令和5(ワ)8517 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年10月20日 東京地方裁判所
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判決文本文19,976 文字)

令和7年10月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第8517号国家賠償請求事件口頭弁論終結日令和7年7月28日判決 主文 1 被告は、原告Aに対し、24万2000円及びこれに対する令和4年3月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、2万2000円及びこれに対する令和4年3月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、2万2000円及びこれに対する令和4年3月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告Dに対し、2万2000円及びこれに対する令和4年3月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は、これを130分し、その129を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。 7 この判決は、第1項ないし第4項に限り、本判決が被告に送達された日から14日を経過したときは、仮に執行することができる。ただし、被告が原告Aのために20万円、原告B、原告C及び原告Dのために各2万円 の担保を供するときは、その原告との関係において、それぞれ第1項ないし第4項に係る仮執行を免れることができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は、原告Aに対し、2426万円及びこれに対する令和4年3月1日か ら支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、594万1003円及びこれに対する令和4年3月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、519万3333円及びこれに対する令和4年3月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 する令和4年3月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、519万3333円及びこれに対する令和4年3月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告Dに対し、519万3333円及びこれに対する令和4年3月 1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、名古屋刑務所(以下「本件刑務所」という。)の受刑者であった亡E(以下「亡E」という。)の相続人である原告A(以下「原告A」という。)、原告B(以下「原告B」という。)、原告C(以下「原告C」という。)及び原 告D(以下、「原告D」といい、原告A、原告B及び原告Cと併せて「原告ら」という。)が、亡Eは本件刑務所の職員による検査不実施により適切な治療を受けられずに死亡し、また、本件刑務所における保護室収容や違法な処遇により人格権が侵害されたと主張して、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、亡E及び原告らに生じた慰謝料等(原告Aにつ き2426万円、原告Bにつき594万1003円、原告C及び原告Dにつき各519万3333円)及びこれに対する令和4年3月1日(亡Eの死亡の日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 1 関係法令の定め ⑴ 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)56条は、刑事施設においては、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする旨規定する。 ⑵ 刑事収容施設法62条1項は、刑事施設の長は、 刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする旨規定する。 ⑵ 刑事収容施設法62条1項は、刑事施設の長は、被収容者が次の各号のいずれかに該当する場合には、速やかに、刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。)による診療を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとし、ただし、第一号に該当する場合において、その者の生命に危険が及び、又は他人にその疾病を感染させるおそれがないときは、その者の意思に反しない場合に限る旨規定する。 そして、同項1号は、負傷し、若しくは疾病にかかっているとき、又はこれらの疑いがあるときと、同項2号は、飲食物を摂取しない場合において、その生命に危険が及ぶおそれがあるときと規定する。 ⑶ 刑事収容施設法73条1項は、刑事施設の規律及び秩序は、適正に維持されなければならない旨規定し、同条2項は、前項の目的を達成するため執る 措置は、被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な限度を超えてはならない旨規定する。 ⑷ 刑事収容施設法79条1項は、刑務官は、被収容者が次の各号のいずれかに該当する場合には、刑事施設の長の命令により、その者を保護室に収容す ることができる旨規定する。 そして、同項1号は、自身を傷つけるおそれがあるときと、同項2号は、次のイからハまでのいずれかに該当する場合において、刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるときと規定し、同号イは、刑務官の制止に従わず、大声又は騒音を発するときと、同号ロは、他人に危害を加えるお それがあるときと、同号ハは、刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又 に必要があるときと規定し、同号イは、刑務官の制止に従わず、大声又は騒音を発するときと、同号ロは、他人に危害を加えるお それがあるときと、同号ハは、刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがあるときと規定する。 ⑸ 刑事収容施設法79条2項は、前項に規定する場合において、刑事施設の長の命令を待ついとまがないときは、刑務官は、その命令を待たないで、その被収容者を保護室に収容することができ、この場合には、速やかに、その 旨を刑事施設の長に報告しなければならない旨規定する。 ⑹ 刑事収容施設法79条5項は、被収容者を保護室に収容し、又はその収容の期間を更新した場合には、刑事施設の長は、速やかに、その被収容者の健康状態について、刑事施設の職員である医師の意見を聴かなければならない旨規定する。 2 前提事実(以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の 全趣旨により容易に認めることができる。)⑴ 亡E(▲年▲月▲日生)は、大韓民国の国籍を有し、日本国内に居住していたところ、暴行罪により懲役10月の実刑判決を受けたため、令和▲年▲月▲日から本件刑務所に入所していた。 亡Eは、令和4年3月1日、本件刑務所内で死亡した。 (甲A1、C1、乙1【1頁】、57【1頁】、61)⑵ 亡Eについての相続及び遺言に関する準拠法は、その本国法である大韓民国民法である(法の適用に関する通則法36条、37条)ところ、亡Eの第一順位の法定相続人は亡Eの子である訴外Fであるが、訴外Fは、令和▲年▲月▲日付けで相続放棄をしたことから、亡Eの兄弟姉妹である原告ら及び 訴外Gが相続人となった。 また、亡Eは、平成▲年▲月▲日付け遺言公正証書(名古屋法務局平成▲年第▲号)により、全財産を原告Aに相続 で相続放棄をしたことから、亡Eの兄弟姉妹である原告ら及び 訴外Gが相続人となった。 また、亡Eは、平成▲年▲月▲日付け遺言公正証書(名古屋法務局平成▲年第▲号)により、全財産を原告Aに相続させる旨の遺言をしていたところ、原告B、原告C、原告D及び訴外Gは、令和▲年▲月▲日、原告Aに対し、遺留分返還請求を行う旨の意思表示をした。 上記事情の下、原告らは、亡Eの被告に対する損害賠償について、原告Aが15分の11、原告B、原告C、原告Dが各15分の1の割合で請求することができる旨主張しているところ、原告らが上記割合で亡Eの請求権を行使すること自体については、被告も積極的に争っていない。 (甲C1ないし5の2、同10) 3 争点及び当事者の主張⑴ 検査実施義務違反の有無(争点1)【原告ら】亡Eは、狭心症の罹患歴があるところ、令和4年2月13日、冷汗を伴う胸痛、顔面蒼白、頻脈、頻呼吸、喘鳴、SpO2低下といった急性心筋梗塞の症状が見られ、また、同月17日には、呼吸苦や手指蒼白の症状が生じ、 「苦しい、MRIとってくれ」などと訴えていた。 上記によれば、本件刑務所の職員は、亡Eについて、同月13日、遅くとも同月17日に、急性心筋梗塞を疑い、鑑別診断のために心電図検査、心筋マーカーを含む血液検査、心臓超音波検査といった必要な検査を行うべき義務があったにもかかわらず、これらの検査を行わなかった。 【被告】患者に対して、いつ、どのような検査をすべきかは、身体所見及び病歴をも踏まえた医師等の合理的な裁量に委ねられているのであって、患者の主訴のみによって判断するものではない。 亡Eは、本件刑務所に入所後、職員に対し、日常的に要求や愁訴、更には 処方薬や対処方法につい 等の合理的な裁量に委ねられているのであって、患者の主訴のみによって判断するものではない。 亡Eは、本件刑務所に入所後、職員に対し、日常的に要求や愁訴、更には 処方薬や対処方法についてまで意見を述べることが多く、訴える内容が根拠のあるものであるか否かを個別に判断し、対応の要否を検討しなければならないことが頻繁にあり、狭心症の病歴も不明瞭なものであった。 このような状況の下、亡Eは、令和4年2月13日に胸痛を訴えていたが、心筋梗塞を疑わせるような強烈な痛みはなく、身体所見やバイタルサイン上 も目立った異常は認められなかったのであるから、本件刑務所の職員において、原告らが主張するような検査を行うべき義務はなかった。 また、亡Eは、同月17日午後1時10分頃から同日午後1時35分頃時点において、顔面・手指蒼白とされているものの、胸痛は訴えておらず、よく話し、元気はある様子であり、バイタルサイン上も異常は認められなかっ たのであるから、本件刑務所の職員において、原告らが主張するような検査を行うべき義務はなかった。 ⑵ 検査不実施と亡Eの死亡との間の因果関係の有無(争点2)【原告ら】本件刑務所の職員が、令和4年2月13日又は同月17日の時点で亡Eの急性心筋梗塞を疑い、鑑別診断のために必要な検査を行っていたとすれば、 亡Eが急性心筋梗塞を発症していることが判明し、治療が開始されたはずである。そうすれば、亡Eは、心筋の壊死が拡大するのを防止できた可能性が高く、急性心筋梗塞による心不全、更には多臓器不全に陥って死亡することは避けられたはずであり、少なくとも同年3月1日午前7時51分に死亡することはなかったと考えられるから、本件刑務所の職員の検査不実施と亡E の死亡との間には、相当因果関係がある。 死亡することは避けられたはずであり、少なくとも同年3月1日午前7時51分に死亡することはなかったと考えられるから、本件刑務所の職員の検査不実施と亡E の死亡との間には、相当因果関係がある。 【被告】亡Eは、令和4年2月13日又は同月17日時点において、心筋梗塞を発症していたとはいえないため、原告らが主張する検査を行っても、亡Eの死亡を回避することができたとはいえない。 ⑶ 保護室収容の違法性の有無(争点3)【原告ら】本件刑務所の職員は、令和4年2月15日以降、亡Eが大声を発したことや小便をして畳を汚損したことを理由に、4回にわたって同人を保護室に収容した。 しかし、亡Eには、心筋梗塞を疑うべき胸痛、呼吸困難等の症状や、糖尿病、認知症の症状としての意識障害があった。そのため、亡Eは、大声を発して、自己の重大な身体の異変を施設関係者に訴えようとしていたものと理解できるし、小便を漏らすという挙動も故意のものではなく、上記疾病が影響していることを疑うべきであって、それらの訴えや兆候に対応して適切な 治療を行うべきであった。 それにもかかわらず、本件刑務所の職員は、亡Eを漫然と保護室に収容しており、これらは国賠法1条1項の適用上、違法である。 【被告】本件刑務所の職員による亡Eの保護室収容は、いずれも亡Eが刑務官の制止に従わず大声を出したり、静穏室内で小便をするなど、他の被収容者の静 謐な生活環境を害するおそれや、刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれが顕著であって、本件刑務所の規律及び秩序を維持するため特に必要があることから、刑事収容施設法79条5項に基づき医師の意見を聴いた上で、同条2項、1項2号イ又はハにより行わ 壊し、又は汚損するおそれが顕著であって、本件刑務所の規律及び秩序を維持するため特に必要があることから、刑事収容施設法79条5項に基づき医師の意見を聴いた上で、同条2項、1項2号イ又はハにより行われた合理的な措置であり、当該行為の原因が疾病によるものであるか否かにかかわらず、上記 保護室収容は適法である。 ⑷ 亡Eに対する処遇の違法性の有無(争点4)【原告ら】本件刑務所の職員は、令和4年1月31日から同年2月27日までの間、亡Eに対し、「ばかたれ」、「どあほ」、「ぶっとばすぞ」、「はなくそが」 といった暴言を吐いたり、亡Eの「水ください」、「薬ください」「お茶ください」などといった申出に対し、これらを渡さないなどの虐待的な対応を繰り返しており、これらは国賠法1条1項の適用上、違法である。 【被告】原告らが主張する事実は概ね認めるが、その評価については争う。 ⑸ 損害の有無及びその額(争点5)【原告ら】ア上記各違法行為と相当因果関係を有する亡Eの損害は、以下のとおりである。 (ア) 亡Eの死亡慰謝料 2000万円 (イ) 亡Eの保護室収容に係る慰謝料 400万円(ウ) 亡Eの不適正な処遇に係る慰謝料 200万円イ上記亡Eの慰謝料合計2600万円のうち、原告Aが1920万円、原告B、原告C及び原告Dが各173万3333円をそれぞれ取得した。 ウ亡Eの死亡に係る原告ら固有の慰謝料各300万円エ原告Bが支出した葬儀費用 67万9700円 オ弁護士費用原告Aにつき206万円、原告Bにつき52万7970円、原告C及び原告Dにつき各46万円(なお、原告らは、令和7年7月22日付け訴えの変更申立て後の上記イないしエについて、上記弁護士費 弁護士費用原告Aにつき206万円、原告Bにつき52万7970円、原告C及び原告Dにつき各46万円(なお、原告らは、令和7年7月22日付け訴えの変更申立て後の上記イないしエについて、上記弁護士費用の請求をしているものと理解することができる。) カ各原告の請求額合計(上記イないしオの合計額)原告Aにつき2426万円、原告Bにつき594万1003円、原告C及び原告Dにつき各519万3333円【被告】原告らの主張は否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。 ⑴ 亡Eの本件刑務所入所から死亡までの経緯等 ア亡E(当時71歳)は、令和▲年▲月▲日に本件刑務所に入所したところ、同人の健康診断簿には、既往歴として、「68才狭心症」、「69才認知症」等の記載がされていた(乙1【1、2頁】)。 イ亡Eは、令和3年10月12日、本件刑務所の医務部長の診察を受け、意識障害により、休養処遇として加療の必要を認めるとの診断がされた(乙 2)。 また、亡Eは、同日、起居動作時間帯違反及び点検等の拒否等の反則容疑行為を行い、同日から、昼夜居室処遇とされ、大声を発するおそれにより、静穏室に収容されていたところ、同月14日、本件刑務所の精神科医により、見当識障害が疑われ、せん妄状態にあるため、科罰効果が期待できないとの所見が示されたことから、同月19日、上記行為に関する調査 が中止された(乙7)。 ウ本件刑務所の整形外科医は、令和3年10月14日、亡Eの診察をし、血液検査の結果、NT-proBNP(心室に負荷が掛かると合成されるホルモンの一種)の数値が2 が中止された(乙7)。 ウ本件刑務所の整形外科医は、令和3年10月14日、亡Eの診察をし、血液検査の結果、NT-proBNP(心室に負荷が掛かると合成されるホルモンの一種)の数値が2608と高数値であることに加え、心電図異常も認められたことから、心疾患の疑いがあるとして、循環器内科医に診 察を依頼した(乙3【45頁】)。 これを受けて、本件刑務所の循環器内科医は、同月20日、亡Eの診察をし、心電図検査では心房細動等が認められたものの、心臓超音波検査の結果、心筋の動きは良好であったため、心不全症状はないとの所見を示したが、同検査において、心臓の中隔上部に心肥大(13ミリメートル)や 乳頭筋の軽度肥大が認められたことから、亡Eに対し、年2回の診察、検査を実施する旨説明した(乙3【70ないし72頁】)。 さらに、本件刑務所の外科医は、同年11月29日、亡Eの診察をし、椎間板ヘルニア手術後、認知症、高血圧、狭心症、糖尿病との診断をした(乙11)。 エ亡Eは、令和4年1月14日午前9時35分頃、食器口越しに洗面器で廊下に水を撒いた上、刑務官の制止に従わず大声を出すなどしたため、同日午前9時38分、保護室に収容されたが、その後、落ち着きを取り戻したことから、同月15日午前10時25分に保護室収容が中止された(乙18ないし21)。 また、亡Eは、同月31日午後9時50分頃、大声を出したり、静穏室の扉を蹴るなどした上、刑務官の制止にも従わなかったため、同日午後9時58分、保護室に収容されたが、その後、落ち着きを取り戻したことから、同年2月2日午後1時28分に保護室収容が中止された(乙24ないし26)。 さらに、亡Eは、同日午後3時21分頃、刑務官の制止に従わず大声を 出すなどし その後、落ち着きを取り戻したことから、同年2月2日午後1時28分に保護室収容が中止された(乙24ないし26)。 さらに、亡Eは、同日午後3時21分頃、刑務官の制止に従わず大声を 出すなどしたため、同日午後3時24分、保護室に収容されたが、その後、落ち着きを取り戻したことから、同月3日午前9時54分に保護室収容が中止された(乙27ないし29)。 オ本件刑務所の准看護師は、令和4年2月13日午前7時20分頃、他の職員から、亡Eが「胸が苦しい。」と述べ、顔色が青白いとの連絡を受け、 亡Eのバイタルサインの測定を実施したところ、体温は36.0℃、血圧は153/103mmHg、脈拍は107回/分、SpO2は97%であった。この際、亡Eは、3日前からの胸痛、呼吸苦、全身の骨の痛みがある旨訴えた。上記准看護師は、亡Eの顔色が悪いこと、脈がやや速いこと、頻呼吸で喘鳴があること、胸痛を訴えていること、狭心症の既往歴がある ことから、亡Eを本件刑務所の病棟に収容し、翌日午前9時の循環器内科の診察を予約した。 上記准看護師から引継ぎを受けた看護師が、同月13日午前10時30分頃、亡Eのバイタルサインの測定を実施したところ、体温は36.3℃、血圧は134/95mmHg、脈拍は113回/分、SpO2は97%で あった。亡Eは、顔色が良好であり、呼吸状態も安定していることから、経過観察となった。 (乙3【104、198頁】、31【4、6頁】)カ本件刑務所の看護師は、令和4年2月14日、腎臓内科医に対し、亡Eの状態を確認したところ、症状は認められなかったことを報告した。同報 告を受けて、上記医師は、亡Eにつき、引き続き経過観察とし、予約されていた循環器内科の診察は行われなかった。(乙3【106頁】、弁論の 認したところ、症状は認められなかったことを報告した。同報 告を受けて、上記医師は、亡Eにつき、引き続き経過観察とし、予約されていた循環器内科の診察は行われなかった。(乙3【106頁】、弁論の全趣旨)キ亡Eは、令和4年2月15日午前8時頃、刑務官の制止に従わず、大声を出すなどしたため、同日午前8時3分、保護室に収容されたが、その後、落ち着きを取り戻したことから、同月17日午後1時7分に保護室収容が 中止された(乙3【108頁】、34ないし36。以下、この間の保護室収容を「本件収容①」という。)。 ク亡Eは、令和4年2月17日午後1時7分頃、保護室から出室して移動する際、息苦しさを訴え、手指が蒼白のため、同日午後1時35分頃、本件刑務所の准看護師により、バイタルサインの測定が実施された。その際、 亡Eは、准看護師に対し、「苦しい。MRIとってくれ。」などと訴えていたが、体温は36.1℃、血圧は130/98mmHg、脈拍は96回/分であり、その後医務部診察室でSpO2を測定したところ98%であったことから、経過観察となった。(乙3【204頁】、38)ケ亡Eは、令和4年2月17日午後10時20分頃、静穏室内で小便をし て畳を汚損し、刑務官の制止に従わず、大声を出すなどしたため、同日午後10時40分、保護室に収容されたが、その後、落ち着きを取り戻したことから、同月18日午前11時13分に保護室収容が中止された(乙3【204頁】、31【9頁】、39ないし41。以下、この間の保護室収容を「本件収容②」という。)。 コ亡Eは、令和4年2月18日午後9時29分頃、静穏室内で小便をして畳を汚損したため、同日午後9時39分、保護室に収容され、更に同月19日午前9時17分頃、刑務官の制止に従わず、大声を出 コ亡Eは、令和4年2月18日午後9時29分頃、静穏室内で小便をして畳を汚損したため、同日午後9時39分、保護室に収容され、更に同月19日午前9時17分頃、刑務官の制止に従わず、大声を出すなどしたため、収容要件が追加されたが、その後、落ち着きを取り戻したことから、同月21日午後1時39分に保護室収容が中止された(乙3【111、207 頁】、31【10頁】、43ないし46。以下、この間の保護室収容を「本件収容③」という。)。 サ亡Eは、令和4年2月21日、頸部や肩が痛くて呼吸がしにくいと訴えた。本件刑務所の腎臓内科医は、亡Eに心疾患があることから胸部レントゲン撮影を行った結果、心拡大は若干普段よりあるがうっ血は認められないとして、経過観察とした。(乙3【122頁】) シ亡Eは、令和4年2月21日午後11時26分頃、静穏室内で小便をして畳を汚損したため、同日午後11時44分、保護室に収容され、更に同月22日午前7時9分頃、刑務官の制止に従わず、大声を出すなどしたため、収容要件が追加されたが、その後、落ち着きを取り戻したことから、同日午後1時44分に保護室収容が中止された(乙3【123、124頁】、 31【11頁】、49ないし53。以下、この間の保護室収容を「本件収容④」といい、本件収容①ないし④を併せて「本件各収容」という。)。 ス亡Eは、数日間、食事を少量しか摂取しておらず、令和4年2月22日午後2時頃、顔のむくみや末梢の血行障害が認められたため、血液検査や心電図検査等が実施されたところ、心筋トロポニンが陽性であり、WBC (白血球)の上昇が認められ、心電図検査でもST上昇(心筋に血液を供給している血管の完全閉塞による高度の障害が存在していることを表すもの)が認められた。本件刑務所の医務 が陽性であり、WBC (白血球)の上昇が認められ、心電図検査でもST上昇(心筋に血液を供給している血管の完全閉塞による高度の障害が存在していることを表すもの)が認められた。本件刑務所の医務部長は、同日午後3時30分頃、亡Eについて、心筋梗塞の疑い、多臓器不全と診断し、容態が急変する可能性があるため、亡Eを重症指定とした上、精査及び加療を目的として、外 部医療機関である豊田厚生病院を受診させることとした。なお、本件刑務所の職員は、亡Eを重症指定したことについて、原告Cに電話したが応答がなかったため、同人宛てに電報を発信して連絡した。 本件刑務所の看護師は、同日午後3時30分頃、亡Eのバイタルサインを測定し(体温36.4℃、血圧は137/117mmHg、脈拍は10 8回/分)、同人に対し、バルーンカテーテルを挿入し、抑制帯を使用した上で、同日午後4時37分頃、豊田厚生病院に搬送するため、亡Eをストレッチャーに移動させたところ、同人は自らバルーンカテーテルを抜去したため、尿道から出血があった。 亡Eは、同日午後4時47分頃、豊田厚生病院に到着した。同病院の救急科医師は、搬送されてきた亡Eについて、心電図検査や血液検査を実施 した結果、ある程度時間の経過した心筋梗塞と考えられる上、心臓超音波検査の結果、左室前下行肢は壊死して機能しておらず、多臓器不全の症状が認められ、心不全、低拍出症候群と考えられ、循環不全が強く、保存的治療のみでは致命的となる可能性が高いため、血行再建や機械的サポートが必要であるとの所見を示した。その上で、同病院の医師は、亡Eに対し、 治療の必要性を説明したところ、亡Eは、治療に同意し、同日午後8時12分頃、緊急冠動脈造影検査及び経皮的冠動脈形成術治療を実施するため、心臓カテーテル室に 上で、同病院の医師は、亡Eに対し、 治療の必要性を説明したところ、亡Eは、治療に同意し、同日午後8時12分頃、緊急冠動脈造影検査及び経皮的冠動脈形成術治療を実施するため、心臓カテーテル室に入室したが、突然、大声を出して治療を拒否した。このため、上記医師は、再度、亡Eに対し、治療の必要性について説明をしたが、亡Eの治療拒否の意思が変わらなかったため、上記検査及び治療を 中止した。その後、亡Eは、本件刑務所に帰所し、保存的治療をすることとなった。 (乙3【126、218、219頁】、55、56、57【25、31ないし33、45頁】、58)セ本件刑務所の外科医は、令和4年2月23日午後2時48分頃、亡Eを 診察したところ、ST上昇を認め、呼び掛けに反応を示すものの、前日より体調が優れない状況であったため、亡Eについて、保存的治療継続しか手の打ちようがなく、容態に急変が生じた場合、救命することは困難であり、このまま看取ることとなる可能性が高いとの所見を示した。 その後、本件刑務所の医務部長は、亡Eの容態等に関する報告を受けて、 亡EをICU室に移動させること、心電図モニター装着により経過観察をすること、酸素吸入を適宜実施することを指示し、亡Eは、同日午後5時頃、ICU室に収容された。 (乙3【132、227ないし230頁】)ソ本件刑務所の整形外科医は、令和4年2月25日、亡Eが連日、内服薬を全て吐き出し、投薬を拒否するなどしたため、内服薬の一部の投与を中 止し、心不全の悪化を防ぐため、飲み水の量を制限することとした(乙3【140、231ないし237頁】)。 タ亡Eは、令和4年2月26日から同月28日までの間、投薬による保存的治療が継続されていたが、同年3月1日午前7時36分 飲み水の量を制限することとした(乙3【140、231ないし237頁】)。 タ亡Eは、令和4年2月26日から同月28日までの間、投薬による保存的治療が継続されていたが、同年3月1日午前7時36分頃、瞳孔が散大し、呼吸停止しており、血圧測定ができない状況にあることが確認され、 同日午前7時51分頃、死亡が確認された。 本件刑務所で作成された死亡診断書によれば、亡Eの死因は心筋梗塞による多臓器不全とされており、それらの発症から死亡までの期間は約1週間とされている。 また、司法解剖の結果によれば、亡Eの死因について、肺や肝臓には心 不全を示唆する所見である肺うっ血、慢性うっ血肝が、心臓には冠状動脈硬化やびまん性の繊維化巣があり、心臓は肥大していることなどから、以前から何らかの心機能の低下があり、それに起因して最終的には致死性不整脈が生じ死亡したものと推察されている。 (前提事実⑵、甲A1、3、乙3【143、241、244、247頁】、 61)⑵ 医学的知見ア一般に、急性心筋梗塞は、冠動脈の突然の閉塞によって生じた心筋壊死のことを指す。発症すると、多くは冷汗を伴い、耐え難い、強烈な痛みを訴える。痛みは30分以上続き、しばしば数時間に及び呼吸困難を呈する ことも多い。梗塞前に狭心症を認めた場合、痛みの場所は同じことが多いが、痛みは狭心症より強度で、また持続も長い。脈拍は、徐脈から頻脈までさまざまであるが、胸痛と不安感から100拍/分以上の洞性頻脈を呈することが多い。血圧は、前壁梗塞の場合には約半数に高血圧、頻脈が観察されるが、下壁梗塞の場合には約半数に低血圧、徐脈が観察される。また、発症の24時間から48時間以内に37度台の発熱が認められる。(甲 B1【256、262ないし264頁】) 圧、頻脈が観察されるが、下壁梗塞の場合には約半数に低血圧、徐脈が観察される。また、発症の24時間から48時間以内に37度台の発熱が認められる。(甲 B1【256、262ないし264頁】)イ急性心筋梗塞は、そのものが致死的な不整脈を生じさせやすい疾患であるが、発症12時間以内に再灌流療法が施行されれば死亡率は明らかに低下する。他方で、12時間以降になると死亡率低下は認められないため、速やかに重症度を評価し迅速かつ的確な治療を行うことが予後の改善に重 要である。検査は、心電図検査や血中心筋マーカーの測定などにより行うが、心臓超音波検査も診断補助法として有用である。(甲B1【270、271、276頁】、2、3【1651、1654頁】、4、乙57【37頁】)ウ急性心筋梗塞の臨床症状、酵素変化を欠き、心電図変化が固定したもの を陳旧性心筋梗塞という。時期の明確な定義はないが、病理学的に梗塞部の線維化が完成する4週間以降のものを指すことが多い。(甲B1【282頁】)⑶ 刑務官による不適正な処遇等看守AないしF及び主任看守Gは、本件刑務所収容中の亡Eに対し、令和 4年1月31日から同年2月27日までの間、それぞれ別紙2懲戒等一覧表の懲戒等事由欄記載の行為を行った。名古屋矯正管区(当時。現在の中部矯正管区)第一部長及び本件刑務所の総務部長は、令和6年11月5日、原告B及び原告Cに対し、上記行為があったことを認めて謝罪した。また、本件刑務所は、同月6日、上記看守らに対し、同別紙の懲戒等の種類欄記載の懲 戒処分等を行い、看守Aについては名古屋地方検察庁検察官に事件送致した。 (甲C13ないし16) 2 争点1(検査実施義務違反の有無)及び争点2(検査不実施と亡Eの死亡との間の因果関係の有無)について 等を行い、看守Aについては名古屋地方検察庁検察官に事件送致した。 (甲C13ないし16) 2 争点1(検査実施義務違反の有無)及び争点2(検査不実施と亡Eの死亡との間の因果関係の有無)について⑴ 刑事施設の長は、被収容者が疾病にかかっているとき、又はその疑いがあるときには、速やかに、刑事施設の職員である医師等による診療を行い、そ の他必要な医療上の措置を執る必要がある(刑事収容施設法56条、62条1項1号)ところ、これらの医療上の措置が行われず、又は行われた医療上の措置が一般の病院や診療所に求められる医療水準に照らして適切さを欠くものであった場合には、当該刑事施設の職員又はその補助を受けた刑事施設の長には、当該不作為又は医療上の措置につき、職務上通常尽くすべき注意 義務の違反があることとなり、国賠法1条1項の適用上、違法との評価を受けることとなる。 ⑵ これを本件についてみるに、本件刑務所の職員(医師を含む。)は、令和4年2月13日午前7時20分頃、亡Eが胸痛を訴え、顔色が青白く、3日前から胸痛や呼吸苦等があった旨申告しており、バイタルサインの測定等の 結果、頻脈、高血圧、喘鳴といった症状を認めた上、狭心症の既往歴があったことから、本件刑務所の病棟に収容し、翌日の循環器内科の診察を予約したこと(認定事実⑴オ)、亡Eは、同日午前10時30分頃に実施された再度のバイタルサインの測定等の結果、異常までは認められず、顔色も良好で呼吸状態も安定していたことから経過観察となったこと(同⑴オ)、同月1 4日には、亡Eに症状が認められなかったことから、引き続き経過観察となり、予約されていた循環器内科の診察は行われなかったこと(同⑴カ)、同月17日午後1時7分頃、亡Eが息苦しさを訴えたため、同日午後1時35分頃、バイタ 認められなかったことから、引き続き経過観察となり、予約されていた循環器内科の診察は行われなかったこと(同⑴カ)、同月17日午後1時7分頃、亡Eが息苦しさを訴えたため、同日午後1時35分頃、バイタルサインの測定を実施したものの、異常までは認められず、引き続き経過観察となったこと(同⑴ク)、同月21日、亡Eが頸部や肩の痛 み、呼吸困難を訴えたため、胸部レントゲン撮影を行ったところ、心拡大は若干普段よりあるがうっ血は認められなかったことから、引き続き経過観察となったこと(同⑴サ)、同月22日午後2時頃、亡Eに顔のむくみや末梢の血行障害が認められたため、血液検査や心電図検査等を実施したところ、心筋トロポニンが陽性であり、WBC(白血球)の上昇が認められ、心電図検査でもST上昇が認められたことから、心筋梗塞の疑い、多臓器不全と診 断されたこと(同⑴ス)、このため亡Eを重症指定とし、同日午後4時47分頃、外部医療機関である豊田厚生病院に搬送したこと(同⑴ス)、豊田厚生病院では、亡Eの心電図検査、血液検査、心臓超音波検査等が実施され、その結果、亡Eに多臓器不全の症状が認められ、循環不全が強く、保存的治療のみでは致命的となる可能性が高いとして、緊急冠動脈造影検査及び経皮 的冠動脈形成術治療を実施しようとしたが、亡Eがこれを強く拒否したため、上記検査及び治療は中止となり、本件刑務所における保存的治療がされることになったこと(同⑴ス)、その後、亡Eは、本件刑務所において、保存的治療が続けられていたところ、同年3月1日に死亡したこと(同⑴セないしタ)が認められる。 上記によれば、本件刑務所の職員は、亡Eに対し、同人が胸痛を訴えた令和4年2月13日午前7時20分頃から、心筋梗塞の疑い、多臓器不全と診断して豊田厚生病院に搬送 タ)が認められる。 上記によれば、本件刑務所の職員は、亡Eに対し、同人が胸痛を訴えた令和4年2月13日午前7時20分頃から、心筋梗塞の疑い、多臓器不全と診断して豊田厚生病院に搬送した同月22日午後4時47分頃までの間、適宜、バイタルサインの測定を実施したり、病態生理を確認するなどし、症状に応じて、胸部レントゲン撮影、血液検査及び心電図検査等を実施していた のであって、同人の胸痛は、冷汗を伴い、耐え難い、強烈な痛みが持続するようなものではなく、頻脈や高血圧が見られるものの発熱がないなど、直ちに急性心筋梗塞を疑わせるような徴候はなかったこと(認定事実⑵ア参照)も考慮すると、上記のような本件刑務所の職員の亡Eに対する一連の療養看護、診察及び検査等が、一般の病院や診療所に求められる医療水準に照らし て適切さを欠くものであったと認めることはできず、同月13日及び同月17日に同人に対して心電図検査、心筋マーカーを含む血液検査、心臓超音波検査等の検査を実施しなかったことにも注意義務違反は認められない。 これに対し、原告らは、亡Eは、令和4年2月13日、冷汗を伴う胸痛、顔面蒼白、頻脈、頻呼吸、喘鳴、SpO2低下といった急性心筋梗塞の症状が見られ、また、同月17日には、呼吸苦や手指蒼白の症状が生じ、「苦し い、MRIとってくれ」と訴えていたことからすれば、本件刑務所の職員は、亡Eについて、同月13日、遅くとも同月17日に、急性心筋梗塞を疑い、鑑別診断のために心電図検査、心筋マーカーを含む血液検査、心臓超音波検査といった必要な検査を行うべき義務があった旨主張する。 しかしながら、前述のとおり、亡Eには、本件刑務所入所から同月22日 午後2時頃までの間、直ちに急性心筋梗塞を疑わせるような徴候等は認められなかったの 検査を行うべき義務があった旨主張する。 しかしながら、前述のとおり、亡Eには、本件刑務所入所から同月22日 午後2時頃までの間、直ちに急性心筋梗塞を疑わせるような徴候等は認められなかったのであり、本件刑務所の職員が、亡Eについて、同月13日又は同月17日に、急性心筋梗塞を疑い、鑑別診断のために心電図検査、心筋マーカーを含む血液検査、心臓超音波検査といった検査をしなかったことが、一般の病院や診療所に求められる医療水準に照らして適切さを欠くものであっ たと認めることはできず、原告らの上記主張は採用することができない。 したがって、本件刑務所の職員に亡Eに対する検査実施義務違反は認められない。 ⑶ 亡Eは、令和4年2月22日、外部医療機関である豊田厚生病院において診察を受けたところ、ある程度時間の経過した心筋梗塞と考えられ、心臓超 音波検査の結果、左室前下行肢は壊死して機能しておらず、多臓器不全の症状が認められたこと(認定事実⑴ス)、司法解剖の結果によれば、亡Eの死因について、肺や肝臓には心不全を示唆する所見である肺うっ血、慢性うっ血肝が、心臓には冠状動脈硬化やびまん性の繊維化巣があり、心臓は肥大していることなどから、以前から何らかの心機能の低下があり、それに起因し て最終的には致死性不整脈が生じ死亡したものと推察されたこと(同⑴タ)が認められる。また、急性心筋梗塞は、発症12時間以内に再灌流療法が施行されれば死亡率は明らかに低下するが、それ以降になると死亡率低下は認められず(同⑵イ)、一般に梗塞部の線維化が完成する4週間以降のものを陳旧性心筋梗塞という(同⑵ウ)ところ、仮に亡Eに心筋梗塞が生じていたのだとしても、これがいつの時点で生じたものかは判然とせず、本件刑務所 の職員が、令和4年2月13日又は同 4週間以降のものを陳旧性心筋梗塞という(同⑵ウ)ところ、仮に亡Eに心筋梗塞が生じていたのだとしても、これがいつの時点で生じたものかは判然とせず、本件刑務所 の職員が、令和4年2月13日又は同月17日の時点で亡Eの急性心筋梗塞を疑い、鑑別診断のために必要な検査を行えば、亡Eが心筋梗塞を発症していることが判明して、治療が開始され、心筋の壊死が拡大することを防止でき、高度の蓋然性をもって亡Eの心不全による死亡の結果が回避できたとは認め難く、また、死亡の結果が回避できたことの相当程度の可能性も認めら れない。 したがって、原告らの主張する検査の不実施と亡Eの死亡との間には、相当因果関係も認められない。 ⑷ 以上によれば、原告らの本件刑務所の職員の亡Eに対する検査実施義務違反に基づく請求(亡Eの死亡慰謝料、同人の死亡に係る原告ら固有の慰謝料 及び原告Bが支出した葬儀費用の請求)は、いずれも理由がない。 3 争点3(保護室収容の違法性の有無)について刑事施設の規律及び秩序を適正に維持するために執る措置は、被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な範囲において行うべきところ(刑事収容施設法73 条1項、2項参照)、刑務官は、被収容者が刑務官の制止に従わず、大声又は騒音を発するときや、刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがある場合において、刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるときは、刑事施設の長の命令により(その命令を待ついとまがないときは、その命令を待たないで)、その者を保護室に収容することができる(同 法79条1項、2項)。 これを本件についてみるに、亡Eは、本件刑務所入所後、度々、大声を出したり、 いとまがないときは、その命令を待たないで)、その者を保護室に収容することができる(同 法79条1項、2項)。 これを本件についてみるに、亡Eは、本件刑務所入所後、度々、大声を出したり、廊下に水を撒いたり、静穏室の扉を蹴るなどして、静穏室や保護室に収容されていたところ(認定事実⑴イ、エ)、本件各収容は、いずれも亡Eが刑務官の制止に従わず大声を出したり、静穏室内で小便をするなど、他の被収容者の静謐な生活環境を害するおそれや、刑事施設の設備、器具その他の物を損 壊し、又は汚損するおそれがあり、本件刑務所の規律及び秩序を維持するため特に必要があることから、刑事収容施設法79条5項に基づき医師の意見を聴いた上で、同条2項、1項2号イ又はハにより行われた合理的な措置であり(同⑴キ、ケ、コ、シ)、その手続上も違法性は認められない。 これに対し、原告らは、亡Eには、心筋梗塞を疑うべき胸痛、呼吸困難等の 症状や、糖尿病、認知症の症状としての意識障害があったため、大声を発して、自己の重大な身体の異変を施設関係者に訴えようとしていたものと理解できるし、小便を漏らすという挙動も故意のものではなく、上記疾病が影響していることを疑うべきであって、それらの訴えや兆候に対応して適切な治療を行うべきであったにもかかわらず、亡Eを漫然と保護室に収容したことは、国賠 法1条1項の適用上、違法である旨主張する。 しかしながら、亡Eには本件刑務所入所から同月22日午後2時頃までの間、直ちに急性心筋梗塞を疑わせるような徴候等は認められなかったことは前記認定のとおりであるところ、本件各収容は、前述のとおり、亡Eが本件刑務所内において大声を出したり、静穏室内で小便をするなどしたことから、本件 刑務所の規律及び秩序を維持するため特に必要があることか のとおりであるところ、本件各収容は、前述のとおり、亡Eが本件刑務所内において大声を出したり、静穏室内で小便をするなどしたことから、本件 刑務所の規律及び秩序を維持するため特に必要があることから行われた合理的なものであり、亡Eに認知症の徴候があり、様々な症状を訴えていたことなどを考慮しても、本件各収容が刑事施設の規律及び秩序を維持するために不必要であるとか、合理性を欠くものであったと認めることはできず、原告らの上記主張は採用することができない。 その他、本件各収容が本件刑務所の刑務官の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用して行われたことをうかがわせる事情はなく、本件各収容が国賠法1条1項の適用上違法であると評価することはできず、そのような評価を前提とする原告らの請求は、いずれも理由がない。 4 争点4(亡Eに対する処遇の違法性の有無)について前記認定事実⑶によれば、本件刑務所の看守AないしF及び主任看守Gは、 亡Eに対し、別紙2懲戒等一覧表の懲戒等事由欄記載の行為を行ったことが認められる。上記行為は、亡Eの私印(指印)を不正に使用したり、亡Eに対して暴言や不適切な発言をしたり、亡Eが在室する保護室の扉を蹴ったり叩くなどして音を立てたり、亡Eの不当とまではいえない要求に理由なく応じないなど、被収容者である亡Eの人格権を違法に侵害するものであり、また、刑務所 内の規律及び秩序の維持等とは何らの関連性なく行われたものであって、正当化される余地はない(なお、看守Dが亡Eに対して「すわれーすわれーすわれー」などとリズムをとるようにして指示を繰り返したことは、亡Eを揶揄するものというほかない。)。 したがって、上記各行為は、いずれも国賠法1条1項の適用上、違法との評 価を免れない。 5 争点5(損害の とるようにして指示を繰り返したことは、亡Eを揶揄するものというほかない。)。 したがって、上記各行為は、いずれも国賠法1条1項の適用上、違法との評 価を免れない。 5 争点5(損害の有無及びその額)について上記4のとおり、本件刑務所の看守AないしF及び主任看守Gが、亡Eに対し、別紙2懲戒等一覧表の懲戒等事由欄記載の行為を行ったことは、いずれも国賠法1条1項の適用上、違法と評価されるところ、その態様や回数等、本件 に顕れた一切の事情を考慮すれば、上記各処遇により亡Eに生じた精神的苦痛に対する慰謝料としては30万円が相当である。 そうすると、原告Aは22万円(=30万円×11/15)、原告B、原告C及び原告Dは各2万円(=30万円×1/15)の限度で、被告に対し、損害賠償を請求することができる。 また、本件事案の内容、訴訟の経緯及び上記損害賠償額等に照らすと、上記損害賠償額と相当因果関係を有する弁護士費用の額は、各1割と認めるのが相当である(原告Aにつき2万2000円、原告B、原告C及び原告Dにつき各2000円)。 第4 結論以上によれば、原告らの請求は、原告Aにつき24万2000円、原告B、 原告C及び原告Dにつき各2万2000円の限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、主文第1項ないし第4項について、仮執行宣言を付する(被告の申出により執行開始時期を本判決が被告に送達された後14日経過した時とする。)とともに、被告の申立てにより、担保を条件とする仮 執行免脱宣言を付することとする。 東京地方裁判所民事第14部 裁判長裁判官 被告の申立てにより、担保を条件とする仮 執行免脱宣言を付することとする。 東京地方裁判所民事第14部 裁判長裁判官 知野明 裁判官 武藤明子 裁判官 上野颯(別紙2) 懲戒等一覧表 被処分者等懲戒等事由懲戒等の種類A(看守)令和4年2月24日、亡Eに係る日課表14枚の所定欄に同人の確認印を徴するに当たり、重症指定を受けていた同人と意思疎通を図ることが困難であったことなどから、同人に所要の説明を行うことなく、行使の目的をもって、ほしいままに、同人の左手示指に黒色インクを付着させた上でこれを前記日課表の所定欄に順次押し付け、もってそれぞれ同人の印章を不正に使用した(なお、日課表の記載内容に間違いはなかった。)。 戒告B(看守)職務を行うに当たり、令和4年1月31日から同年2月20日までの間に、亡Eに対し、「やかましい」、「うるさい」などの不適切な発言が4回、理由なく保護室の扉を蹴る、叩くなどして音を立てたことが3回、亡Eが「水ください」と言っているのに、じっと見ているだけで対応しなかったことなどが2回、「ばかたれ」、「どあほ」との暴言が2回の合計11回にわたり不適正な処遇を行った。 訓告C(看守)職務を行うに当たり、令 ているのに、じっと見ているだけで対応しなかったことなどが2回、「ばかたれ」、「どあほ」との暴言が2回の合計11回にわたり不適正な処遇を行った。 訓告C(看守)職務を行うに当たり、令和4年2月16日から同月21日までの間に、亡Eに対し、「ばか、どあほ」、「ぶっとばすぞ」との暴言が2回、また、亡Eが「所長呼んで下さい」と言っているのに対し「所長は来な厳重注意いんだよ、バカだな」との暴言が1回の合計3回にわたり不適正な処遇を行った。 D(看守)職務を行うに当たり、令和4年2月1日から同月21日までの間に、亡Eに対し、「たわけ」との暴言が1回、通常であれば「座りなさい」と言うべきところで「すわれーすわれーすわれー」とリズムをとるようにして指示を繰り返すという不適切な発言が1回の合計2回にわたり不適正な処遇を行った。 厳重注意E(看守)職務を行うに当たり、令和4年2月1日、亡Eが「薬ください」と言ったのに対し、薬剤を与えないという不適正な処遇を行った。 注意F(看守)職務を行うに当たり、令和4年2月16日、亡Eが「お茶ください」と言ったのに対し、お茶が1滴か2滴しか入っていない紙コップを渡すという不適正な処遇を行った。 注意G(主任看守)職務を行うに当たり、令和4年2月27日、亡Eに対し、「ばかもんってなんなんだ、はなくそか」との暴言を吐くという不適正な処遇を行った。 注意

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