昭和44(あ)538 偽造私文書行使、詐欺未遂

裁判年月日・裁判所
昭和47年2月3日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所
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判決文本文3,433 文字)

主文 原判決および第一審判決を破棄する。本件を東京地方裁判所に差し戻す。理由 弁護人金井友正名義の上告趣意は、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない(なお、被告人本人の昭和四五年一〇月二二日付および同年一二月三日付、弁護人堀博一の昭和四六年一月二九日付各上告理由補充書は、いずれも上告趣意書提出期限後に提出されたものであるから、これについては判断を加えない。)。しかし、所論にかんがみ、職権をもつて調査するに、本件の第一審判決は、被告人が、「裁判所を欺罔して、曾て内縁関係にあつたAの所有にかかる東京都世田谷区a町b番地所在の木造瓦葺二階建居宅一棟(建坪七坪、二階三坪七合五勺)の所有権移転登記手続及び明渡訴訟の勝訴判決を得て右建物を騙取しようと企て、昭和三五年一〇月二四日同都千代田区霞ケ関一丁目一番地所在の東京地方裁判所に対し、情を知らない弁護士Bを介してAを被告とする前記建物の所有権移転登記手続及び明渡を請求する旨の民事訴訟(東京地方裁判所昭和三五年(ワ)第八八〇七号)を提起し、昭和三六年三月二三日同裁判所で開かれた口頭弁論期日において、同裁判所裁判官柳川眞佐夫に対し、前記建物が自己の所有であるかのように装い『本件建物は形式上その登記名義人をAとしてあるが、実質は被告人が他から買い受けた被告人所有にかかるものであり、かつ、被告人が必要であるときは何時でも明渡す約定のもとに居住させていたものである。』旨の虚偽の事実を主張したうえ、同年四月二七日同裁判所で開かれた口頭弁論期日において、同裁判官に対し、被告人の偽造にかかるAの署名を冒用した同女作成名義の念書と題する『右建物の名義は私名義にしておくが、あくまで貴方のものであるから売却の時は勿論のこと、如何様に- 論期日において、同裁判官に対し、被告人の偽造にかかるAの署名を冒用した同女作成名義の念書と題する『右建物の名義は私名義にしておくが、あくまで貴方のものであるから売却の時は勿論のこと、如何様に- 1 -処分されても異議は決して申さぬことを念の為一札差入れる』旨の記載ある私文書一通を真正に成立したもののように装い、証拠として提出し行使し、以て同裁判所を欺罔して、前記Aより前記建物を騙取しょうとしたが、右民事訴訟係属中の為、いまだその目的を遂げないものである。 名を冒用した同女作成名義の念書と題する『右建物の名義は私名義にしておくが、あくまで貴方のものであるから売却の時は勿論のこと、如何様に- 1 -処分されても異議は決して申さぬことを念の為一札差入れる』旨の記載ある私文書一通を真正に成立したもののように装い、証拠として提出し行使し、以て同裁判所を欺罔して、前記Aより前記建物を騙取しょうとしたが、右民事訴訟係属中の為、いまだその目的を遂げないものである。」旨の事実を認定して、被告人に対し有罪の言渡をし、原判決も、弁護人の事実誤認の控訴趣意を排斥し、第一審判決の右認定を是認して被告人の控訴を棄却した。ところで、原判決の判示するところによると、第一審判決に判示する前示a町所在の木造瓦葺二階建居宅一棟(以下、a物件という。) は、昭和三五年三月、従来Aの住居に使用していた東京都練馬区c町d番のeの宅地およびその地上の家屋を売り払い、新に買いかえた建物であるが、このa物件に関する念書は、昭和三四年二月二八日前記c町のA方において白紙の便箋にAをしてその住所・氏名を記載させたものを利用して、被告人がほしいままに本文と日付を書き入れて作成した偽造のものであるとされている。しかし、第一審判決が前示認定の証拠として挙示する押収にかかる念書(いわゆるa念書、東京地方裁判所昭和四一年押第四一四号の一、原審昭和四三年押第五九号の一)の体裁を見るに、右念書は、便箋の最初の行に「念書」と題し、次の行から第一〇行目にわたつて第一審判決判示の趣旨の本文を書き、第一一行目に「昭和三十五年四月二十日」と日付を記し、第一二行目と第一三行目の二行にわたつてAの住所・氏名が記載されており、右Aの住所・氏名の筆跡は明らかにその余の部分(すなわち表題・本文・日付)の筆跡と 行目に「昭和三十五年四月二十日」と日付を記し、第一二行目と第一三行目の二行にわたつてAの住所・氏名が記載されており、右Aの住所・氏名の筆跡は明らかにその余の部分(すなわち表題・本文・日付)の筆跡とは異なることが認められるけれども、右住所・氏名とその余の部分との間には一行の余白も存しないのであつて、白紙の便箋に書かれた住所・氏名の前にあとから本文・日付等を書き入れたものとしては、余りにも巧妙に書かれており、a念書はいまだ直ちにAをして白紙にその住所・氏名を書かせたのちに本文・日付等を記入したものと断定することはできない。 所・氏名の筆跡は明らかにその余の部分(すなわち表題・本文・日付)の筆跡とは異なることが認められるけれども、右住所・氏名とその余の部分との間には一行の余白も存しないのであつて、白紙の便箋に書かれた住所・氏名の前にあとから本文・日付等を書き入れたものとしては、余りにも巧妙に書かれており、a念書はいまだ直ちにAをして白紙にその住所・氏名を書かせたのちに本文・日付等を記入したものと断定することはできない。のみならず、本件記録に存し、第一審において適法に証拠調- 2 -を経たところの、本件被告人よりAに対する本件第一審判決判示の民事訴訟事件(すなわち、東京地方裁判所昭和三五年(ワ)第八八〇七号建物所有権移転登記手続等請求事件)の第一審判決書(写)の判示によれば、Aは最初はa念書(右民事訴訟においては甲第七号証)における同人の住所・氏名についてもその自筆であることを否認していたが、同裁判所における鑑定の結果、右住所・氏名の記載はAの筆跡であることが明らかにされるや、同人は、本件第一審判決が証拠として挙示する押収にかかる念書(いわゆる東大泉念書、前同押号の二―右民事訴訟においては甲第六号証)の作成日である昭和三四年二月二八日頃前記c町の当時のA方へ被告人が来て、白紙の便箋に住所と名前を書けというので、いわれるままに住所と氏名だけを書いたものであるとして、その自筆であることを肯定するに至つたことがうかがわれる。してみれば、Aの供述には十全の信憑力があるものとはいいえないので、a念書は、Aが何の用に供せられるのかも知らず白紙にその住所・氏名を記載したものである旨の同人の右供述が、果して真実であるかどうかも疑なきをえない。そう 十全の信憑力があるものとはいいえないので、a念書は、Aが何の用に供せられるのかも知らず白紙にその住所・氏名を記載したものである旨の同人の右供述が、果して真実であるかどうかも疑なきをえない。そうであるとすれば、a念書は被告人が偽造したものであり、同人が、a物件がAの所有であることを知りながら、これを騙取するため、前記民事訴訟を提起したものと速断することはできないといわなければならない。しかるに、本件の第一審判決は、前示のように、被告人に対し右a念書の偽造行使、a物件の詐欺未遂の所為の存在を認定し、有罪の言渡をし、原判決もまたこれを維持しているのであるから、第一審判決および原判決には重大な事実誤認を疑うべき顕著な事由があるものであつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。 を騙取するため、前記民事訴訟を提起したものと速断することはできないといわなければならない。しかるに、本件の第一審判決は、前示のように、被告人に対し右a念書の偽造行使、a物件の詐欺未遂の所為の存在を認定し、有罪の言渡をし、原判決もまたこれを維持しているのであるから、第一審判決および原判決には重大な事実誤認を疑うべき顕著な事由があるものであつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。よつて、刑訴法四一一条三号により、原判決および第一審判決を破棄し、同法四一三条本文により、本件を第一審裁判所である東京地方裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。- 3 -検察官横井大三公判出席昭和四七年二月三日最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官大隅健一郎裁判官岩田誠裁判官藤林益三裁判官下田武三裁判官岸盛一- 4 -

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