平成14(わ)42 凶器準備結集,業務上過失傷害,道路交通法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成14年10月3日 函館地方裁判所
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判決文本文7,997 文字)

平成14年10月3日宣告平成14年(わ)第42号,第79号凶器準備結集,業務上過失傷害,道路交通法違反被告事件 主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は,平成13月10月31日午前2時23分ころ,業務として普通乗用自動車を運転し,函館市d町e番f号付近道路をg町方面からh町方面に向かい時速約75キロメートルで進行するにあたり,前方左右を注視し,進路の安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,自車のバックミラーに気をとられ,前方を十分注視せず,進路の安全確認不十分のまま漫然前記速度で進行した過失により,進路前方で信号に従い停止していたX(当時26歳)運転の普通乗用自動車を前方約41.1メートルの地点に迫ってようやく認め,急制動の措置をとったが間に合わず,同車後部に自車前部を衝突させ,よって,同人に加療約2週間を要する頚椎捻挫の傷害を負わせた。 第2 被告人は,前記第1記載の日時場所において,前記第1記載のとおり交通事故を起こしたのに,直ちに車両の運転を停止して,前記Xを救護するなど法律の定める必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。 第3 被告人は,暴力団五代目A組B組Cの構成員であるが,同Cが後ろ盾となっている暴走族D傘下の暴走族E,同F,同G,同H及び同Iの各構成員らをして,かねて前記Dと対立抗争関係にあった暴走族J及びKの各構成員らの身体に対し危害を加えることを企て が後ろ盾となっている暴走族D傘下の暴走族E,同F,同G,同H及び同Iの各構成員らをして,かねて前記Dと対立抗争関係にあった暴走族J及びKの各構成員らの身体に対し危害を加えることを企て,前記Hの総長Tらと共謀の上,平成14年1月1日午前零時ころから同日午前2時30分ころまでの間,同市a町b番c号M境内において,木刀等の凶器を準備するとともに,前記D傘下の各暴走族構成員約30名に金属製パイプ,つるはし及びバタフライナイフ等の凶器を準備させ,その準備があることを知って集合させ,もって,他人の身体に対して共同して危害を加える目的をもって凶器を準備し,その準備があることを知って人を集合させた。 (事実認定についての補足説明) 1 弁護人は,判示第3の事実(凶器準備結集)について,①被告人は本件において実行行為を分担していないので,被告人に実行共同正犯は成立せず,また,②被告人は本件において正犯意思を有しておらず,共謀共同正犯の成立要件としての「共謀」の存在を認定することができないので,被告人には共謀共同正犯も成立しないと主張して,被告人の無罪を主張する。 そこで,当裁判所の判断を以下補足して説明する。 2 前掲関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1)本件当時,函館市内には,D系グループとJ系グループの2つの暴走族グループがあり,前者は,「E」,「F」,「G」の3つの暴走族で構成された「D」を中心として,その他「H」及び「I」といった暴走族で構成され,後者は,「J」及び「K」といった暴走族で構成されていた。 (2)被告人は,暴力団五代目A組B組C組員であり,「H」の後ろ盾であるいわゆる「ケツ持ち」を務めていた。 (3)「ケツ持ち」とは,暴力団組員が暴走族の後ろ盾としてその面倒を 族で構成されていた。 (2)被告人は,暴力団五代目A組B組C組員であり,「H」の後ろ盾であるいわゆる「ケツ持ち」を務めていた。 (3)「ケツ持ち」とは,暴力団組員が暴走族の後ろ盾としてその面倒を見ることであり,暴走族の構成員が他の暴力団の組員等と揉め事を起こした際には,暴走族に代わって前面に出てきて,その仲裁を担って揉め事を解決したりするものである。 (4)「D」の総長であるLと「J」の初代総長で暴力団五代目A組三代目P会Q組員であるNとは,以前から喧嘩をするなど対立していたところ,平成13年12月20日ころの深夜,U下において,L及びD系グループの構成員らとN及び「J」の構成員らとの間で喧嘩となり,LらはNらを痛めつけ,Nに怪我を負わせるなどした。そのため,「D」の「ケツ持ち」でC組員であるOと「J」及び「K」の「ケツ持ち」でQ組員であるRが,この喧嘩の収拾を付けるべく,話し合いを開始した。一方で,Oは,Lから,「J」や「K」の構成員らがNの仇を取るといきり立っているという報告を受けたことなどから,同月22日,Vで行われたD系グループ関係者の忘年会の席上,同会に出席したC組員やD系グループの構成員らの面前で,「Qの暴走族とうちの暴走族との間で,ちょっとしたいざこざがあった。もしかしたらQの暴走族が仕返ししてくるかもしれない。もしその時は,みんなで協力して,対応できるようにしてくれ。もし喧嘩になっても,こちらからは先には絶対手を出すなよ。」などと話した。 (5)被告人は,前記忘年会に出席しており,遅くともこの時点において,D系グループとJ系グループが険悪な雰囲気になっていることやOとRとの間で話し合いが持たれていることを認識した。 (6)「H」の総長であるTは, 年会に出席しており,遅くともこの時点において,D系グループとJ系グループが険悪な雰囲気になっていることやOとRとの間で話し合いが持たれていることを認識した。 (6)「H」の総長であるTは,同月30日夜,LないしはGの副総長兼親衛隊長であるSから,電話で,D系グループの暴走族が毎年恒例で行っている元旦未明のM境内での集会(通称「Mへの初詣」)の際に,J系グループの構成員らが凶器を準備してD系グループの構成員らを襲ってくるという情報がある旨伝えられ,「H」の構成員に,Mへの初詣に際しては凶器を準備して集合するように指示するよう伝えられた(なお,Tは,同月29日,被告人から,電話で,J系グループの襲撃計画を知らされ,これに備えて武器を準備しておくことなどを指示された旨供述するが,これを裏付ける証拠はこのT供述以外にないところ,一方で,「H」の構成員であるi,j及びkは,同月30日夜,T宅に集合していたのであるが,その際のLと思われる人物からのTへの電話連絡の直後に,初めてTからJ系グループの襲撃計画を知らされたと述べていること,J系グループへの対応について中心的に動いていたLやSですら同月29日の時点では具体的な対応策を詰めていなかったことなどに照らせば,このTの供述はにわかに信用することはできない。)。 (7)被告人は,同月30日夜,Tから,電話で,J系グループの襲撃計画について報告を受け,D系グループ側もこれに対抗するため武器を持って集合したいと考えており,武器があれば貸してほしい旨言われたところ,Tに対して,「俺の家にあるから取りに来い。」と言った。 (8)Tは,同日深夜,「H」の構成員であるi,lとともに,函館市m町の当時の被告人方に赴いたところ,被告人は,T い旨言われたところ,Tに対して,「俺の家にあるから取りに来い。」と言った。 (8)Tは,同日深夜,「H」の構成員であるi,lとともに,函館市m町の当時の被告人方に赴いたところ,被告人は,Tらに対して,前記被告人方にあった木刀3本,金属バット1本,木製バット2本を渡した(なお,被告人は,Tらに渡したバットは1本のみであると述べるが,T,i及びl,さらには,同人らがこれらをT宅に持って帰ってきた状況を見ていたj及びkは,いずれもTらが被告人方から持ってきたバットは,金属バット1本,木製バット2本である旨明確に供述しており,この被告人の供述は信用できない。)。その際,被告人は,Tらに対し,「H」の構成員全員がMへの初詣に行くのか尋ねたり,「お前ら,明日は殺す気で行け。Mには一般の人もいて,5分くらいしかできねえから,頭潰せ。頭潰せば下の奴はすぐ散る。頭と年上を狙え。」「武器は俺のところから持ってきたとは言うなよ。」などと言うなどした。その後,Tらは,被告人から渡された木刀等を持って,T宅に帰った。 (9)D系グループの構成員約30名は,相互に集合の手はずなどについて連絡を取り合ったL,S,Tらの指示により,同月31日午後11時20分ころ,同市a町のM近くのW駐車場に,木刀,金属バット,木製バット(以上は,Tらが被告人宅から持ってきたものを含む。),金属製パイプ,つるはし及びバタフライナイフ等の凶器を準備して集合し,Lは,同所において,凶器を持って集合した同構成員らに対して,いわゆる気合い入れをするなどした後,Mに同構成員らを移動させて,平成14年1月1日午前零時ころから同日午前2時30分ころまでの間,同所において,同構成員らを集合させ,この間,同じく凶器を準備し 合い入れをするなどした後,Mに同構成員らを移動させて,平成14年1月1日午前零時ころから同日午前2時30分ころまでの間,同所において,同構成員らを集合させ,この間,同じく凶器を準備して同所に集合したJ系グループの構成員らと睨み合いを続けるなどした。 (10)被告人とTは,TがW駐車場に向かう際やJ系グループの構成員らと睨み合っていた際,何度か電話でやりとりを行っており,その際,Tは,被告人に対して,状況について報告するなどし,被告人は,Tに対して,喧嘩に負けることのないよう話したり,武器が壊れてもその辺りに捨てないよう指示するなどした。 (11)D系グループの構成員とJ系グループの構成員らは,前記の睨み合いの後,互いに凶器を使用した乱闘に発展したが,その乱闘の後,Tら「H」の構成員数名は,被告人方に赴き,「H」の構成員の1人が警察に捕まったことなどを話し,その後,被告人方あるいは同じアパートの別室で,被告人あるいはTが,木刀やバットを被告人方から持って行ったことを警察に話さないよう「H」の他の構成員に指示するなどした。 3 以上の事実を前提として,被告人の罪責について検討する。 (1)まず,被告人がTらに渡した木刀3本,金属バット1本,木製バット2本が,凶器準備結集罪における「凶器」といえるかについて検討するに,同罪における「凶器」とは,銃や刀等のようにそれ自体人の殺傷を本来の用途として製造された器具又はその性状を有する物体(性質上の凶器)のほか,本来は他の用途のために製造された道具であるが,人の殺傷の器具として使用できるもの(用法上の凶器)も含み,用法上の凶器かどうかの判断は,当該器具自体の形状,性質,これを準備して集合する場合の状況,すなわち,集団の加害目的 た道具であるが,人の殺傷の器具として使用できるもの(用法上の凶器)も含み,用法上の凶器かどうかの判断は,当該器具自体の形状,性質,これを準備して集合する場合の状況,すなわち,集団の加害目的の意欲の程度,人数,暴力的性格の有無・程度,携帯の態様等具体的状況から判断して,外観上,生命・身体・財産に危害が加えられるのではないかという不安を人に抱かせるような危険物かどうかを基準として行うべきものと解される。 本件においては,被告人がTらに渡した木刀,バットが用法上の凶器と判断できるか否かが問題となるところ,弁護人は,Tらが平成14年12月31日深夜ないし元旦未明にMないしはその近辺に結集し,その際に当該木刀やバットをいつでも取り出してこれを使用できる状態で携行するという段階に至ったような場合であれば,その段階以降,これら木刀やバットを用法上の凶器と認定することに何ら問題はないが,被告人がTらに木刀やバットを渡した段階においては,その日時・場所の関係から,これらの物が住民の生命・身体・財産に危害を及ぼす危険性を持ったものとはいい難く,用法上の凶器と認定することは許されない旨主張する。確かに,弁護人の主張するような凶器性についての段階的認定自体は,準備した器具自体の形状,性質等から見て凶器性の認定が微妙な場合の認定方法としては1つの採りうる方法ではある(例えば,①角材の柄付きのプラカード,②先端部分に旗が取り付けられている旗竿等が実際に凶器として使用される段階で凶器性を認める場合などが考えられよう。)。しかしながら,本件のような木刀やバットについては,その形状や性質について見ると,そもそも殺傷能力や凶器への転用の蓋然性はいずれも比較的高いものであると認められる上, 考えられよう。)。しかしながら,本件のような木刀やバットについては,その形状や性質について見ると,そもそも殺傷能力や凶器への転用の蓋然性はいずれも比較的高いものであると認められる上,本件においては,その翌日に予想されていた対立暴走族との抗争に備え,いざ抗争になった場合には相手方に危害を加えるべく使用する目的で木刀やバットの授受がなされていることが認められるのであり,これらに照らせば,被告人がTらに渡した木刀やバットは,その渡した時点において見ても,外観上,生命・身体・財産に危害が加えられるのではないかという不安を人に抱かせるような危険物であると評価することができ,したがって,用法上の凶器に当たるものと認められる。 (2)次に,被告人が木刀やバットをTらに渡した行為を,凶器準備結集罪における凶器の「準備」といえるかについて検討するに,弁護人は,被告人の当該行為は,計画されている共同加害行為とは場所的にも時間的にも接着性を有しない状況下での物の貸与行為であり,Tらが後に行う予定の凶器準備行為の準備行為とでも評すべきものに過ぎないとして,凶器準備結集罪における凶器の「準備」と評価することはできないと主張する。しかしながら,凶器準備結集罪における凶器の「準備」とは,凶器を必要に応じて,いつでも当該加害目的を実現するために使用できる状態におくことをいい,集合の場所と準備しておく場所が一致していることまでは必要とされないと解されるところ,前記の認定事実によれば,被告人は,集合の前日(約24時間前)に,集合場所と遠隔地にはない同じ市内において,まさに集合場所に赴く予定となっていたTらに,凶器として木刀やバットを渡しているのであり,してみれば,その被告人の行為は,T 約24時間前)に,集合場所と遠隔地にはない同じ市内において,まさに集合場所に赴く予定となっていたTらに,凶器として木刀やバットを渡しているのであり,してみれば,その被告人の行為は,Tらにおいて,凶器を必要に応じて,いつでも当該加害目的を実現するために使用できる状態においたものと評価することができ,凶器準備結集罪における凶器の「準備」に当たるものと認められる。 (3)以上によれば,被告人は,凶器準備結集罪における「凶器の準備」行為を行っているのであり,同罪の実行行為の一部を分担していることが認められ,加えて,被告人はその実行行為時において本件D系グループの構成員の集合の経緯や状況等について十分把握していたものと認められること,被告人の「H」の「ケツ持ち」としての立場,前記認定のとおりの被告人とTのやりとりや被告人の本件前後の言動等に照らせば,Tらの行った他のD系グループの構成員の集合行為なども含めて,被告人は本件凶器準備結集行為について共同実行の意思を有していたものと認められる。したがって,被告人には,判示のとおりの罪責を認めることができる。 (法令の適用)罰条第1の行為平成13年法律第138号による改正前の刑法211条前段第2の行為救護義務違反の点平成13年法律第51号による改正前の道路交通法117条,道路交通法72条1項前段報告義務違反の点道路交通法119条1項10号,72条1項後段第3の行為刑法60条,208条の3第2項科刑上一罪の処理(観念的競合)第2の罪刑法54条1項前段,10条(1罪として重い救護義務違反罪の刑で処断)刑種の 刑法60条,208条の3第2項科刑上一罪の処理(観念的競合)第2の罪刑法54条1項前段,10条(1罪として重い救護義務違反罪の刑で処断)刑種の選択第1,第2の罪いずれも懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第1の罪の刑に法定の加重)執行猶予刑法25条1項(量刑の理由)本件は,被告人が,赤信号で停止中の車両に追突して,同車の運転者に傷害を負わせ(業務上過失傷害。第1の犯行),かかる交通事故を起こしたのに,被害者を救護したり,警察に法定の事項を報告することなく,その場から逃走し(道路交通法違反。第2の犯行),また,暴力団の組員であり,暴走族のいわゆる「ケツ持ち」を務める被告人が,暴走族の総長らと共謀して,凶器を準備するとともに,凶器の準備があることを知って,暴走族のメンバーを集合させた(凶器準備結集。第3の犯行)事案である。 業務上過失傷害については,被告人は,時速約75キロメートルという比較的高速度で自動車を運転しながら,前方を十分注視せずに進行したため,前方で信号に従い停止中の被害車両を認めてブレーキをかけたものの間に合わず,同車に追突する交通事故を惹起しているのであり,被告人の過失は重大である。被害者は,加療約2週間を要する頚椎捻挫の傷害を負っており,本件の結果も決して軽いものではない。道路交通法違反については,被告人は,前記のとおりの交通事故を起こしたにもかかわらず,被害者の状況等を慮ることもなく,そのまま現場から逃走したのであり,その行為は自己中心的で身勝手なものといえる。 凶器準備結集については,被告人は,自分が「ケツ持ち」を務める暴走族が対立暴走族の襲撃を受けるかもしれな こともなく,そのまま現場から逃走したのであり,その行為は自己中心的で身勝手なものといえる。 凶器準備結集については,被告人は,自分が「ケツ持ち」を務める暴走族が対立暴走族の襲撃を受けるかもしれないという情報を得て,その応戦のための木刀やバットといった凶器を暴走族構成員らに渡しているのであり,その犯行動機は暴力団特有の発想であって酌量の余地は乏しく,本件において被告人の果たした役割も重大なものであるといえる。本件が,初詣客や近隣住民等に与えた恐怖感や不安感は大きく,また,多くの未成年者を犯罪に巻き込んでおり,その犯行結果も重大である。さらに,被告人は,自分が凶器を暴走族構成員らに渡したことを秘匿するよう同構成員らに指示するなどしており,この点についても犯情悪質である。被告人は,現役の暴力団員として活動しており,その生活状況は芳しくなく,本件に関して,真摯な反省の態度は窺えない。 以上によれば,被告人の刑事責任は重い。 他方,被告人の母親が被告人の更生に協力する旨述べていること,未だ22歳と若年であること,前科を有していないこと,業務上過失傷害,道路交通法違反については,被告人は,事故の約1時間半後に警察に自首していること,被害者には保険金が支払われており,同人は,被告人に対して厳しい処罰を求めていないことなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。 そこで,これらの諸事情を総合考慮して,主文のとおりの刑を量定した上,今回は,被告人に対する刑の執行を猶予することとした。 (求刑懲役3年)平成14年10月3日函館地方裁判所刑事部裁判官高橋康明 部裁判官 高橋康明

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