平成27(ワ)19661 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年12月7日 東京地方裁判所
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平成28年12月7日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成27年(ワ)第19661号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成28年10月6日判決 原告湖北工業株式会社同訴訟代理人弁護士吉武賢次同宮嶋学同髙田泰彦同柏延之同砂山麗同高橋三郎同白井徹同補佐人弁理士永井浩之同中村行孝同浅野真理 被告株式会社アプトデイト同訴訟代理人弁護士根本浩同松山智恵同野呂悠登同勝浦敦嗣同小松紘士同戸松良太同寺垣俊介同水戸悠貴同足立拓同杉本圭同横山竜一同訴訟復代理人弁護士江頭あがさ同補佐人弁理士赤堀龍吾同斉藤直彦 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙1被告製品目録(1)記載の電解コンデンサ用タブ端子を製造し,譲渡し,若しくは輸出し,又は譲渡若しく 費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙1被告製品目録(1)記載の電解コンデンサ用タブ端子を製造し,譲渡し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは輸出の申出をしてはならない。 2 被告は,別紙1被告製品目録(1)記載の電解コンデンサ用タブ端子を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,5830万円及びこれに対する平成27年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「電解コンデンサ用タブ端子」とする特許第4452917号の特許権(以下「本件特許権1」といい,その特許を「本件特許1」という。また,本件特許1の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書1」という。)及び発明の名称を「タブ端子の製造方法およびその方法により得られるタブ端子」とする特許第4732181号の特許権(以下「本件特許権2」といい,その特許を「本件特許2」という。また,本件特許2の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書2」という。)の特許権者である原告が,別紙1被告製品目録(1)記載の電解コンデンサ用タブ端子(以下「被告製品」という。)は,本件特許1の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本件発明1 -1」という。),同2記載の発明(以下「本件発明1-2」という。),本件特許2の願書に添付した特許請求の範囲の請求項10記載の発明(以下「本件発明2-10」という。)及び同11記載の発明(以下「本件発明2-11」という。)の各技術的範囲に属するから,被告が被告製品を製造し,譲渡し,輸出し,又は譲渡若しくは輸出の申出をする行為は,本件特許権1及び同2を侵害する行為であると主張して,①特許法100条1項に基づき,被告に対し, 術的範囲に属するから,被告が被告製品を製造し,譲渡し,輸出し,又は譲渡若しくは輸出の申出をする行為は,本件特許権1及び同2を侵害する行為であると主張して,①特許法100条1項に基づき,被告に対し,被告製品の製造,譲渡,輸出及び譲渡又は輸出の申出の差止めを求め,②同条2項に基づき,被告に対し,被告製品の廃棄を求めるとともに,③特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権(対象期間は,平成24年8月1日から平成27年1月31日までである。)に基づき,被告に対し,損害賠償金5830万円(逸失利益5300万円及び弁護士費用530万円の合計)及びこれに対する不法行為後の日である平成27年7月23日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(本件特許権1の侵害を原因とする請求と,本件特許権2の侵害を原因とする請求とは,選択的併合の関係にあるものと解される。)事案である。 2 前提事実等(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)(1) 当事者原告は,電気機械,工作機械,通信機械器具及び同部分品の設計製造並びに販売等を目的とする株式会社であり,電解コンデンサ用タブ端子を製造販売している。 被告は,弱電器部品の製造等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。 なお,被告が電解コンデンサ用タブ端子を自ら製造しているか否かについては,争いがある。 (2) 本件特許権1及び同2ア原告は,次の内容の本件特許権1の特許権者である(甲1,2)。 特許番号特許第4452917号登録日平成22年2月12日 出願番号特願2003-429116出願日平成15年12月25日優先権主張番号特願20 2917号登録日平成22年2月12日 出願番号特願2003-429116出願日平成15年12月25日優先権主張番号特願2002-381570優先日平成14年12月27日(以下「本件優先日」という。)優先権主張国日本国発明の名称電解コンデンサ用タブ端子特許請求の範囲別紙2(特許第4452917号公報)の 【特許請求の範囲】欄記載のとおりイ原告は,次の内容の本件特許権2の特許権者である(甲3,4)。 特許番号特許第4732181号登録日平成23年4月28日出願番号特願2006-38212出願日平成18年2月15日発明の名称タブ端子の製造方法およびその方法により得られる タブ端子特許請求の範囲別紙3(特許第4732181号公報)の 【特許請求の範囲】欄記載のとおり(3) 本件発明1-1,同1-2,同2-10及び同2-11の各構成要件の分説ア本件発明1-1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件1A」などという。)。 1A:芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,1B:圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって,1C:前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,1D:前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理である, 1E:電解コンデンサ用タブ端子。 イ本件発明1-2の構成要件は,引用に係る本 に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,1D:前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理である, 1E:電解コンデンサ用タブ端子。 イ本件発明1-2の構成要件は,引用に係る本件発明1-1の構成要件(上記ア)と,次の構成要件2Aに分説される。 2A:前記の酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる,ウ本件発明2-10を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応して「構成要件10A」などという。)。 10A:芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に,10B:圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって,10C:前記溶接部分の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする,10D:タブ端子。 エ本件発明2-11を構成要件は,引用に係る本件発明2-10の構成要件(上記ウ)と,次の構成要件11Aに分説される。 11A:スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる,(4) 被告の行為被告は,別紙4被告製品目録(2)記載①ないし⑪の電解コンデンサ用タブ端子(以下,個別には同目録の番号に応じて「被告販売製品①」などといい,これらを総称して単に「被告販売製品」という。)のうち,平成22年2月頃から現在まで,被告販売製品①,同②及び同④ないし同⑪を譲渡し又はこれらについて譲渡の申出をし,被告販売製品④について輸出し又はこれについて輸出の申出をし,平成22年2月頃から平成26年7月5日までの間,被告販売製品③を譲渡し又はこれについて譲渡の申出をした。 被告販売製品は,表面に し,被告販売製品④について輸出し又はこれについて輸出の申出をし,平成22年2月頃から平成26年7月5日までの間,被告販売製品③を譲渡し又はこれについて譲渡の申出をした。 被告販売製品は,表面にスズめっきを施したCP線(被告販売製品①,同②,同④ないし同⑪)又は銅線(被告販売製品③)をリード線とし,これに,圧扁部と丸 棒部からなるアルミ芯線が溶接されている電解コンデンサ用タブ端子である。 なお,原告は,被告販売製品が被告製品の構成を全て備えている旨主張しているところ,被告は,この点は否認するものの,被告販売製品が構成要件1A,1B,1E,10A,10B及び10Dを充足することは,争っていない。 3 争点(1) 被告販売製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア被告販売製品は構成要件1Cを充足するか(争点1-1)イ被告販売製品は構成要件1Dを充足するか(争点1-2)ウ被告販売製品は構成要件2Aを充足するか(争点1-3)エ被告販売製品は構成要件10Cを充足するか(争点1-4)オ被告販売製品は構成要件11Aを充足するか(争点1-5)(2) 本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点2)ア本件発明1-1及び同1-2についての特許について(ア) 無効理由1(新規性欠如)は認められるか(争点2-1)(イ) 無効理由2(進歩性欠如)は認められるか(争点2-2)(ウ) 無効理由3(実施可能要件違反)は認められるか(争点2-3)(エ) 無効理由4(サポート要件違反)は認められるか(争点2-4)(オ) 無効理由5(明確性要件違反)は認められるか(争点2-5)イ本件発明2-10及び同2-11についての特許について ) 無効理由4(サポート要件違反)は認められるか(争点2-4)(オ) 無効理由5(明確性要件違反)は認められるか(争点2-5)イ本件発明2-10及び同2-11についての特許について(ア) 無効理由1(新規性欠如)は認められるか(争点2-6)(イ) 無効理由2(進歩性欠如)は認められるか(争点2-7)(ウ) 無効理由3(実施可能要件違反)は認められるか(争点2-8)(エ) 無効理由4(サポート要件違反)は認められるか(争点2-9)(オ) 無効理由5(明確性要件違反)は認められるか(争点2-10)(3) 許諾による通常実施権は認められるか(争点3) (4) 先使用による通常実施権は認められるか(争点4)(5) 被告製品の差止め及び廃棄の必要性は認められるか(争点5)(6) 原告が受けた損害の額(争点6) 4 争点に対する当事者の主張(1) 争点1(被告販売製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)についてア争点1-1(被告販売製品は構成要件1Cを充足するか)及び争点1-2(被告販売製品は構成要件1Dを充足するか)について【原告の主張】構成要件1Cは,「前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,」と規定し,構成要件1Dは「前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理である,」と規定する。 東レリサーチセンターが,被告販売製品における溶接部分の表面をX線光電子分光法(以下「XPS」という。)により分析したところ,酸化スズ(SnO又はSnO2)が確認された(甲7)。これは,同溶接部に酸化スズ形成処理がされたことを示している。 したがって,被告販売製品は構成要件1C及び同1Dをいずれも充足する。 【被告の主張】被告販売 nO2)が確認された(甲7)。これは,同溶接部に酸化スズ形成処理がされたことを示している。 したがって,被告販売製品は構成要件1C及び同1Dをいずれも充足する。 【被告の主張】被告販売製品において,リード線とアルミ芯線との溶接部の表面に酸化スズが存在することは認める。 原告は,構成要件1Dの「酸化スズ形成処理」について,「溶接部に少なくともSnO又はSnO2」が形成されていることをもって,構成要件1Dを充足する旨主張するが,構成要件1Dの「酸化スズ形成処理」の具体的意義を明確にしていない。 そもそも,電解コンデンサ用タブ端子のうちスズめっきが施された部分は,大気中に置いておくことにより自然と酸化物を形成するから,その溶接部の表面に酸化スズが存在することは技術常識である(乙3,4)。したがって,「酸化スズ形成処理」というからには,上記のような自然に形成される酸化スズが存在するのみでは 足りず,通常よりも多くの量の酸化スズを形成させるような何らかの処理が想定されているものと解される。 なお,被告販売製品においては,リード端子スズめっきを溶接する前と,めっき後のすすぎの工程を経た後とを比較すると,スズの元素濃度が減少しているから(乙86),酸化スズも減少していると考えられる。したがって,被告販売製品において,「酸化スズ形成処理」は行われていないというべきである。 また,原告は,構成要件1Cの「ウィスカの成長抑制処理」の具体的意義も明らかにしないまま,同文言の存在を無視して,溶接部に酸化スズが少しでも存在すれば構成要件1Cをも充足すると主張しているものであり,明らかに失当である。 イ争点1-3(被告販売製品は構成要件2Aを充足するか)について【原告の主張】構成要件2Aは,「前記の酸化スズ形成処理により, も充足すると主張しているものであり,明らかに失当である。 イ争点1-3(被告販売製品は構成要件2Aを充足するか)について【原告の主張】構成要件2Aは,「前記の酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる,」と規定する。 前記ア【原告の主張】において主張したとおり,被告販売製品の溶接部には,酸化スズ(SnO又はSnO2)が存在しているから,被告販売製品は,構成要件2Aを充足する。 【被告の主張】上記ア【被告の主張】で主張したとおり,原告は,「酸化スズ形成処理」の具体的意義を明確にしていないし,被告販売製品において,「酸化スズ形成処理」は行われていないから,被告販売製品は構成要件2Aを充足しない。 ウ争点1-4(被告販売製品は構成要件10Cを充足するか)について【原告の主張】(ア) 構成要件10Cの解釈構成要件10Cは,「前記溶接部分の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする,」と規定する。 ここで,被告も「SnPOX」が「リン酸スズ」であることを認めていること,「S n2P2O7」のように化学量論的組成を明確に示す表記に代えて「SnPO3.5」のように元素組成のみを示す表記がされる慣行があることからして,構成要件10Cの「SnPOX(xは2~4を表す)からなる」とは,「リン酸スズからなる」ことを意味すると解すべきである。 (イ) 被告販売製品の構成東レリサーチセンターが,被告販売製品における溶接部分の表面をXPS及びオージェ電子分光法・深さ方法分析(以下「AES」という。)により分析したところ,被告販売製品の溶接部分の表面の同じ分析深さでSn,O及びPが存在する ,被告販売製品における溶接部分の表面をXPS及びオージェ電子分光法・深さ方法分析(以下「AES」という。)により分析したところ,被告販売製品の溶接部分の表面の同じ分析深さでSn,O及びPが存在することが確認され,また,Sn-O結合及びP-O結合が存在することが確認された(甲7,10の1ないし10の5,16)。このことから,被告販売製品の溶接部の表面には,リン酸スズ,すなわち,「SnPOX(xは2~4を表す)」が存在していると推認できる。 この点について,被告は,被告販売製品の溶接部の表面に「SnPOX(xは2~4を表す)」が存在することの立証がされていないと主張するが,熱処理や溶剤処理によって形成される皮膜は,結晶体のような精製された化合物とは異なり,多くの格子欠陥を有する非結晶状態となっていることがほとんどである。したがって,被告販売製品における溶接部の表面にも,Sn,P及びOが化学量論性の高い状態にあるリン酸スズとは異なる乱雑な構造で存在していると考えられる。このような状態の物質をXPSで分析した場合には,ケミカルシフトの分布した多数のピークが重なり合ったピークが計測されることとなるから,必ずしも単結晶膜のような精製された化合物のような明確なピークが観察されるものではない。 したがって,被告販売製品は構成要件10Cを充足する。 【被告の主張】(ア) 構成要件10Cの解釈原告は,構成要件10Cの「SnPOX(xは2~4を表す)からなる」とは,「リン酸スズからなる」ことを意味すると解すべきと主張するが,リン酸スズには,「S nPOX(xは2~4を表す)」以外のものが存在しているのであるから,構成要件10Cは,文字どおり「SnPOX(xは2~4を表す)からなる」ものと解するべきである。 (イ) 被告販売 nPOX(xは2~4を表す)」以外のものが存在しているのであるから,構成要件10Cは,文字どおり「SnPOX(xは2~4を表す)からなる」ものと解するべきである。 (イ) 被告販売製品の構成について原告が提出する被告販売製品の分析結果(甲7,10の1ないし10の5,16)によっても,同一の深さ領域でP,Sn及びOが検出されたことと,Sn-O結合とP-O結合が存在していると推察されたことが示されているのみであるところ,一般に,リン酸スズの分子構造としては様々なものが知られていること,被告販売製品の表面にはC,Al,Fe,Cu等の元素も検出されたことなどからして,被告販売製品の溶接部分の一部に「SnPOX(xは2~4を表す)」が存在していることは立証されていないというべきである。 仮に,溶接部の表面に「SnPOX(xは2~4を表す)」が存在していたとしても,すすぎの工程において,リンを有する物質のほとんどは除去されるのであるから,極めて微量が存在するにすぎず,これらからなる「皮膜」が形成されているとは到底言い難い状態にあると考えられる(乙86)。 エ争点1-5(被告販売製品は構成要件11Aを充足するか)について【原告の主張】(ア) 構成要件11Aの解釈構成要件11Aは,「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる,」と規定する。 ここで,本件明細書2の段落【0038】に「SnPOXが形成されていない部分,すなわちSnが存在している部分においても,そのSn表面上にPOXからなるリン系化合物の皮膜が形成される。」と記載していることからして,構成要件11Aの「POX(xは2~4を表す)からなる」とは,リン酸そのものではなく,リン酸塩を意味すると解すべ 表面上にPOXからなるリン系化合物の皮膜が形成される。」と記載していることからして,構成要件11Aの「POX(xは2~4を表す)からなる」とは,リン酸そのものではなく,リン酸塩を意味すると解すべきである。 (イ) 被告販売製品の構成 東レリサーチセンターが,被告販売製品における溶接部分の表面をXPS及びAESにより分析したところ,被告販売製品の溶接部分の表面の同じ分析深さでSn,O及びPが存在することが確認され,また,Sn-O結合及びP-O結合が存在することが確認されたほか,Cu等のタブ端子を構成する元素由来のピークも確認された(甲7,10の1ないし10の5,16)。したがって,被告販売製品のスズ表面には,例えばリン酸銅等のリン酸塩,すなわち,「POX(xは2~4を表す)」が存在していると推認できる。 したがって,被告販売製品は構成要件11Aを充足する。 【被告の主張】(ア) 構成要件11Aの解釈原告は,構成要件11Aの「POX(xは2~4を表す)からなる」とは,リン酸そのものではなくリン酸塩を意味すると解すべきと主張するが,「POX」とは「酸化リン」を意味するものであるから,原告の解釈は誤りである。 (イ) 被告販売製品の構成について原告が提出する被告販売製品の分析結果(甲10の1ないし10の5)は,単に「POX(リン酸塩)の状態が主成分であると考えられる」と述べるにとどまっており,「POX(xは2~4を表す)からなる」の存在は立証されていないというべきである。 仮に,溶接部の表面にPOX(xは2~4を表す)が存在していたとしても,すすぎの工程において,リンを有する物質のほとんどは除去されるのであるから,極めて微量が存在するにすぎず,これらからなる「皮膜」が形成されているとは到底言い難 2~4を表す)が存在していたとしても,すすぎの工程において,リンを有する物質のほとんどは除去されるのであるから,極めて微量が存在するにすぎず,これらからなる「皮膜」が形成されているとは到底言い難い状態にあると考えられる(乙86)。 (2) 本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点2)ア争点2-1(本件発明1-1及び同1-2についての各特許に無効理由1〔新規性欠如〕は認められるか)について 【被告の主張】(ア) 乙38発明①本件優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2000-277398号公報(以下「乙38公報」という。)には,コンデンサ用リード線に関する次の発明(以下「乙38発明①」という。)が開示されている。 「すずめっきされた銅線の端部に,アルミニウム線が溶接されたコンデンサ用リード線であって,前記すずめっきされた銅線と前記アルミニウム線との溶接部に,ウィスカが発生するのを防止するための高温加熱が施された,コンデンサ用リード線。」(イ) 本件発明1-1と乙38発明①の対比乙38発明①の「すずめっきされた銅線」が本件発明1-1の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に,乙38発明①の「アルミニウム線」が本件発明1-1の「アルミ芯線」に,乙38発明①の「ウィスカが発生するのを防止するための高温加熱」が本件発明1-1の「ウィスカの成長抑制処理」に,それぞれ相当する。 したがって,本件発明1-1と乙38発明①とは,「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード先端部に,アルミ芯線が溶接されてなり,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなる」との点において一致し,次の点において スズからなる金属層が形成されてなるリード先端部に,アルミ芯線が溶接されてなり,前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなる」との点において一致し,次の点において形式的に相違する。 a 本件発明1-1の「アルミ芯線」は「圧扁部」を有するのに対し,乙38発明①の「アルミニウム線」がこれを有するか不明である点(以下「相違点1-A」という。)b 本件発明1-1は「電解コンデンサ用タブ端子」であるのに対し,乙38発明①は「コンデンサ用リード線」である点(以下「相違点1-B」という。)c 本件発明1-1は,「ウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理である」のに対し,乙38発明①の「ウィスカが発生するのを防止するための高温加熱」が酸化 スズ形成処理であるか不明である点(以下「相違点1-C」という。)(ウ) 本件発明1-2と乙38発明①の対比本件発明1-2と乙38発明①とを対比すると,上記(イ)の相違点1-Aないし同1-Cのほか,次の点において形式的に相違する。 本件発明1-2は,「前記の酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる」のに対し,乙38発明①がこのような構成を備えているか不明である点(以下「相違点2-A」という。)。 (エ) 相違点についての検討a 相違点1-Aについて,コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線が圧扁部を有することは本件優先日時点での技術常識であったから(乙40,41),相違点1-Aに係る構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 b 相違点1-Bについて,アルミニウム線と銅線等が溶接されたコン 構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 b 相違点1-Bについて,アルミニウム線と銅線等が溶接されたコンデンサ用リード線を,電解コンデンサ用のタブ端子として用いることは,本件優先日時点での技術常識であったから(乙39,40),相違点1-Bに係る構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 c 相違点1-Cについて,乙38公報には,「ウィスカが発生するための高温加熱」として,約150℃で約21分間加熱することが開示されているところ,約150℃の温度条件で加熱されたスズめっきの表面に酸化スズが形成されることは,本件優先日時点の技術常識であったから(乙42ないし44),相違点1-Cに係る構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 d 相違点2-Aについて,乙38公報には,「ウィスカが発生するための高温加熱」として,約150℃で約21分間加熱することが開示されているところ,約 150℃の温度条件で加熱されたスズめっきの表面に酸化スズが形成されること,及び,SnO2は酸化スズのうち最も代表的なものであることは,本件優先日時点の技術常識であったから(乙42ないし44),相違点2-Aに係る構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 (オ) 小括以上によれば,本件発明1-1及び同1-2は,いずれも実質的に乙38公報に記載された発明というべきであるから,本件発明1-1及び同1-2について ているに等しいというべきである。 (オ) 小括以上によれば,本件発明1-1及び同1-2は,いずれも実質的に乙38公報に記載された発明というべきであるから,本件発明1-1及び同1-2についての各特許は,いずれも特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】従来,タブ端子において,鉛フリーのリード線を用いると,アルミ線を溶接した部分にウィスカが生じるが,これを防ぐためにウィスカ成長抑制する処理を施せば,リード線のはんだ濡れ性が阻害されてしまうという,背反する課題があった。 本件発明1-1及び同1-2は,このような課題に対し,ウィスカがスズ金属単体からなることを確認した上で,溶接部分の残留応力を取り除くばかりでなく,これに加え,溶接部分のスズを酸化スズに変成しておくことにより,スズの結晶変態を抑制し,ウィスカの発生を抑制できることを見いだしたものであり,更に,はんだ濡れ性を損なうことのない適度な条件(熱処理における温度や時間,溶剤処理における溶剤の種類,濃度及び温度)を明らかにする画期的な発明である。他方,乙38公報は,ウィスカの発生原因や,タブ端子の処理方法とウィスカ抑制との関係,はんだ濡れ性とウィスカの成長抑制との両立などについて何ら検討されておらず,単に当時の公知事項を記載したにすぎないものである。 被告は,乙38公報に,本件発明1-1及び同1-2が記載されているに等しいと主張するが,乙38公報で開示されているスズめっきは,スズ金属100パーセントとは限らないのに対し,本件発明1-1,同1 被告は,乙38公報に,本件発明1-1及び同1-2が記載されているに等しいと主張するが,乙38公報で開示されているスズめっきは,スズ金属100パーセントとは限らないのに対し,本件発明1-1,同1-2の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード先端部に,」とある「スズ」とは,本件明細書1の段落【0012】,同【0033】の記載からして,スズ金属100パーセントを意味するものであるから,この点において相違しているといえる。また,乙38公報記載の熱処理により酸化スズが形成されることがあったとしても,それはたまたま空気中で熱処理がされたためであって,より効率的な真空下での熱処理であれば酸化スズは生じないはずである。 したがって,本件発明1-1及び同1-2が,乙38公報に記載されているに等しいということはなく,これらの発明が新規性を有することは明らかである。 イ争点2-2(本件発明1-1及び同1-2についての各特許に無効理由2〔進歩性欠如〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 相違点に係る容易想到性仮に,上記ア【被告の主張】(イ)において主張した相違点が乙38公報に実質的に記載されているとはいえず,これらの点が本件発明1-1及び同1-2と乙38発明①との実質的な相違点であったとしても,次のとおり,これらの相違点に係る構成は,本件優先日時点において,当業者が周知技術を適用し,又は技術常識を参酌することにより,容易に想到することができた。 a 相違点1-Aについて,コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線に圧扁部を設けることは,本件優先日時点の周知技術であったところ(乙40,41),乙38発明①に上記周知技術を適用して相違点1-Aに係る本件発明1-1の構成とすることは,本件優先日当時,当業者が容易 に圧扁部を設けることは,本件優先日時点の周知技術であったところ(乙40,41),乙38発明①に上記周知技術を適用して相違点1-Aに係る本件発明1-1の構成とすることは,本件優先日当時,当業者が容易に想到できたことである。 b 相違点1-Bについて,アルミニウム線と銅線等が溶接されたコンデンサ用リード線を,電解コンデンサ用のタブ端子として用いることは,本件優先日時点の 周知技術であったところ(乙39ないし41),乙38発明①に上記周知技術を適用して相違点1-Bに係る本件発明1-1の構成とすることは,本件優先日当時,当業者が容易に想到できたことである。 c 相違点1-Cについて,約150℃の温度条件で高温加熱することにより,スズめっきの表面に酸化スズが形成されることは,本件優先日当時の技術常識であったから(乙42ないし44),乙38発明①の「加熱処理」をもって酸化スズ形成処理とすることは,本件優先日当時,上記技術常識を考慮することにより当業者が容易に想到できたことである。 また,コンデンサ用リード線のスズめっきが施された部分に,加熱処理を施すことによって適切な量の酸化スズを形成させて,はんだ濡れ性とウィスカの発生抑制を両立させることは,本件優先日当時の技術常識を参酌することにより当業者が容易に予期し得たものであり(乙38,46ないし48),本件発明1-1は,相違点1-Cに係る構成を備えることにより,当業者が予期しない格別顕著な効果を奏するものではない。 d 相違点2-Aについて,約150℃の温度条件で高温加熱することにより,スズめっきの表面に酸化スズが形成されること,及び,形成された酸化スズが少なくともSnO2を含むことは,本件優先日当時の技術常識であったから(乙42ないし45),乙38発明①の「加熱処理」により,溶 スズめっきの表面に酸化スズが形成されること,及び,形成された酸化スズが少なくともSnO2を含むことは,本件優先日当時の技術常識であったから(乙42ないし45),乙38発明①の「加熱処理」により,溶接部に少なくともSnO2が含まれるようにすることは,本件優先日当時,上記技術常識を考慮することにより当業者が容易に想到できたことである。 また,上記cで主張したところに照らせば,本件発明1-2は,相違点2-Aに係る構成を備えることにより,当業者が予期しない格別顕著な効果を奏するものではない。 (イ) 小括以上によれば,本件発明1-1及び同1-2は,本件優先日当時,乙38発明①に周知技術を適用し,又は技術常識を参酌することにより,当業者が容易に発明す ることができたものであるから,本件発明1-1及び同1-2についての各特許は,いずれも特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】前記ア【原告の主張】で主張したとおり,本件発明1-1及び同1-2は,タブ端子において,溶接部分の残留応力を取り除くばかりでなく,スズを酸化スズに変成しておくことによって,ウィスカの発生を抑制できることを見いだしたものであり,更に,はんだ濡れ性を損なうことのない適度な条件を明らかにする画期的な発明である。 他方,乙38公報では,ウィスカの発生原因や,タブ端子の処理方法とウィスカ抑制との関係,はんだ濡れ性とウィスカの成長抑制との両立などについては何ら検討されていない。 被告が提出する乙46ないし48号証にも,酸化スズを形成すること 生原因や,タブ端子の処理方法とウィスカ抑制との関係,はんだ濡れ性とウィスカの成長抑制との両立などについては何ら検討されていない。 被告が提出する乙46ないし48号証にも,酸化スズを形成することがウィスカの成長抑制に効果がある旨の記載はないし,はんだ濡れ性との両立についても何ら検討されていない。 したがって,ウィスカの成長抑制処理とはんだ濡れ性とを両立しようとした本件発明1-1及び同1-2が,乙38公報に記載された発明から容易に発明できたものということはできないから,本件発明1-1及び同1-2が進歩性を有することは明らかである。 ウ争点2-3(本件発明1-1及び同1-2についての各特許に無効理由3〔実施可能要件違反〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 本件発明1-1は,「前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理 である,」との構成を備えることにより,はんだ濡れ性を損なうことなく,溶接部からのスズウィスカの発生が抑制された電解コンデンサ用タブ端子を提供することを目的とする発明と解される。 ところで,スズが乾いた空気にさらされることによって酸化し,表面に酸化スズを形成することは,本件優先日当時における技術常識であるが(乙3),本件明細書1の発明の詳細な説明には,「酸化スズ形成処理」として,スズが空気中にさらされて形成される酸化スズと比較して,どの程度更に酸化スズを形成させる処理であれば,本件発明1-1の作用効果を奏するかが記載されていない。実施例においても,タブ端子に熱処理や溶剤処理を施した旨は記載されているものの,酸化スズの形成量について一切評価を行っていない。 仮に,酸化スズの形成量を,「ウィスカの成長を抑 記載されていない。実施例においても,タブ端子に熱処理や溶剤処理を施した旨は記載されているものの,酸化スズの形成量について一切評価を行っていない。 仮に,酸化スズの形成量を,「ウィスカの成長を抑制することができる程度の量」を解釈したとしても,本件明細書1の発明の詳細な説明には,どの程度ウィスカの成長を抑制した場合に「ウィスカの成長を抑制することができる」と判断できるのかが記載されていないので,結局,どの程度の酸化スズを形成する処理が「酸化スズ形成処理」に当たるのか理解できない。 したがって,本件明細書1の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日時点の技術常識を考慮しても,当業者にとって,どの程度の量の酸化スズを形成すれば本件発明1-1の作用効果を奏するのか明らかではなく,本件発明1-1は,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。 (イ) また,本件明細書1の発明の詳細な説明に記載された実施例は,特定の温度条件での熱処理又は特定の溶剤を用いる溶剤処理を行っているが,当該実施例に記載された特定の条件以外に,どのような条件で熱処理又は溶剤処理を行えば,本件発明1-1の作用効果を奏するのかは明らかではない。また,熱処理又は溶剤処理以外の「酸化スズ形成処理」によっても本件発明1-1の作用効果を奏するかは明らかではない。 したがって,本件明細書1の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術 常識を考慮しても,当業者にとって,実施例に記載された特定の条件以外の熱処理若しくは溶剤処理により,又は熱処理及び溶剤処理以外の「酸化スズ形成処理」により本件発明1-1の作用効果を奏するのか明らかではなく,本件発明1-1は,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである 理及び溶剤処理以外の「酸化スズ形成処理」により本件発明1-1の作用効果を奏するのか明らかではなく,本件発明1-1は,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。 (ウ) 上記(ア)又は(イ)の点において,本件明細書1の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明1-1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,本件発明1-1についての特許は,特許法36条4項1号の規定に違反してされたものであり,同法123条1項4号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 また,同様の理由により,本件発明1-2についての特許も,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】本件明細書1の発明の詳細な説明には,実施例として,110℃,130℃,180℃にて熱処理を行った場合には,このような熱処理を行わない場合と比べて,はんだ濡れ性を損なうことなくウィスカの成長を抑制できたこと,他方で,200℃にて熱処理を行った場合にははんだ濡れ性が損なわれたことが記載されている(段落【0033】ないし同【0036】)。同様に,メタ珪酸ナトリウム又はケイフッ化アンモニウムにて溶剤処理を行った場合には,このような溶剤処理を行わない場合と比べて,ウィスカの成長を抑制できたことも記載されている(段落【0037】ないし同【0040】)。 これらの記載に接した当業者は,特定の温度条件による熱処理又は特定の溶剤による溶剤処理を行うことにより,はんだ濡れ性を損なうことなく,ウィスカの成長を抑制できることを理解することができる。 したがって,本件明細書1 定の温度条件による熱処理又は特定の溶剤による溶剤処理を行うことにより,はんだ濡れ性を損なうことなく,ウィスカの成長を抑制できることを理解することができる。 したがって,本件明細書1の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明1-1及び同1-2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ,これらの発明についての各特許が,実施可能要件に違反してされたということはない。 エ争点2-4(本件発明1-1及び同1-2についての各特許に無効理由4〔サポート要件違反〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 本件発明1-1は,「前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理である,」との構成を備えることにより,はんだ濡れ性を損なうことなく,溶接部からのスズウィスカの発生が抑制された電解コンデンサ用タブ端子を提供することを目的とする発明と解される。 ところで,本件明細書1の実施例は,タブ端子に熱処理又は溶剤処理を施し,ウィスカ長さ及びはんだ濡れ性の評価を行っているが,溶接部に酸化スズが形成されているかについては,一切評価を行っていない。したがって,上記熱処理や溶剤処理が「酸化スズ形成処理」かは明らかではなく,「酸化スズ形成処理が施されてなり」との構成を備えることにより,所期の課題を解決できることについても明らかではない。 仮に,実施例に記載された熱処理又は溶剤処理によって酸化スズが形成されているとしても,当該実施例に記載された特定の条件以外の熱処理又は溶剤処理により所期の課題を解決できることは明らかではないし,熱処理及び溶剤処理以外の「酸化スズ形成処理」によって所期の課題を解決できることも明らかではない。 このよ た特定の条件以外の熱処理又は溶剤処理により所期の課題を解決できることは明らかではないし,熱処理及び溶剤処理以外の「酸化スズ形成処理」によって所期の課題を解決できることも明らかではない。 このように,本件明細書1の発明の詳細な説明には,当業者において,本件優先日当時の技術常識に照らして,本件発明1-1の構成(本件明細書1の特許請求の範囲の請求項1記載の構成)を備えることにより所期の課題を解決できることが認識できる程度に記載も示唆もされていない。 したがって,当業者が本件明細書1の発明の詳細な説明の記載内容及び本件優先日当時の技術常識を考慮しても,当該特定の内容を特許請求の範囲の請求項1の全範囲に拡張ないし一般化することはできない。 (イ) 上記(ア)の点において,本件発明1-1は,発明の詳細な説明に記載したものということはできないから,本件発明1-1についての特許は,特許法36条6項1号の規定に違反してされたものであり,同法123条1項4号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 また,同様の理由により,本件発明1-2についての特許も,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】スズが高温環境下で酸素と反応して酸化スズが形成されること,酸化スズの形成によりスズウィスカの発生が抑制できること自体は,被告も認めるとおり本件優先日時点での周知事項であったから(乙42ないし48),当業者は,同周知事項に照らして,本件明細書1に記載された実施例が開示する処理が,酸化スズ形成処理であり,ウィスカの成長抑制処理であることを認識することができる。 したがって,本件発明1- 8),当業者は,同周知事項に照らして,本件明細書1に記載された実施例が開示する処理が,酸化スズ形成処理であり,ウィスカの成長抑制処理であることを認識することができる。 したがって,本件発明1-1及び同1-2は,発明の詳細な説明に記載したものといえ,本件発明1-1及び同1-2についての各特許が,サポート要件に違反してされたということはない。 オ争点2-5(本件発明1-1及び同1-2についての各特許に無効理由5〔明確性要件違反〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が明確であるといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか, 又はおよそ実際的でないという事情が存するときに限られると解される。 本件発明1-1は,「前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなり,前記のウィスカ抑制処理が,酸化スズ形成処理である,」との構成を備えるものであり,「ウィスカ抑制処理」と「酸化スズ形成処理」は,電解コンデンサ用タブ端子を製造するための一工程であるから,本件発明1-1に係る特許請求の範囲には,物の製造方法が記載されている。そして,本件優先日当時,電解コンデンサ用タブ端子を,その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存したとは認められない。 (イ) また,スズが乾いた空気にさらされることにより酸化して表面に酸化スズを形成することは,本件優先日当時の技術常識であるところ(乙3),本件発明1-1に係る特許請求の範囲には,「酸化スズ形成処理」との記載はあるが,酸化スズの形成量を規定して より酸化して表面に酸化スズを形成することは,本件優先日当時の技術常識であるところ(乙3),本件発明1-1に係る特許請求の範囲には,「酸化スズ形成処理」との記載はあるが,酸化スズの形成量を規定しておらず,当該「酸化スズ形成処理」が,スズが空気中にさらされて形成された酸化スズと比して,更にどの程度酸化スズを形成する処理であるのか明らかではない。 仮に,酸化スズの形成量を「ウィスカの成長を抑制することができる程度の量」と解釈したとしても,どの程度ウィスカの成長を抑制した場合にウィスカの成長を抑制することができると判断できるかが明確でないため,やはり「酸化スズ形成処理」による酸化スズの形成量を特定することができない。 (ウ) 上記(ア)又は(イ)の点において,本件発明1-1に係る特許請求の範囲の記載は不明確であるから,本件発明1-1についての特許は,特許法36条6項2号の規定に違反してされたものであり,特許無効審判により無効にされるべきものである。 また,同様の理由により,本件発明1-2についての特許も,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】本件発明1-1及び同1-2に係る特許請求の範囲に記載された「ウィスカ抑制処理」と「酸化スズ形成処理」は,形式的には製造方法であるが,当該処理後のタブ端子の溶接部に酸化スズが形成されていることを間接的に規定したものであることが明らかであるから,特許請求の範囲の記載が不明確であるとはいえない。 また,本件明細書1の発明の詳細な説明には,実施例として,熱処理を行う場合の温度条件や,溶剤処理を行う場合の溶剤,これらの処理を行った場合のウィスカの成長抑制程 記載が不明確であるとはいえない。 また,本件明細書1の発明の詳細な説明には,実施例として,熱処理を行う場合の温度条件や,溶剤処理を行う場合の溶剤,これらの処理を行った場合のウィスカの成長抑制程度について詳細に開示しているから,酸化スズの形成量やウィスカの成長抑制程度が規定されていないとしても,そのことをもって特許請求の範囲の記載が不明確になるということはない。 したがって,本件発明1-1及び同1-2に係る特許請求の範囲の記載は明確であり,本件発明1-1及び同1-2についての各特許が明確性要件に違反してされたということはない。 カ争点2-6(本件発明2-10及び同2-11についての各特許に無効理由1〔新規性欠如〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 乙38発明②本件特許2の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である乙38公報には,コンデンサ用リード線に関する次の発明(以下「乙38発明②」という。)が開示されている。 「すずめっきされた銅線の端部に,アルミニウム線が溶接されたコンデンサ用リード線であって,温度90℃~99℃で約12分間の条件で,ファインクリーナ315で洗浄された,コンデンサ用リード線。」(イ) 本件発明2-10と乙38発明②の対比乙38発明②の「すずめっきされた銅線」が本件発明2-10の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に,乙38発明②の「アルミニウム 線」が本件発明2-10の「アルミ芯線」に,それぞれ相当する。 したがって,本件発明2-10と乙38発明②とは,「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード先端部に,アルミ芯線が溶接されてなる」との点において一致し,次の点において形式的に相違する。 a 本件発明2-10の「アルミ芯線 発明②とは,「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード先端部に,アルミ芯線が溶接されてなる」との点において一致し,次の点において形式的に相違する。 a 本件発明2-10の「アルミ芯線」は「圧扁部」を有するのに対し,乙38発明②の「アルミニウム線」がこれを有するか不明である点(以下「相違点10-A」という。)b 本件発明2-10は「タブ端子」であるのに対し,乙38発明②は「コンデンサ用リード線」である点(以下「相違点10-B」という。)c 本件発明2-10のタブ端子は,「前記溶接部の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」のに対し,乙38発明②がこのような構成を有するか不明である点(以下「相違点10-C」という。)(ウ) 本件発明2-11と乙38発明②の対比本件発明2-11と乙38発明②とを対比すると,上記(イ)の相違点10-Aないし同10-Cのほか,次の点において形式的に相違する。 本件発明2-11は,「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」のに対し,乙38発明②がこのような構成を有するか不明である点(以下「相違点11-A」という。)。 (エ) 相違点についての検討a 相違点10-Aについて,コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線が圧扁部を有することは本件特許2の出願日時点での技術常識であったから(乙40,41),相違点10-Aに係る構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 b 相違点10-Bについて,アルミニウム線と銅線等が溶接されたコンデンサ用リード線を,タブ端子として用いることは,本件特許2の出願 であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 b 相違点10-Bについて,アルミニウム線と銅線等が溶接されたコンデンサ用リード線を,タブ端子として用いることは,本件特許2の出願日時点での技術常 識であったから(乙39ないし41),相違点10-Bに係る構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 c 相違点10-Cについて,そもそも「SnPOX(xは2~4を表す)」という化合物は一般に知られておらず,また,原告が構成要件10Cにいう「皮膜」の意義を明らかにしないから,本件発明2-10に係る特許請求の範囲の記載は不明確であるというべきであるが,仮に,「SnPOX(xは2~4を表す)」が一般的なリン酸スズを意味し,かつ,「皮膜」が「タブ端子をリン系溶剤を用いて洗浄することによってタブ端子の溶接部分に形成されるもの」を意味するとの前提に立つと,相違点10-Cに係る構成は,乙38公報に記載されているに等しいといえる。 すなわち,乙38公報には,コンデンサ用リード線をアルカリ性洗浄液で洗浄すること,洗浄工程は90℃ないし99℃で約12分間の条件で洗浄する工程であること,洗浄剤としてファインクリーナ315(縮合リン酸塩等を含むアルカリ洗浄液である。乙49)などの洗浄液を用いることが開示されているところ,スズめっきリン酸塩を含む溶液で90℃ないし99℃で約12分間洗浄するとリン酸スズが形成されることは,本件特許2の出願日時点の技術常識であったから(乙50,51),相違点10-Cに係る構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 d 相違点11-A から(乙50,51),相違点10-Cに係る構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 d 相違点11-Aについて,そもそも「POX(xは2~4を表す)」という化合物は一般に知られておらず,また,原告が構成要件11Aにいう「皮膜」の意義を明らかにしないから,本件発明2-11に係る特許請求の範囲の記載は不明確であるというべきであるが,仮に,「POX(xは2~4を表す)」がPとOをと有するリン化合物を意味し,かつ,「皮膜」が「タブ端子をリン系溶剤を用いて洗浄することによってタブ端子の溶接部分に形成されるもの」を意味するとの前提に立つと,相違点11-Aに係る構成は,乙38公報に記載されているに等しいといえる。 すなわち,乙38公報には,コンデンサ用リード線をアルカリ性洗浄液で洗浄すること,洗浄工程は90℃ないし99℃で約12分間の条件で洗浄する工程であること,洗浄剤としてファインクリーナ315(縮合リン酸塩等を含むアルカリ洗浄液である。乙49)などの洗浄液を用いることが開示されているところ,スズ-銀合金めっき等を,縮合リン酸塩であるピロリン酸ナトリウムを含む溶液で洗浄することにより,めっき表面にPとOを有するリン化合物が形成されることは,本件特許2の出願日時点の技術常識であったから(乙52),相違点11-Aに係る構成は,当該技術常識を参酌することにより乙38公報から導き出せる事項であり,乙38公報に記載されているに等しいというべきである。 (オ) 小括以上によれば,本件発明2-10及び同2-11は,いずれも実質的に乙38公報に記載された発明というべきであるから,本件発明2-10及び同2-11についての各特許は,いずれも特許法29条 ) 小括以上によれば,本件発明2-10及び同2-11は,いずれも実質的に乙38公報に記載された発明というべきであるから,本件発明2-10及び同2-11についての各特許は,いずれも特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】従来,タブ端子において,鉛フリーのリード線を用いると,アルミ線を溶接した部分にウィスカが生じるが,これを防ぐためにウィスカ成長抑制する処理を施せば,リード線のはんだ濡れ性が阻害されてしまうという,背反する課題があった。 本件発明2-10及び同2-11は,このような課題に対し,ウィスカの発生原因(融点が低く,低温状態でも結晶変態を起こしうるというスズの特性)に着目し,溶接部分の残留応力を取り除くばかりでなく,溶接部分の表面にリン酸系化合物の皮膜を形成することにより,スズがディスロケーションによって結晶成長することを抑制し,ウィスカの発生を抑制できることを見いだしたものである。他方,乙3 8公報は,ウィスカの発生原因や,タブ端子の処理方法とウィスカ抑制との関係,はんだ濡れ性とウィスカの成長抑制との両立などについて何ら検討されておらず,単に当時の公知事項を記載したにすぎないものである。 被告は,乙38公報に,本件発明2-10及び同2-11が記載されているに等しいと主張する。 しかしながら,乙38公報で開示されているスズめっきは,スズ金属100パーセントとは限らないのに対し,本件発明2-10及び同2-11の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード先端部に,」とある「ス ら,乙38公報で開示されているスズめっきは,スズ金属100パーセントとは限らないのに対し,本件発明2-10及び同2-11の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード先端部に,」とある「スズ」とは,スズ金属100パーセントを意味するものであるから,両発明は,まず,この点において相違している。 次に,乙38公報に開示されている「ファインクリーナ315による洗浄」は,アルミニウム線の脱脂や,溶接時に発生するカーボンの除去を目的とするものであって,この場合には,洗浄液中の縮合リン酸塩の濃度は低く調製されると考えられるから,本件発明2-10や同2-11のようにリン化合物の皮膜は形成されない。 また,乙38公報で用いられる洗浄液は,「ファインクリーナ315」に限られるものでなく「非エッチング型弱アルカリクリーナ」とされているのであるから,洗浄液としてリン酸塩を含まない溶剤が使用された場合には,リン化合物の皮膜が形成されることはない。 さらに,乙51号証に記載されている「リン酸及びホスホン酸を含む金属表面用化成処理水溶液」は,金属表面のスズめっき層をエッチングするものであり,乙38公報に記載された「非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)」とは化学組成が異なっている。また,乙50号証には,スズ-亜鉛合金めっきをリン酸に水素ナトリウムを含む溶液で処理することによりリン酸塩皮膜が形成されることが記載されているにとどまり,本件発明2-10及び同2-11のように,リン酸塩溶液を用いてスズめっきを処理することによりリン酸スズ皮膜を形成することについては記載されていない。 加えて,乙52号証には,スズ-銀合金めっきを熱処理して形成された酸化膜を縮合リン酸塩溶液で処理することにより,当該酸化膜を除去すること 膜を形成することについては記載されていない。 加えて,乙52号証には,スズ-銀合金めっきを熱処理して形成された酸化膜を縮合リン酸塩溶液で処理することにより,当該酸化膜を除去することが記載されているにとどまり,スズ-銀合金めっきをリン酸塩溶液で洗浄すればリン化合物が形成されるという技術事項を開示するものではないし,仮にこれが開示されているとしても,スズめっきにおいても同様にリン化合物が形成されるとは限らないというべきである。 以上のとおり,本件発明2-10及び同2-11が,乙38公報に記載されているに等しいということはなく,これらの発明が新規性を有することは明らかである。 キ争点2-7(本件発明2-10及び同2-11についての各特許に無効理由2〔進歩性欠如〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 相違点に係る容易想到性仮に,上記カ【被告の主張】(イ)において主張した相違点が乙38公報に実質的に記載されているとはいえず,これらの点が本件発明2-10及び同2-11と乙38発明②との実質的な相違点であったとしても,次のとおり,これらの相違点に係る構成は,本件特許2の出願日時点において,当業者が周知技術を適用し,又は技術常識を参酌することにより,容易に想到することができた。 a 相違点10-Aについて,コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線に圧扁部を設けることは,本件特許2の出願日時点の周知技術であったところ(乙40,41),乙38発明②に上記周知技術を適用して相違点10-Aに係る本件発明2-10の構成とすることは,本件特許2の出願日当時,当業者が容易に想到できたことである。 b 相違点10-Bについて,アルミニウム線と銅線等が溶接されたコンデンサ用リード線を,タブ端子として用いること の構成とすることは,本件特許2の出願日当時,当業者が容易に想到できたことである。 b 相違点10-Bについて,アルミニウム線と銅線等が溶接されたコンデンサ用リード線を,タブ端子として用いることは,本件特許2の出願日時点の周知技術であったところ(乙39ないし41),乙38発明②に上記周知技術を適用して相違点10-Bに係る本件発明2-10の構成とすることは,本件特許2の出願日当 時,当業者が容易に想到できたことである。 c 相違点10-Cについて,そもそも「SnPOX(xは2~4を表す)」という化合物は一般に知られておらず,また,原告が構成要件10Cにいう「皮膜」の意義を明らかにしないから,本件発明2-10に係る特許請求の範囲の記載は不明確であるというべきであるが,仮に,「SnPOX(xは2~4を表す)」が一般的なリン酸スズを意味し,かつ,「皮膜」が「タブ端子をリン系溶剤を用いて洗浄することによってタブ端子の溶接部分に形成されるもの」を意味するとの前提に立つと,乙38発明②から相違点10-Cに係る構成とすることは,本件特許2の出願日当時,当業者が容易に想到できたことである。 すなわち,スズめっきリン酸塩を含む溶液で90℃ないし99℃で約12分間洗浄するとリン酸スズが形成されることは,本件特許2の出願日時点の技術常識又は公知事項であったから(乙50,51),乙38発明②のコンデンサ用リード線をファインクリーナ315を用いて温度90℃ないし99℃で約12分間洗浄することにより,スズめっきが施された溶接部にリン酸スズが形成されることは,本件特許2の出願日当時,上記技術常識又は公知事項を考慮することにより当業者が容易に想到できたことである。 また,コンデンサ用リード線のスズめっきが施された部分に,リン系溶剤による洗浄処理を ,本件特許2の出願日当時,上記技術常識又は公知事項を考慮することにより当業者が容易に想到できたことである。 また,コンデンサ用リード線のスズめっきが施された部分に,リン系溶剤による洗浄処理を施してリンを含む層を形成させて,ウィスカの発生を抑制させることは,本件特許2の出願日当時の技術常識を参酌することにより当業者が容易に予期し得たものであり(乙53),本件発明2-10が,相違点10-Cに係る構成を備えることにより,当業者が予期しない格別顕著な効果を奏するものではない。 d 相違点11-Aについて,そもそも「POX(xは2~4を表す)」という化合物は一般に知られておらず,また,原告が構成要件11Aにいう「皮膜」の意義を明らかにしないから,本件発明2-11に係る特許請求の範囲の記載は不明確であるというべきであるが,仮に,「POX(xは2~4を表す)」がPとOとを有するリン化合物を意味し,かつ,「皮膜」が「タブ端子をリン系溶剤を用いて洗浄す ることによってタブ端子の溶接部分に形成されるもの」を意味するとの前提に立つと,乙38発明②から相違点11-Aに係る構成とすることは,本件特許2の出願日当時,当業者が容易に想到できたことである。 すなわち,スズ-銀合金めっき等を,縮合リン酸塩であるピロリン酸ナトリウムを含む溶液で洗浄することにより,めっき表面にPとOを有するリン化合物が形成されることは,本件特許2の出願日時点の技術常識又は公知事項であったから(乙52),乙38発明②のコンデンサ用リード線をファインクリーナ315を用いて温度90℃ないし99℃で約12分間洗浄することにより,スズめっきの表面近傍にPとOを有するリン化合物が形成されることは,本件特許2の出願日当時,上記技術常識又は公知事項を考慮することにより当業者が容易に想 ℃ないし99℃で約12分間洗浄することにより,スズめっきの表面近傍にPとOを有するリン化合物が形成されることは,本件特許2の出願日当時,上記技術常識又は公知事項を考慮することにより当業者が容易に想到できたことである。 また,上記cで主張したところに照らせば,本件発明2-11は,相違点11-Aに係る構成を備えることにより,当業者が予期しない格別顕著な効果を奏するものではない。 (イ) 小括以上によれば,本件発明2-10及び同2-11は,本件特許2の出願日当時,乙38発明②に周知技術を適用し,又は技術常識若しくは公知事項を参酌することにより,当業者が容易に発明することができたものであるから,本件発明2-10及び同2-11についての各特許は,いずれも特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】乙53号証では,85℃での洗浄処理の後,更に180℃の処理を行うことにより,ウィスカの成長を抑制することができたということであって,洗浄処理及び熱処理によって圧縮圧力を低下させることによりウィスカの成長を抑制したと認識し ている。ここで,洗浄工程については,リン酸アンモニウム水溶液のみならず硼砂やホウ酸アンモニウム水溶液を用いていても同程度の効果があるとしているから,溶接部分にリン酸系化合物が形成されることをもってウィスカの成長を抑制できるとは認識していない。 これに対し,本件発明2-10及び同2-11は,ウィスカの発生原因に着目した上で,溶接部分の表面にリン酸系化合物(SnPOX又はPOX)の皮膜を形成する の成長を抑制できるとは認識していない。 これに対し,本件発明2-10及び同2-11は,ウィスカの発生原因に着目した上で,溶接部分の表面にリン酸系化合物(SnPOX又はPOX)の皮膜を形成することにより,スズの結晶成長を抑制し,ウィスカを抑制する方法を確立したものであり,乙38公報や乙53号証に記載された発明とは技術的思想が根本的に異なるものである。 したがって,本件発明2-10及び同2-11が,本件特許2の出願日当時,乙38公報に記載された発明から当業者が容易に発明することができたということはない。 ク争点2-8(本件発明2-10及び同2-11についての各特許に無効理由3〔実施可能要件違反〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 本件発明2-10について本件発明2-10は,「前記溶接部分の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする,」との構成を備えるものである。 しかしながら,本件明細書2の発明の詳細な説明に記載された実施例においては,タブ端子を,トリポリリン酸ナトリウムを含む溶剤中に85℃で10分間浸漬して洗浄処理を行い(実施例1),また,リンのイオン注入を行っている(実施例2)が,これらの実施例において,溶接部にSnPOXが形成されたことや,SnPOXからなる皮膜が形成されたことを全く確認していない。むしろ,既に主張したとおり,「SnPOX(xは2~4を表す)」という化合物が一般に知られていないことからすれば,これらの実施例においても,「SnPOX(xは2~4を表す)からな る皮膜」は形成されていないというべきである。 また,上記実施例1及び同2以外のいかなる条件であれば,溶接部に「SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜」を形 は2~4を表す)からな る皮膜」は形成されていないというべきである。 また,上記実施例1及び同2以外のいかなる条件であれば,溶接部に「SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜」を形成することができるか,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載によっても理解することができない。 以上のとおり,本件発明2-10は,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。 (イ) 本件発明2-11についてa 本件発明2-11についても,上記(ア)で指摘したところが妥当する。 b 本件発明2-11は,「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる,」との構成を備えるものである。 しかしながら,本件明細書2の発明の詳細な説明に記載された実施例では,溶接部にPOXが形成されたことや,POXからなる皮膜が形成されたことを全く確認していない。むしろ,既に主張したとおり,「POX(xは2~4を表す)」という化合物が一般に知られていないことからすれば,これらの実施例においても,「POX(xは2~4を表す)からなる皮膜」は形成されていないというべきである。 また,実施例以外のいかなる条件であれば,溶接部に「POX(xは2~4を表す)からなる皮膜」を形成することができるか,本件明細書2の記載によっても理解することができない。 以上の点からも,本件発明2-11は,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。 (ウ) 上記(ア)のとおり,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明2-10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,本件発明2-10についての特許は,特許法36条4項1号の規 とおり,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明2-10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,本件発明2-10についての特許は,特許法36条4項1号の規定に違反してされたものであり,同法123条1項4号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 また,上記(イ)のとおり,本件発明2-11についての特許も,本件発明2-10 についての特許と同様に,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】本件明細書2の発明の詳細な説明の段落【0037】には,「本発明者らがAESスペクトル分析等によって分析したところ,溶接部分の表面にはSnPOX(xは2~4)のリン酸化合物が形成されていることを確認した。」と記載されており,当業者は,本件明細書2の発明の詳細な説明に記載された実施例に従い得られたタブ端子をAESスペクトル分析等によって分析することによって,「SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜」を確認できるといえる。このことは,「POX(xは2~4を表す)からなる皮膜」についても同様である。 したがって,本件発明2-10及び同2-11は,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではなく,これらの発明についての各特許が,実施可能要件に違反してされたということはない。 ケ争点2-9(本件発明2-10及び同2-11についての各特許に無効理由4〔サポート要件違反〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 本件発明2-10について本件発明2-10は,溶接部分からのスズウィスカが発生しないタブ についての各特許に無効理由4〔サポート要件違反〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 本件発明2-10について本件発明2-10は,溶接部分からのスズウィスカが発生しないタブ端子を提供することを目的とする発明と解される。 ところで,本件明細書2の発明の詳細な説明に記載された実施例では,タブ端子を,トリポリリン酸ナトリウムを含む溶剤中に85℃で10分間浸漬して洗浄処理を行い(実施例1),また,リンのイオン注入を行っている(実施例2)が,これらの実施例において,溶接部にSnPOXが形成されたことや,SnPOXからなる皮膜が形成されたことは,全く確認されていない。むしろ,既に主張したとおり,「SnPOX(xは2~4を表す)」という化合物が一般に知られていないことから すれば,これらの実施例においても,「SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜」は形成されていないというべきである。そうすると,当業者は,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載内容及び本件特許2の出願日の技術常識を考慮しても,本件発明2-10が「前記溶接部分の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」との構成を備えることにより,溶接部分からのスズウィスカが発生しないタブ端子を提供するとの所期の課題を解決できると認識することはできない。 仮に,実施例における洗浄処理やイオン注入により「SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜」が形成されると仮定しても,当該実施例に記載された特定の条件以外の方法によっても「SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜」が形成されるかは明らかではなく,やはり当業者は,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載内容及び本件特許2の出願日の技術常識を考慮しても,本件発明2-10が「前記溶 (xは2~4を表す)からなる皮膜」が形成されるかは明らかではなく,やはり当業者は,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載内容及び本件特許2の出願日の技術常識を考慮しても,本件発明2-10が「前記溶接部分の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」との構成を備えることにより,溶接部分からのスズウィスカが発生しないタブ端子を提供するとの所期の課題を解決できると認識することはできない。 このように,本件明細書2の発明の詳細な説明には,当業者において,本件特許2の出願日当時の技術常識に照らして,本件発明2-10の構成を備えることにより所期の課題を解決できることが認識できる程度の記載がなく,その示唆もないから,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 (イ) 本件発明2-11についてa 本件発明2-11についても,上記(ア)で指摘したところが妥当する。 b 本件発明2-11も,溶接部分からのスズウィスカが発生しないタブ端子を提供することを目的とする発明と解される。 本件明細書2の実施例において,スズが存在する部分にPOXが形成されたことや,POXからなる皮膜が形成されたことは全く確認されておらず,むしろ,「PO X(xは2~4を表す)」という化合物が一般に知られていないことからすれば,これらの実施例において「POX(xは2~4を表す)からなる皮膜」は形成されていないというべきである。そうすると,当業者は,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載内容及び本件特許2の出願日の技術常識を考慮しても,本件発明2-11が「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」との構成を備えることにより, 記載内容及び本件特許2の出願日の技術常識を考慮しても,本件発明2-11が「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」との構成を備えることにより,溶接部分からのスズウィスカが発生しないタブ端子を提供するとの所期の課題を解決できると認識することはできない。 仮に,実施例における洗浄処理やイオン注入により「POX(xは2~4を表す)からなる皮膜」が形成されると仮定しても,当該実施例に記載された特定の条件以外の方法によっても「POX(xは2~4を表す)からなる皮膜」が形成されるかは明らかではなく,やはり当業者は,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載内容及び本件特許2の出願日の技術常識を考慮しても,本件発明2-11が「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」との構成を備えることにより,溶接部分からのスズウィスカが発生しないタブ端子を提供するとの所期の課題を解決できると認識することはできない。 このように,本件明細書2の発明の詳細な説明には,当業者において,本件特許2の出願日当時の技術常識に照らして,本件発明2-11の構成を備えることにより所期の課題を解決できることが認識できる程度の記載がなく,その示唆もないから,請求項に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 (ウ) 上記(ア)のとおり,本件発明2-10は,発明の詳細な説明に記載したものということはできないから,本件発明2-10についての特許は,特許法36条6項1号の規定に違反してされたものであり,同法123条1項4号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 また,上記(イ)のとおり,本件発明2-11 許は,特許法36条6項1号の規定に違反してされたものであり,同法123条1項4号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 また,上記(イ)のとおり,本件発明2-11についての特許も,本件発明2-10 についての特許と同様に,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】スズの表面をリン酸ナトリウム(NaH2PO4)等のリン酸塩溶液で処理すると,その表面にリン酸スズを主体とするリン酸塩皮膜が形成されることは,被告も認めるとおり本件特許2の出願日時点での周知事項であったから(乙50),当業者は,トリポリリン酸ナトリウムを用いて溶剤処理した場合にもリン酸スズを主体とするリン酸塩皮膜が形成されると認識することができる。また,被告が主張するように,リン酸スズにはSn2P2O7等が存在し,これはSnPO3.5(すなわち,SnPOXにおけるx=3.5に相当)にほかならない。 したがって,本件発明2-10及び同2-11は,発明の詳細な説明に記載したものといえ,本件発明2-10及び同2-11についての各特許が,サポート要件に違反してされたということはない。 コ争点2-10(本件発明2-10及び同2-11についての各特許に無効理由5〔明確性要件違反〕は認められるか)について【被告の主張】(ア) 本件発明2-10について本件発明2-10は,「前記溶接部分の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」との構成を備えるものであるが,既に主張したとおり,「SnPOX(xは2~4を表す)」という化合物が一般に知られていないこと,本件明細書2に POX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」との構成を備えるものであるが,既に主張したとおり,「SnPOX(xは2~4を表す)」という化合物が一般に知られていないこと,本件明細書2には「皮膜」における「SnPOX(xは2~4を表す)」の分布の程度が記載されておらず,実施例でも「SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜」が形成されたことの確認が行われていないことからすれば,「SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜」の意義が不明確である。 (イ) 本件発明2-11について a 本件発明2-11についても,上記(ア)で指摘したところが妥当する。 b 本件発明2-11は,「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」との構成も備えるが,既に主張したとおり,「POX(xは2~4を表す)」という化合物が一般に知られていないこと,本件明細書2には「皮膜」における「POX(xは2~4を表す)」の分布の程度が記載されておらず,実施例でも「POX(xは2~4を表す)からなる皮膜」が形成されたことの確認が行われていないことからすれば,「POX(xは2~4を表す)からなる皮膜」の意義が不明確である。 (ウ) 上記(ア)のとおり,本件発明2-10に係る特許請求の範囲の記載は不明確であるから,本件発明2-10についての特許は,特許法36条6項2号の規定に違反してされたものであり,同法123条1項4号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 また,上記(イ)のとおり,本件発明2-11についての特許も,本件発明2-10についての特許と同様に,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使するこ (イ)のとおり,本件発明2-11についての特許も,本件発明2-10についての特許と同様に,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができない(特許法104条の3第1項)。 【原告の主張】当業者にとって,「皮膜」とは,化成処理(ある金属の表面に化学薬品等の処理液を作用させて化学反応を起こさせる処理)を行った際に形成される化成皮膜を意味することが明らかであるから,皮膜の厚みが特定されていないとしても,そのことをもって特許請求の範囲の記載が不明確になるというものではない。 したがって,本件発明2-10及び同2-11についての各特許が,明確性要件に違反してされたということはない。 (3) 争点3(許諾による通常実施権は認められるか)について【被告の主張】原告と被告は,平成10年8月17日,「双方の所有するアルミ電解コンデンサ 用タブ端子の製造に関する,特許および実用新案権を相互に無償で許諾する」旨が記載された「通常実施権許諾書」(乙6)を取り交わしている(以下「本件クロスライセンス契約」という。)。 本件クロスライセンス契約は,その締結に至る経緯や,契約締結時に存在していた特許権が保護期間満了により消滅した後にもその取扱いをめぐって交渉がされたこと,契約締結後に取得した特許権について個別にライセンス契約の交渉はされなかったことなどに鑑みれば,契約締結時に存在していた特許権及び実用新案権のみならず,原告と被告が将来保有することとなる特許権及び実用新案権をも対象としていることが明らかである。 そうすると,本件クロスライセンス契約は,本件特許権1及び同2もその対象に含むものであるから,被告は,本件特許権1及び同2について,同契約に基づく許諾 権をも対象としていることが明らかである。 そうすると,本件クロスライセンス契約は,本件特許権1及び同2もその対象に含むものであるから,被告は,本件特許権1及び同2について,同契約に基づく許諾による通常実施権を有するというべきである。 【原告の主張】一般的な契約慣行や「双方の所有する・・・特許および実用新案権」との通常実施権許諾書の文言からして,本件クロスライセンス契約の対象となった権利は,同契約の締結時に原告及び被告が保有していた特許権及び実用新案権であって,将来取得するであろう権利は対象となっていない。 したがって,被告が,本件クロスライセンス契約に基づき,本件特許権1及び同2について許諾による通常実施権を有しているということはない。 (4) 争点4(先使用による通常実施権は認められるか)について【被告の主張】仮に,被告販売製品が本件発明1-1,同1-2,同2-10及び同2-11の技術的範囲に含まれるとすれば,被告は,これらの発明を知らないでその発明をした者から知得して,日本国内において,遅くとも平成14年12月27日から現在に至るまで,被告販売製品と同じ構成を有する電解コンデンサ用タブ端子(以下「本件先使用製品」という。)を販売する事業をしているから(乙58ないし61,6 4ないし78),被告は,本件発明1-1及び同1-2に係る本件特許権1並びに本件発明2-10及び同2-11に係る本件特許権2について先使用による通常実施権を有する(特許法79条)。 なお,原告は,本件発明1-1,同1-2,同2-10及び同2-11にいう「芯材表面にスズからなる金属層」とは,鉛を含まないスズめっきによる金属層を意味するなどと主張するが,そもそも,特許請求の範囲に「鉛を含まない」などの限定はないから,原告の上記 及び同2-11にいう「芯材表面にスズからなる金属層」とは,鉛を含まないスズめっきによる金属層を意味するなどと主張するが,そもそも,特許請求の範囲に「鉛を含まない」などの限定はないから,原告の上記主張は,その前提において誤りがある。また,仮に,原告の上記主張を前提としても,本件先使用製品には,鉛フリーのスズめっきが施されたものも存在していたから(乙79,80),被告が先使用による通常実施権を有することに変わりはないというべきである。 【原告の主張】被告が提出する書証(乙58ないし61,64)は,いずれも仕様書や図面にすぎず,被告が平成14年12月27日時点で本件先使用製品を販売していたことの裏付けにはならないというべきである。 仮に,被告が平成14年12月27日時点で本件先使用製品を販売していたと認められたとしても,本件先使用製品は,リード線に鉛を含むものであるところ,本件発明1-1,同1-2,同2-10及び同2-11にいう「芯材表面にスズからなる金属層」とは,鉛を含まないスズめっきによる金属層を意味するから,被告が,これらの発明に係る特許権について先使用による通常実施権を有するということはない。 (5) 争点5(被告製品の差止め及び廃棄の必要性は認められるか)について【原告の主張】被告が販売する電解コンデンサ用タブ端子には,製品名や型式番号が付されておらず,わずかに「品名」が付されているのみであるが,この「品名」は,取引先の電解コンデンサの仕様等に応じて付されているものであり,膨大な数に上る。したがって,被告製品を製品名,型式番号又は「品名」により特定することは困難であ る。他方で,原告は,被告製品を図面及び構造によって特定しており,これによれば,上記のとおり無数に存在する電解コンデンサ用タブ端子の 品名,型式番号又は「品名」により特定することは困難であ る。他方で,原告は,被告製品を図面及び構造によって特定しており,これによれば,上記のとおり無数に存在する電解コンデンサ用タブ端子のうち,本件発明1-1,同1-2,同2-10又は同2-11の技術的範囲に含まれるすべての電解コンデンサ用タブ端子について,原被告間の紛争を一回的に解決することができる。 既に主張したとおり,被告による被告販売製品の製造,譲渡,輸出及び譲渡又は輸出の申出は,本件特許権1及び同2を侵害する行為であるところ,被告が,被告販売製品以外にも,同一の構成を有する電解コンデンサ用タブ端子(被告製品)を製造し,譲渡し,輸出し,又は譲渡若しくは輸入の申出をしていることが推認できるから(なお,被告は,被告とは法人格が異なるものの実質的には被告と一体の関係にある株式会社改伸工業に被告製品を製造させている。),被告販売製品のみならず,図面及び構造によって特定される被告製品についても,差止め及び廃棄が認められるべきである。 【被告の主張】原告の主張は否認し,又は争う。 (6) 争点6(原告が受けた損害の額)について【原告の主張】ア逸失利益(5300万円)被告は,平成24年8月1日から平成27年1月31日までの間に,被告製品を販売して少なくとも10億6000万円の売上をあげた。 過去の実施許諾の事例等からして,本件各発明の実施に対し受けるべき金銭の額としては,売上高の5パーセントが相当である。 したがって,特許法102条3項の規定により,原告は,被告に対し,10億6000万円×0.05=5300万円を,自己が受けた損害の額として請求できる。 イ弁護士費用(530万円)被告による本件各特許権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費 ,被告に対し,10億6000万円×0.05=5300万円を,自己が受けた損害の額として請求できる。 イ弁護士費用(530万円)被告による本件各特許権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は,530万円である。 【被告の主張】原告主張の損害の発生及びその額は,争う。 なお,被告製品の特定が不十分であり,その売上高については,認否することができない。 第3 当裁判所の判断 1 争点2-2(本件発明1-1及び同1-2についての各特許に無効理由2〔進歩性欠如〕は認められるか)について事案に鑑み,まず,争点2-2から検討する。 (1) 乙38公報に記載された発明の構成ア乙38公報の記載本件優先日前に日本国内で頒布された刊行物である乙38公報には,次の記載がある(各項目末尾の【】は,乙38公報の段落番号を示す。)。 「本発明は,すずめっきされた銅線とアルミニウム線とが溶接されたコンデンサ用リード線の製造方法に関するものである。」【0001】「本発明の課題は,ウィスカの発生を防止することができるコンデンサ用リード線の製造方法を提供することである。」【0004】「本発明は,以下のような解決手段により,前記課題を解決する。すなわち,請求項1の発明は,すずめっきされた銅線とアルミニウム線とが溶接されたコンデンサ用リード線の製造方法であって,前記コンデンサ用リード線をアルカリ性洗浄液で洗浄する洗浄工程と,前記コンデンサ用リード線から前記アルカリ性洗浄液を除去する洗浄液除去工程と,前記コンデンサ用リード線を高温加熱して,溶接部にウィスカが発生するのを防止する乾燥工程とを含むコンデンサ用リード線の製造方法である。」【0005】「請求項2の発明は,請求項1に記載のコンデンサ用リード線の 用リード線を高温加熱して,溶接部にウィスカが発生するのを防止する乾燥工程とを含むコンデンサ用リード線の製造方法である。」【0005】「請求項2の発明は,請求項1に記載のコンデンサ用リード線の製造方法において,前記洗浄工程は,温度90℃~99℃で約12分間洗浄する工程であり,前記乾燥工程は,温度約150℃で約21分間加熱する工程であることを特徴とするコ ンデンサ用リード線の製造方法である。」【0006】「コンデンサ用リード線1は,図1に示すように,極めて純度の高いすずがめっきされた銅線10とアルミニウム線11とを溶接部12で溶接したものである。」【0007】「前記洗浄装置20は,例えば,アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって,コンデンサ用リード線1を洗浄する洗浄槽である。この洗浄装置20は,温度90℃~99℃の洗浄液でコンデンサ用リード線1を約12分間洗浄して,アルミニウム線11を脱脂したり,銅線10とアルミニウム線11とを溶接するときに発生するカーボンを除去する。」【0008】「前記乾燥装置25は,コンデンサ用リード線1を加熱して乾燥するとともに,溶接部12にウィスカが発生するのを防止する装置である。この乾燥装置25は,コンデンサ用リード線1を温度約150°で約21分間加熱する。」【0010】「本発明の実施形態では,コンデンサ用リード線1をアルカリ性の洗浄液で洗浄し,このコンデンサ用リード線1から洗浄液を除去した後に,このコンデンサ用リード線1を加熱している。その結果,アルカリ性の洗浄液で洗浄した後に,コンデンサ用リード線1を温度約150℃で約21分間加熱して,溶接部12にウィスカが発生するのを防止することができる。」【00 リード線1を加熱している。その結果,アルカリ性の洗浄液で洗浄した後に,コンデンサ用リード線1を温度約150℃で約21分間加熱して,溶接部12にウィスカが発生するのを防止することができる。」【0012】「例えば,本発明の実施形態では,コンデンサ用リード線1を温度150℃で21分間加熱しているが,例えば,温度100℃~125℃で4時間程度加熱してもよい。」【0014】「本発明によれば,コンデンサ用リード線をアルカリ性洗浄液で洗浄し,前記コンデンサ用リード線から前記アルカリ性洗浄液を除去し,前記コンデンサ用リード線を加熱して,溶接部にウィスカが発生するのを防止するので,ウィスカの発生を防止することができる。」【0015】イ以上の乙38公報の記載によれば,乙38公報には,次の発明(以下「引用 発明1」という。)が記載されているものと認められる。 1a:すずがめっきされた銅線10の端部に,1b:アルミニウム線11が溶接されたコンデンサ用リード線1であって,1c:前記すずがめっきされた銅線10と前記アルミニウム線11との溶接部12に,ウィスカが発生するのを防止する加熱処理が施された,1d:(乙38公報には,加熱処理により酸化スズが形成されるかについての記載はない。)1e:コンデンサ用リード線。 2a:(乙38公報には,加熱処理により溶接部12にSnO又はSnO2が含まれることとなるかについての記載はない。)(2) 引用発明1と本件発明1-1及び同1-2との対比ア引用発明1の「すずがめっきされた銅線10」が本件発明1-1及び同1-2の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に,引用発明1の「アルミニウム線11」が本件発明1-1及び同1-2の「アルミ芯線」に,引用発明1の「ウィス 」が本件発明1-1及び同1-2の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に,引用発明1の「アルミニウム線11」が本件発明1-1及び同1-2の「アルミ芯線」に,引用発明1の「ウィスカが発生するのを防止する加熱処理」が本件発明1-1及び同1-2の「ウィスカの成長抑制処理」に,それぞれ相当するものと認められる。 イ(ア) この点について,原告は,乙38公報に記載された「すずがめっきされた銅線10」の「すずめっき」はスズ金属100パーセントとは限らないのに対し,本件発明1-1及び同1-2の「スズからなる金属層」はスズ金属100パーセントを意味すると主張しており,引用発明1の「すずがめっきされた銅線10」が本件発明1-1及び同1-2の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に当たらない旨主張しているとも解される。 しかしながら,本件発明1-1及び同1-2に係る特許請求の範囲には,「スズからなる金属層」がスズ金属100パーセントのものに限られるとの限定はない。 また,乙38公報の段落【0002】及び同【0003】には,「従来より,極めて純度の高いすずがめっきされた銅線110とアルミニウム線111とが溶接され たコンデンサ用リード線101が知られている。・・・このために,従来より,すずめっきに鉛を添加して,ウィスカ113の発生を防止していた。」,「しかし,現在,環境問題に関心が集まっており,鉛の使用を制限又は全廃する計画が話題になっており,・・・このために,環境対策として,鉛の使用ができず,コンデンサ用リード線の溶接部から発生するウィスカの対策が急務になっている。」などの記載があり,引用発明1も,鉛を用いることなくウィスカの発生を防止することを目していることが明らかであるから,乙38公報に記載された「す の溶接部から発生するウィスカの対策が急務になっている。」などの記載があり,引用発明1も,鉛を用いることなくウィスカの発生を防止することを目していることが明らかであるから,乙38公報に記載された「すずめっき」が,スズ金属100パーセントのものを殊更に排除しているものとは認め難いというべきである。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (イ) なお,本件発明1-1及び同1-2の「ウィスカの成長抑制処理」は,特許請求の範囲の文言上,「ウィスカの成長を抑制するための処理」という意義と解するほかないところ,引用発明1における「加熱処理」も,乙38公報の段落【0012】に記載されているとおり,ウィスカの成長を抑制するための処理として記載されているのであるから,本件発明1-1及び同1-2の「ウィスカの成長抑制処理」に当たるというべきである。 ウ一致点本件発明1-1及び同1-2と引用発明1とは,「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード先端部に,アルミ芯線が溶接されてなり,前記リード線とアルミ芯線との溶接部に,ウィスカの成長抑制処理が施されてなる」点において一致している。 エ相違点(ア) 本件発明1-1と引用発明1とは,次の各点において相違する(なお,後記cの相違が実質的なものであるか否かについては,後述する。)。 a 本件発明1-1の「アルミ芯線」は「圧扁部」を有するのに対し,引用発明1の「アルミニウム線11」がこれを有するか不明である点(以下「相違点1-1」 という。)。 b 本件発明1-1は「電解コンデンサ用タブ端子」であるのに対し,引用発明1は「コンデンサ用リード線」である点(以下「相違点1-2」という。)。 c 本件発明1-1の「ウィスカの成長抑制処理」は「酸化スズ形成 1-1は「電解コンデンサ用タブ端子」であるのに対し,引用発明1は「コンデンサ用リード線」である点(以下「相違点1-2」という。)。 c 本件発明1-1の「ウィスカの成長抑制処理」は「酸化スズ形成処理」であるのに対し,引用発明1の「ウィスカが発生するのを防止するための加熱処理」が「酸化スズ形成処理」であるか不明である点(以下「相違点1-3」という。)。 (イ) 本件発明1-2と引用発明1とは,上記相違点1-1ないし同1-3に加え,次の点において相違する(なお,この相違が実質的なものであるか否かについては,後述する。)。 本件発明1-2は,「前記酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる」のに対し,引用発明1の「ウィスカが発生するのを防止するための加熱処理」により,溶接部にSnO又はSnO2が含まれることとなるか不明である点(以下「相違点2」という。)。 (3) 相違点についての検討ア相違点1-1について本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-213592号公報(乙40)及び特開平9-139326号公報(乙41)には,アルミニウム丸棒線と銅下地錫引鉄線又は銅被覆鋼線が溶接されたコンデンサ用リード線において,アルミニウム丸棒部の一部を扁平部とすることが記載されているから(乙40の段落【0002】等,乙41の段落【0002】等),コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線に圧扁部を設けることは,本件優先日時点における周知技術であったものと認められ,これを引用発明1に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。 そうすると,乙38公報に接した当業者において,引用発明1に上記周知技術を適用して,相違点1-1に係る構成とすることは,本 められ,これを引用発明1に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。 そうすると,乙38公報に接した当業者において,引用発明1に上記周知技術を適用して,相違点1-1に係る構成とすることは,本件優先日当時,容易に想到できたことであるといえる。 イ相違点1-2について本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-45579号公報(乙39),特開平9-213592(乙40)及び特開平9-139326号公報(乙41)には,それぞれ,コンデンサ用リード線をタブ端子とすること(乙39の段落【0013】等),アルミ線丸棒部と銅下地錫引鉄線とが接合された外部引き出しリード線をアルミ電解コンデンサに用いること(乙40の段落【0002】等),スズめっきが施されたCP線(銅被覆鋼線)をアルミ電解コンデンサ用のタブ端子とすること(乙41の段落【0002】等)が記載されているから,スズがめっきされた銅線とアルミニウム線が溶接されたコンデンサ用リード線をアルミ電解コンデンサ用のタブ端子とすることは,本件優先日時点における周知技術であったものと認められ,これを引用発明1に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。 そうすると,乙38公報に接した当業者において,引用発明1に上記周知技術を適用して,相違点1-2に係る構成とすることは,本件優先日当時,容易に想到できたことであるといえる。 ウ相違点1-3について(ア) 本件優先日前に日本国内において頒布された大木道則ほか編「化学辞典」(東京化学同人)(乙42),特開平9-274060号公報(乙43),木村恵英ほか「錫めっきコンタクトの温度サイクルによる劣化メカニズムとその加速試験法」電子通信学会技術研究報告R83-63(乙44)及び朝倉信幸ほか「端子圧着部にお -274060号公報(乙43),木村恵英ほか「錫めっきコンタクトの温度サイクルによる劣化メカニズムとその加速試験法」電子通信学会技術研究報告R83-63(乙44)及び朝倉信幸ほか「端子圧着部における皮膜の電気的破壊についての一考察」矢崎技術レポート第20号(乙45)には,それぞれ,「スズは室温では空気中で安定であるが,高温では酸素と反応してSnO2となる。」(乙42の715頁),「錫メッキ層の表面には,時効によって,酸化錫の皮膜が形成される」(乙43の段落【0014】),「室温の大気中に放置してその時効によって形成される酸化皮膜の厚さ,通常大気中で150℃という高温雰囲気下に1時間放置したときに形成される酸化皮膜の厚さ」(乙43の 段落【0020】),スズめっきコネクタについて「高温になると・・・露出した錫表面は高温のために急速に酸化される。」(乙44の56頁),Cu-Sn-Fe-P合金にCu(銅)下地めっきとSn(スズ)めっきとを施したテスト端子を120℃で1000時間放置した場合に「Snめっき材料ではほとんどが酸化錫(Ⅳ)(SnO2)であった」(乙45の82頁)との各記載がある。これらの記載からすれば,スズめっきを空気中で高温加熱すると,その表面に酸化スズ(SnO2)が形成されることは,本件優先日当時の技術常識であったものと認められる。 (イ) 相違点1-3は,「本件発明1-1の『ウィスカの成長抑制処理』は『酸化スズ形成処理』であるのに対し,引用発明1の『ウィスカが発生するのを防止するための加熱処理』が『酸化スズ形成処理』であるか不明である点」である。 ここで,乙38公報には,前記(1)アで認定したとおり,「例えば,本発明の実施形態では,コンデンサ用リード線1を温度150℃で21分間加熱しているが,例えば,温度10 るか不明である点」である。 ここで,乙38公報には,前記(1)アで認定したとおり,「例えば,本発明の実施形態では,コンデンサ用リード線1を温度150℃で21分間加熱しているが,例えば,温度100℃~125℃で4時間程度加熱してもよい。」との記載があって(段落【0014】),上記「コンデンサ用リード線1」は,「極めて純度の高いすずがめっきされた銅線10とアルミニウム線11とを溶接部12で溶接したもの」というのであるから(段落【0007】),上記(ア)に認定した本件優先日当時の技術常識に照らせば,乙38公報に「ウィスカが発生するのを防止するための加熱処理」の実施例として記載されたコンデンサ用リード線1を温度150℃で21分間加熱する処理によって,溶接部に酸化スズが形成されることは,当業者にとって明らかというべきである。したがって,引用発明1の「ウィスカが発生するのを防止するための加熱処理」は,本件発明1-1の「酸化スズ形成処理」に当たるものと認められる。 この点について,原告は,乙38公報記載の熱処理により酸化スズが形成されることがあったとしても,それはたまたま空気中で熱処理がされたためであって,より効率的な真空下での熱処理であれば酸化スズは生じないはずであると主張するが,乙38公報には,コンデンサ用リード線の加熱処理を真空下で行うべき旨の記載は なく,少なくとも空気中で加熱処理を行う態様を排除しているとは認め難いから,原告の主張を採用することはできない。 以上によれば,相違点1-3は,実質的な相違点とは認め難い。 エ相違点2について相違点2は,「本件発明1-2は,『前記酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる』のに対し,引用発明1の『ウィスカ 点2について相違点2は,「本件発明1-2は,『前記酸化スズ形成処理により,前記リード線と前記アルミ線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO2が含まれてなる』のに対し,引用発明1の『ウィスカが発生するのを防止するための加熱処理』により,溶接部にSnO又はSnO2が含まれることとなるか不明である点」であるが,上記ウ(ア)に認定した本件優先日当時の技術常識に照らせば,乙38公報に「ウィスカが発生するのを防止するための加熱処理」の実施例として記載されたコンデンサ用リード線1を温度150℃で21分間加熱する処理によって,溶接部に酸化スズ(少なくともSnO2)が形成されることは,当業者にとって自明というべきである。 したがって,相違点2は,実質的な相違点とは認め難い。 オ小括以上のとおり,本件発明1-1及び同1-2と引用発明1とを対比した相違点のうち,相違点1-3及び同2はいずれも実質的な相違点とは認め難く,相違点1-1及び同1-2については,本件優先日当時,当業者において引用発明1に上述した周知技術を適用して同相違点に係る構成とすることはいずれも容易想到であったというべきであるから,本件発明1-1及び同1-2は,いずれも,本件優先日当時,当業者が引用発明1及び上述した周知技術に基づいて容易に発明することができたものと認められる。 (4) 原告の主張について原告は,要旨,従来,鉛フリーのリード線をタブ端子として用いる場合に,ウィスカの成長抑制とはんだ濡れ性との両立という課題があったところ,本件発明1-1及び1-2は,ウィスカの発生機序に着目し,溶接部分の残留応力を取り除くばかりでなく,これに加え,溶接部分のスズを酸化スズに変性させておくことにより, スズの結晶変態を抑制し,ウィスカの発生を抑制できることを見い 発生機序に着目し,溶接部分の残留応力を取り除くばかりでなく,これに加え,溶接部分のスズを酸化スズに変性させておくことにより, スズの結晶変態を抑制し,ウィスカの発生を抑制できることを見いだしたものであり,更に,はんだ濡れ性を損なうことのない適度な条件(熱処理における温度や時間,溶剤処理における溶剤の種類,濃度及び温度)を明らかにする画期的な発明であると主張する。 しかしながら,特許請求の範囲には,「熱処理における温度や時間,溶剤処理における溶剤の種類,濃度及び温度」などの「適度な条件」による構成の限定はないのであるから,「適度な条件」を明らかにしたことを理由として本件発明1-1及び同1-2の進歩性が認められるということにはならない。また,ウィスカの発生機序に着目し,溶接部分のスズを酸化スズに変成させておくことによりスズの結晶変態を抑制したとの点についても,特許請求の範囲には記載のない発明の作用機序を主張するにとどまるものであって,「物」の発明であるところの本件発明1-1及び同1-2が,引用発明1とその構成において異なることを指摘するものとは認められない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (5) 争点2-2の小括以上によれば,本件発明1-1及び同1-2は,本件優先日当時,引用発明1及び上述した周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから,これらの発明についての各特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができないから(特許法104条の3第1項),本件特許権1の侵害を原因とする原告の請求は, 無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができないから(特許法104条の3第1項),本件特許権1の侵害を原因とする原告の請求は,その余の争点につき判断するまでもなく,いずれも理由がない。 2 争点2-7(本件発明2-10及び同2-11についての各特許に無効理由2〔進歩性欠如〕は認められるか)について(1) 乙38公報に記載された発明の構成 前記1アに認定した乙38公報の記載によれば,本件特許2の出願日前に頒布された刊行物である乙38公報には,次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 10a:すずがめっきされた銅線10の端部に,10b:アルミニウム線11が溶接されたコンデンサ用リード線1であって,10c:(乙38公報には,溶接部12の少なくとも一部にSnPOX〔xは2~4を表す〕からなる皮膜が形成されているかについての記載はない。)10d:コンデンサ用リード線。 11a:(乙38公報には,すずが存在する部分において,すずの表面にPOX〔xは2~4を表す〕からなる皮膜が形成されているかについての記載はない。)(2) 引用発明2と本件発明2-10及び同2-11との対比ア引用発明2の「すずがめっきされた銅線10」が本件発明2-10及び同2-11の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に,引用発明2の「アルミニウム線11」が本件発明2-10及び同2-11の「アルミ芯線」に,それぞれ相当するものと認められる。 なお,乙38公報に記載された「すずがめっきされた銅線10」の「すずめっき」はスズ金属100パーセントとは限らないのに対し,本件発明2-10及び同2-11の「スズからなる金属層」 と認められる。 なお,乙38公報に記載された「すずがめっきされた銅線10」の「すずめっき」はスズ金属100パーセントとは限らないのに対し,本件発明2-10及び同2-11の「スズからなる金属層」はスズ金属100パーセントを意味する,との原告の主張は,前記1(2)アで述べたところと同様の理由により,採用することができない。 イ一致点本件発明2-10及び同2-11と引用発明2とは,「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード先端部に,アルミ芯線が溶接されてなる」点において一致している。 ウ相違点 (ア) 本件発明2-10と引用発明2とは,次の各点において相違する(なお,後記cの相違が実質的なものであるか否かについては,後述する。)。 a 本件発明2-10の「アルミ芯線」は「圧扁部」を有するのに対し,引用発明2の「アルミニウム線11」がこれを有するか不明である点(以下「相違点10-1」という。)。 b 本件発明2-10は「タブ端子」であるのに対し,引用発明2は「コンデンサ用リード線」である点(以下「相違点10-2」という。)。 c 本件発明2-10は,「前記溶接部分の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されて」いるのに対し,引用発明2の「溶接部12」に「SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜」が形成されているか不明である点(以下「相違点10-3」という。)。 (イ) 本件発明2-11と引用発明2とは,上記相違点10-1ないし同10-3に加え,次の点において相違する(なお,この相違が実質的なものであるか否かについては,後述する。)。 本件発明2-11は,「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX〔xは2~4を表す〕からなる皮膜が形成されて」いるのに対 (なお,この相違が実質的なものであるか否かについては,後述する。)。 本件発明2-11は,「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX〔xは2~4を表す〕からなる皮膜が形成されて」いるのに対し,引用発明2のスズが存在する部分に「POX〔xは2~4を表す〕からなる皮膜」が形成されているか不明である点(以下「相違点11」という。)。 (3) 相違点についての検討ア相違点10-1について前記1(3)アで認定説示したところによれば,コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線に圧扁部を設けることは,本件特許2の出願日(本件優先日より後である。)時点においても周知技術であったものと認められ,これを引用発明2に適用することを妨げるべき事由は見当たらないから,乙38公報に接した当業者において,引用発明2に上記周知技術を適用して,相違点10-1に係る構成とすることは,本件特許2の出願日当時,容易に想到できたことであるといえる。 イ相違点10-2について前記1(3)イで認定説示したところによれば,スズがめっきされた銅線とアルミニウム線が溶接されたコンデンサ用リード線をアルミ電解コンデンサ用のタブ端子とすることは,本件特許2の出願日(本件優先日より後である。)時点においても周知技術であったものと認められ,これを引用発明2に適用することを妨げるべき事由は見当たらないから,乙38公報に接した当業者において,引用発明2に上記周知技術を適用して,相違点10-2に係る構成とすることは,本件特許2の出願日当時,容易に想到できたことであるといえる。 ウ相違点10-3について(ア) 本件特許2の出願日当時の技術常識a 本件特許2の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平11-314311号公報(乙50) であるといえる。 ウ相違点10-3について(ア) 本件特許2の出願日当時の技術常識a 本件特許2の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平11-314311号公報(乙50)には,次の記載がある(各項目末尾の【】は,同公報の段落番号等を示す。)。 「薄鋼板の片面(:缶外面となる面)に1.0~20.0g/㎡の錫めっき皮膜を有し,その上にリン量換算で0.1~10g/㎡のリン酸錫を主体とするリン酸塩皮膜を・・・有することを特徴とする加工性,塗料密着性,耐食性に優れた缶用片面樹脂被覆鋼板。」【請求項1】「リン酸塩皮膜の構造については,リン酸錫が主体であり,・・・リン酸塩皮膜の形成方法としては,一般的な塗布,浸漬法及び電解法があり,浴温度,電解条件を含め通常の条件で問題はなく,特に限定するものではない。」【0010】「実施例通常の方法で冷間圧延,及び焼鈍された低炭素冷延鋼板(1)に通常の方法で脱脂・酸洗を行った後,缶外面に相当する鋼板面については(2)及び(3)に示す条件で錫あるいは錫-亜鉛合金めっきを施し,更にその上に(4)に示す条件でリン酸塩皮膜を形成させた。」【0018】「(4)リン酸塩皮膜形成条件 (a)リン酸塩皮膜A ・NaH2PO4:100g/L ・H3PO4:30g/L ・ロール塗布・乾燥:150℃1分 (b) リン酸塩皮膜B ・NaH2PO4:100g/L ・H3PO4:30g/L ・Mg(H2PO4)2:10g/L ・ロール塗布・乾燥:150℃1分」【0019】b 本件特許2の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平7-286285号公報(乙51)には,次の記載がある(各項目末尾の【】は,同公報の段落番号を示す。)。 「本発明は鉄,あるいは鉄系合金の金属表面 出願日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平7-286285号公報(乙51)には,次の記載がある(各項目末尾の【】は,同公報の段落番号を示す。)。 「本発明は鉄,あるいは鉄系合金の金属表面,特にスズメッキした鉄の表面に化成皮膜を構成するのに使用する金属表面用化成処理水溶液に関する。」【0001】「上記のようなスズメッキ缶の化成処理の方法として,オルトリン酸及び/又はその塩をPO4換算で1~30g/l,シュウ酸及び/又はその塩をシュウ酸換算で0.005~5g/l,及び2価のスズイオンを0.005~0.5g/l含有し,pHが3~5の水溶液でスズメッキ缶を化成処理する方法が・・・記載されている。」【0003】「また,リン酸イオン1~50g/l,酸素酸イオン0.2~20.0g/l,スズイオン0.01~5.0g/l,縮合リン酸イオン0.01~5.0g/lを含有し,pH2~6からなる水溶液で化成処理する方法が,・・・記載されている。」【0004】「本発明は,上記従来の課題に鑑みてなされたものであり,その目的は,耐食性,塗膜密着性に優れた化成皮膜を金属表面に形成する金属表面用化成処理水溶液を提供することである。」【0009】「上記目的を達成するために,少なくともリン酸イオンとホスホン酸化合物とスズイオンとを含有し,かつpHが5.0以下である金属表面用化成処理水溶液を提供する。」【0010】「上記金属表面用化成書類水溶液において,第1成分のリン酸イオンの供給源は,オルトリン酸,又はその塩が挙げられる。」【0012】「本発明の化成処理水溶液をスズメッキした鉄等の金属表面に適用するには,まず金属表面を脱脂,水洗いし,次いで浸漬法,スプレー法などの任意の方法で化成 処理水溶液を塗布する。処理温度は,一般に常温 明の化成処理水溶液をスズメッキした鉄等の金属表面に適用するには,まず金属表面を脱脂,水洗いし,次いで浸漬法,スプレー法などの任意の方法で化成 処理水溶液を塗布する。処理温度は,一般に常温~80℃,好ましくは40℃~60℃である。また,処理時間は,通常約5秒~2分,好ましくは20~60秒である。そして,化成処理水溶液の塗布の後,水洗,純水による洗浄,乾燥の順で処理を完了する。」【0026】「本発明に係る金属表面用化成処理水溶液により,スズメッキ缶表面を処理すると,主に金属表面のスズメッキ層がリン酸及びホスホン酸化合物によってエッチングされ,スズイオンが化成処理浴中に溶出するが,このスズイオンはリン酸及びホスホン酸化合物と反応して不溶性のリン酸スズを形成する。このリン酸スズがスズメッキ缶の露出鉄面を化成皮膜として被覆する。」【0027】c 上記a及びbの記載によれば,少なくとも1重量パーセント程度のリン酸塩を含有する溶剤を用いてスズめっきの表面を処理することにより,スズめっき層のスズが溶出し,これがリン酸と反応してリン酸スズを形成し,このリン酸スズがスズめっきの表面を化成皮膜として被覆することは,本件特許2の出願日当時の技術常識であったものと認められる。 (イ) 相違点10-3についての検討a 相違点10-3は,「本件発明2-10は,『前記溶接部分の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されて』いるのに対し,引用発明2の『溶接部12』に『SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜』が形成されているか不明である点」である。 ここで,乙38公報には,前記1(1)アで認定したとおり,「前記洗浄装置20は,例えば,アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファ ているか不明である点」である。 ここで,乙38公報には,前記1(1)アで認定したとおり,「前記洗浄装置20は,例えば,アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって,コンデンサ用リード線1を洗浄する洗浄槽である。この洗浄装置20は,温度90℃~99℃の洗浄液でコンデンサ用リード線1を約12分間洗浄して,アルミニウム線11を脱脂したり,銅線10とアルミニウム線11とを溶接するときに発生するカーボンを除去する。」との記載があるところ(段落【0008】),「ファインクリーナ315」は,縮 合リン酸塩を25ないし30質量パーセント含有するアルカリ洗浄液であるから(乙49,56。これが希釈された溶液が洗浄に使用されるとしても,同溶液中のリン酸塩の濃度は少なくとも1重量パーセント程度になるものと解される。乙49,92,93参照。),上記(ア)に認定した本件特許2の出願日当時の技術常識に照らせば,乙38公報に記載されたコンデンサ用リード線1を温度90℃ないし99℃の温度で約12分間洗浄するとの処理を経ることにより,溶接部の少なくとも一部にリン酸スズ(SnPOX)からなる皮膜(原告は,争点1-3に関し,本件発明2-10にいう「SnPOX」が「リン酸スズ」を意味し,かつ,同発明にいう「皮膜」が「熱処理や溶剤処理によって形成される」「多くの格子欠陥を有する非結晶状態」であっても構わない旨主張している。)が形成されることは,当業者にとって自明というべきである(なお,「SnPO3.5」とも表記しうるピロリン酸スズ(Ⅱ)〔Sn2P2O7〕が安定な化合物として知られていることからして〔乙1〕,溶接部に形成されたリン酸スズの少なくとも一部は,「SnPOX(xは2~4を表す)」に当たる も表記しうるピロリン酸スズ(Ⅱ)〔Sn2P2O7〕が安定な化合物として知られていることからして〔乙1〕,溶接部に形成されたリン酸スズの少なくとも一部は,「SnPOX(xは2~4を表す)」に当たると合理的に推認できる。)。 b ところで,乙38公報には,「そして,コンデンサ用リード線1は,液回収装置21内でエアを吹き付けられて,水洗装置22内で洗浄液が洗い流される(洗浄液除去工程),次に,コンデンサ用リード線1は,遠心分離機23によって純水を除去された後に,エアブロー24によって純水が除去される。」(段落【0011】)などの記載があり,「ファインクリーナ315」による洗浄処理の後に洗浄液除去工程や水洗工程が予定されているが,乙51号証の段落【0026】にも,「化成処理水溶液の塗布の後,水洗,純水による洗浄,乾燥の順で処理を完了する。」との処理が記載されており,これにも関わらず,同【0027】のように,「このスズイオンはリン酸及びホスホン酸化合物と反応して不溶性のリン酸スズを形成する。このリン酸スズがスズメッキ缶の露出鉄面を化成皮膜として被覆する。」として,リン酸スズによる皮膜が形成されているのであるから,引用発明2のコンデンサ用リード線1は,洗浄処理に引き続く洗浄液除去工程や水洗工程を経た後にも, リン酸スズからなる皮膜を備えているものと認めるのが相当である。 また,本件発明2-10では,リン酸スズからなる皮膜を意図的に形成するためにタブ端子をリン系溶剤で洗浄するのに対し,乙38公報における「ファインクリーナ315」による洗浄は,同公報の段落【0008】にあるように,「アルミニウム11を脱脂したり,銅線10とアルミニウム線11とを溶接するときに発生するカーボンを除去する」ことを目的とするものであるから,洗浄工程の目的が異 ,同公報の段落【0008】にあるように,「アルミニウム11を脱脂したり,銅線10とアルミニウム線11とを溶接するときに発生するカーボンを除去する」ことを目的とするものであるから,洗浄工程の目的が異なっているが,工程の目的が異なっていたとしても,これによって得られる「物」が変わらないのであれば,「物」の発明としての同一性を否定することはできないところ,本件発明2-10に係る特許請求の範囲には,単に「前記溶接部分の少なくとも一部に,SnPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」と記載されているにとどまり,当該皮膜の厚みやリン量換算でどの程度のリン酸スズが形成されているべきかについては何らの限定も付していないのであるから,引用発明2のコンデンサ用リード線1と本件発明2-10のタブ端子を,この点において区別することは困難というほかはない。 c したがって,相違点10-3は,実質的な相違点とは認め難い。 エ相違点11について(ア) 本件特許2の出願日当時の技術常識a 本件特許2の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2002-161396号公報(乙52)には,次の記載がある(各項目末尾の【】は,同公報の段落番号等を示す。)。 「アウターリード部2の表面に錫-銀合金めっきを施した後,表面の洗浄を行い表面に付着しためっき液を除去し,熱風炉において電子部品用リードフレーム1に熱処理を行った。熱風の温度は70℃~210℃の範囲で任意に設定できる。70℃以下とすると加熱による効果が低く,210℃以上とすると錫-銀合金めっき皮膜8が溶融してしまうため好ましくない。・・・本実施の形態においては150℃で40秒間熱処理を行った。」【0068】 「続いて,錫-銀合金めっき皮膜8の最表面に形成された酸化層等 き皮膜8が溶融してしまうため好ましくない。・・・本実施の形態においては150℃で40秒間熱処理を行った。」【0068】 「続いて,錫-銀合金めっき皮膜8の最表面に形成された酸化層等をエッチングするために三リン酸ナトリウムを含む処理液で処理する。具体的には,濃度が120g/L,液温が60℃の三リン酸ナトリウム・12水和物水溶液に30秒間浸漬して,錫-銀合金めっき皮膜8の最表面の酸化層等をエッチングする。」【0069】「(実施例1)三リン酸ナトリウムを含む処理液で処理した後,更にリン酸化合物とカルボン酸化合物を含む溶液で錫-銀合金めっき皮膜8の表面を洗浄処理する工程を加えたこと以外は実施の形態1と同様にして電子部品用リードフレーム1を形成した。」【0085】「リン酸化合物としては,リン酸,三リン酸ナトリウム,リン酸水素二ナトリウム,亜リン酸,亜リン酸ナトリウム,亜リン酸水素ナトリウム,ピロリン酸ナトリウム等が用いられる。本実施例では濃度70g/Lの亜リン酸水素ナトリウムと,濃度30g/Lのピロリン酸ナトリウムと,カルボン酸化合物として,濃度40g/Lのピロリジン-2-カルボン酸とを含む60℃の水溶液に30秒間浸漬して処理した。」【0086】「更に本実施例においては,実施の形態1と同様の方法により結晶相の組成分析を行った。分析の結果,この錫-銀合金めっき皮膜8の結晶層はSn相,Ag4Sn相,Ag相の3相より構成されていることがわかった。」【0089】「更に本実施例においては,形成された錫-銀合金めっき皮膜8に含まれる物質の微量分析を行った。錫-銀合金めっき皮膜8の微量分析は,TOF-SIMS/PhysicalElectronics社製 TRIFTを使用した飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた。なお, れる物質の微量分析を行った。錫-銀合金めっき皮膜8の微量分析は,TOF-SIMS/PhysicalElectronics社製 TRIFTを使用した飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた。なお,一次イオン種Ga+,二次イオン種Positive/Negativeで測定した。分析の結果,この錫-銀合金めっき皮膜8表面には分子量31,63,79に相当するリン化合物P,PO2,PO3が測定された。」【0090】「(実施例2)めっきにより錫-銀合金めっき皮膜8を形成した後,その表面に 熱処理を行わないこと以外は実施例1と同様にして電子部品用リードフレーム1を形成した。」【0091】「更に本実施例においては,実施の形態1と同様の方法により結晶相の組成分析を行った。分析の結果,この錫-銀合金めっき皮膜8の結晶相はSn相,Ag4Sn相の2相により構成されており,これにより,熱処理することによりAg4Snは一部がAg,Snに変化することがわかった。」【0093】b 上記aの記載によれば,スズ-銀合金めっきの表面を70℃~210℃の範囲で熱処理するとAg4Snは一部がAg,Snに変化すること,その後,リン酸塩を含有する少なくとも60℃の溶剤を用いて少なくとも30秒間,錫-銀合金めっきの表面を処理することにより,その表面にリン化合物P,PO2,PO3が形成されることは,本件特許2の出願日当時の技術常識であったものと認められる。 (イ) 相違点11についての検討a 相違点11は,「『スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されて』いるのに対し,引用発明2のスズが存在する部分に『POX(xは2~4を表す)からなる皮膜』が形成されているか不明である点」である。 ここで,乙38公報には ~4を表す)からなる皮膜が形成されて』いるのに対し,引用発明2のスズが存在する部分に『POX(xは2~4を表す)からなる皮膜』が形成されているか不明である点」である。 ここで,乙38公報には,前記1(1)アで認定したとおり,「前記洗浄装置20は,例えば,アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって,コンデンサ用リード線1を洗浄する洗浄槽である。この洗浄装置20は,温度90℃~99℃の洗浄液でコンデンサ用リード線1を約12分間洗浄して,アルミニウム線11を脱脂したり,銅線10とアルミニウム線11とを溶接するときに発生するカーボンを除去する。」との記載があるところ(段落【0008】),「ファインクリーナ315」は,縮合リン酸塩を25ないし30質量パーセント含有するアルカリ洗浄液であるから(乙49,56),上記(ア)に認定した本件特許2の出願日当時の技術常識に照らせば,乙38公報に記載されたコンデンサ用リード線1を温度90℃ないし99℃の 温度で約12分間洗浄するとの処理を経ることにより,溶接部のスズが存在する部分において,スズ表面にリン化合物P,PO2,PO3からなる皮膜が形成されることは,当業者にとって明らかというべきである。 b なお,前記ウ(イ)bのとおり,乙38公報では,「ファインクリーナ315」による洗浄処理の後に洗浄液除去工程や水洗工程が予定されているが,乙52号証の段落【0069】にも,「更に,電子部品表リードフレーム1の側面に漏れた銀を電気的に除去し,洗浄した後乾燥させる。」との処理が記載されており,これと同様の処理による実施例1(同【0085】)においてスズ-銀合金めっき皮膜8表面にはリン化合物P,PO2,PO3が測定されたというので 除去し,洗浄した後乾燥させる。」との処理が記載されており,これと同様の処理による実施例1(同【0085】)においてスズ-銀合金めっき皮膜8表面にはリン化合物P,PO2,PO3が測定されたというのであるから,引用発明2のコンデンサ用リード線1は,洗浄処理に引き続く洗浄液除去工程や水洗工程を経た後にも,リン化合物P,PO2,PO3からなる皮膜を備えているものと認めるのが相当である。 また,本件発明2-11では,POX(xは2~4を表す)からなる皮膜を意図的に形成するためにタブ端子をリン系溶剤で洗浄するのに対し,前記ウ(イ)bのとおり,乙38公報における「ファインクリーナ315」による洗浄は,アルミニウムの脱脂及びカーボンの除去が目的となっているが,工程の目的が異なっていたとしても,これによって得られる「物」が変わらないのであれば,「物」の発明としての同一性を否定することはできないところ,本件発明2-11に係る特許請求の範囲には,単に「スズが存在する部分において,スズ表面にPOX(xは2~4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」と記載されているにとどまり,当該皮膜の厚みやリン量換算でどの程度のPOXが形成されているべきかについては何らの限定も付していないのであるから,引用発明2のコンデンサ用リード線1と本件発明2-11のタブ端子を,この点において区別することは困難というほかはない。 原告は,仮に,乙52号証にスズ-銀合金めっきをリン酸塩溶液で洗浄すればリン化合物が形成されることが記載されていたとしても,スズめっきにおいても同様にリン化合物が形成されるとは限らないと主張するが,乙52号証の段落【009 3】に記載されているとおり,スズ-銀合金めっきを熱処理することにより,Ag4Snは一部がAg,Snに変化するというのであるから 成されるとは限らないと主張するが,乙52号証の段落【009 3】に記載されているとおり,スズ-銀合金めっきを熱処理することにより,Ag4Snは一部がAg,Snに変化するというのであるから,スズめっきにおいてもリン化合物が形成されると考えるのが自然であって,原告の上記主張は採用することができない。 c したがって,相違点11は,実質的な相違点とは認め難い。 オ小括以上のとおり,本件発明2-10及び同2-11と引用発明2とを対比した相違点のうち,相違点10-3及び相違点11は実質的な相違点とは認め難く,相違点10-1及び同10-2については,本件特許2の出願日当時,当業者において引用発明2に上述した周知技術を適用して同相違点に係る構成とすることはいずれも容易想到であったというべきであるから,本件発明2-10及び同2-11は,本件特許2の出願日当時,いずれも当業者が引用発明2及び上述した周知技術に基づいて容易に発明することができたものと認められる。 (4) 原告の主張について原告は,要旨,従来,鉛フリーのリード線をタブ端子として用いる場合に,ウィスカの成長抑制とはんだ濡れ性との両立という課題があったところ,本件発明2-10及び同2-11は,ウィスカの発生機序に着目し,溶接部分の残留応力を取り除くばかりでなく,これに加え,溶接部分の表面にリン酸系化合物の皮膜を形成することにより,スズがディスロケーションによって結晶成長することを抑制し,ウィスカの発生を抑制できることを見いだしたものであると主張する。 しかしながら,溶接部分の表面にリン酸系化合物の皮膜を形成することにより,スズがディスロケーションによって結晶成長することを抑制したというのは,特許請求の範囲には記載のない発明の作用機序を主張するにとどまるものであ 接部分の表面にリン酸系化合物の皮膜を形成することにより,スズがディスロケーションによって結晶成長することを抑制したというのは,特許請求の範囲には記載のない発明の作用機序を主張するにとどまるものであって,「物」の発明であるところの本件発明2-10及び同2-11が,引用発明2とその構成において異なることを指摘するものとは認められないから,原告の上記主張を採用することはできない。 (5) 争点2-7の小括以上によれば,本件発明2-10及び同2-11は,本件特許2の出願日当時,引用発明2及び上述した周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから,これらの発明についての各特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の無効理由があるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができないから(特許法104条の3第1項),本件特許権2の侵害を原因とする原告の請求は,その余の争点につき判断するまでもなく,いずれも理由がない。 3 結論以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく,原告の本件請求にはいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 笹本哲朗 裁判官 笹本哲朗 裁判官 天野研司 (別紙1)被告製品目録 (1) 次の構造を有する電解コンデンサ用タブ端子。 1 図面被告製品の構造を図面で説明すると,次のとおりである。 図面中の符号1は丸棒部を,符号2はリード線部を,符号3は圧扁部をそれぞれ示しており,破線で囲まれた部分は丸棒部にリード線部が溶接された部分を示している。 2 構造被告製品は,アルミ芯線を用いて圧扁部と丸棒部を形成し,表面に鉛を含まないスズメッキを施したCP線又は銅線を用いたリード線を上記丸棒部に溶接することによって作製されている。 被告製品においては,上記溶接部分の表面に酸化スズ(SnO又はSnO2),SnPOX(xは2~4を表す)及びPOX(xは2~4を表す)が存在してい る。 以上の被告製品の構造を本件各発明に対応させて記載すると,次のとおりである。 【a】表面に鉛を含まないスズメッキを施したCP線または銅線を用いたリード線【b】端部に,圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる,【c】上記リード線と上記アルミ芯線との溶接部分の表面に酸化スズ(SnO又はSnO2),SnPOX(xは2~4を表す)及びPOX(xは2~4を表す))が存在する,【d】電解コンデンサ用タブ端子。 以上 (別紙3)特許4732181号公報(甲4号証) (別紙4)被告製品目録 (2) 次の品名及びロットNoを有する電解コン (別紙3)特許4732181号公報(甲4号証) (別紙4)被告製品目録 (2) 次の品名及びロットNoを有する電解コンデンサ用タブ端子。 ①SXTN-127366CBG(ロットNo:P11-40319-10)②AD22205N31AFP(ロットNo:472374)③JJV4116ANW(ロットNo:なし)④ETU0103CLW(ロットNo:F06-50714-01)⑤TRE2-09030-264B(ロットNo:F14-50701-01)⑥SXT-2010580(ロットNo.544019)⑦SXT-2010580C(ロットNo:475017)⑧SXT-127360F(ロットNo:574846)⑨SXT-127360C(ロットNo:575838)⑩FM11036K11BKL(ロットNo:584562)⑪FP125078D22CCQ(ロットNo:591845)以上

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