平成15(行ケ)7 裁決取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年1月23日 高松高等裁判所
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判決文本文7,994 文字)

主文 1 本件訴えをいずれも却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 請求の趣旨(1) 被告が,平成15年11月14日付けで原告らの審査の申立てを棄却した裁決を取り消す。 (2) 東かがわ市選挙管理委員会が,平成15年10月26日,地方自治法76条3項の規定により執行した東かがわ市議会の解散請求に係る投票は,無効とする。 (3) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 請求の趣旨に対する答弁(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 事案の概要 1 前提事実(1) 原告らは,東かがわ市の選挙人である。〔当事者間に争いがない。〕(2) 東かがわ市選挙管理委員会は,平成15年10月26日,地方自治法76条3項の規定により,東かがわ市議会の解散請求(以下「本件解散請求」という。)に係る投票を執行した(以下「本件投票」という。)。〔当事者間に争いがない。〕(3) 原告らは,同年10月27日,同委員会に対し,公職選挙法202条1項により,投票無効の異議申立てをしたが,同委員会は,同月31日,異議申立てを棄却する決定をした。〔当事者間に争いがない。〕(4) 原告らは,同年11月4日,被告に対し,上記決定に対する審査の申立てをしたが,被告は,同月14日,審査の申立てを棄却する裁決をなし,同日,裁決書を原告らに交付した。〔当事者間に争いがない。〕(5) 本件投票の結果,過半数の同意があったので,東かがわ市議会は解散され(地方自治法78条),東かがわ市選挙管理委員会は,公職選挙法33条2項に基づき,同年11月23日,東かがわ市の市議会議員選挙(以下「本件選挙」 ,過半数の同意があったので,東かがわ市議会は解散され(地方自治法78条),東かがわ市選挙管理委員会は,公職選挙法33条2項に基づき,同年11月23日,東かがわ市の市議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)を執行した。〔当裁判所に顕著な事実〕 2 争点本件投票は,無効か否か。 3 争点に対する当事者の主張(原告ら)(1) 東かがわ市は,平成13年5月30日,引田町,白鳥町及び大内町の3町が,住民参加の基に合併協議会を設置し,住民の意思を反映させた合併協定書を締結して,平成15年4月1日,法的に有効に東かがわ市として成立した。そして,合併協定書10項により,市町村の合併の特例に関する法律(以下「特例法」という。)7条1項の規定の範囲内で,東かがわ市の議員任期を2年間と定めた。したがって,議員任期を2年間と定めたことは,手続的,内容的に適法な処置である。 地方自治法76条の住民の議会解散請求は,議会運営が公正を欠いたり,議会全体の意思と住民の意思との乖離が甚だしく相違する場合に,間接民主制の弊害を補完するために認められた制度である。しかし,東かがわ市の議員任期の決定は,手続的,内容的に適法であるから,議会運営が公正を欠いた場合に該当せず,住民の意思を反映した合併協議会による検討を経た上で決定されているため,住民意思との乖離が甚だしく相違する場合でもない。 そもそも,地方自治法76条が住民の議会解散請求に形式上制限を設けていないことから,地方議会が法律に適合した処置をとった場合にまで無制限に解散請求をなし得るとするのは,議員の身分を不安定にするだけでなく,議会運営の円滑さを欠くことにもなり,極端な場合,住民投票に必要な署名人数さえ満たせば,新市が成立した後,解散理由を問わず直ちに議会解散請求ができること るのは,議員の身分を不安定にするだけでなく,議会運営の円滑さを欠くことにもなり,極端な場合,住民投票に必要な署名人数さえ満たせば,新市が成立した後,解散理由を問わず直ちに議会解散請求ができることになり,かえって,直接民主制の弊害を顕著化させることになる。それゆえ,地方自治法76条に規定する住民の議会解散請求も立法趣旨や直接民主制と間接民主制の合理的調和の観点から自ずと制限があるのであり,解散請求を有効になし得るためには解散請求に正当性,合理性が認められる場合に限定すべきである。 したがって,この観点から,本件解散請求の理由である,東かがわ市の2年の議員任期が長すぎるとの主張は,地方自治法76条の趣旨と相容れず,同法が予定する場合でもないため,正当性,合理性がないから,議会解散事由たり得ない。 (2) 地方自治法76条の住民の議会解散請求が署名人数の要件さえ満たせば格別理由を問わず可能であるとするのは,特例法7条,1条の趣旨を没却するものである。すなわち,同法7条は,さまざまな地域的要素を有する複数の旧自治体から新市への移行を円滑に行い,新市の議会運営が円滑に行われるためには,旧自治体議員任期の長短に関わらず,2年間までの議員任期が必要であるとの判断から立法化されたものであり,議員任期を2年以内でどの程度にするかは,住民の意思を反映した合併協議会における協議により決定されることとしたのである。しかし,合併協議会により適法に決定された議員任期につき,新市の成立した直後に,議員任期期間が不当であることを理由としての議会解散請求が可能であるとすれば,内容的に,合併協議の蒸し返しとなり,すでになされた合併協議会での協議内容や結論が無意味となって著しく法的安定性を欠くことになるばかりか,新市への円滑な移行も果たし得ず,議会運営にも あるとすれば,内容的に,合併協議の蒸し返しとなり,すでになされた合併協議会での協議内容や結論が無意味となって著しく法的安定性を欠くことになるばかりか,新市への円滑な移行も果たし得ず,議会運営にも支障を生じ,結局,特例法7条の趣旨に反する事態を招来し,また,地方自治体の広域化の要請に対処し,行政容量の増加に伴って行政の効率化を図り,併せて,行政経費の無駄を省くために合併を促進しようとした同法1条の目的にも反することになる。 (3) 本件投票は,地方自治法79条の趣旨からも無効である。 地方自治法79条は,議会議員の一般選挙のあった日から1年間は解散できないと規定されているところ,その立法趣旨は,議会の解散請求は,一旦行った選挙の結果を覆し,その濫用によって議会及び議員全体の地位を不安定にすることから,解散請求に一定の制限を定めたものである。換言すれば,法的安定性の観点から,住民意思を問うてから1年間は解散請求をできないと定めたものである。東かがわ市は,合併協議会の協定事項を住民に啓発,広報した上で成立したものであり,合併による東かがわ市の成立には住民の意思が反映されており,また,住民の意思の代表者である合併協議会委員の同意も得られているところから,東かがわ市の議員任期は住民の意思により決定されたことと同視できる。 したがって,本件議員任期の決定は,一般選挙と形式上は異なるものの,住民意思が十分に反映されている点では同様であるから,地方自治法79条の適用又は準用により,本件投票は無効である。 (被告)(1) そもそも議会とは,住民のうちから選挙された議員をその基本的構成とするものであって,憲法は,地方公共団体の議会については,議員全員が住民の直接選挙によるものと定めている。そして,地方行政の民主的運営は,代 議会とは,住民のうちから選挙された議員をその基本的構成とするものであって,憲法は,地方公共団体の議会については,議員全員が住民の直接選挙によるものと定めている。そして,地方行政の民主的運営は,代表民主制の方式により間接的な民主的コントロールによりなされている。しかしながら,住民自治の実現を図るためには,この方式では十分でない場合もあり得る。地方自治法は,補充的に住民が直接に地方行政に参加できる道を開き,住民自治の徹底を期すこととしている。ことに,代表民主制の方式による地方行政の運営が住民の意思に反する状態に陥った場合などには,住民に直接その意思を表明する手段を与え,これによって代表民主制に伴う欠陥を是正させることを認めている。地方自治法76条は,まさにこのような趣旨に基づき設けられたものであって,全体としての議会の行動が,住民の意思と遊離している可能性が認められる場合にその解散請求を認めるものである。 合併協議会の構成員には,市民から任命された学識経験者が入ってはいたが,当該学識経験者は3町の協議により選任されたのであって,その過程に直接住民の意思が反映するという手続にはなっていない。また,合併協定書の内容に関しても手続上住民の意思が直接的に反映しているとはいえない。したがって,本件のような場合こそ,議会と住民の意思の遊離が問題とされる典型的なケースである。本件解散請求が認められたこと自体からも,議会と住民の意思の遊離が存在したことは顕著である。 地方自治法76条には,その趣旨や直接民主制と間接民主制の合理的調和の観点からする解散請求の制限はない。それは,同条に基づく連署を集約する過程において法定の署名が集約できれば,一定程度,解散請求の理由に正当性や合理性についても確保され,議会と住民の意思の遊離も認められるケ する解散請求の制限はない。それは,同条に基づく連署を集約する過程において法定の署名が集約できれば,一定程度,解散請求の理由に正当性や合理性についても確保され,議会と住民の意思の遊離も認められるケースであるという判断が結果としてなされることが予定されているからである。同条に制限があるとすれば,その要件該当性の判断を誰が行うか,という問題が生じ,むしろ,同条の趣旨が没却される。 (2) 特例法7条及び1条は,自主的な市町村の合併の推進,旧自治体から新市への円滑な移行をその趣旨としている。しかし,特例法は,地方自治法の上位法規ではないし,地方自治法76条の趣旨は間接民主制の補充であるので,そもそも,両法は,その趣旨において矛盾するものではない。 また,仮に,解散請求が認められた本件のように議員の選挙がなされたとしても,それが合併協議の蒸し返しにならないことは明らかである。合併協議会での協議内容や合併協定書の内容はそのまま執行されているのであって,無意味になどなっていない。 (3) 地方自治法79条は,議員の一般選挙に関して定められた規定であり,本件のような選挙を経ないケースに適用されるものではない。特例法でも,地方自治法79条と同様の規定は置かれておらず,同条の準用もされていない。 したがって,本件解散請求の無効原因たり得ない。 第3 判断 1 訴えの利益について上記第2,1のとおり,平成15年10月26日,本件投票が行われ,その結果,東かがわ市議会の解散について,過半数の同意があったので,東かがわ市議会は解散し(地方自治法78条),東かがわ市選挙管理委員会は,公職選挙法33条2項に基づき,本件選挙を実施したことが認められる。 また,公職選挙法202条1項によれば,地方公共団体の議員及び長の選挙において 方自治法78条),東かがわ市選挙管理委員会は,公職選挙法33条2項に基づき,本件選挙を実施したことが認められる。 また,公職選挙法202条1項によれば,地方公共団体の議員及び長の選挙において,その選挙の効力に関し不服がある選挙人又は公職の候補者は,当該選挙の日から14日以内に,文書で当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に対して異議を申し出ることができるところ,本件選挙につき,東かがわ市選挙管理委員会に対して,異議が申し立てられたとする主張立証はない。かえって,弁論の全趣旨によれば,異議申立てはなかったものと認めるのが相当である。 選挙管理委員会の管理の下に,公職選挙法に基づく選挙が行われた以上,その選挙又は当選の効力に関する争訟は,同法202条以下に規定する手続をもってのみ行うべきものと解するを相当とする(最高裁判所昭和32年8月8日第一小法廷判決・民集11巻8号1446頁参照)。 本件訴訟についての訴えの利益は,本件投票後に行われた本件選挙に基づいて選出された新市議会議員の地位を失わせ,本件投票前に存した東かがわ市議会及び同議会を構成していた議員の地位を復活させることに存すると解されるところ,本件投票の後,その結果として,適法に本件選挙という公職選挙法に基づく選挙が行われ,新しい市議会議員の当選が確定すれば,同選挙の日から新市議会議員が議員たる地位に就く結果,本件選挙の効力自体を無効とすることなく,本件投票のみが無効とされることによっては,新議員の地位を失わせることはできないと解すべきである(最高裁判所昭和30年9月22日第一小法廷判決民集9巻10号1278頁・同昭和31年10月23日第三小法廷判決民集10巻10号1312頁参照)。 なお,本件選挙の効力を争うことをせずに,本件投票の無効について争うこ 月22日第一小法廷判決民集9巻10号1278頁・同昭和31年10月23日第三小法廷判決民集10巻10号1312頁参照)。 なお,本件選挙の効力を争うことをせずに,本件投票の無効について争うことができると仮定すると,本件投票の無効が確認された場合,本件投票前に存した東かがわ市議会及び同議会を構成していた議員の地位が復活することになるが,その場合,本件投票の結果選出された議員と併存することとなり,議会の議員が,法定の定員の倍以上の人数となってしまうところ,そのような事態を招来することも,地方自治法及び公職選挙法は想定していないというべきである。公職選挙法に基づく選挙が行われ,東かがわ市市民の意思により,新たな東かがわ市議会議員が当選し,確定した以上,同選挙又は当選の効力は,公職選挙法に定める争訟の結果無効となる場合のほかは,原則として当然無効となるものではないと解する。 したがって,本件選挙について異議申立てがなく,したがって,本件選挙の効力を争い得なくなった現時点において,本件投票のみを無効とすることを求める本件訴えは,いずれも訴えの利益を欠き,不適法と判断する。 2 本案についてなお,本案についても,以下,検討する。 (1) 原告らは,本件投票は,地方自治法76条3項の規定に基づき執行されたものであるが,議会の解散請求は,直接民主主義に基づく住民自治の徹底を期すために特別に定められた規定であって,議会運営が公平を欠いたり,住民意思と議会全体の意思との乖離が存する場合など,正当ないし相当な理由が必要であるなど一定の制限があるというべきものであるが,本件投票の理由(東かがわ市議会議員の任期を,合併から2年間としたこと)からすれば,本件投票には上記要件が欠けており,無効であると主張する。 しかしながら,議会の るというべきものであるが,本件投票の理由(東かがわ市議会議員の任期を,合併から2年間としたこと)からすれば,本件投票には上記要件が欠けており,無効であると主張する。 しかしながら,議会の解散請求(地方自治法76条)は,普通地方公共団体の住民が選任した議員によって構成される議会の運営が住民の意思に反するものと認められる場合に,議員の任期満了前に,現任議員全員の資格を奪って,現任議員による議会の構成を廃止し,新たな議員による議会の成立を図るため,議員の一般選挙を要求するものであるところ,憲法は,地方公共団体の議会については,議員全員が住民の直接選挙によるものと定めている(93条2項)。 合併協議会は,適法に構成されたものではあったが,直接的に住民の意思を反映させる形態ではなかったことは,その構成方法から明らかである。したがって,合併協議会により,新市の議員として認められた東かがわ市議会議員について,東かがわ市の住民が,直接的に,意思を反映させるために,本件投票が行われたものである。 したがって,合併協議会により任期を2年と定められた東かがわ市議会及び同議員については,本件投票により,直接民主制によって住民意思を図ることは,地方自治法76条に反することはなく,適法である。 原告らの主張は理由がない。 (2) また,原告らは,本件投票は,特例法7条及び1条の趣旨を没却し,違法であると主張する。 しかしながら,特例法7条及び1条は,自主的な市町村の合併の推進,及び,旧自治体から新自治体への円滑な移行をその趣旨としているが,同法が,地方自治の本旨である,議員に対する直接民主制の要請を前提としていることは明らかである。そして,たとえ,普通地方公共団体において,合併直後に議会解散請求がなされ,議会解 の趣旨としているが,同法が,地方自治の本旨である,議員に対する直接民主制の要請を前提としていることは明らかである。そして,たとえ,普通地方公共団体において,合併直後に議会解散請求がなされ,議会解散にかかる投票の結果,議会が解散されることになったとしても,解散されるまでの間は,合併協議会において話し合われたとおりの内容で議会が構成され,運営されていたのであるから,議会の解散及びそれに伴う議員選挙が行われたとしても,それのみをもって,旧自治体から新自治体への円滑な移行を阻害することにならないこともまた,明らかである(弁論の全趣旨によれば,少なくとも,議会に関すること以外の自治体の機能については,一応円滑に移行したものと認められる。)。実際に,東かがわ市において,旧自治体から新自治体への円滑な移行が,本件投票によって阻害されたり,合併協議会の蒸し返しとなったりしたと認めるに足りる証拠はない。 したがって,この点についての原告らの主張も理由がない。 (3) さらに,原告らは,本件投票は,地方自治法79条の趣旨(議会の議員の一般選挙のあった日等から1年間は解散できないとの規定)からも無効である旨主張する。 しかしながら,地方自治法79条は,「その議会の議員の一般選挙のあった日」ないしは「同条第3項(注:地方自治法76条3項)の規定による解散の投票のあった日」からそれぞれ1年間,地方自治法76条1項の規定による普通地方公共団体の議会の解散の請求ができないことを定めた規定であり,立法趣旨は,議会解散請求権の濫用を防止するとともに,住民の支持を得て当選した議員が構成する議会を短期間のうちに解散させることは,責任ある住民の参政権の行使と認めることができないとすることにある。したがって,本件のように,普通地方公共団体の合併により, の支持を得て当選した議員が構成する議会を短期間のうちに解散させることは,責任ある住民の参政権の行使と認めることができないとすることにある。したがって,本件のように,普通地方公共団体の合併により,新たに任期を付された議会については,そもそも,その地位が,直接選挙に基づいて確定されたものでない以上,同議会の解散請求に同条の適用がないことは明らかである。合併協議会の協議は,上記要件には該当しない。 したがって,この点についての原告らの主張も理由がない。 (4) 以上のとおりであって,本件投票は無効であるとは認められない。 第4 結論以上のとおりであるから,本件訴えは,訴えの利益がなく,不適法であり,いずれも却下されるべきである。 よって,主文のとおり判決する。 高松高等裁判所第4部裁判長裁判官松本信弘裁判官吉田肇裁判官種村好子

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