平成18(わ)454 殺人未遂

裁判年月日・裁判所
平成19年7月20日 奈良地方裁判所
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判決文本文11,798 文字)

主文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中160日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,奈良市a町b丁目c番d号eマンションf号の自宅に,風俗店店長を務めていたころ風俗嬢として雇い入れたA子及びその実子B児を寄寓させていたところ,平成18年9月5日,上記自宅の浴室内において,B児(当時生後8か月)に対し,その身体を強く揺さぶり,顔面を殴るなどの暴行を加え,よって,B児に完治不能の急性硬膜下血腫等の傷害を負わせたものである。 (事実認定の補足説明)第1本件公訴事実及び争点について 本件公訴事実は「被告人は,A子及びその実子B児と同居していたものであ,るが,平成18年9月5日ころ,奈良市a町b丁目c番d号eマンションf号被告人方浴室において,上記B児に対し,同人は生後約8か月の乳児であって,その頭部に強い衝撃を与えれば同人が死亡するかもしれないことを認識しながら,あえて同人の頭部を同浴室の床等に打ちつけ,強く揺さぶるなどの暴行を加えたが,同人に完治不能の急性硬膜下血腫等の傷害を負わせたにとどまり,同人を殺害するに至らなかった」というものである。 これに対し,弁護人は,被告人が上記被告人方の浴室内で,B児を抱いて風呂に入れたこと,B児が急性硬膜下血腫の傷害を負ったことは争わないが,被告人がB児に対し,上記公訴事実記載の暴行を加えたことはないから,被告人は無罪である旨主張し,被告人も,捜査段階及び当公判廷においてこれに沿う供述をする。 そこで検討すると,当裁判所は,被告人がB児に判示暴行を加え,完治不能の急性硬膜下血腫等の傷害を負わせた事実は認めることができるが,その際,被告人に未必的な殺意があったとは認められないものと判断したので,その理由を補足して説明する。 第2B児の受傷原因等について 性硬膜下血腫等の傷害を負わせた事実は認めることができるが,その際,被告人に未必的な殺意があったとは認められないものと判断したので,その理由を補足して説明する。 第2B児の受傷原因等について 関係証拠によれば,B児の受傷に関する経緯等について,以下の事実が認められる(なお,争いのある事実関係については,後に検討する。 。)(1)A子は,B児を連れ,奈良県内の風俗店で働くなどしていたが,平成18年(以下,同年中の出来事については,年数の記載を省略する)8月上旬。 ころ,知人であり,既に被告人が店長を務める風俗店(いわゆるデリバリーヘルス「H」の風俗嬢として働いていたCを通じ,被告人を知った。 )(2)その後,A子は,Cや被告人の助力を得て,当時勤めていた風俗店を辞,「」,,,めHの風俗嬢として働くようになり8月13日ころからB児と共に奈良県生駒市内のC方に寄寓するようになった。 しかし,A子は,C方で生活していた間,携帯電話を使うばかりでB児の面倒をほとんど見ようとしなかったため,これを見かねたCや同居していた同女の交際相手の男性が,授乳,おむつの交換,入浴等のB児の世話を行った。また,A子がB児を扱う方法は,寝かせるときにB児をそのまま床に置いてその頭を床に打ち当てたり,おむつを替える際床にぶつけたりするなど粗雑なものであった。 (3)Cは,8月31日,持病のぜんそくの治療のため,かかりつけの病院に行った際,風邪を引いていたB児とA子を連れて行き,診察を受けさせたが,そのときにはB児の顔にあざはなく,医師からその旨の指摘を受けることもなかった。 そのころには,Cは,持病が再発したことや,A子に代わってB児を世話することに疲れており,他方,A子もCらに気兼ねを感じていたことから,A子親子は,同日,上記診察を の指摘を受けることもなかった。 そのころには,Cは,持病が再発したことや,A子に代わってB児を世話することに疲れており,他方,A子もCらに気兼ねを感じていたことから,A子親子は,同日,上記診察を受けた後にC方を出て,事前に了解を得ていた被告人方に移った。なお,被告人は,このころまでに前記「H」の店長を辞めていた。 (4)A子は,8月31日午後から9月2日にかけて被告人方で過ごし,同日昼ころ,B児を連れ,仕事を探すため大阪に出向いたものの,B児を託児所に預けたまま,男性と会っていた。また,A子は,同日夜から翌3日午前にかけてB児とサウナ様の施設に泊まり,同日午後には,大阪市内でFと会った。Fは,その際,B児を抱きかかえることもあったが,その時点ではB児の顔にあざやけが等はなかった。そして,A子は,同日午後11時ころ,B児と共に被告人方に戻った。 (5)被告人は,9月4日及び翌5日の2回,いずれも被告人方の浴室(玄関わきにある長さ約18m,奥行き約13mのユニットバス)にB児と入り,..B児を入浴させた。 (6)Cは,9月5日午後6時前ころ,被告人から,B児がひきつけのような状態で泣いていて,ふろに入れたら暴れて落ちた,その後ミルクを飲まない,おかしいので,とりあえずそっちに電車に乗せるという内容の電話を受け,その後,A子がB児を連れてやって来た。Cは,A子らがC方を出た8月31日以降,初めてB児を見たが,B児の顔等にはあざがあり,呼吸がしづらそうな状態にあった。そこで,Cの交際相手の男性が,知り合いの看護師に症状を尋,,,ねたり病院に電話をかけたりしたがそのうちにB児の容態が悪化したためB児は救急車でI病院に搬送された。 (7)I病院で行われたCT検査の結果,B児の脳内に出血があり,呼吸促進が認められたため,B児は, り病院に電話をかけたりしたがそのうちにB児の容態が悪化したためB児は救急車でI病院に搬送された。 (7)I病院で行われたCT検査の結果,B児の脳内に出血があり,呼吸促進が認められたため,B児は,9月5日午後10時43分ころ,I病院からJ病院に救急搬送された。J病院搬送時,B児には,意識状態の不良,右下肢の麻痺,大泉門の緊張,顔面の多数の皮下出血,左顔面腫張,顔色不良,呼吸努力様等の症状があり,顔面打撲,急性硬膜下血腫,誤嚥性肺炎,眼底出血等と診断された。また,B児は,放置されれば頭蓋内圧の亢進が脳幹圧迫に至り,死亡する可能性がある状態にあった。 (8)その後,B児は,J病院の小児科等で入院治療を受け,11月7日,A子の郷里にあるK病院に転院した。K病院におけるB児の傷病名は慢性硬膜下血腫(増悪・右不全麻痺・てんかん疑というものであり,MRI病院検査の)結果,慢性硬膜下血腫の増大による脳実質圧排進行,脳実質の萎縮がみられたことから,B児は,平成19年1月12日,L病院脳外科に転院して手術(除圧,血腫除去術)を受けた。B児の同月19日現在の傷病名は慢性硬膜下血腫及びびまん性脳損傷であり,重篤な精神運動発達遅滞の後遺症等が相当見込まれる状態にある。 次に,B児の受傷経緯等に関するA子の供述について検討する。 (1)A子の当公判廷における供述の要旨は,次のとおりである。 すなわち「9月3日に被告人方に戻った後,翌4日午前零時から午前1時,ころまでの間に,被告人がB児をふろに入れたが,それまでにB児の体調に異常はなく,顔にあざ等はなかった。被告人らが出た後で自分がふろに入っている間,居間から,B児の大きな泣き声や『ゴンゴン』とか『パシパシ(又は,パチパチ』という音が聞こえ,B児のことが心配になり,急いでふろから出)ると,B児のお 告人らが出た後で自分がふろに入っている間,居間から,B児の大きな泣き声や『ゴンゴン』とか『パシパシ(又は,パチパチ』という音が聞こえ,B児のことが心配になり,急いでふろから出)ると,B児のおでこに大きなたんこぶがあり,右目の周りに何かに打ったような黄色いあざがあった。同日朝,被告人からB児がベッドから落ちたと聞き,そのようなことがあったと思った。B児は,泣いたりミルクを飲んだりしており,あざ等ができた以外は異常なことはなかった。同月5日昼前ころ,被告人がB児をふろに入れ,自分は居間のテレビがある所にいると,最初泣き声が聞こえ,次に何か口に水を入れられるような『アブアブ』というB児の声が聞こ。 ,『』,えたそしてそれほどたたないうちにゴンゴンという音が聞こえたので心配になり浴室の近くに行くと浴室のドア越しに被告人が洗い場で横向き左,(向き)に座り,両手を下に向けて手を洗うように動かしている様子が見えた。 被告人が怖いという思いもあり,浴室のドアを開けずに,浴室と居間とを行ったり来たりしていたが,20分くらいして被告人に呼ばれて行くと,B児の目は半開きで,ぐったりとしており泣かず,しゃっくりのようなヒーヒーという呼吸をして左目にあざ等があった。被告人に言われてミルクを飲ませようとしたが,B児は飲まなかった。このような状態になったのは初めてだったのでどうしていいか分からず,B児を抱っこしたり寝かしたりした。被告人は,ベッドで横になったり洗濯したりしていたが,同日夕方,Cに電話をかけ,B児がミルクを飲まないので病院に連れて行ってほしいと頼み,自分がB児を連れて電車でC方に行った」というものである。 (2)ところで,A子に関しては,証人G(児童相談所職員)が,J病院からの通報を受け,児童虐待の対応のためJ病院でA子と面 てほしいと頼み,自分がB児を連れて電車でC方に行った」というものである。 (2)ところで,A子に関しては,証人G(児童相談所職員)が,J病院からの通報を受け,児童虐待の対応のためJ病院でA子と面接をした際の状況等について「B児の検診等を担当したA子の郷里の保健師から,知的に低い旨の,情報を得た上でA子と面接をしたところ,隠しごとをしながら答えているとい,」,うイメージはなかったが諒解性が低いという感じを抱いた旨供述しておりA子の当公判廷における供述態度等を併せると,その供述の信用性を検討するには相応の考慮を要すべきものと考えられる。 また,捜査関係事項照会回答書(J病院の診療録)によれば,同診療録中には「昨日床で転倒して頭を打ったとのこと(以下も情報源は母)本日,昼,寝後,同居男性が入浴させた後から,ぐったりして泣かなくなった「 」,PM~7時頃生駒の友人宅で友人から異常を指摘され当院へ救急搬送されました(以上,I病院医師作成の9月5日付け診療情報提供書「昨日フロに入」),れてから動かなくなった。ミルクは,のんでない「昨日は寝ている時に寝」,返りして頭をうって皮下出血があった。入浴は男性がした「昨日はフロ場」,で強く泣いていた。○○さん(被告人)は床におとしたと言った(以上,母」(A子)の説明としてJ病院カルテに記載された内容「9/40:00),頃床(木製)に20㎝上から落下し,頭をうったが元気でミルクもよく飲んでいた「9/5昼寝後12:00頃同居男性がtを入浴させた後,泣か」,Pなくなり,動きも悪くなり,6:00頃,友人宅に行った際の異常を指PMPt摘され,○○(I病院)へ救急搬送された「誰かが暴力をふるっているHp」,心あたりはないとのこと(頭部のアザは9/4頃 ,動きも悪くなり,6:00頃,友人宅に行った際の異常を指PMPt摘され,○○(I病院)へ救急搬送された「誰かが暴力をふるっているHp」,心あたりはないとのこと(頭部のアザは9/4頃に気づいたと母親はあいまいな返答だったとのこと(以上,J病院救急科入院概括表中の現病歴欄)等)」の記載があることが認められる。そして,上記記載とA子の前記公判供述を対比すると,A子は,9月4日にB児が頭を打ったことは話したものの,翌5日の被告人の行為については何も言わず,B児の治療にとって必要な情報を医師に提供しなかったことがうかがわれるのであり,同日の被告人の行為に関するA子の前記公判供述の信用性に疑問の余地はある。 (3)しかし,A子の前記公判供述は,時の経過に沿った自然なもので,その内容は具体的かつ迫真性に富んでいる上,自らもB児に暴行を加えたことがあると認めるなど自己に不利益な供述もしている。また,A子は,弁護人から反対尋問を受けても,その供述が崩れることなくほぼ一貫しているほか,質問をよく理解して答えるなどその供述態度をみても,特段の問題があるとは認められない。以上を総合すると,A子の前記公判供述は,十分信用することができるものというべきである。 ,()被告人の公判供述及び検証調書抄本によれば被告人方の浴室ドア折り戸の中央部分にはめられている透かし戸様の部分は,プラスチック製で浴室内部が見えにくいものであることがうかがわれるが,前記1(5)のとおり浴室自体は狭いことや,上記検証調書中で被告人が再現する洗い場の状況をみれば,ドア越しに浴室内の被告人の様子を確認することができない程度のものとはいえず,この点に関するA子の前記供述が不自然であるとはいえない。また,前,,記浴室のドアを完全に閉め切り水道栓を全開して浴槽内に水 しに浴室内の被告人の様子を確認することができない程度のものとはいえず,この点に関するA子の前記供述が不自然であるとはいえない。また,前,,記浴室のドアを完全に閉め切り水道栓を全開して浴槽内に水を落としながら布製包帯で覆った鉄アレイを用いて浴室内の床面を3回連続して打ちつける実験をしたところ,居室内でその音が確認されたこと(上記検証調書)や,B児が誤嚥性肺炎に罹患していたことにかんがみれば,上記実験に用いられた鉄アレイの重量等が明らかではないものの,B児の泣き声に続いて「アブアブ」,という声や「ゴンゴン」という音が聞こえたとするA子の前記供述の信用性が損なわれるものではない。 そして,前記診療録の記載の点については,A子は,B児がI病院等に救急搬送された当初から9月4日にB児が頭を打った旨を述べていたことは明らかであり,その内容はA子の前記公判供述ともおおむね符合すること,同月5日に被告人がB児を入浴させた際の状況をそのまま述べた場合には,当時被告人方に寄寓していたA子らの今後の生活等に懸念が生じ(なお,A子は,当公判廷において,被告人のことを怖く思っていると供述する,あるいはA子自。)身がB児の養育態度を責められるおそれがあることを併せれば,B児の受傷後さほど時間がたっていない時点で,同月5日の状況を明らかにすることが難しかったものと考えられるから,前記診療録の記載内容が,直ちにA子の前記公判供述の信用性に影響を及ぼすものともいえない。 以上のようなB児の受傷前後の経緯や,これに関するA子の前記供述内容に加え,アB児を初診したJ病院脳神経外科のD医師は,当公判廷において,①B児の急性硬膜下血腫につき「急性硬膜下血腫では通常外傷が起こった直後から出血,が生じ,手術を要しない程度の場合でも,外傷後約24時間は出血の増大 たJ病院脳神経外科のD医師は,当公判廷において,①B児の急性硬膜下血腫につき「急性硬膜下血腫では通常外傷が起こった直後から出血,が生じ,手術を要しない程度の場合でも,外傷後約24時間は出血の増大があるところ,I病院で撮影されたB児の頭部CT画像上,その大脳半球間裂に急性硬膜下血腫があり,左前頭頭頂部に慢性の成分を含む硬膜下血腫が認められたが,搬入当時にJ病院で撮影したCT画像では血腫に特に大きな差はなく,9月7日撮影のCT画像でも血腫の変化はなかったことから,同月6日から7日の間に血,。 腫の拡大が止まったものといえB児の出血が始まったのは同月5日と思われるB児の意識障害や麻痺等の症状は急性硬膜下血腫によるものであるが,急性及び,,慢性の硬膜下血腫の血腫量がさほど多いものではないのに強い意識障害があり大脳半球間裂に硬膜下血腫があることからすれば,びまん性軸索損傷(回転加速度がかかり,神経繊維が轢断されることによって起こる変化)の疑いがあると判断した」旨を,②B児の顔面の皮下出血や腫脹につき「I病院で撮影されたB,児の顔面の写真と対比すると,搬送時のB児の皮下出血の程度は変わらなかったが,腫脹がひどくなっていたため,数時間を経過した段階にあり,その腫脹は当()。 」日9月5日に生じたものと判断したB児の頭頂部や後頭部に傷はなかった旨をそれぞれ供述していること,イ鑑定受託者であるE医師(M病院統括診療部長・小児脳神経外科医)は,I病院及びJ病院で作成されたカルテ等の資料を基にB児の負傷の原因等を鑑定し,同人作成の鑑定書及び当公判廷において,B児の両側前頭葉及び半球間裂に,,,硬膜下血腫があること骨折がないこと顔面に多数の皮下出血があることから殴る,強く揺さぶる,振り回すなどの行為が加えられたものと思われ,風呂 当公判廷において,B児の両側前頭葉及び半球間裂に,,,硬膜下血腫があること骨折がないこと顔面に多数の皮下出血があることから殴る,強く揺さぶる,振り回すなどの行為が加えられたものと思われ,風呂場で転んだり落としたりするような外傷で生じたとは説明しにくい,B児の新旧の皮下出血や眼底出血は何度か外傷があったことを表しており,骨折を伴わない硬膜下血腫は,この年齢の虐待による頭部外傷によく見られ,B児には虐待の典型的症例がある,J病院で示されたびまん性軸索損傷の診断は,鑑定資料から判断される傷病と符合しないものの,その病態は乳児期の急性硬膜下血腫によっても十分説明することができる旨の判断を示していること,ウJ病院小児科医師が,B児の顔面の紫斑の出現時期につき同病院皮膚科・形成外科に問い合せたところ,9月7日,同科医師から,左頬の紫斑は比較的新しく3日以内くらい,その他の額及び頭部の紫斑は1週間から10日以内と考えるのが妥当であるが,個人差や初めの内出血の程度にもよるので断定できない旨の回答があったこと(捜査関係事項照会回答書(J病院の診療録)及びD医師の公判供述,)以上の医師らによる供述や判断等を併せれば,B児は,9月5日の入浴時点で,,,被告人からその身体を強く揺さぶられたり顔面を殴打されたりしたことにより急性硬膜下血腫等の前記1(7)の傷害を負ったものと推認することができる。 4(1)これに対し,被告人は,捜査段階及び公判廷において「8月31日に,B児に会ったときには,既にB児の顔にあざがあり,A子らが帰宅した9月3日にもB児の顔のあざはそのまま残っていたし,同月4日にB児がけがをした事実はない。同月5日にB児を入浴させたが,頭を洗っているときに後頭部にこぶがあるのに気づいた。自分は,CからA子がB児に暴力を振るっている 顔のあざはそのまま残っていたし,同月4日にB児がけがをした事実はない。同月5日にB児を入浴させたが,頭を洗っているときに後頭部にこぶがあるのに気づいた。自分は,CからA子がB児に暴力を振るっていると聞いていたので,A子がB児に乱暴したところは見たことがないものの,A子が虐待したのではないかと思った。B児を湯船に付けようとした際,B児が暴れたために手が滑り,湯の入った浴槽内に落としてしまい,頭も湯につかってしまったが,5秒くらいですぐ助け出した。B児は,息をぜいぜいとさせてしんどそうだったので,A子を呼んでB児を手渡した。自分としては時間がたてば直ると思い,B児を見守っていたが,ミルクを少量飲んだくらいで泣くことがなく,1時間以上息をぜいぜいとさせていたので,Cに電話をかけ,医者に連れて行ってほしいと頼んだ。浴室内では,B児を浴槽内に落としたことがあるのみで,B児を殴ったり,その頭や体を壁等にぶつけたりしたことはなく,手に抱えて強く揺さぶったこともない」旨供述する。 (2)しかし,被告人の前記(1)の供述中,8月31日の時点でB児の顔にあざがあったとする点は,前記1(3(4)で認定した事実及びA子の前記)供述に明らかに反する。なお,被告人は,捜査段階において,同日には,B児の両頬とおでこに明らかに分かる青あざがあった旨供述する一方で(検察官調書,B児の顔面の写真では左頬,左目の下及び右目のわきにあざがあると説)明し(写真写し。証拠物のポラロイド写真3枚と同じもの,公判廷では,示)されたポラロイド写真3枚のうちの額のあざの部分を指し,同日にあざがあった旨述べてその供述を変遷させているが,その経緯は不自然である。 また,被告人の前記供述中,9月5日の入浴時にB児の後頭部にこぶがあるのに気付いたとか,浴槽内にB児を落としたことがあるに にあざがあった旨述べてその供述を変遷させているが,その経緯は不自然である。 また,被告人の前記供述中,9月5日の入浴時にB児の後頭部にこぶがあるのに気付いたとか,浴槽内にB児を落としたことがあるにすぎないとの点は,前記3のD医師及びE医師の所見等に明らかに反し,到底信用することができない。 以上によれば,B児の受傷経緯等に関する被告人の前記供述は,A子の公判供述の内容,前記1の認定事実並びに前記3のD医師らの所見等に照らし,信用することができない。 (3)また,弁護人は,B児には慢性硬膜下血腫のほか,古い顔面の皮下出血や眼底出血等があることから,B児の傷害は,A子のB児に対する継続的な身体的虐待の結果生じたものである旨主張する。 しかし,B児の傷害は,被告人が入浴中に行った身体を強く揺さぶるなどの行為によって生じたものと認められることは,既に説示したとおりである。そして,A子がC方に寄寓していた間のB児に対する養育態度(前記1(2))に,A子がB児に暴力を加えていたかどうかは分からないものの,身の回りの世話をしないなど適切な養育をする能力がないネグレクトの保護者という印象を持った旨の前記証人Gの公判供述を併せれば,A子には,B児に対する育児放棄的な態度はあるが,B児に暴力を加えるなどの身体的虐待を継続的に行っていたとは認め難い。弁護人の上記主張は採用することができない。 第3被告人のB児に対する未必的殺意の有無について そこで,被告人が,被告人方浴室内でB児に暴行を加えた際の未必的殺意の有無について検討する。 2(1)検察官は,①被告人は,B児の頭部を浴室の床等に打ちつけ,強く揺さぶるなどの暴行を加え,②生後約8か月で身体の機能も未熟なB児の顔面を殴ったりその身体を強く揺さぶったりするなどの暴行を加えれば,B児が死亡するかも 人は,B児の頭部を浴室の床等に打ちつけ,強く揺さぶるなどの暴行を加え,②生後約8か月で身体の機能も未熟なB児の顔面を殴ったりその身体を強く揺さぶったりするなどの暴行を加えれば,B児が死亡するかもしれないことは,誰でも認識することができるものであり,被告人はこれを認識していたから,被告人に未必の殺意があった旨主張する。 (2)しかし,①の点は,A子が聞いた「ゴンゴン」という被告人方浴室からの音が,どのような原因によって生じたものかを明らかにすることができる証拠はない上,B児の頭頂部や後頭部に傷はなく(前記D医師の公判供述,骨)折がないこと(鑑定書)等の客観的事実に照らせば,被告人がB児の頭部を浴室の床等に打ちつけたとの事実を認めるには合理的な疑いが残る。 また,②の点は,被告人がB児の顔面を殴ったり,その身体を強く揺さぶったりするなどの暴行を加え,B児に急性硬膜下血腫等の傷害を負わせた事実が推認されることは前記第2で認定説示したとおりであるが,その際の被告人やB児の位置,体勢,方法等の具体的状況は関係証拠上不明であり,被告人の行為態様から,直ちにB児に対する未必的殺意を推認することはできない。被告人は,捜査段階において「赤ん坊を抱いて強く揺さぶると,脳がまだしっか,りと頭の骨についていないので,頭の中で脳がかき回されてしまって,最悪死んでしまうということも当然知っていた」などと供述するが(検察官調書,)被告人は,同調書において,B児に暴行を加えた事実自体を否認しているのであって,上記供述は具体的事実に基づいたものではなく,B児と同じ年ごろの乳児についての一般的な認識を述べたにすぎないというべきであるから,上記供述をもって,被告人に未必的殺意があったと認めることはできない。 結局,検察官が公訴事実で主張する被告人の暴行のうち,B児の の乳児についての一般的な認識を述べたにすぎないというべきであるから,上記供述をもって,被告人に未必的殺意があったと認めることはできない。 結局,検察官が公訴事実で主張する被告人の暴行のうち,B児の頭部を浴室の床等に打ちつけたとの事実を認めることはできず,被告人の捜査段階における供述(前記検察官調書)から,B児に対する未必的殺意を認めることもできない。 (3)さらに,関係証拠によれば,被告人は,A子親子を寄宿させていた間,B児の夜泣きのため十分睡眠を取ることができず,B児の世話を引き受ける羽目になったことに苛立ちを募らせ,A子親子の存在をわずらわしく思っていたこと,B児の額を指ではじくなどしていたことが認められる。しかし,A子親子が被告人方で過ごしたのは4日程度のごく短期間にすぎず,その間,被告人は,A子に代わってB児の面倒を見ていたのであって,上記理由からわずらわしさを感じていたことが,未必的にせよ被告人に殺意を生じさせるほどの動機となったといえるかは,甚だ疑問である。そして,関係証拠上,被告人がB児に殺意を抱くに足りる事情があったとは認め難い。 以上によれば,被告人がB児の顔面を殴ったり,その身体を強く揺さぶったりした際,被告人にB児に対する未必的殺意があったと認めるには,合理的な疑いが残るものというべきである。 第4 結論 以上のとおり,被告人が,9月5日,被告人方浴室内において,B児の身体を強く揺さぶり,その顔面を殴るなどの暴行を加え,B児に完治不能の急性硬膜下出血等の傷害を負わせた事実を認めることができるが,その際の未必的殺意の存在は認めることができない。 そして,被告人が本件犯行を否認してその動機を明らかにせず,関係証拠によ,。 ってもこれを認めることはできない以上本件犯行動機は不明とせざるを得ない(法令の適用)被 在は認めることができない。 そして,被告人が本件犯行を否認してその動機を明らかにせず,関係証拠によ,。 ってもこれを認めることはできない以上本件犯行動機は不明とせざるを得ない(法令の適用)被告人の判示所為は刑法204条に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,風俗店の元店長であった被告人が,風俗嬢として雇い入れた女性とその実子であるB児を自宅に寄宿させていた間,自宅浴室内でB児に暴行を加え,完治不能の急性硬膜下血腫等の傷害を負わせたという事案である。 被告人は,短期間とはいえ,前記経緯からA子親子を引き受け,自宅に寄宿させたのであり,しかも,B児は当時生後約8か月の乳児で,大人の世話なくして生活することができないのに,B児を入浴させた際,乳児にとって強力な暴行を加えて重篤な傷害を負わせたのであって,その態様は卑劣かつ悪質で,酌むべき点は全くない。B児の受傷結果は非常に重く,将来的には精神運動発達遅延の後遺症等が出現することが見込まれるのであり,被害結果は重大であるが,被告人は,不合理な弁解に終始して反省の態度を示さず,慰謝的措置も何ら講じていない。これらの事情を併せると,被告人の刑事責任は重いというべきである。 そうすると,被告人には,未必的なものであれ殺意があったとは認められず,本件は偶発的犯行といえること,B児が重篤な状態に陥ったことには,A子の育児放棄的な養育態度が関係していること,遅きに失したとはいえ,被告人は,自らCに電話を,,,かけB児を病院に連れて行くよう依頼したこと被告人の健康状態が優れない な状態に陥ったことには,A子の育児放棄的な養育態度が関係していること,遅きに失したとはいえ,被告人は,自らCに電話を,,,かけB児を病院に連れて行くよう依頼したこと被告人の健康状態が優れないこと粗暴犯の前科がないこと等の酌むべき事情を十分考慮しても,被告人に対しては,主文掲記の刑を科すのが相当である。 よって,主文のとおり判決する(求刑・懲役13年。 )平成19年7月20日奈良地方裁判所刑事部裁判長裁判官石川恭司裁判官松井修裁判官船戸容子

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