令和6(わ)1579 道路交通法違反、過失運転致死(過失運転致死につき変更後の訴因 危険運転致死、予備的訴因 過失運転致死)

裁判年月日・裁判所
令和7年9月19日 さいたま地方裁判所
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判決文本文6,057 文字)

主文 被告人を懲役9 年に処する。 未決勾留日数中210 日を刑に算入する。 理由 第1 犯罪事実 1 被告人は、酒気を帯び、呼気1 リットルにつき0.15 ㎎以上のアルコールを身体に保有する状態で、令和6 年9 月29 日午前5 時43 分頃、埼玉県川口市(住所省略)付近道路において、普通乗用自動車を運転した。 2 被告人は、前記日時頃、前記車両を運転し、前記場所先の西方から東方への二輪車を除く自動車の進行が禁止され、かつ、最高速度が30 ㎞毎時と指定された狭隘 な一方通行路を埼玉県戸田市方面から東京都足立区方面に向かい西方から東方に逆進するに当たり、優先道路と交差し、交通整理の行われていない前記場所先交差点に、その進行を制御することが困難な時速約125 ㎞の高速度で進入したことにより、折から同優先道路を右方から進行してきたA(当時51 歳)運転の普通乗用自動車左側面部に自車前部を衝突させ、その衝撃により、同人運転車両を路外に逸脱させて建物等 に衝突させ、よって、同人に外傷性大動脈解離の傷害を負わせ、同日午前6 時44 分頃、B 病院において、同人を同傷害により死亡させた。 第2 証拠(省略)第3 危険運転致死罪の成否 1 事故状況等被告人車両のドライブレコーダー映像及び本件交差点に設置された防犯カメラ映像等の証拠によれば、本件事故状況等は、次のとおりと認められる。 被告人が進行していた道路は、本件事故発生地点の約115.8m 手前の地点から一方通行(二輪車を除く。)の直線道路であり、幅は約2.8m から約2.65m、左右に 幅約1.5m の路側帯が設けられ、路側帯沿いに建物が立ち並び、 故発生地点の約115.8m 手前の地点から一方通行(二輪車を除く。)の直線道路であり、幅は約2.8m から約2.65m、左右に 幅約1.5m の路側帯が設けられ、路側帯沿いに建物が立ち並び、路側帯内に車線の 白線の中心から約0.73m から約1.15m の位置に電柱や街路灯が設置されていた。 事故が発生した交差点は、片側各1 車線の優先道路が被告人の進行道路と交差しており、被害者車両は、同優先道路を走行し、被告人の右方から左方に向かって時速約 43 ㎞で交差点に進入した。 被告人の進行道路は最高速度が時速30 ㎞に制限されていたところ、被告人は、幅 約184 ㎝の乗用車を運転し、同進行道路手前の左カーブを曲がった後加速を開始して、衝突地点の約138.2m 手前(衝突約4.65 秒前。午前5 時43 分18 秒頃。ドライブレコーダーの時刻表示は5:42:54。)でアクセルペダルを100%踏み、約115. 8m 手前で一方通行道路の逆走を開始して時速約98 ㎞から加速し、約52.2m 手前(約1.65 秒前)で時速約116 ㎞で走行し、約37.4m 手前(約1.15 秒前)付近 でアクセルペダルを緩め、約19.8m 手前(約0.65 秒前)で時速約125 ㎞に達し、路面の「止まれ」の標記を認めて約1.6m 手前(約0.15 秒前)で時速約125 ㎞であったところでブレーキペダルを踏んだが、午前5 時43 分23 秒頃、本件交差点を通過しようとしていた被害者車両の左側後部座席ドアに自車前部を衝突させたものであり、衝突直前の速度は時速約122 ㎞であった。 一方通行の開始地点から事故発生現場までの間に、幅や被告人車両の通行可能性は明らかではないが、被告人の進行方向右側に2 つ、左側に1 つ道路があった。被告人 は時速約122 ㎞であった。 一方通行の開始地点から事故発生現場までの間に、幅や被告人車両の通行可能性は明らかではないが、被告人の進行方向右側に2 つ、左側に1 つ道路があった。被告人が本件交差点を越えて進入しようとしていた道路も、それまでの進行道路と同等の幅の一方通行道路である。 当時、降雨はなく、路面が濡れているといった事情はなかった。 2 通行妨害目的での通行中の車への著しい接近検察官は、被告人が交差道路を通行する自動車等の通行を妨害する目的で交差道路を右方から進行してきた被害者車両に著しく接近させた旨の公訴事実を主張する。 もっとも、被告人が衝突直前まで交差点があることを認識しておらず、被害者車両が接近していることを認識していなかったことに争いはなく、証拠から優に認定する ことができる。検察官は、その上で、被告人は車の自由かつ安全な通行の妨害を来す のが確実であることを認識していたと主張するが、本件において被告人がそのような確実な認識や目的を有していたと認めることはできない。 3 進行制御困難な高速度⑴ 意義自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2 条2 号にいう「進 行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるために自車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、具体的には、そのような速度で走行を続ければ、道路の形状、路面の状況などの道路の状況、車両の構造、性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることとなるような速度をいうと解されており、 両当事者もこれによっており、当裁判所もこの解釈に異論はない(判断の基礎となる「道路の状況」には、道 って、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることとなるような速度をいうと解されており、 両当事者もこれによっており、当裁判所もこの解釈に異論はない(判断の基礎となる「道路の状況」には、道路に設置された電柱や街路灯、道路両側の建造物等の道路周辺の設備等の状況を含むと解される。)。 立法当時、進行制御困難な高速度については、個々の歩行者や通行車両とは関係がなく、進路に沿って自車をコントロールすることができるかどうかによって判断され る旨の議論がされていた。これは、進行制御困難な高速度該当性の判断に当たっては、道路や自車の状況等を考慮するが、他の走行車両や歩行者等の他の交通主体の状況は考慮するものではないことをいうものと解される。もっとも、他の交通主体の状況を考慮するものではないからといって、道路や自車の状況等を考慮して進行制御困難な高速度に当たると認められる場合に、衝突の対象が他の交通主体であったことによっ て、その高速度の性質や評価が変わるとは考え難い。そうすると、他の交通主体と衝突した場合に危険運転致死傷罪の成立が否定されることがあり得るのは、その場合、進行制御困難な高速度に当たらないことになるからではなく、進行制御困難な高速度による危険運転行為と事故発生との間の因果関係が認められないことになることによると解される。 ⑵ 進行制御困難な高速度該当性本件道路は、車道の幅約2.8m、本件交差点に近接した地点では幅約2.65m の狭隘な一方通行の直線道路であり、幅約1.5m の路側帯には車線を示す白線の中央から約0.73m から約1.15m の位置に電柱や街路灯が設置され、路側帯外側には住宅等の建物が立ち並んでいたものであって、最高速度が時速30 ㎞に制限されているの もそのような環境 線の中央から約0.73m から約1.15m の位置に電柱や街路灯が設置され、路側帯外側には住宅等の建物が立ち並んでいたものであって、最高速度が時速30 ㎞に制限されているの もそのような環境によるものと考えられる。 被告人は、そのような道路を、幅約184 ㎝の車両で、本来の進行方向での制限速度を基準としたとしても90 ㎞以上超過する時速約125 ㎞、すなわち秒速約34.72m で走行したものである。車両と車線との間の余裕は車両の両側合計で約81 ㎝から100㎝であったのであり、道路の両脇共に街路灯等が設置された地点もあるから、速度及 び周辺の設備等との間隔に照らして、被告人が周囲の物の存否や変化を認識できる範囲は相当限定されていたと考えられる上、ごく短時間前方の注視を怠ったりわずかにハンドルを誤操作したりしたのみでも車線を逸脱するなどする状況にあったし、そのような事態となった場合に、路側帯の電柱や街路灯、道路脇の建物等への衝突を回避するための措置を講ずることは到底困難な状況にあったことは優に認められる。 弁護人は、被告人が一方通行開始地点から衝突地点まで車線から逸脱することなく直進することができたことを指摘するが、進路から逸脱したことは進行を制御することが困難な高速度であることを推測させる事情となり得るが、逸脱しなかったからといって進行を制御することが困難な高速度に当たらないこととなるわけではないことは、条文の文言から明らかである。 よって、被告人の交差点進入時の速度は、進行を制御することが困難な高速度に当たる。 ⑶ 因果関係以上のとおり、被告人の走行は、狭隘さ等の道路状況と時速約125 ㎞の速度の大きさに照らして、進行方向に関わらず、道路の湾曲、電柱や街路灯及び建物等の道路状 況を る。 ⑶ 因果関係以上のとおり、被告人の走行は、狭隘さ等の道路状況と時速約125 ㎞の速度の大きさに照らして、進行方向に関わらず、道路の湾曲、電柱や街路灯及び建物等の道路状 況を認識することや、わずかなミスによって周囲の状況に応じて自車をコントロール することが困難となる度合いの大きいものであって、そのために事故を発生させることとなる危険は特に高いものであったと認められる。 被告人は、一方通行道路に逆方向に進入したのであるから、直ちに停止すること又は徐行して直近の側道等に進入して一方通行道路から離脱すること等が求められ、そのような道路状況に即した運転をしていれば本件事故を回避することができたと考 えられる。本件衝突は、被害者車両の速度の目算を誤ったことや、優先道路である交差道路を進行してくる車両があり得ることについて予測を誤ったことによって生じたのではなく、本件道路を逆走して時速約125 ㎞で走行したことによって、周囲の状況を認識できる範囲が限定され、衝突回避の措置を講ずることも到底困難な状況を設定した被告人の危険運転行為の危険が現実化して本件事故が生じたものということ ができる。被告人が一方通行開始地点から本件交差点まで車線から逸脱することなく直進することができたことを考慮しても、この判断は揺らがない。 被告人は、停止や徐行もせず、側道からの離脱を模索することもなかったから、高速度運転をすることを強く決意していたことが明らかであり、周囲の状況に応じて衝突等を回避することはおよそ期待できない状況であったと認められ、そのことはこの 認定を補強する。 よって、被告人の進行制御困難な高速度による危険運転行為と本件事故との間の因果関係が認められる。 ⑷ 一方通行道路進入から衝突地点までの走 認められ、そのことはこの 認定を補強する。 よって、被告人の進行制御困難な高速度による危険運転行為と本件事故との間の因果関係が認められる。 ⑷ 一方通行道路進入から衝突地点までの走行検察官は、一方通行道路進入から衝突地点までの走行及び加速の状況も危険運転の 公訴事実として主張するが、衝突地点付近の走行が進行制御困難な高速度と認められるときは、それまでの走行が進行制御困難な高速度と認められるとしても、その段階の運転行為は犯罪の成立に不可欠ではないし、本件事故との因果関係を認めるには疑いも残るから、この段階の運転行為は危険運転行為とは認定しない。 4 結論 被告人は、道路の状況や自己の高速度走行の状況を認識した上で本件運転をしたも のであり、故意に欠けるところもないから、進行を制御することが困難な高速度による危険運転致死罪が成立すると認められる。 第4 適用法令罰条第1 の1令和6 年法律第34 号による改正前の道路交通法 117 条の2 の2 第1 項3 号、65 条1 項、道路交通法施行令44 条の3第1 の2 令和4 年法律第68 号による改正前の自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条2 号 刑種第1 の1 につき懲役刑併合罪令和4 年法律第67 号2 条による改正前の刑法45条前段、47 条本文(重い第1 の2 の罪の刑に同条ただし書の制限内で加重) 未決勾留日数の算入刑法21 条 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181 条1 項ただし書第5 量刑の理由被告人は、酒気を帯びた状態で、住宅等が立ち並ぶ狭隘な一方通行の直線道路を100m以上にわたって逆 1 条 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181 条1 項ただし書第5 量刑の理由被告人は、酒気を帯びた状態で、住宅等が立ち並ぶ狭隘な一方通行の直線道路を100m以上にわたって逆走して加速した末、時速約125 ㎞で交差点内に進入し、交差する優先道路を走行中の被害者の車両に自車を衝突させて被害者に傷害を負わせて 死亡させたものである。その運転は、交通ルールを意に介さない無謀なものである。 被告人は、一方通行道路に進入したことから焦って早くその出口まで到達しようと加速した旨供述するが、一方通行道路に進入する前から加速し始めたことや、進入した後も被告人や同乗者に表情の変化その他の反応はなかったことに照らすと、同供述は信用し難く、被告人は、何らの必要性や緊急性もないのに、強い決意で無謀な高速度 運転に及んだというほかない。被害者にとって、逆走してくる被告人車両を予見し警 戒することは不可能であり、落ち度のない被害者の生命が奪われたのは理不尽である。 そうすると、被告人の刑事責任は誠に重大であり、保険により相応の賠償がされることが確実であり、物損についても支払済みであることは大きく考慮すべきであるし、被告人が、被害者や遺族の心情を想像した上で、自己の判断の誤りや交通ルールを遵守することの重要性について考えを深めていることが認められるが、故意の行為によ り被害者を死亡させた事件を行った当時18 歳の少年であった被告人について、保護処分を相当とする理由は認められず、主文掲記の厳罰は免れない。 (求刑:懲役9 年、予備的訴因が成立するに留まる場合懲役6 年。弁護人の科刑意見:家庭裁判所へ事件の移送)令和7 年9 月19 日 さいたま地方裁判所第2刑事部 的訴因が成立するに留まる場合懲役6年。弁護人の科刑意見:家庭裁判所へ事件の移送 令和7年9月19日 さいたま地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官 江見健一 裁判官 林寛子 裁判官 古関大樹

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