主文 1 原判決中被控訴人らに関する部分を取り消す。 2 別紙2被控訴人目録記載1の被控訴人らから控訴人に対する,佐賀地方裁判所平成14年第467号,同第515号,平成15年第122号工事差止等請求事件,同第199号,同第454号,同第499号諫早湾西工区前面堤防工事差止等請求事件,平成16年第156号,同第375号,平成17年第253号,同第293号,同第338号,同第447号,同第458号工事差止等請求事件の判決に基づく強制執行は,これを許さない。 3 別紙2被控訴人目録記載2の被控訴人らから控訴人に対する,福岡高等裁判所平成20年第683号工事差止等,諫早湾西工区前面堤防工事差止等請求控訴事件の判決に基づく強制執行は,これを許さない。 4 訴訟費用中原審において控訴人と被控訴人らとの間に生じた部分並びに差戻前の控訴審,上告審及び差戻後の控訴審において生じた部分は,全て被控訴人らの負担とする。 5 別紙2被控訴人目録記載1の被控訴人らから控訴人に対する,佐賀地方裁判所平成14年第467号,同第515号,平成15年第122号工事差止等請求事件,同第199号,同第454号,同第499号諫早湾西工区前面堤防工事差止等請求事件,平成16年第156号,同第375号,平成17年第253号,同第293号,同第338号,同第447号,同第458号工事差止等請求事件の判決に基づく強制執行は,これを停止する。 6 別紙2被控訴人目録記載2の被控訴人らから控訴人に対する,福岡高等裁判所平成20年第683号工事差止等,諫早湾西工区前面堤防工事差止等請求控訴事件の判決に基づく強制執行は,これを停止する。 7 この判決は,第5項及び第6項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 区前面堤防工事差止等請求控訴事件の判決に基づく強制執行は,これを停止する。 7 この判決は,第5項及び第6項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 主文第1項から第4項までと同旨第2 事案の概要 1 事案の要旨及び本件訴訟の経緯 事案の要旨本件は,国営諫早湾土地改良事業としての土地干拓事業(以下「本件事業」という。)を行う控訴人が,後記2に記載の佐賀地方裁判所及び福岡高等裁判所の各判決(以下「本件各確定判決」といい,これに関する訴訟を「前訴」という。)において諫早湾干拓地潮受堤防(以下「本件潮受堤防」という。)の北部及び南部各排水門(以下「本件各排水門」という。)の開放を求める請求権(以下「本件開門請求権」という。)が一部認容された被控訴人らを被告として,本件各確定判決による強制執行の不許を求めた請求異議訴訟である。 本件訴訟の経緯ア一審一審(佐賀地方裁判所平成26年(ワ)第7号)は,控訴人の請求のうち,一部の一審被告ら(本件開門請求権が一部認容された者の相続人ら)に対する訴えを却下し,一部の一審被告ら(漁業権又は漁業を営む権利を喪失又は保有していなかった者)に対する請求を認容したが,その余の一審被告である被控訴人らに対する請求についてはこれを棄却した。そのため,控訴人は,同棄却部分を不服として控訴をした(なお,一審判決のうち,上記訴え却下に係る一審被告らに関する部分及び上記請求認容に係る一審被告らに関する部分については,いずれも不服が申し立てられず,確定した。)。 イ差戻前控訴審差戻前控訴審(福岡高等裁判所平成27年(ネ)第19号)は,本件各確定判決において本件開門請求権の根拠とされ ては,いずれも不服が申し立てられず,確定した。)。 イ差戻前控訴審差戻前控訴審(福岡高等裁判所平成27年(ネ)第19号)は,本件各確定判決において本件開門請求権の根拠とされた共同漁業権は,その存続 期間の末日である平成25年8月31日の経過により消滅したから,上記共同漁業権から派生する権利である被控訴人らの各漁業行使権に基づく本件開門請求権も消滅した,したがって,本件各確定判決に係る請求権は前訴の口頭弁論終結後に消滅したのであるから,このことは,本件各確定判決についての請求異議事由となるとして,控訴人の請求を認容するとともに,本件各確定判決に基づく強制執行の停止を命じた。 ウ上告審上告審(最高裁判所平成30年(オ)第1525号,同年(受)第1874号)は,被控訴人らの上告を棄却したが,上告受理の決定をした上で,「本件各確定判決が,飽くまでも将来予測に基づくものであり,開門の時期に判決確定の日から3年という猶予期間を設けた上,開門期間を5年間に限って請求を認容するという特殊な主文を採った暫定的な性格を有する債務名義であること,前訴の口頭弁論終結日から既に長期間が経過していることなどを踏まえ,前訴の口頭弁論終結後の事情の変動により,本件各確定判決に基づく強制執行が権利の濫用となるかなど,本件各確定判決についての他の異議の事由の有無について更に審理を尽くさせる」必要がある旨を判示して,差戻前控訴審判決を破棄し,本件を当審に差し戻す旨の判決をした。 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 当事者ア控訴人控訴人は,国営諫早湾土地改良事業としての土地干拓事業(本件事業。 なお,本件事業により造成された干拓地〔中 拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 当事者ア控訴人控訴人は,国営諫早湾土地改良事業としての土地干拓事業(本件事業。 なお,本件事業により造成された干拓地〔中央干拓地及び小江干拓地〕を「新干拓地」又は「本件干拓地」という。これとの対比で,本件事業前から形成されていた干拓地及びその周辺の低平地のうち,特に,釜ノ鼻地区 及び湯田川地区を併せて「旧干拓地」と,その余の地区を「後背地」と,それぞれいうことがある。)を行い,本件各確定判決により,本件各排水門の開門を命じられた者である。 イ被控訴人ら 被控訴人らは,佐賀県有明海漁業協同組合大浦支所(以下「大浦支所」という。),島原漁業協同組合(以下「島原漁協」という。)又は有明漁業協同組合(以下「有明漁協」といい,大浦支所,島原漁協と併せて「本件各組合」という。)の組合員であり,本件各確定判決により,本件開門請求権が一部認容された者である。 別紙2被控訴人目録記載1及び同2の被控訴人らのうち「所属漁協」欄が「大浦支所」の24名は,大浦支所に所属する(以下,上記24名を「大浦支所の被控訴人ら24名」ということがある。)。(甲95)別紙2被控訴人目録記載1のうち「所属漁協」欄が「島原漁協」の10名は,島原漁協に所属する(以下,上記10名を「島原漁協の被控訴人ら10名」ということがある。)。(甲96)別紙2被控訴人目録記載1のうち「所属漁協」欄が「有明漁協」の14名は,有明漁協に所属する(以下,上記14名を「有明漁協の被控訴人ら14名」ということがある。)。(甲97) 本件各確定判決ア別紙2被控訴人目録記載1及び同2の被控訴人らは,漁業権又は漁業を営む権利(以下「漁業行使権」とい を「有明漁協の被控訴人ら14名」ということがある。)。(甲97) 本件各確定判決ア別紙2被控訴人目録記載1及び同2の被控訴人らは,漁業権又は漁業を営む権利(以下「漁業行使権」という。)による妨害予防請求権及び妨害排除請求権等に基づき,主位的に本件潮受堤防の撤去,予備的に本件各排水門の常時開放等を求める訴えを佐賀地方裁判所(以下「佐賀地裁」という。)に提起した(前訴)。 佐賀地裁は,平成20年6月27日,別紙2被控訴人目録記載1の被控訴人らの漁業行使権による妨害排除請求権に基づく予備的請求を一部認容 し,控訴人は,同被控訴人らに対する関係で,「判決確定の日から3年を経過する日までに,防災上やむを得ない場合を除き,本件各排水門を開放し,以後5年間にわたって本件各排水門の開放を継続せよ」と命ずる判決をした(同裁判所平成14年(ワ)第467号,同第515号,平成15年(ワ)第122号工事差止等請求事件,同第199号,同第454号,同第499号諫早湾西工区前面堤防工事差止等請求事件,平成16年(ワ)第156号,同第375号,平成17年(ワ)第253号,同第293号,同第338号,同第447号,同第458号工事差止等請求事件)。 イこれに対し,控訴人及び上記事件において請求を棄却された者らが控訴したところ,福岡高等裁判所(以下「福岡高裁」という。)は,平成22年8月9日に口頭弁論を終結した上,同年12月6日,控訴人の控訴を棄却するとともに,控訴人と別紙2被控訴人目録記載2の被控訴人らとの関係でも,上記佐賀地裁と同一の内容を命ずる判決を言い渡した(福岡高裁平成20年(ネ)第683号工事差止等,諫早湾西工区前面堤防工事差止等請求控訴事件)。そして,上記高裁判決は,平成22年12月20日の経過をもって確 裁と同一の内容を命ずる判決を言い渡した(福岡高裁平成20年(ネ)第683号工事差止等,諫早湾西工区前面堤防工事差止等請求控訴事件)。そして,上記高裁判決は,平成22年12月20日の経過をもって確定した(以下,既判力の基準時である口頭弁論終結日にかかるときは上記高裁判決をもって「本件各確定判決」というが,執行力排除の対象として「本件各確定判決」というときは,上記佐賀地裁判決と福岡高裁判決の両方を含むものとする。)。 環境アセスメントの実施控訴人は,本件各排水門の開門調査のための環境アセスメント(以下「本件環境アセスメント」という。)の手続を行い,平成24年11月,諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価書(以下「本件環境影響評価書」という。)が確定した。(甲11) 別件仮処分決定等諫早湾付近の干拓地を所有又は賃借して農業を営む者ら,諫早湾内に漁業 権を有する漁業協同組合の組合員として漁業を営む者ら及び諫早湾付近に居住する者ら(以下,併せて「本件営農者等」という。)は,本件各確定判決の確定後,長崎地方裁判所(以下「長崎地裁」という。)に対し,控訴人を債務者として,本件各排水門を開放してはならないことなどを求める仮処分命令を申し立てた。(甲3)長崎地裁は,平成25年11月12日,債務者である控訴人に対し,本件営農者等の一部の者らに対する関係で,本件各排水門を開放してはならない旨を命じる仮処分決定をした(同裁判所平成23年(ヨ)第36号,平成24年(ヨ)第5号,同第27号。以下「別件仮処分決定」という。)。(甲3)これに対し,諫早湾内又はその近傍部における漁業者らである債務者補助参加人らが,保全異議を申し立てたところ,長崎地裁は,平成27年11月10日,別件仮 以下「別件仮処分決定」という。)。(甲3)これに対し,諫早湾内又はその近傍部における漁業者らである債務者補助参加人らが,保全異議を申し立てたところ,長崎地裁は,平成27年11月10日,別件仮処分決定の一部(諫早湾内で漁業を営む者らの申立てを認容した部分の一部等)を取り消し,その余を認可する旨の一部認可決定をした(同裁判所平成25年(モ)第1040号。別件仮処分決定と併せて「別件仮処分決定等」ということがある。)。(甲183)間接強制決定等ア佐賀地裁は,平成26年4月11日,控訴人に対し,本件各確定判決に基づき,別紙2被控訴人目録の「間接強制」欄が「債権者」である被控訴人ら45名並びに一審被告A1,同A2,同A3及び同A4に対する関係で,決定の送達を受けた日の翌日から2か月以内に,防災上やむを得ない場合を除き,本件各排水門の5年間にわたる開放の継続を命じるとともに,上記2か月の期間内に控訴人がその義務を履行しない場合は,上記期間経過後の翌日から履行済みまで債権者一人当たり1日につき1万円の割合による金員を支払うことを命じる旨の間接強制決定(以下「本件間接強制決定」という。)をした(同裁判所平成25年(ヲ)第20号)。(甲39 7,乙65)控訴人は,本件間接強制決定を不服として抗告したが,福岡高裁は,同年6月6日,抗告を棄却した(同裁判所平成26年(ラ)第155号)。 (甲398,乙66)控訴人は許可抗告を申し立て,福岡高裁はこれを許可した。(甲121)最高裁判所は,平成27年1月22日,控訴人の抗告を棄却した(同裁判所平成26年(許)第17号)。(甲121,乙70)被控訴人らは,平成26年,佐賀地裁に対し,本件間接強制決定における間接強制金の増額を申し立て,佐賀地裁は,平成27年3月24日,間 た(同裁判所平成26年(許)第17号)。(甲121,乙70)被控訴人らは,平成26年,佐賀地裁に対し,本件間接強制決定における間接強制金の増額を申し立て,佐賀地裁は,平成27年3月24日,間接強制金の金額につき,決定の送達を受けた日の翌日から債権者一人当たり1日につき1万円から2万円に増額する旨の決定をした(同裁判所平成26年(ヲ)第12号)。(甲399,乙71)控訴人は,上記決定を不服として抗告したが,福岡高裁は,平成27年6月10日,抗告を棄却した(同裁判所平成27年(ラ)第149号)。 (甲400,乙85)控訴人は許可抗告を申し立て,福岡高裁はこれを許可した。(甲401)最高裁判所は,同年12月21日,控訴人の抗告を棄却した(同裁判所平成27年(許)第17号)。(甲401)控訴人がこれまでに被控訴人ら側に支払った間接強制金は,合計12億3030万円である。(甲491)イ長崎地裁は,平成26年6月4日,控訴人に対し,別件仮処分決定に基づき,別件仮処分決定の債権者らに対する関係で,本件各排水門を開放してはならないとの不作為を命じるとともに,控訴人がその義務に違反して開門をしたときは,各債権者らに対し,違反行為をした日1日につき合計49万円の割合による金員を支払うことを命じる旨の間接強制決定をした(同裁判所平成26年(ヲ)第2001号)。 控訴人は,上記間接強制決定を不服として抗告したが,福岡高裁は,同年7月18日,抗告を棄却した(同裁判所平成26年(ラ)第232号)。 控訴人は許可抗告を申し立て,福岡高裁はこれを許可した。(甲122)最高裁判所は,平成27年1月22日,控訴人の抗告を棄却した(同裁判所平成26年(許)第26号)。(甲122)長崎1次開門訴訟長崎県の小長井町漁業協同組合( はこれを許可した。(甲122)最高裁判所は,平成27年1月22日,控訴人の抗告を棄却した(同裁判所平成26年(許)第26号)。(甲122)長崎1次開門訴訟長崎県の小長井町漁業協同組合(以下「小長井町漁協」という。)に所属する漁業者ら及び別紙2被控訴人目録記載1及び同2の被控訴人らのうち「長崎1次開門訴訟の原告」欄が「原告」である被控訴人ら16名を含む大浦支所に所属する漁業者らは,平成20年,長崎地裁に対し,本件各排水門の開門及び損害賠償を請求した(一部の者は損害賠償のみ請求した。)。 (甲202)長崎地裁は,平成23年6月27日,上記漁業者らの請求のうち,①口頭弁論終結の日の翌日から本件各排水門の開門操作がされるまでの損害賠償を請求する部分の訴えを却下し,②損害賠償請求を一部認容し,その余の請求を棄却する旨の判決をした(同裁判所平成20年(ワ)第258号。以下,この訴訟を「長崎1次開門訴訟」という。)。(甲202)福岡高裁は,平成27年9月7日,長崎1次開門訴訟につき,上記漁業者らの請求を一部認容した上記長崎地裁判決を取り消し,同人らの請求を全て棄却する旨の判決をした(福岡高裁平成23年(ネ)第771号)。(甲202)上記漁業者らは,これを不服として上告提起及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,令和元年6月26日,上告を棄却し,上告を受理しない旨の決定をした(同裁判所平成27年(オ)第1811号,同(受)第2278号)。(顕著な事実)開門差止訴訟 諫早湾付近の干拓地を所有又は賃借し農業を営む者ら,諫早湾内に漁業権を有する漁業協同組合の組合員として漁業を営む者ら及び諫早湾付近の居住者ら(本件営農者等)は,平成23年4月19日,長崎地裁に対し,本件各排水門の開放により被害を受けるおそれがあ ,諫早湾内に漁業権を有する漁業協同組合の組合員として漁業を営む者ら及び諫早湾付近の居住者ら(本件営農者等)は,平成23年4月19日,長崎地裁に対し,本件各排水門の開放により被害を受けるおそれがあるなどと主張して,控訴人を被告として,本件各排水門を開放することの差止めを求める訴訟を提起した。 同訴訟は,別件仮処分決定等に対する本案訴訟である。 長崎地裁は,平成29年4月17日,上記原告らの請求のうち,一部の原告について,本件各排水門開放の差止請求について一部認容する旨の判決をした(同裁判所平成23年(ワ)第275号,平成26年(ワ)第151号,平成27年(ワ)第181号,同第236号,平成29年(ワ)第147号,同第151号。以下「開門差止訴訟」という。)。 これに対し,諌早湾内又はその近傍部における漁業者である者らが控訴人の補助参加人として控訴を申し立てたが,控訴人は,控訴を取り下げた。 そこで,上記漁業者らは,開門差止訴訟に独立当事者参加の申立てをするとともに,控訴を申し立てたが,福岡高裁は,平成30年3月19日,上記独立当事者参加申立て及び控訴をいずれも却下するなどの判決をした(同裁判所平成29年(ネ)第493号,同第559号)。 上記漁業者らは,これを不服として上告提起及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,令和元年6月26日,上告を棄却し,上告を受理しない旨の決定をした(同裁判所平成30年(オ)第1390号,同(受)第1699号)。 (本項につき,甲483,乙134,顕著な事実)長崎2次開門訴訟諫早湾内に漁業権を有する長崎県の小長井町漁協,国見漁業協同組合及び瑞穂漁業協同組合(以下「瑞穂漁協」という。)に所属する漁業者らは,長崎地裁に対し,本件各排水門の開門に関し,諫早湾の海水を本件潮受堤防の 有する長崎県の小長井町漁協,国見漁業協同組合及び瑞穂漁業協同組合(以下「瑞穂漁協」という。)に所属する漁業者らは,長崎地裁に対し,本件各排水門の開門に関し,諫早湾の海水を本件潮受堤防の 閉切りによって淡水化した調整池(以下「本件調整池」という。)内に流入させ,海水交換できるように開門操作をするよう控訴人に求める訴えを提起した。 長崎地裁は,令和2年3月10日,上記漁業者らの請求を棄却する旨の判決をした(同裁判所平成22年(ワ)第207号,同208号,同第209号,同平成23年(ワ)第212号。以下,この訴訟を「長崎2次開門訴訟」という。)。長崎2次開門訴訟は,その後控訴され,現在,福岡高裁に係属している。 (本項につき,顕著な事実) 3 本件における主たる争点本件における主たる争点は,控訴人が主張する次の異議事由のいずれかが認められるか否かである。 本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた事実関係の変動の有無及び請求異議事由該当性(争点1)権利濫用又は信義則違反(争点2)漁業協同組合の組合員たる地位の消滅(争点3) 4 争点に関する当事者の主張本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた事実関係の変動の有無及び請求異議事由該当性(争点1)(控訴人の主張)ア本件各確定判決は,本件各排水門の常時開放請求に対し,本件潮受堤防の公共性ないし公益上の必要性として防災機能等があることを認めた上で,即時の開放を命じることなく,本件各排水門の開放のための対策工事に必要な期間として3年間の期間を設けている。そうすると,本件各確定判決は,本件潮受堤防の防災機能等を代替する対策工事を実施した場合に初めて,本件開門請求権の行使を認めるべき違法性が認められ,同請求権を行 使できると判断した将来 うすると,本件各確定判決は,本件潮受堤防の防災機能等を代替する対策工事を実施した場合に初めて,本件開門請求権の行使を認めるべき違法性が認められ,同請求権を行 使できると判断した将来給付の判決である。 本件では,上記対策工事は,控訴人の意思にかかわらず実施できず事実上不可能となったのであるから,本件各確定判決の違法性の判断はその基礎を欠くことになり,同判決により強制執行することはできない。 イ本件各確定判決の主文にいう「防災上やむを得ない場合」とは,同判決がその理由において「防災上やむを得ない場合」を本件開門請求権の行使を認めるべき違法性との関係において説明していることなどからすれば,本件潮受堤防が担っていた防災効果と同程度の防災効果を発揮できる条件ないし環境が整わない場合を含み,その場合には本件開門請求権の行使を認めるべき違法性は失われるとしたものと解すべきである。 そして,上記の事実関係に照らせば,本件潮受堤防の防災機能等を代替する対策工事が全く実施されていない状態は,「防災上やむを得ない場合」に該当し,本件開門請求権の行使を認めるべき違法性は失われる。 ウ本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた事実関係の変動,具体的には,①本件各確定判決の口頭弁論終結後に諫早湾近傍部の漁獲量が増加傾向に転じたことから被控訴人らの漁業被害の発生が認められなくなったこと(後記),②本件各確定判決の口頭弁論終結後に同判決が客観的違法性の衡量判断において前提としていた対策工事の実施が不可能になったこと(後記),及び,③本件各確定判決の口頭弁論終結後に新たに生じた事実関係を総合的に衡量すると本件潮受堤防の閉切りの客観的違法性の衡量判断が逆転すること(後記)は,いずれも本件各確定判決に対する異議事由を構成するというべきである。 口頭弁論終結後に新たに生じた事実関係を総合的に衡量すると本件潮受堤防の閉切りの客観的違法性の衡量判断が逆転すること(後記)は,いずれも本件各確定判決に対する異議事由を構成するというべきである。さらに,被控訴人らが間接強制金の受領によって漁業被害を完全に補填されたにとどまらず,過剰な支払を受け続けている状態にあること(後記エ)は,上記各異議事由を補完する事情となる。 本件各確定判決は,上記のとおり将来給付判決であり,同判決が認定し た将来にわたり発生し続ける本件開門請求権について,同請求権の成否及び内容を基礎付ける事実関係が同判決の確定後から5年間にわたり変動せずに維持されているとの将来予測を前提とするものである。 現在給付判決と異なり,将来給付判決においては,将来発生する請求権が発生するか否かを判断すべき将来の時点々々の基礎となるべき事実が当該請求権の発生となるべき事実であって,口頭弁論終結時において当該事実の発生がどのように予測されていたかということは当該請求権の発生の根拠となるものではない。将来給付判決において,将来にわたり継続的に発生するとされた請求権の基礎となる事実関係及び法律関係が予測に反して継続せず,債務者に有利な将来における事情の変動があった場合には,その事情の変動が基準時に予測し得るものであったか否かにかかわらず,当然に異議事由を構成する。さらに,本件各確定判決の予備的請求の訴訟物は,妨害排除請求権という物権的請求権であるところ,物権的請求権は,時の経過に応じて新しく生成するという特殊な性質を持つことからすれば,同判決の口頭弁論終結時における物権的請求権の存在を否定することはその既判力に反し許されないが,かかる制限に反しない限りは,現時点において違法な妨害状態の存在が認められないことは異議事由 らすれば,同判決の口頭弁論終結時における物権的請求権の存在を否定することはその既判力に反し許されないが,かかる制限に反しない限りは,現時点において違法な妨害状態の存在が認められないことは異議事由を構成する。 諫早湾近傍部の漁獲量が増加傾向に転じたことa 本件各確定判決は,その口頭弁論終結後の一定期間にわたり,「諫早湾及びその近傍部」における「魚類」について,「漁獲量が有意に減少していること」という事実関係が継続することを前提に本件開門請求権の発生を認めたものである。本件開門請求権を基礎付ける被控訴人らの漁業被害は,本件各排水門の常時開放により被控訴人らが得られる漁業被害の回復の利益と等しいといえるから,その利益に相当する程度の漁獲量の増加があれば,被控訴人らの漁業被害が回復されたものといえる。 そして,本件各確定判決は,本件潮受堤防の閉切りによる環境への影響を限定的に認定していること,本件各排水門の全長が本件潮受堤防の全長の約3.5%にすぎないこと,本件各排水門を常時開放した場合の効果に関する主張を争点とせず,認定・判断もしなかったことなどからすれば,本件各排水門を常時開放した場合における被控訴人らの漁業被害の回復の程度を客観的にも限りなく小さなものとみていることは明らかである。また,本件各排水門を常時開放した場合における被控訴人らの漁業被害の回復の程度が客観的にも限りなく小さなものであることは,本件環境アセスメントの結果や長崎1次開門訴訟に係る福岡高裁平成27年9月7日判決からも裏付けられる。そして,本件各排水門を常時開放した場合における被控訴人らの漁業被害の回復の程度は,5年間に限定されたものである。 b 本件では,本件各確定判決の口頭弁論終結後,諫早湾近傍部において,被控訴人らの漁業行使権の対象と 門を常時開放した場合における被控訴人らの漁業被害の回復の程度は,5年間に限定されたものである。 b 本件では,本件各確定判決の口頭弁論終結後,諫早湾近傍部において,被控訴人らの漁業行使権の対象となる魚種に関する漁獲量は,増加傾向に転じている。本件開門請求権の基礎となる漁業行使権の基となる本件各組合の共同漁業権(一定地区の漁民が,一定の水面を共同に利用して営む漁業権。有共第1号,南共第7号,南共第8号,南共第10号及び南共第79号。以下「本件5つの共同漁業権」という。)は,いずれも第2種共同漁業権であり,漁法により規定されるが,魚種は規定されていないことから,実際には多くの魚種がその対象となり得るものである。そして,諫早湾近傍部における本件5つの共同漁業権の対象となり得る主な魚種全体の漁獲量は,平成9年は約2700tであったところ,その後一時期顕著に減少したが,本件各組合の組合員が減少しているにもかかわらず,シバエビ,タイ類の増加等により,平成24年に底を打ち,一転して増加傾向に転じ,その後も全体的に増加傾向にある。 被控訴人らの漁業行使権の対象となる魚種に関する漁獲量の増加傾向の程度や内容に照らせば,本件各確定判決が本件各排水門の常時開放により被控訴人らに回復することを想定していた程度の漁業被害が回復したものといえるから,本件潮受堤防の閉切りによる被控訴人らの漁業被害が回復されたとの事情変動が生じたものということができ,これは独立の異議事由を構成する。 c また,漁業者は,漁船,漁具を用いて漁業を行う限り,特定の魚種の漁獲のみに依存して生計を立てなければならないという制約はないし,漁業状況調査の結果によれば,漁業者は漁業環境に応じ操業可能な漁業を幅広く行っているのが実態であることからすれば,採捕可能性のある の漁獲のみに依存して生計を立てなければならないという制約はないし,漁業状況調査の結果によれば,漁業者は漁業環境に応じ操業可能な漁業を幅広く行っているのが実態であることからすれば,採捕可能性のある魚類等を含めた漁獲量の全体的な増加傾向をもって,漁業被害の回復と評価することができる。 諫早湾近傍部においては,被控訴人らが所属する本件各組合の共同漁業権の対象魚種ではないものの採捕可能性のある魚類等を含めた漁獲量は,平成9年には約4500tであったところ,その後一時期減少傾向が続いたが,本件各組合の組合員数が減少している中で,平成23年に底を打ち,ビゼンクラゲの増加等により,平成24年には4150tと急激に増大し,その後概ね一貫して増加傾向に転じている。 d 採捕可能性のある魚類等を含めた漁獲量の増加傾向の程度・内容からすれば,本件潮受堤防の閉切りによる被控訴人らの生活の基盤となる漁業行使権に継続的に侵害が生じるとの本件各確定判決の将来予測とは異なる方向で事態が推移したものといえ,上記被控訴人らの漁業被害の回復があったことを補完する事情といえる。 e なお,かかる請求異議事由については,漁獲量が平成25年には増加傾向に転じていることを踏まえ,控訴人が間接強制金の支払を開始した平成26年6月12日より前に成立しているというべきである。 また,同時点での請求異議事由の成立が認められない場合であっても,本件各確定判決が想定した漁業被害に相当する漁獲量の増加傾向が認められる平成28年の最終日である同年12月31日の経過をもって請求異議事由が成立するというべきである。 対策工事の実施が不可能となったことa 即時の開門請求にかかる請求原因が認められるのにこれを3年間猶予する法的根拠はない。そうすると,即時の開門請求を棄却 異議事由が成立するというべきである。 対策工事の実施が不可能となったことa 即時の開門請求にかかる請求原因が認められるのにこれを3年間猶予する法的根拠はない。そうすると,即時の開門請求を棄却した本件各確定判決は,本件潮受堤防の閉切りの客観的違法性について,対策工事が実施されない場合,本件各排水門の常時開放を求める限度であってもこれを肯定できないとの判断を前提とした上で,対策工事が実施されて初めて,本件各排水門を常時開放した場合の防災上の支障や営農上の被害等が小さいものとなり,上記違法性の衡量判断において漁業者の利益が公共の利益を上回るとして,判決確定の日から3年経過するまでの期間が経過した後の請求を認容したものと解される。 そして,本件各確定判決は,控訴人に対し,対策工事の実施に要する3年間という猶予期間を与えたが,その間に控訴人が対策工事を実施しなかった場合には,その状態を控訴人が対策工事を実施した状態又は実施の機会を放棄した状態と同視することとしたものと解される。 本件各確定判決は,3年という猶予期間を純粋に対策工事に要する工期としてのみ設定したものであり,控訴人が期間内に格別の支障なく容易に対策工事を実施完了できるという客観的状況にあることを前提としており,(本件各排水門の常時開放に対してではなく)対策工事の実施そのものに対する長崎県,諫早市及び雲仙市(以下「本件関係自治体」という。)や新干拓地,旧干拓地及びその周辺の低平地(以下「周辺低平地」という。)の営農者,住民等(以下「本件地元関係者」という。)の反対運動等が対策工事の支障となるような事態 の進展を,全く想定していなかった。そして,控訴人及び被控訴人らも同様に認識していた。 b 控訴人は,本件各排水門の開放を行った場合に環境に与える影響の大き の支障となるような事態 の進展を,全く想定していなかった。そして,控訴人及び被控訴人らも同様に認識していた。 b 控訴人は,本件各排水門の開放を行った場合に環境に与える影響の大きさを客観的に明らかにし,対策工事の内容について更に具体化した上で,その実施について本件関係自治体及び本件地元関係者の理解を得るため,前記佐賀地裁判決の言渡後から,本件各排水門の開門調査のための環境影響評価手続を行った。控訴人は,上記環境影響評価手続の成果として,平成23年6月10日,「諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価準備書(素案)」を公表し,その後,本件関係自治体の関係者及び本件地元関係者の意見を聴取し,同年10月18日,「諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価準備書」(以下「本件環境影響評価準備書」という。),平成24年8月21日,「諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価書」(以下「本件環境影響評価書(補正前)」という。)を公表した。農林水産大臣は,同年11月16日,本件関係自治体等の意見を踏まえた本件環境影響評価書(補正前)についての意見を九州農政局長に提出し,同局長は,同月22日,農林水産大臣意見を踏まえて本件環境影響評価書(補正前)を補正した上でこれ(本件環境影響評価書)を公告した。 控訴人は,上記環境影響評価手続を終えた後も,本件関係自治体及び本件地元関係者の理解を得るべく真摯に努力した。控訴人は,本件調整池が本件各排水門の開放によって塩水化することに伴う代替水源確保のため,地下水取水案を検討していたが,これに対する本件関係自治体及び本件地元関係者からの懸念に応える形で海水淡水化施設案を採用することとした。 そして,控訴人は,本件地元関係者に対する個別的 確保のため,地下水取水案を検討していたが,これに対する本件関係自治体及び本件地元関係者からの懸念に応える形で海水淡水化施設案を採用することとした。 そして,控訴人は,本件地元関係者に対する個別的な説明等を行い, 理解を求めた。また,控訴人は,対策工事の実施に向け,本件関係自治体及び本件地元関係者の懸念に応える形で,平成24年度予算において約48億円,平成25年度予算において約164億円の予算措置を講じた。 このように,控訴人は,対策工事に必要な予算を確保した上で,平成25年3月8日,対策工事のうち,海水淡水化施設設置工事等の13件について一般競争入札に係る公告を行い,そのうち12件の工事については同年5月21日又は同月24日に,残りの1件については同年6月26日にそれぞれ工事請負業者が決定した。 このように,控訴人は,対策工事を進める上で協力が不可欠な本件関係自治体及び本件地元関係者の意見を最大限尊重して,一つ一つの懸念を丁寧に取り除きながら対策工事案を策定するとともに,その実現に向けて,本件関係自治体及び本件地元関係者の理解を得るべく,真摯にかつ粘り強く努力を重ねた。 c しかし,本件関係自治体及び本件地元関係者は,予想外の強硬な反対行動を行った。例えば,控訴人は,平成25年9月9日,諫早市内の既設堤防の補修工事への着手を,同月27日,上記既設堤防の補修工事及び小江干拓地の国有地内におけるため池整備工事への着手をそれぞれ試みたが,いずれも同工事箇所周辺に参集した数百人(同年9月9日は約300人,同月27日は約450人)の本件地元関係者からの強い抗議を受け,やむなく工事の着手を断念せざるを得なかった。 また,控訴人は,国有地である工事予定地の周囲に,関係者以外の立入りを禁ずる旨の看板をあらかじめ設置した上で,同 )の本件地元関係者からの強い抗議を受け,やむなく工事の着手を断念せざるを得なかった。 また,控訴人は,国有地である工事予定地の周囲に,関係者以外の立入りを禁ずる旨の看板をあらかじめ設置した上で,同年10月28日に既設堤防の補修工事,ため池整備工事及び中央干拓地の国有地におけるパイプライン整備工事の着手を試みることとしたものの,上記看板は既に撤去され,工事箇所に参集した本件地元関係者合計約560 人から一斉に激しい抗議を受け,説得活動を行ったものの聞き入れられず,やむなく同日における同工事への着手を断念した。 また,上記のとおり,控訴人は,本件各排水門の開放により本件調整池が塩水化することに伴って必要となる農業用水の代替水源案として,当初は地下水取水案を採用することを検討していたが,地下水取水案に対しては本件関係自治体及び本件地元関係者の懸念があったことから,本件環境影響評価準備書において,地下水調査を実施して取水可能な水量や周辺地盤への影響の有無等を詳細に調査することとした。控訴人は,上記の懸念に応えるために,地下水調査の実施を長期間試みたものの,控訴人がした地下水調査の許可申請を根拠不明な理由で雲仙市長が不許可としたり,諫早市が法的根拠もなく地下水協議書を受理しないなど,本件関係自治体等からの強硬な反対で地下水調査すら行うことができなかった。 控訴人は,代替水源案に関し,海水淡水化施設案を採用することとしたが,海水淡水化施設を設置するためには,一級河川である本明川の管理者と河川法上の協議を行う必要があり,平成25年8月に国土交通省やその関係機関との間では河川協議を成立させた。控訴人は,長崎県が管理する区域に関し,同年3月以降,長崎県に協議の申入れを行ったが,長崎県は様々な理由を挙げてこの協議に応じなかった。 国土交通省やその関係機関との間では河川協議を成立させた。控訴人は,長崎県が管理する区域に関し,同年3月以降,長崎県に協議の申入れを行ったが,長崎県は様々な理由を挙げてこの協議に応じなかった。 控訴人は,対策工事の設計・積算に必要な基準点測量を実施するため,公共測量を行うこととしたが,本件関係自治体からの抗議や本件地元関係者からの阻止行動に遭った。 控訴人は,海水淡水化施設によって作られた淡水を干拓地内の農地に供給するため,一部道路上又は道路下にパイプラインを設置することとし,平成25年5月以降,本件関係自治体に対し,道路法に基づく協議及び対策工事の実施に必要となる水路内工事などの法定外公共 物に関する協議の実施を度々申し入れてきたが,本件関係自治体は全く協議に応じなかった。 さらに,本件関係自治体及び本件地元関係者は,別件仮処分決定を得たことで,本件各排水門の開放やそれに向けた対策工事の実施に対する反対姿勢をより一層強固なものとした。 このように,本件関係自治体及び本件地元関係者の予想外の強硬な反対行動等により,本件各排水門の常時開放による被害発生を防止するための対策工事の実施は,不可能となった。 d さらに,①防災上の被害の発生を防止するためには,内部堤防や既設堤防等の補修,周辺低平地における排水ポンプの増設等の対策工事の実施が必要であり,少なくとも約588億円以上の費用を要し,②営農上の被害発生を防止するためには,塩害や潮風害対策の工事が必要であり,少なくとも約200億円以上の費用を要し,③本件各排水門の安定性を確保するとともに漁業被害の発生を防止するためには,捨石工を実施し,護床工等を設置する必要があることが明らかとなり,少なくとも401億円以上の費用を要するなど,対策工事は,本件関係自治体及び本件地 確保するとともに漁業被害の発生を防止するためには,捨石工を実施し,護床工等を設置する必要があることが明らかとなり,少なくとも401億円以上の費用を要するなど,対策工事は,本件関係自治体及び本件地元関係者の懸念に応えるためにより充実した内容となり,実施に要する費用は,合計約1189億円と過大なものとなった。 e このような本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた事情変化(見込みから現実)によって,対策工事を実施することができない状況に陥ったが,このような状況になったことについて控訴人に帰責性はない。控訴人は,決して懈怠していない。 そうすると,対策工事が行われないことにより,本件各排水門の常時開放に伴う被害の増大という公共の利益が縮小せず,客観的違法性の衡量判断に当たり,漁業者の利益を上回るものと評価されることは, 本件各確定判決の上記の判断構造に照らしても明らかであるから,これもまた,独立の異議事由を構成する。 f なお,上記諸事情に照らすと,当該請求異議事由については,控訴人が間接強制金の支払を開始した平成26年6月12日より前に成立したものである。 違法性の衡量の逆転本件各確定判決は,本件潮受堤防の閉切りの客観的違法性の判断において,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に執られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきであるとし,将来における本件開門請求権の成否及び内容を基礎付ける事実関係が継続的に存在することを予測した上で,将来給付を命じている。将来にわたり継続的に客観的違法性を基礎付ける してこれを決すべきであるとし,将来における本件開門請求権の成否及び内容を基礎付ける事実関係が継続的に存在することを予測した上で,将来給付を命じている。将来にわたり継続的に客観的違法性を基礎付ける事実関係が存在することを前提とする請求権に係る給付判決においては,当該請求権が発生する時点々々において,その都度客観的違法性を基礎付ける事実関係が変動せず継続して存在している前提でなければ,当該請求権の継続的な発生が認められないのであるから,当該客観的違法性の評価根拠事実や評価障害事実(将来請求の基礎となる将来の事実)に変動があれば,それらの変動した事情に基づいて衡量判断を行う必要があり,その客観的違法性の有無について衡量判断を逆転させる事情の変動があった場合には,それをもって当該判決の異議事由を構成する。 本件においては,以下のとおり,本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた本件潮受堤防の閉切りの客観的違法性の規範的評価において衡量すべき,①本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を増大 させる事情や,②本件各排水門の常時開放により回復される被控訴人らの漁業被害を縮小させる事情が生じ,上記違法性の評価が逆転し,これを認めることができなくなったものであり,これは独立の異議事由を構成する。 a 本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を増大させる事情の発生① 対策工事の実施が不可能となったこと上記のとおり,本件各排水門の開放に向けた対策工事を実施することは不可能な状況になった。 ② 防災上の支障の増大諫早湾周辺地域においては,本件調整池の水位を現状と同様に低く管理することを前提に,本明川の河川改修工事計画が策定され,本件各確定判決の口頭弁論終結後に,その施工が相当段階まで進展したものであり,その結 周辺地域においては,本件調整池の水位を現状と同様に低く管理することを前提に,本明川の河川改修工事計画が策定され,本件各確定判決の口頭弁論終結後に,その施工が相当段階まで進展したものであり,その結果,本明川から本件調整池への流入量が増大しつつあり,大規模な降雨時においても,より大量の河川水を安全に流下させることができるようになった。 また,近年の気候変動に伴い,事前予測が極めて困難な短時間強雨が,本件各確定判決の口頭弁論終結後,全国的に増加し,その増加傾向は,これまでとは別次元の「新たなステージ」に入ったとされる。本件調整池が有する農地の常時排水を改善する機能が本件調整池内の水位を低く保つことによって確保されることからすれば,上記短時間強雨の増加傾向に対応した防災態勢の整備を行う観点からは,本件調整池の水位調整機能の必要性が増大している。 さらに,本件各確定判決の口頭弁論終結後には,海面水位の上昇傾向(年間2.6~4.2mm),本件調整池周辺の排水機場の設置(平成23年の釜ノ鼻排水機場,平成25年の釜ノ鼻東排水機 場),旧干拓地等に設置されている既設堤防のクラック拡大等の劣化(本件各排水門が開放されると大きな潮位の変動にさらされ,堤防内部の土質材料が外部に流出して堤防の安全性に影響が生じること),周辺低平地の地盤沈下の進行(小野・長田地区で最大約4. 6cm),本件調整池周辺の土地利用の多様化(農地から宅地,商業施設に転用され世帯数や人口も増加)などといった事情が見られ,本件調整池の水位を低く保つ必要性は高まっている。 これらの各事情は,本件潮受堤防により本件調整池の水位を低く管理することによって湛水等の災害発生を防止し,又は発生した災害の被害回復の迅速化に適うものであり,本件潮受堤防の公共性ないし公益上の必要性 れらの各事情は,本件潮受堤防により本件調整池の水位を低く管理することによって湛水等の災害発生を防止し,又は発生した災害の被害回復の迅速化に適うものであり,本件潮受堤防の公共性ないし公益上の必要性を増大させる事情となる。 また,本件各排水門の常時開放を行った場合,大潮の際の下げ潮時に,本件各排水門近傍における潮流の流速が最大で毎秒4ないし5m程度に増加し,その海底が洗掘され,本件各排水門の護床工の構造が維持できなくなり,本件各排水門の安定性に影響を生じるおそれがある。 本件調整池の水位がマイナス1.0mないしマイナス1.2mに管理されることを前提として,本明川の河川整備計画が平成28年3月29日に変更され,その後,防災対策の策定が進められている。 本件各排水門の常時開放を行った場合,河川整備計画や防災対策の再策定を余儀なくされるなどの防災上の支障が生じる。 本件各排水門の常時開放を行った場合,本件調整池が塩水化して飛来塩分量が増加するため,本件各確定判決の口頭弁論終結時以降に架設され塗装による塩害対策が採られていない長崎自動車道(諫早IC)と南島原市を結ぶ島原道路の田尻高架橋などの4橋に対し,鋼材の腐食が促進し機能が損なわれ,交通の寸断が生じるなど防災 上の支障が生じる。 ③ 営農上の被害の増大本件各確定判決の口頭弁論終結後,新干拓地に造成された大規模で平坦な優良農地を利用することにより,大規模な先駆的農業経営が行われ,効率的農業が実践されるとともに,更なる経営の効率化や栽培技術の発展のための先進的な取組も試みられるなど,日本農業の最先端の事例となっている。新干拓地の営農者らは,全員が持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律4条に基づく認定農業者(エコファーマー)に認定され,長崎県知事が定めた適正農 ど,日本農業の最先端の事例となっている。新干拓地の営農者らは,全員が持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律4条に基づく認定農業者(エコファーマー)に認定され,長崎県知事が定めた適正農業規範(GAP)に取り組み,長崎県特別栽培農産物の認証又は有機栽培農作物の認定の取得を目指している。新干拓地全体での推定農業産出額は,露地野菜や施設園芸の増加に伴い,平成21年度の約23億6000万円から平成27年度は約34億1100万円,平成28年度は約37億6000万円,平成30年度は約30億円にそれぞれ増加した。 また,旧干拓地においても,本件調整池の水位が低く管理され,淡水化されたことに伴い,稲作のみにしか利用できなかった農地を収益性の高いミニトマト,イチゴ等の施設野菜(ハウス栽培),タマネギやブロッコリー等の露地野菜に利用する経営体が増加した。 旧干拓地全体での推定農業産出額は,平成27年度で約24億6100万円に上っており,平成22年度と比較すると2億6900万円増加した。 しかるに,本件各排水門が常時開放され,本件調整池が塩水化してその水位が管理されなくなった場合,本件調整池又は潮遊池の貯留水を利用した循環灌漑で全ての農業用水を確保している新干拓地及び旧干拓地のうちの釜ノ鼻地区では,農業用水が利用できなくな るため全面的に営農不能となるし,その他の干拓地においても,循環灌漑によって最大年間272万6000tにも上る農業用水を得ていることからすれば,十分な農業用水の確保ができなくなり,営農上の重大な支障が生じる。上記のとおり,対策工事の実施は不可能となっており,代替水源を確保することは到底不可能である。さらに,本件各排水門が常時開放されて本件調整池が塩水化した場合,本件各確定判決の口頭弁論終結後,新干拓地や旧 とおり,対策工事の実施は不可能となっており,代替水源を確保することは到底不可能である。さらに,本件各排水門が常時開放されて本件調整池が塩水化した場合,本件各確定判決の口頭弁論終結後,新干拓地や旧干拓地では,塩害等に対して米よりも弱い野菜等が栽培されていることからすれば,塩害や潮風害等による被害が生じることとなる。 このような事情は,本件潮受堤防の閉切りが,新干拓地及び旧干拓地における営農上の被害の発生及びその拡大を防ぐために必要不可欠であることを示すものであるから,本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を増大させる事情となる。 ④ 漁業被害の増大諫早湾内においては,本件各確定判決の口頭弁論終結後も,カキ,アサリを中心とした漁業への取組が発展した。諫早湾内におけるカキの養殖は,平成23年以降,シングルシード(一粒種)という新しい養殖技術により生産されたカキの販売が開始され,平成24年に全国のカキの品評会において第1位を受賞したことなどもあいまって,全国的に知名度が高くなり,全国規模で流通するまでに発展し,ブランド化に成功したところである。この結果,本件潮受堤防に最も近い位置にある小長井町漁協や瑞穂漁協におけるカキ養殖による生産額は,平成28年度には両漁協における漁業生産額の7割を超える割合になるなど増加傾向にあり,本件潮受堤防の直近の漁業協同組合においては,カキ養殖業が漁業協同組合における漁業生産の中心的役割を担うようになるまでに発展し,加工商品の販売や 観光資源として地域経済においても重要な役割を果たすようになった。諫早湾内におけるアサリの養殖は,これに不向きな海底の底質を改善して養殖場の造成に成功し,取引価格が上昇して漁業協同組合の直販所等で販売され,最新の垂下式養殖も試みられている。 しかる になった。諫早湾内におけるアサリの養殖は,これに不向きな海底の底質を改善して養殖場の造成に成功し,取引価格が上昇して漁業協同組合の直販所等で販売され,最新の垂下式養殖も試みられている。 しかるに,本件環境アセスメントにおける環境影響調査の予測結果によれば,本件各排水門が常時開放されることになれば,底質の巻き上げによる濁りの増加や諫早湾内における潮流速の増加等によって,カキやアサリの養殖業に対して大きな影響があることは避けられない。このような事情は,本件潮受堤防の閉切りが,諫早湾内における漁業被害の発生及びその拡大を防ぐために必要不可欠であることを示すものであるから,本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を増大させる事情となる。 ⑤ 生態系等への影響の増大本件各確定判決の口頭弁論終結後,本件調整池が淡水化され,その水位が低く管理されることに伴い,新干拓地及び旧干拓地の前面など本件調整池内に土の堆積等によって自然干陸地が形成され,その広さも約600haにまでに拡大した。本件調整池や上記自然干陸地においては,本件調整池が淡水であることを前提とした環境下で,より多様かつ多量の生態系が育まれ,また,安定した水際部に拡大したヨシ等の群落においては水鳥や小動物の生息が確認され,チュウヒ等の希少種の生息も確認されている。さらに,上記自然干陸地においては,地元住民らの手により植栽が施され,公園等の整備も進められ,地元住民や観光客等が訪れるようになり,ボートの練習水域等としても利用されている。 しかるに,本件各排水門の常時開放がされれば,本件調整池の塩水化や外潮位の影響を受ける本件調整池内の潮汐の変動に伴う浸食 等によって,上記生態系が極めて大きな被害を受けるほか,新たに形成された本件調整池内の自然干陸地やヨシ等の 本件調整池の塩水化や外潮位の影響を受ける本件調整池内の潮汐の変動に伴う浸食 等によって,上記生態系が極めて大きな被害を受けるほか,新たに形成された本件調整池内の自然干陸地やヨシ等の群落等の維持が不可能となるなど,上記の新たに形成された生態系や地域の交流の場などが失われることになる。 これらの事情は,本件調整池内においては,現状の環境を前提にした新たな生態系が築かれるようになり,更に本件調整池内に形成された自然干陸地を地元住民らの新たな交流等の場として利用する必要性が増大していることを示すものであるから,本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を増大させる事情となる。 ⑥ 相反する義務と間接強制決定控訴人は,本件各確定判決の口頭弁論終結後にされた別件仮処分決定等により,本件営農者等との関係で,本件各排水門を開放してはならない旨の法的義務を負った。また,控訴人は,その後に申し立てられた別件仮処分決定に係る間接強制申立事件において,長崎地裁から,別件仮処分決定に基づく本件各排水門の開放禁止義務に違反した場合には,違反行為をした日1日につき49万円の間接強制金の支払を命じる旨の決定を受け,同決定がその後に確定したことから,本件各確定判決に従って本件各排水門の開放を5年間継続すれば,総額約9億円にも及ぶ間接強制金の支払を余儀なくされる。 しかるに,本件潮受堤防の閉切りにより,多額の間接強制金の支払という税金を原資とする支出を回避できることになるから,これらの事情は,本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を増大させる事情となる。 ⑦ 上記①から⑥までの事情は,いずれも本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を増大させる事情の変化に当たり,これによって,現時点における本件潮受堤防の閉切りの公共 大させる事情となる。 ⑦ 上記①から⑥までの事情は,いずれも本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を増大させる事情の変化に当たり,これによって,現時点における本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公 益上の必要性は,本件各確定判決の口頭弁論終結時と比較して著しく増大した。 b 本件各排水門の常時開放により回復される被控訴人らの漁業被害を縮小させる事情の変化① 諫早湾近傍部の漁獲量の増加傾向上記のとおり,諫早湾近傍部における漁獲量は,増加傾向に転じた。 ② 新たな漁業行使権の設定平成25年9月1日以降の本件開門請求権は,本件潮受堤防の閉切り後の漁業環境等を前提として,同日に新たに免許された共同漁業権に基づくものであり,違法性の衡量においてはこの点も踏まえるべきである。 ③ 勝訴原告らの人数及びその就労可能年数の減少本件各確定判決において予備的請求が認容された合計58名の漁業者ら(以下「勝訴原告ら」という。)の一部の死亡及び漁業行使権の喪失や時間の経過による就労可能年数の減少により,漁業被害の総和も縮小している。 本件各確定判決は,個々の勝訴原告らに関する個別的事情を一切斟酌しておらず,本件潮受堤防の閉切りの客観的違法性の判断に当たり,勝訴原告らの漁業被害の総和と,本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を比較衡量した結果,本件各排水門を常時開放する限りで違法性が肯定できると評価したものと解される。 このように,勝訴原告らが一定期間継続して被る漁業被害の総和をもって本件各排水門の開放により回復される被控訴人らの漁業被害と捉えている以上,同判決の口頭弁論終結後,勝訴原告らの一部が死亡し,また,一部について漁業行使権を有していないことが判明 した 本件各排水門の開放により回復される被控訴人らの漁業被害と捉えている以上,同判決の口頭弁論終結後,勝訴原告らの一部が死亡し,また,一部について漁業行使権を有していないことが判明 したという事情によって,上記勝訴原告らの漁業被害の総和もそれらの部分について縮小したものといえる。 また,上記以外の勝訴原告ら(被控訴人ら)も,本件各確定判決の口頭弁論終結時から現在までの時間の経過に伴い,当然に高齢化し就労可能期間が減少していることに伴い,漁業を営むことができる期間が減少しているのであるから,勝訴原告らの漁業被害の総和も縮小しているといえる。 そして,被控訴人Y1,同Y2,同Y3,同Y4,同Y5,同Y6,同Y7,同Y8,同Y9,同Y10及び同Y11の11名(以下「被控訴人Y1ら11名」という。)は,アサリ等の採貝漁業や固定式刺網漁業,アサリ養殖業等を行っていて,第2種共同漁業権(有共第1号)の内容となる漁業を現在行っていない。 また,被控訴人Y12,同Y13,同Y14,同Y15,同Y16,同Y17,同Y18,同Y19及び同Y20の9名(以下「被控訴人Y12ら9名」という。)は,組合員資格審査に際して調査票を提出していないことからすれば,ノリ養殖業を行っているものと推認され,第2種共同漁業権(有共第1号)の内容となる漁業を現在行っていないものと推認される。 さらに,被控訴人Y21,同Y22及び同Y23は,後記(控訴人の主張)のとおり漁業を現在全く行っていない。 これらの被控訴人らは,上記共同漁業権に係る漁業行使権による漁業によらなくとも生計を維持することができているのであり,もはやこれらの被控訴人らの上記漁業行使権は,生活の基盤に関わる権利といえないし,それに対する高度な侵害が発生する余地もないから,勝訴原告らの漁業 らなくとも生計を維持することができているのであり,もはやこれらの被控訴人らの上記漁業行使権は,生活の基盤に関わる権利といえないし,それに対する高度な侵害が発生する余地もないから,勝訴原告らの漁業被害の総和は縮小する。 その上,被控訴人Y21,同Y22,同Y23,島原漁協の被控 訴人ら10名及び有明漁協の被控訴人ら14名は,後記(控訴人の主張)のとおり,漁業協同組合の組合員資格を喪失しており,このことにより,勝訴原告らの漁業被害の総和は縮小する。 そして,これらの事情は,本件各排水門の開放により回復される被控訴人らの漁業被害を縮小させる事情になる。 ④ 有明海の漁業資源の回復に向けた取組控訴人は,平成17年以降約350億円(平成22年以降でも約229億円)という多額の費用を拠出して,有明海の漁業環境を改善して漁業資源の回復を図るための施策を多数実施してきた。具体的には,控訴人は,㋐貧酸素水塊調査等の海域環境の調査,㋑アサリ,タイラギ,サルボウ,アゲマキ等の魚介類の増養殖技術の開発,㋒漁場環境改善の現地実証,㋓覆砂,海底耕耘等の漁場環境の整備事業,㋔有明海沿岸4県と協調した二枚貝類の資源回復のための事業等を行ってきた。これにより,アサリの漁獲量の回復傾向を始め有用二枚貝類を含む底生生物が増加するなどの具体的な成果が現れている。底生生物の増加は魚類の資源回復に資するものとされており,被控訴人らの漁業被害を回復させるものである。 このような事情は,本件各排水門の常時開放という方法によらずに,被控訴人らの漁業被害を回復させる方法が新たに見出されつつあることを示す事情であって,本件各確定判決自体が説示する新たな事情の変化が現実化したものであるから,同判決の口頭弁論終結後に生じた,被控訴人らの漁業被害を縮小させる事情で 方法が新たに見出されつつあることを示す事情であって,本件各確定判決自体が説示する新たな事情の変化が現実化したものであるから,同判決の口頭弁論終結後に生じた,被控訴人らの漁業被害を縮小させる事情である。 ⑤ 上記①から④までの事情は,いずれも被控訴人らの漁業被害を縮小させる事情の変化に当たり,これによって,現時点における被控訴人らの漁業被害は,本件各確定判決の口頭弁論終結時と比較して著しく縮小した。 c このように,本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を増大させる事情の変化が生じ(上記a),他方で,被控訴人らの漁業被害を縮小させる事情の変化が生じたものであって(上記b),両者を衡量すれば,本件各確定判決の口頭弁論終結時における衡量判断とは異なり公共の利益が漁業者らの利益を上回ることは明らかというべきであるから,これは独立の異議事由を構成する。 d なお,上記各主張によれば,かかる請求異議事由については,控訴人が間接強制金の支払を開始した平成26年6月12日までに違法性の衡量が逆転したというべきである。 また,同時点での請求異議事由の成立が認められない場合であっても,本件各確定判決が想定した漁業被害に相当する漁獲量の増加傾向が認められる平成28年の最終日である同年12月31日の経過をもって違法性の衡量が逆転したというべきである。 さらに,上記主張も認められない場合であっても,控訴人は,令和元年6月26日の最高裁判所の決定(前提事実)により,開門禁止義務を負うことが確定したのであるから,同日をもって違法性の衡量が逆転したというべきである。 エ間接強制金の受領(予備的主張)本件潮受堤防により漁業権が消滅し,又は被控訴人らよりも本件潮受堤防に近くその影響が大きいと見込まれる漁業者らに対する 法性の衡量が逆転したというべきである。 エ間接強制金の受領(予備的主張)本件潮受堤防により漁業権が消滅し,又は被控訴人らよりも本件潮受堤防に近くその影響が大きいと見込まれる漁業者らに対する補償額でさえ,一人当たり約1738万円であったし,また,被控訴人らの計算上の漁業権消滅補償額も約1956万円にとどまる。 別紙2被控訴人目録記載1及び同2の被控訴人らのうち「間接強制」欄が「債権者」である45名は,控訴人から間接強制金を受領しており,その額は,平成30年7月30日の時点で合計12億3030万円(一人当たり2734万円)に上っており,この間接強制金の受領によって,その 漁業被害は完全に補填され,過剰な救済となっているといえる。また,これにより,本件潮受堤防の閉切りの客観的違法性の規範的評価が逆転することは明らかである。これは,上記アからウまでの各異議事由を補完する事情となる。 オ本件各確定判決が将来給付の判決であってその既判力は柔軟性を持つこと,同判決自体が将来の開門調査により事実関係が変動することを想定していること,同判決は環境法上の予防原則(新たな知見の発生に順応して判断のし直しをすることが要請されること)が適用される場面と同様の科学的に不確実な状況の下でされたものであること等を考慮すれば,同判決の口頭弁論終結前から存在していた可能性のある事実であっても,本件環境アセスメントの結果等の,同判決の口頭弁論終結時には科学的な調査が未了で判明しておらず主張することの期待可能性がなかった事実であれば,異議事由となるというべきである。 また,本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた,①本明川水域の河川改修等の進展(本明川の堤防の嵩上げ,拡幅,河道掘削等の河川改修が長田内水域で完了したこと),②短時間強雨発生等の異 うべきである。 また,本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた,①本明川水域の河川改修等の進展(本明川の堤防の嵩上げ,拡幅,河道掘削等の河川改修が長田内水域で完了したこと),②短時間強雨発生等の異常気象(予測が一層困難になった。)の増加傾向といった事情の複合的作用から,湛水被害等のおそれが増大していることは,異議事由を構成する。 (被控訴人らの主張)ア本件各確定判決は,その主文の文理解釈や理由中の説示からすれば,控訴人が同判決に係る審理において主張していた対策工事の必要性や工事期間を踏まえて,本件開門請求権の行使を3年間猶予することとして,「判決確定の日から3年を経過する日までに」本件各排水門を開放すると確定期限を定めたものと解するほかない。また,「防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度で認容するに足りる程度の違法性は認められる」(本件各確定判決のうち福岡高裁判決33頁)との判示からすると,対策 工事が実施されていない状態でも,本件開門請求権の行使を認めるべき違法性が存在すると判断したものである。したがって,現時点においても,本件開門請求権の行使を認めるべき違法性は存在する。 イ本件各確定判決の主文にいう「防災上やむを得ない場合」とは,その文理解釈や理由中の説示からすれば,本件潮受堤防が有する高潮時の防災機能及び洪水時の防災機能に照らし,集中豪雨が予想され高潮災害や洪水災害を防止するためにやむを得ない場合という限定された場面を意味するものと解するほかない。したがって,対策工事が実施されていない状態は,同判決主文の「防災上やむを得ない場合」に該当しない。 ウ控訴人の立論の前提である将来給付判決の法理は,いずれも損害賠償請求に関するものであり,本件各排水門の開放という作為を求める本件各確定判決に対して 文の「防災上やむを得ない場合」に該当しない。 ウ控訴人の立論の前提である将来給付判決の法理は,いずれも損害賠償請求に関するものであり,本件各排水門の開放という作為を求める本件各確定判決に対してその適用がないことは明らかである。 民事訴訟における再審事由ですら証拠の偽造等の極めて限られた事由が定められているにすぎない以上,何らの限定もない「口頭弁論終結後に生じた事実関係の変動」という異議事由を認めることは,異議事由を不当に拡大するものであって許されない。 本件各確定判決が,本件各排水門を開門しないことを違法と認定したにもかかわらず,開門しない状態が現在も継続している以上,控訴人が主張する同判決の口頭弁論終結後に生じた事実関係の変動が異議事由にならないことは明らかである。 また,控訴人が主張する異議事由である「漁獲量の増加傾向への転化」及び「違法性の衡量の逆転」は,いずれも余りに時点が不明確であり,異議事由として認めるべきではない。 諫早湾近傍部の漁獲量が増加傾向に転じたこと控訴人の上記主張は,弁済や相殺のような権利関係を消滅させる内容の主張ではない。また,上記主張は,結局のところ,本件潮受堤防の閉 切りと漁業被害との因果関係を争う蒸し返しにほかならず,本件各確定判決の既判力により遮断される。 漁獲量の増加が異議事由として成り立ち得るためには,少なくとも本件潮受堤防の閉切り時を超える漁獲量が安定的に継続することが必要であるところ,現在そのような状況にはない。 本件5つの共同漁業権の主な対象魚種の漁獲量については,平成25年に増加したのはシバエビであるが,シバエビ以外の魚種の減少傾向には歯止めがかかってない。 有明海・八代海総合調査評価委員会(平成23年8月以降,有明海・八代海等総合調査評価委員会に改称。以 年に増加したのはシバエビであるが,シバエビ以外の魚種の減少傾向には歯止めがかかってない。 有明海・八代海総合調査評価委員会(平成23年8月以降,有明海・八代海等総合調査評価委員会に改称。以下,改称の前後を区別することなく「評価委員会」という。)が平成18年12月に取りまとめた報告書(以下「平成18年評価委員会報告」という。)及び平成29年3月に取りまとめた報告書(以下「平成29年評価委員会報告」という。)においても,魚類の漁獲量は,昭和62年をピークに一貫して減少傾向を示しており,漁獲量に多少の増加があったとしても,1990年代後半の過去最低水準を下回るものであることに変わりはない。また,本件各組合の組合員数が減少しているのは,本件事業を原因とする不漁が原因であり,漁業被害が継続していることの現れである。 本件5つの共同漁業権の主な対象魚種以外の魚種(ビゼンクラゲ等)については,そもそも漁業行使権侵害の対象とならない代わりに異議の事由にもなり得ない。ビゼンクラゲはたまたま約40年ぶりに大量発生し他に獲るものがないから獲ったにすぎず,その漁獲量も減少している。 そればかりか,被控訴人らの漁業被害は,控訴人が開門義務を怠っている間に,継続,累積,拡大し,より一層深刻化している。 対策工事の実施が不可能となったこと本件各確定判決は,主文において,対策工事の実施を停止条件として 掲げることなどをしておらず,対策工事の内容についても一切言及していないし,その理由中でも,違法性の認定を対策工事の実施に係らせていない。同判決は,対策工事の実施を違法性の判断の要素としておらず,口頭弁論終結時において,本件各排水門を開放するに足りる違法性があることを認めたものであり,3年間という期間が猶予期間にすぎないことは,文理解釈 は,対策工事の実施を違法性の判断の要素としておらず,口頭弁論終結時において,本件各排水門を開放するに足りる違法性があることを認めたものであり,3年間という期間が猶予期間にすぎないことは,文理解釈として明らかである。上記開放請求は,義務者に深刻な影響を及ぼすものであるから,一定の合理的な期間を付すことは裁判所の裁量に委ねられているというべきである。 また,本件各確定判決の口頭弁論終結時において,開門調査に対する賛成派と反対派が存在していたことは公知の事実であり,控訴人は,環境影響評価に最低3年,関係者への説明と調整には数年,対策工事で3年,工期が延びる可能性もあると主張しており,対策工事が格別の支障なく行われることを,裁判所も当事者も前提としていたものではない。 控訴人は,本件各確定判決に基づく義務を誠実に履行する意思をもとより有しておらず,様々な口実を付けて懈怠しているにすぎない。控訴人は,必要がない環境アセスメントに固執して対策工事の着手を延々と引き延ばし,同判決の文理を歪曲して制限的な開門を行う方針を一方的に表明し,それを前提にした不十分で反対住民の反対をあおる対策工事をあえて提示して地元の反発を招き,代替案を示すこともせず,対策工事をする段階で地元にあえて事前通告をして反対行動が起こると退散し,そのような事態に対する実効的な対策も考えず,かかる地元の反発を口実に対策工事の着手を放棄した。 また,被控訴人らは,控訴人に対策工事を実施させるために間接強制による強制執行を申し立てており,対策工事を実施せずに本件各排水門を開放することを前提とする主張は異議事由に当たらない。仮に異議事由に当たるとしても,対策工事の実施が不可能な状況は控訴人によって 作出されたものであって,信義則上異議事由と認められるべきではない。 前提とする主張は異議事由に当たらない。仮に異議事由に当たるとしても,対策工事の実施が不可能な状況は控訴人によって 作出されたものであって,信義則上異議事由と認められるべきではない。 控訴人は,その上,別件仮処分決定の審理でも,本件各確定判決を無視した主張を展開し,別件仮処分決定を受けると,相反する二つの義務を負ったなどとして,同判決に基づく義務を履行しなかった。 本件地元関係者の反対は,平成25年12月17日に提出された要請書が最後であり,その後の反対運動は存在しない。 また,対策工事の費用が高額化したとする控訴人の主張は,本件各確定判決における主張の蒸し返しというべきであるし,控訴人において過剰な対策工事を策定することによって異議事由が認められるのは不当である。 違法性の衡量の逆転控訴人が,違法性の衡量要素として本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じたと主張する事由の大部分は,上記口頭弁論終結前から存在した事象であり,同判決に係る審理の対象となった事項を蒸し返すものにすぎない。そして,同判決が前提とした本件潮受堤防閉切りの違法性に関する衡量判断に何ら変化はなく,違法性の衡量が逆転したとは到底いえない。 本件各確定判決の違法性の根拠の中核は,本件潮受堤防の閉切りによって被控訴人らが深刻な漁業被害を受けているということにあり,この漁業被害は,同判決の口頭弁論終結時よりも拡大している。 a 本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性に係る事情① 対策工事の実施について上記のとおり,本件各確定判決は,対策工事の実施を違法性の判断の要素としていない。また,対策工事の費用の増大については,同判決前に控訴人が行った開門した場合の被害に対する誇大宣伝に起因して対策を講じることとなったものが多く含まれており,同 実施を違法性の判断の要素としていない。また,対策工事の費用の増大については,同判決前に控訴人が行った開門した場合の被害に対する誇大宣伝に起因して対策を講じることとなったものが多く含まれており,同判 決の口頭弁論終結後の事情の変化とはいえない。 また,上記のとおり,控訴人は,一貫して対策工事を懈怠したものであり,対策工事がされていない現状は控訴人が自ら招いたものである。本件訴訟における訴訟活動等も踏まえると,控訴人に本件各確定判決に基づく義務を履行する意思がないことは明らかである。 ② 防災上の支障について本明川の河川改修は,治水を目的として計画的に進められていたのであるから,その事業を進める上で,本明川上流の短時間強雨の異常気象の増加傾向も当然考慮すべきものであるし,その複合的作用についても当然に予測され,前訴において主張することができたものである。本明川の河川改修において主張されている各工事は平成20年の時点で既に着工されていたし,堤防整備等による本件調整池への流量の増加について,控訴人は具体的な主張をしていない。 また,平成28年の本明川の河川整備計画の変更については,一定期間ごとに再策定することが当然に予定されているから,その変更を違法性の衡量の判断に入れることはできない。 短時間強雨の異常気象の増加傾向によって生ずる湛水被害については,本件各確定判決の口頭弁論終結時よりはるか以前から議論されてきた地球規模の気候変動の一部であり,優に予見可能であった。 気候変動レポート等は,100年ないし数十年単位での変動傾向を指摘しており,単に発表時期が同判決の口頭弁論終結後であったにすぎない。また,気象予報による降雨の事前予測の精度は,同判決の口頭弁論終結時よりもむしろ向上している。 本件各排水門を閉め切っていても 指摘しており,単に発表時期が同判決の口頭弁論終結後であったにすぎない。また,気象予報による降雨の事前予測の精度は,同判決の口頭弁論終結時よりもむしろ向上している。 本件各排水門を閉め切っていても,現在の周辺低平地ポンプの総容量では,諫早大水害と同等の降雨があれば最高で3.71mの浸水が発生するとされているし,満潮時と短時間強雨が重なれば湛水 被害は生じる。湛水被害のおそれは,本件各排水門の開門とは無関係に,排水ポンプの増設等別途の対策が講じられなければならないから,これを開門しないことの理由とすることはできない。 海水面の上昇については,上昇率が少ない鹿児島県名瀬市と上昇率が最も大きい福岡市との比較であるし,上昇傾向についても昭和60年という30年以上前の平年差との比較であって,比較自体が失当であり,大浦の海面水位平年差はほとんど変わっていない。 排水機場の整備については,控訴人がこれを整備したことにより,湛水被害の減少に繋がっているのであり,かえって本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を縮小させる事情である。 既設堤防のクラックについては,これ自体,本件各確定判決の口頭弁論終結時から存在したものであるし,対策工事により十分対応が可能である。 周辺低平地の湛水被害は,既存堤防や排水路を整備し排水機場を整備することで対応すべき問題であり,本件潮受堤防の閉切りとは関係がない。また,中央干拓地の周辺低平地である小野・長田地区については,現在も地盤沈下が進行しており,中央干拓地の営農者らが地下水を採取したことが原因である可能性が否定できず,本件調整池に頼らない代替水源確保のための対策工事の必要性を示すものであり,本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を縮小させる事情である。 本件調整池周辺の土 である可能性が否定できず,本件調整池に頼らない代替水源確保のための対策工事の必要性を示すものであり,本件潮受堤防の閉切りの公共性ないし公益上の必要性を縮小させる事情である。 本件調整池周辺の土地利用の多様化については,宅地が増えたなどという評価自体が困難であるし,人口は諫早市全域で3858人,低平地で581人も減少している。 田尻高架橋等4橋への影響については,それらの架橋計画は本件各確定判決の口頭弁論終結時に既に存在していた可能性が高いし, これらが無塗装であるとか腐食により強度が劣化していることの立証はされていない。そもそも,飛来塩分は,全国の海沿いの地域で生じ得る問題であって,開門に伴う弊害とはいえない。 ③ 営農上の被害について控訴人が主張する営農の進展という実態はない。新干拓地における営農は,補助金の交付によってかろうじて成り立っているにすぎず,リース方式によるスキームは破綻の危険にあるなど,新干拓地における営農は多大な問題を抱えている。 控訴人が算出する新干拓地の推定農業生産額についても,代表農家の聴き取りに基づく単収を収穫面積にかけて,かつ,実際の卸値は無視して全て大阪市場の年平均単価をかけて求めた推定にすぎず,恣意的である。 新干拓地におけるリース料は,近時の厳しい督促によって改善傾向が見られるが,いまだ100%徴収できたことはなく,平成29年7月で2772万円の未徴収がある。土地改良賦課金については,未納の改善傾向は見られない。 新干拓地における営農は,平成20年から開始されたが,延べ11経営体が撤退しており,新干拓地における営農の困難さを表している。 新干拓地においては,平成20年の営農開始直後から,干拓地特有の粘質で軟弱な土壌の特性から排水不良が生じ,その後,深刻化しているが, 体が撤退しており,新干拓地における営農の困難さを表している。 新干拓地においては,平成20年の営農開始直後から,干拓地特有の粘質で軟弱な土壌の特性から排水不良が生じ,その後,深刻化しているが,公益財団法人長崎県農業振興公社(以下「公社」という。)は資金不足であり,ようやく平成28年度に2300万円を積み立てたにすぎない。公社による暗渠排水等の修繕等の排水不良対策は行われない可能性が高い。他方,開門を機に海水淡水化施設を造設するなどの代替水源を構築したり,控訴人の漁業振興基金案 を利用して排水不良対策を行えば,営農を利することができる。 公社と長崎県は,平成30年のリース契約の再設定に当たり,営農者らに対して,リース料の滞納があった場合にはリース契約の再設定を行わないことなどを内容とする同意書の提出を義務付けたが,これについて営農者らとの間で紛争が発生している。 加えて,本件各排水門の開門により,カモ食害や冷害・熱害を防止できるのであり,上記開門こそ,営農効果を高め,営農にむしろ利するものといえる。 そもそも,事前対策を行わなかった場合の営農上の被害が違法性の衡量要素として事情変更に当たるものでもないし,事前対策工事の実施により営農上の被害は回避可能であることから,請求異議事由になり得ない。 ④ 漁業上の被害について控訴人は,本件各確定判決に係る審理においても,本件各排水門を開放した場合の漁業被害について主張しており,同判決における主張の蒸し返しであり,同判決の既判力により遮断される。 また,本件各排水門の常時開放による漁業被害はほとんどない。 漁業被害が生じる漁業者らは,開門差止訴訟に係る長崎地裁判決において,全開門の場合ですらわずかに10名が認められているにすぎないし,これらの漁業者らは,本件潮受堤防の による漁業被害はほとんどない。 漁業被害が生じる漁業者らは,開門差止訴訟に係る長崎地裁判決において,全開門の場合ですらわずかに10名が認められているにすぎないし,これらの漁業者らは,本件潮受堤防の閉切りによってタイラギ潜水器漁の休漁が続いたため,やむなくカキ養殖を始めたものであり,逆に本件潮受堤防の閉切りの違法性を高める事情というべきである。 むしろ,本件各確定判決の口頭弁論終結後の知見によれば,本件各排水門の常時開放により,諫早湾のみならず有明海全体の漁場環境は改善し,諫早湾を含む有明海の漁業生産全体を利することにな る。 ⑤ 生態系等への影響について控訴人は,本件各確定判決に係る審理においても,本件各排水門を開放した場合の生態系への影響について主張しており,同判決における主張の蒸し返しであり,同判決の既判力により遮断される。 本件潮受堤防の閉切りにより干潟を消失させ,豊かな生態系を破壊し,多種多様な生物を死滅させておきながら,現状の新たな生態系の保護を問題にすることは許されない。また,現状の生態系についても,諫早湾本来の生態系に生息している干潟,浅海性の生物を対象とすべきであるが,本件環境アセスメントで対象とされた生態系は衡量するに値しない。また,本件調整池においては,ユスリカやアオコが大量に発生するなどの環境悪化も生じている。 ⑥ 別件仮処分決定等について別件仮処分決定等は,暫定的なものであり,控訴人と被控訴人ら以外の者との間に生ずるにすぎず,違法性の衡量要素の事情の変更には当たらない。また,別件仮処分決定等は,対策工事を実施せずに本件各排水門を開放することを前提とし,かつ,その審理において,控訴人が本件各排水門を開放しないことによる被控訴人らの漁業権侵害の事実を主張しないという控訴人による馴れ合 等は,対策工事を実施せずに本件各排水門を開放することを前提とし,かつ,その審理において,控訴人が本件各排水門を開放しないことによる被控訴人らの漁業権侵害の事実を主張しないという控訴人による馴れ合いの訴訟追行を前提として,本件各排水門の開門の違法性を判断したものであることからすると,控訴人の主張は失当である。 b 本件各排水門の常時開放により回復される被控訴人らの漁業被害を縮小させる事情の変化① 諫早湾近傍部の漁獲量の増加傾向上記ウと同様である。 ② 新たな漁業行使権の設定 控訴人が主張する新たな漁業行使権も,被控訴人らが有する本件開門請求権の基となる漁業行使権に包含されるから,被控訴人らの漁業被害を縮小させる事情に当たらないことは明らかである。 ③ 勝訴原告らの人数及びその就労可能年数の減少本件各確定判決は,単に勝訴原告らの漁業被害のみを取り上げたものではなく,衡量の対象となっているのは,勝訴原告らの漁業被害の総和ではない。開門には,有明海全体の漁業不振の原因を調査するという大きな公共性,公益上の必要性がある。 また,勝訴原告らが,漁業協同組合を脱退したり,高齢化したのは,本件潮受堤防の閉切りという控訴人の侵害行為によるものであり,これを違法性の衡量要素とすることは失当である。 ④ 有明海の漁業資源の回復に向けた取組控訴人が行ってきた漁場改善のための調査や施策は,いずれも調査,実験,計画のレベルにとどまっており,全く効果が上がっていない。 海域環境等の調査については,飽くまでも調査を継続しているにすぎず,漁場環境の改善という具体的な成果は上がっていない。魚介類の増養殖技術は,実験段階であり期待が高いというレベルにとどまる。例えば,アサリの垂下式養殖は,死がいの判別 でも調査を継続しているにすぎず,漁場環境の改善という具体的な成果は上がっていない。魚介類の増養殖技術は,実験段階であり期待が高いというレベルにとどまる。例えば,アサリの垂下式養殖は,死がいの判別が困難であるなど課題が山積しているし,アゲマキ,タイラギの漁獲はなく,これを回復するための確立した養殖技術はない。漁場環境改善の現地実証については,作業マニュアルを作って事業を開始したという程度である。漁場環境の整備については,覆砂,海底耕耘,作澪は,いずれも効果が短期間にとどまり,抜本的な対策ではない。本件調整池の水質については,CODが7ないし9mg/ℓの間で変動しており,全体的に低下傾向とはいえないし,豊かな生態系が形成さ れているとは到底いえない。諫早湾干拓調整池等水質委員会が平成19年12月に取りまとめた目標も達成できていないし,その後上記委員会も開催されておらず,今後水質保全対策を着実に推進できるかは疑わしい。 控訴人が提案する基金については,①人工種苗の生産,放流の拡大は,従前と同様のものであれば実効性はないし,新たなものであればその効果があるかは不透明である。②漁業者自らが行う簡易な漁場環境整備への支援は,これまで行ってきた覆砂等の小規模なものであり,効果が生じるとは考えられない。③漁業者の新たな挑戦を後押しすることは,実験レベルのものであり,確実な効果は見込めない。④突発的な事業ニーズへの機動的な対応も,保護対策に確立した技術が存在しないのに機動的な対応だけを協調しても意味がない。また,基金は,本件調整池の排水対策についての言及がない。 このように基金を創設したからといって取組が加速されることなどなく,漁場環境の改善に結びつかないのは明らかである。 これに対し,開門すれば,本件調整池の水質が改善し,海水 対策についての言及がない。 このように基金を創設したからといって取組が加速されることなどなく,漁場環境の改善に結びつかないのは明らかである。 これに対し,開門すれば,本件調整池の水質が改善し,海水交換が増えて潮流が回復することにより成層化が弱まって諫早湾内における貧酸素水塊の緩和等が可能となり,調査を併せて行うことで本件事業の有明海全体に対する影響の調査も可能となる。諫早湾開門研究者会議も,平成29年5月9日,諫早湾の水門開放による有明海再生策を強く求める研究者声明を発表しているところであり,開門以外に被控訴人らの漁業被害を回復させる方法は存在しない。さらに,最新の科学的知見によれば,開門により有明海全体の漁場環境の改善が見込めることが明らかとなった。 エ本件において,間接強制金の受領が異議事由となるとすれば,損害賠償では填補できないとして開門請求を認めた本件各確定判決及び開門請求を 実現させるために間接強制金の支払を命じるという間接強制の制度趣旨が没却されるし,金銭さえ支払えば判決を履行しなくてもよいことになり,三権分立の趣旨や司法制度の趣旨も没却される。 被控訴人らの漁業被害は年々積み重なっているし,開門がもたらす利益は,有明海の漁業者全体の被害回復に繋がるのであり,被控訴人らの漁業補償の金額のみを比較の対象とすることは相当でない。 オ民事執行法35条2項の文理解釈,法的安定性の確保の観点からは,前訴において主張することの期待可能性がない事由であっても,客観的に存在していた事実関係であれば,異議事由にはならない。 本件環境アセスメントは,控訴人が前訴の佐賀地裁判決に対する控訴への批判をかわし開門を先送りするための口実として実施されたものであり,従前からの主張をシミュレーションで追認したにすぎない。 ⑵ 本件環境アセスメントは,控訴人が前訴の佐賀地裁判決に対する控訴への批判をかわし開門を先送りするための口実として実施されたものであり,従前からの主張をシミュレーションで追認したにすぎない。 ⑵ 権利濫用又は信義則違反(争点2)(控訴人の主張)ア本件潮受堤防の創設は,①堤防により広大な農地と農業用水貯水池(本件調整池)を設けること及び②本件調整池の水位を海抜より1m以上低く保ちいわゆるダム機能を果たさせて本件調整池に流入する河川の溢水等による付近住民らの被害を防ぐことという2つの内容の社会基盤(インフラ)を整備する目的のために計画・実施されたものである。そして,憲法29条3項は,公共の用に供するインフラ整備のために財産権に損失が生じた場合は「正当な補償」によって対処することとしており,既に漁業被害等に対しては約280億円の補償がされ,不足があれば増額も可能である。 被控訴人らが求める「開門」は,上記インフラ整備の目的を破壊覆滅させるものである。これは,上記の憲法による秩序に正面から反し,甚大な損害を生じさせるものであって,権利の濫用として許されない。 イ確定判決等の債務名義に基づく強制執行が権利の濫用と認められるた めには,①当該債務名義の性質,②当該債務名義成立の経緯,③当該債務名義により執行し得るものとして確定された権利の性質・内容,④当該債務名義成立後強制執行に至るまでの事情,⑤強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情を総合して,債権者の強制執行が,著しく信義誠実の原則に反し,正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要するものと解される(最高裁昭和59年第1368号同62年7月16日第一小法廷判決・裁判集民事151号423頁。以下「最高裁昭和62年判決」という。)。 不当なものと認められる場合であることを要するものと解される(最高裁昭和59年第1368号同62年7月16日第一小法廷判決・裁判集民事151号423頁。以下「最高裁昭和62年判決」という。)。 そして,最高裁昭和35年第18号同37年5月24日第一小法廷判決・民集16巻5号1157頁,最高裁昭和41年第661号同43年9月6日第二小法廷判決・民集22巻9号1862頁に照らせば,最高裁昭和62年判決における各考慮要素については,次のようにいうことができる。 ①債務名義の性質に関しては,当該債務名義が確定判決,和解調書等のいずれであるかということに加えて,それが確定判決であったとしても,現在給付の訴え又は将来給付の訴えのいずれに係るものであるか,また,現在給付の訴えであったとしても,どの程度の確実な将来予測を内包するものであるかが考慮されているものと解される。 次に,②債務名義の成立の経緯に関しては,確定判決を債務名義とする事案において,当該事実が当事者及び裁判所において共通認識となっており,争点としては認識されておらず,必ずしも実質的に十分な審理判断がされていなかったような場合,また,当該債務名義が成立したことに関し,帰責性がない場合はもとより,たとえ債務者側に一定の落ち度があった場合であっても,その落ち度が社会通念に照らして合理的な理由を伴うような場合には,それぞれ権利濫用該当性を肯定する方向に作用する事情として考慮されることとなる。 そして,③債務名義により執行し得るものとして確定された権利の性質・内容に関しては,債務名義に係る権利が将来予測を伴うような脆弱な性質を包含していると評価できるものである場合,また,当該権利の行使によって何らかの公法秩序との抵触を生じるような場合には,これらのこともまた,権 は,債務名義に係る権利が将来予測を伴うような脆弱な性質を包含していると評価できるものである場合,また,当該権利の行使によって何らかの公法秩序との抵触を生じるような場合には,これらのこともまた,権利濫用該当性の判断において積極的に評価されるべきこととなる。 さらに,④債務名義成立後強制執行に至るまでの事情,⑤強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情に関しては,前訴において主張され,将来にわたって継続して発生することが予想されていた損害がその後に回復されたという事実,また,債務名義が成立した後,債務者側において当該債務名義に係る義務を誠実に履行し,被害の回復に努めていたような事実は,権利濫用該当性を肯定する方向に働く要素になると解される。さらに,債務者側が誠実に事態の解決に向けて努力しているにもかかわらず,債権者側において,単に形式的に権利のあることを振りかざすのみで,事態収拾への努力も欠き,結果において債務者側に損害を与えるような方法で権利行使に固執する場合には,権利濫用該当性を肯定する方向に働く重要な要素に当たると解される。 本件各確定判決への当てはめa 債務名義の性質本件各確定判決は,将来給付の訴えを認容した判決であるという債務名義の性質からして,現在給付の訴えを認容した判決と対比して,将来請求の基礎となる将来の事実が判決の予測どおりには発生しなかった場合に,その予測に反して事態が進行したという事実そのものが直ちに債務名義の執行力を是正するものとして反映されなければならないという特質を有する。 b 債務名義成立の経緯 本件各確定判決が成立した際に,予備的請求(本件各排水門の常時開放請求)を認容するに当たり純粋に工事に要する期間である3年間しか猶予期間が設けられないなど,当事者はもとより裁判所におい 本件各確定判決が成立した際に,予備的請求(本件各排水門の常時開放請求)を認容するに当たり純粋に工事に要する期間である3年間しか猶予期間が設けられないなど,当事者はもとより裁判所においても,対策工事が容易に実施されることを当然の前提としていた。 また,本件各確定判決の前提となる本件各排水門を常時開放した場合の影響等に関する事実関係は,事後に判明した本件環境アセスメントの内容等を前提とすれば当然に是正されるべきものであるところ,環境アセスメントの実施には一定以上の期間を要し,同判決の口頭弁論終結時には,本件環境アセスメントの結果が判明しておらず,これに基づく主張をすることにつき期待可能性がなかったものであり,事柄の性質上,同判決の成立過程においてその是正を図ることは不可能であった。 長崎1次開門訴訟に係る福岡高裁平成27年9月7日判決は,被控訴人らのうち別紙2被控訴人目録の「長崎1次開門訴訟の原告」欄が「原告」である被控訴人ら16名に関して損害賠償請求を棄却したし,被控訴人らよりも本件潮受堤防に近い場所で漁船漁業を行う小長井町漁協に所属する漁業者らについて本件潮受堤防の閉切りと漁業被害の発生との因果関係を否定した。 そして,平成29年評価委員会報告は,潮汐の変化について本件潮受堤防の閉切りによる影響があるとはせず,潮流速の変化についても本件潮受堤防の閉切りによる影響が限定的であるとし,本件潮受堤防の閉切り後の諫早湾における底質の泥化傾向,硫化物や有機物の増加傾向がないとし,本件潮受堤防の閉切りによる貧酸素水塊の発生や赤潮の発生への影響は確認しなかった。 このように,漁業被害の発生及び本件潮受堤防の閉切りとの因果関係を肯認した本件各確定判決の判示は,長崎1次開門訴訟に係る福岡 高裁平成27年9月7日判 発生への影響は確認しなかった。 このように,漁業被害の発生及び本件潮受堤防の閉切りとの因果関係を肯認した本件各確定判決の判示は,長崎1次開門訴訟に係る福岡 高裁平成27年9月7日判決や平成29年評価委員会報告によって,その認定が社会通念ないし科学的経験則に著しく反することが明らかになっている。 c 債務名義により執行し得るものとして確定された権利の性質・内容漁業行使権は,特定の水面において特定の漁業を行うことができる一種の営業権としての性質を有するものであり,そもそも一定の漁獲量を保障するようなものではなく,当該特定の水面において当該特定の漁業を独占的排他的に行うことができるのであれば,漁獲高が減少したからといって,物権的請求権が発生することにならない。本件において,漁獲量や漁獲高の減少を理由に「開門」請求権は発生しないはずである。 本件各確定判決は,控訴人に対し,5年間「開門」することを命じているが,そもそも5年間の開門義務が生じる実体法上の根拠が不明であるし,その説示に照らせば,同判決は調査させる目的で開門を命じたものであり,調査及び準備に必要な期間として5年間としたものと解するほかない。 しかし,我が国の民事訴訟制度において,司法権が上記のような裁量的な命令(エクイティ)をすることができる実体法,手続法上の根拠はない。 また,本件各排水門の開門や閉門は,土地改良法その他関係法令に基づく公法上の法規制(公法規範)ないし公法秩序として,本件事業に係る事業計画,本件潮受堤防等に係る予定管理方法等,管理委託協定書及び管理規程において,その具体的な方法が定められているから,その開門や閉門は,関係法令に基づく行政庁の裁量的判断によって行われるべき行政行為である。本件各排水門の開門は,本来公法上の当事者訴訟等行 び管理規程において,その具体的な方法が定められているから,その開門や閉門は,関係法令に基づく行政庁の裁量的判断によって行われるべき行政行為である。本件各排水門の開門は,本来公法上の当事者訴訟等行政訴訟の規律に従って審理判断されるべきものであ ったが,本件各確定判決は通常の民事訴訟によって,行政庁の裁量権の内容,広狭等に一切考慮することなく公法上の法規制(公法規範)ないし公法秩序に反する開門行為を命じている。同判決は民事訴訟における司法権の権限行使の範囲を逸脱する違法無効なものである。また,その結果として,防災上の支障,営農上の被害,新たな漁業被害,生態系等への影響等の甚大な被害を生じさせるものである。 d 債務名義成立後強制執行に至るまでの事情及び強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情本件各確定判決は,開門することが現実的に可能な社会的,政治的状況を踏まえて言い渡されたものであるが,その後状況は変動し,現在開門が到底不可能な社会的,政治的状況となっている。 上記のとおり,本件各確定判決は,本件各排水門の常時開放により被控訴人らの漁業行使権の侵害(漁業被害)が回復する利益を極めて小さいものとみているところ,諫早湾近傍部における漁獲量が増加傾向に転じたことにより,被控訴人らの漁業被害は回復されている。 上記のとおり,控訴人は対策工事の実施に向けて真摯に努力したが,対策工事の実施そのものに対して,本件関係自治体や本件地元関係者の強硬な反対運動が展開され,上記3年の期間内はもとより現在に至るまで対策工事に着手することすら不可能な状況に陥り,このような状況に立ち至ったことについて控訴人に全く帰責性はない。 そして,このような状況下で対策工事を行うことなく本件各排水門を常時開放すれば,上記のとおり,公益ないし公共上の利 能な状況に陥り,このような状況に立ち至ったことについて控訴人に全く帰責性はない。 そして,このような状況下で対策工事を行うことなく本件各排水門を常時開放すれば,上記のとおり,公益ないし公共上の利益に反する甚大な被害(防災上の支障,営農上の被害,新たな漁業被害,生態系への影響等)の発生が余儀なくされる。 さらに,本件では,本件各確定判決の口頭弁論終結時から既に10年を超える期間が経過しており,その間には,これまで主張してきた とおり,本件各確定判決が判断の前提とした事情に大きな変動が生じている。かかる期間の経過についても,権利濫用該当性の判断における考慮要素とならざるを得ない。 加えて,控訴人は,別件仮処分決定等により本件各排水門の開放義務とは相反する法的義務を負担し,これに違反した場合には1日当たり49万円の間接強制金を支払う義務を負った。また,本件各確定判決以降,本件各排水門の常時開放を否定する司法判断が積み重ねられている。 控訴人は,平成23年2月以降,約1か月に1回の頻度で,被控訴人らの要請に対応するため,被控訴人らとの意見交換会を継続して実施していたところ,本件関係自治体及び本件地元関係者による予想外の強硬な反対を受けて解決策を模索し,話合いの継続を求めたが,被控訴人らは,上記反対によって対策工事を実施できないことを知りながら,控訴人は本件各排水門を開門するつもりがないなどと非難し,平成25年12月24日,佐賀地裁に対し,本件各排水門の開門義務を履行しないときは1日当たり1億円を支払う旨の間接強制決定を求める申立てを行った。 控訴人は,このような前代未聞の難局に対処するため,本件各確定判決及び本件間接強制決定に基づき誠実に被控訴人らに対し間接強制金の支払を継続する一方,多額の費用を拠出して有明海の漁 申立てを行った。 控訴人は,このような前代未聞の難局に対処するため,本件各確定判決及び本件間接強制決定に基づき誠実に被控訴人らに対し間接強制金の支払を継続する一方,多額の費用を拠出して有明海の漁業環境を改善するための施策を実施し続けるとともに,長崎地裁の和解勧告に従い100億円規模の基金案を提示し,被控訴人らの多岐にわたる説明要求に応じて逐一丁寧に説明するなど,事態の抜本的解決を企図して最大限の誠実な努力をした。 ところが,被控訴人らは,上記基金案についての控訴人の説明を頭ごなしに否定するばかりであり,多くの漁業団体等がこの基金案に対 し理解を示し,長崎地裁も基金案を基礎とした再度の和解勧告を発出したにもかかわらず,長崎地裁を批判し,単に本件各確定判決が債務名義として成立していることのみを根拠として,本件各排水門の開放に固執するばかりで,事態の解決に向けた努力を一切行うことなくこれを拒否したため,長崎地裁での和解は決裂した。控訴人は,その後も,福岡高裁等において,話合いによる解決を目指すべく開門によらない基金による解決を目指したが,被控訴人らは,従前と同じく,本件各排水門の開門に固執するばかりであり,福岡高裁等における和解も決裂した。 以上の事情を総合的に考慮すれば,本件各排水門の常時開放請求が本件各確定判決により一部認容されているとはいえ,被控訴人らの漁業被害は既に実質的に回復されている上,対策工事を行うことなく本件各排水門を常時開放すれば公益ないし公共上の利益に甚大な影響が生じるにもかかわらず,被控訴人らは自己の権利に固執するばかりで,上記のような難局を解決することに向けた努力の姿勢すら見せず,単に同判決及び本件間接強制決定のみを根拠として今後も間接強制金を受領し続けようとするものであって,このような態様 利に固執するばかりで,上記のような難局を解決することに向けた努力の姿勢すら見せず,単に同判決及び本件間接強制決定のみを根拠として今後も間接強制金を受領し続けようとするものであって,このような態様による権利行使は,信義則に照らしても権利濫用禁止の原則に照らしても,到底法の許容するところとはいい難いことが明らかである。 さらに,被控訴人Y1ら11名,被控訴人Y12ら9名,被控訴人Y21,同Y22及び同Y23は,後記(控訴人の主張)のとおり,第2種共同漁業権(有共第1号)の内容となる漁業を現在行っておらず,それらの者の強制執行を許すことは,社会通念に反する。 また,島原漁協及び有明漁協における組合員審査資格は,後記(控訴人の主張)のとおり,上記各漁協の定款及び資格審査規定に違反しているし,大浦支所に所属する被控訴人らについても,被控訴人 Y12ら9名を除く者に対する組合員資格審査は,いずれも客観的資料を欠くものであって,その定款及び資格審査規定に違反するものである。これらの被控訴人らは,その被害の前提となる漁業行使権の存在及び正当性が確認されていないから,漁業被害を認めるべき要保護性が実質的に失われている。 e そうすると,本件各確定判決に基づく被控訴人らの強制執行は,最高裁昭和62年判決の基準に照らしても,著しく信義誠実の原則に反し,正当な権利行使の名に値しないほど不当なものであることが明らかであるから,権利の濫用として許されないというべきである。 ウ被控訴人らが間接強制金の受領によって漁業被害を完全に補填されたにとどまらず,過剰な支払を受け続けている状態にあることは,上記の主張を補完する事情である(予備的主張)。 エなお,上記各主張によれば,控訴人が間接強制金の支払を開始した平成26年6月12日までには, まらず,過剰な支払を受け続けている状態にあることは,上記の主張を補完する事情である(予備的主張)。 エなお,上記各主張によれば,控訴人が間接強制金の支払を開始した平成26年6月12日までには,本件各確定判決に基づく強制執行は,権利の濫用となるに至ったというべきである。 また,同時点では権利の濫用の成立が認められない場合であっても,その後の事情も考慮すれば,平成28年12月31日の経過をもって権利の濫用となるに至ったというべきである。 さらに,上記主張も認められない場合であっても,令和元年6月26日をもって権利の濫用となるに至ったというべきである。 (被控訴人らの主張)そもそも,控訴人が確定判決に従わず強制執行を受けることは憲政史上初の事態であり,我が国の立憲民主主義国家の在りようを揺るがす危機的状況である。 ア控訴人は,本件事業の目的等を強調するが,本件各確定判決はそれを考慮した上でされたものであるし,開門の影響も控訴人が予定していた対策 工事を行えば十分に防止できるから,開門は上記インフラ整備の目的を破壊覆滅するものではない。被控訴人らの権利行使は憲法秩序に反するものではない。 イ被控訴人らの権利行使は,最高裁昭和62年判決の基準に照らし,著しく信義誠実の原則に反し正当な権利行使の名に値しないほど不当なものでは全くない。 上記のとおり,被控訴人らが本件潮受堤防の閉切りにより受けた漁業被害は,本件各確定判決の口頭弁論終結時よりも拡大している。 債務名義の性質本件における債務名義は,確定判決であり,その義務の内容も一義的に明らかであるから,その執行を権利濫用と判断するためには,他の債務名義の場合よりさらに厳格な検討が必要である。 本件各確定判決が開門につき3年間の猶予を は,確定判決であり,その義務の内容も一義的に明らかであるから,その執行を権利濫用と判断するためには,他の債務名義の場合よりさらに厳格な検討が必要である。 本件各確定判決が開門につき3年間の猶予を付したのは,控訴人が対策工事に3年かかると主張したことを踏まえて猶予期間を設定したにすぎず,対策工事がされるという将来予測を前提にしたものではない。開門していない以上,違法性があることは明らかである。控訴人が主張する法理は,将来の損害賠償に関するものであり,開門請求を認めた本件各確定判決には適用されない。 債務名義成立の経緯本件各確定判決は,平成14年11月26日の提訴から約8年間の十分な審理期間を経て,政府の方針としてこれを受け入れたことにより確定したものである。 また,本件各確定判決の判断構造は,一般的なものであり,同判決の前提となる事情も,同判決の口頭弁論終結時と何ら変わりはない。 長崎1次開門訴訟において被控訴人らのうちの16名が請求したものは損害賠償請求であって,本件各確定判決の開門請求とは別個の訴訟物 であるから,上記損害賠償請求を棄却した福岡高裁平成27年9月7日判決は,本件各確定判決に影響しない。 平成29年評価委員会報告は,本件各確定判決が本件潮受堤防の閉切りと漁業被害との因果関係を認定する根拠とした平成18年評価委員会報告の漁業被害に関する見解を維持しているし,同判決が挙げた魚類の減少要因を否定していない。 潮流の変化に対する控訴人の主張は,潮流の減少は本来割合(%)で行うべきところを絶対値で示しており相当でない。また,赤潮の増加に関する控訴人の主張については,赤潮の定義に矛盾するものであり,信用性がない。 債務名義により執行し得るものとして確定された権利の性質・内容本件の債務名義により 相当でない。また,赤潮の増加に関する控訴人の主張については,赤潮の定義に矛盾するものであり,信用性がない。 債務名義により執行し得るものとして確定された権利の性質・内容本件の債務名義により執行し得るものとして確定された権利は,漁業行使権に基づく物権的請求権であり,その具体的発現として,控訴人は,開門義務という作為義務を負ったものである。そして,漁業行使権に基づく物権的請求権として開門請求権は発生する。これに反する控訴人の主張は,本件各確定判決に係る審理において主張できたものであり,蒸し返しにすぎない。 本件各確定判決が開門の期間を5年間に限定したのは,本来は常時開門の年限を区切るべきではないが,適切な妨害回避措置が将来的に発見される可能性に期待し,5年に限って開門を認めたというものであり,常時開放請求につき一部認容したものと解するのが相当である。控訴人の主張は,上記を正解しないものか,又は,同判決に係る審理において主張し得たものにすぎない。 控訴人は,本件各排水門の開門が行政行為であると主張するが,それは本件各確定判決に係る審理において主張できたものであり,蒸し返しにすぎない。また,控訴人は,同判決が公法秩序に反する旨主張するが, 上記開門は本件事業の効果を失わせるものではなく,公法秩序に反するようなものではない。 債務名義成立後強制執行に至るまでの事情及び強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情控訴人の社会状況,政治状況等の変化に関する主張は,実質的には,政権交代が起きれば確定判決を守らなくてもよいというに等しいものであり,法的安定性,司法権の独立の観点からも成り立たないことは明らかである。 控訴人は,上記のとおり,必要がない本件環境アセスメントを行うなど,本件各確定判決を誠実に履行する意思をも 等しいものであり,法的安定性,司法権の独立の観点からも成り立たないことは明らかである。 控訴人は,上記のとおり,必要がない本件環境アセスメントを行うなど,本件各確定判決を誠実に履行する意思をもとより有しておらず,様々な口実を付けて懈怠しているにすぎず,自らを被害者であるかのように仮装するものである。 控訴人が,本件の債務名義成立後強制執行に至るまでの事情として主張する,①漁獲量が増加傾向に転じたことにより損害が実質的に填補されていること,②控訴人は対策工事の実施に向けて真摯に努力したが,控訴人に帰責性のない事由により実現が不可能な状況に陥ったこと,③対策工事をせずに本件各排水門を常時開放すれば,住民や営農者,漁業者に対し甚大な被害をもたらすこと,④本件各確定判決の口頭弁論終結後,長期間が経過したこと,⑤控訴人が別の司法判断により本件各確定判決の開門義務と相反する法的義務を負ったこと,などの事実は,いずれも当該事実が存在しないか,評価を大きく見誤っているか,控訴人自ら招いた事実か,控訴人が真摯に対応すれば回避できる事実であるか,権利の濫用とは無関係の事実である。したがって,到底権利濫用の評価根拠事実たり得ない。 また,被控訴人らは,控訴人に対し,開門の直接強制を求めているのではなく,穏当な間接強制を求めるにとどまるものである。 控訴人が主張する基金は,被控訴人らが間接強制の申立てをした後に提案されたものであり,債務名義成立後強制執行に至るまでの事情には当たらないし,その内容もこれまでの有明海再生事業と同様のものであり,成果が出るようなものではない。控訴人は,この基金について想定問答集まで作成して漁業協同組合の切り崩しを行ったりするなど,結局は,開門しない,すなわち本件各確定判決に基づく義務を履行しないための ,成果が出るようなものではない。控訴人は,この基金について想定問答集まで作成して漁業協同組合の切り崩しを行ったりするなど,結局は,開門しない,すなわち本件各確定判決に基づく義務を履行しないための努力を続けてきたにすぎない。 控訴人が主張する対策工事の実施が不可能な状況は,控訴人によって作出されたものであること,本件各排水門の開放に反対する第三者の行為という何ら被控訴人らに責任がない事情によって権利の実現を阻害されている被控訴人らが,その権利の実現のために本件各確定判決に基づく強制執行を行うことは当然に認められるべきであって,権利の濫用又は信義則違反には該当しない。 以上によれば,被控訴人らの本件各確定判決に基づく強制執行は,正当な権利行使であり,著しく信義誠実の原則に反し正当な権利行使の名に値しないほど不当なものとは到底いえないから,権利濫用に当たらないことは明らかである。また,間接強制金の受領が,権利濫用を補完する事情にならないことも明らかである。 漁業協同組合の組合員たる地位の消滅(争点3)(控訴人の主張)ア別紙2被控訴人目録の番号40の被控訴人Y21は,平成27年4月1日から平成28年3月31日まで漁業を営んだ日数及び漁業に従事した日数がいずれもゼロ日であると認めているし,同目録の番号42の被控訴人Y22及び番号47の被控訴人Y23は,組合員資格審査の必要書類である組合員資格実態調査票を提出しておらず大浦支所からも1年を通じて漁業を営むことも漁業に従事することも全くしていないものと認められてい る。上記被控訴人らはいずれも佐賀県有明海漁業協同組合が定款において定める正組合員及び準組合員たる資格要件である「漁民」に該当しないから,組合員たる地位を喪失したものである。休漁は,佐賀県有明海漁業協同組 被控訴人らはいずれも佐賀県有明海漁業協同組合が定款において定める正組合員及び準組合員たる資格要件である「漁民」に該当しないから,組合員たる地位を喪失したものである。休漁は,佐賀県有明海漁業協同組合の定款附属書組合員資格審査規程に照らせば,組合員資格を喪失させないことの理由にはならない。 イ島原漁協及び有明漁協は,共同漁業権ごとに漁業権行使規則を制定しているところ,いずれの漁業権行使規則も,漁業を営む権利(漁業行使権)を有する者の資格を「個人である正組合員であること」に限定している(各2条)。そして,島原漁協及び有明漁協は,各定款において,いずれも正組合員の資格要件として「この組合の地区内に住所を有し,かつ,1年を通じて90日を超えて漁業を営み又はこれに従事する漁民」(各8条1項1号)と定めている。 水産業協同組合法の改正経緯及びその各規定からすれば,水産業協同組合法は,漁業協同組合に対し,組合員の資格審査を恣意的に行うことを許容してはおらず,明確な基準の下で客観的な資料に基づき組合員資格審査を実施することを求めていると解される。 しかし,島原漁協の被控訴人ら10名及び有明漁協の被控訴人ら14名に関する組合員資格審査は,上記各組合の定款及び組合員資格審査規程が定める水揚仕切書や雇用証明書といった客観的資料に基づかずに行われており,かかる資格審査は水産業協同組合法の趣旨に反する上,上記定款及び上記組合員資格審査規程に違反するものである。上記各漁協に所属する上記被控訴人らが上記客観的資料を提出しなかった真の理由は,1年を通じて90日を超えて漁業を営み又は漁業に従事していなかったからにほかならない。上記被控訴人らは漁民とは認められないから,正組合員たる地位を喪失したものである。 ウ以上のとおり,上記ア及びイの被控訴人らは,本件各 て漁業を営み又は漁業に従事していなかったからにほかならない。上記被控訴人らは漁民とは認められないから,正組合員たる地位を喪失したものである。 ウ以上のとおり,上記ア及びイの被控訴人らは,本件各組合の組合員たる 地位を喪失して本件各組合を脱退したものであり,漁業行使権に基づく本件開門請求権を失っている。 (被控訴人らの主張)ア被控訴人らは,本件潮受堤防の閉切りという違法行為によって漁業被害を受け,漁業の継続が困難になったことから,漁業に従事していないのであり,開門義務を怠っている控訴人が,被控訴人らの組合員資格の喪失を主張すること自体信義則に反するものである。 イ大浦支所について水産業協同組合法18条1項1号にいう「漁業を営み又はこれに従事する」に関しては,自身だけでなく他人の営む漁業に従事していたか否か,漁業を営み又は従事する意思や能力の有無(仮に現在は休業している場合は再び漁業に復帰する意思や能力の有無),客観的状況の有無,準備行為から販売に至るまでの一連の行為の有無等の諸般の事情を考慮して実質的に判断しなければならないのであり,過去の実績や客観的資料のみで判断できるものではなく,本人の供述等の主観的な要素に基づいて判断することは妨げられない。 被控訴人らは,本件各確定判決の当事者として一部の者を除いて間接強制の申立てをするなど,漁場環境の改善,漁業資源の回復を求めている者であり,漁業を営み又は従事する意思を有することは明らかである。そして,ある特定の漁業(タイラギの潜水器漁業)を営んでいる者は,他の漁業が当然に可能ではないし,他の漁業を行うかどうかはその者の判断に委ねられるべきであるから,特定の漁獲資源の回復を期待して休漁することも当然に許されるべきである。 ウ島原漁協及び有明漁協について が当然に可能ではないし,他の漁業を行うかどうかはその者の判断に委ねられるべきであるから,特定の漁獲資源の回復を期待して休漁することも当然に許されるべきである。 ウ島原漁協及び有明漁協について上記のとおり,組合員の資格審査は,客観的資料のみから判断すべきものとはいえず,島原漁協及び有明漁協における組合員資格審査は,何ら不 合理なものではない。 島原漁協の被控訴人ら10名については,提出されている申告書は十分に客観性が認められる資料であるし,いずれも船舶を保有している者であるから,漁業を営み又は従事する意思や能力を有する。 有明漁協の被控訴人ら14名についても,有明漁協が,客観的な状況による判断と明示した上で,組合員資格を肯定している。 エ仮に,一部の被控訴人らの組合員資格が否定されたとしても,他の被控訴人らが漁業を行っている以上,本件各確定判決が覆されることはない。 第3 当裁判所の判断事案の性質に鑑み,まず,争点2(権利濫用又は信義則違反)について,検討・判断する。 1 判断の枠組み 前記第2の4に記載のとおり,本件では,被控訴人らによる本件各確定判決に基づく強制執行が,権利濫用又は信義則違反として許されないか(争点2)が問題となっているところ,一般に,確定判決等の債務名義に基づく強制執行が権利の濫用と認められるか否かは,①当該債務名義の性質,②同債務名義により執行し得るものとして確定された権利の性質・内容,③同債務名義成立の経緯及び債務名義成立後強制執行に至るまでの事情,④強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情を総合して判断すべきである(最高裁昭和62年判決)。 そこで,その判断の前提として,本件各確定判決の①性質・性格や,②これにより確定された権利の性質・内容等を検討 に及ぼす影響等諸般の事情を総合して判断すべきである(最高裁昭和62年判決)。 そこで,その判断の前提として,本件各確定判決の①性質・性格や,②これにより確定された権利の性質・内容等を検討すると,本件各確定判決については,次のような特殊性が指摘できる。 アまず,本件各確定判決は,漁業行使権から導かれる物権的請求権としての妨害排除又は妨害予防請求権に基づき,本件各排水門の開門とその継続という特定の作為又は不作為の請求(以下「作為等請求」という。)を認 めたものである。 イ一般に,このような特定の作為等請求が認められるには,被侵害利益の性質と内容を踏まえつつ,対立する諸利益等との総合的な利益衡量を経た上,妨害が違法であると評価される状態が将来にわたって継続することが具体的に予測され,かつ,対立する諸利益を考慮しても,被侵害利益に対する救済を損害賠償にとどめるのでは足りず,上記作為等請求まで認める必要があると判断されることが必要であるといえる。 実際,本件各確定判決は,要旨,次のような判断の下,被控訴人らの本件開門請求権を肯定した。すなわち,まず,本件各確定判決は,本件潮受堤防閉切り後に,諫早湾及びその近傍部における魚類の漁獲量が有意に減少しているとした。そして,当然のことながら,飽くまで,その減少に関与する「可能性」のある複数の要因のうちの一として,本件潮受堤防の閉切りを取り上げ,それ以外の要因も複合した可能性にも触れながら,これにより,被控訴人らの漁業被害が発生した蓋然性が高いと判断し,経験則上,本件潮受堤防の閉切りと上記漁業被害との間の因果関係を肯定するのが相当であるとした。 次に,漁業行使権に基づく妨害排除請求権の行使が認められるには,漁業行使権の侵害状態が客観的に違法と評価さ 上,本件潮受堤防の閉切りと上記漁業被害との間の因果関係を肯定するのが相当であるとした。 次に,漁業行使権に基づく妨害排除請求権の行使が認められるには,漁業行使権の侵害状態が客観的に違法と評価されるものでなければならず,本件事業のような国が行う公共事業に対する物権的請求権の行使を認容すべき違法性があるかどうかを判断するに当たっては,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察して決すべきとした。その上で,まず,被侵害利益の性質及び内容並びに侵害行為の態様と侵害の程度について,漁業行使権は,財産的権利ではあるが,被控 訴人らの生活の基盤にかかわるものとし,それが,高度の侵害を受けているとした。他方,本件潮受堤防の閉切りの公共性又は公益上の必要性等については,それまでの12年間の湛水被害を主な根拠として,本件潮受堤防の防災機能は限定的なものであり,本件干拓地における営農にとって本件潮受堤防の閉切りが必要不可欠であるなどともいえず,また,本件各排水門を常時開放しても,防災上やむを得ない場合にこれを閉じることによって,その防災機能を相当程度確保でき,さらに,いずれも,主として,控訴人の主張立証活動の不備を根拠として,本件各排水門の常時開放に過大な費用を要するなどの事実は認められず,控訴人が行う有明海の環境変化の解明及び再生への取組みも,漁業被害を防止する効果が不明であるとした。これらを踏まえ,予備的請求である本件各排水門の常時開放請求につき,防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度で認容するに足 化の解明及び再生への取組みも,漁業被害を防止する効果が不明であるとした。これらを踏まえ,予備的請求である本件各排水門の常時開放請求につき,防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度で認容するに足りる程度の違法性が認められるとした。 そして,これらを前提にして,本件潮受堤防が果たしている洪水時の防災機能及び排水不良の改善機能等を代替するための工事に必要な期間を考慮し,判決確定の日から3年間は本件各排水門の開放を猶予するとともに,飽くまで「現時点」(前訴口頭弁論終結時)において本件事業が諫早湾及びその近傍部を含む有明海の環境に及ぼす影響がすべて解明されたとはいえず,将来的に,漁業行使権の妨害を回避する措置として本件各排水門の常時開放よりも適切なものが発見,開発され,上記請求権の成否及び内容を基礎付ける事実関係が変動する可能性があることを考慮し,上記請求を5年間の期限付きで認容するのが相当であると判断したものである。 ウ上記判断の構造に照らせば,本件各確定判決は,まずは,次のような点で将来の予測に係る不確実性に対する考慮が一層必要なものであったといえる。 第1に,本件各確定判決が漁業行使権に基づく開門請求を認める判断 の前提とした上記諸事情(漁獲量の減少の程度,本件潮受堤防の災害防止機能の必要性等)は,自然環境や社会環境にも関わる本来的に可変的,流動的な性格を有するものである。これらの事情は,時の経過により変動する可能性があり,むしろその変動は必然ともいえるが,本件各確定判決は,上記事情について前訴の口頭弁論終結時における予測に基づいて,将来時点における妨害排除・予防請求を認容するものとなっているため,その予測の確度にもよるが,その判断は相当の不確実性をはらんでいるといえる。 第2に 論終結時における予測に基づいて,将来時点における妨害排除・予防請求を認容するものとなっているため,その予測の確度にもよるが,その判断は相当の不確実性をはらんでいるといえる。 第2に,上記妨害排除・予防請求の可否に係る判断は,被侵害利益と対立する諸利益との総合的な利益衡量の下にされたものである。このような諸利益には経済的な利益から生命・身体の安全に関わる利益に至るまで様々な性格のものがあるが,上記で指摘したとおり,これらの諸利益の前提となる自然環境や社会環境は変動していく性質を有するものであるから,これらの諸利益の有り様も必然的に変動するため,そのような評価自体の変動もまた必然であるということができるのであるから,現時点においては,総合的な利益衡量の結果が本件各確定判決の口頭弁論終結時のものと異なっていることもあり得るところである。 エ次に,その特殊な性格を,本件各確定判決の主文と判断内容に即しながら検討すると,次のとおりである。 本件各確定判決の主文は,上記のとおり,要旨「判決確定の日から3年を経過する日までに開門し,以後5年間にわたって開門を継続せよ」という極めて特殊なものである。 まず,開門の時期を判決確定の日から最大で「3年」猶予したことに関し,本件各確定判決は,その理由中において,本件潮受堤防が果たしている洪水時の防災機能及び排水不良の改善機能等を代替するための工事(対策工事)に3年程度要することを考慮したとしている。これは, 本件潮受堤防に防災機能があることを踏まえ,判決確定後直ちに開門を命ずることとすれば周辺住民の生命・身体に関する利益が損なわれるおそれがあることから,上記の期間中に対策工事が行われるであろうことを考慮に入れて総合的な利益衡量をしたものと ,判決確定後直ちに開門を命ずることとすれば周辺住民の生命・身体に関する利益が損なわれるおそれがあることから,上記の期間中に対策工事が行われるであろうことを考慮に入れて総合的な利益衡量をしたものと解される。もとより,本件各確定判決は,対策工事が行われることを条件として開門を命ずるものではないから,対策工事がされていなくても控訴人に開門義務が生ずることとなるが,本件各確定判決が本件潮受堤防の果たしている防災機能に鑑み上記の主文としたことは,本件各確定判決のいわば留保付きの性格を示すものとして,権利濫用の成否の判断に当たり考慮されるべきである。 また,開門期間を「5年間」に限ったことに関しては,本件各確定判決自体,その理由中において,本件事業が諫早湾や有明海の環境に及ぼす影響が全て解明されたとはいえず将来的に請求権の成否及び内容を基礎付ける事実関係が変動する可能性があることを認めた上で,そのことや,開門による干潟生態系の変化とそれを受けての調査に要する期間等を考慮して,開門期間を5年間に限って請求を認容し,その余は理由がない旨判示しているものである。これは,前訴においては,上記の点に関する将来予測が上記不確実性のために相当困難であり,その口頭弁論終結時において,期間を限定しない開門を命じ得るだけの事情があるとはいえないという判断を背景とするものと解するほかない。 このように,本件開門請求権の成否等に関する本件各確定判決の判断内容にはもともと仮定的な部分があり,期間を限った暫定的な性格が極めて強く,そのため上記のような特殊な主文となったものと考えられる。 そして,その期間も,現時点では既に経過するに至っている。 オ本件各確定判決は,上記のとおり,暫定的・仮定的な利益衡量を前提とした上で,飽くまで期間を短く限った判 となったものと考えられる。 そして,その期間も,現時点では既に経過するに至っている。 オ本件各確定判決は,上記のとおり,暫定的・仮定的な利益衡量を前提とした上で,飽くまで期間を短く限った判断をしていると解されるのである から,本争点を判断するに当たっては,控訴人が言及するような各事情が,それぞれ単独で独立の異議事由となるか否かにかかわらず,まずは,前訴の口頭弁論終結後の事情の変動を踏まえて,改めて現時点で利益衡量を行い,その結果等も踏まえ,上記のような判断に基づく債務名義たる本件各確定判決により,現時点において強制執行を行うことの適否についての検討を行うべきこととなる。このようにして,本件各確定判決により現時点において強制執行を行うに適しない場合には,本件においては,その結果として,一般に規範的な要件としていわれるところの,被控訴人らの強制執行が権利濫用に当たると評価される道理である。 また,上記のとおり,本件における違法性判断が諸般の事情を考慮した総合的な判断であることを踏まえると,上記事情の変動を検討する際には,たとえ事実としては,前訴の口頭弁論終結時よりも前に存在した事実であっても,その後の科学的知見等を踏まえ,新たな評価が行われた事実関係等については,これを考慮した上で現時点で改めて検討・判断するのが相当である。これと見解を異にする被控訴人らの主張部分は,採用の限りではない。 2 認定事実そこで,上記1の判断の枠組みを踏まえた上で,判断の前提としての事情等について検討を進めると,争点2に関し,前記前提事実のほか,掲記各証拠(特記しない限り,枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められ,あるいはそのような評価が可能である。 本件事業の概要(甲2,185~ 関し,前記前提事実のほか,掲記各証拠(特記しない限り,枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められ,あるいはそのような評価が可能である。 本件事業の概要(甲2,185~188等)ア本件事業は,農林水産省を事業主体とし,①かんがい用水が確保された大規模で平坦な優良農地を造成し,生産性の高い農業を実現すること及び②高潮,洪水,常時排水不良等に対する地域の防災機能を強化することを目的とするものである。 イ本件事業は,複式干拓方式を採用して,諫早湾の湾奥部に位置する長崎県北高来郡高来町(現諫早市)と同県南高来郡吾妻町(現雲仙市)との間に長さ7050mの本件潮受堤防を築造し,諫早湾のうち3542ha(うち干潟1550ha)を閉め切り,閉め切られた諫早湾内に内部堤防(総延長11070m)により囲まれた中央干拓地及び小江干拓地(合計942ha)を造成して,2600haを調整池(本件調整池)とするものである。 ウ本件潮受堤防には南部排水門(幅50m)及び北部排水門(幅200m)が設けられ,干潮時には貯水池から排水することにより常に本件調整池の管理水位を標高(EL)マイナス1.0mからマイナス1.2mまでとなるよう管理されている。そして,本件潮受堤防の機能等としては,上記水位の管理により,高潮時の防災機能,洪水時の防災機能及び背後地の常時排水の改善が期待されている。 エ控訴人は,昭和61年12月2日に国営土地改良事業計画の決定をして本件事業に着手し,平成9年4月14日の瞬時閉切りにより,堤防開口部がなくなり,平成11年3月に本件潮受堤防が完成し,平成19年度には本件事業の農業造成等を含めた全ての工事が終了した。そして,平成20年4月,干拓地における営農が開始した。 りにより,堤防開口部がなくなり,平成11年3月に本件潮受堤防が完成し,平成19年度には本件事業の農業造成等を含めた全ての工事が終了した。そして,平成20年4月,干拓地における営農が開始した。 漁業の状況ア本件各確定判決は,海面漁業生産統計調査の結果を基とする証拠(甲205)を根拠として,本件潮受堤防閉切り後に,諫早湾及びその近傍部における魚類の漁獲量が有意に減少している事実を認定し(甲2・23頁),それを前提に判断を行っている。この点をも踏まえ,諫早湾及びその近傍部等における魚類の漁獲量の変化を中心に,漁業の状況について概観する(単年単位や短期間におけるその時々の推定される諸要因による変化については厳密な考察はそもそも困難というほかないから,ここでの考 察の対象から除く。)。 イ本件5つの共同漁業権の対象となる主な魚種全体の漁獲量は,昭和60年頃は5000tを超えるほどであったが,その後,ほぼ一貫して減少した。そして,本件潮受堤防を閉め切った平成9年には約2700tであったところ,平成24年には約900tとなるなど,減少傾向は続いていた。 しかし,平成25年を境に増加傾向に転じ,平成25年には約2000t,平成26年には約1670t,平成27年には約1100tとなった。さらに,平成28年には約2420t,平成29年には約3240tを計測し,全体的には増加傾向にあるといえる。(甲459)本件各組合における組合員一人当たりの漁獲量は,本件潮受堤防を閉め切った平成9年には約2.53tであったところ,上記を反映し,その後,徐々に減少傾向となり,平成24年には約1.62tとなった。しかし,平成25年を境に増加傾向に転じ,平成25年には約3.60t,平成26年には約3.09t,平成27年 ところ,上記を反映し,その後,徐々に減少傾向となり,平成24年には約1.62tとなった。しかし,平成25年を境に増加傾向に転じ,平成25年には約3.60t,平成26年には約3.09t,平成27年には約2.09tとなった。さらに,平成28年には約4.81tを計測し,全体的には増加傾向にあるといえる。(甲460)また,漁業被害の検討対象を「魚類」に限定し,本件各組合の魚類全体の漁獲量についてみると,本件潮受堤防を閉め切った平成9年には約1945tであったところ,平成27年には約467tまで減少した。しかし,平成28年には約748t,平成29年には約690t,平成30年には約606tを計測しており,平成28年以降はやや増加傾向にあるといえる。(甲459)しかし,本件潮受堤防の閉切り前に遡ってみた場合,魚類の漁獲量は,上記のとおり,平成27年以降,増加傾向にあるとはいい得るものの,本件潮受堤防の閉切り前との比較で,それが回復しているとまではいえない。 (乙180) ウ諫早湾近傍部を除く有明海の総漁獲量は,平成9年以降,平成21年頃までは増減を繰り返しつつ緩やかな減少傾向を示し,その後はおおむね横ばい傾向を示しているのに対し,本件各組合の総漁獲量は,平成9年から平成20年頃までは,諫早湾近傍部を除く有明海を上回る減少傾向を示していたものの,平成21年から平成23年頃を境に増加傾向を示している。 そして,平成28年及び平成29年の漁獲量をみてみると,諫早湾近傍部を除く有明海では,連続して減少しているのに対し,本件各組合では,連続して増加している。(甲223,459)エ諫早湾内では,本件各確定判決の口頭弁論終結後も,カキ,アサリを中心とした漁業への取組が発展した。諫早湾内におけるカキの 対し,本件各組合では,連続して増加している。(甲223,459)エ諫早湾内では,本件各確定判決の口頭弁論終結後も,カキ,アサリを中心とした漁業への取組が発展した。諫早湾内におけるカキの養殖は,平成23年以降,シングルシード(一粒種)という新しいカキの養殖技術により生産されたカキの販売が開始され,平成24年に全国のカキの品評会において第一位を受賞したことなどもあり,全国的に知名度が高くなり,全国規模で流通するまでに発展した。その結果,本件潮受堤防に最も近い位置にある小長井町漁協や瑞穂漁協におけるカキの生産額は,平成25年度には漁協における漁業生産額の6割前後になるなど増加傾向にあり,本件潮受堤防の直近の漁協においては,カキ養殖業が漁協における漁業生産の中心的役割を担うような状況である。また,アサリの養殖についても,平成27年から,養殖場におけるものではなく,アサリの稚貝を海中のかごにつり下げて養殖する最新の垂下式養殖に挑戦しており,垂下式養殖により生産したアサリを商標登録して販売している。同アサリの生産量や生産高は,平成27年には約8955㎏,約540万円であったが,平成29年には1万8137㎏,約1269万円と増加しており,諫早湾のアサリ養殖業者は,養殖場でのアサリ養殖に加え,収益性の高い垂下式養殖による増産に向けた取組を行っている。そして,長崎県も平成28年度から同32年度(令和2年度)の水産業振興基本計画において,このような取組 を支援している。(本項につき,甲221,313~319)オ控訴人は,本件各確定判決の口頭弁論終結後,多額の費用を拠出し,有明海沿岸の4県と協調して,有明海の漁業環境を改善するための各種調査や施策等を実施し続けており,未だ道半ばであるものの,二枚貝類の稚貝の大量発生 件各確定判決の口頭弁論終結後,多額の費用を拠出し,有明海沿岸の4県と協調して,有明海の漁業環境を改善するための各種調査や施策等を実施し続けており,未だ道半ばであるものの,二枚貝類の稚貝の大量発生等,その成果が具体的に現れている。有明海沿岸4県の漁業団体からもこれらの取組を評価する声が上がっている。(本項につき,甲210,216,328,330,333~337,339~343,345,346,349~351,354~356,358~373,375~396,453~456,485,500) 本件潮受堤防の閉切りと漁業被害との関係性ア平成29年評価委員会報告(甲216) 評価委員会は,平成29年3月,平成29年評価委員会報告を取りまとめたが,同報告において,本件潮受堤防の閉切りと漁業環境の変化との間の因果関係を認める評価は,行われなかった。 すなわち,平成29年評価委員会報告においては,諫早湾近傍部における潮汐の変化について,本件潮受堤防の閉切りによる影響があるものと判断しなかった。また,本件潮受堤防の閉切りによる潮流の変化は,限定的なもの(諫早湾の湾奥部,湾央部,湾口部及びその近傍部から島原半島に沿う部分のみに限定され,有明海湾奥部に対する影響は確認されなかった。)であるとされた。さらに,本件各確定判決では増加傾向の存在が認定された本件潮受堤防閉切り後の諫早湾における底質の泥化傾向,硫化物や有機物の増加傾向が認められないことも確認された。加えて,これらの結果から,本件潮受堤防の閉切りによる貧酸素水塊や赤潮の発生への影響も確認されなかった。 イ学術研究(乙154~156,159~169)他方,①本件潮受堤防の閉切りにより,諫早湾内の潮流速が低下し,そ れに や赤潮の発生への影響も確認されなかった。 イ学術研究(乙154~156,159~169)他方,①本件潮受堤防の閉切りにより,諫早湾内の潮流速が低下し,そ れに伴い,塩分成層が発達する,②本件調整池では植物プランクトンが常時大発生しているところ,水位調整のために頻繁に排水がされることで,淡水が諫早湾内に流れ込み,これにより上記①の塩分成層がさらに強化される,③夏季の水温上昇期には,水温成層も強化されるため,表層から底層への溶存酸素供給量に制限がかかり,小潮時には同制限がより強まり,底層に酸素が供給されにくい状態となる,④上記排水に含まれる植物プランクトンは海底に堆積し,海底に大量の有機物負荷をかけるところ,バクテリアが有機物を分解する際には酸素を消費する一方,上記③により酸素供給に制限がかかるため,底層での溶存酸素の需給バランスが崩れ,貧酸素水が発生する,⑤底層が貧酸素状態になると,嫌気性細菌が有毒な硫化水素を発生させ,底生生物の生息困難な環境条件が作られ,さらに,潮流の低下により底層は泥化が進むため,これによっても底生生物の生息に深刻な打撃が加えられる,⑥諫早湾における漁業は底生生物に強く依存しているが,上記により底生生物が生息困難となり漁業不振をもたらす,などとして,本件潮受堤防の閉切りと諫早湾の漁業被害との関係を肯定する学術研究も存在する。 ウ本件各確定判決後の司法判断 長崎1次開門訴訟判決では,魚類を対象とする漁船漁業に関する漁業被害との因果関係について,特定の魚種について本件事業の工事開始時以降において漁獲量等の有意な低下が生じた者がいるものと仮定して,その被害と控訴人が本件事業を実施したこと又は本件各排水門の開門操作を行わないこととの間の因果関係を検討し,結論と 件事業の工事開始時以降において漁獲量等の有意な低下が生じた者がいるものと仮定して,その被害と控訴人が本件事業を実施したこと又は本件各排水門の開門操作を行わないこととの間の因果関係を検討し,結論として,漁獲量等の有意な低下が認められる当該魚種の漁獲資源量が,本件事業の実施や上記開門操作を行わないことにより減少した蓋然性があるとまでは認められないとし,上記因果関係を否定した。(甲202) 長崎2次開門訴訟判決では,本件潮受堤防の閉切りによって,諫早湾 内の潮流速が低下し,成層化が多少なりとも進行し,これが,その寄与の程度が大きなものとは認められないものの,諫早湾内の湾奥部及び湾央部における貧酸素化及び底層における浮泥の堆積の進行の一因となっていると認められ,湾奥部においてはこれに加えて硫化水素が発生しているものと認められるが,個々の漁業種ごとの漁場環境についてみると,これらの環境変化が,原告らの営むアサリ養殖業,タイラギ漁業,カキ養殖業,漁船漁業及びノリ養殖業の漁場環境を悪化させたと認めることはできない,として,本件潮受堤防の閉切りによって,同事件の原告らの漁業行使権が侵害されているとはいえないとした。(顕著な事実)営農関係の状況ア本件事業により,合計600ha以上の農地が造成された。また,新干拓地においては,平成31年4月1日時点で,35経営体(個人16名,法人等19経営体)が大規模環境保全型農業を行っている。 イ本件各確定判決の口頭弁論終結後,新干拓地では,造成された大規模で平坦な農地を利用することにより,大規模農業や先駆的農業経営が行われ,効率的農業が実践され,更なる経営の効率化や栽培技術の発展のための先進的な取組も試みられている(甲272,278~280,282,290,2 利用することにより,大規模農業や先駆的農業経営が行われ,効率的農業が実践され,更なる経営の効率化や栽培技術の発展のための先進的な取組も試みられている(甲272,278~280,282,290,292,299,301,302)。実際,新干拓地の営農者の中から,平成29年度及び同30年度と長崎県知事賞の受賞者が出ている(甲474,475)。新干拓地全体での推定農業産出額は,平成21年度の約23億6059万8000円から,平成27年度は約34億1103万5000円に,平成28年度は約37億6253万9000円に,平成30年度は約29億5574万5000円になった(甲297,298,452,473)。新干拓地においては,700人を超える雇用が創出されている(甲79,280)。平成27年度時点において,新干拓地における作物生産による長崎県内での経済波及効果は約47億円と試算されてい る(甲303)。 また,新干拓地においては,本件事業計画で当初から予定していたとおり,農業用水全量を淡水である本件調整池から取水しており,営農を開始した平成20年度の取水量は,約23万3800㎥であった。(甲11)ウ旧干拓地においても,本件調整池の水位が低く管理され,淡水化されたことに伴い,稲作のみにしか利用できなかった農地を収益性の高い露地野菜や施設野菜に利用する経営体が増加しており,それに伴う排水工事等の整備も拡大しているほか,長崎県においては,本件調整池が淡水のまま維持され低い水位で管理されることを前提とした農業計画が作成されている(甲284~286,301,306,307)。そのような取組により,平成27年度の旧干拓地等の推定農業生産額は,約24億6127万円であり,平成22年度と比較すると,2億6900万円増加した( る(甲284~286,301,306,307)。そのような取組により,平成27年度の旧干拓地等の推定農業生産額は,約24億6127万円であり,平成22年度と比較すると,2億6900万円増加した(甲308,309)。 エ他方,諫早湾の干拓農地では,カモによる食害や冷害・熱害のほか,水源や排水不良の問題が指摘されている。(乙100,102,140~151) 本件各確定判決後における控訴人の本件各排水門の開門に向けた取組ア本件環境アセスメントについて(甲11,12) 控訴人は,本件各排水門の開門調査のための本件環境アセスメントの手続を行い,平成24年11月,本件環境影響評価書が確定した(前提 事実 )。 本件環境アセスメントにおいては,対策工事を実施することなく本件各排水門の常時開放を行った場合,本件調整池の水位は,諫早湾の潮位に連動し,年間を通じて標高マイナス1.9mからプラス2.4mまでに変動するとされている。そして,上記のような潮位変動の結果,本件潮受堤防の防災機能が損なわれることにより,旧干拓地の既設堤防が損 壊する危険性が指摘されており,仮に既設堤防が損壊した場合には背後地及び旧干拓地の農地や家屋等に広い範囲で湛水被害が発生することとなる。また,新干拓地に設置された内部堤防の法面が浸食されることにより損壊する危険があることに加え,排水樋門や排水樋管から本件調整池の貯留水が流入することなどによる湛水被害のおそれが生じるほか,農業用水が確保できなくなることや湛水及び塩害による農業上の被害,漁業環境への影響が生じることも予想されている。 イ控訴人の開門に向けた具体的な取組について本件各確定判決の判決確定後,控訴人が本件各排水門の開門に向けて行 よる農業上の被害,漁業環境への影響が生じることも予想されている。 イ控訴人の開門に向けた具体的な取組について本件各確定判決の判決確定後,控訴人が本件各排水門の開門に向けて行った具体的な取組は,要旨,次のとおりである。 本件各確定判決の説示を踏まえ,同判決の判決確定直後から,控訴人は,本件関係自治体及び本件地元関係者らと意見交換を行い,そこでの意見を踏まえ,本件各排水門の開門に向けた対策工事案(以下「対策工事案」といい,工事そのものを「対策工事」という。)を策定するとともに,その実現に向けて本件地元関係者らの理解を得るよう努めた。 (甲5,6,65) また,控訴人は,平成23年6月頃から平成24年11月頃にかけて,上記本件環境アセスメントの手続を通じて,本件関係自治体及び本件地元関係者らに対し,対策工事案等の説明や意見交換を行うとともに,地元の懸念を払拭するため,地元の要望を踏まえ,対策工事案の策定に努めた。その上で,同月22日,本件環境影響評価書を公告した。(甲7~13,65,66,87~89) 平成24年12月の衆議院議員総選挙により政権が交代したが,控訴人は,長崎県を訪問して同県知事らと面会するなどし,対策工事について,本件関係自治体や本件地元関係者らの理解を得るよう努めた。実際,控訴人は,本件各排水門の開放による本件調整池の塩水化に伴う代替水 源確保のため,当初地下水取水案を検討していたが,これに対する本件関係自治体や本件地元関係者らからの懸念に応える形で海水淡水化施設案を採用することとし,そのための入札契約を締結するなどした。しかし,控訴人は,長崎県側から,開門方針の見直しを要請されるにとどまらず,開門の問題点や対策の不備等についての指摘に十分応えて 水化施設案を採用することとし,そのための入札契約を締結するなどした。しかし,控訴人は,長崎県側から,開門方針の見直しを要請されるにとどまらず,開門の問題点や対策の不備等についての指摘に十分応えていないなどの指摘を受けたほか,本件環境影響評価書の公告等について,抗議書の提出を受けたりした。(甲14~26,30,65,66) その後,本件関係自治体及び本件地元関係者らは,対策工事及び本件各排水門の開門に反対の立場を強く示すようになった。具体的には,次のとおりである。 平成25年9月9日,控訴人は,諫早市内の既設堤防の補修工事への着手を試みたが,工事箇所の周辺に参集した本件地元関係者ら約300名からの強い抗議を受け,同日における工事の着手を断念した。 同月27日,控訴人は,上記既設堤防の補修工事及び小江干拓地の国有地内におけるため池の整備工事への着手を試みたが,これらの工事箇所の周辺に参集した本件地元関係者ら約450名からの強い抗議を受け,同日における各工事の着手を断念した。これについては,同月6日,26日及び27日付けで,長崎県知事,諫早市長及び雲仙市長の連名の抗議書が,内閣総理大臣,農林水産大臣及び九州農政局長宛てに発出された。 同年10月19日,控訴人は,諫早市及び雲仙市内の約4万4000戸に対し,対策工事への疑問に回答し,本件各排水門の開門に理解を求めるパンフレットを,新聞に折り込んで配布したが,長崎県知事,諫早市長及び雲仙市長は,連名で,開門方針を白紙段階から見直すよう抗議する旨の抗議書を,内閣総理大臣,農林水産大臣及び九州農政局長宛てに発出した。 控訴人は,同月28日に上記既設堤防の補修工事,ため池の整備工事及び中央干拓地の国有地におけるパイ 抗議書を,内閣総理大臣,農林水産大臣及び九州農政局長宛てに発出した。 控訴人は,同月28日に上記既設堤防の補修工事,ため池の整備工事及び中央干拓地の国有地におけるパイプライン整備工事に着手することとし,同工事に先立ち,国有地である工事予定地の周辺に,関係者以外の立入りを禁ずる旨の看板を設置した。控訴人は,同日,工事請負業者や警備員を連れて現地に赴いたが,上記看板は撤去され,これらの工事箇所の周辺に参集した本件地元関係者ら約560名からの強い抗議を受け,同日における各工事の着手を断念した。そして,同月29日付けで,長崎県知事,諫早市長及び雲仙市長の連名の抗議書が,内閣総理大臣,農林水産大臣及び九州農政局長宛てに発出された。 平成23年12月頃以降,諫早市及び雲仙市は,控訴人の地下水調査の許可申請を不許可としたり,地下水調査に反対する旨の抗議書を発出するなどした。そのため,控訴人は,代替水源対策の検討に必要な地下水調査を実施することができず,上記のとおり,代替水源案について,地下水取水案を断念し,海水淡水化施設案を採用することとした。しかし,長崎県は,海水淡水化施設を設置するために必要な河川法上の協議に応じなかった。また,本件地元関係者らは,対策工事の前提となる公共測量の実施についてもこれを阻止するための行動をとった。さらに,本件関係自治体は,対策工事に必要となる道路法に基づく協議や法定外公共物に関する協議にも応じなかった。 (本項につき,甲27~39,43~49,55~66) このような経緯もあり,現在のところ,控訴人が,対策工事に着手できる目途は立っていない。 なお,控訴人は,このような状況に照らすと,対策工事のためには,少なくとも約1189億円の費用を要すると な経緯もあり,現在のところ,控訴人が,対策工事に着手できる目途は立っていない。 なお,控訴人は,このような状況に照らすと,対策工事のためには,少なくとも約1189億円の費用を要するとしている。 (本項につき,甲1,11,12,23,241) 本件潮受堤防の閉切りによる新たな自然環境の構築等 ア本件各確定判決の口頭弁論終結後,本件調整池が淡水化され,その水位が低く管理されることに伴い,新干拓地や旧干拓地の前面など本件調整池内には土の堆積等によって自然干陸地が形成され,その広さも約600haまで拡大した。本件調整池や上記自然干陸地では,本件調整池が淡水である環境下での生態系が育まれ,また,安定した水際部に拡大したヨシ等の群落では水鳥や小動物の生息が確認されている。さらに,本件調整池内の自然干陸地においては,地元住民らの手により植栽が施され,公園等の整備も進められ,地元住民のほか観光客等の利用なども進んでいる。(甲243,264,321~325,477~482)イ具体的には,本件調整池内の自然干陸地には,アカメガシワ,アキニレ,ハゼノキ,センダン,エノキ,ムクノキ,クマノミズキ,イヌビワ,オオタチヤナギ,クスノキ等が生育しており,その本数は,平成21年には1433本であったものが,平成27年には2384本と1.7倍に増加していると推計されている。また,本数の増加に加え,それぞれの木々も成長していることから,その材積は,平成21年には約32㎥であったものが,平成27年には約253㎥と約8倍に増加していると推計されている。 (甲203,204)ウそして,本件環境アセスメントによれば,本件各排水門を常時開放した場合,本件調整池内の自然干陸地はほぼ全て冠水すると想定されている。 増加していると推計されている。 (甲203,204)ウそして,本件環境アセスメントによれば,本件各排水門を常時開放した場合,本件調整池内の自然干陸地はほぼ全て冠水すると想定されている。 (甲12)また,同様に,本件環境アセスメントによれば,本件各排水門を常時開放した場合であっても,干潟の形成は,本件調整池の南部側でガタ土が滞積することで一部形成される見込みはあるものの,本件潮受堤防の閉切り前のように復活するものではないと予測されている。(甲11) 近時の気候状況等ア降水量の長期的傾向に関し,本件各確定判決の口頭弁論終結時点に近い 平成22年6月の気象庁の気候変動監視レポート(甲100)では,全国的な降雨の傾向として,「日降水量100mm以上の日数は109年間で有意な増加傾向があるが,日降水量200mm以上の日数に有意な傾向はない」,「アメダスが観測した1時間降水量50mm及び80mm以上の短時間強雨の発生回数,そして日降水量200mm及び400mm以上の大雨の発生回数を年ごとに集計し,ここ30年余りの長期的な変化傾向をみた。(中略)1時間降水量50mm以上の発生回数では統計的な有意性が認められたが,1時間降水量80mm以上,日降水量200mm及び400mm以上の発生回数では認められなかった」とされていた。 その後,平成25年6月の気候変動監視レポート(甲67)では,全国的な降雨の傾向として,「日降水量100mm以上の日数は1901年~2012年の112年間で増加傾向が明瞭に現れている。日降水量200mm以上の日数についても同期間で増加傾向が明瞭に現れている」とされたほか,「アメダスで観測された1時間降水量50mm及び80mm以上の短時間強雨の発生回数,そして日降水量 れている。日降水量200mm以上の日数についても同期間で増加傾向が明瞭に現れている」とされたほか,「アメダスで観測された1時間降水量50mm及び80mm以上の短時間強雨の発生回数,そして日降水量200mm及び400mm以上の大雨の発生回数を年ごとに集計し,最近37年間の変化傾向をみた。1時間降水量50mm以上の年間観測回数は統計期間1976年~2012年で増加傾向が明瞭に現れており,1時間降水量80mm以上の年間観測回数についても同期間で増加傾向が明瞭に現れている。一方,日降水量200mm以上の年間観測回数については同期間で変化傾向は見られないが,日降水量400mm以上の年間観測回数については増加傾向が明瞭に現れている」とされた。 そして,平成28年8月の気候変動監視レポート(甲249)においても,全国的な降雨の傾向として,「日降水量100mm以上の大雨の年間日数及び200mm以上の大雨の年間日数は増加している。」と指摘され,アメダスで観測した大雨発生回数の変化についても「1時間降水量50m m以上の年間発生回数は統計期間1976~2015年で増加傾向が明瞭に現れており(信頼度水準95%で統計的に有意),1時間降水量80mm以上の年間発生回数については,同期間で増加している(信頼度水準99%で統計的に有意)」と指摘されている。また,気象庁は,アメダスで観測した1時間降水量50mm以上及び80mm以上の短時間強雨の発生回数について,毎年1月に前年分のデータを追加して長期変化傾向の評価をしているところ,統計期間1976年から2016年までの傾向として,「1時間降水量50mm以上の年間発生回数は増加しています(信頼度水準99%で統計的に有意)」,「1時間降水量80mm以上の年間発生回数は増加しています(信頼度 6年から2016年までの傾向として,「1時間降水量50mm以上の年間発生回数は増加しています(信頼度水準99%で統計的に有意)」,「1時間降水量80mm以上の年間発生回数は増加しています(信頼度水準99%で統計的に有意)」と指摘している(甲250)。 さらに,令和元年7月の気候変動監視レポート(甲461)においても,1時間降水量50mm及び80mm以上の年間発生回数,日降水量400mm以上の年間日数ともに,上記平成28年8月の気候変動監視レポートと同様の傾向が指摘されていることに加え,日降水量200mm以上の年間日数については,ここ40年間で増加しているとみられる旨の指摘がされており,いずれも,長期変化傾向として増加しているとされている。 イまた,福岡管区気象台・長崎海洋気象台・沖縄気象台による異常気象レポート九州・山口県・沖縄版2009(甲101)では,「アメダスデータ(1976年以降)をもとに,九州・山口県すべての地点で1時間降水量が50mm以上,80mm以上となった回数を年ごとに集計した」ところ,「アメダスでみる限り,短時間強雨の回数は,ここ30年間ではわずかながらも増加傾向があるが,観測期間が短いためにこの期間に限ってあらわれた現象の可能性もある」とされていた一方,福岡管区気象台による九州・山口県の気候変動監視レポート2013(甲102)では,「1976~2013年の38年間の統計では,1時間50mm以上の非常に激 しい雨の発生回数は,30年あたり約39回,1時間80mm以上の猛烈な雨では30年あたり4.0回と,いずれも有意に増加している」とされた。さらに,平成29年5月に福岡管区気象台が公表した九州・山口県の気候変動監視レポート2016(甲251)では,アメダスのデータに基づく短時間強 たり4.0回と,いずれも有意に増加している」とされた。さらに,平成29年5月に福岡管区気象台が公表した九州・山口県の気候変動監視レポート2016(甲251)では,アメダスのデータに基づく短時間強雨の発生傾向について「1976~2016年の41年間の統計では,1時間50mm以上の非常に激しい雨の発生回数は,10年あたり11.9回,1時間80mm以上の猛烈な雨の発生回数は,10年あたり1.6回とそれぞれ有意な増加傾向が認められる」とされた。 ウ平成23年8月23日,諫早湾で1時間当たりの降水量が8月観測史上最大となる83.5mmを記録する短時間強雨が発生した(甲144,145)。平成24年7月には九州北部豪雨が発生した(甲140,142,143)。平成29年7月5日に発生した福岡県及び大分県等での豪雨では,福岡県朝倉市や大分県日田市などで記録的な大雨となり,甚大な被害が発生した(甲255)。 また,平成25年の状況について,気象庁が同年9月2日に報道発表した「平成25年(2013年)夏の日本の極端な天候について」(甲103)において,「山口県,島根県,秋田県,岩手県の一部地域では,過去に経験したことのない豪雨に見舞われました。なお,アメダスによる猛烈な雨(1時間降水量80mm以上)のこの夏の観測回数は1976年以降で3番目に多くなりました」とされた。そして,平成26年についても,土木学会等が主催したシンポジウムで「九州を中心に集中豪雨のリスク増大が懸念される」,「今後,経験したことのない大雨が頻発する可能性がある」と指摘され(甲104),広島県で「3時間降水量が217.5ミリと同地点の観測史上最高を記録,8月の平均月間雨量を上回った」と報道された(甲105)。 その後の九州地方の短時間強雨についてみても れ(甲104),広島県で「3時間降水量が217.5ミリと同地点の観測史上最高を記録,8月の平均月間雨量を上回った」と報道された(甲105)。 その後の九州地方の短時間強雨についてみても,長崎県においては,平 成30年7月豪雨(甲462),令和元年8月の九州北部の記録的な大雨(甲463,464)と,大雨特別警報が発表された豪雨が連続して発生している。とりわけ,上記平成30年7月豪雨では,広い範囲で記録的な大雨となり,長時間(48時間)の降水量が,九州北部を含めた124地点で観測史上1位を更新しただけでなく,短時間強雨(1時間降水量)も14地点で観測史上1位を更新した(甲462)。 短時間強雨のこのような増加傾向は,今後も続くことが予想されている(甲104,252)。しかし,短時間強雨の発生機序は解明の途に就いたばかりであり,その事前予測は極めて困難である(甲124,125,146,244,253,254,259)。 エまた,大浦を含む全ての観測地点で,1985年から2013年の期間において,年当たり2.7mmから4.3mmまでの割合で海面水位が上昇している(甲126)。同様に,1985年から2016年の期間においても,年当たり2.6mmから4.3mmまでの割合で海面水位が上昇している(甲251)。さらに,1985年から2018年の期間においても,年当たり2.6mmから4.2mmまでの割合で海面水位が上昇している(甲465)。本件各排水門を常時全開放した場合,海水面が上昇すると,それに連動して本件調整池の水位も上昇することになる。 防災に関係する事実関係ア諫早湾周辺地域においては,現在,本件潮受堤防の閉切りを前提として,河川整備計画及び避難計画が策定されている。特に,本明 整池の水位も上昇することになる。 防災に関係する事実関係ア諫早湾周辺地域においては,現在,本件潮受堤防の閉切りを前提として,河川整備計画及び避難計画が策定されている。特に,本明川水系では,本件調整池が現状の管理水位を維持していることを前提に,国土交通省が,平成28年5月,本明川水系洪水浸水想定区域等を公表し,実施すべき防災行動を時系列で整理するタイムラインの試行版の運用を平成29年6月に開始した。これらのほか,国土交通省が設置した社会資本整備審議会の答申を踏まえ,諫早市では,平成31年2月にハザードマップを作成する とともに,令和元年5月及び同6月には検討会を開催し,家族版,町内会版のタイムラインの策定を進めている。(甲468~470)イ諫早湾周辺地域では,地盤沈下の進行がみられ,小野・長田地区周辺での最大沈下は約4.6cmとなっている。(甲466)平成21年10月から令和元年10月までの間,人口については,諫早市全体及び周辺低平地とも5~6%程度減少したが,世帯数については,諫早市全体で4%増加したほか,周辺低平地でも5984世帯から6002世帯に増加し,特に平成20年度に架設された本明川大橋の県道125号周辺では人口及び世帯数とも増加した(甲467)。また,諫早湾周辺地では,土地利用の多様化も進んでいる(甲262)。 和解解決に向けた動きについて漁業被害の回復に関し,控訴人は,長崎地裁等の和解勧告を受け,本件各排水門を開門しないことを前提に,100億円規模の基金案を提示している。 同和解案については,多くの漁業団体等が理解を示し,長崎地裁や差戻前控訴審も上記基金案を前提とした和解勧告を行ったが,被控訴人らとの調整が付かなかった。(甲381,414~426 案を提示している。 同和解案については,多くの漁業団体等が理解を示し,長崎地裁や差戻前控訴審も上記基金案を前提とした和解勧告を行ったが,被控訴人らとの調整が付かなかった。(甲381,414~426)間接強制金の支払状況本件各確定判決に基づく強制執行として,被控訴人らが受領した間接強制金の額は,平成30年7月30日時点において,一人当たり2734万円(総額12億3030万円)である。(甲491) 3 検討 利益衡量に関する判断枠組み漁業行使権に基づく妨害排除請求権の行使が認められるためには,漁業行使権の侵害状態が客観的に違法と評価されるものでなければならない。そして,本件のように,国の行う公共事業について物権的請求権の行使を認容すべき違法性があるかどうかを判断するに当たっては,侵害行為の態様と侵害 の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきものである(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁,最高裁平成7年7月7日第二小法廷判決・民集49巻7号2599頁参照)。 個々の判断要素の検討ア被侵害利益の性質,内容等について まず,被侵害利益の性質等について検討する。 上記のとおり,本件で問題となっている被侵害利益は,物権的請求権としての漁業行使権である。 そして,漁業行使権は,生命や身体に関する権利ではなく財産的権利ではあるが,漁協の組合員の生活の基盤にかかわる権利であるから,財 被侵害利益は,物権的請求権としての漁業行使権である。 そして,漁業行使権は,生命や身体に関する権利ではなく財産的権利ではあるが,漁協の組合員の生活の基盤にかかわる権利であるから,財産的権利の中では,一般に,より重視され,尊重されるべき権利といえる。 他方,上記1を踏まえ,その権利の性質及び内容をみてみると,次の点を指摘することができる。すなわち,漁業権又は漁業行使権(以下,本段落では「漁業権」という。)は,そもそも特定の水産動植物について一定の漁獲量を保証する性質を有する権利ではない。また,漁業権は,特定の水面において,特定の漁業を独占的排他的に営むことができる権利ではあるものの,有体物を直接支配し,使用収益し得る権利ではなく,民法上の物権とは異なることから,これを物権とみなすこととしたものである(漁業法77条1項)。しかも,漁業権は,公益上必要がある場合,変更,取消し又はその行使の停止がされ得る権利であり(同法93条1項),民法が定める所有権と異なり,絶対的に保障されているもの ともいえない。さらに,本件各排水門の開閉を含む本件潮受堤防の管理には,土地改良法その他関係法令に基づく公法秩序として,土地改良事業計画及び予定管理方法等による一定の制約が及ぶところ,証拠(甲185~188)によれば,本件各排水門について,本件事業計画等において,本件調整池に海水を浸入させるような方法で操作することは予定されていないと認められるのであるから,本件各排水門の常時開放請求を実行する場合には,本件事業計画や本件潮受堤防に係る予定管理方法等の公法秩序との抵触が避けられないといえる。したがって,このような漁業権の侵害を理由とする違法性判断においては,これら漁業権の性質や特徴を全体として踏まえ,違法性の内容 潮受堤防に係る予定管理方法等の公法秩序との抵触が避けられないといえる。したがって,このような漁業権の侵害を理由とする違法性判断においては,これら漁業権の性質や特徴を全体として踏まえ,違法性の内容や程度を検討する必要があるというべきであり,短期的な,あるいは,特定の水産動植物の漁獲量の増減等によって,直ちにこれが判断され得るような性質のものでないことはいうまでもない。 また,漁業行使権侵害の程度をみると,認定事実イのとおり,本件潮受堤防の閉切り前との比較で,諫早湾及びその近傍部における魚類の漁獲量が回復しているとはいえず,その意味では,被控訴人らへの影響は,依然として深刻ではあり,控訴人が主張するように被控訴人らの漁業被害が回復したとはいい難い。しかし,本件5つの共同漁業権の対象となる主な魚種全体の漁獲量及び本件各組合における組合員一人当たりの漁獲量は,全体的に増加傾向にあり,本件各確定判決の口頭弁論終結時である平成22年頃の数値からの改善がみられる。この点については,被控訴人らが指摘するように,魚類の質の問題や,本件潮受堤防の閉切りにより漁業を辞めざるを得なくなった者が生じ,組合員数が減少したため,組合員一人当たりの漁獲量が増加したことが考えられること等を踏まえると,単純な評価は困難といわざるを得ない。しかし,本件5つの共同漁業権の対象となる主な魚種全体の漁獲量は増加傾向にあること が指摘できるほか,少なくとも組合員として実際に漁業に当たっている者の一人当たりの漁獲量は,本件各確定判決の口頭弁論終結時以後,増加傾向にあるとはいえる。 さらに,本件各確定判決は,上記1イのとおり,本件潮受堤防閉切り後,諫早湾及びその近傍部における魚類の漁獲量が有意に減少しているとし,その原因は,本件潮受 加傾向にあるとはいえる。 さらに,本件各確定判決は,上記1イのとおり,本件潮受堤防閉切り後,諫早湾及びその近傍部における魚類の漁獲量が有意に減少しているとし,その原因は,本件潮受堤防の閉切りによる蓋然性が高いというべきであり,経験則上,本件潮受堤防の閉切りと上記漁業被害との間の因果関係を肯定するのが相当であるとした。上記認定事実イのとおり,これを肯定する方向の学術研究も存在する一方,上記認定事実ア及びウのとおり,平成22年当時の本件各確定判決の認定・判断とは必ずしも整合しない平成29年評価委員会報告やその後の司法判断もある。特に上記平成29年評価委員会報告の内容に加え,魚類の漁獲量が減少する要因については,多様なものが想定でき得ることをも考慮すると,本件潮受堤防閉切り後,諫早湾及びその近傍部における魚類の漁獲量が有意に減少しており,その原因の一つとして,本件潮受堤防の閉切りが想定できるとしても,少なくとも,上記漁獲量の有意な減少の全て又はその大半の原因が,本件潮受堤防の閉切りによるものであるといい得るかについては,現時点においては,なお疑義があるというほかない。 イ本件潮受堤防の閉切りの公共性又は公益上の必要性の内容と程度次に,本件潮受堤防の閉切りの公共性又は公益上の必要性の内容と程度について,検討する。 上記1イのとおり,本件各確定判決は,本件潮受堤防の閉切りの公共性又は公益上の必要性等について,本件潮受堤防の防災機能は限定的なものであり,本件干拓地における営農にとって本件潮受堤防の閉切りが必要不可欠であるなどともいえない,また,本件各排水門を常時開放しても,防災上やむを得ない場合にこれを閉じることによって,その防 災機能を相当程度確保できる,さらに,本件各 の閉切りが必要不可欠であるなどともいえない,また,本件各排水門を常時開放しても,防災上やむを得ない場合にこれを閉じることによって,その防 災機能を相当程度確保できる,さらに,本件各排水門の常時開放に過大な費用を要するなどの事実は認められない,控訴人が行う有明海の環境変化の解明及び再生への取組みも,漁業被害を防止する効果が不明である,とした上で,予備的請求である本件各排水門の常時開放請求につき,防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度で認容するに足りる程度の違法性が認められるとしたものである。 そこで,本件潮受堤防の閉切りの公共性又は公益上の必要性の内容と程度については,上記本件各確定判決が指摘する各要素を踏まえつつ,以下,検討を行う。 本件潮受堤防の防災機能についてa 認定事実アのとおり,本件事業は,高潮,洪水,常時排水不良等に対する地域の防災機能を強化することを目的の一つとするものである。また,認定事実ウのとおり,本件潮受堤防は,水位を一定に管理することにより,高潮時及び洪水時の防災並びに背後地の常時排水の改善のための機能が期待されており,本件事業の防災面において,その中核を担う設備であるといえる。 b このような防災機能を有する本件潮受堤防について,本件各確定判決は,本件潮受堤防閉切り後の平成9年から平成21年2月までの約12年間に農業関連被害総額が3億円程度以上に上る湛水被害が3回発生しており,河川改修や排水設備の設置・強化等が必要な状況であることを主な根拠として,本件潮受堤防の機能のうち,洪水時の防災機能は一定程度認められるものの限定的なものにとどまるとした。また,本件潮受堤防の高潮時の防災機能については,これを認めつつも,通常時は本件各排水門を開 して,本件潮受堤防の機能のうち,洪水時の防災機能は一定程度認められるものの限定的なものにとどまるとした。また,本件潮受堤防の高潮時の防災機能については,これを認めつつも,通常時は本件各排水門を開放しつつ,防災上やむを得ない場合にこれを閉じることにより,高潮時及び洪水時の防災機能を相当程度確保することができるとした。さらに,本件潮受堤防の閉切りによる背後地 の常時排水の改善を防災機能として評価することは困難であるとした。 c この点をも踏まえ,現時点において改めて検討すると,近時の気候状況等に関する認定事実ア及びイによれば,本件各確定判決の口頭弁論終結時以降の全国的な降雨の傾向として,地球規模の温暖化を背景として,以前から増加傾向がみられた日降水量100mm以上の日数のほか,日降水量200mm以上の日数,アメダスで観測された1時間降水量50mm及び80mm以上の短時間強雨の発生回数及び日降水量200mm及び400mm以上の大雨の発生回数がいずれも増加傾向にあるといえる。また,認定事実ウによれば,本件各確定判決の口頭弁論終結時以降,九州地方,なかんずく,北部九州の有明海周辺地域においても,毎年の如く,度々短時間強雨や記録的な大雨に見舞われ,数年に一度は甚大な被害が発生している事実が認められ,これらの事実が本件各確定判決の口頭弁論終結時に具体的に想定又は予見されていたということはできない。同様に,認定事実ウによれば,短時間強雨の増加傾向は,今後も続くことが予想され,かつ,その事前予測は極めて困難であるとされているのであるから,本件各確定判決が言及していた控訴人による本件各排水門の適時・適切な閉門操作も同判決が想定していたよりもより困難度が増した状況にあるといえる。さらに,認定事実エによれば,全ての観測 のであるから,本件各確定判決が言及していた控訴人による本件各排水門の適時・適切な閉門操作も同判決が想定していたよりもより困難度が増した状況にあるといえる。さらに,認定事実エによれば,全ての観測地点の平均的な数値ではあるものの,1985年(昭和60年)以降,海面水位が相当程度上昇している事実も認められる。 他方,認定事実アによれば,諫早湾周辺地域においては,本件潮受堤防が閉め切られておよそ四半世紀が経つこともあり,本件潮受堤防の閉切りとそれにより本件調整池の水位が一定に管理されていることを前提に,河川整備計画(特に本明川)や避難計画等が策定され,それを踏まえて各種施策が実行されている状況にある。また,認定事 実イによれば,上記時の経過を受け,諫早湾周辺地では,本件潮受堤防の閉切りを前提とした,土地利用の多様化も進んでいる。さらには,上記時の経過に照らすと,本件各排水門を開放し,本件調整池の水位が上昇した場合,排水機場や既存堤防等,一定の管理水位を前提に設置・維持されてきた設備等に機能の低下や毀損が生じるなどの事態が生じる可能性も,これを否定し切ることができない。 これらを踏まえると,本件各排水門を開放するなどして本件調整池の水位が上昇した状況下(認定事実エ参照)においては,短時間強雨等の異常気象,海面水位の上昇(経年的上昇に加え,満潮時を含む。),本明川をはじめとする河川改修工事の状況等の各要因が特に複合的に競合した場合には,もはや諫早湾周辺の干拓地の営農者や市街地の住民らに甚大な被害をもたらす水害が発生する現実的な可能性を否定することができない(この点,被控訴人らは,周辺低平地の湛水被害は,既存堤防や排水路,排水機場を整備することで対応すべき問題であり,本件潮受堤防の閉切りと もたらす水害が発生する現実的な可能性を否定することができない(この点,被控訴人らは,周辺低平地の湛水被害は,既存堤防や排水路,排水機場を整備することで対応すべき問題であり,本件潮受堤防の閉切りとは関係がない旨を主張するが,上記のとおり考えられるのであり,採用の限りではない。)。そして,このような甚大な水害が発生すると,上記住民の住居等,その生活の基盤となる財産的権利が侵害されるのみならず,住民らの生命・身体にも深刻な被害が生じるおそれがあるのであり,これらの権利・利益を軽視することは到底許されない。 d 以上によれば,現時点においては,本件潮受堤防を閉め切ることによって,本件調整池の水位を現状のように低く保っておく現実的な必要性がより高まっている上,そもそも,本件潮受堤防を取り巻く広大な地域社会全体においては,その主要目的である防災機能の強化(上記a)について,上記cのとおりの各種施策や各種設備と有機的に関連して,その維持と更なる発展が求められている現状にあり,かつ, 本件各確定判決の口頭弁論終結時には必ずしも上記河川整備等の施策は進んでいない。その点の検討は同判決ではされていないところ,現在においては,これらの整備が進むにつれて本件潮受堤防の防災機能はより重みを増しているといえるのであるから,本件各確定判決の口頭弁論終結時と比べ,本件各排水門を常時開放した場合に生じる防災上の支障は増し,特に本件潮受堤防の洪水時の防災機能は相当に増大しているといえる。他方,かかる機能を完全に代替し得る手段ないし施策は現時点では証拠上見出すことができない。 本件干拓地における営農と本件潮受堤防の閉切りについてa 本件干拓地における営農と本件潮受堤防の閉切りについて,本件各確定判決は,代替水源確保 証拠上見出すことができない。 本件干拓地における営農と本件潮受堤防の閉切りについてa 本件干拓地における営農と本件潮受堤防の閉切りについて,本件各確定判決は,代替水源確保の可能性に言及した上で,本件干拓地における営農にとって本件潮受堤防の閉切りが必要不可欠である,又は本件各排水門を常時開放すると上記営農が破綻する若しくは上記営農を維持するために過大な費用を要するという事実を認めるに足りないとした。 b この点をも踏まえ,現時点において改めて検討すると,認定事実のとおり,カモによる食害や排水不良等の問題(同エ)はあり,その点が当該営農者にとって看過できない問題であることは理解できるものの,新干拓地及び旧干拓地とも,全体としてみれば,本件潮受堤防の閉切りにより,本件調整池の水位が低く管理され,かつ,淡水化されたことを前提に先端的農業経営が営まれ,推定農業産出額の増加等の成果が挙がっている事実(同アからウまで)が認められる。そして,上記を前提に,排水工事等の整備や農業計画が作成されるなどの各種農業施策が実施されている状況にある。また,新干拓地においては,農業用水を本件調整池から取水している事実(同イ)も認められる。 他方,本件各確定判決がその可能性に言及していた代替水源の確保 の点については,認定事実イのとおり,本件関係自治体や本件地元関係者らの反対もあり,確保の目途が立たない状況である。 これらのほか,証拠(甲11,12,280,284,285)を踏まえると,本件各排水門が常時開放され,本件調整池が塩水化してその水位が管理されなくなった場合,新干拓地や旧干拓地の一部では,農業用水が利用できなくなるため営農自体が困難又は不能となる可能性があり,その他の干 件各排水門が常時開放され,本件調整池が塩水化してその水位が管理されなくなった場合,新干拓地や旧干拓地の一部では,農業用水が利用できなくなるため営農自体が困難又は不能となる可能性があり,その他の干拓地においても干ばつ等に備えた十分な農業用水の確保ができなくなるなどし,それにより生じる農業被害を防ぐことができなくなる可能性がある。また,旧干拓地では,管理水位の上昇に伴う排水不良が生じることにより,現状の作物の営農を継続することが困難となるほか,塩害や潮風害等による被害の拡大が生じる結果,現状で実施されている農業の実施自体が不可能となる可能性もある。そして,このような事態が発生した場合,営農者にとっては生活の基盤といえる財産的権利・利益が侵害されることとなり,このような同権利・利益の侵害について,これを軽視することも許されない。 c 以上によれば,本件各確定判決の口頭弁論終結時と比べ,本件各排水門を常時開放した場合に生じる営農上の支障は増大しているといえる。 控訴人等による有明海再生への取組についてa 控訴人等による有明海再生への取組について,本件各確定判決は,その内容は主に調査研究であり,これらの取組が漁業被害を防止する効果は不明であるとした。また,本件各排水門の開門に伴う新たな漁業被害についても,それが発生する具体的危険があること及び被害の程度等を認めることはできないとし,利益衡量において,考慮すべき要素とされなかった。 b 上記を踏まえ,現時点で改めてこの点について検討すると,認定事 実エのとおり,諫早湾内では,本件潮受堤防の閉切りを前提に,カキ,アサリを中心とした漁業への取組が発展し,一定程度の成果が挙がっている事実や長崎県もそのような取組を支援している事実が認め 実エのとおり,諫早湾内では,本件潮受堤防の閉切りを前提に,カキ,アサリを中心とした漁業への取組が発展し,一定程度の成果が挙がっている事実や長崎県もそのような取組を支援している事実が認められる。また,認定事実オのとおり,控訴人は,本件各確定判決の口頭弁論終結後も,有明海沿岸の4県と協調して,有明海の漁業環境を改善するための調査や施策を実施し,有明海沿岸4県の漁業団体からもその取組を評価する声が上がっている状況にある。 これらのほか,証拠(甲11,12)を踏まえると,本件各排水門が常時開放された場合,特に諫早湾内では,濁りの変化により,カキの摂餌活動が変化し,成長が変化するなど,上記漁業のこれまでの取組や現在の漁業関係に影響を及ぼす可能性が否定できない。そして,上記影響がどの程度の頻度で生じ,また,その影響がどの程度の内容や程度のものであるかを定量的に裏付け得る証拠は必ずしも見当たらないものの,このような事態が発生した場合,特に諫早湾内の漁業者にとっては,これまでの取組が覆滅し,生活の基盤たる財産的権利・利益が侵害されることとなるから,上記侵害の可能性の存在自体を軽視することはできない。 c 以上によれば,本件における利益衡量では,本件潮受堤防の閉切りを前提としてこれまでに行われてきた各種調査や取組を踏まえ,本件各排水門の開門に伴う新たな漁業被害の可能性についても,その考慮要素の一つとするのが相当である。 新たに形成された生態系や自然環境への影響についてa 本件潮受堤防の閉切りにより,本件調整池が淡水化され,その水位が低く管理される状況がおよそ四半世紀続いたこともあり,本件調整池及びその周辺には,新たな生態系や自然環境が構築されるとともに,それを前提に地元住民らによる により,本件調整池が淡水化され,その水位が低く管理される状況がおよそ四半世紀続いたこともあり,本件調整池及びその周辺には,新たな生態系や自然環境が構築されるとともに,それを前提に地元住民らによる公園の整備等が進められている。その 具体的な内容については,認定事実ア及びイのとおりである。そして,認定事実ウのとおり,本件環境アセスメントによれば,本件各排水門を常時開放した場合,本件調整池内の自然干陸地は全て冠水すると想定されている。 b この点,被控訴人らが指摘するとおり,本件事業は,その遂行により,諫早湾内にかつてあった干潟の消滅等,従来の生態系や自然環境等を変容させるものであり,その点をすべて捨象して,現在構築されている生態系等への影響のみを利益衡量において殊更重視するのは相当ではない。しかし,一般に,あらゆる生態系や自然環境も,その各時代の社会の状況や人間社会の自然への関わりと独立して存在し,あるいは,無関係であり得ないものであることに触れるまでもなく,現時点における利益衡量を行う以上,本件各排水門を常時開放した場合における現在の生態系等への影響も,本件潮受堤防の閉切りの公共性又は公益上の必要性にかかる考慮要素の一つとせざるを得ないというべきである。 c 以上によれば,本件における利益衡量では,本件各排水門を常時開放した場合における新たに形成された生態系や自然環境への影響についても,考慮要素の一つとするのが相当である。 対策工事についてa 上記1イ及び同エのとおり,本件各確定判決は,開門の時期を判決確定の日から最大で3年猶予したところ,その期間中に本件潮受堤防が果たしている洪水時の防災機能,排水不良の改善機能のほか,代替水源の確保等の対策工事が行われるであ 本件各確定判決は,開門の時期を判決確定の日から最大で3年猶予したところ,その期間中に本件潮受堤防が果たしている洪水時の防災機能,排水不良の改善機能のほか,代替水源の確保等の対策工事が行われるであろうことを考慮に入れて総合的な利益衡量をしたものと解される。そして,これらの対策工事が実施された場合,本件潮受堤防の閉切りの公共性等としてこれまで検討してきた本件潮受堤防の防災機能,本件干拓地における営農の問 題,本件各排水門の開門に伴う新たな漁業被害の可能性について,これらの利益を減弱する方向に働くものであるといえる。 b これを踏まえて検討すると,本件各確定判決後における控訴人の開門に向けた具体的な取組については,要旨,認定事実イに記載の各事実が認められ,これらによれば,現在のところ,控訴人が,上記各種の対策工事に着手できる状況にないといえる。 この点,被控訴人らは,控訴人が本件各確定判決に基づく義務を誠実に履行する意思をもとより有しておらず,様々な口実を付けて懈怠しているにすぎないなどと主張し,上記状況が専ら控訴人によって作出されたものである旨を指摘する。しかし,上記状況につき,これが控訴人にとって全く予想外の強硬な反対行動が主たる原因であるか否かや,控訴人の側に全く帰責性がないとまでいい得るか否かは措いても,認定事実イの各事実のとおり,本件関係自治体や本件地元関係者の反対も,一定程度根強いものがあり,その間の社会情勢の変化等を含めた諸事情を踏まえると,控訴人が上記状況をあえて作出したとまではいえないことに加え,上記状況につき,専ら控訴人のみに責任があるとまではいい難い。被控訴人らの上記主張は,そのまま採用することはできない。 また,被控訴人らは,この点に関連し,控訴人が対 ないことに加え,上記状況につき,専ら控訴人のみに責任があるとまではいい難い。被控訴人らの上記主張は,そのまま採用することはできない。 また,被控訴人らは,この点に関連し,控訴人が対策工事を実施せずに本件各排水門の常時開放を求めているものではないことや,いわゆるケース3-2開門(本件調整池の管理水位を標高マイナス1.0mに維持したまま,本件調整池に海水を導入する開門方法)によれば,開門による影響等を押さえることができる旨を主張する。しかし,本件各確定判決では,控訴人に対し,本件各排水門の常時開放を命じる一方,特定の開門方法を命じているわけではなく,また,対策工事の実現を開門の条件とはしていない。さらに,ケース3-2開門であっ ても,その前提として,本件調整池の塩水化を踏まえ,代替水源の確保や各種塩害防止措置,さらには,淡水性生物等の移植などが必要となるから,本争点を検討するに当たって,被控訴人らの上記主張を重視することはできない。 c 以上によれば,本件における利益衡量では,本件各排水門の開門にかかる対策工事が実施できていないこと自体を殊更重視することはできないものの,かかる現状を踏まえた上で,利益衡量を行うのが相当である。 その他,本件各確定判決確定後に生じた事情a 前提事実に記載のとおり,控訴人は,本件各確定判決の判決確定後,別件仮処分決定等により,本件営農者等の一部の者らに対する関係で,本件各排水門を開放してはならない旨の法的義務を負った。そして,控訴人は,前提事実イに記載のとおり,本件各排水門の開放禁止義務に違反した場合,違反行為をした日1日につき49万円の間接強制金の支払義務を負っている。 b 上記aに加え,前提事実からまでに記載のとお イに記載のとおり,本件各排水門の開放禁止義務に違反した場合,違反行為をした日1日につき49万円の間接強制金の支払義務を負っている。 b 上記aに加え,前提事実からまでに記載のとおり,本件各確定判決と相容れない他の司法判断も複数されている。かかる判断自体は,民事訴訟の構造上,本件の審理判断に直接の影響をもたらすものではないことは当然であるが,本件が扱う問題の事実上の影響が及ぶ本件当事者以外の者の利害を判断の一要素として取り込むこと自体は許されるし,むしろその必要もあるというべきである。 c さらに,被控訴人らが受領した間接強制金の額が総額12億3030万円である点は,認定事実に記載のとおりである。 d 加えて,本件各確定判決の判決確定から既に10年以上が,そして,本件潮受堤防の閉切りからは既に四半世紀が,それぞれ経過した。これまでにも言及してきたとおり,これら時の経過により,本件事業の 結果を前提とした各種の社会状況等が構築されている状況にある。 e これら本件各確定判決の判決確定後に生じた事情も,これが民事訴訟の構造上やむを得ない事象であることは当然ではあるものの,その重要度は措いて,本件における利益衡量の一要素としては,念頭に置かざるを得ない。 総合的な検討(まとめ)以上を踏まえ,控訴人が行う公共事業である本件事業について,現時点において,物権的請求権の行使を認容すべき違法性があるかどうかを検討すると,次のようにいうことができる。 アすなわち,上記アのとおり,被控訴人らが有する生活の基盤にかかわる権利である漁業行使権への影響は,依然として深刻ではあるものの,本件5つの共同漁業権の対象となる主な魚種全体の漁獲量及び組合員として実際に漁 上記アのとおり,被控訴人らが有する生活の基盤にかかわる権利である漁業行使権への影響は,依然として深刻ではあるものの,本件5つの共同漁業権の対象となる主な魚種全体の漁獲量及び組合員として実際に漁業に当たっている者の一人当たりの漁獲量は,本件各確定判決の口頭弁論終結後,増加傾向にあり,その限度では,本件各確定判決の口頭弁論終結当時より,上記侵害の程度は軽減し,今後もこのような傾向が見込まれるといえる。 また,平成29年評価委員会報告等の内容を踏まえると,本件潮受堤防閉切り後,諫早湾及びその近傍部における魚類の漁獲量が有意に減少しており,その原因の一つに,本件潮受堤防の閉切りがあるとしても,少なくとも,上記漁獲量の有意な減少の全て又はその大半の原因が,本件潮受堤防の閉切りによるものであるといい得るかについては,現時点においては,なお疑義がある状況である。 イ他方,本件潮受堤防には,その設置の目的の重要な柱であることを指摘するまでもなく,高潮時の防災機能が認められることのほか,近時における短時間強雨の増加や海面水位の上昇,さらには本明川をはじめとする河川改修工事の状況等を踏まえると,それらが複合的に競合した場合には, 甚大な水害が発生する可能性が否定できず,加えて,控訴人による本件各排水門の適時・適切な閉門操作も,近時の気象状況等を前提にする限り,本件各確定判決が想定していたよりもより困難な状況にあるといえる。また,水害被害を軽減するための対策工事も実現の目途が立たず,対策工事を実施せずに本件各排水門を常時開放した場合,上記被害がより一層深刻なものとなる可能性がある。これらによれば,現時点においては,本件潮受堤防を閉め切ることによって,本件調整池の水位を現状のように低く保っておく必要性がより高まってい した場合,上記被害がより一層深刻なものとなる可能性がある。これらによれば,現時点においては,本件潮受堤防を閉め切ることによって,本件調整池の水位を現状のように低く保っておく必要性がより高まっているといえることはもちろん,本件各確定判決の口頭弁論終結時と比べると,本件各排水門を常時開放した場合に生じる防災上の支障は相当に増大しているといえる。これらの点は,本件事業及び本件潮受堤防設置の本来的目的に関わる部分であって,特に重視する必要があるといえる。 ウそして,上記イのとおり,本件各確定判決の口頭弁論終結時と比較して,本件各排水門を常時開放した場合に生じる営農上の支障は大きいといえ,また,上記イのとおり,本件各排水門を常時開放する場合には,それに伴い生じる新たな漁業被害の可能性も考慮する必要がある。これらの点については,対策工事が行われる目途が立たない現状においては,より慎重に考慮されるべき事情といえる。 エさらに,現時点における本件各排水門の常時開放を検討するに当たっては,新たに形成された生態系や自然環境への影響についても考慮すべきところ,上記イのとおり,本件各排水門の常時開放により,本件調整池内の自然干陸地は全て冠水すると想定されているのであるから,現在形成された生態系や自然環境等は,本件各排水門の常時開放により,再び変容を余儀なくされる状況にあるといえる。また,上記イのような,本件各確定判決の判決確定後に生じた事情も存在する。 オ加えて,上記1イのとおり,一般的に特定の作為等請求が認められる には,妨害が違法であると評価される状態が将来にわたって継続することが具体的に予測されるのみでは足りず,対立する諸利益を考慮しても,被侵害利益に対する救済を損害賠償にとどめるのでは足 には,妨害が違法であると評価される状態が将来にわたって継続することが具体的に予測されるのみでは足りず,対立する諸利益を考慮しても,被侵害利益に対する救済を損害賠償にとどめるのでは足りず,上記作為等請求まで認める必要があると判断されることが必要である。 カ以上のとおり,本件各確定判決の口頭弁論終結時と比較して,被控訴人らが有する漁業行使権に対する影響の程度は軽減する方向となる一方,本件潮受堤防の閉切りの公共性等は増大する方向となったといえる。そして,これらを総合的に考察すれば,現時点,すなわち,本件の口頭弁論終結時において,控訴人が争点1において主張する本件各確定判決が様々の将来予測の下に行った客観的違法性の有無についての衡量判断を逆転させるまでの事情の変動があったといえるかは措くとしても,被控訴人らの救済として上記作為等請求までを認めるに足りる違法性,すなわち,本件各排水門の常時開放請求を,防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度であってもこれを認めるに足りる違法性があるとはいえないというべきである。 キ小括以上によれば,被控訴人らの本件各排水門の常時開放請求は,現時点において,防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度であっても,これを認容するに足りる程度の違法性が失われていると判断される。 争点2の結論ア上記1オのとおり,本件各確定判決は,暫定的・仮定的な利益衡量を前提とした上で期間を限った判断をしているものであり,本争点を判断するに当たっては,その予測の確実性の度合いを前提にしつつ,前訴の口頭弁論終結後の事情の変動を踏まえて,改めて利益衡量を行い,これを決するのが相当であるところ,以上のとおり,現時点においては,本件各確定判決で認容された本件各排水門 の度合いを前提にしつつ,前訴の口頭弁論終結後の事情の変動を踏まえて,改めて利益衡量を行い,これを決するのが相当であるところ,以上のとおり,現時点においては,本件各確定判決で認容された本件各排水門の常時開放請求を,防災上やむを得ない場 合を除き常時開放する限度で認めるに足りる程度の違法性を認めることはできない。そして,そうである以上,現時点において,上記のような性質等を有する本件各確定判決に基づき,被控訴人らが強制執行を行うことは,許されないというべきである。 以上によれば,口頭弁論終結時点(令和3年12月1日)においては,被控訴人らによる本件各確定判決に基づく強制執行は,権利濫用に当たり,又は,信義則に照らし,許されないものというべきである。 イこれに対し,被控訴人らは,控訴人に対し,開門の直接強制を求めているのではなく,穏当な間接強制を求めるにとどまることを理由に,本件各確定判決に基づく強制執行が,権利濫用等に当たるものではない旨を主張する。 しかし,債務を履行しない義務者に対し,間接強制金の支払義務を課すことによって心理的圧迫を加え,最終的には自発的な義務の履行を促し,これを実現するという間接強制の性質を踏まえると,被控訴人らは,最終的には本件各確定判決に基づき,本件各排水門の常時開放を求めているものといわざるを得ないことに加え,上記のとおり,現時点においては,本件各確定判決に基づく強制執行自体が許されないというべきであるから,被控訴人らの上記主張は,上記判断を左右するものではない。 ウ他方,控訴人は,本争点に関し,前記第2の4エに記載のとおり,権利濫用の成立が認められる時期を問題とし,その理由として,同時期が,被控訴人らに対して支払った間接強制金の返還を求める際に影響する旨を指 ,控訴人は,本争点に関し,前記第2の4エに記載のとおり,権利濫用の成立が認められる時期を問題とし,その理由として,同時期が,被控訴人らに対して支払った間接強制金の返還を求める際に影響する旨を指摘する。 しかし,上記控訴人が指摘する点は,最終的には当該返還請求訴訟において検討・判断されるべき内容である。本判決における被控訴人らの権利濫用に関する認定・判断は,仮にその成立時期が問題となり,何らかの判断がされたとしても,上記訴訟との関係において,単なる理由中の判断に すぎず,上記訴訟の審理・判断に,何ら影響や効力を及ぼすものではない。 また,上記の点を措くとしても,その他,請求異議の訴えにおける判断基準時に関する理論の例外とすべき事情が見当たらない本件では,被控訴人らによる本件各確定判決に基づく強制執行が,口頭弁論終結時点(令和3年12月1日)において,権利濫用に当たると判断すれば十分である。 よって,控訴人の上記主張は,法的に当裁判所の判断を拘束するものではないと解されるから,本件において,これ以上の検討・判断を必要としない。 なお,一件記録によれば,被控訴人Y24は,令和元年5月20日に,被控訴人Y25は,令和元年8月14日に,被控訴人Y26は,令和2年7月5日に,それぞれ死亡した。 上記3名は,その死亡により,漁業協同組合の組合員たる地位を喪失するとともに,組合員たる地位と不可分のものである漁業行使権を喪失した。そして,漁業協同組合等の組合員は,死亡により脱退するとされており,その相続人らが,当該組合員の死亡によって組合員たる地位を承継するという関係は生じない。 よって,上記3名については,控訴人に対する漁業行使権に基づく本件開門請求権の行使として強制執行 ,その相続人らが,当該組合員の死亡によって組合員たる地位を承継するという関係は生じない。 よって,上記3名については,控訴人に対する漁業行使権に基づく本件開門請求権の行使として強制執行を申し立てることは,上記の点からも許されない。 控訴人と被控訴人らとの間における本訴訟の争点に対する当裁判所の判断は以上のとおりであるが,事案の内容とその特性に鑑み,若干付言する。 かかる法的判断は,両当事者を名宛人とするものであり,かつ,その効力は,原則としてその余の第三者に及ぶものではないことはいうまでもない。 また,当裁判所がかかる判断に至る前提として認定した上記各事実及びこれを含んでその背景にある事実関係によって有明海周辺に実際に生じている社会的な諸問題は,当然のことながら,上記判断によって直ちに解決に導かれ るものではあり得ない。 そこで,当裁判所としては,前記諸問題を解決するために,双方当事者が,そのいずれもが強く求める「有明海の再生」,すなわち諫早湾を含む有明海及びそれを取り巻く地域の更なる再生・発展に向けての施策の検討とその調整のための協議を継続させ,今後,第三者たる関係主体の利害にも広く配慮しつつ,更に加速させる必要があると思料する。国民的資産(有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律1条参照)であり,人類全体の資産(いわゆるラムサール条約の登録干潟等参照)でもある有明海の周辺に居住し,あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために,双方当事者や関係者の前記諸問題の全体的・統一的解決のための尽力が,強く期待されるところである。 第4 結論以上によれば,その余の点(争点1及び同3)を検討・判断するまでもなく,控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由があるから 解決のための尽力が,強く期待されるところである。 第4 結論以上によれば,その余の点(争点1及び同3)を検討・判断するまでもなく,控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由があるからこれらを認容すべきであるところ,これと異なる原判決中被控訴人らに関する部分は失当であり,本件各控訴はいずれも理由がある。そして,民事執行法37条1項に基づき同法36条1項の処分を命じることとする。 よって,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第2民事部 裁判長裁判官岩木宰 裁判官西尾洋介 裁判官北川幸代
▼ クリックして全文を表示