令和1(わ)1924 殺人,非現住建造物等放火,死体損壊

裁判年月日・裁判所
令和3年2月24日 名古屋地方裁判所
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判決文本文18,469 文字)

主文 被告人を懲役30年に処する。 未決勾留日数中390日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,分離前の相被告人Aと共謀の上,第1 平成27年12月下旬頃から,前記Aの夫であるBの死亡保険金及び相続財産を得る目的で,同人が寝入っている隙に失火を装って同人方に火を放つ方法で殺害しようと企て,平成28年2月6日午後10時18分頃から同日午後10時55分頃までの間,愛知県稲沢市a町b番地所在の同人方に立ち入ったところ,同所において,被告人が,起きていた前記B(当時60歳)と口論となり,同人の左頬辺りを拳で殴ったところ,身の危険を感じた同人が,自己の生命又は身体を防衛するため,同人方のいずれかの場所から刃物を持ち出し,振り回したので,被告人は,前記Bから刃物を奪い,殺意をもって,その胸部を刃物で数回突き刺し,よって,その頃,同所において,同人を胸部刺切創による失血により死亡させて殺害した。 第2 同月11日頃から,前記B方に放火して同人の死体もろとも同人方を焼失させ,前記第1の犯行発覚を防ぎ,同人の死亡保険金及び相続財産を得ようと企て,同月13日午後8時28分頃から同日午後8時49分頃までの間,同人方1階北東6畳和室において,被告人が,同所に積み重ねた衣類等に着火して火を放ち,その火を,前記AがCほか1名と共有する前記B方木造瓦葺2階建住宅(床面積合計約181.50平方メートル)の柱,天井等に燃え移らせ,よって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同住宅を全焼させて焼損するとともに,前記Bの死体を焼損して損壊した。 (事実認定の補足説明) 第1 本件の争点本件において,判示第1についての争点は,①被告人及び前記Aとの間での 宅を全焼させて焼損するとともに,前記Bの死体を焼損して損壊した。 (事実認定の補足説明) 第1 本件の争点本件において,判示第1についての争点は,①被告人及び前記Aとの間での殺人の共謀の有無(争点1),②被告人の殺意の有無(争点2),並びに③正当防衛状況の有無(争点3)であり,判示第2についての争点は,④被告人及びAとの間での非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀の有無(争点4),⑤被告人が点火した火によりB(以下「被害者」という。)方及び被害者の死体が焼損したか(争点5),並びに⑥被告人の放火及び死体損壊の故意の有無(争点6)である。 当裁判所は,判示第1については,被告人及びAとの間で殺人の共謀があった上,被告人には被害者に対する殺意があり,正当防衛が成立する状況になかったと判断し,判示第2については,被告人及びAとの間で非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀があり,被告人が点火した火により被害者方及び被害者の死体が焼損し,被告人に放火及び死体損壊の故意が認められると判断した。以下,その理由を説明する。 第2 殺意について(争点2) 1 被告人が被害者を刺した状況⑴ 被害者の傷の状態被害者には,少なくとも4つの刺切創があり(以下「第1創」ないし「第4創」という。D医師の公判供述における創の名称と同じである。),いずれも左胸部の,およそ二,三十センチ四方の中に入る範囲で相互に離れて位置していた。第1創は,第4肋骨又は肋軟骨を切断し,少なくとも約10.5センチメートルの深さまで刺さっていた。これにより,肺動脈を貫通し,被害者は短時間で失血死に至った。第2創と第3創は,肺の内部まで刺さっており,第4創は,肺を貫通し,少なくとも約10センチメートルの深さまで刺さっていた。第1創と第2創は胸壁の刺入部が確 を貫通し,被害者は短時間で失血死に至った。第2創と第3創は,肺の内部まで刺さっており,第4創は,肺を貫通し,少なくとも約10センチメートルの深さまで刺さっていた。第1創と第2創は胸壁の刺入部が確認でき,いずれも形が整っていた。 ⑵ 傷の状態から認定できる行為態様ア D医師の供述内容 前記傷の状態等から,本件犯行に使用された凶器は,先が尖っていて,片側に鋭利な刃がついている,刃部の長さ10.5センチメートル以上の刃物と推定できる。また,第1創ないし第4創が相互に離れているという位置関係からすると,4つの傷はそれぞれ別の刺突行為によってできたものと考えられる。さらに,前記傷の深さや位置からすると,いずれの傷も,力を込めて心臓や肺のある胸部を刺されてできたものであり,凶器が偶然刺さったのではなく,意図的に胸部を少なくとも4回刺したと考えられる。そして,前記第1創と第2創は胸壁の刺入部の形が整っていたことから,被害者ともみ合う中で刺したのではなく,一方的に突き刺したと考えられる。 イ D医師の供述の信用性D医師は,約800体の司法解剖の経験に基づき,実際に被害者を解剖した執刀医として専門的な知見に基づいて供述していること,供述内容が死体の状況に整合し,かつ,合理的であることから,D医師の供述の信用性を疑うべき事情はなく,D医師の上記供述は信用することができる。 ウ認定できる行為態様被害者の前記傷の状態や,信用できるD医師の供述から,被告人は,刃の長さが10.5センチメートル以上の先端が尖った鋭利な刃物という殺傷能力の高い凶器で,心臓や肺のある胸部を,意図的に少なくとも4回強い力で突き刺したことが認められる。そして,とくに第1創と第2創は,被告人がもみ合いの中で被害者を刺したものではないことが認めら 殺傷能力の高い凶器で,心臓や肺のある胸部を,意図的に少なくとも4回強い力で突き刺したことが認められる。そして,とくに第1創と第2創は,被告人がもみ合いの中で被害者を刺したものではないことが認められる。 ⑶ 被告人の公判供述被告人は,被害者とのもみ合いの中で無意識に刺してしまったと供述する。 しかし,もみ合いの中で胸壁の刺入部が整った傷(第1創,第2創)が複数できるとは考えられない上,傷も左胸部に集中しており,刺した場所を認識せずに4箇所も左胸部に集中して傷を負わせることはできないと考えられるので,傷の形状,数及び場所に整合しない被告人の供述を信用することはできない。 2 犯行後の被告人の行動被告人は,被害者を刺した後,同人を放置したまま同人方の外に出て,同人方近くの国道の路肩に停めたレンタカーに戻って,そのまま逃走しており,救命措置を施すなど,被害者の死亡結果の発生回避に向けた行動を何もしていない。このことも,被告人に被害者に対する殺意があったことを裏付ける事情となる。 これに対し,被告人は,レンタカーに戻った頃,Aに救急車を呼ぶよう頼んだ旨供述する。しかし,Aは,後述するとおり被害者の殺害を強く望んでいたのであるから,Aに救急車を呼ぶよう依頼するのは著しく不自然であるし,被告人自身が救急車を呼ぶことができなかった事情も認められない。したがって,被告人の供述を信用することはできない。 3 小括以上より,殺傷能力の高い凶器で,被害者の胸部を,意図的に少なくとも4回強く突き刺し,死亡結果の発生回避に向けた行動をとらなかった被告人には殺意,とりわけ強い殺意があったということができる。 第3 点火行為と被害者方及び被害者の死体の焼損との因果関係について(争点5) 1 因果関係を基礎付ける事情 けた行動をとらなかった被告人には殺意,とりわけ強い殺意があったということができる。 第3 点火行為と被害者方及び被害者の死体の焼損との因果関係について(争点5) 1 因果関係を基礎付ける事情まず,被告人は,被害者方1階北東6畳和室中央付近の畳上でティッシュに点火した旨供述しており,被告人の供述による点火場所と現場検証の結果明らかとなった出火元が一致している。また,被告人及びAは,平成28年2月13日午後8時28分,被害者方から約1.7キロメートル離れたコンビニエンスストアを出発していることから,被告人らは,同日午後8時30分過ぎ頃に被害者方周辺に到着していると推定されるところ,同日午後8時49分には火災通報がなされていることから,被害者方は,被告人による点火行為後まもなく火柱を上げて燃え始めたことが分かる。さらに,点火時において,出火元である1階北東6畳和室にいたのは被告人のみであることは,被告人自身も供述している。したがって,被告人が点火した火により被害者方及び被害者の死体が損壊したことが認められる。なお,Aを含む被告人以外の者が,上記時間帯に,1階北東6畳 和室の出火元に点火した可能性をうかがわせる証拠は見当たらない。 2 被告人の公判供述被告人は,点火したティッシュの火が消えたのを見てから立ち去ったと供述する。しかし,被告人は,同時に,Aが火が消えたことを分かりながら何も言わずに被告人が立ち去るのを放置したとも供述しているところ,これは後述する放火当日に至るまでの被害者殺害の事実を隠蔽すべく被害者方及び死体の焼損を強く望むAの言動に照らして明らかに不自然であり,Aが被告人の供述するような上記行動をしたとは考えられない。また,被告人は,捜査段階では,ティッシュに点火したことは供述しつつも,点火した火が消え を強く望むAの言動に照らして明らかに不自然であり,Aが被告人の供述するような上記行動をしたとは考えられない。また,被告人は,捜査段階では,ティッシュに点火したことは供述しつつも,点火した火が消えたことについては供述していないが,公判でティッシュの火が消えたという供述をし始めた理由について合理的な説明をしていない。 したがって,点火したティッシュの火が消えたのを見てから立ち去ったという被告人の公判供述は,明らかに不自然であり,捜査段階で供述していなかったことについても合理的な説明ができていないので,信用することはできない。 3 小括以上のとおり,被告人が点火した火により被害者方及び被害者の死体が焼損したことが認められる。 第4 放火及び死体損壊の故意について(争点6) 1 故意を基礎付ける事情被害者方は,築45年程度が経過した木造瓦葺2階建住宅であったが,被告人が点火した1階北東6畳和室は,畳敷きの部屋で,木製の座卓,本棚が置かれ,多数の衣類等が散乱していた。したがって,被害者方全体は燃えやすい材質の構造物である上,被告人が点火した同和室も,燃えやすい状況にあった。また,被害者の死体は,被告人が火を放った部屋に隣接する南東8畳和室に横たわっていた。さらに,被告人は,北東6畳和室内の2か所に本を平行に積み上げた塔のようなものをそれぞれ2つずつ作り,その上に衣類や広げた本を屋根のように乗せた上で,その下の空間にティッシュや衣類を入れ,少なくとも1か所(同和 室中央付近)において,ライターでティッシュに点火した。すなわち,被告人は,燃えやすい素材を重ねた上で,その下に入れた燃えやすい媒介物に点火しており,燃え広がりやすい方法で火を放ったといえる。そして,被告人は,消火活動など,焼損の回避に向けた行動を取らないまま 被告人は,燃えやすい素材を重ねた上で,その下に入れた燃えやすい媒介物に点火しており,燃え広がりやすい方法で火を放ったといえる。そして,被告人は,消火活動など,焼損の回避に向けた行動を取らないまま,直ちに逃走している。 以上のとおり,被害者方が燃えやすい状況下で,同人の死体から近い場所で,燃え広がりやすい方法で火を放ち,かつ,これらを認識した上で,焼損回避に向けた行動を取らなかった被告人に,非現住建造物等放火及び死体損壊の故意があることは明らかである。 2 弁護人の主張弁護人は,被告人がティッシュに点けた火が消えたことを前提に,被告人には非現住建造物等放火及び死体損壊の故意がなかったと主張している。しかし,そもそも前提としてそのような事実は認められない上,被告人自身も,本件で用いた方法について,「バーベキューのときに使うようなやり方」と述べるなど,点火すれば,燃え広がりやすい方法であることを認識していたといえるのであり,点火行為によってもたらされる結果について,被告人の認識に欠けるところはなかったといえる。弁護人の主張は前提を欠き,採用することはできない。 3 小括以上のとおり,被告人に非現住建造物等放火及び死体損壊の故意があったことが認められる。 第5 判示第1の共謀,正当防衛状況及び判示第2の共謀について(争点1,3,4) 1 前提事実前記第2ないし第4で指摘した事実のほか,関係証拠によれば以下の事実が認められる。 ⑴ 被告人とAとの関係被告人は,平成25年頃,出会い系サイトを通じてAと知り合い,交際を開始した。被告人は,同年以降,繰り返しAから金銭を借り入れ,美容商材の仕入代金の支払等に充てた。被告人は,平成27年5月以降,E組合の副理事長 の立場を利用して,同組合からAに設立させた会 始した。被告人は,同年以降,繰り返しAから金銭を借り入れ,美容商材の仕入代金の支払等に充てた。被告人は,平成27年5月以降,E組合の副理事長 の立場を利用して,同組合からAに設立させた会社に工事を発注させてAに利益を得させ,自らも同社の請負額からリベートを得ていた。被告人は,Aが下記⑵のとおり被害者と婚姻した後も,Aとの交際を継続し,頻繁にAが居住するc区のマンションの一室(以下「A方」という。)に寝泊まりしていた。 被告人は,Aと知り合った頃から,Aに対し,自らの素性につき,工作員の顔があり,殺人もいとわないなどと話していた。 ⑵ Aが被害者に生活費等を負担させた状況Aは,平成27年3月に結婚相談所を通じ,8000万円を超える預貯金を保有する被害者と出会った。Aは,被害者の預貯金の額を聞きだした上で,同年7月10日に同人と婚姻し,同月21日には自らの長女及び二女を被害者と養子縁組させ,被害者が死亡した場合の相続人は,A,長女及び二女となった。 Aは,同月30日,被害者に代金の大半を負担させて,A名義の自動車2台及びA方を購入した。被害者は,前記自動車2台の駐車場代や,自動車保険料,Aを受取人とする自らの生命保険料,Aの医療保険料,毎月20万円のAの生活費を負担していた。 被害者は,遅くとも同年11月以降,被害者の生命保険契約を解約する意向を示し,Aのための金銭支出も自制し始めるなどした。 被害者殺害の依頼と報酬の受け取りなどAは,入籍したまま被害者を殺害し,その相続財産と死亡保険金を手に入れようと考え,同年9月頃,被告人に対し,200万円を支払って被害者の殺害を依頼した。被告人は,同年12月上旬までに,E組合から200万円を借り入れて,これをAに返還した。 その後,Aは,遅くとも同月下旬まで 同年9月頃,被告人に対し,200万円を支払って被害者の殺害を依頼した。被告人は,同年12月上旬までに,E組合から200万円を借り入れて,これをAに返還した。 その後,Aは,遅くとも同月下旬までに,被害者を殺害するよう再び被告人に依頼し,同月25日,着手金を支払う旨申し出,かつ,殺害に成功すれば被告人の借金を帳消しにする旨伝えた。これに対し,被告人は,被害者の殺害を引き受ける旨伝え,その報酬として250万円を支払うよう求めた。被告人 は,同日,Aから現金250万円を受け取り,同月26日,そのうち200万円をE組合からの前記借入金の返済に充て,残り50万円は美容商材の仕入代金の支払に充てて費消した。 ⑷ 平成28年2月6日の犯行に至る経緯平成27年12月下旬頃から,Aは,被告人に対し,被害者が火事に巻き込まれて死亡すればAに生命保険金が全額支払われる旨述べ,被害者方に放火して同人を殺害したい旨伝えた。被告人は,これを受けて,Aとの間で被害者方の放火方法に関するやり取りをライン等で繰り返した。被告人が,ガソリンと携行缶を準備するようAに依頼し,同人がガソリン等を準備したこともあった。被告人とAは,これと並行して,被害者の飲食物に睡眠薬等を混入する旨のやり取りをしており,実際に,Aが被害者の飲食物に密かに睡眠薬等を混入して摂取させるなどした。 Aは,被告人に対し,被害者が寝入っている間にストーブによる失火を装って被害者を殺害したい旨話した。被告人及びAは,平成28年2月1日,ホームセンターで石油ストーブを購入した。 ⑸ 平成28年2月6日の被告人らの行動被告人は,同日朝,A及び同人の娘2名とのライングループから退会した。 Aは,その直後,同人の娘らに,「明日以降,これないから,いつでもかえってきてね」とライ 平成28年2月6日の被告人らの行動被告人は,同日朝,A及び同人の娘2名とのライングループから退会した。 Aは,その直後,同人の娘らに,「明日以降,これないから,いつでもかえってきてね」とラインで送信した。 被告人は,同日午後4時30分頃,被告人が日常使用している赤色アウディを運転してA方へ赴いた。被告人は,同日午後5時15分頃,レンタカーを借りた。被告人は,前記ストーブを同車に積み,同日午後8時55分,Aを同乗させて,同人が使用する駐車場から出発し,下道を走行して稲沢市内の被害者方へ向かった。被告人は,同日午後10時16分,同車を被害者方前で8秒間停止又は低速走行させ,転回後,被害者方を通り過ぎ,国道155号線を左折進行して同日午後10時18分に路肩に停車させた。被告人とAは降車し,被害者方に前記ストーブを運び込んだ。その後,被告人は,被害者の胸部を刃物 で刺し,同日午後10時55分,停めていた同車を発進させ,Aの運転で同人方へ向かった。なお,当時の被告人の身長は約173センチメートル,体重は七十五,六キログラムであった。 平成28年2月13日の犯行に至る経緯及び犯行状況等被害者を担当していた自動車販売店の従業員は,同月11日午前9時1分,Aに電話をし,「Bさんに連絡が取れません。大丈夫でしょうか。」と尋ねた。 Aは,同日午前9時4分に被告人へラインを送信し,被告人は,同日午前9時6分にAへ電話をかけた。被告人は,同日夜,赤色アウディを運転して被害者方付近に行き,Aと合流した。 被告人は,同月13日,赤色アウディとは別に使用していた黒色アウディを整備に出し,代車として白色アウディを受領した。被告人は,同車でA方付近に行き,同日午後7時30分過ぎ頃にAを同乗させて出発した。被告人らは,被害者方から約1.7キロ 別に使用していた黒色アウディを整備に出し,代車として白色アウディを受領した。被告人は,同車でA方付近に行き,同日午後7時30分過ぎ頃にAを同乗させて出発した。被告人らは,被害者方から約1.7キロメートル離れたコンビニエンスストアに立ち寄り,同日午後8時28分に同店を出発し,被害者方近くの国道の路肩に同車を停車させた。 被告人は,Aとともに被害者方に入り,1階南東8畳和室で被害者の死体を確認し,その北隣の北東6畳和室内で点火した。その後,同日午後8時49分に火災通報がなされたが,被害者方は全焼し,同人の死体は焼損した。 ⑺ 犯行後の状況等同月14日夜,被告人は,A名義の車両(プリウスα)内において,同人に対し,「弟に罪被せないかんな」,「まず,あいつの弟さんの家を調べて」,「誰もいないときに入っていって,キッチンの中に薬を置いとくだな」,「調合するやつ」などと言った。 同月15日,被害者の解剖を実施すると,体内から,Aが知人から入手していた睡眠薬の成分が検出された。解剖時の被害者の身長は約165センチメートル,体重は約42キログラム又は45キログラムであった。なお,平成27年7月の人間ドック受診時,被害者の身長は166.7センチメートル,体 重は60.9キログラムであった。 2 殺人の共謀について(争点1)⑴ 検討ア被告人の犯行動機被告人は,Aから被害者殺害の実行を依頼され,平成27年12月25日,250万円の報酬を受領しており,借金を帳消しにする旨の提案も受けた。さらに,被告人は,Aと交際するなど極めて親密な関係にあった上に,Aから度々金銭を借り入れ,E組合からAの会社に工事を発注させ自らも利益を得ていた。 以上のとおり,Aから被害者殺害の実行を依頼された被告人には,金銭目的 際するなど極めて親密な関係にあった上に,Aから度々金銭を借り入れ,E組合からAの会社に工事を発注させ自らも利益を得ていた。 以上のとおり,Aから被害者殺害の実行を依頼された被告人には,金銭目的及びAとの関係維持のためという明確な犯行動機があったことが認められる。 イ殺害計画の準備状況被告人は,ストーブによる失火を装って殺害する方法をはじめ,被害者の殺害を画策する内容のやり取りをAとの間で何度もした上,平成28年2月1日にAと一緒にストーブを購入し,同月6日午後10時過ぎに同ストーブを被害者方に運び入れている。 以上のとおり,被告人とAは,共に被害者の殺害に向けたやり取りの内容と合致する犯行道具を準備した上,これを用いた殺害計画の実行に取りかかっていることが認められる。 ウ犯行直前の行動判示第1の当日,被告人は,A及び同人の娘2名とのライングループから退会し,その直後,Aは,同人の娘らに,「明日以降,これないから,いつでもかえってきてね」と送信している。判示第1の当時,A方に居住していたのは同人のみであるが,被告人が出入りしていたところ,前記送信文は,被告人がA方に出入りすることができなくなるような事態が生じる旨娘らに伝えたものである。被告人が前記ライングループを退会したのは,被告人 とAとの関係を隠さなければならないような事態が生じるからであると認められる。 また,被告人は,判示第1の当日,A方まで運転していった赤色アウディがありながらレンタカーを借りていることから,被害者方にストーブを運ぶのに,普段から使用する自らの車両を使いたくない意図があったことが推認できる。 さらに,被告人は,あえて下道を使って1時間以上かけて被害者方に向かい,被害者方前で停止または低速走行し,いったん被害 に,普段から使用する自らの車両を使いたくない意図があったことが推認できる。 さらに,被告人は,あえて下道を使って1時間以上かけて被害者方に向かい,被害者方前で停止または低速走行し,いったん被害者方を通過し,転回した後,再度被害者方を通り過ぎ,被害者方敷地内及びその周辺に十分な駐車スペースがあったにもかかわらず,被害者方周辺から死角となる国道の路肩に停車している。同車の動きは明らかに不自然であり,被告人らは,極力人目につかないよう,警戒しながら,被害者方へストーブを運んだということができる。 以上のとおり,被告人は,判示第1の当日,ライングループを抜け,レンタカーを借り,人目につかないよう走行し停車するなど,警戒を重ねながら,Aと共に犯行道具のストーブを運び込んでいる。このことは,被告人とAが被害者を殺害する旨の共謀をしていたことを推認させる方向に働く。 エ以上のアないしウを総合すると,被告人は,Aから平成27年12月25日に被害者殺害の報酬として250万円を受領し,その後,一貫して被害者殺害の目的に沿った行動をAと共に行い,犯行当日に至っているのであるから,平成27年12月下旬頃に殺人の共謀が成立したことが推認できる。 ⑵ 被害者方に赴いた状況に関する被告人の公判供述ア被告人の供述内容平成28年2月1日にストーブを買ってすぐ,Aから被害者方へストーブを持っていくよう頼まれた。同月6日にAと一緒に被害者方に行くにあたり,Aから,被害者を殺害するという意味で「結果を出しに行こう」と言われた。Aから,被害者が酒を飲んで寝入っているという説明を聞き,Aが 睡眠薬を飲ませたため被害者が寝ているのだと思った。Aが同ストーブで被害者を殺害するつもりであることは認識していた。同日,被害者方に向かうにあたり,Aから っているという説明を聞き,Aが 睡眠薬を飲ませたため被害者が寝ているのだと思った。Aが同ストーブで被害者を殺害するつもりであることは認識していた。同日,被害者方に向かうにあたり,Aから,被害者方でストーブを点けられるようにしておいてほしいと言われたので,被害者方に行き,被害者が寝ている間に,ストーブを置き,灯油を入れて,いつでも点火できる状態にして被害者方から出るつもりだった。Aが火を点けるのは仕方がないと考えた上で,協力した。 イ被告人供述の信用性被告人の前記供述のうち,ストーブを運び込んだ後,被害者方から出るつもりだったとの部分については,事前に250万円もの報酬を得た上,夜間にAと共に車で被害者方に赴いたにもかかわらず,被告人自身は,被害者殺害の実行行為をせずに,Aに任せるというものであり,明らかに不自然で,信用することができない。 もっとも,前記供述のうち,それ以外のものについては,被告人とAが,従前から被害者が寝入っている間にストーブの失火を装って殺害するという内容のやり取りをし,実際に一緒にストーブを購入していたという事実や,被害者の死体からAが入手していた睡眠薬の成分が検出され,犯行後に被告人とAが睡眠薬を被害者の弟宅に置いて同人に罪を被せる旨話し合っていた事実と整合する上,自らの責任を矮小化しようとする中で,あえて自らに不利な供述をした部分であるので,信用することができる。 したがって,被告人の前記供述から,殺人の犯行当日,被告人は,Aから「結果を出しに行こう」「(被害者は)酒を飲んで寝入っている」などと言われ,Aが睡眠薬で被害者を眠らせたものと認識した上で,Aとともに被害者が寝入っている隙に失火を装って火を放つ方法で殺害する目的で被害者方に行ったと認められる。 ⑶ 共謀についての被告人の 言われ,Aが睡眠薬で被害者を眠らせたものと認識した上で,Aとともに被害者が寝入っている隙に失火を装って火を放つ方法で殺害する目的で被害者方に行ったと認められる。 ⑶ 共謀についての被告人の公判供述 ア被告人の供述内容被害者の殺害に同調するやり取りを続けていたのは,Aに設立させた会 社を存続させてリベートを得るためであって,真意に基づくものではなかった。着手金は返金しようとしていたし,架空の人物を登場させてAに話を合わせていただけで,平成28年2月6日もAとともに被害者を殺害するつもりはなかった。 イ被告人の供述の信用性まず,被告人は,Aから被害者の殺害を依頼され,着手金を受け取り,実際に被害者を殺害している。また,被告人は,Aが被害者殺害を強く望み,これを実現しようと行動していることを十分に分かりながら,Aにガソリンを準備させたほか,同人と一緒にストーブを購入し,判示第1の当日もレンタカーを借りてストーブを被害者方に運んでいる。すなわち,被告人は,Aに話を合わせているのではなく,Aとともに殺害計画を実行に移し,今まさに被害者の殺害が実現されるというところまで,画策した内容通りに被害者の殺害を推し進める具体的な行為に及んでいるのである。さらに,被告人は,判示第1の当時,Aと歩調を合わせる中で,被害者殺害に加担しなければAとの関係はいずれ破綻し,着手金や多額の借入金の返済を求められ,Aの会社からリベートを得るような関係も続けられなくなる状況下にあり,被告人自身,そのことを認識していたことが認められる。そして,被告人は,このような状況下で,前記のとおり強い殺意をもって被害者を刺殺しているが,被告人自身に,Aからの依頼もなしに被害者を殺害する動機はなく,Aからの依頼と無関係に被害者を殺害したなど そして,被告人は,このような状況下で,前記のとおり強い殺意をもって被害者を刺殺しているが,被告人自身に,Aからの依頼もなしに被害者を殺害する動機はなく,Aからの依頼と無関係に被害者を殺害したなどということは考えられないから,被告人の殺害行為は,被告人とAとの間で,被害者殺害を共謀していたことを強く推認させるものである。 したがって,Aとともに被害者を殺害する意思がなかったということはあり得ず,犯行当日に至っても被害者を殺害するつもりはなかった旨の被告人の供述を信用することはできない。 ⑷ 小括以上のとおり,関係証拠や,それと整合する被告人供述から,被告人は,A との間で,250万円の報酬を同人から受領した平成27年12月下旬頃に,被害者の死亡保険金及び相続財産を得る目的で同人を殺害する内容の共謀を遂げたことが認められる。 3 正当防衛状況について(争点3)⑴ 行為時の状況ア被告人の公判供述の内容被害者に指示された南東8畳和室にストーブを運び入れた後,被害者から呼び止められ,罵倒され,土下座をさせられ,小便をかけられるなどした。 被害者が右手拳で殴りかかってきたが,よけたので当たらなかった。これに対し,自分の右手拳で,被害者のあごを目がけて殴りかかったが,当たらず,もう一度被害者を殴ると,自身の右手が被害者に当たった。すると,被害者が,南東8畳和室の中へ入り,果物ナイフ様の刃物を持ち,振り回しながら出てきたので,被害者の隙を見て同人が右手に持っていたナイフを奪い,同人を刺した。 イ被告人の捜査段階の供述内容被害者から罵倒されたので,同人への怒りを抑えきれなくなり,拳で被害者の顔に殴りかかった。一発目は空振りをしたようになり,被害者の顔に当たらなかったが,もう一発拳で殴りかかっ 捜査段階の供述内容被害者から罵倒されたので,同人への怒りを抑えきれなくなり,拳で被害者の顔に殴りかかった。一発目は空振りをしたようになり,被害者の顔に当たらなかったが,もう一発拳で殴りかかったところ,今度は,被害者の左頬辺りに拳が当たった。すると,被害者は,家の奥の方に逃げていった。被害者が戻ってきたとき,果物ナイフを手にしており,「来るな」などと言いながら,果物ナイフを振り回していた。被害者がナイフを振り回しながら近づいてきたので,ナイフを持っていた被害者の右手首をつかんでひねった。すると,ナイフが床に落ちたので,このナイフを拾い,前屈みになっていた被害者のお腹付近をナイフで刺した。 ウ被告人の供述の信用性まず,被告人は,公判廷において,被害者が刃物を持ちだした経緯について説明する中で,被害者が被告人にストーブを運び入れるよう指示してき たとしているが,そもそも,同ストーブは,被告人がAとともに被害者が寝入っている隙に失火を装って火を放つ方法で殺害するための犯行道具として購入したものであるから,被害者が同ストーブについて知っているはずもなく,そのような指示をしたとは考え難い。また,被害者が,被告人を土下座させた上で同人に小便をかけたなど,平素の被害者の人柄からして明らかに不自然な内容の供述もしている。さらに,被告人は,公判廷において,被害者が先に被告人に殴りかかったと供述するのに対し,捜査段階では,被告人から被害者に殴りかかった旨述べているが,この変遷の理由について,被告人は合理的な説明をしていない。以上のとおり,被害者が刃物を持ち出した経緯の一部については被告人の公判供述を信用することはできず,被害者が被告人に殴りかかった事実は認められない。 もっとも,被告人は,夜遅く,約束もなく一方的に来訪し,マ り,被害者が刃物を持ち出した経緯の一部については被告人の公判供述を信用することはできず,被害者が被告人に殴りかかった事実は認められない。 もっとも,被告人は,夜遅く,約束もなく一方的に来訪し,マスク姿で土足で被害者方に立ち入っているのであるから,同人が恐怖を感じ,被告人をとがめ,被害者と被告人が口論となった可能性は否定できない。そして,被告人が,被害者に対し殴り付けるなどの暴行を加えた場合には,被告人の方が体格が勝っているのであるから,被害者は,さらに身の危険を感じるはずであり,刃物を持ち出すなどして,けん制をすること自体は不自然な行動ではない。また,被告人及びAは被害者が寝入っている間に失火を装って放火し,被害者を殺害することを当初計画していたのであり,被告人らが被害者方へ刃物を持参したと認定できる証拠はない。そうすると,被告人が被害者方に立ち入った後,被害者と口論となり,被告人が被害者を殴打したので,これに対し,被害者が刃物を持ち出し,振り回したという可能性については否定できず,この点に関する被告人の供述を排斥することはできない。 以上のとおり,被告人が被害者方に立ち入った後,被害者と口論となり,被告人が被害者を殴打したので,これに対し,被害者が刃物を持ち出し,振り回した事実を認定した上,同状況下で,被告人が被害者から刃物を奪い,刺突行為に及んだことが正当防衛として許容されるような状況にあったか 検討する。 ⑵ 正当防衛状況にあったと評価できるかア被害者を攻撃することの正当性まず,被告人は,判示第1の当日,Aとともに,被害者を殺害する目的で被害者方に赴き,被害者方に立ち入っており,客観的には,被害者は,被告人らの行為によって生命を奪われる危機に直面している。また,被害者は,夜遅く,約束もなく一 日,Aとともに,被害者を殺害する目的で被害者方に赴き,被害者方に立ち入っており,客観的には,被害者は,被告人らの行為によって生命を奪われる危機に直面している。また,被害者は,夜遅く,約束もなく一方的に来訪し,マスク姿で土足で被害者方に立ち入った被告人に恐怖を感じる中で,被告人に殴られたことを契機に,「来るな」などと言いながら刃物を振り回してけん制したに過ぎない。そうすると,被害者による刃物の振り回し行為自体,被告人による殴打に対する防衛行為に当たるといえ,被害者の上記行為は不正なものではない。したがって,被害者に対して被告人が攻撃を加えることが正当なものとして許容される状況にあったとはいえない。 イ刺突時の被告人の意思前記D医師の供述によれば,被告人は,少なくとも第1創と第2創については,もみ合う中で刺したのではなく,一方的に突き刺したものであることが認められる。また,被告人は,武器をもたず,反撃に出る様子もなかった素手の状態の被害者の胸部に,少なくとも4回強い力で刃物を突き刺しては抜くという行為を繰り返している。被害者は,刃物を振り回していたが,被告人を刺そうとしたり,切り付けようとしたりしていたとは認められず,被告人は被害者から奪った刃物を玄関の方に放り投げたり,玄関から立ち去ったりすることも可能であった。それにもかかわらず,被告人が,被害者から刃物を奪い,このような執ようかつ強力な攻撃に出たのは,被告人がAとの間で殺人の共謀を遂げていたからにほかならず,自分の身を守るためのものではない。すなわち,既に被害者殺害の共謀を遂げていた被告人は,被害者が刃物を持ち出し,振り回した機会を利用し,積極的に被害者を攻撃する意思で繰り返し突き刺したものと認められる。 ⑶ 小括以上のとおり,被告人は,被害者を 遂げていた被告人は,被害者が刃物を持ち出し,振り回した機会を利用し,積極的に被害者を攻撃する意思で繰り返し突き刺したものと認められる。 ⑶ 小括以上のとおり,被告人は,被害者を攻撃することが正当とされない状況下で,積極的に被害者を攻撃する意思で,被害者を刃物で突き刺しており,被告人の当該行為は,刑法36条の趣旨に照らして許容されるものではなく,正当防衛が成立する状況にはなかったことが認められる。 4 非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀について(争点4)⑴ 放火に至る経緯及び状況被告人及びAは,前記のとおり,共謀して被害者を殺害し,その上で,放火の当日,一緒に被害者方へ行き,被告人が放火と死体損壊の故意をもって火を放って被害者方と被害者の死体を焼損し,一緒に逃走している。そして,被告人とAは,もともと,被害者を殺害する方法として,失火を装って被害者方に放火することを画策していたものであり,被告人らは,その画策どおりに被害者の死体もろとも被害者方を焼損しているのであるから,被告人がAとの共謀なしに放火したとはおよそ考え難い。 ⑵ 被告人の公判供述ア供述内容平成28年2月11日に,Aから「火を点けるように」,「時間差で燃えるようなやり方がないか」などと言われた。そこで,本などを積み重ねてその中に燃えやすいものを入れて火を点けるやり方を教えた。Aが被害者方に火を点けることを望んでいることが分かっていたので,同月13日より前に,Aに対し,被害者方と同人の遺体を燃やすという意味で「灰にするしかない」と言ったと思う。そして,自分の都合がつく同日に被害者方に火を点けに行くという話になった。 イ供述の信用性上記供述は,前記放火に至る経緯及び状況と整合していることや,自らの責任を い」と言ったと思う。そして,自分の都合がつく同日に被害者方に火を点けに行くという話になった。 イ供述の信用性上記供述は,前記放火に至る経緯及び状況と整合していることや,自らの責任を矮小化しようとする中で,あえて自らに不利な供述をしている部分であることから,信用することができる。 ⑶ したがって,前記放火に至る経緯及び状況,並びに被告人の公判供述から,被告人とAは,同月11日頃,被害者方に放火して被害者の死体もろとも被害者方を焼失させることとし,その実行日を同月13日にすることを申し合わせたことが認められる。 ⑷ 弁護人の主張弁護人は,Aとの非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀について,被告人は,Aに応じるふりをしていたのであり,これ以上罪を重ねることを躊躇していたと主張する。しかし,前記のとおり,被告人は現に放火行為に及んでいるのであり,消火活動等の焼損の回避に向けた行動もしておらず,被告人が躊躇していた事実は認められないので,弁護人の主張は採用することはできない。 ⑸ 小括以上のとおり,被告人は,Aとの間で非現住建造物等放火及び死体損壊を共謀していたと認められる。 第6 結論以上のとおり,判示第1については,被告人及びAとの間で殺人の共謀があった上,被告人には被害者に対する殺意があり,正当防衛が成立する状況になかったことが認められ,判示第2については,被告人及びAとの間で非現住建造物等放火及び死体損壊の共謀があり,被告人が点火した火により被害者方及び被害者の死体が焼損し,被告人に放火及び死体損壊の故意が認められると判断した。 なお,判示第1について,被告人は,被害者が寝入っている隙に失火を装って火を放つ方法で被害者を殺害するという当初の計画と異なり,数回被害者の胸部を刃物で突き刺す 損壊の故意が認められると判断した。 なお,判示第1について,被告人は,被害者が寝入っている隙に失火を装って火を放つ方法で被害者を殺害するという当初の計画と異なり,数回被害者の胸部を刃物で突き刺すという方法で被害者を殺害している。しかし,被告人は,当初の計画と同じ被害者宅で,当初の計画で失火を装って火を放つ予定であった機会に,Aと殺害の共謀をしていたからこそ強い殺意をもって被害者を刺殺したのであり,被告人の刺突行為は,被告人とAとの間の殺人の共謀に基づくものであることは,問題なく認められる。 (量刑の理由) 本件において,犯罪事実に関する事情として最も重視すべきは判示第1の犯行の目的である。本件犯行は,Aが死亡保険金と相続財産を手に入れるために計画し,被告人が,Aの意図を知りつつこれに加担したものであり,保険金及び相続財産という金銭取得の目的で人の命を奪おうとする悪質性が際立った犯行といえ,殺人罪の中でも刑事責任が特に重大である。また,判示第1の犯行態様をみても,抵抗していない被害者に対し,鋭利な刃物で少なくとも4回にわたりその胸部を繰り返し強く突き刺して被害者を失血死させているのであり,強い殺意に基づく残酷な犯行である。 加えて,被告人は,殺害報酬を受け取り,Aと殺害を画策し,白アリの点検を装って下見をした上で,犯行に使用する予定であったストーブを準備して,殺害目的で被害者方に行き,判示第1の犯行に及んでいる。被告人らの犯行は,殺害方法が当初の想定と異なっただけで,決して突発的な犯行ではなく,1か月以上かけて準備してなされた計画性の高い犯行であるといえる。そして,何の落ち度もない被害者の尊い命を奪ったという結果が重大であることはいうまでもなく,被害者の弟が被告人に対し峻烈な処罰感情を述べているのは当然である。さらに,被告 性の高い犯行であるといえる。そして,何の落ち度もない被害者の尊い命を奪ったという結果が重大であることはいうまでもなく,被害者の弟が被告人に対し峻烈な処罰感情を述べているのは当然である。さらに,被告人が果たした役割についてみても,首謀者はAであるが,被告人もAと被害者殺害に向けてやり取りを繰り返し,Aと共にストーブを準備し,自らレンタカーを借り,殺人の実行行為に及んでいるから,主体的に犯行に加担して,決定的に重要かつ不可欠な役割を果たしたといえる。被告人は,自らが殺人もいとわない人物である旨Aに伝え,金額を指定して殺害報酬を支払わせている上,ライントークの内容等からしても,Aに逆らえないような関係でもなく,むしろ,被告人がAに指示してガソリン等を準備させたこともあったのであり,被告人は決して従属的な立場であったとはいえない。被告人は,金銭目的とAとの関係維持のために犯行に加担したのであり,身勝手な犯行動機に酌量の余地はない。 次に,判示第2の犯行についてみる。まず,判示第2の犯行の目的は,殺人の犯行発覚を防ぎ,死亡保険金と相続財産をAが取得できるようにするために実行しており,殺人をしてもなお達していない当初の目的を達成するために,殺人に重ねて実行 したもので,判示第1の犯行の目的と同様,悪質性が際立っている。犯行態様についても,夜間,住宅密集地にある木造住宅である被害者方の和室内で,本を積み重ねて衣類等を乗せ,燃えやすい媒介物を入れてライターで点火するという多くの被害が生じかねない危険極まりない犯行である。被告人らは,以前から失火を装った放火を計画し,被害者殺害後,改めて放火を計画して犯行に及んだものであり,計画的犯行で,犯罪遂行に向けた意思も強固であったと認められる。そして,犯行の結果,近隣住宅への差し迫った延焼の危険を生 った放火を計画し,被害者殺害後,改めて放火を計画して犯行に及んだものであり,計画的犯行で,犯罪遂行に向けた意思も強固であったと認められる。そして,犯行の結果,近隣住宅への差し迫った延焼の危険を生じさせ,被害者の死体を著しく損壊している。被告人が果たした役割についてみても,事前に放火の具体的な方法を提案し,実行行為に及んでおり,積極的,主体的に関与し,重要かつ不可欠な役割を果たしている。 以上のような被告人が行った犯罪事実に関する事情に照らすと,本件は同種事案のうち,有期懲役に処すべき事案の中では最も重い部類に属する。 そして,犯罪事実以外の事情についてみると,被告人の前科は古い罰金前科のみであることや,被告人の帰りを待つ妻がいることなどについては被告人に有利な事情となる。しかし,被告人は,本件犯行直後から,被害者の弟に罪を被せようとするなどした上,公判廷においても,不合理な弁解に終始し,被害者やAに責任を押し付け自らの責任を小さく見せようとしていることがうかがわれ,犯行直後から現在に至るまで真摯な反省の態度がみられない(被告人は,公判廷において,判示第2の犯行後,何度か警察に行こうとしたがAに止められたと供述するが,被害者の弟に罪を被せようとするなど,罪証隠滅行為に及ぼうとしていたことや,Aの制止を無視して警察に行くことに何ら支障はなかったこと等からすると被告人の当該供述を信用することはできない。)。また,被害者遺族に対して慰謝の措置を一切講じていない。これらの事情を踏まえると,被告人に有利な事情を最大限考慮しても,被告人の刑事責任は相当重いといわざるを得ない。 そこで,犯罪事実に関する事情を基礎に,犯罪事実以外の事情も考慮して,主文のとおり,被告人に対し,科すことができる有期懲役の上限である懲役30年に処すのが相当であると判断 いといわざるを得ない。そこで,犯罪事実に関する事情を基礎に,犯罪事実以外の事情も考慮して,主文のとおり,被告人に対し,科すことができる有期懲役の上限である懲役30年に処すのが相当であると判断した。 主文 (求刑-懲役30年) 令和3年2月26日名古屋地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官 宮本聡 裁判官 西前征志 裁判官 大井友貴

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