主文 1 本件訴えのうち,本判決確定日の翌日以降の賃金の支払を求める部分を却下する。 2 原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有することを確認する。 3 被告は,原告に対し,平成13年12月から本判決確定の日まで,毎月10日限り45万0760円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員,並びに,107万0428円及びこれに対する平成13年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用は被告の負担とする。 6 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有することを確認する。 2 被告は,原告に対し,332万7559円及びうち別紙利息債権一覧表「元本額(円)」欄記載の各金員に対する,「遅延損害金発生日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告に対し,平成14年5月から毎月10日限り,45万1426円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告に懲戒解雇された原告が,その効力を争い,労働契約上の権利の確認と解雇後の賃金(平成13年12月分から平成14年4月分までの月例賃金として225万7130円,平成14年5月分以降の賃金として,同月から毎月10日限り45万1426円,平成13年冬季賞与として107万0429円)及びこれらに対する支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の各支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は,括弧内に証拠番号等を付す。)(1) 当事者被告は,美術工芸品として価値のある刀剣類の保存,公開並びに無形文化 の各支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は,括弧内に証拠番号等を付す。)(1) 当事者被告は,美術工芸品として価値のある刀剣類の保存,公開並びに無形文化財としての日本刀の鍛造技術・研磨技術・刀装制作技術等の保存向上,及び日本刀の製作に必要な材料の確保を図るとともに,これらに関する調査研究と鑑賞指導を行い,我が国の文化の普及と文化財の保護に寄与することを目的とする財団法人である。 被告は,被告の趣旨に賛同する者を募って会員とし,全国に支部を設けている。 原告は,被告との間で,昭和55年5月1日労働契約を締結し,後記(2)の本件解雇まで,学芸部調査課(採用当時の名称は異なるが,以下もこのように称す。)の職員として勤務していた。 (2) 懲戒解雇の意思表示被告は,原告に対し,平成13年11月7日,原告を同日をもって懲戒解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。 被告は,原告の求めに応じて,同年12月25日,本件解雇の理由を記載した書面を交付した。同書面には,懲戒の事由として,「就業規則29条違反(学歴詐称,研究職学芸員としての職務怠慢,資質の欠如)があった。」旨記載されていた。 (3) 懲戒についての就業規則の定め被告の就業規則には,「職員が次の各号のいずれかに該当するときは,懲戒する。(1)協会の規則その他規程に違反したとき。(2)正当な理由なく業務上の命令に従わないとき。(3)故意又は重大な過失により協会に損害を及ぼしたとき。(4)職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったとき。(5)職員としてふさわしくない非行があったとき。」(29条),「懲戒の種類及び内容は次のとおりとする。(1)戒告・・・(2)減給・・・(3)停職・・・(4)免職・・・」(30条)との定めがある。 (4) 員としてふさわしくない非行があったとき。」(29条),「懲戒の種類及び内容は次のとおりとする。(1)戒告・・・(2)減給・・・(3)停職・・・(4)免職・・・」(30条)との定めがある。 (4) 賃金額及び支払期ア原被告間の労働契約においては,当月分の本給,調整手当,管理職手当,住宅手当は当月10日に支払うことになっていた(甲4)。 イ原告は,本件解雇当時,基本給として37万4800円,調整手当として4万4976円,主任手当として2万9984円,住宅手当として1000円,月額合計45万0760円の支払を受けていた。なお,原告は,平成13年10月10日には特殊勤務手当として2000円の支払を受け,特殊勤務手当を含めた場合の解雇前の3か月の賃金の平均は,1か月45万1426円である。 ウ被告の職員は,毎年12月10日に基本給と調整手当の合計の2.55倍の賞与が支給され,原告について計算するとその額は少なくとも107万0428円である。 4 主な争点本件解雇の効力 5 当事者の主張の要旨(1) 被告の主張原告には,以下のとおり「職員としてふさわしくない非行があったとき」(就業規則29条5号)に該当する事由があったから,平成13年11月7日,原告の弁解を聞いた上,本件解雇をした。 ア学歴詐称原告は,昭和54年3月に國學院大学文学部文学科の2部を卒業し,同年学芸員の資格を取得したにもかかわらず,採用時の履歴書に,「昭和52年3月国学院大学文学部文学科卒業」「同年博物館学芸員免許取得」と記載して被告に提出した。 単なる誤記である旨の原告の主張は,わずか1年前の大学卒業年を間違えることなどあり得ないこと,履歴書は慎重さを要求される毛筆で記載されていること等から信じがたいものである。 原告は,平成13年11月5日に,この間違いを認め 主張は,わずか1年前の大学卒業年を間違えることなどあり得ないこと,履歴書は慎重さを要求される毛筆で記載されていること等から信じがたいものである。 原告は,平成13年11月5日に,この間違いを認め,いかなる処分をも受ける旨の始末書を提出している。 被告の職員の一部が原告の経歴について知っていても,被告の会長や専務理事には知らされていなかったのであるから,原告の行為が許されないことに変わりない。 イ研究職学芸員としての職務怠慢,資質の欠如原告は,被告から以下の各点について再三指導を受けていたにもかかわらず改めることがなく,平成13年11月7日,被告が本件解雇を通告する前に弁解を聞いた際,これらのことをすべて認めていた。 (ア) 図譜の作成能力欠如原告は,被告に20年余の間学芸員として勤務したにもかかわらず,特別重要刀剣類ないし重要刀剣類の図譜の原稿を作成することができなかった。原告の原稿は,刀剣に関する知識の誤りがあって使い物にならず,A学芸部長(以下「A学芸部長」ないし「A」という。)がほとんど書き下すよう添削する必要があった。 (イ) 他の学芸員の著作の盗用原告は,被告の機関誌「刀剣美術」に掲載する「名刀鑑賞」や定例鑑賞会の鑑定刀の解説において,A学芸部長ら他の学芸員の著作を盗用した。それは,同じ作者の異なる刀剣についての解説を部分的に盗用する手法であった。 刀剣の鑑賞文において,定説や通説を離れた記述をすることができないことはいうまでもない。しかし,原告の文章は,定説や通説に従う以上に,構成,文章,内容を通じて,一見して他人の引き写しにすぎないとわかるものであった。学芸員としての日ごろの研究,研鑽があれば,このようなことにはならないはずである。A学芸部長は,折りに触れて原告に対し指導を重ねてきたのであるが,原告は聞き入 き写しにすぎないとわかるものであった。学芸員としての日ごろの研究,研鑽があれば,このようなことにはならないはずである。A学芸部長は,折りに触れて原告に対し指導を重ねてきたのであるが,原告は聞き入れることがなかった。 (ウ) 刀剣鑑定の誤り原告は,学芸員として刀剣の真贋等の鑑定を行う際,誤りが多かった。真贋の鑑定において,原告の意見は当てにならないというのが多数の学芸員の意見であったし,口頭鑑定においても誤りがあったとの苦情が寄せられている。 (エ) 支部鑑賞会での苦情原告は,学芸員として被告支部の鑑賞会に派遣されたが,その傲慢で傍若無人な態度について多数の支部から苦情が寄せられていた。A学芸部長は,原告にその都度注意してきたが,原告は態度を改めなかった。原告を支部に派遣し続けたのは,ひとえに人手が足りなかったからである。 (オ) 被告の内部情報の漏洩原告は,被告の審査情報等の内部情報を刀剣業者に漏洩していた。 (2) 原告の主張ア学歴詐称について履歴書の記載と原告の大学卒業年,資格取得年が異なっていることは認めるが,誤記であって,詐称ではない。いわゆる夜間部の卒業であることも認めるが,原告が卒業したのは「國學院大学文学部文学科」であり,「二部」とか「夜間部」と称されていないから,履歴書に記載した学歴は偽りとはいえない。原告は,大学在学中,被告に昼間のアルバイトとして勤務しており,大学卒業時には被告に就職を希望したがかなえられなかったことがあり,A学芸部長を始めとする被告の職員は,原告の大学卒業年及び資格取得年や夜間部であることについて知っており,これを偽ることなどできなかった。 イ研究職学芸員としての職務怠慢,資質の欠如について被告が主張する各点について指導を受けたことは一切なく,平成13年11月7日の解雇通告の際は いて知っており,これを偽ることなどできなかった。 イ研究職学芸員としての職務怠慢,資質の欠如について被告が主張する各点について指導を受けたことは一切なく,平成13年11月7日の解雇通告の際は,唖然とするばかりであった。自認はしていない。 (ア) 図譜の作成能力欠如について図譜は,最終的に被告名で出版されるため,責任者であるA学芸部長の手が多く入る。しかし,A学芸部長の添削は,文章の流れや「てにをは」を訂正するのみで,誤りを正すという内容のものではなく,原告はA学芸部長からの指導は受けたことがない。 (イ) 他の学芸員の著作の盗用原告は著作の盗用をしたことは一切ない。刀工,刀剣については,評価が固まっている部分や定説があり,誰が書いても同じような文章,内容となるのはむしろ当然であり,正しいといえる。他の学芸員が書いた文章にも,同じような例がある。 刀剣の鑑賞文には,学術論文のように内容や表現についてオリジナリティが求められるものではない。 原告の能力が劣るなら,A学芸部長が,「刀剣美術」の巻頭を飾る「名刀鑑賞」の解説文を永年にわたって原告に任せてきたことの説明がつかない。 (ウ) 刀剣鑑定の誤りについて被告の主張は余りに抽象的である。原告の鑑定に誤りが多いということはない。 (エ) 支部鑑賞会での苦情について原告は,約15年前から支部へ派遣されており,平成11年以降,年20回を越える頻度で派遣されたが,支部鑑賞会での原告に対する苦情について,今まで指導を受けたことがない。被告が提出した支部の苦情の書簡は,平成13年3月から10月までのものであり,2年前に行った支部からの苦情であったり,不自然さを感じる。 (オ) 被告の内部情報の漏洩について否認する。 第3 当裁判所の判断 1 判決確定日後の賃金請求の訴えの利益について のものであり,2年前に行った支部からの苦情であったり,不自然さを感じる。 (オ) 被告の内部情報の漏洩について否認する。 第3 当裁判所の判断 1 判決確定日後の賃金請求の訴えの利益について原告は,被告に対し,被告との労働契約に基づく賃金の支払を求めているところ,仮に原告が勝訴した場合,その判決の確定後もなお賃金の支払がされない特段の事情はうかがえないから,同賃金請求のうち,本判決確定の日の後に履行期が到来する賃金の支払を請求する部分は,あらかじめ請求する必要があるとはいえず,訴えの利益を欠くものとして却下すべきである。 2 本件解雇の効力について(1) 学歴詐称についてア証拠(甲11,12の(1)(2),22,乙10,11,12,65,証人A,証人B,原告本人,被告代表者)によれば,以下の各事実が認められる。 (ア) 原告が被告に採用される際に提出した履歴書には,原告は,昭和52年3月に國學院大学文学部文学科を卒業し,同年博物館学芸員の免許を取得した旨の記載があったが,原告は,昭和54年3月に前記大学学部学科を卒業し,同年博物館学芸員の資格を取得したものであった。また原告は,同大学のいわゆる夜間部の学生であった。 (イ) 原告は,在学中である昭和48年4月ころから昭和54年8月ころまで,被告にアルバイトとして昼間勤務し,大学卒業時には,被告の学芸員として採用されることを希望したが,採用されなかった。原告は,その後,被告の学芸員に欠員ができたため,昭和55年5月1日被告に採用された。採用当時,被告の専務理事兼事務局長は,原告が夜間部の学生であったことを知っていた。他の専務理事から原告を採用するかどうか意見を求められて話合いをした学芸部長らは,原告が大学を7年かけて卒業したことや卒業年次を知っており,この話合いに参加した被告の学 生であったことを知っていた。他の専務理事から原告を採用するかどうか意見を求められて話合いをした学芸部長らは,原告が大学を7年かけて卒業したことや卒業年次を知っており,この話合いに参加した被告の学芸部調査課の職員であったAは,前記事情に加え,原告がいわゆる夜間部の学生であったことも知っていた。当時の被告の庶務課長も,原告の卒業年次や原告が夜間部の学生であったことを知っていた。 また,(ア)の履歴書は,被告が原告に採用を告げ,当時海外にいた原告が被告の命に従い業務を行って帰国した後に,作成,提出されたものであった。 (ウ) 平成13年8月,被告は,文化庁による実地検査に備え,被告の学芸員全員から大学卒業証明及び資格取得証明を徴したところ,原告の履歴書と証明書とに齟齬があった。A学芸部長らは,同年11月5日,原告から事情を聞いたところ,原告は,履歴書の経歴を故意に偽ったことは否定した上,「学部種別,大学卒業年月日,学芸員資格取得年月日等について履歴書を誤って記載し提出したことは間違いない。処分を受けても異議はいわない。」旨の始末書を作成し,同日,被告に提出した。 イ前記ア(ア)によれば,被告に採用される際に提出した履歴書には,大学卒業年次及び学芸員資格取得年について2年遡る誤りがあったことが認められる。なお,原告は前記学部のいわゆる夜間部の学生であり,これを履歴書には記載しなかったことも認められるが,同大学においては,夜間部の学生であっても,國學院大学文学部文学科であることには変わりないとされていることから(甲12の(1)),それを履歴書に記載したなかったとしても,誤りであるとまではいえないというべきである。 そして,前記ア(イ)(ウ)によれば,原告は在学中から卒業後にかけて6年以上にわたり被告でアルバイトしており,卒業時には被告学芸員 たなかったとしても,誤りであるとまではいえないというべきである。 そして,前記ア(イ)(ウ)によれば,原告は在学中から卒業後にかけて6年以上にわたり被告でアルバイトしており,卒業時には被告学芸員として採用されることを望んだがかなわなかったこと,被告の学芸部長や学芸員らは,原告の卒業年次や留年を知っていたことが認められるところ,そうであれば,原告が卒業年等を2年間偽ったとしても,被告の幹部職員から容易に気付かれる状況であったといえる。このような状況の下,履歴書を提出する際には既に被告から採用を告げられていた原告が,故意に経歴を偽る意図で前記記載をすることは考えにくく,原告が誤記である旨一環して主張していることと併せ考えると,原告の履歴書の大学卒業年や学芸員の資格取得年についての誤りが,被告に対し経歴を偽る意図により記載されたものであるとは認めるに足りない(なお,夜間部の学生であったことを履歴書に記載しなかったことも,これを隠す意図であったとは,同様の理由で認めるに足りない。)。 被告は,「わずか1年前の大学卒業年を間違えることなどあり得ないし,履歴書は慎重さを要求される毛筆で記載されていること等から,単なる誤記であるとは信じがたい。」等と主張するが,前記事情の下では採用できない。 したがって,学歴詐称という「職員としてふさわしくない非行があった」ということはできない。 (2) 図譜の作成能力欠如についてア証拠(甲1,33,乙14の(1)ないし(10),15の(1)ないし(7),証人A,同B,原告本人,被告代表者)によれば,以下の各事実を認めることができる。 被告は,特別重要刀剣等,重要刀剣等を定期的に指定し,指定された刀剣等については図譜を刊行している。重要刀剣は,毎年200本程度指定される。図譜は,刀剣の場合には,①刀剣の外 めることができる。 被告は,特別重要刀剣等,重要刀剣等を定期的に指定し,指定された刀剣等については図譜を刊行している。重要刀剣は,毎年200本程度指定される。図譜は,刀剣の場合には,①刀剣の外形上の特徴等について定型的な表現で簡潔に記載する調書,②刀剣の特色,刀工,時代考証等を記載する解説,③押形,④刃文画き(刀剣の刃文を作画すること。)で構成されており(ただし,特別重要刀剣は③④に替えて写真を使用する。),被告の学芸員が分担してその原稿を作成することとなっていた。図譜について個々の執筆者は特定されず,すべて被告の責任で刊行されていた。 原告は,学芸員として,当初,重要刀剣の①調書及び②解説の原稿を作成していたが,ある時期から,重要刀剣については④刃文画きのみの担当となり,その相当部分を担当していた。また,特別重要刀剣の①調書及び②説明は引き続いて担当していた。この間,刃文画きができるのは,原告とA学芸部長しかいなかった時期があった。 原告は,その作成した特別重要刀剣の①調書及び②解説の原稿について,Aから毎回詳細な添削指導を受けていた。 イ以上の事実から,原告は,その作成した特別重要刀剣の①調書及び②解説の原稿について,学芸部長であるAから毎回詳細な添削指導を受けていたことが認められるが,図譜が被告の責任で刊行される図書であり,内部的には,学芸部長がその全責任を負うものであることから,学芸部長が詳細に添削したことをもって,ただちに原告の図譜作成能力が劣っていたということはできない。また,前記アによれば,原告は,ある時期から,重要刀剣の図譜のうち①調書及び②解説を担当しなくなったことが認められるが,刃文画きができる学芸員が不足している時期に原告が重要刀剣の刃文画きを相当部分担当していたことや,特別重要刀剣の①②調書等について の図譜のうち①調書及び②解説を担当しなくなったことが認められるが,刃文画きができる学芸員が不足している時期に原告が重要刀剣の刃文画きを相当部分担当していたことや,特別重要刀剣の①②調書等については担当していたことから,このことが,原告の図譜作成能力が劣っていたことによるとは直ちに認めがたい。そして,乙14の(1)ないし(10),15の(1)ないし(7)によっても,原告の日本刀の知識の誤りのためAによる訂正を余儀なくされた記載が多数あるとは,これを認めることができない。 したがって,原告の図譜作成能力が劣っていたことは認めるに足りず,被告の主張は採用できない。 ウ仮に,原告の図譜作成能力が劣っていたとしても,懲戒事由たる「職員としてふさわしくない非行があったとき」又は「職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったとき」とは,職場秩序維持のための懲戒権の発生を根拠付ける要件であるから,単なる勤務成績不良は含まず,それが職場規律に違反し,秩序を乱したと評価される場合をさすというべきであり,図譜作成能力が劣ることはこれに当たらないというべきである。 (3) 他の学芸員の著作の盗用についてア証拠(甲17の(3)(11),乙16から48までの各号,52,53,66,86の(1)ないし(3),87の(1)(2),88の(1)(2))によれば,原告が「刀剣美術」に掲載した定例鑑賞会の鑑定刀の解説や「名刀鑑賞」には,文意のみならず,構成や表現まで他の学芸員の書いた解説と極めて類似したものがあり,文章を一部改変して借用したゆえに内容が不正確となったのではないかと疑われたり(乙33の(1)の「このような彫り物は氏貞以外などにはほとんど見られず」とした部分),表現が不統一で文意が曖昧になったとのではないかと疑われる文章(同「勾口も冴え,地刃が明るくなる傾向が 疑われたり(乙33の(1)の「このような彫り物は氏貞以外などにはほとんど見られず」とした部分),表現が不統一で文意が曖昧になったとのではないかと疑われる文章(同「勾口も冴え,地刃が明るくなる傾向がある」とした部分)があったことはこれを認めることができる。 イ原告のこれらの文章は,その類似自体から故意による借用を疑わせるものであるが,他方,定例鑑賞会における鑑定刀の解説は,基本的には前記(2)アの図譜と同じ構成をとるほか講評の紙幅に限りがあるため,定型的な構成や表現が用いられること,「名刀鑑賞」においても刀剣や刀工の特徴を表現する際には類型的な表現が用いられることがあることから(前掲アの各証拠及び証人Bの証言によって認める。),「故意に借用してはおらず,自然と似通ってしまった。」旨の原告の弁解を,排斥することは,困難であるというべきである。 ウまた,原告の前記各文章と乙49の文章は,その元となったと指摘される他の学芸員らの文章(乙16から48までの各号,50,51,53,86の(2)(3),87の(2),88の(2))と,その内容においても類似した部分があることも認められるところである。しかし,原告の前記文章や乙49の文章は,被告の機関誌に掲載する定例鑑賞会における鑑定刀の解説及び刀剣の鑑賞文並びに美術展の手引書等であって,その表現や内容において独創性を示すことを要求されているものではなく,原告独自の学術的発見等の発表として掲載されたものではないこと,それとは明示してはいないが,定説,有力説に賛同してその内容を記載したと理解できるものであることから,その内容の類似についてまで,他人の見解の盗用とまで責められるべきものとはいえない。 エ仮に,原告が故意に他の学芸員の文章を借用したものであるとしても,被告において,本件解雇以前に,この件 とから,その内容の類似についてまで,他人の見解の盗用とまで責められるべきものとはいえない。 エ仮に,原告が故意に他の学芸員の文章を借用したものであるとしても,被告において,本件解雇以前に,この件で原告を懲戒に付すことが検討されたことはない上,原告の上司に当たるA学芸部長は,原告に対し,類似した文章を具体的に指摘するなどの厳重な注意をしたことすらなく,被告は,原告の文章を被告の機関誌に掲載し続けたのであるから(甲17の(1)ないし(11),18の(1)ないし(3),乙52,86の(1),87の(1),88の(1),証人A,弁論の全趣旨),「職員としてふさわしくない非行があったとき」又は「職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったとき」に該当するということはできず,該当するとしても,少なくとも解雇とすることは重きに失して相当性がないというべきである。 (4) 刀剣鑑定の誤りについて証拠(乙74,82,証人A)によれば,保存刀剣,特別保存刀剣の審査の際,原告の審査は当てにならないという意見が学芸員らから出されたこと,原告に偽銘を見抜けない等の間違いがあり,A学芸部長から指導を受けたこと等が認められる。しかし,前掲各証拠によっても,原告の間違いの頻度や程度については明らかではなく,これにより職場秩序を乱したとまでは認めるには足りないから,懲戒事由たる「職員としてふさわしくない非行があったとき」又は「職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったとき」には当たらないというべきである。 (5) 支部鑑賞会での苦情についてア証拠(乙54ないし61,67,80,85,証人A)によれば,原告は,被告の支部に講師として派遣された際の態度について,平成13年3月から同年10月までの間,「会員を叱りとばして恥をかかせる」,「態度が傍若無人で不作法である。」,「解説 ,証人A)によれば,原告は,被告の支部に講師として派遣された際の態度について,平成13年3月から同年10月までの間,「会員を叱りとばして恥をかかせる」,「態度が傍若無人で不作法である。」,「解説や講義が不十分である。」,「通説とかけ離れた講評をする。」,「質問者をなじるため質問がしにくい。」,「鑑定刀入札の当否の判定方法が間違っている。」等との苦情が文書で寄せられたことが認められる。そして,この苦情文書の内容,及び,「原告に対する支部の苦情についてA学芸部長から聞いたことがある。」旨のBの証言(甲25,証人B)に照らし,平成13年3月以前から,前記のような苦情が被告に寄せられていたと認められる。 他方,証拠(乙8,13,65,74,原告本人,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,約15年前から本件解雇に至るまで支部へ派遣され続けていたこと,平成11年以降,年20回を越える頻度で派遣されていたこと,原告は,前記苦情文書を示されて指導を受けたことはないこと,前記苦情文書は,平成13年3月以降,被告から支部に対し,原告についての苦情をまとめるよう依頼されて作成されたものであること,原告は,本件解雇の約8か月前の平成13年3月,兼職禁止に違反したとして被告から懲戒処分(戒告)を受けたが,その際は,支部の苦情の件については問題視されていなかったことが認められる。 これらの事実を総合考慮すると,本件解雇以前,被告が,支部からの苦情について,原告や支部から詳細な事実を確認した上,原告に対し,厳重な注意をしたことがあるとは認めるに足りない。 イ原告を学芸員に任じ支部への派遣を続けていた被告としては,支部から原告について苦情があった場合には,その詳細な内容を支部から確認し,原告からも事実を確認した上,原告に対する厳重な注意指導を行う必要があり, 学芸員に任じ支部への派遣を続けていた被告としては,支部から原告について苦情があった場合には,その詳細な内容を支部から確認し,原告からも事実を確認した上,原告に対する厳重な注意指導を行う必要があり,このような指導をしても改善が見られないときに初めて,規律に違反し,職場秩序を乱したといえるから,「職員としてふさわしくない非行があったとき」又は「職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったとき」に該当するというべきである。しかし,前記アのとおり,被告は,原告にこような指導をすることなく,支部へ派遣し続けたのであるから,支部から苦情を受けたことが各懲戒事由に該当するということはできないし,少なくとも解雇とするのは相当性がないというべきである。 (6) 被告の内部情報の漏洩について原告が被告の内部情報を漏洩したことを認めるに足りる証拠はない。乙54,62は,いずれも憶測に基づくものであり,採用できない。 3 本件解雇が無効な場合の原告の賃金請求権以上から,本件解雇は,懲戒事由がなく(2(1)ないし(6)),懲戒事由があるとしても相当性がなく(2(3)(5)),客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認しえないから,無効である。 したがって,原告は,本件解雇後の賃金請求権を失わず,平成13年12月以降毎月10日限り45万0760円の支払を受ける賃金請求権,及び,平成13年12月10日限り107万0428円の支払を受ける冬季賞与請求権を失わないというべきである。なお,特殊勤務手当は,被告の就業規則上,出張を命じられて刀剣を携帯した場合に支給される手当であるから(甲4),被告の出張命令がない以上,原告にはその受給権はないというべきである。 4 まとめそうすると,原告の請求は,(1) 労働契約上の権利を有する地位の確認,(2) 平成13年 当であるから(甲4),被告の出張命令がない以上,原告にはその受給権はないというべきである。 4 まとめそうすると,原告の請求は,(1) 労働契約上の権利を有する地位の確認,(2) 平成13年12月以降の賃金請求のうち,本判決確定日までに履行期が到来する賃金の請求として,平成13年12月から本判決確定日まで,毎月10日限り45万0760円の支払,及び,これに対する各支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,(3) 平成13年冬季賞与として107万0428円,及びこれに対する支払日の翌日である平成13年12月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 以上の次第で,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条ただし書を適用し,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第19部裁判官伊藤由紀子
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