【DRY-RUN】主 文 被告人を懲役一年六月に処する。 原審の訴訟費用中証人A、同B、同Cに支給した部分は被告人及び原審 相被告人Dの連帯負担とし、当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
主文被告人を懲役一年六月に処する。 原審の訴訟費用中証人A、同B、同Cに支給した部分は被告人及び原審相被告人Dの連帯負担とし、当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由被告人は幼少の頃両親と共に朝鮮から日本に渡来し、和歌山市の高等小学校高等科を卒業後、昭和一六年頃兵庫県のE航空機工業の整備養成工となり、その後東京に出て仲仕をしながらF無線電信学校に通学していたが、空襲の激化につれて家族と共に住居を変え、終戦後肩書住居に移り、G等と共に闇米の買出し等により生計を立てていた。昭和二一年九月四、五日頃近隣の右G方に被告人、右G、被告人の義弟に当るH、及びD等が集つた際右Gが、同人が時折買出しに行つていた当時の富山県東礪波郡a村に金持がいることを話したことから、ここに同人等は、同家に押入つて金品を強取することを共謀し、同月八日頃、拳銃、匕首、細紐等を携帯して京都市を出発し、右Gの案内で前記a村に来たが目的の家を見つけることができなかつた。そこで同月九日午後四時頃同村の庄川から分れた小さな川の附近で同人等は、前記目的の家を変更し、当時の同県同郡b村c(現在の礪波市c)d番地雑貨商A方に侵入して金品を強取することを更に共謀し、同月一〇日午前二時頃同家附近に行き、Gは路上で見張をし、D、H及び被告人は同家裏口の施錠を外して屋内に侵入し、HがAに拳銃を突きつけ、更に同人の襟首を捕え引き倒す等暴行、脅迫を加えて金品を強取しようとしたが、家人に騒がれた為、その目的を遂げなかつたものである。 判示事実は一、被告人の原審及び当審公判における供述(判示認定に反する部分を除く)一、被告人に対する予審判事の強制処分における訊問調書一、被告人に対する第一、二回予審訊問調書一、 D、Gに対 一、被告人の原審及び当審公判における供述(判示認定に反する部分を除く)一、被告人に対する予審判事の強制処分における訊問調書一、被告人に対する第一、二回予審訊問調書一、 D、Gに対する各予審判事の強制処分における訊問調書一、同人等に対する各予審訊問調書(Gについては第一、二回の二通)一、証人A、同B、同Cに対する予審判事の各証人訊問調書一、強制処分における予審判事の検証調書(添付の図面三葉共)を総合して、これを認める。 なお被告人は昭和三三年六月六日京都簡易裁判所で重過失致死罪等により罰金三〇、〇〇〇円に処する旨の裁判を受け、同月二二日確定したもので、右事実は検察事務官作成の被告人の前科調書(記録第二冊、七七七丁)によつて認める。 被告人の判示所為中住居侵入の点は刑法一三〇条、六〇条に強盗未遂の点は同法二三六条一項、二四三条、六〇条に当るのであるが、右住居侵入と強盗未遂は手段結果の関係にあるから、同法五四条一項後段、一〇条により重い強盗未遂罪の刑に従い、同法四三条本文、六八条三号により未遂減軽をし被告人には前記の確定裁判があるので同法四五条後段、五〇条により、まだ裁判を経ない本件の罪について更に処断することとする。ところで本件は終戦直後の社会的混乱に乗じて、拳銃、匕首等兇器を持して計画的に行われた悪質な犯罪であり、右犯行が当時の社会に及ぼした衝撃、被害者一家に与えた恐怖感は深刻なものがあつたことは容易に想像されるところで、被告人の刑責は重いと言わねばならない。然しながら他面において、当時被告人は前科はなく、二〇才に満たない少年であり、これに対し共犯者D、Gは四〇台の分別盛りで、被告人は右D等の使嗾、誘惑に躍らされた面も多分に存すると認められること、被告人は原審第一回公判前に勾留執行停止により釈放された後 に満たない少年であり、これに対し共犯者D、Gは四〇台の分別盛りで、被告人は右D等の使嗾、誘惑に躍らされた面も多分に存すると認められること、被告人は原審第一回公判前に勾留執行停止により釈放された後二〇年近くも所在をくらまし、裁判を免れて今日に至つたものであるが、その間事業に成功し妻子を擁して生活も安定し、特に非難すべき反社会的行動もなかつたこと、然るに自ら招いたところであるとは言え、今この安定した生活を中断して刑役に服さねばならぬこと等を考慮すると犯情憫諒すべきものがあるので、刑法六六条、七一条、六八条三号により酌量減軽した刑期範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、刑訴施行法二条、旧刑訴法二三七条一項、二三八条により原審の訴訟費用中証人A、同B、同Cに支給した分は被告人及び原審相被告人Dの連帯負担とし当審における訴訟費用は全部被告人に負担させることとする。 なお本件公訴事実は、判示のHがAの襟首を捕え引倒した際、右暴行により同人に対し治療約七日間を要する右顔面擦過傷並に打撲傷を負わせたものであるとして、被告人に対し強盗致傷罪の共同正犯の刑責を問うている。 <要旨第一>然しながら刑法にいわゆる傷害とは、他人の身体に対する暴行により、その生理機能に障害を与えることと</要旨第一>解されているのであるが、これは、あくまでも法的概念であるから医学上の創傷の概念と必ずしも合致するものではない。殊に他人の身体に暴行を加えた場合には、厳密に言えば常に何らかの生理的機能障害を惹起しているはずであつて、この意味で傷害と未だそれに至らない暴行との区別は、それによつて生じた生理的機能障害の程度の差に過ぎないと言える。両者の境界線を何処に引くかは抽象的には困難な問題であるが、(一)日常生活に支障を来さないこと、(二)傷害として意識されないか、日常生活上看過され て生じた生理的機能障害の程度の差に過ぎないと言える。両者の境界線を何処に引くかは抽象的には困難な問題であるが、(一)日常生活に支障を来さないこと、(二)傷害として意識されないか、日常生活上看過される程度であること、(三)医療行為を特別に必要としないこと等を一応の標準として生理的機能障害が、この程度に軽微なものは刑法上の傷害ではなくて暴行であると考えることができよう。然し結局は、等しく人の身体を保護法益として、刑法二〇四条の傷害罪と同法二〇八条の暴行罪が、共に法定刑の下限を科料としつつも、上限を前者は懲役一〇年後者は二年としている。主として量刑上の差異を考慮し、その犯罪の法的評価を、両罪のいずれを以て行うのが妥当であるかとの観点から個々の具体的場合に応じて決めて行く外はない。このことは強盗致傷罪の構成要件としての傷害の概念についても同様である。 そこで本件について、これを見ると、医師I作成の診断書(記録第一冊五三丁)には、「病名、右顔面擦過<要旨第二>創並に打撲病、現症並に経過、右前額部に針頭大並に約〇・五糎の裂創二ケ所存在し右上下眼瞼、頭部に渉り</要旨第二>て中等度の浮腫を認むるも、皮下出血、疼痛は認めず、上記疾病全治に七日間を要するものと認む」旨の記載があり、その作成日附は本件犯行の翌々日である昭和二一年九月一二日となつている。右医師Iは当審において、「Aを診断した記憶は全くないが、右診断書は自分の作成したものである」旨を前提としつつ、「右診断書に基いて医師としての一般的見解を述べるとすれば、『針頭大』とは注射針の跡の血でもついていたのではないかと思うが粟粒より小さいものである、裂創とは、すりむいたようなものを言い、『中等度の浮腫』とは、第三者から、どうしたのかと質問される程度の腫れを言うが、いずれも日常生活に支障を来さず、通常 ではないかと思うが粟粒より小さいものである、裂創とは、すりむいたようなものを言い、『中等度の浮腫』とは、第三者から、どうしたのかと質問される程度の腫れを言うが、いずれも日常生活に支障を来さず、通常看過される程度のものであり、特に治療の必要も認めない程度である」旨証言している。Aは、司法警察官に対する第二回聴取書において「昨日御調べを受けまして詳しく申上げて行きましたが、少々の負傷位は云わなくても良いと浅い考えから申上げずに行きましたが、只今I医師の診断を提出致しまして負傷受けた状況を申上げます」と述べ(記録第一冊、五一丁、昭和四〇年八月九日附検察事務官作成電話聴取書によればAは昭和二八年四月一三日死亡している)、その予審判事の証人訊問調書の中では「強盗に入つた男のために襟を掴まれて引張られ前へ押付けられた時に畳に擦りつけられて出来た傷だと思う、医者の治療をして貰つたわけではないが、五日位で癒つた」旨(記録第一册三一五丁裏、三一六丁)供述している。更に当審証人Cが本件犯行の状況については可成具体的に記憶しているにもかかわらず、右Aの負傷については全然記憶がない旨証言していることを併せ考えると、同人の右創傷は、前述の標準、観点からして極めて軽微で、未だ傷害と言うに当らず、暴行に止まるものと解するのが相当である。従つてHの前記所為は強盗致傷罪を構成せず、被告人は強盗未遂罪の共同正犯としての責任を負うに過ぎない。 以上の理由により主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官小山市次裁判官斎藤寿裁判官高橋正之)
▼ クリックして全文を表示