令和3(う)273 銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反

裁判年月日・裁判所
令和6年3月12日 福岡高等裁判所 福岡地方裁判所
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判決文本文61,732 文字)

1令和6年3月12日宣告令和3年(う)第273号主 文原判決中、被告人Xに関する部分を破棄する。 被告人Xを無期懲役に処する。 5被告人Xに対し、原審における未決勾留日数中900日をその刑に算入する。 本件公訴事実中、平成26年10月2日付け起訴に係る殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実については、被告人Xは無罪。 被告人Yの本件控訴を棄却する。 10被告人Yに対し、当審における未決勾留日数中700日を原判示第1の罪の刑に算入する。 理 由第1 控訴の趣意主任弁護人A1、弁護人A2及び同A3の控訴趣意は、原判決が元組合長事件、15元警察官事件、看護師事件及び歯科医師事件と呼称する全ての事件(以下「本件全事件」といい、元組合長事件を除く3つの事件を「本件3事件」という。)について、被告人両名に関し、原判決には共謀の説示等について理由不備がある、というほか、被告人Xに関し、本件全事件について共謀を認めた原判決には事実誤認がある、被告人Yに関し、元組合長事件及び元警察官事件につき共謀を認めた点並びに20看護師事件及び歯科医師事件につき殺意を認めた点で、原判決には事実誤認がある、というものである。これに対する検察官の答弁は、被告人両名に関する控訴趣意には理由がないから、本件各控訴はいずれも棄却されるべきである、というものである(なお、甲1連合甲2一家については特に必要のある場合を除き代替わりの前後を問わず甲1連合といい、甲1會及び甲3組については代替わりの前後で区別す25る。)。 2第2 事案の概要等1 甲1會及び甲3組について原判決が適法に認定したところによれば、甲1會の沿 甲1連合といい、甲1會及び甲3組については代替わりの前後で区別す25る。)。 2第2 事案の概要等1 甲1會及び甲3組について原判決が適法に認定したところによれば、甲1會の沿革として、甲1会と甲2一家が合併して甲1連合甲2一家が結成され、その後、二代目甲1連合甲2一家、三代目甲1會、四代目甲1會、五代目甲1會と代替わり及び改名が行われた。元組合5長事件は二代目甲1連合甲2一家のとき、本件3事件は五代目甲1會のときに発生している。甲1連合及び五代目甲1會における主な役職の序列は上から甲1連合が総裁、総長、若頭、専務理事、常任理事、理事、幹事などと続き、五代目甲1會が総裁、会長、理事長、(中略)、上席専務理事、専務理事、常任理事、理事、幹事と続く。なお、五代目甲1會の総裁は会長引退後の名誉職であり実権を有していない10か否かにつき争いがある。 甲3組は、甲1連合及び甲1會の二次団体であり、元組合長事件のときは二代目甲1連合甲2一家三代目甲3組、本件3事件のときは五代目甲1會五代目甲3組であった。甲3組の主な役職の序列は上から組長、若頭、本部長、幹事長などと続く。なお、甲3組出身者で別の組の組長となって甲1連合ないし甲1會の二次団体15あるいは三次団体を構成する者(いわゆる甲3組一門)もいた。 2 本件全事件の概要本件は、被告人両名が次の事件の共謀共同正犯として起訴された事案である。 ⑴ 元組合長事件(原判示第1。殺人及び拳銃発射。平成26年10月2日付け起訴)20平成10年2月18日、北九州市a1区所在のi漁協の元組合長である男性が拳銃で射殺された事件⑵ 元警察官事件(原判示第2。組織的殺人未遂、組織的拳銃発射及び組織的拳銃加重所持)平成24年4月19日、現役時代に甲1連合又は 1区所在のi漁協の元組合長である男性が拳銃で射殺された事件⑵ 元警察官事件(原判示第2。組織的殺人未遂、組織的拳銃発射及び組織的拳銃加重所持)平成24年4月19日、現役時代に甲1連合又は三代目若しくは四代目甲1會の25事件の捜査を担当していた元警察官の男性が拳銃で撃たれて傷害を負った事件 3⑶ 看護師事件(原判示第3。組織的殺人未遂)平成25年1月28日、被告人Xの担当看護師であった女性が刃物で刺されるなどして傷害を負った事件⑷ 歯科医師事件(原判示第4。組織的殺人未遂及び不正権益維持・拡大目的殺人未遂)5平成26年5月26日、上記元組合長の孫であり、歯科医師である男性が刃物で刺されるなどして傷害を負った事件3 原判決の結論及び当審の審理状況原審において、被告人両名は、本件全事件について共謀等の事実を争って無罪を主張したが、原判決は、公訴事実にある確定的殺意を認定せずに未必的な殺意を認10定するなど若干の変更はあるものの、全ての事件につき、公訴事実(元警察官事件及び歯科医師事件については訴因変更後のもの)とほぼ同旨の各事実を認定し、被告人両名を有罪とした。その上で、原判決は、被告人Xについて死刑(処断罪は元組合長事件の殺人)を、被告人Yについて、元組合長事件と本件3事件との間に確定裁判が存在することから、元組合長事件について無期懲役、本件3事件について15も無期懲役の刑をそれぞれ科した。 当審において、弁護人は、被告人Xに関しては原審と同様に本件全事件について共謀等を争い無罪を主張しているものの、被告人Yに関しては元組合長事件及び元警察官事件について原審と同様に無罪を主張する一方で、看護師事件及び歯科医師事件については被告人Yが配下組員に対し傷害を負わせる旨の指示をした事件で ているものの、被告人Yに関しては元組合長事件及び元警察官事件について原審と同様に無罪を主張する一方で、看護師事件及び歯科医師事件については被告人Yが配下組員に対し傷害を負わせる旨の指示をした事件であ20ったとし、傷害罪の限度での共謀(被告人Xとの共謀を除く。)を認める主張をしている。当裁判所は、被告人両名の被告人質問を実施したが、各被告人とも上記の内容の供述をした。また、当裁判所は、原審において証人請求がなされず取り調べられていなかった元組合長事件の実行犯であるB1の証人尋問も実施したが、B1は、B1自身を被告人とする裁判で実行犯であることを否認していた供述を翻し、25自分が実行犯であることを認める証言をした。 44 当裁判所の判断の概要当裁判所は、①原判決に理由不備はない、②本件3事件については、一部に誤りや不合理な説示内容があるものの、被告人両名に関し故意(殺意)及び共謀を認めた結論に誤りは認められない、しかし、③元組合長事件については、被告人Yの共謀を認めた結論に誤りはない一方、被告人Xの共謀を認めた原判決の判断は、論理5則、経験則等に照らし是認することができず、破棄を免れない、と判断した。 以下では、まず理由不備の論旨を検討し(第3)、次に本件3事件に係る判断(第4ないし第7)を先に行い、最後に元組合長事件に係る判断(第8)をした上で結論(第9)を述べる。 第3 理由不備の論旨について10論旨は、本件全事件につき、共謀又は殺意を認定した原判決の説示には理由不備がある、というのである。 1 所論は、本件全事件につき、被告人両名と実行犯らとの間の共謀を認めた原判決において、共謀の日時、場所、方法、内容の詳細及び明示又は黙示の別が説示されていない、という。 15しかし、この点は、刑訴法4 本件全事件につき、被告人両名と実行犯らとの間の共謀を認めた原判決において、共謀の日時、場所、方法、内容の詳細及び明示又は黙示の別が説示されていない、という。 15しかし、この点は、刑訴法44条1項、335条1項が求める判決理由には当たらないから、これを示さなかった原判決に理由不備はない。 2 所論は、原判決は、元警察官事件において、被告人両名の関与した事実から判断するのではなく、五代目甲1會における地位・身分を処罰しているものであり、殺意の認定に係る消極的間接事実も考慮していない、看護師事件において、死亡結20果発生の認識を認定していない、歯科医師事件において、実行行為を行っていない者ごとに殺意の認定をしていない、という。 しかし、これらはいずれも、共謀や殺意を認定した原判決の説示の仕方を論難するもので、その実質は事実誤認の主張であるから、理由不備の主張としては失当である。 253 理由不備の論旨は理由がない。 5第4 本件3事件に共通する原判決の説示について1 原判決は、本件3事件については、被告人両名の殺意及び共謀の有無を検討するに当たり、いずれも、五代目甲1會における被告人Xの立場及び被告人Xと被告人Yの関係性等が問題となる、として、その具体的な検討に先立ち、以下の⑴ないし⑶のとおり五代目甲1會における重要な意思決定の在り方について説示してい5る。 ⑴ 五代目甲1會における被告人Xの立場平成23年6月、組長をC1、若頭をC2として五代目甲3組が発足し、同年7月には、五代目甲1會が発足し、被告人Xが総裁、被告人Yが会長、C1が理事長となった。五代目甲1會においては、総裁の被告人Xが最上位の扱いを受け、これ10に会長の被告人Y、理事長のC1以下が続く序列が厳格に定められていた。 こ 人Xが総裁、被告人Yが会長、C1が理事長となった。五代目甲1會においては、総裁の被告人Xが最上位の扱いを受け、これ10に会長の被告人Y、理事長のC1以下が続く序列が厳格に定められていた。 この厳格な序列は、以下のような事実からその内容が理解できる。すなわち、他団体の最高幹部も出席した五代目甲1會の継承式典の際に、H1から被告人Xへ四代目が継承された際とは異なり、媒酌人により、被告人Xは引退せず、被告人Yの席を上座に改める席改めもしない旨の宣言がされるなどした。加えて、被告人X方15は、従前から組員に「本家」と呼ばれ神聖視され、被告人Xが四代目甲1會会長であった時代から、様々な二次団体の多数の組員が、24時間交代制の当番を務め、あるいは部屋住みとして被告人Xの身の回りの世話等を行うなどしていた。そして、会長の被告人Yや理事長のC1はほぼ毎日、その他の五代目甲1會幹部組員も頻繁に、被告人Xに対して朝の挨拶をするためだけの目的で被告人X方を訪れていた。 20なお、この挨拶の際、被告人Yはその使用車両を被告人X方敷地内に入れていたが、C1はその使用車両を同敷地内には入れず、手前の路上で下車し、走って被告人X方に向かっていた。被告人X方においても、被告人Yは、被告人Xの私的な空間である2階に上がっていたが、C1が2階に上がることはなく、朝2階から降りてくる被告人Xを迎える際には、C1以下幹部組員は1階廊下に正座して出迎えていた25が、被告人Yがそうした出迎えに加わることはなかった。 6⑵ 被告人両名の関係性被告人Xは、かねてより被告人Yを高く評価しており、平成2年には三代目甲3組組長として若頭に被告人Yを抜てきし、平成12年1月、自身が四代目甲1會会長となった際には、被告人Yが服役中であったことから代替わりすることな より被告人Yを高く評価しており、平成2年には三代目甲3組組長として若頭に被告人Yを抜てきし、平成12年1月、自身が四代目甲1會会長となった際には、被告人Yが服役中であったことから代替わりすることなく三代目甲3組組長を兼ね、その後、被告人Yの出所を受けて、平成15年2月に被告人5Yを四代目甲3組組長、四代目甲1會理事長に就かせ、その後、平成23年7月の五代目甲1會発足に際しては、被告人Yを会長に就かせ、自らは総裁となった。 被告人Yは、三代目甲3組若頭の時代から被告人X方をほぼ毎朝挨拶のために訪れ、その際には、被告人Xの私的な空間である2階にまで上がるなどしており、月数回程度は被告人Xと電話で話をすることもあり、両名が意思疎通をする機会は十10分にあった。 このように、被告人両名の関係は良好かつ親密であり、被告人Yは、自身を甲1會会長に就かせた被告人Xを慕うとともに尊敬し、一方、被告人Xも被告人Yのことを信頼していた。 ⑶ 五代目甲1會における重要な意思決定の在り方15五代目甲1會が厳格な序列の定められた暴力団組織であることを踏まえれば、当代会長である被告人Yは、五代目甲1會の重要事項について意思決定をしており、また、組織内において特別な存在とみられていた総裁である被告人Xは、五代目甲1會内で実質的に最上位の立場にあり、やはり重要事項についての意思決定に関与していたと推認することができる。実際にも、被告人Xは、五代目甲1會総裁とな20って以降も、執行部の一員である幹部組員の絶縁処分や、甲1會本部事務所の売却に関わっている。 そして、被告人両名の関係性、とりわけ、被告人Yを五代目甲1會会長に就かせたのは被告人Xであり、被告人Yが被告人Xを慕うとともに尊敬し、毎朝被告人X方を訪問して忠誠を示すかのような振る ている。 そして、被告人両名の関係性、とりわけ、被告人Yを五代目甲1會会長に就かせたのは被告人Xであり、被告人Yが被告人Xを慕うとともに尊敬し、毎朝被告人X方を訪問して忠誠を示すかのような振る舞いをしていることを踏まえると、被告人25Yが総裁である被告人Xの意向を確認せず、独断で重要な意思決定をすることは考 7え難い一方、被告人Xも、当代会長であり、信頼を寄せている被告人Yの意向を無視して重要な意思決定をするとは考え難い。 2 後記第5ないし第7でみるとおり、五代目甲1會における重要事項についての意思決定の在り方等は本件3事件における事実認定、特に被告人両名の共謀の認定に係る証拠構造の中核をなすものである。被告人Xの立場及び被告人両名の関係5性を踏まえ、五代目甲1會における重要な意思決定は、被告人両名が相互に意思疎通をしながら、最終的には被告人Xの意思により行われていたものとみるのが合理的である、と結論付けた原判決の認定説示は正当であって、当裁判所も是認することができる。 所論は、被告人Xの総裁の肩書は、会長を引退した後のいわば名誉職であり、賀10状などで形式的には最上位とされているとしても、五代目甲1會の実質的な意思決定に関与してはいなかった、という。 しかしながら、原判決が説示するとおり、被告人Xは、五代目甲1會総裁となって以降も、他の暴力団組織との交流の場において、被告人Xの紹介を忘れるなどしてその面子を潰した幹部組員の絶縁処分等に関与するなど、実質的な意思決定にも15関与していたと認められるから、所論は採用できない。 ⑵ 所論は、五代目甲1會における実質的な意思決定は、被告人Yが事始め式(新年会。当裁判所注:毎年12月に幹事以上が参加して行われる最も重要な式典の1つ。)においてC1に軍配を手 採用できない。 ⑵ 所論は、五代目甲1會における実質的な意思決定は、被告人Yが事始め式(新年会。当裁判所注:毎年12月に幹事以上が参加して行われる最も重要な式典の1つ。)においてC1に軍配を手渡していることに端的に表れているように、理事長であるC1以下の執行部に委ねられており、当代会長ではあっても被告人Y自20身が関与するところではなかった、という。 しかしながら、五代目甲1會の運営が執行部に委ねられていたからといって、被告人Yが五代目甲1會にとって重要な事項に係る意思決定に関与していなかったということにはならない。現に被告人Y自身、看護師事件及び歯科医師事件において、被害者の襲撃をC1以下の五代目甲1會組員に指示して実行させたことを認めてい25る。したがって、これらの事件と時期的に近接する元警察官事件の当時においても、 8被告人Yは元警察官事件の実行に係る意思決定に関与することができたというほかない。所論は採用できない。 第5 元警察官事件に関する事実誤認の論旨について1 事案の概要及び論旨⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人X(五代目甲1會総裁)5及び被告人Y(五代目甲1會会長)は、C1(五代目甲1會理事長兼五代目甲3組組長)、C2(五代目甲1會上席専務理事兼五代目甲3組若頭)、C3(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組筆頭若頭補佐)、C4(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組若頭補佐)、C5(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組組長付)、C6(五代目甲1會理事兼五代目甲3組組員)、C7、C8及びC9(以上3名は五代目甲101會幹事兼五代目甲3組組員)と共謀の上、組織により福岡県警察の元警察官(当時61歳。以下、特に断りのない限り第5において「被害者」という。)を殺害することになっ びC9(以上3名は五代目甲101會幹事兼五代目甲3組組員)と共謀の上、組織により福岡県警察の元警察官(当時61歳。以下、特に断りのない限り第5において「被害者」という。)を殺害することになってもやむを得ないと考え、五代目甲1會の活動として、被告人Xの指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って、平成24年4月19日午前7時5分頃、北九州市a2区の路上において、C5が、①被害者に対し、殺意15をもって、自動装てん式拳銃で身体を目掛けて弾丸2発を発射し、被害者の左腰部及び左大腿部に1発ずつ命中させ、もって団体の活動として組織により人を殺害しようとしたが、被害者に約1か月間の入院及び通院加療を要する左股関節内異物残留、左大腿部銃創の傷害を負わせたにとどまり、殺害するに至らず、さらに、引き続き、同所において、C5が、上記拳銃で、地面に向けて弾丸1発を発射し、②上20記拳銃1丁を適合実包3発と共に携帯して所持した、というもので、本件は組織的殺人未遂及び組織的拳銃発射(①)並びに組織的拳銃加重所持(②)の事案である(なお、後に検討する看護師事件及び歯科医師事件における事案の概要の項において、役職が既出のものと同じときは、当該事案の概要中の役職の記載を省略する。)。 ⑵ 論旨は、実行犯であるC5に殺意が認められるとした上で被告人両名に殺意25及び共謀の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤 9認がある、というのである。 当裁判所は、本件におけるC5の犯行態様及びその前提となる指示の内容等に照らせば被告人両名に殺意が認められ、五代目甲1會の意思決定の在り方等に照らせば、共謀の成立も認められるものと判断した。以下、実行犯であるC5の殺意、C5に指示を与えた上位者の殺意、被告人両名の共謀の順 せば被告人両名に殺意が認められ、五代目甲1會の意思決定の在り方等に照らせば、共謀の成立も認められるものと判断した。以下、実行犯であるC5の殺意、C5に指示を与えた上位者の殺意、被告人両名の共謀の順に検討する。 52 実行犯であるC5の殺意について⑴ 原判決の説示原判決は、要旨、以下のとおり説示して、実行犯であるC5の殺意を認定した。 C5は、本件犯行時、通勤途上で本件現場に差し掛かった被害者に対向して本件原付で進行してきて、被害者から見て左斜め前に至ったところで本件原付を止め、10本件原付にまたがって両足を踏ん張った状態で、左側に約90度体をひねりながら、本件拳銃で、自身の左側真横を歩行中の被害者の大腿部という動いている標的に一瞬で狙いを定めて2回射撃している。C5と被害者との距離が約1.2mないし約1.5mであったことや、C5が用いた拳銃が25口径と発射時の反動が比較的少ないものであったことを踏まえても、射撃方法として非常に難易度が高いもので、15このことは、着弾部位をより不安定にさせ、結果として被害者を死亡させる危険性を一層高める事情といえる。そして、C5の発射した2発の弾丸は、いずれも被害者の背広などの着衣を突き破っており、うち1発は左腰部からやや下向きに射入して左大腿骨に当たり、反転して、大腿動脈から水平距離でわずか約7cmの位置に達し、もう1発は左大腿から射入して大腿骨の大転子部に当たって跳ね返り、体外20に排出されている。 以上によれば、身体の枢要部に近い部位に2発の弾丸を撃ち込むというC5の銃撃行為は被害者を死亡させる危険性の高い行為であったことに疑いはない。そして、その危険性を基礎づける事実に係るC5の認識は十分であり、少なくとも未必的な殺意があったと認められる。 25⑵ 当裁判 為は被害者を死亡させる危険性の高い行為であったことに疑いはない。そして、その危険性を基礎づける事実に係るC5の認識は十分であり、少なくとも未必的な殺意があったと認められる。 25⑵ 当裁判所の判断 10C5の殺意を認めた原判決の認定説示に誤りはない。 所論は、①C5は高い射撃技術を有し、本件犯行を指示したC2からの「絶対殺したらつまらんぞ」との指示を踏まえて、至近距離まで接近し、この指示を守るべく実際にも大腿部を狙撃している、②大阪高等裁判所平成25年2月1日判決(判例秘書登載)を援用し、拳銃発砲の訓練を受け、発砲の際には手や足を狙うよう指5導され、一定の距離から少なくとも止まっている人の手や足を狙って当てる技能を有する警察官が、窓に遮光フィルムが貼られているなどのため内部が見えず、かつ、時速約5ないし7kmで動いている自動車の助手席横から運転手の左前腕部を狙って発砲したところ、助手席乗員の後頭部に着弾させて同人を死亡させた事案においても殺意は否定されている、として、本件は被害者を死亡させる危険性のある態様10とはいえない、などという。 しかしながら、C2の殺したらつまらんぞという指示に従って発砲した旨の①については、現にC5の発射した弾丸のうち1発は被害者の左腰部、すなわち左足の付け根付近という身体の枢要部の極めて近くに命中している上、C5自身、狙っていたC5がいうところの被害者の太もも、すなわち「膝より上で股関節より下の部15分」よりも上にずれて着弾したことを自認している。C5が生命に危険のない部位を狙撃するだけの射撃技術を有している旨の弁護人の主張は前提を欠いており、このような狙撃した部位からのずれが生じていること自体、C5の行為が、被害者を死亡させる危険性のある態様であったとの原判決の認定を基 するだけの射撃技術を有している旨の弁護人の主張は前提を欠いており、このような狙撃した部位からのずれが生じていること自体、C5の行為が、被害者を死亡させる危険性のある態様であったとの原判決の認定を基礎づけるものというほかない。また、大阪高裁判決を援用する②については、殺意を認めなかった上記裁20判例の結論の当否をさておくとしても、行為者の警察官という立場、上記自動車が警ら用車両に自車を衝突させるなどして逃走し、信号無視を繰り返すなどしており、行為者はこれ以上の逃走を防ぐ必要があったことなど、前提とする事実関係が大きく異なり、本件の殺意の認定において参照すべきものとはいえない。 所論は、以上のほかにもC5に殺意が認められない旨縷々主張するが、いずれも、25C5に殺意があったことと両立する事情というほかなく、理由がない。 113 C2及びその上位者の殺意について⑴ 原判決の説示原判決は、要旨、以下のとおり説示して、被害者襲撃をC5に指示したC2を含む上位者の殺意を認めた。 C5に襲撃を指示したC2の殺意について、C5は、C2から被害者の爪先を撃5つようにとの指示を受けたが、爪先の方は狙いにくいと思ったので太ももを狙うと返答したところ、C2は「ああ」又は「うう」などと述べた。C2は、爪先を狙うようC5に指示したものの、C5から太ももを狙う旨の返答を受けてこれを承諾したといえる。したがって、C2は、C5が、拳銃というそれ自体殺傷能力の高い凶器を用い、被害者の太ももという身体の枢要部に近い部位を狙撃することを容認し10ていたから、少なくとも未必的な殺意があったと認められる。 狙う場所を変更することにC2が特段異を唱えなかったことなどからすると、C2に対して被害者襲撃を指示したC2の上位者についても、被害者の体の ていたから、少なくとも未必的な殺意があったと認められる。 狙う場所を変更することにC2が特段異を唱えなかったことなどからすると、C2に対して被害者襲撃を指示したC2の上位者についても、被害者の体のどの部分を狙撃するかといった犯行態様の詳細については統括役のC2以下の判断に委ねていたと考えられる。そのことからすれば、被害者を銃撃することを容認していたC152の上位者にも被害者に対する少なくとも未必的な殺意があったことが推認できる。 ⑵ 当裁判所の判断C5がC2を含む上位者の指示により本件犯行に及んだことは関係証拠から明らかであるが、C5に直接指示をしたC2はもとより、そのC2に指示をしたC2の上位者についても少なくとも未必的な殺意が認められるとした原判決の認定説示は20正当であり、当裁判所も是認することができる。 所論は、C2は「ああ」又は「うう」などとは述べていないし、述べていたとしても太ももを狙うことを容認していたとはいえない、仮に容認していたとみるとしても太ももを狙撃する行為は被害者を死亡させる危険性の高い行為とはいえないから、「絶対殺したらつまらんぞ」と述べていたC2はもちろん、C2に指示を与え25た者にも殺意は認められない、という。 12しかし、C2から爪先を狙うよう指示されたC5が、爪先は狙いにくいと考え太ももを狙う旨をその証言どおり告げたことは、実際に発射された弾丸のうち少なくとも1発は被害者の左大腿に着弾していることからも優に認められる。その際のC2の反応に関するC5証言には確かに曖昧さが残るが、C5は現に太ももを狙撃しており、C5が告げた際にC2が制止したとすればC5がそのようにするとは考え5難いから、C2はC5が被害者の太ももを狙うことを消極的にせよ容認したものとみるべきである。 5は現に太ももを狙撃しており、C5が告げた際にC2が制止したとすればC5がそのようにするとは考え5難いから、C2はC5が被害者の太ももを狙うことを消極的にせよ容認したものとみるべきである。 また、狙撃する場所を太ももという身体の枢要部に近い位置にすれば、実行時の状況により、狙いが逸れて身体の枢要部に命中する事態は容易に想定できる。したがって、C2が同人に被害者襲撃の指示を与えた上位者から、狙う場所を変えては10ならない、あるいは絶対に被害者を殺してはならない旨の指示を受けていたとすれば、C2はC5が太ももを狙うことを消極的にであっても容認するはずがない。加えて、C5がC2の指示に反して被害者の太ももを狙撃したのであれば、元警察官事件の2週間程度後に、C1からC2を介して実行役の報酬として現金50万円を渡されることもまた考え難いというほかない。 15以上によれば、仮にC2において「絶対殺したらつまらんぞ」との発言があったとしても、そのような発言は未必的な殺意があったことと両立するものというほかなく、C2及びその上位者に少なくとも未必的な殺意が認められる旨の原判決の認定は正当である。 そうすると、後記4のとおりC2との共謀が認められるC2の上位者、すなわち20被告人両名らについても少なくとも未必的な殺意があったとする原判決の認定は正当である。 4 被告人両名の共謀について⑴ 原判決の説示原判決は、要旨、次のアないしウのとおり説示して、被告人両名の共謀を認めた。 25ア C1が被告人両名に無断で本件犯行に及ぶとは考え難いこと 13本件犯行は、C1以下五代目甲1會二次団体である五代目甲3組組員が、組織的に、被害者を拳銃で襲撃した事件である。拳銃使用という犯行態様から、暴力団等犯罪組織の関 及ぶとは考え難いこと 13本件犯行は、C1以下五代目甲1會二次団体である五代目甲3組組員が、組織的に、被害者を拳銃で襲撃した事件である。拳銃使用という犯行態様から、暴力団等犯罪組織の関与が相当程度疑われる。これに加え、被害者は、福岡県警察の警察官として、甲1連合組員らの起こした事件の捜査を担当する中で、被告人両名と面識を持つようになり、捜索等により組事務所や被告人Xの自宅を訪れた際には、被告5人両名と話をして情報を入手していた。被告人Xは、警察官の同僚が被害者を呼ぶのをまねて、被害者のことを「Eさん」と愛称で呼んでいた。四代目甲1會への警察の取締りが厳しくなった平成15年以降被害者が退職する平成23年までの間、被告人ら四代目甲1會の最高幹部と話ができる関係にあった警察官は、被害者のほか1名しかいなかった。こうした被害者の立場にも照らせば、本件犯行に及べば、10即座に最高幹部を含む五代目甲1會組員の関与が疑われ、それまでも厳しかった警察の五代目甲1會に対する取締りが一層強化されることは容易に想定できる。上記第4でみた五代目甲1會における被告人両名の地位・関係性、重要事項に関する意思決定の在り方を考慮すると、このような五代目甲1會全体に重大な影響を及ぼしかねない事件を、C1以下の五代目甲3組組員が被告人らに無断で起こすとは考え15難い。また、被告人Yは、四代目甲3組組長として、C1を若頭とし、平成23年6月にはC1に跡目を譲って五代目甲3組組長に就任させ、同年7月自らが五代目甲1會会長となると、今度はC1を後任の理事長とするなど、C1を要職に抜てきしており、C1に信頼を寄せていた。このように被告人Yから厚い信頼を受けていたC1が、五代目甲1會全体、ひいては会長である被告人Yや更にその上位の総裁20である被告人X など、C1を要職に抜てきしており、C1に信頼を寄せていた。このように被告人Yから厚い信頼を受けていたC1が、五代目甲1會全体、ひいては会長である被告人Yや更にその上位の総裁20である被告人Xにまで捜査の手が及びかねないような本件犯行を、被告人Yに無断で行うことはまして考え難い。 イ 被害者と被告人両名の確執の経緯(ア) 被告人Yとの確執被告人Yは、平成11年、8000万円を恐喝したとされる事件で有罪判決を受25けて服役したが、被害者は、同事件に関し、被害届の提出に応じない同事件の被害 14者に、その知り合いを通じて被害届を提出させていた。被告人Yは、同判決の約1か月後、被害者を含む同事件の捜査主任官3名の名を挙げ、この3人は許さない、自分は直接はやらないが、間に何人かの人間を入れてやる、などと仕返しをほのめかす話を強い口調で語っていた。 また、平成22年7月、被害者の捜査指揮により被告人Yの自宅の捜索が行われ5たが、当日は被告人Yが不在であったため、被害者らは当初捜索を実施せず、いったん警察署に引き上げた。その後、被害者らは上司の指示で再度被告人Y方に戻り、被告人Y不在のまま、被告人Yの妻及びC1らを立会人として捜索を実施した。差押対象物は発見されず、捜索は約20分で終わり、被害者が警察署に戻ると、被告人Yから被害者の携帯電話に連絡があり、被告人Yは、被害者に対し、「家の中を10がちゃがちゃにした、引き出しをひっくり返した。」などと抗議した。 (イ) 被告人Xとの確執平成21年4月、被害者らが四代目甲1會の情報を得ようと四代目甲1會の元組員と広島で接触した際、被害者は、被告人Xを呼び捨てにしつつ、ほかの組員は泣いているなどと被告人Xを批判する発言をし、そのことが被告人Xの耳に入った。 15その の情報を得ようと四代目甲1會の元組員と広島で接触した際、被害者は、被告人Xを呼び捨てにしつつ、ほかの組員は泣いているなどと被告人Xを批判する発言をし、そのことが被告人Xの耳に入った。 15その後、平成21年4月に被害者が部下を同行してjカンツリークラブへ視察に行き、被告人Xと会った際、被告人Xは、被害者に対し、上記接触を批判した上、「あんた、最後になって悪いもん残したな。」などと言った。 平成23年4月ないし同年5月頃、被害者が自身の再就職先の病院で偶然被告人Xに会った際、被告人Xは、「Eさん、甲3組を目の敵にしてたらしいな、あんた20が全部甲3組の事件をしよったらしいのう、あんたを信用しとったのに、あんたがそんなことしたらつまらんばい、今も刑事のまねしよんな、今も情報を流しよるらしいね。」などと怒った様子で言った。その半年後、被害者が同病院で偶然被告人Xと会った際、被害者が何の用事で来たか尋ねると、被告人Xは「気分が悪い。」と言ってその場を立ち去った。 25(ウ) 小括 15以上のとおり、被告人両名と被害者との間に確執があったことを示す複数のエピソードが認められ、これらは本件犯行の動機となり得るもので、被告人両名が本件犯行を共謀したとの推認を支える事情と認められる。ただし、原審検察官の主張する、被告人両名がかつて被害者を信頼していたものの、平成20年頃から被害者に裏切られたという強い不快感を抱いていた、との見方は、証拠上そのように断定す5ることが困難である。結局のところ、本件犯行の直接の動機は不明であり、原審検察官の主張するような、四代目及び五代目甲1會に対する取締りを強化した警察に対するけん制とともに、世間一般に対して五代目甲1會の威を示すことを目的とする犯行とは認め難い。 ウ まとめ10五代目 の主張するような、四代目及び五代目甲1會に対する取締りを強化した警察に対するけん制とともに、世間一般に対して五代目甲1會の威を示すことを目的とする犯行とは認め難い。 ウ まとめ10五代目甲1會における重要な意思決定は、被告人両名が相互に意思疎通をしながら、最終的には被告人Xの意思により行われていたと認められるところ、本件犯行は、その性質上、五代目甲1會全体や、被告人両名ら最高幹部を含む組員に対する警察の取締りをより一層強めることになるもので、その実行の決定は五代目甲1會にとって極めて重要な意思決定というべきである。よって、その実行の決定は、被15告人両名が意思疎通をしながら、最終的には被告人Xの意思によりされたと推認される。 ⑵ 当裁判所の判断被告人両名の共謀を認定した原判決の説示は、一部是認できない点があるものの、その余は是認でき、その結論に誤りはない。以下、詳述する。 20ア まず、原判決が指摘する被告人Yとの確執に係る事実関係についてみてみると、平成11年頃の被告人Yの発言は、確かに当時の被告人Yの被害者に対する強い怒りをうかがわせるものではあるが、被告人Yは平成15年初頭には出所し、その後本件までの間に9年が経過しており、その間、被害者の要請に被告人Yが応じるなどのやり取りもあったことは被害者及び被告人Yが一致して認めるところであ25る。平成22年の被告人Y方の捜索については約20分程度で終わったもので、被 16告人Yが抗議したような内容のものではなかったのであり、被告人Yの抗議も、誤解に基づくものか、捜査をけん制する意図でなされたものとみることができる。以上によれば、被告人Yが原判決説示のような発言や抗議をしたとしても、本件の共謀を推認させるような被害者個人に対する強い怒りを被告人Yが持 のか、捜査をけん制する意図でなされたものとみることができる。以上によれば、被告人Yが原判決説示のような発言や抗議をしたとしても、本件の共謀を推認させるような被害者個人に対する強い怒りを被告人Yが持ち、かつ本件時まで維持していたことを示すとまでは解し得ないから、推認力に乏しいものという5ほかない。 また、この点を措くとしても、被告人Xについても被告人Yについても、原判決自身、元警察官事件の動機として、かつて被害者を信頼していたものの、平成20年頃から被害者に裏切られたという強い不快感を抱いていた旨の原審検察官の主張につき、そのように断定することは困難で動機は不明であると説示している。仮に10原判決説示のとおりこれらの確執なるものが本件の動機となり得るとしても、肝心の動機が不明であるとする以上、所論指摘のとおり、原判決は、これらの確執なるものがどのような過程により共謀を推認させることになるのか、その推認過程を示すことができていないといわざるを得ない。したがって、これらの確執が共謀を推認させるとする原判決の説示は是認することができない。この点検察官は、原判決15の説示する確執は被害者をいわば「組織の敵」とみなし、組織を挙げて襲撃するにふさわしいことを示す、というが、原判決自身、被告人両名が被害者をそのようにみなしていたと断定することは困難とする趣旨の説示をしており、その説示に誤りがあるとはいえない以上、検察官の上記主張は採用できない。 イ もっとも、原判決の説示する上記⑴ア及び上記第4の事情、すなわち、元警20察官事件を惹起することは五代目甲1會という組織の維持に関わる事項であり、こうした重要事項に係る五代目甲1會内の被告人Xを最上位とする意思決定の在り方等に鑑みれば、被告人両名の共謀を認めた原判決の結論に誤りはない。以下 とは五代目甲1會という組織の維持に関わる事項であり、こうした重要事項に係る五代目甲1會内の被告人Xを最上位とする意思決定の在り方等に鑑みれば、被告人両名の共謀を認めた原判決の結論に誤りはない。以下、説明する。 (ア) 原判決は、上記のとおり本件犯行の実行の決定は五代目甲1會にとって25極めて重要な意思決定であり、五代目甲1會における重要事項に関する意思決定の 17在り方に照らすと被告人両名が相互に意思疎通しながら、最終的には被告人Xの意思決定により行われたと認定説示しているが、前者の「本件犯行の実行の決定は五代目甲1會にとって極めて重要な意思決定である」との判断に至る論拠として、本件犯行が五代目甲1會に対する警察の取締りをより一層強めるものとなることを挙げている。この点について、所論は、本件は敵対勢力のトップを狙ったという事件5ではなく、被害者は甲1會担当の退職した警察官の1人に過ぎず、また、他団体との縄張を巡る抗争でもない単なる犯罪行為であるから被告人両名の意思決定が求められることはない、原判決がいうように、本件犯行が警察の取締りをより一層強めることになるとしても、それは組員による殺人等の重大犯罪が発生した場合の常であるが、だからといって組員が一切犯罪に関与しないことにはならず、犯罪を実行10する際に上位者の承認を得ていることも意味しないし、むしろ取締りの強化が予想されるという事情があれば被告人両名が犯行に承諾するはずがないから、この事情は被告人両名が本件犯行の共謀に関与していないことを示すものである、かえってC1の方が被害者の関与する捜査に基づいて逮捕、勾留されているため独断で報復を企てる動機があり、実際にも組員に指示して警察官に対する威圧的行動をさせ、15被告人Yに制止されたことがあるなどの事情に照らす が被害者の関与する捜査に基づいて逮捕、勾留されているため独断で報復を企てる動機があり、実際にも組員に指示して警察官に対する威圧的行動をさせ、15被告人Yに制止されたことがあるなどの事情に照らすと、警察と事を構えることをいとわなかった姿勢がみて取れ、本件犯行はC1の被害者に対する個人的な怨恨から敢行されたという合理的な疑いを排除できない、という。 しかし、本件は、所論がいうような単なる犯罪行為ではない。その実行は、四代目甲1會等捜査において特別な立場にあると目されていた警察官に対する五代目甲201會組員による組織的な襲撃という疑いをもたらすもので、警察による取締りの強化は必至であるから、まさに五代目甲1會にとって極めて重要な事項に関する意思決定に当たるというべきである。この点を詳細に述べると、原判決が説示するとおり、被害者は、長年甲1連合並びに三代目及び四代目甲1會の捜査に従事し、最高幹部と直接話をすることができるという特別な立場にあった警察官で、退職したと25はいえ、まだ1年程度しか経っていなかったところ、そのような被害者が銃撃され 18たとなれば、他の者と比較して、五代目甲1會に対する嫌疑が格段に強まり、取締りが大幅に強化されて組織の維持に重大な支障が生じ得ることは容易に想定される。 そうであるにもかかわらず、C1以下五代目甲3組組員が、個人的な報復等を動機として、被告人両名の了解を得ずに本件犯行に及んだとは考え難い旨の原判決の説示は正当である。また、仮にC1が過去に警察官に対する威圧的行動を組員に指示5した事実があったとしても、上記のような特別な立場にあった被害者を銃撃する事件を起こす場合とでは、予想される警察の対応に大きな差異があり、質的に異なるというほかない。所論は、警察の取締りの強化が予想されるという事 たとしても、上記のような特別な立場にあった被害者を銃撃する事件を起こす場合とでは、予想される警察の対応に大きな差異があり、質的に異なるというほかない。所論は、警察の取締りの強化が予想されるという事情がある以上、被告人両名が犯行に承諾するはずがないともいうが、看護師事件及び歯科医師事件の実行を指示したことは被告人Y自身が認めていることからも明らかなように、そ10のような事情の存在は被告人両名の承諾や意思決定を否定する理由にならない。 なお、本件犯行がC1の独断によるものかという点に関して、弁護人は当審においてC1の証人尋問を請求した。しかし、弁護人の主張を前提としても、C1は自身の公判において元警察官事件の共謀に関与していないと主張して争ったにもかかわらず、被告人両名が元警察官事件につき有罪と認定された原判決後に、自身の独15断で指示した旨供述を変遷させたもので、その経緯に照らせば、C1の供述はその余の立証趣旨に係るものを含め信用性に著しく乏しいことが明らかであるから、当裁判所は、必要性のないものとしてこれを却下した。弁護人は、この却下決定は、審理不尽並びに被告人両名の有する証人喚問権(憲法37条2項)及び弁護人の弁護権(同法31条)の侵害であると主張するが、却下の理由は上記のとおりであり、20審理不尽及び違憲の主張は前提を欠く。 (イ) 所論は、原判決は、五代目甲3組組員が元警察官である被害者を組織的に拳銃で襲撃した事件であるという本件の内容、性質や、五代目甲1會における重要な意思決定の在り方などの間接事実から被告人両名の共謀を推認しているところ、情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理25的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事 19実関係 推認しているところ、情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理25的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事 19実関係(最高裁判所平成22年4月27日第三小法廷判決刑集64巻3号233頁)を示していない、という。 しかし、既にみたとおり、原判決が、五代目甲3組組員が被害者を組織的に銃撃するという事態は、五代目甲1會内での意思決定の在り方等に照らせば被告人両名の共謀がないとしたら合理的に説明することができない趣旨を説示していることは5明らかである。 (ウ) 所論は、被告人Xは元警察官事件の翌朝、新聞報道で初めて事件の発生と甲1會関係者の関与が疑われていることを知り、激怒して甲1會を辞める旨述べており、元警察官事件の共謀に関与していないことは明らかである、という。 被告人Xは、この発言を原審では供述していない。その理由について、被告人X10は、五代目甲1會の関与を認めることになるから供述しない方がよいとの助言を原審弁護人から受けたためである旨述べる。しかし、被告人Xは、原審においても、C2以下五代目甲1會関係者が元警察官事件に関与していることを積極的には争っていなかったのであるから、周囲の者に口に出して追及するなどはしなかったとの原審供述から変遷した理由として納得のいく説明とはいい難く、採用することがで15きない。 ウ 以上のほかにも、所論は共謀の認定に関し縷々主張するが、いずれも原判決の認定説示を左右するに足りない。 第6 看護師事件に関する事実誤認の論旨について1 事案の概要及び論旨20⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人X及び被告人Yは、C1、D1(五代目甲1會理事長補佐兼乙1組組長)、C2、C3(五代 実誤認の論旨について1 事案の概要及び論旨20⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人X及び被告人Yは、C1、D1(五代目甲1會理事長補佐兼乙1組組長)、C2、C3(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組風紀委員長)、C4(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組筆頭若頭補佐)、D2(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組若頭補佐)、D3(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組組長秘書)、C5、D4(五代目甲1會専務理25事兼五代目甲3組組織委員)、D5(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組組織委 20員)及びD6(五代目甲1會常任理事兼乙1組組員)と共謀の上、組織により、被告人Xの担当看護師(当時45歳。以下第6において「被害者」という。)を殺害することになってもやむを得ないと考え、平成25年1月28日、福岡市h区の歩道上において、五代目甲1會の活動として、被告人Xの指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って、D2が、被害者に対し、殺意をもって、刃物で5左側頭部を目掛けて突き刺すなどし、もって団体の活動として組織により人を殺害しようとしたが、被害者に約3週間の入院及び通院加療を要する左眉毛びもう上部刺切創、顔面神経損傷、右前腕部刺切創及び左殿部刺創の傷害を負わせたにとどまり、殺害するに至らなかった、というもので、本件は組織的殺人未遂の事案である。 ⑵ 論旨は、実行犯であるD2に殺意が認められるとした上で被告人Yに殺意を10認め、また被告人Xの共謀を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。 なお、被告人Yは、原審では共謀を否認していたが、当審においては、被告人Xとの共謀は否認するもののC1及びC4を介してD2に被害者の襲撃を指示したことは認め、上記 実の誤認がある、というのである。 なお、被告人Yは、原審では共謀を否認していたが、当審においては、被告人Xとの共謀は否認するもののC1及びC4を介してD2に被害者の襲撃を指示したことは認め、上記のとおり殺意を争っている(弁護人も傷害罪の限度で犯罪の成立を15認めている。)。 当裁判所は、本件におけるD2の犯行態様及びその前提となる指示の内容等に照らせば被告人両名に殺意が認められ、被告人X以外に五代目甲1會において襲撃の動機を有する者が見当たらないことなどに照らせば、被告人Xに係る共謀の成立も認められるものと判断した。以下、実行犯であるD2の殺意、D2に指示を与えた20上位者の殺意、被告人Xの共謀の順に検討する。 2 実行犯であるD2の殺意について⑴ 原判決の説示原判決は、要旨、以下のとおり説示して、実行犯であるD2の殺意を認めた。 被害者に生じた左眉毛上部刺切創は、刃物の刃先が左耳上部から左耳前部方向25(垂直方向)にかけて刺入した後、角度を変え、左眉毛上部方向(水平方向)に皮 21膚面に接しながら動いたことで形成されたもので、左眉毛上方向への長さは約七、八cm、最も深い左耳上部付近では側頭筋の筋膜を離断して側頭筋にまで達し、これにより、顔面神経や浅側頭動脈の本管又は分岐後の前頭枝、頭頂枝若しくは側頭枝が切断されていた。 加えて、被害者の着衣等の破損状況にも照らせば、D2は、左耳上部、すなわち5左側頭部に先端がとがった鋭利な刃物を相当強い力で突き刺す行為に及んだもので、皮膚の直下を走行している動脈を切断して大量出血を引き起こすおそれがあり、現に被害者は血圧低下や出血性ショックに陥っていた。 しかも、歩いている被害者にD2が近づき襲撃したという本件の具体的な犯行態様においては、両名の動き次第では被 て大量出血を引き起こすおそれがあり、現に被害者は血圧低下や出血性ショックに陥っていた。 しかも、歩いている被害者にD2が近づき襲撃したという本件の具体的な犯行態様においては、両名の動き次第では被害者の頚部に本件刃物が刺さるなどして、総10頚動脈が損傷される事態も想定し得る。 以上によれば、D2の突き刺し行為は人の生命に危険を生じさせる行為であり、D2は、被害者の身体の枢要部である左側頭部に先端がとがった鋭利な刃物を相当強い力で突き刺すことを当然認識しており、人が死亡する危険性の高い行為をそのような行為と分かってあえて実行したものといえ、少なくとも未必的な殺意があっ15たといえる。 ⑵ 当裁判所の判断原判決の説示は、後記のとおり一部是認することができない部分があるものの、その余の説示は正当であり、D2に殺意を認めた結論については、当裁判所も是認することができる。 20所論は、①原判決がいうように両名の動き次第では被害者の頚部に刃物が刺さるなどして総頚動脈が損傷される事態もあり得ることを根拠にするとなると、身体のどの部位を狙ったとしても人の生命に対して危険があることになってしまう、②実際に本件刃物を見たD2、C4及びC3による本件刃物の形状に係る証言とD2の犯行態様に係る証言によれば、本件刃物は、刃体も短く、先端もとがっていなかっ25たし、D2は被害者を切りつけたにとどまるから、本件刃物はとがったものでこれ 22を相当強い力で突き刺したという原判決の認定は誤っている、などという。 そこで検討すると、まず①の動き次第で総頚動脈を損傷する事態も想定し得るとの原判決の説示を論難する点であるが、D2の攻撃した側頭部と頚部との間の距離にも照らせば、所論が指摘するとおり、身動きをとることの想定されない被害者に対 き次第で総頚動脈を損傷する事態も想定し得るとの原判決の説示を論難する点であるが、D2の攻撃した側頭部と頚部との間の距離にも照らせば、所論が指摘するとおり、身動きをとることの想定されない被害者に対して攻撃を加えるような例外的な場合以外、常に殺意が認められることになりか5ねず、原判決の上記説示は不合理であって是認できない。もっとも、②の本件刃物の形状や力の強さなどを説示する原判決を論難する点についてみると、被害者に生じた傷害結果に鑑みれば、本件刃物は、少なくとも人体の皮下組織にある動脈、神経、筋組織等を僅かな時間で切断するに足りる程度の鋭利さを備えており、実際に本件刃物を使用したD2がそのことを認識できなかったとうかがわせる事情はない。 10そうすると、本件刃物の刃体の長さや先端の形状にかかわらずD2の殺意は認められるから、原判決の結論に誤りはない。同様に、本件犯行時、D2は、被害者の左側頭部という皮膚が薄く血管の集中する部位を狙って、本件刃物の刃を入れて、抜かずに動かしたことで、最も深い場所では側頭筋に達する傷害結果を生じさせている以上、「左側頭部を目掛けて突き刺すなどし」たと認定した原判示第3の認定が15誤っているとはいえないし、そのような傷害結果を生じさせ得る力が込められていた以上、これを「相当強い」と評すべきかはそもそも殺意の認定を左右しない。 以上のほかにも、所論はD2に殺意が認められない旨縷々主張するが、いずれも上記認定を揺るがせるものとはいえない。 3 C4及びその上位者の殺意について20⑴ 原判決の説示原判決は、要旨、以下のとおり説示して、被害者襲撃をD2に指示したC4及びその上位者の殺意を認めた。 C4は、D2に、顔を切って尻を刺すよう指示し、本件刃物を準備してD2に渡しており、C4の指示内容 判決は、要旨、以下のとおり説示して、被害者襲撃をD2に指示したC4及びその上位者の殺意を認めた。 C4は、D2に、顔を切って尻を刺すよう指示し、本件刃物を準備してD2に渡しており、C4の指示内容は襲撃の実行方法等につき被害者の生命に対する具体的25配慮を伴うものではなかった。実際にD2が被害者を襲撃して重傷を負わせても、 23C4及びD2が五代目甲1會内で何ら処分を受けていないことからしても、D2の行為は上位者の指示に反するものでなかったと認められる。以上によれば、C4及びC4に本件犯行を指示したと認められるC4の上位者には少なくとも未必的な殺意があったと認められる。 ⑵ 当裁判所の判断5以上の原判決の認定説示は正当であり、当裁判所も是認することができる。 ア C4の殺意に係る所論について所論は、C4に殺意は認められないとし、その根拠として、①C4が用意した本件刃物は先端のとがっていないもので殺傷能力は低く、②D2は、C4の頬を切って尻を刺せとの指示により、狙った場所以外の場所を傷つけないように滑り止めの10ために本件刃物の持ち手をテーピングしていた、③C4はD2に指示を与える際に「殺さなくていい。」と述べている、などという。 しかし、①の本件刃物の形状の点については、既にみたとおり、本件刃物は被害者に原判示の傷害を負わせるに足る鋭利さを備えたものと認められるから、所論は前提を欠く。②のC4の指示内容及びテーピングの点についても、C4は、原審に15おいて、D2の頬に手を当て、切るジェスチャーをしながら顔を切って尻を刺せとD2に伝えたと証言しているだけであり、他方、D2は、C4から顔を切るよう指示された、顔のどの部分を切るか具体的な指示はなかった、それをD2自身が「ほっぺたとか、そこら辺の部分を刃物で て尻を刺せとD2に伝えたと証言しているだけであり、他方、D2は、C4から顔を切るよう指示された、顔のどの部分を切るか具体的な指示はなかった、それをD2自身が「ほっぺたとか、そこら辺の部分を刃物で切るんやろう」と受け止めた旨証言しているのであるから、少なくとも、C4が明示的に攻撃対象として指示したのは「顔」で20あると認められる。この指示内容には、既にみたとおり、血管の集中する身体の枢要部が含まれ、現にD2も左側頭部を攻撃対象とすることは指示に反するものではないと認識して本件犯行に及んだと認められるから、C4の殺意を否定する事情ではない。所論のテーピングも、本件犯行時に実際そうであったように、身体の枢要部を正確に狙う形で使用され得るものといえる。また、以上を踏まえれば、③の25「殺さなくていい」との発言の点についても、C4がD2に指示する際にそのよう 24に述べたか否かにかかわらず、C4は、D2が被害者の生命に危険を生じさせる態様で顔を切りつける事態の生じ得ることを未必的であれ認識していたといえる。 イ 被告人Yの殺意に係る所論について所論は、被告人Yが自分の頬に当てた手を動かしながら、頬をはつれ、尻をちょっと刺してやれとC1に指示した、はつれとは傷付けろという意味であり、被害者5を死なせることは全く考えていなかったので、大きなけがはさせるなよと言った旨供述していることに依拠し、被告人Yには殺意が認められないとして、①被告人YがC1に指示した内容は、被害者の頬を切れという生命に対する危険のない内容であって、D2が左耳の上部を切るなどということは全く想定していなかった、②被告人Yは、尊敬する被告人Xが被害者から馬鹿にされたと聞いたことから、被害者10に「痛い」思いをさせてやろうと思い立ち本件犯行を指示したので 上部を切るなどということは全く想定していなかった、②被告人Yは、尊敬する被告人Xが被害者から馬鹿にされたと聞いたことから、被害者10に「痛い」思いをさせてやろうと思い立ち本件犯行を指示したのであり、生命に危険を及ぼすような動機ではなかった、という。 しかし、①の被告人Yの指示内容の点については、上記第4でみた五代目甲1會の厳格な序列等を踏まえれば、被告人YがC1に対しては所論のように攻撃すべき部位を「頬」と明示していたにもかかわらず、最終的に、D2に対する指示の場面15で、C4が攻撃すべき部位を「顔」と伝えてそれ以上の明確な指示をしないという事態が生じることは考え難い。被告人Yが攻撃対象を「頬」に限定して指示したとは考えられず、大きなけがはさせるなと言ったとの点を含めて被告人Yの供述は信用できない。したがって、被告人Yは、被害者の顔を切れという以上に攻撃部位を明確に指示していなかったものと認められ、身体の枢要部が含まれる指示というほ20かないものであって、被害者の生命に危険が生じることを未必的にであれ認識していたといえるから、所論は採用できない。また、②の生命に危険を及ぼすような動機ではなかったとの点については、後記4でみるとおり、そもそも本件は被告人Xの意思決定により、被告人YがC1以下の五代目甲1會組員に指示したと認められ、被告人Yの発案という前提が採用できないから、理由がない。 25ウ 以上のほかにも、所論は被告人Yに殺意が認められない旨縷々主張するが、 25いずれも上記認定を左右しない。 4 被告人Xの共謀について⑴ 原判決の説示原判決は、要旨、以下のとおり説示して、被告人Xの共謀を認めた。 ア 被告人Xが、本件クリニックの担当看護師である被害者に対し、被害者が行5ったレーザー脱毛 謀について⑴ 原判決の説示原判決は、要旨、以下のとおり説示して、被告人Xの共謀を認めた。 ア 被告人Xが、本件クリニックの担当看護師である被害者に対し、被害者が行5ったレーザー脱毛の施術の際、「Xさんでも痛いんですか。入れ墨を入れるより痛くないでしょう。」などと、痛みを訴えた被告人Xにぞんざいな発言をしたことなどに強い不満を抱いていた事実、被告人Xは、本件の2日後に本件クリニックを受診した際、被害者が刺されたことを知っており、犯行を肯定的に捉える発言もしていた事実に加え、本件は五代目甲1會序列3位であるC1以下多数の五代目甲1會10組員らが役割を分担して組織的に準備・遂行されたもので、被告人X以外の組員らには犯行動機が全く見当たらないことを総合すれば、本件犯行はXの意思決定によりなされたものと合理的に推認できる。 イ 犯行を肯定的に捉える被告人Xの上記発言については、本件翌日である平成25年1月29日から同月31日までの間になされた本件に関する新聞紙上の報道15は、いずれも被害者をh区又は現場近くに住む45歳の看護師女性とするものであったところ、N(被害者の同僚看護師)は要旨、以下のとおり証言する。 被害者が入院したことを事前に伝えられていた被告人Xは、平成25年1月30日に本件クリニックを受診した際、Nに対し、被害者はどうしたのか尋ねた。Nは、事件に遭ったことは伝えてはいけないと考えていたので「事故に遭って。」と答え20たが、被告人Xから更に「どこで」「いつ」などと聞かれたため、隠しきれず「事件に遭って。」と答えると、被告人Xが「刺されたんか。」と聞いてきたので、なぜ知っているのかと驚いた。被告人Xは、帰るまでの間に、被害者について、淡々とした口調で、「あの人は刺されても仕方ない。」とも言っていた。 えると、被告人Xが「刺されたんか。」と聞いてきたので、なぜ知っているのかと驚いた。被告人Xは、帰るまでの間に、被害者について、淡々とした口調で、「あの人は刺されても仕方ない。」とも言っていた。 以上のN証言は、具体的であり、当時の心情やそれに基づく自身の行動について25も説明していて自然な内容である。原審弁護人は、Nが事件から2週間後の平成2 265年2月時点では警察官調書において「あの人は刺されても仕方ない。」との発言には言及していなかったし、同年6月の調書でも、警察官から、あの女は悪い女、やられて当然などの言動がなかったか問われ、仕方ないみたいなことを言っていた記憶があるという程度の供述をしていたにとどまるから、Nの記憶に残るような被告人Xの発言はなかった旨主張するが、Nはこの点について、被告人Xを犯人と決5めつけることになってしまうかと思い、当初は事細かく伝えていなかったが、やり取りをしていく中で全て伝えた方がいいと思った旨説明しており、その供述経過に不審な点はない。 ⑵ 当裁判所の判断以上の原判決の説示は、後記のとおり一部是認できないものの、その余は正当で10あり、被告人Xの共謀を認めた点を含め是認することができる。 以下、所論に鑑み、説明する。 ア 被告人Xの発言に係る所論について所論は、①被告人XがNに対し「刺されたんか。」と発言した事実が認められるとしても、「事件に遭って。」と聞かされた被告人Xにおいて、被害者が通り魔にあ15ったと考えたとしても不自然ではないから、共謀を推認させるとした原判決には論理の飛躍がある、②Nは、当初は被告人Xから「あの人は刺されても仕方がない。」と聞いたとは供述しておらず、N証言は変遷がある上、詳細を覚えていないなど曖昧であり、取調官による誘導や様々な情 決には論理の飛躍がある、②Nは、当初は被告人Xから「あの人は刺されても仕方がない。」と聞いたとは供述しておらず、N証言は変遷がある上、詳細を覚えていないなど曖昧であり、取調官による誘導や様々な情報が事後的に入り交じって再構成されるなど、証言までの間に記憶の汚染が生じた可能性がある、という。 20まず①の「刺されたんか。」との発言の点については、被害者が事件に遭って入院したと聞かされた者が、そのような重傷を負う事件として通り魔などに刺されることを連想したとしてもそう突飛な発想ではない。まして、看護師事件については、原判決が説示するとおり、被害者匿名ではあるが事件翌日以降に報道自体はされており、被告人Xもその報道を見たと述べているのであるから、所論指摘のとおり、25原判決の推認は飛躍があるというほかなく、論理則・経験則等に照らし不合理であ 27って是認することができない。他方、②のN証言の記憶の汚染の点については、Nの供述経過に不審な点のないことは原判決の説示どおりであり、被告人XがNに対し、被害者は刺されても仕方がない旨を述べたとのN証言の信用性を肯定した原判決に誤りはない。 イ 被告人Xの動機は失われていたとの所論について5所論は、被告人Xが被害者に不満を抱いたことはあったものの、平成24年10月20日までには不満は解消しており、動機は失われていた、被告人Xの指示により同年11月1日から本件クリニックの下見を始めたのであれば、本件犯行までの約3か月もの間、被告人Xは強い不満を抱きながら被害者を担当看護師とする本件クリニックの受診を続けたことになり不自然である、結局のところ、看護師事件は10被告人Xを侮辱する言動をした被害者に立腹した被告人Yが、独断で配下の者に指示をしたものである、などという。 しかし、上 ックの受診を続けたことになり不自然である、結局のところ、看護師事件は10被告人Xを侮辱する言動をした被害者に立腹した被告人Yが、独断で配下の者に指示をしたものである、などという。 しかし、上記アのとおり、被告人Xは本件の2日後になってもなお、被害者に関し「あの人は刺されても仕方がない。」などと述べていたのであって、不満が解消されていなかったことは明らかである。これを措いても、被告人Xの腹立ちを知っ15た被告人Yが、被告人Xから指示等を得ることなく、配下の組員らを指揮して本件犯行に及ぶというのであれば、その時点での被告人Xの意に反するおそれがあるにもかかわらず、その後の被告人Xと被害者との経過について調べることもせず被害者襲撃を実行するということの方が考え難い。加えて、上記第4でみたような五代目甲1會における厳格な序列や、被告人Yは、被告人Xを尊敬し、忠誠を示すかの20ような振る舞いをしており、被告人Xの意向に最大限配慮していたことを考慮すると、被害者襲撃に関してのみ、被告人Xの意向を確認することなく実行するなどということは想定し難い。被告人Xの不満は遅くとも本件犯行時までに解消しており、被告人Yの独断である旨の所論は採用できない。 ウ 結論25以上によれば、被告人Xが、本件2日後の平成25年1月30日に「刺されたん 28か。」と発言した事実を共謀認定の根拠とした原判決の説示は是認できないが、その余の事実、すなわち、本件犯行は多数の五代目甲1會関係者が組織的に敢行した事件であるところ、被告人Xが被害者に対し強い不満を抱いていた以外に五代目甲1會関係者に動機を有する者が見当たらないことに加え、本件2日後に被告人Xが被害者は刺されても仕方がない旨述べていたことを併せ考慮すれば、被告人Xの共5謀は優に認められ 抱いていた以外に五代目甲1會関係者に動機を有する者が見当たらないことに加え、本件2日後に被告人Xが被害者は刺されても仕方がない旨述べていたことを併せ考慮すれば、被告人Xの共5謀は優に認められるから、これを認めた原判決は正当である。 そのほかにも弁護人は被告人Xに共謀が認められない旨縷々主張するが、いずれも原判決の認定を左右するものではない。 第7 歯科医師事件に関する事実誤認の論旨について1 事案の概要及び論旨10⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人X及び被告人Yは、C1、C4(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組本部長)、D4(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組若頭補佐)、C5(五代目甲1會専務理事兼五代目甲3組若頭補佐・組長付)及びC6と共謀の上(ただし、D4、C5及びC6とは組織的殺人の限度で共謀の上)、北九州市内及びその周辺を主たる縄張とする五代目甲1會15の不正権益を維持・拡大する目的で、組織により、歯科医師(当時29歳。以下第7において「被害者」という。)を殺害することになってもやむを得ないと考え、平成26年5月26日、北九州市a3区の駐車場において、五代目甲1會の活動として、被告人Xの指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って、C5が、被害者に対し、殺意をもって、刃物で胸部、腹部、背部、大腿部等を目掛20けて多数回突き刺すなどし、もって団体の不正権益を維持・拡大する目的で、かつ、団体の活動として組織により人を殺害しようとしたが、被害者に入院加療約14日間及び外来加療約3か月間を要する見込みの左大腿部刺創、腹部刺創、胸壁刺創及び背部刺創の傷害を負わせたにとどまり、殺害するに至らなかった、というもので、本件は組織的殺人未遂及び不正権益維持・拡大目的殺人未遂の事案である 月間を要する見込みの左大腿部刺創、腹部刺創、胸壁刺創及び背部刺創の傷害を負わせたにとどまり、殺害するに至らなかった、というもので、本件は組織的殺人未遂及び不正権益維持・拡大目的殺人未遂の事案である。 25⑵ 論旨は、被告人Yに殺意を認め、また被告人Xの共謀を認めた原判決には、 29判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。 なお、被告人Yは、看護師事件同様歯科医師事件についても、原審では共謀を否認していたが、当審においては被告人Xとの共謀は否認するもののC1及びC4を介してC5に被害者の襲撃を指示したことは認め、上記のとおり殺意を争っている(弁護人も傷害罪の限度で犯罪の成立を認めている。)。 5当裁判所は、本件におけるC5の犯行態様及びその前提となる指示の内容等に照らせば被告人両名に殺意が認められ、五代目甲1會の意思決定の在り方等に照らせば、被告人Xの共謀も認められると判断した。以下、C5に指示を与えた上位者の殺意、被告人Xの共謀の順に検討する。 2 C4及びその上位者の殺意について10⑴ 原判決の説示原判決は、C5はC4の指示により本件犯行に及んだことを前提に、C4及びその上位者の殺意について、C5は、無防備な被害者の背後から近づき、その背部に1回本件刃物を刺し、深さ約7cmの背部刺創を生じさせた後、正対した被害者に対し、両手で持った本件刃物でその胸部を突き刺そうとし、被害者から両手をつか15まれて抵抗されたにもかかわらず、その胸部や腹部などを目掛けて、相当強い力を込めて繰り返し本件刃物を突き出し、その結果、胸部2か所、下腹部1か所、背部1か所、大腿部4か所の合計8か所という原判示の傷害を負わせ、被害者を瀕死の状態に陥らせている、とする。 その上で、これを前提とすれば し本件刃物を突き出し、その結果、胸部2か所、下腹部1か所、背部1か所、大腿部4か所の合計8か所という原判示の傷害を負わせ、被害者を瀕死の状態に陥らせている、とする。 その上で、これを前提とすれば、C5がC4から受けた指示は、C5やC4が供20述するような尻かももを刺してけがを負わせろというようなものであったかはかなり疑わしく、仮にC4がC5にその旨伝えていたとしても、鋭利な刃物で複数回人の身体を突き刺す行為であり、およそ被害者の死亡する事態が生じ得ないとC4が考えていたとは思われない、などとして、C4及びC4にC5への実行を指示するよう命じた上位者にも未必的な殺意が認められる、とした。 25⑵ 当裁判所の判断 30C4及びその上位者の殺意を認めた原判決の説示は正当であって、当裁判所も是認することができる。 ア 所論は、被告人Yが、F1を痛い目に遭わせてやろうと思ったが、同人に警察がべったり張り付いているという報告を受けたため、代わりに息子である被害者を襲撃対象とすることにし、C1に対して、被害者の尻をちょちょっと刺せと言い5ながら、自分の拳で自分の尻を2回叩いた、決して大事にするなよとも言ったと供述していることに依拠し、被告人Yは、あくまでも被害者の「尻」だけを二、三回、「ちょちょっと」という程度で刺すことを指示したものであり、しかも「決して大事にするなよ」と言っていることからしても、傷害の故意があったにとどまる、C4も、ある人から尻かももを四、五回刺せ、殺すなと言われ、下見をした襲撃現場10の状況等も踏まえて、C5に対し、尻かももを四、五回ちゃちゃっとかささっと刺して逃げるよう指示し、殺す必要はないと伝えている、C5は、被害者に抵抗されて本件刃物を持った腕を掴まれるなどし、被害者と格闘状態となったた て、C5に対し、尻かももを四、五回ちゃちゃっとかささっと刺して逃げるよう指示し、殺す必要はないと伝えている、C5は、被害者に抵抗されて本件刃物を持った腕を掴まれるなどし、被害者と格闘状態となったために事前の指示の範囲を超えて刺すことになったにとどまり、これはC5に指示したC4にとっても、まして被告人Yにとっても予想外の事態であって、被告人Y及びC4に殺15意は認められない、という。 しかしながら、既にみたとおり、C5は、被害者が背を向けて無防備な状態で、狙った部位に命中させるのが最も容易であった初撃において、被害者の背部を、深さ約7cmの創傷を生じさせる力で刺している。このとき、被害者は駐車中の車両の助手席に置かれたバッグを取るために助手席側のドアを開けて上半身を中に入れ20て前のめりになるような姿勢であったと認められ、尻又はももを刺すのに特段の支障はないのであるから、刺した部位が腰部付近であることを踏まえても、所論のような指示内容であったとすれば説明のつき難い事態がこの時点で既に生じているといえる。また、所論のいうような指示を受けていたのであれば、初撃で被害者の背部を深く刺して背部刺創の傷害を負わせた時点で、指示以上のけがをさせたことは25明らかであるから、C5はそのまま予定どおり逃走することも可能であったはずで 31あるのに、実際にはこれをせずに、身体を起こして振り向いた被害者と正対し、それ以降も攻撃を続け、最終的に被害者に瀕死の重傷を負わせている。この点も、所論のような指示をされていたとすればやはり説明がつかない。 以上のことからすれば、当初のC4の指示内容自体が、それを詳らかにすることはできないにせよ、被害者の生命に危険を生じさせる程度の攻撃を指示するもので5あったと認められる。そして、上記第4でみた 以上のことからすれば、当初のC4の指示内容自体が、それを詳らかにすることはできないにせよ、被害者の生命に危険を生じさせる程度の攻撃を指示するもので5あったと認められる。そして、上記第4でみた五代目甲1會の厳格な序列及び意思決定の構造に照らせば、C4が上位者から受けた指示と異なる内容をC5に伝えることは考え難く、C4の上位者の指示内容はC4のC5に対する指示内容と同一であったといえる。所論は前提を欠き、採り得ない(なお、弁護人は、指示内容のうち刺す回数を明らかにするにはC1及びC4の証人尋問が必要であるとして請求し10たが、当裁判所がこれを却下したことは当審における審理不尽であると主張する。 しかし、C4及びその上位者の指示内容は上記のようなものであると認定できるのであり、C4及びその上位者の殺意を認定するに当たり、刺す回数を解明する必要は認められないため、当裁判所は上記証人尋問請求を却下したものである。)。 イ 所論は、実行行為を行っていない者について各人の想定していた凶器の形状15等を具体的に検討しておらず、原判決は殺意を認定する根拠を欠いている、という。 しかし、上記アでみたような上位者の指示が下位の組員に順次伝達されるという本件における共謀状況等に照らせば、原判示の共犯者については、被害者に対する上記のような加害指示の内容を認識していたと認められるから、これらの者についても未必的な殺意を認定した原判決に誤りはない。 20ウ 以上のほかにも、所論は被告人Y及びC4に殺意は認められない旨縷々主張するが、上記認定を左右しない。 3 被告人Xの共謀について⑴ 原判決の説示原判決は、歯科医師事件は五代目甲3組により組織的に準備・遂行された犯行で25あることから、本部長のC4に犯行を指示できるのは組長であるC 3 被告人Xの共謀について⑴ 原判決の説示原判決は、歯科医師事件は五代目甲3組により組織的に準備・遂行された犯行で25あることから、本部長のC4に犯行を指示できるのは組長であるC1以外に考え難 32いこと、C1が本件犯行後、D4及びC6に対して、本件犯行への関与に対する報酬を渡したことを併せ考えると、C1が本件犯行の共謀に加わり、C4に対して本件犯行を指示した事実が認められることを前提に、要旨、以下のとおり説示して、被告人Xの共謀を認めた。 ア F一族の利権について5被告人Xは、従前からF一族の利権に重大な関心を抱き、執ように介入を図っており、それを拒絶されるや平成10年には元組合長事件を起こしている。本件発生当時も、五代目甲1會がこの利権に介入することができた場合には、港湾建設工事の下請に入る五代目甲1會指定の業者等からの莫大な上納金の相当部分を被告人Xが得ることができたことからすれば、平成10年当時と状況は変わっておらず、本10件犯行はこうした被告人Xの関心事に大きく関係している。 イ G1と被告人Yのやりとりについて(ア) G1は、要旨、被告人Yは、平成21年ないし平成22年頃から、G1に対し、市漁協i支所が持つ公共工事の利権や、同支所の代表理事(組合長)になる方法について尋ねることが何度かあった、被告人Yは、G2の息子で後継である15G3が経営するkや、F1(G1及びG3のいとこであり、被害者の父)が経営するmについて、「何であいつらばっかりが仕事ができるのか。」「お前が代表理事になったら(工事を)もらえるんか。」などと、当時、市漁協代表理事であったG2や、市漁協i支所の代表理事であったF1に対する不満を漏らすことがあった旨証言する。 20(イ) 関係証拠によれば、平成23年当 工事を)もらえるんか。」などと、当時、市漁協代表理事であったG2や、市漁協i支所の代表理事であったF1に対する不満を漏らすことがあった旨証言する。 20(イ) 関係証拠によれば、平成23年当時、北九州市では、港湾計画改訂が問題となっており、a1区のg沖に海面廃棄物処分場を作る計画があった。同処分場の工事主体は国と北九州市であったが、このうち北九州市担当部分の総事業費は約192億円を予定していた。同処分場の計画地がi地区を含む地域であったことから、平成23年春頃、北九州市は、G2やF1などに案を説明し、漁協側の了承を25得ながら計画を進めていた。また、平成25年当時、市漁協の漁業権に関わるg地 33区の大規模事業として事業規模が数千億円に上る火力発電、洋上風力発電の事業があった。そうした中、同年12月20日、G2が何者かに拳銃で射殺された。 (ウ) G1は、要旨、以下のとおり証言する。 被告人Yは、平成26年2月1日、北九州市a4区所在のファミリーレストラン(以下「本件レストラン」という。)にG1を呼び出し、G1に対し、i地区での5公共事業におけるF1の権限、発言力、市漁協の代表理事選挙の時期や当選するための方法などを尋ねた。 被告人Yは、平成26年2月中旬頃にも、本件レストランにG1を呼び出し、G1及びF1に怒っている様子で、G1に対し、「G2があんなんなっとるのに、F1は本当に分かっとらんのか。」「俺はF1に対して若いときによくしてもらっとる10ところもある。あいつには危害を加えたくないけど、俺だけの考えではもうできん。 もうこれは會の方針やけの。」などと述べ、これは脅しではなく、五代目甲1會の要求を聞かなければ、會の方針としてF1に危害を加える旨を市漁協の役員会が実施される平成26年2月26日にF1に伝える ん。 もうこれは會の方針やけの。」などと述べ、これは脅しではなく、五代目甲1會の要求を聞かなければ、會の方針としてF1に危害を加える旨を市漁協の役員会が実施される平成26年2月26日にF1に伝えるよう指示した。また、被告人Yは、この際、G1に対し、会社名が書かれたメモを渡し、a1地区での解体工事にその15会社が参入できるようにしてほしいと告げ、その後、G1はF1に電話をかけ、同社の解体工事への参入を依頼したが、F1がそれに向けて動くことはなかった。 G1は、平成26年2月26日、市漁協の役員会の後、F1に対し、「甲1會は若い者が多いので、何をするやら分からない。」「おじさん(G2)があんなんなっとるのに。」などと言って要求を聞くよう告げたが、F1は相手にしなかった。被20告人Yはこの日、G1に対し、午後1時46分、午後4時52分、午後6時18分の3回にわたり電話をかけ、1回目の電話で役員会が何時から始まるかを、2回目の電話で役員会が終わったかをG1に確認し、3回目の電話で、F1に被告人Yの要求を伝えた旨の報告をG1から受けた。 被告人Yは、平成26年3月6日、本件レストランにG1を呼び出し、その駐車25場に停車中の自動車内で、G1に対し、要求を伝えた時のF1の反応、それ以降の 34F1との接触状況等について尋ねた。G1は、五代目甲1會の意向を伝えたところ、F1が焦ったような感じだったが、それ以降F1とは何も話していない旨返答した。 すると、被告人Yは、G1に対し、「F1は分かっとるのか。G2があんなんなっとるのに、まだ気づかんのか。あいつがもう分からんのなら、分からせるしかない。」などと言った。 5G1は、平成26年5月12日に逮捕され、その後、同年7月18日に保釈されるまで若松警察署で身柄拘束中であったが、その のか。あいつがもう分からんのなら、分からせるしかない。」などと言った。 5G1は、平成26年5月12日に逮捕され、その後、同年7月18日に保釈されるまで若松警察署で身柄拘束中であったが、その間に起きた本件犯行の真相を知ろうと、同月23日、北九州市a3区にある理容店で散髪中の被告人Yに会いに行った。その駐車場に停車中の自動車内で、G1が被告人Yに、「自分が若松署におったときにF1のところの子供、やったですよね。」と尋ねると、被告人Yは、「F110が分からんのやけ、おまえ、やるしかねえやろ息子を。」などと発言した。 (エ) 以上のG1証言は、G1と被告人Yとの間の携帯電話の通話履歴等と合致していることなどからすれば、信用することができる。原審弁護人は、G1はG2殺害事件への関与を捜査機関に疑われており、自身への疑いをそらすために、捜査機関の描くストーリーに迎合して被告人Yの発言等について虚偽の供述をしてお15り、G1の証言は信用できないと主張する。しかし、被告人Yの供述によってもG1との間に個人的なトラブルはなく、G1が五代目甲1會会長である被告人Yに不利益な虚偽供述をする動機がない上、G1が被告人Yの言動等を捜査機関に供述することでG2殺害事件に関する嫌疑をそらすことができる関係にあるともいえない。 ウ 被告人Xの関与20上記アで述べた点や、被告人Yは平成26年2月中旬頃、G1に対し、F1に個人的には危害を加えたくないが、會の方針なので自分だけの考えではどうにもならない旨発言しているところ、甲1會においては、被告人Yより上位の者は被告人Xしかいない点等に加え、被告人YがG1を呼び出した平成26年2月1日、被告人Yが被告人X方を3回訪問するなど、被告人Yと被告人Xは緊密に意思疎通を図っ25ていた状況も踏まえると、 の者は被告人Xしかいない点等に加え、被告人YがG1を呼び出した平成26年2月1日、被告人Yが被告人X方を3回訪問するなど、被告人Yと被告人Xは緊密に意思疎通を図っ25ていた状況も踏まえると、本件犯行を実行する意思決定には被告人Xも関与してお 35り、本件犯行は、被告人両名が意思を相通じた上で、最終的には最上位者である被告人Xが意思決定したものと認められる。 ⑵ 当裁判所の判断原判決の説示には一部是認できない点があるものの、被告人Xの共謀を認めた結論に誤りはない。 5ア まず、後記第8の3でみるとおり、元組合長事件については被告人Xの共謀を認めることができないから、これが認められることを前提に、平成10年当時と状況が異ならないことを論拠としてF一族の利権に介入することが被告人Xの重大な関心事であったとする上記⑴アの説示は前提を欠き、是認することができない。 イ もっとも、G1と被告人Yのやり取り等から、被告人Xの共謀を認めた原判10決の説示に誤りがあるとはいえない。 すなわち、原判決が説示するとおり、被告人Yは、平成21年ないし平成22年頃から、G1に対し、市漁協や同i支所の代表理事の権限や公共工事の利権について尋ね、平成23年ないし平成25年頃に巨額の公共工事計画が持ち上がると、平成26年2月にはG1を通じ、F1が有する利権に五代目甲1會も与らせるよう要15求した。この際、被告人Yは、G1に対し、F1に危害を加えたくはないが、會の方針であるので自分だけの考えでは止められないとの趣旨の発言をしている。上記第4でみた五代目甲1會の意思決定の構造等からすれば、上記要求が容れられないときはF1に危害を加えるという方針は、五代目甲1會において被告人Yより上位の被告人Xの意向であり、被告人Yでは止められないとする趣旨 五代目甲1會の意思決定の構造等からすれば、上記要求が容れられないときはF1に危害を加えるという方針は、五代目甲1會において被告人Yより上位の被告人Xの意向であり、被告人Yでは止められないとする趣旨とみることができ、20平成26年2月26日の市漁協の役員会の前後に被告人Yが自らG1に電話をかけている点も、こうした被告人Xの意向であることを受けたものと考えられる(なお、原判決は同月1日に被告人Yが被告人X方を3回訪問するなどしていたことも共謀を推認させる間接事実としているが、G1証言によっても、同日は、被告人Yはそれまで同様F1の市漁協における権限等についてG1に尋ねたにとどまるというの25であるから、歯科医師事件の共謀を推認させるものとはいえない。)。したがって、 36本件は五代目甲1會によるF1らF一族が有する利権への介入を目的としたもので、被告人Xの共謀が認められるとした原判決の結論に誤りはない。 ウ 所論に対する判断(ア)G1証言に係る所論所論は、前提として、①歯科医師事件は、被告人Yは、市漁協i支所代表理事に5なることにより得られる利権を欲するG1の依頼を受け、中元や歳暮などの機会に付き合いのあったG1の同代表理事就任を、義侠心等から支援していたところ、これがF1の妨害により失敗したと考え、F1へのせめてもの意趣返しとして、個人的な面子を守るべく発案したものである、とする。その上で、②G1は、被告人Yに上記代表理事選の選挙協力依頼をしたことなどの隠ぺいを企図し、あるいは、本10件当時、平成25年12月に発生したG2殺害事件の嫌疑を捜査機関からかけられていたことから、捜査機関に迎合して被告人Yの利権交際要求が本件の発端であった旨の虚偽供述をする動機があった、このことは、③G1が、被告人Yからは、會の方 たG2殺害事件の嫌疑を捜査機関からかけられていたことから、捜査機関に迎合して被告人Yの利権交際要求が本件の発端であった旨の虚偽供述をする動機があった、このことは、③G1が、被告人Yからは、會の方針であり自身の意見ではどうにもならない、すなわち被告人Xの意向である旨告げられたと述べる一方、F1にこれを伝える際は、bの執行部は若いので何でも15する、すなわち、甲1會の若手構成員が執行部の言うことを聞かない可能性がある旨述べており、場当たり的に相容れない話をしていること、「會の方針」であることをF1に伝えていないことからも被告人Yがそのような発言をしていないことが明らかである、④被告人Yと平成26年2月中旬頃に会ったというG1証言はその面会の約束を取り付けた通話履歴等が存在せず、同年3月6日についても午後6時2031分頃に面会とは無関係の通話履歴が存在するにとどまり、いずれについても両名が会ったことを裏付ける証拠を欠いている、などという。 しかしながら、まず①の本件犯行は被告人Yの独断とする点については、被告人Yは単なる義侠心等に基づいてG1の代表理事就任を支援していたにとどまるのに、それがF1に阻まれると、意趣返しとして、五代目甲1會の組織を用いて襲撃を企25てるも、F1自身が警察の警備を受けていることからこれが困難とみるや、最終的 37にその息子を襲撃し、執ようなまでに報復を企てたという経緯自体が荒唐無稽というほかない。また、所論がいうようにG1が代表理事になることによる利権を欲していたとしても、それが実現すれば、五代目甲1會を相手にしないF1が代表理事である状況に比して、被告人Yひいては五代目甲1會が利権に与ることが格段に容易になる以上、原判決の説示と両立する内容というほかなく、所論は前提を欠いて5いる。次に② を相手にしないF1が代表理事である状況に比して、被告人Yひいては五代目甲1會が利権に与ることが格段に容易になる以上、原判決の説示と両立する内容というほかなく、所論は前提を欠いて5いる。次に②のG1に虚偽供述の動機があるとする点については、選挙協力依頼の隠ぺいを企図したとする点は、上記のとおり、被告人YがF一族の利権に介入する目的とG1の選挙協力依頼は両立する関係にある以上、被告人Yの利権交際要求が発端であった旨の虚偽供述をすることにより自らが選挙協力依頼をしたことを隠ぺいすることができるとG1が考えたとはみ難い。G1に虚偽供述の動機は見当たら10ず、被告人Yの発言等に関する供述をすることで自身への嫌疑をそらすことができる関係にもないとする原判決の説示は正当である。また、③のG1証言は場当たり的とする点については、G1は、被告人Yの発言を受けて、F1に対し、甲1會は本腰を入れてきている、G2があのようになっているのであり脅しではない、若い者も気の荒い者が多いから何をするか分からない、と言ったと証言している。これ15は、被告人Yの「會の方針」との発言を、甲1會は本腰を入れてきていると述べることで伝え、その余は、G2が殺害されたことに触れながら、甲1會の執行部は殺人もいとわない旨を述べたものと理解でき(なお、G1は「若い者」として想定していたのは理事長のC1である旨証言している。)、G1は被告人Yから告げられた内容をほぼそのままF1に伝えたものといえ、場当たり的とは評価できないし、20「會の方針」との被告人Yの発言をF1に伝達しているものといえる。最後に、④のG1証言が裏付けを欠くとする点についても、G1には虚偽供述の動機がないことや、原判決は、G1が被告人Yの指示でF1に五代目甲1會の意向を伝えた旨証言する平成26年2月 るものといえる。最後に、④のG1証言が裏付けを欠くとする点についても、G1には虚偽供述の動機がないことや、原判決は、G1が被告人Yの指示でF1に五代目甲1會の意向を伝えた旨証言する平成26年2月26日に、被告人YがG1に対し3回電話をかけていることなどを根拠にして、同月中旬頃の面会の点等を含めてG1証言の信用性を肯定して25いるのであって、原判決の判断は左右されない。 38以上のほかにも所論はG1証言が信用できない旨縷々主張するが、いずれも上記認定を左右するものではない。 (イ)その余の所論所論は、被告人XがF1からみかじめ料等を得ることを目的としていたのであれば、五代目甲1會組員において何らかの接触を図るはずであるが、被告人両名にC51を加えても、この頃に接触した者はおらず、上記のような目的のなかったことがあらわれている、という。 しかしながら、本件当時、五代目甲1會は特定危険指定暴力団であり、北九州市内においてみかじめ料等の要求を行うことは処罰の対象になる(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律46条3号、9条)ことから、被告人YはG1を介10してその意向をF1に伝えさせ、F1に対する接触の事実を捜査機関に発覚しにくくしていたものと解される。五代目甲1會組員による直接の接触がなかったことが所論のいうように目的がなかったことを意味するものではない。 以上のほかにも、所論は被告人Xの共謀が認められない旨縷々主張するが、いずれも上記認定を左右しない。 15第8 元組合長事件に関する事実誤認の論旨について1 事案の概要、論旨等⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実は、共犯者からH3を除くほかは、平成26年10月2日付け起訴状の公訴事実とほぼ同旨であるが、その要旨は、被告人両名は、B1、B2、 1 事案の概要、論旨等⑴ 原判決が認定した罪となるべき事実は、共犯者からH3を除くほかは、平成26年10月2日付け起訴状の公訴事実とほぼ同旨であるが、その要旨は、被告人両名は、B1、B2、B3らと共謀の上、平成10年2月18日午後7時3分頃、20北九州市a3区c町d番e号のキャバレー「n」前路上において、F2(当時70歳。i漁協元組合長。以下第8において「被害者」という。)に対し、殺意をもって、至近距離から回転弾倉式拳銃2丁で弾丸合計5発を発射し、そのうち4発を被害者の頭部、左胸部等に命中させ、よって、同日午後8時5分頃、同区f町にある病院において、被害者を頭部及び左胸部の射創による脳挫傷兼失血により死亡させ25て殺害するとともに、不特定若しくは多数の者の用に供される場所において、拳銃 39を発射した、というもので、本件は殺人及び拳銃発射の事案である。 ⑵ 論旨は、被告人両名は、いずれも共謀をしておらず無実であるのに、共謀の成立を認め、被告人両名を有罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。 ⑶ 原審においては、B1が実行犯であるか、B3やB2が共犯者であるか、被5告人両名に犯行動機があるかなど、多くの点が争われていたが、原判決は、実行犯2名のうちの1名はB1、犯行使用車両の調達等はB3やB2らであるとした上で、本件は、被害者らF一族が有していた北九州地区の砂・砂利事業等の利権に食い込むため、その利権交際要求の障害となっていた被害者を殺害することによりF一族に圧力をかけて利権交際要求を成功させることを意図して、三代目甲3組幹部を含10む甲1連合組員により組織的に行われた犯行であり、被告人Xは首謀者として関与し、被告人Y以下の三代目甲3組組員らに犯行を指示したと認 権交際要求を成功させることを意図して、三代目甲3組幹部を含10む甲1連合組員により組織的に行われた犯行であり、被告人Xは首謀者として関与し、被告人Y以下の三代目甲3組組員らに犯行を指示したと認定した。 当審においては、前述のとおりB1の証人尋問を実施し、B1は自分が実行犯の1人であったと証言したが、弁護人は、B1証言等を踏まえて、本件はB3とB1が個人的な遺恨から相談して被害者殺害を決め、H3を巻き込み、B2に自動車を15手配させて敢行したもので、組織が関与しない個人的な犯行である、と主張している。 当裁判所は、被告人Yの共謀を認めた原判決に誤りはない(弁護人のこの新たな主張を踏まえても結論は左右されない。)が、被告人Xにつき共謀を認めた原判決は、原審において取り調べられた証拠を子細に検討しても論理則、経験則等に照ら20し不合理であって是認することができず、被告人Xに係る事実誤認の論旨は理由があると判断した。以下、詳述する。 2 原判決の認定原判決は、まず元組合長事件が三代目甲3組幹部を含む甲1連合組員らにより組織的に敢行されたものか、被告人両名に本件犯行を行う動機があるか、という点を25検討し、これらが肯定されるとする。その上で、甲1連合ひいては三代目甲3組が 40厳格な統制のとれた暴力団組織であり、甲1連合若頭兼三代目甲3組組長の被告人X及び三代目甲3組若頭の被告人Yの指示ないし承認なくして、配下の組員が勝手に本件犯行に及ぶことは考え難いなどとして、被告人両名の共謀を認定したものであるが、その具体的な内容は以下のとおりである。 ⑴ 甲1連合、三代目甲1會及び四代目甲1會並びに三代目甲3組の概要5ア 甲1連合ないし四代目甲1會の概要等昭和62年6月、それまで抗争を繰り返していた甲1 容は以下のとおりである。 ⑴ 甲1連合、三代目甲1會及び四代目甲1會並びに三代目甲3組の概要5ア 甲1連合ないし四代目甲1會の概要等昭和62年6月、それまで抗争を繰り返していた甲1会と甲2一家が合併し、甲1連合甲2一家が結成され、H4が総裁、H5が総長、H1が若頭、被告人Xが本部長となった。平成2年12月、代替わりにより二代目甲1連合甲2一家が発足し、H5が総裁、H1が総長、被告人Xが若頭となり、元組合長事件が発生した平成1100年2月当時も同じ体制であった。甲1連合は、北九州市及びその周辺地域等を縄張としていた。 平成11年1月、甲1連合は三代目甲1會と名称を改め、H1が会長、被告人Xが理事長となり、平成12年1月には四代目甲1會が発足し、H1が総裁、被告人Xが会長となった。 15イ 三代目甲3組の概要等三代目甲3組は、甲1連合ないし四代目甲1會の二次団体である。 被告人Xは、昭和61年頃、三代目甲3組組長となり、上記アのとおり平成2年12月に二代目甲1連合が発足すると、当時三代目甲3組乙2組若頭であった被告人Yを序列2位の三代目甲3組若頭に抜てきした。 20元組合長事件が発生した平成10年2月当時、三代目甲3組には、組長の被告人X及び若頭の被告人Yのほか、序列3位の本部長のB3、若頭補佐のB1、行動隊長のB2らがおり、被告人Yが組長を務める三代目甲3組乙3組には本部長のH3がいた。甲1連合三代目甲3組には、B3、B1、B2のように、三次団体を組織して組長となる組員がいたが、このような三次団体組長同士の間に互いに指示をし25たり、従ったりという関係はなかった。 41⑵ 本件が三代目甲3組幹部を含む甲1連合組員らにより組織的に敢行されたこと次のアからエまでの事実等を総合すれ 同士の間に互いに指示をし25たり、従ったりという関係はなかった。 41⑵ 本件が三代目甲3組幹部を含む甲1連合組員らにより組織的に敢行されたこと次のアからエまでの事実等を総合すれば、元組合長事件は甲1連合組員らにより組織的に敢行されたものと認められる。 ア B1が本件犯行の実行犯の1人と認められること5実行犯2名が拳銃2丁を用い、被害者に銃弾5発を発射するという本件犯行の態様からは、暴力団組織等の犯罪組織の関与が強く推認される。そして、B1が本件前日の夜に旧I方(本件当時、B1が当時の内妻と生活していたマンション)において拳銃を暴発させたこと、本件犯行直前の時間帯頃に本件犯行現場から直線距離で約700mの地点にある喫茶店からB1が出ていったこと、上記拳銃が本件犯行10に用いられていることに加え、B1は、被害者殺害後、元組合長事件の犯人だと疑われるとして、しばらく身を隠したことからすれば、本件当時三代目甲3組の若頭補佐をしていたB1が実行犯の1人であると強く推認される。 イ B2及びB3の本件犯行への関与B2は、本件犯行の2日前である平成10年2月16日、知人のJに、自動車を15用意するよう指示し、同人に本件で実行犯2名が用いた本件サニーを盗ませている。 その際、本件サニーに別の自動車のナンバープレートを取り付けるよう指示するとともに、指紋を拭き取るよう注意していることなどからすれば、B2は本件サニーが重大犯罪に使用されることを認識していた。 また、B2は、Jとの電話をつないだままB3に電話をかけ、B3に対し、盗ん20だ車の置き場所について指示を仰いでいるから、犯行使用車両の調達をB2に指示したのはB3であった。 本件犯行の3日後である平成10年2月21日、B2は、路上に駐車されていた に対し、盗ん20だ車の置き場所について指示を仰いでいるから、犯行使用車両の調達をB2に指示したのはB3であった。 本件犯行の3日後である平成10年2月21日、B2は、路上に駐車されていた本件サニーを自ら確認し、その駐車場所に不満を述べた後、三代目甲3組本部事務所に戻り、会議室において、被告人Y及びB3と何らかの話合いをしている。話合25いのタイミングと、三代目甲3組内において本件当時被告人Yが序列2位の若頭、 42B3が序列3位の本部長、B2が行動隊長であったことも踏まえると、この話合いの際に、本件サニーの処理等に関して協議が行われたことがうかがわれる。 以上のとおり、B2及びB3が本件サニーの調達や事後処理に深く関わっている上、B2が、本件当日夕方、Jに対してアリバイ作りを指示し、同日の本件発生後の時間帯には、Jに対して「終わった。」などと言った上、口止めもしていること5を併せ考えると、B2及びB3の関与が推認でき、両名が三代目甲3組幹部組員であることに照らすと、三代目甲3組が組織的に関与した疑いが濃厚といえる。 ウ 元組合長事件後に被告人Yがかん口令を敷いたこと平成10年3月10日、三代目甲3組の定例会(本件後最初の定例の三代目甲3組の会合)において、当時若頭であった被告人Yが、本件に関し、警察にはもちろ10ん、組員同士でも一切話をしてはならない旨述べ、組員らに対しかん口令を敷いた。 エ 元組合長事件後のB1及びB2の処遇B1及びB2はいずれも、平成12年1月の四代目甲1會発足時に會内で昇格を果たしており、本件に関与したことで甲1連合あるいは三代目ないし五代目甲1會内で処分を受けていないばかりか、かえって、四代目及び五代目甲1會、四代目及15び五代目甲3組により、本件で服役中の両名のため ており、本件に関与したことで甲1連合あるいは三代目ないし五代目甲1會内で処分を受けていないばかりか、かえって、四代目及び五代目甲1會、四代目及15び五代目甲3組により、本件で服役中の両名のために少なくない額の現金が積み立てられ、B1に対しては服役する刑務所に多額の現金が差し入れられるなどしている。これらのことは、甲1連合及び三代目ないし五代目甲1會が組織として、その組員であるB1及びB2が本件犯行に関与したことを肯定的にとらえていることを推測させる事情といえる。 20⑶ 被告人両名がF一族の利権に重大な関心を抱き、利権交際要求を成功させるべく本件犯行を行う動機があったことア 被害者及びその一族と甲1連合及び被告人両名との関係被害者を始めとするF一族は、北九州地区の港湾建設工事における下請業者の選定等に関し、強い影響力を有するとみられていた。当時甲1連合若頭兼三代目甲325組組長であった被告人Xは、平成3年暮れから平成4年頭頃には北九州市a3区の 43「p」という店で被告人Yと共に被害者及びF1と会食をし、同年3月か4月には被告人Yほか数名とF1が会食をするなどして、F一族に接近を図ったことがあった。また、巨額の事業費を伴う公共事業であるq構想発表後の平成9年1月以降、三代目甲3組幹部を含む甲1連合の組員らが、代わる代わる被害者らに接触を図ったり、圧力を掛けたりして利権交際を要求したものの、被害者から拒絶されていた。 5被告人Xは、平成9年11月12日には、北九州の砂利事業者が参加した北九州市a1区の料亭「r」における宴席で、砂利事業には被害者が絡んでいるので甲1連合も利権介入ができない旨の発言もしており、被告人XがF一族の利権に重大な関心を抱くとともに、F一族がいる限り、その利権に甲1連合が食い込むことは ける宴席で、砂利事業には被害者が絡んでいるので甲1連合も利権介入ができない旨の発言もしており、被告人XがF一族の利権に重大な関心を抱くとともに、F一族がいる限り、その利権に甲1連合が食い込むことは困難との認識を示していた。こうした平成9年以降の三代目甲3組幹部を含む甲1連合10組員らによる被害者らへの働きかけの状況、殊に平成9年1月にB3がF1に対し「いよいよiに大きな仕事が始まる。お前とおやじとG2とG3がターゲットになっている。」などと組織としてF1らに狙いを定めているという趣旨の発言をしていることや、接触等を試みた組員の顔ぶれも見ると、こうした働きかけに甲1連合若頭兼三代目甲3組組長であった被告人Xの関与がなかったとは到底考えられない。 15また、被告人Yは、三代目甲3組若頭となった後の平成3年ないし平成4年頃、被告人Xと共にあるいは被告人X以外の数名の者と共にF1らと会食をするなどして、F一族に接近を図ったことがあったが、平成9年に入り、三代目甲3組幹部を含む甲1連合組員が被害者らに対して、複数回にわたり利権交際を迫っていたのに引き続き、本件犯行後である平成10年4月以降、再三F1に接触を図った上、同20年5月頃、電話で、F1に対し、「20年、30年警察とやっていくつもりね。表を歩けるようにせんといけんのじゃないんね。自分はG2のことは好かんけど、二人でよく話し合って連絡してちょうだい。このことは、警察、そして誰にも言ったらいけんよ。」と利権交際に応じるよう要求し、平成11年初め頃には、三代目甲1會組員であり被告人Yの弟分的な関係にあるD1が、F1に対し、「自分が来た25ら誰から頼まれたかわかるでしょう。このまま小さくやっていくんですか。このま 44ま甲1會を無視していくのか、はっきり返事が欲しい。」と 分的な関係にあるD1が、F1に対し、「自分が来た25ら誰から頼まれたかわかるでしょう。このまま小さくやっていくんですか。このま 44ま甲1會を無視していくのか、はっきり返事が欲しい。」と述べたなどの一連の経緯に照らすと、被告人Yも、被告人X同様、F一族の利権に重大な関心を抱いていたことが認められる。 イ 甲1連合ないし四代目甲1會における収益の分配三代目甲3組当時、甲1連合ないし四代目甲1會傘下の甲3組組員が暴力団の威5力を背景に建設会社等から得ていたとうかがわれる高額な上納金は、三代目甲3組組長であった被告人Xを含む甲1連合ないし四代目甲1會の最高幹部らの間で分配されていた。 平成8年にq構想が発表されて以降、北九州地区では、同構想における多額の漁業補償金の分配や大規模港湾建設工事の業者選定等が現実化しつつあったと考えら10れるところ、甲1連合ないし四代目甲1會における上記の収益分配構造に照らすと、仮に三代目甲3組等からの利権交際要求にF一族が応じた場合には、これらの漁業補償金の分配や工事業者からの上納金といった巨額の利権の相当部分について、甲1連合ないし四代目甲1會の最高幹部の地位にあった被告人Xが取得することが当然に見込まれていた。 15⑷ 結論上記⑵のとおり、本件が三代目甲3組幹部を含む甲1連合組員により組織的に敢行された犯行であることは明らかである。 そして、本件当時三代目甲3組序列1位、2位の組長及び若頭であった被告人両名がF一族の利権に重大な関心を抱き、平成9年以降、三代目甲3組幹部組員や甲201連合組員が被害者、F1及びG2に執拗に利権交際を求めたものの拒絶され、同年11月には、被告人Xが、F一族がいる限り、北九州地区の砂利事業、すなわち港湾建設工事等に関する利権に食い 員や甲201連合組員が被害者、F1及びG2に執拗に利権交際を求めたものの拒絶され、同年11月には、被告人Xが、F一族がいる限り、北九州地区の砂利事業、すなわち港湾建設工事等に関する利権に食い込むことは困難との認識を示す中で本件が起こっている。とりわけ被告人Xには、F一族へ圧力をかけて利権交際要求を成功させるため、本件犯行を行う動機が十分にあり、被告人Yは、本件の約3か月後、自ら25F1に甲1連合との利権交際を要求している。 45さらに、甲1連合の先代総長(H5)と親密な交際をしていた被害者を殺害するという決断を被告人Xの配下の組員が独断で行うことができるとは考え難いこと、甲1連合ひいては三代目甲3組は厳格な統制がなされる暴力団組織であって、本件犯行の実行や犯行使用車両の調達等で重要な役割を果たしたB1、B2、B3らは、互いに指示をしたり、従ったりという関係にはなく、これらの者にいずれも犯行を5指示できる組織の上位者としては、甲1連合若頭であり三代目甲3組組長の被告人Xと、被告人Xの意向を受けた三代目甲3組若頭の被告人Yがまず想定されるところ、とりわけB1については、被告人Xを尊敬し、忠誠心を抱いていた者であり、その指示ないし意向により本件犯行を実行したとしても何ら不自然ではないこと、被告人Xが、自ら若頭に抜てきし、その後組長の地位を継承させるほど信頼を厚く10置いていた被告人Yをとばして、B3以下の組員に対して、直接本件犯行に関する指示を行い、あるいは本件犯行に及ぶことを承認するとは考え難いことなども総合すると、本件犯行に被告人両名の関与がなかったとは到底考えられない。 以上によれば、被告人Xは、本件犯行に首謀者として関与し、被告人Y以下の甲3組組員らに犯行を指示したものと認められ、被告人両名の共謀が認め 件犯行に被告人両名の関与がなかったとは到底考えられない。 以上によれば、被告人Xは、本件犯行に首謀者として関与し、被告人Y以下の甲3組組員らに犯行を指示したものと認められ、被告人両名の共謀が認められる。 153 当裁判所の判断⑴ 原判決の構造ア 被告人両名に係る共謀を認めた原判決の認定の構造は、上記2⑷でまとめられているように、①本件犯行が三代目甲3組幹部を含む甲1連合組員らにより組織的に敢行されたこと、②被告人両名がF一族の利権に重大な関心を抱き、利権交際20要求を成功させるべく本件犯行を行うのに十分な動機があったこと、③甲1連合先代総長と親密な交際をしていた被害者の殺害を被告人Xの配下の組員が独断で行うことができるとは考え難いこと、甲1連合ひいては三代目甲3組が厳格な統制がなされる暴力団組織であり、B1ほか共犯者らには相互に指示し、従うという関係はなく、指示できるのは被告人両名であったことなど甲1連合の組織構造や構成員の25関係性等を総合すれば、被告人Xが被告人Y以下の三代目甲3組組員らに本件犯行 46を指示したものと認められ、被告人両名の共謀が認定できる、というものである。 しかし、原判決の上記認定説示中、①の組織的に敢行されたとの点については、その結論は是認することができるが、被告人両名の共謀を推認させる力は限定的であり、②の動機の点については、被告人Yについては共謀を推認させる内容を一部含むものの、被告人Xについては原判決がその根拠として説示するところからは認5定が困難なものである上、③の甲1連合の組織構造や構成員の関係性等については、そもそも認定の根拠が示されず、かつ、記録を精査しても是認することができない。 結局、原判決の結論中、被告人Yの共謀を認定した点に誤りはないが、被告人Xの共 合の組織構造や構成員の関係性等については、そもそも認定の根拠が示されず、かつ、記録を精査しても是認することができない。 結局、原判決の結論中、被告人Yの共謀を認定した点に誤りはないが、被告人Xの共謀に関しては上記①ないし③を総合的に検討しても、原判決がいうような被告人Xによる三代目甲3組組員らに対する本件犯行の指示の存在を認めるのに十分な証10拠はなく、合理的な疑いを残さない程度の立証がなされていないから、被告人Xの共謀を認定することはできない。したがって、被告人Xの共謀を認めた原判決は、論理則、経験則等に照らし不合理であって是認することができない。 イ 詳細は後に関係個所において重複をいとわず述べることとするが、原判決には、元組合長事件の発生した平成10年頃においても、上記第4でみたものと同様15の事情、すなわち、甲1連合又は三代目甲3組に関わる重要な意思決定においては常に被告人両名の双方が関与していたとみるのが合理的であり、少なくとも双方の意向確認がなされないままそのような意思決定が実行に移されることは想定し難いと評価すべき事情があったとみているかのような説示又はそのような事情を前提としていると理解するよりない説示が存在する。 20しかし、記録を精査しても、平成10年頃における甲1連合及び三代目甲3組の意思決定の在り方は不明というほかなく、甲1連合及び三代目甲3組において上記のような事情は証拠上認定できない。したがって、本件3事件のときの五代目甲1會の場合と異なり、甲1連合及び三代目甲3組にとって重要な意思決定であったとしても、被告人両名が意思決定に関与していたものと直ちに推認することはできな25い。この点に関し、原判決は、明示的には述べていないものの、厳格な統制がとれ 47た暴力団組織においては、最上位者の 、被告人両名が意思決定に関与していたものと直ちに推認することはできな25い。この点に関し、原判決は、明示的には述べていないものの、厳格な統制がとれ 47た暴力団組織においては、最上位者の指示ないし了解なくして配下の組員が勝手に殺人等の重大犯罪に及ぶことはあり得ないという、暴力団組織における意思決定の在り方や行動原理に関する経験則、あるいは、検察官も主張しているような、厳格な統制がとれた暴力団組織において幹部を含め組織横断的に多数の者が犯行に加わっている場合にはその者らを束ねる組織の上位者が犯行を指示していると推認され5るとの経験則を前提に判断しているようにもみえる。しかし、検察官もいうように前者のような経験則の存在を肯認することはできない。後者のような経験則については、これを肯認するとしても、具体的な適用の場面においては、当該暴力団の組織構造や統制の程度等種々の観点からの検討を要するのであって、本件においてどの範囲の上位者まで共謀を認められるかは、甲1連合及び三代目甲3組における重10要な意思決定の在り方がどのようなものであったのかという観点からの検討を要するところ、先に述べたとおり、この点は不明というほかないから、上記の経験則をそのまま適用して被告人両名の共謀を認定することはできない。 以上からすれば、元組合長事件については、元組合長事件を惹起することが甲1連合又は三代目甲3組にとって重要な意思決定であること以外に、被告人両名が共15謀に関与していないとすれば合理的に説明のつかない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事情が認められるのでなければ共謀を認定することはできないというべきである。 以下、上記ア①ないし③につき、順次検討する。 ⑵ 甲3組幹部を含む甲1連合組員らによる組織的な犯行とする点(上 である)事情が認められるのでなければ共謀を認定することはできないというべきである。 以下、上記ア①ないし③につき、順次検討する。 ⑵ 甲3組幹部を含む甲1連合組員らによる組織的な犯行とする点(上記⑴ア①)20についてア 原判決の認定説示するところに加え、元組合長事件に実行犯として関与したことを自認する当審B1証言を総合すれば、元組合長事件は、B1が実行犯として関与し、B3及びB2も犯行使用車両の調達役等として共謀に加わっていたこと、本件犯行後、被告人Yが本件に関してかん口令を敷いたこと、元組合長事件後にB251及びB2のために現金が積み立てられていたことがそれぞれ認められる。以上に 48よれば、三代目甲3組幹部を含む甲1連合組員が役割分担の上、計画的、組織的に本件を敢行した旨の原判決の結論は正当として是認することができる。 この点、B1は、当初、元組合長事件の実行犯は自分ではなく、実行犯のうち1名はH6であるとの陳述書を作成していたにもかかわらず、検察官からH6は当時服役中であったと指摘されるや、実行犯は自分とH3であると変遷させた。実行犯5は誰かという本件の核心部分について当初意図的な虚偽供述をしていたことを自認している以上、B1証言の信用性については慎重に判断をする必要があるが、B1がB3、B2らと共謀の上本件犯行に及んだという範囲では、その証言に十分な裏付けがあり、信用することができる。 この点、前述したように所論は、被害者に対する個人的な遺恨から自分がB3に10被害者殺害を持ち掛け、B3もまた個人的な遺恨からこれに応じたという経緯であったとするB1証言等に依拠し、元組合長事件は組織的犯行とはいえない、という。 しかし、原判決が正当に説示するとおり、元組合長事件はB2ら個人的な動機を有していたとはう らこれに応じたという経緯であったとするB1証言等に依拠し、元組合長事件は組織的犯行とはいえない、という。 しかし、原判決が正当に説示するとおり、元組合長事件はB2ら個人的な動機を有していたとはうかがわれない者も重要な役割を分担しており、事件後に服役したB1らに積立金が用意されるなどしていることからすれば、組織的な犯行であるこ15とは明らかである。また、所論指摘のような経緯が仮にあったしても、被告人両名が、B3らが個人的な遺恨等から発案した殺害計画について、これが自らの企図するところに合致するとして実行を指示し、あるいは承認を与えるなどして共謀を遂げることはあり得る以上、被告人両名の共謀と両立する関係にあるというほかない。 弁護人は、当審において、この経緯に係るB1証言を裏付けるものとして多数の陳20述書等の事実取調べを請求したが、上記のような観点から取調べの必要性が認められず、当裁判所はこれを却下した。 イ もっとも、元組合長事件が三代目甲3組の幹部を含む甲1連合組員らにより組織的に敢行されたものとして、それが被告人両名の共謀への関与をどのような過程で推認させるかについて、原判決は説示を欠いている(後記⑷で検討する説示に25おいてその過程を説示していると解する余地もあるが、是認できないことは同所で 49述べる。)。 検察官は、本件は三代目甲3組の幹部らを中核とする組織的犯行であり、実行犯らが検挙されるなどすれば三代目甲3組の組織に大きな影響を与えるから、当時序列1位と2位であった被告人両名の了解を得ていなかったとは考えられないし、事件後の継続的な金銭の提供や昇格といった組織的対応も、そのような了解があった5からこそ可能となっている、という。 しかし、上記⑴イでみたとおり、元組合長事件当時の三代目甲3組の意思決定 いし、事件後の継続的な金銭の提供や昇格といった組織的対応も、そのような了解があった5からこそ可能となっている、という。 しかし、上記⑴イでみたとおり、元組合長事件当時の三代目甲3組の意思決定の在り方を認定するに足る証拠は存在しない以上、元組合長事件が三代目甲3組序列3位であったB3ら幹部を中核とする犯行であるからといって、直ちに組織への影響を慮るなどして上位者の了解を得ていたものと推認することのできる組織であっ10たとみるべき根拠も、被告人両名が関与していなければ、B3ら幹部が関与していたとしても事件後の組織的な対応がなされない組織であったとみるべき根拠も欠いている。また、後者の事件後の組織的な対応については、後にみるとおり三代目甲3組序列2位であった被告人Yが共謀に関与していたと認められる以上、更に序列1位の被告人Xが関与していなければなされることがなかったとみるべき根拠は全15くないことも指摘できる。 ウ 以上のとおり、元組合長事件が三代目甲3組幹部を含む甲1連合組員による組織的な犯行であることは、それ単独では被告人両名の共謀を推認する力があるとしても乏しいものというほかないから、その余の間接事実と併せて共謀を推認させるものといえるかについて後記⑸で検討することとする。 20⑶ 本件犯行の動機(上記⑴ア②)について原判決は、被告人両名に係る事情として、①被告人両名は、平成3年頃以降、pで被害者及びF1と会食をするなどして、F一族に接近を図ったことがあったこと、②巨額の事業費を伴う公共事業であるq構想発表後の平成9年1月以降、三代目甲3組幹部を含む甲1連合の組員らが、代わる代わる被害者らに接触を図ったり、圧25力を掛けたりして利権交際を要求し、殊にB3が「ターゲットになっている。」な 50どと組 年1月以降、三代目甲3組幹部を含む甲1連合の組員らが、代わる代わる被害者らに接触を図ったり、圧25力を掛けたりして利権交際を要求し、殊にB3が「ターゲットになっている。」な 50どと組織としてF1らに狙いを定めているという趣旨の発言をしたものの、被害者から拒絶されていたことを指摘する。 以上に加え、被告人Xは、③平成9年11月には、料亭「r」における北九州の砂利事業者が参加した宴席で、砂利事業には被害者が絡んでいるので甲1連合も利権介入ができない旨の発言もしており、被告人XがF一族の利権に重大な関心を抱5くとともに、F一族がいる限り、その利権に甲1連合が食い込むことは困難との認識を示していた、と説示する。 また、被告人Yについては、④上記働きかけに引き続き、元組合長事件の約3か月後には、自らもF1に接触して利権交際に応じるよう要求し、平成11年初め頃にはD1をしてF1に利権交際要求をさせていたものであり、このような一連の経10緯に照らすと、被告人Yも、被告人X同様、F一族の利権に重大な関心を抱いていた、とする。 以上の原判決の指摘や説示をみると、原判決は、被告人両名が元組合長事件の動機となるほどにF一族の利権に重大な関心を抱いていたことを説明しているものと理解できる。もっとも、上記②のうちのB3の発言及び上記④が被告人Yの共謀を15推認させるとする範囲では原判決に誤りはないから後記⑸で更に検討するが、上記②のその余の指摘並びに上記①及び③が被告人両名の共謀を推認させるとする点は飛躍があって論理則、経験則等に照らし不合理というほかない。以下詳述する。 ア 上記①の平成3年頃以降の被告人両名と被害者らとのpでの会食についてこの点は被告人両名が被害者らの有する利権に関心を抱いていたことをうかがわ20せ 不合理というほかない。以下詳述する。 ア 上記①の平成3年頃以降の被告人両名と被害者らとのpでの会食についてこの点は被告人両名が被害者らの有する利権に関心を抱いていたことをうかがわ20せるものとはいえるが、元組合長事件の約7年前の出来事である上、F1証言によっても被告人YがF1との今後の交際を求めたにとどまるというのであるから、被害者を殺害してでもその利権に介入しようとの考えを有していたことまで推認させるものとはいい難い。この点は、元組合長事件の動機を推認させるものとはいえない。 25イ 上記②の平成9年以降の被害者らへの利権交際要求等について 51原判決が認定する利権交際要求を行った三代目甲3組幹部組員や甲1連合組員は、甲1連合乙4組組長であり被告人Xの舎弟であるH7、甲1連合三代目甲3組幹事長兼乙5興業組長であったH8、B1及びB3であり、B3はF1に対し、平成9年1月に「いよいよiに大きな仕事が始まる。」「おまえと、親父と、G2と、G3がターゲットになっている。」などと伝えたことも認められる。 5しかし、原判決が説示する者らのうち、まずH8がF1に対し、「a1は俺の縄張じゃ、おまえたち大概にしとけよ。」と述べたのは、H8が、北九州市a1区においてF1らが賭け麻雀を行い、H8の縄張を荒らしたと認識したためと認められ、これが単なる口実であってその本意は利権交際要求にあったとは記録を精査しても認めることができないから、F一族に対する利権交際要求とは認められない。この10点は、検察官主張に係るH8の配下組員がF1方付近で拳銃を隠匿所持した事実で逮捕されたことなどを併せ考慮しても同様である。なお、弁護人は当審において、H8の証人尋問を複数回請求したが、上記のとおり、H8の発言を利権交際要求とする原審の説 1方付近で拳銃を隠匿所持した事実で逮捕されたことなどを併せ考慮しても同様である。なお、弁護人は当審において、H8の証人尋問を複数回請求したが、上記のとおり、H8の発言を利権交際要求とする原審の説示は是認できないこと、弁護人の掲げるその余の立証趣旨は争点との関連性に乏しいことから、当裁判所は必要性がないものとしていずれも却下した。 15さらに、上記⑴イでみたとおり甲1連合又は三代目甲3組における意思決定の在り方が不明であり、H7及びB1が被告人X又は被告人Yの指示ないしは了解なしにこのようなことを行わないとは記録を精査しても認め難い以上、これらの者がそれぞれ単独で働きかけを行うなどした可能性を排斥することができない。 したがって、原判決の説示中、H8の発言が利権交際要求であるとする点並びに20H7及びB1の発言が被告人両名に動機があったことを推認させるものとする点は是認することができない。 他方、B3がF1に対し、被害者らが「ターゲットになっている。」などと伝えた点については、B3が本部長を務める三代目甲3組が組織として被害者らをターゲットにしているという趣旨に解するのが合理的であるから、これが被告人両名の25共謀を推認させ得るとする原判決の説示に誤りがあるとはいえない。したがって、 52この点は後記⑸でさらに検討することとする。 ウ 上記③の平成9年11月のrでの被告人Xの発言について原判決は、被告人Xが平成9年11月、北九州での新規事業展開を計画する砂・砂利の採取販売事業者に対し、「砂の世界は難しいもんね。Fがいるもんね。やりたいことも行き詰まるよ。何とかFを含めて、砂業界を統一せんと、本当の意味で、5砂業界で仕事をするのは難しいですよ。」「砂利事業はa1のFが絡んでいるから大変ですよ。あそこには、私 もんね。やりたいことも行き詰まるよ。何とかFを含めて、砂業界を統一せんと、本当の意味で、5砂業界で仕事をするのは難しいですよ。」「砂利事業はa1のFが絡んでいるから大変ですよ。あそこには、私どもも何も絡めないんです。」と発言したことをもって、被告人Xが、被害者らF一族がいる限り、北九州地区の砂・砂利事業、すなわち港湾建設工事等に関する利権に食い込むことは困難であるとの認識を示した、と説示する。 10しかし、被告人Xの上記発言は、北九州市内での砂・砂利事業への新規参入を企図する業者に対する発言ということを前提とすれば、被告人Xが、同市内の同事業についてはF一族が掌握しており、自分たちもそこから利益を得ることはできない、との認識を有していたことをうかがわせるものではあるが、原判決が、それを超えて、利権を得るために被害者を殺害して排除することもやむを得ないと考えていた15ことを示すものと評価しているのであれば、それには飛躍があるというほかない。 この点は、原判決の指摘する、被告人Xが甲1連合の得ていた上納金の相当部分を取得していたとの事情を踏まえても同様である。 エ 上記④の被告人Yの利権交際要求について平成10年5月頃、被告人YがF1に対し、「20年、30年警察とやっていく20つもりね。表を歩けるようにせんといけんのじゃないんね。」と述べたことは、元組合長事件の約3か月後の発言であることも踏まえれば、元組合長事件に三代目甲3組が関与したことを示唆し、今後も甲1連合と付き合わない態度をとるのであれば表を歩けないような事態になるとする趣旨と解されるから、これを利権交際要求とする原判決の説示は正当であり、上記2⑵ウでみた被告人Yが自ら行ったかん口25令に反する行動であること、平成11年初め頃に被告人Yの指示でF1に なるとする趣旨と解されるから、これを利権交際要求とする原判決の説示は正当であり、上記2⑵ウでみた被告人Yが自ら行ったかん口25令に反する行動であること、平成11年初め頃に被告人Yの指示でF1に会ったD 531が、「自分が来たら誰から頼まれたか分かるでしょう。」「このまま甲1會を無視していくのか、はっきり返事が欲しい。」などと述べたことを併せ考えれば、利権に対する被告人Yの関心の強さ、その関心と元組合長事件との結び付きをいずれもうかがわせるから、被告人Yが元組合長事件に関与していたことを推認させる事情といえる。 5所論は、被告人Yの平成10年5月頃の上記発言は、元組合長事件以降、甲1連合が捜査対象になっており、この事態はF1らが警察にすり寄ったことにより生じていると考え、これをけん制しつつ手打ちを申し入れる趣旨で述べたもので、利権交際要求ではない、上記発言の際、被告人Yは被害者の葬式に出席できなかったことを謝罪するなどしていることからすれば、脅迫でないことは明らかである、とい10う。 しかしながら、上記発言は、その内容自体からみても、警察と協力するなら表を歩けないようにするとの脅迫とみるほかないから、手打ちの申入れとは到底いえず、これを利権交際要求とする原判決の説示は正当である。また、被告人Yは、確かに葬式に出席できなかったことを謝罪しているが、既にみたところに加え、被害者の15葬式すなわち被害者の殺害に言及すること自体、その後の「表を歩けるようにせんといけんのじゃないんね。」との発言と相まって、むしろ元組合長事件に三代目甲3組が関与したことを示唆し、脅迫を構成する要素というほかない。 所論は、そもそも被害者の殺害からわずか二、三か月しか経っておらず、警察が大規模な捜査態勢を敷いて必死に捜査をしている時期に、 代目甲3組が関与したことを示唆し、脅迫を構成する要素というほかない。 所論は、そもそも被害者の殺害からわずか二、三か月しか経っておらず、警察が大規模な捜査態勢を敷いて必死に捜査をしている時期に、被害者の殺害を脅しの手20段として、その長男であるF1に対し利権交際を要求することは自らが犯人であると自白するに等しく、あまりに不合理である、ともいう。 しかしながら、むしろ被害者が殺害されて3か月程度しか経っていない時期にその殺害への三代目甲3組の関与をほのめかすことにこそ、脅迫としての重みがあるのであって、被告人YがF1に対し、警察にも誰にも言ってはいけないと口止めし25ていることも併せ考えると、所論は採用できない。 54なお、被告人Yは、当審において、F1の当時のメモには上記のとおり「このまま甲1會を無視していくのか、はっきり返事が欲しい。」と述べたのは「甲2一家の者」とあるが、D1をよく知るF1が合併前の甲1会と対立関係にあった甲2一家系の組に一度も属したことのないD1をそのように表現するはずはない、D1を自身の指示でF1の下に行かせたことはあるが、これは元組合長事件が甲1連合の5犯行ではないことを伝えるためで、時期も平成11年初め頃ではない旨を述べる。 しかしながら、まず、D1は平成11年1月に三代目甲1會に名称変更されるまでは甲1連合甲2一家に属しており、D1を「甲2一家の者」と表現しても不自然ではないし、F1は、D1は昔からの知り合いでD1自身から迷惑を掛けられたわけでもなく、組織での立場もあって自分のところに来たものと理解し、あえて実名10では記載しなかった旨を述べており、実名を記載しなかった理由として不自然ではないから、「甲2一家の者」はD1と認められる。また、D1がF1に対して発言をした時期及びそ のと理解し、あえて実名10では記載しなかった旨を述べており、実名を記載しなかった理由として不自然ではないから、「甲2一家の者」はD1と認められる。また、D1がF1に対して発言をした時期及びその内容に係るF1証言は、当時F1が使用していた平成11年の手帳に2月1日付けでメモされた内容によって裏付けられており、少なくとも同年初め頃にそのような発言があったとする原判決の認定説示に誤りはない。 15以上のほかにも、所論は上記発言が利権交際要求に当たらない旨縷々主張するが、いずれも上記認定を左右するものではない。 ⑷ 甲1連合の組織構造等(上記⑴ア③)についてア 被害者が甲1連合先代総長(H5)と親密な交際をしていたことが被告人両名の共謀を推認させるとする点20原判決は、被害者が甲1連合先代総長と親密な交際をしていた被害者の殺害を被告人X配下の組員が独断で行うことは考え難いと説示しているが、H5は平成3年に死亡しており、元組合長事件(平成10年)当時、H5と被害者がかつて親密な交際をしていたことが甲1連合にとってどの程度の意味を持っていたのかは明らかでないというほかない。 25イ B3らに指示を与えられる者として被告人両名が想定されるとする点 55原判決は、甲1連合ひいては三代目甲3組は厳格な統制のなされる暴力団組織であって、B3、B1及びB2ら甲1連合三次団体組長の間に互いに指示に従うなどの関係がなかったことなどを理由に、これらの者にいずれも犯行を指示できる組織の上位者としては、甲1連合若頭であり三代目甲3組組長の被告人Xと、被告人Xの意向を受けた三代目甲3組若頭の被告人Yがまず想定され、特に実行犯であるB51については、被告人Xを尊敬し、忠誠心を抱いていたから、その指示ないし意向により実行犯となったと 告人Xと、被告人Xの意向を受けた三代目甲3組若頭の被告人Yがまず想定され、特に実行犯であるB51については、被告人Xを尊敬し、忠誠心を抱いていたから、その指示ないし意向により実行犯となったとしても何ら不自然ではないと説示している。 (ア) まず原判決が、甲1連合ひいては三代目甲3組が厳格な統制のなされる暴力団組織であると説示している点についてであるが、上記⑴イのとおり、この「厳格な統制」の内実は記録上明らかでなく、上記第4でみたような「厳格な序列」10に類似するものが存在したと認めるに足る証拠はない。 (イ) 次に原判決が、B3ら三次団体組長間に上下関係はなかったとする点から元組合長事件が被告人両名の指示によると推認している点についてであるが、この点はH9証言、H2証言及び被告人Yの供述から認定したと解される。すなわち、H9は、B3、B1、B2、H8及びH3について、これらの者が親しく付き合っ15ているか、一緒にいわゆるシノギ(H9は生活するすべを得るものと証言しており、暴力団組員の資金獲得手段の趣旨と解される。)をする関係にあったかもわからない、と証言した上で、原審検察官の、H9から見て、被告人Y、B3、B1、B2、H8につき、誰かが誰かに命令する立場にあるという認識はあったか、という問に「ありません。」と答えている。原判決は、このH9証言、さらには、三代目甲320組内の直轄組長同士の間で互いに指示したり従ったりする関係はないが、若頭である被告人Yからの指示には従う旨のH2証言、そして、B3やB2、B1の間に、一方が他方に指示したり命令したりする関係にはなく、被告人Yもこれらの者に命令等をすることはなかった旨の被告人Yの供述が、B3ら三次団体組長間に上下関係がなかったとする限りでは一致していることを踏まえ、そのよう 指示したり命令したりする関係にはなく、被告人Yもこれらの者に命令等をすることはなかった旨の被告人Yの供述が、B3ら三次団体組長間に上下関係がなかったとする限りでは一致していることを踏まえ、そのように認定したと解25されるのである。 56しかしながら、被告人両名は、原審段階から、元組合長事件当時、B3は被告人Yよりも年長で、甲3組での組員としての活動期間に至っては被告人Yはもちろん被告人Xよりも長く、被告人Yが三代目甲3組序列2位の若頭、B3が同序列3位の本部長となって以降も、被告人YとB3の2人のときなどには被告人YがB3を兄貴と呼んでいた旨を供述していた。また、B2の指示で本件サニーを調達したJ5も、B2はB3を「B3の親分」と呼んでおり、B3が格上だったと供述していた。 これらの供述を排斥するに足る証拠はない。そうだとすれば、所論指摘のとおり、三代目甲3組内において、B3は三次団体組長の中でも上位の立場にあり、元組合長事件において同じ三次団体組長であるB2に本件サニーの調達を指示することができたのはそのあらわれであるという疑いを払しょくすることができない。 10結局、B3ら三次団体の組長間に上下関係がなく、指示を与えられるのは被告人両名であった旨の原判決の説示は、前提となる上下関係がないとの事実認定に誤りがあるから是認することができず、この点を被告人両名の共謀を推認させるものとする原判決の説示は前提を欠いている。 (ウ) なお、元組合長事件の実行犯であるB1が被告人Xに忠誠心を抱いてい15たことは、元組合長事件の共謀に被告人Xが関与していたことを推認させるものではない。 ウ 原判決は、被告人Xが被告人Yを飛ばしてB3以下の三代目甲3組組員に対し直接本件犯行を指示することは考え難いとも説示しているが、そも 共謀に被告人Xが関与していたことを推認させるものではない。 ウ 原判決は、被告人Xが被告人Yを飛ばしてB3以下の三代目甲3組組員に対し直接本件犯行を指示することは考え難いとも説示しているが、そもそも被告人Xの共謀を認め難い以上、この説示は前提を欠いているというほかない。 20⑸ 小括ア 被告人Yの共謀について上記⑴ないし⑷で検討したところによれば、原判決の認定説示する事実の中で、被告人Yの共謀を推認させるものとして是認できるのは、①本件犯行に先立つ平成9年1月に、B3がF1に対し被害者らが「ターゲットになっている。」と伝えた25こと、②本件犯行がB3やB1ら三代目甲3組組員が役割分担をして行った組織的 57犯行であること、③被告人Yは、本件犯行後である平成10年4月以降、複数回にわたり知人を介してF1に連絡を取ろうとした上で、本件犯行の約3か月後である同年5月頃には、F1に対し自ら利権交際要求をし、平成11年初め頃にはD1をして再度利権交際要求をさせた事実にとどまる。しかし、これらを総合すれば、被告人Yの共謀を認めることができるというべきであるから、これと結論において同5旨の原判決に誤りがあるとはいえない。 すなわち、当時三代目甲3組本部長であったB3が、組織として被害者らをターゲットにしている趣旨の発言をF1に対してした(上記①)後、実際に三代目甲3組組員らが組織的に本件犯行に及んでいること(上記②)自体が、当時三代目甲3組若頭であった被告人Yの共謀をうかがわせるものといえる。もっとも、既に繰り10返しみているとおり、当時の甲1連合及び三代目甲3組の意思決定の在り方は記録上不明であるから、これらの事情のみでは、所論指摘のとおり、三次団体組長の中でも上位の立場にあったB3が、被告人Yの指示ないし了解を いるとおり、当時の甲1連合及び三代目甲3組の意思決定の在り方は記録上不明であるから、これらの事情のみでは、所論指摘のとおり、三次団体組長の中でも上位の立場にあったB3が、被告人Yの指示ないし了解を得ることなく独断で本件犯行に及んだ可能性を排斥するには足りない。しかしながら、上記③のとおり、本件犯行の約3か月後に、被告人Yは、自らF1に対し、元組合長事件が三代目甲153組の犯行であることを示唆しつつ利権交際要求をしており、これは元組合長事件を奇貨とする行動で、かつ既にみた自身が三代目甲3組組員に対して敷いたかん口令にも反する行いであったということができる上、平成11年初め頃には、自身が平成10年10月に逮捕され、当時は起訴後勾留中で接見等禁止決定もなされていたにもかかわらず、D1に指示してF1への利権交際要求に及んでいる。仮に被告20人Yが元組合長事件の共謀に関与していなかったとすれば、B3らが元組合長事件を起こしたことを事件後に知った被告人Yが、これを利用してF1に利権交際要求をすることとしたものとみるほかない。しかし、自らが敷いたかん口令に反し、事件の約3か月後には既にそのような要求をなし、かつ、接見等禁止決定の付された勾留中であってもなおD1をして要求させるほどの強い執着ないし動機をうかがわ25せる事柄につき、被告人Yの思惑と無関係にB3らが利権交際要求に用いることが 58できる事件を偶然起こしたなどという事態は相当に考え難い。被告人Yは、元組合長事件の実行に関し、B3らに指示し、あるいはB3らの計画に対し了解を与えるなどして、共謀に関与していたものとみるべきである。 以上のとおりであって、上記①ないし③の事情を併せ考慮すれば、被告人Yの共謀を認めることができるから、原判決の結論には誤りがない。 5イ 被告 どして、共謀に関与していたものとみるべきである。 以上のとおりであって、上記①ないし③の事情を併せ考慮すれば、被告人Yの共謀を認めることができるから、原判決の結論には誤りがない。 5イ 被告人Xの共謀について被告人Xの共謀を推認させる間接事実に係る原判決の説示は、既にみたとおり、いずれも是認することができないか推認力に乏しいものにとどまり、これらを総合しても、原判示第1の元組合長事件につき被告人Xの共謀は認められない。 詳論すると、確かに本件犯行は上記アでみたとおり被告人Yを含む三代目甲3組10組員らが組織的に及んだものと認められる。しかし、本件は、被告人Xら最高幹部と直接話ができるという特別な立場にあった元警察官を銃撃したという元警察官事件のように、その帰結として組織に重大な支障が生じ得ることから、序列1位の総裁(本件時は三代目甲3組で序列1位の組長)である被告人Xの意向を確認せずに行うことが考え難いものとまではいえないから、この点のみでは推認力に限界があ15る。そして、本件3事件当時とは異なり、元組合長事件当時、三代目甲3組序列2位の若頭の立場にあった被告人Yが関与しているとすれば、序列1位である組長の被告人Xもまた本件に関与しているとしなければ合理的な説明がつかないとみるべき事情が存在しないことは既にみてきたとおりである。これは、B3の「ターゲットになっている。」との発言を踏まえても同様である。本件3事件当時と元組合長20事件当時に共通の事情として、被告人Yがほぼ毎朝、被告人Xの自宅に挨拶に行っていたことは指摘できる(上記第4の1⑵)が、その際に元組合長事件の共謀が遂げられたなどの事情は全くうかがわれない。 検察官は、被告人両名に係る共謀を認めた原判決の認定の構造(上記2⑷及び3⑴ア)が全て正しいことを前提 (上記第4の1⑵)が、その際に元組合長事件の共謀が遂げられたなどの事情は全くうかがわれない。 検察官は、被告人両名に係る共謀を認めた原判決の認定の構造(上記2⑷及び3⑴ア)が全て正しいことを前提として、原判決が認定した間接事実中には、被告人25両名の指示がないとしたならば合理的に説明することができない、又は少なくとも 59説明が極めて困難となる事実関係が含まれている、という。具体的には、①被告人両名が関与していなければ、三代目甲3組幹部を中核とした多数の組員が組織的・計画的に本件犯行を実行したこと、さらに、実行犯らに対する組織からの処分はなく、逆に服役中の者に金銭的援助をしていること、の説明がつかない、②被告人Xは被害者が絡んでいるから利権介入できない旨発言するなど利権交際要求に強い関5心ないし意欲を有しており、F一族にどう働きかけるかは甲1連合ないし三代目甲3組の組織としての問題であって、被告人両名の意向を確認することなく、最終手段ともいえる被害者殺害を決行することは考え難い、③被害者と甲1連合先代総長の親密な関係を考慮すると、被告人両名に無断で配下の組員が本件犯行に及ぶことは組織に対する不義理となる、④並列的立場にある三次団体組長が連携・協力しな10がら犯行を実行するには上位者である被告人両名の指示がないと説明できない、というものである。 しかしながら、そもそも原判決が説示する共謀に関する認定の構造が全て正しいとする前提をとることができないことは既に説示(上記⑴ア)したとおりである。 上記①ないし④を個別に検討してみても、①及び④については、甲1連合及び三代15目甲3組が厳格な統制のとれた暴力団組織であることを前提とするものであるが、既に繰り返し述べているように元組合長事件当時の三代目甲3組の意思決定の在り 、①及び④については、甲1連合及び三代15目甲3組が厳格な統制のとれた暴力団組織であることを前提とするものであるが、既に繰り返し述べているように元組合長事件当時の三代目甲3組の意思決定の在り方は不明というほかないから被告人Xの指示がないと本件犯行が実行されない組織であったということはできないし、①の処分がない点や金銭的援助の点につき被告人Xの関与がなくても説明できること(上記⑵イ)や、④が前提とする三次団体組20長間に上下関係がなかったとする点に根拠がないこと(上記⑷イ)も既に説示したとおりである。また、②の被告人Xに関し本件犯行を指示する動機の存在をいう点については、その前提となる平成3年頃のpでの会食の事実や平成9年11月のrでの発言内容をもってしても、被害者を殺害してでもその利権に介入しようとの考えを有していたことまで推認させるものといい難いことは既に説示(上記⑶アない25しウ)したとおりである。③の被害者と甲1連合先代総長の親密な関係をいう点が 60被告人の指示をうかがわせるものといえないことも既に説示(上記⑷ア)したとおりである。そして、①から④までを総合して検討しても被告人Xの指示がないとしたならば合理的に説明することができない、又は少なくとも説明が極めて困難となる事実があるとはいえない。 結局、原判決説示の各事情は、検察官の種々の主張を踏まえて検討しても、それ5らを総合してなお被告人Xの共謀を推認させる力に乏しいものというよりない。被告人Xの共謀を認めた原判決の説示は論理則、経験則等に照らし是認できない。 ウ 結語以上のとおりであるから、原判示第1に係る被告人Xの共謀につき事実誤認をいう論旨は、上記と同旨をいうものとして理由がある一方、被告人Yの共謀につき事10実誤認をいう論旨は理由がない ウ 結語以上のとおりであるから、原判示第1に係る被告人Xの共謀につき事実誤認をいう論旨は、上記と同旨をいうものとして理由がある一方、被告人Yの共謀につき事10実誤認をいう論旨は理由がない。 第9 結論(被告人Xに関し破棄自判、被告人Yに関し控訴棄却)以上のとおりであって、被告人Yに係る論旨はいずれも理由がないから、刑訴法396条、刑法21条を適用して主文のとおり判決する。 他方、主文掲記の公訴事実につき被告人Xを有罪とした原判決は、証拠の評価を15誤り、論理則、経験則等に照らし不合理な認定をしたものであり、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある。この点に係る論旨は理由があり、原判決は、被告人Xについては同公訴事実と原判示第2ないし第4の事実を併合罪として1個の刑を科しているから、結局その全部について破棄を免れない。よって、刑訴法397条1項、382条により原判決を破棄し、同法400条ただし書により被告事20件について更に判決する。 (当裁判所が認定した罪となるべき事実)原判示第2ないし第4と同一である。 (証拠の標目)省略25(確定裁判) 61省略(法令の適用)省略(量刑の理由)1 本件3事件は、いずれも、複数の五代目甲1會組員らが、実行役やその送迎5役等の役割を分担し、出勤又は帰宅途中の被害者らを路上等で襲撃したもので、組織的・計画的で大胆な犯行である。そして、暴力団が組織として入念な準備の上で市民を標的として襲撃するという本件3事件は、卑劣で反社会性の著しい犯行でもある。 実行の態様についてみても、元警察官事件では、被害者の身体に向けて複数回銃10撃し、看護師事件及び歯科医師事件では、身体の枢要部めがけて刃物で突き刺すなどするといういずれも危険な でもある。 実行の態様についてみても、元警察官事件では、被害者の身体に向けて複数回銃10撃し、看護師事件及び歯科医師事件では、身体の枢要部めがけて刃物で突き刺すなどするといういずれも危険な態様であり、人命軽視の姿勢が著しい。本件3事件の結果、被害者らは、いずれも重傷を負うとともに多大な精神的苦痛を被り、犯人の処罰を望んでおり、元警察官事件における拳銃発射行為が地域社会に対して与えた不安感も大きなものがあったといえる。 152 被告人Xは、元警察官事件の動機は不明であるものの、看護師事件については自身の施術等を担当した看護師である被害者の言動に強い不満を抱いたことから、歯科医師事件については被害者の親族が有する地元の港湾建設工事等に関する利権への介入を目的として、いずれの事件についても、被告人Yより更に上位の五代目甲1會の実質的な最上位者として指揮命令し、五代目甲3組組員らをして実行させ20た。特に看護師事件については個人的な不満から五代目甲1會の組織を利用して被害者を襲撃したものであること、被害者らに特筆すべき落ち度は見当たらないことからすれば、いずれの犯行についても、被告人Xの暴力を肯定的にとらえる姿勢が顕著にあらわれたものというよりない。 3 そうすると、元組合長事件について犯罪の証明がないことや本件3事件にお25ける被殺者がいないこと等に照らせば原判決の死刑の量刑は到底維持し難いものの、 62本件3事件のみをとらえても被告人Xの刑事責任は非常に重いというほかない。被告人Xは、原審において、五代目甲1會の組員が堅気の人を襲撃したことについては被害者を気の毒に思う、当審において、自分が所属していた元の組織による犯行の被害者らには申し訳ないと思う旨を述べたとはいえ、いずれの事件についても関与を否認し、不合理 気の人を襲撃したことについては被害者を気の毒に思う、当審において、自分が所属していた元の組織による犯行の被害者らには申し訳ないと思う旨を述べたとはいえ、いずれの事件についても関与を否認し、不合理な弁解に終始している。看護師事件の被害者に対し実行役の共5犯者が被害弁償として1000万円を支払ったことや被告人Xが高齢であることなどを踏まえても、無期懲役の刑に処するのが相当である。 (一部無罪の理由)主文掲記の公訴事実については、上記第8記載のとおり、犯罪の証明がないから、刑訴法336条により被告人Xに対し無罪の言渡しをする。 10令和6年3月13日福岡高等裁判所第3刑事部 15

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