平成29(行ウ)520 損害賠償請求行為請求事件(住民訴訟)

裁判年月日・裁判所
令和2年7月21日 東京地方裁判所
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判決文本文37,580 文字)

令和2年7月21日判決言渡平成29年(行ウ)第520号損害賠償請求行為請求事件(住民訴訟)主文 1 本件訴えのうち,次の(1)から(3)までの訴えをいずれも却下する。 (1) 社会福祉法人Aに対して不当利得返還請求をすることを求める訴え (2) B及びCに対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることを求める訴え(3) Dに対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることを求める訴えのうち,違法な補助金交付決定による不法行為に係る部分 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,社会福祉法人Aに対して456万3200円及びこれに対する平成27年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。 2 被告は,D,B及びCに対し,456万3200円及びこれに対する平成27年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を請求せよ。 第2 事案の概要α市長は,α市内で保育園(以下「本件保育園」という。)を営む社会福祉 法人A(以下「本件社会福祉法人」という。)に対し平成26年12月から平成27年3月までの期間(以下「本件対象期間」という。)に合計456万3200円の補助金の交付決定をした(以下,この補助金を「本件補助金」といい,その交付決定を「本件交付決定」という。)が,本件保育園は,平成26年12月に1名の児童を入所させたことにより,本件対象期間について,α市 の定める要綱の基準を満たさなくなっていた。α市は平成28年6月に要綱を 改正し,改正後の規定を平成20年4月から遡及適用するものとした結果,本件保育園は本件対象期間中も要綱の基準を満たすこととなった。 本件は,α たさなくなっていた。α市は平成28年6月に要綱を 改正し,改正後の規定を平成20年4月から遡及適用するものとした結果,本件保育園は本件対象期間中も要綱の基準を満たすこととなった。 本件は,α市の住民である原告が,①本件交付決定は違法であり,α市は本件社会福祉法人に対して本件補助金相当額の不当利得返還請求権を有するにもかかわらず,α市長は同請求権の行使を違法に怠っている,②α市長であるD (以下「D市長」という。)及びα市の職員2名(以下「本件職員ら」という。)が違法な本件交付決定によりα市に本件補助金相当額の損害を被らせたことは不法行為に該当し,α市はD市長及び本件職員らに対し同不法行為に基づく損害賠償請求権を有するにもかかわらず,α市長は同請求権の行使を違法に怠っている,③D市長が違法に要綱を改正することにより本件社会福祉法人の本件 補助金返還義務を免れさせ,α市に本件補助金相当額の損害を被らせたことは不法行為に該当し,α市はD市長に対し同不法行為に基づく損害賠償請求権を有するにもかかわらず,α市長は同請求権の行使を違法に怠っていると主張して,地方自治法242条の2第1項4号本文の規定に基づき,α市の執行機関である被告を相手に,次の(1)から(3)までの各請求権を当該怠る事実の相手方 に対して行使することを求める住民訴訟の事案である。 (1) 本件社会福祉法人に対する,上記①の不当利得金456万3200円及びこれに対する民法704条に基づく年5分の割合による利息の返還請求権(主文1(1),請求の趣旨1。以下「本件請求権1」という。)(2) D市長及び本件職員らに対する,上記②の不法行為に基づく損害賠償金4 56万3200円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権(主文1(2) 1」という。)(2) D市長及び本件職員らに対する,上記②の不法行為に基づく損害賠償金4 56万3200円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権(主文1(2)及び(3),請求の趣旨2。以下「本件請求権2」という。)(3) D市長に対する,上記③の不法行為に基づく損害賠償金456万3200円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権 (主文2,請求の趣旨2。以下「本件請求権3」という。) 1 関係法令等の定め(1) 本件に関係する法令等の定めは,別紙2-1から2-7までに記載したとおりである。 (2) α市における補助金の交付について社会福祉法58条1項は,国又は地方公共団体は,必要があると認めると きは,厚生労働省令又は当該地方公共団体の条例で定める手続に従い,社会福祉法人に対し,補助金を支出することができると規定する。 これを受けてα市が定めた「社会福祉法人の保育所に対する補助金の交付に関する条例」(昭和46年α市条例第11号。甲5。以下「本件条例」という。)は,α市長が,東京都知事の認可を受けてα市の区域内で保育所を 経営する社会福祉法人に対し,民間保育所補助事業に係る運営費補助金を交付することができるとし,その内容として,基本額等のほか,零歳児加算額を定め,零歳児認可定員等に応じて定まる児童1人当たりの月額に,零歳児の入所児童数を乗じて得た額を支払うものとしている(3条1項,別表)。 また,本件条例11条は,同条例の施行について必要な事項はα市長が別に 定めるものとしている。 本件条例11条の規定を受けて定められた「社会福祉法人の保育所に対する補助金の交付に関する条例施行規則」(平成20年α市規則第43号。甲6。以 な事項はα市長が別に 定めるものとしている。 本件条例11条の規定を受けて定められた「社会福祉法人の保育所に対する補助金の交付に関する条例施行規則」(平成20年α市規則第43号。甲6。以下「本件規則」という。)は,運営費補助金の交付を受けようとする社会福祉法人の代表者は「α 市民間保育所運営実施要綱(平成20年α 市 告示第376号。甲7。以下「本件要綱」という。)による実施基準に基づき補助金交付申請書を提出するものとし(2条,3条),その申請を受けたα 市長は,その経費や申請金額等が補助要件(本件条例に定めるほか,本件要綱に定めるものを含む。以下同じ)に適合していること等の所定の審査基準に照らして審査をし,補助金の交付又は不交付の決定をするものとしてい る(4条)。 (3) 保育所の設備に係る面積の基準について児童福祉法(平成24年法律第67号による改正前のもの。以下同じ)は,都道府県は,児童福祉施設の設備及び運営について,条例で基準を定めなければならない旨を定め(45条1項),都道府県がその条例を定めるに当たっては,児童福祉施設に係る居室の床面積等については厚生労働省令で定め る基準に従い定めるものとしている(同条2項2号)。 上記の「厚生労働省令で定める基準」に当たる「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」(平成26年厚生労働省令第17号による改正前のもの。 乙4)32条は,保育所の設備の基準として,乳児室(主に零歳児のベッドが設置される部屋をいう。以下同じ)の面積は,乳児又は満2歳に満たない 幼児1人につき1.65㎡以上でなければならず(2号),ほふく室(主に1歳児がほふく歩行を行うための部屋をいう。以下同じ)の面積は,乳児又は満2歳に満たない幼児1人につき3.3㎡以上でなければな 幼児1人につき1.65㎡以上でなければならず(2号),ほふく室(主に1歳児がほふく歩行を行うための部屋をいう。以下同じ)の面積は,乳児又は満2歳に満たない幼児1人につき3.3㎡以上でなければならない(3号)旨を定めている。 また,児童福祉法45条の規定を受けて東京都が定めた「東京都児童福祉 施設の設備及び運営の基準に関する条例」(平成24年東京都条例第43号。 乙5)41条1項3号は,保育所の基準として,乳児室又はほふく室の面積は,乳児又は満2歳に満たない幼児1人につき3.3㎡以上でなければならない旨を定めている。 (4) 本件要綱における零歳児加算額の実施基準について ア本件要綱の改正前本件要綱は,補助金の交付を受けようとする民間保育所の施設長は別表第1に定める実施基準に基づき当該民間保育所を運営するものとしている(3条)ところ,平成28年6月28日に改正される前の別表第1は,運営費補助金の零歳児加算額の実施基準として,「乳児室及びほふく室を 通じて,零歳児1人につき,5平方メートル以上の有効面積があること。 ただし,定員を超えて入所させる場合にあっては,当該年度に限り定員を超えた児童1人につき3.3平方メートル以上の有効面積があれば差し支えないものとする。」と定めていた(以下,かかる本件要綱の基準を「面積基準」という。)。 なお,ここでいう「定員」とは,東京都から認可を受けた定員(以下「認 可定員」という。)のことであり,「定員を超えて入所させる場合」とは,α市が定める保育所実施の最低基準の範囲内で認可定員を超えて入所させることであって,この認可定員を超えた部分の定員を「運用定員」という。 イ本件要綱の改正後 面積基準を定める本件要綱の別表第1は,平成28年6 基準の範囲内で認可定員を超えて入所させることであって,この認可定員を超えた部分の定員を「運用定員」という。 イ本件要綱の改正後 面積基準を定める本件要綱の別表第1は,平成28年6月28日に制定された「α市民間保育所運営実施要綱の一部を改正する要綱」(甲14。 以下「本件改正要綱」という。)により改正され(以下「本件改正」という。),本件改正後の面積基準は「乳児室及びほふく室を通じて,零歳児1人につき,おおむね5平方メートル以上の有効面積があること。(以下, 上記アと同じであるため省略。)」となった。本件改正要綱の附則において,改正後の別表第1の規定は平成20年4月1日から適用するものとされ,同日から本件改正要綱の施行日の前日までの民間保育所の運営は,改正後の別表第1の規定に基づき行われたものとみなすこととされた(以下,かかる附則の規定に基づく改正後の別表第1の規定の適用を「本件遡及適 用」という。)。 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア原告は,α市の住民であるとともに,平成15年からα市の職員であり, 保育所に対する運営費補助金の交付に係る事務を所管する「子ども青少年 部子育て支援課(以下「子育て支援課」という。)に所属していたことがある。原告の子育て支援課での担当業務は,平成23年10月1日から平成26年3月31日までは認可保育所の入所審査業務であり,同年4月1日から平成29年3月31日までは子育て施策の計画業務及び施設整備業務であった(甲20)。 イ D市長は,平成22年4月21日からα市長の職にある。 ウ B(以下「B課長」という。)は,平成22年10月から平成27年3月まで,子育 画業務及び施設整備業務であった(甲20)。 イ D市長は,平成22年4月21日からα市長の職にある。 ウ B(以下「B課長」という。)は,平成22年10月から平成27年3月まで,子育て支援課長の職にあった者である(乙12)。 エ C(以下「C主査」という。)は,平成26年5月から平成29年3月までの間,子育て支援課の保育担当主査の職にあった者である。当時の保 育担当の業務は,保育所の運営に関する事項全般にわたり,入所の決定や補助金の交付等に関する事務も行っていた。(乙13)オ本件社会福祉法人は,α市内において本件保育園を設置運営する社会福祉法人である。 (2) 本件補助金の交付等 ア本件保育園は,α市長に対し,次の一つ目の表の「申請日」欄記載の各日付けで,本件条例の定める民間保育所補助事業等に係る補助金の交付を申請し(これらの申請を「本件各申請」といい,その申請書を「本件各申請書」という。),α市長(D市長)は,本件各申請に対し,同表の「交付決定日」欄記載の各日に,補助金の交付決定をした(甲1~4〔枝番号 を含む。以下同じ〕)。同決定による補助金の最終交付日は,平成27年3月25日である。また,同決定により交付された補助金の合計額は次の二つ目の表の「合計額」欄記載のとおりであり,そのうち運営費補助金額は同表の「運営費補助金」欄記載のとおりであり,更にそのうち零歳児加算額に相当するもの(本件補助金)の額は,同表の「零歳児加算額」欄(一 つ目の表の「本件補助金額」欄と同じ。)記載のとおりである。したがっ て,平成26年12月から平成27年3月までの4か月間(本件対象期間)に交付された本件補助金の合計額は,456万3200円である(上記の補助金交付決定のうち,本件補助金に係るものが 。したがっ て,平成26年12月から平成27年3月までの4か月間(本件対象期間)に交付された本件補助金の合計額は,456万3200円である(上記の補助金交付決定のうち,本件補助金に係るものが,本件交付決定である。)。 申請日交付決定日本件補助金額平成26年12月1日(甲1の1)平成26年12月1日(甲1の2)114万0800円平成27年1月5日(甲2の1)平成27年1月5日(甲2の2)114万0800円平成27年2月1日(甲3の1)平成27年2月1日(甲3の2)114万0800円平成27年3月1日(甲4の1)平成27年3月1日(甲4の2)114万0800円 合計額運営費補助金零歳児加算額平成26年12月分792万3300円574万4800円114万0800円平成27年1月分861万0300円571万3800円114万0800円平成27年2月分827万4800円572万9300円114万0800円平成27年3月分834万9800円572万9300円114万0800円 イ本件保育園は,平成26年12月にα市職員の子供で当時零歳児だった児童(以下「本件児童」という。)を入所させたことで,同月から平成2 7年3月までの期間(本件対象期間)において,本件改正前の面積基準を満たさない状態となり(不足面積は,児童1人当たり約0.035㎡〔甲8〕。),本件補助金は同基準を満たさないで交付されたものであった。 なお,本件改正前の面積基準を満たさなかった補助金の額は,本件児童1名に係る零歳児加算額(4か月の合計28万5200円)にとどまらず, 本件対象期間に入所していた零歳児の児童16名に係る た。 なお,本件改正前の面積基準を満たさなかった補助金の額は,本件児童1名に係る零歳児加算額(4か月の合計28万5200円)にとどまらず, 本件対象期間に入所していた零歳児の児童16名に係る零歳児加算額(本件補助金合計456万3200円)の全額にわたる(甲1~4)。 (3) 本件要綱の改正についてα市長(D市長)は,平成28年6月28日に本件改正要綱(同日施行)を定めた。これにより,本件改正前の面積基準における「乳児室及びほふく 室を通じて,零歳児1人につき,5平方メートル以上の有効面積があること。」との要件は,本件改正後には「乳児室及びほふく室を通じて,零歳児1人につき,おおむね5平方メートル以上の有効面積があること。」となり,従前の要件に「おおむね」が加えられることとなった。そして,本件改正要綱が附則において本件遡及適用を定めたことにより,本件補助金の交付にも本件 改正後の面積基準が適用されることなり,その結果,本件補助金の交付は面積基準に反しないこととなった。(関係法令等(4)イ)(4) 原告による監査請求ア原告は,平成29年9月21日付けで,α市監査委員に対し,本件保育園は本件対象期間において本件改正前の面積基準を満たしていなかった から本件交付決定は違法であるとして,①本件交付決定の取消しを求めるとともに,②本件交付決定に関与したB課長及びC主査(本件職員ら)に対し不法行為に基づく損害賠償請求をすることを求める監査請求をした(甲16。以下「本件監査請求」という。)。 イ α市監査委員は,平成29年10月4日付けで,原告に対し,本件監査 請求は監査請求期間(本件補助金に係る最後の交付決定がされた平成27 年3月1日から1年間)を経過した後にされたものであり,そのことに は,平成29年10月4日付けで,原告に対し,本件監査 請求は監査請求期間(本件補助金に係る最後の交付決定がされた平成27 年3月1日から1年間)を経過した後にされたものであり,そのことについて「正当な理由」(地方自治法242条2項ただし書)があったとは認められないなどとして,本件監査請求を却下する旨の監査結果を通知した(甲15)。 (5) 本件訴えの提起 原告は,平成29年11月1日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点(1) 本案前の争点適法な監査請求の前置の有無(2) 本案に関する争点 ア本件請求権1について本件社会福祉法人に対する不当利得返還請求権の成否(本件交付決定の違法,無効)イ本件請求権2についてD市長及び本件職員らの違法な本件交付決定による不法行為に基づく損 害賠償請求権の成否(本件交付決定の違法性,損害の発生の有無)ウ本件請求権3についてD市長の違法な本件改正による不法行為に基づく損害賠償請求権の成否(本件改正の違法性,損害の発生の有無) 4 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙3記載のとおりである。なお,同別紙に定義した略語は,本文においても用いる。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,本件訴えのうち,本件請求権1及び2に係る訴えは適法な監査請求の前置を欠く不適法な訴えであるから却下すべきものであり,本件請求権 3については,本件改正によりα市に損害が生じたとは認められず,原告の主 張する損害賠償請求権の成立を認めることはできないから,これに関する原告の請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。 その理由の詳細は,以下のとおりである。 1 認定事実 告の主 張する損害賠償請求権の成立を認めることはできないから,これに関する原告の請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。 その理由の詳細は,以下のとおりである。 1 認定事実前記前提事実並びに甲8,11,証人B,証人C,原告本人,掲記の証拠及 び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) α市における保育所に係る補助金の交付についてア α市は,社会福祉法人が経営する保育所の運営と保育内容の充実を図ることを目的として,本件条例及び本件規則を定め,これらに基づき,α市内において保育所を運営する社会福祉法人に対する補助金を交付してお り,その実施基準として本件要綱を定めている(関係法令等⑵,甲5,6)。 イ上記アの補助金のうち民間保育所補助事業に係る運営費補助金の零歳児加算額については,平成19年度までは,東京都が定める「東京都保育所事業実施要綱」(以下「東京都要綱」という。)における零歳児保育特別対策事業として支出されていたが,平成20年度から東京都における交付 が廃止されたことに伴い,α市独自の補助金として交付することとされ,その実施のため本件要綱が平成20年4月1日に定められた。その際,東京都要綱では「零歳児1人につき,乳児室及びほふく室を通じて,おおむね5平方メートル以上の有効面積があること」を要するものとされていたところ,本件要綱では「おおむね」との文言を含まないものとされた(本 件改正前の面積基準)。 (2) 本件児童が入所した経緯ア本件児童は,平成26年▲月▲日,α市職員であった父母の間にに出生し,父母及び兄(平成22年▲月▲日生)と同居していた(以下,本件児童の父を「本件父」,母を「本件母」,兄を「本件兄」という。)。 本件母は,本件児 月▲日,α市職員であった父母の間にに出生し,父母及び兄(平成22年▲月▲日生)と同居していた(以下,本件児童の父を「本件父」,母を「本件母」,兄を「本件兄」という。)。 本件母は,本件児童の出生前である平成26年▲月頃から視覚の異常等 があり,出産後の同年▲月▲日,原発不明多発悪性腫瘍と診断された。診断時の症状は,既に全身に悪性腫瘍病変が広がり,骨転移や視野障害が認められる末期の症状であり,診断した医師は,本件母の余命について,同年末から年を越せるかどうかという僅かな期間である旨の宣告をした。本件母は,同月▲日から平成27年▲月▲日まで入院治療を受け,退院後自 宅で静養し,同月▲日死亡した。(甲11,乙11)本件父は,本件母の病気が発覚した後,通院治療への付き添い,入院時の看病,本件児童及び本件兄(当時4歳)の監護養育,日常家事等を基本的に単独で行っていた。 イ本件父は,平成26年▲月▲日頃,α市職員であるE(以下「E課長」 という。)に対し,本件母が末期癌であることが発覚し看病のため休暇を取得すること,看病に集中するため本件児童の監護を依頼する必要があること等の事情を話した。 E課長は,本件児童を保育所に入所させる必要があると考え,同日頃から同月▲日頃までの間に,子育て支援課のB課長に相談し,本件児童が出 生直後であることや本件母が末期癌で余命僅かであること等の事情を説明した。 ウ B課長は,E課長から上記イの説明を受けて,本件兄が通っていた本件保育園の運用定員(関係法令等(4)ア)として本件児童を受け入れることができないかと考え,本件保育園の園長(本件園長)に電話をして,本件父 の氏名等は伏せ,その状況の概要を説明した上で,零歳児の入所可能性を尋ねた。これに対し,本件園長は,面積基 受け入れることができないかと考え,本件保育園の園長(本件園長)に電話をして,本件父 の氏名等は伏せ,その状況の概要を説明した上で,零歳児の入所可能性を尋ねた。これに対し,本件園長は,面積基準(本件改正前)を満たさなくなることを理由に,零歳児の入所は困難である旨を回答した。 エ上記ウの電話から数日中に,B課長と本件園長との間で,再度,零歳児の受入れの可否について協議が行われた。この時点で,本件園長は,対象 とされている零歳児が本件児童であること(その両親がα市職員であり, その兄が本件保育園に通所中であること)等を認識しており,その上で,受入れは可能である旨の回答をした。 もっとも,この時点において,本件園長は,面積基準との関係から,本件児童の受入れを一時保育として行うことを考えていた(甲33)。 オ B課長は,上記エの協議の後,C主査に対し,本件保育園が本件児童を 受け入れることで調整がついた旨を説明し,これに基づき,C主査において本件児童の入所に関する具体的な手続を行った。 もっとも,実際に行われた本件児童の入所手続は,本件園長が念頭に置いていた一時保育としての入所によるものではなく,正式入所(零歳児の運用定員の増枠)によるものであったが,その手続を進めるに当たり,B 課長又はC主査から本件園長に対し,面積基準の問題が解消されたのか否かについて確認したことはなかった。 カ平成26年11月19日,本件児童について,同年12月1日から本件保育園に入所させることを承諾する旨の決定がされ,本件児童は同日から本件保育園に入所した(甲8)。 本件園長は,α市から本件児童の入所決定通知書の交付を受け,これにより本件児童が正式入所することを知ったが,同入所による面積基準違反のため零歳児加算額に係る補 件保育園に入所した(甲8)。 本件園長は,α市から本件児童の入所決定通知書の交付を受け,これにより本件児童が正式入所することを知ったが,同入所による面積基準違反のため零歳児加算額に係る補助金の交付が受けられなくなるとの認識は有しておらず,正式入所が認められてよかったとの感想を抱いただけであった(甲33)。 (3) 本件補助金の交付等ア α市は,平成26年12月分から平成27年3月分までの補助金について本件社会福祉法人が提出した本件各申請書に基づき,同法人に対し,零歳児加算額である本件補助金合計456万3200円を含む補助金を交付した(前提事実(2)ア)。 イ α市が定める社会福祉法人が営む保育所に係る補助金の交付申請書の様 式では,4月申請時にのみ事業計画書を添付することとされており,そのほかの月においては,零歳児加算額に関しては,零歳児入所児童1人当たりの金額(本件については月額7万1300円)に零歳児入所児童数(本件対象期間における本件保育園の零歳児入所児童数は,認可定員12人及び運用定員4人〔本件児童を含む。〕の合計16人)を乗じた金額(本件 については月額114万0800円)の交付を求める旨を記載することとなっていたが,面積基準を満たすことについて記載する欄は設けられていなかった。本件社会福祉法人が提出した本件各申請書は,このような様式に従って作成されたものであった。(甲1~4)また,本件補助金の交付に係るα市の決裁において,本件保育園が面積 基準を満たしているか否かについての審査は行われなかった。 ウ平成26年12月1日当時における本件保育園の乳児室及びほふく室の面積は,乳児室が70.0㎡,ほふく室が100.6㎡の合計170.6㎡であった。また,同日当時におけ 査は行われなかった。 ウ平成26年12月1日当時における本件保育園の乳児室及びほふく室の面積は,乳児室が70.0㎡,ほふく室が100.6㎡の合計170.6㎡であった。また,同日当時における本件保育園の1歳児の認可定員は25人,運用定員は5人であった。 これを前提とすると,本件児童が入所する前の平成26年11月末日の時点においては,面積基準で必要とされている有効面積に対して1.7㎡の余裕が生じる状況であったのに対し,同年12月1日に本件児童が入所して以降は,運用定員1人当たり3.3㎡の有効面積が必要とされる(関係法令等(4)ア)ため,1.6㎡が不足する状況となった。これを,零歳 児及び1歳児の総定員数(46人)で除すると,児童1人当たり0.035㎡の不足となる。なお,このような有効面積の不足の状況は,同月から平成27年3月まで4か月間(本件対象期間)にわたり継続し,同年4月には解消された。 (以上につき,甲8)(4) 原告の通報とα市の対応 ア平成26年3月までα市の子育て支援課に所属し,認可保育所の入所審 査業務に携わっていた原告は,平成27年夏頃,当時子育て支援課に所属していたF(以下「F主事」という。同年10月に学校給食センターに異動。)から,本件児童の入所に関し適正さを欠く行為があった旨の相談を受け,自身の職務経験に照らして問題があると感じたことから,F主事の異動後も独自に調査を進め,平成28年1月29日にB課長及びC主査に 電話をかけて事情を聴いた(甲18,20,32)。そして,原告は,同年2月24日付けでα市に対し通報をした(以下「本件通報」という。)が,その内容は,α市から本件保育園(本件社会福祉法人)に対してされた本件補助金の交付 た(甲18,20,32)。そして,原告は,同年2月24日付けでα市に対し通報をした(以下「本件通報」という。)が,その内容は,α市から本件保育園(本件社会福祉法人)に対してされた本件補助金の交付は,本件保育園の有効面積(170.6㎡)が零歳児加算の補助基準(172.2㎡)に違反することをα市職員が知りながら された不正なものであるなどというものであった(甲8,17)。 イ α市は,本件通報を受け,G弁護士に対して事実関係等の調査を依頼し,同弁護士から平成28年5月27日付けの報告書(甲17。以下「本件報告書」という。)の提出を受けた。原告も,その頃,α市から本件報告書の写しを受領した。 本件報告書に記載された同弁護士の意見(本件補助金の交付に関する部分)は,下記のとおりである。 記「本件補助金については重大な手続違反があり違法な支出であるから,α市においては早急に返還の要否を検討すべきである。その際には補助金 を交付すべき公益上やむを得ない事由の有無,すなわち平成26年11月時点において本件児童に保護の緊急の必要性があったか否か及び本件実施基準の違反により他の児童に与える影響が許容範囲内か否かを,関係資料の収集及び関係者からの事情聴取を経た上で検討会議を開催すること等により慎重に判断すべきである。」 ウ本件報告書の提出を受け,α市は,平成28年6月17日,本件補助金 の交付に係る事実関係等の確認及び検証のため,α市職員を構成員とする検証会議(以下「本件検証会議」という。)を設置した。なお,本件検証会議の設置については,α市の同年7月26日付けの書面で原告にも説明された。(甲8,9)エまた,α市長(D市長)は,平成28年6月28日,本件改正要綱を 議」という。)を設置した。なお,本件検証会議の設置については,α市の同年7月26日付けの書面で原告にも説明された。(甲8,9)エまた,α市長(D市長)は,平成28年6月28日,本件改正要綱を制 定し,従前の面積基準のうち「5平方メートル以上の有効面積があること」との部分に「おおむね」を加え,平成19年度まで適用されていた東京都要綱と同様の文言とした(本件改正)。そして,本件改正要綱の附則において本件遡及適用が定められたことにより,本件要綱が制定された平成20年4月1日に遡って本件改正後の面積基準が適用されることとなった。 (関係法令等(4)イ,上記(1)イ)また,本件改正後の面積基準に係る運用について,平成28年7月14日,α市の子ども青少年部長名において,「保育を受けることが著しく困難であると認められる児童が保育所で保育を受ける場合のα市民間保育所運営実施要綱の取扱いについて」が定められ,保護者の死亡や緊急に治 療を必要とする疾病等により,児童が保護者による保育を受けることが著しく困難になった場合には,例外的に,零歳児の運用定員が1人分増枠可能となる面積の範囲内に限り,零歳児の認可定員に求められる1人当たり5㎡の面積基準を緩和することができるものとされた(乙6)。 オ本件検証会議は,平成28年8月30日に検証結果を報告した(甲8)。 その概要は,次のとおりである。 (ア) 本件児童について即時に保育所に入所させるべき緊急性及び必要性はあった。ただし,緊急対応における手続として,①緊急性及び必要性を基礎付ける事情の確認が不十分であること,②緊急対応時の判断基準及び手続等に係る内部基準が設けられておらず,不明確であったこと, ③緊急対応であることに係る情報を組織内で共有した上でそれらの事情 付ける事情の確認が不十分であること,②緊急対応時の判断基準及び手続等に係る内部基準が設けられておらず,不明確であったこと, ③緊急対応であることに係る情報を組織内で共有した上でそれらの事情 を踏まえた適切な組織決定が行われなかったこと等の問題があった。 (イ) 本件補助金交付における公益上やむを得ない事由の有無について,①本件要綱において零歳児加算額及び面積基準が制定された趣旨,②面積基準との不適合の程度,③本件補助金交付の必要性,相当性の有無を総合的に考慮すると,本件補助金の交付には公益上やむを得ない事由が あったといえる。 (ウ) 本件補助金交付の判断自体は,本件検証会議における事後的検証においても適法であったことが確認されたと評価できるものであり,かつ,本件改正により面積基準への抵触という手続的瑕疵も治癒されているので,本件交付決定に違法性はない。したがって,本件補助金の返還は不 要である。 (5) 本件監査請求ア原告は,平成29年9月21日付けで,α市監査委員に対し,本件監査請求をした(前提事実(4)ア)。 イ α市監査委員は,平成29年10月4日付けで,本件監査請求を却下し た(前提事実(4)イ)。 2 争点(1)(適法な監査請求の前置の有無)について本件は,本件監査請求の対象とされた行為又は事実(前提事実(4)ア)が,本件訴訟の請求の対象と社会経済的な行為又は事実として同一であるということができるから,監査請求の同一性を満たすものと解される。したがって,以下 においては,地方自治法242条2項に定める監査請求期間(1年)の経過により,本件訴えが適法な監査請求の前置を欠く不適法なものとなるか否かについて検討する。 (1) 本件請求権1及び2に係る訴えについて 方自治法242条2項に定める監査請求期間(1年)の経過により,本件訴えが適法な監査請求の前置を欠く不適法なものとなるか否かについて検討する。 (1) 本件請求権1及び2に係る訴えについてア監査請求期間の制限が及ぶか (ア) 普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとし て地方自治法242条1項の規定による住民監査請求があった場合に,その監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは,当該監査請求については,上 記怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である。なぜなら,同法242条2項の規定により,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後にされた監査請求は不適法とされ,当該行為の違法是正等の措置を請求することができないものとして いるにもかかわらず,監査請求の対象を当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という怠る事実として構成することにより同項の定める監査請求期間の制限を受けずに当該行為の違法是正等の措置を請求し得るものとすれば,同法が同項の規定により監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるものといわざるを得 ないからである(最高裁昭和57年(行ツ)第164号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。 (イ) 原告は,本件訴訟において,本件請求権1(本件社会福祉法人に対する不当利得返還請求権)及び本件請求権2(D市長及び本件職員らの 0日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。 (イ) 原告は,本件訴訟において,本件請求権1(本件社会福祉法人に対する不当利得返還請求権)及び本件請求権2(D市長及び本件職員らの違法な本件交付決定による不法行為に基づく損害賠償請求権)の不行使 をもって財産の管理を怠る事実としているものであるところ,本件請求権1は,不当利得の発生原因として本件交付決定が違法,無効であることを主張するものであり,本件請求権2は,D市長及び本件職員らの共同不法行為として違法な本件交付決定がされたことを主張するものである。したがって,監査委員がこれらの請求権の行使を怠る事実について 監査を遂げるためには,本件交付決定が財務会計法規に違反する違法な ものであるか否かを判断することが不可欠であり,これらの請求権の行使を怠る事実について地方自治法242条2項に定める監査請求期間の制限を受けずに是正等の措置を請求し得るものとすれば,同項の規定により監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されることとなる。 そうすると,本件請求権1及び2の行使を怠る事実は,いわゆる不真 正怠る事実であって,その監査請求は,地方自治法242条2項に定める監査請求期間の制限に服すると解するのが相当である。 (ウ) 本件交付決定に基づく本件補助金の最終の交付がされたのは平成27年3月25日である(前提事実(2)ア)ところ,仮に本件請求権1及び2が発生したとすれば,D市長は同日からこれらの請求権を行使するこ とができたといえるから,同日を起点として1年間の監査請求期間を算定すべきところ,原告が本件監査請求をしたのは平成29年9月21日であるから,監査請求期間を経過している。 そこで,本件請求権1及び2の行使を怠る事実について,原告が監査請 年間の監査請求期間を算定すべきところ,原告が本件監査請求をしたのは平成29年9月21日であるから,監査請求期間を経過している。 そこで,本件請求権1及び2の行使を怠る事実について,原告が監査請求期間を経過して本件監査請求をしたことにつき,地方自治法242 条2項ただし書にいう「正当な理由」があるか否かについて検討する。 イ 「正当な理由」の有無について(ア) 普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,地方自治法242条2項ただし書に いう「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在又は内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである。もっとも, 当該普通地方公共団体の一般住民が相当の注意力をもって調査し たときに客観的にみて上記の程度に当該行為の存在又は内容を知ること ができなくても,監査請求をした者が上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される場合には,上記「正当な理由」の有無は,そのように解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁平成10年(行ツ)第69号,第70号,同14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号148 1頁,最高裁平成10年(行ツ)第86号同14年10月15日第三小法廷判決・裁判集民事208号157頁参照)。 (イ) 本件につきこれをみると,原告は,平成27年夏頃に子育て支援課のF主事から相談を受けたことを契機として本件児童の入所に疑問を抱 5日第三小法廷判決・裁判集民事208号157頁参照)。 (イ) 本件につきこれをみると,原告は,平成27年夏頃に子育て支援課のF主事から相談を受けたことを契機として本件児童の入所に疑問を抱くようになり,平成28年1月にB課長及びC主査から事情を聴くなど の調査を経て,同年2月24日付けで本件通報をしたところ,その通報内容は,本件補助金の交付は本件保育園の有効面積が面積基準に違反することをα市職員が知りながらされた不正なものであることをいうものであった(認定事実(4)ア)。このような本件通報に至る経緯に加え,原告がα市職員であり,上記当時において子育て支援課に所属し,平成2 6年3月まで認可保育所の入所審査業務を担当しており(前提事実(1)ア),α市の保育所に対する補助金交付の要件やその運用について専門的な知識経験を有していたことを併せ考慮すると,遅くとも本件通報をした平成28年2月24日頃には,原告は,相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件交付決定の存在 又は内容を知ることができたというべきである。 (ウ) この点,原告は,自らがα市職員であったために,監査請求をすることによって左遷人事等の不利益な処遇を受けることを恐れたため,平成29年9月21日に至るまで監査請求をすることができなかった旨主張し,同主張は,原告が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて 監査請求をするに足りる程度に本件交付決定の存在又は内容を知ること ができたと解される時から「相当な期間」内に本件監査請求をしたことをいうものと解される。 しかし,原告は,本件通報を自らの実名で行っているところ,α市においては,これが公益通報者保護法の適用を受けるものではないと解しながら 内に本件監査請求をしたことをいうものと解される。 しかし,原告は,本件通報を自らの実名で行っているところ,α市においては,これが公益通報者保護法の適用を受けるものではないと解しながらも,事案の性質に鑑みて必要な調査,検討を行うとの姿勢の下, 弁護士に事実関係等の調査を依頼し,その結果,平成28年5月27日付けで,本件補助金の交付に重大な手続違反があり返還の要否を検討すべきである旨の記載がされた本件報告書の提出を受け,同年6月17日に本件検証会議が設置されたのであり,原告はα市から平成28年7月26日付けでその説明を受けているのである(認定事実(4)イ,ウ,甲9)。 これらに照らせば,仮に原告が監査請求を行うことにより不利益な処遇を受けることを恐れていた事実があったとしても,遅くとも本件検証会議の設置について説明を受けた平成28年7月26日頃以降は,不利益な処遇を恐れて躊躇することなく監査請求を行い得る状況にあったということができる。 それにもかかわらず,原告は,上記の時点から1年以上経過した平成29年9月21日付けで本件監査請求をしたのであるから,原告が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件交付決定の存在又は内容を知ることができたと解される時から「相当な期間」内に監査請求をしたということができないのは明らかで ある。 なお,原告は,本件検証会議における検証の結果,本件交付決定が適法であるとされたことを指摘し,更に新たな内部資料を入手するまで監査請求をすることができなかった旨主張するが,監査請求は監査委員が当該行為について監査を実施する端緒となるものであり,監査請求をす る者がその請求時において当該行為の違法性ないし不当性について確 請求をすることができなかった旨主張するが,監査請求は監査委員が当該行為について監査を実施する端緒となるものであり,監査請求をす る者がその請求時において当該行為の違法性ないし不当性について確信 を抱いている必要はないのであるから,原告が主張する事情は上記の認定判断を左右するものではない。 (エ) 以上によれば,本件請求権1及び2に係る訴えは,その監査請求が地方自治法242条2項本文に定める監査請求期間内にされたといえず,監査請求期間の経過につき同項ただし書の「正当な理由」を認める こともできないから,適法な監査請求の前置を欠く不適法な訴えである。 (2) 本件請求権3に係る訴えについてア本件請求権3に係る訴えは,D市長の違法な本件改正による不法行為に基づく損害賠償請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものである。本件改正は,本件要綱の定める面積基準を緩和するもので あり(関係法令等(4)イ),それ自体として監査請求の対象となる財務会計上の行為(地方自治法242条1項)に当たるものではない。また,原告の主張によれば,D市長が違法な本件改正により本件社会福祉法人の本件補助金返還義務を免れさせたことを不法行為とするものであるところ,これは本件交付決定の違法性とは別に,本件改正(特に,本件改正要綱の 附則において本件遡及適用を定めたこと)自体の違法性を問題とするものである。これらに照らすと,本件請求権3の行使を怠る事実について,地方自治法242条2項の定める監査請求期間の制限を受けずに是正等の措置を請求し得るものとしても,同項の規定により監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるものではない。そうすると,本件請求権3の行使 を怠る事実は,いわゆる不真正怠る事実には当たら 是正等の措置を請求し得るものとしても,同項の規定により監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるものではない。そうすると,本件請求権3の行使 を怠る事実は,いわゆる不真正怠る事実には当たらず,その監査請求は監査請求期間の制限に服しないというべきである。 イこれに対し,被告は,本件改正についてはそもそも抽象的な要綱の改正行為自体の違法性を観念することはできないなどと主張するが,かかる主張の当否は本案(本件請求権3の成否)に関するものであるから,その主 張は上記の認定判断を左右するものではない。 ウしたがって,本件請求権3に係る訴えは,その監査請求が監査請求期間の制限を受けるものではなく,そのほかに違法な点は見当たらないから,適法な監査請求を前置したものであって,適法な訴えというべきである。 (3) 小括以上によれば,本件請求権1及び2に係る訴えは適法な監査請求の前置を 欠く不適法なものであるのに対し,本件請求権3に係る訴えは適法であるから,以下,本件請求権3(D市長の違法な本件改正による不法行為に基づく損害賠償請求権)の成否(争点(2)ウ)について検討する。 3 争点(2)ウ(本件請求権3の成否)について以下においては,事案に鑑み,本件改正によるα市の損害の発生の有無につ いてまず検討する。 (1) 原告は,本件改正は本件社会福祉法人のα市に対する本件補助金返還義務を免れさせるものである旨主張する。しかし,仮に本件交付決定が違法であっても,α市が本件社会福祉法人に対して本件補助金の返還を求めることができる場合に当たらなければ,そもそも本件社会福祉法人には本件補助金の 返還義務が生じていないのであるから,本件改正により本件社会福祉法人がその義務を免れたとはいえ 補助金の返還を求めることができる場合に当たらなければ,そもそも本件社会福祉法人には本件補助金の 返還義務が生じていないのであるから,本件改正により本件社会福祉法人がその義務を免れたとはいえず,α市に損害が発生しないことになる。したがって,α市が本件社会福祉法人に対して本件補助金の返還を求めることができるか否かについて,以下検討する。 (2) 本件条例及び本件規則の定め まず,α市が保育所を営む社会福祉法人に対して交付した補助金の返還に関する本件条例の定めについて見ると,本件条例8条は,α市長が,補助金の交付を受けた法人が同条各号のいずれかに該当する場合に,既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができるとして,補助金の返還を求めることができる場合を列挙している。これは,不正な補助金交付申請, 事後的な条件違反・目的外使用等があった場合(1,4,5号)や,事業計 画の縮小等により交付された補助金を使用しなくなった場合(2,3号)には,公金である補助金の返還を求める必要性が高い一方,交付された補助金は保育所の運営費等として費消されるのが通常であるため,違法に交付された補助金について一律にその返還を求めるとすることは,かえって,社会福祉法人が経営する保育所の運営と保育内容の充実を図るという本件条例の目 的(1条)に反するものとなりかねないことから,補助金の返還を求めることができる場合を上記各号において定めたものと解される。そして,本件条例8条4号において「不正又は虚偽の申請により,補助金の交付を受けたとき」と定めていることについては,上記のような同条の趣旨に照らせば,違法な補助金交付がされたことにつき申請者に帰責性がある場合に補助金の返 還を求めることができるとするものと解するのが相当で き」と定めていることについては,上記のような同条の趣旨に照らせば,違法な補助金交付がされたことにつき申請者に帰責性がある場合に補助金の返 還を求めることができるとするものと解するのが相当である。 そして,本件規則は本件条例の施行について必要な事項についてα市長が定めるものであるところ,このうち本件規則13条及び14条は本件条例8条の規定を受けてその補助金の交付決定の取消し及び返還の手続を定めるものであるから,本件規則13条各号に定めるα市長が補助金の交付決定を取 り消すことができる場合についても,本件条例8条各号に定める補助金の返還を求めることができる場合を具体化したものと解するのが相当である。そして,本件規則13条1号の「偽りその他不正の手段により補助金の交付を受けたとき」は,本件条例8条4号の「不正又は虚偽の申請により,補助金の交付を受けたとき」に相当し,また,本件規則13条3号の「その他この 規則の規定に違反したとき」は,本件条例8条1号の「市長の指定する交付の条件に違反したとき」に相当するものと解される(後者について,具体的には,本件規則7条〔補助事業の内容の変更等に関する承認〕,8条〔補助事業の遂行の状況に関する報告〕,9条〔補助事業が完了しない場合等の報告〕,11条〔事業年度終了後の実績報告〕等がこれに当たるものと解され る。)。 本件においては,本件各申請の当時,本件保育園が本件改正前の面積基準を満たしていなかった(前提事実(2)イ)ことから,このような状況下で本件社会福祉法人がした本件各申請が,本件規則にいう「偽りその他不正の手段」に当たるか否かが問題となる。 (3) 「偽りその他不正の手段」に該当するか α市では,社会福祉法人が営む保育所に係る補助金の交付申請 本件各申請が,本件規則にいう「偽りその他不正の手段」に当たるか否かが問題となる。 (3) 「偽りその他不正の手段」に該当するか α市では,社会福祉法人が営む保育所に係る補助金の交付申請について,4月申請時にのみ事業計画書を添付することとされており,5月以降の申請においては,同計画書に記載された当該保育所の有効面積等を前提に,当該月の申請書に零歳児入所児童1人当たりの金額及び零歳児入所児童数を記載し,当該月の零歳児加算額に係る補助金を申請することとなっていた(認定 事実(3)イ)。本件社会福祉法人が平成26年4月申請時に提出した本件保育園の事業計画における有効面積等の記載が誤っていたとは認められず,また,本件各申請書における本件対象期間の零歳児入所児童1人当たりの金額及び零歳児入所児童数の記載が誤っていたとも認められないから,本件各申請を受けたα市が上記各記載に基づいた審査を行えば,本件対象期間において本 件保育園が本件改正前の面積基準を満たしていないことが容易に判明したはずであり,本件においてこのことが判明しないまま本件交付決定に至ったのは,α市が本件交付決定に当たり面積基準に関する審査を行わなかったためである(認定事実(3)イ)。 また,本件保育園が本件対象期間において本件改正前の面積基準を満たさ ないこととなったのは,平成26年12月1日から本件児童を入所させたことによるものである(前提事実(2)イ)ところ,本件児童の入所について審査及び入所承諾の決定を行ったのもα市であって,本件社会福祉法人(本件園長)は,B課長に対して零歳児を入所させると面積基準を満たさなくなる旨を伝えた上で,一時保育によることを念頭に,本件児童の受入れは可能であ ると回答したものにすぎない(認定事実(2)ウ~カ)。 長)は,B課長に対して零歳児を入所させると面積基準を満たさなくなる旨を伝えた上で,一時保育によることを念頭に,本件児童の受入れは可能であ ると回答したものにすぎない(認定事実(2)ウ~カ)。そして,実際には,本 件児童は一時保育ではなく正式入所することになったのであるが,面積基準との抵触にもかかわらず正式入所の決定がされた経緯については本件社会福祉法人の関知するところではなく,α市側の事情によるものといわざるを得ない。 そもそも,本件要綱の定める面積基準は,東京都が定める最低基準(児童 1人につき3.3㎡以上)を上回る児童1人当たり5㎡の有効面積を要するものとすることにより,より質の高い保育を確保することを目的としてα市長が定めた実施基準であるところ,例えば,保護者の死亡や入院など,当該児童を保育所に入所させる緊急の必要性を基礎付ける事情が存する一方,当該児童の入所による有効面積の不足が保育に及ぼす影響が軽微なものである 場合にも,常に面積基準を厳格に適用してこれを満たさない入所を一切認めないこととすれば,α市において面積基準を定めた本来の趣旨に沿わない結果となりかねないことから,他の児童との公平性にも配慮しつつ,一定の例外的取扱いを認めることは,本件改正前であっても可能な運用であったということができる(本件改正により「おおむね」との文言が加えられたことや, 平成28年7月に定められた例外的取扱いの基準〔認定事実(4)エ〕は,このような例外的な事情の下における柔軟な運用が一定の条件の下において可能であることを確認する趣旨によるものと解される。)。 そうすると,①零歳児の入所により面積基準を満たさなくなることを本件園長からB課長に伝えていたという従前の経緯に加え,②平成26年11月 当時,本件母が 認する趣旨によるものと解される。)。 そうすると,①零歳児の入所により面積基準を満たさなくなることを本件園長からB課長に伝えていたという従前の経緯に加え,②平成26年11月 当時,本件母が悪性腫瘍の末期の症状であって余命が僅かであると医師から宣告され,本件父が本件母の看病及び2児(本件児童及び4歳児である本件兄)の養育等を単独で行っていたという事情があり,これらの事情は本件園長においても把握していたこと,③本件児童が入所することによる面積基準に対する有効面積の不足は全体で1.6㎡(零歳児及び1歳児の児童1人当 たり約0.035㎡)であり,本件保育園の保育に及ぼす影響は軽微なもの であったことに照らせば,α市から本件児童を正式入所させる旨の入所決定通知を受けた本件社会福祉法人において,本件児童に係る事情に基づき例外的取扱いをすることに関しα市における内部的な検討を経た上で入所決定がされたと信じたとしても,不自然ではないといえる。 以上によれば,本件社会福祉法人には,本件補助金の交付を受けたことに ついて,帰責性があるとはいえないから,同法人がした本件各申請が「偽りその他不正の手段」に該当するということはできない。 (4) 小括そうすると,本件社会福祉法人は本件規則13条1号にいう「偽りその他不正の手段」により本件補助金の交付を受けたものではないから,本件条例 及び本件規則の規定に基づきα市が本件補助金の返還を求めることができる場合に当たらず,本件改正により本件社会福祉法人がα市に対する補助金返還義務を免れたということはできない。 したがって,本件改正によりα市に損害が生じたとは認められず,本件改正(本件遡及適用)の違法性について検討するまでもなく,原告の主張する 「D市長の違法な本件改正によ ということはできない。 したがって,本件改正によりα市に損害が生じたとは認められず,本件改正(本件遡及適用)の違法性について検討するまでもなく,原告の主張する 「D市長の違法な本件改正による不法行為に基づく損害賠償請求権」の成立を認めることはできないから,同請求権の不行使を怠る事実として被告に対しその行使を求める原告の請求は理由がない。 第4 結論以上によれば,本件訴えのうち,本件請求権1及び2に係る訴えは不適法で あるからこれらを却下し,その余の請求(本件請求権3に係る請求)については理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官清 水 知恵子 裁判官田中慶太 裁判官伊藤愉理子は,転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官清水知恵子(別紙1省略)(別紙2-1) ○ 社会福祉法 (助成等) 第五十八条 国又は地方公共団体は、必要があると認めるときは、厚生労働省令又は当該地方公共団体の条例で定める手続に従い、社会福祉法人に対し、補助金を支出し、又は通常の条件よりも当該社会福祉法人に有利な条件で、貸付金を支出し、若しくはその他の財産を譲り渡し、若しくは貸し付けることができる。 ただし、国有財産法(昭 付金を支出し、若しくはその他の財産を譲り渡し、若しくは貸し付けることができる。 ただし、国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)及び地方自治法第二百三十七条第二項の規定の適用を妨げない。 前項の規定により、社会福祉法人に対する助成がなされたときは、厚生労働大臣又は地方公共団体の長は、その助成の目的が有効に達せられることを確保するため、当該社会福祉法人に対して、次に掲げる権限を有する。 一 事業又は会計の状況に関し報告を徴すること。 二 助成の目的に照らして、社会福祉法人の予算が不適当であると認める場合において、その予算について必要な変更をすべき旨を勧告すること。 三 社会福祉法人の役員が法令、法令に基づいてする行政庁の処分又は定款に違反した場合において、その役員を解職すべき旨を勧告すること。 国又は地方公共団体は、社会福祉法人が前項の規定による措置に従わなかつたときは、交付した補助 と。 国又は地方公共団体は、社会福祉法人が前項の規定による措置に従わなかつたときは、交付した補助金若しくは貸付金又は譲渡し、若しくは貸し付けたその他の財産の全部又は一部の返還を命ずることができる。 第五十六条第九項から第十一項までの規定は、第二項第三号の規定により解職を勧告し、又は前項の規定により補助金若しくは貸付金の全部若しくは一部の返還を命令する場合に準用する。 (別紙2-2) ○ 児童福祉法(平成二十四年法律第六十七号による改正前のもの) 〔児童福祉施設の設備及び運営についての基準〕 第四十五条 都道府県は、児童福祉施設の設備及び運営について、条例で基準を定めなければならない。 この場合において、その基準は、児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な生活水準を確保するものでなければならない。 ② 都道府県が前項の条例を定めるに当たつては、次に掲げる事項については厚生労働 でなければならない。 都道府県が前項の条例を定めるに当たっては、次に掲げる事項については厚生労働省令で定める基準に従い定めるものとし、その他の事項については厚生労働省令で定める基準を参酌するものとする。 一 児童福祉施設に配置する従業者及びその員数 二 児童福祉施設に係る居室及び病室の床面積その他児童福祉施設の設備に関する事項であって児童の健全な発達に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの 三 児童福祉施設の運営に関する事項であって、児童(助産施設にあっては、妊産婦)の適切な処遇の確保及び秘密の保持、妊産婦の安全の確保並びに児童の健全な発達に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの 児童福祉施設の設置者は、第一項の基準を遵守しなければならない。 児童福祉施設の設置者は、児童福祉施設の設備及び運営についての水準の向上を図ることに努めるものとする。 置者は、児童福祉施設の設備及び運営についての水準の向上を図ることに努めるものとする。 (別紙2-3) ○ 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(平成二十六年厚生労働省令第十七号による改正前のもの) (最低基準の目的) 第二条 法第四十五条第一項の規定により都道府県が条例で定める基準(以下「最低基準」という。)は、都道府県知事の監督に属する児童福祉施設に入所している者が、明るくて、衛生的な環境において、素養があり、かつ、適切な訓練を受けた職員の指導により、心身ともに健やかにして、社会に適応するように育成されることを保障するものとする。 (設備の基準) 第三十二条 保育所の設備の基準は、次のとおりとする。 一 乳児又は満二歳に満たない幼児を入所させる保育所には、乳児室又はほふく室、医務室、調理室及び便所を設けること。 二 乳児室の面積は、乳児又は前号の幼児一人につき一・六五平方メートル以上 理室及び便所を設けること。 二 乳児室の面積は、乳児又は前号の幼児一人につき一・六五平方メートル以上であること。 三 ほふく室の面積は、乳児又は第一号の幼児一人につき三・三平方メートル以上であること。 四 乳児室又はほふく室には、保育に必要な用具を備えること。 五 満二歳以上の幼児を入所させる保育所には、保育室又は遊戯室、屋外遊戯場(保育所の付近にある屋外遊戯場に代わるべき場所を含む。次号及び第九十四条第二項において同じ。)、調理室及び便所を設けること。 六 保育室又は遊戯室の面積は、前号の幼児一人につき一・九八平方メートル以上、屋外遊戯場の面積は、前号の幼児一人につき三・三平方メートル以上であること。 七 保育室又は遊戯室には、保育に必要な用具を備えること。 八 (省略)(別紙2-4) ○ 社会福祉法人の保育所に対する補助金の交付に関する条例(昭和四十六年α市条例第十一号) (目的) 第一 会福祉法人の保育所に対する補助金の交付に関する条例(昭和四十六年α市条例第十一号) (目的) 第一条 この条例は、社会福祉法(昭和年法律第号。以下「法」という。)第条第項の規定により、社会福祉法人(以下「法人」という。)の保育所に対する補助金の交付に関する事項を定め、もって法人が経営する保育所の運営と保育内容の充実をはかることを目的とする。 (補助額及び監督) 第三条 市長は、前条に定める法人に対して、毎年度予算の定める範囲内において、別表に定めるところにより、補助金を交付することができる。 (省略) (申請の手続き) 第四条 法人は、補助金の交付を受けようとするときは、申請書に次の書類を添えて市長に提出しなければならない。 ⑴ 事業計画書 ⑵ 収支予算書 ⑶ 財産目録(保育所創設時のみ) ⑷ その他必要書類 (使途の制限) 第六条 補助金の交付を受けた法人は、 録(保育所創設時のみ) その他必要書類 (使途の制限) 第六条 補助金の交付を受けた法人は、その補助金を補助対象たる事業以外の用に使用することができない。 (返還命令) 第八条 市長は、補助金の交付を受けた法人が、次の各号のいずれかに該当する場合は、既に交付した補助金の全部又は一部の返還を命ずることができる。 ⑴ 市長の指定する交付の条件に違反したとき。 ⑵ 事業の計画を縮小し、又は事業を廃止したとき。 ⑶ 決算額が予算額に比し、著しく減少したとき。 ⑷ 不正又は虚偽の申請により、補助金の交付を受けたとき。 ⑸ 第条の規定に違反したとき。 (別紙2-5) ○ 社会福祉法人の保育所に対する補助金の交付に関する条例施行規則(平成二十年α市規則第四十三号) (交付決定の取消し) 第十三条 市長は、被交付決定者が次の各号のいずれかに該当するときは、補助金の交付決定の全部又は一部を取り 三条 市長は、被交付決定者が次の各号のいずれかに該当するときは、補助金の交付決定の全部又は一部を取り消すことができる。 ⑴ 偽りその他不正の手段により補助金の交付を受けたとき。 ⑵ 補助金を補助事業以外の用途に使用したとき。 ⑶ その他この規則の規定に違反したとき。 (補助金の返還) 第十四条 市長は、前条の規定により補助金の交付決定の全部又は一部を取り消した場合において、補助事業の当該取消しに係る部分に関し、既に補助金が交付されているときは、被交付決定者に対し、別に期限を定めてその返還を命ずるものとする。 (別紙2-6) ○ α市民間保育所運営実施要綱(平成二十年α市告示第三百七十六号) (実施基準) 第三条 補助金の交付を受けようとする民間保育所の施設長は、別表第に定める実施基準に基づき、当該民間保育所を運営するものとする。 別表第(第条関係) 実施基準 金 助補費営運 づき、当該民間保育所を運営するものとする。 別表第 (第 条関係) 実施基準 金 助補費営運 補助の種類 (以下省略) 零歳児加算額 基本額 (省略) 乳児室及びほふく室を通じて、零歳児人につき、平方メートル以上の有効面積があること。ただし、定員を超えて入所させる場合にあっては、当該年度に限り定員を超えた児童人につき、平方メートル以上の有効面積があれば差し支えないものとする。 ~ (省略) (省略) 内容 (別紙2-7) ○ 東京都児童福祉施設の設備及び運営の基準に関する条例(平成二十四年東京都条例第四十三号) (設備の基準) 第四十一条 保育所(乳児又は満二歳に満たない幼児を入所させる保育所に限る。)は、次に掲げる基準を満たさなければならない。 一,二(省略) 三 乳児室又はほふく室の面積は、乳児又は満二歳に満たない幼児一人につき三・三平方メ 一,二(省略) 三 乳児室又はほふく室の面積は、乳児又は満二歳に満たない幼児一人につき三・三平方メートル以上であること。 , (省略) (別紙3)当事者の主張の要旨 1 争点(1)(適法な監査請求の前置の有無)について(被告の主張の要旨) (1) 地方自治法242条2項による監査請求期間の制限が及ぶことア財産の管理を怠る事実に係る請求であっても,それが特定の財務会計行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければ,怠る事実の監査が遂げられない関係にある場合には,いわゆる不真正怠る事実として地方自治法242条2項の期間制限に服すると考えるべきである(最高裁昭 和57年(行ツ)第164号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁,最高裁平成10年(行ヒ)第51号同14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。 イ本件請求権1に関し,α市が本件社会福祉法人に対する不当利得返還請求権の行使を怠っているとの主張について,不真正怠る事実に関する請求であ ることは明白である。 ウ本件請求権2に関し,D市長及び本件職員らにつき違法な本件交付決定に係る善管注意義務違反が成立するとの主張について,善管注意義務違反が成立するか否かを判断するためには,必然的に本件交付決定が違法なものであったか否かという点について判断する必要があるから,これも不真正怠る事 実に関する請求である。 エ本件請求権3に関し,D市長の本件改正は違法であり,α市はこの点について同人に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとの主張につ ら,これも不真正怠る事 実に関する請求である。 エ本件請求権3に関し,D市長の本件改正は違法であり,α市はこの点について同人に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとの主張について,そもそも本件要綱は本件補助金交付に係る内部的な給付基準を定めたものにすぎないから,本件要綱に基づく補助金交付決定行為について違法 性が検討されることはあっても,これとは別に,抽象的な要綱の改正行為自 体の違法性を観念することはできない。 オ以上のとおり,本件請求権1~3の行使を怠る事実は全て不真正怠る事実に該当するものであるから,地方自治法242条2項の1年間の期間制限に服するところ,本件補助金のうち最終の交付がされたのは平成27年3月25日であるのに対し,原告が住民監査請求を行ったのは平成29年9月21 日であるから,明らかに1年の監査請求期間を経過している。 (2) 監査請求期間を経過したことに「正当な理由」がないこと「正当な理由」の有無については,「当該普通地方公共団体の一般住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて上記の程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなくても,監査請求をした者が上記の程度に当該 行為の存在及び内容を知ることができたと解される場合には,上記正当な理由の有無は,そのように解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものであ」(最高裁平成10年(行ツ)第86号同14年10月15日第三小法廷判決・裁判集民事208号157頁)り,原告について,監査請求が遅れたことにつきやむを得ない事由が認められるかを検討する 必要がある。 本件についてみるに,原告は,平成28年2月24日に本件交付決定が不正のものである旨の通報をα市長に対して行 監査請求が遅れたことにつきやむを得ない事由が認められるかを検討する 必要がある。 本件についてみるに,原告は,平成28年2月24日に本件交付決定が不正のものである旨の通報をα市長に対して行っているのだから,この時点で本件交付決定が違法なものであると考え,通報を行い得る程度にその違法性を特定していたといえる。 したがって,原告は,平成28年2月24日から相当な期間内に監査請求をすべきであったといえ,監査請求期間を経過したことに正当な理由はない。 (3) 仮に,原告が違法性を認識し得たとする平成29年3月末頃を起算点としても,その時点から約6か月後にされた本件監査請求が「相当な期間内」にされたものとはいえないから,本件監査請求は不適法なものである。 (原告の主張の要旨) (1) 地方自治法242条2項による監査請求期間の制限が及ばないことア本件請求権3について,D市長が行った本件改正は,α市において違法に支出された本件補助金の返還請求を不可能にさせるものであり,現に,α市は,本件改正により本件交付決定の瑕疵が治癒されたとしている(甲10参照)。したがって,本件請求権3の行使を怠る事実は不真正怠る事実に該当 するものではなく,期間制限の適用はない。 イまた,本件請求権1について,α市が本件社会福祉法人に対して取得した不当利得返還請求権の行使を怠る事実とする監査請求については,α市の補助金交付やその額の決定がα市の財務会計法規に違反する違法なものであるか否かを判断しなければならない関係にはない。したがって,本件請求権 3の行使を怠る事実は不真正怠る事実に該当するものではなく,原則どおり期間制限に服さないというべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第51号同14年7月2日第三小法廷判 したがって,本件請求権 3の行使を怠る事実は不真正怠る事実に該当するものではなく,原則どおり期間制限に服さないというべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第51号同14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。 (2) 監査請求期間を徒過したことに「正当な理由」があること(本件請求権1及び3については予備的な主張) 地方自治法242条2項に定める「正当な理由」は,行政機関の行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裏にされ,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度の行為の存在または内容を知ることができない場合には,特段の事情がない限り,住民が相当の注意力をもって調査すれば知ることができたと解される 時から相当な期間内に監査請求をしたかによって判断すべきである。 違法な本件交付決定は秘密裏に行われたものであるところ,α市は,その違法性に関し様々な隠ぺい工作を行った。α市民が本件交付決定の違法性について気付くことができたのは,平成30年1月に週刊誌によって本件訴訟が報道されてからのことである(甲21,23)。 また,原告においても,平成28年9月23日付けで,α市から本件交付決 定が適法である旨の通知を受けた(甲10)ため,本件交付決定が適法であると考えざるを得ず,住民監査請求を行うことができなかった。その後,原告は,平成29年3月末頃,内部文書(甲11~13)を入手することによって初めて,α市が検討会議等において不正な公金支出の隠ぺいを行ったこと及び本件交付決定の違法性を認識できたのである。 加えて,原告はα市職員であるところ,本件交付決定の適法性を問題視していた他の市職員が左遷人事を受けた事実を知り,自らも住 の隠ぺいを行ったこと及び本件交付決定の違法性を認識できたのである。 加えて,原告はα市職員であるところ,本件交付決定の適法性を問題視していた他の市職員が左遷人事を受けた事実を知り,自らも住民監査請求を行えばα市から左遷人事等の圧力を受けるのではないかと委縮していた。 以上の事情からすると,原告が請求期間を徒過して監査請求をしたことに「正当な理由」があることは明らかである。 2 争点(2)ア及びイ(本件交付決定の違法性)について(原告の主張の要旨)(1) 本件補助金は,その当時に施行されていた本件改正前の面積基準に違反して交付されたものである。同基準は一義的に定められており,α市長に同基準に反して補助金の交付を行う裁量はない。 (2) 仮にα市長に補助金の交付に関し裁量が認められるとしても,以下に述べとおり,本件交付決定は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したもので違法である。 α市においては,補助金の交付について明示の基準として本件要綱が設けられ,実際,α市は本件改正前の面積基準を厳格に運用していたのであるから, 平等原則の要請からして,特段の事情がない限り,同基準を満たさない補助金の交付は裁量権の範囲の逸脱又はその濫用になるというべきである。 被告は,本件児童の保護の緊急の必要性の有無について関係資料の収集及び関係者からの事情聴取を行っておらず,平成26年11月時点において,本件児童を本件保育園において保護すべき緊急の必要性があったとは認めること ができない。しかも,同月において,少なくとも,本件児童と同順位の45点 の児童が複数おり(甲13),また,本件児童が第2希望から第6希望としていた保育園はいずれも面積基準を満たしており,その中には本件保育園から数分で移動できる保 件児童と同順位の45点 の児童が複数おり(甲13),また,本件児童が第2希望から第6希望としていた保育園はいずれも面積基準を満たしており,その中には本件保育園から数分で移動できる保育所も複数存在した(甲12)のであり,面積基準に違反してまで本件保育園に入所させる必要性も緊急性もなかったのに,本件児童を第1希望である本件保育園に入所させたものである。 以上によれば,本件交付決定は,α市職員に対して特段の便宜を図るものであり,平等原則に違反する不当な目的を有し,かつ,他の保育園であれば面積基準を下回ることなく入園させることができたことなど考慮すべきことを考慮しないでされたものであり,その判断内容は社会通念に照らし妥当性を欠いているというべきであるから,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するもの であることは明らかである。 (被告の主張の要旨)(1) D市長が本件交付決定をしたことに裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められないことア市は,「公益上の必要がある」と認められる限りにおいて,補助金の交付 を行うことができる(地方自治法232条の2)。そして,公益上の必要性があるか否かの判断については,事柄の性質上,迅速かつ諸般の事情を総合的に考慮した政策的な判断を要するものであるから,市長に広範な裁量権が認められる。 α市において,本件条例及び本件規則が補助金の具体的な交付要件を本件 要綱によって定めることとした趣旨もこの点にあり,本件要綱は,補助金に係る内部的な給付基準(裁量基準)に当たる。このような裁量基準を定めた以上,その基準に一定の拘束力があることは事実だが,基準からの逸脱が一切許されないと考えることは妥当でなく,合理的理由がある場合には「公益上の必要がある」と認められる範囲で のような裁量基準を定めた以上,その基準に一定の拘束力があることは事実だが,基準からの逸脱が一切許されないと考えることは妥当でなく,合理的理由がある場合には「公益上の必要がある」と認められる範囲で同基準と異なる補助金を交付すること も許される。 本件改正前の面積基準を満たさないまま交付された本件補助金になお「公益上の必要がある」といえるかは,①要綱との齟齬が生じた理由,②要綱との齟齬の程度,③基準を満たさずとも補助金を交付することの必要性,④基準を満たさない交付により生じる弊害の有無などを考慮した上で,運営費補助金の零歳児加算額の制度の趣旨,目的に照らし,補助金の交付に相当性が 認められるか否かにより判断すべきである。 イ本件交付決定の合理性(ア) 本件要綱の基準により零歳児加算額の補助金を交付している趣旨は,一定の施設基準,職員配置基準を満たした保育園について,それらの整備のために増加した経費を援助することにより,より質の高い保育の実現を 目指すものであり,その究極の目的は児童福祉の向上にあるところ,α市では,施設基準の一つとして,零歳児認可定員1人につき法定の3.3㎡を上回る5.0㎡の保育スペースを確保することを加算の要件としていた。 (イ) 要件との齟齬が生じた理由 本件で面積基準違反が生じた理由は,入所について緊急性のあった本件児童を受け入れたためであり,児童福祉の向上という補助金の理念にむしろ適合する対応によるものである。 この点,原告は,本件児童の入所手続はα市職員に対する特段の便宜として行われたものであり,そのような不公正な入所手続のために支払われ た補助金も不当なものであると主張する。しかし,本件児童については緊急の入所の必要性 入所手続はα市職員に対する特段の便宜として行われたものであり,そのような不公正な入所手続のために支払われ た補助金も不当なものであると主張する。しかし,本件児童については緊急の入所の必要性があったからこそ本件保育園への入所が検討され,その結果,本件児童は,同人が入所したクラスの待機児童中で最高順位の指数の者であり,本件児童の入所による不公正は生じないことが確認できたため,入所決定に至ったものであり,α市職員の子であることを理由に特段 の便宜が供与されたものではなく,平等原則に反するものでもない。 (ウ) 要件との齟齬の程度本件保育園の0歳児と1歳児の保育スペースについて,本件児童の入所により生じた本件要綱との齟齬はわずか1.6㎡であり,児童1人に対し不足していた面積はわずか0.035㎡にすぎず,このような軽微な面積の不足が生じたとしても,実質的には当該スペースで保育されていた児童 の保育環境への影響はなかった。 (エ) 補助金交付の必要性本件保育園には,施設基準及び職員配置基準を満たすための諸経費の加算が現実に発生しており,それにもかかわらず,本件補助金を受け取ることができなくなるとすれば,これが同園の運営に与える影響は甚大であ り,かえって保育の質の低下を招くことになりかねず,本件補助金の交付を継続すべき必要性は極めて高かった。 (オ) 本件補助金の交付により生じる弊害の有無本件補助金を交付したからといってα市の財政に不当な影響を与えることはなく,他の保育所への補助額に影響が生じるということもなく,不 利益を受ける者はいない。 (カ) 以上の事情を総合的に考慮すれば,本件補助金の交付は運営費補助金の零歳児加算額の制度の趣旨,目的にかな 育所への補助額に影響が生じるということもなく,不 利益を受ける者はいない。 (カ) 以上の事情を総合的に考慮すれば,本件補助金の交付は運営費補助金の零歳児加算額の制度の趣旨,目的にかなうものであり,これを交付したことは相当であり,裁量権の範囲内の措置として適法なものである。 (2) 本件交付決定当時の手続上の瑕疵は治癒されたこと 本件交付決定時点においては,その決裁に関与した職員らにより,本件改正前の面積要件を欠いてなお補助金を交付することについて特段の検討の手続がされたことを裏付ける資料はなく,十分な調査,検討なく,補助要件を欠いた交付決定が行われたという手続上の瑕疵が存在したが,本件改正により,その瑕疵は治癒された(本件改正が適法なものであることについては,後記4に おいて主張するとおりである。)。 3 争点(2)イ(本件交付決定に関する善管注意義務違反の有無,損害の発生の有無)について(原告の主張の要旨)(1) D市長は,α市の市長として善管注意義務を負うにもかかわらず,本件改正前の面積基準を満たさないことが明らかであるのに本件交付決定をし,α市 に本件補助金相当額の損害を与えた。 (2) B課長は,子育て支援課長として運営費補助金の交付決定を審議する立場にあり,法令の要件に従って適法に補助金を交付するよう善管注意義務を負っていたところ,本件保育園の園長(以下「本件園長」という。)から本件児童を本件保育園に入所させれば本件改正前の面積基準を下回ることを伝えられ ていたにもかかわらず,本件児童を本件保育園に入所させた上,本件社会福祉法人に本件補助金を交付することが補助要件を満たさず違法であることを認識しながら,審議者として本件交付決定の決裁に関与し,決裁権者をして もかかわらず,本件児童を本件保育園に入所させた上,本件社会福祉法人に本件補助金を交付することが補助要件を満たさず違法であることを認識しながら,審議者として本件交付決定の決裁に関与し,決裁権者をして,本件交付決定をさせたのであるから,B課長は,故意に違法な公金を交付させ,α市に損害を与えたといえる。 しかも,平成26年度決算の予備審査においても,α市職員が,面積基準に足りないのに補助金を交付していることをB課長に報告していたにもかかわらず,原告が内部通報をするまでB課長は何らの対応を行わなかったことからすれば,B課長が当初から,確信的な故意をもって,本件改正前の面積基準を下回った本件補助金の交付に関与したことは明らかである。 (3) C主査は,子育て支援課の保育担当主査として本件交付決定を審議する立場にあり,法令の要件に従って適法に補助金を交付するよう善管注意義務を負っていたところ,本件児童の入所段階からB課長の指示に基づき関与し,本件交付決定の審議にも主査として関与し,決裁権者をして本件交付決定をさせたのであるから,故意に違法な公金を交付させて,α市に損害を与えたといえる。 (被告の主張の要旨) (1) 本件補助金の交付はα市長の裁量権の範囲内の措置であるから,D市長に善管注意義務違反はない。 (2) 本件交付決定について本来的に権限を有するのはα市長であり,α市事務決裁規定に基づき同決定の専決を行うのは部長である。したがって,この点についていえば,B課長及びC主査には財務会計上の権限はなく,「当該職員」 (地方自治法242条の2第1項4号)に該当しない。 (3) α市職員であるB課長及びC主査は,本件交付決定に係る決裁の過程において審議者として関与し,本件の経緯,緊急性から,特段の手 職員」 (地方自治法242条の2第1項4号)に該当しない。 (3) α市職員であるB課長及びC主査は,本件交付決定に係る決裁の過程において審議者として関与し,本件の経緯,緊急性から,特段の手続をとることなく回議用紙に交付を是とする旨の捺印を行ったが,それ以上に同人らが補助金の交付を実現すべく決裁権者に働きかけたり,不当な措置を行ったという事情 はない。また,B課長は,本件園長から本件児童を受け入れるとの連絡を受けたことで,面積不足の問題は解消されたと認識しており,C主査も,B課長から同問題については解決したと聞いていた。したがって,本件では,同人らの審議者としての関与に注意義務違反や違法性は認められない。 (4) 本件補助金の交付は適法なものであり,手続上の不備も既に治癒している から,α市に本件補助金の交付による損害はない。 4 争点(2)ウ(本件改正の違法性)について(原告の主張の要旨)D市長が平成28年6月28日に行った本件改正要綱の制定は,平成20年4月1日まで遡って本件要綱を改正するものであるところ,これは,遡及 理由,遡及期間及び不利益を受ける者の有無の3点において他の要綱改正とは異なり,特異性があるのであって,本件補助金の交付の違法性が指摘されている中,殊更に本件補助金の交付の手続の瑕疵を治癒することのみを狙ったものであり,本件補助金の交付の違法性を隠ぺいするとともに,補助金返還を行わなくてよいようにするために行われたものであることは明らかであ り,そのような不当な目的を有しているから,裁量権の範囲を逸脱し又はこ れを濫用したものであって違法である。 (被告の主張の要旨)本件要綱は,補助金の交付基準についての細則を定めるものであるところ,いかなる基準を満たした場合 権の範囲を逸脱し又はこ れを濫用したものであって違法である。 (被告の主張の要旨)本件要綱は,補助金の交付基準についての細則を定めるものであるところ,いかなる基準を満たした場合に「公益上の必要がある」として補助金を交付するかは,政策的な判断を要するものであり,α市長に裁量権がある。したがっ て,要綱を改め,交付基準をどのように改正するかについても,当然にα市長に裁量権が認められる。 そして,平成28年6月28日の本件改正は,面積要件を従来の文言通りに厳格に運用すると,理由の如何を問わず,緊急の必要性がある児童の入所まで阻害されかねない事態が生じることが明らかになったため,「零歳児1人につ き,5平方メートル以上の有効面積があること」という基準を,もともと零歳児加算を定めていた東京都の要綱の基準と同様に「零歳児1人につき,おおむね5平方メートル以上の有効面積があること」と改正し,一定の裁量判断があり得ることが規定上からも明らかになるようにしたものであるところ,そのような本件改正には目的の正当性,手段の合理性が認められる。 また,本件改正要綱は,平成28年6月28日に施行されたものだが,本件要綱が制定された平成20年4月1日に遡って適用することとしている(本件遡及適用)。原告は本件遡及適用についても,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると主張するが,本件改正の趣旨は,改正後の条項を制度開始当初に遡及して適用することとし,仮に過去の同様の事例の存在が明らかになった場合 でも,本件改正以後は「5平方メートル」という要件を形式的に適用するのではなく,むしろ児童福祉向上の観点から,諸般の事情を総合的に考慮して補助金交付決定の当否を判断するとしたものである。 このような本件遡及適用により不 方メートル」という要件を形式的に適用するのではなく,むしろ児童福祉向上の観点から,諸般の事情を総合的に考慮して補助金交付決定の当否を判断するとしたものである。 このような本件遡及適用により不利益を受ける者はおらず,遡及の必要性も認められるから,本件改正に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められず, 違法性はない。 5 争点(2)ウ(本件改正による損害の発生の有無)(原告の主張の要旨)(1) 補助金返還請求の根拠本件条例の委任を受けた本件規則13条は,α市長は,被交付決定者が偽りその他不正の手段により補助金の交付を受けたときや,その他本件規則に違反 したときは,補助金の交付決定の全部又は一部を取り消すことができる旨を定め(1号,3号),本件規則14条は,補助金の交付決定の全部又は一部を取り消した場合において,既に補助金が交付されているときは,被交付決定者に対し,返還を命ずることができると定めている。これらの規定の趣旨からすると,α市長には違法な補助金の返還を請求しないという裁量はなく,その請求 権の行使を怠るのは違法であると解すべきである。 仮に,α市長に補助金の返還を請求するか否かにつき裁量が認められるとしても,その裁量は無制約のものではなく,取消事由の内容等に照らして,補助金の返還を命じず,又は補助金交付決定を取り消さないことが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用と評価すべき場合には,補助金交付決定の取消しをしないこ とが違法の評価を受けることになると解するのが相当である。 本件補助金の交付は,本件改正前の面積要件に違反しているところ,本件園長は,内容虚偽の補助金の申請を行い,本件補助金の交付を受けているから,不正又は虚偽の申請により補助金の交付を受けたといえる。よって,α市 金の交付は,本件改正前の面積要件に違反しているところ,本件園長は,内容虚偽の補助金の申請を行い,本件補助金の交付を受けているから,不正又は虚偽の申請により補助金の交付を受けたといえる。よって,α市長は,本件交付決定の全部を取り消し,本件社会福祉法人に対し,本件補助金の返還 を命ずべき義務を負うものである。 (2) したがって,本件社会福祉法人は本来,α市長から本件補助金の返還を求められる立場にあったところ,本件改正によりその請求を受けることを免れたのであるから,α市には本件補助金相当額の損害が生じた。 (被告の主張の要旨) (1) 要綱は行政の内部規定であり,本件要綱を改正したことにより何ら法的効 果が生じるものではないから,本件改正によりα市に損害は生じない。 (2) 補助金返還請求権の発生根拠を欠くことについてア本件補助金の申請について不正,虚偽のないこと本件社会福祉法人には,ことさら面積基準を偽ろうという意図はなかったし,実際にも本件規則により必要とされる添付書類を付して申請を行ってお り,面積基準について偽った申請はしていない。したがって,本件は,不正又は虚偽の申請により本件補助金の交付を受けた場合に当たらないため,これを理由とする取消し及び返還請求を行うことはできない。 イ本件補助金の交付を取り消すべき理由はないこと本件補助金の交付決定を取り消し,交付した補助金の返還を求めるべきか 否かの判断は,本件交付決定に「公益上の必要」があったか否かという問題と表裏の関係にあるのであり,交付決定にα市長の裁量権が認められる以上,取消し等をすべきか否かの判断にも当然にα市長の裁量権が認められる。 そして,本件での取消理由に関する原告の主張は,本件改正前の 係にあるのであり,交付決定にα市長の裁量権が認められる以上,取消し等をすべきか否かの判断にも当然にα市長の裁量権が認められる。 そして,本件での取消理由に関する原告の主張は,本件改正前の面積基準 を満たさない補助金交付であったという交付決定時の不備をいうものにすぎないところ,本件補助金の交付に違法性がない以上,これを取り消すべき理由もなく,この点についてD市長に何らかの責任が生じる余地はない。 以上

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