聴取に応じて作成されたものであることに照らすと,被告人が,本件紙幣の鑑定依頼をしたなどの外形的事実についてはともかく,上記のような不安を抱いていたこと自体は,否定し難いというべきである。 なお,検察官は,本件紙幣を密輸入し,沖縄から東京に運んで,わざわざ30万円という報酬を支払って被告人に銀行口座への入金を依頼すると,,いう計画自体からいわゆる資金洗浄であるとは常識的に到底考えられず偽札を真貨に交換する偽造洗浄であることは明白である旨主張しているところ,たしかに,計画自体が相当にうさんくさいものであることは否定できないものの,被告人が,本件紙幣を1度も見ていない時点で,計画自体から偽造洗浄であることが明白であるとまでいえるのかは疑問であり,賛同することはできない。 (2)そして,1および3(1)の認定事実に加え,本件紙幣の形状・手触り,本件帯封の形状,被告人が,聖徳太子の肖像図柄の1万円札に慣れ親しんだ世代である上,長年経済活動に従事していたこと,起訴状記載の公訴事実第3の偽造通貨行使の共犯者とされているAは,本件紙幣を触るなどして,偽札かもしれないと感じていたことなど,以下に説示する点を総合すると,被告人は,本件紙幣がひょっとすると偽札なのではないかという漠然とした不安感を抱いた状態で,ワゴン車内で本件紙幣を手に取って上にかざしてみたり,自宅に戻ってから本件紙幣を確認したのであるから,むしろ,Mの説明を信用して本件 とすると偽札なのではないかという漠然とした不安感を抱いた状態で,ワゴン車内で本件紙幣を手に取って上にかざしてみたり,自宅に戻ってから本件紙幣を確認したのであるから,むしろ,Mの説明を信用して本件紙幣が偽札かもしれないという疑いすら全く持たなかったという方が,余りにも不自然であり,被告人が,本件紙幣をAから受領し,本件紙幣を手に取った時点において,少なくとも,本件紙幣が偽札かもしれないということを未必的に認識したと推認するのが合- 10 -理的である。 ア関係証拠によれば,本件紙幣は,昭和33年に発行が開始され,昭和61年に支払が停止された聖徳太子の肖像図柄の印刷された旧1万円札。 ,を偽造したものであることが認められる本件紙幣を手に取ってみると現在流通している紙幣に比べて,やや厚みがあるように感じられ,手触りに違和感があるほか,紙質もごわごわした感触がある。特に,札束のように,本件紙幣を複数枚重ねた場合,ごわごわした紙質が顕著に感じ,,。 ,られ全体としてしなやかさを欠いており相当に違和感があるまた本件紙幣の印刷は,それなりに精巧なものであるが,全体的に画質が荒く,やや鮮明さに欠けている印象を受ける。なお,本件紙幣は,インクジェット方式のプリンタで作成されたものと推定される。 イ関係証拠によれば,被告人が,本件紙幣をAから受け取った際,本件紙幣は,100枚ごとに帯封(以下「本件帯封」という)で束ねられ,100枚の束が9束と85枚の束が1束あったところ,本件帯封は,その表面および裏面の上部および下部に植物様の模様が,その表面の左側に聖徳太子の肖像がそれぞれ描かれており,その表面の中央には,上から順に「NIPPONGINKO「壱万円「1000000YEN」」」と横書きで縦3列に印刷されているほか,その裏面には「発 の左側に聖徳太子の肖像がそれぞれ描かれており,その表面の中央には,上から順に「NIPPONGINKO「壱万円「1000000YEN」」」と横書きで縦3列に印刷されているほか,その裏面には「発券局長」などと刻された印が押されていることが認められる。本件帯封の体裁は,通常使用されている帯封とは形状,色彩が全く異っていることが,一見して分かるものである。 ウ関係証拠によれば,被告人は,昭和11年10月29日に生まれ,大,,学中退後被告人の父親が創業した戊で記者として勤務するようになり同人の死後,同社の代表者に就任し,政治経済に関する雑誌等を発刊す- 11 -るなどしてきたほか,複数の会社を設立し,ホテル経営も行うなどの経済活動をしてきたことが認められる。そして,3(2)アによれば,聖徳太子の肖像図柄の旧1万円札は,まさに被告人が,大学中退後に社会人になって間もないころから活発に経済活動を続けている間に28年間流通していたものであり,被告人は,聖徳太子の肖像図柄の旧1万円札に慣れ親しんだ世代というべきである。 エさらに,起訴状記載の公訴事実第3の偽造通貨行使の共犯者とされているAは,原審公判で,Mから本件紙幣を受け取った後,被告人の求めに応じ,トイレの個室に入って本件紙幣を確認した際,本件紙幣を1枚抜いて触ってみたところ,手触りにちょっと厚みがあり,少し違和感があったため,偽札ではないかと思ったものの,上にかざすと透かしがあり,札束は連番になっており,被告人から依頼された話であるので,本物に間違いないであろうと思った,しかし,最後まで,本件紙幣が偽札かもしれないとも思っていたという趣旨の供述をしている。Aも,昭和24年6月17日生で,やはり聖徳太子の肖像図柄の旧1万円札に慣れ親しんだ世代であるところ,Mの依頼内容を知らされ で,本件紙幣が偽札かもしれないとも思っていたという趣旨の供述をしている。Aも,昭和24年6月17日生で,やはり聖徳太子の肖像図柄の旧1万円札に慣れ親しんだ世代であるところ,Mの依頼内容を知らされていないAでさえも,本件紙幣を触るなどして,偽札かもしれないと思ったというのである。まして,被告人は,本件紙幣がひょっとすると偽札なのではないかという漠然とした不安を感じた状態で,本件紙幣を触るなどしたのであるから,本件紙幣の形状・手触り等に照らすと,これが偽札かもしれないと認識しなかったとは考え難い。 オそして,被告人が本件紙幣をAから受領した時点の認識ではないものの,Aが職務質問を受けるなどした時点では,本件紙幣が偽札であるということを認識していたことが窺われる。すなわち,Aが,東京駅行き- 12 -の新幹線車内で乗車券等の購入代金を支払う際に本件紙幣2枚を使用した後,警察官2名から職務質問を受けた際の状況,職務質問の様子を被告人に連絡した状況,職務質問後,被告人とTとの間で交わされたメー,「」ルの内容等は原判決が第3争点に対する判断の前提となる認定事実,,の項の9ないし11で認定説示するとおりであるほか関係証拠によれば職務質問をした警察官らは,Aに対し,何かあったら連絡すると言って引き上げたこと,Aは,職務質問後,すぐに被告人に対し状況を伝えていること,被告人およびAは,職務質問の前後ころから,互いに携帯電話で何度も連絡を取り合おうとし,最終的に,Aが横浜市内の自宅に戻った後,合計約27分間通話したことが認められる。 そして,これらの一連の経過および被告人とTとの間で交わされたメールの内容等に照らすと,Aが電車で移動中であるため,電話がつながり難かったことを考慮しても,被告人が,本件紙幣に関する上記職務質問に高い関心を れらの一連の経過および被告人とTとの間で交わされたメールの内容等に照らすと,Aが電車で移動中であるため,電話がつながり難かったことを考慮しても,被告人が,本件紙幣に関する上記職務質問に高い関心を有していたことが窺われ,被告人がTに送信した「岡山の公安がはなしを-で分からないから申し訳なかったと引き下がったそうです。政財界の名刺をだしたそうです。さて,本物ですが話は合わさないとね」というメールは,本件紙幣は本物であるという口裏合わせをしたことを疑わせるものである。 ところで,被告人は「本物ですが話は合わさないとね」の意味につ,いて,その平成17年7月4日付け検察官調書(乙35)には「なぜ,このようなメールを打ったかは忘れてしまっており,全く分かりません」という供述が記載されているのに,原審公判では,Aに対してMの依頼内容を伝えていないので,適当に話をされると困るという意味である旨供述し,当審公判では,Aは政財界通信社の社員ではないものの,同人が- 13 -警察官に渡した名刺は本物であるという趣旨である旨供述している。もっとも「被疑者ノート」の平成17年7月4日の欄には,上記供述に,関し「入手した経路(Mからの依頼)が違うといけないの意味だったが,敢(え)て言わなかった」と記載されている。 しかし,本件紙幣が本物であるという口裏合わせをしたと疑われているメールについて,積極的に説明しようとせず,納得のいく説明をしないで供述を変遷させていること自体,不自然である。しかも,当審公判でした「本物」とは名刺に関することである旨の説明は,被告人の供述。 ,,調書および原審公判供述中には見当たらない原判決は後述のとおり「本物」という言葉は名刺について言及したものと解した方が前後の脈絡を通すことができるともいえる旨説示しているところ,この 述。 ,,調書および原審公判供述中には見当たらない原判決は後述のとおり「本物」という言葉は名刺について言及したものと解した方が前後の脈絡を通すことができるともいえる旨説示しているところ,この説示を受け,被告人が,当審公判で,供述を変遷させた疑いもある。また,原審公判での説明は,Aに対してMの依頼内容を伝えていないので,適当に話をされると困るという意味であるというのであるところ「本物です,」,,がの対象がMの依頼内容を指しているとは考えられない上被告人は上記メールの約1時間後に合計約27分間もAと通話しているにもかかわらず,同人に対し,Mの依頼内容を説明したり口裏合わせをした形跡がなく,その後も,Aとの間でそのようなことをした形跡がないことに照らすと,本物ですが云々というメールに関する被告人の説明は到底信用することができない。 そして,本件紙幣が本物であると口裏合わせをしたと疑われるメールについて,被告人が到底信用できない説明をし,その説明内容が不自然に変遷していることにかんがみると,上記メールは,本件紙幣が本物であるという口裏合わせを依頼した趣旨であったと推認するのが合理的で- 14 -ある。 ,,,,なお上記メールを受け取ったTは原審公判で同メールについて名刺が本物であるということか,お札は間違いないんだということか,どちらかの意味であると受け取った旨供述している。 以上認定説示したところに照らすと,被告人は,Aが職務質問を受けるなどした時点において,本件紙幣が偽札であることを認識していたことが優に認められる。 なお,原判決は,前述のとおり,Tに送ったメールについて,合わせるべき話がどのような内容か明らかでない上「本物」が本件紙幣のこ,とを意味すると断定し難く,むしろその直前にある名刺について言及し なお,原判決は,前述のとおり,Tに送ったメールについて,合わせるべき話がどのような内容か明らかでない上「本物」が本件紙幣のこ,とを意味すると断定し難く,むしろその直前にある名刺について言及したと解する方が前後の文脈を通すことができるともいえるから,同メールをもって,本件紙幣が偽札であると被告人が認識していたとは即断し難い旨説示している。 しかし,被告人は,捜査段階および原審公判において「本物」の対,象が名刺のことである旨供述した形跡はなく,却って別の説明をしていたものである上「被疑者ノート」の記載に照らしても,被告人が「本,,物」の対象が名刺のことであると認識していたとは考えられないのであって,原判決は,被告人が想定していなかったことについて,被告人がそのように考えていた可能性があると説示するものであり,賛同することはできない。 ,,,(3)原判決は①Aが本件紙幣をMから受け取った直後Aに確認をさせ同人から偽札ではない旨の報告を受けていたことからすると,Mや本件紙幣についてのいかがわしさの認識や,偽札をつかまされるのではないかという不安が薄れていたとも考えられ,偽札と気づかなかったという被告人- 15 -の弁解を合理的な疑いをぬぐい去るまでに排斥することは困難である,②夜間,車内灯をつけていない自動車内において,本件紙幣を見たり手に取ったりしたからといって,その際に偽札と見抜けなかったとしても一概に不自然とはいい難い,③「甲」および「乙」の各店長が気づかなかったように,本件紙幣を手に取れば偽札であると気づくとは,一概に決めつけることができない,④被告人が,偽札ではないかという疑いを強く有していたのであれば,Aから職務質問を受けた旨連絡があった後に,さらに種々の質問,確認等があったはずであるのに,そのような形 に決めつけることができない,④被告人が,偽札ではないかという疑いを強く有していたのであれば,Aから職務質問を受けた旨連絡があった後に,さらに種々の質問,確認等があったはずであるのに,そのような形跡は窺われない旨説示している。 しかし,③の点については「甲」および「乙」の各店長は,まさか偽,札が使用されるとは考えていなかったのであるから,本件紙幣はひょっとすると偽札ではないかという漠然とした不安を感じていた被告人と同列に論じることはできない。また,①②の点については,そのような不安を感,,じていた被告人が詳しい事情を知らないAの報告を聞いたからといってただちにそのような不安が薄れたとは考え難い。むしろ,そのような不安を抱いたまま,本件紙幣を触るなどして偽札であるか否かを確認しようとすれば,原判決の指摘する点を考慮に入れても,ワゴン車内で本件紙幣を手に取って確認した時点で,更にその不安を強めて本件紙幣が偽札かもし,,れないと認識し遅くとも自宅に戻ってから本件紙幣を確認した時点では本件紙幣が偽札であると認識したことは,優に認めることができるというべきである。①②③の点には賛同し難い。 また,④の点については,Aが走行中の新幹線の列車内にいたのであるから,同人と電話で話をする場合,長時間の通話をするには必ずしも適さないところ,捜査状況報告書(甲108)によれば,それでも,被告人は,大- 16 -阪を通過しているAと3分間以上話をし,その約3時間後には,被告人とAとの間で,27分以上も電話で話をしていることが認められることに照らすと,これらの電話の際に,職務質問されたときの状況等についてさらに種々の質問等がされたと推認することができる。④の点についても賛同できない。 以上認定の事実を前提に,偽造通貨行使罪の成否について検討す れらの電話の際に,職務質問されたときの状況等についてさらに種々の質問等がされたと推認することができる。④の点についても賛同できない。 以上認定の事実を前提に,偽造通貨行使罪の成否について検討する。 (1)既に説示したとおり,被告人は,ワゴン車内でAから本件紙幣を受領し,これを手に取って確認した時点で,本件紙幣が偽札かもしれないと未必的に認識し,自宅に戻って本件紙幣を確認した時点では,本件紙幣が偽札である旨認識したのであるから,本件紙幣の収得時に,少なくとも,これが偽造通貨であることの未必的認識を有していたと評価するのが相当である。そして,1の認定事実(原判決の認定事実を含む)に加え,関係証拠によれば,起訴状記載の公訴事実第3に関し,Aは,本件紙幣を広島に運ぶに当たり,被告人の了承を得て,本件紙幣1000枚の中から5枚を交通費として抜き取り,そのうちの2枚を帰りの新幹線の乗車券等の購入代金を支払う際に使用したことが認められるところ,これらの事実を総合すると,被告人が,本件偽造通貨行使の罪責を負うことは,優に認めることができる。 なお,起訴状記載の公訴事実第3の偽造通貨行使について,被告人とAとの共謀の成否に関し,既に説示したところによれば,被告人は,本件紙幣が偽造通貨であることを認識した後も,交通費としてAに渡していた本件紙幣3枚について,同人が帰りの新幹線料金等の支払に使う可能性があ,,ることを十分認識しながらこれを回収するなどしなかったのであるからAとの間で,少なくとも,本件紙幣を新幹線料金等を支払う際に使用する- 17 -ことについて黙示の共謀が成立したというべきである。 (2)原判決は,被告人が,大量の偽札の換金という,発覚する危険が少なくなく,発覚すれば重い処罰が予想される役割を30万円程度の報酬で担ったと認め とについて黙示の共謀が成立したというべきである。 (2)原判決は,被告人が,大量の偽札の換金という,発覚する危険が少なくなく,発覚すれば重い処罰が予想される役割を30万円程度の報酬で担ったと認めるには,かなりの疑問が残る旨説示している。 しかし,被告人は,本件紙幣が真札であるという前提でMの依頼を引き受け,本件紙幣をAから受領した際に初めて,本件紙幣が偽札かもしれな,,いという未必的認識を有するに至ったのであるから原判決の上記説示は前提がやや不正確である。また,被告人の警察官調書(乙15)には,被告人が,いわゆるバブル経済の崩壊により多額の借金を抱え,広島市内の自宅が競売にかけられ,暴力団も押しかけてくるようになり,家族とともに東京都内で身を隠す生活をしていた際,何かとMに助けてもらった恩があったことから,Mの依頼を引き受けてしまった旨記載されており,その供述の信用性に疑いを抱かせるような事情は窺えない。さらに,関係証拠によれば,被告人は,バブル経済の崩壊後,多額の借金の返済に窮し,複数の,,,所有不動産が競売により売却されたものの多額の債務が残り本件当時生活保護を受けながら,知人から借金をして細々と生活しており,経済的に相当困窮していたことが認められることにかんがみると,30万円という報酬は,被告人にとってそれなりの金額であったということができる。 これらを総合すると,被告人が,30万円の報酬でMの依頼を引き受けたことは,不自然とはいえない。原判決が指摘する点を考慮しても,被告人が,本件各偽造通貨行使を犯したとの認定は揺るがない。 ,,,,また原判決は被告人が偽札であるとの認識を有していたとすれば一般には札の真偽を見分ける最高度の能力を持つと考えられる日銀の支店に偽札を無造作に持ち込むことは考え難く,Aが職務質問 ,,,,また原判決は被告人が偽札であるとの認識を有していたとすれば一般には札の真偽を見分ける最高度の能力を持つと考えられる日銀の支店に偽札を無造作に持ち込むことは考え難く,Aが職務質問を受けたことか- 18 -ら,被告人の偽札所持が警察に発覚しそうな状況であると認識したはずであることに照らすと,極めて不合理な行動である旨説示する。 たしかに,原判決が説示するように,本件紙幣が偽札であると認識しながら,これを日銀の支店に持ち込むことは,通常考え難い。しかし,被告人が,当時置かれていた状況にかんがみると,本件紙幣が偽札であると認識しながら,これを日銀の支店に持ち込むことも,十分に考えられるというべきである。すなわち,Aは,新幹線の乗車券等の代金を支払う際に本件紙幣を2枚使用し,警察官から職務質問を受けた際,警察官に対し,政財界通信社の取締役という肩書のある自己の名刺を渡し,被告人から本件紙幣を受け取ったと説明したほか,Aおよび被告人の会社の連絡先を伝えており,しかも,その時点では,既に本件紙幣3枚が買い物で使用されていたのであるから,被告人としては,早晩,被告人自身に捜査の手が及ぶことは避けられない状況であり,そうなった場合,本件紙幣の形状・手触り等に照らすと,本件紙幣が偽札であると疑いもしなかったと言い逃れすることは難しいと考えたとしても不思議ではない。そして,被告人が,一か八か本件紙幣を日銀の支店に持ち込み,現行の1万円札と交換できれば何の問題もないし,本件紙幣が偽札であると指摘されたとしても,偽札と知って日銀に持ち込むはずがない,あるいは偽札と疑っていなかったから日銀に持ち込んだなどという弁解が可能であると考えて,本件紙幣を日銀の支店に持ち込んだということは,十分に考えられるというべきである。 したがって,原判決が指 ない,あるいは偽札と疑っていなかったから日銀に持ち込んだなどという弁解が可能であると考えて,本件紙幣を日銀の支店に持ち込んだということは,十分に考えられるというべきである。 したがって,原判決が指摘する点を考慮しても,本件各偽造通貨行使の認定は揺るがない。 (3)そのほか,原判決および弁護人が種々指摘するところを検討しても,被告人について偽造通貨行使罪が成立するという認定は左右されない。 - 19 - 以上のとおり,被告人については偽造通貨行使罪が成立するから,同罪の成立を否定するなどして被告人を無罪とした原判決は,事実を誤認したもの,。 。 でありこれが判決に影響を及ぼすことは明らかである論旨は理由があるよって,刑事訴訟法397条1項,382条により原判決を破棄することとし,同法400条ただし書に従い当裁判所においてさらに判決する。 (罪となるべき事実)被告人は,第1平成17年4月24日午前10時17分ころ,広島市a区b町c丁目d番e号「甲」において,情を知らないBを介し,釣り具等12点を購入し,その代金4337円を支払うに際し,偽造の日本銀行券(1万円札)1枚を真正なもののように装って,同社従業員Cに手交して行使し第2同日午前10時21分ころ,同区b町c丁目d番f号「乙」において,情を知らないDを介し,うなぎめし等13点を購入し,その代金4238円,,を支払うに際し偽造の日本銀行券(1万円札)を真正なもののように装って同店従業員Eに手交して行使し第3Aと共謀の上,同日午後7時38分ころ,同市g区h町i番j号「丙」株式会社広島駅から岡山市v町w番x号同社岡山駅に向けて走行中の新幹線のぞみ32号車内において,乗車券および指定席特急券を購入し,その代金1万8240円を支払うに際し,偽造の日本銀行券(1万円札)2枚を真 社広島駅から岡山市v町w番x号同社岡山駅に向けて走行中の新幹線のぞみ32号車内において,乗車券および指定席特急券を購入し,その代金1万8240円を支払うに際し,偽造の日本銀行券(1万円札)2枚を真正なもののように装って,同社従業員Fに手交して行使し第4同日午後8時28分ころ,広島市g区k町m丁目n番o号「丁」において,情を知らないDを介し,飲料水等22点を購入し,その代金5936円を支払うに際し,偽造の日本銀行券(1万円札)1枚を真正なもののように装って,同店従業員Gに手交して行使し- 20 -第5同月25日午前9時40分ころ,同市(以下省略)日本銀行広島支店において,使用することが困難となった日本銀行券の引換え名下に,偽造の日本銀行券(1万円札)100枚を真正なもののように装って,同支店発券課長Hに手交して行使したものである。 (証拠の標目)省略(法令の適用)被告人の判示各所為はいずれも刑法148条2項,1項(判示第3の所為については更に刑法60条)に該当するところ,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い判示第5の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中250日をその刑に算入し,原審における訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,①情を知らない被告人の妻や二男を介して,3回にわたり,商店で物品の購入代金を支払うに当たり,偽造の日本銀行券(聖徳太子の肖像図柄の1万円札)合計3枚を商店の従業員らに手交して行使し(判示第1,第2,第4),②共犯者と共謀の上,新幹線の乗車券等の購入代金を支払うに当たり,同様の偽造の日本銀行券2枚を車掌に手交して行 肖像図柄の1万円札)合計3枚を商店の従業員らに手交して行使し(判示第1,第2,第4),②共犯者と共謀の上,新幹線の乗車券等の購入代金を支払うに当たり,同様の偽造の日本銀行券2枚を車掌に手交して行使し(同第3),③日本銀行広島支店において,同様の偽造の日本銀行券100枚を同支店発券課長に手交して行使した(同第5)という事案である。 本件の経緯は,以下のとおりである。すなわち,複数の台湾人および日本人- 21 -が,共謀して,偽造の1万円札2000枚を台湾から本邦に密輸入し,これを銀行口座に振り込む方法により真札に交換することを企て,そのうちの被告人の知人が,情を知らない被告人をして本件紙幣の銀行口座への振込みをさせようと考え,上記計画を秘したまま,30万円の報酬を約束して,その旨被告人に依頼した。これを引き受けた被告人は,本件紙幣が偽造であると知らされていなかったものの,本件紙幣985枚を現に受領する際,これが偽札であるかもしれないという未必的な認識を有するに至った。ところが,被告人は,情を知らない家族をして,あるいは共犯者において,本件紙幣合計5枚を市中で行使したほか,真札と交換する目的で,本件紙幣100枚を日本銀行広島支店に持ち込んで行使した。特に判示第5の犯行は,銀行券の発行等の業務を行う日本銀行の支店において,偽札を真札に交換しようとしたもので,行使した偽札の枚数も多く,大胆かつ悪質である。本件紙幣は,それが古い図柄のものであり,本邦内で使用されていたときのことを知っている者が多くないということ,,を考慮しても実際に市中で行使できる程度には精巧に作られたものであってそのような偽造の銀行券を人に交付した本件各犯行が,通貨に対する公共の信用に与えた悪影響は甚だしく,強い非難に値する。その動機は,利欲的かつ自己中心的である。 きる程度には精巧に作られたものであってそのような偽造の銀行券を人に交付した本件各犯行が,通貨に対する公共の信用に与えた悪影響は甚だしく,強い非難に値する。その動機は,利欲的かつ自己中心的である。しかも,被告人は,本件紙幣が偽札であるとは全く知らなかったなどと不自然な弁解をしており,反省が不十分といわざるを得ない。 したがって,本件の犯情は悪質であって,被告人の刑事責任は重い。 しかし,被告人は,偽造紙幣の密輸入計画の中で換金役として利用された面があり,当初から,本件紙幣が偽札であると認識していたわけではなく,本件紙幣を受け取った時点で偽札かもしれないと未必的に認識するに至ったものであること,本件紙幣が偽札であることが早期に発覚したため,実際に行使された偽札も,それ以上には流通することなく押収されたこと,本件偽札を日本銀- 22 -行支店で真札に交換するという企み自体は,成功する可能性が乏しかったと考えられること,判示第1,第2および第4の各店舗に対しそれぞれ1万円を弁償したこと,被告人には20年以上前の古い罰金前科があるのみであること,高齢であり,健康状態が芳しくないことなど,被告人のために酌むべき諸事情を考慮して,主文のとおり量定した。 よって,主文のとおり判決する。 平成19年5月31日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官楢崎康英裁判官森脇淳一裁判官友重雅裕
▼ クリックして全文を表示