令和4(わ)120 公職選挙法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年10月31日 広島地方裁判所
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判決文本文6,228 文字)

主文 被告人を罰金30万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 広島地方検察庁で保管中の現金30万円(令和4年広地領第843 号符号10)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、かつ、同選挙に立候補する決意を有していたAの 選挙運動者であるが、同人に当選を得しめる目的をもって、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、平成31年3月31日頃、広島市B区C町D番E号F被告人の選挙事務所において、前記Aの配偶者であるGから、現金30万円(令和4年広地領第843号符号10)の供与を受けたものである。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断)第1 本件の争点判示日時場所において、被告人がGから判示の現金30万円(以下「本件現金」 という。)を受け取ったことには争いがない。本件の争点は、当該金銭供与の際、Gに令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)において配偶者であるAに当選を得しめる目的をもって、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬とする趣旨(以下「本件買収の趣旨」という。)があったか、また、それを被告人が認識していたか、被告人がA の選挙運動者に該当するか、さらに本件公訴提起は公訴権濫用に当たるか、である。 第2 前提となる事実(関係各証拠により認められる。) 1 Aの本件選挙への立候補の経緯及び本件 A の選挙運動者に該当するか、さらに本件公訴提起は公訴権濫用に当たるか、である。 第2 前提となる事実(関係各証拠により認められる。) 1 Aの本件選挙への立候補の経緯及び本件選挙の状況について Aは、平成27年の広島県議会議員一般選挙広島市H区選挙区において当選し、以降同県議会議員を務めていたが、平成31年3月13日、I党が、本件選挙において、定員2名の広島選挙区でAを公認候補とすることを決定 し、同月20日、Aは本件選挙への立候補を表明した。同選挙区では、既に、当時現職でI党の公認を得ていたJ、現職のKも立候補を表明していた。 I党広島県支部連合会(以下「広島県連」という。)は、平成30年11月頃、I党本部から本件選挙で二人目の公認候補者擁立について意見を求められて以降、一貫して消極的な立場であったところ、Aの公認決定を受け、 平成31年3月16日、選挙対策委員会においてJのみを支援する旨決定し、同月24日、常任委員会においてもその方針が了承された。そのため、A陣営は、広島県連から、各種団体名簿の提供を受けられないなど、その支援なしに活動を行わなければならない状況にあった。 Gは、Aが公認を受けた同月中旬以降、Aの当選に向けた活動を積極的に 行うようになり、自身の公設秘書に対し、Aの後援会の入会申込書や千社札の配布、企業等へのあいさつ回りを指示し、広くAの活動実績等を記載したI党の機関紙を配布するなど、種々の活動を行っていた。 2 被告人の立場及びGとの関係性 被告人は、平成3年の広島市議会議員選挙にB区選挙区から立候補して初 当選して以降、本件当時まで7回の当選を重ね、2回目の選挙以降はI党に所属しており、本件当時は同市議会の第2会派であったI党保守 人は、平成3年の広島市議会議員選挙にB区選挙区から立候補して初 当選して以降、本件当時まで7回の当選を重ね、2回目の選挙以降はI党に所属しており、本件当時は同市議会の第2会派であったI党保守クラブに所属し、広島県連の副幹事長を務めていた。6期目以降の選挙では2位当選し、本件当時、被告人の後援会には約8000人の会員がいた。 被告人とGは、互いの政治資金パーティーに出席し合っていたほか、Gが 首相補佐官となった際、被告人が官邸訪問する等の交流があった。また、被 告人は、平成21年、広島県知事選挙に立候補したAを応援した。 被告人は、本件当時、AがI党の公認候補として本件選挙への立候補を表明していたこと及び広島県連がAを支援しない方針であることを知っていた。 被告人は、本件以前には、Gから陣中見舞はもとより名目のいかんを問わず現金を渡されたことが一切なかった。 3 本件金銭供与の際の状況等 被告人は平成31年4月7日投開票の広島市議会議員選挙で広島市B区選挙区から立候補し、告示日である同年3月29日から街宣車での巡回や街頭演説、個人演説会等の選挙活動をしていたところ、同月31日の昼前頃、Gから、選挙の陣中見舞のため選挙対策事務所を訪れる旨の連絡を受け、急遽 事務所に戻った後、Gの訪問を受け、事務所の応接セットで被告人の選挙情勢等について話をするなどした。 その後、Gはお手洗いを利用した後、その付近から、事務所出入口付近からは間仕切りを挟んだ位置まで被告人を呼び寄せ、被告人に本件現金の入った封筒を差し出した。被告人は、封筒の中に現金か商品券が入っているもの と考え、いったんは断ったが、Gから「事務所で使ってください」等と言われ、その封筒を受け取った。その後 人に本件現金の入った封筒を差し出した。被告人は、封筒の中に現金か商品券が入っているもの と考え、いったんは断ったが、Gから「事務所で使ってください」等と言われ、その封筒を受け取った。その後、被告人は、封筒を机の上に置いて街宣活動に出た。 被告人は、同日事務所に戻った後、封筒を書類棚の引き出しの中に移した。 被告人は、自身の選挙後の同年4月上旬頃には、封筒を開けて現金30万円 であることを確認し、通常の陣中見舞よりも多額であると思った。被告人は、本件現金を、事務所費と混ざらないよう別の封筒に入れ、費消することなく保管し続け、令和2年4月6日、検察官に任意提出した。 被告人は、令和元年6月に開催されたAの会合に出席したほか、自らの選挙区が属する支部以外では、I党の公認候補として、JのみならずAも立候 補していることを伝えていた上、本件選挙の公示後には、A陣営からの依頼 を受け、被告人の事務員にAのポスターを掲示板に貼らせた。 4 本件公訴提起に至る経緯等 Gは、令和3年6月18日、本件選挙に際し、被告人を含む地方議会議員等多数の者に対し、買収の趣旨で現金を供与した罪等で有罪判決を受け、同年10月21日同判決は確定した。その公判では複数の受供与者が証言する などしたところ、被告人は、捜査段階では買収の趣旨の認識を認める旨の検察官調書に署名押印したが、同証人尋問ではこれを否定する証言をした。 本件については同年7月6日不起訴処分がされたが、同年12月23日検察審査会により起訴相当の議決がなされ、その後、公訴が提起された。 第3 争点に対する判断 1 本件買収の趣旨の有無及び被告人の認識について Gは、特に平成31年3月中旬以降、第2の1⑶のとおり、Aの当選 決がなされ、その後、公訴が提起された。 第3 争点に対する判断 1 本件買収の趣旨の有無及び被告人の認識について Gは、特に平成31年3月中旬以降、第2の1⑶のとおり、Aの当選に向けた活動に具体的に関わっていた。当選には現職2名のいずれかを上回る得票が必要であり、H区を地盤とするAは、本件選挙に向けて広島県内3000か所で街頭演説を行うなど、積極的な選挙活動を展開していたが、広島県 連は、第2の1の方針のとおり、非協力的な対応をとっていた。 そのような情勢の下、Gは、Aが本件選挙への立候補を公にし、広島県連が前記方針を決定した直後であって、本件選挙の公示が約3か月後に迫る時期に、約8000人規模の後援会を有して市議会議員選挙に多数回当選した経験があり、広島県連の議員の中でも一定の発言力、影響力があると見込め る被告人に対し、現金30万円を供与した。 以上の事情からすれば、Gが、被告人に対して、本件選挙の投開票日までの間に、Aに有利な動きをすることの期待、すなわち、本件買収の趣旨を込めて本件現金を供与したと推認できる(Gも本件買収の趣旨を否定していない。)。G自身が広島県連の会長職に就くため地元議員に陣中見舞等を渡し て仲間づくりをするなどの意図は、本件買収の趣旨と排斥し合う関係にない から、前記推認を妨げるものではない。 ⑵ 次に、被告人は、長年市議会議員として選挙や政治活動を行ってきた中で、Gから選挙の際の陣中見舞はもちろん、その他の時期に氷代等を含め、現金の供与を受けたことは一切なかったにもかかわらず、突如、上記市議会議員選挙の選挙期間になって陣中見舞に行きたいとの連絡を受けて会うこととな った際に、金銭等と分かりつつGから封筒を受け取った。そして、当時、 たことは一切なかったにもかかわらず、突如、上記市議会議員選挙の選挙期間になって陣中見舞に行きたいとの連絡を受けて会うこととな った際に、金銭等と分かりつつGから封筒を受け取った。そして、当時、Aが本件選挙への立候補を表明して間がなく、公示が約3か月後に迫る中、広島県連の支援を受けることができずに現職2名と争う選挙情勢にあったことは、被告人も認識していた。そうすると、被告人が、この時期に従前の自身の選挙と異なりGが現金を供与してくる理由として、GがAの配偶者で、本 件選挙に関し、I党所属の衆議院議員としての影響力をも利用しつつ積極的に選挙に向けた活動をする中で、一定程度の集票力及び立場上の影響力のある被告人に対してAの当選に有利なように動いて欲しい等という本件買収の趣旨を含むであろうと認識しないことは、およそ考えられない。これを妨げるような事情は関係証拠によっても窺われないから、被告人が本件買収の趣 旨を認識したと優に推認できる。また、以上によれば、被告人がAのための選挙運動を依頼された者として選挙運動者に該当する。 ⑶ これに対し、被告人は、被告人の選挙期間中に陣中見舞と告げて訪問してきたGからの現金供与には陣中見舞目的しかなく、被告人も自身の選挙の告示直後で選挙活動のことで頭がいっぱいだったため、陣中見舞目的だとしか 思わなかった旨供述する。 しかしながら、Gが従来と異なり、敢えて陣中見舞と称して具体的に対価を求めない現金を供与するには、通常何らかの理由、動機があると受け止めるのが当然であり、7期も連続して市議会議員を務める被告人の経歴を踏まえれば、当時のGの活動に関連した意図を察しないとは考えられない。まし て、被告人は、自己の選挙後に本件現金が30万円で陣中見舞としては多額 して市議会議員を務める被告人の経歴を踏まえれば、当時のGの活動に関連した意図を察しないとは考えられない。まし て、被告人は、自己の選挙後に本件現金が30万円で陣中見舞としては多額 であると思い、実際他の現金と分けて保管するなどしておりながら、別の趣旨とは思わなかったなどと不合理な供述をしており、本件現金の趣旨に関する被告人の供述は到底信用できない。 ⑷ 弁護人は、政治家間での現金の授受はよくあることであり、政治家である以上、選挙のことは常に考えているから、授受の際に選挙のことが少しでも 頭にあれば即買収となれば政治家間の金銭の授受はおよそできないなどとして、買収の趣旨を認めるのは、特定の選挙について具体的な選挙支援を明示で依頼した場合に限られるべきとも主張する。しかし、選挙のことを考えているとの一事情のみで金銭授受の趣旨が決まるものではないから前提を欠く上、買収の趣旨は上記場合にのみ認められるといった経験則はなく、そのよ うに限定して解すべき合理的理由もない。弁護人の主張は採用できない。 2 公訴権濫用について弁護人は、検察庁が、組織的に、G及びAを起訴するため、いつもの風景を殊更に切り取って大型選挙買収事件をでっち上げようとして、40数名の地方議会議員や首長に対し違法な取調べを行いつつ、不起訴と引き換えに虚偽自白 調書を得るという違法な司法取引を行い、Gの公判に証人として出頭する議員らを道具として偽証させた結果、これら証拠を基に、Gには有罪判決が、地方議会議員らには検察審査会での起訴相当の議決が出され、不起訴約束を一方的に反故にして詐欺ともいうべき起訴に至ったのであるから、本件公訴提起は、検察官の職務犯罪であり、公訴権を濫用したものであるから、公訴棄却されるべ きである等と主張 が出され、不起訴約束を一方的に反故にして詐欺ともいうべき起訴に至ったのであるから、本件公訴提起は、検察官の職務犯罪であり、公訴権を濫用したものであるから、公訴棄却されるべ きである等と主張する。 しかし、被告人の供述によれば取調べた検察官に不起訴を期待させる言動があったにとどまり、不起訴にする約束はなかったと認められる。そして、証拠能力が認められる本件各証拠によれば、検察官が、本件起訴時点において、想定される被告人の認否・供述を前提とし、弁護人主張にあるような買収の趣旨及び その認識自体に関する自白・自認供述部分を除いても、本件(本件に対応するG の供与行為を含む)で有罪判決を得る高度の嫌疑を認めるに十分な関係証拠を収集していたと認められる上、国政選挙において現職の衆議院議員から現職の市議会議員へ30万円もの現金が供与されたという選挙買収事案である本件が、公訴提起が十分あり得る悪質性を備えていることも明らかである。なお、上記検察官の言動に誘発された被告人の不起訴処分への期待は、その侵害が検察官 の職務犯罪を構成するような利益ではない。 よって、弁護人の主張を踏まえても、本件公訴提起自体に検察官の職務犯罪というべき事情はなく、弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用) 1 罰条 公職選挙法221条1項4号、1号 2 刑種の選択罰金刑 3 労役場留置刑法18条(金5000円を1日に換算) 4 没収公職選挙法224条前段(量刑の理由)被告人は、国政選挙において、買収の趣旨で現金30万円もの供与を受けたもので、議会制民主政治の根幹をなす選挙の公正さを直接害する悪質な行為である。自 身も選挙によって選ばれた現職の市議会議員でありなが 、国政選挙において、買収の趣旨で現金30万円もの供与を受けたもので、議会制民主政治の根幹をなす選挙の公正さを直接害する悪質な行為である。自 身も選挙によって選ばれた現職の市議会議員でありながら、安易に買収金を受容したその意思決定は強い非難に値する。その他、本件経緯や前科がないこと等の諸事情を考慮しても、公民権停止の期間を短縮すべき情状は窺われない。 (検察官の求刑罰金30万円、主文同旨の没収)令和5年10月31日 広島地方裁判所刑事第1 部 裁判長裁判官日野浩一郎 裁判官小川貴紀 裁判官辻󠄀 沙穂里

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