平成24年4月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成22年(ワ)第6766号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成24年2月27日判決原告有限会社顧問料不要の三輪会計事務所原告 P1上記両名訴訟代理人弁護士西川暢春被告 P2被告 P3被告 P4被告 P5上記4名訴訟代理人弁護士中祖康智 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告ら(1)被告らは,原告らに対し,連帯して6090万円及びこれに対する被告P4は平成22年5月23日から,その余の被告らは同月20日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。 (2)訴訟費用は被告らの負担とする。 (3)仮執行宣言 2 被告ら 主文同旨第2 事案の概要 1 前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者原告有限会社顧問料不要の三輪会計事務所(以下「原告会社」という。)は,会社個人経営の帳簿の記帳及び決算に関する業務等を目的とする会社であり,税務書類の作成を行っている。 原告P1は,原告会社の代表者であり,P1税理士事務所の屋号で税務代理及び税務相談等を業としている。 被告P2は,株式会社USPアカウンティングの代表取締役であり,被告P3は, 行っている。 原告P1は,原告会社の代表者であり,P1税理士事務所の屋号で税務代理及び税務相談等を業としている。 被告P2は,株式会社USPアカウンティングの代表取締役であり,被告P3は,その妻である。 被告P4は,税理士であり,被告P5は,その父である。 (2)当事者間における各契約ア原告らと被告P2及び被告P4との間における各雇用契約原告らは,被告P2との間で平成17年8月23日,被告P4との間で平成19年1月5日,それぞれ雇用契約を締結した。 イ原告らとその余の被告らとの間における各身元保証契約被告P3は,原告P1との間で,平成17年8月22日,期間の定めなく,被告P2が原告らに損害を与えた場合は被告P2と連帯して賠償の責任を負う旨の身元保証契約を締結した(甲8の1)。 被告P5は,原告P1との間で,平成18年12月10日,期間の定めなく,被告P4が原告らに損害を与えた場合は被告P4と連帯して賠償の責任を負う旨の身元保証契約を締結した(甲8の2)。 (3)原告らの就業規則ア原告らの就業規則(甲1。以下「本件就業規則1」という。)は,以下のとおり定められていた。 10条(服務) 従業員は,次の事項を守らなければならない。 (7号) 業務上知り得た顧客,取引先並びに会社の情報・秘密等,第三者が知り得ない情報は,就業中はもちろん,その後においても第三者に一切開示又は漏洩しないこと。 36条2項(懲戒の事由) 従業員が,次のいずれかに該当するときは,懲戒解雇する。ただし,情状により減給とすることがある。 (7号) 会社内のデータを無断で持ち出したとき(8号) 業務上知り得た顧客,取引先並びに会社の情報・秘密等,第三者が知り得ない情報を第三者に開示又は漏洩したとき37条(損害賠償) ある。 (7号) 会社内のデータを無断で持ち出したとき(8号) 業務上知り得た顧客,取引先並びに会社の情報・秘密等,第三者が知り得ない情報を第三者に開示又は漏洩したとき37条(損害賠償) 従業員が,前条の行為により,会社に損害を与えた場合は,自らの責任において損害を賠償するものとする。 イ原告らは,平成21年8月ころ,本件就業規則1を改訂し(改訂後の就業規則を「本件就業規則2」という。),次の規定を設けた(本件就業規則2が被告P2及び被告P4に適用されるかについては,当事者間で争いがある。)。 39条1項従業員が,前条の行為及び服務規律に反する行為をしたこと並びに退職前後における顧客への働きかけ,顧客からの勧誘に応ずる関与により,会社に損害を与えた場合は,その与えた損害の全てをその従業員は賠償しなければならない。 (4)被告P2及び被告P4の退職時における合意ア被告P2は,平成21年7月17日,被告P4は,同年8月12日,それぞれ原告らを退職した。 イ誓約書の作成被告P2及び被告P4は,退職するに当たり,原告らに対し,「秘密保持に関する誓約書」(甲3の1・2。以下「本件各誓約書」という。)を作成して提出した。本件各誓約書には,以下の記載がある。 1条(秘密保持の確認)私は,貴社を退職するに当たり,貴社の営業上の情報並びに顧客情報その他一切の内部情報(以下「秘密情報」という。)に関する資料等の一切について,原本はもちろん,そのコピー及び関係資料等を貴社に返還し,自ら保有していないことを確認いたします。 3条(退職後の秘密保持の誓約)秘密情報については,貴社を退職した後においても,私自身のため,あるいは他の事業者その他の第三者のために開示,漏洩若しくは使用しないことを約束いたします。 3条(退職後の秘密保持の誓約)秘密情報については,貴社を退職した後においても,私自身のため,あるいは他の事業者その他の第三者のために開示,漏洩若しくは使用しないことを約束いたします。 4条(損害賠償)前各条項に違反して,貴社の秘密情報を開示,漏洩もしくは使用した場合,法的な責任を負担するものであることを確認し,これにより貴社が被った一切の損害を賠償することを約束いたします。 ウ確認書の作成被告P4は,退職するに当たり,原告らに対し,別途,「確認書」と題する書面(甲4。以下「本件確認書」という。)を作成して提出した。本件確認書には以下の記載がある。 (ア) 退職後も貴事務所の情報やノウハウ並びに関与先の顧客情報やデータなどを他に漏らしたり,使用もしくは利用することはありません。 (イ) また,私又は事務所の他の者が担当していた事務所の顧客に対し関与を働きかけません。 (ウ) もし,万一,上記に背く行為を行い,事務所に損害を被らせたときは,事務所に与えた損害をすべて賠償いたします。 (5)被告P2及び被告P4の行為ア被告P2被告P2は,原告らを退職する以前において,原告らの顧客のうち46 件を担当していたところ,このうち36件の顧客は,被告P2が原告らを退職した後,原告らとの契約を解除した。 被告P2は,このうち35件の顧客との間で記帳代行業務に関する契約を締結し,被告P4は,税務申告業務に関する契約を締結した。 イ被告P4被告P4は,原告らを退職する以前において,原告らの顧客のうち29件を担当していたところ,このうち19件の顧客は,被告P4が原告らを退職した後,原告らとの契約を解除した。 被告P4は,このうち15件の顧客との間で税務申告業務に関する契約を締結し,被告P2 件を担当していたところ,このうち19件の顧客は,被告P4が原告らを退職した後,原告らとの契約を解除した。 被告P4は,このうち15件の顧客との間で税務申告業務に関する契約を締結し,被告P2は,記帳代行業務に関する契約を締結した。 2 原告らの請求原告らは,① 被告P2及び被告P4に対し,本件就業規則等に違反し,違法に原告らと競業し,かつ,不正の利益を得る目的で,原告らから示された営業秘密を使用したなどとして,前記各雇用契約の債務不履行ないし不法行為並びに不正競争防止法2条1項7号及び同法4条に基づき,② 被告P3及び被告P5に対し,前記各身元保証契約に基づき,連帯して6090万円の損害賠償及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めている。 3 争点(1)被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反し,違法に原告らと競業したか (争点1)(2)被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反し,原告らの顧客情報等を使用したか (争点2)(3)被告P2及び被告P4は,不正の利益を得る目的で,原告らから示された営業秘密を使用したか (争点3)(4)損害の有無及び金額等 (争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反し,違法に原告らと競業したか)について【原告らの主張】以下のとおり,被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反し,違法に原告らと競業した。 (1)競業避止義務ア雇用契約被告P2及び被告P4は, 業したか)について【原告らの主張】以下のとおり,被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反し,違法に原告らと競業した。 (1)競業避止義務ア雇用契約被告P2及び被告P4は,原告らとの雇用契約継続中は,特約がなくても,原告らに対する競業避止義務を負っているから,原告らの顧客に対し,自らが退職予定であることを予告して,契約の勧誘を行うこと自体,違法である。 イ本件就業規則2被告P4は,本件就業規則2の39条1項により,退職前後における顧客への働きかけ,顧客からの勧誘に応ずる関与をしてはならない義務を負っていた。 なお,本件就業規則2は,平成21年8月1日に制定された有効なものである。具体的には,事前に,従業員代表であるP6に指示して全従業員に回覧させ,同月,労働基準監督署に届け出たものであり,原告P1は,原告らの事務所内サーバーでこれを保管し,従業員らに対する周知もした。 ウ本件確認書被告P4は,退職にあたり,本件確認書を作成し,原告らの顧客に対し関与を働きかけない旨約した。 エまとめ前記ア(被告P4については,前記イ,ウを加える。)の結果,被告P2及び被告P4は,原告らの顧客に対し働きかけ,競業をしてはならない 義務を負っていた。 (2)被告P2及び被告P4の行為被告P2及び被告P4は,退職するに当たり,担当顧客らに対し,原告らとの契約を継続することを勧めず,「このまま自分が担当する。」「入れ物が代わるだけで,中身は何も変わらない。」などと述べて働きかけ,原告らとの契約を解除させ,新たに契約を締結した。 これは,前記(1)の雇用契約,本件就業規則2や本件確認書に違反するものであり,原告らに対する債務不履行ないし不法行為に当たる。 以下の事情は,被告P2及び被告P4 せ,新たに契約を締結した。 これは,前記(1)の雇用契約,本件就業規則2や本件確認書に違反するものであり,原告らに対する債務不履行ないし不法行為に当たる。 以下の事情は,被告P2及び被告P4が担当顧客らに対する積極的な働きかけをしたことを裏付けるものである。 ア前提事実(5)のとおり,被告P2の担当顧客46件のうち36件(約78.3%),被告P4の担当顧客29件のうち19件(約65.5%)が原告らとの契約を解除した。 原告らがこれまで雇用した従業員のうち,被告P2及び被告P4と同様に,原告らを退職した直後に税理士事務所を開いたのは3名である。これらの者の担当顧客による担当者退職前後3か月以内における契約解除率は,28件中4件(14.3%),36件中5件(13.9%)及び15件中1件(6.7%)であり,これらと比較すると上記の解除率は異常に高い。 イ記帳代行業務及び申告業務は,会計事務所又は税理士事務所に対する信頼を基礎とするものであり,担当者個人に対する信頼を基礎とするものではないから,被告P2及び被告P4による担当顧客らに対する積極的な働きかけがなければ,原告らとの契約が解除されることはなかった。 少なくとも被告P2は税理士資格を有しないから,被告P4と協力することを前提として担当顧客らに積極的に働きかけたのでない限り,担当顧客らが原告らとの契約を解除し,被告P2と新たに契約を締結することは なかった。 ウ被告P2及び被告P4は,担当顧客らを勧誘するに当たり,予め原告らに対する契約解除通知を作成し又はその文案を示すなどしていた。また,契約解除通知をするに当たり,被告P2及び被告P4以外の別の税理士と新たに契約するという虚偽の理由を記載させるなど隠蔽工作をした。 エ被告P2及び被告P4は はその文案を示すなどしていた。また,契約解除通知をするに当たり,被告P2及び被告P4以外の別の税理士と新たに契約するという虚偽の理由を記載させるなど隠蔽工作をした。 エ被告P2及び被告P4は,担当顧客らが原告らとの契約を解除することを原告らに隠すため,虚偽の引継報告をして隠蔽工作をした。 具体的には,被告P2が,原告らとの契約を解除する担当顧客について被告P4に対する引継ぎをし,被告P4も担当顧客らが原告との契約を解除することを知りながら,形式的に他の従業員に対する引継ぎをした。 【被告らの主張】以下のとおり,被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反したり,違法に原告らと競業したりしていない。 (1)競業避止義務の内容及び根拠についてア競業避止義務の内容を争う。 イ本件就業規則2の効力原告P1が上記規則の制定を労働基準監督署に届け出たことは知らないし,原告らの従業員に周知されたことも否認する。 上記届出がされた日も被告P2の退職後であり,被告P4の退職日である平成21年8月12日であるから,少なくとも被告P2及び被告P4には効力が及ばない。 また,就業規則により一方的に退職後の競業を禁じることは,使用者の正当な利益を保護するために必要かつ合理的な範囲のものでない限り,原則として無効である。前記のとおり,本件就業規則2は,競業避止期間の限定がなく,禁止される行為も漠然としており,内容が特定されておらず,不合理な内容のものであるから,無効である。 (2)被告P2及び被告P4の行為被告P2及び被告P4は,担当顧客らに対し,退職して独立する予定であることを説明したところ,担当顧客らから引き続き業務を担当するように依頼され,新たに契約を締結したにすぎず,何ら違法な勧誘はしていない。なお,被 告P4は,担当顧客らに対し,退職して独立する予定であることを説明したところ,担当顧客らから引き続き業務を担当するように依頼され,新たに契約を締結したにすぎず,何ら違法な勧誘はしていない。なお,被告P4の担当顧客である有限会社キラメキコーポレーションが原告らとの契約を解除したのは,被告P4が原告らを退職する前のことであり,被告P4の関与は全くない。 そもそも,担当顧客らとの人的関係を利用して営業活動をすること自体は自由競争の枠内の行為であり,違法ではない。 また,以下のとおり,前記【原告らの主張】(2)の事情は,被告P2及び被告P4が担当顧客らに積極的な働きかけをしたことを裏付けるものではない。 ア被告P2及び被告P4以外の従業員らの担当顧客に関する契約解除率について,契約解除がされた期間を退職前後3か月(合計10件)に限る理由は全くなく,1年間でみれば30件を超える担当顧客らが契約を解除したはずである。 イ記帳代行業務及び申告業務は,担当者個人の資質,能力,性格及び意欲に対する顧客の個人的な信頼関係が重要であり,顧客らは,担当者が独立するのであれば当該担当者と新たに契約を締結し,従前と同様の業務を期待するのが当然のことである。原告らにおいて,顧客らの記帳代行業務及び申告業務を行っていたのは原告P1ではなく,原告らの従業員であり,原告P1は顧客らとほとんど会ったことすらなく,顧客らとの信頼関係を欠いていたため,契約を解除されたにすぎない。 ウ被告P2及び被告P4は,担当顧客らから原告らとの契約を解除する手続について尋ねられたため,契約解除通知の書式を提供するなどしたにすぎない。契約解除の理由として,被告P2及び被告P4とは別の税理士と 契約するという記載がされたのは,担当顧客らが,原告らと被 について尋ねられたため,契約解除通知の書式を提供するなどしたにすぎない。契約解除の理由として,被告P2及び被告P4とは別の税理士と 契約するという記載がされたのは,担当顧客らが,原告らと被告P2及び被告P4がトラブルにならないように配慮するなどしたことによるものであり,隠蔽工作などではない。 エそもそも,被告P2及び被告P4には,原告らに対し,担当顧客らが原告らとの契約を解除する意向であることを報告するまでの義務はない。 また,被告P2が,原告らとの契約を解除する担当顧客らについて,被告P4に引き継いだのは,他の従業員の負担が無駄に増えることを避けるためにすぎず,隠蔽工作などではない。 2 争点2(被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反し,原告らの顧客情報等を使用したか)について【原告らの主張】以下のとおり,被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反し,原告らの顧客情報等を使用した。 (1)顧客情報の開示,漏洩,使用の禁止義務ア本件就業規則1被告P2及び被告P4は,本件就業規則1の36条2項により,原告らのデータを無断で持ち出したり(7号),業務上知り得た顧客情報等を第三者に開示又は漏洩したり(8号)してはならない義務を負っていた。 イ本件各誓約書被告P2及び被告P4は,退職にあたり,本件各誓約書を作成し,原告らの営業上の情報及び顧客情報その他一切の内部情報を原告らに返還し,退職後,開示,漏洩,使用しない旨約した。 ウ本件確認書被告P4は,退職にあたり,本件確認書を作成し,原告らの顧客情報等を開示,漏洩,使用しないことを約した。 エまとめ 前記ア,イの結果(被告P4については,前記ウを加える。),被告P2及び被告P4は,担当顧客らの社名又は 成し,原告らの顧客情報等を開示,漏洩,使用しないことを約した。 エまとめ 前記ア,イの結果(被告P4については,前記ウを加える。),被告P2及び被告P4は,担当顧客らの社名又は氏名,住所,連絡先,決算内容及び経営状態に関する情報並びに原告らと担当顧客らとの間の契約内容に関する情報(以下「本件情報」という。)を開示,漏洩,使用しない義務を負っていた。 (2)被告P2及び被告P4の行為前記1【原告らの主張】(2)のとおり,被告P2及び被告P4は,担当顧客らに対し,原告らとの契約を解除させ,新たに契約を締結するよう勧誘したが,その際,本件情報を使用し,その後の記帳代行業務及び申告業務を継続するに当たってもこれを使用した。 上記使用は,本件就業規則等に違反する行為であり,雇用契約の債務不履行ないし不法行為に当たる。 【被告らの主張】(1)本件情報の開示,漏洩,使用の禁止義務の内容を争う。 (2)被告P2及び被告P4の行為前記1【被告らの主張】(2)のとおり,被告P2及び被告P4が,担当顧客に対し,契約締結を働きかけた事実はなく,したがって,その際に本件情報を使用した事実もない。 そもそも,本件情報のうち,新規契約締結に必要な情報は,住所,電話番号等の連絡先に関するものであって,何ら秘密の情報ではなく,本件就業規則等によって開示,漏洩,使用が禁止される情報に当たらない。 3 争点3(被告P2及び被告P4は,不正の利益を得る目的で,原告らから示された営業秘密を使用したか)について【原告らの主張】以下のとおり,被告P2及び被告P4は,不正の利益を得る目的で,原告らから示された営業秘密を使用した。 これは,不正競争防止法2条1項7号の不正競争に当たる。 (1)原告らから示された 以下のとおり,被告P2及び被告P4は,不正の利益を得る目的で,原告らから示された営業秘密を使用した。 これは,不正競争防止法2条1項7号の不正競争に当たる。 (1)原告らから示された営業秘密ア営業秘密の特定担当顧客らの社名又は氏名,住所,連絡先,決算内容及び経営状態に関する情報並びに原告らと担当顧客らとの間の契約内容に関する情報(本件情報)は,いずれも原告らの営業秘密でもある。 イ秘密管理性(ア) 本件就業規則1(前提事実(3)),本件各誓約書(同(4)イ)及び本件確認書(同(4)ウ)において,いずれも本件情報は営業秘密とされ,持出し等については損害賠償責任を負うものとされている。 (イ) 原告らは,従業員らに対し,顧客らの社名又は氏名,住所及び連絡先に関する情報並びに契約内容(料金)に関する情報が記載された書面を廃棄するときには,シュレッダーにかけることを義務づけていた。 また,顧客情報の重要性について従業員を教育し,不正使用及び持出しも禁止していた。 原告らは,平成21年6月からデータ持出し監視ソフトを導入し,従業員が事務所内パソコンに保管されている本件情報を持ち出したときには,原告P1に警告メールが届き,不正持出しの事実を確認することができるようにし,本件情報の持出しを原告P1による許可制としていた。 (ウ) 被告P2及び被告P4を含む従業員らは,本件情報が原告らの営業秘密であることを認識していた。 ウ有用性被告P2及び被告P4は,担当顧客らの決算内容及び経営状態に関する情報を使用することにより,優良な顧客を選別して,原告らとの契約を解除させ,新たに契約を締結することができた。 また,契約内容(料金)に関する情報を使用することにより,原告らよ り低廉又は同一の価格を担当 により,優良な顧客を選別して,原告らとの契約を解除させ,新たに契約を締結することができた。 また,契約内容(料金)に関する情報を使用することにより,原告らよ り低廉又は同一の価格を担当顧客らに提示して,勧誘することもできた。 被告P2及び被告P4らが,担当顧客らと新たに契約を締結した後,記帳代行業務及び申告業務を継続して行うためにも本件情報は必要なものであった。 エ非公知性本件情報は,いずれも非公知の事実であった。 (2)不正の利益を得る目的での使用前記1【原告らの主張】(2)のとおり,被告P2及び被告P4は,担当顧客らに対し,原告らとの契約を解除させ,新たに契約を締結するように勧誘したが,その際,本件情報を使用し,その後の記帳代行業務及び申告業務を継続するに当たってもこれを使用した。 よって,不正の利益を得る目的での使用に当たる。 【被告らの主張】被告P2及び被告P4は,原告らから示された営業秘密を使用してはいない。 (1)本件情報の営業秘密性ア秘密管理性以下のとおり,本件情報は営業秘密として管理されていなかったものである。 (ア) 担当顧客らの社名又は氏名,住所及び連絡先に関する情報は,被告P2及び被告P4が在職中に担当顧客らから受け取った名刺等にも記載されており,被告P2及び被告P4の携帯電話にも記録されていた。 原告らは,従業員らが顧客らから受け取った名刺等について特段の管理をしていなかったし,従業員らが携帯電話で顧客らと連絡を取ることも禁止又は管理していなかった。 (イ) 原告らの顧客名簿は,事務所内のパソコンに記録されており,アクセス権者は指定されておらず,パスワードによるアクセス制限もなかった。 したがって,従業員全てが各自のパソコンからアクセスすることがで らの顧客名簿は,事務所内のパソコンに記録されており,アクセス権者は指定されておらず,パスワードによるアクセス制限もなかった。 したがって,従業員全てが各自のパソコンからアクセスすることができた上,秘密情報と認識することのできる表示もなく,その他一般のファイルと共に保管されていた。 (ウ) 原告らは,平成21年ころまで顧客名簿を全従業員に印刷して配布しており,これには「社外秘」などの特段の表示もなかった。従業員らはこれを各自の机の上などに保管しており,その処分も従業員ら各自に委ねられていた。平成21年以降も顧客名簿は回収されず,廃棄するように指示されたこともなかった。 (エ) 原告らと顧客らとの契約書にも「社外秘」などの表示はなく,各担当者が各自で保管しており,従業員らが業務時間中に自由に閲覧することが可能であった。 イ有用性(ア) 記帳代行業務及び申告業務は,経済活動一般に必要とされるものであり,顧客となり得る者にアクセスすることが困難なものではない。したがって,担当顧客らの社名又は氏名,住所及び連絡先は,有用なものではない。 (イ) 原告らと担当顧客らとの契約内容は,担当顧客らに尋ねれば分かることであり,有用な情報ではない。 また,原告らの料金体系は原告らのホームページに詳細に掲載されており,これを参考にして契約条件を決めることもできた。 ウ非公知性担当顧客らの連絡先に関する情報は,電話帳やインターネットに掲載されている公知の情報であり,何ら秘密ではない。 前記イ(イ)のとおり,原告らの料金体系も原告らのホームページに詳細に掲載されており,担当顧客の事業内容や事業規模からすれば,個別の契約料金についても概ね推測することは可能であった。 (2)不正の利益を得る目的での使用につ 系も原告らのホームページに詳細に掲載されており,担当顧客の事業内容や事業規模からすれば,個別の契約料金についても概ね推測することは可能であった。 (2)不正の利益を得る目的での使用について前記1【被告らの主張】(2)のとおり,被告P2及び被告P4は,担当顧客らから申出を受けて新たに契約を締結したにすぎず,本件情報を使用して担当顧客らと連絡を取ったことはないし,原告らと同一又はより有利な契約内容を提示したこともない。 4 争点4(損害の有無及び金額等)について【原告らの主張】以下のとおり,原告らは,被告P2及び被告P4の行為により合計6090万9798円の損害を被った。 (1)前提事実(5)のとおり,被告P2の担当顧客36件及び被告P4の担当顧客19件について原告らとの契約が解除された。 (2)これにより,原告らが失った顧問料等の収入は,1年当たり合計1830万3266円であるところ,税理士事務所との顧問契約及び申告業務の委託は数年間継続されるのが通常であるから,原告らは少なくとも3年分である合計5490万9798円の損害を被った。 なお,原告らには仕入れ価格等の変動経費が存在しないから,上記売上全額が損害に当たる。 (3)本件と相当因果関係のある弁護士費用は600万円である。 【被告らの主張】(1)担当顧客らが原告らとの契約を解除したのは,担当顧客らの選択によるものであり,被告P2及び被告P4の行為とは因果関係がない。なお,原告らが契約を解除された前記55件の担当顧客らのうち2件については被告P2及び被告P4は新たに契約を締結しておらず,原告らとの契約が解除されたことと被告P2及び被告P4の行為とは何の関係もない。また,被告P4の担当顧客19件のうち1件は,原告らも契約解除を望んでいた顧客である。 P4は新たに契約を締結しておらず,原告らとの契約が解除されたことと被告P2及び被告P4の行為とは何の関係もない。また,被告P4の担当顧客19件のうち1件は,原告らも契約解除を望んでいた顧客である。 (2)原告らと顧客らとの契約期間は1年間であって,これが3年間は継続され たとはずであるとする理由はない。少なくとも,1年間の契約期間が経過した後は自由競争に委ねられるべきものであるから,被告P2及び被告P4の行為による損害には当たらない。 また,原告らが実際に得ていた利益は,売上げの10%程度にすぎず,経費を全く考慮しない前記【原告らの主張】(2)による損害額の算定は明らかに誤りである。 (3)前提事実(2)イのとおり,被告P3及び被告P5は,原告P1との間で,期間の定めなく,それぞれ身元保証契約を締結した。したがって,身元保証ニ関スル法律1条により,被告P3は平成20年8月22日までに生じた損害についてのみ,被告P5は平成21年12月10日までに生じた損害についてのみ,それぞれ責任を負う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反し,違法に原告らと競業したか)について(1)競業避止義務について前提事実(2)のとおり,被告P2及び被告P4は,原告らとの間で雇用契約を締結していたのであるから,雇用契約継続中,一定の競業避止義務を負っているというべきである。もっとも,特段の競業避止義務について合意するのでない限り,顧客に対し退職の挨拶をする際などにおいて,退職後の取引を依頼したとしても,そのこと自体が,常に,雇用契約継続期間中における競業避止義務に違反するというわけではない。 また,特段の合意のない限り,被告P2及び被告P4が退職した後,上記競業避止義務を負うことはない。 ,そのこと自体が,常に,雇用契約継続期間中における競業避止義務に違反するというわけではない。 また,特段の合意のない限り,被告P2及び被告P4が退職した後,上記競業避止義務を負うことはない。 この点につき,被告P4は,前提事実(4)ウのとおり,退職時に本件確認書を原告らに提出することにより,退職後,原告らの顧客に対し,働きかけをしない旨合意している。しかし,被告P4は,本件確認書の作成に際し, 予め記載されていた「顧客から勧誘を受けても関与しない」旨の部分を削除した上で,署名押印していることから(甲4),本件確認書の作成により,自分から積極的に働きかけをしないことを約したと認めることができる。 また,本件就業規則2の効力については,次に述べるとおりである。 (2)本件就業規則2の効力についてア就業規則届(甲2)によれば,原告P1は,大阪中央労働基準監督署長に対し,平成21年8月12日付けで,本件就業規則2を制定した旨の届出をしたこと,本件就業規則2の39条1項は,「前条の行為及び服務規律に反する行為をしたこと並びに退職前後における顧客への働きかけ,顧客からの勧誘に応ずる関与により,会社に損害を与えた場合は,その与えた損害の全てをその従業員は賠償しなければならない。」と定めていること,同附則は,本件就業規則2について同月1日から施行する旨定めていることが,それぞれ認められる。 仮に,本件就業規則2が被告P2及び被告P4に対して及ぶとすると,被告P2及び被告P4が担当顧客らに積極的に勧誘をしたか否かにかかわらず,担当顧客らと新たに契約を締結したこと自体により,本件就業規則2に違反するものとして,原告らとの間の雇用契約に係る債務不履行が成立することになる。 イそこで検討すると,まず,前提事実(4)のとおり,被 客らと新たに契約を締結したこと自体により,本件就業規則2に違反するものとして,原告らとの間の雇用契約に係る債務不履行が成立することになる。 イそこで検討すると,まず,前提事実(4)のとおり,被告P2が原告らを退職したのは本件就業規則2が制定される前の平成21年7月17日であるから,少なくとも被告P2には本件就業規則2の効力が及ばないことは明らかである。 次に,被告P4に対して及ぶかについて検討すると,以下の理由から,これも認めることはできない。 (ア) 労働基準法106条1項によれば,使用者は,就業規則を,常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること,書面を交付するこ とその他の厚生労働省令で定める方法によって,労働者に周知させなければならないとされ,同法施行規則52条の2の3号によれば,磁気テープ,磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し,かつ,各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置することにより周知することも認められている。そして,労働契約法10条本文は,周知された場合に限り,就業規則の拘束力を認めている。 原告らは,事務所内サーバーで本件就業規則2を保管し,被告P4を含めた従業員らはいつでもこれにアクセスできた旨主張する。 しかしながら,被告P4が退職する前に周知手続がとられたことを認めるに足りる証拠はなく,原告らの上記主張を採用することはできないから,本件就業規則2が被告P4に対して効力を有するとは認められない。 また,労働基準法90条1項によれば,就業規則の作成又は変更について,労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならいところ,甲2には,労働者の過半数を代表するP6の意見書が添付されているものの,P6が従業員代表として選出されたことに関する証拠もない。 いて,労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならいところ,甲2には,労働者の過半数を代表するP6の意見書が添付されているものの,P6が従業員代表として選出されたことに関する証拠もない。 (イ) 労働契約法9条本文によれば,使用者は,労働者と合意することなく,就業規則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないとされ,同法9条ただし書によれば,次条の場合は,この限りではないとされている。同法10条本文は,使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,当該変更後の就業規則に定めるところによるものとするとされ ている。 本件就業規則2は,退職後の競業避止義務を課すものであり,労働条件を不利益に変更するものであるところ,被告P4の同意があったとする主張立証は全くない。かえって,本件確認書(甲4)によれば,原告らは,被告P4が退職するに当たり,「顧客から勧誘を受けても関与することはいたしません。」旨の誓約を求めたものの,明確に拒絶されたことが認められる。 そして,本件就業規則2が,合理的なものであることについての説明はなく,この点に関する原告らの主張はそもそも失当である。なお,念のため検討すると,前記アのとおり,本件就業規則2の39条1項は,「退職前後における顧客への働きかけ,顧客からの勧誘に応ずる関与」を一般的に制限するものであるところ,退職後に担当顧客らから従前の人間関係に基づき新たに契 アのとおり,本件就業規則2の39条1項は,「退職前後における顧客への働きかけ,顧客からの勧誘に応ずる関与」を一般的に制限するものであるところ,退職後に担当顧客らから従前の人間関係に基づき新たに契約を締結することを求められたような場合にも,これに応じることを禁止するものであるが,税理士の資格を有する者に対しても課されるものであることや,期限の定めがないことも併せ考えると,雇用者が従業員に対して一方的に課す制限としては過剰な制限を課すものというほかなく,社会通念上,相当な内容のものとはいいがたい。また,このような競業避止義務を課すに当たり,何らかの代償措置が執られたことも窺われない。 したがって,被告P4が原告らを退職した当日に届出がされた本件就業規則2が,合理的なものであるということはできない。 ウ上記のとおり,被告P2及び被告P4は,いずれも本件就業規則2の適用を受けず,このため,同規則39条1項により,退職前後において,顧客へ働きかけたり,顧客からの勧誘に応じたりして,関与することができないという義務を負うことはない。 (3)被告P2及び被告P4による積極的な働きかけの有無について ア被告P2の働きかけについて(ア) P7に対する働きかけ被告P2の担当顧客であったP7は,被告P2から,退職前,3度にわたり勧誘を受けたが3度とも断ったと証言する(証人P7)。 その勧誘を受けた際の状況は,平成19年1月,被告P2から訪問を受け,独立する予定であると言われ,同年5月か6月にも訪問を受け,「今度独立して知り合いと2人で新しく事業をする。」「箱が代わるだけで中身は変わりません。引き続き,私でよろしいですね。」と言われ,P7がこの勧誘を断ったにもかかわらず,同年6月末か7月初旬ころにも同様の勧誘を受けたと証言 人で新しく事業をする。」「箱が代わるだけで中身は変わりません。引き続き,私でよろしいですね。」と言われ,P7がこの勧誘を断ったにもかかわらず,同年6月末か7月初旬ころにも同様の勧誘を受けたと証言する。 しかし,P8とのやりとり(後記(イ))や,他の顧客の陳述書に記載された状況(後記ウ)と比較すると,果たして,P7が証言するような,3回にわたる積極的な働きかけがあったのか,疑問の残るところである。 なお,P7が証言する最終の勧誘は,会計を担当しているP7の妻に対するものであったが,これはP7の妻が,被告P2に引継担当者の確認をした際に,同様の勧誘を受けたというものであり,それまで,明確な勧誘も,明確な拒否もなかったという可能性を否定できない。 (イ) P8に対する働きかけ被告P2の担当顧客であったP8は,平成21年5月か6月ころ,被告P2と世間話をした際,被告P2が原告らを退職して独立することが話に出て,P8が,「僕はどうすればいいんですか」と尋ねたところ,被告P2から「僕があとはちゃんとしときますんで大丈夫ですよ」と言われ,原告らとの契約を解除し,被告P2と新たに契約することにしたことが認められる。 以上によると,被告P2から,積極的な働きかけがあったとはいえない。 (ウ) P9に対する働きかけ被告P2の担当顧客であったP9の陳述書(甲10)には,平成21年6月ころ被告P2から突然電話があり,原告らとの契約解除通知書と被告P2及び被告P4との新しい契約書を送付するので押印して返送してもらいたいと勧誘された旨の記載がある。 しかし,その時期が,被告P2と原告らとの雇用契約が継続中であったとは考えにくく(被告P2の供述によると,退職の挨拶の際に勧誘し,退職後,連絡を受けた顧客に解約手続のための書類を の記載がある。 しかし,その時期が,被告P2と原告らとの雇用契約が継続中であったとは考えにくく(被告P2の供述によると,退職の挨拶の際に勧誘し,退職後,連絡を受けた顧客に解約手続のための書類を送付したことが認められる。),また,前記(ア)のとおり,P8とのやりとり(前記(イ))や他の顧客の陳述書の記載(後記ウ)に照らすと,P9の陳述書の上記記載をそのまま採用することはできない。 (エ) 小括以上のとおり,原告らが,被告P2の積極的な働きかけとして挙げる例は,3例のみであるが,そのうち,P8の件に関するP8の供述内容は,原告らの主張を裏付けるものではなく,他の多くの顧客の陳述内容(後記ウ)に照らしても,被告P2が,退職の前後を通じ,担当顧客に対し,積極的な働きかけをしたことを認めるに足りない。 イ被告P4の働きかけについて原告P1は,被告P4が,退職前に,担当顧客である株式会社ドリームネットに対し,独立後の契約締結を積極的に働きかけたと供述する(甲34の4頁,原告P19頁)。 しかし,原告らが指摘する被告P4の積極的な働きかけは,上記1例のみであり,これを裏付ける証拠もない。 また,他の多くの顧客の陳述内容(後記ウ)に照らしても,被告P4が,退職の前後を通じ,担当顧客に対し,積極的な働きかけをしたと認めるに足りない。 ウ他の顧客に対する関与の状況被告P2及び被告P4が担当していた担当顧客ら(現在は,被告P2及び被告P4の顧客ら)合計41名作成の各陳述書(乙1の1ないし24及び乙2の1ないし17)によれば,いずれの顧客も,被告P2及び被告P4から積極的な勧誘を受けたことを否定した上,原告P1を含め被告P2及び被告P4以外の原告らの従業員とは全く又はほとんど面識がなく,信頼関係もなかっ 7)によれば,いずれの顧客も,被告P2及び被告P4から積極的な勧誘を受けたことを否定した上,原告P1を含め被告P2及び被告P4以外の原告らの従業員とは全く又はほとんど面識がなく,信頼関係もなかったため,被告P2及び被告P4が退職するに当たり,原告らとの契約を解除して,従前から信頼している被告P2及び被告P4と新たに契約を締結することにした旨の陳述をしているところ,これらの陳述の信用性を排斥することのできる証拠もない。 また,上記陳述書によれば,被告P2の担当顧客らには大手コンビニエンスストアチェーンに加盟する事業者が多く含まれているところ,これらの者はコンビニエンスストアチェーンから被告P2個人を紹介されて,被告P2が就労する原告らと契約を締結したと述べており,他にも元来被告P2の知己である者が担当顧客に含まれていることも認められる。少なくともこれらの者については,被告P2による勧誘の有無にかかわらず,被告P2の退職に伴って原告らとの契約を解除し,被告P2と新たに契約を締結することは何ら不自然とはいえない。 エ被告P2及び被告P4が担当顧客らに積極的な働きかけをしたことを裏付けるその他の事情の有無上記事情として原告らが主張する前記第3の1【原告らの主張】(2)の各事情について検討しても,以下の理由から,いずれの点についても原告らの主張を採用することはできない。 (ア) 原告らは,被告P2及び被告P4以外の従業員らが退職した際と比較して,担当顧客らからの契約解除率が異常に高い旨主張する。 しかしながら,被告P2及び被告P4以外の従業員らが顧客らを担当 した期間等については明らかではなく,被告P2及び被告P4と担当顧客らと同様の信頼関係があったかなどについても不明であり,そもそも単純に比較することができない。ま の従業員らが顧客らを担当 した期間等については明らかではなく,被告P2及び被告P4と担当顧客らと同様の信頼関係があったかなどについても不明であり,そもそも単純に比較することができない。また,被告P2及び被告P4以外の従業員の担当顧客らが原告らとの契約を解除した数についても退職前後3か月間に限る理由もない。原告らは,被告らからこの点について繰り返し指摘されたにもかかわらず,より長期間において,どの程度の数の顧客が契約を解除したかについて明らかにしていない。 (イ) 原告らは,記帳代行業務及び申告業務においては,担当者個人ではなく会計事務所又は税理士事務所に対する信頼を基礎とするから,被告P2及び被告P4から担当顧客らに対する積極的な働きかけがなければ,原告らが契約を解除されることはなかった旨主張する。 しかしながら,記帳代行業務及び申告業務においては,顧客らは,秘密に係わる事柄等についても担当者に開示する必要があることなどからすれば,一般的に,顧客と担当者との間において相応の人的信頼関係が必要とされる業務であることは明らかである。しかも,本件では,原告P1本人も,実際の記帳代行業務及び申告業務について,自らは直接関わっておらず,従業員らが行っていたことを認めている上,P8の証言,被告P2及び被告P4本人尋問の結果,担当顧客ら作成の前記各陳述書(乙1の1ないし24及び乙2の1ないし17)及び弁論の全趣旨によれば,原告P1は,顧客らと1回ないし数回の面談をしたのみであったことが認められる。そして,上記担当顧客らの陳述書では,このような面識すら十分なかった原告P1との間に信頼関係はなく,被告P2及び被告P4個人との間に信頼関係があったため,被告P2及び被告P4からの積極的な勧誘はなかったものの,原告らとの契約を解除し,新たに な面識すら十分なかった原告P1との間に信頼関係はなく,被告P2及び被告P4個人との間に信頼関係があったため,被告P2及び被告P4からの積極的な勧誘はなかったものの,原告らとの契約を解除し,新たに被告P2及び被告P4と契約をすることにした旨述べられている。 これらによると,担当顧客らとの間の人的信頼関係の内容を前提とし て,被告P2及び被告P4による積極的な働きかけを推認することはできないというべきである。 (ウ) 被告P2及び被告P4も,担当顧客らのために,原告らに対する契約解除通知を作成し又は文案を提示するなどしたことは認めているところ,原告らは,これが被告P2及び被告P4から顧客らに積極的に働きかけたことを推認させる事情である旨主張している。 しかしながら,積極的に働きかけた事実の有無にかかわらず,原告らとの契約を解除する担当顧客らのために,被告P2及び被告P4が契約解除通知を作成等することは十分にありうることであり,これが被告P2及び被告P4からの担当顧客らに対する積極的な働きかけを推認させる事情であるとはいえない。 また,原告らは,被告P2及び被告P4が,担当顧客らに対し,契約解除に当たり,他の税理士と契約する旨虚偽の理由を申告させるなどして隠蔽工作をしたとも主張する。しかしながら,仮にこれが隠蔽工作であったとすると,少なくとも相当多数の顧客らが同様の行為をしたはずであるところ,被告P2及び被告P4と関係のない税理士と契約する旨事実に反する理由を説明した顧客らは少数にとどまっており,意図的な隠蔽工作によるものとは考えにくい。 (エ) 原告らは,被告P2及び被告P4が,担当顧客らにおいて原告らとの契約を解除することを知りながら,そのことを原告らに報告せず原告らの別の従業員らに引継ぎをしたことについて非難 は考えにくい。 (エ) 原告らは,被告P2及び被告P4が,担当顧客らにおいて原告らとの契約を解除することを知りながら,そのことを原告らに報告せず原告らの別の従業員らに引継ぎをしたことについて非難し,このことについても被告P2及び被告P4が担当顧客らに積極的に勧誘したことを推認させる事情であると主張する。しかしながら,被告P2及び被告P4としては,退職するまでは,担当顧客らと契約を締結することはできず,それまでは,当該顧客が,被告P2及び被告P4との契約締結を希望していたとしても,その後のことは不確定であるため,一旦,後任の担当者 に形式的に引継ぎをすることもあり得ることであり,少なくとも担当顧客らに対する積極的な勧誘を推認させる事情とはいえない。 そもそも,従業員が退職するに当たり,担当顧客らから新たに契約をするように申出を受けた場合に,それを拒絶したり,翻意を促したりしなければならない法的義務があるとまではいうことができないし,そのような申出を受けたことについて勤務先に開示する義務を当然に負うということもできない。また,担当顧客ら作成の前記各陳述書(乙1の1ないし24及び乙2の1ないし17)によれば,担当顧客らは,原告らとの契約を解除する意思を被告P2及び被告P4に伝えた後に,仮に原告らから翻意するように働きかけられたとしても,原告らとの契約を継続することはありえないと述べており,このことからすれば,被告P2及び被告P4が担当顧客らにおいて原告らとの契約を解除することについて原告らに報告しなかったことについて,仮に何らかの義務違反が成立するとしても,少なくとも原告らが主張する損害との間に因果関係があるということはできない。 オ以上によれば,被告P2及び被告P4が担当顧客らに積極的に働きかけて,原告らとの契約を解 務違反が成立するとしても,少なくとも原告らが主張する損害との間に因果関係があるということはできない。 オ以上によれば,被告P2及び被告P4が担当顧客らに積極的に働きかけて,原告らとの契約を解除させ,新たに契約を締結させたとする原告らの主張は,前提を欠いており,採用することができない。 なお念のため検討すると,本件では,被告P2及び被告P4が担当顧客らとの人的関係等を利用することを超えて,原告らの信用をおとしめるなどの不当な方法で営業活動を行ったことは認められない。また,後記2,3のとおり,被告P2及び被告P4が不正の利益を得る目的で原告らの営業秘密を使用したとまでは認めることができないし,他に不正な手段を講じたと評価し得る事情も窺われない。むしろ,本件は,担当者と顧客らとの間の個人的信頼関係に依存する業務の性格から,担当顧客らが全く信頼関係のない原告らとの契約を維持することよりも個人的信頼関係の成立し ている被告P2及び被告P4が引き続き担当することを選択したと評価することが十分に可能な事案である。そうすると,被告P2及び被告P4の行為について,原告らに対する違法な競業行為であるとまでいうことは困難であるというほかない。 以上の事情を総合考慮すると,被告P2及び被告P4の行為が,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものであるということもできない。 よって,担当顧客との契約について,被告P2及び被告P4に,債務不履行ないし不法行為の成立を認めることはできない。 2 争点2(被告P2及び被告P4は,本件就業規則等に違反し,原告らの顧客情報等〔本件情報〕を使用したか)について(1) 本件情報を使用しない義務前提事実(3),(4)イのとおり,本件就業規則1の36条2項,本件各誓約書によると,被告P2及び被 し,原告らの顧客情報等〔本件情報〕を使用したか)について(1) 本件情報を使用しない義務前提事実(3),(4)イのとおり,本件就業規則1の36条2項,本件各誓約書によると,被告P2及び被告P4は,本件情報の持ち出し,第三者への開示・漏洩,自ら使用することをしない旨合意したと認めることができる。 また,被告P4は,前提事実(4)ウのとおり,本件確認書においても,上記と同様の合意をした。 (2) 本件情報の使用の有無本件就業規則1の10条,36条2項,本件各誓約書,本件確認書の各文言(前提事実(3),(4)イ,ウ)からすると,本件情報のうち,開示,漏洩,使用が禁止されている情報は,不正競争防止法上の営業秘密に相当するものと解することができる。 前記1のとおり,被告P2及び被告P4が,担当顧客に対し,契約締結を積極的に働きかけた事実を認めることはできず,したがって,その際,本件情報を使用したと認めることもできない。 担当顧客のところへ退職の挨拶に赴いたからといって,その限度では,原告らの業務の一環として赴いたという側面を否定することはできず,本件情 報のうち,担当顧客の社名,氏名,住所,連絡先に関する情報を自己のために使用したということはできない。また,仮に,これを自己のために使用したということができたとしても,これらの情報をもって,第三者が知り得ない情報であるとか,原告らの有する秘密情報であると認めることはできず,これらの情報をもって,使用を禁止された情報と認めることもできない。 本件情報のうち,その他の情報については,被告P2及び被告P4がこれを使用した事実を認めるに足りる証拠はない(後記3(2)参照)。 (3) よって,本件情報の使用に関して,被告P2及び被告P4に,債務不履行ないし不法行為の 報については,被告P2及び被告P4がこれを使用した事実を認めるに足りる証拠はない(後記3(2)参照)。 (3) よって,本件情報の使用に関して,被告P2及び被告P4に,債務不履行ないし不法行為の成立を認めることはできない。 3 争点3(被告P2及び被告P4は,不正の利益を得る目的で,原告らから示された営業秘密を使用したか)について本件情報が営業秘密に当たるかは別論にして,以下のとおり,少なくとも,被告P2及び被告P4が,不正の利益を得る目的で,原告らから示された営業秘密を使用したとは認めることができない。 (1)前記1のとおり,本件では,被告P2及び被告P4が担当顧客らに積極的に働きかけて,原告らとの契約を解除させ,新たに契約を締結させたとは認めることができない。そうすると,被告P2及び被告P4が担当顧客らを勧誘したという前提が認められない以上,不正の利益を得る目的で,担当顧客らの社名又は氏名,住所及び連絡先に関する情報を用いたとする原告らの主張は採用できない。 (2)本件情報のうち担当顧客らの決算内容及び経営状態に関する情報並びに原告らと顧客らとの間の契約内容に関する情報についても,被告P2及び被告P4が使用したことを認めるに足りる証拠はない。 原告らは,被告P2及び被告P4が担当顧客らの決算内容及び経営状態に関する情報を使用して,優良な顧客を選別した旨主張するところ,これを裏付けるに足りる証拠はない。また,原告らは,被告P2及び被告P4が担当 顧客らと原告らとの契約内容(料金)に関する情報を使用して,原告らより低廉又は同一の価格を担当顧客らに提示して勧誘したとも主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠もない。かえって,P8は,被告P2と新たに契約を締結するに当たり料金の提示を受けたことはないと明確に証言して は同一の価格を担当顧客らに提示して勧誘したとも主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠もない。かえって,P8は,被告P2と新たに契約を締結するに当たり料金の提示を受けたことはないと明確に証言している。そもそも原告らの上記主張は,被告P2及び被告P4から担当顧客らに対する積極的な勧誘があったことを前提とするものであるが,これに理由がないことも前述のとおりである。原告らは,担当顧客らと新たに契約を締結した後の業務において,担当顧客らの決算内容に関する情報を使用する必要があったとも主張するが,これは担当顧客らから入手することが可能であり,必ずしも原告らから示された情報を使用しなければならないものでもない。 (3)よって,本件情報の使用に関して,被告P2及び被告P4に不正競争防止法違反の事実を認めることはできない。 4 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件各請求にはいずれも理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官山田陽三 裁判官西田昌吾 裁判官達野ゆきは,差し支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官山田陽三
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