令和4(ワ)4289 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年3月30日 名古屋地方裁判所
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判決文本文6,346 文字)

令和5年3月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第4289号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年2月28日判決 主文 1 被告は、原告に対し、93万5000円及びこれに対する令和4年3月19日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、198万円及びこれに対する令和4年3月19日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、原告が、被告がインターネットのウェブサイト上で行った別紙投稿目 録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)によって、原告の名誉感情を害させられるなどして精神的苦痛を受けたほか、当該ウェブサイトに係るIPアドレスを管理するプロバイダらに対する訴訟提起等を余儀なくされた旨主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料、上記訴訟提起に要した費用等合計198万円及びこれに対する不法行為日である令和4年3月19日か ら支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める 事案である。 2 前提事実(争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。なお、証拠番号については枝番を含み、以下同様である。)⑴ 当事者ア原告は、訴外A株式会社(以下「A」という。)の専務取締役であった者で ある。(甲2、22、弁論の全趣旨) 、証拠番号については枝番を含み、以下同様である。)⑴ 当事者ア原告は、訴外A株式会社(以下「A」という。)の専務取締役であった者で ある。(甲2、22、弁論の全趣旨)イ被告は、昭和60年4月から平成9年3月まで、Aの従業員であった者であり、本件投稿をした者である。被告は、本件投稿当時、訴外アイテック株式会社(以下「アイテック」という。)に勤務していた。(甲12、20、乙7、8、弁論の全趣旨) ⑵ 被告による本件投稿等ア原告は、令和4年3月18日、原告に係る不正競争防止法違反(営業秘密不正開示)被告事件(名古屋地方裁判所平成29年(わ)第427号事件。 以下「本件刑事事件」という。)において、無罪判決を受け、同年4月2日、同判決は確定した。(甲2、3、弁論の全趣旨) イ本件刑事事件の内容等は、ヤフー株式会社(以下「ヤフー」という。)が運営するウェブサイトである「Yahoo!JAPAN」が提供するニュースポータル「Yahoo!ニュース」においても報じられた。そのうち、中京テレビが「Aの元専務らに無罪判決 『営業秘密』漏えい事件名古屋地裁」というタイトルの下で作製したニュース映像及び記事(以下「本件ニュース 記事」という。)は、本件刑事事件に関し、原告に無罪判決が言い渡されたことなどを、原告が記者会見する様子の映像等とともに報じるものであった。 (甲1から3、弁論の全趣旨)ウ被告は、令和4年3月19日午前1時16分、本件ニュース記事に関するコメント投稿欄(以下「ヤフーコメント欄」という。)に、本件投稿をした。 本件投稿はインターネットを通じて広く公開されたが、遅くとも同月22日 午後7時頃までには削除され、本件ニュース記事も、遅くとも同月31日ま フーコメント欄」という。)に、本件投稿をした。 本件投稿はインターネットを通じて広く公開されたが、遅くとも同月22日 午後7時頃までには削除され、本件ニュース記事も、遅くとも同月31日までには「Yahoo!ニュース」から削除された。(甲1から4、弁論の全趣旨)⑶ 原告による発信者情報の開示請求の経過等ア原告は、令和4年3月24日、原告代理人との間で、ヤフーや経由プロバ イダ等を相手方とする本件投稿の発信者情報開示請求事件に係る委任契約を締結した。同委任契約では、原告が、原告代理人に対し、手数料として22万円、成功報酬として22万円を支払うほか、本件投稿に係るアクセスプロバイダが複数社にわたる場合等のために3回以上の発信者情報開示請求が必要となる場合には、追加の発信者情報開示請求1件について5万500 0円の追加手数料を支払うことが合意された。(甲14)イ原告は、原告代理人を通じ、東京地方裁判所に対し、本件投稿がされたヤフーコメント欄を管理するヤフーを相手方とする発信者情報の開示を求める仮処分申立てをした(東京地方裁判所令和4年(ヨ)第962号仮処分命令申立事件)。東京地方裁判所は、令和4年5月20日、原告の上記申立て を相当と認め、ヤフーに対し、本件投稿に係るIPアドレス等の発信者情報を開示するよう命ずる旨の仮処分決定をした。その後、ヤフーは、上記仮処分決定を受けて、本件投稿に係るIPアドレス等の発信者情報を開示した。 (甲6、7)ウ前記イのヤフーによる発信者情報の開示により、本件投稿の投稿者が訴外 アルテリア・ネットワークス株式会社(以下「アルテリア・ネットワークス」という。)を経由プロバイダとして本件投稿を行ったことが判明した。そこで、原告は、原告代理人を通じ、令和4年6月3日付 アルテリア・ネットワークス株式会社(以下「アルテリア・ネットワークス」という。)を経由プロバイダとして本件投稿を行ったことが判明した。そこで、原告は、原告代理人を通じ、令和4年6月3日付けで、東京地方裁判所に対し、アルテリア・ネットワークスを被告として、本件投稿に係るIPアドレスの使用者等に関する発信者情報の開示を求める訴訟を提起した(東京 地方裁判所令和4年(ワ)第13821号発信者情報開示請求事件)。アル テリア・ネットワークスは、上記訴訟の提起等を受けて、同月30日、原告に対し、本件投稿に係るIPアドレスの事業主情報として、訴外株式会社大塚商会(以下「大塚商会」という。)の情報を開示した。そこで、原告は、アルテリア・ネットワークスに対する前記訴訟に係る訴えを取り下げた。(甲9、15、弁論の全趣旨) エ原告は、原告代理人を通じ、令和4年7月4日付けで、東京地方裁判所に対し、大塚商会を被告として、本件投稿に係るIPアドレスの使用者等に関する発信者情報の開示を求める訴訟を提起した(東京地方裁判所令和4年(ワ)第16776号発信者情報開示請求事件)。大塚商会は、上記訴訟の提起等を受けて、同月20日、原告に対し、発信者情報を開示した。そこで、 原告は、大塚商会に対する前記訴訟に係る訴えを取り下げた。(甲10、16、弁論の全趣旨)オ大塚商会による前記エの発信者情報の開示により、本件投稿は、アイテックのサーバーを利用して行われたことが判明した。そこで、原告は、原告代理人を通じ、令和4年8月16日付けで、愛知県弁護士会会長に対し、アイ テックを照会先とする弁護士法23条の2に基づく照会申出を行った。愛知県弁護士会会長は、上記申出を受けて、アイテックに対し、本件投稿の投稿者の住所及び氏名について照 弁護士会会長に対し、アイ テックを照会先とする弁護士法23条の2に基づく照会申出を行った。愛知県弁護士会会長は、上記申出を受けて、アイテックに対し、本件投稿の投稿者の住所及び氏名について照会を求めたところ、アイテックは、上記照会に対し、同月23日、本件投稿の投稿者が被告であることなどを回答した。(甲10から12) 3 争点及びこれに関する当事者の主張本件における争点は、本件投稿によって原告に生じた損害の有無及びその金額であり、これに関する当事者の主張の要旨は以下のとおりである。 (原告の主張の要旨)被告がした本件投稿によって生じた原告の損害は、後記⑴から⑷の合計198 万円を下回らない。 ⑴ 慰謝料:100万円本件投稿は、その内容等に照らし、原告の人格を貶め、社会生活上許容される限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものである。また、本件投稿は、本件刑事事件に関し、無実の罪によって5年間も被告人として精神的にも苦しい立場に立たされた原告に更に追い打ちをかけるものであって、本件投稿の動機 や態様の悪質性等も併せると、本件投稿が社会生活上許容される限度を超える侮辱行為であることは明らかである。本件投稿よって受けた原告の精神的苦痛は甚大であり、その精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は100万円を下回らない。 ⑵ 発信者情報の開示に要した費用:55万円 原告は、被告による本件投稿によって、前記前提事実⑶イからオの本件投稿に係る発信者情報開示手続を余儀なくされた結果、その費用として、同アの原告代理人との委任契約に基づく合計55万円の支払義務を負った。 ⑶ 刑事告訴に要した費用:33万円原告は、令和4年10月5日、原告代理人を通じ、愛知県警察本部に対し、 本件投稿が刑法231条 理人との委任契約に基づく合計55万円の支払義務を負った。 ⑶ 刑事告訴に要した費用:33万円原告は、令和4年10月5日、原告代理人を通じ、愛知県警察本部に対し、 本件投稿が刑法231条の侮辱罪を構成することを理由とする刑事告訴をしたところ、同告訴のための費用として、原告代理人との間の委任契約に基づき、33万円の支払義務を負った。 ⑷ 本件訴訟に係る弁護士費用:10万円本件訴訟提起のための弁護士費用は10万円を下回らない。 (被告の主張の要旨)いずれも否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 慰謝料について本件投稿は、その内容等に照らして、社会生活上許容される限度を超えて原告 の名誉感情を侵害するものとして違法であり、被告が本件投稿をした行為が、原 告に対する不法行為を構成することについては当事者間に争いがないところ、本件投稿は、知能が劣り、愚かなことを示唆する「バカ」を含む「バカボン」という表現を用いて原告を揶揄した上で、本件刑事事件で無罪判決が言い渡された事実について、真実は、原告が金銭を得る目的で当該犯罪事実に及んだことを前提とし、かつ、原告が不当な手段でAにおける地位を獲得したことを示唆する表現 を用いて原告を侮辱する内容であると認められる。また、上記のような本件投稿の内容に加え、前記前提事実⑵イ及びウのとおり、本件ニュース記事は、本件刑事事件に関し、原告に無罪判決が言い渡されたことなどを、原告が記者会見する様子の映像等とともに報じるものであり、かつ、本件投稿は、上記のような本件ニュース記事に関するヤフーコメント欄に投稿されたものであることなどからす れば、本件投稿を閲覧した一般読者は、本件投稿が原告に向けられたものであると認識することは明らかであり、また、前 本件ニュース記事に関するヤフーコメント欄に投稿されたものであることなどからす れば、本件投稿を閲覧した一般読者は、本件投稿が原告に向けられたものであると認識することは明らかであり、また、前記前提事実⑵ウのとおり、本件投稿が遅くとも令和4年3月22日午後7時頃までには削除されたことを考慮しても、本件投稿が、インターネットを通じて広く伝播したことは容易に推察される。このような本件投稿の内容等に加え、本件投稿によって侵害された原告の権利の内 容、長年にわたって本件刑事事件に係る公訴事実を争い、無罪判決を受けた原告が、本件投稿によって被った不利益の程度、精神的苦痛の大きさ、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、被告の前記不法行為による原告の慰謝料は、30万円とするのが相当である。 2 原告主張のその他の損害について ⑴ 発信者情報の開示に要した費用について前記前提事実⑶のとおり、原告は、本件投稿の投稿者を特定するため、原告代理人に対し、本件投稿に係る各発信者情報開示手続を委任したところ、証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、上記各手続のための費用として、原告代理人との委任契約に基づき、弁護士費用として合計55万円の支払 義務を負ったことが認められる。そして、上記各手続は、いずれも法律の専門 家ではない原告が行うのは困難であったと認められるし、上記各手続に係る費用は、原告において、本件投稿をした者が被告であることを明らかにするために必要となった費用であり、被告に対する民事上の損害賠償請求訴訟の前提として必要不可欠な手続のための費用といえるから、被告による前記不法行為と相当因果関係を有する損害として認めるのが相当である。 ⑵ 刑事告訴に要した費用について原告は、本件投稿について として必要不可欠な手続のための費用といえるから、被告による前記不法行為と相当因果関係を有する損害として認めるのが相当である。 ⑵ 刑事告訴に要した費用について原告は、本件投稿について刑事告訴をしたところ、同告訴のための費用として、原告代理人との間の委任契約に基づき、弁護士費用として33万円の支払義務を負った旨主張し、上記費用を本件投稿によって生じた損害として主張する。しかし、刑事告訴は、刑事処罰を求めるための手続であり、民事上の損害 賠償請求訴訟の前提として必要不可欠な手続とは認め難いし、弁護士に依頼しなければこれをなし得ないものともいえないことからすると、原告主張の告訴のために要した上記費用は、被告の前記不法行為との間に相当因果関係を有する損害とは認められない。したがって、原告の前記主張を採用することはできない。 ⑶ 本件訴訟に係る弁護士費用原告は、弁護士に対し、本件訴訟の提起及び追行を委任しているところ、本件事案の内容、性質及び難易、審理の経過、前記1及び前記⑴の損害の合計額(85万円)等に照らすと、被告の前記不法行為との間で相当因果関係を有する本件訴訟に係る弁護士費用相当の損害額は、8万5000円が相当である。 3 小括前記1及び2に説示したところに照らせば、被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償債務として、原告に生じた損害合計93万5000円(前記1並びに前記2⑴及び⑶の各損害の合計額)及びこれに対する本件投稿の日(不法行為日)である令和4年3月19日から支払済みまで民法所定年3パーセントの割 合による遅延損害金の支払義務を負うものと認められる。 第4 結論以上によれば、原告の請求は、被告に対し、93万5000円及びこれに対する令和4年3月19日から支払 パーセントの割 合による遅延損害金の支払義務を負うものと認められる。 第4 結論以上によれば、原告の請求は、被告に対し、93万5000円及びこれに対する令和4年3月19日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第10部 裁判官赤谷圭介 (別紙)投稿目録投稿日時令和4年3月19日午前1時16分投稿内容 「バカボン、岐阜の片田舎でやる必要あったのか?鼻から隠したかったんでしょう?金のためって菊〇言ってたじゃないか?どれだけ人を踏み台にして上がっていったか、自分自身が知ってるだろう。上告」IPアドレス▲▲.▲.▲▲▲.▲▲

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