平成22(ワ)6906 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年7月17日 横浜地方裁判所
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判決文本文15,167 文字)

- 1 -平成24年7月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年第6906号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成24年4月17日判決(当事者の表示省略)主文1被告は,原告Bに対し,109万2290円及びうち103万2000円に対する平成22年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Cに対し,78万9073円及びうち72万7000円に対する平成22年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Fに対し,104万8958円及びうち98万4000円に対する平成22年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Dに対し,77万5974円及びうち71万1000円に対する平成22年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Eに対し,95万4147円及びうち90万6303円に対する平成20年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告Aの請求及び原告A以外の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告Aに生じた費用のすべてと被告に生じた費用の6分の- 2 -1を原告Aの負担とし,原告A以外の原告らに生じた各費用の5分の4と被告に生じた費用の3分の2を被告の負担とし,その余を原告A以外の原告らの負担とする。 この判決は,第1項~に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求被告は,原告Aに対し,158万5345円及びうち149万4839円に対する平成22年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,116万8215円及びうち113万9782円に対する平成22年2月2日から支払 万4839円に対する平成22年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,116万8215円及びうち113万9782円に対する平成22年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Cに対し,85万2498円及びうち77万8589円に対する平成22年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Fに対し,135万7590円及びうち128万3021円に対する平成22年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Dに対し,105万3841円及びうち94万6000円に対する平成22年2月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Eに対し,126万3507円及びうち118万1303円に対する平成20年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,株式会社武富士(以下「武富士」という。)との間で金銭消費貸借- 3 -取引をしていた原告らが,武富士の代表取締役であった被告に対して,不法行為又は会社法429条1項(会社法施行前の被告の行為については,平成17年法律第87号による改正前の商法[以下「旧商法」という。]266条の3第1項)に基づき,損害賠償と遅延損害金を請求する事案である。 前提事実(当事者間に争いのない事実及び掲記証拠と弁論の全趣旨により認められる事実)原告らは,貸金業者である武富士との間で,別紙1~6の「年月日」の年月日に,「借入金額」の金額を借り入れ,「弁済額」の金額を弁済した(以下「本件取引」という。甲1~6)。原告らと武富士との間の取引は,基本契約に基づく取引であった。 本件取引の約定利率は,利息制限法の制限利率を超 金額」の金額を借り入れ,「弁済額」の金額を弁済した(以下「本件取引」という。甲1~6)。原告らと武富士との間の取引は,基本契約に基づく取引であった。 本件取引の約定利率は,利息制限法の制限利率を超過していた。 被告は,平成16年6月29日から平成22年5月17日までの間,武富士の代表取締役であった。 最高裁判所は,平成18年1月13日,債務者が利息制限法の制限利率を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)の下での同約定利息の支払につき,「本件期限の利益喪失特約…の特約の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。」として,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,任意の支払とは認められず,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下「貸金業法」という。)43条1項は適用されないとの判決を言い渡した(最高裁平成16年第1518号同18年1月1- 4 -3日第二小法廷判決・民集60巻1号1頁。以下「平成18年判決」という。)また,平成18年判決は,貸金業の規制等に関する法律施行規則(平成18年内閣令第39号による改正前のもの。以下「貸金業法施行規則」という。)15条2項の規定のうち,貸金業者が弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,貸金業法18条1項1号から3号までに 正前のもの。以下「貸金業法施行規則」という。)15条2項の規定のうち,貸金業者が弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,貸金業法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,同法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効であるとした。 最高裁判所は,平成21年9月4日,貸金業者が,借主に対し貸金の支払を請求し,借主から弁済を受ける行為それ自体は,当該貸金債権が存在しないと事後的に判断されたことや,長期間にわたり制限超過部分を含む弁済を受けたことにより結果的に過払金が多額となったことのみをもって直ちに不法行為を構成するということはできないが,上記請求ないし受領が暴行,脅迫等を伴うものであったり,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合には不法行為を構成するとの判決を言い渡した(最高裁平成21年第47号同年9月4日第二小法廷判決・民集63巻7号1445頁。以下「平成21年判決」という。)。 武富士は,平成22年10月31日,更生手続開始の決定を受けた(甲7)。 争点 被告に不法行為が成立するか,会社法429条1項及び旧商法266条の3第1項の責任を負うか。 負うとした場合に原告らの損害額はいくらか。 当事者双方の主張争点(原告らの主張)- 5 -ア不法行為責任平成18年判決により,みなし弁済が成立しないことが確定し,武富士の原告らに対する貸金債権が存在しないことが明らかとなった。 平成21年判決における,貸金の請求・弁済の受領が事実的・法律的根拠を欠く場 成18年判決により,みなし弁済が成立しないことが確定し,武富士の原告らに対する貸金債権が存在しないことが明らかとなった。 平成21年判決における,貸金の請求・弁済の受領が事実的・法律的根拠を欠く場合には,みなし弁済が成立しない場合も含まれるところ,被告は,平成18年判決以後,みなし弁済が成立しないことを認識していた。 また,被告は,武富士の代表取締役であり,顧客に対して法律上根拠のない請求をしないよう,貸金残高が存在するかどうかを確認するため,引直計算を行う義務を負っていたというべきである。単一の基本契約に基づく取引や,取引の分断がない取引など,判断が難しい法的論点がない取引(原告らの取引はそのような取引である。)についての引直計算は困難ではない。にもかかわらず,被告は,引直計算を行わなかった。 したがって,被告は,事実的,法律的根拠を欠くことを認識しながら,又は容易にそのことを知り得たにもかかわらず,あえて貸金を請求し,弁済を受領しており,不法行為責任を負う。 イ会社法429条1項及び旧商法266条の3第1項の責任被告は,武富士の取締役として,利息制限法を含む法令の遵守義務を負うところ,平成18年判決により,みなし弁済が成立しなくなったことが明らかになった以上,その判断に従う義務がある。したがって,同法によれば債権が存在しないものについて,債権があるかのごとく請求をする行為は利息制限法に反する任務懈怠行為といえる。 武富士は,平成18年判決当時,債務超過の状態であったところ,平成18年判決によって,過払金の請求を受けた場合はみなし弁済の成立が著しく困難であることを認識していた。そうすると,武富士の取締役であった被告は,武富士のリスクとして潜在的な過払金債権者がどの程度存在するのかなどを把握するため,引直計算を行わせる義務を負っていた 著しく困難であることを認識していた。そうすると,武富士の取締役であった被告は,武富士のリスクとして潜在的な過払金債権者がどの程度存在するのかなどを把握するため,引直計算を行わせる義務を負っていた。また,- 6 -被告は,資金援助の段取りをしたり,配当を減らすべき義務を負っていた。 しかし,被告は,これらの義務を怠り,返済の目途がないままに顧客から弁済金を受領した。 以上から,被告には,任務懈怠について悪意又は重過失があるといえ,会社法429条1項及び旧商法266条の3第1項の責任を負う。 (被告の主張)下記の事情に照らすと,平成21年判決の要件を満たさないから,被告に不法行為は成立せず,また,被告に職務を行うことについて悪意又は重過失があったとはいえないから,会社法429条1項や旧商法266条の3第1項の責任も負わないア平成18年判決後も,みなし弁済の規定は存在した上,その要件の解釈をめぐり,見解が分かれる状況が継続していた。また,平成18年判決によっても,特段の事情があるときはみなし弁済が成立するところ,武富士の顧客の中にも,約定元本及び制限利息さえ支払っていれば期限の利益を喪失しないことを知っているなど,特段の事情のある者が存在する可能性があった。さらに,同顧客との取引の中には分断が問題となるものもあり,そこには高度な法的判断が求められる。そうすると,原告らから弁済を受けている時点では,債務が消滅しているかは不明であり,武富士の貸金の請求が事実的・法律的根拠を欠くものとはいえない。 貸金業者の監督官庁である金融庁は,平成18年判決後も,みなし弁済の成立が排除されていないことを前提にその考え方を示していた。 武富士は,平成18年判決及び貸金業法施行規則の改正を受け,平成18年2月16日に社内プロジェクトを立ち上げ,複数の弁護士 も,みなし弁済の成立が排除されていないことを前提にその考え方を示していた。 武富士は,平成18年判決及び貸金業法施行規則の改正を受け,平成18年2月16日に社内プロジェクトを立ち上げ,複数の弁護士から意見を聴取し,金融庁の担当官等から意見を聴取した。そして,これらを踏まえ,平成18年判決や貸金業法施行規則の改正等への対応について,教育資料を作成し,従業員に交付して,武富士の社員に周知徹底を図るとともに,- 7 -期限の利益喪失約款を変更し,遅延損害金条項を削除するなど,みなし弁済の適用に関する書面の改訂作業を行ってきた。 以上のように,武富士及び被告は,平成18年判決及び貸金業法施行規則の改正等を受け,適切な対応を迅速に行っていた。 イ日本全国に多数存在し,取引内容が異なる顧客につき全て引直計算をし,幾度となく改訂され全顧客同一の形式・内容にはなっていない個別の取引において,それぞれの具体的事情を考慮し,平成18年判決の特段の事情が存在するか否かを調査することは著しく困難である。そのような調査までしなければ不法行為が成立するとは解されない。また,引直計算に当たっては,取引の分断等の多様な法的論点について判断する必要があるところ,これらの論点に対する判断は流動的であり,個別性が強く,最高裁判例が出されていても事案への適用に当たっては高度の法的判断を要するものであった。以上のことに照らすと,引直計算を行う義務はない。 ウ武富士は,平成18年判決及び貸金業法施行規則の改正を受け,平成18年2月16日に社内プロジェクトを立ち上げ,期限の利益喪失約款を変更し,遅延損害金条項を削除するなど,みなし弁済の適用に関する書面の改訂作業を行い,適切な対応をとるなど営業努力を行ってきた。 争点(原告らの主張)被告の不法行為により,武富士は,平 款を変更し,遅延損害金条項を削除するなど,みなし弁済の適用に関する書面の改訂作業を行い,適切な対応をとるなど営業努力を行ってきた。 争点(原告らの主張)被告の不法行為により,武富士は,平成18年判決後も,存在しない債権を原告らに請求し続け,原告らがこれを支払った。引直計算に必要な期間を考慮しても,平成18年2月以降に原告らが支払った金銭は損害となるべきである(具体的な損害額は,別紙7~11[ただし,原告Cについては,別紙3]の「残元金」欄の末尾の金額のとおり)。 (被告の主張)否認する。 - 8 -第3裁判所の判断 前記前提事実に証拠(甲7~9,甲10の1,乙6,7,15~23[枝番をすべて含む])と弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 ア武富士は,昭和26年3月14日に設立され,同日以降,個人消費者に対する融資業務を行っており,業界最大手の地位にあった。 また,武富士は,平成18年判決以前において,顧客に対し,本件期限の利益喪失特約の下,利息制限法の制限利率を超える約定利率(上限金利27.375%)で金銭を貸し付けていた。 イ武富士の,平成17年4月1日~平成18年3月31日の事業年度における有価証券報告書(甲10の1)には,事業等のリスクとして,下記の趣旨の記載がある。 記武富士は,銀行振込による融資や提携ATMでの融資等をした一部の顧客に対し,貸付けに係る契約を締結した際に遅滞なく交付しなければならない貸金業法17条1項所定の書面を,即時に渡すことができていなかった。同書面の未発行が問題とされた場合,業態の変更を余儀なくされるリスクが発生し,業績に影響がある。 武富士が弁済を受けた際にATMを通じて顧客に交付していた受取証書は,貸金業法18条1項の要件を欠いていた。したがって,上記貸金業法 態の変更を余儀なくされるリスクが発生し,業績に影響がある。 武富士が弁済を受けた際にATMを通じて顧客に交付していた受取証書は,貸金業法18条1項の要件を欠いていた。したがって,上記貸金業法17条1項所定の書面の問題と同様に,業態の変更を余儀なくされるリスクが発生し,業績に影響がある。 武富士の貸出金利の利率は利息制限法所定の制限利率を超過していたところ,最高裁平成15年第386号・同年第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁及び最高裁平成14年第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁以降,みなし弁済規定を厳格に解釈する姿勢が強まり,みなし弁済の成立の- 9 -難易度が増した。加えて,平成18年判決を受け,みなし弁済の抗弁の成立は極めて困難な状態となった。 上記事業年度の過払金返還額は約187億円となった。平成18年判決の影響により,来期の事業年度においては過払金返還請求事案が増加することが予想され,業績に大きな影響を及ぼす可能性がある。 ウ被告は,平成16年6月29日から平成22年5月17日までの間,武富士の代表取締役の地位にあった。したがって,遅くとも,同有価証券報告書が関東財務局長に提出された平成18年6月30日時点では,上記イの内容を認識していた。 ア金融庁は,平成18年判決を受けて,貸金業法施行規則の改正に向けた作業を開始した。 武富士は,平成18年2月16日,金融庁が同月8日に公表した貸金業法施行規則の改正案への対応として,社内でプロジェクトを立ち上げ,同年6月9日には従業員に対する教育資料を作成・配布し,また,下記,などの対応をした。 顧客に対して交付していた「領収書兼お取引明細書」(乙18,19)の裏面に,本件期限の利益喪失特約を記載していたが, には従業員に対する教育資料を作成・配布し,また,下記,などの対応をした。 顧客に対して交付していた「領収書兼お取引明細書」(乙18,19)の裏面に,本件期限の利益喪失特約を記載していたが,同記載を削除した。 平成19年12月以降は,「領収書兼お取引明細書」(乙20,21)の裏面に,「本契約の約定に基づく返済を1回でも怠ったとき(利息制限法第1条第1項に規定する利率を超えない範囲においてのみ効力を有します。)」と記載し,遅延損害金の利率について,利息制限法1条1項に規定する利率を超えない範囲においてのみ効力を有する旨の記載を加えた。 また,同「領収書兼お取引明細書」及び「ATMお取引明細書(領収書)」(乙22,23)の裏面に,利息制限法を超える利息の支払義務- 10 -がなく,その支払は任意であると記載した。 イ他方,被告は,武富士の顧客との取引について,引直計算をする指示等をせず,武富士は,更生手続を進めるまで,引直計算をしなかった。 武富士は,平成18年判決とこれを受けた会計監査ルールの厳格化によって財務内容が急激に悪化し,平成18年12月の貸金業法の改正により営業貸付金残高(顧客に対する貸金残高)が大幅に減少することが確実となったこと,いわゆるサブプライム・ローン問題により新たな資金調達も困難となったことなどを理由として,平成22年9月28日に,東京地方裁判所に対して更生手続開始の申立てをし,同年10月31日,更生手続開始決定を受けた。 更生債権者の大部分が過払金債権者であり,その数は200万人を超えていた。また,引直計算を行った場合,約定利率下では貸付残高のある顧客が過払金債権者となる場合が相当数あることが見込まれた。 上記の更生手続においては,既に取引が終了している顧客も対象として,別口座の取引は口座ごとに 計算を行った場合,約定利率下では貸付残高のある顧客が過払金債権者となる場合が相当数あることが見込まれた。 上記の更生手続においては,既に取引が終了している顧客も対象として,別口座の取引は口座ごとに引直計算を行った上で合算し,また,取引履歴のオンライン化以前からの顧客はいわゆる推定ゼロ計算を行うなどして,いわゆる取引の分断が問題となる顧客を含めて引直計算を行った。引直計算が行われた結果,平成22年6月末日時点で約5100億円あった営業貸付金の残高は,同年10月末日時点には,約750億円にまで減少した。 争点貸金の返還請求ないし受領が暴行,脅迫等を伴うものであったり,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合には不法行為を構成する(平成21年判決)。そして,このことは,貸金業者の代表取締役についても,異なるところはないと解するのが相当で- 11 -ある。 平成21年判決は,不法行為の成立を否定したが,平成21年判決の事案は,みなし弁済の適用要件の解釈について下級審裁判例の見解が分かれ最高裁判所の判断も示されていなかった平成18年判決が出る前の貸金の請求について,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。したがって,平成18年判決が出た後の貸金の請求について不法行為に基づく損害賠償を請求する本件とは,事案を異にするのであって,平成21年判決により,本件においても直ちに不法行為が成立しないということはできず,不法行為が成立するかどうかは,平成21年判決の要件に照らし,慎重に判断する必要がある。 前記1ア,イによると,武富士と顧客との間では本件期 いても直ちに不法行為が成立しないということはできず,不法行為が成立するかどうかは,平成21年判決の要件に照らし,慎重に判断する必要がある。 前記1ア,イによると,武富士と顧客との間では本件期限の利益喪失特約が結ばれており,また,一部の顧客に対しては貸金業法17条1項所定の書面が遅滞なく交付されておらず,さらに,武富士が弁済を受領した際にATMを通じて顧客に対して交付していたとする受取証書は,貸金業法18条1項の要件を欠いていたと認められる。平成18年判決は,本件期限の利益喪失特約が結ばれていたとしても,「債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解が生じないような特段の事情」がある場合には,任意性は失われないとするが,通常,貸金取引でそのような事態を想定することは困難であり,武富士において,そのような事情が存したことの主張立証もない。また,前記1イのとおり,有価証券報告書(甲10の1)には,みなし弁済の抗弁の成立が極めて困難な状態となったこと,平成17年4月1日~平成18年3月31日の期間における過払金返還額が187億円であること,過払金返還請求事件の増加により武富士の業務に大きな影響を及ぼす可能性があることが記載されている。これらの事実に照らすと,平- 12 -成18年判決以前の武富士と多数の顧客とのほぼすべての取引について,みなし弁済が成立する可能性はほぼなかったと認められる。 そして,前記1イの有価証券報告書(甲10の1)の記載からすると,武富士は,平成18年判決により,多数存在する顧客の取引のほぼすべてについて,みなし弁済が成立する余地がほぼなくなったことを十 る。 そして,前記1イの有価証券報告書(甲10の1)の記載からすると,武富士は,平成18年判決により,多数存在する顧客の取引のほぼすべてについて,みなし弁済が成立する余地がほぼなくなったことを十分に認識していたと認められ,武富士の代表取締役であった被告も,遅くとも,上記有価証券報告書が関東財務局長に提出された平成18年6月30日の時点では,そのことを認識していたと認められる。 以上の事実に照らすと,被告は,遅くとも平成18年6月30日の時点では,個々の顧客について,過払金が発生し,顧客に対する貸金債務が消滅していたかどうかまでは厳密には認識していなかったとしても,武富士の多数の顧客に対する貸金の残高が約定利率による残高とは大きく異なっている可能性が高いことは十分に認識していたものと認められる。 そうすると,武富士の代表取締役であった被告においては,武富士がそのまま顧客に対して貸金の返還を請求するとすれば,存在しない貸金(計算上元本が完済となっているもの)について返還を請求することになるから,平成18年6月30日の時点で,貸金業者である武富士の代表取締役であった被告においては,顧客に対する貸金の残高がいくらであるかどうかについて確認することが求められていたといえる。そして,同残高は,引直計算をすれば判明する。 前記1によると,現に,武富士の会社更生の手続においては引直計算がされており,引直計算に必要な取引履歴は武富士が保有していたと認められる。また,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,過払金が,弁済当時存する借入金債務に充当されることは,最高裁平成13年第1023号,第1033号平成15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁(以下「平成- 13 -15年判決 ,過払金が,弁済当時存する借入金債務に充当されることは,最高裁平成13年第1023号,第1033号平成15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁(以下「平成- 13 -15年判決」という。)により明らかであり,過払金が弁済当時存しない借入金債務にも充当されることは,最高裁平成18年第1887号平成19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁(以下「平成19年判決」という。)によって明らかになっている(平成15年判決は,「当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情がない限り」という限定が付いているが,そのような事情があるかどうかを判定することは容易であると考えられ,本件取引について特段の事情があるとの主張立証もない。また,平成19年判決が基本契約に基づく取引に広く適用されることは,同判決の文言及び趣旨から明らかである。)。さらに,取引の分断といわれる基本契約が複数となる事例が多数存在したと認めるに足りる証拠はなく,そのような取引がすべての取引の大部分を占めていたとは考えられないし,更生手続においては,分断が問題となる取引などについても引直計算がされていることに照らすと,分断を肯定しつつそれらの取引における過払金や貸金を合算して引直計算するなどの方法により,引直計算をすることは十分可能であったと認められ,そうすれば,武富士に理由なき損害を与えることにならないというべきである。そして,前記1,と弁論の全趣旨によると,引直計算に一定の時間が必要であるとしても,現に更生手続を進めるに当たって引直計算がされており,更生手続開始の申立てから引直計算の終了までは,約1か月(平成22年9月28日から同年10月末まで)であったこと,武富士は,金融庁の貸金業法施行規則の改正案の公表の8日後に同改正案に対応するた り,更生手続開始の申立てから引直計算の終了までは,約1か月(平成22年9月28日から同年10月末まで)であったこと,武富士は,金融庁の貸金業法施行規則の改正案の公表の8日後に同改正案に対応するためのプロジェクトを立ち上げ,その約4か月後には,従業員に対する指導を行っていると認められることなどの事情に照らすと,約4か月あれば,引直計算を行うことは十分可能であったと認められる。 これらのことからすると,武富士及び被告は,平成19年判決がされた4か月後である19年10月7日の時点以降は,引直計算をして,貸金債権の存否を確認することが十分可能であり,それをすべきであったにもかかわら- 14 -ず,それをせずに,貸金の請求をし,弁済を受けていたから,その時点で貸金債権が存在しない顧客については,通常の貸金業者であれば貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを容易に知り得たにもかかわらず,あえて顧客に対して貸金の返還を請求し,弁済を受領していたと認められる。 したがって,被告において,武富士が平成19年10月7日以降に貸金債権が存在しない顧客に対して貸金の返還を請求し弁済を受領した行為は,不法行為を構成すると認められる。 平成19年6月7日より前には,過払金が弁済当時存在しない債務に充当されるかどうかという充当計算の基本的な法律解釈が明確でなかったところ,過払金が弁済当時存在しない債務に充当されないとすると,平成18年判決以後において貸付けがある事案では,平成19年10月7日より前には,顧客に対して貸金の返還を請求し弁済を受領する行為が,必ずしも一義的に根拠を欠き,不相当なものということはできないから,不法行為が成立するとまでいうことはできない。 しかし,平成18年判決以後に貸付けのない事案では,貸金債権があるかどうかは,平成18年10 一義的に根拠を欠き,不相当なものということはできないから,不法行為が成立するとまでいうことはできない。 しかし,平成18年判決以後に貸付けのない事案では,貸金債権があるかどうかは,平成18年10月30日の段階で,引直計算によって明らかにすることができたから,平成18年10月30日から平成19年10月6日までに顧客に対して貸金の返還を請求し弁済を受領した行為についても,不法行為を構成すると認められる。 被告は,平成18年判決が特段の事情の具体的な内容を示しておらず,平成18年判決後もみなし弁済の成立する余地があり,当時,貸金債務が消滅していたかどうかは判明しなかったと主張する。しかし,平成18年判決は,前記のとおり「特段の事情」の内容を明示しており,それに当たる事情があるかどうかを判断することが困難であったとは解されない上,前記のとおり,武富士と顧客との取引には,みなし弁済における任意性以外の要件も欠けており,また,平成18年6月30日に提出された有価証券報告書(甲1- 15 -0の1)にもみなし弁済の抗弁の成立が極めて困難である旨が記載されていたことに照らすと,同主張は採用することができない。 被告は,平成18年判決を受け,適切な対応を迅速に行ってきたと主張する。しかし,前記のとおり,平成18年判決以前の取引についてみなし弁済が成立しない以上,平成18年判決時点において顧客に対する貸付残高は約定利率による残高とは異なるのであり,それを踏まえた上での対応が求められるところ,被告が行った前記1の対応は,平成18年判決後の取引について,みなし弁済の成立に向けて書面の改定作業等を行ったというものであり,上記対応を行ったというものではない。したがって,被告の主張は採用することができない。 被告は,平成18年判決以後,貸金業者の監督 ,みなし弁済の成立に向けて書面の改定作業等を行ったというものであり,上記対応を行ったというものではない。したがって,被告の主張は採用することができない。 被告は,平成18年判決以後,貸金業者の監督庁である金融庁から,貸金の返還請求等について指導等を受けておらず,引直計算をすべきであるとの指導監督もなかったと主張するが,そのことだけでは上記認定を左右するものではない。 被告は,平成18年判決以降の過払金の受領について被告の不法行為責任を否定した下級審の裁判例が複数ある点を指摘し,そのことは武富士の貸金請求等が暴行・脅迫に類するような場合に初めて不法行為を構成することを示すものであると主張する。しかし,これらの裁判例と本件とは事案を異にする上,平成21年判決は,不法行為が成立する場合を,貸金請求等が暴行・脅迫に類するような場合に限る趣旨ではなく,「通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりした」場合にも,不法行為が成立すると判示しており,被告に上記引直計算の義務が生じたときには,通常の貸金業者が貸金債権の事実的・法律的根拠のないことを容易に認識し得たものである。 争点前記2のとおり,平成19年10月7日以降の貸金の返還請求及び弁済の受- 16 -領又は平成18年10月30日以降の貸金の返還請求及び弁済の受領について不法行為を構成する。 前記前提事実によると,原告B,原告C,原告Fについては,平成18年判決以降の取引があるところ,別紙2,3,6のとおり,平成19年10月7日の時点では,貸金債権は,既に消滅しており(前記1アのとおり,武富士において一応の対策を講じた平成18年6月以降は,みなし弁済の適用があるとしても,平成19年10月7日の時点で貸金債権が存しなかったことには,変わりがない。), しており(前記1アのとおり,武富士において一応の対策を講じた平成18年6月以降は,みなし弁済の適用があるとしても,平成19年10月7日の時点で貸金債権が存しなかったことには,変わりがない。),過払金が発生しているから,原告らが同日以降に弁済に供した金銭は,損害と認められる。なお,これらの原告は,同日以降,武富士から貸付けを受けているが,これらの貸金債権は,平成19年10月7日より前に発生した過払金がまず充当されて消滅するものと解される。そして,これらの原告について,平成19年10月7日より前に発生した過払金の額は,同日以降の借入額を上回るから,同日以降の借入額を控除することはしない。 前記前提事実によると,原告Eについては,平成18年判決以降の借入れがないところ,平成18年10月30日の時点で,貸金債権は既に消滅しており,過払金が発生しているから,同原告が同日以降に弁済に供した金銭は,損害と認められる。 前記前提事実によると,原告Aについては,平成7年9月1日から平成9年7月28日までの間に,696日取引のない期間があり,平成15年3月10日から平成17年8月31日まで間に905日取引のない期間があるので,武富士及び被告において,これらの期間については,取引の分断があるものとして引直計算をすることも,やむを得ない事情があるということができる。これらについて取引の分断があるものとして,引直計算をすると,平成7年9月1日まで,平成9年7月28日から平成15年3月10日まで,平成17年8月31日以降の三つの取引に分かれるところ,平成7年9月1日までの取引,平成9年7月28日から平成15年3月10日までの取引については,平成1- 17 -8年判決以前に取引が終わっているので,それらの取引について不法行為というべき事情は認められない。 日までの取引,平成9年7月28日から平成15年3月10日までの取引については,平成1- 17 -8年判決以前に取引が終わっているので,それらの取引について不法行為というべき事情は認められない。平成17年8月31日以降の取引については,別紙12のとおりであって,取引終了時である平成22年5月17日の時点で,利息制限法による制限利息で計算しても貸金債務が残っていたことからすると,不法行為は成立しない。 前記前提事実によると,原告Dについては,平成7年9月1日から平成13年10月25日までの間に,2246日取引のない期間があるので,武富士及び被告において,これらの期間について,取引の分断があるものとして引直計算をすることも,やむを得ない事情があるということができる。平成7年9月1日までの取引については,平成18年判決以前に取引が終わっているので,その取引について不法行為というべき事情は認められない。平成13年10月25日以降の取引については,別紙13のとおりであって,平成18年10月30日の時点において貸金債権は既に消滅しており,過払金が発生しているから,同原告が同日以降に弁済に供した金銭は,損害と認められる。 以上を前提に,原告らの損害額を算定すると,別紙計算書1~5のとおりとなる。 原告らの請求額と別紙計算書1~5の各末尾の額との差額については,会社法429条1項の責任が問題となるが,既に述べたところからすると,原告Aについては,同項による任務懈怠は認められず,他の原告らについては,同項による任務懈怠が認められるとしても,各原告によって平成19年10月7日以降又は平成18年10月30日以降であるから,損害額は同額である。なお,不法行為となるのは会社法施行日の平成18年5月1日より後である平成19年10月7日以降又は平成18年10月 19年10月7日以降又は平成18年10月30日以降であるから,損害額は同額である。なお,不法行為となるのは会社法施行日の平成18年5月1日より後である平成19年10月7日以降又は平成18年10月30日以降のものであるから,被告が旧商法266条の3第1項の責任を負うことはない。 第4 結論 よって,原告らの請求は,別紙計算書1~5の「損害額の元本」欄の末尾の- 18 -金額(この金額が負の数値のときは,すべて正の数値とする。以下同じ)並びに「遅延損害金の合計」欄の末尾の金額の確定遅延損害金及び「年月日」欄の末尾の年月日の翌日から支払済みまで「損害額の元本」欄の末尾の金額に対する年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容することとし,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 横浜地方裁判所第6民事部裁判長裁判官森義之裁判官古閑裕二裁判官橋本政和

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