平成30年6月21日判決言渡平成28年(行ウ)第145号遺族厚生年金不支給処分取消等請求事件主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 厚生労働大臣が平成26年9月8日付けで原告に対してした遺族厚生年金を支給しない旨の決定を取り消す。 2 厚生労働大臣が平成26年7月8日付けで原告に対してした老齢基礎年金に 係る未支給年金及び老齢厚生年金に係る未支給保険給付を支給しない旨の決定を取り消す。 第2 事案の概要本件は,老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給権者であったAことB(以下「亡B」という。)が死亡したことから,亡Bの配偶者である原告が,厚生労働大臣に 対し,国民年金法(以下「国年法」という。)及び厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)に基づき,遺族厚生年金(以下「本件遺族厚生年金」という。)の裁定並びに亡Bの老齢基礎年金に係る未支給年金及び老齢厚生年金に係る未支給保険給付(以下,併せて「本件未支給年金等」という。)の支給を請求したところ,厚生労働大臣が,本件遺族厚生年金を支給しない旨の決定(以下「本件遺族厚生年 金不支給処分」という。)及び本件未支給年金等を支給しない旨の決定(以下「本件未支給年金等不支給処分」といい,本件遺族厚生年金不支給処分と併せて「本件各処分」という。)をしたため,被告を相手に,本件各処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令の定め (1) 遺族厚生年金に関する法令の定め ア平成24年法律第62号(以下「平成24年改正法」という。)による改正前の厚年法58条1項は,遺族厚生年金は,被保険者又は被保険者であった者が同項各号のいずれかに該当する場合に,その ア平成24年法律第62号(以下「平成24年改正法」という。)による改正前の厚年法58条1項は,遺族厚生年金は,被保険者又は被保険者であった者が同項各号のいずれかに該当する場合に,その者の遺族に支給する旨規定し,同項4号は,「老齢厚生年金の受給権者…が,死亡したとき。」と規定する。 イ厚年法59条1項は,遺族厚生年金を受けることができる遺族は,被保険者又は被保険者であった者の配偶者,子,父母,孫又は祖父母であって,被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持したものとする旨規定する(以下,上記「死亡の当時その者によって生計を維持したもの」の要件を「生計維持関係」という。)。 そして,同条4項は,同条1項の規定の適用上,被保険者又は被保険者であった者によって生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は,政令で定める旨規定し,これを受けた厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」という。)3条の10は,厚年法59条1項に規定する被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持していた配 偶者,子,父母,孫又は祖父母は,当該被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とする旨規定する(以下,上記「死亡の当時その者と生計を同じくしていた者」の要件を 「生計同一関係」という。国年法19条1項及び厚年法37条1項についても同じ。)。 (2) 未支給年金及び未支給保険給付に関する法令の定め平成24年改正法附則4条及び22条により,同法による改正規定の施行日(平成26年4月1日)より前に受給権者が死亡した ついても同じ。)。 (2) 未支給年金及び未支給保険給付に関する法令の定め平成24年改正法附則4条及び22条により,同法による改正規定の施行日(平成26年4月1日)より前に受給権者が死亡した場合に適用される同 法による改正前の国年法19条1項及び厚年法37条1項は,年金給付又は 保険給付の受給権者が死亡した場合において,その死亡した者に支給すべき年金給付又は保険給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは,その者の配偶者,子,父母,孫,祖父母,兄弟姉妹であって,その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもの(生計同一関係)は,自己の名で,その未支給の年金又は保険給付(以下,併せて「未支給年金等」という。) の支給を請求することができる旨規定する。 2 「生計維持・生計同一関係等に係る認定基準及びその取扱いについて」(平成23年3月23日年発0323第1号日本年金機構理事長宛厚生労働省年金局長通知)の定め厚生労働省は,「生計維持・生計同一関係等に係る認定基準及びその取扱い について」(以下「本件認定基準」という。乙15。)を発出し,本件認定基準により,遺族厚生年金の受給者に関する生計維持関係及び未支給年金等の支給対象者に関する生計同一関係の認定基準及び認定の取扱いを行うこととした。 本件認定基準の主な内容は,次のとおりである。 (1) 本件認定基準1(1)本文は,遺族厚生年金の受給権者等(以下「生計維持 認定対象者」という。)に係る生計維持関係の認定については,同2の生計維持関係等の認定日において,同3の生計同一に関する認定要件(以下「本件認定要件」という。)及び同4の収入要件を満たす場合に受給権者又は死亡した被保険者若しくは被保険者であった者と生計維持関係があるものと認定するものとする ,同3の生計同一に関する認定要件(以下「本件認定要件」という。)及び同4の収入要件を満たす場合に受給権者又は死亡した被保険者若しくは被保険者であった者と生計維持関係があるものと認定するものとする旨規定し,同1(1)ただし書は,これにより生計維持関 係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には,この限りでない旨規定する。 (2) 本件認定基準1(2)本文は,未支給年金等の支給対象者等(以下「生計同一認定対象者」という。)に係る生計同一関係の認定については,同2の生計維持関係等の認定日において,本件認定要件を満たす場合に受給権者又は 死亡した被保険者若しくは被保険者であった者と生計同一関係があるもの と認定するものとする旨規定し,同1(2)ただし書は,これにより生計同一関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には,この限りでない旨規定する。 (3) 本件認定基準3(1)は,生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者に係る生計同一関係の認定に当たっては,次に該当する者は生計を同じくしてい た者又は生計を同じくする者に該当するものとする旨規定し,「① 生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者が配偶者又は子である場合」として,次のとおり規定する(以下,項目ごとに「本件認定要件ア」などと記載する。)。 「ア住民票上同一世帯に属しているときイ住民票上世帯を異にしているが,住所が住民票上同一であるとき ウ住所が住民票上異なっているが,次のいずれかに該当するとき(ア) 現に起居を共にし,かつ,消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき(イ) 単身赴任,就学又は病気療養等の止むを得ない事情 住所が住民票上異なっているが,次のいずれかに該当するとき(ア) 現に起居を共にし,かつ,消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき(イ) 単身赴任,就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票上異なっているが,次のような事実が認められ,その事情が消 滅したときは,起居を共にし,消費生活上の家計を一つにすると認められるとき(ア) 生活費,療養費等の経済的な援助が行われていること(イ) 定期的に音信,訪問が行われていること」 3 前提事実(当事者間に争いがない事実,各項掲記の証拠(書証番号について は特記しない限り枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者等(乙1~5)ア原告は,昭和58年▲月▲日,亡Bと婚姻し,両名の間には,長男C(同月▲日生。)及び次男E(昭和63年▲月▲日生。)の2人の子がいる。 イ亡Bは,老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給権者であったところ,平 成25年▲月▲日に死亡した。 (2) 原告及び亡Bの住所の変遷等ア原告及び亡Bは,平成17年5月20日,大阪府α市βに転居し,平成19年5月28日まで同居していた(甲10)。 イ原告は,平成19年5月29日から同年6月5日まで,F病院に入院し, その後,DV被害者として大阪府γ市所在の女性自立支援センターで2週間の一時保護を受け,同月19日,δ市ε区所在の女性自立支援センターに入所した(甲5の2,乙7)。 ウ原告は,平成19年8月7日,亡Bを相手方として,大阪地方裁判所に,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下「DV防 止法」という。)に基づく保護命令を申し立て,同裁判所裁判官は,同月20日,亡Bに対し,保護命令決定の送達 阪地方裁判所に,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下「DV防 止法」という。)に基づく保護命令を申し立て,同裁判所裁判官は,同月20日,亡Bに対し,保護命令決定の送達日から起算して2か月間,大阪府α市β所在の住居から退去する旨,同住居付近のはいかいを禁止する旨,及び上記送達日から6か月間,申立人の身辺につきまとうことなどを禁止する旨を命ずる保護命令の決定をした(乙6)。 エ原告は,平成19年9月16日,ζ市η区に転居し,同月25日までの間に外国人登録上の住所を同所へと移し,同日以降,η区から生活保護を受給している(乙7,弁論の全趣旨)。 オ亡Bは,死亡した平成25年▲月▲日当時,大阪府α市θ所在の住居に居住していた(乙3)。 (3) 本件各処分(甲1,2,乙9,10)ア原告は,平成26年3月19日,厚生労働大臣に対し,亡Bの妻として,本件遺族厚生年金の支給を請求するとともに,亡Bに支給すべき老齢基礎年金に係る未支給年金及び老齢厚生年金に係る未支給保険給付(本件未支給年金等)の支給を請求した(乙9,10)。 イ厚生労働大臣は,平成26年7月8日,原告に対し,本件未支給年金等 について,亡Bの死亡当時,亡Bと生計を同じくしていたものとは認められないとして,これらを支給しない旨の本件未支給年金等不支給処分をし(甲1),同年9月8日,本件遺族厚生年金について,亡Bの死亡当時,亡Bによって生計を維持していたものとは認められず,遺族厚生年金を受けることができる遺族に該当しないとして,これを支給しない旨の本件遺族 厚生年金不支給処分をした(甲2)。 (4) 本件訴訟に至るまでの経緯(甲3,4,乙11~14)ア原告は,平成26年9月5日,近畿厚生局社会保険審 いとして,これを支給しない旨の本件遺族 厚生年金不支給処分をした(甲2)。 (4) 本件訴訟に至るまでの経緯(甲3,4,乙11~14)ア原告は,平成26年9月5日,近畿厚生局社会保険審査官に対し,本件未支給年金等不支給処分を不服として審査請求をし,同月18日,本件遺族厚生年金不支給処分を不服として審査請求をしたが,同審査官は,平成 27年2月19日,上記各審査請求をそれぞれ棄却する旨の各決定をした(甲3,乙11,12)。 イ原告は,平成27年4月20日,社会保険審査会に対し,上記アの各決定を不服としてそれぞれ再審査請求をしたが,同審査会は,上記各再審査請求を併合審理した上で,同年10月30日,同各再審査請求をいずれも 棄却する旨の裁決をした(甲4,乙13,14)。 (5) 本件訴訟の提起原告は,平成28年4月28日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 4 争点及び当事者の主張本件における争点は,本件遺族厚生年金不支給処分の取消請求については, 原告が,亡Bの死亡の当時,亡Bによって生計を維持していたか否か(厚年法59条1項)であり,本件未支給年金等不支給処分の取消請求については,原告が,亡Bの死亡の当時,亡Bと生計を同じくしていたか否か(国年法19条1項,厚年法37条1項)である。 そして,原告が厚年令3条の10の「厚生労働大臣の定める金額以上の収入 を将来にわたって有すると認められる者以外のもの」に該当することは争いが ないから,原告が,亡Bの死亡の当時,亡Bと生計を同じくしていた場合(生計同一関係を満たす場合)には,厚年令3条の10により,厚年法59条1項の生計維持関係を満たすこととなる。 したがって,本件の実質的な争点は,原告が,亡Bの死亡の当時,亡Bと生計を同じく 場合(生計同一関係を満たす場合)には,厚年令3条の10により,厚年法59条1項の生計維持関係を満たすこととなる。 したがって,本件の実質的な争点は,原告が,亡Bの死亡の当時,亡Bと生計を同じくしていたか否か(生計同一関係を満たすか否か)であり,この点に 関する当事者の主張は以下のとおりである。 (原告の主張)(1) 本件認定要件アに該当すること原告は,亡Bに対する多大な恐怖心が継続しており,神経症と診断され,就労することもできず,またEが友人宅を転々とする生活をしていたことも あって,Eと同居すべく,生活保護の受給申請をしたところ,α市の担当者は,原告に対し,生活保護の受給には外国人登録上の住所の変更が必要であるとして,住所変更を強く指導した。そのため,原告はやむなく外国人登録上の住所をζ市η区に変更せざるを得なかったのであり,その際,α市の担当者から,原告が遺族厚生年金の受給資格を失うことになるとの説明は一切 なかった。 このような原告に対し,同じく行政を担う処分行政庁が,生計同一関係を欠くと主張することは信義則に反し,公平原則にも反する。したがって,原告については,なお亡Bと「住民票上同一世帯に属している」(本件認定要件ア)と認めるべきである。 (2) 本件認定要件ウ(イ)に該当することア原告がやむを得ない事情により別居を開始したことは,被告も認めるところであるから,本件認定要件ウ(イ)柱書きの「止むを得ない事情により住所が住民票上異なっている」の要件は充足している。 イ原告は,別居後,直接的には,亡Bから生活費等の経済的援助を受けた り,亡Bとの定期的な音信,訪問を行ったりしたことはない。しかし,次 のとおり,原告は,原告の依頼を受けたCを通じて,間 告は,別居後,直接的には,亡Bから生活費等の経済的援助を受けた り,亡Bとの定期的な音信,訪問を行ったりしたことはない。しかし,次 のとおり,原告は,原告の依頼を受けたCを通じて,間接的に亡Bから経済的援助を受け,同人との音信,訪問を行っていた。 すなわち,Cは,別居後も亡Bを気遣う原告の頼みを受けて,亡Bに1週間に1回以上は必ず電話をかけ,年に数回は亡Bの家を訪問していた。 そして,Cは,その度に亡Bから数万円ないし10万円程度の金銭を受け 取っており,亡Bが,明確にその金銭の使途を指定しなかったものの,訪問の都度必ず原告を気遣う言葉を発していたため,Cは,その金銭で原告のために電化製品や携帯電話を購入したり,毎月の電話料金等を負担したりしていた。また,亡Bを訪問した後に必ず原告のもとを訪ね,その際に毎回原告から亡Bの様子を聞かれるため,それを報告していたのである。 原告は,別居の原因が亡Bから激烈な暴力を受けたことにあること,別居後亡Bが死亡するまでの6年余りの間,原因不明の坐骨神経痛が続いており,自力で立っていることができず,歩行が難しい状態が続いていたことから,亡Bを訪問することは物理的に著しく困難であり,また,玄関を開けるのも怖い状態が継続していたため,心理的にも亡Bに対して連絡を 取ることは不可能であった。 このように,別居後亡Bが死亡するまでの間,直接的な音信,訪問等は実現不可能であったが,原告は,Cを通じて間接的に,亡Bから経済的な援助を受け,同人との定期的な音信,訪問を行っていたのであって,本件認定要件ウ(イ)の(ア)(生活費,療養費等の経済的な援助が行われている こと)及び同ウ(イ)の(イ)(定期的に音信,訪問が行われていること)の各要件を満たす。 ウさらに あって,本件認定要件ウ(イ)の(ア)(生活費,療養費等の経済的な援助が行われている こと)及び同ウ(イ)の(イ)(定期的に音信,訪問が行われていること)の各要件を満たす。 ウさらに,原告は,婚姻後別居するまでの25年4か月間,亡Bに献身的に尽くしており,亡Bとの離婚を考えたこともなく,亡Bも,上記イのとおり,別居後もCに会うたびに原告の様子を尋ね,原告に対して気配りを し続けていたのであり,離婚することは全く考えていなかった。 したがって,原告と亡Bは,亡Bの精神状態が安定し,別居の原因となった亡Bの暴力がなくなれば,円満な元の夫婦関係に戻ることが可能であったと認められ,本件認定要件ウ(イ)柱書きの「その事情が消滅したときは,起居を共にし,消費生活上の家計を一つにすると認められる」との要件も充足する。 (3) 本件認定基準1(1)ただし書又は同1(2)ただし書に該当することア本件認定基準1(1)ただし書及び同1(2)ただし書(以下,併せて「例外条項」という。)は,本件認定基準1(1)本文又は同1(2)本文により生計維持関係又は生計同一関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には,この限 りでない旨規定する。これらの例外条項は,一定のやむを得ない場合には,受給権者又は死亡した被保険者若しくは被保険者であった者(以下「被保険者等」という。)からの出捐なしに生活していたとしても,生計維持関係又は生計同一関係を充足していると評価すべき場合があることを念頭に置いたものであると考えられる。 イ仙台高等裁判所平成28年5月13日判決・判例時報2314号30頁(以下「平成28年仙台高判」という。)は,生計同一 価すべき場合があることを念頭に置いたものであると考えられる。 イ仙台高等裁判所平成28年5月13日判決・判例時報2314号30頁(以下「平成28年仙台高判」という。)は,生計同一関係について,現に消費生活上の家計を一つにしているか否かという事実的要素によってのみ判断することで常に足りるというものではなく,当該夫婦の個別的具体的事情を勘案し,婚姻費用分担義務の存否その他の規範的要素を含めて 判断すべき場合があるなどとして,同事案については例外条項に該当すると結論付けているところ,以下の事情によれば,本件も例外条項の要件を満たしている。 (ア) 別居に至る原因,経緯についてみると,原告が亡Bとの別居を決意したのは,亡Bからすさまじい暴力を受けたためであり,別居はやむを 得ない緊急避難としての行動なのであって,その原因はひとえに亡Bに ある。 (イ) 上記(2)ウのとおり,亡Bが暴力を振るうことがなくなれば,夫婦関係修復の可能性はあった。 (ウ) 原告の生活保護の受給はやむを得ずに取った措置であり,自ら生活保護を受給し亡Bの世話にならず独立して生計を維持しようという意思 は全くなく,亡Bによる経済的援助の必要性は何ら失われていない。 (エ) 別居期間についてみても,約6年間別居が続いたのは,原告の症状が回復しなかったからであり,この6年間は亡Bとの31年間に及ぶ婚姻期間に比し,必ずしも長期間とはいえないし,その間,上記(ア)の緊急避難の状態が継続していたと評価することができる。 (オ) 上記(2)イのとおり,原告は別居後も亡Bの様子を気遣い,また亡Bも原告を気遣って,Cを通じて金銭的援助をしていたことからすると,定期的な音信,訪問があったと認められる 。 (オ) 上記(2)イのとおり,原告は別居後も亡Bの様子を気遣い,また亡Bも原告を気遣って,Cを通じて金銭的援助をしていたことからすると,定期的な音信,訪問があったと認められる。 (カ) 原告は,住民票上,亡Bを世帯主とする世帯に属していたのに,他所に住民票を移したのは,ζ市η区の担当者から強く指導され,他に採 り得る手段がなかったからである。 ウこのように,原告と亡Bとは事実上の離婚状態にあったとはいい難く,亡Bは原告に対する婚姻費用分担義務をなお負っていたといえることに加え,原告において,亡Bによる経済的援助を必要としないほど十分な収入があったという訳でもなく,緊急避難すべき事情が継続していたのである から,上記の諸般の事情を考慮すれば,例外条項該当性が認められるというべきである。 (4) 本件について生計同一関係が認められるべきであることア厚年法は,労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的として いる(1条)。 イそして,厚年法59条1項が配偶者について他の遺族とは異なる扱いをしていることや,遺族厚生年金と同じ目的のもとに離婚時年金分割制度が創設されたことからすれば,夫婦がその一方の死亡により別れた場合には遺族厚生年金により,離婚により別れた場合には老齢厚生年金に関する年金分割により,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与する という厚年法の目的が実現されているといえる。 ウ加えて,DV被害者は,加害配偶者から接近禁止命令等によって強制的に隔離されなければ,その生命・身体に重大な危害が生じかねない事例も散見され,このような被害配偶者を保護するために,DV防止 。 ウ加えて,DV被害者は,加害配偶者から接近禁止命令等によって強制的に隔離されなければ,その生命・身体に重大な危害が生じかねない事例も散見され,このような被害配偶者を保護するために,DV防止法が制定されたことも,生計同一関係の有無を判断するに当たって考慮する必要があ る。 エ上記の厚年法の趣旨等を踏まえて,これらの諸事情を考慮すれば,原告は生計同一関係を満たすものと認められるべきである。 (被告の主張)(1) 判断枠組み 遺族厚生年金は,被保険者等の死亡によって遺族の生活の安定が損なわれることを防止することを目的とするものであるから,公的年金制度の枠組みの中で,その給付を滞りなく行う必要がある。そして,多数の遺族厚生年金の裁定請求がされる現状において,これらの大量の事務を適正かつ迅速に処理するためには,生計維持関係の認定に係る統一的な基準を定め,裁定の客 観性及び裁定請求者間の給付の公平性を確保することが要請される。 そして,本件認定基準は,我が国において住民及びその同一の世帯に属する者の居住関係を公証するものとして一般に広く利用されている住民票の写し(住民基本台帳法12条)の記載に基づいて,世帯又は住所が同一であれば,当該遺族は,被保険者等と同居して被保険者等と生計を同じくしてい たであろうという合理的な推認が働くことから,住民票上の世帯又は住所を 基準として生計同一関係を認定することとする一方で,当該遺族と被保険者等の住所が住民票上異なっている場合であっても,生計を同じくしていたであろうと推認される一定の事実関係が認められるときには,生計同一関係を認定することとして,事務処理の適正化も図っており,遺族厚生年金の制度趣旨に合致する合理的な基準であるということができる。した であろうと推認される一定の事実関係が認められるときには,生計同一関係を認定することとして,事務処理の適正化も図っており,遺族厚生年金の制度趣旨に合致する合理的な基準であるということができる。したがって,生計 同一関係を認定するに当たっては,本件認定基準によるべきである。このことは,未支給年金等の請求に係る生計同一関係の認定においても,同様に当てはまるものである。 (2) 本件認定要件アに該当しないこと原告は,亡Bが死亡した当時,住民票上亡Bと同一世帯に属しておらず(乙 8),本件認定要件アの「住民票上同一世帯に属しているとき」に該当しない。 (3) 本件認定要件ウ(イ)に該当しないことア原告と亡Bは,やむを得ない事情により別居を開始したと認められるものの,原告と亡Bの別居期間は6年1か月余りに及ぶところ,原告は別居開始日である平成19年5月28日以降,亡Bから「経済的援助を受ける ことはなく,定期的な音信・訪問等もなかった」(乙16)というのであるから,亡Bの死亡の当時はもとより上記別居期間中のいずれの時点においても,本件認定要件ウ(イ)の(ア)「生活費,療養費等の経済的な援助が行われていること」及び同ウ(イ)の(イ)「定期的に音信,訪問が行われていること」の要件を満たしていたということはできない。 イ原告は,亡BがCに対し金銭を渡し,Cがそれにより原告に対し家電製品等を購入していたなどとして,Cを通じた間接的な経済的援助があった旨主張するが,亡Bが原告に経済的援助をする意図があったとすれば,Cに上記金銭を渡す際に,その使途を原告に対する援助に指定するのが自然かつ合理的であるところ,原告も認めるとおり,亡BがCに対しそのよう な使途の指定をした事実はない。また,原告と亡Bが同居していた頃か 銭を渡す際に,その使途を原告に対する援助に指定するのが自然かつ合理的であるところ,原告も認めるとおり,亡BがCに対しそのよう な使途の指定をした事実はない。また,原告と亡Bが同居していた頃から, 亡Bによる生活費の支払が途絶えていたことなどからすると,別居後においても,Cを通じて原告に対し経済的援助をする意図があったとは考え難く,亡BがCに対して渡した金銭は,東京で生活するCに対する経済的援助であったと考えるのが自然かつ合理的である。 仮に,亡BがCに渡した金銭が原告に対する経済的援助の趣旨を含んで いたとしても,Cが上記金銭で原告のために携帯電話や家電製品を購入した時期は,平成19年9月頃や平成20年6月頃であったのであるから,これらの事実をもって,亡Bの死亡時(平成25年7月)においても,亡Bから原告に対する経済的援助が行われていたと認めることはできない。 ウまた,原告は,亡Bとの間で,Cを通じた間接的な音信や訪問があった 旨主張するが,Cの証言内容からすると,Cは原告の意向にかかわらず自らの意思により亡Bと連絡を取っていたということができる上,原告は,Cに対し,原告とCが会っていることを亡Bには伝えないでほしいと口止めし,Cは,原告と会っていることを亡Bに伝えていなかったこと,Cは,亡Bから原告の生活状況等を尋ねられても,それを伝えることはなかった ことなどからすると,原告と亡Bとの間に,Cを通じた間接的な音信や訪問があったと認めることはできない。 エさらに,原告の供述等によれば,6年1か月余りに及ぶ別居期間中,原告と亡Bにおいて,別居の解消に努めていた様子は一切うかがわれず,また,亡Bの死亡後も,原告が亡Bに対する恐怖心を持ち続けていることか らすれば,原告と亡Bが別居を解消 りに及ぶ別居期間中,原告と亡Bにおいて,別居の解消に努めていた様子は一切うかがわれず,また,亡Bの死亡後も,原告が亡Bに対する恐怖心を持ち続けていることか らすれば,原告と亡Bが別居を解消して消費生活上の家計を一つにする可能性があったとは認められず,本件認定要件ウ(イ)柱書きの「その事情が消滅したときは,起居を共にし,消費生活上の家計を一つにすると認められるとき」との要件も満たさない。 (4) 例外条項に該当しないこと ア遺族厚生年金を受給することができる遺族とは,被保険者等の死亡の当 時,被保険者等の収入に依拠して生計を維持していたものであることが前提とされているところ,ここにいう生計を維持していたというためには,当該配偶者等が被保険者等の収入から生活費,療養費等の出捐を受け,当該被保険者等の収入からの出捐が得られなければ自己の生計の維持に支障を来たすこととなる関係を必要とするものと解するのが相当である。 そして,本件認定基準が,例外条項を設けることにより,本件認定基準1(1)本文又は同(2)本文によらずに生計維持関係又は生計同一関係を認定する余地を残していることからすれば,例外条項は,本件認定要件を満たすといえない場合であっても,被保険者等の死亡の当時,被保険者等に経済的に依存しなければ生計の維持に支障を来たしていたであろう関係 が認められるような場合に適用されることが予定されているといえる。 したがって,被保険者等とその配偶者が別居していた場合であっても,別居の一事をもって直ちに生計維持関係又は生計同一関係を否定することはできず,別居期間の長短,別居の原因やその解消の可能性,経済的援助の有無や定期的な音信・訪問の有無等を総合的に考慮して,上記関係の 有無を判断すべきである 関係又は生計同一関係を否定することはできず,別居期間の長短,別居の原因やその解消の可能性,経済的援助の有無や定期的な音信・訪問の有無等を総合的に考慮して,上記関係の 有無を判断すべきである。平成28年仙台高判の判示は,婚姻費用分担義務が存在することをもって,直ちに生計同一関係の充足が認められると判断したものではなく,被告が主張する本件認定基準に基づく判断枠組みと基本的部分において相違しないものと考えられる。 イ原告と亡Bの別居期間は,上記のとおり6年1か月余りの長期間に及ん でおり,上記(3)のとおり,その間,原告は亡Bからの経済的援助を一切受けることなく,生活保護を受給して生活しており,定期的な音信,訪問もなかったのである。また,原告及び亡Bにおいて,別居解消の可能性があったとは認められない。 これらの事情に照らすと,原告と亡Bとの別居の原因が亡Bの原告に対 する家庭内暴力にあったことを考慮しても,生計維持関係及び生計同一関 係を認めないことがその実態と著しくかけ離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くことになるとはいえず,例外条項該当性は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 判断枠組み (1) 厚年法は,労働者の遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを,保険給付の一つの目的としているものであって(同法1条),この法律に基づく遺族厚生年金は,被保険者等が死亡した場合における遺族の生活の安定と福祉の向上を図る社会保障的性格を有する公的給付である。 そして,上記厚年法の目的及び遺族厚生年金の性格に照らすと,厚年令3 条の10は,同居等により被保険者等と生計を同じくしていた配偶者であれば,原則として被保険者等により生計を維持していたものと推認されることから,当該配偶 族厚生年金の性格に照らすと,厚年令3 条の10は,同居等により被保険者等と生計を同じくしていた配偶者であれば,原則として被保険者等により生計を維持していたものと推認されることから,当該配偶者が例外的に高額な収入を個人で得ている場合を除き,当該配偶者が被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していたとの要件を満たすことを定めた一方,これに該当しない場合であっても,その配偶 者において,被保険者等の死亡により援助等を失えば,その生計の維持に支障を来していたであろうという関係にある場合には,厚年法59条1項にいう生計維持関係を満たすことを定めたものと解するのが相当である。 上記厚年令3条の10の解釈に加え,多数の遺族厚生年金の裁定請求を適正かつ迅速に処理するためには,生計維持関係の認定について統一的な基準 を定め,裁定の客観性及び給付の公平性を確保する要請があること等に照らすと,本件認定基準が,生計維持関係として,被保険者等と配偶者が原則として生計を同一にすること(生計同一関係)を要するものとし,生計同一関係の認定に当たり,原則として,被保険者等と配偶者が住民票上同一世帯に属していることや,住民票上の住所が同一であることなど,当該遺族と被保 険者等が生計を同じくしていたであろうと推認させる一定の事実関係(本件 認定要件)をもってこれを認定すべきものとしているのは,合理的なものということができる。 (2) また,国年法19条1項及び厚年法37条1項は,死亡した受給権者が有していた年金給付又は保険給付に係る請求権は一身専属性を有するもので相続の対象となるものではないが,受給権者の死亡時に受給権者と生計を同じ くしていた遺族の生活保障の見地から,当該遺族に未支給の年金又は保険給付を支給すること る請求権は一身専属性を有するもので相続の対象となるものではないが,受給権者の死亡時に受給権者と生計を同じ くしていた遺族の生活保障の見地から,当該遺族に未支給の年金又は保険給付を支給することを特に認めているものと解される。 上記未支給年金等の性格及び多数の支給請求の適正かつ迅速な処理の必要性等に照らすと,上記(1)に説示したのと同様に,生計同一関係につき原則として本件認定要件をもって認定すべきものとしているのは,合理的なものと いうことができる。 (3) もっとも,本件認定要件のみでは,国年法19条1項,厚年法37条1項及び厚年令3条の10に定める「生計を同じくしていた」との要件(生計同一関係)に該当する全ての事案を網羅し得るものとはいえないことから,本件認定基準は,生計維持関係及び生計同一関係の認定につき例外条項を定め ることにより,個別の事案の特殊性を考慮した柔軟な認定を許容しているものと解される。 (4) 以上のとおり,本件認定基準(本件認定要件及び例外条項)は,いずれも厚年法等の趣旨に沿う合理的な基準ということができるから,以下,本件認定要件又は例外条項により,本件において生計同一関係が認められるか否か を検討する。 2 認定事実前記前提事実に加え,各項掲記の証拠のほか,甲9,10,原告本人,証人C及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 別居に至る経緯 ア原告は,昭和58年▲月▲日,亡Bと婚姻し,C(同月▲日生まれ)及 びE(昭和63年▲月▲日生)の2人の子をもうけた(乙1,2)。 イ亡Bは,G銀行に勤務していたが,平成10年頃,G銀行が経営不振に陥ったことから,約30年間勤務していたG銀行を早期退職した。亡Bは,その後,パチ 月▲日生)の2人の子をもうけた(乙1,2)。 イ亡Bは,G銀行に勤務していたが,平成10年頃,G銀行が経営不振に陥ったことから,約30年間勤務していたG銀行を早期退職した。亡Bは,その後,パチンコやサウナなどを複合的に営む会社に勤務していたが,平成17年頃,突然同社を退職し,60歳となった同年7月頃から,老齢基 礎年金及び老齢厚生年金を受給していた。 ウ亡Bと原告は,原告の父の借金の担保となっていた自宅が競売されたことから,平成17年5月20日,α市βの借家に転居し,この頃から,亡Bが自宅で過ごす時間が増え,亡Bの原告に対する激しい身体的暴力及び言葉による精神的暴力が酷くなっていった。 亡Bは,上記転居後,原告に対し,生活費として60万円前後の金銭を交付したが,その後,原告に生活費を渡さなくなり,原告は,自らアルバイト等をして生活費を稼いでいた。 エ亡Bは,平成19年頃になると,毎日のように原告に暴力を振るうようになった。原告は,その頃から,原因不明の坐骨神経痛を発症し,正常歩 行が困難になった。また,亡Bは,原告に対し,アルバイト等をすることを禁止する一方,生活費の支払を一切拒絶するようになった。 オ Cは,平成19年頃,原告及び亡Bのもとを離れて東京での生活を開始した。亡Bは,東京のCの家を訪問した際,アルバイトをして生活しているCに対し,10万円ほどの小遣いを渡した。 カ原告は,平成19年5月26日,亡Bから右目を激しく殴られたことにより一時的に目が見えない状態となり,同日から3日間にわたり飲食を禁止され,同月28日,再び激しい暴力を受けたことから,裸足で何も持たずに自宅を飛び出し,警察に保護された。 (2) 別居中の生活等 ア原告は,平成19年5月29日から同年6月 食を禁止され,同月28日,再び激しい暴力を受けたことから,裸足で何も持たずに自宅を飛び出し,警察に保護された。 (2) 別居中の生活等 ア原告は,平成19年5月29日から同年6月5日まで,肋骨骨折,全身 打撲及び脱水症の治療のため,F病院に入院し,その後,γ市立女性自立支援センターで2週間にわたり一時保護を受け,同月19日,δ市ε区の女性支援センターに入所した。 原告は,F病院に入院していた間,γ市から生活保護(医療費等の扶助)を受給し,同病院を退院した後,α市に生活保護の受給申請をし,同年7 月2日から生活保護を受給していた。(以上につき,甲5,乙7)イ原告は,平成19年8月7日,大阪地方裁判所にDV防止法に基づく保護命令を申し立て,同裁判所裁判官は,同月20日,保護命令を決定した。 亡Bは,同月15日,同裁判官による審尋において,原告と離婚するつもりである旨を述べた。(以上につき,乙6) ウ原告は,Eが亡Bにより自宅を追い出され,友人宅を転々としている旨を聞いたことから,Eとの同居を強く望むようになり,平成19年8月21日,α市の職員に相談したところ,同職員から,住所設定後は転居先の市町村にて外国人登録を行わなければならない旨の指示を受けた(乙7)。 エ原告及びEは,平成19年9月6日,α市βの自宅に同人らの荷物を取 りに行ったが,それらの荷物は既に処分されていた(乙6の4,7)。 オ原告は,亡Bのいるα市から離れた場所で,かつ,Eの通学が可能な場所に転居することを考え,平成19年9月16日,Eとともにζ市η区のマンションに転居した。この転居により,α市からの生活保護の支給が廃止された。(以上につき,乙7) カ原告は,亡Bによる家庭内暴力を原因として,神経 19年9月16日,Eとともにζ市η区のマンションに転居した。この転居により,α市からの生活保護の支給が廃止された。(以上につき,乙7) カ原告は,亡Bによる家庭内暴力を原因として,神経症に罹患し,就労することができない状態であったことから,ζ市η区に生活保護の受給を希望したところ,同区の職員から,外国人登録上の住所変更が必要である旨の指示を受けた。 そのため,原告は,外国人登録の住所を上記オのζ市η区内の住所に変 更し,平成19年9月25日,同区に対し生活保護の受給申請を行い,同 日以降,同区から生活保護(生活扶助,住宅扶助及び医療扶助)を受給している。(以上につき,乙7)キ原告及び亡Bは,平成19年5月28日に別居した後,平成25年▲月▲日に亡Bが死亡するまで,互いの家を訪問したことはなく,電話等で連絡を取り合ったこともない。また,原告は,上記別居期間を通じて,亡B に対し,生活費等の経済的援助を頼んだことはなく,亡Bから直接仕送りを受けたこともない。 ク Cは,原告及び亡Bが別居した後も,年に一,二回は亡Bの住居を訪問しており,その度に,亡Bから,数万円から10万円程度の金銭(以下「本件援助金」という。)を渡されていた。亡Bは,本件援助金を渡す際,Cに 対し,その使途を指定したことはなく,また,Cは,本件援助金を他の金銭と分けて保管することはせず,その多くを自ら費消する一方で,平成20年の夏前頃,その一部を使って原告のために複数の家電製品を購入した。 Cは,亡Bから,原告の住所や生活状況等を尋ねられたが,話すことができない旨答えると,亡Bがそれ以上質問することはなかった。 ケ一方,Cは,年に2回は原告の自宅も訪問していた。 亡Bを恐れていた原告は,Cに 生活状況等を尋ねられたが,話すことができない旨答えると,亡Bがそれ以上質問することはなかった。 ケ一方,Cは,年に2回は原告の自宅も訪問していた。 亡Bを恐れていた原告は,Cに対し,自分と会っていることを亡Bに伝えないでほしい旨話していたが,ζ市η区に転居してから数年が経過した頃になると,Cに対し,亡Bの様子を尋ねるようになった。その際,Cは,原告を怖がらせないように,手短に,普段どおりの生活をしているなどと 答えていた。 なお,Cは,平成19年夏頃,原告が使用するための携帯電話を購入し,それ以後,その料金を負担するなどして,原告に対する経済的な支援を継続している。 コ亡Bは,平成25年▲月▲日,α市θの自宅で死亡し,原告は,喪主で あるCと共に,亡Bの葬儀を行った。 サ原告は,亡Bが死亡した平成25年頃に至っても,同人に対する恐怖心が消えず,外出のみならず,家事等をすることも困難な状態であった。 3 本件認定要件該当性について(1) 本件認定要件ア(住民票上同一世帯に属しているとき)該当性ア上記認定事実のとおり,原告が外国人登録上の住所をζ市η区に移動さ せたことにより(認定事実(2)カ),亡Bの死亡時において,原告と亡Bは住民票上同一世帯に属していなかったのであるから(乙3,8),原告は,本件認定要件アに該当しない。 イ原告は,α市の職員から,生活保護の受給には外国人登録上の住所変更が必要である旨告げられた際,同住所変更により遺族厚生年金の受給資格 を失うことになるとの説明は一切なかったから,同じく行政を担う処分行政庁が生計同一関係を欠くと主張することは信義則上許されず,公平原則にも反するなどとして,原告はなお住民票上亡Bと同一世帯に属していると認 とになるとの説明は一切なかったから,同じく行政を担う処分行政庁が生計同一関係を欠くと主張することは信義則上許されず,公平原則にも反するなどとして,原告はなお住民票上亡Bと同一世帯に属していると認めるべきである旨主張する。 しかし,生活保護の受給の相談を受けたα市の職員が,生活保護の受給 要件やその手続等を説明することを超えて,外国人登録上の住所変更により遺族厚生年金の受給資格を失うおそれがあることを説明しなければならない法律上又は信義則上の義務を負うものとは解し難く,原告の主張はその前提を欠くものというべきである。また,居住地を変更したものは,原則として居住地の変更登録申請義務を負っているのであり(廃止前の外 国人登録法8条参照),α市の職員が,原告に変更登録申請をするかどうかの選択権があることを前提に上記受給資格の喪失のおそれを説明する義務はない。仮に,α市の職員が原告に対し上記受給資格を喪失するおそれがあることを説明すべきであったとしても,それ故に,本件各処分の処分行政庁である厚生労働大臣が,原告と亡Bの生活実態に反して,原告と 亡Bが同一世帯に属していると認めなければならない理由もない。原告の 主張は採用することができない。 (2) 本件認定要件ウ(イ)該当性ア本件認定要件ウ(イ)の(ア)(生活費,療養費等の経済的な援助が行われていること)該当性(ア) 原告は,別居期間を通じて,亡Bに対し,生活費等の経済的援助を 頼んだことはなく,亡Bから直接仕送りを受けたこともないというのであり(認定事実(2)キ),原告が,亡Bから,生活費,療養費等の経済的な援助を受けていたとは認められない。 (イ) 原告は,Cを通じて,亡Bから間接的に経済的な援助を受けていた旨主張する。 しかし 実(2)キ),原告が,亡Bから,生活費,療養費等の経済的な援助を受けていたとは認められない。 (イ) 原告は,Cを通じて,亡Bから間接的に経済的な援助を受けていた旨主張する。 しかし,亡Bは,Cに本件援助金を渡す際,それを原告のために使うよう指示したことはなかったというのであるから(認定事実(2)ク),本件援助金は,Cの生活費等を援助する趣旨で交付されたものと考えるのが自然であって,現に,Cは本件援助金を他の金銭と分けて保管することなく,その多くを自らのために費消している(認定事実(2)ク)。 また,亡Bが別居前から原告の生活費等の支払を拒む一方で,一人暮らしを開始したCの生活を気遣い,小遣いを渡していたこと(認定事実(1)ウ,オ)等からすれば,Cが本件援助金の一部を原告のために使ったこと等を踏まえても,本件援助金が,原告の生活費等を援助する趣旨でCに交付されたものとは認められない。 なお,仮に,亡Bにおいて,Cが本件援助金の一部を原告のために使うことを黙認していたとしても,それは,亡Bが本件援助金の使途を特に限定しなかったということにすぎないし,本件援助金は,年に一,二度,1回当たり数万円から10万円程度のものにすぎず,本件援助金の多くはCが自ら費消したというのであるから(認定事実(2)ク),これ をもって,本件認定要件ウ(イ)の(ア)にいう「経済的な援助」と評価す ることはできない。 イ本件認定要件ウ(イ)の(イ)(定期的に音信,訪問が行われていること)該当性(ア) 原告及び亡Bは,別居後亡Bが死亡するまでの6年以上の間,互いの家を訪問したことはなく,電話等で連絡を取り合うこともしていない というのであり(認定事実(2)キ),原告と亡Bの間で,定期的に音信,訪問が行われ 別居後亡Bが死亡するまでの6年以上の間,互いの家を訪問したことはなく,電話等で連絡を取り合うこともしていない というのであり(認定事実(2)キ),原告と亡Bの間で,定期的に音信,訪問が行われていたとは認められない。 (イ) 原告は,Cを通じて,間接的に亡Bと音信,訪問を行っていた旨主張する。 しかし,Cが亡Bを訪問するのは年に一,二回程度にすぎず,その際, 亡BがCに対して原告の生活状況等を尋ねても,Cはほとんど答えなかったこと(認定事実(2)ク),Cが原告を訪問するのも年に2回程度であり,その際,原告がCに対し亡Bの生活状況等を尋ねることがあったものの,Cは,亡Bに恐怖心を抱く原告に配慮し,手短に答えるにとどまっていたこと(認定事実(2)ケ)などからすると,原告と亡Bの間にお いて,Cを介した定期的な音信,訪問が行われていたと評価することはできない。したがって,本件認定要件ウ(イ)の(イ)にいう「定期的に音信,訪問が行われていること」に該当するとは認められない。 ウ小括以上によれば,その他の要件について検討するまでもなく,原告は本件 認定要件ウ(イ)に該当しない。 (3) 例外条項該当性ア遺族厚生年金は,被保険者等が死亡した場合における遺族の生活の安定と福祉の向上を図る社会保障的性格を有する公的給付であること,未支給年金等の請求は,受給権者と生計を同じくしていた遺族の生活保障の見地 から特に認められたものであること(上記1(1),(2)参照)に照らすと, 遺族厚生年金及び未支給年金等は,被保険者等の死亡により消費生活上の家計に直接の影響がある者に対して支給されることが予定されているというべきであり,遺族厚生年金に係る厚年令3条の10並びに未支給年金等に係る国年法1 支給年金等は,被保険者等の死亡により消費生活上の家計に直接の影響がある者に対して支給されることが予定されているというべきであり,遺族厚生年金に係る厚年令3条の10並びに未支給年金等に係る国年法19条1項及び厚年法37条1項にいう「死亡の当時その者と生計を同じくしていた者」(生計同一関係)に該当するためには,被 保険者等の死亡の当時,配偶者等が被保険者等と消費生活上の家計を一つにしていると認められる状況にあったことを要すると解するのが相当である。そして,形式的には本件認定要件を充足しない場合であっても,被保険者等とその配偶者の間の個別具体的な事情に基づき,上記のような状況があったと評価し得る場合には,生計同一関係を認めることができるも のと解され,例外条項は正にそのような場合を想定したものというべきである(上記1(3)参照)。 イそこで検討するに,上記(2)のとおり,原告と亡Bの別居期間は,約6年1か月もの長期間にわたる上,この別居期間中,亡Bが原告に対し経済的な援助をしたことはなく,原告が亡Bに対し生活費等の経済的援助を求め たこともなく,原告は自ら生活保護を申請し,これを受給して生活していたというのである。 しかも,亡Bは,原告が家を出た後,原告の荷物を全て処分し,裁判官の審尋において,原告と離婚するつもりである旨述べていたこと,その後6年以上にわたり,原告と亡Bが互いの家を訪問したことはなく,原告は, Cから亡Bが入院したことを知らされても,亡Bを見舞ったり連絡を取ったりすることはなかったこと,さらに,原告は亡Bが死亡した時点においても,同人に対する強い恐怖心を抱き,外出や家事等が困難な状況であったことなどからすると,亡Bの死亡時において,原告と亡Bの関係が改善していたとはいえず,別 ,さらに,原告は亡Bが死亡した時点においても,同人に対する強い恐怖心を抱き,外出や家事等が困難な状況であったことなどからすると,亡Bの死亡時において,原告と亡Bの関係が改善していたとはいえず,別居が解消される可能性があったとは認められない。 これらの事情からすると,原告が亡Bによる暴力から逃れるため別居す るに至った経緯等を十分に考慮してもなお,亡Bの死亡の当時,原告が亡Bと消費生活上の家計を一つにしていると認められる状況にあったとはいえず,例外条項により生計同一関係に該当すると認めることはできない。 ウ(ア) 原告は,離婚に際しては離婚時年金分割制度により,死亡に際しては遺族厚生年金により,配偶者の生活保障が図られているのであるから, 生計同一関係を判断するに際しても,離婚時年金分割制度と整合的に解釈すべきであるなどと主張する。 しかし,離婚時年金分割制度は,中高齢者の比較的婚姻期間の長い夫婦の離婚において,夫婦双方の年金受給額に大きな格差が生じる場合があることから,その解消を目的として設けられた制度である(乙18)。 これに対し,遺族厚生年金及び未支給年金等の支給は,上記アで述べたとおり,遺族の生活保障の見地から認められたものであって,両制度はその趣旨目的を異にするものというべきであるから,その適用される配偶者の範囲が異なり得ることは,制度上やむを得ないものというべきである。原告の上記主張は採用することができない。 (イ) 原告は,配偶者からの暴力を受けた被害者を保護するDV防止法の趣旨を踏まえれば,配偶者からの暴力を理由とする別居の場合には,再び同居することができる環境が整わない限り,別居はやむを得ないものとして保護されなければならず,本件については,緊急避難の V防止法の趣旨を踏まえれば,配偶者からの暴力を理由とする別居の場合には,再び同居することができる環境が整わない限り,別居はやむを得ないものとして保護されなければならず,本件については,緊急避難の状態が継続していたものであって,生計同一関係は認められるべきであるなどと 主張する。 しかし,前述のとおり,遺族厚生年金及び未支給年金等の支給は,遺族の生活保障の見地から認められたものであって,被保険者等の死亡により消費生活上の家計に直接の影響がある者に対して支給されることが予定されているのであり,一時的な別居状態を超えて,消費生活上の家 計を異にする状態が長期間継続し固定化しているような場合にまで,生 計同一関係を認めることは,立法論としてはともかく,現行法の解釈としては困難といわざるを得ない。しかるところ,本件においては,亡Bからの経済的な援助も,音信も訪問もない状態が約6年1か月にわたり継続し,これが容易に解消する見込みもなかったことが認められるのであるから,これを一時的な別居状態ということはできず,生計同一関係 を満たすものと認めることはできない。原告の主張は採用することができない。 (ウ) 原告は,平成28年仙台高判の説示に沿って検討すれば,本件においても例外条項により生計同一関係該当性が認められる旨主張する。 しかし,前述のとおり,亡Bからの経済的な援助も,音信も訪問もな い状態が約6年1か月にわたり継続し,これが容易に解消する見込みもなかったという本件の事実関係の下では,平成28年仙台高判の説示に沿って検討してもなお,生計同一関係を認めることは困難というべきである。本件は,平成28年仙台高判とは事案を異にするというほかはなく,原告の主張は採用することができない。 主文 原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判断する。 理由 28年仙台高判の説示に沿って検討してもなお,生計同一関係を認めることは困難というべきである。本件は,平成28年仙台高判とは事案を異にするというほかはなく,原告の主張は採用することができない。また,原告は,そのほかにも縷々主張するが,いずれも採用することができない。 結論 以上によれば,原告は,亡Bの死亡の当時,亡Bと生計を同じくしていたとは認められず,生計同一関係及び生計維持関係を満たさないというべきであるから,本件各処分はいずれも適法である。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官山田明 裁判官徳地淳 裁判官石川舞子
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