令和1(ワ)25455 不正競争行為差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年2月26日 東京地方裁判所
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令和3年2月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和元年(ワ)第25455号不正競争行為差止等請求事件口頭弁論終結日令和2年12月11日判決原告株式会社物流容器サービス 同訴訟代理人弁護士吉田太郎被告A 被告大一機材工業株式会社 (以下「被告会社」という。)上記両名訴訟代理人弁護士山形学 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 1 被告らは,別紙営業秘密目録記載の各価格情報(以下「本件価格情報」という。)を使用して,同目録記載の各商品(以下「本件各商品」という。)を輸入し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告らは,原告に対し,連帯して,1億1600万円及びこれに対する被告Aにつき令和元年10月6日から,被告会社につき同月5日から各支払済みま で年5分の割合による金員を支払え。 3 仮執行宣言第2 事案の概要 1 原告は,建設現場などに用いられる特注のパレット(コンテナ)や台車等(以下「特注台車等」という。)を中国に所在する大連浩達貿易有限公司(以 下「大連浩達」という。)から仕入れ,被告会社に販売するなどの取引を行っ ていたところ,本件は,原告が,被告らに対し,①原告の従業員として特注台車等の仕入業務を担当していた被告Aが,原告を退職した後に被告会社に就職し,本件各商品の仕入価格である本件価格情報を不正に取得及び開示したことが,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項4号の不正競争行為に,被告会社が,被告Aの不正取得行為につき故意又は重過失により被告Aか ら本件価格情報を不正に取得し又は使用した したことが,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項4号の不正競争行為に,被告会社が,被告Aの不正取得行為につき故意又は重過失により被告Aか ら本件価格情報を不正に取得し又は使用したことが,同項5号の不正競争行為に各該当し,又は,被告Aが,原告から示された本件価格情報を,図利加害目的をもって,被告会社に開示したことが,同項7号の不正競争行為に,被告会社が,被告Aの不正開示行為につき故意又は重過失により同情報を取得及び開示したことが,同項8号の不正競争行為に各該当すると主張するとともに,② 不正競争行為の存在が認められないとしても,被告らが,被告Aが原告在職中に獲得した知識を利用し,大連浩達と直接取引を行うことにより,原告と被告会社間の取引関係を消滅させ,原告の事業継続を不可能にさせて原告を廃業に追い込む行為が,著しく信義を欠き,自由競争として許される範囲を逸脱するものとして民法709条の不法行為に該当するなどとして,被告らに対し,本 件各商品の輸入,販売等の差止めを求めるとともに,連帯して,逸失利益及び弁護士費用相当損害の一部並びに訴状送達の日の翌日(被告Aにつき令和元年10月6日,被告会社につき同月5日)から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者ア原告は,建設現場などに用いられる特注のパレット(コンテナ)や台車 等(特注台車等)を受注販売する会社である。 イ被告Aは,平成19年9月1日付けで原告に雇用 (1) 当事者ア原告は,建設現場などに用いられる特注のパレット(コンテナ)や台車 等(特注台車等)を受注販売する会社である。 イ被告Aは,平成19年9月1日付けで原告に雇用され(甲5),特注台車等の仕入業務に従事していたが,平成29年3月31日付けで原告を退職し,有限会社山栄工業(以下「山栄工業」という。)の唯一の取締役に就任した(甲6)。その後,被告Aは,平成30年8月8日付けで被告会社に入社した(被告A6・16頁,被告会社代表者2頁)。 ウ被告会社は,特注台車等を製造販売する会社である。 (2) 原告と被告会社間の取引等ア原告は,平成20年に被告会社との取引を開始し,被告会社から特注台車等の注文を受け,これを商社である大連浩達から仕入れて納入するようになった。大連浩達は,原告に納入する特注台車等を中国に所在する鼎祥 五金制品有限公司(以下「鼎祥五金」という。)に製造させていた。 イ被告Aは,前記(1)イのとおり,平成29年3月31日付けで原告を退職し,山栄工業の取締役に就任したところ,原告は,同年4月頃,山栄工業との間に業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結し,山栄工業に対し,被告に納入する特注台車等の仕入業務を委託するように なったが(甲7),同業務の委託は,平成30年3月31日に終了した。 ウ被告会社は,平成30年7月頃,特注台車等を大連浩達から直接仕入れるようになった。 (3) 被告Aとの間の秘密保持に関する合意ア原告と被告A間の雇用契約書(甲5)第6条には,「被告Aは,本業務 に関して知り得た業務上の原告の秘密については,これを第三者に漏洩してはならない」旨が規定されている。 イ原告と山栄工業間の本件業務委託契約書(甲7)第7条には,「 は,「被告Aは,本業務 に関して知り得た業務上の原告の秘密については,これを第三者に漏洩してはならない」旨が規定されている。 イ原告と山栄工業間の本件業務委託契約書(甲7)第7条には,「山栄工業は,本件業務で知り得た業務上の原告の秘密については,悪用及び第三者に漏洩してはならない」旨が規定されている。 (4) 本件各商品及び本件価格情報 本件各商品は,原告が平成29年12月から平成30年11月までに被告会社に納入した特注台車等(甲8,10)の一部であり,本件価格情報は,本件各商品のインボイスに記載された単価等の情報である。 3 争点(1) 本件価格情報の秘密管理性(争点1) (2) 本件価格情報の有用性(争点2)(3) 本件価格情報の非公知性(争点3)(4) 本件価格情報に係る不正競争行為の有無(争点4)(5) 被告らの行為の一般不法行為該当性(争点5)(6) 原告に生じた損害(争点6) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件価格情報の秘密管理性)について(原告の主張)以下のとおり,本件価格情報は秘密として管理されていたということができる。 (1) 本件価格情報は,原告代表者と被告Aとの間でのみ,メールを通じて共有されていた。他の従業員は,これにアクセスする権限を有しておらず,実際上も,原告代表者と被告A以外に本件価格情報を閲覧する者はいなかった。 このように,原告においては,実質的には原告代表者と被告Aのみが稼働していたことを考慮すると,これでも十分な秘密管理がされていたということ ができる。 (2) 原告は,前記前提事実(3)のとおり,被告A及び山栄工業に対し,雇用契約や本件業務委託契約において,本件価格情報を含む営業情報を秘密とし な秘密管理がされていたということ ができる。 (2) 原告は,前記前提事実(3)のとおり,被告A及び山栄工業に対し,雇用契約や本件業務委託契約において,本件価格情報を含む営業情報を秘密として保持することを約束させていた。本件価格情報は,原告の優位性,競争力の根幹をなし,その利益の多寡を決する重要な要因となるものであるから,こ れが同各契約に定められた秘密保持義務の対象に当たることは客観的に認識 可能であり,被告Aも十分に認識していた。 (3) 本件価格情報は,本件各商品の通関業務等を委任されていた三洋運輸株式会社にも開示されていたが,同社は,通関業法19条の守秘義務を負う通関業者である。また,原告は,仕入先である大連浩達に対しても,本件価格情報を他に開示することを許していなかった。 (被告らの主張)以下のとおり,本件価格情報が秘密として管理されていたということはできない。 (1) 本件価格情報は,被告Aの個人的なメールアカウントと原告のメールアカウントとの間でやりとりされていたが,メールで受送信した本件価格情報に は何らのアクセス制限措置は講じられておらず,原告は,これを他の雑多なメールと渾然一体にサーバに保管していたと思われる。 また,原告は,被告Aの退職時に,本件価格情報が含まれたメールの削除を求めておらず,被告Aの退職後においても,同情報が利用されないような措置を講じなかった。 本件価格情報が原告代表者と被告Aとの間でのみ共有されていたとしても,それは,それ以外に原告の業務に従事する従業員がいなかった結果にすぎない。 (2) 原告は,前記前提事実(3)の雇用契約等における秘密保持義務の存在を指摘するが,それらは契約期間内の守秘義務を合意したものにすぎない。契約 従事する従業員がいなかった結果にすぎない。 (2) 原告は,前記前提事実(3)の雇用契約等における秘密保持義務の存在を指摘するが,それらは契約期間内の守秘義務を合意したものにすぎない。契約 期間終了後においても同様の秘密保持義務を課すのであれば,その旨が同契約等に明記されていてしかるべきであるが,そのような定めは存在しない。 (3) 本件価格情報は,三洋運輸株式会社や大連浩達にも知られているはずの情報であるが,原告がこれらの会社と秘密保持の合意をしていたことを示す証拠は提出されていない。 2 争点2(本件価格情報の有用性)について (原告の主張)以下のとおり,本件価格情報は有用性の要件を充足する。 (1) 本件各商品の仕入価格は本件価格情報を基礎に決定されるから,本件価格情報がなければ仕入れの交渉を行うことも実質的に不可能である。仮に,それが可能であったとしても,仕入価格は相手方の要求額を基礎に決定される こととなり,競争性を有しない金額となることが確実である。 (2) 本件価格情報は,過去の情報ではあるが,現時点での製造原価の妥当性を検証するために必要不可欠である。鼎祥五金は,原告が独自に人脈によって開拓した中国の会社であるため,第三者が本件各商品の製造コストなどに係る情報を入手することは不可能である。 (3) このように,本件価格情報は,中間業者たる原告の優位性・競争力の根幹となるものであり,その利益の多寡を決する重要な要因であって,原告の事業活動に必要不可欠なものである。 (被告らの主張)以下のとおり,本件価格情報は有用性の要件を充足しない。 (1) 本件各商品の仕入価格は,原材料や人件費等の製造原価の変動,経済事情の変動,需給バランス,取引の規模など,様々な要 の主張)以下のとおり,本件価格情報は有用性の要件を充足しない。 (1) 本件各商品の仕入価格は,原材料や人件費等の製造原価の変動,経済事情の変動,需給バランス,取引の規模など,様々な要因に基づき合意されるものである。本件価格情報は,過去の取引の事例情報の一部にすぎず,これを知らないと本件各商品の仕入れができないというものではなく,これを知っているからといって,有利な仕入価格の合意に至ることができるものでもな い。 (2) 実際,被告会社は,大連浩達との間で過去の取引価格に基づいて交渉をしていたものではなく,まずは注文する製品等を同社に伝えて見積りを依頼し,同社が上記の諸要因を考慮して提示した見積額を検討の上,金額の修正要望があれば同社と交渉し,最終的に合意可能な価格で仕入れをしている。製品 の製造原価は,取引の時点に応じて異なるので,過去の取引事例は本件各商 品の価格交渉において有用ではない。 3 争点3(本件価格情報の非公知性)について(原告の主張)本件価格情報は,他に知られておらず,非公知性の要件を充足する。原告は,大連浩達に対しても,本件価格情報を第三者に開示することを許しておらず, 通関業者である三洋運輸株式会社も,守秘義務を負っている。 (被告らの主張)本件価格情報は,第三者たる三洋運輸株式会社の関係者にも知られていたから非公知性の要件を充足しない。 4 争点4(本件価格情報に係る不正競争行為の有無)について (原告の主張)(1) 被告Aは,原告の営業秘密である本件価格情報を不正の手段により取得・開示し(不競法2条1項4号),又は,図利加害目的をもって,原告から示されていた同情報を被告会社に開示した(同項7号)。 また,被告会社は,被告Aの不正取得行為を知って又 報を不正の手段により取得・開示し(不競法2条1項4号),又は,図利加害目的をもって,原告から示されていた同情報を被告会社に開示した(同項7号)。 また,被告会社は,被告Aの不正取得行為を知って又は重大な過失により 知らないで同情報を取得,使用し(同項5号),又は,被告Aの不正開示行為を知って又は重大な過失により知らないで同情報を取得,使用した(同項8号)。 (2) 被告らは,被告Aが本件価格情報を被告会社に開示及び使用したことを否認するが,被告会社が原告との取引を平成30年7月に停止したにもかかわ らず,その後も大連浩達から仕入れをすることが可能だったのは,被告Aが被告会社に就職後,本件価格情報を用い,鼎祥五金に接触したからであると考えられる。 (3) 被告Aは,本件価格情報を被告会社に開示すれば,被告会社が原告との取引を停止し原告に損害が発生することや,被告会社において好待遇を受ける ことができることを認識していたのであるから,図利加害目的を有していた。 一方,被告会社は,被告Aを雇用することにより,本件価格情報を利用し,原告を介さずに本件各商品を安価に仕入れることが可能になるのであるから,被告Aによる本件価格情報の不正取得・開示行為を認識しており,仮にこれを認識していなかったとしても,重大な過失があったということができる。 (被告らの主張) (1) 被告Aは,本件価格情報を被告会社に開示したことはなく,被告Aが,本件価格情報を被告会社に開示していない以上,被告会社が,これを取得し,使用したこともあり得ない。また,被告Aが図利加害目的を有していたとの原告主張も否認する。 (2) 原告は,本件価格情報を使用することなく本件各商品を仕入れることはで きないと考えているようであるが,前記2 り得ない。また,被告Aが図利加害目的を有していたとの原告主張も否認する。 (2) 原告は,本件価格情報を使用することなく本件各商品を仕入れることはで きないと考えているようであるが,前記2(被告らの主張)のとおり,被告会社が本件各商品を仕入れるに際し,過去の特定の取引事例である本件価格情報は必要不可欠ではないので,これを被告会社に開示する必要も,同社において使用する必要もない。 (3) また,原告は,本件価格情報を取得するために被告Aを入社させた旨の主 張をするが,被告会社が被告Aの就職を受け入れたのは,被告Aが収入を得る道を探していたからであり,被告Aを原告から引き抜いたことはなく,原告と山栄工業との本件業務委託契約を終了させたこともない。大連浩達との取引知識や経験を有する被告Aや山栄工業との関係を断ち切ったのはほかならぬ原告自身である。 5 争点5(被告らの行為の一般不法行為該当性)について(原告の主張)(1) 被告らは,本件価格情報を使用していないとしても,被告Aが原告在職中に獲得した知識を利用し,大連浩達と直接取引を行うことにより,原告と被告会社間の取引関係を消滅させ,原告の事業継続を不可能にさせて原告を廃 業に追い込んだものであり,かかる行為は,著しく信義を欠き,自由競争と して許される範囲を逸脱するものとして共同不法行為に該当する。 (2) 被告会社は原告にとって最大の取引先であるところ,被告Aは,原告側の責任者として,大連浩達や鼎祥五金との間で,本件各商品の仕様や価格等を交渉していた者であり,原告に対し,原告の業務上の秘密を第三者に漏洩等しないことを約していた。 (3) 被告会社は,被告Aを雇用する以前から同被告の立場や担当業務を知っており,同被告を雇用し,大連浩達や 者であり,原告に対し,原告の業務上の秘密を第三者に漏洩等しないことを約していた。 (3) 被告会社は,被告Aを雇用する以前から同被告の立場や担当業務を知っており,同被告を雇用し,大連浩達や鼎祥五金から本件各商品を直接仕入れれば,仕入れのコストを削減し,利益を増大し得ることを認識していた。他方,被告Aは,被告会社で本件各商品の仕入業務に従事することになれば,従前よりも安定的な好条件で採用されることを認識していた。 (4) また,被告Aは,当時の原告が廃業又は倒産の見込まれるような経営状況にあることを理解し,被告会社は,自らが原告の最大の取引先であることを認識していた。被告らは,被告会社が原告との取引を終了し,原告を介さずに本件各商品を仕入れることにより,原告を倒産又は廃業に追い込み,大連浩達との取引を独占することを企図していたものである。 (5) そして,原告は,被告会社が被告Aを雇用し原告を介さない仕入れを始めたことにより,実際に廃業に追い込まれた。原告は,被告会社が原告との取引を終了したこと自体が違法と主張するものではないが,上記の事情に照らすと,被告らが原告との取引を終了し,原告を廃業に至らしめた行為は不法行為に該当する。 (被告らの主張)(1) 原告は,被告Aが原告の責任者としての立場で大連浩達との交渉を行っていたと主張するが,被告Aは原告の従業員又は受託者として大連浩達との取引に従事していたにすぎず,被告Aがいなければ大連浩達との取引ができないということはなかった。仮にそうであれば,原告が被告Aとの雇用契約又 は山栄工業との本件業務委託契約を終了させるはずはない。原告が同各契約 を終了させたことは,被告Aが大連浩達との取引に必要不可欠であるとは考えていなかったことを 告Aとの雇用契約又 は山栄工業との本件業務委託契約を終了させるはずはない。原告が同各契約 を終了させたことは,被告Aが大連浩達との取引に必要不可欠であるとは考えていなかったことを示している。 (2) 被告らは,原告の大連浩達等に対する営業活動や自由競争を妨害したことはない。 そもそも,大連浩達は,原告を介して本件各商品を販売するか,原告以外 の業者を介して販売するかを自由に選択できる立場にある。仮に,被告会社が大連浩達との直接取引を望んでも,大連浩達と原告との取引関係が安定していれば,大連浩達が長年慣れ親しんだ原告との取引を継続する可能性は高く,実務担当者が変更になったからといって,企業間取引が終了することは通常はあり得ない。 しかるに,大連浩達が被告会社との直接取引に応じたのは,原告が,大連浩達からの仕入れを担当していた被告Aとの雇用を終了させ,その後,同被告が取締役を務める山栄工業との間の本件業務委託契約を終了させるなどして,大連浩達との取引体制を自ら変更させ,同社との取引関係を安定,維持するための努力を十分に行わなかったからである。すなわち,原告は,自ら の意思で事業継続を断念するような行為に及んだのである。 (3) 被告会社は,大連浩達や鼎祥五金との直接取引によって,原告の事業継続が不可能になるとは認識していなかった。原告が廃業したことが事実であるとしても,それは従前から蓄積された原告の負債,経営判断など,原告自身の事情に基づくものであり,被告会社が原告との取引を終了し,大連浩達と 取引をしたこととは無関係である。実際のところ,原告は,被告会社との取引の終了に際し,原告を通じて大連浩達から特注台車等を仕入れるメリットを強調するなどして,従前どおりの販売ルートを死守するための企業努 をしたこととは無関係である。実際のところ,原告は,被告会社との取引の終了に際し,原告を通じて大連浩達から特注台車等を仕入れるメリットを強調するなどして,従前どおりの販売ルートを死守するための企業努力を一切行っていない。 (4) 被告会社が被告Aを雇用した経緯は,前記4(被告らの主張)(3)のとお りであり,被告Aを原告から引き抜いたことはなく,原告と山栄工業との間 の本件業務委託契約を終了させたこともない。大連浩達や鼎祥五金が被告会社と直接的な取引をするかどうかは同各社の経営判断にかかっており,被告会社には,被告Aを雇用することにより仕入れコストを削減し得るとの認識はなかった。また,被告Aにしても,被告会社に雇用されることによって好待遇を得られるとの認識はなかった。 6 争点6(原告に生じた損害)について(原告の主張)被告の行為によって,原告は被告との取引を終了させられ,本件各商品の取引にかかる利益を失った。原告と被告会社との間には10年にも及ぶ取引が継続しており,東京オリンピックや大阪万博の開催も考慮すると,本件各商品に ついては,少なくとも2年間の需要があったということができる。本件各商品に係る平均利益額は5376万7285円(甲4,10)であるので,逸失利益は,その2年分である1億0753万4570円となる。 本件における弁護士費用相当損害金は1000万円と認められるところ,原告は,被告らに対し,逸失利益及び弁護士費用相当損害金の一部である1億1 600万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める。 (被告らの主張)原告の主張は,因果関係も含め,否認し又は争う。原告が主張する損害額の根拠となる書証は不十分であり,粗利を基準とする算定方法は不当である。また,逸失利益の対象期間 払を求める。 (被告らの主張)原告の主張は,因果関係も含め,否認し又は争う。原告が主張する損害額の根拠となる書証は不十分であり,粗利を基準とする算定方法は不当である。また,逸失利益の対象期間を2年間とする根拠は何ら存在しない。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 原告の規模,売上高等 原告は,平成18年12月に設立され,平成29年11月期の売上高は約 2億7900万円であった。原告において,実際の業務に従事していたのは,原告代表者,被告Aほか1名であった。 原告は,被告会社から特注台車等の注文を受け,これを大連浩達から仕入れて納入していた。原告は,被告会社と平成20年4月頃から取引を開始し,平成30年11月期のおける原告の売上高のうち,被告会社に対する取引は 約68.0%を占めていた。(甲1,3,4,18,原告代表者4~5頁)(2) 被告Aの担当業務,仕入価格の決定の仕組みなど被告Aは,原告に在籍していた当時,一年のうちほとんどを中国に滞在するなどして,特注台車等の仕入れ,品質管理,納期管理,クレーム対応などの業務に従事していた。 被告Aが原告に在籍していた当時,原告が大連浩達から特注台車等を仕入れる際の仕入価格は,まず同被告がその注文内容を大連浩達に伝え,同社が材料費,製造費などの原価に基づき注文商品の見積価格を同被告に提示し,必要に応じて価格交渉等が行われた後に合意されるとのプロセスで決定されていた。 大連浩達からのインボイスは,被告A個人のメールアドレス宛てに送付され,同被告がメールで原告代表者や通関業者に送付するなどしていた。これらのメールの送受信が被告A個人のメ 定されていた。 大連浩達からのインボイスは,被告A個人のメールアドレス宛てに送付され,同被告がメールで原告代表者や通関業者に送付するなどしていた。これらのメールの送受信が被告A個人のメールアドレスを使用して行われていることは,原告代表者もこれを認識し,容認していた。(甲9,18,乙1,原告代表者1・2・18・27頁,被告A1~3・5~7・9~12頁) (3) 本件業務委託契約の締結原告代表者は,平成29年頃,被告Aに対し,原告が倒産する可能性があるなどと伝え,山栄工業を原告の事業の受皿会社とすることを提案した。被告Aは,これに応じ,平成29年3月31日付けで原告を退職し,山栄工業の取締役に就任した。 その後,原告と山栄工業は,原告が事業を継続することを前提として,特 注台車等の仕入業務等を山栄工業に委託する旨の本件業務委託契約を締結し,原告は,山栄工業に対し,特注台車等の販売価格の3%の手数料及び中国国内における旅費交通費を支払う旨約した。被告Aの実質的な業務内容は,本件業務委託契約後も変わらなかった。(甲6,7,18,乙1,原告代表者16頁,被告A3~5頁) (4) 本件業務委託契約の終了被告Aは,その後,本件業務委託契約を更新しないこととし,その旨を原告代表者に伝え,同契約は平成30年3月31日をもって終了した。 被告Aが原告を退職した時及び本件業務委託契約の終了時,原告代表者が被告Aに対して本件価格情報を含むメールを削除することや被告会社に転職 しないことを求めたことはなかった。(甲18,乙1,原告代表者10・11・19頁,被告A5頁)(5) 本件業務委託契約後の原告の状況等原告は,本件業務委託契約が終了した後,大連浩達との取引は継続したものの,被告Aに代わる担 。(甲18,乙1,原告代表者10・11・19頁,被告A5頁)(5) 本件業務委託契約後の原告の状況等原告は,本件業務委託契約が終了した後,大連浩達との取引は継続したものの,被告Aに代わる担当者を中国に駐在させることはなく,大連浩達自身 に品質管理や不良品への対応を委ねることとした。(原告代表者17・18頁)(6) 被告Aが被告会社に入社した経緯等被告Aは,本件業務委託契約の終了後,被告会社代表者に対し,原告との関係を解消したことを報告した。これを受けて,被告会社代表者は,被告A に対し,被告会社に就職することを勧誘し,同被告は,平成30年7月頃,被告会社代表者の誘いに応じて同社に就職することを決意し,同年8月8日付けで就職した。被告代表者は,その頃,原告代表者に対し,被告Aを採用する旨の連絡をしたが,このことについて原告代表者が異議を述べることはなかった。(乙1,2,原告代表者11~12頁,被告A16~17頁,被 告会社代表者1~4頁) (7) 被告会社と大連浩達との取引の開始等被告会社は,平成30年7月の注文を最後に原告との取引を止め,本件各商品を大連浩達から直接仕入れるようになった。これに対し,原告代表者が,被告らに対し,大連浩達との直接取引を中止し,原告との取引を継続するように求めたことはない。 被告Aは,現在,被告会社において,新規の営業回りのほか,大連浩達との取引の担当者として,検品作業や価格交渉などにも従事している。(原告代表者15頁,被告A7~8頁,被告代表者4~6・11・12頁)(8) 原告による休業届の提出等原告は,令和元年6月19日,休業の届出をしたが,原告代表者は,現在, 自らが商号を定めた株式会社BYSにおいて,原告と同様の事業に関与している 12頁)(8) 原告による休業届の提出等原告は,令和元年6月19日,休業の届出をしたが,原告代表者は,現在, 自らが商号を定めた株式会社BYSにおいて,原告と同様の事業に関与している。(甲17,原告代表者20・22・28頁) 2 争点1(本件価格情報の秘密管理性)について(1) 原告は,本件価格情報は,原告代表者と被告Aとの間でメールを通じてやりとりされていたものであり,他の従業員はこれにアクセスする権限を有し ていなかったのであるから,同情報は秘密として管理されていたと主張する。 しかし,本件価格情報にアクセスしていたのが原告代表者と被告Aのみであったとの事実は,他の従業員が本件顧客情報にアクセスする機会や必要性がなかったことを意味するにすぎず,そのことをもって,原告において本件価格情報が秘密として管理されたと評価することはできない。 また,前記1(2)のとおり,本件価格情報の含まれる大連浩達からのインボイス等は,被告A個人のメールアドレス宛てに送付され,同被告の個人用のパソコンなどに他のメールと混然一体のものとして保管されていたものと認められるところ,本件価格情報が被告Aの私的なメールと分別され,これにアクセス制限がかけられていたと認めるに足りる証拠はない。 さらに,被告Aから原告代表者に送付されたメールは,パスワードの設定 された原告代表者のパソコン内に保存されていたものと考えられるが,業務に使用するパソコンにログイン用のパスワードを設定するのは,パソコンを操作する際の通常の手順にすぎず,そのことをもって,パソコン内の全情報が秘密管理されていたということはできない。 (2) 原告は,被告Aとの雇用契約や本件業務委託契約には秘密保持条項が置か れていたのであるから,本件顧客情 ,そのことをもって,パソコン内の全情報が秘密管理されていたということはできない。 (2) 原告は,被告Aとの雇用契約や本件業務委託契約には秘密保持条項が置か れていたのであるから,本件顧客情報が秘密保持義務の対象に当たることは客観的に認識可能であったと主張する。 しかし,原告と被告Aとの間の雇用契約及び本件業務委託契約における秘密保持義務条項においては,秘密保持の対象となる「業務上の原告の秘密」は具体的に特定されておらず,原告代表者が被告Aに本件顧客情報が同契約 の定める秘密保持義務の対象となる旨を告知したことなどを示す証拠も存在しない。 かえって,前記1(4)のとおり,被告Aが原告を退職した時及び本件業務委託契約の終了時,原告代表者が被告Aに対して本件価格情報を含むメールの削除を求めたことはないものと認められ,これによれば,原告において, 本件顧客情報が秘密であると認識されていたということはできない。 (3) 以上のとおり,本件価格情報が,「秘密として管理」(不競法2条6項)されていたという認めることはできない。 したがって,本件顧客情報が不競法上の「営業秘密」に当たるということはできない。 3 争点4(本件価格情報に係る不正競争行為の有無)について(1) 原告は,本件価格情報は被告会社が大連浩達から本件各商品を仕入れる上で不可欠であるので,被告会社が原告との取引を終了した後においても大連浩達から仕入れをすることができるのは,本件価格情報を使用しているからにほかならないと主張する。 しかし,本件において,被告Aが被告会社に本件価格情報を開示し,被告 会社において大連浩達との取引に当たり同情報を使用したことを具体的に示す証拠は何ら存在しない。 また,前記1(2)のとおり,原告が大 おいて,被告Aが被告会社に本件価格情報を開示し,被告 会社において大連浩達との取引に当たり同情報を使用したことを具体的に示す証拠は何ら存在しない。 また,前記1(2)のとおり,原告が大連浩達から特注台車等を仕入れる際の仕入価格は,まず被告Aがその注文内容を大連浩達に伝え,同社が材料費,製造費などの原価に基づき注文商品の見積価格を同被告に提示し,必要に応 じて価格交渉等が行われた後に合意されるとのプロセスで決定されていたものと認められるところ,被告会社も同様の方法により大連浩達から見積りを得ていたものと推認するのが相当である。この場合,被告会社としては,大連浩達からその見積額算定の根拠について説明を受けた上で,原材料の価格相場や為替相場,従来の原告からの仕入価格,自らの販売価格に照らして見 込まれる利益額等も考慮し,必要に応じて大連浩達と値引き交渉を行うなどして仕入価格を決定することが可能であり,その際に,過去の仕入価格の実例である本件価格情報が不可欠であり,これがないと競争上の不利益を受けるということはできない。 原告は,本件価格情報の有用性を強調するが,過去の取引事例に関する情 報が一定の有用性を有するとしても,上記のとおり,被告会社は自らの知識・経験に基づいて大連浩達との取引を行うことはできたものというべきであり,本件価格情報の有用性を理由として,被告Aが被告会社に本件価格情報を開示し,同社が本件価格情報を使用したとの事実を推認することはできない。また,被告Aが本件価格情報を被告会社に入社した後にも削除してい なかったとしても,そのことから,被告Aが本件価格情報を被告会社に開示し,または自ら使用したとの事実が推認されるものではない。 (2) 原告は,被告会社が被告Aを雇用したのは,本件価格情報 なかったとしても,そのことから,被告Aが本件価格情報を被告会社に開示し,または自ら使用したとの事実が推認されるものではない。 (2) 原告は,被告会社が被告Aを雇用したのは,本件価格情報を使用し,大連浩達と直接取引をするためであり,実際に,被告Aが被告会社に入社した後,同社は大連浩達との直接取引を開始し,被告Aは大連浩達との仕入れに従事 していると主張する。 しかし,大連浩達と取引を行う上で本件価格情報が必要不可欠であるということができず,被告会社又は被告Aが同情報を使用したことを具体的に示す証拠は存在しないことは前記判示のとおりであり,単に,被告会社が大連浩達との直接取引を開始し,被告Aがその仕入業務を担当しているとの事実から,被告会社又は被告Aが本件顧客情報を使用していると推認することは できない。 (3) 以上のとおり,被告らが大連浩達との取引において本件価格情報を使用したと認めることはできず,この観点からも,原告が主張する不正競争行為の存在を認めることはできない。 4 争点5(被告らの行為の一般不法行為該当性) 原告は,被告らは,被告Aが原告在職中に獲得した知識を利用し,大連浩達と直接取引を行うことにより,原告と被告会社間の取引関係を消滅させ,原告の事業継続を不可能にさせて原告を廃業に追い込んだものであり,かかる行為は,著しく信義を欠き,自由競争として許される範囲を逸脱すると主張する。 (1) そこで検討するに,前記1(1)のとおり,原告と被告会社は,平成30年 7月に被告会社が原告に対する発注を中止するまでの間,約10年間にわたり特注台車等の取引を継続し,同年11月期のおける原告の売上高のうち,被告会社との取引が占める割合は7割に近かったものと認められる。 しかし,原告と に対する発注を中止するまでの間,約10年間にわたり特注台車等の取引を継続し,同年11月期のおける原告の売上高のうち,被告会社との取引が占める割合は7割に近かったものと認められる。 しかし,原告と被告会社との間の取引は,一定の取引条件を定めた継続的な取引契約に基づくものではなく,被告会社が需要に応じ原告に対して商品 を個別に発注するという取引形態であるところ,被告会社がいずれの会社にどの程度の量の商品を発注するかは,販売利益の確保,品質の維持・向上,需要者のニーズなどを考慮しつつ,同社が自由に決定することができるのが原則であり,被告会社が原告との取引を中止したとしても,それが不法行為を構成するのは,当該取引の中止が,取引上の信義を著しく欠き,自由競争 として許される範囲を逸脱している場合に限られるというべきである。 (2) 原告は,被告会社が,被告Aを雇用し,その知識及び経験を利用して,大連浩達と直接取引を行うことにより,原告の事業継続を不可能にさせて原告を廃業に追い込んだものであり,被告らの行為は取引上の信義を著しく欠き,自由競争として許される範囲を逸脱していると主張する。 アしかし,被告Aが原告を退職した経緯は,前記1(3)のとおり,原告代 表者が,被告Aに対し,山栄工業を原告の事業の受け皿とし,その取締役に就任することを勧めたことによるものであり,また,本件業務委託契約の終了についても,原告代表者は特に異議を唱えることはなかったのであって,被告会社が被告Aを違法に引き抜いたなどの事情も認められない。 そして,被告会社が被告Aに就職の勧誘をしたのは,前記1(6)のとおり, 本件業務委託契約の終了後であり,原告代表者は被告代表者から被告Aを雇用することを伝えられたのに対し,異議を述べていない。 ,被告会社が被告Aに就職の勧誘をしたのは,前記1(6)のとおり, 本件業務委託契約の終了後であり,原告代表者は被告代表者から被告Aを雇用することを伝えられたのに対し,異議を述べていない。 そうすると,被告Aが被告会社に入社した経緯について違法又は不当な点は認められないというべきであり,同社が大連浩達との取引に当たり被告Aの知識・経験を活用したとしても,取引上の信義則に反するというこ とはできない。 イ次に,被告会社が大連浩達と直接取引を行うに至ったことについてみても,被告会社が大連浩達に対して原告と取引を中止するように不当な働きかけを行ったことをうかがわせる証拠は存在しない。 また,原告は,前記1(5)のとおり,本件業務委託契約の終了後,被告 Aに代わる担当者を置かず,価格交渉,品質管理,クレーム対応等のサービスの提供を中止しており,被告会社が大連浩達との直接取引を開始したことを認識した後においても,同各社に対して新たな取引条件を提示するなど,取引を継続するために必要な努力を払ったと認めるに足りる証拠はない。 そうすると,被告会社が大連浩達と直接取引を行うようになったことに ついても,それが取引上の信義則に反し,あるいは自由競争として許される範囲を逸脱しているということはできない。 ウ原告は,被告らが原告の事業継続を不可能にさせて原告を廃業に追い込むことを企図していたと主張するが,被告らが本件価格情報を使用しているとは認められないことは前記判示のとおりであり,これに加えて,被告 Aが被告会社に入社した経緯,被告会社が大連浩達との取引を開始した経緯等に照らしても,被告らが原告を廃業に追い込むなどの意図を有していたとは認めがたく,他に原告がそのような意図を有していたことをうかがわせる事 に入社した経緯,被告会社が大連浩達との取引を開始した経緯等に照らしても,被告らが原告を廃業に追い込むなどの意図を有していたとは認めがたく,他に原告がそのような意図を有していたことをうかがわせる事情は存在しない。 エ以上によれば,本件における被告らの行為が,取引上の信義則に反し, あるいは自由競争として許される範囲を逸脱しているということはできない。 (3) したがって,被告らに一般不法行為が成立するということはできず,この点に係る原告の主張も理由がない。 5 結論 よって,原告の請求は,その余の点を検討するまでもなく,いずれも理由がないので,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部裁判長裁判官 佐藤達文裁判官 三井大有裁判官 𠮷野俊太郎 (別紙) 営業秘密目録(省略)

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