【DRY-RUN】主 文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事 実 控訴代理人は、「原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し原判決添附別紙目録 記載
主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 控訴代理人は、「原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し原判決添附別紙目録記載の家屋につき所有権移転登記手続をせよ、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。 当事者双方の主張は、控訴代理人において、「本件家屋に対しては、訴外A株式会社のため債権限度額金一万五千円の根抵当権が設定せられており、被控訴人は右根抵当権設定登記を抹消した上、控訴人に対し本件家屋の所有権移転登記手続をなす約であつた。被控訴人の親族会は、右根抵当権設定の同意を与えていたのであるから、抵当債務を弁済するために将来本件家屋が競売或は売却せられることを予期していたものであつて、右同意の効力は当然本件売買契約に及ぶものといわなければならぬ」と述べ被控訴代理人において、「控訴人の右主張事実中本件家屋にその主張の如き根抵当権の設定登記のなされていたことは認めるが、その他の事実は否認する。本件家屋に対する根抵当権設定についての規族会の同意は、昭和十八年十月六日になされたものであつて、当時本件家屋を控訴人に売却することは全然予想せられていなかつたから、右同意の効力が本件売買に及ぶものと解し得る余地はない」と述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。 証拠として控訴代理人は、甲第一号証、第二号証の一、二、三、第三号証の一、二、を提出し、原審証人B(第一、二、三回)C(第二回)D、E、F、G、当審証人H、I、Jの各証言並びに原審及び当審における控訴人本人訊問の結果を援用し、乙第二号証、乙第五号証の一の各成立は不知、その他の乙各号証の成立を認めると述べ、乙第一号証の一から四までを利益に援用した。 、I、Jの各証言並びに原審及び当審における控訴人本人訊問の結果を援用し、乙第二号証、乙第五号証の一の各成立は不知、その他の乙各号証の成立を認めると述べ、乙第一号証の一から四までを利益に援用した。 被控訴代理人は、乙第一号証の一から四まで第二、第三、第四、号証第五号証の一、二を提出し原審証人K、L(第一、二回)C(第一、二回)、当審証人M、L、Cの各証言を援用し、甲各号証の成立を認めた。 理由 成立に争のない甲第一号証、原審証人B(第一、二、三回)Fの各証言並びに原審及び当審における控訴人本人訊問の結果を綜合すれば、控訴人は昭和二十年九月中旬頃訴外Bをその代理人として、当時未成年者であつた被控訴人の親権を行う母Lとの間に、被控訴人所有の原判決添附別紙目録記載の本件家屋四筆につき代金一坪当り金二百五十円とし、後日当事者双方立会の上その総坪数を算出して代金完済と同時に所有権移転登記手続をする約定で売買契約を締結し、同年十月頃右Lの承諾を得て本件家屋のうち家屋番号千七百四十六番木造瓦葺二階建住家一棟を修理した上これに居住したこと(右居住の事実は当事者間に争がない)、その後本件家屋の総坪数の立会調査のすまない前同年十二月十日頃Lより前記売買代金の前払の要請があつたので、控訴人はBを介し代金の内金一万七千円をLに支払つたこと(LがBより右日時金一万七千円を受取つたことは当事者間に争がない)、並びに控訴人は昭和二十一年一月中旬頃本件家屋の坪数を実測したところ総坪数が六十九坪であることが判明したので、一坪当り金二百五十円の割合で計算した売買代金一万七千二百五十円から右金一万七千円を差引いた残額金二百五十円をL方に持参して弁済の提供をなし、本件家屋の所有権移転登記手続の履行方を催告したが、これを拒絶せられたことを認めること 算した売買代金一万七千二百五十円から右金一万七千円を差引いた残額金二百五十円をL方に持参して弁済の提供をなし、本件家屋の所有権移転登記手続の履行方を催告したが、これを拒絶せられたことを認めることができ原審(第一、二回)及び当審証人L、原審証人Kの各証言中右認定に反する部分は容易に信用できない。被控訴人は、前示金一万七千円はLにおいてBより借受けたものであつて本件家屋の売買代金として受取つたものではない旨主張し、甲第一号証には借用証書の表題が附され保証人としてKが署名押印しているけれども、冒頭に掲げた各証拠に原審証人Kの証言をあわせて考えると、昭和二十年十二月十日頃訴外KはLに対し金二万円の借用の申入れをしたところ、当時前示売買契約に基く本件家屋の総坪数の調査が未だ行われず、本件家屋の売買代金の額は未確定の状態にあつたが、Lは同日控訴人の代理人たるBに対し本件家屋の代金を約定の期限前に支払つて呉れるよう要請し、同人より代金の内金として金一万七千円を受取りこれを直ちにKに貸与したこと、甲第一号証はLが控訴人の代理人たるBより右金一万七千円を受取つた際自分だけの考えで作成して受領証の意味でBに交付したものであつて、金一万七千円の借用証書として作成せられたものでなく、前記Kの保証人としての署名押印は控訴人側のあずかり知らないところであることを認め得るから、甲第一号証によつても冒頭の認定を左右し難く、他に右認定をくつがえしてこれに反する被控訴人の主張を認めるに足る証拠は存在しない。しかるに、被控訴人は、本件売買契約は、被控訴人の親権を行う母Lが親族会の同意を得ないで被控訴人に代つてなしたものであつて、Lは昭和二十一年二月二十日頃控訴人の代理人Bに対し本件売買契約を取消す旨の意思表示をなしたから、本件契約はその効力を失つた旨抗争するので、右抗弁 の同意を得ないで被控訴人に代つてなしたものであつて、Lは昭和二十一年二月二十日頃控訴人の代理人Bに対し本件売買契約を取消す旨の意思表示をなしたから、本件契約はその効力を失つた旨抗争するので、右抗弁について判断する。 原証人B(第一回)、当審証人M、原審及び当審証人L(原審第一、二回)、C(原審第一、二回)の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、被控訴人の親権を行う母Lは被控訴人に代つて本件売買契約を締結したが、その際被控訴人の親族会の同意を得ていなかつたので、昭和二十一年二月二十日頃Cを伴い控訴人方に赴き、控訴人の代理人Bに対し本件売買契約を取消す旨の意思表示をなしたことを認めることができ、原審証人B(第一、二回)の証言並びに原審及び当審における控訴人本人訊問の結果中右認定に反する部分は信用できない。もつとも、原審証人B(第二回)、E、F、原審及び当審証人C(原審第一、二回)、当審証人Iの各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、本件売買契約の締結せられた昭和二十年九月中旬頃は、終戦直後進駐軍の広町進駐直前の物情騒然としていた時期であつて、その後同年十月中進駐軍の駐留により世情は安定し物価は上昇の一途をたどるに至つたので、昭和二十一年二月頃になると本件売買契約に定められた一坪につき金二百五十円の割合による代金は著しく低廉に失すると考えられるようになつたため、Lは右代金の増額を請求するために前示の通り昭和二十一年二月二十日頃Cと共に控訴人方に赴きその代理人Bと交渉したが、Bが契約を楯にとつて増額に応ぜず、単に見舞金として別に金五千円を出すことを譲歩したのに止まつたので、Lは本件売買契約を取消す旨の意思表示をなしたものであること、その際Lは親族会の同意のないことを本件売<要旨>買契約取消の理由とすることを明示しなかつたことを認め得るが、お 歩したのに止まつたので、Lは本件売買契約を取消す旨の意思表示をなしたものであること、その際Lは親族会の同意のないことを本件売<要旨>買契約取消の理由とすることを明示しなかつたことを認め得るが、およそ取消の意思表示をなすに当り、取消</要旨>の原因を明示する必要はなく、取消権者においてその取消原因に基いて取消をなす意思を以て、相手方に対し明示或は黙示的に取消の意思表示をなせば足るものと解せられるところ、当審証人C、当審及び原審(第二回)証人Lの各証言によれば、Lは本件売買契約に対し親族会の同意のないことを理由に取消す意思を以て前示取消の意思表示をなしたことを認め得るから、たとえ、同人が右取消をなすに至つた動機が前示認定の通り控訴人側において増額の要求に応じなかつたことに在るとしても、右取消により本件売買契約は、旧民法第八百八十六条第三号、第八百八十七条に基き、その効力を失つたものといわなければならぬ。 控訴人は、被控訴人の右取消の抗弁は時機に後れて提出せられたものであるから排斥せらるべきものである旨主張するが、本件売買につき親族会の同意のないことはすでに控訴人がその昭和二十五年十月二十三日附訴状において陳述しているところであり、被控訴人は昭和二十六年一月十七日の原審第二回口頭弁論において取消の点につき立証の申出をなし、次いで昭和二十六年五月九日の第五回口頭弁論において同日附準備書面に基き右取消の抗弁を詳細に陳述したものであつて、本件訴訟の進行の経過に照して被控訴人の右抗弁は必ずしも時機に遅れて提出せられたものとは認め難いから、控訴人の右主張は理由がない。 次に、控訴人は、被控訴人の親族会は本件家屋に根抵当権を設定することに同意を与えた事実があるから、右同意の効力は本件売買にも及ぶものである旨主張し、成立に争のない甲第二号証の一、二、 理由がない。 次に、控訴人は、被控訴人の親族会は本件家屋に根抵当権を設定することに同意を与えた事実があるから、右同意の効力は本件売買にも及ぶものである旨主張し、成立に争のない甲第二号証の一、二、三、乙第一号証の一から四までによれば、昭和十八年十月五日被控訴人の親権を行う母Lが被控訴人に代りその所有不動産の売却をなすにつき同意を得るための親族会が招集せられ、右親族会は被控訴人所有の本件家屋外二棟の家屋に対しLが被控訴人に代り金一万五千円を限度とする根抵当権を設定することに同意する旨の決議をなし、同月六日右家屋につき訴外A株式会社のため右根抵当権の設定登記のたされたことを認め得るが、右親族会の同意が、その後昭和二十年九月に至りなされた本件売買に対する同意としての効力を有し得ないことは、甲第二号証の三の親族会同意書が根抵当権設定に対する同意に限られているのみならず、根抵当権の設定と売買とはその性質を全く異にすることからも、明白であつて、控訴人の右主張は理由がない。 次に、控訴人は本件訴状が被控訴人に送達せられた後一ケ月を経過するまで被控訴人において本件売買契約取消の意思表示をしなかつたから、民法第十九条によりこれを追認したものとみなされる旨主張するけれども、本件売買契約がすでに昭和二十一年二月二十日頃被控訴人の親権者Lにより取消されたことは前に認定した通りであるから、その後において民法第十九条の適用せられる余地はなく、右主張の理由のないことは明らかである。 次に、控訴人は被控訴人の親権者Lは後日取消し得る如き事情を秘匿して本件売買契約を締結したものであつて詐術を用いたものに該当するから、民法第二十条により前記取消の意思表示は無効である旨主張するけれども、同条は無能力者自身が詐術を用いた場合にのみ適用せられるのみならず、Lが控訴人主張の如 ものであつて詐術を用いたものに該当するから、民法第二十条により前記取消の意思表示は無効である旨主張するけれども、同条は無能力者自身が詐術を用いた場合にのみ適用せられるのみならず、Lが控訴人主張の如き詐術を用いた事実を認むべき何等の証拠も存在しない。 かえつて、原審証人B(第一回)の証言によれば、控訴人の代理人として本件売買契約を締結したBは本件家屋が未成年者たる被控訴人の所有に属し、その親権を行う母Lが本件家屋の売買をなすにつき親族会の同意を得ていないことを知つていた事実を推認できるから、控訴人の右主張は理由がない。 次に、控訴人は、旧民法第八百八十七条の親権を行う母の取消権は親族会が同意を拒否した場合にはじめて行使することができるのであるが、Lは本件売買について親族会の同意を求めた形跡がないから、同人の取消の意思表示は無効である旨主張するけれども、旧民法第八百八十七条により取消権の生ずる場合は、親族会が同意を拒否した場合のみに限らず、親権を行う母が親族会の同意を求める手続を経ないで旧民法第八百八十六条所定の行為をなした場合も含まれることは右各法条の明文上明らかであるから、右主張はとうてい採用できない。 最後に、控訴人は、Lの前示取消は、著しく信義に反し無効のものである旨主張するので、この点について判断する。 前に認定した通り、被控訴人の親権を行う母Lは、本件売買契約成立後控訴人よりその代金のほとんど全額を受取つたのにかかわらず、終戦後の社会経済情勢の変化により本件家屋の価格が騰貴したため本件売買代金の増額を要求し、これを拒否せられるや親族会の同意の無いことを理由として本件売買契約を取消したものであることが明らかであるけれども、元来旧民法第八百八十六条、第八百八十七条は未成年者の利益保護のために設けられた規定であつて、結局未成年者 族会の同意の無いことを理由として本件売買契約を取消したものであることが明らかであるけれども、元来旧民法第八百八十六条、第八百八十七条は未成年者の利益保護のために設けられた規定であつて、結局未成年者の取引の相手方その他の第三者の犠牲において未成年者を保護することを目的とするものであるから、たとえ親権者Lにおいて本件売買代金のほとんど全額を受取り或は本件家屋の内一部をすでに控訴人に引受した事実があつても、本件売買に対し親族会の同意の存在しない以上、これを取消し得ることは前示法条の趣旨に照して明白であつて、これにより生ずる不利益は、親族会の同意のあることを確かめないで本件売買契約をなした控訴人側において甘受すべきものである。 また、Lにおいて本件売買契約を取消すに至つた直接の動機が、前示の如く代金増額の要求を容れられなかつたことに在るものとしても、取消権の行使が未成年者の保護のために認められている以上、右取消権の行使を著しく信義に反し無効のものであるということはできない。従つて、控訴人の右主張は理由がない。 しからば、控訴人主張の本件売買契約が取消によりその効力を失つたものである以上、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものである。右と同趣旨に出た原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。 よつて、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文の通り判決する。 (裁判長裁判官植山日二裁判官佐伯欽治裁判官松本冬樹)
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