平成18年2月24日判決言渡し同日原本領収裁判所書記官平成16年(行ウ)第191号行政処分取消請求事件口頭弁論終結日平成17年12月26日判決愛知県一宮市原告 A訴訟代理人弁護士岡田泰亮訴訟復代理人弁護士加藤興平東京都千代田区霞が関一丁目2番2号被告厚生労働大臣B指定代理人市原久幸瀬戸勲藤田一郎松本良一手島一嘉木下栄作 主文 一原告の請求を棄却する。 二訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第一請求被告が原告に対して平成16年3月18日付けでした、平成16年4月1日から平成19年9月30日までの期間、医業の停止を命ずる旨の処分を取り消す。 第二事案の概要一事案の骨子本件は、抗がん剤の過剰投与により患者が死亡した医療事故に関し、被告が、その主治医であった原告に対し、「罰金以上の刑に処せられたため。」及び「医事に関し不正の行為のあったため。」を理由として、医師法7条2項に基づき、3年6か月の期間医業の停止を命ずる旨の処分をしたところ、原告が、医事に関し不正の行為はなく、上記処分は重すぎるので違法であるなどと主張して、上記処分の取消しを求める事案である。 二関係法令の定め か月の期間医業の停止を命ずる旨の処分をしたところ、原告が、医事に関し不正の行為はなく、上記処分は重すぎるので違法であるなどと主張して、上記処分の取消しを求める事案である。 二関係法令の定め本件に関連する医師法の規定は、次のとおりである。 4条(相対的欠格事由)次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。 1号及び2号 (省略)3号罰金以上の刑に処せられた者4号前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者7条(免許取消し、医業停止、再免許)1項 (省略)2項医師が第4条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は期間を定めて医業の停止を命ずることができる。 (以下省略)三前提事実本件の前提となる事実は、次のとおりである。なお、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることのできる事実並びに当裁判所に顕著な事実は、その旨付記しており、それ以外の事実は、当事者間に争いのない事実である。 1 原告の経歴(乙2、15、弁論の全趣旨)原告(昭和45年○月○日生まれ)は、平成8年3月に埼玉医科大学を卒業し、同年4月に医師国家試験に合格して、医師免許を取得した者であり、耳鼻咽喉科を専門としていた。なお、原告には、医師法による処分歴はなかった。 原告は、医師免許を取得後、埼玉医科大学総合医療センター(以下「医療センター」という。)において、研修医として2年間、病院助手として約1年間勤務した後、外部の病院で1年間働き、平成12年5月から医療センターの病院助手として勤 埼玉医科大学総合医療センター(以下「医療センター」という。)において、研修医として2年間、病院助手として約1年間勤務した後、外部の病院で1年間働き、平成12年5月から医療センターの病院助手として勤務していたもので、平成12年10月7日当時、医師として5年目であった。 なお、原告は、後記3の医療事故の後、埼玉医科大学を懲戒解雇された。 2 本件医療事故の関係者等(乙15)(一) C(以下「C」という。)は、昭和58年○○月○○日生まれの女子であり、平成12年10月7日当時、16歳であった。Cは、後記のとおり、医療センターにおいて、抗がん剤である硫酸ビンクリスチンの過剰投与により、平成12年10月7日に死亡した(以下、この医療事故を「本件医療事故」という。)。 (二) D(以下「D医師」という。)は、平成4年に医師免許を取得した医師で、耳鼻咽喉科を専門としていた。D医師は、本件医療事故当時、埼玉医科大学耳鼻咽喉科助手として同大学に勤務し、医療センターにおいて治療行為に従事していた。D医師は、本件医療事故当時、医師として9年目であり、日本耳鼻咽喉科学会が主催する専門医試験に合格していた。 (三) E(以下「E教授」という。)は、昭和37年に医師免許を取得した医師で、耳鼻咽喉科を専門としていた。E教授は、本件医療事故当時、耳鼻咽喉科教授として、埼玉医科大学に勤務し、耳鼻咽喉科の診療部門の統括責任者である科長として、医療センターにおいて治療行為に従事していたほか、複数の学会等の役員に就任していた。 (四) 本件医療事故の当時、埼玉医科大学耳鼻咽喉科には、診療科長であるE教授の下に、講師1名、医局長としてF(以下「F医局長」という。)、助手としてD医師、病院助手としてG(以下「G医師 (四) 本件医療事故の当時、埼玉医科大学耳鼻咽喉科には、診療科長であるE教授の下に、講師1名、医局長としてF(以下「F医局長」という。)、助手としてD医師、病院助手としてG(以下「G医師」という。)及び原告ほか4名、研修医としてH(以下「H研修医」という。)及びI(以下「I研修医」という。)ほか1名の合計12名の医師が在籍していた。 3 本件医療事故(乙2、15、22)(一) Cは、平成12年4月ころ、右顎下にしこりの存在を訴え、そのころ、埼玉県北本市所在のJ診療所において、当時外来担当として医療センターから派遣されていた原告の診察を受けた。Cは、原告の勧めにより、医療センターへ転院することになり、同年7月10日以降、医療センターにおいて治療を受けることになった。また、原告は、主治医として、Cの治療を担当することになった。 (二) Cは、平成12年8月23日、D医師の補助の下、原告の執刀により、右顎下の腫瘍の摘出手術を受け、摘出された腫瘍は、病理検査に出された。Cは、同月29日、いったん医療センターを退院した。同年9月6日、病理検査の結果、摘出された腫瘍は、滑膜肉腫であることが判明した。 Cは、数回の検査を経て、同月25日、医療センターへ再入院した。 (三) 原告は、Cの治療方法として、硫酸ビンクリスチン、アクチノマイシンD及びシクロフォスファミドの3種類の抗がん剤を組み合わせて用いるVAC療法を選択し、文献から、VAC療法のプロトコール(投与量と間隔を定めた投薬計画のことである。)をコピーして入手した。原告は、Cに対する投薬計画を作成するに当たり、上記プロトコールの薬剤投与頻度が週単位で記載されているのに、これを日単位で記載されているものと誤解し、投与開始日から12日 。)をコピーして入手した。原告は、Cに対する投薬計画を作成するに当たり、上記プロトコールの薬剤投与頻度が週単位で記載されているのに、これを日単位で記載されているものと誤解し、投与開始日から12日間連続して、硫酸ビンクリスチン(商品名オンコビン)を1日当たり2mg、投与開始日及び12日目、22日目、36日目に、アクチノマイシンD(商品名コスメゲン)を1日当たり0.5mg、診療開始日から6日目以降連日2年間、シクロフォスファミド(商品名エンドキサン)を1日当たり125mg、それぞれ投与する旨の治療計画を立案し、D医師及びE教授の了承を得た。 (四) 原告は、平成12年9月27日から、Cに対し、上記計画に従い、硫酸ビンクリスチンの連日投与を開始した。Cは、連日投与開始の翌日から、食欲低下、顎や顔の痛み等を訴え始めたが、さらに、日を追うごとに、発熱、吐き気、歩行困難等の症状が出現した。 原告は、同年10月3日、Cに対する硫酸ビンクリスチンの投与を中止した。しかし、Cは、翌4日に、40度近くまでの体温の上昇、腸管麻痺による腹痛及び排便不能、排尿困難等の症状が現れ、同月6日には、自力呼吸が困難となり、人工透析が試みられたが、心臓が一時停止するまでに至った。 (五) D医師、G医師及び原告は、平成12年10月6日午後5時ころ、Cのカルテに添付されていた前記プロトコールを見て、Cに対する投薬計画において、1週を1日と誤っていることを発見した。 (六) その後、Cは、平成12年10月7日午後1時35分ころ、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の副作用による多臓器不全によって、死亡した。 4 Cの死亡に係る業務上過失致死被告事件(以下「本件刑事事件」という。)の経過(一) さいたま地方裁判所は ビンクリスチンの過剰投与の副作用による多臓器不全によって、死亡した。 4 Cの死亡に係る業務上過失致死被告事件(以下「本件刑事事件」という。)の経過(一) さいたま地方裁判所は、平成15年3月20日、業務上過失致死罪により、原告を禁錮2年執行猶予3年に、D医師を罰金30万円に、E教授を罰金20万円にそれぞれ処する旨の判決を宣告した。 なお、上記判決において認定された罪となるべき事実は、以下のとおりであった。 (乙13)「Eは、…(中略)…埼玉医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科科長兼教授として、同科における診療全般を統括し、同科の医師らを指導監督する業務に、Dは、同大学助手として、Aは、同科病院助手として、患者の診療の業務にそれぞれ従事していた者であるが、Dをリーダー、Aを主治医として、研修医Hを加え、医療チームを組み、右顎下部の滑膜肉腫に罹患したCに対し、抗がん剤である硫酸ビンクリスチン、アクチノマイシンD及びシクロホスファミドの3剤を投与する化学療法(VAC療法)を実施するに当たり、 1 Aは、滑膜肉腫やVAC療法の臨床経験がなく、抗がん剤は細胞を破壊する作用を有するもので、その投与は患者の身体に対する高度な侵襲であることから、その用法、用量を誤ると患者の命にも関わる事態となり、また、強い副作用があることから、これを用いるに当たっては、当該療法についての文献、医薬品添付文書等を調査して、その内容を十分理解し、副作用についても、その発現の仕方やこれに対する適切な対応を十分把握して治療に臨むべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、同療法や硫酸ビンクリスチンについての文献、医薬品添付文書の精査をせず、同療法のプロトコールが週単位で記載されているのを日単位と読み間違え、2 て治療に臨むべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、同療法や硫酸ビンクリスチンについての文献、医薬品添付文書の精査をせず、同療法のプロトコールが週単位で記載されているのを日単位と読み間違え、2ミリグラムを限度に週1回の間隔で投与すべき硫酸ビンクリスチンを12日間連日投与するという誤った治療計画を立て、それに従って研修医らに注射を指示し、平成12年9月27日から同年10月3日までの間、同センターにおいて、入院中のCに対し、1日当たり2ミリグラムの硫酸ビンクリスチンを7日間にわたって連日投与し、更には、投与開始4、5日後には、Cに高度な副作用が出始めていたのに、これに対して適切な対応をとらなかった過失 2 Dは、…(中略)…しなかった過失 3 Eは、…(中略)…しなかった過失の競合により、Aらにおいて、同年9月27日から同年10月3日までの間、同センターにおいて、Cに対し、連日硫酸ビンクリスチンを投与して多臓器不全に陥らせ、よって、同月7日午後1時35分ころ、同所において、Cを硫酸ビンクリスチンの過剰投与の副作用による多臓器不全により死亡させたものである。」(乙2)(二) 上記判決について、検察官(D医師及びE教授の関係でのみ)及びE教授のみが控訴した。東京高等裁判所は、平成15年12月24日、上記判決中、D医師及びE教授に関する部分を破棄し、D医師を禁錮1年6か月執行猶予3年に、E教授を禁錮1年執行猶予3年にそれぞれ処する旨の判決を宣告した。 5 本件処分の手続経過等(一) 被告は、医師法7条5項に基づき、埼玉県知事に対し、平成15年10月2日付けで、原告について意見の聴取を行った上、被告に報告すべき旨を依頼した(乙3)。 (二) 埼玉県職員は、平 (一) 被告は、医師法7条5項に基づき、埼玉県知事に対し、平成15年10月2日付けで、原告について意見の聴取を行った上、被告に報告すべき旨を依頼した(乙3)。 (二) 埼玉県職員は、平成15年11月12日、原告について意見の聴取を実施した(乙4)。 (三) 埼玉県知事は、被告に対し、平成15年12月1日、意見の聴取に係る意見書を提出した(乙5)。 (四) 被告は、原告に対する聴聞の実施を決定し、原告に対し、平成16年2月26日付けで、聴聞通知書を送付した。 上記聴聞通知書に記載された予定される不利益処分の内容は「医師免許取消又は医業停止」であり、上記聴聞通知書に記載された不利益処分の原因となる事実は、以下のとおりであった。(乙6)「1 業務上過失致死(平成15年3月20日、禁錮2年執行猶予3年) 2 あなたは、埼玉医科大学附属病院において右顎下部滑膜肉腫で入院中のCに対し、平成12年9月27日から同年10月3日までの間、抗がん剤である硫酸ビンクリスチンの処方を誤り過剰に投与し、重篤な副作用を引き起こさせた事実が判明した後の平成12年10月6日から7日の間、過剰投与を引き起こした医師としてまた主治医として、拮抗剤の投与など、その副作用に対する適切な処置を行うことを怠り、結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。 上記の事実は、医師法第4条第4号に規定する医事に関し不正の行為があったものと認められる。」(五) 厚生労働事務官は、平成16年3月4日、原告について医師免許取消し又は医業停止についての聴聞を実施した(乙7)。 (六) 上記聴聞を主催した厚生労働事務官は、被告に対し、平成16年3月16日付 労働事務官は、平成16年3月4日、原告について医師免許取消し又は医業停止についての聴聞を実施した(乙7)。 (六) 上記聴聞を主催した厚生労働事務官は、被告に対し、平成16年3月16日付けで、聴聞報告書を提出した(乙8)。 (七) 被告は、平成16年3月17日、医道審議会医道分科会に対し、原告に対する医師の免許の取消処分又は医業停止処分について、諮問した。これに対し、医道審議会医道分科会は、被告に対し、同日、原告に対する処分として医業停止3年6月が相当である旨、答申した。 なお、被告が、医道審議会医道分科会への上記諮問に際し、医道審議会医道分科会へ提出した行政処分関係審議資料(乙46)の「事案の概要」欄には、「業務上過失致死」として、前記4(一)の原告に対する前記判決において認定された罪となるべき事実と同旨の記載が、「医事に関する不正」として、前記(四)の聴聞通知書に記載された不利益処分の原因となる事実の2(後述する処分の命令書の理由欄の2と同旨である。)と同旨の記載が、それぞれ記載されていた。(乙9、10、46)(八) 被告は、原告に対し、平成16年3月18日付けで、同年4月1日から平成19年9月30日までの期間、医業の停止を命ずる旨の処分(以下「本件処分」という。)をし、同月24日、原告に通知した。 なお、本件処分の命令書(以下「本件命令書」という。乙1)に付記された本件処分の理由は、以下のとおりであった。(乙1、11)「1 罰金以上の刑に処せられたため。 平成15年3月20日禁錮2年、執行猶予3年 (業務上過失致死) 2 医事に関し不正の行為のあったため。 埼玉医科大学総 。 平成15年3月20日禁錮2年、執行猶予3年 (業務上過失致死) 2 医事に関し不正の行為のあったため。 埼玉医科大学総合医療センターにおいて右顎下部滑膜肉腫で入院中のCに対し、平成12年9月27日から同年10月3日までの間、抗がん剤である硫酸ビンクリスチンの処方を誤り過剰に投与し、重篤な副作用を引き起こさせた事実が判明した後の平成12年10月6日から7日までの間、過剰投与を引き起こした医師としてまた主治医として、拮抗剤の投与など、その副作用に対する適切な処置を行うことを怠り、結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」(九) 原告は、平成16年5月14日、本件処分の取消しを求める訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。 6 ほかの医師に対する処分(一) 被告は、本件医療事故に関し、D医師に対して、平成17年7月27日付けで、2年間の医業停止を命ずる旨の処分をした。なお、上記処分は、「罰金以上の刑に処せられた」ことのみが理由とされ、「医事に関し不正の行為のあった」ことは、理由とされなかった。(弁論の全趣旨)(二) 被告は、本件医療事故とは別の医療事故について、東京慈恵会医科大学附属青戸病院(以下「青戸病院」という。)の医師2名に対し、平成16年3月18日付けで、いずれも2年間の医業停止を命ずる旨の処分をした。 なお、そのうち1名の処分理由は、「(医事に関する不正) 当人は、…(中略)…病院手術室において前立腺癌で入院中の患者に対して行われた前立腺摘出手術について、1 腹腔鏡下前立腺全摘除術が高度な技術を要することを承知のうえ、以前から当該術式に関心を寄せいていたこと、及び自らの技量を過信 において前立腺癌で入院中の患者に対して行われた前立腺摘出手術について、1 腹腔鏡下前立腺全摘除術が高度な技術を要することを承知のうえ、以前から当該術式に関心を寄せいていたこと、及び自らの技量を過信したことから、当該術式を執刀した経験がないにもかかわらず、当該術式による手術の執刀医となるべき旨の依頼を安易に引き受け、2 執刀医という立場でありながら、指導医を手術の場に招かず、当該手術を安全・適切に施行する知識、技術を持たない者のみによる腹腔鏡下前立腺全摘除術を選択・施行・執刀したが、危険性の認識のないまま当該術式を継続し、適当な時期での開腹術への切り替えの判断、出血量に関する適切な評価が行えず、3 結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」というものであった。 また、上記の他の1名の処分理由は、「(医事に関する不正) 当人は、…(中略)…病院手術室において前立腺癌で入院中の患者に対して行われた前立腺摘出手術について、1 主治医という立場でありながら、腹腔鏡下前立腺全摘除術が高度な技術を要することを承知のうえ、以前から当該術式に関心を寄せていたこともあり、自ら執刀するつもりもないにもかかわらず、当該術式による手術を患者に提案し、自らは当該術式の経験がないにもかかわらず、自らの技量を過信したことから泌尿器科診療部長から提案のあった指導医の立会を断り、安全・適切に施行する知識、技術を持たない者のみによる同術式の実施をあえて選択し、2 助手として、当該術式の十分な経験、知識、技術を有しないまま、同手術に参加し、一部執刀し、危険性の認識のないまま当該術式を継続し、適切な時期での開腹術への切り替えの判断に影響を与え、3 結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」というものであった。(乙17、弁論の全趣旨 危険性の認識のないまま当該術式を継続し、適切な時期での開腹術への切り替えの判断に影響を与え、3 結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」というものであった。(乙17、弁論の全趣旨、公知の事実)四当事者の主張の要旨別紙記載のとおり第三当裁判所の判断一本件処分の根拠について1(一) 原告は、本件命令書(乙1)の理由欄の記載内容のうち、「2 医事に関し不正の行為のあったため。」という表題の下の記載等を根拠として、被告が、本件処分を行う際に、上記記載にある「その副作用に対する適切な処置を行うことを怠り、結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」という事実、すなわち、Cの死亡の結果を、処分理由である「医事に関し不正の行為」の内容として考慮したものである旨主張する。 そして、原告は、上記主張を前提として、Cへの硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した平成12年10月6日の夕方以降においては、Cの救命の可能性は失われていたことからすると、本件においては、抗がん剤の過剰投与の判明後、原告が副作用に対する適切な処置を行うことを怠った結果、Cを死亡させたという事実は存しなかったのであり、したがって、本件処分は、処分の理由とされた事実が存しないにもかかわらず、存することを前提としてされたものであるから、違法であり、取り消されるべきである旨主張する。 (二) これに対して、被告は、本件処分の適法性の根拠として、医師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた」事実(これについては、Cを死亡させた事実が含まれる。)と、同条4号所定の「医事に関し不正の行為」があった事実を挙げ、そのうち後者の事実としては、別紙「当事者の主張の要旨」1(一)のように主張し、Cの死亡の結果に いては、Cを死亡させた事実が含まれる。)と、同条4号所定の「医事に関し不正の行為」があった事実を挙げ、そのうち後者の事実としては、別紙「当事者の主張の要旨」1(一)のように主張し、Cの死亡の結果については主張していない。また、被告は、本訴第8回口頭弁論期日における裁判所からの本件の争点の提示に関しても、「『医事に関し不正の行為』に関し、原告の不適切な医療行為と患者の死亡との間に法的因果関係が存在するという主張はしない。」と明確に陳述している。 このように、被告は、本件訴訟における主張として、医師法4条4号所定の「医事に関し不正の行為」に当たる事実としては、「結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」という事実を主張していない。 2(一)(1) ところで、前記前提事実によると、本件命令書の「理由」欄中の「2 医事に関し不正の行為のあったため。」という表題の下には、原告の主張するとおりの内容の記載があり、その中には、「結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」という記載があることが認められる。 この点につき、被告は、事案を全体として明らかにするために、事実経過として記載されたものにすぎないなどと主張する。しかし、本件命令書の「理由」欄中の「2 医事に関し不正の行為のあったため。」の項目の中に、「その副作用に対する適切な処置を行うことを怠り、結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」と明記されていることや、同項目全体の文脈からすると、「結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」いう事実は、「医事に関し不正の行為のあったため。」という処分理由の内容として、記載されたものであると解すべきであり、被告の上記主張は、採用することができない。 るという事態を引き起こした。」いう事実は、「医事に関し不正の行為のあったため。」という処分理由の内容として、記載されたものであると解すべきであり、被告の上記主張は、採用することができない。 そうすると、被告は、本件処分の際に、原告の主張するように、「医事に関し不正の行為」の内容として、Cの死亡の結果も考慮したものと認めるのが相当である。 (2) そうだとすると、被告は、本件処分時に、医師法4条4号所定の「医事に関し不正の行為」に当たる事実として考慮した「結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」という事実を本件処分の適法性根拠事実として、本件訴訟において主張していないことになる。 原告は、この点を問題としているので、まず、取消訴訟において、被告が、処分時に処分理由として考慮した事実の一部を当該処分の適法性根拠事実として主張しないことが、許容されるか否かについて検討することとする。 (二)(1) 行政処分の取消訴訟における訴訟物は処分の違法一般であると解すべきであり、処分について定められた処分要件が充足されていないときは、当該処分は違法になるということができる。 したがって、行政処分の取消訴訟においては、当該処分について定められた処分要件の充足の有無が争点になるわけであり、この要件の充足をめぐって、当事者が主張を行うということになる。もっとも、実際の取消訴訟では、処分行政庁が処分時に認定していた事実関係の存否等が争われることもあるが、この点は、上記争点と重なり合う限度で意味のある争いにすぎず、これ自体によって、当該処分の適否が定まるものではないし、これが当該取消訴訟の争点であると理解することもできない。 また は、上記争点と重なり合う限度で意味のある争いにすぎず、これ自体によって、当該処分の適否が定まるものではないし、これが当該取消訴訟の争点であると理解することもできない。 また、行政事件訴訟法は、取消訴訟における被告の主張の制限に関して特段の規定を置いていない。そして、民事訴訟においては、ある事実を主張するかしないかは、当事者の任意である。 以上からすると、行政処分の取消訴訟において、被告が、処分時に処分理由として考慮した事実の一部を当該処分の適法性根拠事実として主張しないことは、許容されるというべきである。 (2) また、行政処分の処分要件や、処分要件の構成要素は、一個であるとは限らず、複数あることが珍しくないのであるから、たとえば、被告が、a、b、c及びdの事実が存在することを理由としてX処分を行ったと仮定した場合に、法令上、a及びbの事実又はc及びdの事実があることがX処分の適法要件又は適法要件を肯定させる事実であるのならば、取消訴訟において、被告が適法性を基礎付ける事実として主張したa、b、c及びdの事実のうち、a及びbの事実が認められなくても、c及びdの事実が認められるときは、これにより当該処分の適法性が肯定されるのであり、裁判所は、その処分を取り消すことはできないということになる。そして、このことは、被告が訴訟においてa、b、c及びdの事実すべてを主張した場合と、c及びdの事実しか主張しなかった場合とで、結論が異なるはずはない。 上記のことからも、被告において、処分時に処分理由として考慮した事実のうちから、訴訟において、あらかじめ、当該処分の適法性を基礎付ける根拠事実を絞り込んで、その一部のみを主張することは当然に許されるものというべきである。さ おいて、処分時に処分理由として考慮した事実のうちから、訴訟において、あらかじめ、当該処分の適法性を基礎付ける根拠事実を絞り込んで、その一部のみを主張することは当然に許されるものというべきである。さらにいえば、適正かつ迅速に行政処分の取消訴訟を審理するためには、事案によっては、このような被告の主張の絞り込みがむしろ望まれることもあるのである。 (3) なお、本件のように理由付記が必要とされている行政処分については、付記理由の一部を取消訴訟において主張しないことが理由付記制度の趣旨に反するのではないかという点も問題とされるかもしれない。 しかし、一般に、行政処分に理由付記を要求する趣旨は、行政庁の判断を慎重にし、合理性を確保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあると解される。 そうすると、被告が訴訟において主張する当該行政処分の適法性の根拠事実が付記理由中にも示されていた本件のような場合に、その付記理由にある事実の一部しか被告が訴訟において主張しないことは、付記理由において単に余分な主張も一部示し、ないしは多目に理由を示していたにすぎないのであるから、原則として、上記理由付記制度の趣旨に反することにはならないというべきである。なお、たとえば、付記理由において関連事実すべてをただ羅列していただけであるなど、もともと理由付記制度の趣旨に反するようなずさんな理由が付記されていたときなどには、被告が、取消訴訟において、理由を絞り込み、その一部しか主張していないとしても、理由付記の瑕疵を理由として、当該処分が違法とされることがあり得るであろうが、本件は、そのような事案に当たるということはできない。 (三) 以上のことからすると か主張していないとしても、理由付記の瑕疵を理由として、当該処分が違法とされることがあり得るであろうが、本件は、そのような事案に当たるということはできない。 (三) 以上のことからすると、被告が、行政処分の取消訴訟において、処分時に処分理由として考慮した事実の一部を当該処分の適法性根拠事実として主張しないことは、許容されるというべきである。 そうすると、被告が、本件処分時に「医事に関し不正の行為」の内容の一部として考慮した「結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」という事実を、本件訴訟において、本件処分の適法性根拠事実として主張しないことは、残された事実のみで本件処分の適法性を肯定し得るかという問題があることはもちろんであるが、それ自体としては、許容されるというべきである。 3 以上によれば、被告は、前記1(二)のとおりに本件処分の適法性根拠事実を主張しているのであるから、本件訴訟においては、この被告主張の事実が認められるか否かという点と、認められた事実によって本件処分の適法性を肯定し得るかという点について検討すべきであるり、かつ、これらを検討すれば足りるということができる。 したがって、原告の前記1(一)の主張は、採用することができない。 二争点以上を前提にすると、本件における争点は、下記のとおりである。 1 医師法4条4号所定の「医事に関し不正の行為」に当たる事実の有無具体的には、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した後、原告は、支持療法や拮抗剤の投与の検討、実施を行わず、救命専門家へ助力を求めるなどの適切な措置をしなかったのであり、「医事に関し不正の行為」があったということができるか。 2 本件処分が重きに失 、支持療法や拮抗剤の投与の検討、実施を行わず、救命専門家へ助力を求めるなどの適切な措置をしなかったのであり、「医事に関し不正の行為」があったということができるか。 2 本件処分が重きに失するか。 具体的には、医師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた」点に関し認定し得る事実及び争点1の同条4号所定の「医事に関し不正の行為」に関し認定し得る事実を前提として、医業停止期間を3年6か月間とする本件処分が処分の重さとして重きに失するか。 三認定事実前記前提事実に加え、証拠(甲1、乙2、7、12から15まで、22から30まで、32、35、39から45まで、48、証人D、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。ただし、甲第1号証、乙第7、第30及び第43号証並びに原告本人の供述中には、下記認定事実に反する部分や認定をしていない部分があるが、それらの部分は、内容が不自然である上、他の証拠や容易に認定し得る事実関係とも整合しないので、採用することができない。なお、後記事実認定に関する補足説明参照。 1 診療態勢等(一) 医療センターの耳鼻咽喉科では、患者を治療することが決まった場合、その患者を外来等で最初に診察した医師が、以後治療の必要性がなくなるまで、継続して主治医として担当するという慣例に従い、主治医が決められていた。 また、主治医が決まると、原則として、その主治医と同じ曜日に手術を行うことが決められている別の医師が、主治医と共に、その患者を担当することが自動的に決まり、さらに、研修医を1名加えて、当該患者に対する医療チームを編成することになっていた。そして、研修医を除く2名の医師のうち、経験の少ない者が主治医となる場合は、他方の医 担当することが自動的に決まり、さらに、研修医を1名加えて、当該患者に対する医療チームを編成することになっていた。そして、研修医を除く2名の医師のうち、経験の少ない者が主治医となる場合は、他方の医師は、指導医という立場でチームに参加することとなっていた。 (二) 医療センターの耳鼻咽喉科においては、科長に対する治療内容の報告及び科長の承認がなければ、手術及び手術以外の治療を実施することはできなかった。そのため、主治医その他の担当医が独断で診療や治療を決定して実施することは許されなかった。 具体的には、個々の患者に対する治療方針・治療方法は、まず、チーム内で決定されたが、それを最終的に実行するためには、毎週木曜日に医局員が参加して行われるカンファレンスで報告するか、又は個別に科長であるE教授に上申するかのいずれかの方法によって、E教授に報告し、その承認を得る必要があった。 2 滑膜肉腫と抗がん剤による治療(一) 滑膜肉腫は、滑膜を発生母地とする非上皮性腫瘍(肉腫)であり、悪性の軟部腫瘍である。滑膜肉腫は、整形外科領域の悪性軟部腫瘍の中でもまれなものであり、頭頸部の発症例については、学会報告や研究は相当数があるものの、耳鼻咽喉科の医師が実際に経験することはほとんどないものである。 (二) 化学療法は、細胞を死滅させる機能を有する抗がん剤(抗悪性腫瘍剤)を、正常細胞は破壊されないが腫瘍細胞を破壊するに足りる量、あるいは正常細胞は修復しているが腫瘍細胞がいまだ修復していない間隔で投与するというものである。しかし、抗がん剤の投与により正常細胞も破壊され得るため、投与量及び間隔のコントロールを厳密に行う必要があるとともに、投与開始後においては、正常な体細胞の破壊の度合いを各種検査数値により のである。しかし、抗がん剤の投与により正常細胞も破壊され得るため、投与量及び間隔のコントロールを厳密に行う必要があるとともに、投与開始後においては、正常な体細胞の破壊の度合いを各種検査数値により正確に把握して、身体が受けるダメージを制御する必要があるものである。 VAC療法は、抗がん剤である硫酸ビンクリスチン、アクチノマイシンD及びシクロフォスファミドの3剤を組み合わせて行う化学療法で、アメリカの横紋筋肉腫治療研究グループ(以下「IRS」という。)が、横紋筋肉腫の治療法の一つとして、プロトコール(投与量と間隔を定めた投薬計画)を確立している。なお、Cのり患した滑膜肉腫は、本当は、横紋筋肉腫とは異なるものである。 (三) 硫酸ビンクリスチンは、抗がん剤の一つで、強い細胞毒性を有する薬剤である。そのため、医薬品の解説書や硫酸ビンクリスチンの医薬品添付文書においては、用法・用量として、成人については体重1kg当たり0.02ないし0.05mgを週1回静脈注射するものとし、副作用防止のため、1回の投与量は2mgを超えないものとすると記載されていた。 硫酸ビンクリスチンが投与されると、その細胞毒性による副作用として、白血球及び血小板の減少と貧血といった造血機能障害、知覚鈍麻、四肢運動障害、麻痺性イレウス(腸閉塞)といった神経障害が生じる。医薬品の解説書や硫酸ビンクリスチンの医薬品添付文書には、重大な副作用として、①神経麻痺、知覚異常、知覚消失、しびれ感、四肢疼痛、顎痛、めまい、言語障害、筋萎縮、運動失調、歩行困難、排尿困難が現れることがあり、これらの場合には、減薬又は投与を中止すること、②腸管麻痺(食欲不振、悪心・嘔吐、著しい便秘、腹痛、腹部膨満、腹部弛緩、腸内内容物のうっ帯等)から移行した麻痺性 行困難、排尿困難が現れることがあり、これらの場合には、減薬又は投与を中止すること、②腸管麻痺(食欲不振、悪心・嘔吐、著しい便秘、腹痛、腹部膨満、腹部弛緩、腸内内容物のうっ帯等)から移行した麻痺性イレウスが現れることがあり、この場合には、投与を中止した上、腸管減圧等の適切な処置を行うこと、③アナフィラキシー様症状(じんましん、呼吸困難、血管浮腫等)が現れることがあり、その場合には投与を中止して適切な処置をすること等の記載がある。 (四) オンコビン(Cに投与された硫酸ビンクリスチンの商品名である。)の医薬品添付文書(乙25)には、3頁に、〔使用上の注意〕「8.過量投与」として、以下の記載がある。 「本剤の過量投与により、重篤又は致死的な結果をもたらすとの報告がある。支持療法として次の処置を考慮すること。 ①抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SLADH)の予防(水分摂取の制限及びヘレン係蹄や遠位尿細管に作用する利尿剤の投与)②抗痙攣剤の投与③イレウスを予防するための浣腸及び下剤の使用(症例によっては腸管減圧を行う。)④循環器系機能のモニタリング⑤血球検査を毎日行い、必要であれば輸血を行う。 フォリン酸を本剤の致死量が投与されたマウスに使用したところ有効であったとの報告がある。また、フォリン酸がヒトにおいても本剤の過量投与の治療に有益であったとする症例報告もある。フォリン酸100mgを3時間ごとに8回投与し、その後は6時間ごとに少なくとも8回投与することが奨励されている。フォリン酸の投与は支持療法と併せて行う。本剤は透析液中にほとんど流入せず体外除去のための血液透析は有効ではない。」(五) 原告は、平成8年 少なくとも8回投与することが奨励されている。フォリン酸の投与は支持療法と併せて行う。本剤は透析液中にほとんど流入せず体外除去のための血液透析は有効ではない。」(五) 原告は、平成8年末ころに、当時医療センターの医局員であったK医師が、横紋筋肉腫の患者に対し、硫酸ビンクリスチン等を投与した化学療法を行った際に、研修医として携わったことがあったが、そのプロトコールや、使用薬剤の特性を研究したことはなかった。また、原告が医療センターで担当する症例は、各種中耳炎、扁桃炎、副鼻腔炎(蓄膿症)等が主で、悪性腫瘍の治療経験は少なかった。 E教授もD医師も、VAC療法の経験はなく、硫酸ビンクリスチンを使用した経験もなかった。 3 術後化学療法の決定(一) 原告は、平成12年9月8日、同月6日付けのCの病理検査の報告書に目を通したところ、そこに記載されていた「synovialsarcoma」(滑膜肉腫の意味である。)という病名を理解することができなかったが、その意味を調べることはしなかった。 そして、原告は、上記報告書の病理所見欄の冒頭に「横紋筋」という単語があったことから、外来で受診していたCの両親に対して、同月8日、「病名は横紋筋肉腫である。」と説明した。 原告は、その後、辞書で「synovialsarcoma」の意味を調べ、また、参考書で滑膜肉腫についての簡単な知識を得るなどして、同日夕方、電話で、Cの母に対し、病名が横紋筋肉腫ではなく滑膜肉腫であること等を伝えた。 (二)(1) Cは、埼玉県立がんセンターで医師の診察を受けたりしたが、CとCの両親は、平成12年9月18日、原告に対し、抗がん剤治療であれば、医療センターで治療をしてほしい旨の希望 。 (二)(1) Cは、埼玉県立がんセンターで医師の診察を受けたりしたが、CとCの両親は、平成12年9月18日、原告に対し、抗がん剤治療であれば、医療センターで治療をしてほしい旨の希望を述べた。 原告は、この申出を受けて、引き続きCの主治医として滑膜肉腫の治療に当たることになった。なお、それ以前に、Cに対する医療チームとしては、リーダーをD医師とし、主治医を原告が務め、それにH研修医が加わるという構成が決まっていた。 (2) 原告は、上記申出を受けて、平成12年9月18日、医局に、G医師とF医局長がいたことから、とりあえずCの治療方法について相談してみた。G医師は、原告に対して、「VACじゃないかな。」などと述べ、検討を勧めた。 原告は、このとき、VAC療法が化学療法であることの想像がついただけで、その適応症等については全く分からない状態であった。このため、原告は、さらに、G医師やF医局長に対し、VAC療法のプロトコールについて尋ねたが、分からないなどと言われたのみであった。 (三)(1) 原告は、平成12年9月18日、医療センターの図書室で「VAC」をキーワードとしてパソコンの検索システムにより検索を行ったところ、整形外科領域の論文等が数点表示された。原告は、図書室の整形外科関連の本棚から探し出した書籍である「新図説臨床整形外科講座13 骨・軟部腫瘍及び類似疾患」末尾の索引で「VAC」を探したところ、277頁(乙39(添付の資料5))に、横紋筋肉腫の項の中で、VAC療法のプロトコールである「図8 IRSの治療プロトコール」(以下「本件プロトコール」という。)が登載されているのを見付けた。 本件プロトコールは、表題である「図8 IRS C療法のプロトコールである「図8 IRSの治療プロトコール」(以下「本件プロトコール」という。)が登載されているのを見付けた。 本件プロトコールは、表題である「図8 IRSの治療プロトコール」以外は、すべて英語で記載されたものであった。また、本件プロトコール自体は、横紋筋肉腫の患者をステージ別に分類した後にグループ分けし、それぞれ異なる治療方法を行って、その効果を比較するという、研究の内容を示すものであった。上記文献には、滑膜肉腫についての項もあったが、VAC療法の適応を述べる記載はなかった。 原告は、滑膜肉腫の項にも目を通したが、確立した治療法はないという記載から、滑膜肉腫にVAC療法を行うことについて特に疑問を抱かなかった。 (2) 原告は、本件プロトコールを見付けたことで、これでCに対し、VAC療法を行えばよいと考え、本件プロトコールを拡大コピーして入手した。 しかし、原告は、本件プロトコールの内容を熟読することなく、それまで原告が使用していたプロトコールがすべて日単位で記載されていたことから、本件プロトコールも同様であろうと思い込み、本件プロトコールが、1行目の数字に記載された日ごとに、各薬剤の投与を指示するものと誤解した。そして、本件プロトコールを参照として引用している本文を読むことも、英語による各記載の意味を調べることもせず、さらには本件プロトコールに記載されている「GroupRegimenWeek」との記載にも気付かず、また、本件プロトコールが作成された目的も理解しないまま、本件プロトコールの「A」の行の計画に従って(ただし、数字の表示については、日単位で)、同行に記載された薬剤を投与すれば良いものと考えた。 原告 成された目的も理解しないまま、本件プロトコールの「A」の行の計画に従って(ただし、数字の表示については、日単位で)、同行に記載された薬剤を投与すれば良いものと考えた。 原告は、薬剤の投与方法さえ分かれば足りると考えていたことから、それ以上に、本件プロトコールの原典に当たることも、使用薬剤の特性や作用機序、副作用等を調査することもしなかった。 (四)(1) 原告は、平成12年9月18日から同月20日ころまでの間に、コピーした本件プロトコールを持って、D医師の下へ行き、本件プロトコールのコピーを渡すとともに、Cに対して、VAC療法を行うこと、本件プロトコールの「A」の行に従い、抗がん剤を投与することとし、硫酸ビンクリスチン2mgを12日間連続投与、アクチノマイシンD0.5mgを5回投与、シクロフォスファミド125mgを6日目から2年間毎日連続投与すること等を説明した。 これに対して、D医師は、見せられた本件プロトコールの内容や出典を確認することなく、原告の説明した方法による抗がん剤の投与を承認した。 (2) また、原告は、平成12年9月21日ころ、E教授に対し、Cに対して化学療法としてVAC療法を行いたい旨申し出た。 E教授は、悪性腫瘍に対する化学療法としてVAC療法という治療法があるという一般知識を持っていたことのみから、具体的な治療計画の内容を確認しないまま、原告の申出を承認した。 (3) このようにして、原告は、Cに対し、平成12年9月25日の入院以降、VAC療法として、硫酸ビンクリスチンを12日間連続、アクチノマイシンDを治療開始日、12日目、22日目、36日目に、シクロフォスファミドを6日目から2年間毎日、そえぞれ投与するこ 25日の入院以降、VAC療法として、硫酸ビンクリスチンを12日間連続、アクチノマイシンDを治療開始日、12日目、22日目、36日目に、シクロフォスファミドを6日目から2年間毎日、そえぞれ投与することを決定した。 4 硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明前までのCに対する治療(一) 平成12年9月25日Cが医療センターに入院した。原告は、同月28日以降に、前記各抗がん剤の投与を開始することとし、前記のとおりの誤った内容で医師注射指示伝票を作成するとともに、コピーしたカレンダーに、同日以降に投与すべき各抗がん剤と血液検査の予定を記入してカルテにつづった。また、原告は、H研修医に対し、Cに対する投薬及び検査の日程を説明した。 (二) 平成12年9月26日Cは、血液検査を受検した。原告は、Cの血液検査に特に異常がなかったことなどから、翌27日に予定していた尿検査の結果を待たずに、翌27日から抗がん剤の投与を開始することとし、医師注射指示伝票をもう1枚作成するとともに、カレンダーに記載した予定を書き換えた。また、原告は、朝の注射や点滴等を担当していたI研修医に対し、翌27日からCに対し、毎日硫酸ビンクリスチンを注射するように指示した。 (三) 平成12年9月27日(1) 原告は、I研修医に対し、硫酸ビンクリスチンの投与方法を説明し、自ら溶液を作るとともに、I研修医にも溶液を作らせた。そして、原告は、アクチノマイシンDの溶液をCの側管から注射するとともに、I研修医にも、同様に、硫酸ビンクリスチンの投与を行わせた。 (2) 午前中、L看護師(以下「L看護師」という。)は、原告の作成した医師注射指示伝票の内容が、1日2mgの硫酸ビンクリスチ 修医にも、同様に、硫酸ビンクリスチンの投与を行わせた。 (2) 午前中、L看護師(以下「L看護師」という。)は、原告の作成した医師注射指示伝票の内容が、1日2mgの硫酸ビンクリスチンを毎日投与することになっていることに気付いた。L看護師は、小児科病棟における勤務の経験から、上記指示伝票の内容に疑問を抱き、原告に対し、投与量及び連日投与の指示に間違いがないかを尋ねた。これに対し、原告は、L看護師の質問に何ら疑問を抱かず、「そうだよ。」などと答えた。原告は、医薬品添付文書をカルテにとじておくという耳鼻咽喉科の慣習に従い、L看護師から受け取ったオンコビン(硫酸ビンクリスチンの商品名である。)の医薬品添付文書をCのカルテにとじたが、これに目を通すことはしなかった。 (3) Cは、看護師に対し、若干の食欲の低下を訴えた。 (四) 平成12年9月28日(1) I研修医は、Cに対し、予定どおり、硫酸ビンクリスチンの注射を行った。また、Cに対し、吐き気止めの投与も行われた。原告は、Cの食欲不振の訴えを認識したが、吐き気はそれほどでもないと観察した。同日、Cの全身状態は、悪くなかった。 (2) 午後、毎週恒例のカンファレンスが行われ、原告がCに対する治療経過として、Cが平成12年9月25日から入院していること、化学療法としてVAC療法を行っていることを、E教授を始めとする医局員らに説明した。しかし、カンファレンスでは特段の意見や質問は出ず、結局、Cの病状や治療法に対する検討は、原告の上記説明だけで終わった。 (五) 平成12年9月29日H研修医は、Cに対し、硫酸ビンクリスチンの注射を行った。Cは、H研修医に対し、怒った様子で、「だんだんムカムカしてきま けで終わった。 (五) 平成12年9月29日H研修医は、Cに対し、硫酸ビンクリスチンの注射を行った。Cは、H研修医に対し、怒った様子で、「だんだんムカムカしてきました。」と訴え、また、顔色も悪かった。しかし、吐き気は見られず、元気な様子を見せていた。 (六) 平成12年9月30日Cは、気持ちが悪い旨看護師に訴え、また、顔色も悪かったが、I研修医は、予定どおり、Cに対し、硫酸ビンクリスチンの注射を行った。Cは、微熱を出すとともに、舌がはれている感じがする旨看護師に訴えた。また、この日、血液検査が行われたが、血小板数が、同月26日の19万2000個(血液1立方ミリメートル当たり。以下単位同じ)から13万6000個に減少していた。 なお、原告は、終日、派遣先である他の病院へ勤務に出ていたため、医療センターには出勤しなかった。 (七) 平成12年10月1日(1) Cは、朝、吐き気を訴えたが、原告は、自ら、Cに対し、硫酸ビンクリスチンを注射した。 (2) 原告は、午後、CとCの両親に対し、病状及び治療状況等の説明を行ったが、Cは、気分不良を訴え、説明を座って聞くことができず、原告の説明を最後まで聞かないうちに、車いすで病室に戻った。 (3) Cは、足が思うように動かない様子で、手洗いに行くにもふらつくようになり、身体の痛みを訴えた。 (八) 平成12年10月2日(1) I研修医は、Cに対し、硫酸ビンクリスチンを注射した。また、この日、シクロフォスファミドの経口薬も投与された。 (2) Cは、H研修医に対し、「かなりつらい。起きあがれない。」と訴えた。Cは、体温 し、硫酸ビンクリスチンを注射した。また、この日、シクロフォスファミドの経口薬も投与された。 (2) Cは、H研修医に対し、「かなりつらい。起きあがれない。」と訴えた。Cは、体温37.8度で、吐き気はないものの顔色は悪く、のど、口腔内及び下顎部の痛み、全身関節痛、食欲の低下、強い全身倦怠感、手指のしびれが見られた。しかし、原告は、前日同様、抗がん剤の通常の副作用であろうと考えただけであった。 (九) 平成12年10月3日(1) I研修医は、Cに対し、硫酸ビンクリスチンを注射した。 (2) Cの全身倦怠感やしびれ、四肢末梢の痛みは更に強くなった。Cは、午後1時ころには、歩くことができなくなり、手洗いには車いすで行くようになった。食欲不振に加え、咽喉・口腔内の痛みのため、食事の摂取はさらに困難になった。体温は37度ないし38度であった。 (3) 原告は、午後2時ころ、血液検査を見て、血小板数が、6万9000個に下がっていたことや、首や下肢に出血傾向を示す点状出血が現れていたことから、硫酸ビンクリスチンの投与を一時中止することを決めた。原告が午後3時ころ、再度血液検査をしたところ、血小板数は、さらに下がって5万1000個になっていたことから、血小板輸血を行った。しかし、原告は、Cの各症状が単なる副作用であろうと考えただけで、自らの投与計画が誤っているとは考えなかった。 (4) 原告は、午後5時ころ、Cの両親に対し、硫酸ビンクリスチンの投与を一時中止する旨伝えた。原告は、Cの両親から投与を7日間でやめて良いのかと聞かれ、「規定量は入っているから良い。」などと説明した。 (5) D医師は、それまで夏休みを取っていたこともあり、5日ぶりにCの様子を見 、Cの両親から投与を7日間でやめて良いのかと聞かれ、「規定量は入っているから良い。」などと説明した。 (5) D医師は、それまで夏休みを取っていたこともあり、5日ぶりにCの様子を見て、抗がん剤の副作用が強く出ていると思った。D医師は、原告に対し、「大丈夫なのか。」と尋ねたが、原告が「抗がん剤の副作用です。もう薬は中止しました。」などと答えたため、それ以上の疑問を抱いたり、処置を検討したりはしなかった。 (一〇) 平成12年10月4日(1) Cは、未明から、腰痛、肩凝り、顔面のしびれのほか、呼吸が苦しい旨を訴えた。Cは、食事をとることができなかった。原告は、胃にチューブを入れて、濃流動食を流し込む処置をした。しかし、硫酸ビンクリスチンの副作用である麻痺性イレウスの可能性を前提とすると、胃に流動食を流し込むのは誤った措置であった。 Cは、胃痛や腹満苦、下腹部の痛みを訴え、腹部が硬くなるなどした。また、正午ころになっても朝から尿が出ていなかったことから、H研修医は、バルーンを挿入した。 (2) 午後1時40分ころ、血液検査の結果が判明したが、それによると、白血球数が400個(血液1立方ミリメートル当たり。正常値は5000個ないし8000個。以下単位同じ。)、炎症を示すCRP値が6.9、CPKが1531と異常値を示していた。H研修医は、感染症の危険が高いと判断したが、原告やD医師が手術中であったため、F医局長に指示を求め、白血球数を増加させる薬剤であるグランを投与した。また、感染症防止策として、抗生剤を変更したほか、一般の個室に消毒措置等を施して準クリーン室とし、Cを移動させた。ただし、感染症防止のためには、専用の空調を備え、1立方インチあたりのダスト数が400程度の 染症防止策として、抗生剤を変更したほか、一般の個室に消毒措置等を施して準クリーン室とし、Cを移動させた。ただし、感染症防止のためには、専用の空調を備え、1立方インチあたりのダスト数が400程度の無菌室に入室させる必要があるところ、医療センターには無菌室がなく、ダスト数が1000程度であったICUが準無菌室として使用されていた。なお、病室のダスト数は、10000程度の手術室のダスト数よりも更に高いものであった。 Cは、再度血小板輸血を受け、摘便や浣腸も受けた。体温は39.8度に上昇し、体熱感やふらつきを訴えた。 (3) H研修医から外来診療を依頼された第一内科の医師は、触診で硬便があり、便による腸管閉塞の可能性があるとして、摘便と下剤投与を継続した上、便通のコントロールがつくまで食事を中止する必要があると診断した。Cは、摘便を受けたが、その後、下痢になった。 (4) D医師は、この日、Cの様子を見に行かなかったが、Cの病室の前を通ったとき、内科の医師がCを診察しているのを見かけた。D医師は、原告に対し、「量を間違っていないか。」と尋ねたところ、原告は、何ら確認することなく、間違いないと答えた。 (5) 午後11時ころ、Cの体温は39.8度であり、腹が張る感じを訴えた。医師の指示で導尿を行い、100mlの排尿があったが、腹満感は同様であり、この日の尿量は250mlで、前日の2100mlから極端に減少した。 (一一) 平成12年10月5日(1) Cは、午前1時ころ、吐き気が見られた。Cは、頸部が膨張して点状出血が増大し、午後7時ころには体温が40.6度に上昇した。Cは、全身の倦怠感と痛み、体熱感、腹満感があり、足がしびれて立つことも困難で、意識ももう 時ころ、吐き気が見られた。Cは、頸部が膨張して点状出血が増大し、午後7時ころには体温が40.6度に上昇した。Cは、全身の倦怠感と痛み、体熱感、腹満感があり、足がしびれて立つことも困難で、意識ももうろうとしていた。また、呼吸数が1分間に56回まで増加し、午後1時30分ころ、酸素の投与が開始された。 (2) 原告は、G医師から、第2内科のM医師に、Cの症状の対策を聞いてくるように指示され、M医師に対し、VAC療法を行っている患者であることのみを説明して、対策を相談した。M医師は、原告に対し、体温の上昇については解熱剤を使用せず、クーリング(強制的に冷やすこと)のみとすること、白血球減少に対してはグランを投与すること、血中ヘモグロビン値は投薬により維持すること、血小板については再検査の上輸血を検討すること、血中ナトリウム、カリウム等については輸液で維持すること、炎症反応については抗生剤を投与すること等を指示した。 (3) 夕方になると、Cは、下痢便を失禁するようになり、嘔吐も継続した。血液検査が実施されたが、CPKは測定されず、白血球数は300個、血小板数は5万7000個であり、カリウム値等の電解質が異常を示し、CRPも18.9と高値を示した。チアノーゼが見られ、脈拍も190近くまで上昇した。 (4) Cは、意味不明の言動が見られるようになった。 (5) なお、D医師は、終日、別の患者の手術等を行っていたため、Cをみなかった。 (一二) 平成12年10月6日(1) 午前0時40分ころ、Cの両鼠径部、両腋窩、腸骨部に潰瘍が発見された。Cの上半身には発赤疹があり、両下肢には出血班様の発疹が出、口唇や爪にはチアノーゼが生じ、次第に悪化した。Cは、普通に会話ができるこ 前0時40分ころ、Cの両鼠径部、両腋窩、腸骨部に潰瘍が発見された。Cの上半身には発赤疹があり、両下肢には出血班様の発疹が出、口唇や爪にはチアノーゼが生じ、次第に悪化した。Cは、普通に会話ができることもあったが、意味不明なことを言うようになり、苦痛を訴えて手足を激しく動かしたりした。 (2) 午前4時ころには、当直のN医師が診察したところ、酸素飽和度は90パーセントに低下し、体温は39.8度で、意識はもうろうとし、心拍数は上昇していた。N医師は、血液検査を行うとともに、第2内科のO医師の往診を求めた。 O医師は、Cの症状から、敗血症、腸炎、薬品アレルギー、重症感染症、横紋筋融解症の疑いがあるとし、便培養、皮膚科の受診、肝臓の超音波検査等を指示したので、同席していた原告は、O医師の指示に従ってそれぞれ処置を行った。 (3) Cは、午前7時ころには、呼び掛けに反応しなくなり、呼吸も努力様となったため、人工呼吸器による管理が開始された。また、午前10時ころには、無尿状態となった。また、鎮静処置が施行され、強心剤が投与された。 (4) 正午ころの血液検査の結果、CPKは91080、CRPは27.2、白血球数は400個、血小板数は7万2000個であった。 (5) 午後1時ころ、Cに対し、腹部超音波検査が実施された。その結果、胆嚢から子宮にかけて腹水があったため、穿刺が試みられたが、吸引することはできなかった。 (6) 午後2時ころ、第4内科の医師が、Cに対し、人工透析を実施するため、鼠径部の血管に針を刺したところ、Cの心臓が停止した。これに対し、心臓マッサージや強心剤の投与が行われた結果、蘇生した。 5 硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明後のCに対す 析を実施するため、鼠径部の血管に針を刺したところ、Cの心臓が停止した。これに対し、心臓マッサージや強心剤の投与が行われた結果、蘇生した。 5 硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明後のCに対する治療等(一)(1) D医師は、平成12年10月6日午後4時ころ、第2内科のM医師から、プロトコールがおかしいのではないかとの指摘を受けたことから、G医師、原告と共に、本件プロトコールを検討することとした。しばらく3人で本件プロトコールを見ていたところ、G医師が「1年は何週だっけ。」と言ったことから、本件プロトコールの投与頻度が、日単位ではなく週単位による記載であることが初めて判明し、同日午後5時ころ、ようやく、原告等は、硫酸ビンクリスチンを過剰投与したことに気付いた。 ここに至って、原告、D医師及びG医師は、やっとCの容態が改善しない原因を理解した。しかし、原告及びD医師を始めとした医局の医師らは、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策として、Cにどのような治療を行えば良いか分からなかった。 (2) 原告は、D医師に対し、過剰投与の事実をCの両親に告げるべきかを相談したが、D医師は、原告に対し、「まだ、いいだろう。」などと言った。 D医師は、原告等に対し、とにかく全力でCの治療に当たるようにと指示した。なお、D医師は、このとき、原告に対して、「過剰投与による副作用の対策は、Dらが行う。」、「とにかくAは病室に戻ってCさんの治療に当たれ。」などとは言わなかった。 (二)(1) 硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した平成12年10月6日午後5時時点より前において、Cの全身状況は相当に悪化していた。そのため、Cに対しては、一般的には、感染症対策、輸液管理及び呼吸管理等の全身 硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した平成12年10月6日午後5時時点より前において、Cの全身状況は相当に悪化していた。そのため、Cに対しては、一般的には、感染症対策、輸液管理及び呼吸管理等の全身管理が必要な状況であり、救命救急等の専門家により、ICU等において、全身管理による治療をすべき状態であった。 しかし、原告及びD医師を始めとした医局の医師は、その後も救命救急の専門家の助力を求めなかった。 原告は、研修以外で、救命救急措置を行ったことはほとんどなかった。医療センター救命救急センター教授のP医師は、原告がCに対して行った全身管理について、処置が遅く、最低レベルの治療と評価している。 (2) もっとも、事後的に見れば、過剰投与が判明した平成12年10月6日午後5時時点においては、Cの救命の可能性は失われていた。 しかし、過剰投与の判明時には、だれもCの救命可能性が失われていたとは判断しておらず、C及びその両親は、Cが死亡するまで、Cの救命のために、原告を始めとした医療センターの医師らに対し、あらゆる措置を執ることを期待していた。 (三)(1) 原告は、前記過剰投与の事実が判明した後、Cの病室に戻ったが、どのような治療法を行えば良いか見当がつかず、救命の見通しも立たなかった。 そこで、原告は、その後Cが死亡するまで、ほとんどの時間、Cの病室にいたものの、Cに対し、時々、血行動態を見ながら、投与されていた昇圧剤を調整する、採取した血液中の二酸化炭素の濃度及び酸素の濃度に応じて、人工呼吸器の設定の調整をするなどしたにとどまった。 (2) 原告は、過剰投与の判明後の平成12年10月6日午後6時から午後8時にかけて 液中の二酸化炭素の濃度及び酸素の濃度に応じて、人工呼吸器の設定の調整をするなどしたにとどまった。 (2) 原告は、過剰投与の判明後の平成12年10月6日午後6時から午後8時にかけて生化学データ等をCのカルテに記入したが、この時点になってもまだ、カルテにとじられていたオンコビンの医薬品添付文書を読むことをしなかった。また、原告は、看護師等に、オンコビンの箱に入っているオンコビンの医薬品添付文書を届けてもらうことも可能であったが、それも行わなかった。 (3) 一方、Cは、平成12年10月6日午後6時の時点で白血球数は200個に、血小板数は1万2000個に減少し、自発呼吸及び瞳孔の対光反射はあるものの、脈拍は早く、弱い状態で、体温は40度前後から下がることはなく、尿からは多量の潜血とたんぱくが検出され、血圧も、昇圧剤によりやっと保っている状態であった。なお、Cには、少なくとも前記過剰投与の判明時には、血圧を常時測定して表示する機械が設定されていた。 (4) 原告は、D医師から過剰投与の事実を説明するのはまだいいなどと言われていたことから、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した後も、Cの両親に対して、過剰投与の事実を説明しなかった。 平成12年10月6日の夜、Cの病室にいたCの父親は、原告の能力に不安を感じ、原告に対し、他の医師に替わってくれとか、内科の医師を呼んでほしいなどと言ったが、原告は、これを拒絶した。 (四)(1) D医師は、平成12年10月7日午前1時ころ、ようやく、カルテにとじられたオンコビンの医薬品添付文書を読んだ。そして、その3頁に、〔使用上の注意〕第8項として、前記2(四)記載のとおりの過量投与についての記載があるのを発見した。 ろ、ようやく、カルテにとじられたオンコビンの医薬品添付文書を読んだ。そして、その3頁に、〔使用上の注意〕第8項として、前記2(四)記載のとおりの過量投与についての記載があるのを発見した。 D医師は、G医師やH研修医、I研修医に対し、フォリン酸について調査するよう指示し、自らも薬剤文献等を調査した。 (2) 原告は、その後、H研修医から、D医師が呼んでいるとの連絡を受け、医局にいたD医師のところへ行ったところ、D医師から、「A、フォリン酸を知ってるか。」と聞かれた。ところが、原告は、フォリン酸を知らなかったことから、その旨回答した。 D医師は、原告に対し、オンコビンの医薬品添付文書に拮抗剤としてフォリン酸が記載されていること、硫酸ビンクリスチンを過剰投与したマウスに拮抗剤としてフォリン酸を投与した実験において一定の効果が認められた旨の記載があること、フォリン酸を探しているが見つからないこと等を説明した。この時、原告は、初めて、硫酸ビンクリスチンに拮抗剤があり、それがフォリン酸であることを知った。 原告は、D医師から説明を受けて、初めてオンコビンの医薬品添付文書を読み、拮抗剤としてフォリン酸の記載があることを確認した。このとき、原告は、ドラッグインジャパンを調べて見たが、「フォリン酸」という名称の薬剤は記載されていなかった。D医師等は、フォリン酸を入手するために、文献を調べていたが、原告は、すぐにCの病室に戻った。 (3) 原告は、その数時間後、再び、D医師等がいる医局に行ったが、D医師等が、フォリン酸の入手のために文献を調査したり、医療センターの5階にある研究室に電話を架けたりしているのを確認しただけで、すぐに、Cの病室に戻った。 医師等がいる医局に行ったが、D医師等が、フォリン酸の入手のために文献を調査したり、医療センターの5階にある研究室に電話を架けたりしているのを確認しただけで、すぐに、Cの病室に戻った。 そして、原告は、Cの病室にいる間は、前記(三)のとおり、時々、Cに投与されていた昇圧剤を調整し、人工呼吸器の設定の調整をするなどしたにとどまった。 (4) D医師等は、引き続き、フォリン酸を入手するために、薬剤文献等を調査したが、医薬品の製品としての存在を確認することはできなかった。D医師は、医療センターの5階にある研究所に電話でフォリン酸の有無を問い合わせたが、フォリン酸は、実験材料に使用する薬剤であり、現在在庫はなく、アメリカから取り寄せるのに1週間はかかるとの回答しか得られなかった。I研修医は、薬剤師であるI研修医の兄に連絡して、フォリン酸の有無について問い合わせた。 しかし、Cが死亡するまでの間に、D医師等は、フォリン酸を見付けることができず、結局、Cに拮抗剤を投与することはできなかった。 (五)(1) 「フォリン酸」としての一般的な医薬用語はなく、「フォリン酸」としては、日本薬局方(医薬品の性状及び品質の適正を図るため、厚生労働大臣が定めた医薬品の規格基準書)に掲載されていない。実際の医薬品としては、フォリン酸のカルシウム塩が用いられ、ロイコボリンカルシウム(商品名として、筋注用ロイコボリン、ロイコボリン錠等)がある。さらに、ロイコボリンカルシウムと同様の効果がある医薬品として、ロイコボリンを改良したアイソボリンがある。 (2) Cが入院当時、ロイコボリン及びアイソボリンは、医療センターの薬剤部に保有されていた。 (3) なお、「フォリン酸」とロイ リンを改良したアイソボリンがある。 (2) Cが入院当時、ロイコボリン及びアイソボリンは、医療センターの薬剤部に保有されていた。 (3) なお、「フォリン酸」とロイコボリンとの同定のためには、オンコビンの発売元の製品担当者に連絡して問い合わせることによっても可能であった。オンコビンの医薬品添付文書には、オンコビンの輸入販売元である日本イーライリリー株式会社の学術情報室の電話番号が記載されており、就業時間以外であっても、警備員から製品担当者に連絡してもらうか、病院に出入りしている製薬会社の医薬品情報担当者(MR)に連絡するなどの対処が可能であった。 (六)(1) 平成12年10月7日未明にかけて、Cの体温は40度を下回ることはなく、心拍は150台の状態が続き、また、血圧が時折70ないし80mmHgに下がることがあり、昇圧剤の量が次第に増やされた。Cの全身はむくみ、膨張していた。 (2) 平成12年10月7日午前10時45分ころには、Cの血圧は60mmHg台に低下し、昇圧剤及び強心剤が追加・増量されたが、血圧はさらに低下し、正午ころには50mmHg台となった。 (3) 平成12年10月7日午後0時20分ころから、第4内科の医師らにより、Cに対し、人工透析が実施されたが、開始後5分程度で心臓が停止し、昇圧剤の投与や心臓マッサージ、カウンターショック等の蘇生措置が施行されたが、心機能は再開せず、午後1時35分ころ、Cの死亡が確認された。 6 Cの死亡後の経過(一) Cの死亡後、医局員全員が集まり、E教授を含めて緊急医局会議が行われた。 そこでは、Cの家族に対して、Cの死因が硫酸ビンクリスチンの過剰投与であることをどのように説明するかが専ら話し合われた。 ) Cの死亡後、医局員全員が集まり、E教授を含めて緊急医局会議が行われた。 そこでは、Cの家族に対して、Cの死因が硫酸ビンクリスチンの過剰投与であることをどのように説明するかが専ら話し合われた。 医局員全員の話し合いでは、硫酸ビンクリスチンを連続投与した結果、Cを死亡させたという事実を、Cの家族に対して告げるべきであるとの意見がまとまったが、E教授は、「何とかうまく説明できないか。」などと言って、上記事実を素直にCの家族に告げることの決心が付かないでいた。そのため、医局の結論が出ないまま、医局会議は終了した。 (二) 原告は、死亡診断書を作成することとし、D医師とも相談の上、直接死因として、多臓器不全、その原因として、重症感染症、重症感染症の原因として、滑膜肉腫とし、死亡の種類欄には、「病死及び自然死」に丸印を付した虚偽の死亡診断書を作成した。この死亡診断書は、看護師を通じて、Cの父親に交付された。なお、埼玉医科大学において作成されていた診療基本マニュアルによると、診療継続中患者が診療にかかわる疾病と関連しない原因により死亡した場合には、死亡診断書ではなく死体検案書を作成すべきものとされていた。 (三) 平成12年10月7日午後5時ころ、Cの遺体の処理が終わったことから、Cの家族に説明を行うこととなった。E教授は、医局の部屋を出る際に、「Aが簡単な病状を話せ。適当なところでストップをかけて、F先生に過剰投与を説明させる。」と言って、役割分担を決めておいた。 霊安室において、原告は、カルテを見ながら、抗がん剤の過剰投与には触れず、病状の経過を逐一述べたが、その中で「転移していたがんが抗がん剤によりはじけて、全身に回った可能性がある。」などと事実と異なる説明をし、結局、過剰投与の事実 を見ながら、抗がん剤の過剰投与には触れず、病状の経過を逐一述べたが、その中で「転移していたがんが抗がん剤によりはじけて、全身に回った可能性がある。」などと事実と異なる説明をし、結局、過剰投与の事実は説明しなかった。 (四) 平成12年10月7日午後7時ころ、Cの家族は、当時、医療センター所長であったQ等から説明を受け、初めて、Cの死因が硫酸ビンクリスチンの過剰投与に起因する多臓器不全であることを知った。 四事実認定に関する補足説明 1 D医師の原告に対する役割分担の指示の有無について(一) 原告は、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した後、D医師から、過剰投与の対策についてはD医師が行うから、原告はCの病室に戻り、不安定な状態にあるCの治療に専念するようにとの役割分担の指示を受けた旨主張し、その陳述書(甲1)、聴聞調書(乙7)、本件医療事故に係る損害賠償請求事件の第8回口頭弁論期日における本人調書(乙30(24頁))及び本人尋問(1頁、21頁)において、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した後、D医師から、過剰投与の対策についてはD医師や医局が行うから、不安定な状態にあるCの治療を行うために原告はCの病室に戻るようにとの指示を受けた旨陳述又は供述している。 (二) しかし、D医師は、厚生労働省医政局による意見聴取において、抗がん剤の過剰投与の発覚後に、原告との間ではっきりとした役割分担を決めたことはない旨供述し(乙28)、証人尋問においても、過剰投与の判明時には、原告に対して具体的な指示をしていない旨供述している(証人D(3頁))。D医師は、証人尋問において、供述に若干変遷を見せるものの、少なくとも原告にも過剰投与対策を検討してもらうつもりであった点については明確に供述 的な指示をしていない旨供述している(証人D(3頁))。D医師は、証人尋問において、供述に若干変遷を見せるものの、少なくとも原告にも過剰投与対策を検討してもらうつもりであった点については明確に供述している。 (三) そして、前記前提事実及び証拠(証人D(1頁、4頁)、原告本人(10頁))によると、原告は、Cの主治医として、Cに対する治療を行うために、自らVAC療法についての本件プロトコールを入手し、原告又はその指示を受けた研修医らが、Cに対して硫酸ビンクリスチンを投与していたのであり、他方、D医師はVAC療法について詳しく知らなかったことが認められる。したがって、その当時、原告は、少なくともD医師よりも、VAC療法について知識があったのであって、D医師及び原告も、当然そのように認識していたものと認めるのが相当である。 そうすると、過剰投与による副作用の対策を講じることについて、あえて主治医でもある原告を外してD医師らだけがこれを引き受けるということは考え難いというべきである。 (四) 加えて、前記前提事実及び証拠(乙15)によると、過剰投与の判明時には、Cは硫酸ビンクリスチンの過剰投与により相当重篤な状態になっていたのであるから、原告がD医師において引き受けたと主張する過剰投与による副作用の対策と、原告が行ったと主張するCの病状を安定させることとは、もともと切り離して考えることができないはずである。また、証拠(乙44(13頁)、証人D(2頁から4頁まで))によると、D医師は、抗がん剤の過剰投与が発覚した時点では、拮抗剤の投与等Cの副作用を緩和させる対策についてすぐには分かっていなかったことが認められる。 そうすると、上記のような状況下で、D医師が、原告に対して、過剰投与に対する 点では、拮抗剤の投与等Cの副作用を緩和させる対策についてすぐには分かっていなかったことが認められる。 そうすると、上記のような状況下で、D医師が、原告に対して、過剰投与に対する対策はD医師らにおいて行うので、原告はそれに関与することなく、Cのそばにいればよいなどと役割分担を指示することは考え難いというべきである。 (五) 以上からすると、原告が、D医師から、過剰投与の対策についてはD医師や医局が行うから、不安定な状態にあるCの治療を行うために原告はCの病室に戻るようにとの指示を受けたとの原告の陳述及び供述は信用することができないというべきである。 以上によると、むしろ、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した後に、D医師が、原告に対して、過剰投与の対策についてはD医師が行うから、原告は病室に戻れなどと指示したことはなかったと認めるのが相当である。 よって、原告の前記(一)の主張は、採用することができない。 2 原告がCの症状を安定させるためにした治療内容について(一) 原告は、本人尋問において、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明後、専ら人工呼吸器の管理と血圧の維持を行っていたところ、かなりの頻度で昇圧剤の濃度を調整するとともに、Cに付きっ切りで人工呼吸器の設定の微調整をしていた旨供述する。 (二) そこで、まず、昇圧剤の濃度の調整について検討する。 乙第48号証によると、Cに投与されていた昇圧剤であるドパミン(以下「DOA」という。)及びドブタミン(以下「DOB」という。)は、増量する場合は、20分の経過を見て必要ならば増量し、減量する場合には、数時間おきに血行動態を見ながら減量して使用されるべきものであ 「DOA」という。)及びドブタミン(以下「DOB」という。)は、増量する場合は、20分の経過を見て必要ならば増量し、減量する場合には、数時間おきに血行動態を見ながら減量して使用されるべきものであることが認められる。また、原告本人尋問の結果(14頁)によると、DOA及びDOBは、Cに対して、シリンジポンプにより少量ずつ長時間かけて持続的に注入していたことが認められる。さらに、乙第32号証によると、Cのナースカルテ及びドクターカルテには、平成12年10月6日午後4時30分に、DOB投与量を1時間当たり12ミリリットル、同日午後7時に、DOB投与量を1時間当たり15ミリリットルと記載されているほかは、過剰投与の判明した同日午後5時ころから同月7日午前5時まで、DOA及びDOBの投与量についての記載はないことが認められる。 以上によれば、Cに投与されていた昇圧剤であるDOA及びDOBについては、1時間に数回等といった高い頻度で濃度の調整を行うべきものではなかったということができるし、原告は、Cに対して、過剰投与の判明後、翌朝午前5時までの間に、少なくとも1回昇圧剤の濃度の調整を行ったことは認められるが、かなりの頻度で昇圧剤の濃度の調整を行うことはしなかったと推認するのが相当である。 そうすると、Cに対して、かなりの頻度で昇圧剤の濃度を調整していたとの原告の供述は信用することができない。 (三) 次に、人工呼吸器の設定の調整について検討する。 乙第32号証及び原告本人尋問の結果(16頁から17頁まで)によると、①人工呼吸器の設定の調整は、血液中の二酸化炭素の濃度及び酸素の濃度に応じて行うものであること、②血液中の二酸化炭素の濃度等の測定のためには、血液の採取が必要であること、③原 17頁まで)によると、①人工呼吸器の設定の調整は、血液中の二酸化炭素の濃度及び酸素の濃度に応じて行うものであること、②血液中の二酸化炭素の濃度等の測定のためには、血液の採取が必要であること、③原告は、Cに対する過剰投与の判明後、Cの血液の採取を数回程度しか行っていなかったことがそれぞれ認められる。 そうすると、原告は、人工呼吸器の設定の調整を数回しか行っておらず、頻繁には行っていなかったものと推認することができる。 3 Cの救命可能性について(一) 乙第14号証によると、Cの救命可能性について、医療センターの救命救急センター教授であるP医師は、本件刑事事件の捜査において、警察官に対し、Cの治療について、平成12年10月5日以降に救命救急センターに応援要請があった場合については、回復の見込みは薄いと考えると述べたことが認められる。 また、乙第15号証によると、東京大学医学教育国際協力研究センター教授で、抗がん剤を使用する頻度の多い血液内科を専門とするR医師は、上記捜査の中で、検察官に対し、Cに対する硫酸ビンクリスチンの投与を中止した同月3日の時点では、もはや救命は不可能と考えると述べたことが認められる。 (二) 以上からすると、事後的に見れば、過剰投与が判明した平成12年10月6日午後5時時点においては、Cの救命の可能性は失われていたものと推認することができる。 五争点1(医師法4条4号所定の「医事に関し不正の行為」に当たる事実の有無)について 1 医師法7条2項は、医師が同法4条4号にいう「医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者」に該当するときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は一定の期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨規定している。この医 、医師が同法4条4号にいう「医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者」に該当するときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は一定の期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨規定している。この医師法7条2項の規定は、医師が同法4条4号の規定に該当することから、医師としての適格性を有しないと認める場合には医師の資格をはく奪し、そうまでいえないとしても、医師として不適切な行為をし、あるいは適切な行為を行わない場合には、一定期間医業の停止を命じて反省を促すべきものとし、これによって医療等の業務が適正に行われることを期するものであると解すべきである。 そうすると、医師として通常求められる行為を行わず、あるいは医師として通常行わざるべき行為を行った場合には、「医事に関し不正の行為」があるということができる。 そこで、被告が主張するように、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した後、原告は、支持療法や拮抗剤の投与の検討や実施など硫酸ビンクリスチンの過剰投与対策を行ったり、救命専門家へ助力を求めるなどの適切な措置をせず、医師として通常求められる行為をしなかったということができるかについて検討することとする。 2(一) 硫酸ビンクリスチンの過剰投与対策について(1)ア前記認定事実のとおり、Cは、平成12年10月3日には、全身倦怠感、四肢末梢の痛み、歩行不能、食事摂取困難、体温の37度ないし38度への上昇、血小板数の急激な減少、首や下肢の点状出血等の症状があり、同月4日以降、食事摂取不能となり、強い全身痛、顔面のしびれ、呼吸苦、四肢末梢のしびれ、胃痛等を訴え続け、さらには、意味不明な言動をしたり、苦痛から手足を激しく動かすなどするようになり、口唇、爪にチアノーゼが生じ、血小板数、白血球数の い全身痛、顔面のしびれ、呼吸苦、四肢末梢のしびれ、胃痛等を訴え続け、さらには、意味不明な言動をしたり、苦痛から手足を激しく動かすなどするようになり、口唇、爪にチアノーゼが生じ、血小板数、白血球数の極端な減少が認められ、意識もうろう、無尿状態、便失禁、体温の40度以上への上昇、脈拍の190近くまでの上昇、両鼠径部等の潰瘍、両下肢出血斑、炎症を示すCRP値とCPK値の異常等の症状が現れるようになったのである。 Cに上記のような症状が現れた後の平成12年10月6日午後5時ころになって、前記認定事実のとおり、原告等は、ようやくCに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与の事実に気付くとともに、Cの上記の症状の原因が、硫酸ビンクリスチンの過剰投与であることを理解したのである。 そうすると、抗がん剤の過剰投与により上記のような重篤な症状があらわれていることを認識した原告としては、Cの主治医であり、Cに対する硫酸ビンクリスチンの投与の立案、実施を中心として行ってきたのであるから、さらに、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策を検討し、実施すべきであったということができる。そして、前記認定事実のとおり、現実には、原告は、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策を知らなかったのであるから、まず、実際に使用したオンコビンの医薬品添付文書を読み、上記文書に記載されていた支持療法や拮抗剤であるフォリン酸投与の検討や実施をすべきであったということができる。 イところが、前記認定事実のとおり、原告は、D医師から、オンコビンの医薬品添付文書に、過剰投与の対策として、フォリン酸の投与が有効であるという記載があるとの指摘を受けるまでは、医薬品添付文書を読むことすらしなかったのである。前記認定事実のとおり、原告が ンコビンの医薬品添付文書に、過剰投与の対策として、フォリン酸の投与が有効であるという記載があるとの指摘を受けるまでは、医薬品添付文書を読むことすらしなかったのである。前記認定事実のとおり、原告がしたことは、D医師からフォリン酸の投与が有効である旨の説明を受けた後、フォリン酸という名称をドラッグインジャパンという書籍で調べたにすぎなかったのである。 そして、前記認定事実のとおり、D医師等も、医療センターの薬剤部が保有しており、調査の方法によっては入手することができたはずのフォリン酸を含む薬剤を入手することができず、結局、原告及びD医師等は、Cに対して、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策として、支持療法を行ったり、拮抗剤を投与することを何もしないまま、Cは、硫酸ビンクリスチンの過剰投与による副作用を原因として死亡したのである。 ウそうすると、原告は、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策として適切な措置をしなかったのであって、医師として通常求められる行為をしなかったというべきである。 (2)アこれに対して、原告は、過剰投与が判明した後、徹夜で、Cの病室において、Cに対して、強心剤や昇圧剤の投与、人工呼吸器の設定の微調整、血圧の安定を図るための輸液の管理を行い、その病状の安定を図っていたのであるから、適切な措置をしていた旨主張する。 イしかし、前記認定事実のとおり、①原告は、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明後、人工呼吸器の調整や昇圧剤の投与量の調整等を多少行っていたにすぎないこと、②Cには、少なくとも上記過剰投与の判明時には、血圧を常時測定して表示する機械が設定されていたこと、③原告は、上記過剰投与の判明時以前に、オンコビンの医薬品添付文書をCのカル ていたにすぎないこと、②Cには、少なくとも上記過剰投与の判明時には、血圧を常時測定して表示する機械が設定されていたこと、③原告は、上記過剰投与の判明時以前に、オンコビンの医薬品添付文書をCのカルテにとじていたこと、④原告は、上記過剰投与の判明後の平成12年10月6日午後6時から午後8時にかけて生化学データ等を上記Cのカルテに記入していたこと、また、⑤原告は、看護師等に、オンコビンの箱に入っているオンコビンの医薬品添付文書を届けてもらうことも可能であったことが認められる。 そうすると、原告は、Cの病室でCの呼吸や血圧の管理をしながら、オンコビンの医薬品添付文書を読んで、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策を検討、実施することが可能であるのみならず、容易であったというべきである。 ウそして、前記(1)のとおり、Cの不安定な全身症状の原因は、硫酸ビンクリスチンの過剰投与に起因するものであったのであるから、原告としては、第一次的に、オンコビンの医薬品添付文書を読んで、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策を調べ、それを実施すべきであったというべきである。 エそうすると、たとえ、原告が、上記過剰投与が判明した後、徹夜で、Cの病室において、Cに対して、強心剤や昇圧剤の投与、人工呼吸器の設定の微調整、血圧の安定を図るための輸液の管理を行い、その病状の安定を図っていたとしても、原告が、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策を執らず、適切な措置をしなかったという事実は否定することができないというべきである。 オしたがって、原告は、前記(1)のとおり、医師として通常求められる行為をしなかったというべきである。 よって、原告の前記アの主張は採用することが 。 オしたがって、原告は、前記(1)のとおり、医師として通常求められる行為をしなかったというべきである。 よって、原告の前記アの主張は採用することができない。 カなお、上記結論は、仮に、過剰投与の判明直後に、D医師が、原告に対し、前記四1(一)で原告が主張するような役割分担の指示をしていたとしても、変わらないというべきである。 すなわち、前記のとおり、原告は、Cの病室でCの呼吸や血圧の管理をしながら、硫酸ビンクリスチンの医薬品添付文書を読んで、硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策を検討、実施することが可能であるのみならず、容易であったのである。そして、Cの重篤な全身症状の原因は、硫酸ビンクリスチンの過剰投与に起因するものであったのであるから、Cの主治医であり、硫酸ビンクリスチンの投与を発案し、これを実施した原告としては、当然に、硫酸ビンクリスチンの医薬品添付文書を読んで、拮抗剤であるフォリン酸の投与の検討や実施等硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対策を執るべきであったというべきである。ところが、結局、原告においても、D医師等においても、Cに対し、フォリン酸を投与し、支持療法を行うなどの適切な処置を執らなかったのである。 (二) 救命専門家へ助力を求める措置について(1)ア前記前提事実及び認定事実によると、①Cは、平成12年10月6日午前7時ころには、呼び掛けに反応しなくなり、人工呼吸器による管理がされていたこと、②その後、人工透析を実施しようとしたところ、心臓が停止し、心臓マッサージ、強心剤の注射等で蘇生したこと、③しかし、その後も、血圧が低下して昇圧剤でようやく血圧が維持され、血小板数、白血球数も異常に減少するなど、全 析を実施しようとしたところ、心臓が停止し、心臓マッサージ、強心剤の注射等で蘇生したこと、③しかし、その後も、血圧が低下して昇圧剤でようやく血圧が維持され、血小板数、白血球数も異常に減少するなど、全身症状が相当に悪化していたこと、④そのため、Cの病態は、感染症対策、輸液管理及び呼吸管理が必要な状態であったことが認められる。 他方、前記認定事実のとおり、①原告は、平成12年10月当時、耳鼻咽喉科の医師として約2年間の経験を有するにすぎなかったこと、②原告は、それまでに、研修を除いて、救命救急措置をほとんどしたことがなかったこと、③そのため、実際に、原告がCに対して行った全身管理は、不十分なものと評価されるものであったことが認められる。 そうすると、Cの上記のような症状へ対処するには、原告の能力を超えていたものというべきであるから、原告としては、救命救急の専門家へ助力を求めるべきであったということができる。 イそれにもかかわらず、前記認定事実のとおり、原告は、救命救急の専門家の助力を求めることをしなかったのである。 ウそうすると、原告は、自らの能力を超える緊急状態にある症状のある患者に対し、適切な専門家の助力を求めなかったのであって、医師として通常求められる行為をしなかったというべきである。 (2)アなお、原告は、本人尋問において、E教授及びD医師を差し置いて、救命救急センターに助力を求めることはできなかった旨供述する。 イしかし、本件においては、患者の生命が危険にさらされており、救命救急治療の措置が必要であったのであるから、主治医である原告が直接依頼することが許容されないものではなく、そうすべきであったという イしかし、本件においては、患者の生命が危険にさらされており、救命救急治療の措置が必要であったのであるから、主治医である原告が直接依頼することが許容されないものではなく、そうすべきであったというべきである。 また、仮に、原告が、E教授及びD医師に対してそのような遠慮をしていたとしても、原告は、前記認定事実のとおり、E教授やD医師に対して救命救急センターに助力を求めるよう依頼することはできたはずであったにもかかわらず、それも行っていないのである。 ウそうすると、原告の上記供述するところによっても、原告は救命救急センターに助力を求めることができなかったということはできず、前記(1)の認定判断を覆すことはできない。 3 以上によると、原告は、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した後、支持療法や拮抗剤の投与の検討や実施等の過剰投与に対する対策を行わず、また、救命専門家へ助力を求めることも行わなかったのであって、医師として通常求められる行為をしなかったものと認めることができる。 そうすると、原告については、上記の点で、医師法4条4号所定の「医事に関し不正の行為」に当たる事実があったというべきである。 4(一)(1) これに対して、原告は、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した時点においては、Cの死亡という結果を回避することは不可能であったから、適切な救命措置を講ずべき時機は失しているのであり、講ずべき救命措置があったことを前提とすることはできないのであって、「医事に関し不正の行為」はない旨主張する。 (2) しかし、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した平成12年10月6日午後5時ころにおいて、Cの救命可能性が失われていたとす 「医事に関し不正の行為」はない旨主張する。 (2) しかし、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した平成12年10月6日午後5時ころにおいて、Cの救命可能性が失われていたとする判断は、事後にされたものにすぎない。 前記認定事実のとおり、過剰投与が判明した当時、だれもCの救命可能性が失われていたとは判断しておらず、ましてや、C及びその両親は、Cが死亡するまで、Cの救命のために、原告を始めとした医療センターの医師らに対し、あらゆる措置を執ることを期待していたのである。 このような状況において、Cの主治医であり、かつ、硫酸ビンクリスチンの過剰投与を計画、実施した原告としては、Cの救命に全力を尽くすことが求められているのであって、その当時、原告において、医師として、講ずべき適切な措置がなかったということはできない。 (3) 確かに、平成12年10月6日午後5時ころ以降の原告の行為にCの死亡と因果関係があるとは認め難いのであって、上記時点以降の原告の行為については、Cの死亡との関係で、刑事責任及び民事責任を問うことは難しいということができる。 しかし、そもそも、厚生労働大臣は、医師法7条2項に基づき、医師として通常求められる行為をせず、あるいは医師として通常行わざるべき行為をした場合には、「医事に関し不正の行為」があるとして、医師に対する医業停止等の処分をすることができるのである。 そうすると、特定の行為と患者の死亡との間に因果関係がなかったとしても、当該行為が「医事に関し不正の行為」でないということはできないというべきである。 (4) したがって、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。 関係がなかったとしても、当該行為が「医事に関し不正の行為」でないということはできないというべきである。 (4) したがって、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。 (二)(1) また、原告は、本件刑事事件の判決においては、原告の過剰投与に対する責任のみならず、過剰投与の判明前に、副作用を看過して救命治療を遅滞した責任も考慮されているのであるから、「罰金以上の刑に処せられたため」という本件処分の処分理由には、救命措置の懈怠責任についても包含されているのであって、「医事に関し不正の行為のあったため」を本件処分の処分理由に加えていることは、同じ救命措置の懈怠責任について二重に評価したものであり、違法である旨主張する。 (2) 確かに、乙第2号証(本件刑事事件の第一審判決の判決書)には、原告の過失として、硫酸ビンクリスチンを過剰に投与した過失とともに、「投与開始4、5日後には、Cに高度な副作用が出始めていたのに、これに対して適切な対応をとらなかった過失」が掲げられている。 しかし、硫酸ビンクリスチンの投与は平成12年9月27日に開始されたのであるから、上記にいう「投与開始4、5日後」とは、平成12年10月1日又は2日ころを指すことになる。また、上記判決書(乙2)において掲げられている原告の過失は、いずれもCの死亡について因果関係のある過失として認定されたものである。そして、前記認定事実のとおり、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明時(同月6日午後5時)には、救命の可能性がなかったのである。 そうすると、上記判決において刑事責任を問われた、Cの副作用について適切な対応を執らなかった過失は、あくまでCに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明す なかったのである。 そうすると、上記判決において刑事責任を問われた、Cの副作用について適切な対応を執らなかった過失は、あくまでCに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明する以前における原告の過失であり、上記判決は、過剰投与の判明後の原告の行為についてまで刑事責任を問うたものではないということができる。 他方、「医事に関し不正の行為」として認定した前記3の原告の行為は、いずれも原告の過剰投与の判明後の行為である。 したがって、「医事に関し不正の行為」として認定した前記3の原告の行為は、上記判決において刑事責任を問われた原告の行為と異なるということができる。 (3) 以上によると、前示のとおり「医事に関し不正の行為」として認定した原告の行為と、本件命令書の「理由」欄に「1 罰金以上の刑に処せられたため。」として指摘されている事実に係る行為、すなわち、上記判決において刑事責任を問われた原告の行為は異なるのであるから、本件処分において、同じ行為について二重に評価したものではないということができる。 そして、刑事事件において責任を問われた行為と別の行為も「医事に関し不正の行為」であると認められる本件においては、原告は、医師法4条3号のほかに、同条4号にも該当するということができるというべきである。 よって、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。 (三)(1) さらに、原告は、これまで一つの医療過誤事件において、刑事事件として罰金以上の刑に処せられたことを理由とするほかに、「医事に関し不正の行為のあったため」をも理由として、医業停止処分がされた例は存しないのであって、これは、既に刑事事件として罰金以 て、刑事事件として罰金以上の刑に処せられたことを理由とするほかに、「医事に関し不正の行為のあったため」をも理由として、医業停止処分がされた例は存しないのであって、これは、既に刑事事件として罰金以上の刑に処せられている場合には「罰金以上の刑に処せられたため」が理由とされ、一方、いまだ刑事事件が確定していない場合には「医事に関し不正の行為のあったため」が理由とされているからであり、原告のように、その両方が理由とされるのは不当である旨主張する。 また、原告は、仮に、原告が、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明後に、拮抗剤の投与等の硫酸ビンクリスチンの副作用に対する適切な処置を執ることを怠ったと非難されるとするならば、D医師についても、原告を適切に指導しなかった点、及び不手際のため拮抗剤を入手することができなかった点において、非難されるべきであるのに、D医師に対する医業停止処分の理由には、「医事に関し不正の行為のあったため」という理由が含まれていないのであって、本件処分はD医師に対する処分と整合しない旨主張する。 (2) しかし、そもそも、これまでの医業停止処分についてどのような理由付けがされていたとしても、また、D医師が受けた医業停止処分についてどのような理由付けがされていたとしても、それらとの整合性を欠くことを根拠として、前記のとおり「医事に関し不正の行為」の認められる本件において、本件処分が、「罰金以上の刑に処せられたため」のほか、「医事に関し不正の行為のあったため」を理由としてされたことにより違法となるいわれはないというべきである。 (3) また、確かに、D医師は、結局、Cに対して、拮抗剤の投与や支持療法の実施をすることができず、救命救急の専門家へ助力を求めることを行わなかっ なるいわれはないというべきである。 (3) また、確かに、D医師は、結局、Cに対して、拮抗剤の投与や支持療法の実施をすることができず、救命救急の専門家へ助力を求めることを行わなかったのであるから、「医事に関し不正の行為」を認めることも可能であったということもできそうである。 しかしながら、前記のとおり、原告について認められる「医事に関し不正の行為」の内容は、主治医として、自ら、患者に対して、硫酸ビンクリスチンを過剰に投与したにもかかわらず、過剰投与の発覚後も、過剰投与の対策として適切な措置を何もしなかったという、医師として許容することのできない重大な行為であるということができる。 これに対して、D医師は、医療チームのリーダーであり、治療医であるとはいえ、主治医ではなく、また、過剰投与の判明後、オンコビンの医薬品添付文書を読み、拮抗剤としてフォリン酸があることを見付け、失敗に終わったものの、その入手に努めたのであるから、原告とは、相当程度事情が異なるというべきである。 そうすると、原告について、「罰金以上の刑に処せられたため」のほか、「医事に関し不正の行為のあったため」を理由として本件処分を行うことが被告である厚生労働大臣の裁量権の濫用に当たるということもできないというべきである。 (4) したがって、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。 六争点2(本件処分が重きに失するか。)について 1 医師法7条2項は、医師が「罰金以上の刑に処せられた者」(同法4条3号)又は「医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者」(同条4号)に該当するときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は一定の期間を定めて医業の停止を命ずることができ に処せられた者」(同法4条3号)又は「医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者」(同条4号)に該当するときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は一定の期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨規定している。前示のとおり、この医師法7条2項の規定は、医師が同法4条3号又は同条4号の規定に該当することから、医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないと認める場合には医師の資格をはく奪し、そうまでいえないとしても、医師としての品位を損ない、あるいは医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間医業の停止を命じて反省を促すべきものとし、これによって医療等の業務が適正に行われることを期するものであると解すべきである。 このように医師法4条3号及び4号の関係で、同法7条2項を考えると、医師が同法4条3号又は4号の規定に該当する場合に、免許を取り消し又は医業の停止を命ずるかどうか、さらに、医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは、当該刑事罰の対象となった行為又は当該医事に関する犯罪若しくは不正の行為の種類、性質、違法性の程度、動機、目的、影響のほか、当該医師の性格、処分歴、反省の程度等、諸般の事情を考慮し、同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ、その判断は、医道審議会の意見を聴く前提の下で、医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。 それ故、厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医業の停止を命ずる処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである(最高裁昭和61年(行ツ)第90号同63年7月 を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである(最高裁昭和61年(行ツ)第90号同63年7月1日第二小法廷判決・訟務月報35巻3号512頁参照)。 2(一) 前記前提事実並びに乙第12及び第13号証によると、本件刑事事件は、原告を含む3名の医療チームが、右顎下部の滑膜肉腫の疾患を有していたC(当時16歳)に対し、手術による上記肉腫の摘出後、転移等を防ぐため、抗がん剤である硫酸ビンクリスチンを用いる化学療法であるVAC療法を行うに際し、主治医である原告が、VAC療法や用いる抗がん剤についての文献、医薬品添付文書を精査せず、VAC療法のプロトコールが週単位で記載されているのを日単位と読み間違え、2mgを限度に週1回間隔で投与すべき硫酸ビンクリスチンを12日間連日投与するという誤った治療計画を立て、それに従って研修医らに注射を指示し、Cに対し、1日当たり2mgの硫酸ビンクリスチンを7日間にわたって連日投与し、更には、投与開始4、5日後には、患者に高度な副作用が出始めていたのに、これに対して適切な対応を執らなかった過失により、上記医療チームのリーダーであるD医師が、原告からの誤った治療計画の報告をそのまま承認するなどした過失、及び原告らの所属する耳鼻咽喉科の治療全般を統括していたE教授が、原告に対して具体的な治療計画の確認を怠るなどした過失とも相まって、Cを上記過剰投与の副作用による多臓器不全により死亡させたという事案である。 上記のとおり、医師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた」という処分理由との関係では、原告の過失によるCの死亡という結果まで考慮することができる。 また、原告は、主治医と 上記のとおり、医師法4条3号所定の「罰金以上の刑に処せられた」という処分理由との関係では、原告の過失によるCの死亡という結果まで考慮することができる。 また、原告は、主治医として、治療方法の選択に際しては十分な検討を尽くして責任のある決定をすべき立場にあり、かつ、抗がん剤は、細胞を破壊する作用を有するものであり、投与量及び間隔のコントロールを厳密に行うことが非常に重要であるにもかかわらず、原告は、VAC療法について説明されたプロトコールの「週」と「日」を読み間違えるという、単純極まりない過誤により、投与の間隔を1週間空ける必要がある量の抗がん剤を、7日間連続して投与したというのであるから、原告は、医師としてのごく基本的な注意義務に反したものということができる。 また、前記認定事実によると、原告は、Cに対する治療法を相談した他の医師から、VAC療法が適当であると聞くと、自らは、VAC療法による治療計画を立てた経験がなく、それに用いる硫酸ビンクリスチンについての知識がなかったにもかかわらず、一冊の書籍に引用されていたVAC療法の本件プロトコールの一部をつまみ読みしただけで、他の文献はおろか、本件プロトコールの引用元の原典も精査せず、実際に使用した硫酸ビンクリスチン製剤であるオンコビンの医薬品添付文書を読むことすらせず、さらに、本件プロトコールについてさえ十分に読解しないまま、誤った治療計画をD医師らに提案したことが認められる。このような原告のした治療計画の立案は、抗がん剤の投与という重大な治療計画についてのものであることも考慮すると、医療行為についての経験や技能の不足、あるいは単なる注意不足などといったものとは異なり、医師として考えられないほどに極めてずさんな行為であるというべきである。 のであることも考慮すると、医療行為についての経験や技能の不足、あるいは単なる注意不足などといったものとは異なり、医師として考えられないほどに極めてずさんな行為であるというべきである。 さらに、前記認定事実によると、①原告は、Cに対する硫酸ビンクリスチンを投与した初日に、原告がした抗がん剤の連日投与の注射指示に疑問を抱いた看護師から、投与量や連日投与の指示に間違いがないか尋ねられたにもかかわらず、何の疑問も抱かず、間違いない旨答え、そのとき、看護師から渡されたオンコビンの医薬品添付文書も読まなかったこと、②原告は、その後、D医師から過量投与でないかと尋ねられても、何らの調査をすることもなく、これを否定したこと、及び③原告の誤った治療計画による投薬を進めるに従って、Cは、次第に、食欲不振や顔面等の痛みを訴え、硫酸ビンクリスチンの副作用で苦しみ始めたにもかかわらず、原告は、治療方法の再検討を考えることをしなかったことが認められる。原告のこのような態度は、人の生命の重さや抗がん剤による治療行為の重大性を考えない余りに無責任なものであるというほかない。 上記のような原告の過失により、いまだ16歳の若い人命が奪われたのであるから、原告のした行為の結果は極めて深刻かつ重いというべきである。前記認定事実によると、Cは、次第に、硫酸ビンクリスチンの副作用症状である、強い全身痛や出血、呼吸苦、無尿状態、体温の40度以上への上昇等の症状に何日間も悩まされた後、死亡したことが認められるのであり、原告のした行為の結果は余りに悲惨であるというほかない。 (二) また、前記三のとおり、原告は、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明後も、拮抗剤の入手その他過剰投与の対応策を執らず、Cの救命のために必要な救命専門家へ というほかない。 (二) また、前記三のとおり、原告は、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明後も、拮抗剤の入手その他過剰投与の対応策を執らず、Cの救命のために必要な救命専門家への助力を求めることもなく、漫然と、強心剤、昇圧剤の投与等を行ったにとどまったのであって、原告は、自ら招いた緊急の事態に対して、適切に対応しなかったというべきである。 (三) そのほか、前記認定事実によると、原告の性格、反省の程度その他諸般の事情として、①原告は、Cに対するVAC療法による治療方法を選択した当初から、Cの正確な病名に注意せず、また、そもそも本件プロトコールにおいても、VAC療法の適応が横紋筋肉腫であって、Cのり患していた滑膜肉腫への適応が記載されていないことにも意を払わなかったこと、②原告は、Cに対する抗がん剤の投与を中止した後、Cの両親に対して、中止の理由に関し虚偽の説明をしたこと、③原告は、抗がん剤の過剰投与の判明後、病室でCに付き添っていた際、原告の能力に不安を感じたCの父親から、他の医師への交替等を求められ、救命医療に関する自らの力不足を感じながら、これを拒絶したこと、④原告は、Cの両親に対して、Cが死亡した後も、抗がん剤の過剰投与の事実を説明しなかったばかりか、事実と異なる説明をしたこと、及び⑤原告は、Cの死亡について、死体検案書を作成すべきであるのに、事実と異なる死亡に至る原因を記載した死亡診断書を作成したことを認めることができる。このような原告の態度は極めて不誠実であるということができる。 (四) 以上によると、原告は、医師が、その業務を行うに当たって、極めて基本的な注意義務に反し、深刻かつ重大な結果を生ぜしめたのであるから、本件処分の対象となった行為の違法性の程度、影響等は極めて重大というべき によると、原告は、医師が、その業務を行うに当たって、極めて基本的な注意義務に反し、深刻かつ重大な結果を生ぜしめたのであるから、本件処分の対象となった行為の違法性の程度、影響等は極めて重大というべきである。 また、原告の作成した極めてずさんな治療計画、原告のCに対してした不十分な治療の内容、原告の無責任な治療態度、Cの両親に対する不誠実な対応等に照らすと、原告には、医師としての基本的な資質、素養や、医師に必要な患者の治療・救命に対する真摯で誠実な態度に欠けるといわざるを得ない。ひるがえって見てみると、本件医療事故は、まさに、原告の無責任かつ不誠実な治療態度を背景として生じているものということができるのである。 3 以上を総合すると、原告が若年で、医師としての経験も十分でないことや、医師法における処分歴はなく、本件に関し一応の反省は示していることを考えても、原告に対しては厳重な処分が相当であって、3年6か月間の医業停止にした本件処分が、いまだ社会観念上著しく妥当を欠くものとは到底認められず、本件処分が処分権者にゆだねられた裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものということはできない。 4(一)(1) これに対して、原告は、Cの病名である滑膜肉腫は、医療センターの耳鼻咽喉科医局において、初めての症例であった一方、原告は、Cを任された当時、わずか1年半の病院助手としての経験しかなかったのであり、それにもかかわらず、最初に患者を診察した医師が、その患者の主治医となるとの慣習により、原告は、主治医となり、その後も、医局の他の医師らは、逃げ腰で、原告にCの治療のすべてが押し付けられたのであって、このような事情からすると、本件処分は重すぎる旨主張する。 (2) 確かに、Cの一連の治療の経過に照らすと、より経 医師らは、逃げ腰で、原告にCの治療のすべてが押し付けられたのであって、このような事情からすると、本件処分は重すぎる旨主張する。 (2) 確かに、Cの一連の治療の経過に照らすと、より経験のある医師であるD医師やE教授が、十分に原告を監督していなかったことも責められるべきである。 しかし、そもそも、前記認定事実によると、刑事事件において原告が責任を問われた過失は、原告が治療法のプロトコールの「週」と「日」を読み間違えたことに端を発するものであり、また、原告にとって、硫酸ビンクリスチンによるVAC療法は、初めて臨床において自分が治療計画を立てる治療法であって、硫酸ビンクリスチンは初めて用いる抗がん剤であるにもかかわらず、原告は、文献を精査せず、医薬品添付文書さえ全く読まないで、誤った用量の抗がん剤を投与し、かつ、その後、患者に生じた副作用にも適切な対応を執らなかったものであることが認められる。そうすると、このような原告の行為は、前示のとおり、専門的な知識や技能の不十分さや単なる注意不足に起因するものではなく、医師としてのごく基本的な注意義務に違反したものであるというべきである。 また、原告は、医師として、Cの治療が自己の能力を超えると考えたのであれば、他の医師にその治療を依頼すべきであったにもかかわらず、証拠上、原告は、Cに対してVAC療法を開始する前においても、また、Cが硫酸ビンクリスチンの副作用により極めて重篤な状態に置かれた後も、他の専門医に治療を依頼したとは認められないのである。 (3) そうすると、原告の指摘する前記(1)の事実を根拠として、本件処分が重すぎるということはできない。 したがって、原告の前記(1)の主張は、採用することがで (3) そうすると、原告の指摘する前記(1)の事実を根拠として、本件処分が重すぎるということはできない。 したがって、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。 (二)(1) さらに、原告は、D医師に、本件プロトコールを見せながら治療方法を説明し、D医師から了承を得、さらに、その後、治療内容を最終的に決定する権限を有するE教授にも、Cについての治療方法を説明し、E教授から、治療方法についての了承を得たのであり、原告は、許可又は了承を得た治療内容を行ったにすぎないのであって、このことからすると、本件処分は重すぎる旨主張する。 (2) 確かに、原告の治療計画を十分に確認せずに、それを了承したD医師やE教授も、その行動を強く非難されるべきであるということはできる。 しかし、原告は、規定量以上に抗がん剤を投与するという誤った治療計画を一人で策定したのであり、それに基づき、研修医らに抗がん剤の投与を指示したのである。 また、原告は、その後も、過剰投与された抗がん剤の副作用に苦しんでいるCを見ながら、自らの治療計画を見直すこともなく、適切な救命措置も執らなかったのである。さらに、原告は、主治医として、Cに対する治療計画の策定や治療の中心人物であったのである。 (3) そうすると、Cの治療方法について、原告が、D医師及びE教授の了承を得ていたからといって、原告に対する責任非難が大きく減ずるということはできない。 したがって、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。 (三)(1) 原告は、Cに対する治療において指導医であったD医師に対する医業停止の期間が2年であったことから、それとの比較で、本件処分は重きに失 (1)の主張は、採用することができない。 (三)(1) 原告は、Cに対する治療において指導医であったD医師に対する医業停止の期間が2年であったことから、それとの比較で、本件処分は重きに失する旨主張する。 (2) しかし、前記認定事実のとおり、Cに対する医療過誤の直接の原因は、原告が、VAC療法のプロトコールが週単位で記載されているのを日単位であると読み間違えたことにあり、Cに対する医療過誤については、誤った治療計画を立てた原告にまず第一の責任があるのは当然である。さらに、原告は、Cの主治医として、その後も、過剰投与された抗がん剤の副作用に苦しんでいるCを見ながら、自らの治療計画を見直すこともなく、適切な救命措置も執らなかったのであり、その違法性、責任の程度は極めて大きいといわざるを得ない。 これに対して、D医師は、Cの主治医ではなく、治療医としての責任があるとはいえ、医療過誤の責任においては、Cに対する医療チームのリーダーとしての原告に対する指導監督責任がより多くを占めるのであるから、原告とは相当事情が異なる。 以上のような事情も反映して、前記前提事実のとおり、本件刑事事件においても、原告は、禁錮2年執行猶予3年の刑の言渡しを受けたのに対し、D医師は、より軽い禁錮1年6か月執行猶予3年の刑の言渡しを受けているのである。 (3) そうすると、本件処分が、D医師に対する医業停止処分と比較して、重きに失するということはできない。 (四) また、原告は、青戸病院での医療過誤事件における医師に対する行政処分が2年間の医業停止処分であったことと比べて、本件処分が重きに失する旨主張する。 しかし、前記前提事実記載のとおり、青戸病院での医療 病院での医療過誤事件における医師に対する行政処分が2年間の医業停止処分であったことと比べて、本件処分が重きに失する旨主張する。 しかし、前記前提事実記載のとおり、青戸病院での医療過誤は、本件のCに対する医療過誤とは相当に事案が異なるのであるから、本件と同列に論ずることはできないのである。 そうすると、原告の上記主張は、採用することができない。 (五) そのほか、原告は、本件処分の前には、医療過誤を理由とする医業停止の処分の業務停止期間の最長は1年6か月であって、本件について、過去の医療過誤を理由とする医業停止の行政処分の内容と比較して、特に重く処分されなければならない事由を見いだすことはできない旨主張する。 しかし、本件全証拠によっても、過去の医療過誤の事案に本件とほぼ同一の事案は見付けることができない。 そして、本件では、原告が、医業を行うに当たって、極めて基本的な注意義務に違反し、深刻かつ重大な結果を生ぜしめたのであるから、前記3のとおり、本件処分が、社会観念上著しく妥当を欠くものとは到底認められないというべきである。 したがって、原告の上記主張は、採用することができない。 (六) 原告は、本件処分における医業停止の期間が3年6か月と長期にされたのは、「医事に関し不正の行為」の理由としてCの死亡の結果を考慮したからである旨主張しており、この原告の主張は、Cの死亡の結果が本件処分の「医事に関し不正の行為」の内容の一つにならないとすれば、本件処分における医業停止の期間は長すぎるという主張とも考えられるところである。 しかし、Cの死亡の結果を「医事に関し不正の行為」との関係では考慮しないとした被告の主張に沿 れば、本件処分における医業停止の期間は長すぎるという主張とも考えられるところである。 しかし、Cの死亡の結果を「医事に関し不正の行為」との関係では考慮しないとした被告の主張に沿って検討したところ、既に述べたとおり、本件処分における医業停止の期間が長すぎるとはいえないのである。 したがって、原告の主張を上記のように考えたとしても、そのような主張を採用することはできない。 七以上によると、被告が、医師法7条2項に基づき、原告に対して、平成16年4月1日から平成19年9月30日までの期間、医業の停止を命じた本件処分は、適法であるということができる。 第四結論よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部裁判長裁判官菅野博之裁判官市原義孝裁判官近道暁郎(別紙)当事者の主張の要旨 1 被告の主張(一) 被告の主張する処分理由本件処分の理由は、(1)罰金以上の刑に処せられたこと(医師法4条3号)及び(2)医事に関し不正の行為をしたこと(同条4号)である。 そのうち、(2)の「医事に関し不正の行為」の内容は、①原告は、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与の判明後も、硫酸ビンクリスチンの医薬品添付文書を読むこともなく、同文書に記載されていた支持療法や拮抗剤であるフォリン酸投与の検討や実施等の適切な対処をしなかったこと、及び②原告は、上記過剰投与の判明時点には、Cの病態は スチンの医薬品添付文書を読むこともなく、同文書に記載されていた支持療法や拮抗剤であるフォリン酸投与の検討や実施等の適切な対処をしなかったこと、及び②原告は、上記過剰投与の判明時点には、Cの病態は、感染症対策、輸液管理及び呼吸管理が必要な状況であったが、それらの処置は耳鼻咽喉科医師として2年間の経験を有するにすぎない原告の能力を超えており、専門家の助力を必要とする状況であったにもかかわらず、そのような助力を求めることなく、適切な処置を施さなかったことである。 (二) 本件処分の理由のうち「医事に関し不正の行為」は、Cの死亡を内容とするものではないことについて(1) 本件処分の理由のうち「医事に関し不正の行為」は、前記(一)(2)①及び②の「不正の行為」をしたことであり、その行為によってCの死亡を引き起こしたことまでも内容とするものではない。 (2) 本件命令書(乙1)には、事案を全体として明らかにするために、硫酸ビンクリスチンの過剰投与及び不正の行為の後の事実経過である「患者の死亡」の事実が記載されているにすぎない。したがって、被告は、本件処分を決するに際して、Cの死の結果を考慮したものではない。 (3) 本件命令書記載の理由の2の見出しが「医事に関し不正の行為のあったため。」とされていること、及び医師法の規定における医業停止命令の要件は、「医事に関し…(中略)…不正の行為のあつた者」(同法4条4号)であり、不正の行為の結果は要件とされていないことからも、Cの死亡という結果が本件処分の理由とされていないことは明らかである。 (4) なお、本件処分の理由には、前記(一)(1)のとおり、罰金以上の刑に処せられたことが含まれており、その犯罪事実は、原告等が医療過誤によりC とされていないことは明らかである。 (4) なお、本件処分の理由には、前記(一)(1)のとおり、罰金以上の刑に処せられたことが含まれており、その犯罪事実は、原告等が医療過誤によりCを死亡させた業務上過失致死の事実である。そうすると、原告等の行為によりCを死亡させたことについては、処分を決するに当たって十分に考慮されていたということができる。 そこで、仮に、前記(一)(2)の「医事に関し不正の行為」にCの死亡結果までを含むものとして本件処分が決せられていたとしても、一つの死亡結果を二重に評価することはないと考えられるのであるから、処分結果に大きな差はなかったと考えられ、いずれにせよ、本件処分は適法である。 (三) 「医事に関し不正の行為」が認められることについて(1) 医師は、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努める責務があり(医療法1条の4第1項)、医師として通常求められる注意義務を怠った場合には、当然に、「医事に関し不正の行為」があったということができる。 (2)ア原告は、平成12年10月6日夕刻ころ、Cの強度の倦怠感、手のしびれ、咽頭痛、起きあがれない等の症状の原因が硫酸ビンクリスチンの過剰投与と判明した後も、硫酸ビンクリスチンの医薬品添付文書を読むことなく、同文書に記載されていた支持療法や拮抗剤であるフォリン酸投与の検討や実施等の適切な対処をしなかったのである。 イ Cに投与した抗がん剤である硫酸ビンクリスチンの過剰投与に対する治療方法としては、硫酸ビンクリスチンの拮抗剤であるフォリン酸の投与が考えられる。そして、Cの入院時に、医療センターの薬剤部には、フォリン酸を含む医薬品が保有されていたのであるから、原告や他の する治療方法としては、硫酸ビンクリスチンの拮抗剤であるフォリン酸の投与が考えられる。そして、Cの入院時に、医療センターの薬剤部には、フォリン酸を含む医薬品が保有されていたのであるから、原告や他の医師において、短時間の間にこれを入手してCに投与することは十分可能であった。 ウまた、仮に、原告が、Cの主治医として、病室でその容態を見守り、全身状況の変化に応じた措置を講じるべき立場にあったとしても、原告がCの病室で行ったことは、主に、昇圧剤の投与量及び人工呼吸器の設定の調整であるところ、そのような措置は、原告が掛かり切りにならなければならないような内容ではなかったのである。すなわち、原告は、血液中の二酸化炭素等の濃度の測定や昇圧剤の投与量の調節を、頻繁には行っていなかったし、原告自身が自らCの病室で付きっ切りになって血圧等を注視している必要もなかったのである。 そうすると、原告は、Cに付き添いながらも、硫酸ビンクリスチンの医薬品添付文書を読むなどして過剰投与対策を講じることも十分に可能であった。 エ(ア) 原告は、指導医であるD医師から、役割分担を指示された旨主張する。 (イ) しかし、D医師は、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が発覚した後、原告から、Cの親族に対する過剰投与の事実の報告の要否を尋ねられたのに対して、今は、まずCの救命に尽くすことが先決である旨述べたにすぎず、役割分担を指示した旨の発言を行っていない。 また、たとえ、D医師から役割分担の指示を受けたとしても、原告は、Cの病状につき最も熟知し、また、治療において最も直接の責任を有するCの主治医であった。 そうすると、原告は、病室でCに付き添って行う治療の傍ら とえ、D医師から役割分担の指示を受けたとしても、原告は、Cの病状につき最も熟知し、また、治療において最も直接の責任を有するCの主治医であった。 そうすると、原告は、病室でCに付き添って行う治療の傍ら、自らに可能な範囲で他の療法について検討したり、薬剤部や内科等の他科の医師に助言を求めたり、拮抗剤の入手を催促したりするなどに努めるべきであったということができる。 (3)ア Cは、平成12年10月6日午前7時ころには呼び掛けに反応しなくなり、人工呼吸器による管理がされ、その後、人工透析を実施しようとしたところ心臓が停止し、心臓マッサージ、強心剤の注射などで蘇生したものの、その後も、血圧が低下して昇圧剤でようやく維持され、血小板数、白血球数も異常減少するなど、全身症状が相当に悪化していたのである。 したがって、Cの救命は、耳鼻咽喉科の医師である原告の能力を超え、救命救急の専門家の助力が必要であることは明らかであった。それにもかかわらず、原告は、何ら救命救急の専門家の助力を求めることはしなかった。 イ(ア) これに対して、原告は、本人尋問において、E教授及びD医師を差し置いて、救命救急センターに助力を求めることはできなかった旨供述する。 (イ) しかし、原告の指導医であるD医師は、証人尋問において、救命救急センターに応援を依頼するのは、通常は主治医であると供述している。そして、仮に、原告が供述するように、通常は上司を通じて依頼すべきであったとしても、本件のように患者の生命が危険にさらされ、救命救急治療の経験の乏しい原告の能力を超える処置が緊急に要求された場合には、上司を通じて依頼する手間を省いて主治医が直接依頼をすることが許されないはずがないというべきである。さらに 危険にさらされ、救命救急治療の経験の乏しい原告の能力を超える処置が緊急に要求された場合には、上司を通じて依頼する手間を省いて主治医が直接依頼をすることが許されないはずがないというべきである。さらに、仮に、原告が、E教授及びD医師に依頼してもらう必要があると考えたとしても、原告は、D医師、E教授に対して、救命救急治療の専門医に応援を求めるよう依頼することすらしていない。 (ウ) そうすると、原告本人の前記供述は、原告に「医事に関し不正の行為」がなかったということの根拠にはならないというべきである。 (4)ア原告は、過剰投与が判明した時点では、Cの救命の可能性が失われており、講ずべき適切な救命措置は存しなかったから、それに対して適切な救命行為を行わなかったことは「医事に関し不正の行為」に該当しない旨主張する。 イしかし、Cに対する硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した平成12年10月6日午後4時ないし5時の時点において、たとえ、Cの救命の可能性が失われていたとしても、それは、事後に判断されたものにすぎない。上記の時点において、救命の可能性がないと判断している者はおらず、少なくとも、C及びその両親等は、Cの救命のために、原告を始めとする医療センターの医師らに対して、あらゆる措置を執ることを期待していたのである。このような状況において医師に期待されるのは、Cの生命を救うために全力を尽くすことであり、それが医師としての倫理に従った行為であることには疑いの余地がない。 それにもかかわらず、事後的に、過剰投与の判明時における救命の可能性を立証することができないとされたことをもって、積極的救命措置を執らなくても不正の行為には当たらないというのは、医師法の解釈を誤ったも れにもかかわらず、事後的に、過剰投与の判明時における救命の可能性を立証することができないとされたことをもって、積極的救命措置を執らなくても不正の行為には当たらないというのは、医師法の解釈を誤ったものである。 (5)ア原告は、本件医療事故に係る損害賠償請求控訴事件の判決書(乙22)に「救命措置の懈怠は、硫酸ビンクリスチンの過剰投与という重大な過失から必然的に生じた結果であるということもできる。」と記載されていることから、救命措置の懈怠責任を「医事に関し不正の行為」として、有罪判決を受けたことと別個の処分事由とすることは、二重評価である旨主張する。 イしかし、上記判決が救命措置の懈怠の責任として論じたのは、過剰投与に気付く前の行為についての責任に関するものであると考えられるのであって、本件処分の理由としている過剰投与の判明後の行為について論じているものではない。 また、刑事事件においても、過剰投与の判明後の行為は業務上過失致死罪の過失に含まれていないのであり、行政処分において、刑事処分の対象とされた事実に加えて、過剰投与の判明後の事実を「医事に関し不正の行為」として処分の対象事実とすることは、何ら二重評価ではない。 (6)ア原告は、一つの医療過誤事件において、罰金刑以上の刑事処分が科せられている場合、医師法7条2項の処分理由としては、同法4条3号のみを適用すれば足り、同条4号の医事に関する不正の行為を理由とする必要はない旨主張する。また、原告は、Cの遺族が原告を強く非難したために、同法4条4号所定の理由が付け加えられたものである旨主張する。 イしかし、医師法7条2項の処分は、医療等の業務に携わるにふさわしい人物に医師資格を与えて医療等の業務 したために、同法4条4号所定の理由が付け加えられたものである旨主張する。 イしかし、医師法7条2項の処分は、医療等の業務に携わるにふさわしい人物に医師資格を与えて医療等の業務の適性を図るため、能力的又は人格的に医療等の業務を行うにふさわしくない者の医師資格をはく奪又は停止させることであり、厚生労働大臣には、問題のある医師に対して処分権限が与えられているのであって、それが刑事処分とは別個の観点からされるのは当然である。 本件において、原告が、過剰投与の判明後にCに対する適切な救命措置を執らなかったことは、刑事処分の対象とはなっていないものの、それ自体が、原告が医師としてふさわしくないと判断させる行為であったことから、医師法7条2項の処分の対象としたものであり、原告が主張するように、その必要もないのにあえて理由として加えたものではない。まして、Cの遺族が原告を強く非難していたために同法4条4号の理由が付け加えられたとの原告の主張は、何ら証拠に基づかないものである。 (四) 本件処分が重すぎることはないことについて(1) 医師法7条2項の趣旨は、公衆衛生の向上及び増進を図り、もって国民の健康な生活を確保するという医師法の目的(同法1条)の下、医療等の業務の適性を図るため、医療提供の中心的、指導的立場を担う医師の資格については厚生労働大臣の免許によるものとし、いったん免許を取得した者も、能力的又は人格的に医療等の業務を行うにふさわしくない者については、同大臣の判断により、医師資格をはく奪又は停止させるという点にある。そうすると、医業の停止を命ずる場合にその期間をどの程度にするかということについては、対象となった行為の種類、性質、違法性の程度、動機、目的、影響のほか、当該 をはく奪又は停止させるという点にある。そうすると、医業の停止を命ずる場合にその期間をどの程度にするかということについては、対象となった行為の種類、性質、違法性の程度、動機、目的、影響のほか、当該医師の性格、処分歴、反省の程度等、諸般の事情を考慮し、同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきであるが、その判断は、医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量にゆだねられており、その裁量権に基づく医業停止処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法となることはない。 なお、医業停止の処分は、厚生労働大臣の裁量的判断によるとはいえ、医師、学識経験者らによって構成される医道審議会の諮問結果を踏まえてされるものである。 (2)ア原告に対しては、医療過誤による刑事処分としては過去10年の中で格段に重い禁錮2年執行猶予3年という刑が言い渡された。 イ原告は、Cの主治医として、治療方法の選択に際しては十分な検討を尽くして責任のある決定をすべき立場にあった。 しかも、抗がん剤は、細胞を破壊する作用を有するものであり、正常細胞を死滅させ続けないために、投与量及び間隔のコントロールを厳密に行うことが非常に重要なものである。ところが、原告は、投与の間隔を1週間空ける必要がある量の硫酸ビンクリスチンを、7日間連続して投与したというのであるから、その過誤は致命的なものである。しかも、原告の過誤の原因は、療法について説明されたプロトコールの「週」と「日」を読み間違えるという、単純極まりないものであって、原告は、医師としてのごく基本的な注意義務に反したのである。 。しかも、原告の過誤の原因は、療法について説明されたプロトコールの「週」と「日」を読み間違えるという、単純極まりないものであって、原告は、医師としてのごく基本的な注意義務に反したのである。 また、原告は、看護師に渡された硫酸ビンクリスチンの医薬品添付文書を読むことすらしなかったのであるから、弁解の余地はない。 原告は、Cが食欲不振や顎、顔面等の痛み等を訴え、硫酸ビンクリスチンの副作用で苦しみ始めた平成12年9月29日以降も、自らの投薬計画に疑いを抱くことなく、漫然と「VACは強いな。」と思ったのみで治療方法の再検討を考えることもなかった。しかも、原告は、抗がん剤の副作用を疑ったE教授から注意を喚起されたり、同じく抗がん剤の量が多いのではないかと疑ったD医師から抗がん剤の量について聞かれ、さらに、看護師から投与量について疑問を呈されても、間違いがないなどと答え、何ら顧みることがなかった。原告は、Cが、抗がん剤の副作用で苦しみ、自ら歩行することができなくなって車いすの使用を余儀なくされているのを目の当たりにしながらも、自らの治療行為について何ら疑問を抱かなかったというのであり、その無反省ぶりはあきれるばかりで、無責任といわざるを得ない態度である。 悪性腫瘍の治療において必要な手術に先立った綿密な治療計画の策定がなされていないこと、必要な頸部リンパ節郭清、放射線治療がなされず、不適切な化学療法が選択されたこと等、医療行為として極めて劣悪なものであり、原告は、そのような医療計画を立案、実施するなどした医療行為の中心人物であった。 ウ原告の過失により、尊い人命が奪われたのであるから、結果は極めて深刻かつ重い。 Cは、滑膜 計画を立案、実施するなどした医療行為の中心人物であった。 ウ原告の過失により、尊い人命が奪われたのであるから、結果は極めて深刻かつ重い。 Cは、滑膜肉腫の摘出手術は無事終了しており、改善方向にあって、本件医療事故がなければ平均余命まで生存した蓋然性が高かったこと、本件で、化学療法開始時に転移は発見されていなかったこと等を考えると、化学療法の実施を急ぐ必要性にも疑問が残り、そのような状況で、拙速な治療が施されたことを考えると、原告の行為によって奪われたものは重い。 エ原告は、主治医として、Cの救命に最も率先して積極的に当たるべき立場にありながら、拮抗剤の入手その他硫酸ビンクリスチンの過剰投与の対応策を他人任せにした上、Cの救命のために必要な救命医療専門医師等の助力を求めることなく、漫然と、強心剤、昇圧剤の投与等を行ったにとどまったのであり、救命的見地からは、すべてが遅く、最低レベルの治療と評されるものであって、その行為態様は、医師としてあるべき姿とはほど遠い。 原告は、自ら招いた患者の危篤状態に対して、何ら積極的な治療行為を施そうとしなかった点は、医師としての資格に大いに欠けるものである。 オほかにも、原告は、Cの父親に対し、Cの病名を横紋筋肉腫であると誤ったあるいは不正確な説明をしたり、硫酸ビンクリスチンの添付文書を読まなかっただけでなく、投薬量の正確な計算すらしないまま、VAC療法を採ることにつきD医師に了承を求めている。さらに、原告は、平成12年10月3日に硫酸ビンクリスチンの投与の中止を決めるに当たってはD医師等に了承を得なかったばかりか、D医師に聞かれて初めて投与を中止したことを報告するなど、治療行為に対する態度が 、原告は、平成12年10月3日に硫酸ビンクリスチンの投与の中止を決めるに当たってはD医師等に了承を得なかったばかりか、D医師に聞かれて初めて投与を中止したことを報告するなど、治療行為に対する態度が真摯であるとはいえず、人命を預かる医師としての資質に欠ける。 また、原告本人尋問によると、原告は、Cに対する抗がん剤投与を中止した後、Cの両親に対して、中止の理由に関し虚偽の説明をしたこと、過剰投与の判明後、病室でCに付き添っている際、原告の能力に不安を感じたCの父親から、他の医師の応援を求められ、救命医療に関する自らの力不足を感じながらこれを拒絶したことなどが認められる。こうした事実からも、原告の医師としての適格性の欠如がうかがわれる。 (3) 原告の行為は、医師が、その業務を行うに当たって、極めて基本的な注意義務に反し、深刻かつ重大な結果を生ぜしめたのであるから、対象となった行為の種類、性質、違法性の程度、影響は極めて重大というほかない。また、抗がん剤の投与という慎重さが要求される医療行為すら、十分な調査をせず、その適切な方法や危険性について認識しないままに実行に移したり、Cに重篤な症状が生じているのを目の当たりにしながら、過剰投与の事実を自ら突き止めることができず、判明後も、苦しむCを目の前にして、十分な治療行為をすることも、上司、専門家に助力を求めることもせず手をこまねいていたことなどを考えると、原告には、医師としての基本的な資質、素養や、医師に必要な患者の治療・救命に対する真摯で誠実な態度に欠けるといわざるを得ない。原告が若年で、医師法における処分歴はなく、本件に関し一応の反省は示していることを考えても、厳重な処分が強く求められる事案である。 そして、医師法7条2項の医業停止 を得ない。原告が若年で、医師法における処分歴はなく、本件に関し一応の反省は示していることを考えても、厳重な処分が強く求められる事案である。 そして、医師法7条2項の医業停止処分は、医療業務の適性、国民の医療に対する信頼を守るため、処分対象者が能力的、人格的に医師免許を与えられるにふさわしいか否かという点を考慮して行われる者であるから、刑事責任や民事上の損害賠償責任と比べて、行為規範という面が強いと考えられ、必ずしも、それらの責任と比較して判断されるものではない。 (4) 以上からすると、原告を3年6か月間の医業停止処分とした本件処分には、厚生労働大臣の合理的な裁量権の濫用、逸脱は認められず、適法である。 (5)ア原告は、Cの治療における指導医であったD医師の医業停止処分の期間が2年であったことをとらえ、本件処分は重きに失する旨主張する。 しかし、刑事事件における責任のみをとらえても、原告に対する量刑とD医師に対する量刑には差がある。しかも、D医師に対する責任としては、原告に対する監督責任に重きが置かれるべきである。そして、医師法7条2項の処分においては、刑事処分における責任評価に比べ、監督者、指導者としての責任よりも、むしろ、医師としての能力等の有無を重く考慮することも裁量権の行使として当然に許容されるというべきである。 イさらに、原告は、青戸病院での医療過誤事件における医師に対する行政処分が2年間の医業停止処分であったことと比べ、本件処分が重きに失する旨主張する。 しかし、青戸病院における事案は、医業停止処分対象者が刑事処分を受けたことを処分の対象となる事実としていないことを始め、事案を異にするから、本件と同 きに失する旨主張する。 しかし、青戸病院における事案は、医業停止処分対象者が刑事処分を受けたことを処分の対象となる事実としていないことを始め、事案を異にするから、本件と同列に論じることはできないのであって、原告の主張は失当である。 2 原告の主張(一) 被告は、本件処分を行うに際し、Cの死亡の結果を「医事に関し不正の行為」の内容として考慮しており、妥当でないことについて(1)ア本件命令書(乙1)には、理由の2として、「その副作用に対する適切な処置を行うことを怠り、結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」と記載されているのであり、被告は、Cの死亡の結果をも考慮して本件処分を行っている。 イ被告は、医道審議会医道分科会に対して、平成16年3月17日、原告に対する行政処分を諮問する際に、行政処分関係審議資料(乙46)及び医師行政処分調書(乙47)を提出しているところ、上記各書面には、「医事に関する不正」として、「結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」と記載しているのである。そうすると、医道審議会医道分科会は、「医事に関する不正」の内容として「結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」という事実までも考慮に入れて、原告に対する医業停止期間を3年6か月と答申したものということができる。 ウ被告は、青戸病院において医療事故を犯した3名の医師のうち2名の医師についての行政処分についても、医道審議会医道分科会に対して、不利益処分の原因となる事実として、医事に関する不正を挙げ、「結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」と記載された書面により諮問しているのであるところ、この場合には、患者の 対して、不利益処分の原因となる事実として、医事に関する不正を挙げ、「結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」と記載された書面により諮問しているのであるところ、この場合には、患者の死亡の結果が考慮されたことは明らかである。 そうすると、本件処分の際の諮問の際の書面にも、同じ文言が記載されていることからすると、青戸病院の事案の場合と同様に、本件処分の場合にも、患者の死亡の結果まで考慮されて答申されているはずである。 エ医師法7条2項の処分として、医業の停止を命ずるとして、医業の停止期間を定める場合には、不正の行為の結果に対する責任が考慮されることは当然である。なぜなら、不正の行為によって、どのような結果が発生したかは、医業停止期間の長短という医業停止処分の内容に重大な影響を及ぼすからである。この点は、最高裁昭和61年(行ツ)第90号同63年7月1日第二小法廷判決・訟務月報35巻3号512頁でも、明らかになっている。 オこれまで、一つの医療過誤事件において、刑事事件として、罰金以上の刑に処せられたことを理由とするほかに、「医事に関し不正の行為のあったため」が理由の一つとして追加されて行政処分が決められた例は存しない。それにもかかわらず、被告があえて「医事に関し不正の行為のあったため」を理由として処分をしたのは、原告が不正の行為により患者を死亡させるという事態を引き起こしたことを理由に追加しようとしたからにほかならない。 カ従前の医療過誤の事案における行政処分の医業停止期間の最長は1年6か月であり、本件処分において、医業停止期間が3年6か月とされたのは、不正の行為のため、結果として、患者を死亡させたことまでが考慮されたからにほかならない。ま ける行政処分の医業停止期間の最長は1年6か月であり、本件処分において、医業停止期間が3年6か月とされたのは、不正の行為のため、結果として、患者を死亡させたことまでが考慮されたからにほかならない。また、原告と同じ日に医道審議会医道分科会に諮問、答申された青戸病院の医療過誤事件の医師らの医業停止期間ですら2年である。 キ本件では、医療チームの指導医D医師による指導監督機能が働かず、科長であるE教授による指導監督機能も働かず、経験の乏しい原告は、指導医であるD医師及び科長であるE教授の承諾を得たにもかかわらず、誤ったVAC療法を実施することとなり、本件医療事故を引き起こしてしまったものである。以上を勘案すれば、医業停止3年6月は重きに失する処分である。 したがって、医道審議会医道分科会が、原告の行政処分について、医業停止3年6月を答申したのは、「不正の行為により、結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こした。」という結果をも考慮し、これを理由の一つに追加して厳重な処分がされるべきであるとの判断をしたからにほかならない。 ク D医師は、日本耳鼻咽喉科学会認定の専門医資格を取得し、チーム医療の指導医であり、原告に対する指導・教育を行うことになっていた。また、D医師は、本件医療事故においても、自ら臨床例、文献、医薬品添付文書等を精査検討すべきであった上、原告に対して指導監督を行わなかったばかりか、原告の誤った治療方針にチームリーダーとして承認を与えたのである。そして、医師に対する行政処分の趣旨は、医療等の業務を行うにふさわしくない者について、医師資格をはく奪又は停止することにある。そうすると、原告に対する行政処分は、D医師に対する行政処分と同程度のものであり、決してそれをは 処分の趣旨は、医療等の業務を行うにふさわしくない者について、医師資格をはく奪又は停止することにある。そうすると、原告に対する行政処分は、D医師に対する行政処分と同程度のものであり、決してそれをはるかに超えるものではない。 それにもかかわらず、D医師に対する医業停止期間が2年であり、原告に対する医業停止期間との間に1年6か月の違いが生じたのは、原告に対する行政処分の「医事に関し不正の行為」について患者の死亡という結果を考慮に入れたからにほかならない。 ケ結局、Cの遺族らが、原告の救命治療懈怠の過失を強調したことから、それを受けて、被告は、「原告は、抗がん剤の過剰投与の判明後、拮抗剤の投与など、その副作用に対する適切な処置を行うことを怠り、結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こしたこと」を原因となる事実として記載した上で、医道審議会に諮問したというべきである。 (2)ア本件においては、Cへの硫酸ビンクリスチンの過剰投与が判明した平成12年10月6日の夕方以降においては、Cの救命の可能性は失われていたのである。 イそうすると、本件においては、抗がん剤の過剰投与の判明後、原告が、副作用に対する適切な処置を行うことを怠り、結果として、患者を死亡させるという事態を引き起こしたという事実は存しなかったのである。 したがって、本件処分は、処分の理由とされている事実が存しないにもかかわらず、存することを前提としてされたものであるから、違法であり、取り消されるべきである。 (二) 医事に関し不正の行為はなかったことについて(1)ア医療センター耳鼻咽喉科の診療においては、チーム医療の体制が採られており、チー り、取り消されるべきである。 (二) 医事に関し不正の行為はなかったことについて(1)ア医療センター耳鼻咽喉科の診療においては、チーム医療の体制が採られており、チームリーダーは、若手医師らを指導する役割を担い、若手医師が主治医の場合であっても、チームリーダーの了承なしに治療方針を決定することはできないこととなっていた。 イ抗がん剤の過剰投与の判明後、チームリーダーであり、指導医であるD医師は、原告に対して、「A医師はCさんの病室に戻れ、Cさんの副作用症状の治療に専念しろ。今後の治療対策は、私の方でやるから。」などと指示をした。 そこで、原告は、D医師から担当の役割分担の指示を受け、それに従って、副作用症状の治療に専念したのである。 ウその後、原告は、D医師から呼ばれ、医局に戻ると、D医師から、硫酸ビンクリスチンの拮抗剤としてフォリン酸があること等の説明を受けた。原告は、医薬品添付文書を読み、フォリン酸の存在を確認し、ドラッグインジャパンという医薬品一覧を調べたが、フォリン酸を発見することはできなかった。この際、D医師は、実験室に電話をしたり、I研修医にフォリン酸の入手の可否を確認させていた。原告は、D医師らが拮抗剤の入手の努力をしていたのを確認し、病室に戻って治療を継続した。 エ原告は、その後、H研修医と交代して、医局に戻ったが、I研修医からはフォリン酸の存在を確認することができなかったことを聞いた。 オ原告は、E教授も、抗がん剤の過剰投与のことを知っていたこと、D医師から病室に戻るように指示を受けたこと、D医師、I研修医らが拮抗剤を入手すべく努めていたことを知っていたこと等から、もし、原告が抗がん 告は、E教授も、抗がん剤の過剰投与のことを知っていたこと、D医師から病室に戻るように指示を受けたこと、D医師、I研修医らが拮抗剤を入手すべく努めていたことを知っていたこと等から、もし、原告が抗がん剤の過剰投与の副作用に対する適切な処置を行うべきであるときは、E教授、D医師から何らかの指示がでるはずであると考えて、その指示がなかったことから、Cの病状の安定に努めたのである。 カこのように、原告は、チーム医療に従って、役割分担の下に医師として適切な処置を行ったものである。 キこれに対して、被告は、D医師が今後の対策はD医師が行うと言ったことの意味は、患者の両親に過剰投与の事実を説明するかどうかについての対策を意味するものである旨主張する。 しかし、D医師が述べた「対策」とは、抗がん剤の過剰投与に対する治療対策を意味する。このことは、現に、D医師が、自ら過剰投与の対策を調査して拮抗剤の投与をするために入手を試みたことからも裏付けられるというべきである。 (2)ア抗がん剤の過剰投与が判明した平成12年10月6日には、Cは、呼びかけにも反応しなくなり、自力呼吸が困難となり、人工呼吸器による管理を受けるようになった。 また、Cは、無尿状態であったため、人工透析が試みられたが、Cの心臓は一時停止してしまう事態となった。そのため、心臓マッサージや強心剤の投与でCは何とか蘇生していたという状態であった。 同日夕方には、Cの白血球数は200個に、血小板は7万2000個にそれぞれ減少し、脈拍は早く、弱い状態で、体温も40度前後あり、尿からは多量の鮮血とたんぱくが検出され、血圧も昇圧剤によってかろうじて保っている極めて不安定 球数は200個に、血小板は7万2000個にそれぞれ減少し、脈拍は早く、弱い状態で、体温も40度前後あり、尿からは多量の鮮血とたんぱくが検出され、血圧も昇圧剤によってかろうじて保っている極めて不安定で重篤な状態であった。 このように、Cの病状は、極めて不安定で重篤な状態であったため、Cには、常に医師がそばに付き添って強心剤や昇圧剤の投与を行い、人工呼吸器の設定の微調整を行って、病状の安定を図る必要があった。 イ主治医である原告は、Cの病室で、Cの病状の安定を図るために、徹夜で全力を尽くして治療に当たった。 原告は、自発呼吸ができない患者の呼吸の安定を図るため、血液検査の結果を見ながら、15分程度ごとに人工呼吸器の設定の微調整を行い、患者の呼吸の安定を図った。また、血圧の安定を図るために輸液の管理を行い、強心剤や昇圧剤の投与も行った。 (3)ア本件処分は、抗ガン剤の過剰投与が判明した平成12年10月6日からCが死亡した同月7日までの間に、原告が拮抗剤の投与等、Cの副作用に対する適切な処置を行うことを怠り、その結果として、Cを死亡させたことを理由としている。 イしかし、抗ガン剤の過剰投与が判明した平成12年10月6日夕方には、適切な救命措置を講ずべき時機は失われてしまっており、その後においては、拮抗剤の投与をしたとしても、既に、手遅れであって患者の死亡という結果を回避することは不可能であり、講ずべき適切な救命措置は存しなかったことになる。 そうすると、講ずべき適切な救命措置が存しなかった本件医療事故において、講ずべき適切な救命措置が存することを前提として、それを怠った不正の行為があったとして、行政処分の理 そうすると、講ずべき適切な救命措置が存しなかった本件医療事故において、講ずべき適切な救命措置が存することを前提として、それを怠った不正の行為があったとして、行政処分の理由とすることは許されない。 (4) 原告は、業務上過失致死罪として禁錮2年、執行猶予3年の判決を言い渡されているが、この判決では、原告の過剰投与に対する責任のみならず、救命措置の懈怠責任、すなわち、過剰投与の判明前の副作用を看過して救命治療を遅滞した懈怠責任も考慮されているのである。このことは、本件医療事故に係る損害賠償請求控訴事件の判決書(乙22)に、「救命措置の懈怠は、硫酸ビンクリスチンの過剰投与という重大な過失から必然的に生じた結果であるということもできる。」と記載されていることからも明らかである。 そうすると、本件処分について、「罰金以上の刑に処せられたため」の処分理由には、救命措置の懈怠責任についても包含されているのであるから、本件行政処分の処分理由に「医事に関し不正の行為のあったため」を加えて医業停止命令を行うことは、同じ救命措置の懈怠責任について二重に評価したものであり、違法である。 (5) これまで、一つの医療過誤事件において、刑事事件として罰金以上の刑に処せられたことを理由とするほかに、「医事に関し不正の行為のあったため」が理由の一つとして言い渡された例は存しない。 これは、既に刑事事件として罰金以上の刑に処せられている場合には、「罰金以上の刑に処せられたため」が理由とされ、一方、いまだ刑事事件が確定していない場合には「医事に関し不正の行為のあったため」が処分の理由とされているからである。 (6) 仮に、抗がん剤の過剰投与が判明した後、原告 が理由とされ、一方、いまだ刑事事件が確定していない場合には「医事に関し不正の行為のあったため」が処分の理由とされているからである。 (6) 仮に、抗がん剤の過剰投与が判明した後、原告が、拮抗剤の投与等その副作用に対する適切な処置を怠ったとして非難されるとするならば、D医師に対しても、原告を適切に指導しなかった点、及び不手際のため、拮抗剤を入手することができなかった点において、非難されるべきであるということができる。そうであるにもかかわらず、D医師に対する処分には、「医事に関し不正の行為のあったため」は処分理由に含まれていないのであり、整合しない。 (三) 本件処分は重きに失すること(1) 原告は、プロトコールの週と日を読み間違え、抗ガン剤を過剰投与し、患者を死亡させたことで、禁錮2年執行猶予3年の判決の言渡しを受け、このことにより、医業の停止を命ずる行政処分を受けること自体はやむを得ないが、本件処分の業務停止期間である3年6か月は、以下の諸事情を考慮すれば重きに失し、取り消されるべきである。 (2) すなわち、Cの病名は、滑膜肉腫であり、医療センターの耳鼻咽喉科医局において、初めての症例であった。また、原告は、Cの治療を任された当時、わずか1年半の病院助手としての経験しかなかった。そうであるにもかかわらず、最初に患者を診察した医師が、その患者の主治医になるとの慣習により、原告は、主治医となった。そして、医局の他の医師らは、逃げ腰で、原告に治療のすべてが押し付けられた。 (3) 原告は、VAC療法のプロトコールを探し出し、D医師に、プロトコールを見せながら治療方法を説明し、D医師から了承を得たものである。 また、原告は、その後、E教授にも、Cにつ ) 原告は、VAC療法のプロトコールを探し出し、D医師に、プロトコールを見せながら治療方法を説明し、D医師から了承を得たものである。 また、原告は、その後、E教授にも、Cについての治療方法を説明し、E教授から、治療方法についての了承を得た。 このように、原告は、誤った治療を行う前に、治療内容を最終決定する権限を有するE教授及びチームリーダーであり指導医であるD医師から、治療内容について許可又は了承を得ていたものである。原告は、許可又は了承を得た治療内容を行ったにすぎない。 (4) 本件処分前の医療過誤を理由とする医業停止処分の業務停止期間の最長は、1年6か月であった。 本件について、過去の医療過誤を理由とする医業停止処分の内容と比較して、特に重く処分されなければならない事由を見いだすことはできない。 -以上-
▼ クリックして全文を表示