平成17年3月3日宣告平成16年(わ)第600号強盗殺人,死体遺棄被告事件判決 主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中220日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,自己及びその長男の借金を返済するため,Aと共謀の上,Vを殺害して金品を強取し,その犯行の発覚を防ぐため,同人の死体を遺棄しようと企て,第1 平成16年2月10日午前11時30分ころ,a市b区cd丁目e番f号g会社事務所において,殺意をもって,被告人が,V(当時64歳)に対し,その口を右手でふさぎ,左手で同人の着衣をつかんで床に押し倒し,体をねじらせてうつ伏せになった同人の背後から馬乗りになって,その口を左手でふさぎ,その顔面に布製粘着テープを幾重にも巻き付けて床面に押し付けるなどの暴行を加え,よって,そのころ,同所において,同人を鼻口部閉塞による窒息により死亡させて殺害し,Aが同所にあったV管理に係る現金800万円及び腕時計1個(時価約20万円相当)を強取し第2 前掲第1記載の日時,場所において,Vの死体を同所西側通路に停車中の普通乗用自動車のトランクに運び入れた上,被告人及び情を知らないBが,同車を運転するなどして,h県i市jkl番地m付近の雑木林まで運搬し,同月11日午前3時30分ころ,前記雑木林において,前記死体を同所の土中に埋めてこれを遺棄したものである。 (証拠の標目)〈略〉(判示第1の事実認定の補足説明)弁護人は,被告人がAとの間で,Vから現金800万円を奪うことは共謀したものの,腕時計を奪うとの共謀はしておらず,Aが現金800万円の他に奪った腕時計については責任を負わない旨主張する。 明)弁護人は,被告人がAとの間で,Vから現金800万円を奪うことは共謀したものの,腕時計を奪うとの共謀はしておらず,Aが現金800万円の他に奪った腕時計については責任を負わない旨主張する。 しかし,被告人とAが,本件各犯行に先立つ平成16年2月9日,a市n区内の居酒屋でVを殺害して,Vが不動産買付をするために用意するであろう現金800万円を奪うとの謀議をした際に,現金800万円以外の物を奪わないとの話はしていない。 かえって,Vが自発的に行方不明になったように見せかけるため,Vが経営するg会社事務所から,Aが現金800万円を持ち出す際には,Vの身の回りの品をも持ち出すという謀議を遂げているところ,財産犯を犯す際に当初目的としていた財物以外の財物も領得することはよくあることで,現金800万円の他にVの身の回りの品の中に高価な金品がある可能性は十分にあり,もしそれらの物があった場合に,Aがそれらを領得し,同人の物とするか,あるいは被告人と折半するということも被告人としては予想の範囲内のこととみるのが相当であり,現に何らこれに反対する気持ちは述べていない。このように,被告人が,Aに対し,現金800万円以外の物を奪わないという積極的な話をしていない以上,Aが現金以外の物を奪うことをも容認していたものとみるのが相当であり,現に被告人自身,検察官に対し,Aが後片づけとして現場から持ち去ってくる品物の中には,現金や価値のある金目の物も含まれているかもしれないし,それは自分たちの物にしてしまうと分かっていたが,後片づけはAに任せたというつもりでいたし,事件を計画した理由は現金800万円であり,それ以外のことはどうでもいいことだったので,Aが800万円以外にこんな物があったと伝えてくれば折半したと思うし,Aの判断で私に伝えず,自分の物にしてしまうな を計画した理由は現金800万円であり,それ以外のことはどうでもいいことだったので,Aが800万円以外にこんな物があったと伝えてくれば折半したと思うし,Aの判断で私に伝えず,自分の物にしてしまうならそれはそれで構わないことだったなどと供述しており,これは上記のような認定に概ね沿うものでその信用性は高い。 よって,被告人とAとの間では,現金800万円以外の金品の強取についても共謀の範囲内であるとみるのが相当であり,被告人はAが領得した腕時計についても責任を負うべきであるから,弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法60条,平成16年法律第156号附則3条1項により同法による改正前の刑法240条後段に,判示第2の所為は刑法60条,190条にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪について所定刑中無期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第1の罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科さないで,被告人を無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中220日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)第1 本件各犯行に至る経緯等 1 被告人の身上・経歴,被告人とV及びAとの関係等被告人は,かつて暴力団員として活動し,前妻との間に1男2女ができたが,昭和55年に所属する組の抗争に関して殺人未遂等の事件を起こして服役し,その間に前妻は家を出,子らは施設で養育されることとなった。 被告人は,服役中に刑務所内で傷害事件を起こして服役期間が延び,平成元年10月に仮出獄後,前妻と協議離婚し,子らを引き取ると,かねて希望していた不動産関係の仕事に就くため,事実上暴力団組織を脱退した。また平 ,服役中に刑務所内で傷害事件を起こして服役期間が延び,平成元年10月に仮出獄後,前妻と協議離婚し,子らを引き取ると,かねて希望していた不動産関係の仕事に就くため,事実上暴力団組織を脱退した。また平成3年2月には,外国から来日し歌手をしていた現在の妻と再婚し,同妻との間に1男をもうけ,前妻との間の子らが成長して家を離れた後は,家族3人暮らしとなった。 他方で被告人は,出所後不動産ブローカーとして活動する間に,g会社を立ち上げて不動産業者として活動していたVと知り合い,不動産物件の情報をやり取りするようになった。また,同様に仕事を通じて法律や不動産取引に詳しいAとも知り合った。 被告人は,平成3年3月ころ,不動産紹介センターoを開業し,一時はAと共に仕事をしていたこともあったが,副業としていた手形割引等の金融業で多額の貸し倒れが生じ,やがて資金繰りに行き詰まって,平成5年ころにはAがoを辞めた。そして平成9年3月31日には,被告人が傷害事件を起こして逃亡生活を送るようになって,結局同年5月ころ,oを畳んだ。 その後被告人は,友人から借金をしてo時代に抱えた多額の借金を返済し,同年10月ころからは,その友人が経営する金融業等の会社で働きながら,その給料から友人への借金を分割返済するようになった。借金問題で妻からの金銭的な信用を失った被告人は,借金を返済した残りの給料を全額妻に渡し,自分は妻から原則1日1000円の小遣いをもらって生活し,不足分については,時折個別のトラブル処理や債権取立ての仕事を請け負ったり,かねて覚えのあった彫り師としての技量を活かして入れ墨を彫るなどしてもらった報酬を充てるようにしていた。 その間,被告人は,久しくVともAとも,交流を持たない日々を過ごしていた。 2 被告人の金銭的困窮平成14年ころ,被告人は,借 活かして入れ墨を彫るなどしてもらった報酬を充てるようにしていた。 その間,被告人は,久しくVともAとも,交流を持たない日々を過ごしていた。 2 被告人の金銭的困窮平成14年ころ,被告人は,借金返済ができなくなった取立先の債務者のために,被告人自らが高利で借り受けた金を,代わりに自己の勤務先金融会社への返済に充ててやったり,知人が闇金融業者から借金をする際の口利きをしてやったことで事実上の保証人にさせられたことなどをきっかけとして,自ら暴力団関係者に対する高利の借財を背負う羽目になり,やがて借金返済のために新たな借金を重ねるようになって,結局,平成15年末ころまでには,かかる借金の総額が200万円弱となり,その返済に苦慮するようになった。 加えて,このころには,別居していた被告人の前妻との間の長男が,闇金融業者の取立てに追われるようにして被告人方に戻ってきて,闇金融業者約18社から,総額約220万円に達する借金を負い,熾烈な取立てに悩まされていることを打ち明けた。前妻の子らには不憫な子供時代を送らせたという負い目を感じていた被告人は,何とかその借金も肩代わりしてやりたいと考えた。 被告人は,これに先立つ同年10月下旬ころ,oを辞めて以降ほとんど付合いのなかったAから久し振りに連絡を受けて,競売後も暴力団員が占拠しているa県p市q所在のビルと敷地の買い手探しを頼まれ,成約すれば高額の手数料等収入につながることに惹かれてその買い手探しを始めており,話は難航していたものの,買付証明書が入手できそうな買い手の話も出ていた。そこでこの売却話がまとまることに期待した被告人は,長男の借入先業者らと電話で交渉して,平成16年1月末までには手付金収入が入ることを前提に,翌2月末までには,被告人が長男の借金を完済する旨約束した。 ところが,実際に ることに期待した被告人は,長男の借入先業者らと電話で交渉して,平成16年1月末までには手付金収入が入ることを前提に,翌2月末までには,被告人が長男の借金を完済する旨約束した。 ところが,実際には,同年1月末になっても上記売却話に進展はなく,手付けも入らず弁済ができなかったことから,闇金融業者等から被告人に頻繁に借金の取立ての電話がかかってくるようになった。被告人には,自分もヤクザの世界で育ってきた人間であり,相手の業者もヤクザのしのぎとして命懸けで金融をやっているという思いがあったことから,男の義理として,何が何でも借金を返済しなければならないと思い詰めるようになった。 そこで,被告人は,Aに対し,上記売却話以外にも金になる話がないか,しきりに尋ねるようになり,同年2月初めころ,Aから,多額の金銭を持っているという悪徳金融屋の話を聞かされると,この悪徳金融屋から金を脅し取ろう,場合によっては悪徳金融屋を殺してもいいなどとまで考えるようになって,Aに対し,悪徳金融屋を捕まえるよう頼み,連日のようにその悪徳金融屋が捕まったかどうか確認する電話を入れるようになったが,その悪徳金融屋も,一向に捕まったとする報告はなかった。 3 被告人とAの本件各犯行の共謀の成立平成16年2月5日ころ以降も,被告人の下には,闇金融業者等から頻繁に借金の催促の電話が架かってくる状況にあり,被告人は,あらゆる業者に対し,同月9日には借金を返すと約束して返済期日を延ばしてもらっていた。しかし,被告人には,金が入る当てもなく,金を用意できなければ,闇金融業者等に詫びを入れて返済期日をずらしてもらわなければいけないが,今度は簡単には応じてくれないだろうと思い,気持ちばかりが焦るようになり,金が手に入るならどんなことをしてもいいと思うほど追い詰められた心情になって れて返済期日をずらしてもらわなければいけないが,今度は簡単には応じてくれないだろうと思い,気持ちばかりが焦るようになり,金が手に入るならどんなことをしてもいいと思うほど追い詰められた心情になっていた。 同月7日土曜日にも,被告人がAに電話をかけたところ,Aは,当時同人が,たまたまVとある物件の買付の話を進めていて,Vが週明けには800万円くらいの買付資金を用意するとの話をした。実際に,Aは,これに先立つ同月5日,Vに対して知人の所有する物件の買付話を持ち掛けてVをその気にさせ,同月10日以降Aと共にその物件を買付に出向く話をしており,その物件価値からして,Vは800万円程度の買付資金を用意することが予定されていた。 何としてでも借金を返済するとの思いに囚われていた被告人は,この話を聞くや,Vが用意した800万円を奪うことを決めたが,顔見知りのVから無理矢理これを奪えば当然警察沙汰になると予想されたことから,この際Vを殺すしかないと考えた。 そして,被告人は,Aに対し,Vに早急に買付資金を用意させるよう言い,AはVに資金を用意させる段取りを進める旨答えた。 同月8日夜のAとの電話で,被告人は,翌9日にVが800万円を用意するものと誤解し,同日にはVを殺害して現金800万円を奪うことを計画し,さらに証拠隠滅のため,V殺害後の死体を遺棄する方法も検討した。そして,Vの車のトランクに死体を入れて運び出し,車は解体処分を依頼できそうなr県内の業者まで運んで解体後に廃棄し,死体はその途中のh県内で,人通りのほとんどない心当たりの雑木林に埋めること,また車の運転はできるものの,運転免許を持っていない被告人が,死体運搬途中に検挙されたりする危険を避けるため,事情を知らない知人のBに車の運転をさせること等を決めた。 同月9日朝には,被告人は住居地か 車の運転はできるものの,運転免許を持っていない被告人が,死体運搬途中に検挙されたりする危険を避けるため,事情を知らない知人のBに車の運転をさせること等を決めた。 同月9日朝には,被告人は住居地からa市内に出向いてAと合流し,ホームセンターに立ち寄って,殺害や死体遺棄のための道具とするガムテープや黒色ビニール製ゴミ袋などを購入して準備した上,知合いのr県内の自動車整備工場社長に,車の解体処分を依頼する電話を入れた。 同日午後零時ころには,被告人は,Aに連れられてg会社事務所付近に車で到着し,周囲の様子を確認した。その後一人でVとの打ち合わせに出向いたAから,同日中には資金の準備が間に合わず,Vが現金800万円を用意できるのは翌10日であることを知らされた被告人は,落胆したが,翌10日には必ず犯行を実施すると思い決め,闇金融業者等にも翌日必ず返済する旨電話で詫びを入れた。 同月9日夕方,被告人とAは,a市n区内にある居酒屋で,Vを殺害して現金を奪う具体的な方法について打合せをし,被告人がVを殺害して同人の死体を同人の車のトランクへ運び入れ,死体と車を処分することを決める一方,Aは,犯行後にVの死体を速やかに同人の車のトランクに乗せ,運び出すことができるようにするために,昼間g会社事務所に出向いた際,通路に奥向きに駐車されていたVの車を,予め出入口に向けて方向転換させ,そのトランクを開けておくこと,そのために前もって同人の車のキーを探し持ち出すこと,V殺害後には,現金を持ち出すほか,Vの持ち物を持ち出すなどして,Vが自発的に行方不明になったように見せかけること等を取り決め,遅くともここにおいて,被告人とAとの間において,Vを殺害して金品を強奪し,その死体を遺棄する旨の共謀が成立した。 4 本件各犯行の遂行同月10日,被告人は,Aと合 見せかけること等を取り決め,遅くともここにおいて,被告人とAとの間において,Vを殺害して金品を強奪し,その死体を遺棄する旨の共謀が成立した。 4 本件各犯行の遂行同月10日,被告人は,Aと合流し,g会社事務所に向かう途中,電話でBと連絡を取り,同人の仕事が終了次第,車を運転してrに向かう予定を立てた。 同日午前10時ころ,g会社事務所付近に到着すると,まずAが同事務所に入り,被告人もAから5分ほど遅れて同事務所に入った。被告人は,Vを殺すのは仕方がないと腹を決めていたものの,うまく脅せば殺さなくてもVが金を出すかもしれない等と考え,o時代のVとの取引等に藉口してVに因縁を付け,金を出すよう要求した。Aはその間にVの車の鍵を見つけ,外へ出て同事務所西側通路に停まっていたVの車の向きを変えてトランクを開け,そのまま同事務所を少し離れて待機していた。被告人は,Vの命を奪うまでしなくともVが金を出すことを期待して,一旦は被告人の名前と携帯電話の番号を書いたメモ紙をVに渡すなどしたものの,そのうちVが事務所の外に停めてあったVの車の向きが変えられていたり,そのトランクが開けられていることに気付くなどして,慌てた素振りを示すのを目にするや,その犯行計画がVに知られたことを危惧し,やはりVを殺すしかないと決断して,本件各犯行に及んだ。 第2 量刑上考慮した事情 1 被告人は,合計で四百数十万円という自己及びその長男の借金を返済する資金に充てるため,Vを殺害して金品を強取し,さらにその犯行の発覚を防ぐため同人の死体を遺棄することを計画して,その実行に及んだものである。 被告人の経済的困窮は,他人が闇金融から借財するに際して事実上の保証人となったり,自ら他の闇金融から借金をして他人の借金返済に回すなどしたことをきっかけとして,高利の返済に追われ んだものである。 被告人の経済的困窮は,他人が闇金融から借財するに際して事実上の保証人となったり,自ら他の闇金融から借金をして他人の借金返済に回すなどしたことをきっかけとして,高利の返済に追われ,次々と新たな借金を重ねたことに起因するものというのであるが,そこに被告人の人の良さが表れている面があるとしても,いわゆるトイチと呼ばれる高利の闇金融に自ら手を出すことの危険性は,これまでの経験に照らして十二分に自覚しているはずであるのに,実に安易に借財を重ねたことは誠に浅慮の所業というほかはない。また長男の借金を自ら引き受けた際にも,高利貸付について既に警察に相談をしていた長男にあえてそれを止めさせた上,安易な安請け合いで自らの責任ですべてを弁済するとの連絡を,各闇金融業者に入れているのであって,その背景には,同じ極道の世界に属していた者としての仁義や面子を重んじるといった,つまらない見栄にとらわれた気持ちがあったことを否めず,これまた自らが招いた苦境というほかはない。しかも被告人は,自らは安定した収入のある職に就いて相応の月給を受け取り,その妻はその給与の中から300万円以上の預金までしていたのであって,客観的に見ればさほどの経済的困窮にあったということすらできず,自らの経済事情を妻に打ち明け,夫婦協力しての借金返済に尽力し,あるいは法的な整理に頼る気持ちさえあったならば,その経済的破綻は十分回避できる可能性があったと見られるところである。にもかかわらず,被告人は,厳格な家庭に育ち,親族の反対を押し切って結婚してくれたという外国籍の妻に,借財の存在を打ち明けることは,マイホームを持ちたいという妻の夢を潰し,離婚されることにつながるという理由から,妻の協力を仰ぐことは一切考えもせず,実に短絡的にも,人を殺めてまでも金品を強取しようという決意 在を打ち明けることは,マイホームを持ちたいという妻の夢を潰し,離婚されることにつながるという理由から,妻の協力を仰ぐことは一切考えもせず,実に短絡的にも,人を殺めてまでも金品を強取しようという決意を固めたのである。それはまさしく,安易な見栄や浅はかさのために自ら経済的苦境を招いたあげく,自己や家族の目先の幸せを優先する余り,他人の生命すら蹂躙して憚ることない非情かつ身勝手な犯行動機というほかないのであって,そこに酌量の余地は皆無である。 2 被告人らは,あらかじめ犯行に使用するガムテープやゴミ袋等を用意したり,犯行における役割分担やV殺害後の罪証隠滅工作等について謀議したり,Vの自動車の処分先を手配したりするなどした上で犯行に及んでおり,本件各犯行はいずれも計画的なものである。そして,判示第1の犯行の態様は,Vの口を右手でふさいで同人の着衣をつかんで床に押し倒し,さらに,必死に抵抗するVの背後から馬乗りになってその口を左手でふさぎ,その顔面をガムテープで幾重にも巻き付けて床面に押し付けるなどして同人を窒息させて殺害し,その後,現金等を奪ったというものであって,執拗かつ極めて冷酷な犯行といわなければならない。また,判示第2の犯行の態様は,判示第1のとおりVを殺害後,犯行の発覚を防ぐためにその死体をトランク内に積んだ車を,事情を知らないBに運転させるなどしてa市内からh県i市内にまで運搬させた上,被告人自ら死体を運び下ろして雑木林の土中に埋めたというものであって,被告人らの私欲のためにVを殺害したにとどまらず,その人格の尊厳を完全に踏みにじる卑劣な犯行であって,これまた極めて悪質というほかはない。 その中で,被告人は,Vが800万円の現金を準備するとの情報をAから聞かされるや,直ちにこれを奪い,そのためにVを殺害してその死体を遺棄する 劣な犯行であって,これまた極めて悪質というほかはない。 その中で,被告人は,Vが800万円の現金を準備するとの情報をAから聞かされるや,直ちにこれを奪い,そのためにVを殺害してその死体を遺棄するという計画を自ら立案してAに提案した上,現に自らの手を下してVを殺害し,その死体を遺棄するという,本件各犯行の核心というべき行為に及んでいるのであって,犯行の計画,遂行の両面において果たした役割はまさに不可欠かつ最重要のものであったといわなければならない。 なお,弁護人は,①被告人は,初めからVを殺害することを想定していたにしても,これを確定的なものと考えてはおらず,現に殺害前に因縁をつけてVを脅し上げ,金を取れる可能性があると思った時には,強盗殺人の意思を失い,Vに自分の連絡先を教えたのであり,その後Vを殺害するに至ったのは,異変を察知してVが騒ぎ出したためであって,被告人の強盗殺人の犯行は偶発的なものである,②被告人はAの協力なくして犯行を遂行することはできず,Aの道具として利用されたのであって,本件各犯行の首謀者はAであると主張する。 しかし,強盗殺人の犯行の計画性の点についてみると,たとえ弁護人の主張するように,被告人が,犯行前に一旦は殺人行為を中止しようと考えてみたことがあったとしても,Vが被告人らの計画した悪事に感づいた様子を見せると,被告人は,ためらいもなく当初立てた計画どおりにVを殺害しているのであって,それが計画的な犯行であることは明らかである。 また,本件各犯行の首謀者が被告人とAのいずれかについてみると,確かに,被告人はVの事務所の所在も知らず,Vに現金800万円を用意させる手段も持ち合わせていなかったことから,被告人単独では本件各犯行の遂行は不可能であったことはその通りであり,他方,Aは,被告人が悪徳金融業者から金 事務所の所在も知らず,Vに現金800万円を用意させる手段も持ち合わせていなかったことから,被告人単独では本件各犯行の遂行は不可能であったことはその通りであり,他方,Aは,被告人が悪徳金融業者から金を奪おうと考えていることに目をつけて,Vにあえて物件の買付を持ちかけて現金を用意させ,被告人にその旨の情報を提供することで被告人に犯行を決意させ,被告人を利用してVから現金等を奪おうとした節もないではない。しかし,被告人は,従前から悪徳金融業者から金を奪おうとしてAに対し悪徳金融業者を捕まえるよう働きかけており,機会があればAの協力がなくとも第三者に対する強盗あるいは恐喝に及ぶことが十分に予想されるような状態であったし,前示のとおり,AからVが現金800万円を用意する話を聞かされるやいなや,自ら強盗殺人,死体遺棄の計画を立案し,その犯行道具を購入に出向いたり,車の運転者を手配するなど周到な準備に着手し,現にVの殺害及び同人の死体の遺棄等の本件各犯行の実行行為の最重要部分を進んで担当するなど,被告人自身本件各犯行の立案,遂行に極めて熱心だったのであり,加えて,被告人は,最終的には判示第1の犯行により強奪した現金800万円をAと折半した後,さらに借金返済に不足する50万円をAから借り受けて,結局は強取金の半分以上の利得を得ていることをも併せ考慮すると,被告人がAから一方的にその道具として利用されたような関係は到底認められず,被告人の果たした役割はAのそれと比べても,決して勝るとも劣らないものとみるべきものと思料される。 よって,弁護人の主張はいずれも理由がない。 3 さらに,被告人は,Vの死体を遺棄した後,Vの死体を運ぶのに使用したVの自動車を解体し,その自動車のナンバープレートを海中に投棄するなどの罪証隠滅工作をした上,Aが覚せい剤取締法違反 がない。 3 さらに,被告人は,Vの死体を遺棄した後,Vの死体を運ぶのに使用したVの自動車を解体し,その自動車のナンバープレートを海中に投棄するなどの罪証隠滅工作をした上,Aが覚せい剤取締法違反の嫌疑により警察に逮捕されたことを聞き及ぶや東京に逃亡しており,犯行後の情状も芳しくない。 4 被告人らの判示第1の犯行により,かけがえのないVの生命が奪われており,発生した結果の重大性は多言を要しない。Vは,顔見知りであった被告人から何の前触れもなく襲いかかられ,必死に抵抗したもののそれもかなわず,口をふさがれて床面に倒され,顔面をガムテープで幾重にも巻き付けられるなどして窒息死するに至っており,その間にVが感じたであろう恐怖心と肉体的苦痛は誠に甚大であったと思われる。また,Vは,勤務していた会社を退職した後,自ら会社を興して不動産業に勤しみ,妻子や孫にも恵まれて幸せな生活を送っていたところ,何らの落ち度もないにもかかわらず,ただ金品を強取するという目先の欲得に支配された被告人らの蛮行により,全てを一瞬にして奪われてしまったのであり,その無念さは察するに余りあるところである。さらに,強取された金品は,事業資金の一部としてVが金融機関から借り入れたばかりであった現金800万円と時価約20万円相当の腕時計なのであって,多額に及んでいる。 5 Vの遺族は,Vが行方不明になったその日から不安に苛まれ,神経をすり減らすような日々を送り,その無事を願う祈りもむなしく,その約40日後にはVが遺体で発見されるという悲報に接し,さらに強い衝撃を受け,今なお深い悲しみに包まれている。被告人は,Vの遺族に対して慰謝の措置を全く講じておらず,Vの妻が「犯人のことは,何があっても許しません。本当は,私が自分の手で犯人を殺してやりたいと思いますが,それはできないので に包まれている。被告人は,Vの遺族に対して慰謝の措置を全く講じておらず,Vの妻が「犯人のことは,何があっても許しません。本当は,私が自分の手で犯人を殺してやりたいと思いますが,それはできないので,法の裁きで,極刑,つまり死刑に処していただきたいと思います。私たち家族にとっては,犯人が夫にした仕打ちに値するのは死刑しかありません。ほんとうはそれでも足りないくらいです。」などと述べ,犯人の極刑を望んでいるなど当然のことながらVの遺族は被告人に対し厳しい処罰感情を抱いている。 6 そして,本件は,Vが遺体で発見されるまでの約40日間行方不明であったこともあって,マスコミにより広く報道され,不動産会社社長が殺害され,現金等を奪われ,その死体が遺棄された強盗殺人,死体遺棄事件として地域社会に与えた衝撃,不安感も大きいものであった。 7 また,被告人は,これまでに多数の前科を有しており,その中には暴力団抗争に関連してけん銃を発射した殺人未遂,その懲役受刑中に同じ懲役受刑者の腹部を大工のみで1回突き刺した傷害,知人の背部をノコギリで1回切りつけた傷害といった非常に危険な態様の粗暴犯前科もあり,被告人の規範意識の乏しさ,粗暴な振舞に及び勝ちな傾向は顕著で,再犯の恐れも否定しがたいところである。 8 以上からすれば,被告人の刑事責任は極めて重大である。 9 そうすると,被告人は,約1か月余の逃亡生活を果たした後に自ら自宅に帰り,逮捕されると,すぐに自ら進んでVの死体を遺棄した場所に警察官を案内してVの死体の発見に協力し,捜査段階当初こそAをかばって同人との共謀の事実を否認し,自らの単独犯行であるなどと述べていたものの,間もなく本件各犯行を全面的に認め,V及び遺族に対する謝罪の言葉を述べるなど被告人なりに反省の態度を示していること,今も被告人を大切 共謀の事実を否認し,自らの単独犯行であるなどと述べていたものの,間もなく本件各犯行を全面的に認め,V及び遺族に対する謝罪の言葉を述べるなど被告人なりに反省の態度を示していること,今も被告人を大切に思い,その帰りを待つ妻子がいることなどの被告人にとって酌むべき事情も認められるものの,これらの事情をもって酌量減軽をするほどの事情があるとは認め難く,被告人を無期懲役に処し,その生涯をかけて,Vの冥福を祈りつつ反省悔悟の日々を送らせ,罪を償わせるのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官中井公哉,国選弁護人萬年浩雄各出席)(求刑-無期懲役)平成17年3月3日福岡地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官谷敏行裁判官荻原弘子裁判官小川弘持
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