令和7年1月14日東京地方裁判所刑事第1部宣告令和5年刑(わ)第730号業務上横領被告事件 主文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中250日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、A1合同会社の業務を執行する代表社員であるA2株式会社(令和元年10月31日にA3株式会社に商号変更。以下商号変更の前後を問わず「A3社」 という。)から前記A1合同会社の業務を執行する社員の職務を行うべき者として選任された職務執行者として、同社の預金の管理等の業務全般を統括していたものであるが、東京都港区(住所省略)所在の株式会社B銀行C支店に開設された前記A1合同会社名義の普通預金口座の預金を同社のために業務上預かり保管中、別表記載のとおり、令和元年10月4日から同月24日までの間、3回にわたり、東京 都千代田区(住所省略)所在のA3社事務所において、A3社又はA3社が代表社員であるA4合同会社の債務の弁済等に費消する目的で、部下のA5をして、インターネットを介するなどして、前記普通預金口座から前記株式会社B銀行C支店に開設されたA3社名義の普通預金口座に合計4億2000万円を振込送金させ、もって横領したものである。 (事実認定の補足説明) 1 本件の争点被告人が、A1合同会社(以下「A1社」という。)の業務を執行する代表社員であるA3社の職務執行者として、判示のA1社名義の普通預金口座に振り込まれた出資金を業務上占有していたこと、別表記載の各振込送金を行い、その資金をA 3社及びA4合同会社(以下「A4社」という。)の債務の弁済等に充てたことに 社名義の普通預金口座に振り込まれた出資金を業務上占有していたこと、別表記載の各振込送金を行い、その資金をA 3社及びA4合同会社(以下「A4社」という。)の債務の弁済等に充てたことに 争いはなく、証拠上も明らかに認められる。本件の争点は、①被告人による別表記載の各振込送金が、A1社の被告人に対する委託信任関係に違背する領得行為であるか否か、②これに対する被告人の認識(業務上横領罪の故意及び不法領得の意思の有無)である。弁護人及び被告人はこれらをいずれも否認し、被告人は無罪である旨主張するので、以下検討する。 2 証拠から明らかに認められる事実関係証拠によれば、以下の事実が明らかに認められる。 ⑴ 平成27年9月、被告人は、V国の再生可能エネルギー事業の開発、運営会社であるD1社の日本支社であるD2株式会社(以下「D2社」という。)の代表取締役に就任した。平成29年4月、被告人は、D2社から独立し、A3(当時の 商号はA2株式会社)の代表取締役として、太陽光発電事業の開発、運営を行うようになり、独立後の一定期間は、D2社の行う太陽光発電事業の開発、運営に関与していたが、令和元年10月には、A3の商号をA3株式会社に変更した。A3では、D2社と同様、複数の太陽光発電事業の開発案件を取り扱い、開発案件を進めるに当たり、特別目的会社が各案件の資産を保有しファイナンスの受け手となる一 方、A3社等の開発会社がその開発業務を行い、外部の様々な下請業者に業務を振り分けて外注するという方法を用いていた。A1社は、平成29年10月、A3社が業務執行社員を務める特別目的会社として資本金2円で設立されたものであった。 ⑵ア株式会社E1(以下「E1社」という。)及びE2株式会社(以下「E2社」という。)の代表取締役であ 10月、A3社が業務執行社員を務める特別目的会社として資本金2円で設立されたものであった。 ⑵ア株式会社E1(以下「E1社」という。)及びE2株式会社(以下「E2社」という。)の代表取締役であるE3は、遅くとも平成28年の秋頃までに、被 告人と知り合った。 イ E3は、被告人から、D2社が開発に関与する甲太陽光発電事業(以下「甲案件」という。)への出資を提案され、甲案件の開発を行う特別目的会社で、D2社が代表社員を、被告人が職務執行者を務めるA6合同会社(以下「A6社」という。)に出資することになった。具体的には、E1社、D2社及びA6社は、平成 29年4月6日、E1社がA6社に5億円を出資し、A6社が金融機関からプロジ ェクトファイナンスを取得したことを条件にD2社がE1社の保有するA6社の持分を8億5000万円で取得する旨の「甲太陽光発電プロジェクトに関する売買契約書」(以下「甲売買契約書」という。)に基づく契約を締結し、その頃、E1社は、同契約に基づきA6社に5億円を出資した。また、同日、E1社とA6社は、甲案件の開発及び開発資金の調達に関する業務の報酬として、A6社がE1社又は E1社が指名する開発業務を行う者に対し、2回に分けて合計2億5000万円を支払う旨の「甲太陽光発電プロジェクトの開発に関する契約書」(以下「甲開発契約書」という。)に基づく契約を締結し、その頃、E3と被告人は、上記の合計2億5000万円のうち、1億5000万円は開発資金の調達への報酬であるアレンジメントフィーとしてE1社が受領し、1億円は開発に関する業務の報酬としてA 3社が受領することについて合意した。その後、E1社が受領すべき上記の1億5000万円は、E3の指示によりE2社名義の口座に振り込む形で支払われた。また 億円は開発に関する業務の報酬としてA 3社が受領することについて合意した。その後、E1社が受領すべき上記の1億5000万円は、E3の指示によりE2社名義の口座に振り込む形で支払われた。また、金融機関によるプロジェクトファイナンスが実行され、D2社がE1社の保有するA6社の持分を8億5000万円で取得した頃、A3社が受領すべき上記の1億円は、E2社を経由してA3社に支払われた。 ウ甲売買契約書第6条1項に規定されたE1社が行う業務について、①の本事業権利の元所有者からの取得に際してのデューデリジェンス業務はD2社と共同して行うとされているところ、D2社が行い、同②の投資家への説明業務は、投資家がE1社のみだったため、実際に業務をすることはなかった。同③の本事業の開発に必要な契約業務は、D2社と共同して行うとされているところ、E1社は、開発 業者との契約に立ち会ったほかは、D2社に実務を任せつつ、契約等につき事後に報告を受けるとともに、同④の会計実務、印鑑及び口座の管理業務についても、D2社と共同して行うとされているところ、D2社に日々の細々とした出入金を任せつつ、出入金の都度、証憑類の提出を求め、その都度、支出先を提示されるなどの報告を受けていた。 ⑶ア平成30年9月頃、E3は、被告人から、A3社が開発に関与する乙太陽 光発電事業(以下「乙案件」という。)への出資を提案されたが出資することはせず、その代わりに、資金調達先のマッピングを担当し、被告人に対しF株式会社(以下「F社」という。)を紹介した。これにより、F社は、乙案件の開発を行う特別目的会社で、A3社が代表社員を、被告人が職務執行者を務めるA7合同会社(以下「A7社」という。)に15億円を融資することになり、A3社及びA7社は、 同 により、F社は、乙案件の開発を行う特別目的会社で、A3社が代表社員を、被告人が職務執行者を務めるA7合同会社(以下「A7社」という。)に15億円を融資することになり、A3社及びA7社は、 同月13日、A7社がA3社に乙案件の開発業務等を委託し、その報酬として合計11億5000万円を3回に分けて支払う旨の「乙太陽光発電事業の開発業務に関する契約」(以下「乙開発契約」という。)を締結した。また、その頃、被告人及びE3は、F社を紹介したことに対するアレンジメントフィーとして、A7社がE3に対し約1億2000万円を支払う旨の合意をした。 イその後、F社からA7社に対する融資が実行されると、乙開発契約に基づき、A7社からA3社に対し合計11億5000万円が支払われた。また、A7社から、A3社が太陽光発電事業に係る開発業務を外注するなどしていた協力業者であるG1株式会社(以下「G1社」という。)を経由する形で、E3が経営する会社又は協力会社であるE2社ほか2社に対し、上記のアレンジメントフィーを含む合計1 億2750万円が支払われた。 ⑷ 平成30年春頃、被告人は、株式会社H(以下「H社」という。)との間で、H社が事業権利及び事業用地を取得していた丙太陽光発電事業(以下「丙案件」という。)の譲受けに向けて交渉を開始した。同年7月27日、H社及びA1社は、H社がA1社に対し丙案件の事業権利及び事業用地を5億円で譲渡する旨の「事業 権利及び土地所有権譲渡に関する契約書」に基づく契約(以下「丙事業譲渡契約」という。)を締結した。丙事業譲渡契約第3条1項は、A1社がH社に対し、各種許認可の前提となる周辺住民の同意が得られたこと等を条件に、上記の5億円のうち1億円を支払うことを定めていたところ、平成31年1月頃、周辺住民の同意が 業譲渡契約第3条1項は、A1社がH社に対し、各種許認可の前提となる周辺住民の同意が得られたこと等を条件に、上記の5億円のうち1億円を支払うことを定めていたところ、平成31年1月頃、周辺住民の同意が得られず、上記の1億円が支払われていない状況において、H社とA1社との関係 が悪化し、同年2月15日、H社がA1社に対し、丙事業譲渡契約の解除の意思表 示をするに至った。同月18日、H社は、I株式会社(以下「I社」という。)との間で、丙案件の事業権利等を譲渡する旨の太陽光発電事業権利等譲渡契約を締結した。さらに、同月19日、H社の代理人弁護士は、A1社の代理人弁護士に対し、丙案件の事業用地への立入りや関係者への接触等をやめるよう求める書面を送付した。これに対し、同年3月15日、A1社はH社に対し、丙案件の事業用地につい ての処分禁止の仮処分を申し立て、同仮登記がなされた。これにより、同月20日になされたH社からI社への丙案件の事業用地の所有権移転登記は、A1社の上記仮登記に劣後することになった。なお、同月以降、A1社の代表社員であるA3社は、H社及びI社との間で和解交渉をしたり、H社に対し訴訟提起等をしたりしたが、A3社が、丙案件に関し、周辺住民の同意を得て行政機関から許認可を取得し たり、金融機関からプロジェクトファイナンスを受けて発電所の建設に着手したりすることはなかった。 ⑸ア平成31年1月頃以降、E3は、被告人から、丙案件への10億円の出資及びそれに伴うアレンジメントフィーの支払を提案され、同年3月頃、「丙プロジェクト:開発融資について」と題する資料(以下「本件提案資料」という。)に基 づき丙案件の説明を受けた。本件提案資料中の「開発事業融資条件(案)」と題するスライドには、出資金の使途の内訳の概要と クト:開発融資について」と題する資料(以下「本件提案資料」という。)に基 づき丙案件の説明を受けた。本件提案資料中の「開発事業融資条件(案)」と題するスライドには、出資金の使途の内訳の概要として、「融資金額:10億円」「土地ID取得費:5.5億円開発に関する関係者支払い2.5億円開発経費:2億円」「融資期間:9~12カ月(林地開発許可を取得し、プロジェクトファイナンス本融資への切り替えまでの想定)」と記載されており、E3は、被告人から、 周辺住民の同意の取得が容易であり、プロジェクトファイナンスが実行されるまでの期間が短期間であるなどの説明を受けたが、H社との間で事業用地等を巡り法的紛争が生じていることに関する説明はされなかった。その後、E3は、A1社に対し、J銀行からE1社が融資を受ける5億円と、E3の知人であるK1が代表取締役を務める株式会社K2(以下「K2社」という。)からE1社が匿名組合契約に より出資を受ける5億円とを合わせた10億円を、E1社名義で出資することとし、 同年4月5日、E3、K2社の前記K1及びK3は、G1社のG2及びG3の案内により、丙案件の事業用地の現地視察を行った。この際、上記G2及びG3は、E3らに対し、事業用地の造成工事等について説明したほか、丙案件が取りまとめるのが楽で良質な案件である旨の説明をしたが、被告人の指示により、H社との間で法的紛争が生じていることに関する説明はせず、それがないように装って対応した。 イ被告人から丙案件への出資の金額についてE1社へのアレンジメントフィーを含めて10億円ではなく8億円で足りる旨の説明があったことから、E3及び被告人は、E1社からA1社の口座に振り込む方法により出資する10億円のうち、E1社へのアレンジメントフィーを1億8 トフィーを含めて10億円ではなく8億円で足りる旨の説明があったことから、E3及び被告人は、E1社からA1社の口座に振り込む方法により出資する10億円のうち、E1社へのアレンジメントフィーを1億800万円とし、これをE2社名義の口座に振り込むことや、余剰資金である2億円は必要があればA1社に戻すことを前提 にE3が管理し、これをA3社の口座を経由してE2社名義の口座に振り込むことを合意した。 ウ令和元年6月17日、E1社、A3社及びA1社は、E1社がA1社に10億円を出資し、A1社が金融機関からプロジェクトファイナンスを取得したことを条件にA3社がE1社の保有するA1社の持分の80パーセントを10億円で取得 する旨の「丙太陽光発電プロジェクトに関する売買及び開発契約書」に基づく契約(以下「3社間契約」という。)を締結した。 エ同日、E1社は、判示のA1社名義の口座に10億円を振り込んで出資し、A1社のほぼ100パーセントの持分を取得した(なお、前記⑴のとおり、A3社及び被告人が残り2円の持分を保有している。)。また、同日、A1社の定款が変 更され、E1社及びA3社がA1社の業務執行社員、E3及び被告人が各職務執行者となり、A3社がA1社の代表社員となった。さらに、E1社が受領するアレンジメントフィーについて、同日、A3社及びE2社は、A3社がE2社に丙案件の開発及び開発資金の調達に関する業務への報酬として1億800万円を支払う旨の「丙太陽光発電プロジェクトの開発に関する契約書」(以下「丙開発契約書」とい う。)に基づく契約を締結し、A3社は、A1社名義の口座から判示のA3社名義 の口座に1億800万円を振込送金した上で、それをE2社に支払った。また、A1社の余剰資金2億円についても、同月19日、A 基づく契約を締結し、A3社は、A1社名義の口座から判示のA3社名義 の口座に1億800万円を振込送金した上で、それをE2社に支払った。また、A1社の余剰資金2億円についても、同月19日、A3社は、上記と同様の方法でE2社に送金した。その結果、同日時点における判示のA1社名義の口座の残高は、6億9200万円余りとなった。 オなお、A1社の定款第8条は、業務の決定に関し、「当会社の業務は、業務 を執行する社員(以下「業務執行社員」という。)が決定する。その決定の方法は、業務執行社員が別途の合意により定める業務を除き、業務執行社員の全員の一致によるものとする。」と、同第12条は、報酬に関し、「当会社の業務執行社員及び当該業務執行社員の職務執行者は、当会社から報酬を受ける権利を有しないものとする。」と、同第15条は、利益相反取引の制限の免除に関し、「当会社の業務執 行社員及び当該業務執行社員の職務執行者は、自己又は第三者のために当会社と取引をすることができる。」と規定されている。また、3社間契約について、同契約書第1条及び第3条1項に、丙案件を行うことを目的としていること、丙案件を開始するにあたり必要となる金額として10億円を出資することが規定されている。 同第6条には関係者の役割分担が規定されており、E1社が業務執行社員として行 うべき業務は、「①A1社に出資した投資家への説明業務 ②本事業の開発に必要な契約業務 ③A3社(ただし、契約書上は「D2社」と記載されている。)と共同して、A1社の会計実務、印鑑及び銀行口座の管理業務」とされ、A3社が代表社員として行うべき業務は、「①本事業権利の元保有者とのやり取りに関する業務②本事業の開発に関する実務全般。特に、経済産業省とのやり取り、W社とのやり 取り、丙事業 務」とされ、A3社が代表社員として行うべき業務は、「①本事業権利の元保有者とのやり取りに関する業務②本事業の開発に関する実務全般。特に、経済産業省とのやり取り、W社とのやり 取り、丙事業用地所在地の自治体との許認可に関するやり取り、林地開発許可取得のためのコンサルティング会社等とのやり取りに関する業務 ③金融機関からのプロジェクトファイナンスの取得に向けたやり取りに関する業務 ④E1社と共同して、A1社の会計実務、印鑑及び銀行口座の管理業務」とされている。 ⑹ア前記⑸オのとおり、3社間契約では、A1社の会計実務、印鑑及び銀行口 座の管理業務は、E1社及びA3社が共同して行うとされていたが、A1社名義の 口座は、通帳や印鑑等を所持することでA3社、すなわち被告人が管理しており、同口座からの振込送金は、被告人の指示に従って、A3社の経理事務を担当するA5が行っていた。同口座からA3社名義の口座へ、令和元年8月6日に3000万円、同月16日に5000万円が振込送金されたほか、同年10月4日、同月10日及び同月24日に別表記載の各振込送金が行われたが(別表記載の各振込送金を まとめて、以下「本件各振込送金」という。)、A3社ないしその職務執行者たる被告人は少なくともE1社ないしその職務執行者たるE3の個別的な承諾を得ておらず、これらの振込送金の意思決定にE1社が関与する機会はなかった。 イ別表番号1記載の振込送金に係る1億1000万円は、振込当日である同月4日のうちにA3社の口座からA4社(なお、A4社は、A3社が開発に関与する、 丙案件とは別の太陽光発電事業(丁案件)を目的とする特別目的会社である。)名義の預金口座に1億500万円が振込送金された後、同日及び同月9日、同口座からL合同会社の口座に合計1億 関与する、 丙案件とは別の太陽光発電事業(丁案件)を目的とする特別目的会社である。)名義の預金口座に1億500万円が振込送金された後、同日及び同月9日、同口座からL合同会社の口座に合計1億700万円余りが振込送金され、A4社の上記L合同会社への借入金の返済に充てられた。また、同月4日にA3社の関連会社の口座に216万円余りが、同月8日にG1社の関連会社の口座に136万円余りが振込 送金された。 ウ別表番号2記載の振込送金に係る1億6000万円は、振込当日である同月10日のうちに、A3社名義の口座からA4社名義の預金口座に1億6280万円が振込送金された後、同口座から株式会社Mの口座に1億723万円余りが、N及びOの各口座へ合計5328万円余りが振込送金され、A4社の上記株式会社Mへ の借入金の返済及び上記N及びOが引き受けた社債の償還に充てられた。 エ別表番号3記載の振込送金に係る1億5000万円は、振込翌日である同月25日、被告人の当時の住居の家賃の支払に100万円が充てられたほか、A3社名義の口座からP1株式会社(旧商号はP2株式会社)、Q及び上記株式会社Mの各口座へそれぞれ2800万円、1億1000万円、1500万円が振込送金され、 A3社の借入金の利息ないし元利金の返済に充てられた。 オこのとおり、本件各振込送金に係る金銭は、いずれも丙案件の開発費用以外の使途に用いられた。また、本件各振込送金の結果、同月24日時点でのA1社名義の口座の残高は3921万円余りとなった。その後も、A1社名義の口座から、同年12月24日にG1社名義の口座へ2950万円が、令和2年1月28日にA3社名義の口座に800万円が振込送金された。 ⑺ア E1社のディレクターとして丙案件等に関与しA3社との連絡 から、同年12月24日にG1社名義の口座へ2950万円が、令和2年1月28日にA3社名義の口座に800万円が振込送金された。 ⑺ア E1社のディレクターとして丙案件等に関与しA3社との連絡役を務めていたE4は、E3の指示により、被告人及びA5に対し、令和元年7月10日から少なくとも概ね一月1回の頻度で、前月のA1社の支出について、A1社の口座の通帳の写し及び関連する証憑類の提出を求めるとともに、丙案件の進捗の報告を求めるメールを繰り返し送信した。これに対し、A5がA1社の口座の通帳の写し及 びA1社の出金の使途先をまとめた表を送信したことがあったが、被告人及びA5から、支出の都度事前の説明や事後の報告等をするということはしていなかった。 イ E4は、令和元年8月に二度にわたり行われたA1社名義の口座からA3社名義の口座への合計8000万円の振込送金(同年8月6日付け3000万円、同月16日付け5000万円)について、同月22日被告人から上記アの表の摘要欄 に「案件紹介者/キーマンへの手数料支払いとして」「開発業務(測量、設計、交渉)支払いとして」と記載されたものを受け取っていたところ、遅くとも令和元年10月11日までに、その使途先を示す証憑類の提出を求め、被告人ないし被告人の指示を受けたA5は、遅くとも同年10月30日までに、「開発業務費用(測量)税込 8000万円」と記載された同年8月5日付けのA1社宛てA3社名義の請 求書を提出した。また、E4は、A1社名義の口座からA3社名義の口座への同年9月20日の1億5000万円の振込送金についても、上記と同じ頃に使途先の説明や証憑類の提出を求め、被告人ないし被告人の指示を受けたA5は、同年10月17日、「事業ID購入費用 1億円仲介手数料(税込) 5000万円」 0万円の振込送金についても、上記と同じ頃に使途先の説明や証憑類の提出を求め、被告人ないし被告人の指示を受けたA5は、同年10月17日、「事業ID購入費用 1億円仲介手数料(税込) 5000万円」「売主及び案件紹介者への支払」と記載された同年9月20日付けのA1社宛てA3社 名義の1億5000万円の請求書を提出した。 ウさらに、E4は、本件各振込送金について、令和元年11月13日頃、使途先の説明や証憑類の提出を求め、被告人ないし被告人の指示を受けたA5は、同年11月28日、上記の同年8月6日及び同月16日の各振込送金及び本件各振込送金に対応するA3社宛てG1社名義の各請求書5通(大型太陽光発電事業開発業務委託費第1回から第5回までとするもの)を提出した。このほか、被告人ないし被 告人の指示を受けたA5は、いずれかの時点で、同年8月6日及び同月16日の各振込送金及び本件各振込送金に対応する、A3社がA1社から合計5億円を借り受けたとする旨の同年8月6日付け金銭消費貸借契約書を提出した。もっとも、同金銭消費貸借契約書は、被告人からドラフトとして提案されたものであったが、E3により、使途先を明らかにする証憑類としての合理性がないと判断された。 エ A3社からE1社に提出された以上の証憑類は、各作成日付の時点で丙案件の開発は進んでおらず、いずれも実際には行われていない取引や支払に関する内容虚偽のものであり、被告人がA3社又はG1社の従業員に依頼するなどして作成したものであった。少なくとも同年12月頃までに、被告人がE3に対し、A1社とA3社とが丙案件の開発に関し業務委託契約を締結することや、A1社の出資金を 丙案件の開発費用以外の用途に使うことについて、個別的な承諾を求めたことはなく、もとよりこれを得た に対し、A1社とA3社とが丙案件の開発に関し業務委託契約を締結することや、A1社の出資金を 丙案件の開発費用以外の用途に使うことについて、個別的な承諾を求めたことはなく、もとよりこれを得たこともなかった。 ⑻ 一方、A3社は、R株式会社(以下「R社」という。)に対し、丙案件の売却を持ち掛け、令和元年10月頃から同年12月頃にかけて、秘密保持契約を締結した上で、投資条件の交渉等を行っていたところ、デューデリジェンスとしてR社 からA1社に対し既存の契約の開示を求められた際、被告人は、後記⑽イ記載の丙業務委託契約書を提出していなかった。結局、R社による丙案件への投資は、令和元年中に実現しないことになった。 ⑼ア E3は、同年11月下旬頃から同年12月上旬頃、E4からの報告により、A1社名義の口座の残高が4000万円を下回った一方で、丙案件が進捗していな いようであることを把握して、同年12月12日、E4と共に、A3社の事務所を 訪問して被告人と面談し、丙案件の進捗や出資金の使途等について問い質した。 イ同月17日、被告人は、A5に指示して、E4に対し、前記⑺ウ記載のA3社宛てG1社名義の請求書5通に対応する、A1社宛てA3社名義の「開発業務費用」に関する請求書4通(同年8月5日付け8000万円、同年10月4日付け1億1000万円、同月10日付け1億6000万円、同月24日付け1億5000 万円)及びA3社宛てG1社名義の「大型太陽光発電事業開発業務委託費」に関する領収書5通(同年8月6日及び同月16日の各振込送金及び本件各振込送金に対応する日付及び金額のもの)を提出した。これらも、前記⑺記載の証憑類と同様に内容虚偽のものであった。 ウその後も、E3は、E4に指示して、被告人及びA5に対し、丙案件の 送金及び本件各振込送金に対応する日付及び金額のもの)を提出した。これらも、前記⑺記載の証憑類と同様に内容虚偽のものであった。 ウその後も、E3は、E4に指示して、被告人及びA5に対し、丙案件の進捗 状況の報告、A1社の支出に関する使途先の説明や証憑類の提出を求めるなどし、被告人は、A1社とG1社との間の金銭消費貸借契約書やA1社宛てA3社名義の領収書等を提出するなどしていたところ、E3は、令和2年3月6日、E4及びK2社の前記K3らと共に、A3社の事務所を訪問して被告人と面談をし、A1社の資金が回復していないことなどを詰問した。 ⑽アその後、遅くとも令和2年6月1日より前までに、E3は、公開されていた丙事業用地所在地の町議会議事録等から、A3社が指定業者から外されていることを把握するとともに、丙案件の事業用地及び事業権利がH社から第三者に譲渡されていた事実を知り、A1社とH社との間の法的紛争を認識した。令和2年6月1日、E3は、E4及びE1社の顧問弁護士であったS(以下「S弁護士」という。) と共に、A3社の事務所を訪問して被告人と面談をし、丙案件の事業用地及び事業権利が第三者に移転していることなどについて問い質した。 イ同年12月10日頃、A3社、A1社及び被告人は、E1社を相手方として、丙案件に関する民事調停を申し立てた。被告人らは、同手続において、証拠として、A1社がA3社に対し、丙案件の開発業務を委託し、その報酬として6億6009 万6000円を支払う旨の「20019年7月2日付け」「丙太陽光発電事業の開 発業務に関する契約」と題する書面(以下「丙業務委託契約書」という。)及び、G1社とA3社が丙案件の開発を共同で行い、G1社がA3社に対し、丙案件の開発業務の一部を業務委託し、その の開 発業務に関する契約」と題する書面(以下「丙業務委託契約書」という。)及び、G1社とA3社が丙案件の開発を共同で行い、G1社がA3社に対し、丙案件の開発業務の一部を業務委託し、その報酬として9092万円を支払う旨の平成30年9月21日付け「丙太陽光発電事業の開発業務に関する契約」と題する書面を提出した。丙業務委託契約書は、少なくとも上記の作成日付(ただし、「20019年」 は2019年のつもりで記載した誤記と考えられる。)の時点で作成されておらず、バックデートされたものであり、E3としては、これらの書面は上記の民事調停において初めて見せられたものであった。なお、E3は、E1社がA1社の業務の決定に同意していないとして、A1社に上記の民事調停申立てを取り下げさせたり、A1社の代理人としてT弁護士を選任することに異議を述べたりするということは なかった。 ウ令和3年4月頃、A3社は、E2社を被告として、A1社への出資金10億円のうちE3が管理することとなった余剰資金2億円について、A1社からE2社への貸付金であるとして返還を求める旨の貸金返還請求訴訟を提起した。 3 争点①(本件各振込送金が、A1社の被告人に対する委託信任関係に違背する 領得行為であるか否か)について⑴ア被告人による本件各振込送金は、E1社からA1社に対する出資金から行われているから、まず、同出資金の委託の趣旨について検討する。 この点について、E3は、公判廷において、平成31年3月頃、被告人から本件提案資料に基づき丙案件の説明を受け、現地視察を行うなどし、丙案件が極めて良 質で短期間で終わる優良な案件であると判断し、出資することにした、A1社への出資に当たり、被告人との間で、出資金の使途は丙案件の開発費用に限定されるとの合 視察を行うなどし、丙案件が極めて良 質で短期間で終わる優良な案件であると判断し、出資することにした、A1社への出資に当たり、被告人との間で、出資金の使途は丙案件の開発費用に限定されるとの合意があったと理解しており、出資金が他の事業等のために使われることは想定していなかったし、許容していなかった、出資金が丙案件の開発費用に充てられようと他の用途に使われようと、最終的に約束した利益が得られればよいという考え はなく、仮に丙案件以外の案件に流用する旨の説明を受けていたら出資しなかった、 出資により、E1社はA1社の業務執行社員となり、E3はその職務執行者となった、丙案件に先立つ甲案件では出資金が同案件の開発費用以外に充てられたということはなかったと認識していたので、3社間契約について、顧問弁護士であるS弁護士に依頼し、甲案件と同様、出資金の使途先を限定する趣旨の規定や出資金が外部に流出することを防ぐ規定が盛り込まれていることを確認した、具体的には、3 社間契約第1条及び第3条には、丙案件を目的として、その出資金が丙案件の開発費用に充てられる旨が規定されている、同第6条に関係者の役割分担が規定されており、同条1項②契約業務の規定は、E1社が、不当な契約が締結されないようモニタリングする趣旨であり、同③会計実務、印鑑及び銀行口座の管理業務の規定は、E1社が、A1社の口座から不正な支出がされないようモニタリングする趣旨であ る、もっとも、被告人から日々の実務は任せてくださいと言われたため、被告人を信用して、A1社の業務のうち事前に合意された範囲である丙案件の開発費用に関わる日々の契約業務や口座管理の実務に限り被告人の判断で行ってもらうこととしたが、E1社としても、同条1項②、③について、E4が被告人らA3社に対して ち事前に合意された範囲である丙案件の開発費用に関わる日々の契約業務や口座管理の実務に限り被告人の判断で行ってもらうこととしたが、E1社としても、同条1項②、③について、E4が被告人らA3社に対して、定期的に丙案件の進捗及びA1社の資金の使途先について資料の提出やそれに関す る説明を求めており、A1社の業務の決定に参加する意思を有していた旨供述する。 イそこで、E3の前記供述の信用性について検討すると、まず、E3が被告人から示された本件提案資料を子細にみても、丙案件の開発費用以外の案件や費用への言及は見当たらない。同資料に記載された出資金の使途の内訳は概算であり、出資金額も10億円から8億円に変更されているが、そのことが丙案件の開発費用以 外の使途を許容するものとは考えられない。また、E3は、共同出資者であるK2社の前記K1及びK3と共に、丙案件の事業用地の現地視察を行い造成工事等について説明を受けた上で、A1社への10億円の出資を行ったものであり、3社間契約第3条には、E1社が、丙案件に係る事業を開始するにあたり必要となる金額として10億円を出資する旨の規定が置かれ、丙案件への出資であることが明記され ている。さらに、E3と被告人との間では、丙案件に先立つ乙案件において、E3 が被告人から出資の提案を受けたが、開発許認可の取得や地上げの完了時期が不確定で案件の終了時期が見通せなかったことから出資せず、資金調達のアレンジャーとして、被告人にF社を紹介するという関与にとどめたという経緯もあった。かかる出資に至る経緯や3社間契約の内容等に照らせば、E3は、案件ごとにリスクとリターンを考慮した上で、丙案件が優良な案件であると判断し、出資金の使途が丙 案件の開発費用に限定されるという前提の下で出資を行ったとみる 3社間契約の内容等に照らせば、E3は、案件ごとにリスクとリターンを考慮した上で、丙案件が優良な案件であると判断し、出資金の使途が丙 案件の開発費用に限定されるという前提の下で出資を行ったとみるのが自然かつ合理的である。 さらに、E3は、特別目的会社であるA1社への出資という形式で出資金を提供しているところ、企業法務、とりわけ特別目的会社を使ったスキームについて専門知識、経験を有するS弁護士及びU弁護士(以下「U弁護士」という。)の各供述に よれば、少なくとも特別目的会社を用いる目的の一つとして、他の事業の影響を受けないようにすることがあると認められるから、E3がかかる形式で出資を行ったことも、出資金が丙案件の開発費用に限定され、それ以外の事業等のために流用されることを許容していなかったことと整合する。加えて、3社間契約第6条に定められた関係者の役割分担について、S弁護士の公判供述によれば、業務執行社員が、 担当業務に関し、他の業務執行社員に日々のデイリーワーク、すなわち日常的な実務を任せてその遂行状況の監督、すなわちモニタリングを行うということは不自然でないというのであり、E3の前記供述は、かかる実情に照らして合理的なものである。また、E3の前記供述によれば、E3はA1社の業務のうち丙案件の開発費用に関わる日常的な契約業務や口座管理の実務に限り被告人の判断に任せることと したことが認められるが、その一方で、E3は、前記2⑺のとおり、E4に指示して、A3社に対し、E1社による10億円の出資のほぼ直後から、定期的に丙案件の進捗を確認し、A1社の支出について使途先の説明や証憑類の提出を繰り返し求めたことが認められるところ、これらのE3及びE4の行動は、E1社からA1社への出資金の使途が丙案件の開発費用に限定され、他の 進捗を確認し、A1社の支出について使途先の説明や証憑類の提出を繰り返し求めたことが認められるところ、これらのE3及びE4の行動は、E1社からA1社への出資金の使途が丙案件の開発費用に限定され、他の事業への流用が許されてい ないことを前提として、それに反する契約や支出が行われておらず、丙案件が適正 に進められていることを確認、監督するために行っていたものと認められ、E3が前記のとおり丙案件の開発費用に関わる一部の日常的な実務に限り被告人の判断に任せることとしたことが、被告人に対し丙案件の開発費用以外の事業や費用等の使途に出資金を使用することを許容したものなどとは到底解されない。 ウ以上のような3者間契約の内容、出資の形式、出資に至る経緯及び出資後の 行動に照らし、E3の前記供述は極めて自然かつ合理的で十分に信用することができ、E1社は、A1社に対する出資金の使途は丙案件の開発費用に限定しており、A3社ないし被告人が同出資金を丙案件の開発費用以外の使途に用いることを許容していなかったものと認められる。そして、以上の事情は、被告人にも当てはまるものである上、前記2⑺及び後記4⑴のとおり、被告人が、E3の指示を受けたE 4から、本件各振込送金等の使途先の説明や証憑類の提出を求められた際、丙案件の事業ID購入の費用に充てたように装う旨の内容虚偽の請求書等数枚を証憑類として提出するなどしたことを併せ考慮すると、被告人も、A1社に対する出資金の使途は丙案件の開発費用に限定されており、丙案件以外の使途に用いることは許容されていないことを認識し、了解していたものといえ、E3と被告人との間、すな わちE1社とA3社との間には、出資金の委託の趣旨として、その使途は丙案件の開発費用に限定されるとの合意があったと認められる。そ ことを認識し、了解していたものといえ、E3と被告人との間、すな わちE1社とA3社との間には、出資金の委託の趣旨として、その使途は丙案件の開発費用に限定されるとの合意があったと認められる。そして、丙案件の開発費用として支出が許容されていた範囲が具体的にどのようなものであったか、取り分けその外縁を明示するのは必ずしも容易でないものの、少なくとも丙案件の開発費用と全く無関係の使途に用いるための支出がそこに含まれないことは明らかであると ころ、本件各振込送金は、A3社及びA4社の債務の弁済等の目的で行われたものと認められ、丙案件の開発費用と全く無関係の使途に用いるための支出であることは明らかであるから、E1社からA1社への出資金の委託の趣旨に反する行為であると認められる。 ⑵アしかも、このようなA1社への委託の趣旨に反する行為である本件各振込 送金を、被告人は、A1社の代表社員であるA3社の職務執行者であるとはいえ、 A1社の業務執行社員であるE1社の同意を得ることなく、単独で行っている。しかし、E1社の出資に伴って変更されたA1社の定款によれば、前記2⑸オのとおり、同第8条は、同社の業務の決定は業務執行社員が行うこと、その方法は、業務執行社員が別途の合意により定める業務を除き、業務執行社員全員の一致によることを定めており、本件各振込送金に係る業務の決定も、同条により業務執行社員が 行うべき業務の決定に含まれ、業務執行社員全員の一致によるべきものと解される。 また、3社間契約第6条は、関係者の役割分担として、E1社及びA3社が行う業務について定めており、これが上記別途の合意に当たるとみる余地はあるにせよ、その内容をみても、A1社の会計実務をE1社とA3社が共同して行うこととされている一方、A3社の業務とされ びA3社が行う業務について定めており、これが上記別途の合意に当たるとみる余地はあるにせよ、その内容をみても、A1社の会計実務をE1社とA3社が共同して行うこととされている一方、A3社の業務とされているのは、丙案件の事業権利の元保有者とのや り取りに関する業務、事業の開発に関する実務全般及び金融機関からのプロジェクトファイナンスの取得に向けたやり取りに関する業務であって、同条によって本件各振込送金に係る業務の決定をA3社が単独で行うことが許容されているとは解し得ない。さらに、本件各振込送金の業務の決定は、その金額、使途や目的等に照らし、E3が被告人の判断に任せていたとされる丙案件の開発費用に関わる日常的な 契約業務や口座管理の実務に含まれないこともまた明らかである。 イしたがって、A1社が本件各振込送金を行うとの業務の決定は、業務執行社員たるA3社と同E1社とが全員一致で行うべきもの、すなわちE1社の同意を要するものであったと認められ、本件各振込送金は、出資金の委託の趣旨に反し、被告人がその権限がないのに行った権限逸脱行為であると認められる。 ⑶アこれに対し、弁護人及び被告人は、E1社にとって丙案件は投資案件であり、実務に対応すべきスピードの観点からも、E1社がA1社の事業に関する業務の決定を行うことは想定されておらず、3社間契約第6条や定款第8条は形骸化していた、このため、A3社はE1社から、A1社の代表社員として開発業務を実施する上で必要な契約を締結することを許容されていたところ、A1社の代表社員た るA3社は、本件各振込送金に先立ち、開発会社であるA3社との間で、A1社が A3社に対して丙案件の開発業務を委託し、その対価として6億6009万6000円を支払う旨の業務委託契約を締結しており、 は、本件各振込送金に先立ち、開発会社であるA3社との間で、A1社が A3社に対して丙案件の開発業務を委託し、その対価として6億6009万6000円を支払う旨の業務委託契約を締結しており、本件各振込送金はこれに基づく業務委託報酬として支払われたものである、したがって、その使途はE1社の同意を得ずにA3社が自由に決定することができる、E3は、過去に同様のスキームを用いたA3社との案件に関わったことなどを通じて、A1社とA3社との間で業務委 託契約が締結され、業務委託報酬が支払われることを、遅くともA1社への出資の時点から認識していた旨主張供述する。 イそこで、まず、A1社の代表社員たるA3社が、A1社の業務執行社員たるE1社の同意を得ずに単独で、A3社との間の業務委託契約を締結することができるのかについて、3社間契約第6条や定款第8条が形骸化していたかどうかをみる と、E3は、その公判供述によれば、A1社の業務のうち丙案件の開発費用に関わる日常的な契約業務や口座管理の実務に限り被告人の判断に任せることにしたとはいうものの、その一方で、前記のとおり、E4に指示して、A3社に対し、定期的に丙案件の進捗を確認し、A1社の支出について使途先の説明や証憑類の提出を繰り返し求め、出資金の委託の趣旨に反する契約や支出がなされないよう確認し、監 督するなどしていた。弁護人は、E3及びE4は、被告人から提出された証憑類はいずれも金額の大きなずさんなものであったのに、提出時にその内訳等を追及しておらず、E1社による業務の執行は形骸化していた旨指摘するが、E3及びE4は、追加の使途先の説明や証憑類の提出を繰り返し求めていて決してそのまま受け入れるなどしておらず、仮に提出時にその内訳等を追及していない証憑類があったとし ても、 た旨指摘するが、E3及びE4は、追加の使途先の説明や証憑類の提出を繰り返し求めていて決してそのまま受け入れるなどしておらず、仮に提出時にその内訳等を追及していない証憑類があったとし ても、それはその時点で使途が丙案件の開発費用であるなどと判断されたからなのであって、E1社は、その実態として名目的な業務執行社員などではなく、3社間契約第6条1項に定められた業務執行社員としての業務を同条項の趣旨や目的に沿う形で行っていたものと認められる。また、E3の前記供述によれば、A1社の業務の決定は、E1社との事前の合意の下でA3社に任されていた部分があることに はなるが、事前の合意がある以上、これはあくまで業務の決定は業務執行社員全員 の一致によるという定款第8条の定めの範ちゅうに属するものであってこれを逸脱するものでなく、E1社の同意なくA3社が単独で業務の決定を行うことまでが想定されていたとは認められない。したがって、3社間契約第6条及び定款第8条が形骸化していたとは到底いえない。 そうすると、A1社の定款及び3社間契約によれば、前記2⑸オのとおり、A1 社の定款第8条において、同社の業務の決定は業務執行社員の全員の一致によるものとされ、3社間契約第6条においても、事業の開発に必要な契約業務はE1社が行うこととされているから、被告人がA1社とA3社との間で業務委託契約を締結するにはE1社の同意が必要であり、被告人が単独でこれを行うことはできない。 そして、上記業務委託契約の締結について、E1社が個別の同意をしていないこ とは、E3及び被告人の各公判供述から明らかに認められる。また、E3と被告人との間には、前記⑴のとおり、出資金の委託の趣旨として、その使途は丙案件の開発費用に限定されるとの合意があったと認められる とは、E3及び被告人の各公判供述から明らかに認められる。また、E3と被告人との間には、前記⑴のとおり、出資金の委託の趣旨として、その使途は丙案件の開発費用に限定されるとの合意があったと認められるところ、被告人が締結したと供述するA1社とA3社との間の業務委託契約は、丙業務委託契約書によれば、形式的には、丙案件の開発費用の支出とみる余地のある体裁になってはいるにしても、 その内容は、実質的には、E1社からの出資金の大半に当たる約6億6000万円について、A3社、ひいてはその代表者である被告人が用途を問わず自由に使うことを許容し、いわば被告人に無担保で貸し付けるのと同様の状態に置くものなのであって、そのような内容の契約の締結を、E3すなわちE1社が容認することなどおよそあり得ないというべきであり、被告人がこのことを認識していなかったなど とは到底考えられない。 ウこれに対し、弁護人及び被告人は、前記アのとおり、丙案件に先立って被告人が手掛け、E3も関与した甲案件及び乙案件においても、特別目的会社が開発事業者に対して開発業務を委託し、その対価として報酬を支払う旨の業務委託契約が締結されていたから、これらの案件と同じスキームを踏襲して行われた丙案件にお いても同様の業務委託契約を締結することは被告人とE3との間で当然の前提とな っていた旨主張供述する。 しかし、甲案件に関して、甲開発契約書第2条において、A6社がE1社又はE1社が指名する開発に関する業務を行う者に対し、報酬として、2回に分けて1億5000万円と1億円の合計2億5000万円を支払うことが定められ、このうち2回目の1億円は被告人とE3との合意によりA3社に支払われたことが認められ、 このことはE3も認識していたと考えられるものの、上記の金銭の の合計2億5000万円を支払うことが定められ、このうち2回目の1億円は被告人とE3との合意によりA3社に支払われたことが認められ、 このことはE3も認識していたと考えられるものの、上記の金銭の支払は、E1社とA3社との間で事前に合意され、契約書にも金額及び支払時期等に関する一定の規定が設けられていた一方で、丙案件においては、E1社とA3社との間で、A3社に開発業務を委託し開発業務委託報酬を支払う旨の具体的な合意があったとの事情は全くうかがわれず、3者間契約に係る契約書や丙開発契約書上も、A3社に対 する業務委託報酬の支払に関する記載は一切見当たらないのであって、この点で、甲案件と丙案件とは大きく異なる。また、乙案件に関しても、乙開発契約において、A7社がA3社に対し、3回に分けて合計11億5000万円を支払うことが定められ、実際にその支払が行われたことが認められるものの、乙案件へのE3の関与は、前記2⑶のとおり、資金調達によるアレンジメントフィーを受領したにとどま るから、上記の事情を認識していたかは定かでない上、仮にこれを認識していたとしても、上記の金銭の支払も契約書による合意があるという点で、丙案件とは大きく異なる。これらの点について、弁護人及び被告人は、甲案件の際に、A3社とE1社との間で業務委託報酬を支払う旨の合意をし、契約書にも規定を設けたのは、A3社とE1社以外に別の開発会社が関与しており、同社を通じてA3社が報酬を 得ることにすると、関係者間の力関係により、A3社が報酬を得られなくなる可能性があったので、E1社へのアレンジメントフィーの中からA3社の報酬を支払うというスキームを用いるため、E1社との間で明示的にA3社の報酬を定める必要があったとして丙案件との違いを指摘し、その一方で、丙案件の際に、A 1社へのアレンジメントフィーの中からA3社の報酬を支払うというスキームを用いるため、E1社との間で明示的にA3社の報酬を定める必要があったとして丙案件との違いを指摘し、その一方で、丙案件の際に、A3社の報酬を明示的に定めなかったのは、A3社の利益率を明らかにしてしまうと、E1社 からA3社の報酬の減額やE1社のアレンジメントフィーの増額を依頼される可能 性があったからである旨主張供述するが、丙案件について、業務委託報酬を支払う旨の具体的な合意をせず契約書上の規定を置かなかった理由について納得できる説明とはいい難く、いずれにせよ、これらの具体的な合意や規定がないという事実に変わりはない。 エ以上によれば、丙案件について、E1社からA1社への出資の時点で、業務 委託報酬の支払に関する合意はなく、E1社及びA3社は、別途新たに合意して報酬を支払うことはあり得るにせよそうした場合を除き、A3社が行う開発業務に対する報酬をA1社への出資金から支払うことは予定しておらず、E1社としては、被告人が述べるような業務委託契約の締結にはおよそ同意していなかったと認められる。 オなお、弁護人及び被告人は、丙案件において、A1社とA3社との間で業務委託契約を締結することが、E3と被告人との間で当然の前提になっていなかったのだとすると、A3社は完全成功報酬という形で丙案件を進めていたということになるが、そもそも開発会社が案件を進めるためには、土地の取得等に要する実費だけでなく、開発会社が存続するために必要な運営費等も必要になるから、特別目的 会社が開発会社へ支払う業務委託報酬は、開発に要する実費だけでなく、開発会社の利益も上乗せした金額となる、A3社としても、各特別目的会社から受領した業務委託報酬をその時々のA3社の資 別目的 会社が開発会社へ支払う業務委託報酬は、開発に要する実費だけでなく、開発会社の利益も上乗せした金額となる、A3社としても、各特別目的会社から受領した業務委託報酬をその時々のA3社の資金需要に応じて、A3社の運営費や他の案件の開発費用等に使うことがあったが、これは、複数のプロジェクトを手掛ける開発会社において一般的な実務であり、A3社のビジネスモデルである、丙案件において も、E3に対し、完全成功報酬であるなどという話はしていない旨主張供述する(なお、この点について、弁護人は、弁論要旨において、主として出資金の委託の趣旨に関する項で論じているが、業務委託契約の締結を前提としていることから、ここで検討することとする。)。 この点、U弁護士は、公判廷及び意見書において、業種の別を問わず完全成功報 酬の約束で業務を受託することは極めてリスクが高く稀であり、特に、成功しない リスクが高く開発期間も長期にわたり種々のコストがかかる太陽光発電の開発事業でそのような形式をとることは実務上考え難い旨供述する。しかし、3社間契約及びA1社の定款の内容を検討しても、丙案件の開発が売電収入を得られる状態に至るまでA3社が無報酬で開発業務を遂行しなければならないことまでが想定されているわけではなく、プロジェクトファイナンスを獲得したタイミングで、A1社と 新たに業務委託契約を締結するなどして報酬を取得することは排除されていないと解される(この点で、検察官が冒頭陳述において論じていた、A1社の定款第12条により、A1社の各業務執行社員及び職務執行者は、たとえ業務委託契約を有効に締結しても、3社間契約に定められた各業務執行社員の業務に包摂される内容に関する業務の報酬を受け取ることは許されない旨の主張は、採用できない。)。実 社員及び職務執行者は、たとえ業務委託契約を有効に締結しても、3社間契約に定められた各業務執行社員の業務に包摂される内容に関する業務の報酬を受け取ることは許されない旨の主張は、採用できない。)。実 際、甲案件におけるA3社に対する開発業務委託報酬の1億円も、合意の時期は異なるものの、支払自体はプロジェクトファイナンスを獲得した後に行われているのであり、丙案件においても、プロジェクトファイナンスを獲得した段階で、E1社の同意を得て、A3社がA1社と業務委託契約を締結するなどして報酬を取得する余地は十分にあったといえる。しかも、丙案件は、本件提案資料等によると当初の 予定では9ないし12か月間という比較的短期間でプロジェクトファイナンスを獲得できることが想定されていたと認められるから、A3社としては、その段階で報酬を取得することを見越して、E1社からの出資金の得やすさを優先し、E1社による当初の出資金からは報酬を得ず、開発費用の償還のみを受けることとして開発業務を開始したとしても特段不自然ではない。よって、U弁護士の上記供述を踏ま えても、E1社が出資を行うに当たり、A1社がA3社に開発業務を委託して出資金から業務委託報酬を支払うことが当然の前提となっていたとは認められない。弁護人及び被告人の上記主張及び供述は採用できない。 また、E1社による出資の時点で、将来的にA1社とA3社との間で丙案件の開発費用に関し何らかの業務委託契約が締結されること自体は想定されていた可能性 があるとしても、金額や支払時期といった業務委託契約の根幹となる内容すら定ま っていない状態で、E1社がその契約締結に同意していたなどとは到底解し得ない。 カ以上によれば、A1社とA3社との間で業務委託契約を締結することについて、E1社は 幹となる内容すら定ま っていない状態で、E1社がその契約締結に同意していたなどとは到底解し得ない。 カ以上によれば、A1社とA3社との間で業務委託契約を締結することについて、E1社は明示、黙示を問わず同意しておらず、被告人は単独で同契約を締結する権限を有していなかったものと認められる。 キまた、そもそもA1社とA3社との間で被告人が供述する業務委託契約が締 結されていたのかについても検討しておくと、丙業務委託契約書は、本件が紛争になった後にいわゆるバックデートで作成されたものであり、本件各振込送金時に存在していなかったことは被告人自身も認めている。しかも、仮に出資金の委託の趣旨が丙案件の開発費用に限定されておらず、本件各振込送金が業務委託契約に基づくものなのであれば、被告人がE3に対してその旨を説明することに特段支障はな いはずであるのに、E3及びE4の各公判供述その他の関係証拠によれば、被告人は、E3やE4から本件各振込送金の使途先等について明らかにするよう求められた際、前記2⑺のとおり、丙案件の事業ID購入の費用に充てたように装う旨の内容虚偽の請求書等を証憑類として提出するなどし、A1社とA3社との間の業務委託契約に基づく業務委託報酬として支払ったものである旨の説明は一切していなか ったばかりか、ドラフトであるとはいえ、業務委託報酬としての支払とは明らかに矛盾するものであるA1社とA3社との間の5億円の金銭消費貸借契約書を提示するなどしたことが認められる。加えて、被告人は、少なくともA3社内ではA1社とA3社との間で業務委託契約を締結した旨の説明をするのに何らの支障もなかったはずであるのに、A5やA8らA3社の従業員に対しても、その旨の説明をして いたようには見受けられない(なお、弁護人及び被 社との間で業務委託契約を締結した旨の説明をするのに何らの支障もなかったはずであるのに、A5やA8らA3社の従業員に対しても、その旨の説明をして いたようには見受けられない(なお、弁護人及び被告人の主張及び供述によれば、A1社の決算報告書にはA3社への業務委託報酬が計上されているというのであるが、これが作成されたのは遅くとも令和2年2月末頃までというのであり、少なくともこの頃まではA3社内でも上記のような説明をしていた形跡は見受けられない。 また、仮にこの決算報告書にA3社への業務委託報酬が計上されているのだとして も、本件各振込送金時における業務委託契約の存在を的確に裏付けるものとはいえ ない。)。 この点、被告人は、公判廷において、前記2⑼ア記載の令和元年12月12日のE3らとの面談の際、本件各振込送金について業務委託契約に基づく報酬の支出である旨の説明をしたと供述する。しかし、仮にそのような事実があったのであれば、E3は直ちに強く反論し、業務委託契約書の提示を求めるとともに、契約の無効を 主張するなどの対応をとったと考えられるところ、E3がそのような対応をとったことは証拠上一切うかがわれず、そればかりか、E3の公判供述によれば、被告人は当初は否認していたが、寄り添うようにすると出資金の一部流用を認めたというのであり、被告人の上記供述は信用できない。また、弁護人及び被告人は、被告人が上記の内容虚偽の証憑類の提出をしたのは、E4はK2社やJ銀行といったE1 社の出資元に提出するための証憑類を求めているのだと考え、場当たり的に粗雑な証憑を作成して交付したに過ぎない旨主張供述する。しかし、内容虚偽の証憑類の提出は相当な期間に及んでいて、場当たり的な対応などとは考え難い上、仮にそのように考えていたのだとしても 場当たり的に粗雑な証憑を作成して交付したに過ぎない旨主張供述する。しかし、内容虚偽の証憑類の提出は相当な期間に及んでいて、場当たり的な対応などとは考え難い上、仮にそのように考えていたのだとしても、被告人は、E1社の出資元には説明しない前提でE1社に対し業務委託契約を締結している旨を端的に説明することに特に支障はな かったはずであるのに、そのようにせず、そればかりか、既に見たとおり、業務委託報酬としての支払とは明らかに矛盾するものであるA1社とA3社との間の5億円の金銭消費貸借契約書等まで提出するなどしているのであって、弁護人及び被告人の上記主張及び供述は採用できない。 以上の事情に照らすと、少なくとも本件各振込送金が行われた時点において、被 告人自身も、A1社とA3社との間で業務委託契約を締結する意思を有しておらず、それに基づいて本件各振込送金を行ったとの認識も有していなかったものと認められ、被告人が締結したと供述するA1社とA3社との間の業務委託契約はそもそも締結されていなかったものと認められる。 クよって、本件各振込送金がA1社とA3社との間の業務委託契約に基づく業 務委託報酬の支払として行われたものであるとの弁護人及び被告人の主張及び供述 は採用できない。 ⑷ 以上によれば、被告人は、その権限がないにもかかわらず、A1社からの出資金の使途を丙案件の開発費用に限るとの委託により業務上占有していたA1社名義の預金口座から、その委託の趣旨に反し、丙案件の開発費用とは全く無関係の使途に用いるための支出である本件各振込送金を行ったものと認められ、かかる被告 人の行為が業務上横領罪に該当することは明らかである。なお、被告人はA1社の代表社員たるA3社の職務執行者ではあるが、既に見たとおりの理由から単独で 各振込送金を行ったものと認められ、かかる被告 人の行為が業務上横領罪に該当することは明らかである。なお、被告人はA1社の代表社員たるA3社の職務執行者ではあるが、既に見たとおりの理由から単独で本件各振込送金を行う権限はないから、仮に何らか犯罪が成立するにしても権限濫用による背任罪の成立にとどまるとの弁護人の主張は採用できない。 4 争点②(被告人の業務上横領罪の故意及び不法領得の意思の有無)について ⑴ 被告人が、本件各振込送金について、自己に権限がなく、A1社との間の委託信任関係に違背するものであるとの認識を有していたか、すなわち、被告人の業務上横領罪の故意及び不法領得の意思の有無について検討する。 前記3⑴のとおり、E3と被告人、すなわちE1社とA3社との間で、E1社からA1社への出資金の委託の趣旨が丙案件の開発費用に限定されているとの合意が あり、被告人も、少なくとも本件各振込送金のような丙案件の開発費用と全く無関係の使途に用いるための支出をE1社の同意なく行うことができないことを十分に認識していたものと認められる。前記3⑶キのとおり、被告人は、E3の指示を受けたE4から、本件各振込送金等の使途先の説明や証憑類の提出を求められた際、実際には支払が行われていない「事業ID購入費用及び仲介手数料(税込)」と記 載されたA1社宛てA3社名義の合計1億5000万円の請求書を含む、内容虚偽の請求書等複数枚を提出しているところ、これらの証憑類の提出は、その記載内容に照らし、本件各振込送金を含む多額の振込送金が丙案件の関連費用に使われていて、丙案件が進捗しているように装う目的でなされたものと認められ、被告人が上記のような認識を有していたことを強く裏付けている。加えて、仮に被告人が本件 各振込送金にE1社の同意が に使われていて、丙案件が進捗しているように装う目的でなされたものと認められ、被告人が上記のような認識を有していたことを強く裏付けている。加えて、仮に被告人が本件 各振込送金にE1社の同意があったとかE1社の同意は必要ないなどと誤信したと か、E1社からA1社への出資金の委託の趣旨を認識しておらず丙案件の開発費用以外の使途にも使用できるなどと誤信したとかであれば、E3やE4に対し、内容虚偽の証憑類の提出などせず、端的にその旨の説明をすれば足り、それをするのに特に支障などなかったのにそのようにしていない。さらに、いくら被告人がE3から丙案件の開発費用に関わる一部の日常的な実務に限り判断を任されていたとはい っても、被告人が述べる業務委託契約の締結は、その金額等に照らし、日常的な実務に該当すると誤信することなどおよそあり得ないものであって、その他被告人が上記のように誤信したことをうかがわせるような事情もない。 これに対し、被告人は、本件各振込送金はA1社とA3社との間の業務委託契約に基づいて行われたものであり、その使途は限定されていないと認識していた旨供 述するが、かかる業務委託契約が締結されていなかったことは既に認定したとおりであり、このことを被告人は当然に認識していたといえる。また、被告人は、E1社の同意がなければ、A1社とA3社とが開発に関する契約の締結をすることができないと考えたことはなかったなどとも供述するが、仮にそうなのであれば、既に見たとおり、E3やE4に対し、A1社とA3社との間で業務委託契約を締結した などと説明すれば足りたのであり、そのようにせずに内容虚偽の請求書等の証憑類を提出するのみであったという被告人の行動に照らせば、到底信用できるものではない。 したがって、被告人が、本件各振込 などと説明すれば足りたのであり、そのようにせずに内容虚偽の請求書等の証憑類を提出するのみであったという被告人の行動に照らせば、到底信用できるものではない。 したがって、被告人が、本件各振込送金について、出資金の使途を丙案件の開発費用に限るとのA1社との委託信任関係に反するものであり、自己にこれを行う権 限がないことを認識していたのは明らかであり、被告人には、業務上横領罪の故意が優に認められる。 ⑵ また、弁護人は、A3社は丙案件の開発会社であり、A3社の経営が立ち行かなくなることは丙案件の失敗を意味するから、A3社を存続させて丙案件を仕上げることはA1社にとって理にかなった行動であり、かかる意図で行われた本件各 振込送金について、被告人がA1社との関係で不法領得の意思を有していたとは認 められないと主張する。 しかし、被告人による各振込送金は、被告人自身が経営するA3社やA4社の債務の弁済等を目的とする合計4億2000万円にも及ぶものであって、これに不法領得の意思がないなどとはおよそ考えられない上、仮にA3社に対する金銭の支払が、弁護人が主張する意味において、結果的にA1社にとって合理性を有するもの となる可能性がある行為であったとしても、それを行うか否かの判断はA1社の業務の決定として業務執行社員全員の一致によらなければならないのであって、そのような有効な意思決定を経ることなくまさしく独断で本件各振込送金を行った被告人に、不法領得の意思が認められるのは明らかである。 ⑶ 以上によれば、被告人には、業務上横領罪の故意及び不法領得の意思が認め られる。 5 結語その他弁護人及び被告人の主張及び供述を踏まえて本件証拠関係を慎重に検討してみても、上記の認定を揺るがすものはないから、被告人には、 領罪の故意及び不法領得の意思が認め られる。 5 結語その他弁護人及び被告人の主張及び供述を踏まえて本件証拠関係を慎重に検討してみても、上記の認定を揺るがすものはないから、被告人には、判示のとおり業務上横領罪が成立すると疑いなく認められる。 (量刑の理由)被告人は、丙案件という太陽光発電開発事業を目的とする特別目的会社であるA1社の業務を執行する代表社員であるA3社の職務執行者として、A1社の出資者でありかつA3社と共に業務執行社員を務めるE1社から、契約や支出等のモニタリングを前提にA1社の口座管理等に関する日常的な実務を任されていたことを奇 貨として、使途を丙案件の開発費用に限るとの委託により業務上占有していたA1社の出資金を、それとは全く無関係の使途に流用すべく本件各振込送金を行ったものであり、本件は、委託者の信頼を裏切る悪質な犯行である。被害総額は4億2000万円と非常に多額であり、結果は重大である。被害弁償が全くされていないことも併せ考えると、A1社のほぼ100パーセントの持分を有するE1社の代表者 であるE3が厳しい処罰感情を有するのも当然である。被告人は、本件各振込送金 により移動させた出資金を、自己が経営するA3社及び同社が関与する別事業を行う関連会社であるA4社の債務の弁済等に充てており、個人的な遊興費として費消する目的で横領した事案とは異なるものの、結局のところ、自己の利益を図るためにした利欲的かつ身勝手な犯行というべきなのであって、動機に酌量すべき事情は乏しい。この点、弁護人は、被告人が丙案件の開発を成就させるためにその前提と なる事業権利者らとの紛争解決に向けて一定の努力をしていたことや、開発会社であるA3社の存続が結果的に丙案件の開発の成功につながる可能性があ は、被告人が丙案件の開発を成就させるためにその前提と なる事業権利者らとの紛争解決に向けて一定の努力をしていたことや、開発会社であるA3社の存続が結果的に丙案件の開発の成功につながる可能性があったことなどを主張しており、これらの事情や可能性自体は必ずしも否定されないものの、本件各振込送金自体は丙案件を進捗させるのに何ら寄与するものではないのであって、量刑上さほど考慮すべき事情ではない。また、弁護人は、太陽光発電開発事業はハ イリスクハイリターンの投資であり、E1社はA3社の関与する複数の太陽光発電開発事業から多額の利益を得ていたなどとも主張するが、E1社は使途を丙案件の開発費用に限定する趣旨でA1社に出資をしたのであるから、丙案件の成否に係るリスクは負うべきであるにしても、丙案件とは全く無関係の使途に用いる目的で行われた本件各振込送金による不利益を負わされるいわれはないし、E1社が丙案件 以外の案件で得た利益は本件とは全く関係がないから、上記の事情は量刑上酌むべきものとは認められない。 以上によれば、被告人の刑事責任は重い。 以上の犯情に加えて、被告人が、前記のとおり公訴事実を否認し無罪を主張しつつも、会社経営者として、本件各振込送金等によりE1社に多額の損害を与えたこ とや、内容虚偽の証憑類を提出するなどしたビジネス上の不誠実な対応について、反省及び謝罪の弁を述べるとともに、既に会社を手放し、今後は太陽光発電開発事業には関わらないつもりである旨述べていること、被告人に前科がないこと、被告人の元配偶者が被告人を監督する旨の陳述書を提出していることなどの被告人に有利な一般情状も併せ考慮して、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断し た。 (求刑懲役8年)令和7年1月17日東京地 旨の陳述書を提出していることなどの被告人に有利な一般情状も併せ考慮して、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑懲役8年) 令和7年1月17日 東京地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官坂田威一郎 裁判官水越壮夫 裁判官竹内瑞希 別表 年月日 振込送金の目的 振込送金額 令和元年10月4日 A4合同会社の債務の弁済等に費消する目的 1億1000万円 同年10月10日 A4合同会社の債務の弁済に費消する目的 1億6000万円 同年10月24日 A3社の債務の弁済に費消する目的 1億5000万円 合計 4億2000万円
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