- 1 -主文被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中500日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1仏像等を窃取する目的で,平成18年2月5日,奈良県生駒郡A1町B1C1番地D1寺境内に所在の同寺住職E1が看守する重要文化財(国宝)であるF1建物の東側木製格子6本を所携ののこぎりで損壊(損害額94万円相当)し,もって重要文化財を損壊するとともに建造物を損壊した上,同建物内に侵入し,同建物内陣中央厨子内に安置された同人管理に係るG1仏像1体(時価H1円相当)を窃取した第2仏像等を窃取する目的で,同日,同寺境内に所在の上記E1が看守するI1建物の入口から同建物内に侵入し,同建物宝物展示室北西角の展示用ガラス内に安置されたJ1仏像を窃取しようと,所携のハンマーで同ガラスを殴打したが,同ガラスが割れなかったため,窃取の目的を遂げなかった第3仏像等を窃取する目的で,同日,奈良市K1町L1番地M1寺境内に所在の同寺住職N1が看守する大元堂の入口から同建物内に侵入し,同建物護摩壇南西側棚上に安置された同人管理に係るO1仏像1体(時価P1円相当)を窃取した第4仏像等を窃取する目的で,同日,同県高市郡Q1村大字R1S1番地T1寺境内に所在の同寺住職U1が看守する本堂の入口から同建物内に侵入し,同建物外陣左脇段上厨子内に安置された同人管理に係るV1仏像1体(時価W1円相当)を窃取しようとしたが,同寺職員に発見されたため,その目的を遂げなかった第5仏像等を窃取する目的で,同年1月2日ころ,広島県福山市X1町Y1番地Z1院境内に所在の同寺住職A2が看守する観音堂東側出入口の施錠を外して同建物内- 2 -に侵入し,同建物内陣須弥壇に安置された同人管理に係るB2仏像1体(時価C2円 ,広島県福山市X1町Y1番地Z1院境内に所在の同寺住職A2が看守する観音堂東側出入口の施錠を外して同建物内- 2 -に侵入し,同建物内陣須弥壇に安置された同人管理に係るB2仏像1体(時価C2円相当)を窃取した第6仏像等を窃取する目的で,同月3日ころ,同県尾道市D2町E2番F2号G2寺境内に所在の同寺住職H2が看守する文殊堂入口から同建物内に侵入し,同建物内の台座に安置された同人管理に係るI2仏像1体(時価J2円相当)を窃取した第7仏像等を窃取する目的で,同日ころ,同町K2番L2号M2寺境内に所在の同寺住職N2が看守する地蔵堂の入口から同建物内に侵入し,同建物内須弥壇厨子内に安置された同人管理に係るO2仏像1体(時価P2円相当)を窃取した第8仏像等を窃取する目的で,平成17年11月10日ころ,東京都中野区Q2R2丁目S2番T2号U2寺境内に所在の同寺住職V2が看守する本堂南側出入口から同建物内に侵入し,同建物内須弥壇に安置された同人管理に係るW2仏像1体及びX2仏像1体(時価合計Y2円相当)を窃取した第9仏像等を窃取する目的で,同月18日,東京都台東区Z2A3丁目B3番C3号D3寺境内に所在の同寺代表役員E3が看守する本堂北側出入口から同建物内に侵入し,同建物内裏堂厨子内に安置された同人管理に係るF3仏像1体(時価G3円相当)を窃取した第㨯仏像等を窃取する目的で,同年12月4日,東京都立川市H3町I3丁目J3番K3号L3寺境内に所在の同寺住職M3が看守する本堂北側出入口から同建物内に侵入し,同建物内須弥壇右脇陣に安置された同人管理に係るN3仏像1体(時価O3円相当)を窃取した第㨯仏像等を窃取する目的で,同日ころ,東京都杉並区P3Q3丁目R3番S3号T3寺境内に所在の同寺住職U3が看守する本堂出入口引き戸の施錠を外して 理に係るN3仏像1体(時価O3円相当)を窃取した第㨯仏像等を窃取する目的で,同日ころ,東京都杉並区P3Q3丁目R3番S3号T3寺境内に所在の同寺住職U3が看守する本堂出入口引き戸の施錠を外して同建物内に侵入し,同建物北側位牌棚に安置された同人管理に係るV3仏像1体(時価W3円相当)を窃取した第㨯仏像等を窃取する目的で,同月12日ころ,東京都文京区X3Y3丁目Z3番A4号B4寺境内に所在の同寺住職C4が看守する本堂北側出入口から同建物内に侵入- 3 -し,同人管理に係る同建物内陣須弥壇左脇壇に安置されたD4仏像1体(時価E4円相当)及び右脇壇に安置されたF4仏像1体を窃取した第㨯仏像等を窃取する目的で,同月13日ころ,同区G4H4丁目I4番J4号K4寺境内に所在の同寺住職L4が看守する本堂南側出入口から同建物内に侵入し,同建物内陣須弥壇左脇壇に安置された同人管理に係るM4仏像1体(時価N4円相当)を窃取した第㨯仏像等を窃取する目的で,同日ころ,東京都台東区O4P4番Q4号R4寺境内に所在の同寺輪番S4が看守する本堂南側出入口から同建物内に侵入し,同人管理に係る同建物内陣須弥壇右脇壇に安置されたT4仏像1体(時価U4円相当)及び左脇壇に安置されたV4仏像1体(時価W4円相当)を窃取した第㨯仏像等を窃取する目的で,同月18日ころ,東京都台東区X4Y4丁目Z4番A5号B5寺境内に所在の同寺輪番C5が看守する本堂東側出入口から同建物内に侵入,()し同建物内陣須弥壇に安置された同人管理に係るD5仏像1体時価E5円相当を窃取した第㨯仏像等を窃取する目的で,平成18年1月23日ころ,東京都中野区F5G5丁目H5番I5号J5寺境内に所在の同寺住職K5が看守する本堂南側出入口から同建物内に侵入し,同人管理に係る同建物内陣須弥壇 㨯仏像等を窃取する目的で,平成18年1月23日ころ,東京都中野区F5G5丁目H5番I5号J5寺境内に所在の同寺住職K5が看守する本堂南側出入口から同建物内に侵入し,同人管理に係る同建物内陣須弥壇左脇壇に安置されたL5仏像1体(時価M5円相当)及び右脇壇に安置されたN5仏像1体(時価O5円相当)を窃取した第㨯同年2月4日ころ,大阪市北区P5Q5丁目R5番S5号T5駐車場において,同所に駐車中の普通乗用自動車からU5管理に係るナンバープレート2枚及び自動車検査証1枚を窃取したものである。 (法令の適用) 罰条判示第1の所為- 4 -文化財保護法違反の点同法195条1項建造物損壊の点刑法260条建造物侵入の点同法130条前段窃盗の点同法235条判示第2,第4の各所為各建造物侵入の点いずれも同法130条前段各窃盗未遂の点いずれも同法243条,235条判示第3,第5ないし第16の各所為各建造物侵入の点いずれも同法130条前段各窃盗の点いずれも同法235条判示第17の所為刑法235条(なお,判示第1ないし第17の各窃盗又は窃盗未遂は,行為時においてはいずれも平成18年法律第36号による改正前の刑法235条に,裁判時においてはいずれも同改正後の刑法235条に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,いずれも同法6条,10条により軽い裁判時法の刑による)。 科刑上一罪の処理判示第1について文化財保護法違反,建造物損壊及び建造物侵入は1個の行為が3個の罪名に,,触れる場合であり建造物侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので刑法54条1項前段,後段,10条(結局以上を1罪として最も重い窃盗罪の刑で処断)判示第2ないし第16について各建造物侵入と各窃盗未遂(判示 あり建造物侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので刑法54条1項前段,後段,10条(結局以上を1罪として最も重い窃盗罪の刑で処断)判示第2ないし第16について各建造物侵入と各窃盗未遂(判示第2,第4)あるいは各窃盗(判示第3,第5ないし第16)との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条(それぞれ1罪として重い各窃盗未遂罪〔判示第2,- 5 -第4〕あるいは窃盗罪〔判示第3,第5ないし第16〕の刑で処断) 刑種の選択いずれも懲役刑を選択 併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重) 未決勾留日数の算入刑法21条 訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(弁護人の主張に対する判断) 弁護人は,本件各犯行当時,被告人が精神障害により心神耗弱の状態にあったから刑が減軽されるべきである旨主張するので,以下この点について検討する。 被告人の身上経歴,精神科医の受診状況,薬の服用状況等(1) 被告人は,V5大学法学部を卒業後,昭和62年4月に大手損害保険会社に就職し,結婚して子供を設け,転勤を繰り返しながら順調に昇進していったが,平成12年ころ,職場の上司から暴力を振るわれ,それが社内問題化したことから,頭重感,倦怠感,不眠,抑うつ気分,希死念慮等の症状に悩まされるようになった。そこで,被告人は,平成12年10月30日,自ら進んでW5大学医学部附属W5医院で受診し,うつ病との診断を受けて低用量の睡眠薬と抗うつ薬,抗不安薬の処方を受けた(このときの担当医は,被告人の診療録に「診察室ではそれほど抑うつ的な印象はない」旨記載している。 。)被告人は,薬を服用するようになってから体調が良くなったと感じたので,その後も通院して薬の処方を受け続けな 当医は,被告人の診療録に「診察室ではそれほど抑うつ的な印象はない」旨記載している。 。)被告人は,薬を服用するようになってから体調が良くなったと感じたので,その後も通院して薬の処方を受け続けながら,特に支障なく仕事に励み,平成14年には業績優秀者として社長賞を受賞し,平成15年にはX5支社長代理に昇格した。もっとも,被告人が服用する薬の量は徐々に増えていき,とりわけ- 6 -睡眠薬については,仕事での緊張感を和らげるため平成15年ころから日中にも服用するようになり,医師から日中の服用を止めるよう厳しく注意されても受け流していた。 (2) 被告人は,平成15年ころ,被告人が設立時から世話をしてきた保険代理店業を営む株式会社Y5(以下「Y5」という)のオーナーから,同社の役員に就。 任するよう勧誘された。被告人は,いずれは同社の社長になりたいという思いもあり,平成16年3月限りで長年勤めた保険会社を退職し,同年4月,高額の報酬を約束されて,契約期間を2年間として,従業員約20人から25人程度のY5の常任取締役に就任した。被告人は,その後約1年間,取締役として職務に励み,Y5の売上げを伸ばすことに貢献した。 (3) ところが,被告人は,平成17年初めころ,同社のオーナーから,2年の契約期間が切れたら再契約するか分からない旨の思いがけない話を聞かされた。 そのため,被告人は,将来に強い不安を感じるようになり,不眠や身体のふるえ等の症状に悩まされるようになった。そのころから,被告人は,ますます薬に依存するようになって薬の服用量は更に増えていき,日中に睡眠薬を服用す。 ,,,ることも増えていったそして被告人は睡眠薬の効き方が悪くなったため専ら睡眠薬を入手する目的で更に3つくらいの病院に通い始め,不眠を訴えて睡眠薬等の処方を受けた。 睡眠薬を服用す。 ,,,ることも増えていったそして被告人は睡眠薬の効き方が悪くなったため専ら睡眠薬を入手する目的で更に3つくらいの病院に通い始め,不眠を訴えて睡眠薬等の処方を受けた。 (4) 被告人は,同年9月ころになると,オーナーが被告人を辞めさせる材料を見つけるため被告人のことを調べているという噂を聞いたり,役員室への出入りを禁止されるなどしたことから,より一層強い不安を感じて精神的に不安定になった。被告人は,薬を入手する目的で更に3つくらいの病院に通い始め,少なくとも合計6つの病院に通うようになったが,病院で処方される薬だけでは足りず,通信販売でも薬を購入するなどしていた。 そのころになると,被告人は,睡眠薬を服用すると身体のふるえが止まって不安感が和らぎ,睡眠薬なしでは生活できないような状態になり,睡眠薬Z5や- 7 -,,,,,,。 ,A6B6を朝昼夕の毎食後に1錠就寝前に23錠服用していたまた睡眠薬の外に,抗うつ薬のC61錠及びD61錠も毎朝服用していた。そして,被告人は,妻子の待つ自宅に帰らず,カプセルホテルやインターネット喫茶等で昼夜の区別なく仮眠をとったり,寝泊まりするなどしていた。 (5) 他方で,被告人は,Y5を辞めたときに備えて,同社の取締役を務める傍ら,共同出資してネイル機械販売業を営む新会社を起こし(同年11月21日設立登記,自ら代表取締役に就任した。新会社の取り扱うネイル機械は,新聞や)テレビで取り上げられるなど予想以上の反響があり,代理店の募集説明会にも申込みが殺到して,同社の経営は順調であった。 本件各犯行を決意した経緯被告人は,仏教や仏像に格別の興味を抱いていなかったが,平成17年10月ころから,夢の中によく仏が現れるようになった上,何度も同じ仏の顔が現れ 同社の経営は順調であった。 本件各犯行を決意した経緯被告人は,仏教や仏像に格別の興味を抱いていなかったが,平成17年10月ころから,夢の中によく仏が現れるようになった上,何度も同じ仏の顔が現れると思うようになった。気になり書店で仏像の写真集を見たところ,夢に現れる仏の顔が奈良県桜井市のE6寺にあるF6仏像の顔によく似ていると思った。そこで,被告人は,同月終わりころ,一人でE6寺に赴き,F6仏像の前に座って目をつむったところ「人の集まる高名なお寺から仏像33体を集めれば,悪化する苦しみ,から救われるだろう」という声が聞こえてきたと思った。被告人は,そのよう。 なことをすると信者に迷惑を掛けると即座に思ったが,そのとき再び「仏は人,の心の中にあるものだから」という声が聞こえてきたと思った。被告人は,こ。 れらが幻聴ではなく仏の声であり,人が集まる高名な寺から仏像33体を集めれば,自分の病気が良くなり,Y5で仕事を続けられると思い込んだ。被告人は,仏像を盗むことは犯罪であり,寺や信者にも迷惑を掛けるとは承知していたが,身体が楽になりたい,仕事を続けたいという気持ちが勝り,仏像を盗んで集める決意をした。 本件各犯行時の状況,,(1) 被告人は平成17年11月10日ころから同年12月18日ころにかけて- 8 -東京都内にある高名な寺として知っていた寺や,書店で購入したガイドブックで調べるなどして知った寺に仏像を盗みに行き,拝観時間帯に参拝客を装って境内に入るなどして判示第8ないし第15の各犯行に及んだ被告人は人,。 ,「の集まるお寺から」仏像を盗むため,比較的近くに寺院関係者や参拝客がいる状況下で各犯行に及んだ。 被告人は,同年11月10日ころ,U2で判示第8の犯行に及んだ。 被告人は,同月18日,判示第9のD3寺に 集まるお寺から」仏像を盗むため,比較的近くに寺院関係者や参拝客がいる状況下で各犯行に及んだ。 被告人は,同年11月10日ころ,U2で判示第8の犯行に及んだ。 被告人は,同月18日,判示第9のD3寺における犯行直前に,その近くで見つけたG6寺で仏像等を盗み出したが,仏像等が重かったので,台車を入手して台車に載せて運んだ。その後,被告人は,タクシーに乗ってD3寺に行ったが,D3寺には大勢の参拝客がいたので,人目に付かないように本堂の裏側から堂内に入り,本尊裏側の裏堂に安置されていた仏像を盗んだ。仏像は,用意していた青色シートに包んで自分の自動車まで持ち運んだ。被告人は,有名なD3寺から仏像を盗むことができたので,お告げは本当であったと確信するようになった。 被告人は,同年12月4日,L3寺で判示第10の犯行に及んだ。犯行後,盗んだ仏像を持って自動車まで運んでいるところを男性に見咎められたが「修,理をしに持って帰るところです」などと言って上手く誤魔化した。同日ころ。 ,,の判示第11のT3寺における犯行では本堂の引き戸に鍵が掛かっていたので石を拾って引き戸上部のガラスを叩き割り,鍵を開けて堂内に入って仏像を盗んだ。 被告人は,同月12日ころ,判示第12のB4寺における犯行前に,その近くにあるH6寺で仏像を盗もうとしたが,本堂で囲碁か将棋をしている人がいたため,盗むのを断念した。被告人は,それからB4寺に行き,寺で寄付をして寺院関係者に本堂を案内してもらい,隙を見て仏像をバッグに入れて盗んだ。犯行後,もう一度H6寺に行ってみたが,大勢の人がいたので窃盗を断念した。 被告人は,翌13日ころ,まず,判示第13のK4院で仏像を盗み,次いで,- 9 -判示第14のR4寺で仏像を盗んだ。R4寺での犯行後,両手で仏像2体を抱えて自動車まで戻ってきた で窃盗を断念した。 被告人は,翌13日ころ,まず,判示第13のK4院で仏像を盗み,次いで,- 9 -判示第14のR4寺で仏像を盗んだ。R4寺での犯行後,両手で仏像2体を抱えて自動車まで戻ってきたところ,男性から駐車違反を咎められたが「仏像を運,んでいるから仕方ないでしょう」などと言い返し,それ以上咎められること。 もなくその場を立ち去った。 被告人は,同月18日ころ,B5寺で判示第15の犯行に及んだ。 被告人は,これらの盗んだ仏像をすべて,被告人が所有する東京都新宿区にあるビル内に隠匿保管していた。 (2) なお,被告人は,上記一連の窃盗を遂行中の同年12月9日ころ,仏像を盗む罪悪感等から,鉄道線路内に入り込んで飛込み自殺をしようとしたことがあった。被告人は,その2日くらい後,再び夢の中に仏が現れ「一時的な喪失,感があっても,信者はかえって信仰が深まるし,信者も救われる」という声。 が聞こえたと思ったので,その内容を自分なりに解釈して,仏像を盗み続ける決意をした。 (3) 被告人は,平成18年の正月,広島県尾道市に仕事上の恩師の焼香に行ったが,その際,同年1月2日ころから同月3日ころにかけて,タクシーの運転手に尋ねるなどして知った寺に仏像を盗みに行き,判示第5ないし第7の各犯行に及んだ。 被告人は,判示第5のZ1院における犯行時は,盗んだ仏像を抱えていると人目に付くので,段ボール箱を拾って中に入れて持ち運んだ。判示第6のG2寺における犯行時は,文殊堂の扉に鍵が掛かっていたので,持っていたのこぎりで桟を切り,鍵を開けて堂内に入って仏像を盗んだ。被告人は,G2寺で盗んだ仏像を紙袋に入れて持ち運びながら,その近くにある判示第7のM2寺に行き,そこでも仏像を盗んでバッグに隠し入れた。 被告人は,帰京後の同月23日,J5寺において判示第16の 。被告人は,G2寺で盗んだ仏像を紙袋に入れて持ち運びながら,その近くにある判示第7のM2寺に行き,そこでも仏像を盗んでバッグに隠し入れた。 被告人は,帰京後の同月23日,J5寺において判示第16の犯行に及んだ。 被告人は,これらの盗んだ仏像も,新宿のビルに運んで隠匿保管していた。 (4) 被告人は,罪悪感を和らげて度胸を付けるため,仏像を盗みに行く前に必ず- 10 -ビールと睡眠薬を併用し,薬が効き出してから境内に入った。被告人が服用した睡眠薬は,判示第8の犯行前はZ52錠及びA62錠,判示第5,第6,第9な,,,。 いし第13第15第16の各犯行前はZ52錠A62錠及びB61錠であったなお,判示第7,第14の各犯行前は,それぞれ判示第6,第13の各犯行前,。 に服用した睡眠薬の効果が残存していたため改めて睡眠薬を服用しなかった(5) 被告人は,Y5の取締役の任期が終わる平成18年3月31日までに仏像を集めなければ,同社で仕事を続けることができず,体調も回復しないと思っていた。そのため,東京都内等で仏像を盗み回った後,高名な寺院が多い奈良県で一気に仏像を盗み集めようと決意した。そして,盗みに行くときに使う被告人の所有車に取り付けるナンバープレートを盗む目的で,同年2月4日ころ,新幹線で大阪に行き,同所で借りたレンタカーに乗ってナンバープレートを盗む自動車を物色し回り,判示第17の犯行に及んだ。この犯行前も,被告人は,いつもどおり,ビールでZ52錠,A62錠及びB61錠を服用した。犯行時,被告人は,ドライバーを使用してナンバープレートを外した上,職務質問を受けたときに車検証を見せて誤魔化そうと思い,ハンマーで窓ガラスを割ってダッシュボードの中から車検証を盗み出した。被告人は,首尾良くナンバープレート等を盗み出せたので,レンタカー した上,職務質問を受けたときに車検証を見せて誤魔化そうと思い,ハンマーで窓ガラスを割ってダッシュボードの中から車検証を盗み出した。被告人は,首尾良くナンバープレート等を盗み出せたので,レンタカーを使って仏像も盗みに行こうと決め,奈良県内に移動した。 (6) 被告人は,同月5日の午前,高名なD1寺に仏像を盗みに行った。被告人は,いつもどおり罪悪感を和らげるため,事前に缶ビールで睡眠薬A62錠及びZ52錠と,抗うつ薬D61錠,I61錠及びJ61錠を服用した。被告人は,薬が効き出してからのこぎりやハンマー等の道具を隠し持ち,仏像を入れるためのバッグも持って,参拝客を装って境内に入った。被告人は,人気のない建物を探して判示第1の犯行に及び,いったんレンタカーに戻って盗んだ仏像をバッグから。 ,,取り出して車に積んだその後境内に戻って拝観料を支払ってI1建物に入り判示第2の犯行に及んだ。判示第2の犯行の際,被告人は,館内を清掃してい- 11 -た女性に対し「向こうに水がこぼれてましたよ」などと声を掛け,女性が,。 その場を離れてから,ハンマーを取り出して展示用ガラスを3回くらい叩き,同ガラス内のJ1仏像を盗もうとした。しかし,音を聞き付けた同女らが駆け付けて被告人を咎めたので,被告人は,窃盗をあきらめた上「割れるかと思っ,て叩いた」などと苦し紛れの弁明をした。被告人は,寺院関係者から氏名と。 連絡先の記載を求められたが,嘘の氏名と住所を書いた。 被告人は,D1寺を出た後,カーナビゲーションで見つけたM1寺で仏像を盗もうと考え,レンタカーで同寺に行った。被告人は,参拝客を装い拝観料を支払って境内に入り,本堂脇の拝観禁止の大元堂内に入り込み,判示第3の犯行に及んだ。 その後,被告人は,レンタカーで以前から知っていたT1寺に仏像を盗みに行 に行った。被告人は,参拝客を装い拝観料を支払って境内に入り,本堂脇の拝観禁止の大元堂内に入り込み,判示第3の犯行に及んだ。 その後,被告人は,レンタカーで以前から知っていたT1寺に仏像を盗みに行き,拝観料を支払って境内に入り,参拝客を装って本堂に入った。しかし,被告人が本堂内で仏像を台座ごと持ち上げて盗もうとした際に,仏像が台座から外れて床に落ちてしまった。被告人は,その後バッグに仏像等を詰めようとしているところを寺院関係者に発見され「仏様の頭をなでようと思って仏様を,持ったら落ちてしまいました」などと言って誤魔化そうとしたが,言い逃れ。 できずに現行犯逮捕された(判示第4の犯行。 ) 公判段階で実施された精神鑑定の要旨被告人の精神状態については,公判段階においてK6病院医師L6により精神鑑定が実施されているところ(以下「L6鑑定」という,その要旨は,次のとおり。)である。 (1) 被告人は,超短時間作用型の睡眠薬であるZ5とA6を,その作用が消失しないように1日中何回も飲むことを少なくとも約1年間続けてきた結果,徐々に仕事や日常生活に支障を来すようになった。その服用量から,常に軽度の眠気を伴った覚せい水準低下の状態であったと考えられる。そして,睡眠が著しく不規則となり,仕事や出来事を忘れるという健忘,いつもよりハイテンションな- 12 -どの脱抑制,理解が悪いなどの注意力や集中力の低下などがみられた。本件逮捕により突然に抗うつ薬と睡眠薬が中断されたときは,退薬症状が出現した。 また,逮捕後現在まで,臨床用量内であるがM6系睡眠薬なしでは眠ることができないという臨床用量依存となっている。したがって,被告人は,睡眠薬依存症であり,睡眠薬嗜癖である。 (2) 被告人は,これまでうつ病と診断されてきた。しかし,平成12年の精神科 しでは眠ることができないという臨床用量依存となっている。したがって,被告人は,睡眠薬依存症であり,睡眠薬嗜癖である。 (2) 被告人は,これまでうつ病と診断されてきた。しかし,平成12年の精神科初診以降も,仕事に大きな支障はなく,むしろ業績を上げ,自己啓発に努めるなど,興味や活動性の減退はなかったといえる。うつ症状は改善したにもかかわらず,睡眠薬はむしろ増加した。うつ病の特徴である気分の日内変動や,早朝覚せい型の睡眠障害などはほとんど認められなかった「抑うつ気分,興味。 と喜びの喪失,及び易疲労性」の持続といったうつ病の診断基準を満たしていないし,臨床経験からも内因性うつ病とはその病像が異なっている。したがって,うつ病という診断には疑問が残る。 (3) 被告人は,知能は正常範囲の中位ないし上位で,明るく誠実で積極的,我慢強い性格だが,一方で,虚無的,厭世的なところがある。被告人は,虚無的,厭世的なところが顕在化しないようにするため,絶えず仕事に打ち込んできたが,上司のパワハラという事態に直面したこと,転職し熱心に働いていたのに解雇のおそれが生じたこと,同時に新しい仕事を立ち上げなければならなかったことなどで,慢性的なストレス状況にあった。適応障害は,神経症障害の一つで,その診断基準については「主観的な苦悩と情緒障害の状態であり,通,常社会的な機能と行為を妨げ,重大な生活の変化に対して,あるいはストレスの多い生活上の出来事の結果に対して順応が生ずる時期に発生する「症状。」,は多彩であり,抑うつ気分,不安,心配(あるいはこれらの混合,現状の中)で対処し,計画あるいは継続することができないという感じ,日課の遂行がある程度障害されることが含まれる「発症は,通常ストレスの多い出来事あ。」,るいは生活の変化の発生から1か月以内である 中)で対処し,計画あるいは継続することができないという感じ,日課の遂行がある程度障害されることが含まれる「発症は,通常ストレスの多い出来事あ。」,るいは生活の変化の発生から1か月以内である」などとされている。被告人。 - 13 -,,の上記のような慢性的なストレス状況うつ的な症状と神経症的な症状の混在発症あるいはその悪化といくつかの仕事上の大きな出来事との時間的な関連などから,被告人は適応障害に該当すると診断する。 (4) 奈良のE6寺における幻聴体験は,このときだけの単発的な体験であり,不安感や恐怖感を伴っていなかった。声の内容は,被害的な色彩はなく,むしろ救済的で願望充足的なものであった。そして,日中とはいえ,睡眠薬による軽度の眠気を伴った覚せい水準低下の状態での体験であった。これらからすれば,上記幻聴体験は何らかの精神病による幻聴ではなく,ごく軽度の意識混濁下で生じた幻聴であろうとしかいいようがない。平成17年9月から同年10月にかけての仏像が見えるという幻視体験も,同様の理由により,正常人でも生じる入眠幻覚,あるいはごく軽度の意識混濁下で生じた幻視であろうとしかいいようがない。同年12月ころの第2のお告げは,夢を見てそれを願望充足的に解釈したというにすぎない。 ,,,,,,(5) 以上を総合すると被告人は平成12年ころ睡眠障害不安感焦燥感ふるえなどを主症状とする適応障害を発症し,精神科治療を受けているうちに睡眠薬依存症が徐々に始まり,平成17年1月ころからその程度が更に悪化していった。不安感や焦燥感に対する効果が途切れないようにするため,日中でも睡眠薬を飲み続け,1日の量としては大量となっていった。そして,被告人は,睡眠薬によるごく軽度の意識混濁下で生じた幻覚により,本件犯行を決意した。この 対する効果が途切れないようにするため,日中でも睡眠薬を飲み続け,1日の量としては大量となっていった。そして,被告人は,睡眠薬によるごく軽度の意識混濁下で生じた幻覚により,本件犯行を決意した。この幻覚は,何らかの精神病の一症状ではない。また,睡眠薬によるごく軽度の脱抑制や気分高揚の状態が,罪責感や自殺企図がありながらも,繰り返し犯行を実行する方向へと向かわせ続けた。なお,抗うつ薬がもともとの疾患による不安感や焦燥感などを更に強めていた可能性は否定できない。 被告人は,本件犯行当時も,適応障害と睡眠薬依存症に罹患していた。被告人は,犯行直前に大量の睡眠薬を飲み,相当に酩酊して高揚した気分の中で各。 。 犯行を行った犯行後には前向性健忘が生じて断片的な記憶しか残らなかった- 14 - L6鑑定の評価L6鑑定は,前記2ないし4記載の被告人の症状や言動等を齟齬なく裏付けるものであり,十分信用することができる。 なお,捜査段階において医師N6による精神鑑定が実施され,本件犯行以前被告人はうつ病に罹患していたものの,本件犯行当時大うつ病性エピソードを満たすものではなく,是非弁別能力及び行為統制能力につき減弱する事由は認めない,鑑定時は,うつ病などの精神病にはなく,拘禁反応である解離性障害の状態にある旨判断されているところ,被告人は心理学的検査に際して故意に「低能者」を装ったなどと当公判廷で述べていること(なお,N6医師も被告人の検査に対する抵抗や意識的な演技の可能性を指摘している,L6鑑定がN6医師による鑑定を。)踏まえてされたものであることなどから,L6鑑定を採用することとする。 被告人の責任能力についての検討以上のような事実関係及び精神鑑定の結果を踏まえて,本件各犯行時における被告人の責任能力について検討する。 (1) 被告人の精神 ら,L6鑑定を採用することとする。 被告人の責任能力についての検討以上のような事実関係及び精神鑑定の結果を踏まえて,本件各犯行時における被告人の責任能力について検討する。 (1) 被告人の精神障害の種類,程度被告人は,平成12年ころ適応障害を発症し,精神科に通院して睡眠薬と抗うつ薬の投薬を受けるうちに次第に睡眠薬に依存するようになり,平成17年1月ころからその程度が更に悪化し,本件各犯行ころには許容量を大幅に超える量を常用し,効き目を切らさないように1日の間に何度も服用していたものであり,本件犯行当時,適応障害と睡眠薬依存症に罹患していた。 しかし,他方で,被告人は,人並み以上の学歴と職歴を有し,本件各犯行当時も,仕事等に大きな支障はなく,自ら新規に事業を興して軌道に乗せるなど精力的に働いていたものであり,上記適応障害等は被告人の判断能力の著しい妨げにはなっていなかった。 また,被告人は,睡眠薬の作用により仏像を盗む罪悪感を和らげ気分を高揚させて犯行を遂行することとし,犯行直前に必ず数錠の睡眠薬を服用するとと- 15 -もに,効き目を高めるためにアルコールを併用し,薬が効き出して相当に酩酊して高揚した気分の中で各犯行を実行した。これは,被告人が仏像を盗むことの善悪の別を十分理解していたからこそ,罪悪感を和らげて犯罪を敢行する勢いをつけるため意図的に睡眠薬等を摂取したものと理解することができるな,(お,睡眠薬等が被告人の犯行当時の精神状態に及ぼした影響の程度については後記(4)で触れる。 。)(2) 本件各犯行動機の了解可能性について被告人は,従前仏教や仏像に格別の興味を抱いていたわけではなく,仏像を盗んで集めるという本件各犯行は,被告人のこれまでの生き方からは異質な行為であった。 しかし,被告人は,仕事上のストレスと不眠 て被告人は,従前仏教や仏像に格別の興味を抱いていたわけではなく,仏像を盗んで集めるという本件各犯行は,被告人のこれまでの生き方からは異質な行為であった。 しかし,被告人は,仕事上のストレスと不眠等の症状で精神的に追いつめられ,そこから救われることを望んでいたところ,睡眠薬によるごく軽度の意識混濁下で生じた幻覚により,高名な寺から33体の仏像を集めれば救われる旨仏のお告げを受けたと信じた上,多数の仏像を盗んで集めれば仏のお告げに従ったこととなり,自分の願望が叶うと思い込み,仏像を盗んで集めることを決意し,本件の一連の犯行を実行したものである。このような被告人の発想や判断は合理的とは言い難いが,格別了解不可能ではない。 (3) 本件各犯行の態様等について,,本件各犯行の態様等を見ても人が間近にいるときは仏像を盗むのを断念し人目に付きにくい場所をそれなりに選んだり,人を欺いて遠ざけるなどした上で犯行に及んでいる。また,侵入しようとした境内の建物が施錠されていたときは,石やのこぎりを使って損壊するなどして首尾良く侵入したほか,寺で寄付をして寺院関係者に本堂を案内してもらったり,被告人を見咎めた人に堂々と嘘を言って誤魔化したりと,犯行時他人から疑いの目を向けられないような自然な振る舞いをしている。そして,盗んだ仏像の多くは,青色シートに包んだり,バッグや紙袋,段ボール箱に入れるなどして,人目に付かないようにし- 16 -て持ち運んでいる。さらに,被告人は,盗みに入る寺を選ぶためのガイドブックやのこぎり,仏像を持ち運ぶための青色シート等を事前に用意している。このように,被告人は,仏像の窃取及び犯行の発覚の防止という目的のため,周到とまではいえないものの事前に必要な準備を整え,その時々の状況に即応した合目的的な言動を取っていたと評価できる 意している。このように,被告人は,仏像の窃取及び犯行の発覚の防止という目的のため,周到とまではいえないものの事前に必要な準備を整え,その時々の状況に即応した合目的的な言動を取っていたと評価できる。 (4) 被告人の犯行時の精神状態ないし記憶の有無・程度について被告人は,前記4記載のとおり犯行時に無謀とも思える相当大胆な行動を取っており,また,鑑定人L6医師による質問時には,捜査段階よりも相当記憶が曖昧になり,断片的な記憶しか残っていなかったものである。この点,L6鑑定によれば,被告人の記憶障害は主として睡眠薬の副作用としての前向性健忘及びアルコールとの相乗効果によるものと理解でき,また,被告人の捜査段階の供述調書をみると,被告人は一部記憶が曖昧であるとしながらも,多くの犯行状況については当時の心情を交えた具体的な供述をしており,少なくとも捜査段階では犯行状況についてそれなりに記憶を保持していたと認められる。 これらの事情に照らせば,被告人は,本件各犯行当時,直前に服用した睡眠薬とアルコールの影響によって相当酩酊して高揚した気分にあり,是非弁別能力及び行動制御能力が一定程度低下していたため,大胆な行動に出ることもあったものの,意識の清明さは一応保たれていたと認められる。 そして,被告人が本件各犯行当時,上記のとおり判断能力が一定程度低下していたといっても,それは,罪悪感を和らげ気分を高揚させて犯罪を敢行するため,犯行直前に意図的に服用した睡眠薬等の作用によるものであるから,この事情を重視すべきではない。 結論 以上を総合すると,被告人は,本件各犯行時,適応障害及び睡眠薬依存症に罹患し,犯行直前に摂取した睡眠薬及びアルコールの影響により,行為の是非善悪を弁別する能力及びその弁識に従って行動を制御する能力が減弱していたもの- 17 - 各犯行時,適応障害及び睡眠薬依存症に罹患し,犯行直前に摂取した睡眠薬及びアルコールの影響により,行為の是非善悪を弁別する能力及びその弁識に従って行動を制御する能力が減弱していたもの- 17 -の,その程度は著しいものではなく,完全責任能力を有していたものと認められる。弁護人の主張は採用できない。 (量刑の理由)本件は,寺院に侵入して仏像を窃取し又は窃取しようとした建造物侵入・窃盗合計13件(判示第3,第5ないし第16の各犯行)及び建造物侵入・窃盗未遂2件(判示第2,第4の各犯行,国宝である建造物を損壊して寺院に侵入して仏像を)窃取した文化財保護法違反・建造物損壊・建造物侵入・窃盗1件(判示第1の犯行,並びに仏像を盗む際に使用する自動車に取り付ける目的でナンバープレート)等を盗んだ窃盗1件(判示第17の犯行)の各事案である。 被告人は,適応障害と睡眠薬依存症に罹患し,睡眠薬等の影響下で生じた幻覚幻聴により,仏のお告げにより高名な寺院から多数の仏像を集めれば救われると思い込み,本件一連の犯行に及んだもので,動機は身勝手である。被告人は,ある程度の規範意識を有していたのに,罪悪感を和らげる目的で,事前に効用を熟知した睡眠薬をあえて服用し,気分を高揚させて本件各犯行に及んでおり,犯行に至る経緯に多くを酌むことはできない。犯行態様は,拝観時間帯に参拝客を装って境内の建物に侵入し,仏像を窃取し又は窃取しようとしたもので,いずれも大胆かつ悪質であるし,あらかじめ侵入する寺院を調べたり,のこぎり等の道具を用意するなど,一定程度の計画性も認められる。 被告人が侵入した寺院は合計15か所,窃取した仏像は合計18体にも及び,被害総額は合計4960万5000円もの非常に高額に上る。また,判示第1のD1寺における犯行では,国宝で世界遺産でもある貴重な建造 告人が侵入した寺院は合計15か所,窃取した仏像は合計18体にも及び,被害総額は合計4960万5000円もの非常に高額に上る。また,判示第1のD1寺における犯行では,国宝で世界遺産でもある貴重な建造物の一部をのこぎりで損壊してもいるのであって,回復不能で甚大な被害を与えている。心の拠り所であり信仰の対象である寺院や仏像に対する本件各犯行によって,寺院関係者や信者らが被った精神的苦痛も大きいし,本件が広く報道されたことによる社会的影響も軽視できない。被告人は,これら一連の仏像の窃盗や窃盗未遂等をわずか3か月間のうちに次々と敢行したのであって,この種事犯が常習化していたといえる。 - 18 -以上の諸事情からすれば,被告人の刑事責任は重いというべきである。 ,,,,他方被告人は本件犯行当時適応障害と睡眠薬依存症に罹患していたもので判断力が低下していたことは否めないこと,その発症の経緯にも,仕事上のストレスや医療機関による安易な睡眠薬の処方など,被告人1人に帰責するのが適切でない要因も認められること,判示第2及び第4の窃盗は未遂に終わっていること,本件各被害品である仏像は窃取後粗雑に扱われていたため一部損壊したものも複数あるものの,いずれも被害者に還付されていること,被告人は,修理費等の被害弁償として,判示第1及び第2のD1寺に対して合計501万円,判示第4のT1寺に対して60万円,判示第5及び判示第6の各寺院に対してそれぞれ10万円,判示第9のD3寺に対して30万円,判示第12のB4寺に対して10万円を各支払っていること,判示第4ないし第8,第12ないし第16の各寺院がいずれも被告人を宥恕していること,判示第1及び第2のD1寺との間でも示談が成立し,同寺から嘆願書が提出されていること,被告人は,本件各犯行をいずれも認めて反省の弁を述 ,第12ないし第16の各寺院がいずれも被告人を宥恕していること,判示第1及び第2のD1寺との間でも示談が成立し,同寺から嘆願書が提出されていること,被告人は,本件各犯行をいずれも認めて反省の弁を述べていること,業務上過失傷害の罰金前科1犯しかなく,本件犯行に至るまでは真面目に社会生活を営んできたこと,被告人の知人2名及び実父が公判廷において被告人の更生への助力を約束していること,本件により鑑定留置期間も含めて約1年10か月もの長期間にわたって身柄を拘束されていること,本件によりこれまで築いてきた社会的地位や信用を失うなど,相応の社会的制裁を受け,被害弁償のために自宅も手放していること,被告人は,現在でも適応障害に罹患しており,睡眠薬依存症の再発のおそれもある旨診断されており,専門治療を受ける必要があること,被告人の社会復帰を待つ家族がいることなど,被告人にも酌むべき事情が認められるところである。 しかしながら,これらの被告人に有利な事情を最大限考慮しても,その刑の執行,。 を猶予するのは相当とは認められず主文の刑に処するのが相当であると判断したよって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役5年6月)- 19 -平成19年12月26日奈良地方裁判所葛城支部裁判長裁判官榎本巧裁判官蛭田振一郎裁判官高島由美子
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