主文 1 福岡県公安委員会が令和3年3月1日付けで原告に対してした、その区分を一般運転者とする運転免許証の有効期間の更新処分を取り消す。 2 福岡県公安委員会は、原告に対し、その区分を優良運転者とする運転免許証の有効期間の更新処分をせよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 事案の要旨原告は、福岡県公安委員会に対し、運転免許証(以下「免許証」という。)の有効期間の更新(以下「免許証の更新」という。)を申請したところ、同委員会から、原告が、令和2年5月3日(以下「本件当日」という。)午前11時22分頃、シートベルト(座席ベルト)を装着せずに車両を運転する違反行為(以 下「本件違反行為」という。)をしたとして、令和3年3月1日付けで道路交通法92条の2第1項の表所定の「免許証の交付又は更新を受けた者の区分」(以下「免許区分」という。)を「一般運転者」とする免許証の更新処分(以下「本件処分」という。)を受けた。 本件は、原告が、本件違反行為をした事実はないとして、被告を相手に、本 件処分の取消しを求めるとともに、免許区分を「優良運転者」とする免許証の更新処分の義務付け(以下「本件義務付けの訴え」という。)を求める事案である。 2 関連法令の定め等別紙2「関連法令の定め等」のとおり(以後、別紙で定義した略称は、特に 断りなく使用する。) 3 前提事実以下の事実(以下、「前提事実」といい、その項番号等により「前提事実⑴」などと記載する。)は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 ⑴ 当事者 原告(昭和●年●月●日生)は、福岡 」といい、その項番号等により「前提事実⑴」などと記載する。)は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 ⑴ 当事者 原告(昭和●年●月●日生)は、福岡県公安委員会から運転免許(大型免許、中型免許、大型特殊免許〔農耕車限定〕及びけん引免許〔農耕車限定〕)を受けている者である(甲1)。 ⑵ 本件当日の状況ア被告主張に係る本件違反行為の場所は、福岡県みやま市(住所省略)の 西側を北西から南東に国道443号(以下「本件国道」という。)が走り、同所北側を北東方向から走る市道(以下「東側市道」という。)が同所西側で本件国道と合流し、同合流地点からやや南東にずれた地点から南西方向に抜ける市道が延びる、信号機による交通整理が行われていない変則交差点(以下「本件交差点」という。)である(別紙3「道路交通法違反現場見 取図」参照)。 本件国道(道路幅員約6m)は、中央線が設置された片側1車線道路であり、東側市道(道路幅員約4m)は、中央線のない道路である(以上につき、乙1、5、14、弁論の全趣旨)。 イ福岡県柳川警察署(以下「柳川署」という。)のA警部補は、本件当日午 前11時頃、警ら用無線自動車(以下「本件パトカー」という。)を運転し、その助手席に柳川署のB巡査(以下A警部補と併せて「本件警察官ら」という。)を乗車させ、東側市道を北東方向から本件交差点に向けて警らしていたところ、本件交差点の西角に設置されたカーブミラーにより、原告が運転する軽四輪貨物自動車(以下「本件車両」という。)が、本件国道を北 西方向から本件交差点に向けて進行して来る状況を認めた。本件車両は、 午前11時22分頃、本件パトカーから北西方向約13mの本件国道上で、減速 両」という。)が、本件国道を北 西方向から本件交差点に向けて進行して来る状況を認めた。本件車両は、 午前11時22分頃、本件パトカーから北西方向約13mの本件国道上で、減速し、左折の合図を出して、本件交差点を東側市道に向けて左折した(同左折時における本件パトカーの動静については争いがある。)。 ウ本件パトカーから降車したB巡査は、左折を完了して東側市道上に停車した本件車両に近づき、運転席にいた原告に対し、声を掛けた。声を掛け た時点では、原告はシートベルトを装着していた。本件警察官らは、点数切符を作成し、原告に対しシートベルト装着義務違反(本件違反行為)があったと説明したところ、原告は、本件警察官らに対し、警察官の見間違いである、シートベルトはしていたので納得できないなどと申し入れ、点数切符への署名・押(指)印に応じなかった。 エ福岡県警察本部(以下「福岡県警」という。)交通部運転免許管理課は、本件違反行為について、座席ベルト装着義務違反(基礎点数1点)として違反登録を行った。 ⑶ 本件処分原告は、令和3年3月1日、福岡県公安委員会に対し、免許証の更新申請 をしたところ、同日付けで免許区分を「一般運転者」とする免許証の更新処分(本件処分)を受けた。 本件処分において、原告の免許区分が「一般運転者」とされたのは、本件違反行為を理由とするものである。原告は、特定誕生日(令和▲年▲月▲日)の40日前の日前5年間において、本件違反行為(その有無に争いがある。) を除くと、他に違反行為又は道交法施行令別表第4若しくは第5に掲げる行為をしたことがない(弁論の全趣旨)。 ⑷ 審査請求原告は、本件処分を不服として、福岡県公安委員会に対し、令和3年3月2日、審査請求をした。同 為又は道交法施行令別表第4若しくは第5に掲げる行為をしたことがない(弁論の全趣旨)。 ⑷ 審査請求原告は、本件処分を不服として、福岡県公安委員会に対し、令和3年3月2日、審査請求をした。同委員会は、令和4年4月21日、同審査請求を棄 却する旨の裁決をし、同裁決書謄本は、原告に対し、その頃送達された(甲 2)。 ⑸ 本件訴えの提起原告は、令和4年8月2日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。 4 争点及び争点に関する当事者の主張の要旨本件の主たる争点は、本件処分の適法性、具体的には、原告が本件違反行為 をしたか否かであり、本件違反行為を現認したとする本件警察官らの供述の信用性が争われている。 ⑴ 被告の主張ア本件警察官らは、本件交差点手前の停止線で本件パトカーを一時停止させ、本件車両を注視していたところ、本件パトカーから北西方向約13m の本件国道上で本件車両を運転する原告がシートベルトを装着していない状況を認めた。本件車両が東側市道に左折を開始し、本件パトカーの右前部と本件車両の右前部がすれ違う位置関係となった時、A警部補は、原告が慌ててシートベルトを装着する状況(以下「事後装着」ということがある。)を現認した。 イ本件警察官らは、本件パトカーと本件車両との間に視界を遮るものが何もない状況において、本件パトカーの運転席と助手席から、原告がシートベルトを装着していない状況を現認した。さらに、原告が本件パトカーの近くを走行する際、原告が事後装着する状況をもA警部補が至近距離から現認しており、本件警察官らが本件違反行為を見間違ったとは到底考えら れない。また、シートベルト装着の有無に係る現認行為については、専門的知識や技能が特に求められるもの A警部補が至近距離から現認しており、本件警察官らが本件違反行為を見間違ったとは到底考えら れない。また、シートベルト装着の有無に係る現認行為については、専門的知識や技能が特に求められるものではなく、警察官による見間違いの可能性そのものが極めて低い。 ウ原告が本件違反行為をしたことは明らかであり、本件処分は、適法である。 ⑵ 原告の主張原告が本件違反行為をした事実はなく、本件警察官らによる本件違反行為についての現認は見間違いである。 したがって、本件処分は、違法である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実(以下「認定事実」といい、その項番号等により「認定事実⑴」などと記載する。)が認められる。 ⑴ 本件当日の状況等 ア本件当日午前11時頃の本件交差点付近の時間雨量は4mmであり、雲の量は相当程度あった(甲10、乙10〔2頁〕)。 イ本件車両のシートベルトは、運転席横の支柱から伸びるものではなく、運転席背部、運転者の右肩口の直近から伸びる構造になっていた(甲2、乙12)。 ウ本件当日の原告の上衣は黒に近い暗い灰色の柄入り長袖シャツであり、本件車両のシートベルトは当該上衣よりはやや明るい灰色であった(乙12、13、14、証人A警部補)。 エ本件警察官らは、東側市道上の本件パトカー(別紙3㋐地点)から、本件交差点の西角に設置されたカーブミラーにより、本件車両が、本件国道 を北西方向から本件交差点に向けて進行して来る状況(別紙3①地点)を認めた。 本件車両が減速して左折の合図を出したため、A警部補は、本件車両が左折できるように(東側市道は、中央線のない道 を北西方向から本件交差点に向けて進行して来る状況(別紙3①地点)を認めた。 本件車両が減速して左折の合図を出したため、A警部補は、本件車両が左折できるように(東側市道は、中央線のない道路幅員が約4mの1車線道路であり、本件パトカーが東側市道にそのまま残っていると、左折して 東側市道に進入する本件車両と接触する可能性があった。)、本件パトカーを本件交差点内に進入させた。 その後、本件車両は、左折を開始し(その左折中、本件パトカーとの距離が約2.8mまで近づいたことがあった。)、左折を完了した後、東側市道上(別紙3④地点)で停車した。 他方、本件パトカーは、本件交差点を左折した後、本件国道上で転回して、東側市道に戻り、停車した本件車両の後方(別紙3㋓地点)に着けた。 また、本件パトカーが本件交差点に進入してから本件国道上で転回するまでの間に、B巡査が本件パトカーから降車し、A警部補より先に、東側市道上の本件車両内にいる原告に声をかけ、シートベルトを装着していなか った旨を指摘した。B巡査が原告に声をかけた際、原告はシートベルトを装着していたが、B巡査は、原告がシートベルトを装着する状況は現認していなかった(以上につき、前提事実⑵ア~ウ、甲6、15、乙14~16、証人A警部補、証人B巡査、原告本人)。 オ B巡査は、本件当日、原告の供述調書(乙3の1)を作成し、原告はこ れに署名・指印をした。当該供述調書には、原告がシートベルトを装着して運転していたので納得できない旨の記載があるが、本件警察官らが原告に対して事後装着を現認した旨を追及したことやその点についての原告の弁解は、記載されていない。 カ A警部補は、原告が本件違反行為を否認していたため、令和2年5月1 1日、 件警察官らが原告に対して事後装着を現認した旨を追及したことやその点についての原告の弁解は、記載されていない。 カ A警部補は、原告が本件違反行為を否認していたため、令和2年5月1 1日、他の柳川署の警察官らと共に、本件交差点付近の実況見分を行い、本件パトカーからの視認状況等を見分した。この時、原告及びB巡査は立ち会っていなかった。同実況見分の結果等を記載した捜査報告書(乙14)には、①カーブミラーに写っている本件車両を発見した時点、②シートベルト装着義務違反を認めた時点、③違反現認を終了し、本件車両の停止を 求めた時点、④違反車両を追尾するため本件パトカーが転回した時点、⑤ 本件車両が停止した時点における本件パトカーと本件車両の位置関係の記載があるが、事後装着を現認したことについての記載はない(乙14、15、証人A警部補)。 なお、本件パトカーにはドライブレコーダーが搭載されていたが、本件警察官らは、いずれも、ドライブレコーダーの映像を確認しておらず、そ の保存もしていなかった(証人A警部補、証人B巡査)。 ⑵ 審査請求後の経過ア福岡県警察本部の運転免許管理課長は、原告の本件処分に対する審査請求を受けて、柳川署長に対し、令和3年4月22日、原告が審査請求書において「停車させられた時、警察官は、私がシートベルトを着装している のを確認している。」旨を申し立てたことを伝えた上で、本件車両を停車させた時に原告がシートベルトを装着していたのかどうかを本件警察官らに確認するよう求め、同月30日、柳川署長から、本件警察官らに確認したところ、両名とも、停車させた時、原告はシートベルトを装着していたとのことである旨の回答を受けた(乙13)。 イ福岡県公安委員会は、令和3年6月2日付けで、弁 から、本件警察官らに確認したところ、両名とも、停車させた時、原告はシートベルトを装着していたとのことである旨の回答を受けた(乙13)。 イ福岡県公安委員会は、令和3年6月2日付けで、弁明書(甲3)を提出した。当該弁明書には、本件警察官らが、本件車両が本件交差点へ進入し、左折を完了させるまでの間、原告がシートベルトを装着せず運転していた状況を継続して現認した旨の記載があるが、他方で、原告が左折中にシートベルトを装着する状況を現認した旨の記載はなかった。 ウ福岡県警監察官室長は、原告からの令和3年7月6日付け反論書(甲4)の内容を踏まえて、令和3年7月19日にA警部補に対し、同月20日にB巡査に対し、それぞれ電話で本件違反行為を現認した状況の詳細を尋ねた(乙6、7)。 A警部補は、前記に対し、本件パトカーが本件交差点手前の停止線 付近にいた時に、原告がシートベルトをしていないことを確認し、本件 交差点を右折するのを止め、本件パトカーを本件交差点内で一時停止させてB巡査を降車させた後、速やかに左折に転じ、本件国道上で転回して、本件東側市道上で停車中の本件車両後方に本件パトカーを着けたこと、B巡査を降車させた地点で、原告が左折を開始しながら慌ててシートベルトを着装しているのを確認したこと等を説明した(乙6)。 B巡査は、前記に対し、原告に声かけをした時には、原告がシートベルトを装着していたのは確かであり、声かけするまでの間に原告がシートベルトを装着している状況は見ていない旨を回答した(乙7)。 エ福岡県公安委員会は、令和3年8月23日付けで、弁明書(甲5)を提出した。当該弁明書には、①A警部補が、本件車両が左折する意思を見せ たため、本件車両が左折できるように本件交 (乙7)。 エ福岡県公安委員会は、令和3年8月23日付けで、弁明書(甲5)を提出した。当該弁明書には、①A警部補が、本件車両が左折する意思を見せ たため、本件車両が左折できるように本件交差点南方に本件パトカーの頭部を露出させ、一時停車するとともに、B巡査を降車させた後、速やかに左折したこと、②本件車両は、その際、既に東側市道に左折を開始しており、本件交差点中ほどで、本件パトカーの右前部と本件車両の右前部がすれ違う状況であったこと、③A警部補は、本件パトカーが左折進行中、原 告の動向を注視していたところ、原告が急いでシートベルトを装着する状況を現認したこと等の記載がある。 オ福岡県公安委員会は、令和3年10月15日、原告立会の下、本件交差点において、本件パトカーからの本件車両内の視認状況の検証(以下「本件検証」という。)を実施した。本件検証の結果によれば、本件交差点を左 折中の本件パトカーの運転席から、本件交差点に進入する直前(停止線の直前)位置の本件車両の運転席は、ハンドルにより運転者の胸元以上しか視認できない状況が確認された。本件検証に係る検証調書(乙10)には、その際の本件パトカー内からの本件車両内の視認状況を撮影した写真(添付写真⑥~⑪)が添付されているが、当該写真上は、運転者のシートベル ト装着の有無について判別することはできない。なお、当該検証調書によ れば、肉眼では判別が可能であった旨の記載があるが、原告に対しては、そのような検証結果は知らされていなかった(甲2、7、8、乙10)。 カ A警部補は、本件訴訟の証人尋問期日(令和6年1月31日)において、原告の事後装着を現認したのは、B巡査を降車させる時であり、本件パトカーは停止していた、事故防止の観点からも通常は進みながらよ カ A警部補は、本件訴訟の証人尋問期日(令和6年1月31日)において、原告の事後装着を現認したのは、B巡査を降車させる時であり、本件パトカーは停止していた、事故防止の観点からも通常は進みながらよそを見る のは危険だと思うなどと供述した(証人A警部補)。 2 原告が本件違反行為をしたか否か(本件警察官らの供述の信用性)について⑴ 本件車両が本件交差点に進入する前の時点での現認供述についてア証拠中には、本件警察官らにおいて、いずれも、本件車両が本件交差点に進入する手前(停止線付近)の時点で、原告がシートベルトを装着して いないことを現認した旨の本件警察官らの供述部分(乙15、16、証人A警部補、証人B巡査)がある。 イしかしながら、認定事実により指摘することができる次の事情によれば、本件警察官らの前記供述部分は、見間違い等の可能性を排除することができず、採用することができない。 本件警察官らの視認状況①本件交差点を左折中の本件パトカーの運転席からは、本件交差点に進入する直前(停止線の直前)の本件車両の運転席は、ハンドルにより運転者の胸元以上しか視認できない状況であった(認定事実⑵オ)。 しかも、②本件車両のシートベルトは、運転席横の支柱から伸びるも のではなく、運転席背部、運転者の右肩口の直近から伸びる構造であり、かつ、当時の原告の上衣と同系色であった(認定事実⑴イ、ウ)のであり、③本件当日午前11時頃は、その付近で降雨も確認されるなど、雲の量は相当程度あり(認定事実⑴ア)、その視認状況がそれほど明るくなかった可能性がある。 以上によれば、本件警察官らにおいて、本件車両が本件交差点に進入 する前の時点で、本件車両内にいる原告がシートベルトを装着し がそれほど明るくなかった可能性がある。 以上によれば、本件警察官らにおいて、本件車両が本件交差点に進入 する前の時点で、本件車両内にいる原告がシートベルトを装着していたかどうかを判別することは、容易でなかった可能性がある。とりわけ、運転席横の支柱から伸びるベルトの有無でシートベルトの装着の有無を判断しようとする場合には、運転者がシートベルトを装着していたとしても、装着していないと誤認する可能性があったことがうかがえる。 本件検証の結果について本件検証に係る検証調書には、肉眼では判別することが可能である旨の記載がある(認定事実⑵オ)が、前記の事情に照らすと、その信用性は乏しいといわざるを得ない。 そうすると、本件検証の結果(認定事実⑵オ)によっても、本件車両 が本件交差点に進入する前の時点で、本件パトカーから、本件車両内にいる原告がシートベルトを装着していたかどうかを判別することが容易であったとは認め難いというべきである。 仮に肉眼で判別することが可能であったとしても、本件検証の結果は、本件車両のシートベルトの位置関係等をあらかじめ把握した上で意識的 に観察した結果と評価することもできるのであるから、本件警察官らが、本件当日、見間違いをした可能性を排除できるものではない。 B巡査が原告に声をかけた際の原告のシートベルト装着状態との関係B巡査は、本件警察官らが本件違反行為を現認したとされる時期の直後に原告に声をかけたところ、その時点で、原告は、シートベルトを装 着していたものである(認定事実⑴エ。なお、事後装着を現認した旨のA警部補の供述部分を採用することができないことは、後記⑵ウのとおりである。)。 このことからしても、本 トベルトを装 着していたものである(認定事実⑴エ。なお、事後装着を現認した旨のA警部補の供述部分を採用することができないことは、後記⑵ウのとおりである。)。 このことからしても、本件警察官らは、原告がシートベルトを装着しているのに、装着していないものと誤認した可能性が相当程度あるもの といえる。 本件警察官らの供述内容の一致について被告は、本件警察官らが、2名とも見間違いするとは考え難い旨を主張する。 しかしながら、本件警察官らの前記供述部分には、本件警察官らが、本件違反行為を現認したとする際、お互いに「ベルトしていないね」と いうような会話をした旨の供述部分もあることからすると、本件警察官らが、互いの影響を一切受けずに、独自に原告のシートベルトの装着の有無を観察し得たかどうかは定かではなく、その一方が、先に原告のシートベルト装着義務違反を速断し、他方がそれに迎合し、あるいはその影響を受けて先入観をもって原告を観察した可能性も否定できない。 また、前記で指摘した各事情に照らすと、本件警察官らが2名とも見間違いをした可能性自体も排除することはできない。 ⑵ 本件車両が本件交差点を左折する時点での現認供述についてア証拠中には、A警部補において、①本件車両が本件交差点を左折する中で、本件パトカーとの距離が約2.8mまで近づき、本件違反行為を近距 離で現認し、②本件車両の左折中、原告の事後装着を現認した旨のA警部補の供述部分(甲15、証人A警部補)もある。 イ ①の点(近距離での現認)についてしかしながら、前記⑴イ~で指摘した事情に加え、前記⑴アのとおり、本件警察官らは、本件車両が本件交差点に進入する手前の時点で、原 告 もある。 イ ①の点(近距離での現認)についてしかしながら、前記⑴イ~で指摘した事情に加え、前記⑴アのとおり、本件警察官らは、本件車両が本件交差点に進入する手前の時点で、原 告がシートベルトを装着していないと判断したというのであるから、そのように思い込み、あるいは本件車両を停止させ検挙することに気をとられ、改めてシートベルトの装着の有無を意識的に観察していなかった可能性もあることに照らすと、本件パトカーと本件車両との距離が約2.8mまで近づいたとしても、A警部補がその時点でシートベルト装着の有無を誤 認した可能性があることは、否定し難い。 したがって、A警部補の供述部分①は、採用することができない。 ウ ②の点(事後装着の現認)についてまた、認定事実により指摘することができる次の事情によれば、A警部補の供述部分②についても、採用することができない。 本件当日に作成した原告の供述調書等の記載との関係 仮に、A警部補が、原告の事後装着を現認したとすれば、当該事実は見間違えの可能性を排斥する重要な事実であったはずであり(A警部補自身も、シートベルトの装着義務違反者が慌ててシートベルトを装着する状況を現認しておきながら、その事実を当該違反者に説明・追及しないということはあり得ないとする〔乙15〕。)、捜査を行う警察官と しては、これを記録化するのが通常である。 しかしながら、本件当日作成された原告の供述調書には、事後装着の有無に関する問答等の記載はなく(認定事実⑴オ)、原告が本件違反行為を否認していることを踏まえて実施された実況見分に係る捜査報告書にも、原告の事後装着を現認した時点における本件車両と本件パトカ ーの位置関係等の記載はな く(認定事実⑴オ)、原告が本件違反行為を否認していることを踏まえて実施された実況見分に係る捜査報告書にも、原告の事後装着を現認した時点における本件車両と本件パトカ ーの位置関係等の記載はない(認定事実⑴カ)のである。 このような事情は、A警部補の供述部分②の信用性を著しく減殺するものといわざるを得ない。 審査請求時における本件警察官らの説明との関係本件警察官らは、令和3年4月、福岡県警の職員から、原告の審査請 求を受けて、本件車両を停車させた時に原告がシートベルトを装着していたのかどうかの確認を求められた際にもA警部補において原告の事後装着を現認した旨を説明した状況はうかがえない(認定事実⑵ア。なお、B巡査は、直接には現認していなかったとしても、本件当日、A警部補が原告に対し事後装着を現認した事実を説明し、追及していたとすれば、 当然に認識していたはずである。)。 かえって、福岡県公安委員会の令和3年6月2日付け弁明書には、事後装着の事実が記載されていないばかりか、本件車両が左折を完了するまで原告がシートベルトを装着せずに運転していた旨の記載がある(認定事実⑵イ)。このような記載は、原告が本件交差点で左折中に事後装着をしたことと明らかに矛盾するものである。 そして、A警部補は、上記弁明書に対する原告の反論を受けて、改めて福岡県警の職員から聴取された時点に至って、ようやく事後装着について言及したのである(認定事実⑵ウ)。 以上の事実に照らすと、A警部補は、本件当日から、本件車両が左折を完了するまで原告がシートベルトを装着せずに運転していたとの認識 を有していたことがうかがわれるのであり、B巡査が原告に声をかけた際の原告のシートベル装着状 は、本件当日から、本件車両が左折を完了するまで原告がシートベルトを装着せずに運転していたとの認識 を有していたことがうかがわれるのであり、B巡査が原告に声をかけた際の原告のシートベル装着状態(前記⑴イ)との整合性を保つために事後装着に言及し始めた可能性を否定し難いというべきである(したがって、A警部補が令和3年4月時点で事後装着を現認した事実を説明したはずであるとの供述部分〔証人A警部補〕は、採用し難い。)。 証人尋問における供述内容との関係また福岡県公安委員会の令和3年8月23日付け弁明書には、本件パトカーが左折進行中、A警部補が、原告の動向を注視し、事後着装を現認した旨の記載があるが(認定事実⑵エ)、A警部補は、本件訴訟の証人尋問期日において、車両を進行させながらよそを見るのは危険であるな どとして、事後着装を現認した時に本件パトカーは停止していたと供述した(証人A警部補)。 このような事実に照らしてみても、A警部補の供述部分②は、事後着装を現認した際の状況に関し、供述の変遷があるといわざるを得ない。 供述内容の不自然さ A警部補の供述部分②に係る原告による事後装着の態様は、本件車両を左折させながら、シートベルトを装着したというものである。 しかしながら、原告が本件交差点を左折するに当たっては、左折中、少なくとも片手でハンドルを把持しておく必要があり、原告が、もう片方の手のみで、シートベルトの着装を行うことは、容易であるとはいい 難い(甲16、原告本人)。 そうすると、A警部補の供述部分②は、その内容自体にも不自然さがあるというほかない。 ⑶ 小括以上によれば、原告の本件違反行為や事後装着を現認した旨の本件警察官 6、原告本人)。 そうすると、A警部補の供述部分②は、その内容自体にも不自然さがあるというほかない。 ⑶ 小括以上によれば、原告の本件違反行為や事後装着を現認した旨の本件警察官 らの供述部分は、いずれも採用することができず、他に本件違反行為を認めるに足りる的確な証拠はない。 したがって、福岡県公安委員会が本件処分の理由とした原告の本件違反行為の事実は、これがあったとは認められない。 3 本件処分の取消しの訴えについて 前提事実及び前記2で説示したところによれば、福岡県公安委員会は、原告による免許証の更新申請に対し、その免許区分を優良運転者とする免許証の更新処分をすべきであったにもかかわらず、その免許区分を一般運転者とする本件処分をしたのであるから、本件処分は、違法であり、取り消されるべきである。 4 本件義務付けの訴えについて本件義務付けの訴えは、行政事件訴訟法3条6項2号所定のいわゆる申請型の義務付けの訴えであるところ、本件処分は前記3のとおり取り消されるべきものであるから、本件義務付けの訴えは適法である(同法37条の3第1項2号)。 そして、前記3のとおり本件処分の取消しの訴えに係る請求に理由があり、 かつ、前提事実によれば、原告は、本件処分の時点で、特定誕生日(令和▲年▲月▲日)の40日前の日前5年間において、違反行為又は道交法施行令別表第4若しくは第5に掲げる行為をしたことがなく(前提事実⑶)、福岡県公安委員会が、その免許区分を優良運転者とする免許証の更新処分をすべきであることが道交法及び道交法施行令の規定から明らかであるから、同委員会に対し、 当該処分をすべき旨を命ずべきである(行政事件訴訟法37条の3第5項)。 第4 結論よ 許証の更新処分をすべきであることが道交法及び道交法施行令の規定から明らかであるから、同委員会に対し、 当該処分をすべき旨を命ずべきである(行政事件訴訟法37条の3第5項)。 第4 結論よって、原告の請求はいずれも理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官林 史高 裁判官溝渕章展 裁判官加納紅実 (別紙1)当事者目録省略 (別紙2)関連法令の定め等 ⑴ 免許証の更新に関する道路交通法(以下「道交法」という。)及び道路交通法施行令(以下「道交法施行令」という。)の定め ア道交法101条1項は、免許証の更新を受けようとする者は、当該免許証の有効期間が満了する日の直前のその者の誕生日(以下「特定誕生日」という。)の1月前から当該免許証の有効期間が満了する日までの間に、その者の住所地を管轄する都道府県公安委員会に内閣府令で定める様式の更新申請書を提出しなければならない旨を規定する。 イ道交法92条の2第1項は、第一種免許及び第二種免許に係る免許証の有効期間について、免許証の交付又は更新を受けた者の区分(免許区分)及び更新日等における年齢に応じて定めることとし、免許区分として、「優良運転者」、「一般運転者」及び「違反運転者等」を規定している。 ウ優良運転者とは、更新日等までに継続して免許を受けている期間が5年以 上である者であって自動車等の運転に関する道交法の規定等の遵守の状況が優良な者として政令で定める基準に適合するものをいい(道交法92条の2第1項の表の備考 続して免許を受けている期間が5年以 上である者であって自動車等の運転に関する道交法の規定等の遵守の状況が優良な者として政令で定める基準に適合するものをいい(道交法92条の2第1項の表の備考一の2)、道交法施行令33条の7第1項1号は、上記「政令で定める基準」として、免許証の更新を受けた者(以下「免許更新者」という。)については、特定誕生日の40日前の日前5年間において、違反行為 又は道交法施行令別表第4若しくは第5に掲げる行為をしたことがないことと規定する。 上記違反行為とは、一般違反行為(自動車等の運転に関し道交法の規定等に違反する行為で道交法施行令別表第2の1の表の上欄に掲げるもの。道交法施行令33条の2第1項1号柱書き参照)及び特定違反行為(道交法施行 令別表第2の2の表の上欄に掲げる行為。同条2項1号柱書き参照)をいう(道交法施行令33条の2第3項柱書き)。 エ違反運転者等とは、更新日等までに継続して免許を受けている期間が5年以上である者であって自動車等の運転に関する道交法の規定等の遵守の状況が不良な者として政令で定める基準に該当するもの又は当該期間が5年未満 である者をいい(道交法92条の2第1項の表の備考一の4)、道交法施行令33条の7第2項は、上記「政令で定める基準」を定めている。 オ一般運転者とは、優良運転者又は違反運転者等以外の者をいう(道交法92条の2第1項の表の備考一の3)。 ⑵ 座席ベルトの装着義務に関する定め ア道交法71条の3第1項は、自動車の運転者は、座席ベルトを装着しないで自動車を運転してはならないと規定する。 イ座席ベルトの装着義務違反は、道交法施行令別表第2の1の表の上欄に掲げられている一般違反行為であり、同表に定める基礎点 者は、座席ベルトを装着しないで自動車を運転してはならないと規定する。 イ座席ベルトの装着義務違反は、道交法施行令別表第2の1の表の上欄に掲げられている一般違反行為であり、同表に定める基礎点数が1点とされている。 したがって、特定誕生日の40日前の日前5年間において座席ベルト装着義務違反を1回行った免許更新者の免許区分は、優良運転者ではなく、一般運転者となる。 以上
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