平成23(ワ)23424 損害賠償等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年4月18日 東京地方裁判所
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判決文本文87,766 文字)

平成26年4月18日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成23年(ワ)第23424号損害賠償等請求事件口頭弁論終結日平成26年2月26日判決滋賀県栗東市<以下略>原告A原告訴訟代理人弁護士中田祐児同島尾大次同高木誠一郎同益田歩美山口県下関市<以下略>被告株式会社デコス山口県下関市<以下略>被告B被告ら訴訟代理人弁護士沖田哲義同山根康路同大野幹憲同片山智裕同神庭雅俊 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告株式会社デコスは,原告に対し,2億6760万円 求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告株式会社デコスは,原告に対し,2億6760万円及びこれに対する平成23年8月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合に - 2 -よる金員を支払え。 2 被告Bは,原告に対し,220万円及びこれに対する平成23年8月6日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告Bは,原告に対し,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を,別紙謝罪広告掲載要領記載の掲載条件で,1回掲載せよ。 4 訴訟費用は被告らの負担とする。 5 第1,第2項について仮執行宣言第2 事案の概要本件は,原告が,被告株式会社デコス(以下「被告会社」という。)に対し,被告B(以下「被告B」という。)を発明者とし,被告会社が出願して特許権を取得した,発明の名称を「建物の断熱・防音工法」とする特許権(特許第3982935号。以下「本件特許権」といい,その発明を「本件特許発明」という。)について,その発明は,被告会社在職中に原告によりなされた職務発明であって,被告Bは発明者ではなく,被告会社は特許を受ける権利を原告から承継して出願したものであると主張して,(1)被告会社に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条3項に基づく相当対価請求として2億6760万円及びこれに対する被告会社への訴状送達の日の翌日である平成23年8月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨第1項)を,被告Bに対し,(2)上記のとおり,原告が発明者であるにもかかわらず,被告Bが本件特許発明の発明者であるとして自らが代表者を務める被告会社を 5分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨第1項)を,被告Bに対し,(2)上記のとおり,原告が発明者であるにもかかわらず,被告Bが本件特許発明の発明者であるとして自らが代表者を務める被告会社を通じて特許申請をして登録され,特許証に被告Bの氏名が記載されたことにより,原告の発明者名誉権を侵害したとして,不法行為に基づく損害賠償として220万円及びこれに対する被告Bへの訴状送達日である平成23年8月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨第2項),(3)名誉回復のための謝罪広告の掲載(請求の趣旨第3項)を,それぞれ求めた事案 - 3 -である。 1 前提事実(証拠の摘示のない事実は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者原告は,平成7年10月,被告会社の関連会社である訴外株式会社B工務店(昭和41年1月12日設立〔甲4〕。以下「B工務店」という。)にハウスボディ部長として入社した後,平成8年9月に被告会社に営業部長として移籍した。その後,平成16年7月頃から被告会社の取締役副社長に就任していたが,平成21年5月15日に取締役を退任した。 被告会社は,B工務店の関連会社として昭和49年8月30日に設立された旧「株式会社B不動産商事」から平成8年8月26日に商号変更された株式会社であり,建築資材の製造販売等を目的としている。 被告Bは,被告会社,B工務店の各代表取締役である。 (2) 本件特許権の概要本件特許権の内容は,別紙特許公報(本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)記載のとおりであるが,その概要は以下のとおりである。 〔甲2〕特許番号特許第3982935号登録日平成 に係る明細書を「本件明細書」という。)記載のとおりであるが,その概要は以下のとおりである。 〔甲2〕特許番号特許第3982935号登録日平成19年7月13日発明の名称建物の断熱・防音工法出願日平成11年1月25日公開日平成12年8月2日特許権者被告会社(3) 本件特許権の特許証の発明者の記載本件特許権の特許証には,発明者として被告Bが記載されている。〔乙18〕(4) 本件特許発明の出願経過等 - 4 -本件特許発明の出願から特許査定,登録に至る経緯及び通知ないし手続の内容は,概ね以下のとおりである。 ・平成11年1月25日被告会社による本件特許発明の出願(請求項の数4,乙14〔特許願〕。以下,この出願時の明細書を「当初明細書」といい,そこに記載の請求項1ないし4につき,「当初明細書の請求項1」ないし「当初明細書の請求項4」という。)・平成12年8月2日出願公開(甲12〔公開公報〕)・平成17年2月7日審査請求・平成19年1月15日拒絶理由通知(甲29)同通知に記載された拒絶理由は,以下のとおりである。 当初明細書の請求項1,2につき,特開平9-32143号公報(以下「引用文献1」という。甲30),実願平1-43544号〔実開平2-134108号〕のマイクロフィルム(以下「引用文献2」という。甲69)による進歩性欠如。 当初明細書の請求項3につき,引用文献1,2及び実願昭61-143481号〔実開昭63-51003号〕のマイクロフィルム(以下 以下「引用文献2」という。甲69)による進歩性欠如。 当初明細書の請求項3につき,引用文献1,2及び実願昭61-143481号〔実開昭63-51003号〕のマイクロフィルム(以下「引用文献3」という。甲70)による進歩性欠如。 当初明細書の請求項4につき,引用文献1,2,及び実願昭54-035331号〔実開昭55-136723号〕のマイクロフィルム)による進歩性欠如・平成19年3月12日意見書(甲33,乙16の2)及び手続補正書の提出(以下,この補正を「本件補正」という。甲36,乙16の1)本件補正の内容は,特許請求の範囲を後記(5)の特許請求の範囲,請求項1記載のとおりに補正し(請求項の数1。),当初明細書の段落【0005】の記載を変更し,同【0006】ないし同【0008】を削除するとするものである。 - 5 -・平成19年5月29日特許査定(乙17)・平成19年7月13日特許登録(乙18)(5) 本件特許発明についての特許請求の範囲の記載本件特許発明についての特許請求の範囲の記載は以下のとおりである(括弧内は当裁判所の挿入であり,各段落毎の工程についての分説及び各段落末尾の括弧内の記載は,各段落毎に記載された工程の名称として当事者間に争いがない。なお,請求項1の第1段落,最終段落は,工程としては含まれない。以下,各段落の工程について,括弧内の名称を用いることとする。)。 「【請求項1】建物の外壁内にセルロースファイバーなどの木質繊維を施工することにより外壁の断熱・防音性能を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁内に,柱又は間柱を介して,外壁側に透湿性及び防水性 内にセルロースファイバーなどの木質繊維を施工することにより外壁の断熱・防音性能を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁内に,柱又は間柱を介して,外壁側に透湿性及び防水性を有するエアシートを配置すると共に,内壁側に通気性素材により形成された内張りシートであって高さが床上から2mの内張りシートを配置することにより,前記柱又は間柱,前記エアシート,及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成する外壁内空間形成工程と,〔外壁内空間形成工程〕前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記内張りシートの面積と前記柱又は間柱の厚さとから規定される前記空間の容積に基づいて,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を前記空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填するために必要な前記木質繊維の量を算出する木質繊維量算出工程と,〔木質繊維量算出工程〕前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記木質繊維量 - 6 -算出工程の後に,前記木質繊維量算出工程で算出された量の,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を,前記空間内に吹き込むための専用の施工機にセットする木質繊維セット工程と,〔木質繊維セット工程〕前記内張りシートの中央より下方の位置であって床上から50cmの位置に,前記施工機の吹き込み用ホースを挿入するための第1の吹き込み穴を形成する第1の吹き込み穴形成工程と,〔第1の吹き込み穴形成工程〕前記第1の吹き込み穴から,前記空間内の下方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第1吹込み工程と,〔第1吹込み工程〕前記内張りシートの中央より上方の位置であって床上から150cmの位置に,前記施工機の吹き 向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第1吹込み工程と,〔第1吹込み工程〕前記内張りシートの中央より上方の位置であって床上から150cmの位置に,前記施工機の吹き込み用ホースを挿入するための第2の吹き込み穴を形成する第2の吹き込み穴形成工程と,〔第2の吹き込み穴形成工程〕前記第2の吹き込み穴から,前記空間内の下方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第2吹込み工程と,〔第2吹込み工程〕前記第2の吹き込み穴から,前記空間内の上方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第3吹込み工程と,〔第3吹込み工程〕を含み,以上により,前記空間内に前記木質繊維を1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填させるようにした,ことを特徴とする建物の断熱・防音工法。」(6) 原告に対する被告会社からの給与等の支払状況被告会社から,原告に対し,平成12年以降給与及び賞与等として,平成12年ないし平成16年につき年間900万円の給与,平成17年につき - 7 -996万円の給与及び30万円の賞与,平成18年につき996万円の給与,平成19年につき1016万円の給与及び平成19年2月28日に100万円の賞与,平成20年につき1070万円の給与及び150万円の賞与,平成21年は450万円の給与,の各支払がされている。〔乙6の1,6の9〕(7) 別件訴訟の経過等原告は,被告会社,B工務店及び訴外株式会社風土社に対し,不正競争行為に基づく損害回復等を求める訴訟を当庁に提起した(平成23年(ワ)第5864号)。その内容は,原告が,被告会社らが施工するデコスドライ工法の有用性を認め賛美している旨等の虚 土社に対し,不正競争行為に基づく損害回復等を求める訴訟を当庁に提起した(平成23年(ワ)第5864号)。その内容は,原告が,被告会社らが施工するデコスドライ工法の有用性を認め賛美している旨等の虚偽の事実を告知流布しているとして不正競争防止法2条1項14号等に基づき,謝罪広告の掲載等を求めたものであるところ,平成24年2月6日に原告の請求をいずれも棄却する旨の判決(乙9)がされ,この判決は確定した。 (8) 本件訴訟の経過等原告は,平成23年7月15日に,被告会社に対し,本件特許権につき原告への移転登録手続をすること,及び,本件特許の実施料相当額につき不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得の返還として金員の支払を,被告Bに対し,発明者の名誉を侵害する不法行為に基づく損害賠償金の支払等を求める本件訴訟を提起した。 原告は,平成24年5月10日付け原告第3準備書面(被告ら平成24年5月10日受領〔当裁判所に顕著〕)において,被告会社に対し,職務発明対価の支払を求める意思を表明した後(なお,同準備書面のうちの職務発明対価の支払を求める部分は不陳述),同年8月21日の第5回弁論準備手続期日において陳述された同年5月29日付け訴えの変更申立書(同年6月7日送達)において,追加的に,被告会社に対し,職務発明対価の支払を求める訴えを予備的に併合提起したが,その後,同年12月11日 - 8 -第7回弁論準備手続期日において陳述された同年11月19日付け訴えの変更申立書(2)において,上記移転登録手続に係る主位的請求を取り下げ,被告は,同取下げに同意した。 (9) 消滅時効援用の意思表示被告会社は,平成24年10月9日の第6回弁論準備手続期日において,原告の職務発明対価請求について,消滅時効 取り下げ,被告は,同取下げに同意した。 (9) 消滅時効援用の意思表示被告会社は,平成24年10月9日の第6回弁論準備手続期日において,原告の職務発明対価請求について,消滅時効の援用の意思表示をした。 (10) 被告会社における職務発明規定等被告会社においては,従業員の職務発明についての特許を受ける権利の承継及び対価算定等を定める職務発明規定等が存したことはない。 2 争点(1) 原告は,本件特許発明の発明者か否か(2) 原告が本件特許発明の発明者であるとした場合,本件特許発明が職務発明に該当し,これにつき被告会社は,原告から特許を受ける権利を承継したか(3) 被告会社は,本件特許発明を実施しているか(4) 被告会社が本件特許発明の特許を受ける権利を承継したとした場合,原告が受けるべき相当対価の額(5) 原告の職務発明相当対価請求権の時効消滅の成否(6) 相当対価請求権についての時効中断の成否(7) 被告会社による消滅時効の援用が権利の濫用に当たるか(8) 被告Bについて発明者名誉権侵害の不法行為が成立するか,成立するとした場合の原告の損害額(9) 被告Bについて発明者名誉権侵害が成立するとした場合の,謝罪広告掲載の要否第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(原告は本件特許の発明者か否か)について - 9 -〔原告の主張〕(1) 本件特許発明の特徴的部分についてア本件特許発明の技術的思想の特徴的部分は,以下に説明するとおり,穴が開いていない内張りシートを外壁内の内壁側に張って外壁内空間を形成し,同シートに第1,第2の吹き込み穴を順次開けて,セルロースファイバーを順次吹き込むところにあ 的部分は,以下に説明するとおり,穴が開いていない内張りシートを外壁内の内壁側に張って外壁内空間を形成し,同シートに第1,第2の吹き込み穴を順次開けて,セルロースファイバーを順次吹き込むところにある。 (ア) 当初明細書の請求項1は,外壁内空間にセルロースファイバーを約50~60kg/㎥で充填させることを特徴とするもの,同請求項2は,同請求項1の特徴に加えて,外壁内空間の内壁側に内張りシートを張ることを特徴とするもの,同請求項3は,同請求項2の特徴に加えて,第1の穴,第2の穴から順次,セルロースファイバーを充填させることを特徴とするものであり,当初明細書によれば,第1の穴,第2の穴から順次,セルロースファイバーを充填させることは,望ましいとされるに留まっていた。 すなわち,被告会社は,出願当時,後記のとおり原告が平成2年頃に考案した,壁内にセルロースファイバーを一定の密度(約50~60kg/㎥)で充填することによりその沈降を回避するという工法につき,新規性,進歩性を有する発明であると考えて,同工法の発明について特許を取得しようとしていた(当初明細書の請求項1)。これに対し,被告会社は,外壁内空間の内壁側に内張りシートを張ること,第1の穴,第2の穴から順次,セルロースファイバーを充填させることは,必ずしも発明の特徴的部分そのものであるとは考えていなかった。 (イ) これに対し特許庁審査官は,上記第2,1(4)記載のとおり,引用文献1ないし3により,進歩性の欠如を理由として当初明細書の請求項1ないし4につき,いずれも出願を拒絶した。これに対し被告会社が行った本件補正では,当初明細書の請求項3を基本とし,その進歩性に関し, - 10 -本件特許発明の工程を以下のその1,その2の二つに分類して,進歩性があ した。これに対し被告会社が行った本件補正では,当初明細書の請求項3を基本とし,その進歩性に関し, - 10 -本件特許発明の工程を以下のその1,その2の二つに分類して,進歩性がある旨を主張した。〔意見書,甲33〕・進歩性その1(a)外壁内空間形成工程(B)木質繊維量算出工程(c)木質繊維セット工程・進歩性その2(d)第1の吹き込み穴形成工程と(e)第1吹込み工程と(f)第2の吹き込み穴を形成工程と(g)第2吹込み工程と(h)第3吹込み工程(ウ) しかし,拒絶理由通知書で指摘されたとおり,本件特許発明の出願当時,セルロースファイバーを接着剤なしでほとんど沈降させずに密度45kg/㎥以上で充填する工法は,引用文献1に記載のとおり既に知られていたところ,その数値範囲を約50~60kg/㎥と限定することによって,沈降がほぼ完全になくなるとはいえ,そのことのみをもって進歩性があるとまでは認められず,かつ,50,60の各数値における臨界的意義等の際立った効果も認められないのであるから,上記(B),(c)は,いずれも本件特許発明を特徴づけるものとはいえない。 これに対し,上記(a)は,引用文献2と比して,外壁内の外壁側に外張りシート,内壁側に内張りシートをそれぞれ張って,外壁内空間を形成する点が異なる。もっとも,外壁内の外壁側に外張りシートを張るのは,ごく一般的な施工方法である。そうすると,被告会社主張にかかる進歩性その1のうちの工程のうち,進歩性があるのは,上記(a)に関する,「外壁内の内壁側に内張りシートを張って外壁内空間を形成す - 11 -ること」である。 告会社主張にかかる進歩性その1のうちの工程のうち,進歩性があるのは,上記(a)に関する,「外壁内の内壁側に内張りシートを張って外壁内空間を形成す - 11 -ること」である。 (エ) また,拒絶理由通知書で指摘されたとおり,本件特許発明の出願当時,予め複数の穴を開けておいた石膏ボード内にセルロースファイバーを吹き込んで充填する工法は,引用文献3に記載のとおり既に知られていた。 これに対し,上記(d),(e),(f),(g)及び(h)は,穴が開いていない内張りシートに,まず,床上から50㎝の位置に第1の吹き込み穴を開けてセルロースファイバーを吹き込み,次に,床上から150㎝の位置に第2の吹き込み穴を開けてセルロースファイバーを吹き込む点,すなわち,第1,第2の吹き込み穴を順次開けて,セルロースファイバーを順次吹き込む点が引用文献3と異なる。 他方,穴を床上から50㎝,150㎝の各位置に2か所開ける以上,セルロースファイバーにつき,第1の吹き込み穴から約3分の1を,第2の吹き込み穴から下方に向けて約3分の1を,上方に向けて約3分の1をそれぞれ吹き込むのは,ごく自然な施工方法である。 そうすると,被告会社主張にかかる進歩性その2のうち,進歩性があるのは,「穴が開いていない内張りシートにつき,第1,第2の吹き込み穴を順次開けて,セルロースファイバーを順次吹き込むこと」である。 イ以上によれば,本件特許発明の技術的思想の特徴的部分とは,穴が開いていない内張りシートを外壁内の内壁側に張って外壁内空間を形成し,同シートに第1,第2の吹き込み穴を順次開けて,セルロースファイバーを順次吹き込むところにあるといえる。 (2) 上記特徴的部分を発明したのは誰かについてア原告は,以 し,同シートに第1,第2の吹き込み穴を順次開けて,セルロースファイバーを順次吹き込むところにあるといえる。 (2) 上記特徴的部分を発明したのは誰かについてア原告は,以下のとおり,遅くとも平成6年までには,独自のセルロースファイバー断熱乾式工法を確立し,その後も同工法の改良を重ね,遅くとも平成8年までには,より実用性を高めた形で本件特許発明を完成させた。 原告が,本件特許発明の基礎となる独自のセルロースファイバー断熱乾式 - 12 -工法を確立した経緯は,以下のとおりである。 (ア) セルロースファイバー断熱の研究の開始原告は,昭和63年12月,株式会社吉水商事(以下「吉水商事」という。)に入社し,セルロースファイバー事業に携わるようになった。 原告は,セルロースファイバーの断熱性能を活かして住宅用の断熱材を開発することを企て,仕事の合間を縫って,ドイツ,アメリカ等の断熱に関する専門書を読み,施工した実際例も見学して,セルロースファイバーの断熱材としての事業化につき,個人的に研究を重ねた。 (イ) 一定の密度での充填による乾式工法の確立a 当初,原告は,昭和63年頃から約2年をかけて,セルロースファイバーに接着剤を使用して壁内に固定する方法(湿式工法)を研究した。 特に,平成元年頃には,我が国におけるセルロースファイバー研究の第一人者である東洋大学のC教授に依頼して,湿式工法の実験をしてもらった。その結果,セルロースファイバーに接着剤を混入して充填すると,セルロースファイバーは,接着剤の水分を含んで重くなるため,壁内に付着するよりも早く,その自重で沈降してしまい,外壁の上部が空洞になってうまく充填できないことが判明した。 を混入して充填すると,セルロースファイバーは,接着剤の水分を含んで重くなるため,壁内に付着するよりも早く,その自重で沈降してしまい,外壁の上部が空洞になってうまく充填できないことが判明した。 それ以外にも,湿式工法では,養生に非常な手間を要する,接着剤による居住者の健康やセルロースファイバー本来の調湿性能に対する悪影響が懸念される等の問題があった。 B このため,原告は,平成元年頃,湿式工法を断念し,代わりに,接着剤を使用しない方法である乾式工法を研究することとした。 そして,原告は,試行錯誤を繰り返した末,平成2年頃,壁内にセルロースファイバーを一定の密度(約50~60kg/㎥)で充填することにより,その沈降を回避するという工法を考案した。この密度の数値は,原告において何十回もの施工を繰り返した末,経験的に会 - 13 -得したものである。 (ウ) 防湿気密層なしでの施工の確立a 原告が乾式工法を確立した平成2年当時の,財団法人「建築環境・省エネルギー機構」(以下「省エネ機構」という。)の定める省エネルギー建築技術評定要領に基づく評定である,いわゆる「旧省エネ基準」,及び,その後の平成4年当時の要領に基づく,いわゆる「新省エネ基準」は,セルロースファイバーの沈降の問題から,壁の断熱工事につき,セルロースファイバーを使用した基準を定めていなかった。 また,両基準は,繊維系の断熱材を使用した基準は定めていたものの,室内側に防湿気密層(ポリエチレンシート)を設けることを義務付けていた。 B そこで,原告は,セルロースファイバーが本来有する調湿性能を活かせば,防湿気密層なしでも結露を防止できるものと考えて,平成3年夏,国立秋田工 ト)を設けることを義務付けていた。 B そこで,原告は,セルロースファイバーが本来有する調湿性能を活かせば,防湿気密層なしでも結露を防止できるものと考えて,平成3年夏,国立秋田工業高等専門学校(以下「秋田高専」という。)のD教授(以下「D教授」という。)に対し,セルロースファイバーの結露防止性能に関する実験を依頼した。 D教授は実験棟を2棟建築してグラスウールとセルロースファイバーとで調湿性能の対照実験等を行った。平成4年12月から平成5年2月にかけては,2棟とも天井,壁,床にセルロースファイバーを充填し,一方には防湿気密層を設け,他方にはこれを設けない状態で,暖房・加湿を行った。 その結果,防湿気密層を設けても,セルロースファイバーの断熱性能は変化しないのに,建物全体の透湿性能が低下し,一部に結露が生じる恐れがあり,防湿気密層は内部結露防止対策とならないことが判明した。 (エ) 原告による独自のセルロースファイバー断熱乾式工法の確立 - 14 -こうして,原告は,セルロースファイバー事業化に際しての大きな問題である,セルロースファイバーの沈降及び防湿気密層の設置の問題を解決し,かつ,これらの実験結果等を踏まえて,セルロースファイバー断熱の施工を重ねて乾式工法の改良を行い,遅くとも平成6年までには,独自のセルロースファイバー断熱乾式工法を確立した。 この工法こそが,本件特許発明の基礎となるものである。 イ原告が,同工法の改良を重ね,遅くとも平成8年までには,より実用性を高めた形で本件特許発明を完成させた経緯(ア) 外壁内空間形成工程の確立a 一般の在来工法では,垂直方向に立つ柱,間柱(まばしら を重ね,遅くとも平成8年までには,より実用性を高めた形で本件特許発明を完成させた経緯(ア) 外壁内空間形成工程の確立a 一般の在来工法では,垂直方向に立つ柱,間柱(まばしら。柱と柱の間に取り付けられる壁下地用の垂直材)を挟んで,屋外側に外壁が,屋内側に内壁が,それぞれ張られる。 また,外壁と柱,間柱との間(外壁側)には,通常,透湿防水シート(本件明細書にいう「エアシート」。以下「外張りシート」という。)が張り付けられる。同シートは,ポリエステル製の不織布(ふしょくふ。繊維を合成樹脂その他の接着剤で接合して布状にしたもの)であって,透湿性,防水・撥水性を有しており,外壁内の湿気を逃がして結露を防ぐとともに,室内に雨水が流入するのを防ぐ役割を果たしている。 B 原告が平成2年頃に考案した乾式工法は,この外壁内(外壁,外張りシート,内壁,柱,間柱等で仕切られた空間)に,送風機(ブロア,ブロワ)でセルロースファイバーを吹き込んで充填するというものである。 そのため,原告は,十條木材株式会社(平成2年当時。現在の商号は日本製紙木材株式会社。以下「十條木材」という。)の施工機を真似て,平成2年頃,原告専用の施工機を設計し,福井市の鉄工所に発注 - 15 -してこれを製造させた(甲23)。 なお,原告は,その後,平成7年にB工務店に引き抜かれる形で転職するまでの約5年間に,全国の工務店に対し,この施工機を約40台販売している。B工務店も,内2台を購入し,現在も被告会社がこれを所有している。また,被告会社が加盟店に販売する施工機「デコスマシン」は,同施工機を真似て作ったものである(甲24)。 c 前記のとおり,外壁側には,外張りシートが張ら 在も被告会社がこれを所有している。また,被告会社が加盟店に販売する施工機「デコスマシン」は,同施工機を真似て作ったものである(甲24)。 c 前記のとおり,外壁側には,外張りシートが張られるが,内壁と柱,間柱との間(内壁側)には,通常,シートが張られない。 しかし,充填したセルロースファイバーは,外壁内で一定の密度(約50~60kg/㎥)を保って滞留しなければならず,屋外,室内に流出してはならない。そこで,内壁側にも,何らかのシートを張って,セルロースファイバーが外壁の外へ流出するのを防ぐ必要がある(以下,この内壁側に張るシートを「内張りシート」という。)。 他方,同施工機は,約150kg/時という吹き込み能力しか有しておらず,必ずしも施工効率が高くなかったため,吹き込みに長時間を要した場合,外壁内のセルロースファイバーの密度が約50~60kg/㎥(理想的には約55kg/㎥)に達する前に,先に吹き込んだセルロースファイバーの沈降が始まるおそれがあった。また,同施工機でセルロースファイバーを吹き込む過程で外壁内に送り込まれた空気が,同所で滞留すると,吹き込む時の抵抗が大きくなって,施工効率が下がる。 そこで,同施工機の吹き込み能力の不足を補い,短時間で吹き込みを完了するためには,セルロースファイバーが外壁内の外へ流出せず,かつ,先に吹き込んだ空気が外壁内から速やかに抜ける性能を有する内張りシートを用いる必要があった。 d そこで,原告は,まず,平成2年頃,内張りシートとして,寒冷紗 - 16 -(かんれいしゃ。木綿やナイロンなどをごく粗めに織った薄地の綿布)を試してみた。寒冷紗は,目が粗く,空気が抜けやすいからである。しかし,実際に施工してみると,寒冷紗では,約200 - 16 -(かんれいしゃ。木綿やナイロンなどをごく粗めに織った薄地の綿布)を試してみた。寒冷紗は,目が粗く,空気が抜けやすいからである。しかし,実際に施工してみると,寒冷紗では,約200kg/時という高い施工効率を達成できた反面,目が粗すぎて,セルロースファイバーの粉塵がこの目を通り抜けて大量に室内に流入し,煙のように舞い上がるという現象を生じ,施主からのクレームが頻発した。 e 次に,原告は,平成3年頃,内張りシートとして,福井市に本店を有し,東証一部上場の繊維メーカーであるセーレン株式会社(以下「セーレン」という。)製の透湿防水シート(商品名「ラミテクトHi」,甲25)を内壁側に張ってみた。透湿防水シートは,外壁側に張られる外張りシートと同じものであって,透湿性を有しており,透湿性能を低下させる防湿気密層(ポリエチレンシート)とは別物である。 しかし,透湿防水シートは,目が小さすぎたため,空気がうまく抜けず,シート自体が風船のように膨らんで外壁内に空気が溜まってしまい,セルロースファイバーがうまく充填できなかったので,原告は,セーレンに対し,一般の透湿防水シートをベースとして,適度に空気が抜け,かつ,粉塵が外壁の外へ流出しないように,改良を加えた試作品を作ってもらい,それを使って実際に施工し,その性能を確かめた上で,更に改良点を指摘して改良してもらうという作業を繰り返した。 f 原告が目指した内張りシートは,具体的には,次の三つの性能を備えたものであった。 ① 充填作業の確認のため,シートが薄く,目視で外壁内のセルロースファイバーの充填状況が確認できること② シートに吹き込み穴を空けるべく切り込みを付けたときに切り込 - 17 -みが一方方向(外壁 トが薄く,目視で外壁内のセルロースファイバーの充填状況が確認できること② シートに吹き込み穴を空けるべく切り込みを付けたときに切り込 - 17 -みが一方方向(外壁内方向)のみに裂け,吹き込みの際にセルロースファイバーが吹き込み穴から外へ逆流して噴出する恐れがないこと③ 吹き込んだときに,シートから空気だけが抜け,セルロースファイバーの粉塵が抜けないこと。 g セーレンが平成23年12月頃に作成した「セルローズ内張りシート評価表」(甲26)は,このような試行錯誤を経て作られた試作品を比較対照して評価したものである。これによれば,試作品A,B,Cは,それぞれ厚さ,引張強力,引裂強力,通気量が異なること,上記三つの観点から評価したとき,試作品Cが最も上記各性能を備えていること等が分かる。原告は,セーレンに少なくとも20数回は試作品を製作してもらい,テストを繰り返し,平成5年ないし6年頃,この試作品Cをもとにようやく納得のいく内張りシートとしてセルローズ専用内張りシート(甲27)を完成させた。以後,原告は,セーレンに同シートを製造してもらい,これを内張りシートとして,セルロースファイバー断熱に使用し,粉塵の流出を生じさせることなく充填できるようになった。 h こうして,原告は,B工務店に引き抜かれる前の平成5,6年頃までに,本件特許発明における外壁内空間形成工程(外壁内に,柱又は間柱を介して,外壁側に透湿性及び防水性を有するエアシートを配置すると共に,内壁側に通気性素材により形成された内張りシートであって高さが床上から2mの内張りシートを配置することにより,前記柱又は間柱,前記エアシート,及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成する)を確立した。 材により形成された内張りシートであって高さが床上から2mの内張りシートを配置することにより,前記柱又は間柱,前記エアシート,及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成する)を確立した。 (イ) 第1の吹き込み穴形成工程及び第1吹込み工程,並びに,第2の吹き込み穴形成工程,第2吹込み工程及び第3吹込み工程の確立 - 18 -a 原告は,平成2年頃に乾式工法を考案して以来,内張りシートに吹き込み穴を開け,同穴に前記施工機の吹き込み用ホースを挿入して,外壁内にセルロースファイバーを吹き込んで充填してきた。 しかし,内張りシートの仕様が確立しなかったため,どの場所に,いくつ穴を開けるか,どの順序で吹き込み作業を行うか等の施工の詳細は確立せず,原告は,施工の度に様々な方法を試すほかなかった。 たとえば,秋田高専のD教授が平成4年12月から平成5年2月にかけて行った実験の際には,原告は,実験棟の内張りシートに,縦に4個の穴を開けて吹き込み作業を行っている(甲8,90頁掲載の写真)。 B 上記のとおり,平成5年ないし6年頃,原告は,ようやく納得のいくセルローズ内張りシートを完成させたが,原告は,同シートを使用することを前提に,吹き込み穴の位置,数等を含む吹き込み作業の詳細につき,施工の都度,条件を変えて,改めて試行錯誤を繰り返した。 吹き込み穴の数は,最初は,1個から始め,次第に数を増やしていき,多いときには7,8個にも達した。この点,穴の数が多いと,充填精度はより高くなるが,反面,作業効率は悪くなる。また,吹き込み穴の位置も,高さや穴同士の位置関係を変えるなどして,様々なパターンを試してみた。たとえば,2mの内張りシートにつき,床上から70cmの位置や,2mを三等分した位置も試し は悪くなる。また,吹き込み穴の位置も,高さや穴同士の位置関係を変えるなどして,様々なパターンを試してみた。たとえば,2mの内張りシートにつき,床上から70cmの位置や,2mを三等分した位置も試してみた。 こうして,原告は,吹き込み作業を繰り返し,適切な吹き込み穴の位置,数等を探究した。 c この間の平成7年,原告は,被告Bに引き抜かれる形で,B工務店に入社した。同時点では,吹き込み穴の位置は,未だ定まっておらず,数は,概ね2か所に定まりつつあったものの,全体として,工程はなお試行錯誤中であった。 - 19 -d 吹き込み穴の数を多くすると,見栄えが悪いのみならず,そこからセルロースファイバーの粉塵が外壁の外へ逆流する恐れがある。また,その位置は,作業員の作業効率を考えると,高すぎず,低すぎず,作業がしやすい一定の高さが望ましい。 加えて,外壁内のセルロースファイバーの密度ができる限り約55kg/㎥に近付くように施工精度を確保しなければならない。 これらの観点から試行錯誤を繰り返した結果,原告は,平成8年頃,最終的に吹き込み穴の位置は床上から50cm,150cmの2か所とし,先に下の穴を開け,そこからセルロースファイバーを吹き込み,次に上の穴を開け,そこからセルロースファイバーを吹き込むという工程を確立した。 e こうして,原告は,平成8年頃から,被告会社において,上記工程によるセルロースファイバー断熱を行うようになった。当初は,内張りシートが無地であったため,墨壺を用いて床上から50cm,150cmの2か所に墨で線を入れていた。 しかし,施工の都度,墨で線を入れるのは,手間が掛かるのみならず,作業員の墨入れの技術の巧拙によって施工の精度が安定しなかった。 f このため,原告 0cmの2か所に墨で線を入れていた。 しかし,施工の都度,墨で線を入れるのは,手間が掛かるのみならず,作業員の墨入れの技術の巧拙によって施工の精度が安定しなかった。 f このため,原告は,平成9年頃から,セーレンに依頼して,上記セルローズ専用内張りシートに50mm間隔の格子の柄を印刷してもらうようにした。これが格子柄付きのセルローズ専用内張りシート(甲28)である。このシートを使うことによって,墨入れの手間が省けるようになるとともに,施工精度も安定するようになった。 g こうして,原告は,遅くとも平成8年頃までに,本件特許発明における第1の吹き込み穴形成工程(前記内張りシートの中央より下方の位置であって床上から50cmの位置に,前記施工機の吹き込み用ホ - 20 -ースを挿入するための第1の吹き込み穴を形成する)及び第1吹込み工程(前記第1の吹き込み穴から,前記空間内の下方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む),並びに,第2の吹き込み穴形成工程(前記内張りシートの中央より上方の位置であって床上から150cmの位置に,前記施工機の吹き込み用ホースを挿入するための第2の吹き込み穴を形成する),第2吹込み工程(前記第2の吹き込み穴から,前記空間内の下方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む)及び第3吹込み工程(前記第2の吹き込み穴から,前記空間内の上方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む)を確立した。 (ウ) 木質繊維量算出工程及び木質繊維セット工程の確立a 上記のとおり,原告は,B工務店に引き抜かれる前の平成5,6年頃までに,本件特許発明における外壁内空間形成工程を確立した。 その外壁空間内に,セルロースファイバーを 程の確立a 上記のとおり,原告は,B工務店に引き抜かれる前の平成5,6年頃までに,本件特許発明における外壁内空間形成工程を確立した。 その外壁空間内に,セルロースファイバーを一定の密度(約50~60kg/㎥)で充填するには,その前提として,当然,外壁内空間の容積に合わせた木質繊維量を算出し,これを前記施工機にセットする工程が必要である。 したがって,原告は,外壁内空間形成工程を確立するのと同時に,その容積に合わせた木質繊維量を算出し,木質繊維をセットする工程を確立している。 B なお,原告は,その後,被告会社が代理店を増やしていく過程で,新たに加盟した代理店向けの施工研修において,その作業員に対し,セルロースファイバー断熱の工事施工工程をレクチャーする必要を生じた。 そこで,原告は,平成10年頃,建築予定の建物の立面図に基づき,外壁部分の面積を算出し,これから開口部(ドア,窓等)の面積を引 - 21 -いて施工容積を計算し,これに1㎥当たり55kgを乗じ,柱,間柱等の数に応じて0.9などの係数を乗じて調整するなどの手順を経て,セルロースファイバーの量を算出する方法につき,書面化したマニュアルを作成している。同マニュアルは,現在も被告会社において,施工研修等のレクチャー用に使用されている。 c こうして,原告は,遅くとも平成5,6年頃までに,本件特許発明における木質繊維量算出工程(前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記内張りシートの面積と前記柱又は間柱の厚さとから規定される前記空間の容積に基づいて,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を前記空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填するために必要な前記木質繊維 と前記柱又は間柱の厚さとから規定される前記空間の容積に基づいて,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を前記空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填するために必要な前記木質繊維の量を算出する),及び,木質繊維セット工程(前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記木質繊維量算出工程の後に,前記木質繊維量算出工程で算出された量の,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を,前記空間内に吹き込むための専用の施工機にセットする)を確立した。 (エ) 原告による本件特許発明の完成及びその時期本件特許発明は,建物の断熱・防音工法に関する発明であって,(1)外壁内空間形成工程,(2)木質繊維量算出工程及び木質繊維セット工程,(3)第1の吹き込み穴形成工程及び第1吹込み工程,(4)第2の吹き込み穴形成工程,第2吹込み工程及び第3吹込み工程とから成る。原告は,遅くとも平成6年までに確立した独自のセルロースファイバー断熱乾式工法を基礎として,同工法の改良を重ね,試行錯誤を繰り返す中で,上記のとおり,(1)ないし(4)の各工程を順次確立させ,遅くとも平成8年までには,より実用性を高めた形で本件特許発明を完成させたものである。 ウ本件特許発明の発明者は原告であること - 22 -(ア) 原告は,B工務店に転職する前の平成5,6年頃までに,本件特許発明における外壁内空間形成工程を確立した。また,原告は,遅くとも平成8年頃までに,第1の吹き込み穴形成工程及び第1吹込み工程,並びに,第2の吹き込み穴形成工程,第2吹込み工程及び第3吹込み工程を確立した。 これらの各工程を確立する過程で,原告は,穴が開いていない内張りシートを外壁内の内壁側に張って外壁内空間を形成し,同シ 2の吹き込み穴形成工程,第2吹込み工程及び第3吹込み工程を確立した。 これらの各工程を確立する過程で,原告は,穴が開いていない内張りシートを外壁内の内壁側に張って外壁内空間を形成し,同シートに第1,第2の吹き込み穴を順次開けて,セルロースファイバーを順次吹き込むという本件特許発明の技術的思想の特徴的部分を着想し,それを具体化することに創作的に関与している。 したがって,原告は,本件特許発明の発明者である。 (イ) この点に関して被告らは,本件特許発明の発明者は,特許公報及び特許証に記載されているとおり被告Bであると主張する。 しかし,被告Bは,上記認定の経過からすれば,本件特許発明の技術的思想の特徴的部分を着想し,それを具体化することに何ら創作的に関与していないことは明らかであって,被告Bは本件特許発明の発明者たり得ない。 したがって,被告らの上記主張は失当である。 〔被告らの主張〕(1) 本件特許発明の特徴的部分についてア本件特許発明の特徴的部分は,以下のとおり,他に吹き込み穴を開けないで,内張りシートの高さ2mの約3分の1よりも下方の床上から50cmの位置に吹き込み穴を一つだけ開け,1回目の吹き込みが完了し,充填した木質繊維自体によって吹き込み穴が塞がれた後に上方に吹き込み穴を開けることと,3回の吹き込みに分け1回につき木質繊維の全量の約3分の1の量ずつ吹き込むことにある。 - 23 -(ア) 本件特許発明の本質本件明細書の従来技術の記載によれば,時間の経過と共にセルロースファイバーが自重により沈降してしまうため,セルロースファイバーに接着剤を混入して壁や床に接着していくことにより隙間のない連続的な断熱・防音層を形成していた 記載によれば,時間の経過と共にセルロースファイバーが自重により沈降してしまうため,セルロースファイバーに接着剤を混入して壁や床に接着していくことにより隙間のない連続的な断熱・防音層を形成していたと指摘している。これに対し,発明が解決しようとする課題は,接着剤の乾燥(養生)のために建物全体の施工効率が低下することや,接着剤から発する化学物質が居住者の健康を害する(アレルギー疾患等)おそれがあることとするが,課題を解決するための手段は,要するに特許請求の範囲そのもの,すなわち,前記1(1)ア(イ)(a)ないし(h)の全工程としている。 しかし,本件明細書の想定する従来技術は,接着剤を用いる,いわゆるセルロースファイバー湿式工法を指しており,これを従来技術として比較した場合に,本件特許発明の要点は,セルロースファイバーに接着剤を混入しないこと,すなわち,セルロースファイバー乾式工法をいうことになる。 ところが,セルロースファイバー乾式工法自体は,本件特許発明の出願時点では,公然知られた技術であり,接着剤を混入しないセルロースファイバーの沈降の問題は,充填密度を一定の水準以上にすることにより解決されていた。これは,拒絶理由通知(甲29)において,バインダー(接着剤)なしに壁体内にセルロースファイバーを密度45kg/㎥以上で充填する工法が引用文献1に記載されており,「充填密度…以上との数値範囲を,…と限定することに,進歩性は認められない。また,50,60の各数値における臨界的意義等の際だった効果も認められない」と指摘されているとおりである。 すなわち「外壁内空間に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度」とすることは本件特許発明の本質ではなく,空間内に - 24 -均等に一定の いるとおりである。 すなわち「外壁内空間に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度」とすることは本件特許発明の本質ではなく,空間内に - 24 -均等に一定の吹き込み密度を達成するための効率的な作業工程を標準化した点にこそ本件特許発明の本質がある。そのため,「特許請求の範囲」にも「課題を解決するための手段」にも,前記(a)ないし(h)の全工程が記載されていると理解することができる。 (イ) 各工程の意義について本件特許発明において,各工程が有する意義は,以下のとおりである。 (a)外壁内空間形成工程この工程の要点は,「内壁側に通気性素材により形成された内張りシート」を張る点にあるところ,平成5年頃,当時原告が勤務していた福井市所在の吉水商事は,原告が試作を依頼し,完成したと主張するセーレン製の「内張りシート(無地)」や,専用の施工機(甲23)を全国の工務店等に販売している。その内張りシートを購入した工務店等は,内壁側に通気性素材により形成された内張りシートを張って,セルロースファイバー吹き込み工法を実施している。B工務店も吉水商事から指導員を派遣してもらい,施工指導を受け,この工程に係るノウハウを開示されている。そのため,この工程は,本件特許発明の出願時点では,公然と知られた技術である。 (B)木質繊維量算出工程この工程は,外壁内空間に一定の吹き込み密度を達成する場合にその容積から必要な木質繊維の量を算出することは,単純な計算をするだけであるから,進歩性はみられない。 (c)木質繊維セット工程上記(B)で算出された量の木質繊維を専用の施工機にセットするのみの工程であり,進歩性はみ 純な計算をするだけであるから,進歩性はみられない。 (c)木質繊維セット工程上記(B)で算出された量の木質繊維を専用の施工機にセットするのみの工程であり,進歩性はみられない。 (d)第1の吹き込み穴形成工程この工程の意義は,他に吹き込み穴を開けないで,吹き込む穴を - 25 -一つだけ開けること,内張りシートの高さ2mの約3分の1よりも下方の床上から50cmの位置に吹き込み穴を開けることにある。 このうち前者の,吹き込む穴を一つだけ開けることの意義は,意見書(甲33)において,「複数の穴の中の『一つの穴』からセルロースファイバーを吹き込むとき,セルロースファイバーを吹き込むための風圧により,吹き込んだセルロースファイバーの一部が,前記石膏ボードに予め開けられた『他の穴』を介して作業者の側(部屋の内部)に『逆流』して噴出してしまい,それが作業者による作業の支障になってしまったり,部屋の内部を汚したり,セルロースファイバーの充填状態の品質を損なってしまうなどの不都合が生じてしまう」と指摘しているところである。 また,後者の,穴の位置の意義については,同じく意見書(甲33)において,「この第1の吹き込み工程においては,前記第1の吹き込み口(床上から50cmの位置)から全体の約3分の1の量の木質繊維が吹き込まれるので,この第1の吹き込み工程で,前記空間内の内張りシートの高さである『床上から2m』の約3分の1である約『床上から66cm以上の位置』までは木質繊維が充填されることになるので,前記第1の吹き込み口(床上から50cmの位置)は『前記木質繊維により埋められて塞がれた状態』となる。 よって,その後の前記の第2吹き込み工程において,上 』までは木質繊維が充填されることになるので,前記第1の吹き込み口(床上から50cmの位置)は『前記木質繊維により埋められて塞がれた状態』となる。 よって,その後の前記の第2吹き込み工程において,上方の『第2の吹き込み穴』(床上から150cmの位置)から木質繊維を吹き込むときは,前記第1の吹き込み口(床上から50cmの位置)は前述のように『前記木質繊維により埋められて塞がれた状態』となっているので,前記『第2の吹き込み穴』から吹き込んだ木質繊維が作業者の側に『逆流』してしまう恐れはない」と指摘しているところである。 - 26 -このように,この工程における上記二つの意義こそ,セルロースファイバーの「逆流」のおそれという本件特許発明の課題の解決手段を基礎付ける従来技術には見られない部分である。 (e)第1の吹き込み工程この工程の意義は,3回の吹き込みのうち1回で木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込むことにある。1回に吹き込む分量がまちまちであったりすると,外壁内空間の吹き込み密度が均等にならないおそれがある。1回に吹き込む分量を一定にすることにより,外壁内空間の吹き込み密度,すなわち,セルロースファイバーの中に含まれる多数の微小な空気層が均等になることで,十分な断熱・防音作用を発揮させることになる(本件明細書,段落【0015】,【0016】の記載)。 (f)第2の吹き込み穴形成工程この第2の吹き込み穴を床上から150cmの位置にすることは,吹き込む分量(2回目で床上から約133cmの位置まで吹き込むこと)や作業員の作業のし易さなどが勘案されているのであろうが,この点に格別進歩性はみられない。 (g)第2の吹き込み工程 分量(2回目で床上から約133cmの位置まで吹き込むこと)や作業員の作業のし易さなどが勘案されているのであろうが,この点に格別進歩性はみられない。 (g)第2の吹き込み工程3回の吹き込みのうち1回で木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込むことに意義があることは,上記と同じである。 (h)第3の吹き込み工程3回の吹き込みのうち1回で木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込むことに意義があることは,上記と同じである。 (ウ) 本件特許発明の特徴的部分以上によれば,本件特許発明の進歩性は,(d)第1の吹き込み穴形成工程において,他に吹き込み穴を開けないで,吹き込む穴を一つだけ - 27 -開けること,内張りシートの高さ2mの約3分の1よりも下方の床上から50cmの位置に吹き込み穴を開けることと,(e)(g)(h)の第1ないし第3の各吹き込み工程において,3回の吹き込みに分け1回につき木質繊維の全量の約3分の1の量ずつ吹き込むことにある。 そうすると,本件明細書にいう従来技術とは,吹き込み穴の数・高さ,吹き込み方向や一度に吹き込む分量など具体的な作業標準の確立していない一般的なセルロースファイバー乾式工法を指し,本件特許発明の課題とは,他の穴からセルロースファイバーが逆流することによって,木質繊維の均質な充填密度が損なわれたり,作業に支障が生じたり,部屋が汚損したりするという課題や,1回の吹き込み分量がまちまちであるために木質繊維の均質な充填密度が損なわれるという課題を指している。 イしたがって,本件特許発明の特徴的部分は,他に吹き込み穴を開けないで,内張りシートの高さ2mの約3分の1よりも下方の床上から50cmの位置に吹 質な充填密度が損なわれるという課題を指している。 イしたがって,本件特許発明の特徴的部分は,他に吹き込み穴を開けないで,内張りシートの高さ2mの約3分の1よりも下方の床上から50cmの位置に吹き込み穴を一つだけ開け,1回目の吹き込みが完了し,充填した木質繊維自体によって吹き込み穴が塞がれた後に上方に吹き込み穴を開けることと,3回の吹き込みに分け1回につき木質繊維の全量の約3分の1の量ずつ吹き込むことにあるというべきである。 (2) 上記特徴的部分を発明したのは誰かについてア本件特許発明の発明に至る過程と経緯(ア) 被告Bは,平成5年, オーエムソーラー協会の会員の会合に出席し,セルロースファイバー断熱材の特長等の説明を受け,その吹き込み工法の実演を見学し,B工務店が建築する住宅等にもその工法を採用しようと考えた。 被告Bは,自宅の建築にあたってセルロースファイバー吹き込み工法を採用することとした。B工務店は,被告Bの自宅をセルロースファイバー吹き込み工法採用の第1棟目とする方針とし,吉水商事から - 28 -専用の施工機を購入し,セルロースファイバーを仕入れた。 また,被告Bは,平成5年10月,B工務店建築部ハウスボディ課に断熱施工班を設け,吉水商事から施工指導を受け,セルロースファイバー吹き込み工法を習得することとした。 被告Bは,将来的にはセルロースファイバー断熱材が普及すると考えたが,沈降化の問題を解決しながら断熱性能を確保するためには,吹き込み工法の施工精度を高め,セルロースファイバーの充填密度を均等に一定にすることが最も重要であると考えた。 そこで,被告Bは,左官業の職人が壁塗り等に熟練した緻密な技術を有していることに着目し,断熱施工班に元左官 ,セルロースファイバーの充填密度を均等に一定にすることが最も重要であると考えた。 そこで,被告Bは,左官業の職人が壁塗り等に熟練した緻密な技術を有していることに着目し,断熱施工班に元左官業のE(以下「E」という。)を起用した。 (イ) 断熱施工班のEらは,吉水商事従業員のFから,専用の施工機の使用方法につき説明を受けたほか,セルロースファイバー吹き込み工法について施工指導を受けた。 EらがFから施工指導を受けた吹き込み工法は,①外壁内に,柱又は間柱を介して,外壁側に透湿性及び防水性を有するエアシートを配置すると共に,内壁側に通気性素材により形成された内張りシートを配置すること,②内張りシートに数か所の吹き込み穴を形成し,専用の施工機をセットして吹き込み穴からセルロースファイバーを吹き込んで充填することである。当時は,吹き込み穴の数・高さ,吹き込み方向や一度に吹き込む分量などについては,確立しておらず,吹き込み穴を塞ぐ目張りをしていなかった。 (ウ) その後,B工務店は,建築する住宅等にセルロースファイバー吹き込み工法を採用し,断熱施工班がセルロースファイバー吹き込み工法の施工を重ねていった。 被告Bは,平成6年頃,セルロースファイバー吹き込み工法を施工 - 29 -する現場を見たとき,Eが墨壺を用いて内張りシートの一定の高さに墨で線を入れ,吹き込み穴を塞ぐため目張りを施していることに気付いた。Eは,吹き込み完了後の仕上がりを綺麗にみせるため,一定の高さの一直線上に吹き込み穴を開け,Eが「はちまき」と呼ぶ,吹き込み完了後の目張りとして内張りシートと同じ素材の生地を貼り付けていた。 被告Bは,この墨入れと目張りをみて,セルロースファイバー吹き込み工法の施工精度を け,Eが「はちまき」と呼ぶ,吹き込み完了後の目張りとして内張りシートと同じ素材の生地を貼り付けていた。 被告Bは,この墨入れと目張りをみて,セルロースファイバー吹き込み工法の施工精度を高めるためには,吹き込み穴を開ける位置や1回で吹き込む分量を床からの高さによって規律し,吹き込み穴を塞ぐなどの作業手順を標準化することが重要であることを着想し,さらに断熱施工班のEらにセルロースファイバー吹き込み工法の施工経験を積ませることとした。 そこで,被告Bは,B工務店建築部ハウスボディ課のトップにEを起用し,断熱施工班の位置づけを高め,セルロースファイバー吹き込み工法の施工精度を高めるプロジェクトを推進した。 (エ) B工務店断熱施工班が平成7年頃行っていたセルロースファイバー吹き込み工法の作業手順は,以下のとおりである。 まず,吹き込み穴を,壁面に対して縦に2箇所,横は幅に応じて1ないし複数の箇所に開けることとし,縦に開ける穴2箇所の高さを確定して墨壺を用いて横一直線に墨入れを行う。次に,床に近い墨線上にカッターで数cmの穴を開け,その穴から専用の施工機のホースを差し込み,下方向に向けて適度にセルロースファイバーを充填し,ホースを抜いた後にガムテープ等で穴を塞ぐ。さらに,天井に近い墨線上にカッターで数cmの穴を開け,その穴から同様に吹き込みをし,全体にセルロースファイバーの充填が完了したら,ホースを抜く。最後に,吹き込み穴の目張りとして,内張りシートと同じ素材の帯状の - 30 -生地(上記のとおり,Eが「はちまき」と呼んでいるもの)を2本の墨線上に貼り付ける。 (オ) 被告Bは,平成7年10月,原告をB工務店に採用し,ハウスボディ事業部(ハウスボディ課を事業部に昇格させたもの)の事業部長に起用 はちまき」と呼んでいるもの)を2本の墨線上に貼り付ける。 (オ) 被告Bは,平成7年10月,原告をB工務店に採用し,ハウスボディ事業部(ハウスボディ課を事業部に昇格させたもの)の事業部長に起用した。被告Bは,この頃,原告が吉水商事を退社したことを知り,セルロースファイバー吹き込み工法の事業を促進しようと考え,原告にB工務店に入社するよう勧めたものである。 なお,原告は,ハウスボディ事業部の事業部長として,ほとんどセルロースファイバー吹き込み工法の営業の仕事をしており,現場の施工に関与することはなかった。例えば,あるとき原告は,B工務店がセルロースファイバー吹き込み工法を施工する現場を訪れ,内張りシートに墨入れを施し,目張りをしていることを見て驚愕した。原告が主張している格子付き内張りシートの製作を依頼した事実は,このときの現場の体験がきっかけになっていると思われるが,原告がセルロースファイバー吹き込み工法の施工現場に訪れたのは,この1回か2回くらいしかなかった。 (カ) 被告Bは,平成8年9月,B工務店ハウスボディ事業部のうち事業部長である原告と断熱施工班のみを被告会社に移管するとともに,かねてから懸案であったセルロースファイバー吹き込み工法につき,いわゆる「新省エネ基準」の認定等各種認定を取得することを目指す方針を掲げた。 こうして,被告会社は,B工務店からセルロースファイバー吹き込み工法の施工精度を高めるプロジェクトを引き継ぎ,この工法を確立し,各種認定を取得することを目指した。 (キ) 被告会社は,平成9年3月14日,財団法人建材試験センターに沈降化実験を依頼し,同年5月15日付けで,セルロースファイバーの - 31 -平均密度60kg/m3で沈降が認められない旨の試験結果を得た。 14日,財団法人建材試験センターに沈降化実験を依頼し,同年5月15日付けで,セルロースファイバーの - 31 -平均密度60kg/m3で沈降が認められない旨の試験結果を得た。 この試験結果を経て,最終的にセルロースファイバーを平均密度50~60kg/m3で充填するために吹き込み穴の数・高さ,吹き込み方向や一度に吹き込む分量などを標準化して確定し,セルロースファイバー吹き込み工法が確立するに至った。 被告会社は,平成9年11月1日,省エネ機構の材料・施工評価委員会に対し,セルロースファイバーを平均密度50~60kg/m3で充填するデコスドライ工法が「新省エネ基準」に適合する旨の報告を行った。 イ被告Bの創作的な寄与被告Bは,平成5年10月にB工務店建築部に断熱施工班を立ち上げてから本件特許の出願に至るまで一貫して,セルロースファイバー吹き込み工法の施工精度を高め,その充填密度を均等に一定にすることを目指しており,元左官業のEを起用し,外部から原告も採用するなどしてセルロースファイバー吹き込み工法の事業を促進してきた。そして,前記のとおり,Eが行っていた墨入れと目張りをみて,セルロースファイバー吹き込み工法の施工精度を高めるためには,吹き込み穴を開ける位置や1回で吹き込む分量を床からの高さによって規律し,吹き込み穴を塞ぐなどの作業手順を標準化することが重要であることを着想している。この着想がなければ,上記本件特許発明の特徴的部分が具体化することはなかった。 したがって,被告Bが本件特許に係る発明の特徴的部分につき課題を解決するための着想及びその具体化に創作的に寄与したことは明らかである。 ウ本件特許の発明者(ア) 上記のとおり,B工務店の断熱施工班は,もともと吉 る発明の特徴的部分につき課題を解決するための着想及びその具体化に創作的に寄与したことは明らかである。 ウ本件特許の発明者(ア) 上記のとおり,B工務店の断熱施工班は,もともと吉水商事からセルロースファイバー吹き込み工法の施工指導を受けており,その施工指導で開示された工法が概ね原告が主張する本件特許発明の基礎となる独自の工法 - 32 -に相当する。 この公知の技術に対し,セルロースファイバーを壁面全体に均等に一定の密度で充填するための具体的な手法・手順(吹き込み穴の数・高さ,吹き込み方向や一度に吹き込む分量)を標準化して組み合わせたものが本件特許発明にほかならない。 そして,この具体的な手法・手順の標準化の過程に被告Bが創作的に寄与したことは,上記のとおりであるから,被告Bが本件特許に係る発明者であることは明らかである。 (イ) これに対し,原告は,本件特許に係る共同発明者とはいえない。 原告が自ら確立したと主張する本件特許発明の基礎となる独自の工法なるものは,本件特許の出願の時点で公然と知られた技術になっている。セルロースファイバー吹き込み工法の具体的な手法・手順を確立する過程には,確かに原告も内張りシートに50mm間隔の格子柄を印刷することを着想しているが,この点は,吹き込み穴の高さと一度に吹き込む分量を作業員にわかり易くしたというにすぎず,特許請求の範囲にも何ら記載されていない。そのほか,吹き込み穴の高さや一度に吹き込む分量の具体的な特定の過程は,現場の作業員の試行錯誤によるところが大きく,必ずしも原告が創作的な寄与をしたとはいえない。 2 争点(2)(原告が本件特許発明の発明者であるとした場合,本件特許発明が職務発明に該当し,これにつき被告会社 員の試行錯誤によるところが大きく,必ずしも原告が創作的な寄与をしたとはいえない。 2 争点(2)(原告が本件特許発明の発明者であるとした場合,本件特許発明が職務発明に該当し,これにつき被告会社は,原告から特許を受ける権利を承継したか)について〔原告の主張〕(1) 原告は,被告Bの勧誘を受けて,平成7年10月,ハウスボディ部長としてB工務店に入社し,セルロースファイバー断熱事業に携わった。更に,原告は,平成8年9月,営業部長として関連会社の被告会社に移籍し,平成21年5月に退社するまで,被告会社で同様にセルロースファイバー断熱事業 - 33 -に従事してきた。この間,原告は,遅くとも平成8年までには本件特許発明を完成させている。 したがって,原告は,本件特許発明の発明時,被告会社の従業者であった。 (2) 次に,本件特許発明は,建物の外壁内にセルロースファイバー(他の木質繊維を含む)を充填することにより,外壁の断熱・防音性能を向上させるという建物の断熱・防音工法(内断熱工法)に関する発明である。 他方,被告会社は,建築工事全般に関する設計,施工等を目的とする株式会社であり(全部事項証明書,甲3),現に,上記のとおり,セルロースファイバー断熱事業を営んできている。 したがって,本件特許発明は,被告会社の業務範囲に属している。 (3) また,原告は,被告会社においてセルロースファイバー断熱事業に携わってきた。 したがって,原告が本件特許発明を発明するに至った行為は,原告の当時の職務に属する。 (4) 以上によれば,本件特許発明は,被告会社の従業者たる原告が,その性質上,被告会社の業務範囲に属し,かつ,その発明をするに至った行為が,被告会社における原告の の当時の職務に属する。 (4) 以上によれば,本件特許発明は,被告会社の従業者たる原告が,その性質上,被告会社の業務範囲に属し,かつ,その発明をするに至った行為が,被告会社における原告の当時の職務に属する発明であるから,職務発明に当たる。 (5) 原告は,平成11年1月頃,G弁理士(以下「G弁理士」という。)と協議して特許出願手続を進めていった。その過程で,被告Bが,申請名義につき,原告の意見も聞かないまま,「俺でいいだろ」と強引に決めつけ,原告が,これに逆らえなかったという出来事があった。 こうして,被告会社は,同月25日,本件特許発明の工法につき,出願人を被告会社,発明者を被告Bとする特許出願を行った。 かかる経緯に照らせば,法的には,原告は,遅くとも特許出願がされた平成11年1月25日までに,本件特許発明につき特許を受ける権利を被告会 - 34 -社に承継させたというべきである。 上記のとおり,被告Bに強いられてではあるが,原告は,本件特許発明について被告会社に特許を受ける権利を承継させたのであるから,原告は,被告会社に対し,相当対価請求権を有する。 〔被告会社の主張〕(1) 〔原告の主張〕(1)のうち,原告が平成7年10月にB工務店に入社し,平成8年9月に被告会社に移籍し所属していたこと,平成21年5月に退社したことは認め,その余は否認ないし不知。 (2) 〔原告の主張〕(2)は認め,同(3)ないし(5)はいずれも否認ないし争う。 (3) 平成11年1月9日,被告Bと原告は,G弁理士の事務所を訪問し,G弁理士に対し,本件特許の出願を依頼し,打合せを行った。G弁理士は同日に原告と初めて会ったものであり,その際,原告から名刺を受け取った(乙2,12) 日,被告Bと原告は,G弁理士の事務所を訪問し,G弁理士に対し,本件特許の出願を依頼し,打合せを行った。G弁理士は同日に原告と初めて会ったものであり,その際,原告から名刺を受け取った(乙2,12)。打合せの際,G弁理士は,被告Bと原告に,特許出願について一般的な説明をしたうえで,特許出願人を誰にするか質問したところ,被告Bも原告も,特許出願人を被告会社にする旨の回答をした(乙12)。それゆえ,G弁理士は,特・実出願内容指示書(乙3)の「出願人」の欄に「(株)デコス」と記載し,被告会社名義の委任状(乙4)を求めた。打合せの際,願書に記載する発明者を誰にするかについても話題となったが,結論は留保された。 しかし,その後の同年1月22日頃,原告は,G弁理士に電話し,願書に記載する発明者を被告Bのみにするよう伝えている(乙3,12)。 なお,原告は,上記打合せの際,被告Bが,原告の意見も聞かないまま,発明者を「俺でいいだろ」と強引に決めつけたと主張するが,そのような事実は存在しないし,G弁理士も同旨を述べている(乙12)。また,上記打合せ(同年1月9日)から本件特許出願(同年1月25日)までの間,G弁理士と原告が打合せを複数回行って協議した事実も存在しない(乙1 - 35 -2)。 G弁理士が特許出願の依頼を受けた場合の通常の流れは,最初に出願する発明の内容の打合わせをし,その後は1,2回くらい電話などで質問したり追加の情報を聞いたりするだけで明細書案を完成させるというものであり,特許の内容が極めて難しい場合にのみごく例外的に2,3回打合わせをするのみである。本件出願内容は,断熱工事の工法であり,特に難しいものではないので,打合せは上記1回の程度であることは明白である(乙12)。 3 争点(3)(被告 ごく例外的に2,3回打合わせをするのみである。本件出願内容は,断熱工事の工法であり,特に難しいものではないので,打合せは上記1回の程度であることは明白である(乙12)。 3 争点(3)(被告会社は本件特許発明を実施しているか)について〔被告会社の主張〕本件特許発明の特許請求の範囲の記載によれば,本件特許発明が実施される現場は,施工対象が床から天井までの高さが2mという壁に限定されており,二つの吹き込み穴の位置を床から50cmと150cmに設定したときに本件特許発明が実施されていることになる。 しかし,通常,住宅の床から天井までの高さは,低くても230cm,高くて275cmであって,通常,高さ2mの壁が存在する建築現場はない。 また,吹き込み穴の高さは,壁全体の高さを概ね4等分し,その4分の1及び4分の3の高さの位置に相当する場所で構わないのであり,被告会社がデコスドライ工法施工代理店に吹き込み穴の高さをセンチメートル単位で厳密に遵守するように指導していない。たまたま壁の高さが2mの建築現場があったとしても,実際には吹き込み穴の位置を厳密に床から50cmと150cmに設定することはない。 以上によれば,被告会社は本件特許発明を実施しているとはいえない。 〔原告の主張〕被告会社は,デコスドライ工法は本件特許発明の実施とはいえない旨主張するが,同主張は,大阪地方裁判所にB工務店が,ユニキューブ・パッケージ - 36 -を購入した建築業者に対し,他の断熱工法を用い,デコスドライ工法を採用しなかったことが販売契約に違反する旨主張して損害賠償を求める訴えを提起した別訴(大阪地裁平成21年(ワ)第13559号損害賠償請求事件)での主張内容(甲77~79)と矛盾する。 被告会社ら 採用しなかったことが販売契約に違反する旨主張して損害賠償を求める訴えを提起した別訴(大阪地裁平成21年(ワ)第13559号損害賠償請求事件)での主張内容(甲77~79)と矛盾する。 被告会社らは,ホームページ(甲47)等でも,デコスドライ工法が特許取得をした旨を宣伝等しているものであるから,被告会社の上記主張は理由がない。 4 争点(4)(被告会社が本件特許発明の特許を受ける権利を承継したとした場合,原告が受けるべき相当対価の額)について〔原告の主張〕(1) 被告会社は,本件特許発明について,自ら実施するとともに,競業他社に対しても実施を許諾している。 このうち,他社実施分については,被告会社が得るべき実施料相当額が独占の利益(受けるべき利益)に当たる。 他方,自己実施分については,被告会社は,本件工法(デコスドライ工法)の施工及び関連商品の販売に特化したB工務店の子会社として,同工法を自ら実施しているのであって,その売上げのうち,超過売上げを得たことに基づく利益(超過利益)が独占の利益に当たる。 本件特許権は,平成11年1月25日に出願が,平成12年8月2日に公開がそれぞれなされており,平成31年1月24日まで存続する。 そうすると,平成11年1月25日,ないし,少なくとも平成12年8月2日から平成31年1月24日までの期間について,独占の利益を検討すべきである。 (2) 被告会社がデコスドライ工法代理店から得る実施料相当額ア被告会社は,本件特許権者として,建設業者との間でデコスドライ工法施工代理店契約を締結し(甲51),これらの建設業者を代理店(加盟 - 37 -店)として組織している(甲11の2)。被告会社は,代理店から,加盟金 建設業者との間でデコスドライ工法施工代理店契約を締結し(甲51),これらの建設業者を代理店(加盟 - 37 -店)として組織している(甲11の2)。被告会社は,代理店から,加盟金,工法使用料,保証書発行料の各名目で,本件特許発明の実施の許諾の対価を徴収しているから,それぞれ名目毎に実施料相当額を検討すべきであるほか,被告会社は,代理店に対し,本件工法(デコスドライ工法)のための専用商品,専用施工機器一式,専用車両を販売して収益を上げ,さらには,被告会社が事務局を務める日本セルロースファイバー断熱施工協会(JCA)(甲15)の加盟金,年会費の名目でも収益を上げている(甲52)から,これら費目毎に分けて検討する必要がある。 イ加盟金,工法使用料について被告会社は,デコスドライ工法施工代理店から加盟金,工法使用料を徴収しているところ,これは本件特許発明の実施の対価である。平成25年4月1日までに加盟した代理店の数は,累計83社であり,被告会社がこれらの加盟店から得るべき加盟金は2億0300万円,累計工法使用料は3億6648万円で,合計5億6948万円である。 上記のとおり平成25年4月1日までの加盟代理店の数が累計83社であるのに対し,平成23年6月21日付け被告会社のウェブサイト(甲11の2)では53社,平成25年6月23日付け被告会社のウェブサイト(甲50)では57社となっているところからすると,新規加盟と脱退によって代理店が常に入れ替わりながらも,年間3,4社程度ずつ代理店が微増し,累計83社に達したものといえる。そうすると,平成25年4月以降も,同様のペースで,代理店は微増していくと推認でき,平成25年4月から本件特許権の存続期間が満了する平成31年1月24日までの約6年間では,少な 達したものといえる。そうすると,平成25年4月以降も,同様のペースで,代理店は微増していくと推認でき,平成25年4月から本件特許権の存続期間が満了する平成31年1月24日までの約6年間では,少なくとも18社程度の新規加盟が見込まれる。 それゆえ,仮に,加盟金額が現在の300万円のままで変わらなかったとしても,将来の加盟金の収入として5400万円が見込まれる。 (算式) 3社/年×6年×300万円/社=5400万円 - 38 -以上によれば,被告会社が,本件特許権の実施を許諾する対価としてデコスドライ工法施工代理店から得るべき加盟金,工法使用料は,総額6億2348万円と見込まれる。 (算式) 5億6948万円+5400万円=6億2348万円ウ保証書発行料について被告会社は,本件特許権の実施を許諾する対価としてデコスドライ工法施工代理店から保証書発行料収入を得ているところ,これも本件特許発明の実施の対価であるが,以下のとおり,総額5億8706万9000円と見込まれる。 (ア) 「デコスファイバー出荷状況表」(甲53)記載の各表のうち,「CF出荷実績及び推定表」(平成20年11月頃作成)によれば,被告会社が,デコスドライ工法に使用するセルロースファイバー(商品名デコスファイバー)を出荷した実績値及び推定値は,下記のとおりである。 なお,棟数への換算は,建物1棟当たり0.7tのデコスファイバーを使用するものとして行っている。 記年度区分出荷数前年対比棟数換算平成12年実績 221.6t - 317棟平成13年実績 291.9 記年度区分出荷数前年対比棟数換算平成12年実績 221.6t - 317棟平成13年実績 291.9t 131.8% 417棟平成14年実績 400.2t 137.1% 572棟平成15年実績 508.8t 127.1% 727棟平成16年実績 567.1t 111.5% 810棟平成17年実績 820.0t 144.6% 1171棟平成18年実績 1204.5t 146.9% 1721棟平成19年実績 1507.4t 125.1% 2153棟平成20年推定 2025.0t 134.3% 2893棟 - 39 -平成21年推定 2733.8t 135.0% 3905棟平成22年推定 3690.6t 135.0% 5272棟平成23年推定 4982.3t 135.0% 7118棟平成24年推定 6726.1t 135.0% 9609棟(イ) これによれば,デコスファイバーの出荷は,平成12年度ないし平成19年度の実績で,毎年,前年と比べて最低でも111.5%,通常は130ないし140%程度の割合で増加してきたこと,これを踏まえて,被告会社では,平成20年度以降も,前年比135.0%ずつ増加していくものと推定していること等が分かる。 平成20年度ないし平成24年度については,被告会社の上記推定を採用し,平成25年度から本件特許権の存続期間が満了する平成31年1月24日までの約6年間については ていること等が分かる。 平成20年度ないし平成24年度については,被告会社の上記推定を採用し,平成25年度から本件特許権の存続期間が満了する平成31年1月24日までの約6年間については,毎年,少なくとも,平成24年度の推定値6726.1t,9609棟を下らないものとして,計4万0356. 6t,計5万7654棟と推定する。 (算式) 6726.1t/年×6年=4万0356.6t9609棟/年×6年=5万7654棟それゆえ,平成12年度ないし平成30年度の被告会社によるデコスファイバーの出荷は,数量で6万6035.9t,棟数換算で9万4339棟相当と認められる。 (ウ) 他方,「デコスファイバー出荷状況表」(甲53)記載の各表のうち,「業者別月別CF出荷状況表」(平成20年11月頃作成)によれば,平成20年1月ないし11月のデコスファイバーの出荷実績は,「外部販売小計」と「自社使用小計」との合計で131.33tとなっている。 これに対し,「自社使用小計」の項目には,「B工務店」,「自社工事」,「ドムスホーム」,「エコビルド」,「外注工事」との記載があり,外部の代理店等に販売した分ではなく,B工務店グループ内で使用したデ - 40 -コスファイバーの数量が記載されていると解される。しかし,同じB工務店グループとはいえ被告会社と他社とでは法人格を異にすること,特に,「外注工事」は,外部業者に施工を発注しており,自己実施とはいい難いこと等に鑑みれば,このうち,「自社工事」14.61t分だけが被告会社の自己実施に当たるというべきである。 そうすると,同期間における自己実施分は,下記算式のとおり約11. 1%に留まり,その余の約88.9%が他社実施分と 工事」14.61t分だけが被告会社の自己実施に当たるというべきである。 そうすると,同期間における自己実施分は,下記算式のとおり約11. 1%に留まり,その余の約88.9%が他社実施分と認められる。 (算式) 14.61t÷131.33t=0.1112……(エ) そして,デコスファイバーの出荷数量全体に占める自己実施分の割合は,通常,出荷数量が増えれば増えるほど減少することはあっても増加することはないと認められるから,平成12年度ないし平成30年度の全期間を通じて,被告会社の自己実施分の割合は平均して11.1%を上回らないと認められる。 それゆえ,平成12年度ないし平成30年度の被告会社によるデコスファイバーの出荷数量のうち,下記算式のとおり,自己実施分は,数量で7330.0t,棟数換算で1万0472棟相当,他社実施分は,数量で5万8705.9t,棟数換算で8万3867棟相当と認められる。 (算式) 6万6035.9t×0.111≒7330.0t9万4339棟×0.111≒1万0472棟6万6035.9t-7330.0t=5万8705.9t9万4339棟-1万0472棟=8万3867棟(オ) また,被告会社作成の「無結露保証書発行履歴データベース」(甲54)は,平成21年7月1日ないし同年12月29日の半年間に,被告会社が,代理店宛てに保証書を発行した履歴を記録したデータである。これによれば,被告会社は,同期間に688棟分の保証書を発行している。 他方,平成21年のセルロースファイバーの出荷数から換算した施工棟 - 41 -数は,前記のとおり,年間3905棟,半年では1953棟と推定される。 行している。 他方,平成21年のセルロースファイバーの出荷数から換算した施工棟 - 41 -数は,前記のとおり,年間3905棟,半年では1953棟と推定される。 したがって,被告会社は,デコスドライ工法を施工した全建物のうち,下記算式のとおり約35%分について,保証書を発行し,1通当たり2万円の保証書発行料を受領していると認められる。 (算式) 688通÷1953棟=0.352……(カ) 以上によれば,被告会社が,平成12年度ないし平成30年度において,他社実施分につき,得るべき保証書発行料は,5億8706万9000円に達する。 (算式) 2万円/棟×8万3867棟×0.35=5億8706万9000円(キ) 以上によれば,被告会社が,本件特許権の実施を許諾する対価としてデコスドライ工法施工代理店から得るべき保証書発行料は,総額5億8706万9000円と見込まれる。 エ専用商品(デコスファイバー等),専用施工機器の販売代金等について(ア) 被告会社は,加盟金,工法使用料,保証書発行料以外にも,デコスドライ工法施工代理店に対し,専用施工機器一式(スターターキット)を代金120ないし130万円で,専用車両を代金300万円で,それぞれ販売している。さらに,被告会社は,デコスドライ工法に使用するためのデコスファイバー,シート等の専用商品を販売している。さらには,被告会社は,自ら事務局を務める日本セルロースファイバー断熱施工協会(JCA)(甲15)の加盟金10万円・同年会費10万円等の名目で,代理店から金員を徴収している(「デコスドライ工法施工代理店契約のあらまし」〔甲52〕3,4,7,8頁)。 (イ) このうち,専用施工機器一式,専 盟金10万円・同年会費10万円等の名目で,代理店から金員を徴収している(「デコスドライ工法施工代理店契約のあらまし」〔甲52〕3,4,7,8頁)。 (イ) このうち,専用施工機器一式,専用車両,デコスファイバーは,デコスドライ工法の使用に用いるものであって,本件特許発明による課題の解決に不可欠なものであり,かつ,被告会社は,デコスドライ工法の施工に用い - 42 -られることを知りながら,業として,これらを生産,譲渡している。 特に,専用施工機器一式,デコスファイバーは,これがなければデコスドライ工法を実施できないものであり,代理店は,必ず購入せざるを得ないこと(これに対し,専用車両の使用は絶対条件ではないとされている〔甲52の4頁〕)等に鑑みて,その生産,譲渡は,間接侵害(特許法101条5号)を構成するものというほかない。 (ウ) 前記のとおり,平成12年度ないし平成30年度の被告会社による他社実施分のデコススファイバーの出荷は,数量で5万8705.9tと認められる。 他方,「デコス関連商品発注書」(甲55)によれば,デコスファイバーの代理店向け販売代金は,1コンテナ(2.25t)当たり42万7500円である。 したがって,平成12年度ないし平成30年度の被告会社による他社実施分のデコスファイバーの売上は,下記算式のとおり,111億5412万1000円となる。 (算式) 42万7500円/2.25t×5万8705.9t=111億5412万1000円(エ) また,前記のとおり,代理店の数は,現在までに累計83社であり,かつ,平成25年4月から本件特許権の存続期間が満了する平成31年1月24日までの約6年間に少なくとも18社程度の新規加盟が見 (エ) また,前記のとおり,代理店の数は,現在までに累計83社であり,かつ,平成25年4月から本件特許権の存続期間が満了する平成31年1月24日までの約6年間に少なくとも18社程度の新規加盟が見込まれるから,総計101社と見込まれる。 他方,専用施工機器一式は,代理店が加盟時に必ず一度は購入する機器である。 そうすると,平成12年度ないし平成30年度の被告会社による専用施工機器一式の売上は,その代金を120万円としたとしても,少なくとも1億2120万円を下らない。 - 43 -(算式) 120万円/社×101社=1億2120万円(オ) そして,デコスファイバー,専用施工機器一式がいずれもデコスドライ工法のための専用品であって,他の用途に用いられないこと等に鑑みれば,これらの代金において本件特許発明の実施料が占める割合(被告会社における独占の利益)は非常に大きいというべきであって,少なくとも,10%を下らない。 したがって,被告会社の独占の利益は,デコスファイバーにつき11億1541万2100円,専用施工機器一式につき1212万円をそれぞれ下らない。 (算式) 111億5412万1000円×0.1=11億1541万2100円1億2120万円×0.1=1212万円(3) 被告会社が他社実施のユニキューブ事業から得る実施料相当額ア被告会社のB工務店及びハイアス・アンド・カンパニー株式会社(以下「ハイアス」という。)に対する実施の許諾B工務店は,ハイアスと提携して,ユニキューブ事業を実施しているところ,このユニキューブ事業とは,「ユニキューブ」に代表される戸建て住宅につき,デコスドラ う。)に対する実施の許諾B工務店は,ハイアスと提携して,ユニキューブ事業を実施しているところ,このユニキューブ事業とは,「ユニキューブ」に代表される戸建て住宅につき,デコスドライ工法とセットで販売するためのノウハウを「ユニキューブ・パッケージ」というマニュアル本に体系化した上で,主に全国の中小工務店に対し,かかるマニュアル本の販売等を行うというものである(甲41)。 その販売先は,これまでに約200社に上り(甲42),平成17年5月から平成22年5月までの約5年間で,総売上額は約7億2700万円に達する(甲43)。 そして,B工務店及びハイアスとユニキューブ・パッケージ購入者との間の「ユニキューブ・パッケージ販売契約書」(甲57)には,「ユニキ - 44 -ューブ」等につき,デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物をいうとの記載がある(1条1項)。このように,「ユニキューブ」等の建物においては,デコスドライ工法が不可欠の仕様であるならば,B工務店及びハイアスは,購入者に対し,デコスドライ工法を実施した建物の建築を許諾したものというほかない。そして,B工務店が被告会社の親会社であり,被告会社に無断で本件特許権の侵害に当たる行為をするはずがないこと等に鑑みれば,被告会社は,B工務店及びハイアスに対し,かかる態様でのデコスドライ工法を実施した建物(ユニキューブ等)の建築を許諾しており,ユニキューブ事業を行うという形態での本件特許発明の実施を許諾したものと認められる。 イ被告会社が得るべき実施料相当額(ア) 被告会社は,B工務店及びハイアスに対し,ユニキューブ事業を行うという形態での本件特許発明の実施を許諾しているが,その対価とし イ被告会社が得るべき実施料相当額(ア) 被告会社は,B工務店及びハイアスに対し,ユニキューブ事業を行うという形態での本件特許発明の実施を許諾しているが,その対価として明示的な実施料は受領していない。しかし,それは,被告会社が,B工務店の子会社という特殊な関係にあるためにすぎない。それゆえ,本来であれば,被告会社が受領すべき相当な実施料については,独占の利益とみなして差し支えない。 (イ) この点,「ユニキューブ・パッケージ販売先進捗一覧表」(甲43)によれば,B工務店及びハイアスは,ユニキューブ・パッケージの購入者から,当初は250万円,途中から380万円ないし480万円という多額の代金(いずれも税別)を受領しており,平成17年5月から平成22年5月までの約5年間で,総売上額は約7億2673万1429円,購入者数は計199社に達している。 なお,各年度(暦年)毎の購入者数の内訳は,次のとおりである。 記年度購入者数 - 45 -平成17年 58社平成18年 86社平成19年 17社平成20年 22社平成21年 13社平成22年(5月14日まで) 3社(ウ) かかる実績に照らせば,ユニキューブ・パッケージの購入者は,少なくとも年間10社を下らないと認められる。そうすると,平成22年度(5月15日以降)ないし平成31年度(暦年)の10年間では,購入者は かかる実績に照らせば,ユニキューブ・パッケージの購入者は,少なくとも年間10社を下らないと認められる。そうすると,平成22年度(5月15日以降)ないし平成31年度(暦年)の10年間では,購入者は下記算式のとおり,計97社を下らない(上記の平成22年度の実績3社を除く。)。 (算式) 7社+10社/年×9年=97社それゆえ,パッケージ代金を1社380万円とすると,同期間の売上げは,下記算式のとおり3億6860万円となる。 (算式) 380万円/社×97社=3億6860万円(エ) したがって,B工務店及びハイアスがユニキューブ事業によって得るべき収益は,平成17年度ないし平成31年度で合計10億9553万1429円となる。 (算式) 7億2673万1429円+3億6860万円=10億9553万1429円(オ) デコスドライ工法は,「ユニキューブ」等において,その性能の確保に最大の役割を果たし,不可欠の仕様として標準採用されているのであって,デコスドライ工法がなければ,「ユニキューブ」等が誕生することもなく,また,ユニキューブ事業は,被告会社が,デコスファイバーを販売して収益を上げることも目的の一つとしたビジネスモデルとなっている。 - 46 -そうすると,パッケージ代金において本件特許発明の実施料が占める割合(被告会社における独占の利益)は,他の場合(たとえば,複数の特許発明を実施して工業製品を製造する場合)などと比べて非常に大きいというべきであって,少なくとも,10%を下らない。 したがって,被告会社の独占の利益は,1億0955万3143円を下らない。 (算式) 10億9553万1429円×0. きいというべきであって,少なくとも,10%を下らない。 したがって,被告会社の独占の利益は,1億0955万3143円を下らない。 (算式) 10億9553万1429円×0.1≒1億0955万3143円(4) 被告会社の自己実施分にかかる超過利益(独占の利益)ア被告会社の自己実施分の売上額(ア) 平成12年度ないし平成30年度の被告会社によるデコスファイバーの出荷数量のうち,自己実施分は,数量で7330.0t,棟数換算で1万0472棟相当と認められる。 他方,上記のとおり,「デコス関連商品発注書」(甲55)によれば,デコスファイバーの代理店向け販売代金は,1コンテナ(2.25t)当たり42万7500円である。 したがって,平成12年度ないし平成30年度の被告会社による自己実施分のデコスファイバーの売上は,13億9270万円となる。 (算式) 42万7500円/2.25t×7330.0t=13億9270万円(イ) これは,デコスドライ工法を実施する際に原料となるセルロースファイバーの売上額である。 しかし,デコスドライ工法の施工による売上げが原料額を下回らないことからすれば,施工による売上額は,少なくとも13億9270万円を下らないと認められる。 イ被告会社の自己実施にかかる事情 - 47 -(ア) 本件特許発明は,特に,その効果として無結露を達成し得ること,さらに,次世代省エネルギー基準をクリアしていること等において,競業他社の代替技術との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異があるといえる。 (イ) また,B工務店は,平成5年に原告と さらに,次世代省エネルギー基準をクリアしていること等において,競業他社の代替技術との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異があるといえる。 (イ) また,B工務店は,平成5年に原告と出会って以降,その施工する全棟の建物について,セルロースファイバー断熱材吹き込み工法を用いるようになった。そして,原告が,遅くとも平成8年までには本件特許発明(デコスドライ工法)を完成させた後は,被告会社,B工務店は,当然,デコスドライ工法を全棟の建物に施工するようになっている。 ウ被告会社の超過売上げの額及び超過利益の額(ア) 本件では,デコスドライ工法施工代理店になるために,少なくとも,加盟金として100万円ないし300万円,工法使用料として年間24万円ないし48万円という多額の負担を強いられる上,契約期間は2年間で1年ずつ自動更新という条件であって,代理店になるための経済的負担は大きい。したがって,実際には,競業他社が,本件特許発明の実施の許諾を得るのは容易ではないのであって,ライセンスポリシーは限定的といえる。 また,上記のとおり,本件特許発明は,代替技術との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がある。包括ライセンス契約等は存在せず,被告会社自身が他の代替技術を実施している事実はなく,被告会社は,全件について,本件特許発明を実施している。 これらの事情に照らせば,被告会社の超過売上げ額は,少なくとも,自己実施分の40%を下らないというべきである。 (イ) 超過売上げ額に占める超過利益(独占的地位に起因する割合)について,本件では,被告会社は,実質的な実施料につき,加盟金,工法使用料,保証書発行料,専用商品・専用施工機器・専用車両の販売代金等の様々 - 48 -な名 的地位に起因する割合)について,本件では,被告会社は,実質的な実施料につき,加盟金,工法使用料,保証書発行料,専用商品・専用施工機器・専用車両の販売代金等の様々 - 48 -な名目・形態で受領しているため,直ちに一義的な仮装実施料率を導き出すのは困難であるが,少なくとも,業界における一般的な実施料率5%を下らないと認められる。 (ウ) 以上によれば,被告会社の超過売上げ額は5億5708万円,超過利益は2785万4000円を下らない。 (算式) 13億9270万円×0.4=5億5708万円5億5708万円×0.05=2785万4000円(5) 本件特許発明がされるについて被告会社が貢献した程度ア本件特許発明に至る経緯原告は,平成7年に被告Bに引き抜かれてB工務店に入社する前に,本件特許発明の主要な部分である,木質繊維セット工程までを完成させていた。これに対し,原告は,B工務店に入社し,被告会社に転籍した平成8年頃までに,本件特許発明の最後の部分である,第1の吹き込み穴形成工程から第3吹込み工程までを完成させた。しかし,その発明作業は,原告がB工務店に入社する前から個人的に行っていた研究の延長線上で行われたものにすぎず,B工務店ないし被告会社から新たに特別の研究環境を与えられたり重要な示唆を受けたりした結果として行われたものではなかった。 また,原告は,当時,被告会社におけるセルロースファイバー断熱工法の唯一の専門家であって,他の社員は,原告から同工法の指導等を受けることこそあれ,原告の研究を共同で行ったり,手伝ったりする立場にはなく,その能力も有していなかった。 イデコスドライ工法の事業化・普及における原告の貢献原 法の指導等を受けることこそあれ,原告の研究を共同で行ったり,手伝ったりする立場にはなく,その能力も有していなかった。 イデコスドライ工法の事業化・普及における原告の貢献原告は,本件特許発明の発明に留まらず,デコスドライ工法の事業化・普及のためにも,一貫して貢献してきた。原告は,省エネ機構に対し,デコスドライ工法が新省エネ基準に適合する旨の認定を申請し,平成10年, - 49 -その認定を受けることに成功した。次に,原告は,デコスドライ工法の有効性を数値で証明するために,平成10年頃,財団法人建材試験センターに委託して,同工法の性能実験を行った。同実験は,一定の密度で壁内にセルロースファイバーを充填し,これに2000ガルの振動を連続で24時間,加え続けるというものであった。その結果,セルロースファイバーの密度が40kg/㎥,45kg/㎥のときはその沈降が見られたものの,デコスドライ工法が採用する約50~60kg/㎥のときには沈降しないことが確認できた(甲8,84~85頁)。 さらに,原告は,平成11年に次世代省エネ基準が制定されたのを受けて,省エネ機構に対し,室内側に防湿気密層を設置しない場合にも同基準に適合する旨の認定を申請し,D教授の実験結果を提出したり,財団法人建材試験センターに委託して,改めて防湿気密層に関する試験を行ったりした。 かかる試験等を経て,原告は,平成12年,デコスドライ工法が次世代省エネ基準に適合する旨の認定を受けることに成功した(甲8,99~106,111~113頁)。 ウ原告の貢献度及び被告会社の貢献度これらの事情を総合的に考慮すれば,本件特許発明は,原告個人の努力と才覚によって成し遂げられたものであり,たまたまその完成 ~113頁)。 ウ原告の貢献度及び被告会社の貢献度これらの事情を総合的に考慮すれば,本件特許発明は,原告個人の努力と才覚によって成し遂げられたものであり,たまたまその完成時における原告の在籍先が被告会社であったというにすぎない。本件特許発明がされるについて,原告が貢献した程度は,少なくとも全体の50%を下らないのであって,これに対し,被告会社が貢献した程度は,多くとも50%に留まる。 エ原告が受けるべき相当の対価の額これらをまとめると,以下のとおりとなる。 (ア) 他社実施分 - 50 -a 被告会社が他社実施分について得るべき実施料相当額(デコスドライ工法代理店からの収入) 合計 23億3808万1100円(内訳)加盟金,工法使用料 6億2348万円保証書発行料 5億8706万9000円デコスファイバーの販売分 11億1541万2100円専用施工機器一式の販売分 1212万円B 被告会社が他社実施分について得るべき実施料相当額(ユニキューブ事業からの収入) 1億0955万3143円(イ) 自己実施分の超過利益(独占の利益) 2785万4000円(ウ) 合計 24億7548万8243円オ原告が受けるべき相当の対価の額本件特許発明がされるについて,原告が貢献した程度は,少なくとも全体の50%を下らないのであって,これに対し,被告会社が貢献した程度は,多く オ原告が受けるべき相当の対価の額本件特許発明がされるについて,原告が貢献した程度は,少なくとも全体の50%を下らないのであって,これに対し,被告会社が貢献した程度は,多くとも50%に留まる。したがって,原告が受けるべき相当の対価の額は,下記算式のとおり,12億3774万4121円を下らない。 (算式) 24億7548万8243円×(1-0.5)≒12億3774万4121円カ既払額の控除被告会社は,本件特許発明が登録された前後の平成20年,平成21年にわたり,原告に対し,合計250万円の賞与を支給した(乙6の1)。 これは,その前後に賞与の支給がないことから分かるとおり,原告が,長年にわたり,デコスドライ工法の事業化・普及に尽力し,その結果,本件特許発明の登録に至ったという功績について,被告Bがこれを高く評価し,報奨の趣旨を込めて支給したものである。上記賞与を相当の対価の一部の - 51 -支給として控除すると,残額は,12億3524万4121円となる。 (算式) 12億3774万4121円-250万円=12億3524万4121円キ以上によれば,被告会社は,原告に対し,本件特許発明の特許を受ける権利を承継したことにかかる相当の対価として,12億3524万4121円の支払を免れない。原告は,上記相当の対価の額12億3524万4121円の内金として,2億6760万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年8月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 〔被告会社の主張〕(1) 〔原告の主張〕(1)については否認する。前記のように,本件特許とデコスドライ工法は同じものではなく,被告会 で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 〔被告会社の主張〕(1) 〔原告の主張〕(1)については否認する。前記のように,本件特許とデコスドライ工法は同じものではなく,被告会社は本件特許発明を実施していない。 また,デコスドライ工法代理店からの収入についても,後記(2)のとおり,本件特許発明の実施の対価とはいえない。 (2) 〔原告の主張〕(2)については,被告会社がデコスドライ工法施工代理店から金員を受領しているという限度で認めるが,その余は否認する。被告会社がデコスドライ工法施工代理店から受領している金員の意義は,被告会社から施工方法に関するノウハウの提供・教育を受けられること,施工に必要な機械や一定の品質が確保された材料の安定的な供給を受けられることの対価がそのほとんど全部を占めており,本件特許が本来有する許諾料としての意味合いがほとんどない。理由は以下のとおりである。 被告Bは,平成5年頃,自宅にセルロースファイバーを使用した断熱工法を施工したことで,そのすばらしさに魅せられ,B工務店が施工する住宅の全てに,セルロースファイバーを使用した断熱工法を標準採用することにした。被告Bは,顧客からの話を聞くにつれて,このセルロースファイバーを - 52 -使用した断熱工法を自社だけでなく,他の工務店に普及させたいと考えた。 そこで,本件特許出願以前の平成6年頃から,B工務店は,この断熱工法を同社グループの核となるサービスの一つとして育てていく計画を立て,住宅全体の基本性能を確保するため床・屋根・壁・天井にわたる住宅全般の断熱の施工方法やその材料となるセルロースファイバーの広告宣伝・営業方法等について工夫を重ねノウハウを蓄積していき,これにデコスドライ工法というブランドを設定した。 壁・天井にわたる住宅全般の断熱の施工方法やその材料となるセルロースファイバーの広告宣伝・営業方法等について工夫を重ねノウハウを蓄積していき,これにデコスドライ工法というブランドを設定した。 上記営業方法等の工夫として,断熱施工に必要となる機械や原料等を安定的に供給できる仕組みを構築するとともに,施工代理店制度を導入し,代理店に対する教育ノウハウの開発を行なった。かかる工夫により,代理店の増加や売上げの拡大がもたらされた。また,上記施工方法の工夫として,B工務店や被告会社の施工担当者のEらに作業の標準化を推進させ,セルロースファイバーの吹き込みを効率的かつ容易に行なえるよう施工精度が高められた。さらには財団法人建材試験センターに沈降化実験を依頼するよう指示し,この実験結果から吹き込み穴の数・高さ,吹き込み方法や一度に吹き込む分量等を標準化するに至った。このことで,吹き込みの密度の正確性が担保されるようになり,現在のデコスドライ工法が確立した。 このような開発経緯・工夫等からすると,デコスドライ工法は,本件特許の発明前より存在する住宅全体(床・屋根・壁・天井)を対象とする断熱工法であり(乙13),本件特許発明よりも広範な範囲にわたり,その材料の品質,営業方法までも含む総合的なノウハウであることが明らかである。つまり,デコスドライ工法は,本件特許発明に係る工法である住宅の外壁に関する断熱施工方法と同じものではない。 被告会社は,複数の工務店及び建材業者と,デコスドライ工法施工代理店契約を締結している。かかる契約に基づき,被告会社は,代理店に,デコスドライ工法の施工方法に関するノウハウの提供・教育をし,さらには施工に - 53 -必要な機械や一定の品質が確保された材料を安定的に供給する。これにより,代理店は ,代理店に,デコスドライ工法の施工方法に関するノウハウの提供・教育をし,さらには施工に - 53 -必要な機械や一定の品質が確保された材料を安定的に供給する。これにより,代理店は,自らが受注した物件等に,デコスドライ工法に基づく断熱施工工事を行うことが可能になる。そのデコスドライ工法は,本件特許と同一のものではない。代理店がかかわる住宅の建築は様々であるのが実情であり,床・屋根・天井については,本件特許に関する施工手順,方法をそのまま実施できるというわけではなく,また,外壁についても,常に床上から2mの壁を想定して穴を開ける位置の厳密な高さや細かな作業手順を遵守することは現実的ではない。 また,デコスドライ工法施工代理店契約に基づき,代理店は加盟金や工法使用料を支払うが,これは,被告会社から施工方法に関するノウハウの提供・教育を受けられること,施工に必要な機械や一定の品質が確保された材料の安定的な供給を受けられることの対価がそのほとんどであり,特許権が有する許諾料としての意味合いはほとんどない。 (3) 〔原告の主張〕(3)は否認する。 (4) 〔原告の主張〕(4)は否認する。 (5) 〔原告の主張〕(5)アないしオうち,同イのうちの,財団法人建材試験センターで実験が行なわれたという内容の限度,及び,平成12年に次世代省エネ基準に適合するとの認定を受けたという内容の限度で認め,その余は否認する。平成8年9月以降,被告会社は,会社として新省エネ基準の認定等各種認定を取得することを目指す方針を掲げた。原告の主導による各種認定取得作業が行なわれたのではない。平成9年,被告会社は,省エネ機構の材料・施工評価委員会に対し,セルロースファイバーを平均密度50~60kg/m3で充填する被告会社の断熱工法が新省エネ基準に適 認定 取得作業が行なわれたのではない。平成9年,被告会社は,省エネ機構の材料・施工評価委員会に対し,セルロースファイバーを平均密度50~60kg/m3で充填する被告会社の断熱工法が新省エネ基準に適合する旨の報告を行い,同年12月1日,同機構から被告会社の断熱工法が新省エネ基準に適合する認定を受けた。かかる申請,及び認定は,被告会社が行なったものであり,原告が行なったものではない。財団法人建材試験センターへの沈降化 - 54 -実験依頼は,平成9年3月14日,被告会社によってなされている。なお,同実験依頼の決断をしたのは,被告Bである。被告Bがそのような決断をしたのは,認定機関との協議に被告Bが出席した際,同協議で新省エネ基準の認定を受けるためには,沈降化実験が必要不可欠であると言われたことに基づく。 また,同(5)カのうちの賞与の支払の事実は認め,その余は否認する。原告に支給された賞与には,本件特許登録に基づく報奨金としての意味はない。 平成12年から平成21年にかけて,被告会社は,原告に対し,役員報酬(定額報酬)及び賞与を支給している。原告に対する賞与(平成17年に30万円,平成19年に100万円,平成20年に150万円支給している。)は,本件特許登録前である平成17年,平成18年頃より,デコスドライ工法施工代理店が大きく増加し始め,被告会社の売上げも急伸したことに基づき支給されたものである(甲53)。上記賞与のうち,平成19年の賞与(乙6の9)は,本件特許の登録前である平成19年2月28日に支給されたものであり,本件特許と関係ないことは明らかである。また,平成20年の賞与(乙6の10)は,同年7月25日と同年12月15日に75万円ずつ支給したものであるところ,原告のみならず他の取締役3名に対しても合計250 特許と関係ないことは明らかである。また,平成20年の賞与(乙6の10)は,同年7月25日と同年12月15日に75万円ずつ支給したものであるところ,原告のみならず他の取締役3名に対しても合計250万円の賞与が支給されている。つまり,同年の賞与は,原告だけに特別に支給したものではなく,被告会社の業績向上に基づく支給であることは明らかである。 (6) 〔原告の主張〕(5)キは争う。 5 争点(5)(原告の職務発明相当対価請求権の時効消滅の成否)について〔被告会社の主張〕(1) 原告は,被告会社は本件特許発明につき自己の名で特許を受けたのであるから,原告は,被告に対し,相当の対価を請求できると主張するが,被告会社が自己の名で本件特許の特許出願することを,その当時(平成11年1月 - 55 -25日)に了承していたから,遅くとも本件特許出願日前に,被告会社に対して本件特許発明の特許を受ける権利を譲渡したことに対する相当の対価を請求していることが明白である。 被告会社は,当時,職務発明の対価金支払時期を定めた就業規則や職務発明規程等を有していなかったから,原告の主張を前提とすると,原告は,被告会社に対して本件特許発明の特許を受ける権利を譲渡した時から対価請求権を行使することができたので,この時から当該請求権の消滅時効が進行する。そうすると,対価請求権が行使し得る時から原告が被告会社に対して初めて請求をした平成24年5月10日(同日付け原告第3準備書面を受領した日)までの間に既に10年以上が経過している(民法167条1項参照)。 そこで,被告会社は,上記消滅時効を援用する。 (2) この点に関して原告は,平成19年6月5日の特許査定をもって,出願人,発明者の補正(特許法17条1項,4項)の機会 条1項参照)。 そこで,被告会社は,上記消滅時効を援用する。 (2) この点に関して原告は,平成19年6月5日の特許査定をもって,出願人,発明者の補正(特許法17条1項,4項)の機会が失われたことにより,本件特許発明にかかる特許を受ける権利につき,確定的に被告会社に承継させ,遅くとも同日までに,本件特許発明につき特許を受ける権利を被告会社に承継させた旨主張する。 しかし,「特許を受ける権利」が承継されたかどうかは,特許出願前に権利取得原因事実が存在するかどうかという私法上の問題であるのに対し,特許出願後の出願者の行為は,特許権設定の登録という法律的行政行為に向けられたいわば手続的なものである。また,特許出願から特許査定までの過程の中で,出願者は,「特許を受ける権利」の譲渡者(発明者等)に対する関係で,手続の補正(特許法17条)をする義務を負っているわけでもない。 したがって,「特許を受ける権利」の承継時点を,特許出願後の補正機会の喪失時期に求める原告の主張は失当である。 (3) また,原告は,被告会社との間で,将来本件特許が登録されるまでは,相 - 56 -当の対価を支払わない旨の合意があった旨主張するが,そのような合意は存在しない。 〔原告の主張〕(1) 原告と被告会社との間では,相当の対価の支払時期の合意があるから,相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効期間は未だ経過していない。その理由は,以下のとおりである。 原告と被告Bは,本件工法につき,いわば防御目的でとりあえず特許出願をするものの,当面は審査を請求しないものとしていた。 特許を受ける権利を承継したといっても,正式に特許登録されなければ,被告会社にとって,対価を支払うだけの目に見える経 とりあえず特許出願をするものの,当面は審査を請求しないものとしていた。 特許を受ける権利を承継したといっても,正式に特許登録されなければ,被告会社にとって,対価を支払うだけの目に見える経済的メリットはない。 まして,被告Bは,その一方的な意向によって,原告から被告会社への特許を受ける権利の承継を行うなど,非常にワンマンな経営を行っており,対価を支払う必要性も理解していなかった。 したがって,原告と被告Bは,本件出願に際し,本件特許が登録されるまでは職務発明の対価を授受しないものとしていた。当面,審査請求せず,したがって,特許登録されることもない以上,被告Bは対価を支払う意思がなく,原告も対価を受領できるとは考えていなかった。 すなわち,原告と被告Bは,被告会社が原告から特許を受ける権利を承継するに際し,被告会社による特許出願時には相当の対価を支払わないこと,言い換えれば,将来,本件特許が登録されるまでは,相当の対価を支払わないことを黙示に合意している。 (2) これを法的にいえば,原告と被告会社との間では,相当の対価につき,その支払時期を本件特許の登録時とする旨の期限の合意,ないし,本件特許が登録されることを停止条件として支払う旨の条件の合意が存在する。 かかる合意は,最高裁第三小法廷平成15年4月22日判決(平成13年(受)第1256号・民集57巻4号477頁)がいう「勤務規則等の定 - 57 -め」に当たる。それゆえ,かかる合意による「支払時期」,すなわち,本件特許の登録時が到来するまでの間は,原告は,被告会社に対し,相当の対価の支払を請求できないのであって,この登録時こそが,相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となる。 そして,本件特許が登録されたのが るまでの間は,原告は,被告会社に対し,相当の対価の支払を請求できないのであって,この登録時こそが,相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となる。 そして,本件特許が登録されたのが平成19年7月13日であるから,原告が本件訴訟を提起した平成23年7月15日までに,相当の対価の支払を受ける権利につき,未だ消滅時効期間が経過していないことは明らかである。 (3) また,上記のとおり,原告は,被告会社に在職中,遅くとも平成8年までには本件工法(本件特許発明)を完成させたが,その当時,被告会社には,職務発明につき,被告会社に特許を受ける権利を承継させることを定めた契約,勤務規則その他の定めの条項は存在しなかった。それゆえ,原告は,本件特許発明につき,発明者として自ら特許を受ける権利を有していた。本件特許出願は,本来,発明者ではない被告Bが,原告の意に反して被告会社を出願人として行ったものであって,無権利者による出願である。 したがって,被告B,被告会社は,本件特許の出願後も,出願事件が特許庁に係属している間は,真実に合致するように,出願人名義変更届を提出する等の方法によって,出願人,発明者を原告に変更する形で補正することができた(特許法17条1項,4項)。 (4) しかるに,被告会社は,平成17年2月7日に出願審査の請求を行った後も,出願人,発明者の補正を行わなかった。そして,被告会社は,本件特許発明につき,平成19年6月5日に特許査定を受け,同年7月13日に特許登録を受けた(甲2)。それゆえ,同年6月5日の特許査定をもって,出願事件の特許庁への係属が終了し,出願人,発明者の補正の機会も失われた。 - 58 -(5) 以上によれば,平成19年6月5日の特許査定をもって,出願人,発明者の補正の機会 て,出願事件の特許庁への係属が終了し,出願人,発明者の補正の機会も失われた。 - 58 -(5) 以上によれば,平成19年6月5日の特許査定をもって,出願人,発明者の補正の機会が失われたことにより,原告は,本件特許発明の特許を受ける権利につき,確定的に被告会社に承継させた。すなわち,原告は,遅くとも同日までに,本件特許発明につき特許を受ける権利を被告会社に承継させたというべきである。 (6) なお,被告会社は,原告が職務発明対価請求の権利行使をしたのが平成24年5月10日であると主張するが,原告は,平成23年7月15日受付の訴状をもって自己が発明者かつ特許権者であることを前提に被告会社に対し不法行為に基づく損害賠償請求または不当利得に基づく返還請求を行っており,原告は平成24年5月10日付けで予備的請求原因として職務発明対価請求の主張をしたものであるが,これらは請求の形態が異なるにすぎないから,本件訴訟を提起した時点で原告は既に職務発明対価請求の権利行使をしたというべきである。 6 争点(6)(相当対価請求権についての時効中断の成否)について〔原告の主張〕(1) 被告会社は,本件特許の取得後,相当の対価の支払につき,債務の承認をしているから,消滅時効は中断している。 すなわち,原告は,平成19年7月頃,訴外越智産業株式会社(以下「越智産業」という。)が特許証の金属製レプリカを贈呈したときに,被告会社代表者たる被告B本人から,「Aさんには何かお支払いせないけんね。 ちょっと待っちょって。」などと,報奨金等の発明の対価の支給を検討しているので少し待ってほしい旨,直接,申し出をされたことがあるが,これは,本件特許発明が特許登録できたことを契機に,原告に対して,本件特許の承継にかかる相当の対価を 奨金等の発明の対価の支給を検討しているので少し待ってほしい旨,直接,申し出をされたことがあるが,これは,本件特許発明が特許登録できたことを契機に,原告に対して,本件特許の承継にかかる相当の対価を支払うので,支払時期について当面猶予されたい旨を申し出るものであったというべきであるから,債務の承認(民法147条3号)に当たる。 - 59 -したがって,同時点(平成19年7月頃)をもって,相当の対価の請求権の消滅時効は,一旦,中断した。 それゆえ,原告が本件訴訟を提起した平成23年7月15日までに,相当の対価の支払を受ける権利につき,未だ消滅時効期間が経過していないことは明らかである。 (2) また,前記4〔原告の主張〕(5)カのとおり,被告会社は,本件特許発明が登録された前後の平成20年,平成21年にわたり,原告に対し,合計250万円の賞与を支給した(乙6の1)。これは,その前後に賞与の支給がないことから分かるとおり,原告が,長年にわたり,デコスドライ工法の事業化・普及に尽力し,その結果,本件特許発明の登録に至ったという功績について,被告Bがこれを高く評価し,報奨の趣旨を込めて支給したものである。 かかる賞与の支給は,債務の承認として時効の中断事由に当たる。 〔被告会社の主張〕(1) 〔原告の主張〕(1),同(2)につき,否認ないし争う。 (2) 原告に支給された賞与には,本件特許登録に基づく報奨金としての意味はない。 平成12年から平成21年にかけて,被告会社は,原告に対し,被告会社作成にかかる原告の給与及び賞与の一覧表(乙6の1)記載のとおり,役員報酬(定額報酬)及び賞与を支給している。それによれば,確かに,被告会社は原告に対して,平成17年に30万円,平成19年に100万円,平 かる原告の給与及び賞与の一覧表(乙6の1)記載のとおり,役員報酬(定額報酬)及び賞与を支給している。それによれば,確かに,被告会社は原告に対して,平成17年に30万円,平成19年に100万円,平成20年に150万円の賞与を支給しているが,これらは,本件特許登録前である平成17年,平成18年頃より,デコスドライ工法施工代理店が大きく増加し始め,被告会社の売上げも急伸したことに基づき支給されたものである(甲53)。 上記賞与のうち,平成19年の賞与(乙6の9)は,本件特許の登録前 - 60 -である平成19年2月28日に支給されたものであり,本件特許と関係ないことは明らかである。 また,平成20年の賞与(乙6の10)は,同年7月25日と同年12月15日に75万円ずつ支給したものであるところ,原告のみならず他の取締役3名に対しても合計250万円の賞与が支給されている。つまり,同年の賞与は,原告だけに特別に支給したものではなく,被告会社の業績向上に基づく支給であることは明らかである。 このような事情からすると,上記賞与が,本件特許が登録されたことに基づく報奨金の趣旨で支給されたものであるとの原告の主張は,明らかに失当である。 7 争点(7)(被告会社による消滅時効の援用が権利の濫用に当たるか)について〔原告の主張〕(1) 仮に,職務発明の対価請求につき消滅時効期間が経過しているとしても,被告会社が消滅時効を援用することは,信義則に反し,権利の濫用として許されない。 すなわち,本件特許出願当時,原告と被告会社との間では,職務発明について,予め被告会社に特許を受ける権利を承継させることを定めた契約,勤務規則その他の定め(特許法35条2項参照)は存在しなかった。したがって,原告は 出願当時,原告と被告会社との間では,職務発明について,予め被告会社に特許を受ける権利を承継させることを定めた契約,勤務規則その他の定め(特許法35条2項参照)は存在しなかった。したがって,原告は,本来,被告会社に対して,同権利を承継させる義務はなかった。 しかし,被告Bは,申請名義につき,原告の意見も聞かないまま,「俺でいいだろ。」と強引に決めつけるなどして,同権利を被告会社に承継させた。 また,被告会社が出願審査の請求を行ったのは,本件特許出願の約6年後の平成17年2月7日,登録を受けたのは,約8年6か月後の平成19年7月13日であった。このため,原告が,相当の対価の支払いにつき,被 - 61 -告Bと交渉できたのは,早くとも平成19年7月13日以降であった。 さらに,前記6〔原告の主張〕(1)のとおり,被告Bは,平成19年7月頃,越智産業が特許証の金属製レプリカを贈呈したときに,原告に対し,「Aさんには何かお支払いせないけんね。ちょっと待っちょって。」などと,報奨金等の発明の対価の支給を検討しているので少し待ってほしい旨,自ら進んで申し出た。 このため,原告は,被告Bが,本件特許発明が特許登録できたことを契機に,原告に対して,本件特許発明につき特許を受ける権利の承継にかかる相当の対価の支払を申し出るとともに,その支払につき,しばらくの猶予を求めたものと理解した。 しかし,被告Bは,原告と一緒にマスコミの取材を受けたりする都度,原告が本件特許を取得したことを賞賛しながら,具体的な報奨金等の対価の支給の話はなかなか持ち出さなかった。 このため,原告は,被告Bの態度に次第に失望し,平成21年5月15日,被告会社の取締役副社長を退任し,もって,被告会社を ら,具体的な報奨金等の対価の支給の話はなかなか持ち出さなかった。 このため,原告は,被告Bの態度に次第に失望し,平成21年5月15日,被告会社の取締役副社長を退任し,もって,被告会社を退社した。 (2) 他方で,被告会社は,本件特許の取得後,本件特許権者として,自ら本件特許発明を実施するほか,本件特許権を大々的に広告宣伝している。 こうして,被告会社は,より一層,デコスドライ事業を本格化させ,代理店,他のセルロースファイバー事業者などが本件工法を模倣したり,勝手に流用したりするのを防ぐとともに,現在,少なくとも全国53社をデコス代理店として組織するに至っている(甲11の2)。 そして,被告会社は,これらの代理店及びB工務店に対し,本件特許発明の実施を許諾するとともに,代理店から,本件特許発明の実施に対し,加盟金(加盟時に徴収)として1社当たり100万円ないし200万円,工法使用料(毎年徴収)として1社当たり24万円ないし48万円,保証書発行料(1棟施工毎に徴収)として建物1棟当たり2万円の金員を受領し - 62 -ている。 本件特許権の重要性は,被告らがホームページ,新聞,雑誌等で繰り返し述べているとおりであって,本件特許権は,非常に大きな経済的価値を有している(甲9,11,13,16~18,41,45,47など)。 (3) このように,被告会社は,本件特許権によって莫大な経済的利益を享受しながら,原告に対し,相当の対価を支払っていない。 また,被告会社代表者たる被告Bは,特許を受ける権利を被告会社に承継させた時点では,少なくとも,将来,本件特許が登録されるまでは,職務発明の対価を支払わない意向を示した。 そして,実際に本件特許発明が特許登録された時点で ,特許を受ける権利を被告会社に承継させた時点では,少なくとも,将来,本件特許が登録されるまでは,職務発明の対価を支払わない意向を示した。 そして,実際に本件特許発明が特許登録された時点では,被告Bは,原告に対し,従前の黙示の合意どおり,報奨金等の発明の対価を支給するとしながら,少し待ってほしい旨,自ら進んで申し出て,原告をして,その旨信じさせた。 このように,被告会社は,原告に対し,報奨金等の対価を支給するかの如き言動をし,原告から請求の猶予を得ながら,実際には対価を支払わず,その一方で,本件特許発明を利用して建物の施工を行い,代理店を勧誘するなどして多額の利益を得ながら,原告がやむを得ず本件訴訟を提起するや,消滅時効の援用を主張している。 これらの事実を含む本件特許出願に至る経緯,本件特許出願の目的,その際の当事者の意思,特許を受ける権利の承継の経緯,その後の審査請求,登録に至る経緯,登録後の被告Bの言動,被告会社,B工務店のデコスドライ事業の実情,ことに,被告会社,B工務店が得た経済的利益等の一切の事情に鑑みれば,かかる事情の下で,被告会社が消滅時効を援用するのは,信義則に反し,権利の濫用として許されないというべきである。 〔被告会社の主張〕(1) 〔原告の主張〕(1)のうち,本件特許出願当時,被告会社と原告との間で, - 63 -職務発明についての契約,勤務規則その他の定めが存在しなかったことは認め,その余は否認ないし不知。 (2) 〔原告の主張〕(2),同(3)はいずれも否認ないし争う。 8 争点(8)(被告Bについて発明者名誉権侵害の不法行為が成立するか,成立するとした場合の原告の損害額)について〔原告の主張〕発明者は,特許権の帰属如何にかかわら 認ないし争う。 8 争点(8)(被告Bについて発明者名誉権侵害の不法行為が成立するか,成立するとした場合の原告の損害額)について〔原告の主張〕発明者は,特許権の帰属如何にかかわらず,人格権としての発明者名誉権を有するところ,被告Bは,本件特許発明につき,原告が発明者であるにもかかわらず,原告ではなく自らを発明者と記載して特許出願を行い,その旨の特許登録を受け,被告Bの氏名が特許証の発明者欄に記載されるに至った。 上記行為は,原告の発明者名誉権を侵害する不法行為を構成する。 かかる発明者名誉権侵害によって原告が被った精神的苦痛を慰謝するに相当な慰謝料は200万円を下らない。 原告は,本件訴訟を代理人弁護士に委任したところ,被告Bの不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用は,少なくとも20万円を下らない。 よって,原告は,被告Bに対し,220万円及び継続的不法行為の直近日に当たる訴状送達の日である平成23年8月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合よる遅延損害金の支払を求める。 〔被告Bの主張〕否認し争う。 原告が本件特許発明の発明者でないことは,前記1〔被告らの主張〕(2)のとおりである。 原告の行動をみても,原告は,本件特許出願に先立つ平成11年1月22日頃,G弁理士に対し,自ら電話で,本件特許出願の願書に記載される発明者を被告Bにするよう伝えている(乙3)。また本件特許出願がなされた平成11年1月25日から本件訴訟が提起された平成23年7月までの間,原告 - 64 -は,被告B,被告会社に対して,発明者が原告であるとの指摘や苦情を言ったことは一切ない。このような事情からすると,本件訴訟を提起するまで,原告自身も,本件特許の発明者でないこ - 64 -は,被告B,被告会社に対して,発明者が原告であるとの指摘や苦情を言ったことは一切ない。このような事情からすると,本件訴訟を提起するまで,原告自身も,本件特許の発明者でないことを自認していたことが明らかである。 したがって,自己が発明者であることを前提とする原告の主張は,そもそも失当であるばかりか,発明者名誉権に基づく主張をすることも,矛盾挙動であり,信義則上許されない。 9 争点(9)(被告Bについて発明者名誉権侵害が成立するとした場合の,謝罪広告掲載の要否)について〔原告の主張〕前記8〔原告の主張〕のとおり,被告Bにつき,原告に対する発明者名誉権侵害が成立するところ,被告らが,住宅業界内において,本件特許発明につき,あたかも被告Bの発明であるかのように広告宣伝し,その旨誤信する建築業者も増えつつあること等に鑑みれば,民法723条に基づき,原告の名誉を回復させるため,業界紙たる「日本住宅新聞」(甲6,7)に被告Bの謝罪広告を掲載することが必要である。 〔被告Bの主張〕否認し争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実証拠(甲1~84,乙1~31,原告本人,被告会社代表者兼被告B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,同認定を覆すに足りる的確な証拠はない。 (1) 本件特許発明に至る経緯及びB工務店,被告会社におけるセルロースファイバー断熱工法施工の経過等ア原告は,昭和58年1月に,島畑産業に入社して断熱工事に携わり,昭 - 65 -和63年12月まで同社に在籍した後,昭和64年1月に吉水商事に入社し,断熱工事に携わった。〔乙10〕セルロースファイバーは,古紙を再利用した天然の木質繊維であり,米国においては昭和 和63年12月まで同社に在籍した後,昭和64年1月に吉水商事に入社し,断熱工事に携わった。〔乙10〕セルロースファイバーは,古紙を再利用した天然の木質繊維であり,米国においては昭和15年頃から生産され,昭和53年からは国内で十條製紙が生産を行っていたところ,セルロースファイバーを住宅建設の際の壁面の断熱材等として使用することについては,平成2年頃までには既に一般に知られていた。原告は,吉水商事に勤務中の平成2年頃,外壁と内壁との空間に,送風機でセルロースファイバーを吹き込み充填する方法を考案し,原告は,十條木材の施工機を真似て独自の施工機を設計し,そのころ,福井市の鉄工所に発注してこれを製造させた。〔甲23〕吉水商事においては,この施工機を建築現場におけるセルロースファイバーの充填に用いていた。 イ原告は,吉水商事において,平成2年頃は,内張りシートに寒冷紗という木綿やナイロンなどをごく粗めに織った薄地の綿布を試していたが,目が粗いことからセルロースファイバーの粉塵がこの目を通り抜け,舞い上がる問題があった。そこで,原告は,平成3年頃,内張りシートにセーレン製の透湿防水シートを内壁側に張ってみたが,目が小さすぎて空気がうまく抜けず,シート自体が膨らんで外壁内に空気が溜まってしまい充填できなかった。原告は,セーレンに,一般の透湿防水シートをベースとして,適度に空気が抜け,粉塵が外壁の外へ流出しないように,改良を加えた試作品を作ってもらい,平成5年ないし6年頃,セルロースファイバー断熱工法に用いる内張りシートとして,「セルローズ専用内張りシート」(甲27)を完成させた。その後,原告は,このシートに,格子柄を印刷することを着想した。 ウ平成6年2月25日発行の日本住宅新聞には,「セルロ りシートとして,「セルローズ専用内張りシート」(甲27)を完成させた。その後,原告は,このシートに,格子柄を印刷することを着想した。 ウ平成6年2月25日発行の日本住宅新聞には,「セルローズファイバー - 66 -に防湿層は不要秋田工専のD教授が実験結果から提案」との見出しのもと,「今回のD教授の実験調査では調湿性能のあるCF(判決注;上記「セルローズファイバー」を指す。)では,室内側に気密防湿層を施工しなくても内部結露せず,むしろ防湿層のない方が室内の湿度を調整して結露しやすい部分での結露の防止に役立つという見解を打ち出したことになる。」との記事が掲載されている。〔甲6〕エ一方,被告Bは,平成5年, オーエムソーラー協会の会員の会合に出席し,セルロースファイバー断熱材の特長等の説明を受け,その吹き込み工法の実演を見学し,B工務店が建築する住宅等にもその工法を採用しようと考えた。そこで,被告Bは,自宅の建築に当たり,吉水商事の行っているセルロースファイバーを吹き込む工法を採用することとし,B工務店は,被告Bの自宅を,その工法採用の一棟目とする方針とし,吉水商事から専用の施工機を購入し,セルロースファイバーも仕入れた。 そして,被告Bは,平成5年10月,吉水商事から施工指導を受け,セルロースファイバー吹き込み工法を習得することとして,B工務店に建築部ハウスボディ課に断熱施工班を設け,Eをその構成員として,吉水商事の指導を受けさせた。吉水商事からは,技術者として同社従業員のFのほか,原告が来て,吉水商事の吹き込み機械の使用方法,外壁側にエアシートを設置し,内壁側に内張シートを設置すること,内張シートに複数の穴を開け吹き込み機械をセットして,吹き込み穴からセルロースファイバーを吹き込んで充填す 事の吹き込み機械の使用方法,外壁側にエアシートを設置し,内壁側に内張シートを設置すること,内張シートに複数の穴を開け吹き込み機械をセットして,吹き込み穴からセルロースファイバーを吹き込んで充填することを指導した。 このようにして,B工務店においては,建築する住宅等にセルロースファイバー吹き込み工法を採用することとし,同社の断熱施工班がその施工を行った。 オ B工務店は,平成6年頃には,施工現場において,Eをして墨壺を用いて内張りシートの一定の高さに墨で線を入れさせ,吹き込み完了後に目 - 67 -張りとして内張りシートと同じ素材の生地を貼り付けさせるなどして,セルロースファイバー吹き込み工法を施工していたが,その後,この墨入れと目張りに関し,セルロースファイバー吹き込み工法の施工精度を高めるため,吹き込み穴を開ける位置や1回で吹き込む分量を床からの高さによって規律し,吹き込み穴を塞ぐなどの作業手順を標準化することを目指した。 カ B工務店のEが,平成7年頃行っていたセルロースファイバー吹き込み工法の作業手順は,以下のとおりである。 ① まず,吹き込み穴を,壁面に対して縦に2箇所,横は幅に応じて1ないし複数の箇所に開けることとし,縦に開ける穴2箇所の高さを確定して墨壺を用いて横一直線に墨入れを行い,次に,床に近い墨線上にカッターで数cmの穴を開け,その穴から専用の施工機のホースを差し込み,下方向に向けて適度にセルロースファイバーを充填し,ホースを抜いた後にガムテープ等で穴を塞ぐ。 ② 次に,天井に近い墨線上にカッターで数cmの穴を開け,その穴から同様に吹き込みをし,全体にセルロースファイバーの充填が完了したらホースを抜き,吹き込み穴の目張りとして,内張りシ 等で穴を塞ぐ。 ② 次に,天井に近い墨線上にカッターで数cmの穴を開け,その穴から同様に吹き込みをし,全体にセルロースファイバーの充填が完了したらホースを抜き,吹き込み穴の目張りとして,内張りシートと同じ素材の帯状の生地を2本の墨線上に貼り付ける。 ③ その際,壁内のセルロースファイバーを必要な密度で充填するために,セルロースファイバーを吹き込みながら,吹き込み機械のホースの先端でセルロースファイバーを押さえる必要があるところ,ホースは柔軟性のあるプラスチック素材であることから吹き込み穴から離れすぎた場所のセルロースファイバーを押さえようとしてもうまく力が伝わらないため,床上から天井までの高さを4等分した際の床上より大体一つ目あたりを下穴の位置,床上から大体三つ目が上の穴の位置とする,というものであった。〔乙22,3~4頁〕 - 68 -キ被告Bは,Eらが,大工道具の墨壺を用いて内貼りシートの一定の高さに墨で線を入れ,吹き込み穴を塞ぐための帯状のシートで目張りを施しているのを見た上でこれにつき,Eから,吹き込み完了後の仕上がりを綺麗に見せるため,一定の高さの一直線上に吹き込み穴を開け,吹き込み完了後に目張りとして内張りシートと同じ素材の生地を貼り付けているとの説明を受けた。そこで,被告Bは,セルロースファイバー吹き込み工法の施工精度を高めるためには,吹き込み穴を開ける位置や1回で吹き込む分量を床からの高さによって規律し,吹き込み穴を塞ぐなどの作業手順を標準化することこそが重要であると思いついたと述べている。〔乙24,5頁〕ク被告Bは,平成7年10月,原告をB工務店に採用し,ハウスボディ事業課を事業部に昇格させ,その事業部長に起用した。被告Bは,平成8年9月,B工務店ハウスボディ る。〔乙24,5頁〕ク被告Bは,平成7年10月,原告をB工務店に採用し,ハウスボディ事業課を事業部に昇格させ,その事業部長に起用した。被告Bは,平成8年9月,B工務店ハウスボディ事業部のうち事業部長である原告と断熱施工班のみを被告会社に移管した。 ケ被告会社は,平成9年3月14日,財団法人建材試験センターに沈降化実験を依頼し,同年5月15日付けで,セルロースファイバーの平均密度60kg/m3で,沈降が認められないとの結果を得たとする試験成績書の交付を受けた。〔乙7〕。 コ被告会社は,セルロースファイバー吹き込み工法について,財団法人住宅・建築省エネルギー機構の定める「省エネルギー建築技術評定要領」に基づく評定である新省エネ基準の認定等各種認定を取得することを目指す方針を掲げ,同機構にデコスドライ工法に係る評定審査を申請したところ,同財団法人の材料・施工評価委員会は,同財団法人に対し,平成9年11月1日,セルロースファイバーを平均密度50~60kg/m3で充填するデコスドライ工法が新省エネ基準に適合する旨の報告を行った。その評定項目の「ハ施工方法,(2)結露防止等」の「性能等」 - 69 -には,「外壁等にはエアーシートを施工し,一般的には透湿防水の役割を持たせ,室内側は,通気性のある内張りシートの更に室内側に防露のための防湿シートを施工している。また取り付けのためのステープルは十分な間隔で行われ,防露対策として問題はない。」との記載があり,吹き込み作業を含む施工作業に関する事項について,「施工マニュアル」が作成されていることが記載されている。〔乙8の1〕その結果,被告会社のデコスドライ工法は,同年12月1日付けで,「省エネ機・評定第351号」(天井)及 ついて,「施工マニュアル」が作成されていることが記載されている。〔乙8の1〕その結果,被告会社のデコスドライ工法は,同年12月1日付けで,「省エネ機・評定第351号」(天井)及び「省エネ機・評定第352号」(壁・床)として,それぞれ評定を得た。〔乙8の2〔天井〕,3〔壁・床〕〕サ被告会社は,後記(2)のとおり,平成11年1月25日,本件特許発明の出願をした。 シ被告会社が,平成11年1月27日付けで,越智産業との間で締結した取引基本契約には,以下の記載がある。〔「デコスドライ工法販売取引基本契約書」,乙30〕「第2条(用語の定義)この契約における用語の定義は次の通りとする。 1.『デコスドライ工法』とは,乙(判決注;被告会社)の申請に基づき,財団法人住宅・建築省エネルギー機構が同機構の定める省エネルギー建築技術評定要領(昭和62年5月2日制定)により,省エネルギー認定工法評定第351号『デコスドライ工法(天井)』同352号『デコスドライ工法(壁・床)』として認定した,セルロースファイバー乾式吹き込み断熱・防露調湿・防音材施工工法を言う。」スその後,被告会社は,平成12年9月11日にも,省エネ機構の定める「省エネルギー建築技術評定要領」に基づく評定である省エネ基準に関 - 70 -する評定を得た。〔甲37〕セ平成19年7月13日に被告会社が本件特許発明について特許登録を受けると,自社のホームページにおいて,「デコスドライ工法で特許取得」として紹介した。〔甲11〕ソ原告は,平成21年5月15日,被告会社の取締役を退任し,平成22年8月頃,地産エコ断熱協会を設立し,独自にセルロースファイバー断熱 「デコスドライ工法で特許取得」として紹介した。〔甲11〕ソ原告は,平成21年5月15日,被告会社の取締役を退任し,平成22年8月頃,地産エコ断熱協会を設立し,独自にセルロースファイバー断熱材の施工工事を行うようになった。〔乙24〕タ被告会社が,平成23年10月1日付けで,訴外株式会社沼田アルミとの間で締結した取引基本契約には,以下の記載がある。〔「デコスドライ工法施工代理店基本契約書」,乙31〕「第3条(契約商品及びデコスドライ工法)・・・2.デコスドライ工法とは,以下の特許権及び認定乃至は評定により認められた権利の実施権を含んだセルロースファイバー乾式吹き込み断熱・防露・防音工法をいう。 1)建物の断熱・防音工法に関する特許第3982935号2)住宅の品質確保の促進などに関する法律第58条第1項の規定に基づき,日本住宅性能表示基準に従って表示すべき性能に関し,評価方法基準に従った方法に代わるものであることを認定した特別評価方法認定826『結露の発生を防止する対策に関する基準に代わる構造方法に応じて評価する方法』3)財団法人建築環境・省エネルギー機構が認定した次世代省エネ基準評定第(2)511-1号『デコスドライ工法(天井・壁・床・屋根)』」(2) 本件特許の出願経過等ア原告及び被告Bは,本件特許発明の出願に関し,平成11年1月9日, - 71 -本件特許申請の代理人となるG弁理士と面会した。原告と被告Bは,G弁理士に本件特許発明の概要を説明した後,出願人を被告会社とすることとしたが,G弁理士から発明者を誰とするかを問われた際,原告と被告Bではあるが,その場では即答せず,後に連絡することとした。 は,G弁理士に本件特許発明の概要を説明した後,出願人を被告会社とすることとしたが,G弁理士から発明者を誰とするかを問われた際,原告と被告Bではあるが,その場では即答せず,後に連絡することとした。〔乙2,3,12〕イ被告Bは,被告代表者として,同年1月11日,G弁理士を本件特許発明の出願代理人とすべく,委任状を作成した。〔乙4〕ウ同月22日頃,原告は,G弁理士に対し,電話で,本件特許発明の出願に係る特許願に記載する発明者を,被告Bのみとするよう,指示した。 〔乙3,12〕エ同月25日,被告会社は,G弁理士を通じ,本件特許発明の出願をし〔乙14〕,平成12年8月2日には,出願公開がされた。〔甲12〕オ被告会社は,その後審査請求を行わないでいたが,審査請求期間の満了が近くなってきたことから,平成17年2月7日に審査請求を行ったところ,平成19年1月15日に拒絶理由通知(甲29)を受けた。 カ G弁理士は,同月25日付けで被告会社に対し,後記2(4)ア記載のとおりの書面を送付し,これに対する被告会社側の対応につき,原告と相談した。その結果,被告会社は,G弁理士を通じ,平成19年3月12日に意見書(甲33,乙16の2)を提出するとともに,本件補正を行った。 なお,被告Bは,本件補正に係る手続きには関与していない。〔原告尋問調書12頁〕キ被告会社は,平成19年5月29日に特許査定を得て,平成19年7月13日に特許登録がされた。〔乙17,18〕ク原告は,本件訴訟提起までの間に,被告Bが発明者とされたことについて,異議ないし苦情等を述べたことはない。〔乙24,被告B尋問調書6~7頁〕 - 72 - 2 本件特許発明の技術的意義(1) 当初明細書の記載内 発明者とされたことについて,異議ないし苦情等を述べたことはない。〔乙24,被告B尋問調書6~7頁〕 - 72 - 2 本件特許発明の技術的意義(1) 当初明細書の記載内容当初明細書には,以下の記載がある。〔乙14〕「【請求項1】 建物の外壁又は床の内部に木質繊維を施工することにより外壁又は床の断熱・防音性能を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁又は床の内部に通気性のシート又は板により両側から挟まれた空間を形成し,この空間内に,1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度になるように,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を充填させる,ことを特徴とする建物の断熱・防音工法。 【請求項2】 建物の外壁内に木質繊維を施工することにより外壁の断熱・防音性能を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁内に,柱又は間柱を介して互いに対向する透湿防水性エアシートと通気性内張りシートとを備えると共に,前記のエアシートと内張りシートとに挟まれた空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填するために必要な量の接着剤を含まない乾燥した木質繊維を用意し,前記量の木質繊維を,前記内張りシートに形成された穴から前記空間内に,送風により吹き込むことにより,前記空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で木質繊維を充填させる,ことを特徴とする建物の断熱・防音工法。 【請求項3】 請求項2において,前記内張りシートの穴から木質繊維を吹き込む工程は,まず,内張りシートの中央より下方に形成された第1の穴から下方に向かって前記の予め用意した木質繊維の全量の中の約3分の1の量を吹き込み,次に,前記内張りシートの中央より上 木質繊維を吹き込む工程は,まず,内張りシートの中央より下方に形成された第1の穴から下方に向かって前記の予め用意した木質繊維の全量の中の約3分の1の量を吹き込み,次に,前記内張りシートの中央より上方に形成された第2の穴から下方に向かって前記の木質繊維の全量の中の約3分 - 73 -の1の量を吹き込み,その後,前記第2の穴から上方に向かって前記の木質繊維の残りの量を吹き込む,ことを特徴とする建物の断熱・防音工法。 【請求項4】 建物の外壁内に木質繊維を施工することにより外壁の断熱・防音性能を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁内に,柱又は間柱を介して互いに対向する透湿防水性エアシートと通気性内張りシートとを備えると共に,前記のエアシートと内張りシートとに挟まれた空間内に木質繊維を1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度までモーターにより吹き込み充填したときにその回転が抵抗で止まってしまうような回転力を有するモーターを予め用意しておき,前記モーターによる送風を利用して,前記木質繊維を,前記内張りシートの穴から前記空間内に吹き込むようにし,前記空間内への木質繊維の吹き込み密度が1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度に達して前記モーターの回転が止まってしまったとき,前記木質繊維の吹き込みを停止するようにした,ことを特徴とする建物の断熱・防音工法。」(2) 拒絶理由通知の備考欄の記載内容平成19年1月15日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶理由は前記第2,1(4)記載のとおりであるが,備考として,以下の記載がある。〔甲29〕「引用文献1には,グラスウールやセルロースファイバーなどの繊維状断熱材をバインダーを介さずに,充填 由は前記第2,1(4)記載のとおりであるが,備考として,以下の記載がある。〔甲29〕「引用文献1には,グラスウールやセルロースファイバーなどの繊維状断熱材をバインダーを介さずに,充填密度を45kg/m3以上で充填する建物の断熱・防音工法が記載されている(図1を参照)。また,段落【0009】には,断熱壁は仕切1(本願の請求項2の間柱に相当)をパネル2で挟んで形成される空間に断熱材を充填する構成が記載されて - 74 -いる。 引用文献2には,断熱防音基材1を挟む透湿性,防水性,防風性を有するシートの構成が記載されている(第2図を参照)。 充填密度を45kg/m3以上との数値範囲を,約50~60kg/m3と限定することに,進歩性は認められない。また,50,60の各数値における臨界的意義の際だった効果も認められない。」(3) 引用文献1ないし3の記載内容引用文献1ないし3には,それぞれ,以下の記載がある(下線は判決で付記)。〔甲30,69,70〕ア引用文献1・発明の名称:断熱壁及び断熱材吹き込み工法・公開日:平成9年2月4日・特許請求の範囲の記載「【請求項1】 内部に繊維状断熱材をバインダーを介さずに充填してなる断熱壁において,前記繊維状断熱材の平均繊維径は5.7μm以下で,充填密度は45kg/m3以上であることを特徴とする断熱壁。 【請求項2】 内部に繊維状断熱材をバインダーを介さずに充填してなる断熱壁において,前記繊維状断熱材の平均繊維径は4.0μm以下で,充填密度は35kg/m3以上であることを特徴とする断熱壁。 【請求項3】 壁体内の空間に,平均繊維径が5.7μm以下の繊維状断熱 て,前記繊維状断熱材の平均繊維径は4.0μm以下で,充填密度は35kg/m3以上であることを特徴とする断熱壁。 【請求項3】 壁体内の空間に,平均繊維径が5.7μm以下の繊維状断熱材を見かけ密度を18.0kg/m3 以上としてバインダーを介さずに圧縮空気とともに吹き込むようにしたことを特徴とする断熱材吹き込み工法。 【請求項4】 壁体内の空間に,平均繊維径が4.0μm以下の繊維状断熱材を見かけ密度を7.0kg/m3以上としてバインダーを介さずに圧縮空気とともに吹き込むようにしたことを特徴とする断熱材 - 75 -吹き込み工法。」・発明の詳細な説明の記載「【0002】【従来の技術】従来から,グラスウール,ロックウール,セルロースファイバーなどの繊維状断熱材を壁体内に充填した断熱壁が広く用いられている。 【0003】上述した断熱壁にあっては,経時的に壁体に作用する振動によって壁体内に充填した断熱材の沈み込みが発生する。このような断熱材の沈み込みを防止する工法として,米国特許第4,487,365号公報或いは米国特許第4,530,468号公報に開示される工法が知られている。この工法は,施工現場に設置した吹き込み機の中に断熱材を投入して解砕し,これをホースを介して壁体内にブロワーにて吹き込む際に,ホース先端に設けたノズルからバインダー(接着剤)を供給し,バインダーとともに繊維状断熱材を壁体内の空間に吹き込むようにしている。 【0004】【発明が解決しようとする課題】上述した工法によれば,バインダーにて繊維状断熱材同士が結合するので,断熱材の沈み込みは生じないが,バインダーの乾燥に夏期であれば1日,冬期で 004】【発明が解決しようとする課題】上述した工法によれば,バインダーにて繊維状断熱材同士が結合するので,断熱材の沈み込みは生じないが,バインダーの乾燥に夏期であれば1日,冬期であれば2日必要となり,更にバインダーを噴出するノズル内にバインダーが少しづつ残留し,これに繊維状断熱材が付着し,ノズルの詰りが発生する。 【0005】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため,本発明に係る断熱壁は内部に繊維状断熱材をバインダーを介さずに充填し,しかも繊維状断熱材の平均繊維径が5.7μm以下の場合には充填密度が45kg/m3以上となるようにし,平均繊維径が4.0μm以下 - 76 -の場合には充填密度が35kg/m3以上となるようにした。 【0006】また,上記断熱壁を製造するための断熱材吹き込み工法は,平均繊維径が5.7μm以下の繊維状断熱材を壁体内の空間に吹き込む場合には,ブローイング時の見かけ密度を18.0kg/m3以上とし,平均繊維径が4.0μm以下の繊維状断熱材を壁体内の空間に吹き込む場合には,ブローイング時の見かけ密度を7.0kg/m3以上とした。 【0007】〔発明の詳細な説明〕【作用】壁体内に充填する繊維状断熱材の平均繊維径を小さくすることにより,同じ吹き込み密度で吹き込んだ場合でも平均繊維径の大きなものより,繊維同士の絡み合いの度合いが強くなり,振動に対しての抵抗力が大きくなる。」「【0009】断熱壁は仕切1…(判決注;ママ)をパネル2…(判決注;ママ)で挟み込んで形成される空間に断熱材としてのグラスウール3を充填している。上記空間にグラスウール3を充填するには,図2 「【0009】断熱壁は仕切1…(判決注;ママ)をパネル2…(判決注;ママ)で挟み込んで形成される空間に断熱材としてのグラスウール3を充填している。上記空間にグラスウール3を充填するには,図2に示すように,一方のパネルを外し,その部分をネット5で覆い,このネット5に穴をあけ,この穴を介して吹き込み機から伸びるホース4の先端を充填空間に臨ませ,圧縮空気によってグラスウール3を空間内に吹き込む。この後,外しておいたパネルを取り付ける。」「【0011】ここで,建造物に経時的に与えられる振動は交通振動が主たるものであり,幹線道路のような厳しい環境を基準にした振動レベル80%上限値は50dB前後であるが,実験ではピーク値63dBに更に家屋による振動増幅量として5dBを加えて68dBとした。また,幹線道路での振動の原因となる大型車の通交量は6 - 77 -7台/10分とした。この場合,大型車1台当りの暴露時間を2秒とすると,1日当りの暴露時間は5.4時間となる。即ち,68dBを5.4時間連続で加振した場合が1日の振動量となり,加振の理論によれば,78dBを5.4時間連続で加振することで10日分,88dBを5.4時間連続で加振することで100日分の振動量に相当し,このようにして15年分の振動量に相当する振動量を短時間のうちに断熱壁に与え,断熱材の沈み込みを調べた。実験結果を以下の(表1)に示す。」「【0015】【発明の効果】以上に説明したように,本発明にあってはバインダーを用いずに繊維状断熱材を充填しているため,バインダー乾燥のための養生期間が不要となり,断熱材を噴出するホースの先端にバインダーが残ることもなく,したがってホース先端において断熱材がバインダーに付着して詰り 繊維状断熱材を充填しているため,バインダー乾燥のための養生期間が不要となり,断熱材を噴出するホースの先端にバインダーが残ることもなく,したがってホース先端において断熱材がバインダーに付着して詰りを生じることもない。 【0016】また,繊維状断熱材の繊維径が5.7μm以下の場合には充填密度を45kg/m3以上とし,繊維状断熱材の繊維径が4.0μm以下の場合には充填密度を35kg/m3以上としたので,経時的な断熱材の沈み込みを防止できる。更に,繊維径が5.7μm以下の繊維状断熱材を壁体内に吹き込む場合には,見かけ密度を18. 0kg/m3以上とし,繊維径が4,.0(判決注;ママ)μm以下の繊維状断熱材を壁体内に吹き込む場合には,見かけ密度を7.0kg/m3以上とすることで,それぞれ充填密度が45kg/m3以上,または35kg/m3以上の断熱壁を得ることができる。」・図面の簡単な説明の記載「【図1】本発明に係る断熱壁の一部を切欠して示した正面図」・図1の記載 - 78 - イ引用文献2・考案の名称:断熱防音材・公開日:平成2年11月7日・実用新案登録請求の範囲の記載「1.断熱防音基材の表面に透湿性,防水性及び防風性を有するシートを被覆形成してなる断熱防音材。」・考案の詳細な説明の記載「透湿性シート,不織布,織布に使用の熱可塑性樹脂は,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,ポリスチレン又は,ポリエステル等である。透湿性シートとする為に熱可塑性樹脂に添加する充填剤としては,炭酸カルシウム,タルク,シリカ,珪藻土,硫酸バリウム,酸化チタン等 プロピレン,ポリ塩化ビニル,ポリスチレン又は,ポリエステル等である。透湿性シートとする為に熱可塑性樹脂に添加する充填剤としては,炭酸カルシウム,タルク,シリカ,珪藻土,硫酸バリウム,酸化チタン等の無桟質のもの,籾穀粉,デンプン,木粉,パルプ粉等の有機質のもの或は前記無機質と有機質の充填剤を混合したものが用いられる。透湿性シート,不織布,織布及びこれらを組合せたものの透湿度としては1000g/m2・24h(JISZ0208の試験方法)以上の透湿性能を有することが好ましい。 もし透湿度が1000g/m2・24h未満であれば室内の水蒸気を含んだ空気が壁を通って屋外へ流出する時透湿性の悪さにより壁体内 - 79 -に水蒸気を含んだ空気が滞留して壁体内結露が発生する場合がある。 断熱防音基材1と透湿性,防水性及び防風性を有するシート2を被覆形性する方法としては防水シートの透湿性をそこなわないように部分的な接着又はステイプラーによるものが好適である。又,前記断熱防音基材への透湿性,防水性及び防風性を有するシートの被覆形性は第1図乃至第3図に示す如く,断熱防音基材の表面及び側面,両表面又は一方の表面に行うことができる。」(明細書3頁11行~4頁16行)・図面の簡単な説明の記載「2は透湿性,防水性及び防風性を有するシートである。」(明細書5頁17行~18行)・図2の記載 ウ引用文献3・考案の名称:セルローズファイバーによるコンクリート結露防止工法・公開日:昭和63年4月6日・実用新案登録請求の範囲の記載「1 コンクリート体(1)にスクリューパッキン(3)を取り付け,同時に間隔各に仕切り板(6)を接 工法・公開日:昭和63年4月6日・実用新案登録請求の範囲の記載「1 コンクリート体(1)にスクリューパッキン(3)を取り付け,同時に間隔各に仕切り板(6)を接着,石膏ボード(2)を釘又はネジ(4)により,スクリューパッキンに取り付け,石膏ボードに所定間隔の吹き込み穴(7)をあけ,セルローズファイバーを吹き込み充てんする。セルローズファイバーによるコンクリート結露防止工法。」 - 80 -・考案の詳細な説明の記載「従来の工法の以上のような問題点を解決するために,この考案では, 1 結露防止材にセルローズファイバー(5)防燃性(十条製紙製造)を用いる。 2 GLボンド(8)に換えて,コンクリートと石膏ボードの接合にスクリューパッキン(3)実用新案登録出願中を使用。 3 仕切り板(押し出し発泡材で作る一辺が20ミリ×20ミリ位の棒状)により,セルローズファイバーの吹込圧力を均等にする。 4 熟練の要する部分がないので比較的に,経験の浅い人でも施工することができる。 5 以上の工法により安価に出来る。 (実施例)この考案の実施例を説明する。 設計に基ず(判決注;ママ)いた割付図によりコンクリート体(1)に墨出しをする。墨出しに従いスクリューパッキン(3)をボンド又は,コンクリート釘にて取り付けする,同時に仕切り板(6)をボンドにて貼り付けする,石膏ボード(2)を釘又はネジ(4)にてスクリューパッキン(3)に取り付けする。石膏ボード(2)に等間隔の吹き込み穴(7)をあける,最後にセルローズファイバー(5)を吹き込みすれば完成する。」(明細書5頁11行~6頁 又はネジ(4)にてスクリューパッキン(3)に取り付けする。石膏ボード(2)に等間隔の吹き込み穴(7)をあける,最後にセルローズファイバー(5)を吹き込みすれば完成する。」(明細書5頁11行~6頁13行)・図面の簡単な説明の記載「第1図は,本考案の断面図,第2図は,本考案の概略のレイアウト,…」(明細書7頁6行~7行)・第1図 - 81 -・第2図 (4) 本件補正に至る経緯ア G弁理士は,上記拒絶理由通知を受領し,被告会社に対し,平成19年(2007年)1月25日付け「貴社特許出願『建物の断熱・防音工法』(特願平11-15831 弊所FileNo.P285DCS)に対する拒絶理由通知』についての弊所コメント:」と題する書面を送付した。その内容は,以下のとおりである。〔乙15〕「・・・(3) 上記(2)の検討結果より,本願発明の請求項〔判決注;当初明細書の請求項,以下同じ。〕1のアイデアは引用文献1にほぼ開示されていると思います。また,本願発明の請求項4のアイデアは引用文献4にほぼ開示されていると思います。 しかしながら,引用文献2は『ロックウールマットなどの断熱防音基材の両表面を透湿・防水シートで被覆する』というだけですので,請求項2のアイデア(木質繊維を吹き込む空間を透湿・防水シートや通気シートで仕切るというアイデア)は十分に開示されていないと思い - 82 -ます。 また,引用文献3のアイデアは『セルロースファイバーを吹き込むための穴を上下に2箇所,石膏ボードに設けている』というだけですので,請求項3のアイデア(最初に下方に穴を開けて吹き込み,その後に上方に穴を開けて 文献3のアイデアは『セルロースファイバーを吹き込むための穴を上下に2箇所,石膏ボードに設けている』というだけですので,請求項3のアイデア(最初に下方に穴を開けて吹き込み,その後に上方に穴を開けて吹き込むというアイデア)は十分には開示されていないと思います。 ただ,請求項2のアイデア(木質繊維を吹き込む空間を透湿・防水シートや通気シートで仕切るというアイデア)は,単独では少し弱いと思います(外壁の内部に透湿・防水シートや通気シートを配置することは多いので)。そこで,請求項2のアイデアと請求項3のアイデアとを組み合わせることにより,進歩性が認められて特許査定を得られる可能性があるのではないかと思います(ただ,進歩性が認められず拒絶査定になる可能性もあると思います。私としては,大体60~70%程度は可能性があるのでは,と思います)。 2.今後のご提案上記1の(3)で述べたような現在の請求項2と請求項3のアイデアを組み合わせた内容の発明を新たな請求項1とする『補正書』を提出すると共に,そのような内容の発明の進歩性を主張する『意見書』を提出するようにすれば,本願発明について特許が認められる可能性はある(可能性といっても,上記のように,大体60~70%という,少し微妙なところですが)と私は思います。」イ被告会社は,平成19年3月12日付けで,上記G弁理士の意見に沿い,当初明細書の請求項2及び3を組み合わせる形で新たに請求項1とし(その内容は,第2,1(5)記載のとおり。),その余の請求項である当初明細書の請求項1及び4を実質的に削除する内容を含む本件補正を行った。 〔乙16の1〕 - 83 -すなわち,本件補正の内容は,特許請求の範囲について,当初明細書の請求項 明細書の請求項1及び4を実質的に削除する内容を含む本件補正を行った。 〔乙16の1〕 - 83 -すなわち,本件補正の内容は,特許請求の範囲について,当初明細書の請求項1ないし4に関する補正を行うほか,発明の詳細な説明の記載については,当初明細書の段落【0005】の記載を変更し,同【0006】ないし同【0008】を削除するというものである。 なお,本件補正により変更,削除される前の,当初明細書の段落【0005】ないし【0008】の記載は,以下のとおりであり,本件明細書の内容は,以下の当初明細書の段落【0005】ないし【0008】の記載を除き,当初明細書の記載と同一である(下線は判決で付記)。 「【0005】【課題を解決するための手段】以上のような課題を解決するための本発明による建物の断熱・防音工法は,建物の外壁又は床の内部に木質繊維を施工することにより外壁又は床の断熱・防音性能を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁又は床の内部に通気性のシート又は板により両側から挟まれた空間を形成し,この空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度になるように,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を充填させるようにした,ことを特徴とするものである。なお,本明細書において,『(接着剤を含まない)乾燥した木質繊維』とは,『従来の接着剤が混合されて湿った木質繊維のように施工後に所定の乾燥時間を置く必要がない,吹き込み施工後にそのまま直ちに次の工程に移れるような程度・状態に乾燥している木質繊維』という意味合いである。 【0006】また,本発明による建物の断熱・防音工法においては,建物の外壁内に木質繊維を施工することにより外壁の断熱・防音性能を向上させ に乾燥している木質繊維』という意味合いである。 【0006】また,本発明による建物の断熱・防音工法においては,建物の外壁内に木質繊維を施工することにより外壁の断熱・防音性能を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁内に,柱又は間柱を介して互いに対向する透湿防水性エアシートと通気性内張りシ - 84 -ートとを備えると共に,前記のエアシートと内張りシートとに挟まれた空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填するために必要な量の接着剤を含まない乾燥した木質繊維を用意し,前記量の木質繊維を,前記内張りシートに形成された穴から前記空間内に,送風により吹き込むことにより,前記空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で木質繊維を充填させるものである。 【0007】また,本発明による建物の断熱・防音工法において,前記内張りシートの穴から木質繊維を吹き込む工程は,まず,内張りシートの中央より下方に形成された第1の穴から下方に向かって前記の予め用意した木質繊維の全量の中の約3分の1の量を吹き込み,次に,前記内張りシートの中央より上方に形成された第2の穴から下方に向かって前記の木質繊維の全量の中の約3分の1の量を吹き込み,その後,前記第2の穴から上方に向かって前記の木質繊維の残りの量(全量の中の約3分の1)を吹き込むものであることが望ましい。 【0008】さらに,本発明による建物の断熱・防音工法は,建物の外壁内に木質繊維を施工することにより外壁の断熱・防音性能を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁内に,柱又は間柱を介して互いに対向する透湿防水性エアシートと通気性内張りシートとを備えると共に,前記のエアシートと内張りシートとに挟まれた空間 を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁内に,柱又は間柱を介して互いに対向する透湿防水性エアシートと通気性内張りシートとを備えると共に,前記のエアシートと内張りシートとに挟まれた空間内に木質繊維を1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度に達するまでモーターにより吹き込み充填したときにモーターの回転が抵抗で止まってしまう(空間内への空気の送り込みの抵抗が大きくなりモーターの回転力を越えてしまう)ような回転力(トルク)を有するモーターを予め用意しておき,前記モーターによる送風を利用して,前記木質繊維を,前記内張りシートの穴から前記空間内に吹き - 85 -込むようにし,前記空間内への木質繊維の吹き込み密度が1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度に達して前記モーターの回転が止まってしまったとき,前記木質繊維の吹き込みを停止するようにしたものである,ことが望ましい。」ウまた,被告会社は,平成19年3月12日付けで,上記G弁理士の意見に沿う内容の意見書を提出したが,同意見書の内容のうち,「第3 本願発明の進歩性について(その1)」及び「第4 本願発明の進歩性について(その2)」には,以下の記載がある(下線は原文に付記)。 〔乙16の2〕・「第3 本願発明の進歩性について(その1)」「1.本願発明では,(a)外壁内に,柱又は間柱を介して,外壁側に透湿性及び防水性を有するエアシートを配置すると共に,内壁側に通気性素材により形成された内張りシートを配置することにより,前記柱又は間柱,前記エアシート,及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成する外壁内空間形成工程と,(B)前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記内張りシートの面積と前記柱又は間柱の厚 又は間柱,前記エアシート,及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成する外壁内空間形成工程と,(B)前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記内張りシートの面積と前記柱又は間柱の厚さとから規定される前記空間の容積に基づいて,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を前記空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填するために必要な前記木質繊維の量を算出する木質繊維量算出工程と,(c)前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記木質繊維量算出工程の後に,前記木質繊維量算出工程で算出された量の,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を,前記空間内に吹き込むための専用の施工機にセットする木質繊維セット工程と,をその特徴的構成として採用している。・・・4.以上のように,本願発明では,上記(a)(B)及び(c)の構成により,上記のような『充填作業前にパネル2を取り外してネット5 - 86 -を配置して,充填作業後にネット5を取り外してパネル2を設置する』という極めて煩雑な作業を不要にできるという顕著な効果が得られるのであり,このような効果は,引用文献1,2からは全く予想できないものである。」・「第4 本願発明の進歩性について(その2)」「1.本願発明では,(d)前記内張りシートの中央より下方の位置であって床上から50cmの位置に,前記施工機の吹き込み用ホースを挿入するための第1の吹き込み穴を形成する第1の吹き込み穴形成工程と,(e)前記第1の吹き込み穴から,前記空間内の下方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第1吹込み工程と,(f)前記内張りシートの中央より上方の位置であって床上から150cmの位置に,前記施工機の吹き込み用ホースを挿入するための 向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第1吹込み工程と,(f)前記内張りシートの中央より上方の位置であって床上から150cmの位置に,前記施工機の吹き込み用ホースを挿入するための第2の吹き込み穴を形成する第2の吹き込み穴形成工程と,(g)前記第2の吹き込み穴から,前記空間内の下方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第2吹込み工程と,(h)前記第2の吹き込み穴から,前記空間内の上方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第3吹込み工程と,をその特徴的構成として採用している。 2.上記のような(d)(e)(f)(g)及び(h)の構成は,本件拒絶理由通知で引用された各引用文献には全く開示も示唆もない。 ・・・5.以上のように,本願発明の上記(d)(e)(f)(g)及び(h)の構成,及び,この構成による上記のような木質繊維を吹き込むとき,吹き込むための風圧により,吹き込んだ木質繊維の一部が,『他の穴』から作業者の側(部屋の内部)に『逆流』して噴出してしまい,それが作業者による作業の支障になってしまったり,部屋の内 - 87 -部を汚したり,木質繊維の充填状態の品質を損なってしまうなどの不都合を防止することができるという顕著な効果は,引用文献1,2,3などからは全く予想することができない。」(5) 本件特許発明の記載内容本件明細書には,以下の記載がある(下線は判決で付記)。 「【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明は,住宅などの建物の外壁や床の断熱・防音工法に関する。 【0002】【従来の技術】従来より,新聞紙などの 1】【産業上の利用分野】本発明は,住宅などの建物の外壁や床の断熱・防音工法に関する。 【0002】【従来の技術】従来より,新聞紙などの古紙を粉砕して難燃・防燃処理(例えばホウ素系薬品を混入)及び撥水処理したセルロースファイバー(天然木質繊維)に接着剤を混入したもの(接着剤の混入により湿った状態になっているもの)を,断熱材・吸音材として使用することが行われている。この場合,前記の接着剤を混入したセルロースファイバーを壁や床に接着して行くことにより隙間のない連続的な断熱・防音層を形成し,これにより壁や床の断熱・防音性能を向上させることが期待されている。なお,前述のように従来のセルロースファイバーを使用した断熱・防音工法がセルロースファイバーに接着剤を混入させたものを使用しているのは,特に外壁にセルロースファイバーを施工する場合に,接着剤を混入しないままセルロースファイバーを外壁の中に収納すると,時間の経過と共にセルロースファイバーが自重により沈降してしまうという不都合があるためである。 【0003】【発明が解決しようとする課題】 - 88 -しかしながら,前述のような従来の建物の断熱・防音工法においては,セルロースファイバーに接着剤を混入させて湿らせているため,例えば外壁にセルロースファイバーを施工した後に前記接着剤が乾燥するまでの期間は内壁用ボードの内張りなどの施工ができないため,全体の施工効率が低下してしまうという問題がある。また,前記のセルロースファイバーに混入される接着剤から発する化学物質がアレルギー性疾患などを有する居住者の健康に悪影響を与えると可能性もある。 【0004】本発明はこ 。また,前記のセルロースファイバーに混入される接着剤から発する化学物質がアレルギー性疾患などを有する居住者の健康に悪影響を与えると可能性もある。 【0004】本発明はこのような従来技術の問題点に着目してなされたものであって,外壁などに木質繊維を施工した後に直ちに内壁用ボードの施工などを可能にして全体の施工効率を高めることができると共に,アレルギー性疾患などを有する居住者の健康に悪影響を与えることが無い建物の断熱・防音工法を提供することを目的とする。 【0005】【課題を解決するための手段】以上のような課題を解決するための本発明による建物の断熱・防音工法は,建物の外壁内にセルロースファイバーなどの木質繊維を施工することにより外壁の断熱・防音性能を向上させるための建物の断熱・防音工法であって,外壁内に,柱又は間柱を介して,外壁側に透湿性及び防水性を有するエアシートを配置すると共に,内壁側に通気性素材により形成された内張りシートであって高さが床上から2mの内張りシートを配置することにより,前記柱又は間柱,前記エアシート,及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成する外壁内空間形成工程と,前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記内張りシートの面積と前記柱又は間柱の厚さとから規定される前記空間の容積に基づいて,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を前記空間内に1立方メートル当たり - 89 -約50~60kgの吹き込み密度で充填するために必要な前記木質繊維の量を算出する木質繊維量算出工程と,前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記木質繊維量算出工程の後に,前記木質繊維量算出工程で算出された量の,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を,前記空間 量を算出する木質繊維量算出工程と,前記外壁内空間形成工程と同時に又は相前後して,前記木質繊維量算出工程の後に,前記木質繊維量算出工程で算出された量の,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を,前記空間内に吹き込むための専用の施工機にセットする木質繊維セット工程と,前記内張りシートの中央より下方の位置であって床上から50cmの位置に,前記施工機の吹き込み用ホースを挿入するための第1の吹き込み穴を形成する第1の吹き込み穴形成工程と,前記第1の吹き込み穴から,前記空間内の下方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第1吹込み工程と,前記内張りシートの中央より上方の位置であって床上から150cmの位置に,前記施工機の吹き込み用ホースを挿入するための第2の吹き込み穴を形成する第2の吹き込み穴形成工程と,前記第2の吹き込み穴から,前記空間内の下方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第2吹込み工程と,前記第2の吹き込み穴から,前記空間内の上方に向けて,前記木質繊維の全量の約3分の1の量だけ吹き込む第3吹込み工程と,を含み,以上により,前記空間内に木質繊維を1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填させるようにした,ことを特徴とするものである。 なお,本明細書において,『(接着剤を含まない)乾燥した木質繊維』とは,『従来の接着剤が混合されて湿った木質繊維のように施工後に所定の乾燥時間を置く必要がない,吹き込み施工後にそのまま直ちに次の工程に移れるような程度・状態に乾燥している木質繊維』という意味合いである。」「【0010】前記セルロースファイバー7は,新聞紙などの古紙が粉砕されて形成される天然木質繊維であり,難燃・防燃処理(例えばホウ素系薬品を混入)及び撥水処理されているが,従来 いである。」「【0010】前記セルロースファイバー7は,新聞紙などの古紙が粉砕されて形成される天然木質繊維であり,難燃・防燃処理(例えばホウ素系薬品を混入)及び撥水処理されているが,従来のように接着剤は含まれ - 90 -ていないため施工前から乾いた状態になっている。また前記セルロースファイバーは,解繊された綿状のもので,施工に不適当な塊及び異物が混入されていないものである。その施工厚さは,吹き込み量により任意に定めることができる。その熱伝導率は平均して約0.033kcal/m・h・℃at25℃ であり,優れた断熱性能を有している。また,吸音材としても優れた性能を有している。また,その平均吸湿性は13. 3%(40~80%RHにおける水分は5~15%)である。さらに,天然木質繊維のセルロースファイバーは,周囲の状況に応じて水分を吸ったり吐いたりするので,この吸放湿性が適度な湿度をもたらし結露を防ぐ作用を有している。」「【0013】次に,前記のエアシート5と内張りシート6と各間柱2とで仕切られたある空間について,その空間を仕切っている内張りシート5の中央より下方の位置(例えば,内張りシート5の縦方向の長さすなわち高さが床上2mのときは,その中央の床上1mの高さより下方の床上50cmの位置)に吹き込み用ホースを挿入するための吹き込み穴を形成する(ステップS4。図3の穴6aを参照)。そして,この穴6aに専用のブローイング施工機のホースを差し込んで,そのホースを下方に向けて,モーター駆動による送風により,セルロースファイバーを,前記ホースから下方に向けて吹き込んでいく(ステップS5)。そして,このステップS5では,前記ステップ3で予め用意しておいたセルロースファイバーの全体量の約3分の1まで吹き込んだとき ファイバーを,前記ホースから下方に向けて吹き込んでいく(ステップS5)。そして,このステップS5では,前記ステップ3で予め用意しておいたセルロースファイバーの全体量の約3分の1まで吹き込んだとき,吹き込みを停止する。 【0014】次に,前記のエアシート5と内張りシート6と各間柱2とで仕切られた前記の空間について,その空間を仕切っている内張りシート5の中央より上方の位置(例えば,内張りシート5の縦方向の長さすなわち高さが床上2mのときは,その中央の床上1mの高さより上方の床上 - 91 -150cmの位置)に吹き込み用ホースを挿入するための吹き込み穴を形成する(ステップS6。図3の穴6Bを参照)。そして,この穴6Bに施工機のホースを差し込んで,そのホースを下方に向けて,モーター駆動による送風により,セルロースファイバーを,前記ホースから下方に向けて吹き込んでいく(ステップS7)。前記穴6Bから下方に向けてセルロースファイバーを吹き込む量が前記ステップS3で予め用意しておいた全体量の約3分の1程度となったとき,吹き込みを停止する。 次に,前記穴6Bにホースを差し込んだまま,ホースの先端を上方に向けて,残りのセルロースファイバーの全量(前記の全体量の約3分の1の量)のセルロースファイバーを吹き込む(ステップS8)。 【0015】本実施形態1では,以上のように,セルロースファイバーの吹き込みを,図3の下方の穴6aから下方へ向けての全体の約3分の1の量の吹き込みと,図3の上方の穴6Bから下方へ向けての全体の約3分の1の量の吹き込みと,前記穴6Bからの上方へ向けての残りの量(全体の約3分の1の量)の吹き込みとの3つの段階に分けて行うようにしているので,前記外壁内の前記空間の全体に,セルロースファイバーが均等な密 量の吹き込みと,前記穴6Bからの上方へ向けての残りの量(全体の約3分の1の量)の吹き込みとの3つの段階に分けて行うようにしているので,前記外壁内の前記空間の全体に,セルロースファイバーが均等な密度になるように吹き込むことができる。」(6) 上記(1)ないし(5)の事実によれば,本件特許発明の技術的意義について,以下のとおり認められる。 ア前記(1)のとおり,当初明細書の請求項1には,「外壁又は床の内部に通気性のシート又は板により両側から挟まれた空間を形成し,この空間内に,1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度になるように,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を充填させる,ことを特徴とする」と記載されており,また,上記(4)イのとおり,出願当初明細書に記載され,本件補正により削除された発明の詳細な説明の段落【0005】の下線部にも,上記の内容が課題解決の特徴的部分であると記載さ - 92 -れていることも考慮すると,出願当初明細書の段階においては,「外壁又は床の内部に通気性のシート又は板により両側から挟まれた空間を形成」すること,及び,「1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度になるように,接着剤を含まない乾燥した木質繊維を充填させること」が,当初明細書の請求項1に係る発明の特徴的部分として捉えられていたものと認められる。 また,当初明細書の請求項2は,外壁内に透湿防水性エアシートと通気性内張りシートとを備え,これに挟まれた空間内に当初明細書の請求項1の吹き込み密度で木質繊維を充填させることを,さらに,当初明細書の請求項3は,木質繊維を吹き込む工程について,内張りシートの中央より下方に形成された第1の穴から下方に向かって予め用意した木質繊維の全量のうちの約3分の1の量を吹 させることを,さらに,当初明細書の請求項3は,木質繊維を吹き込む工程について,内張りシートの中央より下方に形成された第1の穴から下方に向かって予め用意した木質繊維の全量のうちの約3分の1の量を吹き込み,次に,内張りシートの中央より上方に形成された第2の穴から下方に向かって木質繊維の全量のうちの約3分の1の量を吹き込み,その後,第2の穴から上方に向かって木質繊維の残りの量を吹き込むことをそれぞれ特徴とするものであったことが,それぞれの請求項の記載内容から認められる。なお,当初明細書の請求項4は,木質繊維をモーターにより吹き込み充填することを特徴とするものであったところ,本件補正により実質的には削除されている。 イそして,前記(3)アによれば,拒絶理由通知に示された引用文献1には,「セルロースファイバーを含む繊維状断熱材をバインダーを介さずに充填密度が45kg/m3以上となるように壁体内の空間に充填する」構成が開示されていることから(上記(3)ア下線部分),上記(2)の拒絶理由通知記載のとおり,充填密度45kg/m3以上との数値範囲を当初明細書の請求項1の約50~60kg/m3と限定することについては格別の臨界的意義も認められないというべきであるところ,本件補正と同時に - 93 -提出された平成19年3月12日付け意見書(乙16の2)においても,上記約50~60kg/m3との数値範囲とすることについての格別の記載も,拒絶理由通知に対する反論もない。 そうすると,本件特許発明において,「接着剤を含まない乾燥した木質繊維を前記空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填する」構成は,公知技術であり,本件特許発明の特徴的部分とはいえないと認めるのが相当である。 ウ一方,前 した木質繊維を前記空間内に1立方メートル当たり約50~60kgの吹き込み密度で充填する」構成は,公知技術であり,本件特許発明の特徴的部分とはいえないと認めるのが相当である。 ウ一方,前記(3)イによれば,引用文献2には,断熱防音基材の表面に透湿性,防水性及び防風性を有するシートを被覆形成してなる断熱防音材が記載されているところ(上記(3)イ下線部分参照),このうち断熱防音基材は,木質繊維を所定の密度で充填するための空間とは異なるから,引用文献2には,透湿性,防水性,防風性を有するシートによって,木質繊維を充填する空間を形成する構成について記載されているとはいえない。 また,上記(3)ウによれば,引用文献3は,「セルローズファイバーによるコンクリート結露防止工法」に関する考案であって,コンクリート体にスクリューパッキンを介して石膏ボードを取り付け,コンクリート体と石膏ボードの間の空間に,石膏ボードに所定間隔の吹き込み穴を開けて,セルローズファイバーを吹き込み充填する構成が記載されているところ(上記(3)ウ下線部分参照),引用文献3の第2図の記載によっても,同図には上下2箇所に吹き込み穴(7)が開けられているものの,吹き込まれる「セルローズファイバー」の分量についての記載はなく,吹き込み穴(7)から3段階で吹き込むことに関連する記載はない。 エそして,被告会社は,審査官からの拒絶理由通知に対して本件補正を行っているところ,その内容は,前記(4)アのG弁理士の平成19年(2007年)1月25日付け「貴社特許出願『建物の断熱・防音工法』(特 - 94 -願平11-15831 弊所FileNo.P285DCS)に対する拒絶理由通知』についての弊所コメント:」と題する書面及び前記(4)ウの平 『建物の断熱・防音工法』(特 - 94 -願平11-15831 弊所FileNo.P285DCS)に対する拒絶理由通知』についての弊所コメント:」と題する書面及び前記(4)ウの平成19年3月12日付け意見書に記載されている内容のとおり,当初明細書の請求項2における木質繊維を吹き込む空間を透湿・防水シートや通気シートで仕切るという点と,請求項3におけるセルロースファイバーを最初に下方に穴を開けて吹き込み,その後に上方に穴を開けて,3分の1ずつ3段階に分けて吹き込むとする点を組み合わせて本件特許発明の請求項1とするなどの補正を行ったものである。 そして,本件補正を行う根拠として,当初明細書にも記載されていた本件明細書の段落【0013】,【0014】に関する前記(5)の下線部分を根拠として,その記載に基づき,本件特許発明における,第1の吹き込み穴形成工程,第1吹込み工程,第2の吹き込み穴形成工程,第2吹込み工程及び第3吹込み工程の構成を加えたものである。 オ上記アないしエの経過及び前記(5)のとおりの本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件特許発明は,「従来の建物の断熱・防音工法においては,セルロースファイバーに接着剤を混入させて湿らせているため,例えば外壁にセルロースファイバーを施工した後に前記接着剤が乾燥するまでの期間は内壁用ボードの内張りなどの施工ができないため,全体の施工効率が低下してしまう」(段落【0003】)こと,「セルロースファイバーに混入される接着剤から発する化学物質がアレルギー性疾患などを有する居住者の健康に悪影響を与える」(同じく段落【0003】)ことの問題点に着目し,「外壁などに木質繊維を施工した後に直ちに内壁用ボードの施工などを可能にして全体の施工効率を高めることが 患などを有する居住者の健康に悪影響を与える」(同じく段落【0003】)ことの問題点に着目し,「外壁などに木質繊維を施工した後に直ちに内壁用ボードの施工などを可能にして全体の施工効率を高めることができると共に,アレルギー性疾患などを有する居住者の健康に悪影響を与えることが無い建物の断熱・防音工法を提供する」(段落【0004】)ことを目的とし,そのため,接着剤を含まない乾燥し - 95 -た木質繊維(セルロースファイバー)を,それが時間の経過と共に自重により沈降しない吹き込み密度である,1立方メートル当たり約50~60kgで充填する点に技術的意義を有するものである(本件特許発明の特許請求の範囲,請求項1の記載と,段落【0002】の記載との対比)。ただし,このセルロースファイバーが時間の経過と共に自重により沈降しない吹き込み密度である1立方メートル当たり約50~60kgで充填する点が本件特許発明の特徴的部分ということはできないことについては,前記のとおりである。 また,前記(5)記載の本件明細書の発明の詳細の説明の段落【0010】には,木質繊維が結露を防ぐ作用を有していることが記載されており(下線部分参照),当初明細書の請求項1に記載された「通気性のシート又は板により両側から挟まれた空間を形成」する点,すなわち,本件特許発明において「外壁内に,柱又は間柱を介して,外壁側に透湿性及び防水性を有するエアシートを配置すると共に,内壁側に通気性素材により形成された内張りシート・・・を配置することにより,前記柱又は間柱,前記エアシート,及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成」し,室内側に防湿シートを設けないことを内容とする外壁内空間形成工程にも,技術的意義があると認められる。ただし,このうち室内側に防湿シート アシート,及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成」し,室内側に防湿シートを設けないことを内容とする外壁内空間形成工程にも,技術的意義があると認められる。ただし,このうち室内側に防湿シートを設けないとする点については,上記1(1)ウ記載のとおり,平成6年2月25日発行の日本住宅新聞の記事のとおり公知の技術内容となっているものと認められるから,室内側に防湿シートを設けないとする点のみでは,本件特許発明の特徴的部分とはいえないものと解される。 そして,本件明細書の段落【0013】,【0014】の記載(前記(5)下線部分)によれば,吹き込み穴の位置につき,「高さが床上2mのときは」として内張りシート5の中央より下方の位置として床上50c - 96 -mの位置が,また,内張りシート5の中央より上方の位置として床上150cmの位置が,それぞれ示されており,これは,3段階に分けて吹き込むことで,セルロースファイバーが均等な密度になるようにするためであるとされている(段落【0015】の前記(5)下線部分の記載)。 そうすると,本件特許発明の特許請求の範囲,請求項1の記載では,外壁内空間形成工程で床上から2mの内張りシートを配置し,第1の吹き込み穴形成工程及び第2の吹き込み穴形成工程において,それぞれ床上から50cm,150cmの位置に吹き込み穴を形成するとされているところ,その基となる発想は,セルロースファイバーの吹き込み位置を2箇所とすること,そしてこれを3段階に分けて吹き込むことにあるものと解される。 3 争点(1)(原告は本件特許発明の発明者か否か)について(1) 前記1及び2の認定を基に,本件特許発明の特徴的部分がどこか,そして本件特許発明の特徴的部分を発明したのは誰かについて判断する。 1)(原告は本件特許発明の発明者か否か)について(1) 前記1及び2の認定を基に,本件特許発明の特徴的部分がどこか,そして本件特許発明の特徴的部分を発明したのは誰かについて判断する。 まず,発明者とは,特許請求の範囲に記載された発明について,その具体的な技術手段を完成させた者,すなわち,ある技術手段を着想し,それを具体化して完成させるための過程において発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者をいうと解すべきところ,この発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいうと解するのが相当である。 上記観点から,本件特許発明の特徴的部分及びその発明者につき検討する。 (2) 本件特許発明の特徴的部分について前記2で検討したとおり,本件特許発明における,「外壁内に,柱又は間柱を介して,外壁側に透湿性及び防水性を有するエアシートを配置すると共に,内壁側に通気性素材により形成された内張りシートを配置することによ - 97 -り,前記柱又は間柱,前記エアシート,及び前記内張りシートにより仕切られた空間を形成する」構成(外壁内空間形成工程)は,外壁部(外壁仕上げ材とエアシートとの間)に「住宅の断熱性能と耐久性(結露防止)を保持するため通気層を確保」し(本件明細書,図1の説明部分の記載),内壁側に通気性素材により形成された内張りシートを有することにより木質繊維の吸放湿性が適度な湿度をもたらし結露を防ぐ作用を有している(本件明細書の段落【0010】)という作用効果を奏するものであるところ,この構成は,引用文献1ないし3の何れにも記載されていないものである。そうすると,上記外壁内空間形成工程は,本件特 有している(本件明細書の段落【0010】)という作用効果を奏するものであるところ,この構成は,引用文献1ないし3の何れにも記載されていないものである。そうすると,上記外壁内空間形成工程は,本件特許発明の特徴的部分の一つであると認められる。 また,前記2で検討したとおり,外壁内空間形成工程において床上から2mの内張りシートを配置した上で,第1の吹き込み穴形成工程及び第2の吹き込み穴形成工程において,それぞれ床上から50cm,150cmの位置に吹き込み穴を形成し,3段階で吹き込みを行う点(第1の吹き込み穴形成工程ないし第3の吹込み工程)についても,セルロースファイバーの吹き込み位置を2箇所としてこれを3段階に分けて吹き込むとの技術思想の基で,公知技術に該当するものとは認められない部分であり,結露防止及び施工を正確かつ容易にするという本件特許発明の課題解決手段を基礎付ける部分であるということができるから,この部分も本件特許発明の特徴的部分であるということができる(以下,この部分を「第2の特徴的部分」という。)。 そうすると,本件特許発明の特徴的部分は,外壁内空間形成工程と,第1の吹き込み穴形成工程ないし第3の吹込み工程の二つにあると解される。 (3) 本件特許発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者について上記を基に,原告が本件特許発明の特徴的部分の発明者であるか否かにつき検討する。 まず,外壁内空間形成工程については,前記1で認定したとおり,原告に - 98 -おいて,B工務店に入社する以前から協力関係にあった透湿性シートのメーカーであるセーレンと交渉し,セルロースファイバー断熱工法に用いる通気性を有する専用の内張りシートである「セルローズ専用内張りシート」を製造させるなどし,これが本件特許発明においてセ 性シートのメーカーであるセーレンと交渉し,セルロースファイバー断熱工法に用いる通気性を有する専用の内張りシートである「セルローズ専用内張りシート」を製造させるなどし,これが本件特許発明においてセルロースファイバーを吹き込む外壁内空間に配置される内張シートとなっていること,その一方で,被告BないしB工務店において,外壁内空間形成工程についての積極的な貢献等が認め難いこと等からすると,後記のとおり,外壁内空間形成工程が公知技術とはいえないとすることを前提とすれば,原告は,外壁内空間形成行程の完成に創作的に寄与していることは明らかであるから,少なくとも外壁内空間形成工程についての発明者の一人であると認められる。 一方,上記第2の特徴的部分は,床上から2mの内張りシートを配置した上で,第1の吹き込み穴形成工程及び第2の吹き込み穴形成工程において,それぞれ床上から50cm,150cmの位置に吹き込み穴を形成し,3段階で吹き込みを行うことを内容とするものである。そして,その技術的思想の基は,セルロースファイバーの吹き込み位置を2箇所とし,セルロースファイバーを3分の1ずつ3段階に分けて吹き込むものとする点にあるところ,原告は,天井の高さが2mの住宅はほとんど存在しないことを前提とした上で(原告本人尋問調書19頁),2mよりも壁が高い場合には,更に3箇所目の穴を第2の吹き込み穴から50cm上に開け,この穴を開ける工程をランダムに繰り返す,としている(原告本人尋問調書19,25頁)。しかし,このセルロースファイバーの吹き込み穴の形成位置に関する原告の認識は,本件明細書の記載から把握される技術的思想である,セルロースファイバーを均等な密度になるようにするために三つの段階に分けて吹き込むものとすることと異なることは明らかである。そうすると,本件特許 は,本件明細書の記載から把握される技術的思想である,セルロースファイバーを均等な密度になるようにするために三つの段階に分けて吹き込むものとすることと異なることは明らかである。そうすると,本件特許発明の第2の特徴的部分については,原告が発明者の一人であるとまではいえないというべきである。 - 99 -(4) 被告らの主張について被告らは,外壁内空間形成工程は,この工程の要点を「内壁側に通気性素材により形成された内張りシート」を張る点にあるとした上で,セーレン製の内張りシートを購入した工務店等においてこれを張ってセルロースファイバー吹き込み工法を実施しているから,本件特許の出願時点で公知技術であり,本件特許発明の特徴的部分とはいえない旨主張する。 なるほど,前記のとおり,外壁内空間形成工程のうち,防湿シートを設けないとすることに関しては既に公知技術であると認められることや,セーレン製の内張りシートについては,本件特許出願当時,既に一般に施工されていたこと,前記1(1)コで認定したとおり,被告会社の申請に基づき,財団法人住宅・建築省エネルギー機構の材料・施工評価委員会が,同財団法人に対し,デコスドライ工法が新省エネ基準に適合する旨の報告を行った平成9年11月1日の時点において,その評定項目の施工方法中に通気性のある内張りシートに関する記載もあることなどからすると,外壁内空間形成工程は,本件特許の出願時点において,既に公知ないし公然実施されていた技術である可能性が完全に払拭されているとはいえないものの,現時点で本件特許が有効に存することを前提とし,引用文献1ないし3に示された公知技術と対比した場合には,外壁内空間形成工程が本件特許発明の特徴的部分の一つであることについては前記認定のとおり のの,現時点で本件特許が有効に存することを前提とし,引用文献1ないし3に示された公知技術と対比した場合には,外壁内空間形成工程が本件特許発明の特徴的部分の一つであることについては前記認定のとおりである。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 4 争点(2)(原告が本件特許発明の発明者であるとした場合,本件特許発明が職務発明に該当し,これにつき被告会社は,原告から特許を受ける権利を承継したか)について(1) 前記3で検討したとおり,原告は本件特許発明についての特徴的部分について,少なくとも発明者の一人であると認められるところ,前記1で認定した事実によれば,原告は,自らG弁理士と打ち合わせるなどして,被告会社 - 100 -による本件特許発明の出願手続きに関与したものであるから,遅くとも,本件特許発明につき,平成11年1月25日に被告会社を出願人として本件特許が出願された時点までにおいて,原告は,特許を受ける権利を被告会社に承継させたものと認められる。 (2) この点に関して原告は,本件特許発明について,特許を受ける権利を被告会社に承継したのは,特許登録時である平成19年7月13日である旨主張する。 しかし,上記のとおり,原告は,平成11年1月の出願時点において,自らが発明者の一人として完成させた発明につき被告会社が特許権者となることを前提として,自らG弁理士との交渉を行うなどしていることからすれば,原告は,遅くとも出願時点において,特許を受ける権利を被告会社に承継させる意思を有していたことは明らかであって,このことと特許が登録されたか否かは何ら関係がなく,また,特許が登録されるまで原告が特許を受ける権利の譲渡を留保したなどの事情も認められないから,特許を受ける権利の承継が特許登 とは明らかであって,このことと特許が登録されたか否かは何ら関係がなく,また,特許が登録されるまで原告が特許を受ける権利の譲渡を留保したなどの事情も認められないから,特許を受ける権利の承継が特許登録時であると認めるべき合理的な根拠は何ら存しないというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 5 争点(5)(原告の職務発明相当対価請求権の時効消滅の成否)について(1) 事案に鑑み,他の争点についての判断に先立ち,原告の職務発明相当対価請求権の時効消滅の成否につき判断する。 ところで,消滅時効は権利を行使することができる時から進行するところ(民法166条1項),職務発明対価請求権は従業者等が使用者等に特許を受ける権利を承継させたときに一定の額として発生し,そのときから対価請求権を行使することができるものであるから,職務発明についての相当対価請求権の消滅時効については,勤務規則等に対価の支払時期が定められており,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるなどの - 101 -対価請求権の行使を妨げる特段の事情がない限り,特許を受ける権利の承継時から進行すると解するのが相当である。 これを本件において検討するに,前記4のとおり,原告は本件特許発明の発明者の一人であると認められるものの,その特許を受ける権利については,平成11年1月25日までに被告会社に承継されているものであるところ,原告による職務発明の対価請求権の行使がなされたのは,早くとも,平成24年5月10日付け原告第3準備書面が,同日被告会社へ交付された時点であると認めるのが相当であり,仮に原告が主張するように,実質的に本件訴え提起の時点で対価請求権の行使の意思が明らかにされていたとの前提に立ち 日付け原告第3準備書面が,同日被告会社へ交付された時点であると認めるのが相当であり,仮に原告が主張するように,実質的に本件訴え提起の時点で対価請求権の行使の意思が明らかにされていたとの前提に立ち,これを訴え提起の時点(平成23年7月15日)を基準とするものとしても,上記承継の時点(平成11年1月25日)からは,既に10年が経過していることが認められる。 そして,被告会社においては,従業員の職務発明についての特許を受ける権利の承継及び対価算定等を定める職務発明規定等が存しないことについては,当事者間に争いがなく,前記1で認定した事実によれば,他に原告につき対価請求権の行使を妨げる特段の事情は認められない。 そうすると,原告による本件特許発明に関する職務発明の相当対価請求権については,消滅時効が完成していると認めるのが相当である。 (2) この点に関して原告は,被告らとの間では,本件特許発明につき特許登録がされるまでは対価支払を行わない旨の黙示の合意が存在するから,消滅時効の起算点は本件特許の登録時点である旨主張する。 しかし,本件全証拠を精査しても,上記黙示の合意の存在について,これを認めるに足る的確な証拠はない。かえって,原告において,本件特許の発明者を被告Bとして本件特許の出願手続に関与しておきながら,相当対価の支払のみが後にされると考える根拠はないと言わざるを得ないこと,本件特許については審査請求期間満了が近くなった後に審査請求がされるなど,被 - 102 -告らにおいても本件特許の権利化に向けた意欲に乏しく,まして,G弁理士の意見を踏まえ,本件補正において大幅な限定が加えられていること等からしても,原告において,相当対価の支払が特許登録後にされると期待する合理的根拠があるとは到底考えられ 欲に乏しく,まして,G弁理士の意見を踏まえ,本件補正において大幅な限定が加えられていること等からしても,原告において,相当対価の支払が特許登録後にされると期待する合理的根拠があるとは到底考えられないこと等からすると,上記黙示の合意の存在を認めることは到底できないというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (3) 以上のとおり,原告の,本件特許発明が職務発明に該当することを根拠とする相当対価請求権については,時効により消滅しているというべきである。 6 争点(6)(相当対価請求権についての時効中断の成否)について次に,時効中断の成否につき判断する。 原告は,①平成19年7月ころ,越智産業が特許証の金属製レプリカを被告会社に贈呈する際に,被告会社代表者である被告Bが発明対価支払の検討をしているので少し待って欲しい旨申し出たこと,②平成20年及び平成21年に,原告に対し,合計250万円の賞与を支払っているのは,職務発明相当対価の一部の支払の性質を有し,それぞれ債務の承認としての時効中断事由に当たる旨主張する。 しかし,上記①については,原告の主張する「Aさんには何かお支払いせないけんね。ちょっと待っちょって。」との被告Bの発言が,被告会社による債務の承認に当たるかはともかく,そもそも本件全証拠を精査しても,そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない,かえって,特許証の発明者欄にも大きく被告Bの名前が記載されているところ(乙18),原告の主張によっても本件特許の発明者について被告Bから何らかの言及があったとするものでもなく,成立した本件特許の内容,特に特許請求の範囲の記載について相当の限定がされたことからしても,その当時,被告らにおいて,本来は本件特許発明が原告の職務 告Bから何らかの言及があったとするものでもなく,成立した本件特許の内容,特に特許請求の範囲の記載について相当の限定がされたことからしても,その当時,被告らにおいて,本来は本件特許発明が原告の職務発明であることを前提とした上で,その対価の - 103 -支払を検討する契機があったとは考え難いというべきである。 したがって,原告の上記①の主張は採用することができない。 また,上記②についても,本件全証拠を精査しても,平成20年,平成21年の賞与の支給に関し,これが職務発明対価の一部の支払であると認めるべき理由は何ら認められず,かえって,本件特許の登録以前である平成17年及び平成19年2月28日にも賞与の支払がされている事実をも総合考慮すれば,上記賞与の支給は職務発明の対価とは何ら関係がないというべきである。 したがって,原告の上記②の主張も採用することができない。 7 争点(7)(被告会社による消滅時効の援用が権利の濫用に当たるか)について原告は,本件特許出願に至る経緯,本件特許出願の目的,その際の当事者の意思,特許を受ける権利の承継の経緯,その後の審査請求,登録に至る経緯,登録後の被告Bの言動,被告会社,B工務店のデコスドライ事業の実情,被告会社,B工務店が得た経済的利益等の一切の事情に鑑みれば,それら事情の下で被告会社が消滅時効を援用するのは,信義則に反し,権利の濫用として許されない旨主張する。 しかし,上記認定事実のとおり,本件特許の出願について,原告自ら本件特許の発明者を被告BとすることをG弁理士に指示していることや,原告は,本件訴訟に至るまで,本件特許発明の発明者が原告である旨の主張を一切行っていなかったこと等の事情に照らせば,被告会社による相当対価請求権の消滅時効の援用が権利濫用 理士に指示していることや,原告は,本件訴訟に至るまで,本件特許発明の発明者が原告である旨の主張を一切行っていなかったこと等の事情に照らせば,被告会社による相当対価請求権の消滅時効の援用が権利濫用に当たるものとは到底認められない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 8 争点(8)(被告Bについて発明者名誉権侵害の不法行為が成立するか,成立するとした場合の原告の損害額)について前記1(2)ウのとおり,原告は,平成11年1月9日にG弁理士と会って本 - 104 -件特許出願に関する打合せを行った後の,同月22日頃に,G弁理士に電話をし,本件特許発明の出願に係る特許願に記載する発明者を,被告Bのみとするよう,指示している。〔乙3,12〕この点に関して原告は,同月9日にG弁理士と打合せを行うこととしていたところ,被告Bが一緒に行くと言って同行した上,発明者の記載について,「俺でいいだろ。」と強引に決めつけたと主張して,それに沿う証拠(甲68,22頁)を提出し,同旨を供述する(原告本人尋問調書11頁)。 しかし,前記1(2)で認定した事実及び証拠(乙3,12)によれば,本件特許について発明者を誰とするかについては,同月9日の時点では,被告Bと原告の両名とするか否かについて結論は出ておらず,同月22日の原告からの電話により,被告BとすることがG弁理士に指示されたものと認められる。そして,その当時,原告は営業部長の立場にあり,被告Bからの指示が仮にあったとして,これを拒めない立場にあるものとは認め難いこと,同月9日の時点では,被告Bのみならず,原告も発明者とする考えがあり,これをG弁理士も確認して,同弁理士作成の指示書(乙3)に記載を残したものであり,G弁理士も,同月9日の打合せにおい め難いこと,同月9日の時点では,被告Bのみならず,原告も発明者とする考えがあり,これをG弁理士も確認して,同弁理士作成の指示書(乙3)に記載を残したものであり,G弁理士も,同月9日の打合せにおいて被告Bが自らを発明者と決めつけるような発言をした記憶はないと述べていることが認められる。 そうすると,一般論として,特許発明を行った者について人格権的権利としての発明者の名誉権を観念し,その発明に係る特許証の発明者欄に氏名の記載がされないことにつき発明者名誉権を侵害する不法行為が成立し得る場合があるとしても,本件の場合,原告は,自ら本件特許の発明者の記載を被告Bとすることに同意していたものと認められるから,その人格的権利の行使を放棄したものと認められるから,発明者名誉権侵害の不法行為は成立しないというべきである。 9 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず - 105 -れも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林 保 裁判官 今井弘晃 裁判官 足立拓人 - 106 -(別紙)謝罪広告目録 謝罪文 私は,次の特許につき,真実はA氏が発明者であるにもかかわらず,私が発明者である旨の申請をしてその登録 謝罪広告目録 謝罪文 私は,次の特許につき,真実はA氏が発明者であるにもかかわらず,私が発明者である旨の申請をしてその登録を得た上で,一般公衆に対し,私が発明者である旨を広告宣伝しました。以上の行為は,A氏の名誉を著しく毀損するものであり,ここに衷心から深くお詫びいたします。記特許番号特許第3982935号発明の名称建物の断熱・防音工法発明の通称デコスドライ工法 山口県下関市B 以上 謝罪広告掲載要領 1 掲載する媒体株式会社日本住宅新聞社発行の「日本住宅新聞」 2 使用する活字(1) 「謝罪文」という見出10.5ポイントのゴシック体 (2) 本文10.5ポイントの明朝体 3 掲載場所第1面

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