主文 本件訴えのうち原告らの「当事者の求めた裁判」1記載の請求に係る訴えをいずれも却下する。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 第1 当事者の求めた裁判(原告ら一請求の趣旨) 1 被告国及び被告地方自治体に対する請求(1) (主位的には通常の確認の訴えとして,予備的には中間確認の訴えとして,)別紙3原告被告対応表記載の各原告生徒(以下「原告生徒」という。)と,被告国及び同別紙「設置者」欄記載の各被告地方自治体(原告生徒と対応するもの。ただし,番号87び100の原告らについては被告東京都を含む。以下「被告自治体」という。)との間において,原告生徒が同別紙記載の各中学校に就学している間,原告生徒には,社会科の履修について,授業に出席する義務,授業を受ける義務及び考査試験を受ける義務がないことを確認する。 (2) (主位的には通常の確認の訴えとして,予備的には中間確認の訴えとして,)別紙3記載の各原告保護者(以下「原告保護者」という。)と,被告国及び原告保護者とそれぞれ対応する被告自治体との間において,原告生徒が同別紙記載の各中学校に就学している間,原告保護者には,原告生徒の社会科の履修について,原告生徒を授業に出席させる義務,原告生徒に授業を受けさせる義務及び原告生徒に考査試験を受けさせる義務がないことを確認する。 (3) (主位的請求)被告国及び被告自治体は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に対し,別紙4検定教科書目録(以下「図書目録」という。)一ないし二一記載の各教科用図書のうち別紙3のとおり対応する各教科用図書を社会科の履修に使用してはならない。 (予備的請求・中間確認の訴え)被告国及び被告自治体は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒 ないし二一記載の各教科用図書のうち別紙3のとおり対応する各教科用図書を社会科の履修に使用してはならない。 (予備的請求・中間確認の訴え)被告国及び被告自治体は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に対し,その原告生徒の修学期間中,図書目録一ないし二一記載の各教科用図書のうち別紙3のとおり対応する各教科用図書を社会科の履修に使用してはならない義務があったことを確認する。 (4) (主位的請求)被告国及び被告自治体は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者が上記(1)及び(2)の各義務がないことを主張して本件訴訟を提起して争い,社会科の履修において授業に出席せず又は出席させず,授業を受けず又は授業を受けさせず,考査試験を受けず又は受けさせないことを理由に,その原告生徒に対し,懲戒,出席停止,出席督促,進級留置,卒業不認定の処分を行ってはならない。 (予備的請求・中間確認の訴え)被告国及び被告自治体は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者が上記(1)及び(2)の各義務がないことを主張して本件訴訟を提起して争い,社会科の履修において授業に出席せず又は出席させず,授業を受けず又は授業を受けさせず,考査試験を受けず又は受けさせないことを理由に,その原告生徒に対し,その就学期間中,懲戒,出席停止,出席督促,進級留置,卒業不認定の処分を行ってはならない義務があったことを確認する。 2 発行者,著作者に対する請求(1)ア被告教育出版株式会社及び別紙5被告分類表(以下「被告分類表」という。)4(1) 記載の被告教育出版著作者は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一記載の図書の別紙6記述部分一覧表(以下「別紙一覧表」という。)一記載の各記述部分を全部削除せよ。 イ被告教育出版株式会社 者は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一記載の図書の別紙6記述部分一覧表(以下「別紙一覧表」という。)一記載の各記述部分を全部削除せよ。 イ被告教育出版株式会社は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録二及び三記載の各教科用図書の別紙一覧表二及び三記載の各記述部分を全部削除せよ。 (2)ア被告東京書籍株式会社及び被告分類表4(2)記載の被告東京書籍著作者は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録四記載の図書の別紙一覧表四記載の各記述部分を全部削除せよ。 イ被告東京書籍株式会社は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録五及び六記載の各教科用図書の別紙一覧表五及び六記載の各記述部分を全部削除せよ。 (3)ア被告日本書籍株式会社及び被告分類表4(3)記載の被告日本書籍著作者は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録七記載の図書の別紙一覧表七記載の各記述部分を全部削除せよ。 イ被告日本書籍株式会社は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録八及び九記載の各教科用図書の別紙一覧表八及び九記載の各記述部分を全部削除せよ。 (4)ア被告大阪書籍株式会社及び被告分類表4(4)記載の被告大阪書籍著作者は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一〇記載の図書の別紙一覧表一〇記載の各記述部分を全部削除せよ。 イ被告大阪書籍株式会社は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一一及び一二記載の各教科用図書の別紙一覧表一一及び一二記載の各記述部分を全部削除せよ。 (5)ア被告株式会社清水書院及び被告分類表4(5)記載の被告清水書 告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一一及び一二記載の各教科用図書の別紙一覧表一一及び一二記載の各記述部分を全部削除せよ。 (5)ア被告株式会社清水書院及び被告分類表4(5)記載の被告清水書院著作者は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一三記載の図書の別紙一覧表一三記載の各記述部分を全部削除せよ。 イ被告株式会社清水書院は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一四及び一五記載の各教科用図書の別紙一覧表一四及び一五記載の各記述部分を全部削除せよ。 (6)ア被告日本文教出版株式会社及び被告分類表4(6)記載の被告日本文教出版著作者は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一六記載の図書の別紙一覧表一六記載の各記述部分を全部削除せよ。 イ被告日本文教出版株式会社は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一七及び一八記載の各教科用図書の別紙一覧表一七及び一八記載の各記述部分を全部削除せよ。 (7)ア被告株式会社帝国書院及び被告分類表4(7)記載の被告帝国書院著作者は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録一九記載の図書の別紙一覧表一九記載の各記述部分を全部削除せよ。 イ被告株式会社帝国書院は,それぞれ別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者に給与された図書目録二〇及び二一記載の各教科用図書の別紙一覧表二〇及び二一記載の各記述部分を全部削除せよ。 (8) 被告分類表3及び4記載の各被告は,それぞれの発行及び著作にかかる図書目録一ないし二一記載の各教科用図書について,別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者のために,文部科学大臣に対し,別紙一覧表一ないし二一記載の各記述部分を全部削除する旨の承認を 及び著作にかかる図書目録一ないし二一記載の各教科用図書について,別紙3で対応する原告生徒及び原告保護者のために,文部科学大臣に対し,別紙一覧表一ないし二一記載の各記述部分を全部削除する旨の承認を求めよ。 (以下,被告分類表3記載の各発行者を「被告発行者」といい,同分類表4記載の各著作者(ただし,P1,P2及びP3を除く。)を「被告著作者」という。) 3 損害賠償請求(歴史的分野の教科書)(1) 被告国,各被告自治体,各被告発行者及び各被告著作者は,各自,別紙3及び別紙5で対応する各原告生徒及び各原告保護者に対し,それぞれ5万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (公民的分野の教科書)(2) 被告国,各被告自治体及び各被告発行者は,各自,別紙3で対応する各原告生徒及び各原告保護者に対し,それぞれ5万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (地理的分野の教科書)(3) 被告国,各被告自治体及び各被告発行者は,各自,別紙3で対応する各原告生徒及び各原告保護者に対し,それぞれ5万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (ただし,被告らに対する訴状送達の日は,それぞれ別紙7訴状送達日一覧表記載のとおりである。)(被告国及び被告自治体) 1 本案前の答弁本件訴えのうち,原告らの請求1に係る部分をいずれも却下する。 2 本案の答弁原告らの請求をいずれも棄却する。 (被告発行者及び被告著作者)本件訴えをいずれも却下する。 第2 事案の概要本件は,本件訴え提起時に中学生であった原告生徒及びその親権者ら(原告保護者)が,就学及び教科書使用に関し,原告生徒,原告保護者,被告国,被告自治体,被告 えをいずれも却下する。 第2 事案の概要本件は,本件訴え提起時に中学生であった原告生徒及びその親権者ら(原告保護者)が,就学及び教科書使用に関し,原告生徒,原告保護者,被告国,被告自治体,被告発行者との間には,公法上の法律関係として,請負類似の混合契約が成立しているところ,自虐的な歴史観に基づく図書目録一ないし二一記載の各教科用図書(以下「本件各教科用図書」という。)に基づく教科履修を義務付けることは違憲,違法であるなどと主張して, 1 実質的当事者訴訟(予備的に民事訴訟)として,国及び自治体に対し,(1) (原告生徒及び原告保護者のそれぞれにつき)本件各教科用図書を用いた社会科履修義務(ないし履修させる義務)の不存在確認,(2) 当該教科書の使用禁止,((1),(2)はいずれも主位的には通常の確認の訴えとして,予備的には中間確認の訴えとして)(3) 本件各教科用図書を社会科の履修に使用することの禁止(予備的には上記使用をしてはならない義務があったことの確認),(4) 原告らが社会科の履修において授業に出席しないこと等を理由とする不利益取扱の禁止(予備的には上記不利益取扱をしてはならない義務があったことの確認), 2 瑕疵修補請求権又は完全履行請求権に基づき,(1) 発行者及び著作者に対し,対応歴史教科書の別紙一覧表記載の各対応記述部分の全部削除,(2) 発行者に対し,対応公民,地理教科書の別紙一覧表記載の各対応記述部分の全部削除,(3) 発行者及び著作者に対し,各対応教科書につき,文部科学大臣に対する別紙一覧表記載の各対応記述部分の全部削除の承認を求めること, 3 債務不履行(予備的に不法行為)に基づく損害賠償請求として,(ただし,不法行為については,被告国及び被告自治体に対しては国家賠償法1条に基づくものであり,被告著 分の全部削除の承認を求めること, 3 債務不履行(予備的に不法行為)に基づく損害賠償請求として,(ただし,不法行為については,被告国及び被告自治体に対しては国家賠償法1条に基づくものであり,被告著作者及び被告発行者に対しては民法719条に基づくものである。)(1) 国,対応自治体,対応歴史教科書発行者,対応歴史教科書著作者,(2) 国,対応自治体,対応公民教科書発行者,(3) 国,対応自治体,対応地理教科書発行者に対する各金5万円の損害賠償金及び訴状送達日の翌日以降の遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 (ただし,一部の原告は,対応する被告の一部に対して訴えを提起しておらず,その対応関係は別紙3記載のとおりである。)第3 法令等の定め 1 保護者の授業を受けさせる義務等について(1) 日本国憲法の定めアすべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する。 (憲法26条1項)イすべて国民は,法律の定めるところにより,その保護する子女普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は,これを無償とする。 (同条2項)(2) 教育基本法(昭和22年法律第25号)の定めア国民は,その保護する子女に,9年の普通教育を受けさせる義務を負う。 (教育基本法4条1項)イ国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については,授業料は,これを徴収しない。 (同条2項)ウ法律に定める学校は,公の性質をもつものであって,国又は地方公共団体の外,法律に定める法人のみが,これを設置することができる。 (同条2項)ウ法律に定める学校は,公の性質をもつものであって,国又は地方公共団体の外,法律に定める法人のみが,これを設置することができる。 (同法6条1項)(3) 学校教育法等の定めア保護者は,子女が小学校又は盲学校,聾学校若しくは養護学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満15才に達した日の属する学年の終わりまで,これを,中学校,中等教育学校の前期課程又は盲学校,聾学校若しくは養護学校の中学部に就学させる義務を負う。 (学校教育法39条1項)イ前項の規定によって保護者が就学させなければならない子女は,これを学齢生徒と称する。 (同法39条2項)ウ学校教育法39条1項の規定による義務履行の督促を受け,なお履行しない者は,これを10万円以下の罰金に処する。 (同法91条)エ学校教育法39条1項の義務履行の督促その他義務に関し必要な事項は,政令でこれを定める。 (同法39条3項,22条2項)オ小学校,中学校,中等教育学校,盲学校,聾学校及び養護学校の校長は,当該学校に在学する学齢児童又は学齢生徒が,休業日を除き引き続き7日間出席せず,その他その出席状況が良好でない場合において,その出席させないことについて保護者に正当な事由がないと認められるときは,速やかに,その旨を当該学齢児童又は学齢生徒の住所の存する市町村の教育委員会に通知しなければならない。 (学校教育法施行令(昭和28年政令第340号。ただし平成10年政令第351号による改正前のもの。以下同じ。)20条) 学齢児童又は学齢生徒の住所の存する市町村の教育委員会に通知しなければならない。 (学校教育法施行令(昭和28年政令第340号。ただし平成10年政令第351号による改正前のもの。以下同じ。)20条)カ市町村の教育委員会は,前条の通知を受けたときその他当該市町村に住所を有する学齢児童又は学齢生徒の保護者が学校教育法22条1項又は39条1項に規定する義務を怠っていると認められるときは,その保護者に対して,当該学齢児童又は学齢生徒の出席を督促しなければならない。 (同施行令21条) 2 生徒の授業に出席する義務等について法令上,生徒が授業に出席する義務,授業を受ける義務,考査試験を受ける義務を負う旨を定めた明文の規定はない。 3 教科書の使用義務について(1) 中学校においては,文部大臣(平成9年ないし平成12年当時。以下同じ。)の検定を経た教科用図書又は文部省(平成9年ないし平成12年当時。以下同じ)が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。 (学校教育法40条,21条1項)(2) 上記(1)の教科用図書以外の図書その他の教材で,有益適切なものは,これを使用することができる。 (学校教育法40条,21条2項)(3) 学校教育法21条1項にいう「教科用図書」を直接定義した法令上の定めはないものの,上記「教科用図書」の検定に関し必要な事項を定めている教科用図書検定規則(平成元年文部省令第20号。ただし,平成9年文部省令第4号による改正前のもの。以下同じ。なお,同規則1条参照)においては,「教科用図書」とは,小学校,中学校,中等教育学校,高等学校並びに盲学校,聾学校及び養護学校の小学部,中学部及び高等部の児童又は生徒が用いるた 前のもの。以下同じ。なお,同規則1条参照)においては,「教科用図書」とは,小学校,中学校,中等教育学校,高等学校並びに盲学校,聾学校及び養護学校の小学部,中学部及び高等部の児童又は生徒が用いるため,教科用として編集された図書をいうものとされている(同規則2条)。 なお,学校教育法21条1項にいう「文部省が著作の名義を有する教科用図書」とは,文部省著作教科書の出版権等に関する法律(昭和24年法律第149号。ただし,平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)にいう文部省著作教科書のことであって,需要数が少ないために民間で発行が困難な分野の教科書等を発行する場合に利用され,現在では,高等学校の職業教科の特定科目の教科書等がこれに該当し,平成9年度の中学校の社会科(歴史的分野,公民的分野,地理的分野)では,発行されていない。 (4) 公立中学校において使用される教科書は,都道府県教育委員会の設定した採択地区ごとに,市町村の教育委員会(ただし,東京都都の特別区については,都教育委員会。地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号。ただし,平成10年法律第54号による改正前のもの。以下「地教行法」という。)59条1項)が,都道府県教育委員会の指導・助言・援助を受けて,検定を経た教科書の中から採択する。この場合において,採択地区が2以上の市町村の区域をあわせた地域であるときは,当該採択地区内の市町村の教育委員会は,協議して種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならない。また,採択権者である教育委員会が,その所管する中学校において平成9年度に使用する社会科の教科用図書を採択する際には,必ず,文部大臣の検定を経た教科用図書の中から決定しなければならない(義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(昭和38年 校において平成9年度に使用する社会科の教科用図書を採択する際には,必ず,文部大臣の検定を経た教科用図書の中から決定しなければならない(義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(昭和38年法律第182号。ただし,平成11年法律第160号による改正前のもの。以下「無償措置法」という。)10条ないし16条)。 4 教科書の検定(1) 教科用図書(以下「図書」という。)の検定の基準は,文部大臣が別に公示する教科用図書検定基準の定めるところによる。 (教科用図書検定規則3条)(2) 義務教育諸学校教科用図書検定基準(平成元年文部省告示第43号)ア各教科共通の条件(第2章) 1 範囲及び目的(1) 小学校学習指導要領(平成元年文部省告示第24号)又は中学校学習指導要領(平成元年文部省告示第25号)(以下「学習指導要領」という。)に示す教科及び学年,分野又は言語の「目標」(以下「学習指導要領に示す目標」という。)に従い,学習指導要領に示す学年,分野又は言語の「内容」(以下「学習指導要領に示す内容」という。)及び「内容の取扱い」(「指導計画の作成と各学年にわたる内容の取扱い」及び「指導計画の作成と内容の取扱い」を含む。以下「学習指導要領に示す内容の取扱い」という。)に示す事項を不足なく取り上げていること。 (2) 学習指導要領に示す目標,学習指導要領に示す内容及び学習指導要領に示す内容の取扱いに照らして,不必要なものは取り上げていないこと。 (3) 本文,問題,説明文,注,作品,挿絵,写真,図など教科用図書の内容(以下「図書の内容」という。)は,その学年の児童・生徒の心身の発達段階に適応しており,その能力からみて程度が高過ぎるところ又は低過ぎるところはないこと。 2 選択・扱い及び組織・分量(1) 図 (以下「図書の内容」という。)は,その学年の児童・生徒の心身の発達段階に適応しており,その能力からみて程度が高過ぎるところ又は低過ぎるところはないこと。 2 選択・扱い及び組織・分量(1) 図書の内容の選択及び扱いには,学習指導要領に示す目標,学習指導要領に示す内容及び学習指導要領に示す内容の取扱いに照らして不適切なところ,その他児童・生徒が学習する上に支障を生ずるおそれのあるところはないこと。 (2) 政治や宗教の扱いは公正であり,特定の政党や宗派又はその主義や信条に偏っていたり,それらを非難していたりするところはないこと。 (3) 話題や題材の選択及び扱いは,特定の事項,事象,分野などに偏ることなく,全体として調和がとれていること。 (4) 図書の内容に,特定の事柄を特別に強調し過ぎていたり,一面的な見解を十分な配慮なく取り上げていたりするところはないこと。 (5) 話題や題材が他の教材にわたる場合には,十分な配慮なく専門的な知識を扱っていないこと。 (6) 省略(7) 図書の内容に,心身の健康や安全及び健全な情操の育成について必要な配慮を欠いているなど学校教育全般の方針に反しているところはないこと。 (8)ないし(10) 省略(11) 統計などの資料は,信頼性のある適切なものが選ばれていること。 (12)及び(13) 省略(14) 図書の内容に,特定の個人,団体などの権利や利益を侵害するおそれのあるところはないこと。 3 正確性及び表記・表現(1) 図書の内容に,誤りや不正確なところ,相互に矛盾しているところはないこと。 (2) 図書の内容に,児童・生徒がその意味を理解するのに困難であったり,誤解したりするおそれのある表現はないこと。 (3)及び(4) 省略イ各教科固有の条件(第3章)〔社会科(「地図」を除く。)〕 2 選択 容に,児童・生徒がその意味を理解するのに困難であったり,誤解したりするおそれのある表現はないこと。 (3)及び(4) 省略イ各教科固有の条件(第3章)〔社会科(「地図」を除く。)〕 2 選択・扱い及び組織・分量(1)ないし(3) 省略(4) 未確定な時事的事象について断定的に記述しているところはないこと。 (5) 近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること。 (以下「近隣諸国条項」という。)(6) 著作物,史料などを引用する場合には,評価の定まったものや信頼度の高いものを用いていること。また,法文を引用する場合には,原典の表記を尊重していること。 (7) 日本の歴史の紀年について,重要なものには元号及び西暦を併記していること。 (3)中学校学習指導要領(平成元年文部省告示第25号)ア第1章総則第1 教育課程編成の一般方針 1 各学校においては,法令及びこの章以下に示すところに従い,生徒の人間としての調和のとれた育成を目指し,地域や学校の実態及び生徒の心身の発達段階や特性等を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとする。 学校の教育活動を進めるに当たっては,自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を図るとともに,基礎的・基本的な内容の指導を徹底し,個性を生かす教育の充実に努めなければならない。 イ第2章各教科第2節社会第1 目標広い視野に立って,我が国の国土と歴史に対する理解を深め,公民としての基礎的教養を培い,国際社会に生きる民主的,平和的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。 ウ第2章第2節第2 各分野の目標及び内容〔歴史的分野〕 1 目標(1) 我が国の歴史を,世界の歴史を背景 際社会に生きる民主的,平和的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。 ウ第2章第2節第2 各分野の目標及び内容〔歴史的分野〕 1 目標(1) 我が国の歴史を,世界の歴史を背景に理解させ,それを通して我が国の文化と伝統の特色を広い視野に立って考えさせるとともに,国民としての自覚を育てる。 (2) 歴史における各時代の特色と移り変わりを,身近な地域の歴史や地理的条件にも関心をもたせながら理解させるとともに,各時代が今日の社会生活に及ぼしている影響を考えさせる。 (3) 家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物と現在に伝わる文化遺産を,その時代や地域との関連において理解させ,尊重する態度を育てる。 (4) 歴史に見られる国際関係や文化交流のあらましを理解させ,我が国と諸外国の歴史や文化が相互に深くかかわっていることを考えさせるとともに,他民族の文化,生活などに関心をもたせ,国際協調の精神を養う。 (5) 具体的な事象の学習を通して歴史に対する興味や関心を高め,様々な資料を活用して歴史的事象を多角的に考察し公正に判断する能力と態度を育てる。 2 内容(1)ないし(6) 省略(7) 近代日本の歩みと国際関係明治維新とそれ以後の近代日本の発展の過程を,新政府により実施された諸政策,立憲体制の成立及びアジアにおける国際関係などを通じて理解させる。また,近代産業の発展とそれに伴い都市・農村の生活が変化したこと,学問や教育・文化の進歩が著しかったことを理解させる。 ア明治政府の成立と諸改革の展開明治政府の成立と廃藩置県,身分制度の廃止,学制の頒布,徴兵令の発布,地租改正,領土の画定などの諸政策を扱い,近代国家の基礎が整えられていったことを理解させる。また,欧米文化の導入と富国強兵・殖産興業政策を扱い,欧米 藩置県,身分制度の廃止,学制の頒布,徴兵令の発布,地租改正,領土の画定などの諸政策を扱い,近代国家の基礎が整えられていったことを理解させる。また,欧米文化の導入と富国強兵・殖産興業政策を扱い,欧米風の生活様式の広がりや近代産業の育成に着目させる。 イ憲法の制定と議会政治の始まり自由民権運動の広がりを背景に,大日本帝国憲法の制定,議会政治開始の経緯のあらましを扱い,憲法制定及び議会政治の開始の歴史的意義を理解させる。 ウ日清・日露戦争とアジアの情勢当時の国際環境を背景に,日清・日露戦争及び条約改正を扱い,我が国の国際的地位の向上及び大陸との関係のあらましを理解させるとともに,欧米諸国との対等の外交関係を樹立するために国民的関心が払われたことに着目させる。 エ近代産業の発展と社会や生活の変化我が国の産業革命の進行を扱い,近代産業が発展し資本主義経済の基礎が固まっていったことを理解させるとともに,社会問題が起こったこと,都市や農山漁村の生活に大きな変化が生じてきたことに着目させる。 オ近代文化の形成学問・教育・科学技術・芸術などの発展を扱い,伝統的な文化の上に欧米文化を消化して我が国の近代化が形成されたことを理解させる。 (8) 二つの世界大戦と日本第一次世界大戦から第二次世界大戦までの国際情勢のあらましを背景に,その間の国内の政治・経済・文化及び国民生活の移り変わりを理解させる。その際,世界の国々の間の緊密な関係や対立及び二つの大戦が人類全体に惨禍を及ぼしたことを理解させる。 ア第一次世界大戦と国際関係第一次世界大戦とその背景にある国際関係,日本の参戦,ロシア革命,戦後の国際協調の動きを扱い,第一次世界大戦前後の国際関係の推移のあらましを理解させるとともに,民族運動の高まり,国際平和への努力に着目させる。 ウ第二 背景にある国際関係,日本の参戦,ロシア革命,戦後の国際協調の動きを扱い,第一次世界大戦前後の国際関係の推移のあらましを理解させるとともに,民族運動の高まり,国際平和への努力に着目させる。 ウ第二次世界大戦と日本昭和初期から第二次世界大戦の終結までの世界の動きと我が国の政治・外交の動き,中国などアジア諸国との関係を扱い,経済の混乱と社会問題の発生や軍部の台頭から戦争に至る経過を理解させるとともに,戦時下の国民生活に着目させる。 (9) 現代の世界と日本第二次世界大戦後の世界の動きのあらまし及びそれと関連をもちながら進められた我が国の民主化と再建の過程や国際社会への参加について理解させる。また,経済や科学技術の急速な発展とそれに伴う国民生活の変化に着目させるとともに,現代の世界の状況とその中での我が国の役割について考えさせる。 3 内容の取扱い(1) 内容の取扱いについては,次の事項に配慮するものとする。 ア生徒の発達段階を考慮し,抽象的で高度な内容や複雑な社会構造などに深入りすることは避け,各時代の特色を表す歴史的事象を重点的に選んで指導内容を構成すること。なお,年代の表し方や時代区分についても基本的な理解を得させるようにすること。 イ及びウ省略(2)ないし(6) 省略(7) 内容の(7)については,我が国の政治,経済,外交,文化などの各分野で近代化が急速に進んだことを幅広く理解させるように留意する。オについては,簡潔に扱うものとする。 (8) 内容の(8)については,世界の動きと我が国との関連を重点的にとらえさせるとともに,国際協調と国際平和の実現に努めることが大切であることに着目させるよう留意する。 (9) 内容の(9)については,第二次世界大戦後の世界の歴史の大きな流れと我が国が再出発して今に至った経過について大観させる と国際平和の実現に努めることが大切であることに着目させるよう留意する。 (9) 内容の(9)については,第二次世界大戦後の世界の歴史の大きな流れと我が国が再出発して今に至った経過について大観させるよう留意する。 5 検定済図書の訂正ア検定済図書の訂正a 検定を経た図書について,誤記,誤植,脱字若しくは誤った事実の記載又は客観的事情の変更に伴い明白に誤りとなった事実の記載があることを発見したときは,発行者は,文部大臣の承認を受け,必要な訂正を行わなければならない。 (教科用図書検定規則13条1項)b 検定を経た図書について,前項に規定する記載を除くほか,学習を進める上に支障となる記載又は更新を行うことが適切な事実の記載若しくは統計資料の記載があることを発見したときは,発行者は,文部大臣の承認を受け,必要な訂正を行うことができる。 (同条2項)c 同条1項に規定する記載の訂正が,客観的に明白な誤記,誤植若しくは脱字に係るものであって,内容の同一性を失わない範囲のものであるとき,又は前項に規定する記載の訂正が,同一性をもった資料により統計資料の記載の更新を行うものであって,内容の同一性を失わない範囲のものであるときは,発行者は,同条1項及び2項の規定にかかわらず,文部大臣が別に定める日までにあらかじめ文部大臣へ届け出ることにより訂正を行うことができる。 (同条3項)d 文部大臣は,検定を経た図書について,同条1項及び2項に規定する記載があると認めるときは,発行者に対し,その訂正の申請を勧告することができる。 (同条4項)イ検定済図書の訂正の手続a 教科用図書 項に規定する記載があると認めるときは,発行者に対し,その訂正の申請を勧告することができる。 (同条4項)イ検定済図書の訂正の手続a 教科用図書検定規則13条1項又は2項の承認を受けようとする者は,別記様式第5号による訂正申請書に,訂正本一部を添えて文部大臣に提出するものとする。 (同規則14条1項)b 同規則13条3項の届出をしようとする者は,別記様式第6号による訂正届出書を文部大臣に提出するものとする。 (同規則14条2項)c 同規則13条1項若しくは2項の承認を受けた者又は同条3項の訂正を行った者は,その図書の供給が既に完了しているときは,速やかに当該訂正の内容を,その図書を現に使用している学校の校長に通知しなければならない。 (同規則14条3項) 6 教科用図書の採択(1) 文部大臣の検定を経た図書について,具体的に使用する図書を決定することを採択といい,この権限は,公立学校については所管の教育委員会にある(地教行法23条6号)。ただし,都の特別区の教育委員会の所管に属する学校の場合は都の教育委員会がその事務を処理する(同法59条1項)。 なお,国立及び私立の義務教育諸学校については,校長に採択権限がある(無償措置法10条)。 (2) 採択の手続の概要ア発行者は,次年度に発行しようとする教科書の書目を文部大臣に届け出る(教科書の発行に関する臨時措置法(昭和23年法律第132号。平成10年法律第101号による改正前のもの。以下「発行法」という。)4条)。文部大臣は,この届出に基づき,目録を作成し,都道府県教育委員会に送付し,都道府県教育委員会は,当該 3年法律第132号。平成10年法律第101号による改正前のもの。以下「発行法」という。)4条)。文部大臣は,この届出に基づき,目録を作成し,都道府県教育委員会に送付し,都道府県教育委員会は,当該目録を当該都道府県の区域内にある学校に配付する(発行法6条1項,2項)。 イ都道府県教育委員会は,毎年,文部大臣の指示する時期(例年,6月末から7月初めにかけての10日間)に,教科書展示会を開かなければならない(発行法5条1項)。 ウ発行者は,教科書の見本を教科書展示会に出品することができる(発行法6条3項)。 エ都道府県教育委員会は,当該都道府県内の義務教育諸学校において使用する図書の採択の適正な実施を図るため,図書の研究に関し,計画し実施するとともに,市町村(市町村の組合を含む)の教育委員会等の行う採択に関する事務について,適切な指導,助言,援助を行う(無償措置法10条)。また,都道府県には,毎年度4月1日から8月15日までの間,教科用図書選定審議会が設置され,都道府県教育委員会が採択に関する事務について指導,助言,援助を行う際には,あらかじめ教科用図書選定審議会の意見を聴かなければならない(無償措置法11条,義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律施行令(昭和39年政令第14号。ただし,平成11年政令第218号による改正前のもの。以下「無償措置法施行令」という。)8条)。 オ都道府県教育委員会は,その都道府県の区域について,市若しくは郡の区域又はこれらの区域を併せた地域に教科用図書採択地区を設定しなければならない(無償措置法12条1項)。なお,採択地区は,特別区にあっては特別区の区域又はその区域を併せた地域,指定都市にあっては指定都市の区の区域又はその区域を併せた地域である(無償措置法15条,16条)。 力都道府県内の義 1項)。なお,採択地区は,特別区にあっては特別区の区域又はその区域を併せた地域,指定都市にあっては指定都市の区の区域又はその区域を併せた地域である(無償措置法15条,16条)。 力都道府県内の義務教育諸学校(都道府県立の義務教育諸学校を除く。)において使用する図書の採択は,都道府県教育委員会の指導,助言,援助により,使用年度の前年度の8月15日までに種目ごとに一種の図書について行う(無償措置法13条1項,無償措置法施行令13条1項)。採択地区においては,種目ごとに同一の教科用図書を採択しなければならないとされており(無償措置法13条1項,3項),通常,採択地区協議会等を設け,教員等の調査研究を経て採択されている。都道府県立の義務教育諸学校において使用する図書の採択は,あらかじめ選定審議会の意見を聞いて,種目ごとに一種の図書について行う(無償措置法13条2項)。 なお,義務教育諸学校において使用する図書については,4年間同一の教科書を採択するものとされている(無償措置法14条,無償措置法施行令14条1項)。 (3) このように,学校教育法40条,21条により使用を義務付けられた図書については,文部大臣の検定を経たもののうちから上記の手続を経て採択された図書について具体的な使用義務が課されることとなる。本件各教科用図書は,いずれも文部大臣の検定を経て採択された図書である。 7 権限の移行平成13年1月6日,中央省庁等改革関係法施行法(平成11年法律第160号)が施行されたことに伴い,同法1301条の規定により,従前文部大臣のした処分その他の行為は,文部科学大臣のした行為とみなされることとなった。 第4 前提となる事実 1 当事者(1)原告ら(原告生徒及び原告保護者)ア別紙3記載の各原告生徒は,別紙3でそれぞれに対応する各被告自治体が 為は,文部科学大臣のした行為とみなされることとなった。 第4 前提となる事実 1 当事者(1)原告ら(原告生徒及び原告保護者)ア別紙3記載の各原告生徒は,別紙3でそれぞれに対応する各被告自治体が設置した別紙3記載の各中学校に入学し,平成9年度より就学した生徒である。 イ別紙3記載の各原告保護者は,別紙3でそれぞれに対応する前項記載の各原告生徒の親権者たる父又は母であり,かつ,学校教育法39条により,原告生徒を中学校に就学させる義務を負う保護者である。 (2) 被告らア被告国について文部大臣は,中学校で使用する図書の検定を行う被告国の機関である。 イ被告自治体について別紙3記載の各被告自治体(被告東京都を除く。)は,原告生徒が平成9年度から就学する各中学校の設置者である。 別紙3記載の各教育委員会(以下「教育委員会」という。)は,各中学校の全教科について,検定を経た図書(以下「検定教科書」という。)のうちから,種目毎に一種の図書を採択する別紙3記載の各被告自治体の機関である。 ただし,別紙3番号87の原告P4が就学している中野富士見中学校は東京都中野区が,同100の原告P5が就学している亀有中学校は東京都葛飾区が,それぞれ設置した中学校であるが,これらの中学校で使用する図書の採択は,地教行法59条1項に基づき,東京都教育委員会が行った。 ウ被告発行者について被告発行者は,それぞれ,図書目録記載の図書(本件各教科用図書)の発行者である。 エ被告著作者について被告著作者を含め,被告分類表記載の各著作者は,被告分類表記載のとおり,それぞれ,別紙4-,四,七,一〇,一三,一六及び一九記載の図書(以下「本件歴史教科書」という。)の執筆を行った。(被告分類表記載の各著作者のうち,P1,P2及びP3については,本件訴え提起まで ,それぞれ,別紙4-,四,七,一〇,一三,一六及び一九記載の図書(以下「本件歴史教科書」という。)の執筆を行った。(被告分類表記載の各著作者のうち,P1,P2及びP3については,本件訴え提起までに死亡していたため,本件訴えの被告となっていない。) 2 本件各教科用図書に係る検定申請及び検定(1) 被告発行者は,それぞれ,本件歴史教科書の検定を受ける目的で,その検定申請にかかる教科書(検定申請用図書)の著作及び編集を依頼し,被告著作者はいずれもこれを共同して行うことを受諾した。 (2) 被告著作者は,前記(1)の契約に基づき,それぞれ,本件歴史教科書についての検定申請用図書を共同して執筆した。 (3) 被告発行者は,それぞれ,文部大臣に対し,前記(2)記載の検定申請用図書を含む図書目録記載の検定申請用図書について,中学校の社会科の教科用図書として検定の申請を行った。これに対し,文部大臣は,平成8年2月29日,被告発行者の各検定申請にかかる図書の全て(本件各教科用図書)の検定を行った。 なお,各検定申請用図書と検定を経た図書(本件各教科用図書)とは,その内容においてほぼ同一性があり,その著作者はいずれもそれぞれの被告著作者であり,その発行者はいずれも被告発行者である。 (4) 被告国は,平成8年度中に,本件各教科用図書について,被告発行者との間でそれぞれ購入契約を締結し,被告発行者は,この契約に基づき,印刷のうえ所定の取次供給所等に送本した。 3 本件各教科用図書の採択等(1) 各被告自治体の教育委員会は,それぞれ,原告生徒が平成9年度より就学する各中学校において社会科の履修のために使用する検定教科書として,別紙3記載の各教科用図書を採択した。 (2) 被告国は,平成8年度中に,本件各教科用図書について,平成9年度から(ただし,別紙3記載 る各中学校において社会科の履修のために使用する検定教科書として,別紙3記載の各教科用図書を採択した。 (2) 被告国は,平成8年度中に,本件各教科用図書について,平成9年度から(ただし,別紙3記載のとおり,一部の図書は一部の中学校においては平成10年度ないし11年度から。以下同じ。)使用を開始させるため,無償措置法3条に基づき,それぞれ別紙3記載の各中学校の設置者である被告自治体(ただし,原告番号87P4及び同100P5については,中学校の設置者である被告東京都中野区(以下「被告中野区」という。)ないし被告東京都葛飾区(以下「被告葛飾区」という。)ではなく,被告東京都。後記(3)において同じ。)に対し,その採択をした図書を無償給付した。 (3) 各被告自治体は,無償措置法4条に基づき,被告国から無償給付を受けた本件各教科用図書を各原告生徒に給与し,平成9年度から(ただし,一部の原告生徒に対し一部の図書は平成10年度ないし11年度から。以下同じ。)各中学校においてその使用を開始させた。 (4) 本件各教科用図書には,別紙一覧表記載の各記述がある。これらについて,原告らが違憲・違法であると主張する個別の根拠は別紙8違法事由一覧表記載のとおりである。 第5 本案前に関する当事者の主張(被告発行者及び被告著作者の主張) 1 裁判所法3条1項は,裁判所において審判の対象とし得るのは「法律上の争訟」に限られることを規定しているところ,この「法律上の争訟」とは,①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であって,かつ,②法令の適用によって終局的な解決が可能なものをいう(最高裁判所昭和41年2月8日第3小法廷判決・民集20巻2号196頁,最高裁判所昭和56年4月7日第3小法廷判決・民集35巻3号443頁,最高裁判所平成5年9月7日第3小法廷 解決が可能なものをいう(最高裁判所昭和41年2月8日第3小法廷判決・民集20巻2号196頁,最高裁判所昭和56年4月7日第3小法廷判決・民集35巻3号443頁,最高裁判所平成5年9月7日第3小法廷判決・民集47巻7号4667頁)。上記①は,法律上の争訟性を,訴訟物(請求)のレベルにおいて検討しようとするものであり,②は,これを主張(争点)のレベルにおいて検討しようとするものである。 すなわち,例えば,宗教団体内部での宗教上の地位の存否の確認や懲戒処分の効力の有無の確認を求める訴えは,訴訟物(請求)において,国が裁判権の発動として介入すべきでない宗教活動それ自体に関するものであるから,上記①の問題として,法律上の争訟性を欠くとするのである(最高裁判所昭和55年1月11日第3小法廷判決・民集34巻1号1頁,最高裁判所平成4年1月23日第1小法廷判決・民集46巻1号1頁)。 次に,判断の過程で,例えば,国が裁判権の発動として介入すべきでない宗教上の教義・信仰の内容に立ち入らざるを得ないものであるかどうかを検討し,当該訴訟の実質的争点の判断のためにこれに立ち入らざるを得ない場合には,上記の②の問題として,当該訴訟は法律上の争訟性を欠くとするのである(前掲最高裁判所昭和56年4月7日第3小法廷判決,最高裁判所平成元年9月8日第2小法廷判決・民集43巻8号889頁,前掲最高裁判所平成5年9月7日第3小法廷判決)。 本件訴えは,上記②の主張(争点)のレベルの問題として検討すると,以下に述べるとおり,原告らの請求の当否を判断しようとすると,その実質的争点の審理・判断の過程において,国が裁判権の発動として介入すべきでない学問ないし思想の内容に立ち入らざるを得ないものであるから,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟性を欠くものである(前掲最高裁判所昭 の審理・判断の過程において,国が裁判権の発動として介入すべきでない学問ないし思想の内容に立ち入らざるを得ないものであるから,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟性を欠くものである(前掲最高裁判所昭和56年4月7日第3小法廷判決,前掲最高裁判所平成元年9月8日第2小法廷判決,前掲最高裁判所平成5年9月7日第3小法廷判決参照)。 2 原告らは,本件各教科用図書につき,別紙一覧表掲記の各記述部分が違憲・違法であるのは,「思想性」,「違憲性」,「虚偽性」,「偏頗性」,「不当性」の5つの類型のいずれかに該当すると判断することができるからであり,各記述部分に共通する違憲・違法類型は,「東京裁判史観」と「コミンテルン史観」がその根幹を支配する「思想性」であるとして,別紙8違法事由一覧表記載のとおり,本件各教科用図書の違法・違憲事由を主張するが,この違憲・違法性の主張は,結局のところ,次の3種のものとして整理することができる。 第1は,本件各教科用図書に記述されている歴史的事実の存否を問題とし,当該記述部分が歴史の真実に反することを理由に,当該記述部分を違憲・違法と主張するものである(以下「違法事由①」という。)。 第2は,本件各教科用図書に記述されている歴史的事実についての歴史学上の位置付けないし評価を問題とし,当該記述部分における位置付けないし評価が原告ら自らの見解からする位置付けないし評価と相容れないことを理由に,当該記述部分を違憲・違法と主張するものである(以下「違法事由②」という。)。 第3は,本件各教科用図書に記述されている歴史的事実につき,本件各教科用図書が中学生を対象とする教科書であることに着目して,教育的配慮の有無を問題とし,原告ら自らの見解によると当該記述部分が不適切と判断されることを理由に,当該記述部分を違憲・違法と主張する 各教科用図書が中学生を対象とする教科書であることに着目して,教育的配慮の有無を問題とし,原告ら自らの見解によると当該記述部分が不適切と判断されることを理由に,当該記述部分を違憲・違法と主張するものである(以下「違法事由③」という。)。 これに対し,原告らは,原告らの主張する違法類型は,「思想性」,「違憲性」,「虚偽性」,「偏頗性」,「不当性」の5類型であるところ,違法事由①及び②の問題は「虚偽性」として主張するものについてのみ当てはまり,違法事由③の問題は「不当性」に該当するから,被告発行者及び被告著作者による上記の整理は「思想性」,「違憲性」,「偏頗性」として主張するものを欠落させており,正しくないと反論する。 しかし,①上記被告らの整理は,原告ら自身がその意義を明らかにし得ない「思想性」などという独自の用語に基づく類型にとらわれることなく行ったものであること,及び②本件各教科用図書中の個別の記述部分について,原告ら自身が違憲・違法な記述となる理由として具体的に掲げる事由に即して行ったものであることからして,原告らにおいて「思想性」,「違憲性」,又は「偏頗性」に当たると分類して主張する違法事由が,被告発行者及び被告著作者の上記の整理から欠落しているということは全くないのである。 3 原告らは,別紙一覧表掲記の各記述部分につき,違法事由①ないし③の問題のいずれかを単独で,又はこれらを複合させて,違憲・違法の理由としているが,これを,原告らの主張の幾つかを例にとって説明すると,次のようになる。 原告らは,「昭和12年,蘆溝橋で中国側から不法射撃を受けたのは支那駐屯軍であり,その後,中国側から挑発的行為を受けてさらに戦火が拡大した北支事変,支那事変など一連のいわゆる日中戦争もまた『侵略戦争』ではあり得ない。にもかかわらず,大東亜戦争 射撃を受けたのは支那駐屯軍であり,その後,中国側から挑発的行為を受けてさらに戦火が拡大した北支事変,支那事変など一連のいわゆる日中戦争もまた『侵略戦争』ではあり得ない。にもかかわらず,大東亜戦争や支那事変,さらに,日清・日露戦争までも,さらには韓国併合やその他日本の行った全ての行動を『侵略』と表現することは,概念の破綻と混同を生ぜしめている(虚偽性,偏頗性)。」と主張する。 原告らの上記の主張の当否を判断しようとすると,次のような過程をたどることを余儀なくされる。すなわち,まず,支那駐屯軍が昭和12年に中国側から射撃を受けたかどうか,支那駐屯軍がその後中国側から挑発的行為を受けたかどうか,中国側からの射撃及び挑発的行為に起因して戦火が拡大したかどうかなどの歴史的事実の存否を審理判断することが必要である。これは,違法事由①の問題である。そして,次に,裁判所が歴史的真実であるとして認定した事実を前提にして,国際法等の概念を踏まえた場合に,歴史学においていわゆる日中戦争を「侵略戦争」と評価することが正しいかどうか(原告らの主張に沿った設問の形にすると,いわゆる日中戦争を「侵略戦争」と表現することが,歴史学における概念の破綻と混同を生ぜしめているというべきかどうか)を審理判断することが必要である。これは,違法事由②の問題である。なお,この間の小問として,昭和12年に中国側からの射撃があったとして,それが国際法上「不法」というべきものかどうかの判断も必要となる。 このように,上記の原告らの主張の当否の判断には,違法事由①及び②の問題の双方に対して裁判所が解答を示す必要が生じるのである。 また,原告らは,「『従軍慰安婦』という用語は,慰安婦が軍属であったかの印象を与えるので『従軍』は取るべきである(虚偽性,不当性)。また,当時,『従軍慰安婦 判所が解答を示す必要が生じるのである。 また,原告らは,「『従軍慰安婦』という用語は,慰安婦が軍属であったかの印象を与えるので『従軍』は取るべきである(虚偽性,不当性)。また,当時,『従軍慰安婦』という言葉自体が存在しなかった(虚偽性)。」とし,「朝鮮女性が『強制的に』日本軍によって慰安婦にさせられたという記述には根拠もなく,また一般的な事実でもない(虚偽性)。訂正すべきである。」とし,「慰安婦問題の基本は売春行為であるから,中学校用教科書にこれを記載するのは生徒の心身の発育段階を無視した不適切極まる執筆方針と申すべきで,教育上の配慮が完全に欠落している(不当性)。慰安婦についての記述は,全面削除すべきである。」などと主張する。 原告らの上記の主張の当否を判断する過程を検討すると,おおむね次のようになる。まず,慰安婦の募集,慰安所の管理運営等に日本軍がどのような関与をしていたのかという歴史的事実の存否を審理判断することが必要である。これは,違法事由①の問題である。そして,次に,裁判所が認定した事実を前提にして,朝鮮女性が慰安婦になるにつき,日本軍の「強制」があったと評価することができるかどうか,慰安所の管理運営等を全体としてみて,歴史学において「従軍慰安婦」という用語によって説明するのが正しいのかどうかを審理判断することが必要である。これは,違法事由②の問題である。さらに,中学生の心身の発育の程度等を考慮して,中学生を対象とする教科書に慰安婦に関する記述をするのが適切であるかどうかを審理判断することが必要である。これは,違法事由③の問題である。なお,この教育的配慮の問題について答えるために,歴史学において慰安婦問題の基本を売春問題ととらえるのが正しいかどうかという小問に答えることも必要となる。 4 原告らの主張の構造は,以上のとおり る。なお,この教育的配慮の問題について答えるために,歴史学において慰安婦問題の基本を売春問題ととらえるのが正しいかどうかという小問に答えることも必要となる。 4 原告らの主張の構造は,以上のとおりのものであるが,教科書中の記述につきその歴史的事実の存否を問う違法事由①の問題及び教科書中の記述につきその歴史的事実の歴史学上の位置付けないし評価を問う違法事由②の問題は,いずれも歴史学上の争点であり,教科書中の歴史的事実の記述につきその教育的配慮の有無を問う違法事由③の問題は,教育学上の又は歴史学と教育学の複合する領域上の争点である。そうすると,これらの問題は,いずれも,本来,歴史学や教育学といった学問の世界において,換言すると,自由な意見の表明とそれに対する批判の交換が行われる思想の自由市場において決せられるべきものである。憲法23条は学問の自由を保障する旨を,憲法21条1項は言論・出版等一切の表現の自由を保障する旨をそれぞれ規定するが,本件訴訟において原告らの主張する前記の問題を裁判所において審理判断することは,とりもなおさず憲法の保障する学問の自由ないし表現の自由に干渉することになるのである。 最高裁判所平成5年3月16日第3小法廷判決・民集47巻5号3483頁(いわゆる家永教科書裁判第1次訴訟上告審判決)及び最高裁判所平成9年8月29日第3小法廷判決・民集51巻7号2921頁(いわゆる家永教科書裁判第3次訴訟上告審判決)は,教科書検定について,さまざまな観点から多角的に行われる学術的・教育的な専門技術的判断であることを理由に,文部大臣の合理的な裁量にゆだねられるべきものとした上,文部大臣の判断が裁量権の範囲を逸脱したものとして国家賠償法上違法となるかどうかは,その判断の過程に「看過し難い過誤」があるかどうかによって決すべきである旨 的な裁量にゆだねられるべきものとした上,文部大臣の判断が裁量権の範囲を逸脱したものとして国家賠償法上違法となるかどうかは,その判断の過程に「看過し難い過誤」があるかどうかによって決すべきである旨を判示した。そして,裁判所が検定意見に看過し難い過誤があるかどうかを判定するに当たっては,検定当時の学界における客観的な学説状況に照らしてするのであって,学説内容ないし研究結果の当否・優劣や歴史的真実そのものを審理判断の対象としてするものではないことを明らかにした。これに対し,本件の原告らは,歴史的真実そのもの又は学説内容の当否・優劣を裁判所における審理判断の対象とすべき旨を主張しているのであり,上記最高裁判決の前提とする考え方に真っ向から反するものである。 5 原告らの主張する「通説,定説」又は「有力な学説」について(1)原告らは,「検定当時の学界における客観的な学説状況を審理及び判断の対象としている」と主張するので,この点について検討しておく。 (2) 原告らの上記の主張は,上記被告らが前掲最高裁判所平成5年3月16日第3小法廷判決・民集47巻5号3483頁(いわゆる家永教科書裁判第1次訴訟上告審判決)及び前掲最高裁判所平成9年8月29日第3小法廷判決・民集51巻7号2921頁(いわゆる家永教科書裁判第3次訴訟上告審判決)の存在を具体的に指摘した上,これらの最高裁判決は,裁判所としては,検定当時の学界における客観的な学説状況を審理判断の対象とはするが,学説内容ないし研究結果の当否・優劣や歴史的真実そのものを審理判断の対象とするのではないことを明らかにしている旨主張したため,なんとか裁判所における審理判断の対象となり得る争点を残そうとして始めた苦肉の主張である。 しかしながら,「客観的な学説状況」という同じ言葉を使ってはいるものの,原告 かにしている旨主張したため,なんとか裁判所における審理判断の対象となり得る争点を残そうとして始めた苦肉の主張である。 しかしながら,「客観的な学説状況」という同じ言葉を使ってはいるものの,原告らの主張の実質は最高裁判所の考えているものとは全く異なっており,結局,この主張によっても,本件訴訟が法律上の争訟性を有するものであることの論証に成功しているということはできないのである。 (3) 原告らは,前掲家永教科書裁判第1次訴訟上告審判決にいう「通説,定説」につき,「何が通説であり,何が定説であるかを判断するためには,それ以外の学説がどのようなものが存在し,それらの学説の論旨や根拠にどのような学術的な合理性があるか否かを判断し,それらの学説に説得力が少ないと判断されるときは,当初の学説が通説又は定説と認識されるのであるから,通説又は定説とされるためには,その反対説の内容とその学術的な合理性を判断することになる。」と主張する。 その上で,原告らは,このような判断を経て「いずれの学説も『通説,定説』とは認められず,あるいはいずれの学説も『有力な学説』の限度にとどまるものとして認識される」ことになったとして,「この基準に基づき,通説,定説とはされず,単に有力な学説の一つに過ぎないと判断される学説が,本件各教科用図書の記述において,①唯一の学説ないしは通説,定説として取り扱われ,専らその学説によって当該歴史事象の説明されている場合には『虚偽性』,②唯一の学説ないしは通説,定説として取り扱われないとしても,その他の学説を否定的に紹介するなどその学説がその他の学説よりも優越する学説として取り扱われ,主としてその学説によって当該歴史事象が説明されている場合には『偏頗性』,にそれぞれ該当するのである。」と主張する。 原告らの上記の主張からすると,原 他の学説よりも優越する学説として取り扱われ,主としてその学説によって当該歴史事象が説明されている場合には『偏頗性』,にそれぞれ該当するのである。」と主張する。 原告らの上記の主張からすると,原告らの主張の当否を審理判断するためには,ある一つの歴史事象を説明する学説としてどのようなものが存在するのか,学説の分布状況がどうであるかを審理判断するだけでは十分でなく,①各学説の論旨や根拠についての学術的な合理性及び説得力の有無ないし大小,②ある一つの歴史事象を中学生用の教科書中に説明するに当たり,複数の学説によって記述すべきかどうか,③複数の学説によって記述するとして,中学生用の教科書中で学説相互の優劣等をどのように扱うのが相当であるか,といった諸点を審理判断の対象とする必要があることが明らかである。 以上①ないし③は,まさに裁判所が学説の内容に立ち入り,その当否や優劣を審理判断することを要するものにほかならず,また,上記2で整理した違法事由③の問題をも審理判断することを要するものである。 6 以上のとおり,本件は,主張(争点)のレベルの問題として検討すると,本来,思想の自由市場において決せられるべき問題を司法の場において決しようとするに帰着し,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないというほかない。 (被告国及び被告自治体の主張) 1 請求の趣旨1に係る訴え(ただし,それぞれの主位的請求に係るもの。以下この項において同じ。)については,以下に述べるとおり,そもそもその訴えの当初から不適法な訴えである。 (1) 請求の趣旨1(1)に係る訴えについてア原告生徒は,被告国及び被告自治体に対し,別紙3原告被告対応表記載の中学校に就学している間,社会科の履修について,授業に出席する義務,授業を受ける義務及び考査試験を受ける義務(以下「 えについてア原告生徒は,被告国及び被告自治体に対し,別紙3原告被告対応表記載の中学校に就学している間,社会科の履修について,授業に出席する義務,授業を受ける義務及び考査試験を受ける義務(以下「授業に出席する義務等」という。)の不存在確認を求め,請求の趣旨1(1)に係る訴えが行政事件訴訟法4条後段の実質的当事者訴訟であると主張するイしかし,請求の趣旨1(1)に係る訴えは,以下に述べるとおり,義務の存否の確定を求める法律上の利益を欠くから不適法である。 a 原告生徒が請求の趣旨1(1)に係る訴えを求める法律上の利益については明らかではない。そこで検討するに,原告生徒が授業に出席する義務等なるものは,原告生徒がその履行を直接強制されるような義務ではなく,また,原告保護者らのように罰則によって間接的に強制されることすらなく,単にその違反が懲戒(学校教育法11条,同法施行規則(ただし,平成9年文部省令第6号による改正前のもの。以下同じ。)13条)その他の不利益処分の原因となり得るものにすぎない。そうすると,請求の趣旨1(1)に係る訴えの趣旨は,実質的には,原告生徒が将来において上記義務を履行しなかったときに,懲戒その他の不利益処分が行われるのを防止するために,その前提である原告生徒の義務の不存在をあらかじめ確定しておくことにあるものと解するほかない。 b しかし,具体的,現実的な争訟の解決を目的とする現行訴訟制度の下においては,義務違反の結果として将来何らかの不利益処分を受けるおそれがあるというだけでは,その処分の発動を差し止めるため,事前に上記義務の存否の確定を求めることは当然には許されない。このような訴えは,当該義務の履行によって侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度,違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容又は性質等 務の存否の確定を求めることは当然には許されない。このような訴えは,当該義務の履行によって侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度,違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容又は性質等に照らし,不利益処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがあるなど,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合は格別,そうでない限り,あらかじめ上記のような義務の存否の確定を求める法律上の利益を認めることはできないというべきである(最高裁判所昭和47年11月30日第1小法廷判決・民集26巻9号1746頁,最高裁判所平成元年7月4日第3小法廷判決・判例時報1336号86頁)。 c これを請求の趣旨1(1)に係る訴えについてみると,原告らは,「教育人権及び人格権を侵害され,これにより,精神的苦痛を被り,人格の尊厳を毀損された」と主張するが,原告生徒が本件各教科用図書を使用した授業を受けることにより重大な権利侵害が生じるとは到底いえない。また,生徒に対する懲戒は教育上必要があると認められるときに行われるものであって(学校教育法11条),授業に出席する義務等の不履行により直ちに行われることが確実であるとはいえないし,公立中学校では懲戒として停学,退学の処分はできず(学校教育法施行規則13条3項,4項),懲戒として体罰を加えることはできない(学校教育法11条)から,事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれも認められない。出席停止,原級留置及び卒業不認定についても,その趣旨・要件からすると,授業に出席する義務等の不履行により直ちにされることが確実であるとはいえない。なお,原告生徒が出席義務を履行しないことにより,原告生徒の指導要録に欠席の記載がされ いても,その趣旨・要件からすると,授業に出席する義務等の不履行により直ちにされることが確実であるとはいえない。なお,原告生徒が出席義務を履行しないことにより,原告生徒の指導要録に欠席の記載がされるとしても原告生徒の権利義務に直接影響を及ぼすものではない。 d そうすると,請求の趣旨1(1)に係る訴えについては,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情は認められないから,原告生徒が,あらかじめ,授業に出席する義務等の存否の確定を求める法律上の利益はない。 (2) 請求の趣旨1(2)に係る訴えについてア原告保護者らは,原告生徒を授業に出席させる義務,授業を受けさせる義務及び考査試験を受けさせる義務(以下「授業に出席させる義務等」という。)の不存在の確認を求め,請求の趣旨1(2)に係る訴えは,行政事件訴訟法4条後段の実質的当事者訴訟であるとしている。 しかし,請求の趣旨1(2)に係る訴えは,前記(1)と同様の理由により,義務の存否を確定する法律上の利益を欠き不適法である。 イ原告らの主張に係る授業に出席させる義務等なるものは,その履行を直接強制されるような義務ではなく,正当な事由(学校教育法施行令20条)なく生徒を出席させないときは,市町村教育委員会から出席の督促を受け(学校教育法施行令21条),督促を受けても保護者が生徒を出席させない場合に,罰則(学校教育法91条)によって間接的に強制されるものである。 原告生徒が本件各教科用図書を使用した授業を受けることにより原告保護者らに生じる権利侵害なるものは,その性質上,原告生徒自身に生じ得る権利侵害よりも間接的なものと考えられるが,原告生徒に生じる権利侵害なるものが認められないことは前記(1)イcのとおりである。また,原告保護者らが上記義務を履行しなかったとしても,直ちに出席 じ得る権利侵害よりも間接的なものと考えられるが,原告生徒に生じる権利侵害なるものが認められないことは前記(1)イcのとおりである。また,原告保護者らが上記義務を履行しなかったとしても,直ちに出席督促がされ,刑事罰を科されることが確実であるとは到底いえないし,事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれも認められない。 したがって,請求の趣旨1(2)に係る訴えについては,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情は認められないから,原告保護者らが,あらかじめ,授業に出席させる義務等の存否の確定を求める法律上の利益はない。 (3) 請求の趣旨1(3)に係る訴えについてア原告らは,請求の趣旨1(3)に係る訴えとして,本件各教科用図書の内容が違憲・違法であり,被告国及び被告自治体は,学校教育法40条,21条に基づき,原告らに対し,本件各教科用図書以外の有益適切な教材を用いて直ちに履修させなければならない義務があるので,その義務が履行されるまでの間,本件各教科用図書を社会科の履修に使用してはならないとして,本件各教科用図書を使用することの差止めを求める。 イしかし,中学校においては,文部大臣の検定を経た教科書を使用すべき義務があり(学校教育法40条,21条1項),この使用義務は,本件各教科用図書について,文部大臣が検定処分をし,さらに,これを市町村の教育委員会が採択することによって具体化されるものである。したがって,法令で使用を義務付けられた本件各教科用図書の使用の差止めを実現するためには,被告国については,文部大臣が本件各教科用図書の検定処分を取り消し,変更するしかなく,被告自治体については,各教育委員会が本件各教科用図書の採択を取り消し,変更するしかない。 そうすると,請求の趣旨1(3)に係る訴えは, 臣が本件各教科用図書の検定処分を取り消し,変更するしかなく,被告自治体については,各教育委員会が本件各教科用図書の採択を取り消し,変更するしかない。 そうすると,請求の趣旨1(3)に係る訴えは,被告国に対する関係では,文部大臣がした当該教科書の検定処分の取消し,変更を求めるものにほかならず,被告自治体に対する関係では,各教育委員会のした本件各教科用図書の採択行為の取消し,変更を求めるものにほかならない。抗告訴訟が公権力の行使に関する不服の訴訟(行政事件訴訟法3条1項)とされていることからすると,同法4条後段の実質的当事者訴訟は,上記以外の公法上の法律関係に関する訴訟というべきである。文部大臣が本件各教科用図書についてした検定の決定及び市町村の教育委員会のした採択行為はいずれも公権力の行使に係る行為であることが明らかであるから,請求の趣旨1(3)に係る訴えは,実質的当事者訴訟として提起することは許されず,不適法である。 (4) 請求の趣旨1(4)に係る訴えについてア請求の趣旨1(4)に係る訴えは,懲戒等の各処分をあらかじめ禁止することを求めるものである。 イ原告らは,上記懲戒等の各処分がいずれも公権力の行使たる処分であることを前提として,各処分の禁止を求めるものと解される。そうであれば,原告らは,請求の趣旨1(4)に係る訴えが実質的当事者訴訟であるとしているが,同訴えの性質は無名抗告訴訟としての予防的不作為訴訟にほかならない。 a そうすると,行政主体である被告国及び被告自治体は被告適格を有しない。 b また,請求の趣旨1(4)に係る訴えは,無名抗告訴訟としての適法要件を欠くから不適法である。 憲法の定める三権分立の原則からして,行政処分をするか否かの決定は,第1次的には行政庁の判断により決定されるべき事項であり,例外的に予防的不 ,無名抗告訴訟としての適法要件を欠くから不適法である。 憲法の定める三権分立の原則からして,行政処分をするか否かの決定は,第1次的には行政庁の判断により決定されるべき事項であり,例外的に予防的不作為訴訟が認められるためには,少なくとも①行政庁の第1次的判断権を尊重する必要がないほどに行政庁が一定の行為をすることを法律上覊束されており,行政庁に自由裁量の余地が残されていないために第1次的判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないこと,②事前審査を認めないことによる損害が大きく,事前の救済の必要が顕著であることが必要であると解される。 これを本件についてみると,前記各処分は,いずれも裁量的判断に係るものであるから,①に該当しないことは明らかである。 また,法令上,懲戒のうち退学,停学は公立中学校の生徒に対して行うことはできない(学校教育法施行規則13条3項,4項)し,原告らが授業に出席する義務等及び授業に出席させる義務等がない旨主張して本件訴訟を提起して争っていることを理由として懲戒,進級留置,卒業不認定等の処分がされるとは考え難いところである。請求の趣旨1(4)に係る訴えは,原告生徒が現に社会科の授業に出席しないでいる事実を前提とするものでもない。そうすると,原告らの主張するような理由で原告生徒に対して前記の処分がされるおそれはなく,②にも該当しない。 ウ前記(1)イbのとおり,具体的,現実的な争訟の解決を目的とする現行訴訟制度の下においては,義務違反の結果として将来何らかの不利益処分を受けるおそれがあるというだけでは,その処分の発動の差止めを求めることは当然には許されず,当該義務の履行によって侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度,違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容又は性質等に照らし,上記処分を受けて の差止めを求めることは当然には許されず,当該義務の履行によって侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度,違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容又は性質等に照らし,上記処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがあるなど,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合でない限り,あらかじめ上記のような差止めを求める法律上の利益を認めることはできないというべきである。 上記のような特段の事情を認めることができないことは前述のところから明らかであるから,請求の趣旨1(4)に係る訴えは不適法というべきである。 2 また,請求の趣旨1に係る訴え(ただし,それぞれの主位的請求に係るもの。 以下この項において同じ。)については,以下に述べるとおり,原告生徒が平成11年度末にいずれも当該中学校を卒業したため,この点からみても法律上の利益を欠き,不適法な訴えというべきである。 (1) 請求の趣旨1(1)は,被告国及び被告自治体と各原告生徒との間において,その就学している中学校で社会科の履修につき,授業に出席する義務等が存しないことの確認,同(2)は,各原告保護者との間で上記履修につき,原告生徒を授業に出席させる義務等がないことの確認を求めるものである。 そして,原告らは,就学関係を公法上の契約関係ととらえた上で,各原告生徒が当該中学校に就学している期間内において履修を義務づけられることを問題にし,上記確認の対象となる義務は「原告生徒が別紙3記載の各中学校に就学している間」との限定を付して各訴えを提起している。 そうであれば,平成11年度が終わり,原告生徒が当該中学校の全課程を修了して各中学校を卒業している以上,原告ら主張の公法上の契約関係も終了することとなる 間」との限定を付して各訴えを提起している。 そうであれば,平成11年度が終わり,原告生徒が当該中学校の全課程を修了して各中学校を卒業している以上,原告ら主張の公法上の契約関係も終了することとなるので,上記確認を請求する法律上の利益は失われるに至ったというべきである。 (2) 請求の趣旨1(3)は,被告国及び被告自治体が原告生徒及び原告保護者に対し,一定の検定教科書を社会科の履修に使用してはならないことを,また,同(4)は,被告国及び被告自治体が原告生徒及び原告保護者において本件訴訟を提訴して争い,社会科の履修において授業に出席せず又は出席させず,授業を受けず又は授業を受けさせず,考査試験を受けず又は受けさせないことを理由として,懲戒等の不利益的な取扱いを行ってはならないことをそれぞれ求めるものである。 しかし,これらの請求も,前記(1)と同様に,各原告生徒が当該中学校を就学していることを前提とするものであるから,原告生徒が当該中学校の就学を終了している以上,上記各訴えについても法律上の利益は失われたというべきである。 3 さらに,請求の趣旨1に係る訴え(ただし,それぞれの予備的請求に係るもの。以下この項においで同じ。)についても,以下に述べるとおり,不適法な訴えというべきである。 (1) 原告らは,請求原因1のうち(1)及び(2)をそのまま中間確認の訴えとして,(3)及び(4)を確認文言に訂正した上で中間確認の訴えとして,それぞれ訴えの変更を申し立て,原告生徒が,中学校を卒業したのみでは訴えの利益が消滅することはないと主張する。原告らは,請求の趣旨1(1)ないし(4)に係る訴えが過去の法律関係に関する中間確認の訴えであると主張するものの,その文言自体は,いずれも現在の法律関係の確認請求とみるほかないものである。しかし,上記主張にかんが 趣旨1(1)ないし(4)に係る訴えが過去の法律関係に関する中間確認の訴えであると主張するものの,その文言自体は,いずれも現在の法律関係の確認請求とみるほかないものである。しかし,上記主張にかんがみると,いずれも過去,すなわち,原告生徒の在学中の法律関係の確認を求める趣旨と理解するほかはないので,以下このように善解した上で,その請求が不適法であることを述べることとする。 (2) 中間確認の訴えとは,ある訴訟手続中において,その請求の当否の判断の前提問題となる法律関係の存否について確認判決を求める訴え(民事訴訟法145条)である。民事訴訟法114条1項によれば,「主文に包含するもの」,すなわち審判の対象となっている訴訟物についての判断に限って既判力を認められるが,その前提問題となる法律関係については既判力が生じないことから,これについて同一手続において統一的な判断を得,その判断に既判力を与えるために認められたのが中間確認の訴えである。 ところで,確認の訴えにおいて,確認の対象とされるべきは,原則として現在の権利又は法律関係であり,過去の事実又は過去の法律関係の確認は原則として許されない。すなわち,現在の法律上の紛争の解決・調整を図るに当たっては,現在の権利又は法律関係の存否を問うのが直接的であり,その前提にすぎない過去の事実や法律関係の存否を問題とするのは迂遠であるばかりでなく,その後の法律関係の変動が考慮されないため,現在の紛争の解決に役立つとは限らないことから,過去の事実関係又は法律関係の存否を確認することは原則として許されない。ただ,例外的に現在の権利又は法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず,かえって,それらの権利または法律関係の基礎にある過去の基本的な法律関係を確定することが現に存する紛争の直接的かつ抜本 的に現在の権利又は法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず,かえって,それらの権利または法律関係の基礎にある過去の基本的な法律関係を確定することが現に存する紛争の直接的かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合などに限って,確認の訴えの利益が認められる。 中間確認の訴えも確認の訴えであるので,現時の法律関係を対象とすることが必要である。ただし,中間確認の訴えにおいても,過去の法律関係が現在の法律関係に影響を及ぼしている場合には,その影響を受けた現在の法律関係の確認を求める方が,より適切だからである。 原告らは,大審院昭和8年6月20日第5民事部判決・民集12巻1597頁が中間確認の訴えについて過去の法律関係の確認の請求を許していると主張する。しかしながら,上記大審院判決の事案は,建物の第三取得者が建物所有権に基づいて,消滅した抵当権の抹消を求める訴訟において,その抵当権の被担保債権の債権者である被告に対し,上記債務が消滅したことの確認を求めたというもので,上記中間確認の訴えは,各消費貸借契約に基づく債権の存在しないことの確認を求めるものとして,現在の債務不存在確認を求める趣旨と解することのできる事案であるから,本件訴訟とは事案を異にする。 (3) 原告らは,「外形上は過去の権利又は法律関係の確認を求めるものであっても,それが実質上は現在の法律上の権利又は法律関係の紛争に帰着するものであるときは,そのまま現在の権利又は法律関係の確認を求める趣旨と扱うことができる」,「本件においては,いまだに確認の利益が存在する。」,「提起時には現在の権利又は法律関係であったものが,審理中に過去の権利又は法律関係となった場合であって,その前後を通じて損害賠償請求の前提事実となっているからである。」などとも主張する。しかし 」,「提起時には現在の権利又は法律関係であったものが,審理中に過去の権利又は法律関係となった場合であって,その前後を通じて損害賠償請求の前提事実となっているからである。」などとも主張する。しかし,実質上は現在の法律関係の権利又は法律関係の紛争に帰着するというものであれば,現在の法律関係の権利又は法律関係の争いを審判の対象とすべきであり,前提となる過去の権利又は法律関係の確認を求める必要はないから,過去の権利又は法律関係の確認を求める原告らの主張はこの点からも失当である。 4 別紙3番号90の原告らに係る訴えについて原告P6については,平成9年度中に,香川県大川郡αから同郡βに転出しており,被告αは,同町に対する請求の趣旨1に関する訴えについて被告適格を欠くに至った。なお,同原告は,平成12年3月末β立中学校を卒業した。 (原告らの主張) 1 被告発行者及び被告著作者の主張に対する反論(1) 後記第6(原告らの主張)のとおり,本件訴訟において,原告らが主張する違法事由は,「思想性」,「違憲性」,「虚偽性」,「偏頗性」,「不当性」の5類型であるところ,これらについては,以下に述べるとおり,裁判所の司法審査が及ぶべきものであり,裁判所法3条1項の「法律上の争訟」に該当するというべきである。 (2) 原告らは,「歴史的真実そのもの又は学説内容の当否・優劣」を審理の対象としているのではない。決して,一般的・抽象的に歴史的事象の確定を求めているのではない。あくまでも,上記被告らが記述した本件各教科用図書の具体的内容を基準として議論しているのである。しかも,上記被告らが引用する家永教科書事件の判決のとおり,その記述内容が「検定当時の学界における客観的な学説状況に照らして」違憲・違法であり,しかも,これを検定,採択したことの過誤は,一見して明白で も,上記被告らが引用する家永教科書事件の判決のとおり,その記述内容が「検定当時の学界における客観的な学説状況に照らして」違憲・違法であり,しかも,これを検定,採択したことの過誤は,一見して明白であって,「看過し難い過誤」といわざるを得ないことを主張しているのである。 ここにおいて,「歴史的事実」という用語と「歴史的真実」という用語とは区別されるべきものである。すなわち,「歴史的事実」とは,特定の事件や戦争などの歴史的事象の中で,歴史検証を経た具体的・個別的な現時点での確定事実の意味で用いており,「歴史的真実」とは,いくつかの個々具体的な歴史的事実やその背景事情等を総合して歴史的事象の検証を行った結果,真正なものと演繹(評価)しうるもの,まさに万人が疑わないような,現時点において社会的に真実とされた歴史的事象そのもの,の意味として用いている。この「事実」と「真実」との関係は,例えば,日々日本全国で起こっている膨大な数の交通事故を個々具体的に「事実」として積み上げて毎日報道すれば,あたかも日本は交通地獄のような陰惨な社会であるというのが「真実」であるかのように報道されてしまうように,偏頗な「事実」を積み上げたからといって,それが必ずしも「真実」ではないことがありうるのである。このことは歴史的事実と歴史的真実との関係においても同様であるが,それが個々の事実であっても大なり小なり「評価」を含むため,見解の相違が生まれることがあるが,歴史検証という真偽選別過程において虚偽や捏造を排除することが歴史学にとって最も重要な課題である。たとえば,蘆溝橋事件という歴史的事象を探求する場合,昭和12年7月7日から翌8日にかけての個々具体的な「事実」の確定と背景事情等により,その原因と実相などの「真実」が確定しうるのである。 (3) そして,原告らは,本 いう歴史的事象を探求する場合,昭和12年7月7日から翌8日にかけての個々具体的な「事実」の確定と背景事情等により,その原因と実相などの「真実」が確定しうるのである。 (3) そして,原告らは,本件訴訟において,「虚偽性」及び「偏頗性」に関し,本件各教科用図書に記述されている「具体的な歴史的事実」の記述を問題としているのである。 アすなわち,虚偽性とは,図書の記述内容が「歴史的真実」と異なる場合及び「歴史的事実」と異なる場合の双方を含むものである。ある歴史的事象における「歴史的真実」が学問的に確定されていない場合に,甲説と乙説とか対立しているとして,例えば,乙説が,甲説の根拠としている「事実」が「歴史的事実」でないこと(甲説が歴史的真実であると主張する根拠となるべき歴史的事実が存在しないこと)を指摘して甲説を批判しその根拠を否定する主張をしているにもかかわらず,本件各教科用図書において,乙説の内容や論拠を紹介せずに,専ら甲説が正しいとする記述(又は甲説の立場で論述されている記述)は,「歴史的事実」にも反すると同時に,「歴史的真実」にも反する。原告らは,本件各教科用図書に記述された具体的内容のうち,歴史的真実や歴史的事実とは異なる歴史的事象に関する記述の虚偽性を指摘して主張し,これを審理の対象として求めているのであって,原告らが虚偽性を主張している歴史的事象の全てについて,歴史的真実ないしは歴史的事実であるとは認識していない。例えば,原告らは,多くの学者や研究者のみならず,市井の多くの人々が存在を否定し,又は疑っている「南京大虐殺」が歴史的真実ではないにもかかわらず,それが教科書において歴史的真実の如く記述されていることを虚偽性として主張しているのである。このことは,その他別紙一覧表に記載した全ての歴史的事象についても同様である。 実ではないにもかかわらず,それが教科書において歴史的真実の如く記述されていることを虚偽性として主張しているのである。このことは,その他別紙一覧表に記載した全ての歴史的事象についても同様である。 イ 「偏頗性」とは,例えば,ある事実が「歴史的事実」又は「歴史的真実」であるか否かが確定していない場合に,それが歴史的事実又は歴史的真実であると断定し,あるいはそうでないと断定して記述すること,あるいは,両論を併記することなく一方の学説を基調に論述されていることをいう。したがって,仮に,ある見解自体が虚偽(反真実)ではないとしても,その正当性に疑いがあるにもかかわらず,それを正しいと断定(非真実)する記述もまた「虚偽性」に含まれるのみならず,この見解が他の見解よりも正当又は優越しているとの評価や判定を示唆する内容や態様の記述の全ては,いずれも「偏頗性」に該当する。 ウ本件の審理において,原告らが指摘する全ての歴史的事象において,何が歴史的真実(事実)かについて確定させることが先決事項になる。これは,歴史的事象についての「公知の事実」の範囲を確定させることであって,公知の事実に反するか否か(虚偽性)という点において,法律上の争訟に該当するのである。そして,この虚偽性の有無を確定させることは,偏頗性の程度を確定させるための先決事項であり,さらに,虚偽性及び偏頗性の有無を確定させることは,思想性,違憲性及び不当性の程度を確定させるための先決事項になることは当然である。 (4) 思想性についてア原告らが,教科書の記述に「思想性」があると主張しているのは,特定の思想に基づいて記述されている記述部分を特定するとともに,その思想がどのような内容のものであるかということ,そして,その思想と対立する他の思想が存在することを明らかにすることにより,その記述が特 の思想に基づいて記述されている記述部分を特定するとともに,その思想がどのような内容のものであるかということ,そして,その思想と対立する他の思想が存在することを明らかにすることにより,その記述が特定の思想に基づくものであることを主張・立証することに他ならないのである。決して,教科書に記述されている思想と,原告らが依拠する思想のいずれが勝っているかというような,思想の優劣について判断を求めているのではない。 言い換えれば,思想や宗教に関する争訟性において,その「優劣論争」と「存否論争」とは峻別されるべきであり,前者には争訟性がないのに対して,後者には争訟性があるということである。 このように,虚偽性や思想性などの争点が法律上の争訟に該当することについては,最高裁判所昭和51年5月21日大法廷判決(旭川学テ事件,刑集30巻5号615頁)が「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入,例えば,誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは,憲法26条,13条の規定上からも許されない」と判示していることからも明らかである。 イ被告発行者及び被告著作者は,「本件は,…本来,思想の自由市場において決せられるべき問題を司法の場において決しようとするに帰着」するとしているが,余りにも失当である。 そもそも,教科書の記述は「思想の自由市場」で内容が決せられる性質のものではない。原告側には,教科書等の教材を選択する自由も全くなく,公権力に一方的にあてがわれた教科書で,しかもその記述自体が確定している教科書に基づく教育が,公教育の義務教育という特別かつ閉鎖的な法律関係(権力関係)の中で行われる(いわば外部の社会と遮断された密室の中で行われる)のである。したがって,いくら外部の社会 確定している教科書に基づく教育が,公教育の義務教育という特別かつ閉鎖的な法律関係(権力関係)の中で行われる(いわば外部の社会と遮断された密室の中で行われる)のである。したがって,いくら外部の社会で「批判の交換が行われる思想の自由市場」が確保されたとしても,子供達が人質にとられて思想を強制される義務教育の現場では,決して「思想の自由市場」で決せられることはあり得ないことは,公教育の性質上一目瞭然であって,上記被告らの主張は甚だしい認識不足に基づくものといわざるを得ない。 (5) なお,「違憲性」及び「不当性」については,そもそもこれに「法律上の争訟性」が備わっていることは明らかである。 (6) 確かに,原告らが違法類型として主張する「思想性」, 「違憲性」,「虚偽性」,「偏頗性」及び「不当性」の5類型の審理・判断の過程において,学問(学説)ないし思想(歴史観)の内容に立ち入ることになるが,それは,その学説や思想がその他の学説や思想とは別個のものであること,すなわち,学説や内容を特定するための指標を認識して識別するために必要なことであって,内容の当否や優劣の判断を行うこととは全く異なるものである。 この点について,被告発行者及び被告著作者が指摘するように,いわゆる家永教科書裁判の最高裁判所の判旨が「裁判所としては,検定当時の学界における客観的な学説状況を審理判断の対象とはするが,学説内容ないし研究成果の当否・優劣や歴史的真実そのものを審理の対象とするのではない」ということであっても,原告らは,これは著作者と検定者との関係についての判断であって,原告ら生徒・保護者と著作者,発行者及び検定者との関係についての問題状況と守備範囲が異なることから,これらの判例がそのまま本件に適用されるものではないし,仮に,上記判例が本件について参考とされる場合 告ら生徒・保護者と著作者,発行者及び検定者との関係についての問題状況と守備範囲が異なることから,これらの判例がそのまま本件に適用されるものではないし,仮に,上記判例が本件について参考とされる場合であっても,「客観的な学説状況」を審理判断するについては上記のとおりの特定の限度で「学説内容」に立ち入ることが不可欠であるところ,これは,「学説内容(の当否・優劣)ないし研究成果の当否・優劣」を審理判断の対象とするのではないとすることと何ら矛盾するものではない(7) そもそも,原告らは,本件において,原検定当時の学界における客観的学説状況を審理及び判断の対象としているのである。すなわち,その客観的状況とは,いずれの学説が優れているかという,学術的かつ学問的な論争であり価値判断である「優劣論争」ではなく,特定の歴史的事象の存否や評価において,教科書に記述されていない有力な学説が存在して対立している状況があったか否かという「存否論争」であって,これは典型的な事実問題である。 ここにおいて「当該学説が有力であるか否か」は,その学説が広く周知されていること(周知性),その学説の論述書等が存在し,その存在及び内容について容易に検索して知りうるものであること(認識可能性),そして,過去においてその争点に関して論争がなされたという事実が存在すること(論争性)のいずれかを満たすことである。この要件のいずれかが満たされる場合には,いずれの学説も「通説,定説」とは認められず,あるいはいずれの学説も「有力な学説」の限度にとどまるものとして認識されることになる。 (8) これに対し,被告発行者及び被告著作者は,①教科書に記述されている歴史的事実の存否を問題とするもの,②教科書に記述されている歴史的事象についての歴史学上の位置付けないし評価を問題とするもの,及び③教 これに対し,被告発行者及び被告著作者は,①教科書に記述されている歴史的事実の存否を問題とするもの,②教科書に記述されている歴史的事象についての歴史学上の位置付けないし評価を問題とするもの,及び③教科書に記述されている歴史的事象についての教育的配慮からする記述の適切さを問題とするもの,の3種で原告らの主張が整理されるという決めつけを前提として,縷々主張するが,そもそもそのような整理では,原告らの主張を整理分類したことにはならないのであって,これを前提とする主張自体が失当である。 なぜならば,上記被告らは,上記①は「何が歴史的事実か」の問題と同義であり,上記②は「何が歴史的真実か」の問題と同義であるとしているが,原告らはそのような主張をしていない。先に述べたとおり,「歴史的事実」と「歴史的真実」の存否の範疇は,いずれも「虚偽性」の領域の問題であるのに,上記被告らは,そのことを無視して,歴史的事実に関する事項を①,歴史的真実に関する事項を②という類型に分類する過ちを犯しているのである。のみならず,「不当性」の類型に該当するものと思われる③の類型以外の「思想性」「違憲性」「偏頗性」の3類型を欠落させているのであり,上記被告らは,原告らの主張を意図的に曲解しているにすぎないものである。 (9) これまで,児童・生徒側から検定処分それ自体を無効であるとする確認訴訟や取消訴訟が起こされたが,いずれもことごとく却下されている。このことは,検定処分だけでなく,教育委員会による教科書の採択を審理の対象とした場合も同様であると考えられる。そうすると,児童・生徒側から検定教科書による学習権の侵害の救済を求める方法としては,本件訴訟である実質的当事者訴訟及び損害賠償請求訴訟(国家賠償請求訴訟を含む。)という訴訟形態以外には存在しないことになる。 したがっ ら検定教科書による学習権の侵害の救済を求める方法としては,本件訴訟である実質的当事者訴訟及び損害賠償請求訴訟(国家賠償請求訴訟を含む。)という訴訟形態以外には存在しないことになる。 したがって,仮に本件訴訟による救済方法も認められないとすれば,それは明らかに法の不備であり,これによって原告らの裁判を受ける権利を侵害する結果となるから,原告らの本件訴訟を排斥することは,憲法32条に違反するものである。 2 被告国及び被告自治体の主張に対する反論(1) 上記被告らの主張1についてア請求の趣旨1(1)に係る訴えについてa 被告国及び被告自治体は,「原告生徒が授業に出席する義務等なるものは,原告生徒がその履行を直接強制されるような義務ではない」とするが,これは,間接強制される義務であることを肯定していることになる。しかし,上記被告らは,原告保護者らについては,「単にその違反が懲戒その他の不利益処分の原因となり得る」としていながら,その義務性を否定している。 ところで,その「違反」が「不利益処分の原因」となるためには,その「違反」と認識しうる前提として,その「義務性」が肯定されなければ論理的にも成り立つものではないのである。「義務なきところに違反はなく,不利益処分はない」ことは近代法の鉄則である。原告らは,「義務の現在性」を主張しているのであり,将来の不利益処分に際して発生する義務というような,意味不明の主張をしているのではない。 b 被告国及び被告自治体が主張するところは,請求の趣旨1(1)に係る訴えが実質的当事者訴訟ではなく,無名抗告訴訟(予防的確認訴訟,義務付け訴訟)であって,しかもその要件を欠くから許されないとするようである。しかし,この主張は,訴訟形態と対象の選定を原告にゆだねた処分権主義に反する主張であって到底許されるもの 予防的確認訴訟,義務付け訴訟)であって,しかもその要件を欠くから許されないとするようである。しかし,この主張は,訴訟形態と対象の選定を原告にゆだねた処分権主義に反する主張であって到底許されるものではない。 また,上記被告らの引用する最高裁判所昭和47年11月30日第1小法廷判決・民集26巻9号1746頁や最高裁判所平成元年7月4日第3小法廷判決・判例時報1336号86頁の判例からすれば,当該訴訟が実質的当事者訴訟か無名抗告訴訟かの判断を回避している傾向にあり,しかも,その原因は,当該訴訟当事者が訴訟提起から上告審にいたるまで,いずれの訴訟形態であるかを明確にしていないことに起因していると考えられ,訴訟形態の特定を理由とする本案判断の回避という形で打ち切ることなく,いわば救済判断として訴訟要件に関する限定的な判断を示したと評価すべきものである。 したがって,本件のように明確に実質的当事者訴訟として提起されたものについてまで,これらの判例の守備範囲は及ばないものである。 確かに,最高裁の判例によれば,実質的当事者訴訟においても,無名抗告訴訟のいわゆる「3要件」,すなわち,①行政庁が当該行政処分をすべきこと又はすべきでないことについて法律上羈束されており,行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために第1次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないと認められ,しかも②事前審査を認めないことによる損害が大きく,事前の救済の必要が顕著であり,あるいは更にこれに加えて,③他に適切な救済方法がない,という要件の準用を求めているようにも解釈しうるが,その適用領域は,本件のように実質的当事者訴訟の本質的な領域に及ぶものでないはずである。そうでなければ,実質的当事者訴訟の提起を定めた行政事件訴訟法4条後段の規定を法律の定める手続によら しうるが,その適用領域は,本件のように実質的当事者訴訟の本質的な領域に及ぶものでないはずである。そうでなければ,実質的当事者訴訟の提起を定めた行政事件訴訟法4条後段の規定を法律の定める手続によらずして要件的に制限することに帰し,裁判を受ける権利(憲法32条)と適正手続の保障(憲法22条,31条)を侵害することになるからである。 原告らは,当事者間の法律関係に基づき,契約関係その他の法律関係において,他方当事者から妨害・侵害がある場合やその虞がある場合に通常認められる,妨害排除請求権又は保全請求権(妨害予防請求権)に基づく作為・不作為を求めているにすぎないのであり,これを本件実質的当事者訴訟で訴求しているのである。すなわち,上記被告らが引用する前掲旭川学テ事件最高裁判決の判示にもあるように,「誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなこと」は憲法26条,22条に違反するものであるから,学校教育法14条の「学校が,設備,授業その他の事項について,法令の規定又は監督庁の定める規程に違反したときは,監督庁は,その変更を命ずることができる。」との規定に基づき,上記被告らには,本件各教科用図書の使用を停止し,その他適切な措置を講ずる義務があるにもかかわらず,何らの措置も講じようとせず,もはや監督庁としての機能が期待しえず,さらには,本件訴訟において全面的に争って自らの犯した違憲・違法な措置を継続しようとの強い意志を示していることからして,今後とも原告らに対して,本件各教科用図書の使用を強制し,思想を強制するなど,違憲・違法の教育を最後まで断行することは必至である。実質的当事者訴訟の対象において,現実の侵害と具体的危険とを峻別する理由と根拠はあり得ないのであって,具体的危険が発生している限り,妨害排除 ど,違憲・違法の教育を最後まで断行することは必至である。実質的当事者訴訟の対象において,現実の侵害と具体的危険とを峻別する理由と根拠はあり得ないのであって,具体的危険が発生している限り,妨害排除と妨害予防(保全)とは同価値として評価されるのである。したがって,原告らに対し不利益な処分等を行うおそれは現実のものとなっているから,これをもって現実の侵害状態と区別されるいわれはないである。 c 被告国及び被告自治体は,原告らが「教育人権及び人格権を侵害され,これにより,精神的苦痛を被り,人格の尊厳を毀損された」との主張に対し,「本件各教科用図書を使用した授業を受けることにより重大な権利侵害が生じるとは到底いえない。」と応答している。 しかし,原告らの主張どおり違憲であれば,権利侵害が生じないとは到底いえない。国家が憲法の人権条項に違反する行為を行っても,人権侵害が生じないと主張すること自体が憲法擁護義務違反の主張である。被告国及び被告自治体が引用する裁判例は,虚偽性と思想の自由との関係に関する判断であり,それ自体が違憲であるが,本件はそれのみに限定されていないので参考にはならない。 前述のとおり,請求の趣旨1(1)に係る訴えは,当事者間の公法上の法律関係から認められる保全請求(妨害予防請求)を実質的当事者訴訟として提起したのであるから,本件訴訟を無名抗告訴訟とする見地からの批判は当たらない。また,上記被告らは,「請求の趣旨1(1)に係る訴えについては,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情が認められない」とするが,本件は,逆に,その特段の事情が認められる事案である。 イ請求の趣旨1(2)に係る訴えについて被告国及び被告自治体の主張が失当であることは,前記アで述べたとおりである。授業に出席させる義務等についても,間接強制 の特段の事情が認められる事案である。 イ請求の趣旨1(2)に係る訴えについて被告国及び被告自治体の主張が失当であることは,前記アで述べたとおりである。授業に出席させる義務等についても,間接強制による義務性を肯定しており,その不利益処分がなされる危険性がある限り,保全請求は認められるべきである。 ウ請求の趣旨1(3)に係る訴えについて前記アで述べたとおり,本件各教科用図書の使用差止請求は,公法上の法律関係における請求として実質的当事者訴訟の内容となっているものであって,請求の趣旨1(3)に係る訴えは,検定の取消や採択の取消を求める抗告訴訟として提起しているものではない。確かに,これらの訴訟による勝訴の社会的効果は,原告らとの関係において共通するものではあるが,そのことをもって訴訟形態も同一であるとすることは卑しむべき暴論といわねばならない。 エ請求の趣旨1(4)に係る訴えについて被告国及び被告自治体の主張は,請求の趣旨1(4)に係る訴えを無名抗告訴訟とすり替えて評価しているものであって,前記アで述べたとおり,主張自体失当である。 (2) 被告国及び被告自治体の主張2についてア外形上は過去の権利又は法律関係の確認を求めるものであっても,それが,実質上は現在の法律上の権利又は法律関係の紛争に帰着するものであるときは,そのまま現在の権利又は法律関係の確認を求める趣旨と扱うことができるのであって,本件においてはいまだに確認の利益が存在する。提起時には現在の権利又は法律関係であったものが,審理中に過去の権利又は法律関係となった場合であって,その前後を通じて損害賠償請求の前提事実となっているからである。よって,現在もなお,確認の利益は存在する。 つまり,本件訴訟は,この確認の訴えと損害賠償請求という給付の訴えとの単純併合であったが その前後を通じて損害賠償請求の前提事実となっているからである。よって,現在もなお,確認の利益は存在する。 つまり,本件訴訟は,この確認の訴えと損害賠償請求という給付の訴えとの単純併合であったが,審理の途中に,確認の訴えは,中間確認の訴えと変更されたものと解されるべきである。 この点について,大審院昭和8年6月20日第5民事部判決・民集12巻1597頁は,中間確認の訴えについては過去の法律関係の確認の請求を許しているので,訴えの利益が存在することは明らかである。 イもし,当然にはそのように解されないとしても,請求の趣旨1(1)及び(2)の各確認の訴えについてはそのままの形で,請求の趣旨1(3)及び(4)は変更のうえ,それぞれ中間確認の訴えとして予備的に請求する。 第6 本案に関する当事者の主張(原告らの主張) 1 公法上の法律関係について(1) 一般的な公法上の法律関係教育行政においては,公教育制度,義務教育制度,学校制度,教科書検定制度及び教科書無償給付制度の各制度は,不可分一体のものとして統一的に運用されている。したがって,保護者及び生徒の側からすれば,そのうちの一つの制度を選択して自己のために利用するという制度の個別的取捨選択の余地が全くない。それゆえ,上記各制度が複合的に合体した今日の総合教育制度は,それ自体が,国,自治体(設置者,都道府県教育委員会,市町村教育委員会),発行者,保護者及び児童・生徒との間に,強固な公法上の法律関係を形成させているである。 このような観点からすれば,実質的当事者訴訟としての本件訴訟における「公法上の法律関係」は容易に肯定しうることになる。 そして,その中核に存在する法律が教育基本法である。すなわち,教育基本法は,教育全般に関する基本法であって,他の教育関係法令を規律するものである。 そ 上の法律関係」は容易に肯定しうることになる。 そして,その中核に存在する法律が教育基本法である。すなわち,教育基本法は,教育全般に関する基本法であって,他の教育関係法令を規律するものである。 そして,同法10条1項によれば,教育行政機関は,国民との間に,国会その他の国家機関が介在せずに,国民全体に対し教育行政について「直接責任」を負っていると定めている。そして,これに基づいて運用されている複合的な現行教育制度の実態からすれば,「国民全体」という意味は,個々の保護者及び児童・生徒をその部分機関として認識しうるものであって,個々の国民との間でも,「直接責任」を負担するという公法上の法律関係が存在するのである。 少なくとも,個々の国民,とりわけ,現行教育制度に組み入れられている就学児童・生徒とその保護者との関係では,上記条項に基づき,一般的かつ制度的な公法上の法律関係が肯定できる。 (2) 具体的な公法上の法律関係さらに,前掲関係法令を検討し,本件において,具体的に考察すれば,原告らと国,被告自治体及び被告発行者と間には,いずれも次のような具体的な公法上の法律関係が存在する。もっとも,これには,①「義務教育」における「就学義務」に関する具体的な公法上の法律関係の側面と,②「公教育」における「検定教科書」に関する具体的な公法上の法律関係の側面との二つの側面によって,1個の公法上の法律関係が形成されている。この法律関係の性質は,上記両側面の性質を兼ね備えた「混合契約」である。 ア 「就学」に関する契約関係(法律関係)の側面a 保護者と国及び自治体との関係① 保護者と国及び自治体(学校設置者としての立場)との間においては,義務教育の内容として,憲法26条2項,教育基本法4条1項及び学校教育法39条で定める就学義務に基づき,教育受益者である生 の関係① 保護者と国及び自治体(学校設置者としての立場)との間においては,義務教育の内容として,憲法26条2項,教育基本法4条1項及び学校教育法39条で定める就学義務に基づき,教育受益者である生徒に就学させることを内容とした「第三者のためにする公法上の就学契約」(民法537条参照)が成立している。 ② このように構成し得るのは,就学対象者が児童・生徒であるにもかかわらず,就学義務が児童・生徒にあるのではなく,その保護者にあるためである。保護者に就学義務を課すことによって,児童・生徒の教育を受ける権利(憲法26条1項)が実現することを受益としてとらえることができるからである。 ③ もっとも,この教育の受益関係は,児童・生徒の憲法上の権利(同条1項)であると同時に,保護者の義務(同条2項)でもあることから,受益の意思表示(民法537条2項参照)は不要であり,このような当事者の意思を介在せずに,公法上当然に発生するものと解することが憲法の趣旨に適合する。 b 生徒と国及び自治体との関係① 生徒と国及び自治体(学校設置者としての立場)との間においては,上記aの契約関係における受益の第三者である生徒と設置者及び国との公法上の法律関係である。そして,これに受益の意思表示という児童・生徒の意思を介在させず,当然に発生するものであることから,第三者のためにする契約というよりは,保護者,児童・生徒,設置者,国の4者間契約という多数当事者間の混合契約に限りなく近い性質のものである。 なぜならば,民法上,保護者たる親権者又は後見人(学校教育法22条1項)は,その法定代理権を行使し,児童・生徒を代理して就学契約を締結すると同時に,自らの就学義務を履行したと評価できるからである。 ② したがって,これは,単に,上記aの契約の反射的効果ないしは利益ではなく,主 法定代理権を行使し,児童・生徒を代理して就学契約を締結すると同時に,自らの就学義務を履行したと評価できるからである。 ② したがって,これは,単に,上記aの契約の反射的効果ないしは利益ではなく,主たる契約関係を構成するととらえることができる。 イ 「教科書」に関する契約関係(法律関係)の側面a 次に,公教育の側面においては,義務教育における教科書の無償措置制度と合体して,検定申請,審査,検定,採択,購入契約,無償給付,給与,使用開始という,主として無償措置法による一連の手続が密接不可分に結合している。 b これが,国の行う教育条件の整備に関する措置によるものであることから,国,自治体(都道府県教育委員会,市町村教育委員会及び設置者としての複合的立場)及び発行者と保護者及び生徒との間において,保護者及び生徒は,就学義務の具体的な内容として,検定,採択がされた教科用図書に基づく科目履修の義務を負うという法律関係が形成されることになる。 c ところで,教科書の無償措量によって受ける生徒,保護者及び設量者の利益は,文部大臣(国)と発行者との間の「購入契約」(無償措置法4条)によってもたらされるものであり,無償給付及び給与は,上記契約がこれらの手続関連の中で行われることから,当然にこれらを契約の内容として,少なくとも,表示された動機として,契約の要素となっていることに異論はなかろう。つまり,この購入契約は,無償給付及び給与がされることを契約要素ないしは条件とするものであって,これを第三者の受益条項と認識することができる。すなわち,上記購入契約も,無償措置の利益を受ける設置者,保護者及び生徒を受益の第三者とする「公法上の第三者のためにする購入契約」ととらえることができる。 d この契約的側面においても受益の意思表示は不要であることは,上記アa③と同様 利益を受ける設置者,保護者及び生徒を受益の第三者とする「公法上の第三者のためにする購入契約」ととらえることができる。 d この契約的側面においても受益の意思表示は不要であることは,上記アa③と同様である。 e そして,このような性質からして,「公法上の第三者のためにする契約」というよりは,国,自治体(都道府県教育委員会,市町村教育委貴会及び設置者としての複合的立場),発行者,保護者及び生徒との間の「多数当事者間の混合契約」と認識しうることも前述のとおりである。 ウ混合契約の当事者とその内容a 上記アの関係での当事者は,生徒,保護者,国,自治体(設置者)の4者であるのに対し,上記イの関係での当事者は,生徒,保護者,国,自治体(採択者),発行者の5者である。 b したがって,この混合契約の当事者は,生徒,保護者,国,自治体(設置者及び採択者),発行者の5者(設置者と採択者の自治体が異なる場合は6者)であり,全当事者間に,上記アとイの内容の全部が適用される。ただし,発行者については,上記アの内容が除外される。 c 以上により,原告生徒,原告保護者,国,被告自治体及び被告発行者との間には,以上のような性質と内容を有する公法上の法律関係が存在する。 (3)就学義務,履修義務及び検定教科書使用義務との関係アところで,就学義務と,履修義務さらには検定教科書使用義務との関係はどのようなものであろうか。思うに,中学校の生徒については,一般に,検定教科書に基づく授業を中心として各科目の履修がされる。また,検定教科書による履修は,必ずしも授業だけではなく,学校での自習や,自宅での読書などによっても行われ,また,考査の出題範囲とその内容を特定する場合や報告書作成等の資料にも用いられる。そして,これらの科目別の履修を積み上げて,全体としての就学が完了するので 自習や,自宅での読書などによっても行われ,また,考査の出題範囲とその内容を特定する場合や報告書作成等の資料にも用いられる。そして,これらの科目別の履修を積み上げて,全体としての就学が完了するのであるから,就学義務は,各科目の履修義務を包含する概念である。 イところが,この履修義務については,必ずしも検定教科書に基づくことがその義務履行の必須要件とはなっていない。学校教育法40条で準用される同法21条2項は,このことを意味するのである。したがって,無償給付された見返りとして義務づけられる検定教科書使用義務と履修義務とは,完全に一致せず,包含関係もないことになる。 ウ殊に,本件のように,検定教科書が違憲・違法としてその使用が許されない場合,国及び設置者(自治体)には,当該検定教科書に基づく方法に代わる有益適切な履修方法を選定し,これによって生徒に履修をさせなければならない義務が生じ,これによって就学を完了させなければないのである。 エこのように,就学義務や,就学義務の要素あるいはその過程又は手段としての教科の履修義務自体については否定されないとしても,その履修義務の態様の一つにすぎない検定教科書使用義務は否定される場合があり得るのである。本件は,まさにこの場面である。 オところが,現実には,文部省が著作名義を有する教科用図書(同法21条1項後段)や有益適切な図書その他の教材(同条2項)が存在しないので,検定教科書のみを必ず使用しなければならないことになっている(昭26・21・10委初第332号文部省初等中等教育局長回答参照)。 力したがって,原告らは,就学義務及び社会科履修義務の内容として,本件各教科用図書の使用を義務付けられることになり,他の履修方法を選択する余地が全くないこととなって,本件各教科用図書に基づく履修義務自体を拒絶 て,原告らは,就学義務及び社会科履修義務の内容として,本件各教科用図書の使用を義務付けられることになり,他の履修方法を選択する余地が全くないこととなって,本件各教科用図書に基づく履修義務自体を拒絶せざるを得ないのである。 (4)履修義務の内容と不利益処分の態様ア中学校の社会科履修の具体的内容は,他の教科履修と同様,主に,本件各教科用図書を使用しての授業,自習,報告発表,学力テスト,考査試験などである。 授業などは,通常は教科用図書を使用するのであるが,仮に,教科用図書を直接には使用しない場合であっても,教科用図書について各発行者が出版している,いわゆる「教師用指導書)に基づいて行われている。この教師用指導書は,いずれも教科用図書の著作者らの著作にかかるものであり,教科用図書の各記述の意味内容を詳細に説明し,著作者らが目指す学習指導の目的と方向を鮮明にする。そして,この各指導書は,いずれも教育人権等を侵害する違憲・違法な思想書である教科用図書の性質を一層明確に示している。 イしたがって,たとえ,各原告生徒の社会科の履修を担当する教師等が教科用図書及びこれに対応する教師用指導書に基づかない独自の履修を行ったとしても,それは,授業に限定されたものであって,全校又は全学年で統一的に行われる学力テストや考査試験では,教科用図書及びこれに対応する教師用指導書に基づいて行われる。その結果,やはり原告らは本件各教科用図書で履修を強制されることになる。 ウ原告らは,社会科の授業などの履修の全部又は一部を拒否することもできるが,原告らは,どの授業などが結果的には違憲・違法なものであるかについて,事前に判断し得ない状況にある。また,原告生徒は,授業等を批判的に受講する権利も享有している。したがって,原告生徒が結果的に違憲・違法な授業などを履修したか 果的には違憲・違法なものであるかについて,事前に判断し得ない状況にある。また,原告生徒は,授業等を批判的に受講する権利も享有している。したがって,原告生徒が結果的に違憲・違法な授業などを履修したからといって,本件訴訟で行使する権利を放棄したものでないことは当然である。 さらに,社会科の履修は,他の教科の履修と一体となって中学校における全体としての修業(就学)を構成し,他の履修と不可分一体であることから,原告らは,社会科の履修が原告らの請求のとおりに改善されないことを理由に,当該中学校に登校すること自体を拒否して社会科の履修を拒否する権利をも有している。 エ被告国及び被告自治体は,本件各教科用図書について検定・採択等の手続を行い,あくまでも本件各教科用図書による履修を強行しているので,原告らには,公法上の法律関係(混合契約)に基づき,社会科の履修において本件各教科用図書を使用するか否かにかかわらず,履修義務自体の不存在確認を求める利益がある。 また,被告国及び被告自治体は,学校教育法40条,21条に基づき,原告らに対し,本件各教科用図書以外の有益適切な教材を用いて直ちに履修させなければならない義務があるので,その義務の履行がなされるまでは本件各教科用図書を使用してはならない。 オさらに,被告国及び被告自治体は,本件訴訟を提起して履修義務の不存在確認等を求めて争っている原告らに対し,学校当局をして事前に出席停止処分をし,社会科の授業等に出席することや考査試験を受けることなどを拒み,又は出席拒否をする原告らに対し出席督促をし,あるいは,これらを理由に,懲戒,進級留置,卒業不認定などの不利益な処分を行う可能性がある。これらの不利益処分は,いずれも履修義務の存在を前提とする処分であって,その義務が存在しない限りこれらの不利益処分は違憲・違法 由に,懲戒,進級留置,卒業不認定などの不利益な処分を行う可能性がある。これらの不利益処分は,いずれも履修義務の存在を前提とする処分であって,その義務が存在しない限りこれらの不利益処分は違憲・違法であるから,原告らは,当事者間に存在する公法上の法律関係(混合契約)に基づき,妨害予防請求としてこれらの不利益処分を行わないことを求める権利がある。 (5) 契約責任と履行請求ア前記(2)アの就学契約の側面は,「就学義務」という「なす債務」を要素としているのに対し,(2)イの教科書契約の側面では,「教科書」の「給与」という「与える債務」を要素としている点で異なるが,これは,履行の強制の場面での相違にすぎず,重要な意味を持たない。 イいずれの側面であっても,生徒及び保護者と契約関係に立つ国,自治体及び発行者の各債務の履行に瑕疵があり,あるいは不完全な履行がなされたときは,契約上,何らかの責任が発生することは明らかである。殊に,本件契約は,上記両側面をもった混合契約であって,その内容は,検定教科書に基づく学習権の実現と,それを用いた授業等による学科履修の完成を目的とする請負契約類似の契約であるから,これが完全になされないときは,債務者(国,自治体,発行者)は不完全履行による債務不履行責任(契約責任)又は瑕疵担保責任(法定責任)とが合体した特別な責任を負担することになる(民法634条)。この場合,完全な履行と瑕疵の修補(記述の訂正)を求めることができ,併せて損害賠償も請求できることになるのである。 また,教科書契約の側面からは,その目的物たる教科書は社会的には不代替物ではなく,より有益適切な図書を市場から調達が可能であるから,代替給付を請求し得るのである。学校教育法21条2項は,このような事態を予定している規定である。 ウ完全な履行の請求 社会的には不代替物ではなく,より有益適切な図書を市場から調達が可能であるから,代替給付を請求し得るのである。学校教育法21条2項は,このような事態を予定している規定である。 ウ完全な履行の請求ないしは瑕疵の修補請求というのは,具体的には,教科用図書検定規則13条に基づく,原告らの被告国,被告発行者及び被告著作者に対する検定教科書の訂正請求である。これについては後記(6)のとおりである。 (6) 訂正請求権の内容とその態様ア発行者に対する訂正請求権前述したとおり,生徒が入学した中学校で就学する間,生徒,保護者,国,学校設置者たる自治体,採択者たる自治体及び発行者との間においては,就学及び教科書使用に関する公法上の法律関係(混合契約)が成立し,生徒及び保護者は,国及び自治体に対して当該教科書に基づく履修義務を拒絶し得るとともに,発行者に対して次の個別的訂正請求権を有している。 発行者には,その発行にかかる教科書を履修することになる生徒・保譲者との関係において,当該教科書について,その著作者と共同して,所定の手続により当該教科書を訂正するなど,違憲・違法でない瑕疵なき教科書を履修に供するなどの完全履行義務があり,生徒及び保護者には,前記公法上の法律関係(混合契約)に基づく瑕疵修補請求権として,当該教科書の発行者に対し,直接その義務の履行を求める請求権(個別的訂正請求権)がある。 なお,本件においては,全ての原告が,それぞれその履修にかかる各教科書の訂正を求めているが,図書目録一五,一七及び二〇記載の3冊の教科書については,これに対応する個別的訂正請求権を有する原告は存在しない。 イ著作者に対する訂正請求権生徒が入学した中学校で就学する間,生徒,保護者,国,学校設置者たる自治体,採択者たる自治体及び発行者との間においては,就学 個別的訂正請求権を有する原告は存在しない。 イ著作者に対する訂正請求権生徒が入学した中学校で就学する間,生徒,保護者,国,学校設置者たる自治体,採択者たる自治体及び発行者との間においては,就学及び教科書使用に関する公法上の法律関係(混合契約)が成立し,生徒及び保譲者は,国及び自治体に対して当該教科書に基づく履修義務を拒絶しうるとともに,著作者に対して次の個別的訂正請求権を有している。 生徒及び保譲者が,発行者に対して個別的訂正請求権があることは,前記アのとおりである。 ところで,当該教科書の訂正は,本来,その著作者によってされるものであって,発行者は,その訂正された教科書の「発行権」があるだけであることは前記のとおりである。法は,教科書の「発行」のみならず,「訂正」も予定していることから,前記公法上の法律関係(混合契約)の当事者に著作者も含まれると解することもできる。仮に,そうでなくても,訂正に関する法律関係は,いわゆる「製造物責任」の領域に関する事象であって,製造物責任が契約責任か法定責任かのいずれであっても,本件においては,生徒及び保護者と著作者との間に,製造物責任あるいはこれに準じた公法上の法律関係が認められる。 よって,生徒及び保護者は,その履修にかかる教科書を著作した著作者に対して,その発行者に対するものと同様の個別的訂正請求権がある。 なお,本件においては,全ての原告が,それぞれその履修にかかる各教科書の訂正を求めていることになるが,検定教科書目録一五,一七及び二〇記載の3冊の教科書については,これに対応する個別的訂正請求権を有する原告は存在しない。 また,この個別的訂正請求権は,本来全ての原告がそれぞれその履修にかかる教科書全部の訂正をその著作者に求める性質のものであるが,本件においては,その違憲・違法性が著し 権を有する原告は存在しない。 また,この個別的訂正請求権は,本来全ての原告がそれぞれその履修にかかる教科書全部の訂正をその著作者に求める性質のものであるが,本件においては,その違憲・違法性が著しい歴史的分野の教科書に限定した一部請求となっている。 ウ訂正請求権行使の態様a 本件各教科用図書についての訂正請求権の行使は,後記2に示す基準に基づき,削除,補充,追加などにより本件各教科用図書の改訂を求めることにある。 b ところが,違法記述部分の削除を求める訂正請求権の態様は,教育人権等に向けられた直接侵害に対する妨害排除請求として認められるのに対し,削除を求める以外の訂正請求権の態様は,教育人権等に対する妨害予防的意義と,適正な教育を受けるための国務請求的意義を有している。 換言すれば,削除を求める以外の態様で訂正請求権が行使される領域は,発行者,著作者及び国の有する発行権,著作権,検定裁量権等と競合する領域でもある。もちろん,これらの権利は,訂正請求権が肯定される領域においては訂正請求権に劣後することは多言を要しないものである。 c また,削除を求める以外の訂正請求権の態様が実現される場合は後記2に示す基準に基づくことになるが,これは,本来的には近隣諸国条項を除いた現行の検定基準を合憲,適法かつ適正に運用した帰結にすぎないものである。ところが,この基準といえども,特に違憲・違法の著しい記述部分に限定したものであって,全ての歴史的事象の違憲・違法な記述部分を全面的に網羅して言及したものではない。 したがって,本件においては,違法な記述部分の全部削除を直接又は間接に求める態様の訂正請求権の一部請求として,請求の趣旨2のとおり求めるものである。 2 判断基準の類型化(1) 全体的考察と個別的判断アある検定教科書が違憲・違法なものであると結 除を直接又は間接に求める態様の訂正請求権の一部請求として,請求の趣旨2のとおり求めるものである。 2 判断基準の類型化(1) 全体的考察と個別的判断アある検定教科書が違憲・違法なものであると結論づけるためには,その前提として,現行の教科書検定制度が合憲であるか否かを論じなければならない。この点については後述するとして,仮に,これが合憲であったとしても,一般には,当該検定教科書の各記述部分を抽出し,それがそれぞれどの教育関連法規に抵触し,あるいは憲法のどの条項に違反しているのかを逐一検討した上,その種類,程度,範囲,箇所数量などから,全体としての適合性を保ちうるか否かを判断して結論に到達することになる。 そして,全体として違憲・違法であると判断された図書は,検定教科書として排除されることに全く疑問はない。 イところが,全体としては検定教科書としての一応の許容性が肯定されたとしても,その道中における個別的判断において,違憲・違法とされた記述部分はどうなるのであろうか。 仮に,全体として排除し得ないとしても,個別の該当部分は違憲・違法なのであるから,少なくともその記述部分が排除されなければならないが,それは,墨塗りや切り取りのような方法で行いうるのかが問題である。 著作物は,全体として著作者の意思や思想の表現なのであって,少なくとも重要な部分が削除されれば,前後の意味が不明となり,完全なものとしては伝達されなくなる。しかし,本件の場合は,それが単なる誤記などではなく,後述するように,思想性,違憲性,虚偽性,偏頗性,不当性などの違憲・違法類型に該当するのであるから,著作者や発行者の側の事情を一切考慮する必要はない。検定教科書の著作者には,児童・生徒の思想の自由(特定の思想を強制されない自由)や学習権などの教育人権に抵触する限度におい 型に該当するのであるから,著作者や発行者の側の事情を一切考慮する必要はない。検定教科書の著作者には,児童・生徒の思想の自由(特定の思想を強制されない自由)や学習権などの教育人権に抵触する限度において,当該教科書の執筆における表現の自由が制限されていることは当然のことだからである。 このような場合,被侵害者の教育人権を最優先で保護すべく,たとえ,1か所でも該当事項があれば,その部分が訂正・補充されるなどして再び完成されたものとして認識されなければ,図書全体を排除してその使用を禁ずるべきである。なぜなら,部分的に排除されて不完全あるいは未完成となったものは,その訂正・補充による完成を待たなければ,検定基準に適合していない図書であって,実質的に検定を経た教科用図書とはいえず,その使用を生徒に義務づけることはできないからである。 ウところで,違憲・違法とされる対象は,記述されている部分であることが多いが,必ずしもそれに留まらない。 あえて記述すべき事項が記述されていないことも,その対象となる。したがって,違憲・違法の対象は,「記述されたこと」と「記述されなかったこと」の双方を含む。ただし,後者の場合,記述されるべき部分に記述がなかったことが客観的に判断しうる場合には,その「部分」を指摘しうるが,およそ,本来記述すべきことを,いずれの部分(単元)で記述するのかは著作者や編集者の裁量に属するものであるから,当該図書全部にその記述がなかったことをもって特定することになる。 (2) 判断基準の類型化本件において,原告らが主張する違法事由は, 「思想性」,「違憲性」,「虚偽性」,「偏頗性」,「不当性」の5類型に分類できる。 ア 「思想性」についてa まず,思想性という類型とは,当該記述が特定の思想(たとえば,いわゆる東京裁判史観,日本断罪史観 」,「違憲性」,「虚偽性」,「偏頗性」,「不当性」の5類型に分類できる。 ア 「思想性」についてa まず,思想性という類型とは,当該記述が特定の思想(たとえば,いわゆる東京裁判史観,日本断罪史観,日本悪玉論,日本犯罪国家論,自虐史観,共産主義的唯物史観,コミンテルン史観など)に基づいていることを違憲・違法とする評価基準である。思想それ自体は,内心的なものであるから,それが内心に留まるときには問題はないが,思想が,特定の「思想用語」を用い,その他の「思想的表現」を伴って記述された場合に認識されるのである。 b また,その思想は,政治思想,経済思想,宗教思想,歴史観その他一切のものである。しかし,現行憲法がそもそも許容している「民主主義」という政治思想は,これから除外されるであろう。それは,現行憲法が「民主主義」に依拠する「政治思想憲法」のためである。そもそも,民主主義とは,価値の相対性を肯定することにその本質があるから,これを絶対視することを必要悪として肯定しているのであろう。 c ところで,特定の思想を持ち,又はそれが表現されることは,通常の場合,思想の自由(憲法19条)又は表現の自由(同21条)の範疇として保護されねばならない。しかし,それが,公教育の,しかも義務教育として,さらに,検定という国家の関与を経てなされたときは,著作者,発行者などの思想の自由や表現の自由と,これを受ける児童・生徒,保護者らの思想の自由,表現の自由,さらには教育を受ける権利,教育の自由,学習権との「人権の衝突」が起こるのである。このような場合,公共の福祉論を持ち出すまでもなく,国家が関与して思想強制を行うことができない教育の特殊性からして,教育人権が優先することに全く異論はないはずである。 d ところで,思想用語その他の思想的表現とは,万人が許容しうる用 出すまでもなく,国家が関与して思想強制を行うことができない教育の特殊性からして,教育人権が優先することに全く異論はないはずである。 d ところで,思想用語その他の思想的表現とは,万人が許容しうる用語や表現ではなく,その思想的対立者が,その用語又は表現を嫌悪し,一般には用いず,あるいはその用語や表現に代えて別の用語や表現を用いるような場合がこれに該当する。このような場合は,その思想の対立が用語・表現の対立やスローガンの対立に集約される現象を生むのである。 e このような思想用語の例としては,「侵略」,「植民地」,「植民地支配」,「帝国主義」,「封建的」,「解放」,「強制連行」,「連行」,「弾圧」,「虐殺」,「大虐殺」,「軍国主義」,「ファシズム」などの用語や表現が挙げられる。これらの概念について共通にいえることは,本件各教科用図書は,具体的事実を積み上げて歴史的事象の実態を充分に探索することを行わず,このようなプロパガンダ的スローガンを並べ立て,これを繰り返し繰り返し唱えさせるというナチストの洗脳手法と全く同じ方法で,そのような「スローガンの羅列」だけで歴史が理解できたような錯覚に陥れさせて生徒を洗脳させる目的のものである。 f ところで,この思想性の有無については,このような場合のみならず,時代を超越した「価値基準の一元化」という形態を通じて現れることがある。特に,歴史的事件の評価については,その時代に存在した価値基準を前提に,それによる判断もまた歴史評価において重要である。それを現在の自己の価値基準のみで,一元的な超次元的評価することも,歴史評価の手法において偏った思想性を肯定できる。たとえば,赤穂義士の討ち入りを,当時の武士道とか武家諸法度に基づく価値観を無視して,これを現代刑法のモノサシにより,単なる,集団的な殺人行為,死体損壊 史評価の手法において偏った思想性を肯定できる。たとえば,赤穂義士の討ち入りを,当時の武士道とか武家諸法度に基づく価値観を無視して,これを現代刑法のモノサシにより,単なる,集団的な殺人行為,死体損壊行為として捉えてしまうような偏面性をもって現れる。このように,この価値基準の一元化は,「思想性」という側面と,後述の「偏頗性」という側面がある。 g さらに,歴史的分野の図書に共通する思想性の存在として指摘できるのは,近現代史とそれ以前との時代区分において,歴史上の「人物」とその「時代」との関連性について「二重基準」を採用している点である。歴史には,大きな時代という歴史環境が人物に影響を与えて飲み込んでいくという側面と,特定の人物が時代という歴史環境を変革し牽引していくという側面との両面がある。近現代史までの時代描写においては,比較的その両側面を均衡させて記述されているのに対し,近現代史以降においては,後者の側面が全く無視されている。これは,前者の側面のみを過度に強調し,「歴史的必然性」という予定説的概念を打ち立て,歴史から個人の貢献や活動を捨象する「唯物史観」に支配されて近現代史を描いていることに他ならない。近現代史の歴史的記述が過度に違憲・違法であることの根源は,まさにこの「歴史描写の二重基準」にあり,全体としての歴史描写に統一性と整合性がないゆえんである。これは,全体としての「思想性」を満たすと同時に,後述するように,全体としての「偏頗性」をも充足するものである。 h 以上のとおり,この「思想性」の違法基準とは,国家及びその機関が検定・採択などを経由して関与・成立させた検定教科書をもって,生徒・保護者に対し,当該検定教科書に表現されている特定の思想を,公教育であるべき義務教育の場面で「思想強制」することの違憲性(憲法19条違反)を中心に構 経由して関与・成立させた検定教科書をもって,生徒・保護者に対し,当該検定教科書に表現されている特定の思想を,公教育であるべき義務教育の場面で「思想強制」することの違憲性(憲法19条違反)を中心に構成されるものである。そして,派生的には,この思想強制に伴って,原告らの教育を受ける権利や学習権などを侵害することになるものである。 i したがって,この思想性の基準の存在根拠としては,前掲の,憲法19条,20条,21条,26条,教育基本法1条ないし3条,10条,義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法,義務教育諸学校教科用図書検定基準第2章2(2),(4),(13),(14)等である。 また,前掲判例によれば,「教育行政機関が行う行政でも,上記にいう『不当な支配』にあたる場合がありうる」とあるように,教育基本法10条1項の「不当な支配」は,検定教科書の思想偏向による「思想性」の支配をも含むものであり,さらに,「誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは,憲法26条,13条の規定上からも許されない」とあるように,「一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すこと」は,明らかにこの「思想性」の基準に抵触した思想強制教育に該当するものである。 j 別紙一覧表に記載された全ての記述部分は,いずれもこの「思想性」を含むものであって,違憲・違法である。 イ 「違憲性」についてa この「違憲性」という類型は,上記の「思想性」の違法類型以外で,憲法19条を介在せずに直接その他の憲法条項に違反することを違憲・違法と認識する評価基準である。したがって,これは,「思想性」という憲法19条違反を介在する「特別の違憲類型」に対し,補充性のある「一般的な違憲類型」のことである。それと同時 に違反することを違憲・違法と認識する評価基準である。したがって,これは,「思想性」という憲法19条違反を介在する「特別の違憲類型」に対し,補充性のある「一般的な違憲類型」のことである。それと同時に,「思想性」の類型や,以下に述べる「虚偽性」,「偏頗性」,「不当性」の各類型は,いずれも憲法26条を介在した類型であることから,これらと補充性のある類型でもある。 b 具体的には,後述するように,これに該当する場合として次の3つの事項を例示することができる。 第1に,GHQの思想検閲により,「大東亜戦争」の名称使用が禁止され,「太平洋戦争」という名称の使用を強要されたのであって,これをいまだに,検定・採択等の行為により政府等が関与した検定教科書に追従して記述させ,これを学校設置者を通して教育することは,GHQによる思想検閲を現行憲法下で追認することとなる点である。これは,憲法21条2項(検閲の禁止)に違反し,その限度で,現行の「教科書検定制度」は少なくとも「適用違憲」となっている。また,第2には,キリスト教の宗教的意義の根幹となっている西暦表示を検定教科書で強要することは,国及びその機関が関与する検定教科書を通じて宗教教育を施すことになり,国及びその機関による宗教教育その他の宗教活動を禁止した憲法20条3項に違反する点である。さらに,第3には,家族の絆を守り,その幸福を追求する権利(憲法13条),家族という生来の団体を維持する自由(同21条),夫婦の相互協力義務(同21条1項)などを破壊する「夫婦別姓制」について記述することはそれ自体憲法に違反している点である。 c なお,記述内容の違憲・違法性とは異なり,後記4「検定制度の適用違憲」で展開している違憲・違法性の主張は,個々の記述を全て包括する本件各教科用図書全体の違憲・違法性を意味するもの いる点である。 c なお,記述内容の違憲・違法性とは異なり,後記4「検定制度の適用違憲」で展開している違憲・違法性の主張は,個々の記述を全て包括する本件各教科用図書全体の違憲・違法性を意味するものである。 ウ 「虚偽性」についてa 虚偽性という類型とは,① 記述の内容が,誤記,誤植,脱字などの事情を問わず,およそ客観的事実(真実)と異なる場合(反真実)② 虚偽とまではいえなくとも,客観的証明力のある歴史資料などに基づき,当該歴史的事実を確認・検証すること(歴史検証)を経ていない未確定な事実を断定的に真実であるとして記述する場合など,およそ社会科学的法則に則らず,学問的精緻さを欠いている場合(非真実)を違憲・違法とする評価基準である。 b これは,「虚偽」という狭義の概念よりも広いものであるが,少なくとも消極的に「真実であるとは断定できない」とする範疇である。 c 憲法26条1項の定める教育を受ける権利において,その「教育」とは,「真理教育」,すなわち,学問的・社会的に真理であるとされる事項に基づく教育を意味するのであって,これと異なる教育を施されることは上記条項に違反するのである。 d この虚偽性の基準の存在根拠は,憲法26条,教科用図書検定規則13条,義務教育諸学校教科用図書検定基準第2章2(4),(11),3(1)ないし(4),第3章[社会科(「地図」を除く。)] 2(4),(6)等である。 また,前述のとおり,「誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育」を違憲として排除している前掲判例の基準は,この「虚偽性」の基準の根拠の一つとなるものである。 エ 「偏頗性」についてa さらに,偏頗性という類型とは,仮に,ある事件の存否についての記述に虚偽性がなかったとしても,① 当該事件を構成する各事実を否定する証拠・資 根拠の一つとなるものである。 エ 「偏頗性」についてa さらに,偏頗性という類型とは,仮に,ある事件の存否についての記述に虚偽性がなかったとしても,① 当該事件を構成する各事実を否定する証拠・資料又は異なる証拠・資料あるいは事件自体の存在を否定する証拠・資料等があるにもかかわらずこれらの証拠・資料の存在を記述しない場合(反対証拠又は相違証拠の不記載)② 当該事件を構成する各事実の存否又は事件自体の存否について,その当時,反対の見解や異なる見解があったにもかかわらずこれらの見解の基礎となっている事実主張を記述しない場合(当時の反対事実主張又は相違事実主張の不記載)③ 当該事件を構成する各事実の存否又は事件自体の存否について,現在,反対の見解や異なる見解があるにもかかわらずこれらの見解の基礎となっている事実主張を記述しない場合(現在の反対事実主張又は相違事実主張の不記載)④ 当該事件を構成する各事実の評価あるいは事件自体の評価について,その当時,反対の見解や異なる見解があったにもかかわらずこれらを記述しない場合(当時の反対評価又は相違評価の不記載)⑤ 当該事件を構成する各事実の評価あるいは事件自体の評価について,現在,反対の見解や異なる見解があるにもかかわらずこれらを記述しない場合(現在の反対評価又は相違評価の不記載)⑥ 当該事件とは被害者と加害者との関係が類似する同種の事件が存在するにもかかわらず,当該事件のみを記述して,その同種類似事件を記述しない場合(同種類似事件の不記載)⑦ 当該事件とは被害者と加害者との関係が反対となっている同種の事件が存在するにもかかわらず,当該事件のみを記述し,その同種反対事件を記述しない場合(同種反対事件の不記載)⑧ 反対又は相違する証拠・資料,事実主張,評価などを一応記述するものの,本文と注記 の事件が存在するにもかかわらず,当該事件のみを記述し,その同種反対事件を記述しない場合(同種反対事件の不記載)⑧ 反対又は相違する証拠・資料,事実主張,評価などを一応記述するものの,本文と注記との使い分けや,記述分量の相違により,対立する双方の価値に優劣や序列があるような取扱いがなされる場合(表記方法の差別的取扱い)等,およそその内容や表記方法において偏頗な記述がなされていることを違憲・違法とする評価基準である。 b これらのさまざまな態様を説明するとすれば,たとえば,いわゆる「南京大虐殺」を挙げることができる。そもそも「南京大虐殺」なるものは存在しなかったが(虚偽性),仮に,これを肯定する見解を紹介する場合であっても,これについての当時及び現在における反対証拠・資料,反対主張,反対評価などを全く記述していない点が問題である(偏頗性)。事件が存在するとの指摘は,事件直後ではなく,敗戦後の極東国際軍事裁判(東京裁判)で初めてなされたという事実や,特に,その裁判官であったインドのパール判事が,膨大な資料と根拠に基づき否定的判断をしていたこと,南京の総人口と虐殺されたとする被害者数との比較,南京安全区委員会からの感謝書翰,南京の治安が入城後急速に回復している事実など,そのような事実や事件がなかったことを意味する直接事実及び証拠又は間接事実及び証拠の存在を全く紹介していないこと,東京などの都市空襲という一般市民に対する無差別大量殺戮,広島・長崎への原爆投下による一般市民に対する無差別大量殺戮を,いわゆる南京大虐殺事件を紹介する脈絡の中で比較して記述しようとしないこと,通州事件等日本人に対する壮絶な虐殺事件があったことを比較して記述しないことなど等少なくともいわゆる南京大虐殺についてはことごとく偏頗性の違法があるということになる。 c また 述しようとしないこと,通州事件等日本人に対する壮絶な虐殺事件があったことを比較して記述しないことなど等少なくともいわゆる南京大虐殺についてはことごとく偏頗性の違法があるということになる。 c また,前記同様,憲法26条1項の定める教育を受ける権利において,その「教育」とは,「公平・公正な教育」を意味するのであって,これと異なる教育を施されることは上記条項に違反するのである。 d この偏頗性の基準の存在根拠は,憲法26条,教科用図書検定規則13条,義務教育諸学校教科用図書検定基準第2章2(1)ないし(4),(11),(12),(14),第3章[社会科(「地図」を除く。)]2(4),(6)等である。 また,前述のとおり,「誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育」を違憲として排除している前掲判例の基準は,この「偏頗性」の基準の根拠の一つとなるものである。 オ 「不当性」についてa 最後に,不当性という類型というのは,以上の,思想性,違憲性,虚偽性,偏頗性の4つの違法基準類型以外で違憲・違法性を基礎づける補充性のある評価基準をいう。 たとえば,① 義務教育諸学校教科用図書検定基準第2章1(3),2(1),(5),(7),3(2)等のように,生徒の心身の発達段階や能力の程度,心身の健康や安全及び健全な情操の育成,人格の陶冶などの教育的見地からして,中学生の段階で履修させることが不適応,不適切その他生徒が学習する上に支障を生ずるおそれがある事項及び用語(不適切事項及び不適切用語)② 生徒にとって理解が困難なものや誤解したりするおそれがある事項及び用語(誤解事項及び誤解用語)③ 専門的な知識を要する事項及び用語(専門事項及び専門用語)など,生徒の履修内容として取り扱うべき事項や用語でないものや,取り扱うことを控えるべ それがある事項及び用語(誤解事項及び誤解用語)③ 専門的な知識を要する事項及び用語(専門事項及び専門用語)など,生徒の履修内容として取り扱うべき事項や用語でないものや,取り扱うことを控えるべき事項や用語を記述するなど,およそその内容や表記方法において,思想性,虚偽性及び偏頗性と同程度にその記述が違憲・違法とされる評価基準である。 b たとえば,いわゆる「従軍慰安婦」問題については,前記の,思想性(東京裁判史観など),虚偽性(「従軍」ではない点,軍の関与による強制連行がなかった点),偏頗性(戦時,戦場,日本人社会に限ってのみ売春婦がいたのではない点,現行憲法下でも昭和31年の議員立法で売春防止法が成立するまで売春は公認されていた点,売春防止法があるにもかかわらず現在もソープランドなどで公然と売春が行われ,それが事実上公認されている点等)を満たしていることは勿論であるが,それに加えて,売春婦のことを中学生に教えることは有害無益であることの教育的配慮からして,これを中学生の教科書に記述することは不当であるといえる。 c また,前記同様,憲法26条1項の定める教育を受ける権利において,その「教育」とは,「いかなる意味においても正当な教育」のことであって,これと異なる教育を施されることは上記条項に違反するのである。 d この不当性の基準の存在根拠は,憲法26条,教科用図書検定規則13条,義務教育諸学校教科用図書検定基準その他全ての教育関係法令に求められる。 力各違法類型の相互関係a このように,各違法類型は,相互に競合しうるのであって,排他性はない。また,それと同時に,互いに違憲・違法性を補完して補強する関係にある。 b そして,これらの違法類型のうち,「思想性」については,他の類型と異なり,本件で指摘する事項の全てに共通する包括的関係にあるも た,それと同時に,互いに違憲・違法性を補完して補強する関係にある。 b そして,これらの違法類型のうち,「思想性」については,他の類型と異なり,本件で指摘する事項の全てに共通する包括的関係にあるものである。思想性があるがゆえに,虚偽性や偏頗性,さらに不当性が生じているのである。 c ところで,原告らは,本件において,検定当時の学界における客観的学説状況を審理及び判断の対象としているのである。すなわち,その客観的状況とは,いずれの学説が優れているかという,学術的かつ学問的な論争であり価値判断である「優劣論争」ではなく,特定の歴史的事象の存否や評価において,教科書に記述されていない有力な学説が存在して対立している状況があったか否かという「存否論争」であって,これは典型的な事実問題である。 ここにおいて「当該学説が有力であるか否か」は,その学説が広く周知されていること(周知性),その学説の論述書等が存在し,その存在及び内容について容易に検索して知りうるものであること(認識可能性),そして,過去においてその争点に関して論争がなされたという事実が存在すること(論争性)のいずれかを満たすことである。この要件のいずれかが満たされる場合には,いずれの学説も「通説,定説」とは認められず,あるいはいずれの学説も「有力な学説」の限度にとどまるものとして認識されることになる。 d そして,この基準は,特定の歴史観(思想)とは無縁な「学説」に限らず,特定の歴史観(思想)から演鐸された思想的な「学説」についても適用されるのであって,「虚偽性」及び「偏頗性」の違法類型とは,次のような関係がある。 すなわち,この基準に基づき,通説,定説とはされず,単に有力な学説の一つに過ぎないと判断される学説が,本件各教科用図書の記述において,①唯一の学説ないしは通説,定説として取 次のような関係がある。 すなわち,この基準に基づき,通説,定説とはされず,単に有力な学説の一つに過ぎないと判断される学説が,本件各教科用図書の記述において,①唯一の学説ないしは通説,定説として取り扱われ,専らその学説によって当該歴史事象が説明されている場合には「虚偽性」,②唯一の学説ないしは通説,定説として取り扱われていないとしても,その他の学説を否定的に紹介するなどその学説がその他の学説よりも優越する学説として取り扱われ,主としてその学説によって当該歴史事象が説明されている場合には「偏頗性」にそれぞれ該当するのである。 また,「思想性」という類型は,当該記述が特定の思想(例えば,いわゆる東京裁判史観,日本断罪史観,日本悪玉史観,日本犯罪国家史観,自虐史観,共産主義的史観,コミンテルン史観等)に基づいていることを違憲・違法とする評価基準であり,虚偽性,偏頗性と競合する概念であるところ,別紙一覧表記載の記述部分は,その全てに思想性があるものである。 それゆえ,本件訴訟で虚偽性及び偏頗性があると指摘している記述部分の全ては,「通説,定説」とはされず,単に有力な学説の一つに過ぎないと判断される思想性のある学説で記述されていることになるから,違憲・違法なのである。 そして,思想性のあるものは全て違憲性がある。なぜならば,思想性に基づく記述がある教科書を義務教育の公教育で使用し,これによる履修義務を課すことは,思想強制に他ならないからである。また,前述のとおり,虚偽性及び偏頗性のあるものは,その動機及び目的において何らかの思想性に基づくということからしても,違憲性があるものである。 不当性については,虚偽性,偏頗性及び思想性と競合するものであり,その「通説,定説」との関係は思想性と同様である。 原告らは,このような観点に立って,本件訴訟 しても,違憲性があるものである。 不当性については,虚偽性,偏頗性及び思想性と競合するものであり,その「通説,定説」との関係は思想性と同様である。 原告らは,このような観点に立って,本件訴訟において指摘している全ての点は,いずれも「通説,定説」とは判定し得ない学説状況である旨を主張しているものである。 3 検定教科書の違憲・違法性(1) 本件各教科用図書には,別紙一覧表記載のとおりの記述がある。 これらについて,思想性,違憲性,虚偽性,偏頗性及び不当性を基礎付ける事実等は,別紙8違法事由一覧表記載のとおりである。 (2) なお,本件各教科用図書の違憲・違法性を根拠づけるものは,各記述部分のみならず,本件各教科用図書に引用されている写真,絵画,風刺画,新聞記事,図表,書面,文章などによる表現方法(以下「引用表現」という。)についても同様である。全般的に,いずれの引用表現も,その選定自体や取扱いの大きさなどにおいて「偏頗性」,「不当性」がある。そして,その引用表現に,その解説文が付加されることによって違法の程度は倍加している。 4 検定制度の適用違憲(1)近隣諸国条項の違憲性ア近隣諸国条項が追加されるに至った経緯a 教科書誤報事件① 本件訴訟の対象である検定教科書は,既述のとおり,あまりにも極端な思想的偏向をした歴史観を基調として,数多くの歴史的事実を捏造し,邪悪な意思と偏見に基づき記述されたものであって,およそ,教科書としてはおろか,学問的にも有害無益な稀代の害書といわざるをえない。 このような害書を検定教科書として配布され,その邪悪な思想と虚偽で固めた歴史を強要される社会は,世界でも類例のないほどの全体主義国家に他ならない。原告らは,このような,義務教育の名を借りた違憲・違法な思想的拷問を峻拒せんがため本件訴訟を提起した 悪な思想と虚偽で固めた歴史を強要される社会は,世界でも類例のないほどの全体主義国家に他ならない。原告らは,このような,義務教育の名を借りた違憲・違法な思想的拷問を峻拒せんがため本件訴訟を提起したものであるが,今や猖獗を極めた,かかる検定教科書を出現させたのは,本質的に学問的なものである歴史を,こともあろうに外交交渉の手段や政争の具として利用してきた政治家の大罪にある。そして,その直近の源泉を辿れば,いわゆる「教科書誤報事件」に遡ることができる。 ② 事件は,昭和57年6月26日の各新聞の一斉報道で始まった。その報道内容の骨子は,前年度の教科書検定において,高等学校用日本史教科書に,中国華北への「侵略」と書かれていた記述が「進出」という表現に書き直された,というものである。 ところが,後日の調査で,いずれの教科書も,「進出」と書き改めた事実はなく,これらの報道は全くの誤報であったことが判明した。それは,同年7月29日の参議院文教委員会において,P7初等中等教育局長が,これらの報道は誤報であると言明したことで確定した。 ③ しかし,これらの報道に端を発し,中国と韓国の両国から,教科書内容の改訂を求める抗議が殺到した。 ④ まず,前記報道の1か月後の7月26日中国外交部肖向前第1アジア局長から在中国日本大使館渡辺公使に対して,日本の新聞からみるに,として,「侵略」,「南京事件」等の検定例を挙げて,歴史の事実が歪められているとし,これらは日中共同声明の精神等に反するので,日本政府により教科書が正されることを切望する,との申入れがあった。 ⑤ 次いで,翌27日,韓日議連李会長から日韓議連安井謙会長にあてて,教科書問題についての私信が届けられた。そして,翌月3日,韓国P8外務部長官から在韓国日本大使館P9行使に対して,日本政府の説明に具体的な措 ,翌27日,韓日議連李会長から日韓議連安井謙会長にあてて,教科書問題についての私信が届けられた。そして,翌月3日,韓国P8外務部長官から在韓国日本大使館P9行使に対して,日本政府の説明に具体的な措置についての言及がないのは遺憾であり,日本政府の早急にして具体的な措置を要求する,との申入れがあった。 ⑥ 2日後の8月5日,中国外交部P12副部長から在中国日本大使館P13大使に対して,文部省の説明には同意できず,重ねて日本政府に対し,教科書を正すことを要求する,との申入れがあった。 ⑦ 8月12日韓国外務部P10亜州局長から在韓国日本大使館P11公使に対して,日本政府が早急な措置をとるよう,再度申入れがあった。 ⑧ さらに,8月21日にも,韓国外務部P10亜州局長から在韓国日本大使館P11公使に対して,具体的行動が必要である,と再度申入れがあった。 b 宮澤官房長官談話① ところが,これら一連の度重なる中韓の抗議は,もともと誤報に基づくものであり,しかも,教科書問題は,固有の内政事項であって,これらの抗議は,明らかな内政干渉であり,毅然とした拒否の姿勢を貫くべきものである。 にもかかわらず,訪中を来たる9月下旬に予定していた鈴木善幸内閣総理大臣は,訪中前にこれが外交問題へとさらに発展すれば,訪中延期などの事態ともなって内外に問題を抱えることとなり,内閣の政治責任が浮上するとの懸念もあってか,教育の中立・公正に関する国内の重大問題を,こともあろうに自己の保身のため,その政治責任を回避し,訪中が予定どおり行われるための外交取引手段として,中韓の申入れを概ね受け入れて早期に解決することを企て,8月27日宮澤喜一官房長官談話(「『歴史教科書』についての官房長官談話」)の形で政府見解を発表した。 ② それは,「1(省略)。2 このような日韓共同コミュ 概ね受け入れて早期に解決することを企て,8月27日宮澤喜一官房長官談話(「『歴史教科書』についての官房長官談話」)の形で政府見解を発表した。 ② それは,「1(省略)。2 このような日韓共同コミュニケ,日中共同声明の精神は我が国の学校教育,教科書の検定にあたっても,当然,尊重されるべきであるが,今日,韓国,中国等より,こうした点に関する我が国教科書の記述について批判が寄せられている。我が国としては,アジアの近隣諸国との友好,親善を進める上でこれらの批判に十分に耳を傾け,政府の責任において是正する。3 このため,今後の教科書検定に際しては,教科用図書検定調査審議会の議を経て検定基準を改め,前記の趣旨が十分実現するよう配慮する。すでに検定の行われたものについては,今後すみやかに同様の趣旨が実現されるよう措置するが,それまでの間の措置として文部大臣が所見を明らかにして,前記2の趣旨を教育の場において十分反映せしめるものとする。4(省略)。」というものであり,こともあろうに,外圧に屈して教科書の検閲を約束したものであった。 ③ 国は,上記談話の記者発表前にあらかじめ極秘裡にその談話の内容を中国側と韓国側へ通報し,事前にその内容の適否を協議して両国の了解を得ていたのである。 c 鈴木首相訪中と審議会答申① これを踏まえて,韓国李振義文化広報部長官は,8月27日,外交ルートにより日本政府の回答を受け入れることを伝え,既に検定が終わった教科書の記述を改める時期が遅くなることは期待にそわないが,それまでの間,教育の場への反映のための措置がとられることに注目し,外交努力を継続していく旨を述べた。 ② 翌28日には,中国外交部P12副部長から在中国日本大使館P13大使に対し,日本政府の回答には明確かつ具体的な措置がないので同意できない,との回答が伝えられ ,外交努力を継続していく旨を述べた。 ② 翌28日には,中国外交部P12副部長から在中国日本大使館P13大使に対し,日本政府の回答には明確かつ具体的な措置がないので同意できない,との回答が伝えられた。 ③ さらに,8月31日,韓国外務部P10亜州局長から在韓国日本大使館P11公使に対して,日本政府の公約は直ちに実践に移されねばならず,迅速で誠実な後続措置をとるよう申入れがあった。 ④ そこで,9月9日,在韓国日本大使館P11公使から韓国外務部P10亜州局長に対して,官房長官談話に基づき再度説明を行ったところ,これに対し,P10局長は,改正される検定基準及び文部大臣所見に日本政府の教科書を正すための意志・方針がより明確に示されるよう要望することなどを述べた。 ⑤ 同日,中国外交部P12副部長から在中国日本大使館P13大使に対し,日本側の具体的措置については,まだあいまいで満足できない部分もあるが,これまでの説明に比べれば一歩前進したものである点を評価する,と伝えるとともに,今後とられる措置を見守りたい旨を述べた。 ⑥ このような経緯を踏まえて,9月14日,P14文部大臣から教科用図書検定調査審議会(会長P15)に対して,「歴史教科書の記述に関する検定のあり方について」を諮問し,次の検討事項の審議を依頼した。 イ我が国とアジアの近隣諸国の関係についての歴史教科書の記述,特に近現代史の記述に関する検定の基準のあり方ロ現在検定申請中の歴史教科書及び既に検定を終えた歴史教科書について,答申の趣旨を反映させるべき時期⑦ これを見届けた上,鈴木首相は,9月26日から翌10月1日の間,当初の予定どおり訪中し,中国趙紫陽首相,と鄧小平主席,胡耀邦総書記と会談し,帰国した。 ⑧ 9月27日,韓国外務部P10亜州局長から在韓国日本大使館P11公使に対し 月26日から翌10月1日の間,当初の予定どおり訪中し,中国趙紫陽首相,と鄧小平主席,胡耀邦総書記と会談し,帰国した。 ⑧ 9月27日,韓国外務部P10亜州局長から在韓国日本大使館P11公使に対して,「日本教科書の韓国関係内容の検討及び意見」として,具体的に修正を求める項目が伝えられた。例えば,「韓国侵略」,3・1独立運動,創氏改名,強制連行など。 ⑨ 11月16日,教科用図書検定調査審議会から小川文部大臣に対し,先の宮澤談話にそって,「歴史教科書の記述に関する検定のあり方について」の答申が行われた。 その要旨は,次のとおりである。 イ我が国と近隣のアジア諸国との間の近現代史の歴史的事象の取扱いに当たっては,国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がなされていることとする旨を検定の基準として加える必要があることロ新たな検定の基準は,昭和57年度の教科書検定から適用することハ昭和56年度に検定を終えた高等学校の歴史教科書の次期改訂検定を1年繰り上げて実施することが望ましいことd 近隣諸国条項① その答申を受け,同年11月24日,義務教育諸学校教科用図書検定基準及び高等学校教科用図書検定基準が一部改正され,各検定基準の社会科(「地図」を除く,地理・歴史・公民の各分野)の項目に,「近隣のアジア諸国との間の近現代史の歴史的事象の取扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること。」の,いわゆる「近隣諸国条項」の規定が追加された。 ② そして,同日「『歴史教科書』についての文部大臣談話」が発表された。それは,次のようなものであった。 「1(全部省略)。2 答申は,教科書検定において,我が国と韓国,中国をはじめとする近隣のアジア諸国との過去における不幸な関係にかんがみ,これらの諸国の国民感情等にも今後一層配慮する必要があると 「1(全部省略)。2 答申は,教科書検定において,我が国と韓国,中国をはじめとする近隣のアジア諸国との過去における不幸な関係にかんがみ,これらの諸国の国民感情等にも今後一層配慮する必要があるとし,このため,検定の基準に国際理解と国際協調に係る事項を加える必要があるとしております。3(冒頭省略)国際理解と国際協調の精神については,従来から教科書検定において配慮してきたところでありますが,新たな検定基準を加えることにより,我が国と近隣のアジア諸国との友好,親善を一層進める上で教科書の記述がより適切なものになる道を開こうとするものであります。今後は,著作者,発行者が検定申請する教科書について新たな検定基準が適用され,教科書の具体的記述の改善がなされることになろうと思います。4(全部省略)。5(冒頭省略)学校教育の場においても,以上の趣旨を踏まえ,今後一層近隣のアジア諸国をはじめ諸外国との国際理解と国際協調の精神を培うことに配慮されるよう期待します。」イ国際的合意による「検閲」a 検閲の概念① 検閲とは,一般に,公権力によって,外部に発表されるべき思想の内容をあらかじめ審査し,必要があるときは,その発表を禁止することをいう(『全訂日本国憲法』宮沢俊義著,芦部信喜補訂,日本評論社249頁)。そして,その「思想内容」とは,政治思想のみならず,ひろく精神活動の成果をいい,学問的研究の成果としての学説を含むもの(東京地方裁判所昭和45年7月17日行裁例集21巻7号別冊,いわゆる家永教科書裁判第1審判決)と広く解釈されている。 ② しかし,検閲は,「思想内容」だけに留まらず,より広く 「表現内容」の審査を意味するのである。なぜならば,表現の自由は,「思想」発表の自由のみならず,事実の伝達の自由をも含むものだからである(『注釈日本国憲法上巻 思想内容」だけに留まらず,より広く 「表現内容」の審査を意味するのである。なぜならば,表現の自由は,「思想」発表の自由のみならず,事実の伝達の自由をも含むものだからである(『注釈日本国憲法上巻』青林書院新社502頁参照)。 ③ 判例によれば,従来までの「検定」は,「検閲」にあたらないとされてきたが,仮に,その立場に立ったとしても,前述のような経緯の下で,近隣諸国条項が追加された「検定制度」とそれを取り巻く14年余にわたる国の内外の事情の急変を視野に入れるとき,果たしてこの結論が維持しうるのかについては重大な疑問がある。 b 歴史用語の思想性と表現性① 既述の経緯からすれば,度重なる韓国から日本への要求の真意は,端的にいえば,日本の韓国統治は「植民地支配」であり「韓国侵略」(昭和57年9月27日韓国外務部亜州局長申入れ)であったと教科書に明記し,日本政府もそのような歴史観を児童・生徒に対して教育せよ,というものである。このことは,中国の要求も同様である。 ② しかし,「侵略」とか「植民地」とか「虐殺」とか「軍国主義」などの用語は,沿革的に見ても,東京裁判で日本を断罪するために使用された「思想用語」であったことは前述のとおりである。これらの法的な定義もさることながら,「日本が行ったことは全て「侵略」であり,「植民地支配」であり,「虐殺」なのである。しかし,連合国は無謬であって,「侵略」もなかったし,「植民地支配」も「虐殺」もなかった」とするのである。東京裁判において,アメリカ人弁護人のベン・ブルース・ブレークニー弁護士が,原爆投下こそ人類史上最大の犯罪であり「虐殺」であると主張したが,これは完全に封殺された。連合国は,ソ連が日ソ中立条約に違反して,樺太,千島に「進出」したが,これは「侵略」ではないと言い張る。中国(中共)がチベットな 最大の犯罪であり「虐殺」であると主張したが,これは完全に封殺された。連合国は,ソ連が日ソ中立条約に違反して,樺太,千島に「進出」したが,これは「侵略」ではないと言い張る。中国(中共)がチベットなどを「侵略」したとは絶対に認めない。また,日本は,台湾と朝鮮を「植民地」にしたと主張しながら,イギリスはインドを,アメリカはフィリピンを,フランスはベトナムを,それぞれ「植民地」としていたとは自ら認めないのである。そして,阿片戦争でイギリスの「植民地」となった「香港」が返還されていないという現実があるのに,戦勝国同志との認識があるから,「過去」の日本の植民地支配を激しく批判しても,一度も謝ったことのないイギリスの「現在」ある植民地支配は決して批判しないのである。中国も韓国もその点では同様である。このように,同様の歴史的事象でありながら,立場の相違で「言葉」の概念が変わり,あるいは偏面的にしか用いられないような「二重基準」のある場合は,その言葉は,「糾弾用語」としての「思想用語」であることは明らかである。 ③ ましてや,前述のように,たとえば「侵略」という法律用語としても,不戦条約等の解釈と,自己解釈権の行使によって,各国によって様々な結論が導かれる可能性があるのに,この多様性を無視して,自己の見解でもって威力を用いて他を屈服させようとすることは,学術論争とはいわない。 そして,「検閲の対象となる思想内容とは,政治思想のみならず,ひろく精神活動の成果をいい,学問的研究の成果としての学説を含むもの」とした前掲東京地方裁判所判決(家永教科書裁判第1審判決)の基準からすれば,当然に,その用語概念の論争は,単なる感情対立ではなく,神学論争にも等しい性質の思想対立である。 ④ このような理由から,歴史的事象を説明する場合の用語には必然的に思想性を帯びて )の基準からすれば,当然に,その用語概念の論争は,単なる感情対立ではなく,神学論争にも等しい性質の思想対立である。 ④ このような理由から,歴史的事象を説明する場合の用語には必然的に思想性を帯びてくることになるが,ましてや,その源泉が「思想裁判」である東京裁判であったことは,これらが本格的な思想用語であることを証明して余りあるものである。 ⑤ 表現の自由は,「思想」発表の自由のみならず,事実の伝達の自由をも含むのであるから,検閲は,「思想内容」だけに留まらず,より広く「表現内容」の審査を意味するのである。したがって,「用語の選択」は,「表現内容」に当然含まれるので,その用語が「思想性」を帯びたものであるか否かにかかわらず,検閲に該当することは明らかである。 c 検閲を目的とする国際的合意の無効性① 前述の一連の経緯は,日本の検定教科書の記述について,日本政府と中韓との間において,中韓の歴史観(東京裁判史観)と符合する思想用語を検定教科書で使用させることを日本政府に義務づけ,日本政府はこれを承諾し,その履行のために,検定基準にいわゆる近隣諸国条項を追加したうえ,超法規的措置をも駆使して実質上「検閲」を行うことを内容とした「国際的合意」が成立したことを意味している。 ② これは,前述の『新編日本史』外圧検定(検閲)事件の経緯からも,それが実務的に定着したことが明らかである。 ③ このような国内における「検閲」を目的とする内容の中韓との合意とその履行としての「検閲」が,憲法21条2項前段に違反することは明らかである。 ④ 「条約」とは,その形式を問わず,「文書」による国家間の合意をいうとされているので,この「国際的合意」が文書でなされているとすれば,「条約」になる。これが文書化したか否かは不明である。しかし,仮に,文書化されていなかったとして ,「文書」による国家間の合意をいうとされているので,この「国際的合意」が文書でなされているとすれば,「条約」になる。これが文書化したか否かは不明である。しかし,仮に,文書化されていなかったとしても,以上のような国家間の真撃な交渉の末,合意にいたった事項について,これが何らかの法的拘束力をもつことについては,「確立された国際法規」(憲法98条2項)の解釈からして容易に肯定しうる。 ⑤ しかし,このような,一国の国内検閲を他国との間で片務的に約束するような国際的合意は,世界人権宣言,国際人権規約等に照らして,絶対的に無効であることは多言を要しない。 ウ近隣諸国条項の法令違憲a このように,近隣諸国条項は,その形式的な文意とは別に,前述の国際的合意を隠蔽するために偽装された条項である。 b このことは,昭和57年11月24日の文部大臣談話によっても明らかである。すなわち,その談話にあるように,「国際理解と国際協調の精神については,従来から教科書検定において配慮してきた」というのであれば,あえて国際的合意まで取り付けて追加する必要はなかったのである。これが「注意規定」の意味であるとの談話ではない。「新たな検定基準が適用され,教科書の具体的記述の改善がなされる」として,これが新たな規制のための「創設規定」との解釈がなされていたからである。 c まさしくこの談話からは,「国際理解と国際協調」=「友好・親善」=「検閲の約束」=「新検定基準の追加」=「教科書の記述がより適切となる道」=「検閲の実行」=「教科書の具体的記述の改善」という図式が浮かび上がっているのである。 そして,まさにこのことが『新編日本史』の場合に実行されたのであるから,この条項の立法趣旨が「検閲」を目的とした規定であることは明らかであって,憲法21条2項前段に違反し無効である るのである。 そして,まさにこのことが『新編日本史』の場合に実行されたのであるから,この条項の立法趣旨が「検閲」を目的とした規定であることは明らかであって,憲法21条2項前段に違反し無効である。 d また,このような規定は,子供に対する国民の教育権又は国家の教育権と,子供の学習権を含め教育を受ける権利を侵害することになるので,憲法26条1項に違反し無効である。 e 要約すれば,この条項は,今までの詳細な事実経過によって明らかなとおり,その立法事実と立法趣旨を構成する一連の経緯により,近現代史における中韓関係事項などについて,両国が依拠する東京裁判史観又はコミンテルン史観による思想用語を中心とした思想検閲を行うことを目的とした国際合意に基づいて,その国内的実施をはかるために創設された「国内検閲基準」という性質なのである。 f ところで,検定基準は,固有の法律事項であって,文部省告示である義務教育諸学校教科用図書検定基準で規定されるべきものではない。同検定基準は,学校教育法88条及び教科用検定規則3条に基づくとされているが,この検定基準の内容及びその運用いかんによっては,検閲の禁止を定めた憲法21条2項前段に抵触するなど国民の人権侵害が問題となる性質のものであるから,検定基準に関する事項は,命令への委任になじまない固有の法律事項なのである。したがって,上記検定基準はもとより,近隣諸国条項の追加改正条項もまた文部省告示で定めることは,適正手続の保障及び法治主義を定めた憲法13条,31条及び41条に違反する。 g ましてや,検閲を目的とした近隣諸国条項の内容は,それ自体が憲法違反であるが,仮に,そうでないとしても,その疑いが濃厚な条項であることに変わりはないのであるから,これを上記検定基準の改正で追加することを許容することは,白紙委任を肯定 項の内容は,それ自体が憲法違反であるが,仮に,そうでないとしても,その疑いが濃厚な条項であることに変わりはないのであるから,これを上記検定基準の改正で追加することを許容することは,白紙委任を肯定することになって,いずれにせよ憲法41条に違反する。 h また,この近隣諸国条項は,外国からの不当な干渉と支配を容認するものであるから,少なくとも教育基本法10条1項の「不当な支配」に抵触し,明らかに違法である。 エ近隣諸国条項の適用違憲a このように,この近隣諸国条項の性質がかようなものであることから,その形式的な文理解釈のみを基準として違憲・違法性の有無判断することはできない。しかし,単なる形式的な文理解釈を行えば,確かにこれからだけでは直ちに違憲・違法とはいえないかも知れない。 b ところが,前掲教科書誤報事件を奇貨として,あたかも火事場泥棒的に設けられた近隣諸国条項により,現実には,『新編日本史』外圧検定(検閲)事件のような前代未聞の教科書検閲が,この条項と「文部大臣の権限と責任」により違憲運用がなされたのであるから,適用違憲であることを否定することは絶対にできない。 c 近隣諸国条項を含め,検定基準を文理解釈のとおり適用すれば,本件訴訟で指摘している全ての違憲・違法な記述は,ことごとく訂正又は補正などの措置を求めることになるはずである。ところが,これらの措置を国が全く行わなかったことによりなされた検定には, 「適正な検定の不作為」の違法がある。 (2) 発行者要件の違憲性ア発行者の適格要件a 発行者の適格要件に関する事項については,発行法,同法施行規則(昭和24年文部省令第15号),無償措置法,同法施行令,同法施行規則(昭和39年文部省令第2号)に定めがある。 b これらの諸規定を概観すれば,そこで求められているのは,国の教育行政に 同法施行規則(昭和24年文部省令第15号),無償措置法,同法施行令,同法施行規則(昭和39年文部省令第2号)に定めがある。 b これらの諸規定を概観すれば,そこで求められているのは,国の教育行政における教科書給付を完全ならしめるために,主に,発行者の「経済的信用」に関する事項である。 c しかし,本来,発行者に求められるものは,「有益適切」(学校教育法21条2項)な教科書を著作者との協同により完成させる能力でなければならない。ところが,これに対応する規定がなく,「経済的信用」のみを要件としている。「経済的信用」があれば,かような能力があるという必然性は全くない。 d ましてや,東京書籍株式会社が行った「強制連行」写真の捏造など,本件訴訟で指摘している全ての虚偽記述その他の違憲・違法の記述を故意に行い,又はこれを訂正せずに放置していることを発行者資格の喪失事由としていないことからも,発行者の適格要件を定めた施行令及び施行規則は違法である。 イ採択の経営的意義a 法令によれば,発行者における編集担当者の基準を定めているが(無償措置法施行令15条2号,同法施行規則10条),これも単なる形式的な運用がなされているに過ぎない。 b しかし,いくら有能な編集担当者がいたとしても,「会社にあっては資本の額又は出資の総額が1000万円以上,会社以外の者にあっては文部省令で定める資産の額が1000万円を超えない範囲内において文部省令で定める額以上であること。」(同条1号)を満たす事業者が,多くの設備投資をしてまで検定教科書の出版事業に着手するためには,「有益適切」な教科書を編集して「検定」を受けるだけではなく,自己の教科書が都道府県市町村の各教育委員会で「採択」される見込みがなければ不可能である。すなわち,発行者の最大の関心は,「検定」に向けての「 適切」な教科書を編集して「検定」を受けるだけではなく,自己の教科書が都道府県市町村の各教育委員会で「採択」される見込みがなければ不可能である。すなわち,発行者の最大の関心は,「検定」に向けての「編集」ではなく,「採択」に向けての「営業」なのである。 c 教科書会社(発行者)における検定教科書販売における損益分岐点は,20万部以上ともいわれている。検定教科書は児童・生徒の使用に限定されるので一般的な市場性はない。したがって,必ず,検定教科書として採択されて販売されなければならず,その損益分岐点を超えることは至上命題となる。検定教科書として採択されなかったものを一般市場で販売しようとしても,採算が全くとれないことは確実である。 d そこに,採択を巡る発行者相互間の競争と,採択に関わる関係者との駆け引きが必然的に生じる。このような構造は,厚生省(当時)と製薬会社と病院との関係と同じである。そして,いつしか教科書発行者事業は,各教科単位で考察すれば,限られた数となっていく。社会科についていえば,被告発行者の他に数社しか存在せず,少数の事業者による寡占状態となっている。ここに不正なものが混入しうる構造的欠陥がある。 ウ LRA基準による判断a 教科書検定制度は,今や多くの問題と疑問を抱え,制度的疲労と自重による崩壊寸前の状態にある。 そもそも,この検定制度は,GHQ占領政策の継承であり,教科書制度には必要不可欠な制度ではなかった。政府自体に全国的な教科書出版を行いうる能力がなかった時代の残滓であって,現在は事情が一変している。 b 当初は,「著作・編集」と「発行・出版」とが一体的に処理されていたので,これらを全て国が行うか(国定教科書),国と民間とが共同で行うか(検定教科書)のいずれかの選択肢であったが,政府の力を減殺しようとしたGHQの政策に と「発行・出版」とが一体的に処理されていたので,これらを全て国が行うか(国定教科書),国と民間とが共同で行うか(検定教科書)のいずれかの選択肢であったが,政府の力を減殺しようとしたGHQの政策により,後者が選択されたのである。 現在の教科書制度は,編集,検定,採択,発行に至るまで,これらの全ての作業行程を国と特定の民間人(発行者)とが「共同」して行っている制度であり,あまり合理的かつ機能的なものとはいえない。 c よりよい教科書を著作できる者は,発行者としての財力と能力があるとは限らない。その逆もいえる。また,よりよい著作者が信用力のある発行者と結びつく必然性もない。したがって,このような場合は,全ての局面に自由競争原理を導入すれば,よりよい制度が生まれるのである。 d たとえば,それは,「検定制度」から「選定制度」又は「国定制度」に転換することである。具体例でいえば,まず,「選定制度」とは,次のようなものである。自己の著作に自信のある執筆者は,誰でも,政府の設ける第三者機関である「教科書選定委員会(仮称)」の教科書コンクールにその作品を投稿することができる。しかし,その作品は,あくまでも教科書としての客観かつ公正な基準に則っているものでなければならない。そして,教科書選定委員会では,公正かつ適切な選定基準にしたがって,多くの投稿著作の中から,当該実施年度に採用する数種の教科書を「選定教科書」として選択する。そして,別に編集機関を設けて,その著作者も加わった編集の審議を経て完成した見本本の選定教科書の中から,その一種を教育の現場で採択させる。様々なその数量結果を国が集計して,各選定教科書の発行部数を確定させ,入札のうえ出版業者を決定し,その業者が印刷したうえ所定の所に納品する。また,「国定制度」というのは,一定の資格要件を具備した様々 様々なその数量結果を国が集計して,各選定教科書の発行部数を確定させ,入札のうえ出版業者を決定し,その業者が印刷したうえ所定の所に納品する。また,「国定制度」というのは,一定の資格要件を具備した様々な見解をもつ多数の著者が政府機関である「教科書著作委員会(仮称)」の著作者委員に選任され,同委員会における各委員の審議検討を経て共同著作にかかる「国定教科書」を完成させることである。その記述内容については,教科書としての客観かつ公正な基準に基づいていることは勿論であり,その後の編集,印刷等の過程については「選択制度」と同様である。そして,いずれの制度であっても,その選定,完成に至る審議等の過程は国民に全て情報公開がなされなければならない。 このような制度を導入すれば,従来まで問題となっていた各場面での不正や癒着が一切排除しうるのである。 e 教育を受ける権利その他の複合的な教育人権を保障するためには,合憲基準として採用されているLRA基準(より制限的でない他の選びうる手段,LessRestrictiveAlternatives)に基づき,現在の教科書制度を検討する必要がある。そして,多くの矛盾を抱えた現行の検定制度を核とした教科書制度よりも,教育人権を侵害しない,より制限的でない他の選びうる手段としての前述のような「選定制度」又は「国定制度」その他の合理的な制度がありうるときは,この現行検定制度は,違憲であると判断されるのである。 (3)訂正義務違反の違憲・違法性ア訂正義務の範囲a 教科用図書検定規則13条の規定は,検定を経た教科書について,第1項で発行者に訂正の義務を,第2項で発行者に訂正の裁量を認めている。しかし,訂正事項の範囲は,第1項のそれよりも第2項の方が広いのである。第1項の訂正事項の範囲である「誤記,誤植などの表記上の 第1項で発行者に訂正の義務を,第2項で発行者に訂正の裁量を認めている。しかし,訂正事項の範囲は,第1項のそれよりも第2項の方が広いのである。第1項の訂正事項の範囲である「誤記,誤植などの表記上の明白な誤謬」は,誰の目にも争いがなく明らかなことが多く,通常は,わざわざ訂正申請書を提出(同規則14条)するまでもなく,教育の現場で,学習上支障なしに修復訂正されていることが多いのに対し,第2項の「学習を進める上に支障となる記載」や「更新を行うことが適切な統計資料の記載」などの内容を含む事項の誤謬の場合は,その訂正は必ずしも教育の現場で容易に発見されるものではなく,また,履修完了までの間に自発的に訂正が行われる性質のものでもない。一度誤った観念が,人格に可塑性があり知識吸収力の富んだ児童・生徒に注入された場合,後日それを除去することは困難を極めることが多く,履修時間の絶対的制約もあって,教育の現場と児童・生徒に有害無益な負担を負わせる結果となりうるのである。 b したがって,同規則13条2項に該当する事由について訂正義務が課せられないことに合理的な根拠を全く見いだせない。 むしろ,同規則13条1項以上に訂正義務を負わせるべき事項であって,これが義務的に運用されないとすれば,同条2項の規定は,教育関係法令の解釈からして,適用違憲・違法なものである。この規則(文部省令)は学校教育法88条の委任によるものとされているが,委任の範囲を超えた違憲・違法なものとなる。 c 合憲限定解釈の見地からも,同条2項の規定は,発行者の「訂正義務」を定めた規定と解釈され,同時に,同条3項も,文部大臣に「訂正を勧告する義務」を規定したものと解釈されなければならない。 d また,被告著作者は,本件各教科用図書の著作権者であるから,法が各発行者に訂正義務を負わせている場合 時に,同条3項も,文部大臣に「訂正を勧告する義務」を規定したものと解釈されなければならない。 d また,被告著作者は,本件各教科用図書の著作権者であるから,法が各発行者に訂正義務を負わせている場合は,その著作者にも各発行者と連帯して訂正義務を負担することになる。 イ訂正義務違反a 検定教科書は,国費の負担をもって全ての児童・生徒に無償で給与されるものであるから,国,被告発行者及び被告著作者は,納税者であり教育権者である保護者と履修の負担を負う生徒を含む国民全体に対して,履修の対象となっていない他の教科用図書全部についても訂正義務を負っていることになる。 b ところが,本件各教科用図書に関して,検定の際,あるいは検定を経た後においても,国,被告発行者及び被告著作者は,本件訴訟で問題としている多くの点について,何らの訂正を行わず,この訂正義務又はその勧告義務を怠っている。 c このことは,「適正な訂正措置の不作為」という形態により,検定基準に実質的に違反するものであって,違法であり,ひいては原告らの教育人権を侵害するものとして違憲である。 5 違法行為の態様(1) 被告らは,違憲・違法に運用されている現行の検定制度を含む教育制度をさらに悪用し,原告らに対する思想強制などの人権侵害を行おうとする意思を実現するため,違憲・違法な本件各教科用図書をもって原告生徒に履修させ,原告らの基本的人権(憲法13条,18条,19条,20条,21条,23条,26条)を侵害するに至ったものである。 これらの違法行為の態様の概要は以下のとおりである。 ア国においては,我が国の検定教科書に対して思想検閲を要求する中韓との間で,思想検閲に関する合意を行い,それを国内の検定制度に導入する目的で,いわゆる近隣諸国条項を検定基準に追加し,これによる思想検閲を行い,あるい 我が国の検定教科書に対して思想検閲を要求する中韓との間で,思想検閲に関する合意を行い,それを国内の検定制度に導入する目的で,いわゆる近隣諸国条項を検定基準に追加し,これによる思想検閲を行い,あるいは,中韓と同じ歴史観に立つ著作者,発行者の思想表現をそのまま許容し,その他思想性,違憲性,虚偽性,偏頗性,不当性に該当する記述部分があることを知りながら,検定基準に違反して検定を受けさせた。そして,それらが中韓の検閲要求に合致する内容であることを認識して,本件各教科用図書を原告生徒が就学するそれぞれの中学校において原告生徒に使用させ,これにより,原告生徒に思想強制や思想統制を行うとともに,原告保護者の各原告生徒に対する教育権を侵害したものである。 イ被告自治体は,その各教育委員会が本件各教科用図書を採択したものとして,又は別紙3記載の各中学校の設置者として,国の教育行政事務を分掌することによって,国の違法行為に加担し,その履行補助者を介して,原告らに対し,本件各教科用図書による授業を行う等,原告らの上記権利を侵害したものである。 ウ被告発行者及び被告著作者は,いずれも共同して,上記のような近隣諸国条項による実質的な検閲が行われている現行検定制度の現状を知悉したうえ,自己らの歴史観が中韓のそれと一致又はこれと類似することを奇貨とし,あたかも虎の威を借るがごとく,思想性,違憲性,虚偽性,偏頗性,不当性に該当する記述を含む本件各教科用図書を著作した。そして,そのような違法な記述のままこれを検定申請しても国はこれを許容する状況にあることを利用し,原告生徒及び原告保護者に対して自己の思想等を強制しようと意欲し,あるいはそのような事態になることを認容しながら,検定申請を行い,上記記述のまま検定を取得した。さらに,被告自治体で本件各教科用図書の採択を受 び原告保護者に対して自己の思想等を強制しようと意欲し,あるいはそのような事態になることを認容しながら,検定申請を行い,上記記述のまま検定を取得した。さらに,被告自治体で本件各教科用図書の採択を受け,国との間で被告発行者が本件各教科用図書の販売契約を締結し,これを所定の手続により,原告生徒に給与させ,もって前記同様,被告国及び被告自治体の行為を利用して,原告らに対し思想強制などを行わせ,その権利を侵害したものである。 エこれらのうち,思想強制の態様について詳述すれば,以下のとおりである。 すなわち,公教育の義務教育においては,国家が特定の思想を正しいものとして勧奨することは許されないから,児童・生徒に対して給与する検定済教科書に特定の思想を記述させてはならない義務がある。また,国家権力が特定の「思想」を勧奨することも,形式的には強制でないにせよ実際上は強制的に働くから,やはり憲法19条の禁ずるところと解すべきである。 したがって,特定のある思想が正しいものとして教科書に記述され,それが原告らに給与される予定になってさえいれば,たとえ現実に給与されていなくても,また,給与されていてもその教科書による当該部分の授業がなされなくても,義務教育の公教育においてそのような授業がなされて当該思想が強制されることの現実の具体的危険が生じたことになるから,この危険の発生により,思想強制がなされることの恐怖等の精神的苦痛その他の一切の損害は,この危険と相当因果関係にあるものとして,被告らが原告らに対して賠償すべきである。 (2) 教育公務員の行為義務についてア文部省は,昭和31年に成立した地方教育行政法の制定の趣旨について,教育の政治的中立と教育行政の安定を確保し,教育行政と一般行政の調和を進め,教育行政における国,都道府県及び市町村の連係を密に ア文部省は,昭和31年に成立した地方教育行政法の制定の趣旨について,教育の政治的中立と教育行政の安定を確保し,教育行政と一般行政の調和を進め,教育行政における国,都道府県及び市町村の連係を密にすることの3点にある(昭31・6・30文初地326,文部次官通達)とし,それ以来,中央と地方との教育行政は一体として運用されてきたのである。したがって,本件各教科用図書の検定申請,審査,検定,採択,購入契約,無償給付,給与,使用開始,授業に至る一連の行為において,文部大臣,文部省など被告国の中央教育行攻機関に属する国家公務員及び被告自治体の首長,教育委員会などの地方教育行政機関に属する地方公務員(以下「教育公務員」と総称する。ここでは,教育公務員特例法の「教育公務員」の定義より広い概念で用いることとする。)は,本件各教科用図書に違憲・違法な記述が存在することを共同して認識しながら,これを是正するための措置を共同して何らとらなかったのである。したがって,全ての教育公務員は,意思と行為とが関連共同した故意の連帯責任である。 イ仮に,教育公務員の一部に,故意責任が認められない場合があるとしても,それは故意と同視しうる過失責任である。しかも,それは単に予見義務としての注意義務違反というものではなく,故意責任と同様,行為義務違反という,いわゆる客観的過失と捉えている。この行為義務とは,第1に,違憲・違法な内容の本件各教科用図書の検定,採択などがなされるという結果や,あるいは最終的にはこのような本件各教科用図書による授業が行われるという結果を回避する義務(緒果回避義務)である。そして,第2には,次のような行為義務である。すなわち,教育公務員には,教育環境を改善するため,関係者に対してその教育環境を阻害し又はその虞のある問題点を指摘し,その解決のための手 避義務)である。そして,第2には,次のような行為義務である。すなわち,教育公務員には,教育環境を改善するため,関係者に対してその教育環境を阻害し又はその虞のある問題点を指摘し,その解決のための手段・方法を具申・提案・助言するなどの措置を講ずべき行為義務(改善措置義務)があるのである。それは,善良なる管理者の注意義務であり,職務忠実義務であって,憲法15条,国家公務員法96条,教育基本法6条2項及び地方公務員法30条に根拠を持っている。 ウすべての教育公務員が結果回避義務及び改善措置義務を履行していれば,本件各教科用図書の内容が改善され,少なくとも改善のための検討がなされ,教育現場において適切な改善措置がとられていたはずであり,それによって原告らの被害も減少し得たとする因果関係が存在する。 エこのことは,東京都の特別区(中野区,葛飾区)についても同様であり,仮に,特別区の関与が被告中野区及び被告葛飾区の主張のとおりであったとしても,その教育公務員にも改善措置義務は存在するからである。また,前記文部次官通達からして,国と東京都との連係が密になっているのであって,その改善措置義務は他の教育公務員と同質・同程度であって,軽減されたり免責されたりするものではない。 オ本件においては,全ての教育公務員を特定することは不可能であるが,「国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において,それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても,上記一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ上記の被害が生ずることはなかったであろうと認められ,かつ,それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律 に行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ上記の被害が生ずることはなかったであろうと認められ,かつ,それがどの行為であるにせよこれによる被害につき行為者の属する国又は公共団体が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在するときは,国又は公共団体は,加害行為不特定の故をもって国家賠償法の損害賠償責任を免れることができない」とした最高裁判所昭和57年4月1日第1小法廷判決(民集36巻4号519頁)が本件訴訟に妥当するというべきである。 (3) 債務不履行ア原告らと被告らとの間は,就学と教科書に関する公法上の契約関係にあり,被告らの共同違法行為は,第1次的には,この契約の債務不履行責任である。 イ原告らは就学義務を負っているが,その具体的内容としての当該科目の履修義務の態様として,本件各教科用図書のような違憲・違法な検定教科書に基づく授業その他の履修を受ける義務はない。また,それゆえ,被告らは,これに代わる有益適切な履修を受けさせなければならない義務がある。 ウ就学期間は限られているので,その代替措置が迅速になされなければ,原告らの権利救済が図れない。最終決着が遅延することの不利益は,全て原告らの負担に帰する。したがって,被告国及び被告発行者に本件各教科用図書の訂正義務を履行させることが,権利救済における代替措置として最も適切であるので,これを求める権利が原告らに認められる。 エまた,違法な記述は,思想的な体系に統一されて記述されている思想書であるから,本件各教科用図書の部分的な評価はできない。したがって,履修を拒否できる範囲は,本件各教科用図書のうち指摘された記述部分のみではなく,本件各教科用図書の全部に及ぶものである。 オそして,本件各教科用図書に基づく履修義務がないことを確認し,かつ,契約の本旨に基づく完全な履行と教科 各教科用図書のうち指摘された記述部分のみではなく,本件各教科用図書の全部に及ぶものである。 オそして,本件各教科用図書に基づく履修義務がないことを確認し,かつ,契約の本旨に基づく完全な履行と教科書の改訂を求めるべき公法上の権利が原告らには認められる。 力さらに,原告らが当該教科書による履修を拒み,あるいは拒ませることや,それには至らないまでも本件訴訟を提起してそのような法的な主張を行っていることによって,他の生徒及び保護者とは履修内容又は履修態様に差異が生じ得ることになる。したがって,このような場合,国及び学校設置者たる被告自治体並びに当該図書を採択した教育委員会を設置している被告自治体には,これによって原告らに生じ得る不利益な事態の発生を未然に防止するなど,事前にこれらの結果が生ずることを回避すべき措置を講じ,あるいは,事後においてもこれらの不利益な事態の情況と結果を是正・解消すべき公法上の義務がある。 キ被告著作者を除く被告らに対する損害賠償請求は,主位的には,債務不履行による損害賠償請求権であり,被告著作者に対する損害賠償請求も,主位的には,これの拡大損害であるところの積極的債権侵害(債務不履行)に基づく損害賠償請求権に基づく。これらは,共同の債務不履行責任の関係にある。国及び被告自治体は,自己の直接的な債務不履行責任として,その余の被告は,その加担者として,原告らに対し賠償義務を負うものである。 ク原告らには,本件各教科用図書に基づく履修に関し,前記(1)記載の被告らの行為によって,次の損害が発生した。 a 学校設置者及びその履行補助者(教諭等)が本件各教科用図書に基づく授業その他の行為を行ったことによって,思想強制や誤った教育など違憲・違法な教育を施されて教育人権及び人格権を侵害され,これにより,精神的苦痛を被り,人格 補助者(教諭等)が本件各教科用図書に基づく授業その他の行為を行ったことによって,思想強制や誤った教育など違憲・違法な教育を施されて教育人権及び人格権を侵害され,これにより,精神的苦痛を被り,人格の尊厳を棄損された。 b また,本件各教科用図書に基づく履修を拒絶し,あるいは,その履修を受けつつもその洗脳教育による弊害を事前に防止し又は事後に除去するため,上記履修に代えて,あるいは,これと併存させて,自助努力による自習等の独自履修を余儀なくされ,それによる労務的負担及び心理的負担と,それに要する時間的負担を被った。 ケこれらの非財産的損害は,金銭で容易に評価しうるものではないが,仮に,これを評価するとすれば,原告1人につき図書1冊当たり5万円を下らない。 (4) 不法行為ア損害賠償請求については,予備的には,被告国及び被告自治体に対する国家賠償請求権と,被告発行者及び被告著作者に対する不法行為による損害賠償請求権に基づくものであって,これらはいずれも共同不法行為の関係にある。なお,その損害の発生,態様及びその数額については,前記と同じである。 イ被告らの行為は,間接正犯と故意ある道具の形態による共同不法行為であり,時間的かつ事項的に連鎖した関連共同性が存在する。 ウすなわち,検定申請準備行為,執筆依頼行為,共同執筆行為,検定申請,審査,検定,採択,購入契約,無償給付,給与,使用開始という教育関係法令に基づく一連の行為を全員が分担,共同して行ったのである。 6 被告国及び被告自治体の主張に対する反論(1) 国家賠償法1条1項に関する被告国及び被告自治体の主張に対する反論ア被告国及び被告自治体は,国家賠償法1条1項について,当該行為が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違背した場合でなければならないとし,文部大臣の検定行為と各教育 告自治体の主張に対する反論ア被告国及び被告自治体は,国家賠償法1条1項について,当該行為が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違背した場合でなければならないとし,文部大臣の検定行為と各教育委員会の採択行為のみに限定して主張を展開している。 しかし,本件は,教科書検定制度を含む義務教育の公教育における原告らと被告らとの公法上の法律関係に基づいて,被告国及び被告自治体に属する個々の機関が分掌する連鎖的行為の総体を対象としているものであって,被告らの主張はその前提に誤認があり失当である。 ちなみに,前記最高裁判所昭和57年4月1日第1小法廷判決は,前記5(2)オ記載のとおり判示して,一連の行為の過程から生じた被害と行為及び行為者の特定を緩和している。このことは,教科書制度における被告国及び被告自治体との関連共同性が肯定される一連の行為を対象としている本件にそのまま適用されるべきものである。 イなお,被告国及び被告自治体は,「文部大臣に対して,原告らを含む生徒及びその保護者に対する関係において法的義務を課した規定はない」としている。しかし,国及び自治体は,国民に対して,教育基本法その他の教育関係法令により義務を負っているのであり,文部大臣は,その国民に対する義務を分掌する国家機関であるから,文部大臣に関する規定中に,直接国民に対する義務を定めたものがないとしても,これをもって文部大臣の義務がないと帰結することは詭弁以外の何者でもない。ましてや,法令の抽象牲からして,「原告らを含む生徒及びその保護者に対する関係において法的義務を課した規定はない」ことは当然のことであって,特定人に対する関係だけの差別立法が公然となされるはずがないのである。 ウ被告国及び被告自治体は,義務違反のみが違法性を構成するとの見解のようであって,「違法性」に ない」ことは当然のことであって,特定人に対する関係だけの差別立法が公然となされるはずがないのである。 ウ被告国及び被告自治体は,義務違反のみが違法性を構成するとの見解のようであって,「違法性」についての認識も明らかに誤っている。一般に,当事者間に義務その他の法律関係がない場合であっても,一方が他方の権利その他の法的利益を侵害したときに不法行為が成立するのであり,義務の存在とその義務違反は違法性の程度を基礎づけるものであって,決して成立要件ではないのである。 エ被告国及び被告自治体は,損害論において,「教科書の具体的記述がそれを使用する生徒の名誉を侵害するなど,個別的に人格権を侵害する場合は別として」と主張するが,これは誤りである。義務教育諸学校教科用図書検定基準第2章2(14)には,「図書の内容に,特定の個人,団休などの権利や利益を侵害するおそれのあるところはないこと。」とあり,仮に,このような規定がなかったとしても,一連の検定手続において,このような記述が残っているはずがない。にもかかわらず,このようなあり得ない場合のみが原告らとの関係で違法とすることは,およそいかなる場合であっても違法ではないと主張しているに等しいのである。 オ被告国及び被告自治体は,名誉毀損のみが人格権等の原告らの利益侵害としている。しかし,名誉毀損だけが人格権侵害ではなく,この主張は,それ以上のものがあることを無視する反人権的・反憲法的主張である。本件のように,誤った歴史認識や偏った歴史観を強要されることなどは,人格の形成を阻害させる重大な違法行為であって,名誉毀損以上の人格権侵害事例であることは多言を要しない。 (2) 被告中野区及び被告葛飾区の個別の主張に対する反論ア教科用図書の著作,検定申請,検定,採択,購入契約,給付,給与,使用に至る一連の行為は 以上の人格権侵害事例であることは多言を要しない。 (2) 被告中野区及び被告葛飾区の個別の主張に対する反論ア教科用図書の著作,検定申請,検定,採択,購入契約,給付,給与,使用に至る一連の行為は,法令に基づき,同及び自治体による教科書制度運用における一連の共同行為である。 すなわち,無償措置法5条によれば,学校設置者たる特別区は,被告国から給付された教科用図書をそれぞれ当該学校の校長を通じて生徒に給与することになっているのであって,都の教育委員会の行う事務は,教科用図書を当該学校の校長に引き渡すことによって終了し,その後は,学校設置者である特別区が当該学校の校長を通じて生徒に給与するものであり,給付,給与そして使用に至る一連の事務は,東京都と特別区の共同作業ないしは協力分業と解される。したがって,東京特別区には図書の採択権がないとしても,図書の内容を知りながら,給付,給与,使用などの行為を担い,その関与行為がなければ原告らの損害が発生しなかったという条件関係が成立している。 イところで,前記最高裁判所昭和57年4月1日判決は,前記5(2)オ記載のとおり判示して,一連の行為の過程から生じた被害と行為及び行為者の特定を緩和している。 このことは,教科書制度における国及び自治体との関連共同性が肯定される一連の行為を対象としている本件にそのまま適用されるべきものである。 そうすると,被告中野区及び被告葛飾区はそれぞれ,被告東京都と共同不法行為を行った者にあたり,責任を負うべきである。 ウ被告中野区及び被告葛飾区は,地教行法59条1項及び無償措置法8条を根拠として,法制上,特別区が教科書の無償給付・給与に関する事務に関与することはないと主張するが,かかる主張は失当である。 すなわち,特別区の教育委員会の所管事務及び特別区の設置する義務教 法8条を根拠として,法制上,特別区が教科書の無償給付・給与に関する事務に関与することはないと主張するが,かかる主張は失当である。 すなわち,特別区の教育委員会の所管事務及び特別区の設置する義務教育諸学校による無償給付・給与の事務をいずれも東京都の事務とみなすと規定したのは,本来ならば,機関委任事務として規定すべきものをこのような簡易な便法表現を用いて処理したに過ぎず,いずれにせよ特別区の設置した学校が法律的に「関与」していることに何ら変わりはない。ましてや,教科書の「使用」は,これらのみなし規定の埒外であって,紛れもなく特別区の設置した学校が法律上も事実上も関与していることになる。原告らは,本件訴訟において,被告らの共同不法行為としての関与をも主張しているのであって,仮に,このような法令のみなし規定を根拠として,特別区の「法律的意味の関与」がないと解釈されたとしても,原告らが主張しているのは,あくまでも不法行為としての「事実的意味の関与」があることを根拠とするものであって,これらのみなし規定の存在によって,そのことが左右されるものではない。 (被告国及び被告自治体の主張) 1 債務不履行の主張について(1) 原告らは,今日の総合教育制度は,国,自治体,発行者,保護者及び児童・生徒との間に強固な「公法上の法律関係」を形成し,その具体的な性質,内容として,(1)原告生徒,原告保護者,被告国,被告自治体を当事者とし,教育受益者たる原告生徒に就学させることを内容とした公法上の就学契約,(2)原告生徒,被告保護者,被告国,被告自治体,被告発行者を当事者とし,原告保護者及び原告生徒(受益者)のために教科書の無償給付及び給与がされることを契約要素ないし条件とする購入契約のそれぞれの側面を持った混合契約(就学等に関する混合契約)が成立しており,上 者とし,原告保護者及び原告生徒(受益者)のために教科書の無償給付及び給与がされることを契約要素ないし条件とする購入契約のそれぞれの側面を持った混合契約(就学等に関する混合契約)が成立しており,上記混合契約が,検定教科書に基づく学習権の実現と,それを用いた授業等による学科履修の完成を目的とする請負契約類似の契約であるから,債務者(被告国,被告自治体,被告発行者)は不完全履行による債務不履行責任(契約責任)又は瑕疵担保責任(法定責任)とが合体した特別な責任を負担することになると主張する。 (2) 原告らの主張する「就学等に関する混合契約」,あるいは「不完全履行による債務不履行責任又は瑕疵担保責任とが合体した特別な責任」なるものの趣旨は必ずしも判然としない。 しかし,例えば,教育基本法4条1項は,「国民は,その保護する子女に,9年の普通教育を受けさせる義務を負う。」と規定し,学校教育法22条1項本文は,「保護者(子女に対して親権を行う者,親権を行う者のないときは,後見人をいう。以下同じ。)は,子女の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初から,満12歳に達した日の属する学年の終りまで,これを小学校又は盲学校,聾学校若しくは養護学校の小学部に就学させる義務を負う。」と規定し,同法39条1項も,「保護者は,子女が小学校又は盲学校,聾学校若しくは養護学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初から,満15才に達した日の属する学年の終りまで,これを,中学校又は盲学校,聾学校若しくは養護学校の中学部に就学させる義務を負う。」と規定して,保護者の意思にかかわらず一方的に就学義務を負わせ,学校教育法施行令は,これを受けて,市(特別区を含む。)町村の教育委員会に,学齢簿の編製(同施行令1条),入学期日等の通知,学校の指定(同 して,保護者の意思にかかわらず一方的に就学義務を負わせ,学校教育法施行令は,これを受けて,市(特別区を含む。)町村の教育委員会に,学齢簿の編製(同施行令1条),入学期日等の通知,学校の指定(同施行令5条)等の手続を規定しているが,上記の入学期日の通知及び就学すべき学校の指定は行政処分であり,就学をめぐる法律関係は,公権力の行使をその本質とするものであるから,原告らが引用する法令の解釈から,契約関係を導き出す余地はない。原告らが引用する各条項は,国の教育制度ないし検定制度を整備することを目的としているのであって,原告らが主張するような「就学等に関する混合契約」が観念されることを前提とした法律関係の規制等のために設けられたものではなく,法は,被告国,被告自治体と原告保護者,原告生徒の間にかかる「就学等に関する混合契約」が成立することを予定していないというべきである。 (3) 以上のとおり,原告らが主張するような契約関係が認められる余地はなく,原告らの主張は失当である。 2 国家賠償法1条1項の違法について(1) 国家賠償法1条1項の要件について国家賠償法1条1項は,国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を与えたときは,国又は地方公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。したがって,文部大臣の検定行為及び各教育委員会等の採択行為が,同条項の適用上違法となるためには,当該行為が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背した場合でなければならない(最高裁判所昭和60年11月21日第1小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。 (2) 文部大臣の検定行為についてア教科書は,小学校,中学校,高等学校及びこれらに準ずる学校において,教科課程の構成 判所昭和60年11月21日第1小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)。 (2) 文部大臣の検定行為についてア教科書は,小学校,中学校,高等学校及びこれらに準ずる学校において,教科課程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として,教授の用に供せられる児童又は生徒用図書であるから(発行法2条1項),公教育の中心である学校教育において,極めて重要な地位を占めるものといわなければならない。また,普通教育の場においては,児童,生徒の側にはいまだ授業の内容を批判する十分な能力は備わっていないこと,学校,教師を選択する余地も乏しく,教育の機会均等を図る必要があることなどから,教育内容が正確かつ中立・公正で,地域,学校のいかんにかかわらず,全国的に一定の水準であることが要請される(教育基本法1条ないし3条,最高裁判所昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁(旭川学テ事件),最高裁判所平成5年9月7日第3小法廷判決・民集47巻7号4667頁(いわゆる家永教科書裁判第1次訴訟上告審判決)及び最高裁判所平成9年8月29日第3小法廷判決・民集51巻7号2921頁(いわゆる家永教科書裁判第3次訴訟上告審判決)参照)。文部大臣の教科書検定権限は,このような高度の公益的要求にこたえるために認められているものである。 そして,文部大臣の検定を経た教科用図書で,各教育委員会が採択した図書は,各教育委員会の所管に属する公立中学校に在学する生徒が一律に使用するものである。 したがって,検定教科書の具体的記載がそれを使用する生徒の名誉を侵害するなど,個別的に人格権を侵害する場合は別として,歴史的,社会的な記述自体の当不当の問題は,これを使用する生徒の個別的な法益を侵害することは考えられない。 もとより,教科書検定権限は,前記のような公益的要求 個別的に人格権を侵害する場合は別として,歴史的,社会的な記述自体の当不当の問題は,これを使用する生徒の個別的な法益を侵害することは考えられない。 もとより,教科書検定権限は,前記のような公益的要求に基づくものであるから,文部大臣が,上記検定権限を適法に行使すべきことは当然であり,この意味において,適正な検定権限の行使は,文部大臣の権限であると同時に義務であるともいえる。しかし,中学校の教科書に対する文部大臣の検定権限を定めた学校教育法においては,上記検定権限の行使についてこれを制限する規定は何ら設けられていないし,同法はもとより,教科書検定に関連する諸法令の中にも,検定の申請権者である図書の著作者又は発行者は別として,文部大臣に対して,原告らを含む生徒及びその保護者に対する関係において法的義務を課した規定は存在しない。 したがって,文部大臣の上記のような適正な権限を行使すべき義務は,国民全体に対して負担する一般的,抽象的義務であって,検定の申請権者以外の個別の国民の具体的権利に対応した法的な義務というものではないから,文部大臣は,原告らに対して適正な検定権限を行使すべき具体的な法的義務を負担していないというべきであり,かかる法的義務の存在を前提とする本件損害賠償請求は,その前提となる主張自体において,既に失当である。 イ前記のとおり,文部大臣の検定権限の行使は,その合理的な裁量にゆだねられ,検定意見を付した判断過程に,看過し難い過誤があると認められる場合にのみ,上記判断は,裁量権の範囲を逸脱したものとして,国家賠償法上違法となることは確立した判例であるが,上記の違法は,文部大臣の教科書検定権限の直接の対象である,教科書の発行者ないし執筆者に関する関係で問題とされるものであり,仮に,文部大臣の検定権限行使が裁量権の範囲を逸脱したとし た判例であるが,上記の違法は,文部大臣の教科書検定権限の直接の対象である,教科書の発行者ないし執筆者に関する関係で問題とされるものであり,仮に,文部大臣の検定権限行使が裁量権の範囲を逸脱したとしても,直ちに,教科書発行者ないし執筆者以外の個別の国民に対する関係でも,国家賠償法上の違法を生じるものではない。 なお,念のため付言するに,中学校において検定教科書により歴史の教育を受ける中学生及びその親は,当該教科書に虚偽の記載があることを主張して検定の無効確認又は取消しを求める法律上の利益を有しているものということはできず,かかる訴えについて原告適格を有しないことは確立した判例である。 (3) 各教育委員会の採択行為についてア前記のとおり,教科書の採択権限は,公立学校については所管の教育委員会にある(地教行法23条6号,59条)。しかし地教行法はもとより,教科書検定に関連する諸法令の中にも,採択を行う教育委員会に対して,原告らを含む生徒及びその保護者に対する関係において法的義務を課した規定は存在しない。 また,文部大臣の検定を経た教科用図書で,各教育委員会等が採択した図書は,各教育委員会の所管に属する公立中学校に在学する生徒が一律に使用するものであり,教科書の具体的記載がそれを使用する生徒の名誉を侵害するなど,個別的に人格権を侵害する場合は別として,歴史的,社会的な記述自体の当不当の問題は,これを使用する生徒の個別的な法益を侵害することが考えられないことは,前述のとおりである。したがって,各教育委員会は,原告らに対して適正な採択権限を行使すべき具体的な法的義務を負担しておらず,かかる法的義務の存在を前提とする本件損害賠償請求は,その前提となる主張自体において,既に失当である。 イさらに,前記のとおり,平成9年度の中学校社会科の教科用図書 具体的な法的義務を負担しておらず,かかる法的義務の存在を前提とする本件損害賠償請求は,その前提となる主張自体において,既に失当である。 イさらに,前記のとおり,平成9年度の中学校社会科の教科用図書の採択において,各教育委員会は,文部大臣の検定を経た教科用図書の中から採択することが法により求められ,それ以外の図書を採択することも,すべての検定教科書を採択しないことも許されないものであるから,文部大臣の検定を経た教科用図書の中からそれぞれ採択を行った各教育委員会の行為が,違法を生じることはあり得ないというべきである。 もっとも,この点,原告らは,学校教育法40条,21条2項を根拠に,本件検定を経た教科用図書以外の「有益適切な」教材を使用する義務が被告国及び被告自治体にあることを前提として,上記義務の履行がされるまでは本件各教科用図書の使用をしてはならないと主張していることから,上記教材を履修に使用すればよいとして,なお採択の違法を主張するようである。 しかし,学校教育法21条2項は,教科用図書の使用義務を定めた同条1項を受けて,「前項の教科用図書以外の図書その他の教材で,有益適切なものは,これを使用することができる。」と規定しており,教科用図書を使用する義務があることを前提として,学習活動の多様化に対応して教科用図書以外の多様な補助教材の使用を認めた規定である。したがって,上記規定によって教科用図書以外の図書教材を使用すれば,教科用図書を採択しなくてもよいと解することはできず,かかる原告らの主張は失当である。 3 損害の不存在について(1) 原告らは,思想強制や誤った教育等違憲・違法な教育を施されたため,教育人権及び人格権を侵害され,これにより精神的苦痛を被り,あるいはそのような違憲・違法な授業を近い将来に受けねばならないという具体 原告らは,思想強制や誤った教育等違憲・違法な教育を施されたため,教育人権及び人格権を侵害され,これにより精神的苦痛を被り,あるいはそのような違憲・違法な授業を近い将来に受けねばならないという具体的危険が発生し,これにより精神的圧迫を受け,更には,上記履修に代えて,あるいは併存させて自助努力による学習等を余儀なくされ,それによる労務的負担及び時間的負担を被ったと主張する。 (2) しかし,教科書検定制度においては,前述のように,文部大臣が適正な検定をすべき権限を有し,義務を負っているとしても,このような義務は,国民全体に対して負担する一般的,抽象的義務であって,個別の国民の具体的権利に対応した法的な義務というものではなく,検定関係法令上も,そのような法的義務の存在をうかがわせるような規定は見当たらない。したがって,検定制度は,原告らを含む個々の国民に対し,本件各教科用図書の中の一定の歴史的事象に係る記述等について,原告らが正しいと考える見解に基づかない記述を排除する利益を保障するものでないことは明らかである。したがって,これを侵害されたことにより,国家賠償法1条1項所定の損害,すなわち法律上慰謝料の支払をもって救済すべき損害が発生する余地はない。この理は,原告らが主張する,労務的負担及び心理的負担,時間的負担による損害についても同様である。 (3) また,教科書は,前記のとおり,小学校,中学校,高等学校及びこれらに準ずる学校において,教科課程の構成に応じて組織排列された教科の主たる教材として,教授の用に供せられる児童又は生徒用図書であるから(発行法2条1項),その性質上,児童及び生徒の平均的学習能力に対応してその紙数,分量並びに内容の詳しさ及び難易度等につき相当の制約が課せられることは避けられず,特に社会科,なかんずく歴史については 発行法2条1項),その性質上,児童及び生徒の平均的学習能力に対応してその紙数,分量並びに内容の詳しさ及び難易度等につき相当の制約が課せられることは避けられず,特に社会科,なかんずく歴史については,無限に存在する諸学説及び諸見解のすべてを取り上げて逐一論評を加えるということは到底不可能であることはいうまでもなく,むしろ記述し得る事象及び学説ないしその見解はその中のごく一部にすぎず,その数及び分量が極めて限定されることは明らかである。したがって,社会科,なかんずく歴史の教科書の編集及びこれに対する検定に当たっては,上記のような歴史的事象及び諸学説,見解につきまさに大幅な取捨選択の作業が必要とされることは当然の帰結というべきである。 このように,教科書の記述内容は,その性質上多大な制約の下に確定されるものであり,かかる制約をもたらす教科書の編集及び検定の意義,趣旨及び性質に照らすと,当該図書の著作者又は発行者以外の第三者である一般の国民において,社会科教科書の歴史に関する記述中に,自己が正しいと信じる学説ないし見解が採用されず,その結果,上記学説ないし見解の根拠として重要と思料される一定の歴史的事象についての記述を欠き,あるいは上記学説ないし見解に反する学説,見解が採用され,これにより精神的苦痛を覚えたとしても,これをもって法的に保護された利益の侵害があったとはいえず常にその都度当該第三者である国民の各人すべてにつき国家賠償法上慰謝料をもって救済すべき損害が発生しているとはいえないことは明らかである。 (4) 原告らの主張は,本件各教科用図書中の歴史的事象に係る記述が,原告らが正しいと信ずる見解に基づく記述を欠き,あるいは,これに反する見解に依拠して記述されていることによって,精神的苦痛を被った,又は内心の自由を侵害されたというものであ 歴史的事象に係る記述が,原告らが正しいと信ずる見解に基づく記述を欠き,あるいは,これに反する見解に依拠して記述されていることによって,精神的苦痛を被った,又は内心の自由を侵害されたというものであると解され,上記原告らが本件各教科用図書の記述によって被った旨主張する損害の内容は,結局のところ,本件各教科用図書中の歴史的事象に係る記述が,原告らが正しいと信ずる見解に基づく記述を欠き,あるいは,これに反する見解に依拠して記述されていることによる不快感,焦燥感ないし憤りといったものであるにすぎないから,かかる感情が,慰謝料をもって救済すべき損害に当たらないことは明らかである。したがって,原告らの上記主張も失当というべきである。 また,原告らは,人格権の侵害を主張するところ,原告らの主張する人格権の内容は判然としないが,原告らの主張に徴する限り,上記人格権は,上記のとおり,内心の自由に関するものと解される。しかし,およそ検定にかかる教科書により教育を受けることによって,内心の自由が制約を受けるとは到底いえないから,かかる主張も失当である。 (5) 以上のとおりであって,原告らの損害に関する主張は,それ自体債務不履行又は国家賠償法1条1項所定の損害には当たらないというべきである。 4 被告中野区及び被告葛飾区の個別の主張(1) 東京都の特別区については,地教行法59条1項により,特別区の教育委員会の所管に属する教科書その他の教材の取扱いに関する事務は,東京都の教育委員会が処理することとされ,また,無償措置法8条においても,「第2章無償給付及び給与」の章について,「この章の規定の適用については,特別区の設置する義務教育諸学校は,都の設置する義務教育諸学校とみなす。」と規定されている。 それゆえ,特別区の設置する義務教育諸学校の教科書の取扱いにつ 章について,「この章の規定の適用については,特別区の設置する義務教育諸学校は,都の設置する義務教育諸学校とみなす。」と規定されている。 それゆえ,特別区の設置する義務教育諸学校の教科書の取扱いについては,東京都が国から無償で給付を受け(無償措置法3条),それらの図書を東京都がそれぞれ学校長を通じて児童又は生徒に給与する(同法5条1項)こととなり,法制度上,特別区が教科書の無償給付・給与に関する事務に関与することはない。 (2) したがって,被告中野区又は被告葛飾区が,被告国から教科書の無償給付を受け,これを原告P4(別紙3番号87)又は原告P5(別紙3番号100)に給与し,中学校において使用させたことはない。 理由 第1 本案前の主張に対する当裁判所の判断 1 原告生徒が平成11年度末に別紙3記載の中学校(ただし,原告番号90のP6については,香川県大川郡β立中学校)を卒業したことは当事者間に争いがないところ,被告国及び被告自治体は,請求の趣旨1に係る訴えは,この卒業の事実からしても,法律上の利益を欠き,不適法な訴えである旨主張するので,まず,この点について判断する。 (1) 請求の趣旨1(1)は,被告国及び被告自治体と各原告生徒との間において,その就学している中学校で社会科の履修につき,授業に出席する義務等が存しないことの確認を,同(2)は,各原告保護者との間で上記履修につき,原告生徒を授業に出席させる義務等がないことの確認を求めるものであるが,原告らは,原告生徒が当該中学校に就学している期間内において履修を義務づけられることを前提とし,上記確認の対象となる義務について「原告生徒が別紙3記載の各中学校に就学している間」との限定を付して上記各訴えを提起している。また,請求の趣旨1(3)の主位的請求は,被告国及び被告自 とを前提とし,上記確認の対象となる義務について「原告生徒が別紙3記載の各中学校に就学している間」との限定を付して上記各訴えを提起している。また,請求の趣旨1(3)の主位的請求は,被告国及び被告自治体が原告生徒及び原告保護者に対し,一定の検定教科書を社会科の履修に使用してはならないことを,また,同(4)の主位的請求は,被告国及び被告自治体が原告生徒及び原告保護者において本件訴訟を提訴して争い,社会科の履修において授業に出席せず又は出席させず,授業を受けず又は授業を受けさせず,考査試験を受けず又は受けさせないことを理由として,懲戒等の不利益的な取扱いを行ってはならないことをそれぞれ求めるものであるが,これらの請求も,各原告生徒が中学校に就学していることを当然の前提とするものと解するのが相当である(このことについても,原告らは明らかに争わない。)。 そうであるとすれば,既に原告生徒が中学校の全課程を修了して中学校を卒業している以上,原告らが新たな不利益を受ける等派生的紛争が今後生じるおそれはなく,現在の法律関係の争いである請求の趣旨2及び3に係る訴えについても,請求の趣旨1に係る訴えを経ずに直接これを争うことができるのであるから,原告生徒の在学中における上記各義務の不存在確認等を求める法律上の利益は,もはや存在し得ないというほかはない。 (2) これに対し,原告らは,①外形上は過去の権利又は法律関係の確認を求めるものであっても,それが,実質上は現在の法律上の権利又は法律関係の紛争に帰着するものであるときは,そのまま現在の権利又は法律関係の確認を求める趣旨と扱うことができる,及び②提起時には現在の権利又は法律関係であったものが,審理中に過去の権利又は法律関係となった場合であって,その前後を通じて損害賠償請求の前提事実となっていることから,本件 趣旨と扱うことができる,及び②提起時には現在の権利又は法律関係であったものが,審理中に過去の権利又は法律関係となった場合であって,その前後を通じて損害賠償請求の前提事実となっていることから,本件訴訟は,この確認の訴えと損害賠償請求という給付の訴えとの単純併合であったが,審理の途中に,確認の訴えは,中間確認の訴えと変更されたものと解されるべきであり,現在もなお,確認の利益は存在する旨主張する。 しかしながら,中間確認の訴えは,その旨を示した書面によって行わなければならず,それを相手方に送達しなければならないものであるから(民事訴訟法145条2項,143条2項,3項),原告生徒が中学校を卒業したという事実をもって,請求の趣旨1に係る訴えが自動的に中間確認の訴えに変更されたものと見る余地は全くなく,原告らの上記主張は,独自の見解に立つものというべきであるから,その余の点を検討するまでもなく,失当である。 (3) さらに,原告らは,請求の趣旨1に係る訴えが当然には中間確認の訴えとして解されないとしても,請求の趣旨1(1)及び(2)の各確認の訴えについてはそのままの形で,請求の趣旨1(3)及び(4)は変更のうえ,それぞれ中間確認の訴えとして予備的に請求する旨主張する。 そこで検討するに,中間確認の訴えは,裁判が訴訟の進行中に争いとなっている法律関係の成立又は不成立に係るときに,その法律関係の確認の判決を求めるものである(民事訴訟法145条1項)が,過去の法律関係が現在の法律関係に影響を及ぼしている場合には,その影響を受けた現在の法律関係の確認を求める方が,紛争の直接的解決に資することからして,この「法律関係の成立又は不成立」とは,現在の法律関係の成立又は不成立をいうものと解するのが相当である。 そうであるとすれば,請求の趣旨1の予備的請求は 方が,紛争の直接的解決に資することからして,この「法律関係の成立又は不成立」とは,現在の法律関係の成立又は不成立をいうものと解するのが相当である。 そうであるとすれば,請求の趣旨1の予備的請求は,いずれも過去の法律関係の確認を求めるものであるから,中間確認の訴えの確認対象として適格性を欠くものであり,不適当な訴えといわざるを得ない。 もっとも,通常の確認の訴えと同様,①現在の権利又は法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず,かえって,それらの権利又は法律関係の基礎にある過去の基本的な法律関係を確定することが,現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合,②現在の原告の法律的地位を民事訴訟によって保護すべき場合であるにもかかわらず,その保護手段として,過去の事実又は法律関係の存否を確認すること以外に有効・適切な手段が見当たらないとき等には,過去の法律関係の成立又は不成立に関する争いであっても,中間確認の訴えを提起しうるとする見解も考えられないことはない。しかしながら,仮にこのような立場に立ったとしても,現在の法律関係に関する紛争である請求の趣旨2及び3に係る訴えについては,請求の趣旨1に係る訴えを経ずに直接これを争うことができるし,原告らに何らかの損害が生じているとするならば,これらの訴えによってより直接的に救済を受けることができるのであるうえ,前述のとおり原告生徒が既に中学校を卒業している以上,今後請求の趣旨1の予備的請求に係る紛争から新たな紛争が派生することは考えられないことからして,本件は,上記①又は②のいずれの場合にも該当しないというべきである。 (4) したがって,請求の趣旨1に係る訴え(予備的請求を含む。)は,いずれも不適法な訴えである。 2(1) 被告発行者及び被告著作 件は,上記①又は②のいずれの場合にも該当しないというべきである。 (4) したがって,請求の趣旨1に係る訴え(予備的請求を含む。)は,いずれも不適法な訴えである。 2(1) 被告発行者及び被告著作者は,本件訴訟について,原告らの主張する違法事由を整理すると,本件各教科用図書に記述されている歴史的事実の存否を問題とし,当該記述部分が歴史の真実に反することを理由に,当該記述部分を違憲・違法と主張するもの(違法事由①),本件各教科用図書に記述されている歴史的事実についての歴史学上の位置付けないし評価を問題とし,当該記述部分における位置付けないし評価が原告ら自らの見解からする位置付けないし評価と相容れないことを理由に,当該記述部分を違憲・違法と主張するもの(違法事由②),及び本件各教科用図書に記述されている歴史的事実につき,本件各教科用図書が中学生を対象とする教科書であることに着目して,教育的配慮の有無を問題とし,原告ら自らの見解によると当該記述部分が不適切と判断されることを理由に,当該記述部分を違憲・違法と主張するもの(違法事由③)に分類・整理できるところ,違法事由①及び②の問題は,いずれも歴史学上の争点であり,違法事由③の問題は,教育学上の又は歴史学と教育学の複合する領域上の争点であって,いずれも,本来,歴史学や教育学といった学問の世界において,換言すると,自由な意見の表明とそれに対する批判の交換が行われる思想の自由市場において決せられるべきものであるから,本件訴訟において原告らの主張する前記の問題を裁判所において審理判断することは,学問の自由(憲法23条)ないし表現の自由(憲法21条)に干渉することになるとし,また,原告らは,歴史的真実そのもの又は学説内容の当否・優劣を裁判所における審理判断の対象とすべき旨を主張しているが,これは,裁判 憲法23条)ないし表現の自由(憲法21条)に干渉することになるとし,また,原告らは,歴史的真実そのもの又は学説内容の当否・優劣を裁判所における審理判断の対象とすべき旨を主張しているが,これは,裁判所が検定意見に看過し難い過誤があるかどうかを判定するに当たっては,検定当時の学界における客観的な学説状況に照らしてするのであって,学説内容ないし研究結果の当否・優劣や歴史的真実そのものを審理判断の対象としてするものではないとした最高裁判所平成5年3月16日第3小法廷判決・民集47巻5号3483頁(いわゆる家永教科書裁判第1次訴訟上告審判決)及び最高裁判所平成9年8月29日第3小法廷判決・民集51巻7号2921頁(いわゆる家永教科書裁判第3次訴訟上告審判決)が前提とする考え方に真っ向から反するものであるなどとして,本件訴えは「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たらない旨主張する。 (2) そこで検討するに,まず,被告発行者及び被告著作者は,原告らの主張する違法事由を上記違法事由①ないし③に類型化しているが,かかる分類が,原告らの主張する違法事由を過不足なく分類整理したものと解することはできない。すなわち,原告らは,例えば,「虚偽性」の類型として,虚偽とまではいえなくとも,客観的証明力のある歴史資料などに基づき,当該歴史的事実を確認・検証すること(歴史検証)を経ていない未確定な事実を断定的に真実であるとして記述する場合など,およそ社会科学的法則に則らず,学問的精緻さを欠いている場合(非真実),「偏頗性」の類型として,当該事件を構成する各事実を否定する証拠・資料又は異なる証拠・資料あるいは事件自体の存在を否定する証拠・資料等があるにもかかわらずこれらの証拠・資料の存在を記述しない場合(反対証拠又は相違証拠の不記載),当該事件を構成する各事実の 証拠・資料又は異なる証拠・資料あるいは事件自体の存在を否定する証拠・資料等があるにもかかわらずこれらの証拠・資料の存在を記述しない場合(反対証拠又は相違証拠の不記載),当該事件を構成する各事実の存否又は事件自体の存否について,その当時,反対の見解や異なる見解があったにもかかわらずこれらの見解の基礎となっている事実主張を記述しない場合(当時の反対事実主張又は相違事実主張の不記載)等を挙げているが,これらの事由は上記違法事由①ないし③の分類には当てはまらないものであるから,上記分類は原告らの主張をもれなく分類整理しているものとはいい難い。もちろん,上記被告らのした上記分類から漏れている上記事由が,本件各教科用図書の違法・違憲性等を基礎付けるものといえるか否かは問題となりうるが,それは本件訴訟の本案として審理判断する問題であって,「法律上の争訟」に当たるか否かの観点からは,何ら影響を及ぼさない事由というほかない。 そして,原告らは,例えば,違法・違憲事由の一つである「偏頗性」の類型として,当該事件を構成する各事実の存否又は事件自体の存否について,現在,反対の見解や異なる見解があるにもかかわらずこれらの見解の基礎となっている事実主張を記述しない場合(現在の反対事実主張又は相違事実主張の不記載)や当該事件を構成する各事実の評価あるいは事件自体の評価について,現在,反対の見解や異なる見解があるにもかかわらずこれらを記述しない場合(現在の反対評価又は相違評価の不記載)を挙げているところ,個人の基本的自由を認め,その人格の独立を国政上尊重すべきものとしている憲法の下においては,子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入,例えば,誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは, る憲法の下においては,子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入,例えば,誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは,憲法26条,13条の規定上からも許されない(最高裁判所昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁,最高裁判所平成5年3月16日第3小法廷判決・民集47巻5号3483頁及び最高裁判所平成9年8月29日第3小法廷判決・民集51巻7号2921頁)ことからすれば,教科用図書の記載内容や中学校における履修内容が「誤った知識や一方的な観念」に当たるか否かについて,司法審査が及ぶことは当然である。 また,教科用図書の検定のうち,原稿記述が誤りであるとして他説による記述を求める検定意見について,検定意見に看過し難い過誤があるか否かは,検定意見の根拠となる学説が通説、定説として学界に広く受け入れられており、原稿記述が誤りと評価し得るかなどの観点から判断すべきである(最高裁判所平成5年3月16日第3小法廷判決・民集47巻5号3483頁及び最高裁判所平成9年8月29日第3小法廷判決・民集51巻7号2921頁)から,「検定意見の根拠となる学説が通説、定説として学界に広く受け入れられているか否か」といった事柄,あるいは,現在,本件各教科用図書に記載されている歴史的事実と異なる歴史認識に立つ学説が存在するか否かといった事柄について,やはり司法審査が及ぶものである。 上記被告らは,原告らの請求の当否を判断しようとすると,その実質的争点の審理・判断の過程において,国が裁判権の発動として介入すべきでない学問ないし思想の内容に立ち入らざるを得ないものであるから,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟性を欠く旨主張するが,以上みたとおり,原告らの主張する違法事由を審理・ 判権の発動として介入すべきでない学問ないし思想の内容に立ち入らざるを得ないものであるから,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟性を欠く旨主張するが,以上みたとおり,原告らの主張する違法事由を審理・判断するに当たっては,学説や思想の特定のためにその内容を引用するのは格別,学説や思想の当否に必ずしも踏み込まなければならないものばかりではないのであるから,本件訴訟の全てについて「法律上の争訟」に当たらないということはできないといわざるを得ない。 したがって,上記被告らの主張は理由がない。 第2 本案の主張に対する当裁判所の判断 1 請求の趣旨2に係る訴えについて(1) 原告らは,原告らと被告らとの間には,①「義務教育」における「就学義務」に関する具体的な公法上の法律関係の側面と,②「公教育」における「検定教科書」に関する具体的な公法上の法律関係の側面との二つの側面を兼ね備えた公法上の法律関係というべき「混合契約」が存在する旨主張し,原告らは,この契約に基づく瑕疵修補請求権として,被告国,被告発行者に対して本件各教科用図書の訂正請求権を有し,また,製造物責任あるいはこれに準じた法律関係に基づいて被告著作者に対して同様の訂正請求権を有している旨主張する。 (2) そこで検討するに,中学校における就学制度,就学手続に関する法令(ただし,原告生徒らが中学校に在学していた平成9年度当時のもの)等についてみると,以下のとおりである。 ア中学校における教育は,義務教育とされる9年の普通教育(教育基本法4条参照)の最後の3年に行われるもので,小学校における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて,中等普通教育を施すことを目的とするものである(学校教育法35条,37条)。そして,中学校における教育については,この目的を実現するため,①小学校における教育の目標を 礎の上に,心身の発達に応じて,中等普通教育を施すことを目的とするものである(学校教育法35条,37条)。そして,中学校における教育については,この目的を実現するため,①小学校における教育の目標をなお十分に達成して,国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと,②社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能,勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと,及び③学校内外における社会的活動を促進し,その感情を正しく導き,公正な判断力を養うこと,という目標の達成に努めなければならない(同法36条)。 そして,市町村は,その区域内にある小学校又は盲学校,聾学校若しくは養護学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満15才に達した日の属する学年の終わりまでの子女(学齢生徒。同法39条1項,2項。)を就学させるに必要な中学校を設置しなければならないとして,市町村のその設置義務を負わせ,他方,学齢生徒の親権者あるいは後見人である保護者は,学齢生徒を中学校に就学させる義務を負う(同法39条1項)として,保護者にその保護の下にある学齢生徒をこのような教育が施される中学校に就学させる義務を負わせている。しかも,中学校においては,文部大臣の検定を経た教科用図書又は文部大臣が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならず(同法40条,21条1項),この検定は,義務教育諸学校教科用図書検定基準の定めるところによるものとされ(教科用図書検定規則3条),教育課程の内容等に関する基準としてについて中学校学習指導要領が定められている(学校教育法施行規則54条の2参照)。 これらの義務や制度は,全ての国民に対してその保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負わせた憲法26条を具体化し,我が国の全土において,中学 定められている(学校教育法施行規則54条の2参照)。 これらの義務や制度は,全ての国民に対してその保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負わせた憲法26条を具体化し,我が国の全土において,中学校における基礎的な教育の機会均等と教育義務とが,その制度面,運用面及び内容面のいずれの観点からも完全に実施されることを保障するために認められているものである。 中学校における教育に関する行政について,教育の重要性,中立性等の要請にかんがみ,国あるいは市町村が自ら処理せず,市町村の教育委員会を設置し(地教行法2条),教育委員会において中学校の設置,管理,廃止,学齢生徒の就学等,国あるいは市町村が処理する教育に関する事務を管理し,執行する(同法23条,地方自治法180条の8第1,2項(ただし,平成11年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。))ものとされている。 イ次に,中学校における具体的な就学手続については,市町村の教育委員会が,国からの機関委任事務として,学校教育法及びこれに基づく政令の定めるところにより,学齢簿の編製,入学期日の通知,就学すべき学校の指定,出席の督促その他就学義務に関して必要な事務を行い,及び就学義務の猶予又は免除に関する事務を行う(地方自治法180条の8第2項,同法別表第4の3(一))こととなっている。 これらの各種の事務のうち学齢簿の編製,入学期日の通知,就学すべき学校の指定の手続については,市町村の教育委員会は,毎年10月1日現在において,その市町村の区域内に住所を有する者で翌年4月1日(学校教育法施行規則55条,44条参照)中学校に入学すべき学齢生徒(以下「就学予定者」ということもある。)について,10月末日までに,学齢生徒の氏名,現住所,保護者と学齢生徒との関係等を記載した学齢簿を作成しなければならない 4条参照)中学校に入学すべき学齢生徒(以下「就学予定者」ということもある。)について,10月末日までに,学齢生徒の氏名,現住所,保護者と学齢生徒との関係等を記載した学齢簿を作成しなければならない(学校教育法施行令1条,2条,同法施行規則30条,31条)とされ,この学齢簿を基に,市町村の教育委員会は,学齢簿に記載された就学予定者のうち,その住所の存する市町村の設置する中学校以外の中学校に就学させる旨保護者から他の市町村の教育委員会の承諾を証する書面等を添えて届出のあった者(同法施行令9条),健康診断の結果判明した盲者,聾者,精神薄弱者,肢体不自由者,病弱者を除く全ての就学予定者について,その保護者に対し,翌年1月末日までに,その人学期日を通知し,また,その市町村の設置する中学校が2校以上ある場合には,入学期日の通知とともに就学すべき中学校の指定をしなければならない(同法施行令5条)ものとされている。この入学期日の通知等によってはじめて保護者の学齢生徒を就学させる義務が特定の就学すべき学校との関係で具体化されることとなる。それゆえ,この入学期日の通知及び就学すべき学校の指定は「行政庁の処分」(行政事件訴訟法3条2項)に当たるものと解される。 (3) このような学齢生徒の就学をめぐる法律関係は・公法上の法律関係であることはいうまでもないが,学齢生徒の保護者に対し教育の機会均等,義務教育等の要請を完全に実施するために特定の中学校との関係で具体的な就学義務を負担させるなどのものでもあり,あるいは,学齢生徒の教育を受ける権利(憲法26条1項)を円滑に享受せしめるために特定の中学校との関係で具体的な就学関係を生じさせるものであり,公権力の行使をその本質とするものであって,対等な当事者間の法律関係ではないというべきである。 そうすると,原告生徒の 受せしめるために特定の中学校との関係で具体的な就学関係を生じさせるものであり,公権力の行使をその本質とするものであって,対等な当事者間の法律関係ではないというべきである。 そうすると,原告生徒の就学に関し,原告らと被告らとの間で,原告らが主張するような混合契約が成立する余地はないものと解するほかはない。確かに,原告らの主張するとおり,教育基本法10条1項には,「教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接に責任を負って行われるベきものである。」との規定が存在するが,これは,教育の目的(教育基本法1条),教育の方針(同法2条)の重要性にかんがみ,教育行政のあり方について規定したものにすぎず,これをもって,被告国や被告自治体が原告らと直接契約関係に立っているとみることは到底できないものといわざるを得ない。 したがって,原告らの被告発行者に対する請求の趣旨2に係る訴えは,その前提となる契約関係の存在が認められないから,その余の点を検討するまでもなく,失当というべきである。 (4) また,原告らは,原告らと被告著作者との間に,製造物責任あるいはこれに準じた公法上の法律関係が認められるとも主張するが,製造物責任法(平成6年法律第85号)にいう「製造物」とは,製造又は加工された動産をいい,「欠陥」とは,当該製造物の特性,その他通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうものであって、(製造物責任法第2条1項、2項),原告らの主張する本件各教科用図書の違法性・違憲性がこれらに該当しないことは明らかである。 そうであるとすれば,原告らと被告著作者との間に,製造物責任あるいはこれに準じた公法上の法律関係が認められないことは明ら る本件各教科用図書の違法性・違憲性がこれらに該当しないことは明らかである。 そうであるとすれば,原告らと被告著作者との間に,製造物責任あるいはこれに準じた公法上の法律関係が認められないことは明らかである。 のみならず,製造業者等は,その製造,加工,輸入等した製造物であって,その引き渡したものの欠陥により他人の生命,身体又は財産を侵害したときは,これによって生じた損害を賠償する責めに任ずるものにすぎず(同法3条),仮に原告らと被告著作者との間に,製造物責任あるいはこれに準じた法律関係が存在したとしても,これによって原告らに本件各教科用図書の記述内容を訂正すべく請求する権利があるということにはならないというべきである。 したがって,いずれにせよ,原告らの主張は,失当といわざるを得ない。 2 請求の趣旨3に係る訴えについて(1) 主位的請求(債務不履行による損害賠償請求)について原告らと被告らとの間に原告らが主張するような混合契約が存在しないことは前記1(3)で説示したとおりであるから,かかる契約の存在を前提とし,その不履行による損害の賠償を求める訴えが理由がないことは明らかである。なお,仮に,製造物責任を契約責任を解するとしても,原告らと被告著作者との間には,製造物責任あるいはこれに準じた公法上の法律関係が認められないことは前記1(4)で説示したとおりであるから,かかる法律関係の存在を前提とし,損害の賠償を求める訴えが理由がないこともまた明らかである。 (2) 予備的請求(不法行為による損害賠償請求)についてア原告らは,国家賠償法1条1項ないし民法719条に基づき,①学校設置者及びその履行補助者(教諭等)が図書に基づく授業その他の行為を行ったことによって,思想強制や誤った教育など違憲・違法な教育を施されて教育人権及び人格権を侵害さ いし民法719条に基づき,①学校設置者及びその履行補助者(教諭等)が図書に基づく授業その他の行為を行ったことによって,思想強制や誤った教育など違憲・違法な教育を施されて教育人権及び人格権を侵害され,これにより,精神的苦痛を被り,人格の尊厳を毀損された,②図書に基づく履修を拒絶し,あるいは,その履修を受けつつもその洗脳教育による弊害を事前に防止し又は事後に除去するため,上記履修に代えて,あるいは,これと併存させて,自助努力による自習等の独自履修を余儀なくされ,それによる労務的負担及び心理的負担と,それに要する時間的負担を被ったとして,これらの損害の賠償を請求している。 イそこで検討するに,親は,子どもに対する自然的関係により,子どもの将来に対して最も深い関心をもち,かつ,配慮をすべき立場にある者として,子どもの教育に対する一定の支配権,すなわち子女の教育の自由を有すると認められるが,このような親の教育の自由は,主として家庭教育等学校以外における教育や学校選択の自由にあらわれるものと考えられるし,子ども自身も,教育を受ける権利(憲法26条1項)の主体者として,いかなる内容の教育を受けるかという事柄に強い関係を有しているものであるが,大学教育の場合に学生が一応教授内容を批判する能力を備えていると考えられるのに対し,普通教育においては,児童生徒にこのような能力がなく,また,子どもの側に学校や教師を選択する余地が乏しく,教育の機会均等を図る上からも全国的に一定の水準を確保すべき強い要請があること等からすれば,子ども自身に,普通教育において,ある一定の事項の教育を受けたり,一定の事項の教育を受けなかったりする憲法上の権利が保障されているものとは考え難い。これに対し,一般に社会公共的な問題について国民全体の意思を組織的に決定,実現すべき立場にあ 事項の教育を受けたり,一定の事項の教育を受けなかったりする憲法上の権利が保障されているものとは考え難い。これに対し,一般に社会公共的な問題について国民全体の意思を組織的に決定,実現すべき立場にある国は,国政の一部として広く適切な教育政策を樹立,実施すべく,また,しうる者として,憲法上は,あるいは子ども自身の利益の擁護のため,あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため,必要かつ相当と認められる範囲において,教育内容についてもこれを決定する権能を有するものと解さざるを得す,これを否定すべき理由ないし根拠は見出せない。もとより,政党政治の下で多数決原理によってされる国政上の意思決定は,さまざまな政治的要因によって左右されるものであるから,本来人間の内面的価値に関する文化的営みとして,党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきでない教育にそのような政治的影響が深く入り込む危険があることを考えるときは,教育内容に対する国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請されるし,殊に個人の基本的自由を認め、その人格の独立を国政上尊重すべきものとしている憲法の下においては,子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入,例えば,誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すことを強制することは,憲法26条,13条の規定からも許されないと解することができるけれども,このことは,前述のような子どもの教育内容に対する国の正当な理由に基づく合理的な決定権能を否定する理由となるものではないといわなければならない(最高裁判所昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。したがって,子どもには教育の権利が,その親には教育の義務があるけれども,いかなる内容の教育を受けるか,ある ければならない(最高裁判所昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。したがって,子どもには教育の権利が,その親には教育の義務があるけれども,いかなる内容の教育を受けるか,あるいは受けさせるかといった個々の点についてまで,教育権,人格権あるいは他の権利として,子どもないしその親に憲法上の保障が及んでいると解することは到底できないといわなければならない。 次に,法令を検討するに,文部大臣は,義務教育諸学校教科用図書検定基準に従い,中学校学習指導要領の内容等を勘案して検定を行うものであり,これを適正に行うべき権限と義務を負っているものであるが,これらの基準ないし要領をどう定めるか,いかなる内容が上記要領に盛り込まれるかといった事柄について,学齢生徒ないしその保護者が,これらを法律上の利益として保護されていることを示す規定はなく,また,個々の学齢生徒ないしその保護者が,文部大臣の検定が適正に行われることを法律上の利益として保護していることをうかがわせる規定も存在しない。したがって,文部大臣が検定に当たり,その権限を適正に行使すべき義務を負っているとしても,教科用図書の著作者ないし発行者との関係においては格別,将来当該教科用図書を使用して学習することになりうる学齢生徒ないしその保護者との間において,適正にその権限を行使すべき具体的な法的義務を負っているものではないというべきである。また,教育委員会が行う教科用図書の採択についても,都道府県教育委員会の指導,助言,援助により,行わなければならない(無償措置法13条1項)ものであるが,これは国民全体ないし当該採択地区の住民全体に対して負担する一般的,抽象的義務にすぎず,個々の学齢生徒ないしその保護者に対し,適切な教科用図書が採択されるべき法律上の利益が与えられているものでもな ,これは国民全体ないし当該採択地区の住民全体に対して負担する一般的,抽象的義務にすぎず,個々の学齢生徒ないしその保護者に対し,適切な教科用図書が採択されるべき法律上の利益が与えられているものでもない。さらに,中学校学習指導要領や義務教育諸学校教科用図書検定基準を踏まえて執筆・発行される教科用図書についても,いかなる内容がいかなる方法により記述されるかといった事柄について,個々の学齢生徒ないしその保護者に,法的な利益が与えられているものと解することはできないといわざるを得ない。 以上のとおり,教科用図書にどのような内容がいかなる方法で記述されるか,これに対する検定がどのように行われるか,検定済教科用図書のうち具体的にどの教科用図書が採択されるかといった事柄について,個々の学齢生徒ないしその保護者には,憲法上ないし法律上保護された利益があるとはいえない。 そうであるとすれば,被告らの行為によって原告らが精神的苦痛を被り,また,自習等の独自履修を余儀なくされ,労務的負担,心理的負担及び時間的負担を被ったとしても,かかる精神的苦痛は,一定の歴史事についての自己の見解が教科書に採用されずこれに反する所説が採用されたことに対する一種の不快感ないし憤りといったものにすぎず,各々負担も,そのような感情を原因としてとった行動の結果生じたものにすぎないものであって,憲法上ないし法律上保護された利益の侵害には当たらないから,これらは,国家賠償法1条1項ないし民法719条に基づく損害賠償請求において慰藉されるべき損害には当たらないものと解するのが相当である。 ウなお,原告らは,学校設置者及びその履行補助者(教諭等)が本件各教科用図書に基づく授業その他の行為を行ったことによって,思想強制を受けた旨主張するが,憲法19条にいう思想・良心の自由は内心における自 なお,原告らは,学校設置者及びその履行補助者(教諭等)が本件各教科用図書に基づく授業その他の行為を行ったことによって,思想強制を受けた旨主張するが,憲法19条にいう思想・良心の自由は内心における自由をいうものであるところ,原告生徒らが本件各教科用図書に基づいて教育を受けたからといって,その教育内容を批判することを制限されたわけではなく,原告らの内心の自由が制約されたものではないから,思想強制を受けたものということは到底いえないというべきである。 したがって,この点に関する原告らの上記主張は失当といわざるを得ない。 (3) したがって,その余の点を判断するまでもなく,原告らの損害賠償請求が理由のないことは明らかである。 第3 結論以上の次第で,本件訴えのうち,請求の趣旨1に係る訴えは不適法であるからこれを却下し,その余の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官市村陽典裁判官森英明裁判官篠田賢治は,転官のため,署名押印できない。 裁判長裁判官市村陽典
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