判決平成14年3月20日神戸地方裁判所平成12年(わ)第1318号補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反,詐欺被告事件 主文 被告人を懲役1年6月に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,医療機器等の販売や医療コンサルタントを業とする有限会社Aの代表取締役であるが,同社においてその業務の委託を受けていた,兵庫県a市b町字cd番eに主たる事務所を置き,特別養護老人ホーム,ケアハウス,老人デイサービスセンターB型,在宅介護支援センター併設の社会福祉施設「B」を開設しようとしていた社会福祉法人「C」の業務に関し,「B」を新築するに際し,D県から,国庫補助金を財源の一部とする社会福祉施設等施設整備費補助金(以下「間接補助金」という。)及びD県独自の財源による民間社会福祉施設整備特別助成事業補助金(以下「D県単独補助金」という。)の交付を受けるに当たり,水増し請求をして不正に上記各補助金の交付を受けようと企て,「C」の理事長(登記簿上は「理事」)としてその業務全般を統括していたE,主に建築工事請負業を営むF株式会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたG,H病院の経営者I,Fの常務取締役Jらと共謀の上,第1 平成10年1月30日ころ,神戸市f区g通h丁目i番j号所在のD県福祉部高年福祉課において,同県知事にあて,「B」施設創設事業に係る平成9年度分の間接補助金等の交付申請をするに当たり,真実は,Fの請け負った同施設の新築工事請負代金総額が10億0942万2000円(消費税込み)であ おいて,同県知事にあて,「B」施設創設事業に係る平成9年度分の間接補助金等の交付申請をするに当たり,真実は,Fの請け負った同施設の新築工事請負代金総額が10億0942万2000円(消費税込み)であるのに,水増しして11億3022万円(前同)であると仮装するなどし,これに基づいて算出される同年度分の間接補助金が合計3億9148万4000円で,同じくD県単独補助金が合計8316万5000円であるとする内容虚偽の補助金交付申請書7通を提出した上, 1 前記交付申請に係る施設に関する所定の工事の一部しか完了しなかったことから,平成10年3月24日ころ,前記D県福祉部高年福祉課において,同知事にあて,前同様,内容虚偽の事業内容変更申請書に基づく補助金請求書7通を提出し,補助金額の算定等の審議を担当する同課職員福壽格らをして,前記補助金交付申請書,事業内容変更申請書等関係書類の記載内容が真実のものであると誤信させた上,同人らを介し,同知事の権限に属する前記事務についての専決権者である同課課長Kらをして,その旨誤信させ,よって,同日ころ,Kをして,前記補助金請求額どおり,間接補助金及びD県単独補助金を概算交付する旨決定をさせ,同月31日,その決定に基づき,同県副出納長Lらをして,大阪府k市lm丁目n番0所在の株式会社M銀行N支店に開設された「C」名義の普通預金口座に前記間接補助金1億6639万6000円及びD県単独補助金3571万7000円をそれぞれ振込送金させ,もって,偽りその他不正の手段により,間接補助金1億6639万6000円の交付を受けるとともに,Kらを欺いてD県単独補助金3571万7000円を交付させた 2 同年7月22日ころ,前記所在のD県健康福祉部長寿社会課において,同知事にあて,前同様,前記交付申請に係る施設に関する所定の工 もに,Kらを欺いてD県単独補助金3571万7000円を交付させた 2 同年7月22日ころ,前記所在のD県健康福祉部長寿社会課において,同知事にあて,前同様,前記交付申請に係る施設に関する所定の工事を実施した旨の内容虚偽の補助事業実績報告書7通を提出し,補助金額の算定等の審議を担当する同課職員Oらをして,前記補助金交付申請書,補助事業実績報告書等関係書類の記載内容が真実のものであると誤信させた上,同人らを介し,同知事の権限に属する前記事務についての専決権者である同課課長Pらをして,その旨誤信させ,よって,同年10月2日ころ,Pをして,平成9年度分の間接補助金が合計3億9002万1000円で,同じくD県単独補助金が合計8316万5000円である旨の各補助金交付確定決定をさせるとともに,前記各概算交付額を控除した残額を交付する旨の決定をさせ,平成10年10月22日,その決定に基づき,前記Lらをして,前記「C」名義の普通預金口座に前記間接補助金2億2362万5000円及びD県単独補助金4744万8000円をそれぞれ振込送金させ,もって,偽りその他不正の手段により,間接補助金2億2362万5000円の交付を受けるとともに,Pらを欺いてD県単独補助金4744万8000円を交付させた第2 同年8月10日ころ,前記D県健康福祉部長寿社会課において,同県知事にあて,前同様「B」施設創設事業に係る平成10年度分の間接補助金等の交付申請をするに当たり,工事が一部不要となり工事請負代金を減額した結果,真実は,同施設の新築工事請負代金総額が9億9367万2000円(消費税込み)であるのに,水増しして11億1447万円(前同)であると仮装するなどし,これに基づき算出される同年度分の間接補助金が合計1億8723万4000円で,同じくD県単独補助金が合計362 (消費税込み)であるのに,水増しして11億1447万円(前同)であると仮装するなどし,これに基づき算出される同年度分の間接補助金が合計1億8723万4000円で,同じくD県単独補助金が合計3626万3000円であるとする内容虚偽の補助金交付申請書7通を提出した上,同年9月30日ころ,同所において,同知事にあて,前同様,前記交付申請に係る施設に関する所定の工事を実施した旨の内容虚偽の補助事業実績報告書7通を提出し,前記Oらをして,前同様誤信させた上,同人らを介し,前記Pらをして,その旨誤信させ,よって,平成11年2月23日ころ,Pをして,平成10年度分の間接補助金が合計1億8723万4000円で,同じくD県単独補助金が合計3582万6000円(補助対象外工事の誤算入分除外のため一部減額)である旨の補助金交付確定決定をさせ,平成11年2月26日,その決定に基づき,前記Lらをして,前記「C」名義の普通預金口座に前記間接補助金1億8723万4000円及びD県単独補助金3582万6000円をそれぞれ振込送金させ,もって,偽りその他不正の手段により間接補助金1億8723万4000円の交付を受けるとともに,Pらを欺いてD県単独補助金3582万6000円を交付させたものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明等) 1 弁護人は,被告人は本件各補助金の不正受給及び各詐欺の計画や実行に関与していないのであるから,被告人は無罪であるし,仮に,有罪であるとしても,本件各補助金の不正受給及び各詐欺の計画や実行など事件の重要部分に関係した者らが不起訴処分になっているのに,前記のような被告人を起訴したのは公訴権を濫用したものであるから,本件公訴は棄却されるべきである旨主張する。 しかしながら,以下に述べるとおり,被告人は,本件各補助金の不正受 分になっているのに,前記のような被告人を起訴したのは公訴権を濫用したものであるから,本件公訴は棄却されるべきである旨主張する。 しかしながら,以下に述べるとおり,被告人は,本件各補助金の不正受給及び各詐欺について,共同正犯としての責任を免れないし,また,本件公訴を公訴権を濫用したものとして棄却すべき理由も存しない。 2 まず,前掲各証拠によれば,以下の事実が間違いのないものとして認められる。 すなわち,① 医師であるEは,平成7年ころから,兵庫県a内にある父親名義の土地約2000坪を利用して,老人福祉施設を建設して経営したいと考えるようになったが,自己資金がなかったことから,先輩の医師でQ病院の院長のRに,そのような条件で老人福祉施設の建設経営ができるかどうかを相談したところ,同年末ころ,Rから,大阪府k市内にあるH病院の経営者のIを紹介される一方,Rから,Iの話のよく分からないところを分かり易く説明する役として,医療機器等の販売や医療コンサルタントを業とする有限会社Aの代表取締役である被告人を紹介されて,平成8年1月ころまでに,単独あるいは被告人とともに,Iから,特別養護老人ホームであれば補助金がたくさん交付され需要もかなりあることや,建設資金は国や県の補助金,社会福祉医療事業団(以下「事業団」という。)からの借入金及び自己資金で構成されるが,自己資金がないのなら,架空の工事代金を上乗せした工事代金をもとに県に補助金を申請してその分を賄えるようにすればよいことなどの説明を受け,そのような方法によって,特別養護老人ホーム等(以下「B」という。)を建設し経営したいと考えるようになったこと② 被告人は,平成8年5月ころからは,Eの依頼を受けて,「B」建設に必要な地元関係者の同意書を得ることなどの活動をし,その間,「B」 「B」という。)を建設し経営したいと考えるようになったこと② 被告人は,平成8年5月ころからは,Eの依頼を受けて,「B」建設に必要な地元関係者の同意書を得ることなどの活動をし,その間,「B」建設に絡んで,建築設計等を業とする株式会社S建築事務所の取締役で一級建築士のT等を紹介されていたところ,同年7月ころまでに,Iの経営する老人ホーム「U」において,被告人,E,I,T,S建築事務所の一級建築士V,主に建築工事請負業を営み,「B」建設工事の請負を望んでいるF株式会社の専務取締役W及び同社常務取締役Jが集まり,Jから資金計画案が示され説明がなされたが,その内容は,工事代金,備品代,設計料を合計した総事業費を12億6170万円として,補助金を7億4850万円受け,事業団借入金を3億8420万円とすると,自己資金の額は1億2900万円必要ということになるけれども,Fが総事業費算出の根拠とした工事代金より1億2900万円少ない10億2270万円で実際に工事を請け負えば,補助金と事業団借入金の合計で備品代,設計料の合計1億1000万円も賄え,Eの自己資金分の負担がなくなるなどというものであり,そのような枠組みで今後の計画を進めることについての合意がなされたこと③ 「B」建設には,建設経営主体である社会福祉法人「C」の設立,事業団からの借入,補助金の交付申請等の手続が必要であって,被告人においては,従前からの地元関係者との折衝等に加え,平成8年12月ころから,「C」の設立や事業団からの借入のための手続書類の作成等に取りかかり,Vにおいては,補助金の交付申請に必要な協議書の作成等に取りかかっていたが,平成9年2月ころ,被告人及びVにおいて,Eに対し,「B」建設の資金計画が,実際の工事代金より水増した建築工事代金をもとに補助金の交付を申請 金の交付申請に必要な協議書の作成等に取りかかっていたが,平成9年2月ころ,被告人及びVにおいて,Eに対し,「B」建設の資金計画が,実際の工事代金より水増した建築工事代金をもとに補助金の交付を申請し,本来交付を受けられる補助金より多くの補助金の交付を受け,それによってEの自己負担分を賄うという,不正なものであって,下手をすると逮捕されかねない行為であることを伝えて,「B」建設計画をそのまま進めるのか中止するのかの決断を迫ったものの,Eがこのまま進めることを決意したことから,被告人及びVにおいても,それぞれ予定どおり上記の各手続を進めることとし,その過程では,「C」の設立,事業団からの借入,補助金の交付申請のいずれの手続においても,Eの自己負担分についての資力を証明するための銀行預金の残高証明書等が必要となったが,Eにはそれだけの預金がなかったことから,その都度,見せ金にするための金員をFから一時的に借り受けて,E名義の預金口座に入金することなどを繰り返していたところ,被告人においては,補助金の交付申請に関して,前記協議書に添付する内容虚偽の書類である,Eから「C」に対する自己負担分の贈与契約書にEの印をもらってVに渡したり,「C」の設立に関して,平成9年12月10日には,前記の見せ金を入金したEの銀行預金の残高証明書を入手して提出したり,事業団からの借入に関して,Eから「C」に対する自己負担分の1億2000万円余の贈与契約の実行が手続上必要になったことから,平成10年2月2日には,自らFに出向いて,Jに対し,見せ金にするための金員をFからE名義の預金口座に入金してもらい,それをEが「C」に寄付をした形にした後,Fに水増し分の建築工事代金として支払うことを説明して,E名義の預金口座への入金を依頼し,その金員によってEが「C」に寄付を 名義の預金口座に入金してもらい,それをEが「C」に寄付をした形にした後,Fに水増し分の建築工事代金として支払うことを説明して,E名義の預金口座への入金を依頼し,その金員によってEが「C」に寄付をしたように偽装するなどしていたこと④ 「B」建設については,平成9年6,7月ころにD県からEに対して,補助金について国の内示があったことが伝えられ,同年8月ころ,設計書が完成し,同年9月24日には入札が行われて,予定どおりFが11億3022万円(消費税込み)で落札し,同年10月7日付けで建築確認がおりたことから,同年11月1日から工事が開始されるとともに,同月7日付けで「C」とFの間で工事請負契約書が作成され,また,「C」の設立については,D県知事の設立認可を受けて,平成10年1月27日付けで正式に法人として成立し,更に,事業団からの借入については,同年2月25日に「C」の預金口座に3億8700万円の振込入金がなされる一方,Vにおいては,Eの依頼を受けて,判示のとおり,本件各補助金の交付申請等の手続を行い,その各交付を受けたこと⑤ 被告人は,平成8年10月ころ,Eと話し合って,「C」と被告人の経営するAとの間に業務委託契約を締結し,「B」建設等に関して委託する業務の範囲,手数料を月50万円とすること,「B」竣工時の特別報酬を1000万円とすること,「C」の医療用機器等の購入窓口をAとし,その際の納入価格を原価の12パーセント増しの価格とすること等を決めていたが,平成9年6月1日に業務委託契約書や覚書を作成した際にその契約内容を一部変更した後,同年9月1日までには,「B」竣工時の特別報酬1000万円については,「C」のS建築事務所に対する設計料を4000万円から5000万円に増額して,S建築事務所からAに増額分の1000万円を支払う ,同年9月1日までには,「B」竣工時の特別報酬1000万円については,「C」のS建築事務所に対する設計料を4000万円から5000万円に増額して,S建築事務所からAに増額分の1000万円を支払う方法によることとし,「C」の医療用機器等の購入窓口をAとすることに関しては,被告人が「C」の事務長となる関係上好ましくないため削除することなどの変更をする一方,S建築事務所がAに対して官公庁各種手続及び許可申請に係る折衝・書類作成業務一式を1000万円で委託する旨の発注書や請書を作成し,実際にも,Aは,S建築事務所が「C」から支払いを受けた中から,平成10年3月3日に703万5000円,同年10月27日に346万5000円の各支払い(いずれも消費税込み)を受け,また,被告人においては,「C」設立前には設立事務局を名乗り,「C」設立後はその事務長となって活動し,「C」設立前には月10万円から30万円,「C」設立後には月30万円から50万円の報酬を得ていたことなどが間違いのない事実として認められる。 3 以上の事実によれば,なるほど,被告人は,本件各補助金の不正受給及び各詐欺の計画を提案したり,その各申請等の実行行為を直接行ったものでないことが明らかである。 しかしながら,本件各補助金の不正受給及び各詐欺は,「B」建設に係る補助金に関して犯されたものであるが,「B」建設のためには,その建設経営主体となる社会福祉法人である「C」を設立するとともに,本件各補助金の交付を受け,事業団からの借入を行うことが絶対的に必要であって,そのいずれが欠けても「B」は建設できなかったのであり,本件各補助金の交付や事業団の貸付も「C」に対してなされているものであるところ,被告人は,Fが請け負う工事代金を実際の工事代金より水増しして補助金の交付を不正に多く受 」は建設できなかったのであり,本件各補助金の交付や事業団の貸付も「C」に対してなされているものであるところ,被告人は,Fが請け負う工事代金を実際の工事代金より水増しして補助金の交付を不正に多く受けEの自己資金の負担をなくすとの計画の下に,「B」建設が進められていることを十分知りながら,「C」の設立や事業団からの借入の手続を中心になって行い,その際には,D県や事業団に対して,Eが「C」に対して1億円余の贈与をするあるいは寄付をしたと偽装したり,Eが見せ金にするためにFから一時的に借り受けて入金した銀行預金の残高証明書を提出したりなどしているのであって,その贈与や寄付が偽りであり,銀行預金が見せ金であることが分かっていれば,D県知事が「C」設立の認可をすることはなく,また,事業団が「C」に対して貸付をすることもあり得なかったであろうと思われ,そうであれば本件各補助金の交付を受けることも不可能であったと考えられる。 そして,被告人は,「C」と被告人の経営するAとの間に「B」建設等に関して業務委託契約を締結するなどして,「C」設立前は設立事務局を名乗り,また「C」設立後はその事務長となって活動し,月10万円から50万円の報酬を得,「B」竣工時には特別報酬1000万円を受け取るなど,「B」建設に深く関わるとともに,それによって経済的な利益を得ていたものであり,しかも,「C」の資金が補助金と事業団からの借入金から構成されているものであることからすれば,「B」竣工時の特別報酬1000万円の一部(特に,平成10年10月27日入金の346万5000円)は,本件各補助金の不正受給及び各詐欺によって得られた金員から支払われたものとみざるを得ないし,被告人にもそのことはその契約の当時から分かっていたと考えられるのである。 してみると,「C」の は,本件各補助金の不正受給及び各詐欺によって得られた金員から支払われたものとみざるを得ないし,被告人にもそのことはその契約の当時から分かっていたと考えられるのである。 してみると,「C」の設立や事業団からの借入における被告人の上記のような行為は,それ自体,本件各補助金の不正受給及び各詐欺によってEの自己資金の負担をなくすことを前提としながら,Eから自己資金を贈与しあるいは寄付があったと偽るという点において,不正なものを含んでいるとともに,本件各補助金の不正受給及び各詐欺に必要不可欠なものであったし,被告人はそのことを十分認識していながらこれに加担して自らの役割を果たしたといわざるを得ないのであるから,被告人が本件各補助金の不正受給及び各詐欺の計画や実行に関与していないから無罪であるなどという,弁護人の前記主張は失当というほかない。むしろ,これらを併せ考えれば,被告人は,本件各補助金の不正受給及び各詐欺を含む一連の計画に主体的に加わって重要な役割を果たし,そこから利益をも得ていたものであるから,単に,Eらによる本件各補助金の不正受給や各詐欺の実行を容易にしてこれを幇助したに止まらず,自らも正犯としてそれに加担をしたものと認めるのが相当である。 弁護人は,②の「U」における集まりの際の話によっては,被告人が「B」建設の資金計画が補助金の不正受給を含むものであることについて認識するに至らなかったことや,③の平成9年2月ころ,被告人及びVにおいて,Eに対し,「B」建設の資金計画が補助金の不正受給を含むものであることを説明して,不正行為を止めるように諫言したことを主張して,被告人に本件各補助金の不正受給及び各詐欺罪が成立しないことの論拠としている。しかし,仮に,弁護人の上記主張を前提としても,被告人が,本件各補助金の不正受給及び各 止めるように諫言したことを主張して,被告人に本件各補助金の不正受給及び各詐欺罪が成立しないことの論拠としている。しかし,仮に,弁護人の上記主張を前提としても,被告人が,本件各補助金の不正受給及び各詐欺の実行行為の行われる約1年も前から,「B」建設の資金計画が補助金の不正受給を含むものであることを知っていたことになるのであって,被告人に対する本件各補助金の不正受給及び各詐欺罪の成否は,前示のとおり,被告人が,「B」建設の資金計画が補助金の不正受給を含むものであることを認識しながら,「B」建設にどのように関わって,本件各補助金の不正受給及び各詐欺にどのような役割を果たし,それによってどのような利益を得たのか等によって決せられるべきものであるから,弁護人の上記主張は,被告人に対する本件各補助金の不正受給及び各詐欺罪の成立を否定するための論拠とはなり得ないものである。 そして,弁護人がその他縷々主張するところをみてみても,被告人に対する本件各補助金の不正受給及び各詐欺罪の成立を否定すべき理由は見当たらない。 4 また,本件各補助金の不正受給及び各詐欺は相当に重大な犯罪であって,被告人がその中で果たした役割等も決して小さなものではなかったのであるから,他の共犯者の中に不起訴処分になったものがあるからといって,被告人に対する本件公訴を公訴権を濫用したものであるなどというのも当たらない。 (法令の適用)罰条各補助金の不正受給の点いずれも刑法60条,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項,32条1項各詐欺の点いずれも刑法60条,246条1項観念的競合の処理刑法54条1項前段,10条(それぞれ1罪として重い各詐欺罪の刑で処断)併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条( いずれも刑法60条,246条1項観念的競合の処理刑法54条1項前段,10条(それぞれ1罪として重い各詐欺罪の刑で処断)併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第1の2の罪の刑に法定の加重)宣告刑懲役1年6月刑の執行猶予刑法25条1項(3年間)訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の事情)本件は,被告人が,E,G及びIらと共謀の上,特別養護老人ホーム「B」建設に対する間接補助金等の交付申請にあたり,その新築工事請負代金を水増しして申請し,2年度にわたり,間接補助金合計5億7725万円余りの交付を不正に受けるとともに,D県単独補助金合計1億1899万円余りを詐取したいう事案である。 被告人らは,特別養護老人ホーム等の福祉施設の新築工事に対して多額の補助金が交付されることを利用し,Gが代表取締役をしていたFが特別養護老人ホームの新築工事を表向きの請負代金よりずっと低い請負代金で請け負うことに予め決めておき,内容虚偽の補助金交付申請書類等を提出するなどして,本来交付を受けられる以上の補助金の交付を受けたものであって,本件は計画的な犯行である上,補助金の不正受給ないし詐欺に係る実被害額は合計3531万円と多額であるから,本件各犯行の結果は重いというほかない。 被告人は,「B」建設計画が,新築工事請負代金を水増しし,本来交付を受けられる以上の補助金を不正に受給することによって,Eに自己資金を負担させることなく,「B」建設を実現しようとするものであることを認識しながら,補助金の不正受給に必要不可欠な社会福祉法人「C」の設立や事業団からの借入の手続等を中心になって行い,そのことをも含めて「C」から少なからぬ報酬を得ていたのであ うとするものであることを認識しながら,補助金の不正受給に必要不可欠な社会福祉法人「C」の設立や事業団からの借入の手続等を中心になって行い,そのことをも含めて「C」から少なからぬ報酬を得ていたのであるから,被告人の刑事責任は軽くないというべきである。 しかしながら,特別養護老人ホーム「B」建設自体は社会的に有用なものであること,被告人は,本件各補助金の不正受給及び各詐欺の計画を提案したり,その各申請等の実行行為を直接行ったりしたものではなく,その計画や実行の中心的役割を果たしたのはI,建築事務所及びFの各担当者らであり,それによって最大の利益を得たのはEであること,本件発覚後,「C」からD県に対して補助金の不正受給等分の返還金やその加算金が納付されており,本件各犯行による実被害が既に回復していること,被告人にはこれまで道路交通法違反罪による罰金以外に前科がないことなどの,被告人のために酌むべき事情も認められる。 そこで,これらの事情を総合考慮し,被告人に対して,主文の刑に処した上,今回はその刑の執行猶予の言渡しをすることとする。 (検察官の科刑意見懲役2年)よって,主文のとおり判決する。 平成14年3月20日神戸地方裁判所第12刑事係甲裁判官森岡安廣
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