【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人佐伯静治、同新井章、同池田真規、同今永博彬、同五十嵐義三、同岩 崎
主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人佐伯静治、同新井章、同池田真規、同今永博彬、同五十嵐義三、同岩 崎修、同猪狩久一、同猪狩康代、同榎本信行、同尾崎陞、同大森典子、同風早八十 二、同川村俊紀、同郷路征記、同後藤徹、同今重一、同今瞭美、同佐藤文彦、同佐 藤太勝、同佐藤義雄、同斎藤了一、同鈴木悦郎、同田村徹、同田中宏、同内藤功、 同中村仁、同彦坂敏尚、同林信一、同広谷陸男、同牧雅俊、同三津橋彬、同吉原正 八郎、同渡辺良夫、同中島達敬の上告理由について 上告人らが上告理由第二部第一点ないし第四点(第一部中これに関連する部分を 含む。)において主張するところは、要するに、本件保安林指定解除処分取消訴訟 における本案前の問題としての上告人らの原告適格及び訴えの利益の有無に関して 原審が示した認定判断には法令の解釈適用の誤りや理由齟齬、事実誤認、審理不尽、 理由不備の違法があるというにあるが、上告人らの主張と原審の認定判断の間には 原告適格ないし訴えの利益についての基本的な見解の相違が存在し、それが上告理 由の各論点の底流をなしていると考えられるので、以下においては、右の基本的問 題との関連において各上告理由を本件における原告適格、訴えの利益の消滅、いわ ゆる跡地利用と原告適格ないし訴えの利益との関係の各項目に区分し、そのそれぞ れにつき順を追つて当裁判所の見解と判断を示すこととする。 一 原告適格について(上告理由第二部第一点関係) 森林法(以下「法」という。)上、農林水産大臣は、水源のかん養その他法二五 条一項各号に掲げられている目的を達成するため必要があるときは、森林を保安林 として指定することができるとされており、いつたん保安林の指定があると、当該 - 1 - 森林における立 のかん養その他法二五 条一項各号に掲げられている目的を達成するため必要があるときは、森林を保安林 として指定することができるとされており、いつたん保安林の指定があると、当該 - 1 - 森林における立木竹の伐採、立木の損傷、家畜の放牧、下草・落葉・落枝の採取又 は土石・樹根の採掘、開懇その他の土地の形質を変更する行為が原則として禁止さ れ、当該森林の所有者等が立木の伐採跡地につき植栽義務を負うなど、種々の制限 が課せられるほか(法三四条、三四条の二)、違反者に対しては、都道府県知事の 監督処分が規定されており(法三八条)、また、罰則による制裁も設けられている (法二〇六条三号ないし五号、二〇九条等)。このように、保安林指定処分は、森 林所有者等その直接の名宛人に対しては、私権の制限を伴う不利益処分の性格を有 するものであるが、他方、右処分によつて達成しようとする目的として法二五条一 項各号が掲げるところを通覧すると、それらはおおむね、当該森林の存続によつて 周辺住民その他の不特定多数者が受ける生活上の利益とみられるものであつて、法 は、これらの利益を自然災害の防止、環境の保全、風致の保存などの一般的公益と してとらえ、かかる公益の保護、増進を目的として保安林指定という私権制限処分 を定めたものと考えられるのである。 ところで、一般に法律が対立する利益の調整として一方の利益のために他方の利 益に制約を課する場合において、それが個々の利益主体間の利害の調整を図るとい うよりもむしろ、一方の利益が現在及び将来における不特定多数者の顕在的又は潜 在的な利益の全体を包含するものであることに鑑み、これを個別的利益を超えた抽 象的・一般的な公益としてとらえ、かかる公益保護の見地からこれと対立する他方 の利益に制限を課したものとみられるときには、通常、当該公益に包含される不特 定多数者の とに鑑み、これを個別的利益を超えた抽 象的・一般的な公益としてとらえ、かかる公益保護の見地からこれと対立する他方 の利益に制限を課したものとみられるときには、通常、当該公益に包含される不特 定多数者の個々人に帰属する具体的利益は、直接的には右法律の保護する個別的利 益としての地位を有せず、いわば右の一般的公益の保護を通じて附随的、反射的に 保護される利益たる地位を有するにすぎないとされているものと解されるから、そ うである限りは、かかる公益保護のための私権制限に関する措置についての行政庁 の処分が法律の規定に違反し、法の保護する公益を違法に侵害するものであつても、 - 2 - そこに包含される不特定多数者の個別的利益の侵害は単なる法の反射的利益の侵害 にとどまり、かかる侵害を受けたにすぎない者は、右処分の取消しを求めるについ て行政事件訴訟法九条に定める法律上の利益を有する者には該当しないものと解す べきである。しかしながら、他方、法律が、これらの利益を専ら右のような一般的 公益の中に吸収解消せしめるにとどめず、これと並んで、それらの利益の全部又は 一部につきそれが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとす ることももとより可能であつて、特定の法律の規定がこのような趣旨を含むものと 解されるときは、右法律の規定に違反してされた行政庁の処分に対し、これらの利 益を害されたとする個々人においてその処分の取消しを訴求する原告適格を有する ものと解することに、なんら妨げはないというべきである。 これを前記森林法所定の保安林指定処分についてみるのに、右処分が一般的公益 の保護を目的とする処分とみられることは前記のとおりであるが、法は他方におい て、利害関係を有する地方公共団体の長のほかに、保安林の指定に「直接の利害関 係を有する者」において、森林を保安林として指定す の保護を目的とする処分とみられることは前記のとおりであるが、法は他方におい て、利害関係を有する地方公共団体の長のほかに、保安林の指定に「直接の利害関 係を有する者」において、森林を保安林として指定すべき旨を農林水産大臣に申請 することができるものとし(法二七条一項)、また、農林水産大臣が保安林の指定 を解除しようとする場合に、右の「直接の利害関係を有する者」がこれに異議があ るときは、意見書を提出し、公開の聴聞手続に参加することができるものとしてお り(法二九条、三〇条、三二条)、これらの規定と、旧森林法(明治四〇年法律第 四三号)二四条においては「直接利害ノ関係ヲ有スル者」に対して保安林の指定及 び解除の処分に対する訴願及び行政訴訟の提起が認められていた沿革とをあわせ考 えると、法は、森林の存続によつて不特定多数者の受ける生活利益のうち一定範囲 のものを公益と並んで保護すべき個人の個別的利益としてとらえ、かかる利益の帰 属者に対し保安林の指定につき「直接の利害関係を有する者」としてその利益主張 をすることができる地位を法律上付与しているものと解するのが相当である。そう - 3 - すると、かかる「直接の利害関係を有する者」は、保安林の指定が違法に解除され、 それによつて自己の利益を害された場合には、右解除処分に対する取消しの訴えを 提起する原告適格を有する者ということができるけれども、その反面、それ以外の 者は、たといこれによつてなんらかの事実上の利益を害されることがあつても、右 のような取消訴訟の原告適格を有するものとすることはできないというべきである。 そこで進んで法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」の意義ないし範 囲について考えるのに、法二五条一項各号に掲げる目的に含まれる不特定多数者の 生活利益は極めて多種多様であるから、結局、そのそれぞれの生活利益 二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」の意義ないし範 囲について考えるのに、法二五条一項各号に掲げる目的に含まれる不特定多数者の 生活利益は極めて多種多様であるから、結局、そのそれぞれの生活利益の具体的内 容と性質、その重要性、森林の存続との具体的な関連の内容及び程度等に照らし、 「直接の利害関係を有する者」として前記のような法的地位を付与するのが相当で あるかどうかによつて、これを決するほかはないと考えられる。原審は、特定の保 安林の指定に際して、具体的な地形、地質、気象条件、受益主体との関連等から、 処分に伴う直接的影響が及ぶものとして配慮されたものと認めうる個々人の生活利 益をもつて、当該処分による個別的・具体的な法的利益と認めるべきものとし、本 件保安林は、a町一円の農業用水確保目的を動機として、水源かん養保安林として 指定されたものであり、その指定に当たつては、右農業用水の確保のほか、洪水予 防、飲料水の確保という効果も配慮され、右処分によるその実現が期待されていた ものと認め、これらの利益を右の個別的・具体的な法的利益とし、進んで右の見地 から、本件保安林の有する理水機能が直接重要に作用する一定範囲の地域、すなわ ち保安林の伐採による理水機能の低下により洪水緩和、渇水予防の点において直接 に影響を被る一定範囲の地域に居住する住民についてのみ原告適格を認めるべきも のとしているのであるが、原審の右見解は、おおむね前記「直接の利害関係を有す る者」に相当するものを限定指示しているものということができるのであつて、そ - 4 - の限りにおいて原審の右見解は、結論において正当というべきである。ところで、 原審の認定によれば、本件保安林のうち原判決添付図面一表示の(イ)斜線部分( 以下「本件保安林部分」という。)の伐採により農業用水及び飲料水の不足の影響 を受ける おいて正当というべきである。ところで、 原審の認定によれば、本件保安林のうち原判決添付図面一表示の(イ)斜線部分( 以下「本件保安林部分」という。)の伐採により農業用水及び飲料水の不足の影響 を受ける範囲はそれぞれ右図面表示の(ロ)斜線部分及び破線内の範囲に限られる ものと認められ、また、b川の本支流から東四線排水路、零号排水路を経由してc 運河に至る流域は、本件保安林部分からの流水による直接的水害のおそれが認めら れ、その水害対策が講ぜられるべき地帯であるが、c運河排水機場は、右水害防止 対策として流水排出のために設置された設備であるところ、c運河排水機場流域( 右図面における実線表示の範囲。以下「排水機場流域」という。)はその機械排水 能力の及ぶ範囲として地形上予定されているものであると認められ、本件保安林の 指定に際し、本件保安林部分に関しては、排水機場流域が水害防止必要地域として 直接の影響の及ぶ範囲として考慮されたものと解するのが相当である、というので あり、原審は、これらの認定に基づいて排水機場流域(農業用水及び飲料水の不足 の影響を受ける地域はこの中に含まれている。)内に居住する者のみが本件保安林 部分の伐採による理水機能の低下によつて直接の影響を受ける者に当たるとしてい る。所論は、排水機場流域は本件保安林部分の伐採によつて洪水の危険が生ずる地 域に含まれるといいうるとしても、後者の範囲は当然には前者の範囲に限られると はいえない旨主張するが、原審の上記認定判断は原判決挙示の証拠関係に照らして 是認することができないではなく、その過程に右所論の違法があるということはで きない。そうすると、上告人らのうち本件記録上排水機場流域内に居住する者でな いことが明らかな原判決添付別紙当事者目録中に甲と表示のある者は、いずれも前 記「直接の利害関係を有する者」に当たらな とはで きない。そうすると、上告人らのうち本件記録上排水機場流域内に居住する者でな いことが明らかな原判決添付別紙当事者目録中に甲と表示のある者は、いずれも前 記「直接の利害関係を有する者」に当たらないものというべく、したがつて、右上 告人らの本件訴えは原告適格を欠く不適法のものであるとした原審の判断は、結局、 正当として是認することができる。(仮に所論のように本件保安林部分の伐採によ - 5 - る理水機能の低下によつて洪水の危険が生ずる地域が排水機場流域よりも広く、し たがつて、排水機場流域外に居住する上告人らについても原告適格を肯定する余地 があるとしても、後記「二」において判示するように、排水機場流域内に居住する 上告人らについても訴えの利益が消滅するに至つたとされる関係にある以上、右地 域外に居住する上告人らについても同様に考えられるから、右の点に関する認定判 断の違法は、結局、原判決の結論に影響を及ぼす瑕疵とはならないというべきであ る。) なお、所論は、原審が本件訴訟の原告適格につき排水機場流域内に居住する者の みに限つてこれを認め、非居住者でも洪水によつて生活上なんらかの態様で影響を 受ける者についてこれを認めなかつたことは行政事件訴訟法九条の解釈を誤つたも のであると主張するが、さきに説示したとおり、かかる非居住者の利益は前記一般 的公益に包含され、これとは別個独立の保護法益としての存在をもつものではなく、 たかだか地域住民の利益の代表者として関係地方公共団体の長がその利益主張の任 に当たるものとされているにすぎないと解すべきであるから、右論旨も採用するこ とができない。 二 訴えの利益の消滅について(上告理由第二部第二点関係) 前記の見解のもとに上告人らのうち原告適格を有するとされた排水機場流域内に 居住する者(原判決添付別紙当事者目録中に乙と表示 とができない。 二 訴えの利益の消滅について(上告理由第二部第二点関係) 前記の見解のもとに上告人らのうち原告適格を有するとされた排水機場流域内に 居住する者(原判決添付別紙当事者目録中に乙と表示のある者。以下「乙と表示の ある上告人ら」という。)についても、本件保安林指定解除処分後の事情の変化に より、右原告適格の基礎とされている右処分による個別的・具体的な個人的利益の 侵害状態が解消するに至つた場合には、もはや右被侵害利益の回復を目的とする訴 えの利益は失われるに至つたものとせざるをえない。換言すれば、乙と表示のある 上告人らの原告適格の基礎は、本件保安林指定解除処分に基づく立木竹の伐採に伴 う理水機能の低下の影響を直接受ける点において右保安林の存在による洪水や渇水 - 6 - の防止上の利益を侵害されているところにあるのであるから、本件におけるいわゆ る代替施設の設置によつて右の洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは本 件保安林の存続の必要性がなくなつたと認められるに至つたときは、もはや乙と表 示のある上告人らにおいて右指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われる に至つたものといわざるをえないのである。 そこで進んで所論が専ら問題とするいわゆる代替施設による洪水の危険の解消に 関する原審の判断について検討する。 原審は、まず、砂防施設に関し、砂防堰堤は、その建設による随伴的効果として、 渓床勾配の緩化をもたらし、これによる流水の流速低下、山脚固定等により、洪水 調節の機能をもたらすことが肯認されるところ、札幌防衛施設局がb川の本支流の 沢部分に建設した七基の砂防堰堤は、合計二万三三〇立方メートルの計画貯砂能力 を有し、完成後四年九か月を経た時点において、計算上向後なお少なくとも三〇年 を越える期間土砂の流出防止の機能を発揮することが期待されうるもの 七基の砂防堰堤は、合計二万三三〇立方メートルの計画貯砂能力 を有し、完成後四年九か月を経た時点において、計算上向後なお少なくとも三〇年 を越える期間土砂の流出防止の機能を発揮することが期待されうるものと認定判断 している。 次に、原審は、本件の主要な洪水防止施設であるb一号堰堤の余水吐が発揮しう る洪水調節能力について、本件保安林部分を含むb川の本支流の集水地域三・七六 平方キロメートル(以下「本件流域」という。)における降雨量(確率日雨量)及 び右降雨量から算出して得られるb一号堰堤への最大洪水流入量を推定し、右最大 洪水流入量の流入に対する右余水吐の排出能力を測定するという方法を採用し、お おむね次のとおり認定判断している。すなわち、本件流域附近のD観測所の大正一 四年から昭和四八年までの間の四六年(昭和一三年、同二三年、同二四年は欠測) の各年最大日雨量をもとにし、確率年として一〇〇年の長期を選択して、一〇〇年 確率最大日雨量を算出した結果一五一・九ミリメートルの数値を得、これにさらに 農林省農地局制定の「土地改良事業計画設計基準」(昭和四一年六月三〇日改定) - 7 - による安全率一・二を乗じて一八二・三ミリメートルを本件流域における降雨量( 確率日雨量)として採用した。そして、右日雨量一八二・三ミリメートルについて の雨量分布(降雨量の時間配分)を推定し、単位流出量及び流出率を決定し、これ を前記雨量分布に適用して、有効雨量、時間別流出量及び合成流出量を算出した結 果、本件保安林部分を除いた本件流域からの最大洪水流出量を毎秒一六・四四八立 方メートル、本件保安林部分からの最大洪水流出量を毎秒四・九三一立方メートル と算定し、その合計毎秒二一・三七九立方メートルを、本件流域からb一号堰堤に 流入すると推定される最大洪水流入量であるとしている。次に、原審は、右最大 分からの最大洪水流出量を毎秒四・九三一立方メートル と算定し、その合計毎秒二一・三七九立方メートルを、本件流域からb一号堰堤に 流入すると推定される最大洪水流入量であるとしている。次に、原審は、右最大洪 水流入量毎秒二一・三七九立方メートルがb一号堰堤を通過し余水吐から流下する ときは、その洪水調節機能によつて毎秒約一六・六〇立方メートルに減量され、十 分な余裕高が残されるとし、しかも、右最大洪水流入量毎秒二一・三七九立方メー トルに一・二を乗じた異常洪水量毎秒二五・六五五立方メートルがb一号堰堤に流 入すると仮定した場合でも、右余水吐からの流下量は、毎秒約二〇・二〇立方メー トルに減量されるのみならず、日雨量三二〇ミリメートルまでの降雨による洪水の 場合でも、最大洪水流出量は毎秒約四六立方メートル、余水吐からの最大排出量は 毎秒約三五・八立方メートルと計算されるが、堤頂との間に風波高〇・六メートル を残した堰堤水位標高二四・四〇メートルの状態のもとにおいて可能な右余水吐の 最大排水量毎秒三六・一一立方メートルをもつてすれば、右の雨量までの降雨によ る洪水に対してもこれを調節することができ、したがつてまた、b一号堰堤の越流 による決壊の蓋然性は無視しうる程度に低いものとみて誤りないとしている。 そして原審は、以上認定の事実関係に基づき、各砂防堰堤の土砂流出防止機能と b一号堰堤の洪水調節能力とにより、乙と表示のある上告人の居住する地域におけ る洪水の危険は社会通念上なくなつたものと認定判断しているものと解される。 以上の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし是認することができな - 8 - いではなく、その過程に所論の違法があるということはできない。所論は、また、 原審は右の点につき適切な証拠資料の提出の機会を封じたまま、不完全・不十分な 証拠資料のみに基づいて ことができな - 8 - いではなく、その過程に所論の違法があるということはできない。所論は、また、 原審は右の点につき適切な証拠資料の提出の機会を封じたまま、不完全・不十分な 証拠資料のみに基づいて判断を下した点において審理不尽の違法を免れないという が、右はひつきよう原審の専権に属する証拠調の必要性に関する判断の不当をいう ものにすぎないのみならず、かかる証拠資料の取調べが原審の前記認定判断の結論 に明らかに影響を及ぼすと認めるべき根拠を見出すこともできないので、右論旨は、 結局、採用することができない。 してみると、本件保安林の指定解除に伴う乙と表示のある上告人らの利益侵害の 状態はなくなつたと認められるのであるから、右上告人らが本件保安林指定解除処 分の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきであり、本件訴えは不適 法として却下を免れないとした原審の判断は、正当として是認することができる。 なお、所論は、本件における訴えの利益の消滅というような本案前の問題について は、その認定について慎重な態度をとるべきものであり、前記のように洪水の危険 性が社会通念上なくなつたと認められるだけでは足りず、あらゆる科学的検証の結 果に照らしてかかる危険がないと確実に断定することができる場合にのみ訴えの利 益の消滅を肯定すべきであるというが、右は独自の見解であつて採用することがで きない。 三 いわゆる跡地利用と原告適格ないし訴えの利益との関係について(上告理由 第二部第三点及び第四点関係) 論旨は、要するに、本件保安林指定解除処分が解除後の跡地利用に対する許可処 分の一面をも有することを前提とし、右解除処分の目的である本件ミサイル基地設 置に伴い上告人らの平和的生存権が侵害されるおそれがあるので、上告人らは被上 告人の公益判断の誤りを理由として右処分を争う法律上の利益 をも有することを前提とし、右解除処分の目的である本件ミサイル基地設 置に伴い上告人らの平和的生存権が侵害されるおそれがあるので、上告人らは被上 告人の公益判断の誤りを理由として右処分を争う法律上の利益を有する、というの である。 - 9 - しかしながら、本件訴訟の原告適格は、本件保安林の指定について「直接の利害 関係を有する者」に当たる乙と表示のある上告人らについてのみ認められるもので あり、その原告適格の基礎となる訴えの利益も、専らその直接の利害関係を基礎づ ける立木竹の伐採等に伴う洪水や渇水の危険の防止の点に存するものであることは、 上来説示したとおりであつて、伐採後のいわゆる跡地利用によつて生ずべき利益の 侵害のごときは、指定解除処分の取消訴訟の原告適格を基礎づけるものには当たら ないのである。もつとも、本件保安林の指定解除処分が取り消されれば、右保安林 が伐採されることもなく、また、伐採されても非森林として自由に使用することが できなくなる結果、所論のような跡地利用も事実上不可能となり、したがつてかか る利用によつて生ずる利益侵害の危険もなくなるという関係が存在することは確か であるが、このような関係があるからといつて、右跡地利用による利益侵害の危険 をもつて右指定解除処分の取消訴訟の原告適格を基礎づける法律上の利益を構成す るものと解することはできない。なお、所論は、法二六条二項による保安林指定解 除処分はその理由となつた伐採後における特定の跡地利用に対する許可を含むもの と解すべきであるというが、右指定解除処分がかかる許可を含み、ないしは許可の 効果を生ずると解すべき理由はない。また、かかる跡地利用の内容及び性質は本件 保安林の指定解除処分を適法にすることができるかどうかの実体上の問題において 重要な論点となりうるものであることは所論のとおりであるが、この点 すべき理由はない。また、かかる跡地利用の内容及び性質は本件 保安林の指定解除処分を適法にすることができるかどうかの実体上の問題において 重要な論点となりうるものであることは所論のとおりであるが、この点は本案前の 訴訟要件の有無の問題に関する限り特段の意味をもつものとはいえない。それ故、 乙と表示のある上告人ら以外の上告人らについて原審が本件訴訟の原告適格を認め なかつたこと、及び乙と表示のある上告人らについても、原審が、本件保安林の指 定解除処分による前記洪水、渇水防止上の利益の侵害が解消した以上、本件訴えの 利益は消滅したといわざるをえないとし、右利益の存否を判断するにつき、伐採後 の跡地利用による利益侵害のおそれの有無を問わなかつたことは、いずれも、結局、 - 10 - 正当として是認されるべきである。なお、所論中いわゆる平和的生存権に関する原 審の判断の不当をいう部分は、原判決の右結論に影響のない点についてその判示の 不当をいうものにすぎない。それ故、論旨は採用することができない。 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、 裁判官藤崎萬里の意見及び裁判官団藤重光の反対意見があるほか、裁判官全員一致 の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官藤崎萬里の意見は、次のとおりである。 本件訴えを却下すべきものとすることについては、私も多数意見と結論を同じく するものであるが、その理由については見解を異にする。 多数意見は、結局において原判決と同様に、上告人らのうちの一部の者について は原告適格を欠くことを理由に、その余の者については原告適格を有することを認 めたうえ訴えの利益を喪失したことを理由に訴えを不適法とするものであるが、私 は、上告人らはすべて原告適格を欠くことを理由に訴えを不適法であるとすべきも のと考える。 多数意見は、森 を有することを認 めたうえ訴えの利益を喪失したことを理由に訴えを不適法とするものであるが、私 は、上告人らはすべて原告適格を欠くことを理由に訴えを不適法であるとすべきも のと考える。 多数意見は、森林法二七条一項の規定を援用し、原審が原告適格を認めている者 はおおむね右規定にいう「直接の利害関係を有する者」に相当するから、原審の見 解は、その結論において正当であるとする。しかし、私には、右規定が行政事件訴 訟法九条に基づく原告適格の問題についての判断を左右しうるような規定であると は思われない。 そうすると、本件の場合も、この種の問題における原則的な考え方によるべきこ とになるが、その原則的な考え方は、多数意見にもあるとおり、要するに、公益に 包含される不特定多数者の個別的利益の侵害は単なる法の反射的利益の侵害にとど まり、かかる侵害を受けたにすぎない者は行政事件訴訟法九条に定める法律上の利 益を有する者には該当しない、ということである。従つて、上告人らのうちの一部 - 11 - の者に原告適格を認めることは、右の原則に対する例外を認めることを意味する。 しかも、それは法的に極めて重大な例外であるといわなければならない。なぜなら ば、一つには、この例外によつて侵される原則が行政法理論上の一つの基本的な原 則であるからであり、二つには、例外の内容が一般的には原告適格を認められない 者にこれを認めるという訴訟法上の重要問題にかかわるからである。これほど重大 な例外を認める以上、そこには当然それを正当化するに足りる事由がなければなら ないが、それは、結局、当事者の有する利害関係の格別の重大さに求めるほかない であろう。ところが、本件において原告適格を認められた者の有する利害関係の実 体にそれほど他から隔絶したものがあるとは思われないのである。 裁判官団藤重光の反対意見は、次 格別の重大さに求めるほかない であろう。ところが、本件において原告適格を認められた者の有する利害関係の実 体にそれほど他から隔絶したものがあるとは思われないのである。 裁判官団藤重光の反対意見は、次のとおりである。 本件保安林指定解除処分取消訴訟における原告適格ないし訴えの利益の問題につ いて多数意見が森林法の解釈として詳細に説示するところは、すべて、同時にわた くしの考えでもある。ただ、多数意見中、わずかに一点だけ、原判決の理解につい てわたくしとしては同調に躊躇を感じる部分があり、そのわずかな理解の相違が多 数意見とは反対の結論に導くのである。 その一点とは、多数意見が、「二」の「訴えの利益の消滅について(上告理由第 二部第二点関係)」の項の中で、「そして原審は、以上認定の事実関係に基づき、 各砂防堰堤の土砂流出防止機能とb一号堰堤の洪水調節能力とにより、乙と表示の ある上告人らの居住する地域における洪水の危険は社会通念上なくなつたものと認 定判断しているものと解される」としている箇所に関する。原判決がはたしてその ように洪水の危険が社会通念上なくなつたものと認定判断しているものといえるか どうかについて、わたくしとしては、なお、不安を払拭し切れないのである。問題 は、原審が訴えの利益の問題について、かならずしも多数意見(私見も同様)と同 一の見解をとつてはいないのではないかとおもわれる点にある。原判決はもつぱら - 12 - 本件代替施設が「伐採前の本件保安林が果していた理水機能による洪水防止の機能 に代る機能を十分に営み得るものである」かどうかの点に着眼して、これを肯定的 に認定判断しているのである。つまり、多数意見や私見においては、端的に本件代 替施設の設置によつて洪水や渇水の危険が解消されたと認められるにいたつたかど うかを問題としているのに対して、原審は を肯定的 に認定判断しているのである。つまり、多数意見や私見においては、端的に本件代 替施設の設置によつて洪水や渇水の危険が解消されたと認められるにいたつたかど うかを問題としているのに対して、原審は、単に右施設の理水機能が伐採前の本件 保安林のそれと同程度のものになつたかどうかを問うているにすぎない。なるほど、 両見解の相違は、実際問題としては、特段の事情でもないかぎり、ほとんど無視さ れうる程度のものであろうし、また、原判決は、多数意見や私見のような見解を別 に想定した上で、これと異なる見解を採る趣旨で前記のような認定判断をしたもの ではないかも知れないが、だからといつて、多数意見のように原判決を解釈して当 該地域における洪水の危険がなくなつたものと認定判断している趣旨と解するのに は、やや無理があるのではあるまいか。わたくしは、やはり、原審をして正しい理 論的前提のもとに改めて訴えの利益の消滅の有無について審理を尽くさしめるのが 本筋だとおもうのであり、原判決を破棄して事件を原審に差し戻すのが相当である と考える。 最高裁判所第一小法廷 裁判長裁判官 団 藤 重 光 裁判官 藤 崎 萬 里 裁判官 中 村 治 朗 裁判官 谷 口 正 孝 裁判官本山亨は、退官のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 団 藤 重 光 - 13 -
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