- 1 -令和6年2月9日判決言渡長野地方裁判所令和3年(ワ)第149号 売買代金等請求事件判 決主 文1 原告の主位的請求を棄却する。 52 被告は、原告に対し、6717万0927円及びこれに対する令和3年11月12日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の予備的請求を棄却する。 4 訴訟費用は、これを2分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 105 この判決は、2項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が7000万円の担保を提供するときは、その仮執行を免れることができる。 事 実 及 び 理 由第1 請求の趣旨1 主位的請求15被告は、原告に対し、1億4765万9050円及びこれに対する令和3年8月21日から支払済みまで年2.6%の割合による金員を支払え。 2 予備的請求被告は、原告に対し、1億3481万0182円及びこれに対する令和3年11月12日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 20第2 事案の概要1 請求の内容⑴ 主位的請求ア 防護服の売買契約に基づく代金1億3423万9050円(1着4500円の2万7119着分及び消費税10%)の支払請求25イ 上記アの債務不履行に基づく1342万円(上記アの約10%に相当す- 2 -る弁護士費用)の損害賠償請求ウ 上記ア及びイに対する催告の日(訴状送達の日)の翌日である令和3年8月21日から支払済みまで約定の年2.6%の割合による遅延損害金の請求⑵ 予備的請求5ア 上記⑴アに関し、契約締結準備 びイに対する催告の日(訴状送達の日)の翌日である令和3年8月21日から支払済みまで約定の年2.6%の割合による遅延損害金の請求⑵ 予備的請求5ア 上記⑴アに関し、契約締結準備段階における信義則上の義務違反による債務不履行又は不法行為に基づく1億3481万0182円の損害賠償請求イ 上記アに対する催告の日(訴え変更申立書送達の日)の翌日である令和3年11月12日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損10害金の請求2 前提事実(特記のない事実は当事者間に争いがない。)⑴ 当事者原告は、婦人服の企画、製造、販売を主たる業務内容とする株式会社であり、被告は、普通地方公共団体である。 15⑵ 新型コロナウイルス感染症の流行(いわゆるコロナ禍)[公知の事実]令和元年12月頃以降、未知の新型コロナウイルス感染症が世界各地に拡大し、本邦でも令和2年1月頃から全国的かつ急速にまん延して、死者を含む感染患者が報告され、指定感染症(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律6条8項)の指定を経て、同年4月7日には新型インフ20ルエンザ等対策特別措置法32条に基づく緊急事態宣言が史上初めて発出され、同月16日には長野県域もその対象となった(同年5月25日解除)。 ⑶ 当事者間の交渉経緯等ア 被告は、上記コロナ禍で医療用資機材の供給がひっ迫する中、各部局において緊急に物資の調達を進めていたところ、まとまった数の防護服を原25告が中国から輸入することができるとの情報に接し、これを医療資材とし- 3 -て購入することを考えた。そして、同年4月24日以降、当時の被告副知事A(以下「A副知事」という。)が自ら交渉に当たり、健康福祉部の担当職員又は危 るとの情報に接し、これを医療資材とし- 3 -て購入することを考えた。そして、同年4月24日以降、当時の被告副知事A(以下「A副知事」という。)が自ら交渉に当たり、健康福祉部の担当職員又は危機管理部消防課長兼新型コロナウイルス感染症対策室長B(以下「B室長」という。)とともに、原告代表者及び従業員C(以下「C社員」という。)と複数回面談するなどした。 5イ 原告は、同月28日の面談の際、被告が健康福祉部で1万着、危機管理部で8万着の防護服計9万着(以下、着数は全て防護服を指す。)を購入する場合は、1着5300円を4500円に値下げし、危機管理部には3万着、3万着及び2万着の3回に分けて納品する旨を説明した。 ウ 同年5月8日午後3時38分頃、被告(A副知事の秘書)から原告に対10し、危機管理部が調達する8万着について、同日付けの物品購入状況説明書(以下「本件書面」という。)の電子データを添付したメール(甲10)が送信された。しかし、同日午後7時頃、B室長がC社員に対し、3万着に変更して残りはキャンセルしたい旨を電話で告げ、同日午後8時39分には、危機管理部から原告に対し、本件書面を取り消す旨のメール(甲1152)が送信された。 エ そこで、原告は、輸入元の中国企業と協議し、発注した防護服のうち2万着については輸入をキャンセルすることができた。[甲30]オ 健康福祉部に対する納品分1万着については、同月11日頃、原被告間で売買契約書(甲15の1・2)が調印され、同月18日までに納品が完20了した。また、危機管理部に対する1回目の納品分3万着(以下「初回3万着」という。)については、同月23日頃、原被告間で売買契約書(甲16)が調印され(この中で、被告が原告に対し代金の支払を遅延したと た。また、危機管理部に対する1回目の納品分3万着(以下「初回3万着」という。)については、同月23日頃、原被告間で売買契約書(甲16)が調印され(この中で、被告が原告に対し代金の支払を遅延したときは年2.6%の割合による遅延損害金を支払う旨が合意された。)、同月27日までに納品が完了した。 25カ 一方、原告は、危機管理部に対する2回目の納品分である3万着(以下- 4 -「本件3万着」という。)については輸入のキャンセルができず、同月27日、被告に対しその引取りを求めた。[甲17、30、乙13]キ 以上を含めた当事者双方が主張する事実経過については、別紙事実経過一覧表に記載のとおりである。 ⑷ 本件訴えの提起等5原告は、被告に対し、令和3年7月20日、本件3万着のうち2万7279着分の代金等の支払請求(減縮前の主位的請求)に係る本件訴えを提起し、その訴状は同年8月20日に被告に送達された。また、同年11月10日、主位的請求を減縮し、予備的請求を追加する訴えの変更を申し立て、その訴え変更申立書は同月11日に被告に送達された。[顕著な事実]103 争点⑴ 本件3万着の売買契約の成否(争点1・主位的請求関係)⑵ 被告の契約締結上の過失の有無(争点2・予備的請求関係)⑶ 原告の損害(争点3・予備的請求関係)⑷ 過失相殺(争点4・予備的請求関係)154 争点に関する当事者の主張⑴ 本件3万着の売買契約の成否(争点1)【原告の主張】被告は、原告に対し、令和2年4月28日、健康福祉部1万着及び危機管理部8万着の防護服を1着4500円で発注し、原告は、これを受注した。 20この時点で、売買契約の目的物とその価格は明確に定まっており、これにより、原告と 年4月28日、健康福祉部1万着及び危機管理部8万着の防護服を1着4500円で発注し、原告は、これを受注した。 20この時点で、売買契約の目的物とその価格は明確に定まっており、これにより、原告と被告は、本件3万着を含む9万着の防護服に係る売買契約を締結し、このとき又は遅くとも本件書面が提出されたときに契約が成立した。 なお、同契約は、新型コロナウイルス感染症対策として緊急で進められたものであり、公印が必要な手続は後回しにされたものである。 25【被告の主張】- 5 -本件3万着に係る売買契約の成立は否認する。 令和2年4月28日の時点では、被告が危機管理部として8万着の購入を検討する旨伝えたにすぎず、この時点で売買契約が締結されたとは解されない。また、被告が随意契約を締結するには、関係法令上、所定の手続を履践することが必須であるが、本件3万着について、そのような手続はされてお5らず、口頭又は本件書面により売買契約が成立したとはいえない。 ⑵ 被告の契約締結上の過失の有無(争点2)【原告の主張】被告は、本件3万着を含む9万着について、新型コロナウイルス感染症対策という緊急かつ高度な必要性が認められる状況の下、原告に対し、令和210年4月のA副知事らとの面談の際には、知事からあらゆる手段で防護服を集めるよう指示が出ている、健康福祉部の1万着は同年5月半ばまでに欲しいなどと申し向け、また、原告が中国企業への送金までに契約書面の提出を求めたのに対し、同月1日には「購入させていただく9万着のうちの1万着分」であることを示して健康福祉部1万着分に関する書面を、同月8日には8万15着の購入を前提に契約書等を準備している旨記載した本件書面を、それぞれ送付するなどして、売買契約の締結は確実であると認識させた ることを示して健康福祉部1万着分に関する書面を、同月8日には8万15着の購入を前提に契約書等を準備している旨記載した本件書面を、それぞれ送付するなどして、売買契約の締結は確実であると認識させた。そして、原告が、これらを信頼して中国企業に多額の代金を送金し、防護服を輸入したにもかかわらず、被告は、そのことを認識しつつ、輸入を急がせ、公印が必要な手続を後回しにせざるを得ない状況を作出しておきながら、一括で特定20業者と契約すると監査で問題にされるなどの専ら被告側の一方的な都合で契約を取りやめたのであって、契約締結準備段階における信義則上の義務に反しており、これによって生じた原告の損害を賠償すべきである。 【被告の主張】争う。緊急事態における迅速かつ柔軟な対応が必要とされ、通常の売買契25約に比して、より障壁や事情変更があり得るものであって、原告の契約締結- 6 -への期待を保護すべき程度も低いと評価すべきである。本件3万着の購入については、行政機関である被告の内部における随意契約の手続に入る前の段階であり、しかも、危機管理部との間で納期や納品方法等の契約締結に向けた協議がされておらず、契約の基本的事項に関する合意もできていたとはいえず、A副知事との口頭のやり取りのみから契約の締結を期待するのは不合5理であって、契約締結に向けての準備の成熟度は極めて低い状態であった。 また、本件3万着を含む8万着について、被告は原告の送金のスケジュール等を認識しておらず、むしろ原告は、被告の購入数を前提とせずに国内での大量販売を予定して中国企業と交渉し、自らの判断で発注・送金をしていたものと考えられ、本件書面の送付により契約の締結に向けた原告の信頼が10高まったとはいえない。さらに、原告は、令和2年5月8日に被告が申し出 て中国企業と交渉し、自らの判断で発注・送金をしていたものと考えられ、本件書面の送付により契約の締結に向けた原告の信頼が10高まったとはいえない。さらに、原告は、令和2年5月8日に被告が申し出たキャンセルを了承していた。 なお、原告は、被告が提出した本件書面の記載内容を重視するが、もともと本件書面は円滑に輸入手続を遂行することを理由として原告から提出を求められたものである上、原告は、危機管理部の8万着のうち初回3万着につ15いては本件書面の提出前に既に中国企業に発注・送金しており、本件書面の提出と中国企業への発注・送金とは無関係である。 ⑶ 原告の損害(争点3)【原告の主張】原告は、本件3万着の売買契約の締結を信頼したことにより、サンプル4200着分を加えた3万0040着分の輸入費用1億0530万2682円(仕入額8711万6000円、輸入経費70万7482円、租税公課1747万9200円)を支出し、9万着の購入を前提に1着当たり800円を値引いて売買契約が成立した4万着の値引き分及び消費税10%の3520万円を逸失した。以上の合計1億4050万2682円から、本件3万着のうち25他に売却した2881着の売却代金438万3000円、残りの売却困難な- 7 -2万7119着を1着500円として評価した1355万9500円をそれぞれ損益相殺として控除した1億2256万0182円に、その約10%に相当する弁護士費用1225万円を加えた1億3481万0182円が、原告の損害である。 【被告の主張】5輸入費用は不知、これが賠償の対象(信頼利益)に含まれることは争う。 値引き分を損害と評価することは争う。本件3万着のうち2881着分の売得金を損益相殺することは争わないが、残りの2万7119着の価 輸入費用は不知、これが賠償の対象(信頼利益)に含まれることは争う。 値引き分を損害と評価することは争う。本件3万着のうち2881着分の売得金を損益相殺することは争わないが、残りの2万7119着の価値は1着2900円(少なくとも1500円)を下らない。その余は否認し、争う。 ⑷ 過失相殺(争点4)10【被告の主張】原告は、①契約の相手方である被告が、契約締結に当たって特殊な決裁過程が必要となる地方自治体であることを看過し、契約締結に向けた協議が成熟していない段階で、軽率に契約締結に至るとの誤信を抱いた。また、②中国企業との間で契約条件等を明確にしないまま、安易に送金をした。さらに、15③被告からのキャンセル申出後、送金を止めるような行動をしたり、中国企業との間で返金交渉をしたかも不明である。④そもそも、本件取引全体が、原告の企業活動として営利を目的とした先行投資と評価できる。これらの原告の落ち度を踏まえ、相当な過失相殺がされるべきである。 【原告の主張】20争う。本件は、新型コロナウイルス感染症が恐れられていた緊急事態宣言下における緊急のやり取りであり、防護服についても世界的な争奪戦が行われ、一刻も早い行動が求められていたのであるから、①契約書による契約締結等の時間を要する手続が後回しにされ、被告としてもまず取引を進めるものと原告が理解することに何の落ち度もない。また、同様の理由で、②中国25企業との契約に関する協議をしている暇はなかった。さらに、③原告は、被- 8 -告からのキャンセル申出時点では、送金の中止はできず、その後に中国企業と交渉を行ったが、本件3万着についてはキャンセルができなかったのである。④なお、原告は、販売先と数量が決まった分しか中国企業から輸入しておらず、単価も下げるなども の中止はできず、その後に中国企業と交渉を行ったが、本件3万着についてはキャンセルができなかったのである。④なお、原告は、販売先と数量が決まった分しか中国企業から輸入しておらず、単価も下げるなどもしており、営利を目的とした先行投資ではない。 よって、本件で過失相殺をすることは相当でない。 5第3 当裁判所の判断1 掲記の証拠によれば、当事者間の防護服の取引の交渉経緯等に関し、以下の事実が認められる(特記のないものは令和2年)。 ⑴ 4月当時、新型コロナウイルス感染症の急速なまん延により医療用資機材の供給がひっ迫する中、原告は、中国の提携工場の責任者から、世界的に争10奪戦となっていた防護服を中国で10万着くらい入手することができるとの連絡を受けた。原告は、過去に防護服を扱ったことはなかったが、代表者の知人を通じて被告に話が伝わり、知事がA副知事に指示して、各部局で防護服の調達を検討していた被告との間で面談がされることになった。[甲29、30、乙39、46、原告代表者供述、C社員証言、A副知事証言]15⑵ 4月24日原告代表者及びC社員とA副知事及び健康福祉部の担当職員との間で面談が行われ、原被告間の防護服の売買について打合せがされた。被告側は、健康福祉部で1万着を購入する意向を示し、A副知事から、緊急物資であり随意契約で進めること、軽症感染者の宿泊療養施設が同年5月中に開所予定な20のでこれに間に合わせてほしいこと、被告の他の部署でも購入を考えていることなどの話があった。[甲1の1~3、2の1~4、29、30、乙39、原告代表者供述、A副知事証言]同日夜には、健康福祉部の職員からC社員に対し、上記面談で検討事項とされた通関の手続や納品場所等に関するメールがあり、被告の購入数量につ25いて 0、乙39、原告代表者供述、A副知事証言]同日夜には、健康福祉部の職員からC社員に対し、上記面談で検討事項とされた通関の手続や納品場所等に関するメールがあり、被告の購入数量につ25いて、他部署の必要量を確認した上で同月27日に連絡する旨も記載されて- 9 -いた。翌25日には、C社員から同職員に対し、1万着を手配したこと、10万着の生産枠と材料を押さえているので追加の可能性について示唆してほしい旨、健康福祉部の1万着の納入先の指示を求める旨の連絡をし、上記納入先については、同月27日に回答があった。[乙1、2、5]⑶ 4月28日5原告代表者及びC社員とA副知事及びB室長との間で面談が行われ、危機管理部が検討する防護服購入数として7万着という数字が話題に上った。原告側は、合計9万着を販売できれば輸送コストが削減できるとの見通しを念頭に、危機管理部で8万着を購入してもらえれば1着5300円を4500円に値下げし、初回3万着、本件3万着及び2万着の3回に分けて納品する10旨を説明したところ、A副知事は、購入予算を確認するようB室長に指示した。また、原告代表者から、被告が防護服を購入することに関する書面を求めたところ、A副知事は、購入を検討中である旨の書面の作成は可能である旨を回答した。[甲29、30、乙39、46、原告代表者供述、C社員証言、A副知事証言、B室長証言]15一方、原告は、中国企業に対し、健康福祉部の1万着を発注し、代金3000万円を送金した。[甲24の1~5、25、原告代表者供述]⑷ 4月30日C社員は、健康福祉部の職員に対し、必要数量や納品場所等に関するメール(乙9。これには、「4/28(火)県庁での打ち合わせで、副知事、消防課20B様より追加80.000着のご 4月30日C社員は、健康福祉部の職員に対し、必要数量や納品場所等に関するメール(乙9。これには、「4/28(火)県庁での打ち合わせで、副知事、消防課20B様より追加80.000着のご発注いただいております。」、「連休に入ってしまいますので、連休前に契約等をお願い出来れば幸いです。」等の記載がある。)を午前に、1着4500円を前提とする1万着の見積書を添付したメール(甲4)を午後に、それぞれ送信した。[甲4、乙9]また、C社員は、危機管理部のB室長宛てにも、危機管理部の8万着を325回に分けて輸入する各発送日等の予定に関するメール(甲3)を午前に、1- 10 -着4500円を前提とする8万着の見積書を添付したメール(甲5)を午後に、それぞれ送信した。ところが、B室長宛ての上記メールはメールアドレスの誤りにより被告側に届かなかった。C社員は、相手方に届かなかったことを知らせるエラーメールに気付かなかった。[甲3、5、C社員証言]原告は、中国企業に対し、危機管理部の8万着のうち初回3万着を発注し、5代金8700万円を送金した。[甲21の1・2・4、原告代表者供述]⑸ 5月1日C社員は、健康福祉部職員からの要請を受け、健康福祉部の1万着の見積書を7000着と3000着に分けて再提出した。[甲6、7]一方、A副知事の指示を受けた秘書からC社員に対し、同日付けの物品購10入状況説明書2通の電子データを添付し、本文には原告代表者の依頼で上記の説明書を送信する旨のほか「今回お送りする分は購入させていただく9万着のうちの1万着分(県健康福祉部分)となります。残りの8万着分(県危機管理部分)につきましては、連休明けにお渡しできるよう準備を進めてまいります」などと記載したメール(甲8)が送信され ただく9万着のうちの1万着分(県健康福祉部分)となります。残りの8万着分(県危機管理部分)につきましては、連休明けにお渡しできるよう準備を進めてまいります」などと記載したメール(甲8)が送信された。上記物品購入状況15説明書には、公印等はなく、「長野県健康福祉部医療政策課では新型コロナウイルス感染症対策のため、下記により(株)Dから防護着3,000着を調達するため、現在契約書等を準備しています。」(もう1通も担当課名と着数以外は同じ文言)と記載され、いずれも納入先、納入日及び担当者を付記したものであったが、被告において、このような書面を発出した前例はなかった。 20[甲8、A副知事証言、B室長証言]⑹ 5月3日被告の知事が、医療崩壊を防ぐ対策を要請した長野県労働者福祉協議会との会談において、「防護服は最優先課題」、「県の担当部局にはあらゆるルートを活用して確保に努めるよう指示している」旨発言したことが日刊地域25新聞紙上で報じられた。原告代表者は、この記事内容を認識した。[甲26、- 11 -29、原告代表者供述]⑺ 5月7日(同月2日~6日は休日)原告代表者及びC社員とA副知事が、防護服に関する面談をして、原告代表者は、被告が防護服を購入することに関する書面を改めて要望し、A副知事も了承した。[甲29、30、乙39、原告代表者供述、C社員証言、A5副知事証言]面談後、原告は、中国企業に対して本件3万着及びサンプル40着を発注し、また、取引銀行に対して防護服仕入資金として9000万円の融資を申し込み、送金指定日を翌8日として上記発注分の代金8711万6000円について送金予約を行った。なお、同銀行は翌8日午前10時までに経由銀10行(みずほ銀行)への送金手続を完了した。[甲22の し込み、送金指定日を翌8日として上記発注分の代金8711万6000円について送金予約を行った。なお、同銀行は翌8日午前10時までに経由銀10行(みずほ銀行)への送金手続を完了した。[甲22の1~3、29、30、33、原告代表者供述、調査嘱託の結果]⑻ 5月8日ア 午前中には、C社員からB室長に対し、危機管理部の1回目の納品分である初回3万着について、中国での出荷の準備が整ったことを連絡し、納15入先の連絡を求めた。[甲9]イ また、危機管理部において、その防護服購入に係る物品購入状況説明書を原告に送付する必要がある旨の連絡をA副知事の秘書から受けたB室長の指示により、健康福祉部から原告に提供した物品購入状況説明書を基に本件書面が作成された(決裁したB室長は、税関に提出する書面と認識し20た。)。そして、午後3時38分頃、上記秘書がC社員に対し、危機管理部の8万着に係る物品購入状況説明書として本件書面の電子データを添付したメール(甲10)を送信した。本件書面は、上記⑸の物品購入状況説明書と同一の体裁で、公印等はなく、「長野県危機管理部消防課新型コロナウイルス感染症対策室では新型コロナウイルス感染症対策のため、下記25により(株)Dから防護着80,000着を調達するため、現在契約書等- 12 -を準備しています。」と記載され、納入先、納入日(5月下旬予定)及び担当者(B室長ほか)が付記されたものであった。[甲8、10、B室長証言]原告は、これを受けて、前日に予約した送金手続を維持し(取引銀行の営業時間である当日午後5時までは経由銀行に対して組戻しによる資金返5却の依頼を行うことが可能であった。調査嘱託の結果)、上記⑺の代金8711万6000円が中国企業に送金された。[甲1 引銀行の営業時間である当日午後5時までは経由銀行に対して組戻しによる資金返5却の依頼を行うことが可能であった。調査嘱託の結果)、上記⑺の代金8711万6000円が中国企業に送金された。[甲11、29、30、乙38、原告代表者供述、C社員証言]ウ 他方で、本件書面が原告に送付された後、被告の内部において、営業局の職員から危機管理部に対し、医療機関ではアイソレーションガウンが使10用され、防護服の需要は少ないこと、医療物資については原告以外の業者からも調達できる可能性があること等の情報提供がされ、知事及びA副知事にも報告された。その後、A副知事は、知事から防護服の購入数量を減らすよう指示を受け、B室長に対してその旨を指示した。[乙39、46、A副知事証言、B室長証言]15エ 午後7時頃、B室長がC社員に対し、危機管理部の購入数を3万着に変更して残りはキャンセルしたい旨電話で伝えた。また、午後8時39分頃、危機管理部職員がC社員宛てに、数量の大きい多額の契約を一括で特定業者とすると監査の際に公平性と手続の透明性が問われるため再検討が必要であるとして、本件書面を取り消す旨のメール(甲12)を送信した。そ20して、B室長は、これらにより本件3万着を含む5万着のキャンセルができたものと解し、その旨をA副知事に報告した。[甲12、乙46、C社員証言、A副知事証言、B室長証言]⑼ 5月9日原告は、中国企業と協議したところ、発注した防護服のうち2万着はキャ25ンセルができたが、本件3万着については既に出荷の準備が進んでおり、キ- 13 -ャンセルに応じてもらえなかった。[甲29、30、C社員証言]⑽ 5月11日ア 原告代表者は、A副知事に上記⑼のてん末及び本件3万着の代金は送金 準備が進んでおり、キ- 13 -ャンセルに応じてもらえなかった。[甲29、30、C社員証言]⑽ 5月11日ア 原告代表者は、A副知事に上記⑼のてん末及び本件3万着の代金は送金済みであることを電話で伝えて、その余の2万着のみキャンセルに応じたものと認識していた。しかし、A副知事は、上記⑻エのB室長の報告から、5原告が本件3万着を含む5万着のキャンセルを既に承諾したものと認識しており、これについて謝罪した上、他の販売先について情報提供する旨伝えた。[甲29、乙39、原告代表者供述、A副知事証言]イ 他方で、C社員は、危機管理部職員から初回3万着の配送先を連絡するメール(甲13)を受信して、B室長及び同部職員に対し、上記⑻エのメ10ール(甲12)に返信する形で、「今回の納品について、30.000枚で進行致します。出荷先確認致しました。契約書の作成お願い致します。」などと記載したメール(甲14)を送信した(なお、このメールについて、C社員は、初回3万着の納品に関する連絡をする意図であったのに対し、被告側は、危機管理部との取引自体を初回3万着だけで終える趣旨と解し、15その余は原告がキャンセルを了承したものと認識したことがうかがえる。)。[甲13、14、30、C社員証言、B室長証言]ウ そして、被告において、危機管理部が初回3万着を随意契約で購入することについて、内規に従い、建設工事請負人等選定委員会の審議を経て、事業実施伺い及び出納機関事前審査のための内部決裁文書(乙27)が起20案された。これには、同契約について、地方自治法施行令(乙32)167条の2第1項5号(緊急の必要により競争入札に付することができないとき。)により随意契約とする旨、及び被告の財務規則(乙33)136条の2第1 には、同契約について、地方自治法施行令(乙32)167条の2第1項5号(緊急の必要により競争入札に付することができないとき。)により随意契約とする旨、及び被告の財務規則(乙33)136条の2第1項1号により原告が短期間に必要数の防護服を供給可能な唯一の者であることを理由に見積書を(原則は2者以上から徴すべきところ)251者のみから徴する旨の記載がある。[乙27、30、37]- 14 -⑾ 5月12日以降ア 被告において、上記⑽ウの決裁は同月12日に原案どおり完了し、同月13日、原告から見積書の提出を受けて、当該契約の締結(売買契約書の締結、知事専決処分及び議会への報告)に関する内部決裁文書が起案され、知事の決裁が完了した。[乙27、28、30、37]5イ 健康福祉部の購入する1万着(7000着及び3000着)について、同月13日までに同月1日付けで原被告間の契約書(甲15の1・2)が調印され、同月18日までに納品が完了した。[甲15の1・2、31、乙13、原告代表者供述]ウ 同月19日、原告代表者とA副知事及びB室長が面談し、本件3万着に10関して、被告において購入することは難しいが、引き続き他の部局や他の自治体等における防護服の購入希望を調査することとされた。[甲29、乙13、39、46、A副知事証言、B室長証言]エ 危機管理部の購入する初回3万着について、同月23日までに同月14日付けで原被告間の契約書(甲16)が調印され、同月25日にうち1万15着、同月27日に残り2万着が納品された。[甲16、原告代表者供述]オ 同月25日、本件3万着が中国企業から原告に届き、C社員は、B室長宛てに、上記エの初回3万着の納品及びその予定を報告し、「80.000着の残30. 納品された。[甲16、原告代表者供述]オ 同月25日、本件3万着が中国企業から原告に届き、C社員は、B室長宛てに、上記エの初回3万着の納品及びその予定を報告し、「80.000着の残30.000着(20.000着は何とかキャンセル致しました。)の納品予定日と納品先をご提示ください。」などと記載したメール(甲17)を送信した20が、これはメールアドレスの誤りにより届かなかった。[甲17]カ 同月27日、原告代表者からA副知事及びB室長宛てに、「当初全部で9万着(含む健康福祉課の1万着)ご購入ということで進めてまいりましたが5月8日に突然4万着の購入でとどめる旨のご連絡をいただきました。当初危機管理部としてお話を進めさせていただいた7万ママ着のうち、3万枚は正25式にご発注いただき残り5万着のうち2万着はキャンセルしましたが、(キ- 15 -ャンセル料交渉中)3万着分はすでに送金・支払いが終了しており解約ができませんでした。」、「是非ご再考いただいて弊社仕入れ済3万着を県として早急にご購入いただきたく存じます。」などとし、原告側の認識する経緯を時系列で記載したメール(乙13)が送信された。被告は、引き続き、原告との間で、防護服の販売先に関する情報共有等のやりとりを継5続し、原告は、複数の官公署、民間企業、病院等に対して防護服の販売を試みたものの、本件3万着のうち2万7119着は売れ残った。[乙13、16~20、26、原告代表者供述]キ 原告は、被告に対し、令和3年5月25日頃、本件3万着のうち他に販売できた2721着について売買契約を解除し、その余の引取り及び代金10の支払を求める旨を、同年9月9日、更に販売できた160着について同契約を解除する旨を、それぞれ通知した。[甲18、20の1・ できた2721着について売買契約を解除し、その余の引取り及び代金10の支払を求める旨を、同年9月9日、更に販売できた160着について同契約を解除する旨を、それぞれ通知した。[甲18、20の1・2]2 主位的請求について(本件3万着の売買契約の成否。争点1)⑴ 地方公共団体が契約につき契約書を作成する場合においては、当該地方公共団体の長又はその委任を受けた者が契約の相手方とともに契約書に記名押15印しなければ当該契約は確定しないもの(地方自治法234条5項)とされており、この場合、そもそも契約書が作成されなければ、契約は成立しないものと解される。 ⑵ 上記1の認定事実によれば、原被告間に売買契約が成立したことに争いのない健康福祉部の1万着及び危機管理部の初回3万着については、作成日付20を遡及させたにせよいずれも納品前にはそれぞれ現に契約書が作成されていることに(1⑾イエ)加え、本件3万着についても、本件書面(甲10)の記載内容に照らすと、後に契約書を作成する前提であることが明らかであり、原告代表者も初回3万着とは異なり正式に発注されたものではないと認識していたこと(1⑾カ)が認められる。 25⑶ そうすると、本件3万着については、契約書を作成する場合であるのに、- 16 -それが作成されることはなかったのであるし、本件書面は法定の要式を満たしていないから、法令上、原被告間で売買契約が成立したとは認めることができない。これに反する原告の主張は採用できない。 3 予備的請求について⑴ 被告の契約締結上の過失の有無(争点2)について5ア 取引を開始して契約準備段階に入った者は、一般市民間における関係と異なり、信義則の支配する緊密な関係に立つのであるから、後に契約が締結されたか 締結上の過失の有無(争点2)について5ア 取引を開始して契約準備段階に入った者は、一般市民間における関係と異なり、信義則の支配する緊密な関係に立つのであるから、後に契約が締結されたか否かを問わず、相互に相手方の人格や財産を害しない信義則上の義務を負うというべきであり、これに違反して相手方に損害を及ぼしたときは、契約締結に至らない場合でも、当該契約の実現を目的とする準備10行為の当事者間に既に生じている契約類似の信頼関係に基づく信義則上の責任として、相手方が当該契約が有効に成立するものと信じたことにより被った損害(信頼利益)を賠償する義務を負うものと解するのが相当である(最高裁判所昭和59年9月18日第三小法廷判決・裁判集民事142号311頁参照)。 15イ 上記1の認定事実によれば、被告は、未知の感染症の急拡大(コロナ禍)という危機的情勢で必要な物資の確保が見通せない切迫した状況の中、その対策として緊急に物資を調達するため、原告との間で、令和2年4月24日の交渉当初から複数回にわたり、対外的にも大きな権限を有すると目されるA副知事が自ら陣頭に立って直接に面談を行い、まとまった数の防20護服を短期間に調達する前提で、その単価や枚数等を具体的に協議し、1着4500円で健康福祉部の1万着と危機管理部の8万着の合計9万着を特に随意契約により購入する方向で交渉を進めており(1⑴~⑶)、原告は、9万着の購入を前提とした1着4500円の見積書を提出し(1⑷)、他方で、被告は、同年5月1日及び8日には、合計9万着を原告から調達25することに向けて、原告の求めに応じたA副知事の指示で合計9万着分の- 17 -契約書等を準備している旨記載した物品購入状況説明書及び本件書面を原告に送付するという異例の措置まで講じ 達25することに向けて、原告の求めに応じたA副知事の指示で合計9万着分の- 17 -契約書等を準備している旨記載した物品購入状況説明書及び本件書面を原告に送付するという異例の措置まで講じて(1⑶⑸⑺⑻)、上記売買を成約させるべく行動していたものと認められる。そして、A副知事以下被告側の担当職員としても、本件書面の送付直後に防護服の購入数を減らす旨の知事の指示を受けるまで(1⑻ウ)、本件3万着を含む5万着について5キャンセルをして契約の成立に至らないなどとは予想していなかったものと推認するに難くなく、原告も同様の認識であって、上記キャンセルも、専ら被告における需要見込みの誤りや部署間の連携不足等に起因するものと考えられる。 これらの事情に照らすと、原告としては、それまでの被告の対応から、10当該契約の成立は確実であると信じ、かつ、そのように信じるにつき相当の理由があったというべきであるし、被告は、原告に対し、上記キャンセルまでの時点において、本件3万着も含めて売買契約が締結されるとの合理的期待を抱かせておきながら、専ら被告の都合により一方的に前言を翻したのであって、上記⑴の信義則上の義務に違反したものと解するのが相15当であり、これによって原告が被った損害を賠償すべきである。 ウ 以上に対し、被告は、①緊急事態下では事情変更もあり得るから原告の期待を保護すべき程度は低い、②随意契約の手続に入る前の段階で具体的な協議もされず契約の基本的事項の合意もできていない、③本件書面の送付と無関係に原告が独自の企業判断で送金している、④本件3万着につい20ても原告がキャンセルを了承したなどと主張する。 しかしながら、上記①の点については、事情変更があるとしても当然に相手方の期待を保護すべき程度が低くなるとはい している、④本件3万着につい20ても原告がキャンセルを了承したなどと主張する。 しかしながら、上記①の点については、事情変更があるとしても当然に相手方の期待を保護すべき程度が低くなるとはいえない。上記②の点については、本件の場合は、交渉を積み上げて契約締結に向けた成熟度が徐々に高まったというものではなく、上記イで説示したとおり、陣頭指揮をと25るA副知事と面談して、防護服の枚数と単価といった売買契約の主要な内- 18 -容が4月28日には確定し(キャンセルの点を除けば、その後に枚数と単価の交渉はない。)、その調達に向けて、A副知事の指示の下に物品購入状況説明書の交付も受けていたという経緯の下で形成された本件3万着を含む危機管理部の8万着の売買契約の締結への原告の信頼は保護されるべきである。上記③の点については、物品購入状況説明書の交付に先行して5送金をしているが、上記②で指摘した点に加えて、コロナ禍で防護服を早急に確保して納品するには契約締結を待つ猶予はないといえ、少なくとも本件3万着分の送金までには原告の信頼に疑問を抱かせるような事情は生じていない。また、原告は、中国企業から輸入可能な10万着のうち、被告が購入の意思を示した9万着しか現に発注しておらず、被告からキャン10セルの連絡を受けると直ちに中国企業へキャンセルについて協議しているし、キャンセルに応じてもらえなかった本件3万着の大半は不良在庫となっているのであって、緊急に物資の調達を求める被告の要請があったからこそ当該発注等を行ったものと認められ、他に販路を見込んでいた形跡はうかがわれない。上記④の点については、本件3万着について、売買契約15はいまだ成立していないと解すべきことは上記2のとおりであり、その段階で被告からキャンセルを通告されれば原 込んでいた形跡はうかがわれない。上記④の点については、本件3万着について、売買契約15はいまだ成立していないと解すべきことは上記2のとおりであり、その段階で被告からキャンセルを通告されれば原告に拒否の余地はないのであって、これを受け入れるような発言等があったとしても、原告が損害を甘受し、被告の賠償責任を不問にする趣旨であるとは解されない。 ⑵ 過失相殺(争点4)について20ア 他方、当事者間の公平の見地から、損害の発生や拡大について原告に落ち度がある場合は、その事情に鑑み、過失相殺を行うのが相当である(民法418条参照)。 イ 被告が地方公共団体であり、本来的には契約書による契約の締結を要する(上記2⑴)ことから、本件3万着を含む防護服の売買が相当に高額の25取引であったことも勘案すると、原告としては、当該契約の締結について- 19 -被告の内部決裁を要し、それが途上であることを認識してしかるべきで、この点は、過失相殺を考えるに当たって通常は重視すべき事情である。しかしながら、本件では、コロナ禍で必要な物資の確保が見通せない切迫した状況の下、A副知事が自ら交渉に当たり、緊急案件であること等を理由に原告1者との随意契約とし、その求めに応じて本件書面を発出するなど、5被告において明らかに異例の対応を執っており、それが原告の信頼の要因となったものと認められるから、上記の点を考慮するにしても、本件においては殊更に重視することは相当でない。 もっとも、原告がメールアドレスの誤りにより危機管理部宛ての見積書を未達とし(上記1⑷)、また、中国企業への送金期限に関して被告側と10の情報共有を十分にしなかったこと(C社員証言14頁。なお、原告代表者はA副知事に直接伝えた旨を述べるが(原告代表者供述6・ を未達とし(上記1⑷)、また、中国企業への送金期限に関して被告側と10の情報共有を十分にしなかったこと(C社員証言14頁。なお、原告代表者はA副知事に直接伝えた旨を述べるが(原告代表者供述6・7頁)、A副知事は否定しており(A副知事証言23・24頁)、これを裏付ける的確な証拠はない。)が一因で、被告において、本件3万着を含む5万着の売買についてはまだ交渉が熟しておらず、キャンセルを申し出ても差し支15えないと認識したことがうかがえる。契約準備段階における信義則上の義務は互いに当事者双方が負うこと(上記⑴ア)にも照らせば、この点も原告の落ち度として考慮されるべきである。 なお、原告においては、被告からのキャンセルの申出に即応して中国企業と交渉しているし(上記1⑼)、被告の購入数量に応じた数量を発注す20るにとどまり、先行投資などと評価されるものではなく、その他被告が種々指摘する点が原告側の過失を重くするような事情に当たるものとは認め難い。 ウ 以上を踏まえると、損害の公平な分担という過失相殺の趣旨に鑑み、原告の過失を3割として、過失相殺を行うのが相当である。 25⑶ 原告の損害(争点3)について- 20 -ア 本件3万着を調達するに当たっては、以下①から③までの費用を要したと認められ、これらの合計1億0518万6682円が、信頼利益として計上される損害である。[甲23の1・2]① 本件3万着の仕入額 8700万0000円② 輸入経費 計 70万7482円5・ 海外運賃 33万9382円・ 通関料 1万1800円・ 取扱料 1万6000円・ 書類作成料 63 5・ 海外運賃 33万9382円・ 通関料 1万1800円・ 取扱料 1万6000円・ 書類作成料 6300円・ 地上運送料 33万4000円10③ 租税 計 1747万9200円・ 関税 794万9100円・ 輸入消費税・地方消費税 953万0100円もっとも、原告は、本件3万着のうち他に売却できた2881着の売却代金438万3000円及びその余の売却できない在庫品2万7119着15の現在の財産的価値1355万9500円(1着500円)を損益相殺すべきことは認めているから、その合計1794万2500円を上記①の額から差し引くべきである。 なお、被告は、売れ残った防護服も1着1500円を下らないと主張するが、上記1⑾カの認定に照らせば、現時点においてその需要は乏しく、20不良在庫と化していることが認められるから、採用できない。 イ 他方で、原告は、成約した4万着の値引き分を損害として主張するが、上記1アのとおり、被告は、信義則上の責任として、契約成立に至っていない本件3万着について、その信頼利益の損害賠償義務を負うにとどまるから、売買契約が有効に成立した4万着についての値引き分について損害25賠償義務を負うと認めることはできない。 - 21 -ウ 上記アの合計額8724万4182円から上記⑵で認定した原告の過失割合3割を減じた6107万0927円に、相当因果関係のある損害として約10%の弁護士費用610万円を加えた6717万0927円が、被告の賠償すべき原告の損害であると認められる。 第4 結論5よって、原告の主 7万0927円に、相当因果関係のある損害として約10%の弁護士費用610万円を加えた6717万0927円が、被告の賠償すべき原告の損害であると認められる。 第4 結論5よって、原告の主位的請求は理由がないから棄却し、予備的請求は上記6717万0927円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容して、その余を棄却することとし、主文のとおり判決する。 長野地方裁判所民事部10 裁判長裁判官 橋 本 修 15 裁判官 大 野 博 隆 20裁判官 佐 藤 杏
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