主文 本件訴えを却下する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求の趣旨被告が,aに対し,別紙実測図中の点1,点16,点17,点P1,点1の各点を順次直線で結ぶ線(以下「点1-16-17-P1-1線」という。以下,別紙実測図中の地点や直線については同様に表記する。)で囲まれた土地(以下「本件土地」という。)に存する工作物を収去させて同土地の明渡しを求めることを怠ることが,違法であることを確認する。 第2事案の概要原告は,福岡市とaの間でされた市道とaの所有地との境界の確認協議が対側地所有者の同意,承諾を欠き無効であり,aによる上記協議に基づく境界と本来あるべき境界との間の土地の占有は市道の不法占有となるにもかかわらず,被告がaに対し同土地上の工作物の収去及び同土地の明渡請求を怠っていることが違法であることの確認を求めた住民訴訟の事案である。 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1)当事者ア原告原告は,福岡市の住民である。 イ被告被告は,地方自治法149条6号,地方財政法8条に基づき,市道を含む福岡市の財産を適切に管理する責任を有する者である。 (2)福岡市道路等境界確認協議事務の手引福岡市における道路の敷地の用に供されている公有財産等の境界確認協議 事務について規定した「福岡市道路等境界確認協議事務取扱要領」について,その事務処理等を定めた福岡市道路等境界確認協議事務の手引には,現地立会いについて次のとおり規定している(以下「本件規定」という。)。 第4章現地立会 現地立会の実施(5)現地立会は,原則として公有財産等である道路等の申請箇所側について行い,申請に係る土地に隣接する土地の所有者の承諾を要するもの 「本件規定」という。)。 第4章現地立会 現地立会の実施(5)現地立会は,原則として公有財産等である道路等の申請箇所側について行い,申請に係る土地に隣接する土地の所有者の承諾を要するものとする。ただし,市道の敷地が里道のみである場合等において後日の紛争を防止するために必要と認められる場合は,申請者又は公用申請者に対し,申請に係る土地について対側地の所有者の承諾についても得なければならないことを求めることができるものとする。なお,土木水利委員,町内会長等の意見も参考にするが,境界確認協議の成立要件とはしない。 (乙5)(3)本件に関係する土地の所有・位置関係α線福岡市道(以下「本件市道」という。)は,福岡市が所有・管理する市道であり現況里道であるところ,その北側は,aが所有する福岡市β×番1の雑種地(以下「本件雑種地」という。)に隣接し(以下,本件市道と本件雑種地との間の境界を「本件境界」という。),南側は,bらが所有するβ×番1の田(以下「本件対側地」という。)に隣接している。 (甲1ないし4,6,7,14,15,乙2,8)(4)境界確認協議等被告の部下職員である福岡市担当職員は,平成16年7月3日,現地調査において,本件境界付近(延長約25m)を5箇所掘削した結果,境界とすべき里道の法下が判明したとして,平成17年8月6日,bに対し,同法下の確認をさせた上,a及び本件雑種地の隣接地所有者であるcの立会及び同意を得て,本件境界について,同法下を地図上に復元し,これを直線で結ん だ線(点1-16線)とすることを確認するとともに(以下,これを「本件境界確認協議」という。),平成18年1月5日,aとの間で本件境界確認協議について確認書(以下「本件確認書」という。)を作成し,これを同人に交付した。なお,本件対側地の所有者 に(以下,これを「本件境界確認協議」という。),平成18年1月5日,aとの間で本件境界確認協議について確認書(以下「本件確認書」という。)を作成し,これを同人に交付した。なお,本件対側地の所有者であるbらは,本件境界確認協議について,同意,承諾していない。 aは,同年12月ころ,点1-16線の北側に接する部分(点1-16-17-P1-1線で囲まれた土地・本件土地内)に土留めブロックを築いた。 (甲4,7,8,乙2,8)(5)住民監査請求原告は,福岡市監査委員に対し,平成19年6月1日,本件境界確認協議は本件規定に反し本件対側地の所有者であるbらの同意,承諾を欠く無効なものであり,本件市道に関する字図によれば,本件境界付近の本件市道の幅員が2.2メートルとされていることからすれば,本件境界は点P1-17線であるところ,aは本件市道の一部である点1-16-17-P1-1線で囲まれた土地(本件土地)上に土留めブロックを築いており,福岡市には本件市道の一部を不法に占拠,侵奪されるという損害が発生しているにもかかわらず,被告はaに対し同ブロックの撤去や本件土地の明渡しの請求など何らの是正措置をとることもなく放置し,市の財産の管理を怠っていると主張して,同ブロックの除去等の必要な措置を講じることを求めて,住民監査請求(以下「本件住民監査請求」という。)を行った。 これに対し,福岡市監査委員は,同月15日付けで,本件住民監査請求は,本来,遅くとも本件確認書が作成,交付された平成18年1月5日から1年以内にされなければならないところ(地方自治法242条2項本文),本件住民監査請求がされたのは平成19年6月1日であるから,当該期間を経過しており不適法であるとして,本件住民監査請求を却下し,これは同月18日に原告に到達した。 (甲2,4,5,9) 項本文),本件住民監査請求がされたのは平成19年6月1日であるから,当該期間を経過しており不適法であるとして,本件住民監査請求を却下し,これは同月18日に原告に到達した。 (甲2,4,5,9) (6)訴えの提起原告は,被告に対し,平成19年7月17日,本件訴えを提起した。 争点 (1)本案前の答弁(期間制限規定(地方自治法242条2項本文)の適用の有無)について(被告の主張)原告が被告の行為(怠る事実)を違法と主張する理由は,本件境界確認協議に係る財務,会計法規違反であり,その違法,無効のゆえにaに対する本件土地明渡請求等の不行使の違法があるというものである。ところで,財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の行使を怠ることをもって,怠る事実の違法確認を求める住民監査請求については,当該財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として,地方自治法242条2項本文の監査請求の期間制限が適用される。そして,本件境界確認協議が行われたのは平成17年8月6日であり,本件確認書の作成,交付も平成18年1月5日にされているから,住民監査請求は遅くとも平成19年1月5日までに行う必要があった。しかるに,本件住民監査請求がされたのは同年6月1日であるから,制限期間を明らかに経過しており不適法である。また,経過したことについて「正当な理由」(地方自治法242条2項ただし書)も存在しない。 したがって,本件訴えは,適法な監査手続を経ない違法なものであるから,却下されるべきである。 (原告の主張)怠る事実に関する監査請求については,怠る事実の前提として怠る事実と別個に違法な財務会計上の行為が存在しない場合には,怠る事実が継続する限り,地方自治法242条2項本文の「当該行為のあった日又は終わった日」を観 る監査請求については,怠る事実の前提として怠る事実と別個に違法な財務会計上の行為が存在しない場合には,怠る事実が継続する限り,地方自治法242条2項本文の「当該行為のあった日又は終わった日」を観念することができないから,同条項の定める期間制限の適用はない。 しかして,境界確認協議により市道の区域が決定,変更されたり,隣接地の所有権の範囲が確定されるものではないから,本件境界確認協議は,財務会計上の行為ではない。また,仮にこれが財務会計上の行為であるとしても,本件の争点は本件土地が本件市道の一部であるか否かであり,福岡市監査委員が被告の怠る事実の監査を遂げるために本件境界確認協議が財務会計行為に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはないから,いずれにしても,本件住民監査請求について期間制限規定の適用はない。 したがって,本件住民監査請求は適法であるから,本件訴えも適法である。 (2)怠る事実の有無について(原告の主張)本件雑種地には,農地であった当時,肥溜めが2基存在していたところ,その位置の本件市道に接する側がそれぞれ点P1,点17であること,本件市道に関する字図によれば,本件境界付近の本件市道の幅員は2.2メートルとされている上,本件境界に関する法下は,盛り土をする前にa及びcが勝手に作ったものにすぎないことからすれば,本件境界は,点P1-17線である。そうすると,本件土地は本件市道の一部となるところ,被告はaに対し本件土地の明渡請求等を怠っているから,被告には怠る事実が存在する。 また,本件境界に関する法下の上記経緯に加え,本件対側地の所有者であるbは,本件境界を点1-16線であるとする本件境界確認協議の内容について,その準備段階から一貫して強く反対しており,現にaに対し通行妨害物除去請求訴訟を提起してい 緯に加え,本件対側地の所有者であるbは,本件境界を点1-16線であるとする本件境界確認協議の内容について,その準備段階から一貫して強く反対しており,現にaに対し通行妨害物除去請求訴訟を提起していることからすると,本件はまさに本件規定にいう「後日の紛争を防止するために必要と認められる場合」である。したがって,bらの同意,承諾を経ない本件境界確認協議は,本件規定に反し無効である。 (被告の主張)本件境界確認協議においては,本件境界について,実際に現地で掘削して 里道の法下を確認して地図上に復元し,これを直線で結んだ線とすることを確認しており,境界を客観的に判断できるから,対側地の所有者に不測の損害を与えることはない。したがって,本件境界確認協議は,本件規定にいう「後日の紛争を防止するために必要と認められる場合」には該当せず,本件対側地の所有者であるbらの同意,承諾は必要ではない。そして,里道の法下が客観的な真の境界を認識するための有力な物証であることからすると,本件境界についても別異の取扱いをすべき合理的な理由はないから,法下をもとに本件境界を点1-16線であるとした本件境界確認協議は,適正で合理的なものである。 したがって,本件土地は,本件雑種地の一部であり,本件市道の一部ではないから,本件市道が不法に占拠,侵奪されてはおらず,被告に怠る事実はない。 第3争点に対する判断 争点(1)(本案前の答弁)について(1)期間制限規定(地方自治法242条2項本文)について地方自治法242条2項本文の規定は,監査請求の対象事項のうち財務会計上の行為については,当該行為があった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定しているが,上記の対象事項のうち「怠る事実」については,このような期間制限は規定さ 上の行為については,当該行為があった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定しているが,上記の対象事項のうち「怠る事実」については,このような期間制限は規定されておらず,怠る事実が存在する限りはこれを制限しないこととするものと解される。もっとも,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象として監査請求がされた場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから,これについて上記の期間制限が及ばないとすれば,上記規定の趣旨を没却することとなる。したがって,このような場合には,当該行為のあった日又は終わった日を基準とし て本件規定を適用すべきである(最高裁判所昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。しかしながら,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であることにかんがみれば,監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合には,当該怠る事実を対象としてされた監査請求に上記の期間制限が及ばないものとすべきであり,そのように解しても,本件規定の趣旨を没却することにはならないというべきである(最高裁判所平成14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。 そこで,以下,本件に関し,福岡市監査委員が被告の怠る事実の監査をするに当たり,本件境界確認協議が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にあるか否かを検討する。 (2)境界確認協議の性質原告は,境界確認協議では,市道の区域が決定,変更されたり,隣接地との所有権の範囲が確定さ 違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にあるか否かを検討する。 (2)境界確認協議の性質原告は,境界確認協議では,市道の区域が決定,変更されたり,隣接地との所有権の範囲が確定されることは法律上あり得ないから,本件境界確認協議は財務会計上の行為には当たらない旨主張する。 しかしながら,本件証拠(乙3)によれば,福岡市公有財産規則は,福岡市における公有財産の取得,管理,処分等その他公有財産の取扱いに関する事務を定めているところ(同規則1条),境界確定協議について,「局長は,その所管に属する公有財産の境界が明らかでないときは,隣接地の所有者に対し,立会場所,期日その他必要な事項を通知して境界を確定するための協議を求めなければならない。」と規定し(同規則20条1項),さらに,「前項の協議が調った場合には,当該局長は,土地境界確定書により確定された境界を明らかにしなければならない。」(同条2項),「境界確定の協議がととのった場合には,当該境界を明らかにするため,境界標を埋設しなければならない。」(同規則21条)及び「公有財産との境界を確定するた め,隣接地の所有者から協議を求められた場合は,当該局長は,土地境界確定申請書に添付書類を添付させて申請させなければならない。」(同規則22条)などと規定していることが認められる。 上記境界確定協議に関する規定によれば,上記境界確認協議は,福岡市と隣接地の所有者とが対等の立場で所有権の範囲(土地境界)について協議するものであって,私法上の契約の性質を有し,両者の合意により境界に関する協議が調った場合には,これにより公有地と隣接地との所有権の範囲が確定されるものと解するのが相当である(なお,国有財産法31条の3は,「各省各庁の長は,その所管に属する国有財産の境界が明らかでないためその った場合には,これにより公有地と隣接地との所有権の範囲が確定されるものと解するのが相当である(なお,国有財産法31条の3は,「各省各庁の長は,その所管に属する国有財産の境界が明らかでないためその管理に支障がある場合には,隣接地の所有者に対し,立会場所,期日その他必要な事項を通知して,境界を確定するための協議を求めることができる。」(同条1項),同条3項が「第1項の協議が調った場合には,各省各庁の長及び隣接地の所有者は,書面により,確定された境界を明らかにしなければならない。」などと上記福岡市公有財産規則と同様に定めてあるほか,協議が調わない場合は,手続が終了し,各行政庁の長は,境界確定のためにいかなる行政上の処分もなしえないこと(同条4項),協議を求めたにもかかわらず,隣接地の所有者が正当な理由がなく立ち会わず,協議ができないときは行政庁の長により,境界を定めることができるものとされるが,隣接地の所有者から不同意の通告があれば,その擬制の効果も失われること(同法31条の4第1項,31条の5第1・2項)などが規定されているが,国有財産に関する境界確定協議についても,一般に私法上の契約の性質を有し,合意により国有地と隣接地との所有権の範囲が確定されるものと解されている。)。 したがって,本件境界確認協議は,財務会計上の行為に当たるというべきであって,原告の上記主張は採用することができない。 (3)本件境界確認協議の位置付け 原告は,仮に本件境界確認協議が財務会計上の行為であるとしても,本件の争点は本件土地が本件市道の一部であるか否かであり,福岡市監査委員が被告の怠る事実の監査を遂げるため,本件境界確認協議が財務会計行為に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない旨主張する。 しかし,前記(2)で説示したとおり, 福岡市監査委員が被告の怠る事実の監査を遂げるため,本件境界確認協議が財務会計行為に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない旨主張する。 しかし,前記(2)で説示したとおり,福岡市の公有財産については,その境界が明確でない限り,隣接地の所有者との間の境界確認協議において所有権の範囲が確定されるものであり,本件証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,本件境界についても,福岡市担当課職員と隣接地の所有者であるaとの間の平成17年8月6日の本件境界確認協議により,本件市道と本件雑種地の所有権の範囲(本件境界)が点1-16線であると確定,確認され,上記各点に境界杭が設けられ,平成18年1月5日aとの間で本件確認書が作成交付されたことが認められる。そうすると,本件土地が本件市道の一部であるか否かは,まさに本件境界確認協議が適法(有効)であるか否かに係るのであり,本件境界確認協議が違法,無効であるとされて初めてaに対する本件土地の明渡請求権等が発生するといわねばならない。したがって,福岡市監査委員が被告の怠る事実の監査をするに当たっては,本件境界確認協議が財務会計法規に違反して違法であるか否か(すなわち,上記境界線が正当であったか否か,本件対側地の所有者であるbらの同意,承諾が必要であったか否か)の判断をしなければならない関係にあるというべきであって,原告の上記主張は採用することができない。 (4)期間制限規定の適用そうすると,本件住民監査請求については,本件境界確認協議のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項本文の規定を適用すべきである。ところで,前記前提事実(4)によれば,本件境界確認協議がされたのが平成17年8月6日であり,本件確認書が作成,交付されたのが平成 18年1月5日であるから,本件住 文の規定を適用すべきである。ところで,前記前提事実(4)によれば,本件境界確認協議がされたのが平成17年8月6日であり,本件確認書が作成,交付されたのが平成 18年1月5日であるから,本件住民監査請求は,遅くとも平成19年1月5日までにされなければならなかった。しかるに,本件住民監査請求は,平成19年6月1日になされたのであるから,上記期間を徒過したものであって不適法といわねばならない(なお,本件全証拠によっても,制限期間を経過したことについて「正当な理由」(地方自治法242条2項ただし書)は認められない。)。 結論 よって,その余の点について判断するまでもなく,本件訴えは,適法な住民監査請求を経ていないから不適法であるのでこれを却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部裁判長裁判官永松健幹裁判官舘野俊彦裁判官荒谷謙介は,転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官永松健幹
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