- 1 -平成30年10月4日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(ワ)第4107号職務発明の譲渡対価請求事件口頭弁論終結日平成30年7月6日判決原告 P1 同訴訟代理人弁護士伊原友己同加古尊温被告アステラス製薬株式会社同訴訟代理人弁護士難波修一同向 宣明 同大江耕治同朝倉亮太同訴訟復代理人弁護士安部雅俊 主文 1 被告は,原告に対し,4728万4116円及びこれに対する平成28年2 月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,2億円及びこれに対する平成28年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要- 2 -本件は,藤沢薬品工業株式会社(以下「藤沢薬品」という。)及び同社を吸収合併した被告の従業員であった原告が,被告に対し,藤沢薬品が設定登録を受け,現在被告が特許権者である後記本件特許(外国の特許を含む。)に関して,特許法35条(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)3項又はその類推適用に基づき,特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利を含む。以下同 じ。)を藤沢 特許を含む。)に関して,特許法35条(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)3項又はその類推適用に基づき,特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利を含む。以下同 じ。)を藤沢薬品に譲渡したことによる平成16年4月1日(平成16年度)以降に藤沢薬品及び被告が受けるべき利益を基礎とする相当の対価の未払分の一部2億円及びこれに対する請求の後の日である平成28年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 なお,被告は,本案前の答弁として,不起訴合意等を理由に原告の訴えを却下す ることを求めるほか,本案の答弁として,原告の請求を棄却することを求めている。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,本判決における書証の掲記は,枝番号の全てを含むときはその記載を省略する。)(1) 当事者等 ア原告(昭和33年11月24日生)は,昭和59年3月に九州大学薬学部薬学研究科修士課程を修了し,同年4月,藤沢薬品に入社し,同月から平成7年3月まで,特薬事業部の研究開発部門(特薬研究所)に在籍していた。そして,原告は,同年4月,知的財産部に異動し,平成19年9月30日,早期退職優遇制度により,藤沢薬品を吸収合併した被告を退職した(乙31)。 イ山之内製薬株式会社は,平成17年4月1日,藤沢薬品を吸収合併し,商号を現在の被告の商号に変更した。 ウ P2は,昭和63年3月に京都大学工学部修士課程を修了し,同年4月,藤沢薬品に入社し,原告の所属するチームで研究に従事していた(甲37)。 エ P3は,平成元年3月に金沢大学薬学部を卒業し,同年4月,藤沢薬品 に入社し,平成2年4月から原告やP2の所属するチーム 薬品に入社し,原告の所属するチームで研究に従事していた(甲37)。 エ P3は,平成元年3月に金沢大学薬学部を卒業し,同年4月,藤沢薬品 に入社し,平成2年4月から原告やP2の所属するチームで研究に従事していた- 3 -(甲37)。 オ P4は,昭和57年4月,藤沢薬品に入社し,昭和60年6月から平成11年3月まで,特薬事業部の特薬研究所に在籍し,薬理効果(薬効)の評価を担当するなどし,平成28年2月,被告を退職した(乙33)。 (2) 本件特許の出願等 ア原告は,藤沢薬品での在職中,その職務として,他の従業員と共同して,次の各特許(以下,これらをまとめて「本件特許」という。)に係る発明(以下「本件発明」という。)をし,その特許を受ける権利を藤沢薬品に譲渡した(なお,後述のとおり,その時期や譲渡(承継)の方法については,当事者間に争いがある。)。そして,藤沢薬品は,この発明について特許出願をし,本件特許に係る特 許権(以下,これらをまとめて「本件特許権」といい,我が国の特許の出願の願書に添付された明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)の設定登録がされて,藤沢薬品が特許権者となり,上記(1)イの吸収合併により,本件特許権が被告に承継された。 なお,外国の特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題については,我が国の 法律を準拠法とするのが当事者双方の意思であると認められ,そうでないとしても,当該権利の譲渡の当時において譲渡に最も密接な関係がある地は我が国であると認められるから,我が国の法律が準拠法になるというべきである(法の適用に関する通則法7条,8条1項)(甲1,2)。 (ア) 我が国の特許 特許番号特許第2874342号発明の名称デプシペプチド誘導体,その製法お というべきである(法の適用に関する通則法7条,8条1項)(甲1,2)。 (ア) 我が国の特許 特許番号特許第2874342号発明の名称デプシペプチド誘導体,その製法およびその用途発明者原告,P2,P3及びP4出願日平成5年3月8日優先権主張番号特願平4-92070 (以下「本件基礎出願1」という。)- 4 -優先日平成4年3月17日優先権主張番号特願平4-305093(以下「本件基礎出願2」という。)優先日平成4年10月15日登録日平成11年1月14日 特許請求の範囲別紙「本件特許の特許請求の範囲」記載のとおり(イ) 外国の特許上記(ア)の特許に対応する外国の特許は,別紙「実施許諾対象特許国一覧」の「ⅰ.第2874342号(本件特許)関連」記載のとおりであり,藤沢薬品は,各国においてその特許出願をし,特許権の設定登録がされた。 イ従来技術(ア) 明治製菓株式会社(以下「明治製菓」という。)は,平成2年2月6日,次の特許(以下「明治製菓特許」という。)に係る発明について特許出願をした(特願平2-25176)。これらの発明は,駆虫活性を有する新規化合物,その製造方法及び駆虫剤に関するものであり,請求項1及び2は,PF1022,後 にPF1022Aと表記されるようになった化合物(以下「PF1022A」という。)の物質発明であり,請求項3は,PF1022Aの微生物を用いた発酵による製法発明であり,請求項4は,PF1022Aの用途発明である(乙16)。 発明の名称環状デプシペプチド物質およびその製造法,ならびにそれを含有する駆虫剤 優先権主張平成元年 る製法発明であり,請求項4は,PF1022Aの用途発明である(乙16)。 発明の名称環状デプシペプチド物質およびその製造法,ならびにそれを含有する駆虫剤 優先権主張平成元年2月7日特願平成1-26739公開日平成3年2月15日(イ) 藤沢薬品は,平成3年8月23日,PF1022Aの全合成法に関する発明について,特許の出願をし(特願平3-295294),これを基礎出願として,優先権の主張を伴う次の特許の出願をした(特願平4-194250)(甲 42)。 - 5 -発明の名称デプシペプチド誘導体の製造法発明者原告及びP2優先権主張番号特願平3-295294優先日平成3年8月23日ウ本件特許は駆虫活性を有する新規デプシペプチド誘導体に関するもので あり,次の各発明に係るものである(甲2)。 (ア) 物質発明・請求項1:同項記載の一般式で示される化合物又はその塩に係る物質発明・請求項2ないし6:請求項1をさらに特定した物質発明 ・請求項7:請求項1に係る発明の一実施態様である化合物(PF156742,一般名エモデプシド。以下,この化合物を「本件化合物」ということがある。)に係る物質発明(以下,本件化合物に係るこの発明を「本件物質発明」という。)。本件化合物は,PF1022AのD-フェニル乳酸部分のフェニル基のパラ位(p位)がモルフォリノ基により置換されたものである。 ・請求項8:請求項1に係る発明の一実施態様である別の化合物(PF155617)に係る物質発明(イ) 製法発明(別紙「本件化合物の合成過程」の1枚目参照)請求項9ないし11は,PF1022Aから本件化合物及び請求項8記載の化合物を合成(半合 の化合物(PF155617)に係る物質発明(イ) 製法発明(別紙「本件化合物の合成過程」の1枚目参照)請求項9ないし11は,PF1022Aから本件化合物及び請求項8記載の化合物を合成(半合成)する工程の一部ずつに関する製法発明である。 ・請求項11:PF1022A又はその塩をニトロ化反応に付す工程(上記別紙の1枚目の工程1,本件明細書中の製造法2)に関する製法発明。 ・請求項9:請求項11によって合成された化合物又はその塩を還元反応(同工程2,同製造法3)に付して合成された化合物又はその塩を,環状アルキル化反応に付す工程(同工程3,同製造法5)に関する製法発明。この工程によっ て合成される化合物が本件化合物である。 - 6 -・請求項10:請求項11によって合成された化合物又はその塩を還元反応(同工程2,同製造法3)に付して合成された化合物又はその塩を,アルキル化反応に付す工程(上記別紙には記載なし,同製造法4)に関する製法発明。この工程によって合成される化合物が請求項8記載の化合物である。 (ウ) 用途発明 ・請求項12:請求項1記載の化合物又はその塩を有効成分とする駆虫剤・請求項13:本件化合物又はその塩を有効成分とする駆虫剤本件特許は,本件基礎出願1(乙94の1)及び本件基礎出願2(甲14,乙94の2)に基づく優先出願に係るものであるが,本件基礎出願2では本件基礎出願 1から対象化合物の範囲が拡大され,本件化合物は本件基礎出願2の明細書の実施例5において追加され,その駆虫活性が記載された。PF1022Aから本件化合物の半合成による製造方法については,本件基礎出願2の明細書において上記別紙の1枚目の工程1ないし3が記載されたが,工程3によって本件化合物を製造した実施例は記載されておら F1022Aから本件化合物の半合成による製造方法については,本件基礎出願2の明細書において上記別紙の1枚目の工程1ないし3が記載されたが,工程3によって本件化合物を製造した実施例は記載されておらず,本件化合物を実際に製造した実施例5は,同明細書の 製造例32ないし40及び製造法1から成る全合成の製造方法を用いたものであった。以上に対し,本件特許では,請求項を上記のようなものとしたほか,本件化合物の関係では,本件明細書において,実際に工程3によって本件化合物を製造した実施例31を追加し,これにより半合成法による本件化合物の製法発明は完成発明として開示された(以下,本件化合物に係る物質発明,製法発明及び用途発明をま とめて「本件化合物に係る発明」といい,この発明に係る特許を「本件化合物に係る特許」という。)。 エ本件特許について,我が国を含む一部の国で,別紙「実施許諾対象特許国一覧」の「ⅰ.第2874342号(本件特許)関連」記載のとおり,「延長後満了日」欄記載の日まで,存続期間の延長登録がされた。なお,本件の口頭弁論終 結時までに本件特許の存続期間は全て満了している。 - 7 -(3) 別件特許の出願等ア藤沢薬品は,別紙「別件特許一覧」記載1及び2に係る発明についても,各発明者から特許を受ける権利を譲り受けて特許出願をし,特許権の設定登録がされた。 また,この特許に対応する外国の特許は,別紙「実施許諾対象特許国一覧」の 「ⅱ.第●(省略)●号関連」及び「ⅲ.第●(省略)●号関連」記載のとおりであり,藤沢薬品は,各国においてその特許出願をし,特許権の設定登録がされた(以下,それぞれ外国の特許を含め,「別件特許1」,「別件特許2」という。)(乙95,96)。 イ藤沢薬品は,別紙「別件 ,藤沢薬品は,各国においてその特許出願をし,特許権の設定登録がされた(以下,それぞれ外国の特許を含め,「別件特許1」,「別件特許2」という。)(乙95,96)。 イ藤沢薬品は,別紙「別件特許一覧」記載3の特許(以下「別件特許3」 という。)に係る発明についても,発明者から特許を受ける権利を譲り受けて特許出願し,特許権の設定登録がされた(乙97)。 ウ藤沢薬品は,別紙「別件特許一覧」記載4の特許に係る発明についても,発明者から特許を受ける権利を譲り受けて,我が国及び外国において特許出願し,我が国では拒絶査定がされたが,別紙「実施許諾対象特許国一覧」の「ⅴ.●(省 略)●関連」記載のとおり,外国では特許権の設定登録がされた(以下,これらの特許を「別件特許4」といい,別件特許1ないし4をまとめて「別件特許」という。)(甲22,乙98)。 (4) 本件ライセンス契約の締結藤沢薬品とドイツ連邦共和国に本店のあるバイエルAG(以下「バイエル」と いう。)は,平成10年4月27日,次の内容のライセンス契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結した。そして,通常実施権等の設定について必要な登録がされた(甲1,乙1,12,なお和訳は被告が付したものによる。)。 ●(省略)●(5) バイエルによる本件化合物に係る特許の実施及びロイヤルティ等の支払 アバイエルによる一時金の支払- 8 -バイエルは,本件ライセンス契約に基づき,藤沢薬品又は被告に対し,一時金(ライセンス料等)として,次の合計●(省略)●円を支払った。 ●(省略)●イバイエルによる本件化合物に係る特許の実施バイエルは,各国において必要な製造販売承認を得るなどして,平成17年 以 して,次の合計●(省略)●円を支払った。 ●(省略)●イバイエルによる本件化合物に係る特許の実施バイエルは,各国において必要な製造販売承認を得るなどして,平成17年 以降,別紙「FR156742を含有するバイエルの製品」記載のとおり,順次,我が国及び外国において,本件化合物を有効成分の1つとして含有するペット(イヌ・ネコ)用の駆虫剤(プラジカンテル又はトリトラズリルとの合剤。以下,これらの製品をまとめて「バイエル製品」という。)の製造販売を開始した。 また,バイエルは,バイエル製品を製造するに当たり,PF1022Aを原料と して,本件特許のうち本件化合物の製法発明を実施することによって,本件化合物を製造してきた(なお,被告はバイエル製品の製法について不知と認否しているが,原告の主張立証に対して具体的な反論・反証をしているわけではなく,下記書証は乙76等の証拠とも整合的であるから,下記書証によって上記事実を認定することができる。)。 したがって,バイエルは,本件特許のうち本件化合物に係る発明部分を実施している(甲22ないし24の2)。 ウバイエルによるロイヤルティの支払バイエルは,平成17年以降,平成28年までの間に,本件ライセンス契約に基づき,被告に対し,別紙「実施料収入計算表(改訂第2版)」記載のとおり, ロイヤルティ(実施料)を支払った(平成28年までの総額は●(省略)●円)。 もっとも,バイエル製品は本件特許の出願・本件特許権の設定登録がされていない国においても販売されているほか,本件特許権の存続期間が満了した国においても販売されているところ,これらの非登録国及び存続期間満了後における販売に係るロイヤルティを控除すると,被告が支払を受けたロイヤルティは合計●(省略) ,本件特許権の存続期間が満了した国においても販売されているところ,これらの非登録国及び存続期間満了後における販売に係るロイヤルティを控除すると,被告が支払を受けたロイヤルティは合計●(省略) ●円(うち,我が国における販売に係るロイヤルティは合計●(省略)●円である- 9 -から,外国における販売に係るロイヤルティは合計●(省略)●円である。なお,以上はバイエルから●(省略)●金額。)である。 (6) 職務発明に対する補償に関する社内規程ア従来,藤沢薬品には,職務発明に対する補償金に関する社内規程は存在しなかったところ,平成11年10月1日,藤沢薬品において「職務発明取扱規 定」が施行された。この規定では,発明者に対して出願時補償及び登録時補償を行うことが規定されている(実績補償は定められていなかった。)が,遡及適用に関する定めはなかったため,本件発明には適用されない(乙5)。 イ藤沢薬品において,平成13年4月1日,「職務発明実績補償制度」が導入された。もっとも,この制度では,第三者への特許等のライセンスによって収 入を得た場合,第三者から受領する実施料を算定対象として補償金を支払うこととされているにすぎず,第三者から受領する一時金は算定対象とされていなかった(乙2の1,7)。 ウ藤沢薬品において,平成15年1月1日,次の内容の「職務発明実績補償規則」(以下「平成15年施行規則」という。)が施行された(乙2)。 ●(省略)●エ被告は平成17年4月1日に藤沢薬品を吸収合併したところ,同日,被告において,次の内容の「職務発明規程」が施行された(ただし,平成19年7月26日に改訂された。)(乙13)。 ●(省略)● (7) 藤沢薬品又は被告から原告に対する ところ,同日,被告において,次の内容の「職務発明規程」が施行された(ただし,平成19年7月26日に改訂された。)(乙13)。 ●(省略)● (7) 藤沢薬品又は被告から原告に対する補償金の支払ア原告は,藤沢薬品に対し,平成14年7月15日付けの「ご通知」(甲6の2。以下「本件通知書」という。)を交付し,藤沢薬品はこれを受けて,原告と協議した。そして,原告と藤沢薬品は,平成15年2月25日,次の内容の合意をし,確認書(以下「本件確認書」という。)を作成し,原告は,藤沢薬品から平 成15年施行規則に基づく補償金として●(省略)●円を受領した(甲6の2,乙- 10 -3。なお,以下では「甲」を藤沢薬品,「乙」を原告と読み替える。)。 「第1条原告が藤沢薬品に対して平成14年7月15日付通知書にて行った,FR156742の発明(以下,『本件発明』という。)に関する特許法35条3項所定の『相当の対価』の請求(以下,『本件請求』という。)について,原告は,藤沢薬品に対し,藤沢薬品が制定した職務発明実績補償規則(以下,『本規則』と いう。)に定める補償金の算定方式により『本件発明』により藤沢薬品が平成15年1月の時点で得ている収入から算定される平成15年1月迄の補償金を,『本件発明』の発明者である原告の適切な処遇の一環として受領することを了解し,『本件請求』に基づき訴訟等の行為は行わないことを確認する。 第2条藤沢薬品は,原告に対して,藤沢薬品が今後原告に関して行う賃金,昇 進,配置転換及びその他の処遇等に関する決定において,『本件請求』があったことを不利益な要素として考慮しないことを確認する。 第3条藤沢薬品及び原告は,『本件請求』に関する問題は円満に解決したことを確認し,今後,相互の適切な協調関 る決定において,『本件請求』があったことを不利益な要素として考慮しないことを確認する。 第3条藤沢薬品及び原告は,『本件請求』に関する問題は円満に解決したことを確認し,今後,相互の適切な協調関係の育成に努めるものとする。」イその後,藤沢薬品は,平成15年施行規則により補償金算定上の発明者 貢献割合が引き上げられたことに伴い,平成16年度において,原告に対し,平成15年施行規則に基づく平成13年度から平成15年度までの追加補償金として●(省略)●円を支払った。 また,被告は,同様に実施による利益の有無等の検討を行った上で,平成21年3月,原告に対し,平成17年の職務発明規程に基づく平成16年度から平成19 年度までの実施時補償金として●(省略)●円を支払い,原告は,特許法の規定に基づき不足額があると判断した場合は不足額を請求するとの留保を付した上でこれを受領した(甲13,15の2,16,17)。 また,被告は,原告に対し,実施による利益の有無等の検討を行った上で,平成23年11月に,平成17年の職務発明規程に基づく平成20年度から平成22年 度までの実施時補償金として●(省略)●円の支払を提示し,また,平成26年1- 11 -2月には,平成17年の職務発明規程に基づく平成23年度から平成25年度までの実施時補償金として●(省略)●円の支払を提示したが,原告が異議申立てをしたこともあり,支払に至っていない(甲13,18ないし21)。 (8) 消滅時効の援用被告は,本件訴訟の第1回弁論準備手続期日(平成28年8月30日)におい て準備書面(1)(同月5日付け)を陳述し,第6回弁論準備手続期日(平成29年5月10日)において準備書面(6)(同年4月28日付け)を陳述して,原告に対し,本件で原告が請求 月30日)におい て準備書面(1)(同月5日付け)を陳述し,第6回弁論準備手続期日(平成29年5月10日)において準備書面(6)(同年4月28日付け)を陳述して,原告に対し,本件で原告が請求対象とする請求権(以下「本件請求権」という。)全てについて消滅時効を援用するとの意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点 被告は本案前の答弁をしているところ,(1)及び(5)はこれに係るものである。 (1) 不起訴の合意の成否(争点1)(2) 本件発明に係る相当の対価の額(争点2)(3) 和解契約の成否(争点3)(4) 消滅時効の成否(争点4) ア本件請求権の消滅時効の起算日(争点4-1)イ被告が本件請求権について消滅時効を援用することは信義則に反するか(争点4-2)(5) 平成29年以降の利益を基礎とする相当の対価の請求の可否(争点5)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(不起訴の合意の成否)について(被告の主張)(1) 原告は,平成15年2月25日,藤沢薬品との間で,本件確認書(乙3)を作成し,藤沢薬品が社内規程である平成15年施行規則に従った補償金を原告に支払い,その後も当該規則に従って算定された補償金を原告に支払うことを条件に, 原告は本件請求権について訴訟等の行為を行わないとする合意をした。 - 12 -本件確認書の第1条において,明確に,「『本件請求』に基づき訴訟等の行為は行わないことを確認する。」と記載されているから,これは「不起訴の合意」に当たる。 そして,特許法35条3項に基づく相当の対価請求権は,その全部が特許を受ける権利の使用者への承継時に発生すると理解されており,本件通知書の「特許法第35条第3項所定の『相当の対価』として」の記 。 そして,特許法35条3項に基づく相当の対価請求権は,その全部が特許を受ける権利の使用者への承継時に発生すると理解されており,本件通知書の「特許法第35条第3項所定の『相当の対価』として」の記載は,本件請求権の全てを対象と したものである。 しかも,この合意後の藤沢薬品の対応は合意内容に沿ったものであり,原告がこれに対して異議を述べたことは一切なく,最初の補償金も何らの異議を述べることなく受領した。原告と藤沢薬品は,両者が十分に協議を重ね,それぞれで利害得失を検討した上で上記合意を締結しており,上記合意を締結するまでの事実関係及び 上記合意を締結した後の双方の対応に照らせば,上記合意は,原告の有する本件請求権の全部について,原告が訴えを提起しないことを合意したものであるといえる。 (2) 原告は上記合意が本件請求権の一部についての合意である旨主張しているが,原告が平成14年にした相当の対価の請求は,本件請求権の全部を請求したものであり(少なくとも,将来の分も含めた請求ではないとの趣旨が本件通知書(甲 6)の文面から明らかであったとは言い難い。),藤沢薬品もそのようなものと理解した上で原告に回答し,原告と藤沢薬品はそのような前提で上記合意をした。 また,平成14年当時,職務発明に対する「相当の対価」請求権を巡る判例・学説は,現在以上に混沌とした状況にあった。当時の状況下では,本件請求権の全てが遅くとも平成14年10月15日の経過をもって時効消滅するリスクは確かに存 在したのであり,このリスクを前提とすれば,本件請求権全てを上記合意によって解決することは,当時の原告にとって合理性があったといえる。他方で,藤沢薬品としても,上記合意によって従業員である原告との間の紛争を全面解決することが望ましかった。このように, てを上記合意によって解決することは,当時の原告にとって合理性があったといえる。他方で,藤沢薬品としても,上記合意によって従業員である原告との間の紛争を全面解決することが望ましかった。このように,上記合意によって本件請求権全てを全面的に解決することが当事者双方にとって合理性のあるものであったことからしても,上記合意が 本件請求権の全部についての合意であったことは明らかである。 - 13 -(3) 以上より,原告による本件訴えは不適法であり,速やかに却下されるべきである。 (原告の主張)被告の主張は否認し,争う。 本件確認書は,あくまでも原告が藤沢薬品に対して対価請求を行った甲6の通知 に対するものである。甲6の通知は,本件発明に係る特許を受ける権利を藤沢薬品に承継した時から平成14年7月15日までの期間(甲6にはその旨明記してある。)の対価を請求するものである。請求額もそれまでの確定金額を元に算出されたものであった。原告は本件確認書締結の時点では,平成15年1月末までの期間分を了解したにすぎず(本件確認書にもその旨明記されている。),本件確認書の射程 もその期間分にしか及んでいない。 2 争点2(本件発明に係る相当の対価の額)(原告の主張)(1) 相当対価の額は,これまでに多くの裁判例で用いられてきている次の式に従って算定するのが相当である。 藤沢薬品及び被告が受けるべき利益の額×(1-藤沢薬品及び被告の貢献した程度)×共同発明者間の貢献度=相当対価の額(2) 藤沢薬品又は被告が受けた(受けるべき)利益の額藤沢薬品又は被告が平成16年度以降に受けた(受けるべき)利益の額は,次のとおりである。なお,原告は,藤沢薬品が平成15年までに受けた一時金収入に 係る利益額に基づ た(受けるべき)利益の額藤沢薬品又は被告が平成16年度以降に受けた(受けるべき)利益の額は,次のとおりである。なお,原告は,藤沢薬品が平成15年までに受けた一時金収入に 係る利益額に基づく対価請求はしていない。 ア一時金収入合計●(省略)●円であり(前記第2の2(5)ア(オ)及び(カ)),これらもライセンス収入に変わりはないから,その全額をもとに相当対価の額を算定すべきである。 イ実施料収入- 14 -別紙「実施料収入計算表(改訂第2版)」記載の平成28年までの実施料の金額については争わない。平成29年以降の実施料は,平成26年度から平成28年度までの実施料の平均値によるべきである。 被告は「商標ライセンス」の収入を独占の利益から排除して考えるべきと主張しているが,被告はその存在すら説明できていないし,商標ライセンスというのはあ まりにも作為的である。これも本件発明の禁止権の効力により藤沢薬品及び被告が取得したものにすぎず,バイエルで実施されている本件化合物に係る発明の対価であるから,それも特許ライセンスのロイヤルティであり,それを含めて相当対価の額を算定すべきである。 また,被告は●(省略)●として,独占の利益に含まれない旨主張しているが, これも本件発明があって得られたものであり,かつバイエルの市場独占をより強固なものとする取引によって得られた利益であるから,これも含めて独占の利益を算定すべきである。 (3) 発明をするに当たり使用者等が貢献した程度ア本件化合物に係る発明の完成まで (ア) PF1022Aの全合成原告は,平成3年2月か3月頃,明治製菓によるPF1022Aの欧州特許出願が公開されていることを知り,この化合物をリード化合物とし,その誘導体を合成 まで (ア) PF1022Aの全合成原告は,平成3年2月か3月頃,明治製菓によるPF1022Aの欧州特許出願が公開されていることを知り,この化合物をリード化合物とし,その誘導体を合成すれば,より活性が強い化合物ができるのではないかと考え,駆虫薬として全く新規な構造を有するこの化合物に強い興味を持つようになった。 しかし,この公開公報から立体構造は全く分からず,原告はこれを明らかにし,その駆虫作用を検討することに躊躇を覚えていた。そのような中,同年4月11日,「明治製菓が発見-動物の寄生虫だけに薬効」との表題の日本工業新聞の記事の中に,新しい寄生虫駆除物質は3種類の化合物が環状に結合した構造を有しているなどとの表現があり,この記事の情報と上記欧州特許出願の内容とを結びつけること により,PF1022Aの立体構造を推定し,これを有機化学的に合成し,シード- 15 -化合物としての適性があるのか判断しようと考えるに至った。 その後,原告は,同年5月末から,PF1022Aの全合成に取りかかり,同年6月中旬にこれを完成した。この全合成による製造方法は,世界で初めてのものであり,その後の環状デプシペプチド誘導体の合成研究を全世界的にリードするものであったし,その誘導体研究の際,軽微な変更点はあったものの,本件化合物に関 する研究につながった駆虫薬の探索研究の最後まで用いられた。 (イ) 本件化合物に係る発明の完成原告はPF1022Aの全合成方法を用いて,その構造活性相関を調べるために合成を行い,平成4年5月初め,●(省略)●部分の誘導体合成計画(甲46)をまとめ,特薬研究所のP5に報告した。この計画の中で●(省略)●化合物 が本件化合物であり,原告はその時点で本件化合物に係る発明を着 成4年5月初め,●(省略)●部分の誘導体合成計画(甲46)をまとめ,特薬研究所のP5に報告した。この計画の中で●(省略)●化合物 が本件化合物であり,原告はその時点で本件化合物に係る発明を着想していたことになる。 そして,原告は,同年8月中旬にPF1022Aの16倍の駆虫活性を有する本件化合物を合成し,この時点で本件化合物の物質発明及びその駆虫薬としての用途発明を完成した。 その後,原告は,各フラグメントからの合成方法(全合成法)ではコストがかかることを懸念し,明治製菓との共同研究も視野に入れ,PF1022Aから本件化合物を合成する方法の検討を開始し,その結果,同年8月にPF1022Aを直接ニトロ化し,そのニトロ基を還元してアミノ基にする製造方法の発明を完成させた。 さらに,原告は,平成5年1月,アミノ基を環状アルキル化し,モルフォリノ基を PF1022Aに導入し,本件化合物のPF1022Aからの製造方法に係る発明を完成した。 (ウ) 以上のように,原告が本件化合物に係る発明を完成させるに当たっての藤沢薬品の貢献は,社員であれば誰もが利用できる各種情報の提供及び入社した研究者であれば与えられる研究環境の提供のみであった。 イ本件化合物に係る発明の実施化- 16 -バイエルとの本件ライセンス契約は,藤沢薬品の権利主張が最大限認められた形で成立した。これは,バイエルが本件化合物に係る発明の価値を高く評価していたからにほかならない。そして,本件化合物に係る発明は,バイエルによりその可能性の全容が明らかにされ,その技術力によって製品化がなされた。治験等の多大な負荷がかかる作業もバイエルが行った。 藤沢薬品及び被告は,製品化に対して何らの寄与もしておらず,それらの貢献は,バ 性の全容が明らかにされ,その技術力によって製品化がなされた。治験等の多大な負荷がかかる作業もバイエルが行った。 藤沢薬品及び被告は,製品化に対して何らの寄与もしておらず,それらの貢献は,バイエルに本件化合物に係る発明を実施許諾したこと及び同発明に関する特許を維持管理したこと(ただし,これは,ルーティンな事務管理であり,特段,貢献などと呼べるものではない。)に留まる。 ウ以上より,藤沢薬品及び被告の貢献は,さしたるものではなく,その程 度は,契約一時金については,本件化合物に係る発明の初期段階の研究開発で負担した経費の補償をするという側面があるので,80%である。これに対し,実施料は本件化合物に係る発明の対価であるから,実施料についての藤沢薬品及び被告の貢献は,70%である。 (4) 共同発明者間の貢献度 本件特許の特許公報で発明者として記載されているP2及びP3は,原告の指示の下(甲44,45),本件化合物でない他の化合物を合成したにすぎない。また,同じく発明者として記載されているP4は,原告の指示の下,薬理研究者として原告らが合成するなどした化合物の薬理活性を測定したにすぎない。その意味において,本件化合物の合成をなし得たのは,原告だけであり,他の発明者は,その側面 的なサポートの域を出るものではなく,本件発明に対する貢献は形式的なものである。換言すれば,本件発明は,原告が単独で着想し,合成に成功し,完成させたものである。 したがって,原告の発明への貢献度は,少なくとも95%を下回ることはない。 (5) 被告の主張について ア被告はバイエルに対してライセンスした発明やノウハウには様々なもの- 17 -が含まれる旨主張しているが,バイエルで実施されているのは本件 。 (5) 被告の主張について ア被告はバイエルに対してライセンスした発明やノウハウには様々なもの- 17 -が含まれる旨主張しているが,バイエルで実施されているのは本件化合物に係る発明であって,これが藤沢薬品や被告に大きな利益をもたらしているのであるから,同発明について検討することで足りる。そもそも,各国の薬事法制の承認を得るためのデータ等は,バイエルが取得したのであり,藤沢薬品の提供データなど顧慮されていない。 イ被告はバイエルの事業努力について指摘しているが,藤沢薬品や被告はバイエルと共同開発契約を締結しておらず,バイエルでの実施化に全く関与していない。 そして,本件発明は藤沢薬品が社を挙げて取り組んだプロジェクトではないから,被告がその成功確率の高低を論じることができるような事案ではない。 ウ被告のその他の下記主張のうち原告の主張に反するものは,否認し,争う。 (被告の主張)(1) 藤沢薬品又は被告が原告主張の一時金及び実施料の支払を受けたこと,原告が本件発明を完成させたこと,バイエルが本件化合物を有効成分の1つとして含 有する駆虫剤を販売していることは認める。原告のその余の主張は不知又は否認し,争う。 (2) 本件では,原告と藤沢薬品の間で相互に相手方の意向も確認しつつ,承継の対象となる権利の具体的な内容や価値についても考慮した上で,原告が平成14年にした請求を解決するためのものとして,平成15年施行規則が制定・施行され たのであり,最高裁平成15年4月22日判決・民集57巻4号477頁のような事情はないから,本件はその判決及びその他関連裁判例の射程外である。 したがって,本件における相当対価の額は平成15年施行規則に従って算出されるべきであるから, 決・民集57巻4号477頁のような事情はないから,本件はその判決及びその他関連裁判例の射程外である。 したがって,本件における相当対価の額は平成15年施行規則に従って算出されるべきであるから,同規則に従って藤沢薬品及び被告が原告に補償金を支払い,又は支払の提供をしてきた以上,原告の本件請求には理由がない。 (3) 仮に本件が上記最高裁判決の射程内であり,過去の裁判で用いられた計算- 18 -式に従って算出するという前提に立つとしても,次のとおり,相当対価の額は藤沢薬品及び被告が原告に支払い,又は支払の提供をしてきた金額を上回ることはないので,やはり原告の本件請求には理由がない。 ア 「相当の対価」の算定方法(算定式)特許法35条3項の「相当の対価」は,本来特許を受ける権利が従業者等か ら使用者等に対して承継された時に定められるべきであり,「受けるべき利益」とは,特許を受ける権利を承継した時点での利益である。したがって,「相当の対価」を算定するに当たって考慮される「受けるべき利益」とは,承継した時点において,変動の可能性(不確実性)をも織り込んだ価値として認定されるべきものである。 具体的には,本件では,①独占の利益(藤沢薬品及び被告が受けるべき利益の 額)×②発明者の貢献度×③共同発明者間の寄与度×④成功確率を踏まえた調整=相当対価の額という式に拠るべきである。 イ独占の利益(藤沢薬品及び被告が受けるべき利益の額)(ア) 契約一時金についてa 契約一時金の実質は,●(省略)●なお,藤沢薬品においては,本 件ライセンス契約の締結後も,●(省略)●は行われており,●(省略)●円を超えていた。)●(省略)●であった。したがって,そもそも,契約一時金については,「特許を受ける権利を独占す ては,本 件ライセンス契約の締結後も,●(省略)●は行われており,●(省略)●円を超えていた。)●(省略)●であった。したがって,そもそも,契約一時金については,「特許を受ける権利を独占することによって受けることが見込まれる利益」とはいえず,「独占の利益」の算定基礎に含むべきではない。 b 仮に,契約一時金が「独占の利益」算定の基礎に含まれ得るとして も,「独占の利益」の算定に当たっては,上述の藤沢薬品が負担した●(省略)●を,一時金収入から控除すべきである。原告は,平成16年度以降の対価を請求しているから,「独占の利益」算定の基礎となる契約一時金収入は,●(省略)●円である。 そして,個別の一時金収入ごとに当該収入から控除される●(省略)●を観念すると,●(省略)●として,●(省略)●を控除すべきであるから,実際に算定に供 する契約一時金は,●(省略)●円にとどまる。 - 19 -また,本件ライセンス契約において藤沢薬品からバイエルに実施許諾ないし譲渡された対象は,原告による職務発明のみではないから,契約一時金収入のうち,原告による職務発明が寄与する率である●(省略)●ないし●(省略)●%(後記(イ)b参照)を乗じた金額が,本件における「独占の利益」となる。 (イ) 実施料(ロイヤルティ)収入について a 本件ライセンス契約の対象本件ライセンス契約は,単なる特許ライセンス契約ではなく,原告が発明者の一人である本件特許に加え,別件特許4件(うち,原告が発明者ではないものは3件),「ノウハウ」(いわゆるノウハウのみならず,●(省略)●を含むものとして規定されている。)及び商標についても,バイエルに対して実施権を認める(な いし譲渡する)という,いわゆる技術導出契約である。本件ライセンス契約の対象と みならず,●(省略)●を含むものとして規定されている。)及び商標についても,バイエルに対して実施権を認める(な いし譲渡する)という,いわゆる技術導出契約である。本件ライセンス契約の対象となったものは,以上のとおり多岐にわたるのであり,本件の実施料収入は,その全てに対する対価として設定されている。したがって,本件訴訟において問題とされるべき「独占の利益」は,本件の実施料収入のうち,原告が共同発明者間の一人となっている本件特許が寄与したと考えられる分に限定される。 b 本件特許の寄与度(a) 日本における実施料収入被告がバイエルより得ている実施料収入のうち,●(省略)●は商標ライセンス収入である。したがって,これは原告による職務発明と関わりがない収入であるから,「独占の利益」から排除して考えるべきである。 次に,契約上,実施料収入のうち●(省略)●%は,藤沢薬品及び被告が,バイエルに許諾した特許を●(省略)●を条件として支払われるものであるため,その趣旨は,●(省略)●であると考えられる。特許法における「独占の利益」は,単なる通常実施権を超えたものの承継により得た法的独占権に由来する法的実施の利益であるから,バイエルから得ている日本での実施料のうちの●(省略)●%は, 「独占の利益」には含まれない。 - 20 -さらに,化合物の研究開発を進めるに当たって,当該化合物を今まで研究してきた藤沢薬品に蓄積されていた膨大なノウハウが極めて重要であることはいうまでもない。本件ライセンス契約の付属文書F(別紙「付属文書F(本件ノウハウ)」)に記載されているノウハウには,●(省略)●も含まれているのであり,藤沢薬品がバイエルに対して上記ノウハウを提供したことは,バイエルによる,より迅速な製 品開発及び上市 書F(本件ノウハウ)」)に記載されているノウハウには,●(省略)●も含まれているのであり,藤沢薬品がバイエルに対して上記ノウハウを提供したことは,バイエルによる,より迅速な製 品開発及び上市につながり,本件製品の売上増に直結した。したがって,実施料のうち●(省略)●%分に相当する程度の寄与があるとみるべきである。 最後に,本件ライセンス契約の対象となった特許は5つあるが,本件特許はそのうちの1つにすぎない。本件特許を除く4つの特許は,いずれも周辺特許の位置付けであり,本件特許の寄与度が5つの中で相対的に大きいことは事実であるが,周 辺特許といえども,その貢献度はゼロではない。本件特許とその他の特許(別件特許)との貢献度を数値化すると,以下のとおりとなる。 ●(省略)●したがって,本件特許の寄与度は多くとも●(省略)●%と考えるべきである●(省略)●。 よって,本件における実施料収入に占める本件特許の寄与度は,以下のとおり,売上の●(省略)●%となり,全実施料収入の約●(省略)●%である。 (計算式) ●(省略)●(b) 日本以外の国における実施料収入●(省略)●%が含まれないことを除き,上記(a)と同様に計算し,そ の寄与度は●(省略)●%である。 (計算式) ●(省略)●c その他控除すべき実施料外国対応特許がない国には「独占の利益」が認められないから,それらの国における売上は「独占の利益」から控除すべきである。また,一部の外国にお ける本件特許に対応する外国特許は既に満了しており,当該国における当該国対応- 21 -特許期間満了後の売上は,本件特許によって独占的に得られた利益ではないと考えられるから,これも「独占の利益」から控除すべきである。 (ウ) 結論以上より,平成1 おける当該国対応- 21 -特許期間満了後の売上は,本件特許によって独占的に得られた利益ではないと考えられるから,これも「独占の利益」から控除すべきである。 (ウ) 結論以上より,平成16年4月1日から平成29年3月31日までの「独占の利益」は,●(省略)●円である(計算式記載の実施料収入につき前記第2の2(5) ウ参照)。 (計算式) ●(省略)●ウ使用者貢献度等以下に示すような事情に照らせば,原告を含む発明者の貢献度は多くとも1%であり,藤沢薬品及び被告等の貢献度は99%を下回ることはない。 (ア) 原告が本件特許の物質発明を完成するに至る経緯藤沢薬品は,遅くとも,平成元年には,会社事業として,駆虫薬事業に関する研究開発を行うことを決定し,特薬事業部内の動物薬研究チームにて,研究開発を行うこととなった。もっとも,当時,獲得した駆虫薬の効果を適切に評価するための評価系を確立することができておらず,この点が大きな課題であったが,P 4は平成2年4月以降順次,種々の駆虫薬の効果を評価するためのスクリーニング評価系を構築した。 原告は,当時,特薬事業部で駆虫活性を有する化合物を合成する職務に就いていたが,満足する活性を有する化合物は得られていなかったところ,平成3年4月,特薬事業部より提供された明治製菓の研究に関する新聞記事をきっかけとして,同 事業部において,PF1022Aの合成を試みた。同化合物を評価してみることは,良いシード化合物を探し求めていた当時の状況では極めて自然な流れであり,研究者として通常試みる駆虫薬を創出するというテーマの一行為に過ぎない。そして,原告は,同年6月までに,PF1022Aの全合成を完成させた。 PF1022Aについて評価系にて効果が確認されたことから,藤沢薬品 て通常試みる駆虫薬を創出するというテーマの一行為に過ぎない。そして,原告は,同年6月までに,PF1022Aの全合成を完成させた。 PF1022Aについて評価系にて効果が確認されたことから,藤沢薬品の特薬 事業部の動物薬研究チームでは,同年7月から,PF1022Aをシード化合物と- 22 -した,PF1022Aの誘導体の合成研究を開始した。 シードとなる化合物の誘導体合成研究においては,一般的に,一つの化合物をシードとする誘導体はその可能性として多数存在する一方で,誘導体の効果は実際に合成して薬理評価を経てみなければ分からないことから,それらの誘導体のどの部位を修飾すると高い活性の化合物が得られるかを見出すためには,誘導体の合成と 薬理評価とを繰り返す必要があり,薬理評価を行うためには評価系が極めて重要となる。そして,合成研究の結果,本件化合物が合成された。 (イ) PF1022Aの全合成法の完成についてPF1022Aの全合成方法の発明については,原告の貢献が関係者の中で最も大きかったが,公知物であるPF1022Aの効果を検証するために用いら れたにすぎないし,同発明は本件発明とは別の発明であって,本件特許とは別に特許出願がなされている。したがって,本件において,上記の事情を必要以上に考慮すべきではない。 また,原告の主張によれば,原告がPF1022Aの立体構造を推定し,合成を開始したことに何ら困難性はないし,逆合成法は,有機化合物の合成ルートを考え る際に有機合成の化学者であれば通常行うことであるから,原告の独創性は認められず,2週間で完成に至ったPF1022Aの全合成方法の発明自体の困難性が高かったともいえない。そもそも,PF1022Aのような構造の化合物は,限られた反応のみを用いる単純なペプチド合成 性は認められず,2週間で完成に至ったPF1022Aの全合成方法の発明自体の困難性が高かったともいえない。そもそも,PF1022Aのような構造の化合物は,限られた反応のみを用いる単純なペプチド合成の技術で合成可能であり,逆合成法のような検討をするまでもなく,容易に合成できる種類の化合物である。したがって,P F1022Aの全合成法の完成は,原告の貢献度を高める事情にはならない。 (ウ) 原告の発明は,藤沢薬品及び同社の他の従業員の協働なしには生まれ得なかったこと上述したとおり,駆虫薬の研究開発を特薬事業部として行うことを決定したのは藤沢薬品であり,当時特薬事業部で駆虫活性を有する化合物を合成する職務 に就いていた原告は,終始藤沢薬品の設定した研究開発の枠内で,PF1022A- 23 -の誘導体である本件化合物に係る物質発明及び製法発明を完成させた。また,原告が本件化合物を完成させるためには,P4の構築した評価系が必要不可欠であったが,当該評価系をまず構築するよう動いたのは,藤沢薬品の貢献である。さらに,●(省略)●を修飾した化合物を合成し,その化合物の評価結果から,駆虫活性が向上する可能性があるという,PF1022Aの構造変換の方向性に関する知見を 見出したのはP2である。同事業部において,この知見に基づき,●(省略)●を修飾した多くの化合物を合成し,その化合物の中から,最も駆虫活性が高い化合物として,P4により構築された評価系により選別された化合物が本件化合物(PF1022Aにおける●(省略)●を導入した誘導体)である。このように,原告は,共同発明者であるP2の見出した知見を基に,本件化合物を見出したのである。 以上のとおり,本件物質発明は,藤沢薬品・特薬事業部として駆虫薬をテーマとして採択したこと 。このように,原告は,共同発明者であるP2の見出した知見を基に,本件化合物を見出したのである。 以上のとおり,本件物質発明は,藤沢薬品・特薬事業部として駆虫薬をテーマとして採択したことに加え,原告以外の他の従業員の協働なしには生まれ得なかったものであるといえる。これらの点は,原告の貢献度を低める事情であると同時に,藤沢薬品の貢献度を高める事情である。 (エ) 医薬品の開発・事業化に関する貢献について a 藤沢薬品による各種検証実験の実施及び本件化合物の導出(ライセンス)動物用医薬品の新薬の開発においては,長い年月をかけて,基礎研究,非臨床試験,臨床試験の過程を通じて,法律の厳格な規制に従い,有効性,安全性,品質及びこれらに関連する化合物の化学的性状,体内動静,製造・試験方法等が, 多種かつ膨大な量の試験等により,多額の費用をかけて検討・実施され,その後,国に対する製造販売承認申請後,当局による厳格な審査を受けて,製造販売承認を得てはじめて上市され,実際に使用できる医薬品が誕生する。これらの種々の試験には,長期間かつ多額の費用を要するほか,分子生物学,薬理学,合成化学,薬物動態学,毒物学,分析化学,臨床医学等に関する極めて専門性の高い研究者が多数 関与することになる。そして,基礎研究の段階で合成される数多くの化合物のうち,- 24 -上記のような過程に耐えて,医薬品として承認を取得して上市されるものの数は極めて少ない。したがって,化合物が合成された後に,実際に医薬品として上市され,売上の面でも成功するに至るまでの様々なハードルを,誰がどのようにクリアしたのかという点については,全体の貢献度を見る上で十分に考慮されなければならない。 藤沢薬品では,本件化合物が合成され,開発化合物の候補 に至るまでの様々なハードルを,誰がどのようにクリアしたのかという点については,全体の貢献度を見る上で十分に考慮されなければならない。 藤沢薬品では,本件化合物が合成され,開発化合物の候補として選ばれた後も,当該化合物を駆虫薬用の医薬品として開発するために様々な評価試験を行い,そのために多大な人的・物的資源を費やした(特薬研究所における業務時間につき,乙11参照。特薬事業部の企画部や営業部等の経費はこれに含まれていないし,当然ながら,外部機関に対する委託費用も藤沢薬品が支払っている。)。これらの評価試 験により集積されたデータの一部は,本件ライセンス契約においてバイエルに対して引き継がれ,バイエルによる製品開発に大いに貢献することとなった。かかる評価試験の実施及びデータの取得は,藤沢薬品の貢献として高く評価される必要がある。 また,藤沢薬品が本件化合物を自社で開発することについては,製造コストに関 する課題及び駆虫薬開発のノウハウや経験がほとんどなく,医薬品として本件化合物の開発・上市による事業化を単独で行うことが事実上できないという課題があった。そのため,本件化合物を医薬品として事業化するためには,PF1022Aの物質特許を保有している明治製菓及びその他のグローバルに展開する企業との協働は不可欠であった。かかる状況を踏まえ,藤沢薬品,明治製菓及びバイエル間で共 同開発及び協働での事業化に向けた協議と検討を重ね,最終的には本件ライセンス契約の締結に至ったが,その実現に向けた協議や検討は,特薬事業部企画部を中心に行っており,原告はこれに何ら関与していない。かかる協議及び検討に費やした時間は,少なくとものべ●(省略)●時間を下らない(乙11)。また,藤沢薬品が希望する経済条件をバイエルが拒絶し,交渉が頓挫する っており,原告はこれに何ら関与していない。かかる協議及び検討に費やした時間は,少なくとものべ●(省略)●時間を下らない(乙11)。また,藤沢薬品が希望する経済条件をバイエルが拒絶し,交渉が頓挫する可能性も十分に存したが, バイエルからの要望を受けて●(省略)●や,本件化合物を合成するための各種ノ- 25 -ウハウ,●(省略)●等もライセンス対象に含めることで,何とか本件ライセンス契約の締結に至ったのである。これらは全て藤沢薬品の貢献として評価される必要がある。 b 本件ライセンス契約締結後の藤沢薬品によるデータやサンプルの提供等 藤沢薬品は,本件ライセンス契約締結後もバイエルと頻繁に会議等を行い,バイエルからの本件化合物に関する様々な質問に回答するだけでなく,バイエルからの要請を受けて,本件化合物の開発・上市に有用なデータを提供するべく,新たに試験を実施してその結果をバイエルに報告したり,結晶サンプルをバイエルに提出したりした。そして,藤沢薬品がバイエルに提供したデータ等が,バイエル によって本件化合物の開発・上市のために利用された。このように,藤沢薬品は本件ライセンス契約締結後も,本件化合物の開発・上市への寄与を継続していたのであり,この点は藤沢薬品の貢献として評価される必要がある。 c バイエルによる開発バイエルによる開発及び実際の製品化に至るまでには,本件化合物単独 では薬効が弱いという問題や,本件化合物はやや毒性が強く,かつ中枢移行性が認められるため,一定の量を超えて投与した場合に動物の中枢神経に障害を与えるリスクがあるという問題が存在した。前者については,プラジカンテルとの合剤とすることで,より多様な駆虫効果を得ることが可能となり,後者については,スポットオン製剤(経口 動物の中枢神経に障害を与えるリスクがあるという問題が存在した。前者については,プラジカンテルとの合剤とすることで,より多様な駆虫効果を得ることが可能となり,後者については,スポットオン製剤(経口ではなく,皮膚に直接薬剤を垂らすことで,皮膚部位から吸収さ せる種類の製剤)としたり,徐放製剤としたりすることで克服した。 このように,バイエルにおいては,本件化合物の導入後,その開発・上市に向けて,様々な困難に直面し,その困難を克服するためにバイエルが尽くした努力について,藤沢薬品が提供したデータやノウハウが寄与した面はあるが,原告はこれに特段関与していない。 そして,相当対価の額を算出する際の「貢献度」を検討する際には,上記の点で- 26 -のバイエルの貢献は,藤沢薬品における貢献と同様に,原告の貢献度を相対的に低める事由として考慮される必要がある。仮に,原告が主張するように使用者である藤沢薬品の貢献のみが考慮されるのだとしても,バイエルによる問題解決に藤沢薬品のデータやノウハウの提供が寄与した点で藤沢薬品の貢献が認められるし,藤沢薬品と無関係に独自の知見等でバイエルが問題を解決した面があるとすれば,その ような知見等を具備した導出先たるバイエルを契約交渉相手として見出して本件ライセンス契約を締結したことが藤沢薬品の貢献として評価されなければならない。 d バイエルによる製造販売承認の取得及び営業努力製造販売承認を取得するためには,臨床試験データをはじめとする膨大な量のデータを当局に提出する必要があり,バイエルが承認を取得するために費や した時間や費用が膨大なものであったことは容易に想像が付く。また,バイエルは,承認を取得した後も,製品の売上を拡大するために広告宣伝活動や営業担当者による営業活動等 承認を取得するために費や した時間や費用が膨大なものであったことは容易に想像が付く。また,バイエルは,承認を取得した後も,製品の売上を拡大するために広告宣伝活動や営業担当者による営業活動等の営業努力を行っていた。バイエルによる承認の取得がなければ本件製品が販売されることはなく,また,バイエルによる営業努力がなければ,これらの製品が現実に上げることのできた売上は実現できなかったはずである。したがっ て,実際の製品売上に対するバイエルの貢献は甚大であり,かかるバイエルの貢献が,藤沢薬品における貢献と同様に,原告の貢献度を相対的に低める事由として捉える必要があること,仮に原告が主張するように,使用者である藤沢薬品の貢献のみが考慮されるのだとしても,製造販売承認の取得や積極的な営業活動をする資源や能力を持つバイエルに導出したことについての藤沢薬品の貢献として評価されな ければならない。 e 特許の出願・取得・維持管理藤沢薬品は,本件特許に係る各国特許庁への出願業務を行った。その過程では,欧州で特許庁から拒絶理由を受けて,明細書に記載されていない化合物の追加の薬理試験データを取得し,これを提出して特許取得に至ることなどもあった。 また,特許取得後もその維持管理業務は藤沢薬品又は被告において行っている。こ- 27 -れらの業務に原告は関与しておらず,藤沢薬品又は被告の貢献を高める事情として考慮されなければならない。 エ発明者間貢献度本件発明は原告とP2,P3及びP4との共同発明であるところ,以下のとおり,原告の本件発明への貢献度は,多くとも●(省略)●%を上回ることはない。 (ア) P4の貢献ある化合物が合成できたとしても,その駆虫薬としての活性を評価するための評価系がなければ,それ自体を評価する 発明への貢献度は,多くとも●(省略)●%を上回ることはない。 (ア) P4の貢献ある化合物が合成できたとしても,その駆虫薬としての活性を評価するための評価系がなければ,それ自体を評価することができず,それ以降の駆虫薬研究において,どの部位をいかに修飾することで構造変換を進めるべきかという方向性を見出すことができない。 P4の貢献は,土壌線虫やラット毛様線虫を用いた評価系をはじめとする駆虫薬評価系を構築したことである。特に,化合物の活性を評価する(同じ化合物であれば同じ効果が得られるということの確認を含む。)ための新たなスクリーニング評価系を構築するために,土壌線虫やラット毛様線虫を入手して飼育し,その上で,これらを同一条件で感染させるに当たって,当該寄生虫の中間宿主をいかに飼育する か等について,関連文献等において開示されている内容の追試等では不足する部分を創意工夫し,試行錯誤を重ねることでその構築に至ったという点が,特に重要である。その結果,化合物の効率的な評価が可能となったのであり,本件における駆虫薬のスクリーニングと開発は,P4により構築された評価系があって初めてなされ得たものである。 (イ) P2及びP3の貢献a 化合物合成への貢献度を検討する際には,●(省略)●という要素に分けて検討することが有益であると考えられるところ,●(省略)●に関して,確かに原告の貢献によるところが少なくないことは認められるとしても,P2及びP3にも,両者が合成した化合物の知見等に基づく一定程度の貢献が認められる。 b 本件では,初期段階で行われたPF1022A誘導体合成において- 28 -ほとんどの誘導体でPF1022Aよりも駆虫活性が減弱していたところ,本件化合物の完成へとつながる構造変換は,●( b 本件では,初期段階で行われたPF1022A誘導体合成において- 28 -ほとんどの誘導体でPF1022Aよりも駆虫活性が減弱していたところ,本件化合物の完成へとつながる構造変換は,●(省略)●を有する化合物(●(省略)●)の駆虫活性がPF1022Aと比較して大幅に向上することが見出されたことが契機となったものであるが,これはP2によって合成されたものである。また,当初の合成アプローチでは,合成可能な誘導体が限られていたが,P2が誘導体合 成に効果的な合成法(具体的には,実施例17,21,22において用いられている中間体の合成法であり,エポキシド類の立体を制御した開環反応のこと。本件特許における製造例59,93及び101を指す。)を開発したことで,より多様な誘導体合成が,より短期間で可能となった。 また,P2は乙77ないし79の大量合成方法を考案し,原告らが当初発明した 合成方法では解決できなかった収率,副生成物の有無,残存副生成物の安全性,反応条件,生成の容易さとコストなどの多くの課題を解決し,●(省略)●合成することに成功した。かかる大量合成方法によって製造された●(省略)●がバイエルに提供され,バイエルにおける製品化に貢献したのである。それだけでなく,P2の考案した合成方法は,藤沢薬品が直面していた本件化合物の製造に関する問題を 解決する一助となったことは明確であって,その意味でも貢献があったというべきである。 c また,本件特許の対象は本件化合物だけでなく多数の化合物も含まれており,実施化(実施化合物の合成)については,本件特許における実施例31例のうち,原告により合成されたものは●(省略)●例であり,●(省略)●例が P2(●(省略)●例)又はP3(●(省略)●例)により合成されている。 )については,本件特許における実施例31例のうち,原告により合成されたものは●(省略)●例であり,●(省略)●例が P2(●(省略)●例)又はP3(●(省略)●例)により合成されている。 d さらに,P3は,特薬研究所のP6の特許戦略に基づいて,具体的な化合物の合成作業を行い,本件化合物だけでない,PF1022A誘導体の広い特許化に貢献した。 (ウ) 以上を前提に検討すると,まず薬理評価を担当した発明者1名(P 4)に少なくとも●(省略)●%の寄与度が認められるから,化合物の合成に関与- 29 -した発明者3名については合計で多くとも●(省略)●%の寄与度が認められる。 他方で,化合物の合成においては,上記の●(省略)●という要素のうち,●(省略)●がもつ重要性は定性的な見地からみて確かに高く,最大で●(省略)●%と考えられ,また残る●(省略)●%について寄与度という見地から●(省略)●と●(省略)●とを比較した場合,本件において●(省略)●も含め考慮す ると定性的には前者を●(省略)●%,後者を●(省略)●%と想定するのが適切であると考えられる。この点,●(省略)●及び●(省略)●については,上記貢献の内容から,P2及びP3にも少なくとも両者合算で●(省略)●%の寄与が認められる。したがって,●(省略)●%(●(省略)●)と●(省略)●%(●(省略)●)についての原告の寄与は多くとも約●(省略)●%((●(省略)●) である。また●(省略)●については,●(省略)●により評価すると,原告については約●(省略)●%(●(省略)●)の寄与が認められる。 以上より,原告の本件発明への貢献度は,約●(省略)●という計算式により算出され得るものであるが,上記のとおりその過程で各要素において原告の寄与を多く見積もる (●(省略)●)の寄与が認められる。 以上より,原告の本件発明への貢献度は,約●(省略)●という計算式により算出され得るものであるが,上記のとおりその過程で各要素において原告の寄与を多く見積もる形で想定したことを踏まえると,結論として多くとも●(省略)●%を 上回ることはないと考えられる。 オ成功確率ある化合物が合成されただけでは医薬品としての成功はおろか上市に至るかどうかも定かではなく,むしろ上市に至らない可能性の方が高い(すなわち,成功確率が低いこと)は前記のとおりである。その意味で,製薬会社が研究開発や事業 化に取り組む時点及びその最中は,常に,当該研究開発及び事業化が失敗するリスクを抱えており,藤沢薬品はリスクを負担して多大な人的・物的な資源を投資する一方で,従業員である原告はこれを一切負担していない。 本件がそうであるように,相当対価の請求は,発明が完成し,製品が上市され,売上を上げるようになった後,すなわち,研究開発及び事業化のリスクが実現化し なかったことが明らかになった後になされることが通常である。しかし,相当対価- 30 -請求権自体は特許又は特許を受ける権利を使用者に承継させた時点で発生するのであり,その額については本来,その時点において算定されるべきものである。「権利が承継された時点」での価値を把握するという前提に立ちつつ,実際の価値の算定では途中の不確定要素を一切考慮せず,結果として達成された成功をそのまま「権利が承継された時点」での価値として把握しようとすることは,論理として一貫性 を欠くものと言わざるを得ない。 医薬品が法的には物質特許の実施品に該当し,独占権としての特許権の効力が及ぶからといって,その医薬品の販売により得られた利益に対する当該物質特許の寄与が高いというこ を欠くものと言わざるを得ない。 医薬品が法的には物質特許の実施品に該当し,独占権としての特許権の効力が及ぶからといって,その医薬品の販売により得られた利益に対する当該物質特許の寄与が高いということにはならない。新規化合物の発明がされた後,多くの研究開発努力により高い付加価値が付与されて,はじめて医薬品の製造販売が可能になるの である。発明後の付加価値付与に物質特許が寄与していないことは当然である。そして,製薬会社のビジネスモデルは,事業化に成功したごく少数の製品の収益により,事業化に至らなかったプロジェクトへの投資を回収することで成り立っている。 したがって,医薬品に関する特許を受ける権利の承継に係る相当対価を計算する場面では,独占の利益や発明者貢献度とは別に前記のような製薬業界の特殊性から の調整を認めなければならない。具体的には,通常のような「独占の利益」に対し発明者貢献度を乗じるという計算式に加え,成功確率が低いことに鑑み,50%を独立の要素として乗じるのが適当である。仮に,成功確率を独立の考慮要素として考慮することが認められないとしても,そのような成功確率の低い化合物について研究開発及び事業化のリスクを藤沢薬品及び被告が負担していたという事実それ自 体,使用者貢献度を高める事情として考慮されなければならない。本件において,かかる製薬事業における特殊性並びにそれを前提とした研究開発及び事業化のリスクを使用者貢献度を高める事情として考慮する場合には,使用者貢献度は少なくとも99.5%とすべきである。 カ結論 以上,検討の結果を前記アの算定式に代入すると,以下のとおりとなり,藤- 31 -沢薬品及び被告が原告に対して補償金として支払った金額及び支払提供した金額は合計●(省略)●円であるから, 以上,検討の結果を前記アの算定式に代入すると,以下のとおりとなり,藤- 31 -沢薬品及び被告が原告に対して補償金として支払った金額及び支払提供した金額は合計●(省略)●円であるから,相当の対価の未払分は存在しない。 (算定式) ●(省略)● 3 争点3(和解契約の成否)(被告の主張) 前記1の(被告の主張)記載の合意は,実体法についての合意であると解釈すれば,その法的性質は和解契約である。 原告と藤沢薬品の間には,原告が平成14年にした相当の対価の請求によって,本件請求権の存否及び額について争いがあったところ,上記合意によって,原告は平成15年施行規則をはじめとした社内規程により算定される範囲内での請求権を 有し,その余の請求権を放棄する旨,双方合意に達した。 したがって,上記合意の効力(民法696条)により,社内規程による算定額を超えた範囲の請求権は消滅している。 (原告の主張)被告の主張は否認し,争う。 4 争点4-1(消滅時効の成否-本件請求権の消滅時効の起算日)(被告の主張)(1) 「相当の対価の支払を受ける権利」は,職務発明者が特許を受ける権利を使用者に承継させた時に発生し,特にその行使を妨げる法律上の障害がない限り即座に行使可能となる(特許法35条3項)。 藤沢薬品においては,平成4年当時から,職務発明に関する特許を受ける権利の承継について,予約承継の方法が採られていたから,本件発明の完成時に当該発明の特許を受ける権利が原告から藤沢薬品に対して譲渡されたところ,本件発明は遅くとも同年10月15日までには完成しており,同日までに,それに係る特許を受ける権利が藤沢薬品に譲渡された。 原告が遅くとも同日,藤沢薬品に対し,本件化合物及び他の れたところ,本件発明は遅くとも同年10月15日までには完成しており,同日までに,それに係る特許を受ける権利が藤沢薬品に譲渡された。 原告が遅くとも同日,藤沢薬品に対し,本件化合物及び他の6化合物に関する特- 32 -許を受ける権利を藤沢薬品に譲渡したことは,譲渡証書(乙4)からも明らかである(このうち本件化合物ではない2化合物については,同年3月17日より前に特許を受ける権利を藤沢薬品に譲渡していた。)。 したがって,本件請求権は,遅くとも同年10月15日までには発生し,その行使を妨げる法律上の障害もなかったことから,同日までには行使可能となった。そ のため,本件請求権の消滅時効は,遅くとも同日が起算日である(民法166条1項)。 原告は,藤沢薬品に対し,平成14年7月15日に,相当の対価を請求したが,その6か月後である平成15年1月15日までの間に裁判上の請求等の民法153条所定の措置を採ることなく,平成14年10月15日は経過した。 したがって,本件請求権について,10年間の消滅時効が完成した。 (2) 平成13年当時,本件発明に係る製品は未だ売上が存在していなかったため,原告の有する本件請求権は,同年に導入された「職務発明実績補償制度」の適用対象とはなっていなかった。 また,平成15年施行規則が施行されたのは,あくまでも平成15年1月1日で あり,被告が本件請求権に係る消滅時効を援用したことを前提とすれば,同規則が施行される前に,原告の本件請求権は消滅しているから,本件請求権に対し,同規則を適用する余地は存しない。 したがって,上記制度や規則の存在は,原告の本件請求権に係る消滅時効の完成を妨げる事情ではない。 (原告の主張)(1) 被告の主張は否認し,争う。 (2) 余地は存しない。 したがって,上記制度や規則の存在は,原告の本件請求権に係る消滅時効の完成を妨げる事情ではない。 (原告の主張)(1) 被告の主張は否認し,争う。 (2) 藤沢薬品においては職務発明に係る特許を受ける権利の予約承継を定めた規程は存在しないようなので,原告の藤沢薬品に対する本件発明に係る特許を受ける権利の承継は,個別の譲渡契約によるものである。 被告が提出する乙4は,特許出願手続のために要した手続書面にすぎず,実体的- 33 -な譲渡契約書であることは否認し,争う。また,乙4には,発明の名称「デプシペプチド誘導体」と記載されているのみで,本件発明との対応関係も不明である。 さらに,乙4の実際の作成日が平成4年10月15日であることも否認する。それだけでなく,本件発明には,PF1022Aを原料とした本件化合物の製法発明も含まれているところ,少なくともこれについては同日には未だ発明が完成してお らず,それが完成したのは平成5年1月であった。 (3) 被告の主張を前提とすれば,原告は平成15年施行規則に基づく算定期間・支払時期の制約を受けることになる。これによると,一定期間毎に実績が集計され,従業員発明者への支払額が算定され,その一定の算定期間が経過して期間中の実績が会社において集計等され,従業員発明者に対して開示されて,一定額の実 績補償金の支払通知がなされた時以降,従業員発明者は,不足額も含めて支払請求が可能となるのであるから,その時点が消滅時効の起算点となると解すべきである。 結局,平成15年施行規則に基づいて原告の平成16年4月1日以降の実績補償金の支払請求が法律上可能となったのは,平成20年であるから,それまでは法律上の障碍があったといえ,平成14年10月15日の経 結局,平成15年施行規則に基づいて原告の平成16年4月1日以降の実績補償金の支払請求が法律上可能となったのは,平成20年であるから,それまでは法律上の障碍があったといえ,平成14年10月15日の経過をもって消滅時効が完成 したとの被告の主張は採り得ない。 5 争点4-2(消滅時効の成否-被告が本件請求権について消滅時効を援用することは信義則に反するか)(原告の主張)(1) 被告の主張は,平成14年10月15日の経過をもって本件発明に係る対 価請求権はすべて時効消滅したというものであるが,藤沢薬品は,消滅時効完成後に平成15年施行規則を適用して,実績に係る部分についても原告(及び他の従業員発明者)に請求権を新たに付与したのであるから,信義則に基づく援用権の喪失事由があるというべきである。 また,藤沢薬品及び被告は,算定期間毎に,原告に対して支払通知をし,これに 伴う実績補償金の支払をしてきたところ,これらも援用権の喪失事由となる。 - 34 -したがって,現段階で被告が消滅時効を援用することは信義則に反する。 (2) 被告の下記主張は争う。藤沢薬品及び被告は,錯誤に陥っていたか否かという主観的な事情にかかわらず,援用権を喪失したのである。 (被告の主張)(1) 原告の主張は否認し,争う。 (2) 藤沢薬品及び被告は,原告に対し,本件確認書に係る合意に基づき,社内規程に従って,補償金の支払及びその提供を行ってきたが,これは特許法35条3項の相当対価請求に対して行われたものではないから,信義則上の援用権喪失事由には該当しない。 仮に,当該補償金の支払及びその提供が,原告による特許法35条3項の相当対 価請求に対するものであったとしても,これはあくまでも,原告の有する本件請求権 上の援用権喪失事由には該当しない。 仮に,当該補償金の支払及びその提供が,原告による特許法35条3項の相当対 価請求に対するものであったとしても,これはあくまでも,原告の有する本件請求権を巡る一切の争いが,本件確認書に係る合意によってすべて(将来の売上に対する請求も含めて)解決したことを前提とするものである。もし仮に,藤沢薬品が,原告において平成15年施行規則で算出される金額を超えて本件請求権を行使できると承知していれば,同規則の内容は,現在あるような当時の原告に有利な内容と はならなかったはずであり,原告に対しても,同規則に従って算出される補償金を支払うことはなかった。すなわち,この場合,藤沢薬品及び被告は,本件確認書の効力及び適用範囲についての錯誤に陥っていたため,本来は支払うべきでなかった補償金を支払ったことになる。 このように,藤沢薬品及び被告は錯誤に陥っていたのであるから,その後に被告 が消滅時効を援用したとしても,被告に何ら責めに帰すべき事由は存在しないし,時効制度の趣旨等からすると,消滅時効の援用が認められるべきである。 最高裁昭和41年4月20日判決・民集20巻4号702頁の判断は,「債務者が時効完成後に債務の承認をした」ことが前提になっている。したがって,「債務者が債務の承認をした」とはいえない場合には適用されないところ,藤沢薬品及び 被告による補償金の支払及びその提供は,錯誤に基づく行為であるから,当該行為- 35 -による原告の本件請求権の承認についても,錯誤により無効であり,債務承認の効果を生じない。 したがって,本件において,信義則上,被告の援用権は喪失せしめられるべきではない。 6 争点5(平成29年以降の利益を基礎とする相当の対価の請求の可否) (被告の主張) 果を生じない。 したがって,本件において,信義則上,被告の援用権は喪失せしめられるべきではない。 6 争点5(平成29年以降の利益を基礎とする相当の対価の請求の可否) (被告の主張)前掲最高裁平成15年4月22日判決における判示に従えば,本件請求権の弁済期は被告の社内規程に従うこととなる。本件請求権のうち,将来の実施料収入(平成29年以降)を算定基礎とする部分は,被告の社内規程を前提とする限り,弁済期未到来であるから,将来の給付の訴えである。 そして,本件請求権のうち,将来の実施料収入を算定基礎とする部分については,「相当の対価」請求権を認定すべき事情が現時点で確定しておらず,今後大きく変動しうるものであるから,本件請求権の当該部分は,請求権としての適格を有さない。 したがって,本件請求権のうち,将来の実施料収入を算定基礎とする部分につい ては,原告の訴えが却下されるべきである。 (原告の主張)被告の主張は否認し,争う。本件請求権は原告の請求によって遅くとも平成28年2月1日には遅滞に陥っている。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(不起訴の合意の成否)について(1) 被告は,原告が藤沢薬品との間で,本件確認書(乙3)において,本件請求権の全部につき不起訴の合意をしたと主張している。これに対し,原告は,本件確認書の射程は,平成15年1月末までの期間分にしか及んでいないと主張し,被告の主張を争っている。 確かに,本件確認書では,「『本件請求』に基づき訴訟等の行為は行わないことを- 36 -確認する。」と規定されているから,藤沢薬品と原告との間で,不起訴の合意を含む合意がされたと認めることはできる。 しかし,本件確認書では,「『本件請求』に基づ」く訴訟等の行為は行わないと 36 -確認する。」と規定されているから,藤沢薬品と原告との間で,不起訴の合意を含む合意がされたと認めることはできる。 しかし,本件確認書では,「『本件請求』に基づ」く訴訟等の行為は行わないと明記され,「本件請求」の意義については,「原告が藤沢薬品に対して平成14年7月15日付通知書にて行った,FR156742の発明…に関する特許法35条 3項所定の『相当の対価』の請求」と明記されているにすぎず,本件請求権の全部が不起訴の合意の対象であることが明示されているわけではない。 したがって,本件確認書の文言だけから直ちに,原告の有する本件請求権の全部について不起訴の合意がされたと認めることはできず,さらに本件確認書の「本件請求」の具体的内容を検討する必要がある。 (2) 前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア原告は,藤沢薬品に対し,次の内容の平成14年7月15日付けの本件通知書を交付した(甲6の2)。 「FR156742に関連する発明ならびに日本国特許第2,874,342号 およびその対応外国特許または特許出願に含まれる発明(以下,総称して『当該発明』という。)の特許を受ける権利の譲渡に対する,特許法第35条第3項所定の『相当の対価』として,小職の希望する金額を下記のとおり請求させて頂きます。 …最近の各種裁判例を参考に金額を算出させて頂いております。なお,当該発明のBayer社へのライセンス契約により,今後も当該発明によって御社が受ける 利益の額に変動が生じることが予測されますので,下記金額はあくまでも現時点における確定金額(●(省略)●円)を基にしたものであり,基礎額の変動による増額の余地のあるものと理解ください。 つきましては,本申し出に対する御社の 予測されますので,下記金額はあくまでも現時点における確定金額(●(省略)●円)を基にしたものであり,基礎額の変動による増額の余地のあるものと理解ください。 つきましては,本申し出に対する御社の対応方針につき,本書面受領の日から21日以内にご返答いただきたくお願い申し上げます。 以上,消滅時効の関係で無用の紛争を回避するため,やむなくこのような書面で- 37 -の請求をさせて頂きました。…記●(省略)●円」イ藤沢薬品は,原告に対し,次の内容の平成15年1月6日付けの「平成14年7月15日付通知について」と題する書面を交付した(甲7)。 「平成14年7月15日付通知書にて貴職より請求のありましたFR156742の発明に関する特許法35条3項所定の『特許を受ける権利の譲渡に対する相当の対価』につきまして,このたび新たに制定・施行された当社の職務発明実績補償規則を基に,当該発明に対する貴殿の貢献の度合い等を種々検討してまいりました結果,下記記載の金額が平成15年1月時点で当社が得ている一時金収入に基づき 算定される補償金額(想定)となります。 但し,当該規則上,補償金額の算定は,3年の算定期間を経て行うこととなっております。そのため,下記の金額は,当該規則に基づき平成15年1月時点で会社が得ている一時金収入に基づき計算された金額であり,今後当該発明に関するロイヤリティなどの収入があればその額が増額されることになりますことをご理解頂き たく存じます。…記補償金額(想定):●(省略)●円」ウ原告は,藤沢薬品に対し,次の内容の平成15年1月17日付けの「平成15年1月6日付回答について」と題する書面を交付した(甲8)。 「平成15年1月6日付回答書でお示しいただ ウ原告は,藤沢薬品に対し,次の内容の平成15年1月17日付けの「平成15年1月6日付回答について」と題する書面を交付した(甲8)。 「平成15年1月6日付回答書でお示しいただきました貴社の職務発明実績補償規則に基づき平成16年4月頃にお支払いいただける予定の補償金を,FR156742の発明者である小職の適切な処遇を将来に渡り確保していただけていることを条件に,その処遇の一環として受領いたします。」エ原告と藤沢薬品は,平成15年2月25日,前記第2の2 (7)ア記載の 本件確認書を作成した。 - 38 -(3) 以上の事実をもとに本件確認書の「本件請求」の具体的内容について検討すると,本件確認書では「本件請求」は「平成14年7月15日付通知書にて行った…請求」であると明記されており,当該通知書とは本件通知書のことを指すと認められる(甲6の2)。そして,本件通知書は,上記認定のその内容に照らせば,原告において,藤沢薬品がその時点までにバイエルから受けた利益の額が合計● (省略)●円であることを前提として,その金額を基に特許法35条3項所定の相当の対価を●(省略)●円と算定し,その額を請求したものと認められる(原告は甲11において同額の算定根拠を説明しているが,原告は藤沢薬品がバイエルから支払を受けた金額を認識していたのであるし(甲11の添付資料1,甲30の添付資料10),算定過程についての説明に不合理な点はみられず,その内容は信用でき るものといえる。)。 また,原告が認識していた藤沢薬品がその時点までに受けた利益の額は,藤沢薬品がバイエルから支払を受けていた一時金の合計額と一致していた(前記第2の2(5)ア(ア)ないし(エ))から,藤沢薬品においても原告の意思を認識・理解していたも の時点までに受けた利益の額は,藤沢薬品がバイエルから支払を受けていた一時金の合計額と一致していた(前記第2の2(5)ア(ア)ないし(エ))から,藤沢薬品においても原告の意思を認識・理解していたものと認められる。現に,上記認定のとおり,藤沢薬品は,平成15年1月6日付け の書面において,原告に対し,同月時点で得ている一時金収入に基づき算定される補償金額を提示したのであり,その経緯からも原告と藤沢薬品の認識・理解に食い違いはなかったと認められる。 さらに,原告は本件通知書において,バイエルへのライセンス契約により,今後藤沢薬品が受ける利益の額に変動が生じることが予測され,それによって基礎額が 変動し,相当の対価が増額の余地があることを明記し,他方で藤沢薬品も,平成15年1月6日付けの書面において,補償金額を提示しつつも,今後ロイヤリティなどの収入があればその額が増額されることになると明記しており,原告に対する書面において,今後にロイヤリティ収入があれば増額されることを記していた。この経緯に照らしても,原告と藤沢薬品は,双方ともに,あくまでも平成14年7月な いし平成15年1月の時点で藤沢薬品が支払を受けていた一時金のみを基礎とする- 39 -補償金の支払協議をしていたと認められる。 そして,原告は,同年1月17日付けの書面において,藤沢薬品に対し,同社から提示のあった金額の補償金を受領する意思を明らかにし,これを踏まえて原告と藤沢薬品は本件確認書を作成したのであるが,そこでも原告は,平成15年施行規則の算定方式による「平成15年1月迄の補償金」を受領することを了解するとす る一方,その後のロイヤリティ収入が得られた場合のことは何ら記載されておらず,そこまで踏み込んだ文面とはされないまま,「本件請求」についての不 15年1月迄の補償金」を受領することを了解するとす る一方,その後のロイヤリティ収入が得られた場合のことは何ら記載されておらず,そこまで踏み込んだ文面とはされないまま,「本件請求」についての不起訴の合意を含む合意がされている。 以上の経緯に照らすと,本件通知書は,平成14年7月の時点で藤沢薬品がバイエルから支払を受けていた一時金合計●(省略)●円を基に算定した特許法35条 3項所定の相当の対価を請求したものであり,本件確認書で補償金の算定基準時とされた平成15年1月の時点でも藤沢薬品が支払を受けていた金額に変動はなかったから,本件確認書の「本件請求」も同じ内容の請求を指しており,本件確認書は,当面問題となっていた平成15年1月までの一時金を基礎とする支払金額を解決するものとして作成されたと認めるのが相当である。 そうすると,不起訴の合意がされたのは,藤沢薬品が本件発明により受けるべき利益のうち,平成15年1月までのものを基に算定した相当の対価請求についてであって,被告が主張するように,原告の有する本件請求権の全部について不起訴の合意がされたとまで認めることはできない。 (4) 被告の主張について ア被告は,特許法35条3項に基づく相当の対価請求権は,その全部が特許を受ける権利の使用者への承継時に発生すると理解されており,本件通知書の「特許法第35条第3項所定の『相当の対価』として」の記載は,本件請求権の全てを対象としたものであると主張している。 確かに,相当の対価請求権の発生時期は被告主張のとおりである。しかし,まず, 職務発明の対価請求権は可分債権であるところ,その額は特許権の存続期間の満了- 40 -まで使用者等が受けるべき利益の額に基づき算定することとされており,使用者等が受け 。しかし,まず, 職務発明の対価請求権は可分債権であるところ,その額は特許権の存続期間の満了- 40 -まで使用者等が受けるべき利益の額に基づき算定することとされており,使用者等が受けるべき利益の額は期間の経過とともに累積していく性質のものであるから,使用者等が利益を受けるべき時期により対価請求権を区分して行使し,その一部の時期分について金額の合意をすることも可能であると解される。また,前記のような本件通知書の内容に加え,平成14年ないし15年当時,バイエルはバイエル製 品を製造販売するに至っていなかったが,将来的に製造販売に至る可能性は十分にあり,原告もそのことを認識していたと推認されることに照らせば,本件通知書はあくまでも,藤沢薬品が平成14年7月までに支払を受けていた一時金のみを同社が受けるべき利益の算定基礎にした請求にすぎず,それ以後にライセンス料やロイヤリティ収入が得られれば,それを算定基礎にした相当の対価を別途請求すること を前提としていたものと解するのが自然であるし,合理的でもある。 したがって,被告の上記主張によって上記認定は左右されない。 イ被告は,本件請求権全てを上記合意によって解決することは,本件請求権の全てが時効によって消滅するリスクのあった当時の原告にとって合理性があったなどと主張している。 確かに,本件化合物が明細書に記載された本件基礎出願2がされたのは平成4年10月15日であり,原告が平成14年7月15日付けの本件通知書を交付したのは,物質発明に係る対価請求権の10年の消滅時効の完成が迫っていた時期であり(後記3(1)),本件通知書で「消滅時効の関係で無用の紛争を回避するため」と記載されていることからすると,原告も消滅時効のことを認識していたと認められる。 しかし 完成が迫っていた時期であり(後記3(1)),本件通知書で「消滅時効の関係で無用の紛争を回避するため」と記載されていることからすると,原告も消滅時効のことを認識していたと認められる。 しかし,債権の一部について催告をすると,債権全部について催告(民法153条)の効力を有すると解されることに加え,本件通知書に対して藤沢薬品が消滅時効を援用する態度を示さず,むしろ将来にロイヤリティ収入が得られた場合の増額も提示していたことからすると,原告が消滅時効の心配をすることなく本件確認書を作成したとしても不合理ではなく,被告主張のように考えなければ合理性がない とまでいうことはできない。 - 41 -むしろ,本件請求権全てについて不起訴の合意が成立したと解すると,原告は本件確認書に係る合意の後に得られるロイヤルティ収入を算定基礎とした相当の対価については,訴訟によって相当の対価を請求することができず,事実上,被告が任意に支払う限度でしか支払を受けることができなくなるが,そのことを,将来のライセンス収入に伴う増額を念頭に置いていた原告が受け入れるとは考え難く,現に 本件確認書でも将来の増額については何ら取り決める記載がない。また,藤沢薬品にとっても,当面問題となる平成15年1月までの一時金収入に基づく補償金について,原告の申入れ額を遙かに下回る同社提示の金額で妥結することができれば,それだけでもかなりの成果が得られたことになる上,本件確認書を作成した時点では,本件化合物のPF1022Aからの半合成による製法発明(本件特許の請求項 9)について,本件特許の出願(平成5年3月8日)から未だ10年が経過しておらず,消滅時効が完成していない分が残らざるを得ない(後記3(1))から,それ以上に将来の不確定な収入分の取扱いに言及しない内 )について,本件特許の出願(平成5年3月8日)から未だ10年が経過しておらず,消滅時効が完成していない分が残らざるを得ない(後記3(1))から,それ以上に将来の不確定な収入分の取扱いに言及しない内容の本件確認書で妥結したとしても不合理ではないと考えられる。 したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 (5) 以上より,被告の不起訴の合意に関する主張には理由がない。 2 争点3(和解契約の成否)について事案に鑑み,先に争点3以下について検討する。 前記1の認定・判示によれば,本件確認書が和解の合意を含むものであったとしても,その対象は,藤沢薬品が平成15年1月までに受けるべき利益に基づく相当 の対価請求についてであって,被告が主張するように,それ以後に藤沢薬品が受けるべき利益に基づく相当の対価について,原告が平成15年施行規則をはじめとした社内規程により算定される範囲内での請求権を有し,その余の請求権を放棄する旨合意されたとまで認めることはできない。 したがって,被告の和解契約に関する主張には理由がない。 3 争点4-1(消滅時効の成否-本件請求権の消滅時効の起算日)について- 42 -(1) 従業者等が職務発明についての特許を受ける権利を使用者等に承継させた場合の相当な対価請求権は,承継のときに,その請求権全体が発生する性質のものである。 本件において,原告から藤沢薬品に対して具体的にいつ,どのような方法で本件発明に係る特許を受ける権利が譲渡(承継)されたかは判然としない部分があるこ とは否めないものの,原告は藤沢薬品において特許の出願をする前提で,その出願処理依頼書を作成し,藤沢薬品に提出していたこと(甲48[本件基礎出願2関係],乙82[本件基礎出願1関係])などに照ら とは否めないものの,原告は藤沢薬品において特許の出願をする前提で,その出願処理依頼書を作成し,藤沢薬品に提出していたこと(甲48[本件基礎出願2関係],乙82[本件基礎出願1関係])などに照らせば,本件発明の完成後,遅くとも藤沢薬品がその発明について特許の出願をした時までには,原告は藤沢薬品に対して各発明に係る特許を受ける権利を譲渡していたものと認めることができる (原告は甲9記載の就業規程による予約承継や乙4の譲渡証書による譲渡を否認しているが,藤沢薬品に対して本件発明に係る特許を受ける権利が譲渡された前提で,特許法35条3項又はその類推適用に基づく相当の対価を請求しているから,これが譲渡されたこと自体は前提にしているものと解される。)。 そして,特許法35条3項に基づく相当の対価の支払請求権について「権利を行 使することができる時」(民法166条1項)とは,本件のように発明の時点で職務発明に対する補償金に関する社内規程が存在しない場合には,期限の定めのない債権であるから,特許を受ける権利を譲渡(承継)した時と解するのが相当である。 そうすると,本件における消滅時効の起算点は次のとおりとなり,中断事由等がない限り,この日から10年が経過することによって,消滅時効が完成することに なる。 ア本件特許に係る物質発明,用途発明並びに請求項10及び11記載の製法発明:遅くとも本件基礎出願2の出願日である平成4年10月15日イ本件特許に係る請求項9記載の製法発明:遅くとも本件特許の出願日である平成5年3月8日 (2) 被告の主張を前提とする原告の主張について- 43 -原告は,被告の主張を前提とすれば,平成15年施行規則に基づく算定期間・支払時期の制約を受けることになり,原告の平成 (2) 被告の主張を前提とする原告の主張について- 43 -原告は,被告の主張を前提とすれば,平成15年施行規則に基づく算定期間・支払時期の制約を受けることになり,原告の平成16年4月1日以降の実績補償金の支払請求が法律上可能となったのは,平成20年であるから,それまでは法律上の障碍があったと主張している。 しかし,そもそも,平成15年施行規則が施行されたのは平成15年1月1日 (施行日を遡及させる旨の定めによっても平成13年4月1日)であり,これは本件発明が完成し,本件発明に係る特許を受ける権利が譲渡された後であるところ,既に成立した請求権について藤沢薬品に新たに期限の利益が付与されるというのは,原告にとっては実質的にも不利益なことである。そうすると,既に成立した具体的な請求権について,藤沢薬品が一方的に自らに期限の利益を付与する不利益変更を 原告に強いることはできず,また,当時に原告がそのような不利益変更を個別的に同意したとも認められないから,事後的に平成15年施行規則が施行されたことによって,特許法35条3項に基づく相当の対価請求権自体に,新たに期限が付与されたと認めることはできない。 また,平成14年10月に消滅時効が完成した本件特許に係る物質発明等につい ては,平成15年施行規則の施行(及びその施行日を遡及させる旨の定めが設けられたこと)は消滅時効完成後の事情であるところ,消滅時効完成後の事情によって消滅時効の完成自体が覆ることを認めることはできない。 したがって,被告の主張を前提とする原告の上記主張は採用することができない。 (3) 本件で被告は特に中断事由を主張していない(なお,原告は平成14年7 月15日,藤沢薬品に対して本件通知書を交付して相当の対価を請求したが,その 上記主張は採用することができない。 (3) 本件で被告は特に中断事由を主張していない(なお,原告は平成14年7 月15日,藤沢薬品に対して本件通知書を交付して相当の対価を請求したが,その後6か月以内に裁判上の請求等(民法153条)をしなかった。)から,上記(1)ア及びイの日から10年が経過したことによって消滅時効が完成したことになる。そこで,次に,被告が本件請求権について消滅時効を援用することが許されるか(争点4-2)が問題となる。 4 争点4-2(消滅時効の成否-被告が本件請求権について消滅時効を援用す- 44 -ることは信義則に反するか)について(1) 原告は,藤沢薬品が消滅時効完成後に平成15年施行規則を適用して,実績に係る部分についても原告に請求権を新たに付与したとして,信義則に基づく援用権の喪失事由があると主張している。 そこで検討すると,債務者が消滅時効の完成後に債権者に対し当該債務を承認し た場合には,時効完成の事実を知らなかったときでも,その後その時効の援用をすることは許されないと解すべきである(前掲最高裁昭和41年4月20日判決)。その理由は,時効の完成後,債務者が債務の承認をすることは,時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり,相手方においても債務者にはもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから,その後においては債務者に時効の援用を 認めないものと解するのが信義則に照らし,相当であるからである。 しかし,承認とは,時効の利益を受ける当事者が,時効によって権利を失う者に対して,その権利の存在することを知っている旨を表示することであるから,単に平成15年施行規則を施行しただけでは,藤沢薬品が原告に対して特許法35条3項に基づく相当の対価の支払債務を承認したと 者に対して,その権利の存在することを知っている旨を表示することであるから,単に平成15年施行規則を施行しただけでは,藤沢薬品が原告に対して特許法35条3項に基づく相当の対価の支払債務を承認したと認めることはできない。 したがって,原告が指摘する上記事情によって藤沢薬品及び被告が援用権を喪失することはないというべきである。 (2) 次に,原告は,被告が,算定期間毎に,原告に対して支払通知をし,これに伴う実績補償金の支払をしてきたとして,信義則に基づく援用権の喪失事由があると主張している。 アそこで,前掲最高裁昭和41年4月20日判決に照らして検討すると,前記第2の2(7)イ及び前記1(2)での認定事実のとおり,①原告が,本件通知書において,平成14年7月までに得られた一時金に基づく相当の対価の支払を請求するとともに,その後に同社が利益を得た場合には増額の余地があり,消滅時効の関係で無用の紛争を回避する必要があると申し入れたのに対し,藤沢薬品は,平成1 5年施行規則による平成15年1月までの一時金収入に基づく補償金額を提示する- 45 -とともに,今後にロイヤリティなどの収入があればその額が増額される旨を回答したこと,②本件確認書では,平成15年1月までの一時金収入に基づく補償金額の受領が約されたにとどまり,将来にロイヤリティ収入を得た場合の取扱いについては明記されなかったが,その後,被告は,原告に対し,実施による利益の有無等の検討を行った上で,平成21年3月に,原告から不足額の支払請求の留保を受けつ つも,平成17年の職務発明規程に基づく平成16年度から平成19年度までの実施時補償金を支払い,平成23年11月に平成17年の職務発明規程に基づく平成20年度から平成22年度までの実施時補償金の支払 つも,平成17年の職務発明規程に基づく平成16年度から平成19年度までの実施時補償金を支払い,平成23年11月に平成17年の職務発明規程に基づく平成20年度から平成22年度までの実施時補償金の支払を提示したが原告から異議申立てを受けて未だ支払に至っておらず,また,平成26年12月に平成17年の職務発明規程に基づく平成23年度から平成25年度までの実施時補償金の支払を提 示したが原告から異議申立てを受けて未だ支払に至っていないことが認められる。 これらの事実からすると,藤沢薬品及び被告は,本件特許に係る相当対価請求権の消滅時効の完成時期について認識を有していたと推認され,それにもかかわらず,本件確認書を作成するに当たり,将来にロイヤリティ収入があった場合には補償金額が増額される旨を回答し,また,全ての発明との関係で対価請求権の消滅時効が 完成した後も,支払額について原告との間で争いがあったにもかかわらず,平成15年施行規則及び平成17年の職務発明規程に基づき,実施による利益の有無等の検討を行った上で,実施補償としての支払を行い,又は提示したということができるから,藤沢薬品及び被告は,これらの一連の行為により,原告をして消滅時効を援用しないと信頼させる行動をとったというべきであり,本件の対価請求権の消滅 時効の完成後の補償金(これは特許法35条3項に基づく相当な対価としての性質を有する。)の支払ないし支払提示により本件請求権に係る債務を承認したと認めるのが相当である。 イこの点,被告は,原告の本件請求権は本件確認書によって全て平成15年施行規則によることとなった旨の錯誤に陥っていたから,債務承認は無効で,そ の効果が生じないと主張している。 - 46 -しかし,本件確認書及び本件通知書の内容に照らせば, 全て平成15年施行規則によることとなった旨の錯誤に陥っていたから,債務承認は無効で,そ の効果が生じないと主張している。 - 46 -しかし,本件確認書及び本件通知書の内容に照らせば,藤沢薬品や被告において,本件確認書に係る合意によってすべて(将来のロイヤリティ収入に基づく対価請求も含めて)解決したと誤信していたと認めることは困難であるし,被告の主張する錯誤は動機の錯誤にすぎないところ,被告主張のような動機が原告に対して表示され,藤沢薬品又は被告による承認の通知の内容とされたと認めるに足りる証拠はな い。 したがって,被告の上記主張は採用できない。 (3) 以上より,被告が本件請求権について消滅時効を援用することは信義則に反し許されない。 5 争点5(平成29年以降の利益を基礎とする相当の対価の請求の可否)につ いて被告は,本件請求権のうち,将来の実施料収入(平成29年以降)を算定基礎とする部分は,弁済期未到来であるから,将来の給付の訴えであるなどと主張し,その部分の請求に係る訴えの却下を求めている。 しかし,前記3の認定・判示によれば,平成15年施行規則によって本件請求権 に新たに期限が付与されたとは認められないから,被告の主張は採用できない。 したがって,原告は,被告に対し,本件で本件特許の存続期間満了までに藤沢薬品及び被告が受けるべき利益に基づく相当な対価の支払請求をすることができる。 6 争点2(本件発明に係る相当の対価の額)について(1) 前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認め られる。 ア原告が明治製菓の欧州特許出願を知り,PF1022Aの全合成の検討を始めるまでの経過(ア) 藤沢薬品では,昭和58年以降,事業部制が採られ 旨によれば,次の事実が認め られる。 ア原告が明治製菓の欧州特許出願を知り,PF1022Aの全合成の検討を始めるまでの経過(ア) 藤沢薬品では,昭和58年以降,事業部制が採られており,会社としての業務執行権限は一部,各事業部長に委譲されていた(甲34,50)。そして, 動物薬,植物薬,食品添加物,コンクリート混和剤のような化成品等の研究・開- 47 -発・販売を担う部門である特薬事業部では,遅くとも平成元年4月以降,水産用寄生虫薬の探索等が開発研究テーマとされたほか,新規駆虫薬の研究開発も行われるようになり,遅くとも平成2年2月までには駆虫薬の開発が動物薬研究の新規テーマに挙げられた(甲36,50,乙33,36,37,74。なおこの事実認定の補足説明については後記(4)イ。)。 (イ) 原告は,平成元年頃当時,特薬事業部の特薬研究所において駆虫薬の研究開発を行っていた。 その当時,米国の製薬会社であるメルクが開発したイベルメクチンが最も売上のある駆虫薬(抗寄生虫薬)であったが,これに含有されている化合物は構造が複雑で,これに化学修飾を施すことは困難であった。そこで,当時の研究開発は,論文, 特許に関する公報等から駆虫活性のある化合物(シード化合物)を選択し,そのシード化合物の構造を変換して幾種もの誘導体を合成し,その合成された誘導体の薬理効果を評価系を用いて評価し,より駆虫活性の高い化合物を創出する(スクリーニング)という形をとっていた(甲37,乙33,36)。 (ウ) もっとも,藤沢薬品には,平成元年8月以降に特薬研究所のP4が作 成した土壌線虫を用いた試験管内評価系しか構築されておらず,駆虫薬の研究開発のためには,駆虫活性を評価するための新たな評価系を確立することが必要不可欠であ 元年8月以降に特薬研究所のP4が作 成した土壌線虫を用いた試験管内評価系しか構築されておらず,駆虫薬の研究開発のためには,駆虫活性を評価するための新たな評価系を確立することが必要不可欠であった。そこで,P4が上記評価系を改良したほか,新たな評価系の構築に着手した(乙33,37,55の添付資料2の№2)。 (エ) 明治製菓は,平成2年2月6日,PF1022Aの物質発明及び発酵 による製法発明について欧州特許出願をするとともに,我が国でも特許出願をした。 我が国の特許出願の願書に添付された明細書には,PF1022Aは公知の化学的な合成方法によって製造することは可能であるとしつつ,その製造法の一態様として,カビに属するPF1022A物質生産菌を培養し,その培養物からPF1022A物質を採取する方法が記載されていた(甲40,乙16)。 (オ) P4は,平成2年6月ないし8月までには,ラット毛様線虫(ニポス- 48 -トロンギルスブラジリエンシス)を用いた生体内評価系を構築し,これ以降はこの評価系を用いた薬理評価もされるようになった。また,P4はその後,この評価系の改良を進めた(乙33,38,40ないし42,44ないし46)。 (カ) 特薬研究所の創薬チームであった原告,P2及びP3は,平成元年7月以降,チアゾロピリジン誘導体,イミダヅピリジン誘導体,ベンズイミダゾール 系駆虫薬の誘導体,カイニン酸及びキスカル酸の誘導体,天然に存在する殺線虫物質を種々合成して検討したが,なかなか駆虫活性が高い化合物を創出することはできなかった。しかし,平成3年2月頃,不十分ではあるものの,土壌線虫に対して駆虫活性を有する●(省略)●を合成することができ,これをリード化合物として誘導体合成を進めることとなった。なお ることはできなかった。しかし,平成3年2月頃,不十分ではあるものの,土壌線虫に対して駆虫活性を有する●(省略)●を合成することができ,これをリード化合物として誘導体合成を進めることとなった。なお,藤沢薬品は,この発明について,平成4 年10月15日,特許の出願をし,この出願においては,物質発明に加え,土壌線虫又は植物に寄生する線虫防除剤としての用途発明について出願がされた(甲36,37,38,乙33,40ないし45,81)。 (キ) PF1022Aの欧州特許出願は平成2年8月16日に公開されたが,原告は,平成3年2月頃,特薬事業部で回覧されていた資料によって,駆虫活性の ある新規化合物としてPF1022Aの欧州特許出願が公開されていることを知り,その公開公報を読んだ。その公報によれば,PF1022Aの化学構造(別紙「本件化合物の合成過程」の1枚目の「PF1022A」と記載されている環状の平面構造)は開示されていたものの,立体構造についての言及はなかった(甲37,40)。 (ク) 原告は,PF1022Aの立体構造がどのようなものであるかを考えていたところ,平成3年4月11日頃,「明治製菓が発見動物の寄生虫にだけ薬効」,「毒性,副作用もない体重1キログラム当たり2-5ミリグラムでOK」との見出しの同日発行の日本工業新聞の記事(以下「本件記事」という。)を目にした。 本件記事には,「新しい寄生虫駆除物質は,茨城県で採取した植物に付着している微 生物から抽出した炭素原子五十二個,水素原子七十六個,窒素原子四個,酸素原子- 49 -十二個が結合した化合物。具体的には『L・Nメチルロイシン』『D・フェニル乳酸』『D・乳酸』の三種類の化合物が環状に結合した構造をしている。」と記載されていた。 そして,原 素原子- 49 -十二個が結合した化合物。具体的には『L・Nメチルロイシン』『D・フェニル乳酸』『D・乳酸』の三種類の化合物が環状に結合した構造をしている。」と記載されていた。 そして,原告は本件記事と上記(キ)の特許出願の対象化合物であるPF1022Aとを結びつけ,その立体構造を推定した(甲37,41,乙15)。 イ PF1022の全合成から,本件特許の出願に至るまでの経過(ア) 原告は,平成3年5月,逆合成法を駆使してPF1022Aの合成計画を作成し,PF1022Aの合成に着手した(甲28,37)。 (イ) 原告は,P2と共同して,平成3年6月中旬までに,PF1022Aの全合成法の発明を完成させた。この合成法は,●(省略)●PF1022Aを合 成するというものであり,合成した化合物はラット毛様線虫に対して強い生体内活性を有することが確認された(甲28,37,42,乙55)。 (ウ) 藤沢薬品は,原告及びP2からPF1022Aの全合成法の発明について特許を受ける権利を譲り受け,平成3年8月23日,PF1022Aの全合成法に関する特許を出願した。また,藤沢薬品は,平成4年7月21日に,PF10 22Aの全合成法及びその新規中間体の物質発明について,優先権の主張を伴う特許の出願をした。なお,明治製菓がPF1022Aの全合成法について特許出願したのは,平成4年5月22日であり,藤沢薬品による出願よりも約9か月遅かった。 また,他にも米国のアップジョン,ドイツのバイエル,日本の三共がPF1022Aの全合成法を研究していたが,いずれも藤沢薬品での開発に後れるものであった (甲28,37,42)。 (エ) 特薬研究所では,合成を試みた●(省略)●では十分な活性を示すものがなかったこと 成法を研究していたが,いずれも藤沢薬品での開発に後れるものであった (甲28,37,42)。 (エ) 特薬研究所では,合成を試みた●(省略)●では十分な活性を示すものがなかったことから,その探索を●(省略)●一方,PF1022Aの駆虫活性が確認できたことから,その誘導体の探索を行うこととした。そして,原告,P2及びP3が,原告を最年長のリーダーとして,平成3年7月以降,PF1022 Aをシード化合物としたその誘導体の合成研究を開始し,まず,PF1022Aの- 50 -誘導体の合成と薬理評価を繰り返し,どの部位を修飾すると駆虫活性が高まるのか(構造活性相関)を探ろうとした。 具体的には,PF1022Aの骨格の構成要素である「L-Nメチルロイシン(N-メチル-L-ロイシン)」(Nメチルロイシン),「D-フェニル乳酸」及び「D-乳酸」を他の構成要素に置き換えて,駆虫活性にどのような影響があるのか を検討していた(甲43,44,乙33,46)。 (オ) 原告,P2及びP3は,平成3年9月13日,特薬研究所のP5と打合せを行い,その際に甲45の書面が使用された。そのうち3枚目以降がPF1022Aの誘導体を合成する計画に関するもので,原告が作成したものであるところ,原告はその資料において,①骨格の単純化(D-フェニル乳酸を1つ又は2つ含み, その他の部分を単純化すること)及び②D-フェニル乳酸部分を他の化合物に変換することを記載していた。そして,上記②に関し,甲45の資料の「Ⅲ D-PhLac部分の変換」の項目において,フェニル基部分を変換する種々の部分の一つとして別紙「原告作成の図(甲45)」記載の図(以下,この図のうち最も右側の25の図を「甲45の図」という。)が記載されていた(甲43,45,乙46) おいて,フェニル基部分を変換する種々の部分の一つとして別紙「原告作成の図(甲45)」記載の図(以下,この図のうち最も右側の25の図を「甲45の図」という。)が記載されていた(甲43,45,乙46)。 (カ) もっとも,原告らは,平成3年10月ないし12月までには,PF1022Aと同程度の駆虫活性を残したまま,その構造を単純化することは困難であると判断し,PF1022Aの骨格を維持したまま,置換基の化学修飾を行う方向で合成研究を行っていくこととした(甲43,乙33,47)。 (キ) P4は,平成3年12月までには,ラット毛様線虫を用いた試験管 内評価系を構築し,ラット毛様線虫を用いて生体内と試験管内の双方で薬理評価をすることができるようになった(乙33,39,47)。 (ク) 原告らのチームは,なかなかPF1022Aの駆虫活性を超える化合物を創出することはできなかったが,P2は,平成3年12月までに,本件明細書の実施例1記載の化合物(●(省略)●。以下「化合物①」という。)を合成した。 化合物①は,PF1022AのD-フェニル乳酸部分のフェニル基のパラ位にメト- 51 -キシ基を導入した化合物で,甲45の図の●(省略)●にしたものであり,薬理評価により,PF1022Aの約●(省略)●倍の駆虫活性を有することが確認された(甲43,47,乙47,82)。 (ケ) 藤沢薬品は,化合物①及びPF1022Aと同等の駆虫活性を有する他の化合物(別紙「原告作成の図(甲45)」の21に記載されたもので,本件明細 書の実施例2記載の化合物(●(省略)●))に係る発明について,発明者から特許を受ける権利を譲り受け,平成4年3月17日,特許の出願をした(本件基礎出願1)。 この特許出願の願書に添付され 書の実施例2記載の化合物(●(省略)●))に係る発明について,発明者から特許を受ける権利を譲り受け,平成4年3月17日,特許の出願をした(本件基礎出願1)。 この特許出願の願書に添付された明細書には,ニポストロンギルスブラジリエンシスを感染させたラットでの駆虫効果を調べた試験結果が記載されていた(【00 26】以下)(甲43,乙82,83,94の1)。 (コ) 原告は,化合物①の駆虫活性が高かったことから,PF1022Aの●(省略)●可能性を考え,平成4年5月8日までに,「D-phLac部分の誘導体合成計画」と題する書面(甲46)を作成し,同日,これをもとにP5と打合せを行った。原告はその書面の「●(省略)●」の項目において,●(省略)●を修 飾する種々の化合物を掲げ,その中に別紙「原告作成の図(甲46)」(以下,この図のうち右側の上から3番目の枠内の図を「甲46の図」という。)が記載されていた。ただし,原告はその時点では,●(省略)●化合物についても検討していた(甲46のまとめ①③)(甲43,46)。 (サ) 原告は,平成4年7月初め,本件明細書の実施例3(請求項8)記載 の化合物(甲46の図においてRが中央のもの。●(省略)●。以下「化合物③」という。)を合成した。化合物③は,PF1022AのD-フェニル乳酸部分のフェニル基のパラ位にジメチルアミノ基を導入した化合物であり,薬理評価により,PF1022Aの約●(省略)●倍の駆虫活性を有することが確認された。 また,原告は,同年8月10日,本件化合物(本件明細書の実施例5記載の化合 物で,甲46の図においてRが右側のもの)を合成した。本件化合物は,PF10- 52 -22AのD-フェニル乳酸部分のフェニル基のパラ位にモルフォ 件化合物(本件明細書の実施例5記載の化合 物で,甲46の図においてRが右側のもの)を合成した。本件化合物は,PF10- 52 -22AのD-フェニル乳酸部分のフェニル基のパラ位にモルフォリノ基を導入した化合物であり(上記別紙参照),薬理評価により,PF1022Aの約●(省略)●倍の駆虫活性を有することが確認された(甲43,47,48,乙84)。 (シ) 原告らは,化合物③がPF1022Aの約●(省略)●倍の駆虫活性を有することが判明した後,これをそれまでのように全合成によって合成した場合, 採算的に釣り合わない可能性が高いことから,●(省略)●を行うことも想定し,全合成法により合成したPF1022Aから出発して化合物③を合成する方法(半合成法)について検討を開始した。 その結果,原告らは,平成4年8月下旬,PF1022Aをニトロ化反応に付し,PF1022Aのニトロ化体(PFニトロ体)を得る発明を完成させ(別紙「本件 化合物の合成過程」の1枚目の工程1参照),その後,中間体を還元的アルキル化反応に付し,化合物③を合成する発明を完成させた(甲43,48)。 (ス) それまでの合成方法では,●(省略)●を出発原料としてPF1022Aの●(省略)●を合成していたため,この合成法で得られる●(省略)●は限られていたが,P2は,種々の置換基を有する●(省略)●の汎用性のある合成法 のために,その頃,●(省略)●を出発原料とした●(省略)●の合成法を見出した。これは本件明細書の製造例59,93及び101記載の方法であり,この方法を見出したことによって,より多様な誘導体合成を短期間で行うことが可能となった(甲43,乙80)。 (セ) 藤沢薬品は,化合物③及び本件化合物並びにその他4つの化合物(本 件明 方法を見出したことによって,より多様な誘導体合成を短期間で行うことが可能となった(甲43,乙80)。 (セ) 藤沢薬品は,化合物③及び本件化合物並びにその他4つの化合物(本 件明細書の実施例4,6,7及び8記載の化合物)の発明について,発明者から特許を受ける権利を譲り受け,平成4年10月15日,優先権の主張を伴う特許の出願をした(本件基礎出願2)。 この特許出願の願書に添付された明細書では,特許請求の範囲の内容が一部拡張変更されたほか,実施例3ないし8(そのうち実施例5が本件化合物)が追加され, また試験例(化合物①[実施例1],化合物③[実施例3],実施例4,本件化合物[実- 53 -施例5]及びPF1022Aを試験化合物として,ニポストロンギルスブラジリエンシスを感染させたラットでの駆虫効果を調べたもの)が記載されていた(【0018】以下)(甲14,48,乙94の2)。 本件基礎出願2の明細書では,PF1022Aから本件化合物の半合成による製造方法について,別紙「本件化合物の合成過程」の1枚目の工程1ないし3が製造 法2,3及び5として記載されたが,工程3(製造法5)によって本件化合物を製造した実施例は記載されておらず,本件化合物を実際に製造した実施例5は,同明細書の製造例32ないし40及び製造法1から成る全合成の製造方法(別紙「本件化合物の合成過程」の2枚目の工程BⅠ及び工程B)を用いたものであった。 (ソ) 原告らは,平成4年9月以降,PFニトロ体を還元反応に付し,PF アミノ体を合成した。また,原告らは,平成5年1月18日,PFアミノ体を環状アルキル化反応に付し,半合成法により実際に本件化合物を合成した(別紙「本件化合物の合成過程」の1枚目参照。なお,平成4年10月1日受付印の た。また,原告らは,平成5年1月18日,PFアミノ体を環状アルキル化反応に付し,半合成法により実際に本件化合物を合成した(別紙「本件化合物の合成過程」の1枚目参照。なお,平成4年10月1日受付印のある乙10には製造法5の記載があるが,本件化合物を作成する反応例は記載されておらず,前記のとおり本件基礎出願2の明細書にも記載されていないから,製造法5による 本件化合物の合成が乙10の作成までに完成されていたと認めることはできず,上記認定に沿う甲43における原告の陳述を採用することができる。)。 さらに,原告らは,同年3月までに,本件明細書の実施例9ないし31記載の化合物を合成した(このうち実施例31が,本件化合物を製造法5により製造したものである。)。 なお,本件明細書記載の実施例31例のうち,原告が合成したものは●(省略)●例,P2が合成したものは●(省略)●例,P3が合成したものは●(省略)●例であった(甲27の添付資料3,甲43,47,乙84)。 (タ) 藤沢薬品は,上記(ソ)の各発明についても,発明者から特許を受ける権利を譲り受け,平成5年3月8日,優先権の主張を伴う特許(本件特許)の出願を した。 - 54 -この特許出願の願書に添付された明細書(本件明細書)では,本件基礎出願2から特許請求の範囲の内容が一部修正され,請求項が追加されたほか,実施例9ないし31及びストロンギロイデスベネズエレンシスを感染させたスナネズミで本件化合物の駆虫効果を調べた試験例の記載が追加された(甲2)。 ウ本件特許の出願後から本件ライセンス契約の締結に至るまでの経過 (ア) 藤沢薬品では,平成5年以降,本件化合物の製剤化に向け,本件化合物の駆虫範囲拡大のための拡大評価が実施され,●(省略) 特許の出願後から本件ライセンス契約の締結に至るまでの経過 (ア) 藤沢薬品では,平成5年以降,本件化合物の製剤化に向け,本件化合物の駆虫範囲拡大のための拡大評価が実施され,●(省略)●等の様々な評価試験等が行われた。具体的には,特薬研究所で本件化合物の駆虫効果をさらに詳細に評価するための試験や,製剤化に向けた評価試験等の多数の試験が行われた。 また,特薬研究所の主任研究員で,開発担当であったP6が主導して,一部の評 価試験の実施を株式会社京都動物検査センター,岐阜大学等の外部機関に委託し,藤沢薬品はその委託費用を負担した(甲50,58,乙14の2,30,53,54,55,74,86)。 (イ) 藤沢薬品は当初,本件化合物を含有する製剤を自社製品として,自社で製造販売承認申請を行うことも検討していた。また,藤沢薬品は,本件特許が出 願公開された●(省略)●(甲2,50,乙53,54)。 (ウ) 当時,明治製菓は,平成4年5月22日にPF1022Aの全合成方法に関する特許を出願した後,平成5年2月19日にPF1022Aの誘導体の特許を出願していたほか,PF1022BからEといった同種の化合物の特許も出願していた。 また,バイエルは,平成2年8月以降,明治製菓とPF1022A及びその関連化合物の研究に関して密接に接触していたが,平成6年1月11日,ドイツ特許庁に本件化合物とプラジカンテル又はエプシプランテルの合剤に関する発明について特許の出願をし,日本でも平成7年1月9日,発明の名称を「内寄生性生物防除剤である組成物」とする優先権の主張を伴う特許の出願をした。我が国の特許出願の 願書に添付された明細書には,実施例Aとして,イヌを鉤虫で感染させた線虫テス- 55 -トの結果が(【018 剤である組成物」とする優先権の主張を伴う特許の出願をした。我が国の特許出願の 願書に添付された明細書には,実施例Aとして,イヌを鉤虫で感染させた線虫テス- 55 -トの結果が(【0180】以下),実施例Bとして,ネコを線虫で感染させた線虫テストの結果が(【0189】以下),それぞれ記載されていた。なお,バイエル製品のうち「プロフェンダータブレット」はイヌに投与するもので,犬鉤虫も対象疾患とされているし,「プロフェンダースポット」はネコに投与するもので,猫線虫も対象疾患とされている。 また,バイエルは,平成5年5月26日にPF1022Aの誘導体の特許を2件,平成6年10月18日に同誘導体の特許を1件出願していたほか,それ以後もPF1022A関係の誘導体の特許を出願している(甲23,29の添付資料6,7,甲31,32,53,54,59,乙27,59,74)。 (エ) 藤沢薬品は,平成6年3月から,本件化合物の犬フィラリア薬として の検討を開始し,●(省略)●を依頼した。また,その後,藤沢薬品は,●(省略)●を開始した。その過程で,原告が●(省略)●の日本法人に対して情報提供したこともあった(甲33,50,58,乙52,74)。 (オ) 藤沢薬品は,平成7年6月以降,自社による製剤の検討を開始したが,そのために本件化合物を工業的スケールで製造するのに適する製造方法の開発を進 め,その改良を施した別件特許1ないし3の出願又はその基礎出願をしたところ,各特許の概要は次のとおりである(別紙「本件化合物の合成過程」参照)。なお,別件特許はいずれもバイエルがバイエル製品を製造販売するに当たり,実施されていない。また,このほかにもP2らは,本件化合物を工業スケールで製造可能な全合成法を開発し,藤沢薬品 成過程」参照)。なお,別件特許はいずれもバイエルがバイエル製品を製造販売するに当たり,実施されていない。また,このほかにもP2らは,本件化合物を工業スケールで製造可能な全合成法を開発し,藤沢薬品は,同年10月から発酵生産の研究も開始した(甲22, 乙74,77ないし79,95ないし98)。 a 別件特許1(乙95)(発明者:原告,P2,P3)駆虫活性を有するデプシペプチド誘導体の別途製造法及びこのようなデプシペプチド誘導体を合成する新規中間体に関する発明である。具体的には,上記別紙の1枚目記載の半合成法による製造過程において用いられ得る発明であり,半 合成法においては,「PFアミノ保護体」の物質発明及びその保護基を外し,本件化- 56 -合物をPF1022Aから半合成する際の中間体になる「PFアミノ体」を合成する製法(工程A)に関するものである。 b 別件特許2(乙96[乙77])(発明者:P3,P2)駆虫活性を有する環状デプシペプチド誘導体の別途製造法及びこのようなデプシペプチド誘導体を合成する新規中間体に関する発明である。具体的には, 本件化合物の全合成の工程に係る上記別紙の2枚目のうち,右側の最終工程である工程Cに係る製法発明及びこれに関する中間体の物質発明である。 c 別件特許3(乙97[乙79])(発明者:P2,P7)駆虫活性を有するデプシペプチド誘導体の新規な製造法に関し,詳細には,デプシペプチド誘導体の合成中間体を工業的に有利に製造することのできる方 法に関する発明である。具体的には,上記別紙の2枚目の本件化合物の全合成の工程のうち,原料化合物としてのモノフォリノフェニル乳酸若しくはその前駆体又はそれらの保護体の物質発明等で のできる方 法に関する発明である。具体的には,上記別紙の2枚目の本件化合物の全合成の工程のうち,原料化合物としてのモノフォリノフェニル乳酸若しくはその前駆体又はそれらの保護体の物質発明等であり,●(省略)●。これと別件特許2によって,●(省略)●ことができるようになった(乙53)。 (カ) 本件化合物の製剤化を検討していた特薬研究所は,平成8年7月1日, 知的財産部に対し,検討中の製剤組成についての特許調査を依頼したところ,知的財産部は,同年8月13日,それらは明治製菓の出願中特許に抵触するおそれがある旨の回答をした(乙56,57)。 (キ) この間の平成8年5月,米国で本件化合物に関する特許権が登録されて成立した。そして,●(省略)●求めた。 これを受けて,同年9月17日,特薬研究所は役員に対し,これまでの経緯と同研究所の考えを説明した(この日のことは乙23にも言及がある。)。 そこでは,当時の販売高1位の駆虫薬であるイベルメクチンの欠点として,①特許期間が満了,②耐性寄生虫の出現(羊分野),③同種競合品の出現,④犬フィラリアに対して治療効果が出ない,⑤毒性が高い(犬種により使用できない),⑥重要線 虫類(鞭虫,鉤虫)に対して効果が低いとする一方,本件化合物の特徴として,(a)- 57 -駆虫活性が現存する薬剤の中で一番広い,(b)安全性が高い,(c)犬フィラリア症の治療ができる,(d)イベルメクチンと交差耐性がない,(e)経口,非経口で使用可能としていた。 もっとも,本件化合物の開発上の問題点として,①合成工程が長いので原価低減が困難(対策として発酵中間体の生産を検討),②明治製菓の発酵生産品からの対抗 品出願の可能性(現状ではなし),③難溶性物質なので高い製薬技術が求め 上の問題点として,①合成工程が長いので原価低減が困難(対策として発酵中間体の生産を検討),②明治製菓の発酵生産品からの対抗 品出願の可能性(現状ではなし),③難溶性物質なので高い製薬技術が求められる(ただし既に対応されつつある),④開発コストの負担を挙げていた。 そして,抗フィラリア薬としてのみ国内開発したときのROI(開発経費に対する5年利益の割合)は●(省略)●倍であるとしていた(乙74)。 (ク) 藤沢薬品では,平成8年10月28日付けで明治製菓とバイエルの出 願特許から見た本件化合物をめぐる権利関係について見解をまとめた。 そこでは,まず,明治製菓については,藤沢薬品がPF1022Aの全合成と誘導体の特許を先立って出願できたことから,明治製菓の物質特許で優先権の主張ができるものは限られ,その中で藤沢薬品に脅威を与えるのは発酵生産力価の高いPF1022Aのみであると分析した。次に,バイエルについては,平成5年から平 成7年に出願したPF1022A関係のものは,いずれも藤沢薬品の本件特許に抵触するか活性の低いものであり現在のところ脅威を与えるものはないと分析した。 そして,結論として,本件化合物に関する米国特許が広い範囲で成立していることから,PF1022Aの誘導体で本件化合物以上の高活性の化合物を本件特許を逃れて見出すのは困難であると判断していた(甲59)。 (ケ) これらを踏まえ,平成8年12月2日,特薬研究所は再び役員会で同研究所の考えを説明した(乙23,60)。 a そこでは,次のように述べられている。 (a) 本件化合物は,抗寄生虫スペクトルが現存する寄生虫薬の中では最も広範囲で,新規の作用機序を有する化合物であるが,各寄生虫に対する最低有 効量の検討と精度の高い安 うに述べられている。 (a) 本件化合物は,抗寄生虫スペクトルが現存する寄生虫薬の中では最も広範囲で,新規の作用機序を有する化合物であるが,各寄生虫に対する最低有 効量の検討と精度の高い安全性の評価が未了である。 - 58 -(b) 本件化合物の生産見通しは,合成による場合には,全合成法はノウハウがほぼ完成し,半合成法も骨格はできあがっており,発酵法による場合も明治製菓とは異なる同等の生産菌を保有しており,現在は合成原料として使える前駆体単離の可能性やPF1022Aより高度な化合物生産を検討している。 (c) 犬フィラリア症予防・治療剤として開発する場合のROIは● (省略)●倍である。 (d) 明治製菓の特許もバイエルの特許も本件化合物に優るものはなく,結局は本件化合物に収束されると考えられる。 (e) 明治製菓及びバイエルの事情としては,PF1022Aではフィラリア用途へ展開できず,他の線虫用途に対してもスペクトルが狭く,バイエルが 現在候補としている誘導体は本件特許に抵触し,PF1022Aとその誘導体の海外での開発権はバイエルに移譲されており,明治製菓とバイエルの契約上は明治製菓は藤沢薬品にPF1022Aを提供できない。 (f) フィラリア薬の営業活動の実態として,国内では明治製菓と藤沢薬品がそれぞれ営業活動を行い,海外市場では,明治製菓はバイエルに開発・販売 権を移譲しているが,バイエルは外部寄生虫薬では世界最大の製薬会社だがフィラリア薬の販売経験はなく,藤沢薬品は●(省略)●等から評価の申入れを受けて実施しており,●(省略)●はフィラリア薬の研究・販売では他の追従を許さず,●(省略)●があった。 (g) ●(省略)●に対する方針としては,犬フィラリア用途について 国内では独自に開発でき 施しており,●(省略)●はフィラリア薬の研究・販売では他の追従を許さず,●(省略)●があった。 (g) ●(省略)●に対する方針としては,犬フィラリア用途について 国内では独自に開発できる見通しが得られたこと,海外についても独自のパートナーを選定して開発できる可能性があることから,本件特許の譲渡申入れに対応する必要はない。 b この役員会では,国内展開だけでなく海外展開も含めて開発することとし,海外展開のパートナーについては平成9年2月の●(省略)●の開発計画 を見て決めることとし,●(省略)●は断る方針となった。 - 59 -(コ) この役員会を受けて,特薬研究所は,平成8年12月,高価な全合成法に代えて,発酵法による安価な生産の検討を探索研に依頼したが,PF1022Aは明治製菓が特許を取得していることから,その前駆体又はその高次化合物を発酵法で作ることが必要であった。 しかし,特薬研究所は,平成9年6月までに,PF1022Aの前駆体又はその 高次化合物を発酵法で収率よく生産できる可能性は極めて低いとの結論に達したことから,国内のペット向けのフィラリア用途だけであれば全合成法でもコスト的に可能だが,海外展開の家畜向けまで考えるとPF1022Aの権利を有する明治製菓と手を握らざるを得ないとの結論となった。また,藤沢薬品としては駆虫薬を本格的に開発するのは初めての経験で,ノウハウ不足に加え,臨床試験等の面で多く の費用とマンパワーが必要になることから,自社のみでの開発には限界があった(甲26)。 (サ) 藤沢薬品は,役員会の方針を受けて,●(省略)●と役員同士の会談を行い,●(省略)●旨を回答していたが,その際に●(省略)●から藤沢薬品と協調していく上での接点を見出したい旨の打診があ (サ) 藤沢薬品は,役員会の方針を受けて,●(省略)●と役員同士の会談を行い,●(省略)●旨を回答していたが,その際に●(省略)●から藤沢薬品と協調していく上での接点を見出したい旨の打診があったことから,同年9月頃に再 会談する予定となっていた。そうしたところ,●(省略)●等について仮合意した(甲26)。 (シ) この仮合意を受けて,藤沢薬品,●(省略)●は,●(省略)●が,この時点で●(省略)●藤沢薬品は,ロイヤルティーについては,法務部を含む社内での検討を踏まえ, ●(省略)●をとっていたことに対して,特薬事業部企画部の主査が人的関係により●(省略)●の担当者と鋭意交渉するなどした。 このようにして,藤沢薬品は,●(省略)●との協議・検討を進め,●(省略)●経緯を経て,藤沢薬品と●(省略)●は,●(省略)●。なお,藤沢薬品では,その協議・検討を特薬事業部の企画部が中心に担当し,原告がその協議に関与する ことはなかった(甲59,乙24,63,64,72,75)。 - 60 -(ス) この間,●(省略)●(セ) また,この間,藤沢薬品は,本件化合物の結晶形の開発を進め,平成9年11月10日に別件特許4を出願した(発明者:P8,P3,P9)。これは,駆虫活性を有するデプシペプチド誘導体の新規な結晶及びその製造方法に関する発明であり,従来製法による結晶よりも製造効率と収率が高められた結晶を提供する というものである(乙98)。 (ソ) 以上の経緯の下で,藤沢薬品は,平成10年4月27日,バイエルと二社間で本件ライセンス契約を締結することになった。なお,本件ライセンス契約の対象には,●(省略)●等を含めることにされた(乙52,53,72)。 エ本件ライセンス契約 月27日,バイエルと二社間で本件ライセンス契約を締結することになった。なお,本件ライセンス契約の対象には,●(省略)●等を含めることにされた(乙52,53,72)。 エ本件ライセンス契約締結後の経過 (ア) バイエルは,平成10年4月27日,藤沢薬品との間で本件ライセンス契約を締結し,同月28日には,全く新規な特許で保護された成分の開発に約1億ドイツマルクを投資していくと発表した(甲30)。 (イ) 藤沢薬品は,本件ライセンス契約の条項(前記第2の2(4)オ)を受け,契約締結後も,バイエルと会議等を行い,バイエルからの本件化合物に関する質問 に回答するだけでなく,バイエルからの要請を受けて,新たに試験を実施してそのデータ等を提供したり,結晶サンプルを提供したり,バイエルに提出していた各種論文やデータを英語に翻訳したりするなどした。 バイエルと藤沢薬品との会議では,バイエル側から,●(省略)●また,平成11年10月3日の会議においては,バイエル側から,●(省略)● との報告がされた(乙25,26,52,53,55,76,92)。 (ウ) バイエルでは,本件化合物を含有する駆虫薬の研究開発が進められたが,●(省略)●ため,プラジカンテルとの合剤とすることとした。また,バイエルでは,●(省略)●(甲29の添付資料13,14,乙18,19,88)。 (エ) 藤沢薬品は,平成13年5月,武田シェリング・プラウアニマルヘル ス株式会社に動物薬事業を譲渡し,動物薬事業から撤退した(甲29)。 - 61 -(オ) ネコ用駆虫薬については製剤化に向けた研究開発が進み,バイエルの日本の子会社であるバイエル株式会社は,平成13年8月20日,明治製菓に対し,PF221ネコ用スポットオン製剤の国内開発に関 (オ) ネコ用駆虫薬については製剤化に向けた研究開発が進み,バイエルの日本の子会社であるバイエル株式会社は,平成13年8月20日,明治製菓に対し,PF221ネコ用スポットオン製剤の国内開発に関し,同製剤の臨床試験に係わる業務を委託し,明治製菓は我が国において治験を実施した。また,バイエルは諸外国でも製造販売承認を得るなど上記製剤の製造販売に向けた手続を進めた(甲29)。 (カ) バイエルでは,●(省略)●(乙49,88)。 (キ) バイエルは,バイエル製品の製造販売承認を得るなどした後,製品の広告宣伝活動や,営業活動等をしてきた。他方で,藤沢薬品は,本件特許や別件特許に係る特許権の設定登録に向けて必要な手続をするなどしたほか,特許登録後は特許料を支払うなど特許の維持管理をしている(甲1,乙27)。 (2) 相当の対価の額の算定方法アまず,被告は,平成15年施行規則が制定・施行されるまでの経緯等に照らし,本件は前掲最高裁平成15年4月22日判決及びその他関連裁判例の射程外であると主張している。 しかし,平成15年施行規則が施行されたのは平成15年1月1日(施行日を遡 及させる旨の定めによっても平成13年4月1日)であり,これは本件発明が完成し,本件発明に係る特許を受ける権利が譲渡された後であるところ,原告がこの規則に拘束され,これによる補償金の額が特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないとしても,同条3項の規定に基づきその不足する額に相当する対価の支払を求めることができないというのは,原告にとっては実質的に不利益 なことである。そうすると,被告が原告の既発生の権利を個別の同意なく不利益に変更することはできないから,事後的に平成15年施行規則が制定・施行されたこ いうのは,原告にとっては実質的に不利益 なことである。そうすると,被告が原告の既発生の権利を個別の同意なく不利益に変更することはできないから,事後的に平成15年施行規則が制定・施行されたことによって,原告による特許法35条3項に基づく相当の対価請求権の行使が妨げられると解することはできない。 したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 イところで,特許法35条4項は,「対価の額は,その発明により使用者等- 62 -が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。」と定めるところ,従業者等は,特許を受ける権利を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得する(同条3項)から,相当の対価の額の算定において基準とすべき時点は,その承継時であると解される。したがって,相当の対価の額の算定に当たって考慮すべき「使用者等 が受けるべき利益の額」とは,その文言が「受けた利益の額」ではなく「受けるべき利益の額」とされていることからも明らかなように,使用者等が特許を受ける権利を承継させた後に現実に受けた利益ではなく,当該権利を承継させた時に客観的に見込まれる利益の額のことを指すと解される。また,同様に,「使用者等が貢献した程度」も,「その発明がされるについて」のものとされているから,本来は発明が されるまでのものを指すと解される。しかし,承継後に現実化した利益の額が判明しているときには,それに基づいて承継時において客観的に見込まれる利益の額を算定することが,算定の客観性を確保するために合理的なことである。ただし,承継後に利益が現実化するに当たっては,承継後の使用者の貢献があることは当然であるし,承継時点では利益が現実化するか否かにも 算定することが,算定の客観性を確保するために合理的なことである。ただし,承継後に利益が現実化するに当たっては,承継後の使用者の貢献があることは当然であるし,承継時点では利益が現実化するか否かにも不確定要素があるのが通常であ る。したがって,承継時点での相当な対価の額を算定するに当たり,承継後に現実化した利益の額に基づくこととする場合には,承継後の使用者等の貢献や承継時点での不確定リスクも「使用者等が貢献した程度」として考慮する必要があるというべきである(以下では,これらの意味で,「使用者等が受けるべき利益」,「使用者等の貢献」ということにする。)。 ウ以上の観点から相当の対価の額を算定することにするが,本件では,その算定方法として,使用者である藤沢薬品及び被告が受けるべき利益の額に発明者の貢献割合(1から使用者等の貢献度を控除した割合)を乗じ,さらに共同発明者間における原告の貢献割合(寄与割合)を乗じることまでは当事者間に争いがなく,これは相当な方法であるから,この算定方法によることとする。また,被告はその 算定に当たり,「成功確率」を踏まえた調整をすべきであると主張し,原告はこれを- 63 -争っているところ,この点については後に判断することとする。 (3) 藤沢薬品及び被告が受けるべき利益ア藤沢薬品及び被告は,本件特許を自ら実施することはせず,バイエルと本件ライセンス契約を締結し,バイエルからそれに基づくロイヤルティ等の支払を受けていることから,本件では,その額をもとに藤沢薬品及び被告が受けるべき利 益の額を算定することになる。 そして,本件ライセンス契約では,本件特許のほか別件特許,本件ノウハウ及び商標に関する権利が許諾されており,また,ライセンス料(契約一時金)とロイヤ るべき利 益の額を算定することになる。 そして,本件ライセンス契約では,本件特許のほか別件特許,本件ノウハウ及び商標に関する権利が許諾されており,また,ライセンス料(契約一時金)とロイヤルティの支払が定められていることから,これらのうち本件特許の実施許諾の対価として藤沢薬品及び被告が受領した金額を判別する必要がある。以下,順次検討す る。 イライセンス料(契約一時金)について(ア) 本件で原告は,平成16年4月1日以降に藤沢薬品及び被告が受けるべき利益を基礎とする相当の対価の未払分を請求しているから,ここで検討すべきなのは,①ライセンス料(契約一時金)のうち●(省略)●に藤沢薬品に対して支 払われた●(省略)●円(藤沢薬品がこの支払を同年4月1日以降に受けたことについては,当事者間に争いがない。)及び●(省略)●に被告に対して支払われた●(省略)●円のライセンス料である。 (イ) これについて,被告は,まず,ライセンス料(契約一時金)の実質は,●(省略)●でバイエルから交付されるものであるとして,独占の利益の算定基礎 に含むべきでないと主張している。 確かに,本件ライセンス契約の第3条(前記第2の2(4)イ)では,バイエルはライセンス料を「●(省略)●」藤沢薬品に支払うと規定されている。 しかし,バイエルが対価の提供なしに藤沢薬品の経費の補填をすることはあり得ない上,本件ライセンス契約の上記条項でも,ライセンス料は「●(省略)●」の 性質も有するとされているのであるから,ライセンス料も本件特許等の権利の許諾- 64 -の対価としての性質を有すると認めて,独占の利益の算定基礎に含めるのが相当である。 (ウ) 次に,被告は,ライセンス料(一時金)を独占の利益の算定基礎 本件特許等の権利の許諾- 64 -の対価としての性質を有すると認めて,独占の利益の算定基礎に含めるのが相当である。 (ウ) 次に,被告は,ライセンス料(一時金)を独占の利益の算定基礎に含める場合でも,藤沢薬品が負担した●(省略)●円の人件費及び経費を一時金収入から控除すべきであると主張している。 確かに,本件化合物の研究開発に当たっては,藤沢薬品において人件費のみならず,相当額の経費の負担をしていたことは容易に認められるところである。 しかし,ライセンス料収入を得るために要する経費として考えられるのは,特許の維持費用や契約費用といった程度のものであり,被告がいう発明の開発経費等をライセンス料収入自体の経費ということはできない。そして,特許の維持費用等が 低額であることも考慮すれば,被告が主張する事情は,それらも併せて後に検討する使用者貢献度の問題として検討するのが相当である。 ウロイヤルティ(実施料)について(ア) まず,被告は,藤沢薬品がバイエルから支払を受けたロイヤルティのうち,①本件ライセンス契約の第8条に基づき藤沢薬品からバイエルに許諾される 権利等(被告が商標ライセンスと主張しているもの)の対価である●(省略)●%のロイヤルティ,②藤沢薬品が我が国において,本件ライセンス契約の第11条に規定する権利(日本における藤沢薬品の販売権)を行使しない旨の通知をしたことによる上乗せ分である●(省略)●%のロイヤルティについては,独占の利益に含まれない旨主張している。 そこで検討すると,まず,①については,本件ライセンス契約の規定(第4条)上,●(省略)●などしたこと(第8条)の対価として支払われるものであることが明確に定められているから,本件特許の許諾の対価であるとは 討すると,まず,①については,本件ライセンス契約の規定(第4条)上,●(省略)●などしたこと(第8条)の対価として支払われるものであることが明確に定められているから,本件特許の許諾の対価であるとは認められない。 この点につき,確かに,本件ライセンス契約の第8条では,許諾の対象となり,したがってロイヤルティ支払の対象となるのは,バイエルが「●(省略)●」の販 売に使用することを希望する商標であり,かつ,●(省略)●)とされているのに- 65 -対し,バイエル製品は合剤であり,「●(省略)●」ではなく,またバイエル製品に関して登録された商標の商標権者はバイエルのままとされている(甲53,乙49)から,バイエルから被告に対して●(省略)●%のロイヤルティが支払われてきたというのは一見不可解なことである。 しかし,他方で,上記事実関係があるにもかかわらず,バイエルは,外国におけ る販売に係るロイヤルティが●(省略)●%であることを前提にロイヤルティの支払をしており(乙50),被告においてもそのうち●(省略)●%が「商標Royalty」であると理解してきた(乙49)から,本件ライセンス契約の当事者間では,バイエルが被告に対して支払うロイヤルティのうち●(省略)●%がいわゆる商標のライセンスの対価として支払われていることは当然の前提とされていること がうかがわれる。そうすると,このような行動の経済的合理性には不明なところもあるが,上記①の●(省略)●%が本件特許の実施の対価としてのロイヤルティであるとまで認めることはできず,藤沢薬品及び被告が受けるべき利益からは除外して捉えることにならざるを得ない。この点について,原告は,独占禁止法上の問題を指摘する(甲11,53)が,そのことは上記①の●(省略)●%が本件特許の 品及び被告が受けるべき利益からは除外して捉えることにならざるを得ない。この点について,原告は,独占禁止法上の問題を指摘する(甲11,53)が,そのことは上記①の●(省略)●%が本件特許の 実施の対価としての性質を有するか否かの問題に影響を及ぼすものではない。 また,②については,●(省略)●ことにしたことによるロイヤルティの上乗せ分であるところ,使用者等は従業者等の職務発明について無償の通常実施権を有する(特許法35条1項)から,これは藤沢薬品が我が国において通常実施権を行使しないことの対価であるとみるのが相当である。そして,通常実施権を有している ことによって受けることのできる利益は,「使用者等が受けるべき利益」(独占の利益)に含まれないと解されるから,上記上乗せ分はその算定基礎に含まれない。これに反する原告の主張は採用できない。 以上より,上記①及び②はいずれも藤沢薬品及び被告が受けるべき利益に含まれるとはいえない。 (イ) 次に,被告は,本件ライセンス契約の対象には,別紙「付属文書F- 66 -(本件ノウハウ)」記載のノウハウや,別件特許が含まれているとして,本件特許の寄与度を考慮すべき旨主張している。他方で,原告は,バイエルで実施されているのは本件化合物に係る発明であって,これが藤沢薬品や被告に大きな利益をもたらしているとして,同発明について検討することで足りるなどと主張している。 a 別件特許について まず別件特許について検討すると,確かに,バイエルが実施しているのは本件特許のうち本件化合物とその半合成法に係る発明部分であり,別件特許のうち別の半合成法に係る別件特許1や全合成法に係る別件特許2及び3は実施していない。また,EUでの製造承認申請の過程の文書ではバイエルが用 うち本件化合物とその半合成法に係る発明部分であり,別件特許のうち別の半合成法に係る別件特許1や全合成法に係る別件特許2及び3は実施していない。また,EUでの製造承認申請の過程の文書ではバイエルが用いている本件化合物は「結晶多型を示す」とされている(甲23)ものの,多型の範囲は明らかで ないから,バイエル製品の製造過程で特定の結晶形に関する別件特許4が実施されていることを認めるに足りる証拠はない。しかし,別件特許1及び4は本件化合物の半合成法において用いられ得るものであり(甲22),被告も別件特許1が実施されていないことを認めつつも,平成20年度から平成22年度及び平成23年度から平成25年度までの実施時補償金についても原告に支払の提示した(甲18の2, 19の2)ことに照らしても,これが無価値なものであったとは認められない。また,本件ライセンス契約の締結当時,バイエル製品の製造に当たって用いる本件化合物として,特定の結晶形のものを用いていたかどうかは不明であるから,製造効率と収率が高められた結晶を提供することを目的とする別件特許4も無価値なものであったとは認められない。さらに,別件特許は,前記認定のとおり,本件化合物 の全合成又はPF1022Aからの半合成の工程に関する製法発明や中間体等に関する物質発明,本件化合物の結晶形に関する発明であるから,仮に何らかの事情で本件特許による半合成法が頓挫した場合の予備としての意味はあり得るし,そのような場合に備えて,別件特許を本件ライセンス契約の対象とすることでそれらの特許権が放棄されたり譲渡されたりするのを防止しておく意味もあり得る。 したがって,バイエルにとっても,本件特許だけでなく,別件特許も本件ライセ- 67 -ンス契約の対象としておく経済的合理性があったこ り譲渡されたりするのを防止しておく意味もあり得る。 したがって,バイエルにとっても,本件特許だけでなく,別件特許も本件ライセ- 67 -ンス契約の対象としておく経済的合理性があったことは否定できず,本件ライセンス契約に基づく一時金やロイヤルティは,それも含めた対価と認めるのが相当であり,藤沢薬品及び被告が受けるべき利益を考えるに当たっては,別件特許の寄与度を控除して考えるべきである。これに反する原告の主張は採用できない。 他方で,バイエルは本件ライセンス契約の協議が開始された平成9年10月の時 点で既に本件化合物を第一候補品として挙げていたのであるし,本件ライセンス契約においても本件化合物を含有する単味剤又は合剤のみを「本件製品」と定義付けて許諾対象とし,契約締結後も,一貫して本件化合物を製剤化しようとし,本件化合物に係る発明部分のみを現に実施していることからも,本件化合物に係る発明を含む本件発明の価値が高いことがうかがわれ,藤沢薬品が●(省略)●をしてから わずか4か月でバイエルとの本件ライセンス契約の基本合意に至ったことからしても,藤沢薬品が本件特許を保有していたことが極めて大きく影響して,本件ライセンス契約の締結,そして,これに基づくバイエル製品の製造販売,さらに一時金やロイヤルティの支払につながったものと認めるのが相当である。 そうすると,別件特許との比較において,本件特許の寄与度は非常に大きいもの と認められる。 b 本件ノウハウについて次に,本件ノウハウについて検討すると,確かに,本件ライセンス契約の第6条(前記第2の2(4)オ)では,藤沢薬品がバイエルに対して,別紙「付属文書F(本件ノウハウ)」記載の多数のノウハウ等(本件ノウハウ)を提供することと されて 確かに,本件ライセンス契約の第6条(前記第2の2(4)オ)では,藤沢薬品がバイエルに対して,別紙「付属文書F(本件ノウハウ)」記載の多数のノウハウ等(本件ノウハウ)を提供することと されている。そして,同条では,それは,「●(省略)●」にするためであると明記されている。このような契約内容に照らせば,本件ノウハウが本件化合物に係る発明を含む本件特許の実施に一定程度寄与したことは否定できない。 現に,藤沢薬品は,バイエルとの協議・検討の過程だけでなく,本件ライセンス契約の締結後も,元々所持していた実験データを提供したり,バイエルからの要請 を受けて,新たに試験を実施してそのデータ等を提供したりするなどしたところ,- 68 -バイエルから要請があったことや本件ライセンス契約の締結後もバイエルと藤沢薬品との会議等が行われていたこと等に照らせば,藤沢薬品がバイエルに対して提供した試験のデータ等の本件ノウハウが一定程度,バイエルにおける本件化合物の製剤化に向けた研究開発に有益であったことがうかがわれる。 しかし,バイエルは,平成2年8月以降,明治製菓とPF1022A及びその関 連化合物の研究に関して密接に接触し,平成6年1月の段階では既に,本件化合物とプラジカンテル又はエプシプランテルの合剤に関する発明について特許の出願をし,その他の関連特許も出願していたこと(甲67,乙74)に加え,本件ライセンス契約の協議が開始された●(省略)●の時点で本件化合物を第一候補品として挙げ,類似化合物との比較分析も行い,PF1022Aを中間原料として合成する に当たり●(省略)●ことが課題であると述べていたことに照らせば,バイエルが藤沢薬品から提供されたデータ等に依存していたとは考え難く,自ら本件化合物の合成や,その製剤化に向けた実 て合成する に当たり●(省略)●ことが課題であると述べていたことに照らせば,バイエルが藤沢薬品から提供されたデータ等に依存していたとは考え難く,自ら本件化合物の合成や,その製剤化に向けた実験等を実施していたものと推認される。そして,少なくともバイエルがバイエル製品を開発するに当たり,藤沢薬品や被告がその研究開発に具体的に関与していたことはうかがわれないから,本件化合物の製剤化に当 たっては,バイエルが自らの技術力によって研究開発を進めたものと認めるのが相当である。 したがって,藤沢薬品が提供し,又は提供すると約した実験データ等の本件ノウハウが本件ライセンス契約の締結や,バイエル製品の製造販売等に寄与した割合は小さく,限定的なものとみざるを得ない。 c 被告の主張について被告は,藤沢薬品がバイエルに対して本件ノウハウを提供したことが,より迅速な製品開発及び上市につながったなどと主張しているが,バイエルにおける研究開発の具体的経緯等を認めるに足りる証拠はないし,上述したとおり,バイエルは平成6年1月よりも前から既に本件化合物について研究しており,バイエル は藤沢薬品との協議の当初から,●(省略)●ことが課題であると指摘するなどし- 69 -ていたのであり,その企業規模や技術力に照らせば,被告主張の点について上記判示の限度を超えて考慮することはできない。 また,被告は藤沢薬品がバイエルに対して●(省略)●提供したことを強調しているが,藤沢薬品が提供した●(省略)●がバイエルにおける研究開発において具体的にどのように役立ったのかは判然としないし,これを措くとしても,バイエル は平成6年1月よりも前から既に本件化合物について研究しており,これを合成することもできていたと推認される において具体的にどのように役立ったのかは判然としないし,これを措くとしても,バイエル は平成6年1月よりも前から既に本件化合物について研究しており,これを合成することもできていたと推認されるから,藤沢薬品から提供された●(省略)●がなければ,その製剤化に向けた研究開発が遅延していたとまで認めることもできない。 さらに,藤沢薬品が製造した●(省略)●は全合成法によって製造されたものであったが,バイエルが本件化合物の製剤化に当たって必要としていたのはPF102 2Aからの半合成法によって製造された●(省略)●であり,製造承認申請のためには製造法が同じである必要がある(甲64,68)から,そのような意味でも,藤沢薬品が製造した●(省略)●が製剤化に当たって役に立ったかは疑問である。 したがって,被告が●(省略)●について主張することも,上記判示の限度を超えては考慮することができない(したがって,本件ノウハウについて実施料のうち● (省略)●%の寄与があったとの被告の主張も採用できない。)。 (ウ) 以上の認定・判示を踏まえると,本件特許の寄与割合は9割と認めるのが相当である。 エ平成16年4月1日以降に藤沢薬品及び被告が受けるべき利益(ア) 以上の認定・判示によれば,まず,ライセンス料(一時金)合計● (省略)●円のうち,本件特許の寄与割合(9割)に相当する●(省略)●円がこれに含まれることになる。 (イ) また,ロイヤルティ(実施料)については,まず被告がバイエルから支払を受けたロイヤルティの金額を確定する必要があることから,その点について検討する。 a 平成17年から平成28年までのロイヤルティ- 70 -バイエルが被告に対して支払っ ロイヤルティの金額を確定する必要があることから,その点について検討する。 a 平成17年から平成28年までのロイヤルティ- 70 -バイエルが被告に対して支払ったロイヤルティが別紙「実施料収入計算表(改訂第2版)」記載のとおりであることは,当事者間に争いがない。 同別紙によると,その総額は●(省略)●円である。しかし,これには,本件特許の出願・本件特許権の設定登録がされていない国における販売に係るロイヤルティや,本件特許権の存続期間が満了した国における期間満了後の販売に係るロイヤ ルティも含まれており,これらを本件特許に係る独占の利益と認めることはできないから,相当の対価の額の算定に当たってはこれらを控除して考えるべきところ,これらの販売に係るロイヤルティを控除すると,前記第2の2(5)ウのとおり,被告が支払を受けたロイヤルティは合計●(省略)●円(うち,我が国における販売に係るロイヤルティは合計●(省略)●円であるから,外国における販売に係るロイ ヤルティは合計●(省略)●円である。)である。 そして,ここから,上記ウ(ア)で藤沢薬品及び被告が受けるべき利益に含まれないと判断したロイヤルティ(我が国においては●(省略)●%分,外国においては●(省略)●%分)を控除し,さらに本件特許の寄与割合(9割)を乗じることになる(結局,我が国の分も外国の分も,●(省略)●%分のロイヤルティを考慮する ということになる。)。 そうすると,藤沢薬品及び被告が受けるべき利益に含まれるものは,合計●(省略)●円となる。 (計算式) 我が国 ●(省略)●円(1円未満は四捨五入。以下同じ。)外国 ●(省略)●円 b 平成29年から本件特許の存続期間が満了するまでの 略)●円となる。 (計算式) 我が国 ●(省略)●円(1円未満は四捨五入。以下同じ。)外国 ●(省略)●円 b 平成29年から本件特許の存続期間が満了するまでのロイヤルティ(a) 平成29年1月以降も本件特許が存続していた国は,別紙「実施許諾対象特許国一覧」の「ⅰ.第2874342号(本件特許)関連」の№1,3,5,7,10,15,16,17及び21記載の国であるが,平成29年1月以降にバイエルから被告に対して支払われた各国での販売に係るロイヤルティの金額は 不明である。 - 71 -そして,原告はこれを平成26年から平成28年までに支払われた実施料の平均値によって推計すべき旨主張しているのに対し,被告はこれを特段争うことなく,また平成29年以降に支払を受けたロイヤルティのうち開示できるものを開示していない。そして,本件特許は本件の口頭弁論終結時までに全て特許期間が満了しているところ,平成29年から存続期間満了までにバイエル製品に対する有力な競合 品が上市されたという事情もうかがわれないから,原告主張の方法によって推計すべきである。 そこで,原告主張の方法によって推計すると,№5(●(省略)●),17(●(省略)●)及び21(●(省略)●)について,同国での販売に係るロイヤルティは過去3年間いずれも●(省略)●円であるから,平成29年1月以降に支払わ れるロイヤルティの金額も●(省略)●円と推計するほかない。 また,その他の国での販売に係るロイヤルティは,年額次のとおりと推計される(計算式は,例えば●(省略)●については,(●(省略)●円)÷3。原告の主張と同じく,1000円未満は四捨五入)。 №7 ●(省略)● №1 ●(省略)●№1 れる(計算式は,例えば●(省略)●については,(●(省略)●円)÷3。原告の主張と同じく,1000円未満は四捨五入)。 №7 ●(省略)● №1 ●(省略)●№15 ●(省略)●№10 ●(省略)●№3 ●(省略)●№16 ●(省略)● (b) そして,各国における本件特許の存続期間の満了日は,別紙「実施許諾対象特許国一覧」の「ⅰ.第2874342号(本件特許)関連」の「延長後満了日」欄記載のとおりであるから,同日までのロイヤルティを推計すると,次のとおりとなる(計算式は,例えば●(省略)●については,●(省略)●円÷365日×●(省略)●日。1円未満は四捨五入。以下同じ。)。 №7 ●(省略)●- 72 -№1 ●(省略)●№15 ●(省略)●№10 ●(省略)●№3 ●(省略)●№16 ●(省略)● 合計 ●(省略)●(c) 上記(b)記載の金額について,上記aと同じ計算をすると,藤沢薬品及び被告が受けるべき利益に含まれるのは,合計●(省略)●円となる。 (計算式) 我が国 ●(省略)●円外国 ●(省略)●円 (ウ) 小括以上より,藤沢薬品及び被告が受けるべき利益は,合計●(省略)●円となる。 (4) 使用者貢献度(発明者貢献度)ア原告も,藤沢薬品の貢献として,社員であれば誰もが利用できる各種情 報を提供したこと等を考慮することは認めているが,これ以外にどのような事情を考慮すべきかについては,当事者間に争いがある。 そこで,まず,この点に関する当事者の主張について検討する(一部事実認定の補足説明を含む。)。 イ藤沢薬品 いるが,これ以外にどのような事情を考慮すべきかについては,当事者間に争いがある。 そこで,まず,この点に関する当事者の主張について検討する(一部事実認定の補足説明を含む。)。 イ藤沢薬品において駆虫薬の研究開発が開始された経緯について 被告は,藤沢薬品は,遅くとも,平成元年には,会社事業として,駆虫薬事業に関する研究開発を行うことを決定したと主張しているのに対し,原告はこれを否認している。 しかし,P4は平成元年期首以降,特薬研究所内で駆虫薬の研究開発を行うことになったと陳述している(乙33)ところ,これと整合する書証もある(乙36, 74)。そして,P4が平成2年5月に作成した研究報告書(研究期間は同年2月2- 73 -6日から同年3月30日,乙37)において,「動物薬研究の新規テーマに挙げられた駆虫薬の開発に向けて,合成化合物の評価系として…を新たに作成した」と記載していたことに照らせば,遅くとも平成2年2月の時点では特薬研究所における研究テーマとして動物用駆虫薬の研究開発が決定されていたと認められる。そして,この当時に駆虫薬開発の有望な見通しが得られていたわけではないから,開発失敗 の経済的リスクはひとえに藤沢薬品が負っていたというべきところ,そのような会社ないし特薬研究所における方針又は研究環境の下で,創薬チームのリーダーであった原告は,少なくともそのころから,駆虫薬の研究開発に専念できる役割と環境が与えられ,会社の予算によって整備等された研究設備等を使用して,自らは開発失敗の経済的リスクを負うことなく駆虫薬の研究開発を行うことができたと認めら れる。そして,このような環境がなければ,原告が,明治製菓等に先んじて,本件化合物に係る発明を完成させることはなかったと認められるから,以上のことは 駆虫薬の研究開発を行うことができたと認めら れる。そして,このような環境がなければ,原告が,明治製菓等に先んじて,本件化合物に係る発明を完成させることはなかったと認められるから,以上のことは,使用者の貢献として相当程度大きく評価すべきである。 なお,原告は,自らの研究開発について,「アンダー・ザ・テーブル」で行われていたなどと陳述している(甲34)が,一部陳述を訂正した(甲61)上に,当時 の他の書証(乙36,37)とも整合しないから,原告の上記陳述は採用できない。 また,原告は,前記(1)で引用した被告提出の書証の一部について,その作成経過や内容の信用性等を争っているが,少なくとも前記(1)で引用した書証については,その内容や他の書証との整合性等に照らし,その成立の真正や信用性を認めることができる。 ウ P4による評価系の構築・改良について被告は,P4がスクリーニング評価系を構築したことなど評価系の構築をしたことを使用者貢献として主張し,さらにP4による発明者貢献としても,その事情を主張している。これに対し,原告は,P4が作成した評価系は既に他社で行っていたものにすぎない上,P4は原告の指示の下,合成された化合物の薬理活性を 測定したにすぎないと主張している。 - 74 -この点については,被告も主張するとおり,駆虫薬の研究開発に当たって,合成した化合物の駆虫活性(薬効)を評価することは必要不可欠なものであり,これ以外の評価系は藤沢薬品にはなかったのであるし,他社の評価系(例えば甲39)がその手順の詳細まで知られていたと認めるに足りる証拠もないから,藤沢薬品の開発方針に基づいてP4がこれを構築・改良したことは,使用者貢献として評価すべ きである。 そして,少なくとも本件明細書の試験例1及び まで知られていたと認めるに足りる証拠もないから,藤沢薬品の開発方針に基づいてP4がこれを構築・改良したことは,使用者貢献として評価すべ きである。 そして,少なくとも本件明細書の試験例1及び2では,P4が構築したラット毛様線虫であるニポストロンギルスブラジリエンシスを使用して本件化合物等の生体内の駆虫活性が評価されていた(甲2)から,上記評価系の構築・改良が本件特許権の設定登録にも一定程度寄与したと認められる。原告は,P4が構築・改良し た評価系と,バイエルや明治製菓における評価系とを比較している(甲37)が,本件では藤沢薬品内部で評価系が構築され,それにより原告らが合成した化合物の駆虫活性を評価することができる環境にあったかということが重要で,現に本件化合物もP4が構築・改良した評価系によって評価された結果,見出されたのであるから,原告が陳述することによって上記判断は左右されない。 なお,原告はP4に対して評価系や投薬量を指示していたと陳述している(甲43)が,そもそも藤沢薬品では評価系が多様に存在していたわけではないし,原告が指摘する甲44の内容自体,一般的な指示にとどまっているといわざるを得ないから,原告が主張・陳述することによって,原告の貢献度が上がる(使用者貢献度が低下する)ことはないというべきである。 もっとも,P4が構築・改良した評価系は他社でも行われていた寄生虫を用いた評価方法にすぎず(甲37,乙33),P4が評価方法を特に工夫するなどしたことによって初めて本件化合物等の駆虫活性の高い化合物が見出されたというわけでもない。また,化合物の合成は専ら原告,P2及びP3が担当し,P4は合成された化合物の駆虫活性の評価を担当していたにすぎないから,本件化合物に係る発明を 含む本件発明の着 出されたというわけでもない。また,化合物の合成は専ら原告,P2及びP3が担当し,P4は合成された化合物の駆虫活性の評価を担当していたにすぎないから,本件化合物に係る発明を 含む本件発明の着想に関与したと認めることはできない(したがって,後述すると- 75 -おり,P4は本件発明の発明者であるとは認められない。)。 そうすると,駆虫活性が高い化合物を合成するに当たり必要不可欠な評価系が構築・改良されたこと及びその評価系によって原告ら本件発明の発明者が合成した化合物が評価されたことは,使用者貢献として評価すべきであるが,この貢献の内容は,本件化合物の合成に直結するものとまでいうことはできず,その前提条件を整 え,化合物の合成研究を可能としたという点にあるにとどまるから,これを被告が主張するほど高く評価すべきものとは認められない。 エ原告によるPF1022Aの全合成法の発明の完成について(ア) 原告は,PF1022Aの全合成法を世界で初めて完成させたことを自らの貢献として主張しており,これは使用者貢献度を低下させる事情として主張 しているものと解される。これに対し,被告はこの事情は別の発明に係ることであるから本件特許についての原告の貢献度を高める事情にはならないと主張している。 (イ) そこで,この点について検討すると,確かに,PF1022Aの全合成法の発明は別途特許出願がされており,本件発明には含まれていないから,本件でその発明の独占的価値を取り込んで原告の貢献として評価することは許されない。 また,被告が主張するとおり,原告らが駆虫薬の研究開発を職務として担当していた以上,駆虫活性を有する新規物質として明治製菓が特許出願したPF1022Aに着目することも当然のことといえるし,その全合成法を探るた が主張するとおり,原告らが駆虫薬の研究開発を職務として担当していた以上,駆虫活性を有する新規物質として明治製菓が特許出願したPF1022Aに着目することも当然のことといえるし,その全合成法を探るために用いる逆合成という方法自体も一般的なものであった(乙91)。 しかし,本件では,PF1022Aの全合成法の発明を完成させたことそのもの を評価するのではなく,そのことを,原告ら本件発明の発明者が明治製菓等に先んじて,本件化合物に係る発明を含む本件発明を完成させたこととの関係で評価する必要がある。 すなわち,前記(1)イで認定したとおり,原告らがPF1022Aの全合成法の発明を完成させたのは,平成2年8月にPF1022Aの特許が公開されてから約1 0か月後の同年6月のことであり,それによりPF1022Aが高い駆虫活性を有- 76 -することを自ら確認した直後から,PF1022Aをシード化合物としたその誘導体の合成研究が開始され,平成3年10月ないし12月までには,PF1022Aの骨格を維持したまま,置換基の化学修飾を行う方向で合成研究を行っていく方針が採られ,様々な修飾を施した化合物を試行錯誤した後に平成4年8月に本件化合物にたどり着いたのであり,本件化合物に係る発明を含む本件発明の完成にとって, PF1022Aの全合成法は必要不可欠なことであったといえる。 ところで,PF1022Aは明治製菓の研究者がその物質発明を完成させた化合物であり,明治製菓は藤沢薬品がその全合成法の発明を特許出願した約9か月後に全合成法の発明を特許出願したことに照らせば,同社がPF1022Aについて研究開発を続けていたことは明らかであるし,ドイツのバイエル,米国のアップジョ ンや日本の三共もPF1022Aの全合成法を研究しており,それらの したことに照らせば,同社がPF1022Aについて研究開発を続けていたことは明らかであるし,ドイツのバイエル,米国のアップジョ ンや日本の三共もPF1022Aの全合成法を研究しており,それらの全合成法の研究は,PF1022Aの誘導体を開発するためにされていたと考えられるから,PF1022Aの特許が公開された平成2年ないし平成3年当時は,国内外の駆虫薬開発者がPF1022Aの誘導体の開発に取りかかろうとしていた状況にあったといえる。そのような状況の下では,藤沢薬品以外の駆虫薬開発者が藤沢薬品より も早くPF1022Aの誘導体である本件化合物の合成にたどり着き,その駆虫活性の高さを確認した可能性も現実的なものとして存していたといえ,原告が早期にPF1022Aに着目し,原告らが平成3年6月の段階で他社に先んじてPF1022Aを全合成し,その駆虫活性の高さを確認したことは,早期にその誘導体の合成研究に入り,他社に先んじて本件化合物に係る発明を完成させ,藤沢薬品による 本件特許の出願を実現するに当たり,極めて重要な経緯であったと認められ,これは本件特許の発明者貢献として大きく考慮すべきである。 他方,そもそも原告が明治製菓の欧州特許出願に着目し,本件記事とPF1022Aとを結び付け,これを全合成しようとしたことを可能にしたのは,藤沢薬品の研究環境の整備によるものといえ,その限度で使用者貢献を認めるべきである。 (ウ) 被告の主張について- 77 -a 被告は,PF1022Aを評価してみることは極めて自然な流れであったとか,PF1022Aの全合成を開始し,それを完成させることの困難性はないなどと主張している。 しかし,被告は明治製菓等に先んじて本件化合物に係る発明を含む本件発明を完成させたことについての原告ら本件 ,PF1022Aの全合成を開始し,それを完成させることの困難性はないなどと主張している。 しかし,被告は明治製菓等に先んじて本件化合物に係る発明を含む本件発明を完成させたことについての原告ら本件発明の発明者の寄与という観点からの検討をし ておらず,上記判示のとおり,本件ではそのような検討が重要と考えられるから,被告の上記主張によっても以上の判断は左右されない。 b また,被告は,PF1022Aの全合成法の発明は,本件発明とは別の発明であるから,本件発明に係る使用者貢献度を検討するに当たり,PF1022Aの全合成法の発明に対する発明者貢献度を考慮することはできないと主張す る。 しかし,前記のとおりPF1022Aの全合成法の発明は,本件化合物の発明と関係のない文脈でされたものではなく,藤沢薬品の駆虫薬開発方針の下で,原告らの創薬チームが研究開発に取りかかってから本件化合物にたどり着くまでのひとまとまりの開発の流れの中で生まれたものであり,本件化合物を他社に先んじて開発 する重要な契機となったものである。このように,ひとまとまりの開発の流れの中で最終的発明に到達するための重要な前提的発明がなされた場合には,前提的発明には,発明の内容それ自体が独占的価値を有するという側面のほかに,最終的発明に到達するための重要な前提となったという側面もあるのであり,後者の点を最終的発明への貢献という観点から考慮することは,前提的発明の特許を受ける権利の 承継について別途相当な対価が成立し,その独占の利益について発明者の貢献が考慮されることとは別問題であり,許容されると解するのが相当である。 (エ) 以上より,原告らがPF1022Aの全合成法に係る発明を完成させたことは,本件発明との関係でも発明者貢献として相当大きく れることとは別問題であり,許容されると解するのが相当である。 (エ) 以上より,原告らがPF1022Aの全合成法に係る発明を完成させたことは,本件発明との関係でも発明者貢献として相当大きく評価すべきである。 オ PF1022Aに基づく合成研究による本件化合物の発明過程について この点について,被告は,P4やP2の貢献を指摘し,本件物質発明は原告- 78 -以外の他の従業員の協働なしには生まれ得なかったものであると主張するのに対し,原告は,合成による開発方針はすべて原告が立案したものであると主張している。 確かに,原告が創薬チームの最年長のリーダーであったことや,甲45のPF1022Aの誘導体の合成計画が記された甲45の3枚目以降や甲46を原告が作成したことからすると,それらの合成計画を立案したのは原告であると認められ,そ れを特薬研究所の所長に報告して了承を得たとはいえ,開発方針について特段の指示があったことはうかがわれないから,いかなる化合物を合成するかという着想について藤沢薬品の使用者貢献は認められない。 しかし,有望なシード化合物が見付かった場合の合成研究による開発方針は,一般に,その化合物の構成部位を省略するなどして効能に影響を与える部位を探索し, 有望な結果が出た化合物についてさらに有効な修飾部位を探索していくというもので,そのために多数の誘導体の合成と評価を繰り返すという作業であって(弁論の全趣旨),本件で原告が立案した合成計画もそのような一般的な手法に基づくものである。PF1022Aの誘導体の合成に着手してから約1年で本件化合物にたどり着いたことは,原告ら本件発明の発明者の貢献ではあるが,1年もの間,確たる見 通しも持てないまま多数の合成と評価を繰り返すことが可能であったこ 導体の合成に着手してから約1年で本件化合物にたどり着いたことは,原告ら本件発明の発明者の貢献ではあるが,1年もの間,確たる見 通しも持てないまま多数の合成と評価を繰り返すことが可能であったことは,藤沢薬品の貢献として前記のとおり大きく評価すべきである。 また,誘導体の合成にはある程度の時間を要するから,1人で研究を進めるのは無理がある。この点は,原告もP2について,「有機合成に関する知識・経験があり,有機金属化学の分野では私以上の知識を有してい」た,「自ら合成方法を考え合成す る能力があ」った(甲37の5頁)とか,グリニャール反応の実験手法は難しく,「P2氏だから合成できたであろうという側面があることは否定でき」ない(甲43の13頁)と陳述しているように,原告が経験や知識等の異なる従業員と協働して研究することによるメリットもあったと認められる。 そうすると,原告がP2らとともに新規駆虫薬の研究開発を行うことができるよ うな環境を整備したことも,使用者である藤沢薬品の貢献として同様に評価すべき- 79 -である。 ただし,被告が使用者貢献としてP2の貢献に触れている部分については,以上の限度で使用者貢献として評価するのが相当であり,それを超えたP2の貢献については,発明者間貢献の問題として評価するのが相当である。 カ本件発明後の藤沢薬品による実験等の実施及びバイエルとの本件ライセ ンス契約の締結について(ア) 被告は,藤沢薬品が本件発明後に実験等を実施したこと及びバイエルとの協議・検討を経て,本件ライセンス契約の締結に至ったことを使用者貢献として高く評価すべきなどと主張している。これに対し,原告はバイエルに本件化合物に係る発明を実施許諾したことを藤沢薬品の貢献と認めつつも,その権利主張が最 イセンス契約の締結に至ったことを使用者貢献として高く評価すべきなどと主張している。これに対し,原告はバイエルに本件化合物に係る発明を実施許諾したことを藤沢薬品の貢献と認めつつも,その権利主張が最 大限認められる形で本件ライセンス契約が締結されたのは,バイエルが本件化合物に係る発明の価値を高く評価していたからであるなどと主張している。 (イ) バイエルが,本件ライセンス契約に向けた藤沢薬品との協議が開始された当初から,本件化合物に特に注目していたことなどからして,本件化合物に係る発明を含む本件発明の価値が高いと認められることは前記認定・判示のとおりで あり,本件発明の価値自体が本件ライセンス契約を締結する原動力となったことは正に原告が主張するとおりである。 (ウ) しかし,●(省略)●という経緯があったことに照らせば,藤沢薬品がバイエルとの間で本件ライセンス契約を締結することができたことが当然のことであるとはいえず,まして本件発明の特許を受ける権利の承継時点で自明のことで あったともいえない。本件化合物の駆虫活性が高いことは発明時点で判明していたことではあるが,駆虫薬は動物用医薬品であり,ある化合物を製剤化するかどうかを見極めるには,有効性だけでなく,安全性等も検証する必要がある(乙17)から,本件化合物による利益の現実化が当初から保証されていたわけではない。 また,本件発明を自社実施するか他者にライセンスするかについても,ライセン ス先が見付かる保証がない以上,限られた特許期間内に利益を現実化するために自- 80 -社実施も視野に置いて,それに向けた開発作業を進めていくことが必要であるし,その成果がライセンス導出に当たって効果を生じる側面もある。 この観点から見ると,本件発明が特許出願された平成5年初めの 社実施も視野に置いて,それに向けた開発作業を進めていくことが必要であるし,その成果がライセンス導出に当たって効果を生じる側面もある。 この観点から見ると,本件発明が特許出願された平成5年初めの段階では,本件化合物が合成されていたとはいえ,その駆虫効果は,ニポストロンギルスブラジリエンシスを感染させたラットや,ストロンギロイデスベネズエレンシスを感染 させたスナネズミで調べた程度であり,駆虫薬として上市させることを考えると,他の動物や,他の寄生虫との関係で具体的にどのような駆虫効果があるかということを実験等を通じて検証することが必要不可欠であるし,前記のとおり安全性等も検証する必要がある。そして,前記認定のとおり,藤沢薬品では,平成5年以降,本件化合物の拡大評価が実施され,特薬研究所で様々な評価試験等が行われただけ でなく,一部の評価試験については外部機関に委託して行われ,このような実験等は本件ライセンス契約が締結される前後まで行われていた。また,藤沢薬品では,●(省略)●を依頼し,その後,●(省略)●を開始した。さらに,藤沢薬品では,本件化合物の工業的スケールでの全合成法の開発や発酵法の研究も行っていた。これらはいずれも本件化合物の製剤化に向けてされたものであり,本件化合物の駆虫 活性の範囲や,その製剤化の可能性等を見極めるために必要なものであったと認められ,藤沢薬品が本件化合物を対象としてバイエルらとライセンス契約締結に向けた協議をするかどうかの判断をするに当たって有益であったばかりでなく,バイエルに対してその実験データ等が提供され,バイエルとの協議・検討においても一定の意義があったことは前記認定・判示のとおりである(ただし,前記認定・判示の とおり,藤沢薬品が提供し,又は提供すると約した実験データ 験データ等が提供され,バイエルとの協議・検討においても一定の意義があったことは前記認定・判示のとおりである(ただし,前記認定・判示の とおり,藤沢薬品が提供し,又は提供すると約した実験データ等の本件ノウハウが本件ライセンス契約の締結や,バイエル製品の製造販売等に寄与した割合は小さく,限定的なものとみざるを得ない。)。 そして,本件では,藤沢薬品は結果的に自社実施を断念し,その一方で世界的な製薬会社であるバイエル(甲56,乙61)とライセンス契約を締結でき,そのバ イエルが世界各国でバイエル製品を販売したから,藤沢薬品や被告が前記認定のよ- 81 -うな多額のライセンス料(一時金)やロイヤルティの支払を受けられたわけであるが,そのような状況に至るまでには,明治製菓やバイエルの特許権を始めとする彼我の強みと弱みやそれに基づく思惑の分析,それらに基づく交渉方針の検討,●(省略)●とのハイレベルでの協議,藤沢薬品の担当者とバイエルの担当者との人的関係に基づく交渉,●(省略)●の動向の把握など,特薬研究所に限らず,藤沢 薬品の関係部署の資源を投入していた。これらに要した時間や経費を的確に認定することはできない(乙11や34については,その詳細な内容が不明で客観的裏付けもされていないから,そこで記載された人件費等の額をそのまま直ちに認定することはできない。)が,藤沢薬品が世界的な製薬会社であるバイエルとの間で,本件ライセンス契約の締結にこぎつけるに当たっては,相当な努力と経費・リスク負担 等があったということができる。 以上のことを総合すると,藤沢薬品が平成5年以降,実験等を実施したことや,本件ライセンス契約の締結に向けた協議・検討をしたこと等を,使用者貢献として軽視することはできない。 キ本件ライセンス契約締 ことを総合すると,藤沢薬品が平成5年以降,実験等を実施したことや,本件ライセンス契約の締結に向けた協議・検討をしたこと等を,使用者貢献として軽視することはできない。 キ本件ライセンス契約締結後の事情について (ア) まず,藤沢薬品は,本件ライセンス契約の締結後,バイエルからの要請を受けて,新たに試験を実施してそのデータ等を提供するなどしたところ,その経緯に照らせば,藤沢薬品がバイエルに対して提供した試験のデータ等の本件ノウハウが一定程度,バイエルにおける本件化合物の製剤化に向けた研究開発に有益であったことがうかがわれる。 しかし,前記認定・判示のとおり,バイエルが藤沢薬品から提供されたデータ等に依存していたとは考え難く,自ら本件化合物の合成や,その製剤化に向けた実験等を実施していたのであるし,本件化合物の製剤化に当たっては,バイエルが自らの技術力によって研究開発を進めたものと認めるのが相当である。また,上記経緯があったことで,より迅速な製品開発及び上市につながったなどという被告の主張 を,上記判示の限度を超えて考慮することができないことは前記認定・判示と同じ- 82 -である。 したがって,被告主張の上記事情を使用者貢献として大きく評価することはできない。 (イ) 被告は,バイエルによる開発や,製造販売承認の取得及び営業努力のことも使用者貢献として評価すべき旨主張している。 しかし,前記認定・判示のとおり,少なくともバイエルがバイエル製品を開発するに当たり,藤沢薬品や被告がその研究開発に具体的に関与していたことはうかがわれないし,本件化合物の製剤化に当たっては,バイエルが自らの技術力によって研究開発を進めたものと認めるのが相当である。そして,バイエルは世界的な製薬会社で, 開発に具体的に関与していたことはうかがわれないし,本件化合物の製剤化に当たっては,バイエルが自らの技術力によって研究開発を進めたものと認めるのが相当である。そして,バイエルは世界的な製薬会社で,技術力を有するから,バイエルが開発に当たって努力を尽くしたことや, バイエル製品について製造販売承認の取得をし,営業努力を行ったことが藤沢薬品や被告の貢献によるものと認めることはできない。見方を変えると,バイエルのリスクや負担等は,本件ライセンス契約に基づくライセンス料やロイヤルティに織り込み済みと評価すべきであるから,さらに使用者貢献度を上げる事情として評価すべきとはいえない。むしろ,このように本件発明を実際に製品化する上での負担と リスクは専らバイエルが負っており,動物薬を世界的に製品化する過程での負担とリスクは,極めて大きいことからすると,本件発明により受けるべき利益を現実化するに当たっての藤沢薬品や被告の貢献度は,自社で製品化する場合に比べると相対的に低く評価されるべきものである。 なお,被告は,本件化合物には,単独では薬効が弱いとか,やや毒性が強いなど という問題が存在したと主張している。しかし,バイエルは,平成6年1月の時点で既に,本件化合物とプラジカンテルの合剤とすることも検討していたのであり,薬効の点を克服したのは藤沢薬品ないし被告ではなくバイエルである。また,確かに,甲23の1(乙87による翻訳部分)及び乙88によれば,本件化合物に毒性や副作用の問題があったことがうかがわれるが,毒性等の課題を克服すべく製剤化 に向けた研究開発を進め,現実にこれを解決したのもバイエルであり,これを藤沢- 83 -薬品ないし被告の使用者貢献として評価する必要があるとはいえない。 したがって,被告が主張することを使用 に向けた研究開発を進め,現実にこれを解決したのもバイエルであり,これを藤沢- 83 -薬品ないし被告の使用者貢献として評価する必要があるとはいえない。 したがって,被告が主張することを使用者貢献度を上げる事情として考慮する必要があるとはいえない。 (ウ) 被告はさらに,藤沢薬品や被告が特許の出願・取得・維持管理をしたことを主張している。確かに,本件特許や別件特許の出願をし,それに係る特許権 の設定登録を得て,その後,これらを維持管理していることは藤沢薬品や被告の貢献によるものであるが,特許戦略の一環として別件特許の出願等がされたことは,藤沢薬品及び被告が受けるべき利益の算定において,本件特許の寄与度として考慮したところであり,これに加えて使用者貢献として考慮するほどの事情は認められないし,その他の事情も特許を受ける権利を譲り受けた使用者としてすべき通常の 業務にすぎないから,これを使用者貢献度を上げる事情として考慮する必要があるとはいえない。 ク被告主張の「成功確率」について被告は医薬品の特殊性を強調し,相当の対価の額の算定に当たり,独立の考慮要素として,「成功確率」を踏まえた調整をすべきであると主張している。 しかし,被告が「成功確率」に関して主張していることは,結局,製薬会社が負担している研究開発及び事業化のリスクのことであるから,これは相当の対価の額の算定に当たり,事案に応じて,使用者貢献度の検討の中で考慮すれば足り,独立の考慮要素とするまでの必要性はないと考えられる。 そこで,使用者貢献として被告の主張を考慮すべきか,どの程度考慮すべきかと いうことを検討すると,これまで述べてきたように,新規駆虫薬の研究開発を行おうとしても,駆虫活性が高い化合物を見出すまでに相当な時間を要 として被告の主張を考慮すべきか,どの程度考慮すべきかと いうことを検討すると,これまで述べてきたように,新規駆虫薬の研究開発を行おうとしても,駆虫活性が高い化合物を見出すまでに相当な時間を要するのであり,藤沢薬品が原告,P2及びP3に対してその合成研究を長期間にもわたってさせたことは,相当なリスクを負担したものであることは明らかである。 また,仮に一定の動物において,一定の寄生虫との関係で駆虫活性が高い化合物 を見出すことができても,それを製剤化し,上市することができるかどうかは別問- 84 -題であり,藤沢薬品は当初,本件化合物を含有する製剤を自社製品として,自社で製造販売承認申請を行うことも検討したものの,最終的には断念し,バイエルとの間で本件ライセンス契約を締結し,自ら本件特許を実施することさえしていない状況となっている。 それだけでなく,バイエルにおいては,当初,●(省略)●という経緯があった のである。このように,化合物の製剤化に当たっては,期待や予測どおりには進まず,一定の困難を克服すべき場面も少なからず生ずるものであることがうかがわれる。 そして,乙100(日本製薬工業協会の「DATABOOK2018」)によれば,低分子化合物については,2000(平成12)年から2016(平成28) 年までの統計によると,年によって異なるが,18ないし25の製薬会社における合成化合物が合計208万6415であるのに対し,(製造販売)承認を取得できた化合物の数は96であり,その割合は約0.0046%と認められる。上記判示の化合物の合成研究の困難さも合わせ考えると,藤沢薬品において,可能性がどれだけあるか分からない中で,原告ら本件発明の発明者に合成研究を長期間させたこと は,使用者貢献として考慮すべきと 判示の化合物の合成研究の困難さも合わせ考えると,藤沢薬品において,可能性がどれだけあるか分からない中で,原告ら本件発明の発明者に合成研究を長期間させたこと は,使用者貢献として考慮すべきというべきである。これに反する原告の主張は採用できない。 ケ小括以上検討した原告ら本件発明の発明者の着眼やひらめき,努力等,本件発明,特に本件化合物に係る発明の価値,藤沢薬品による研究環境の整備やそれに伴う負 担等,本件ライセンス契約の締結に向けた藤沢薬品の努力や負担等,本件において藤沢薬品が負担した研究開発や事業化のリスクその他の事情を考慮すると,使用者貢献割合は92.5%(発明者貢献割合は7.5%)と認めるのが相当である。 この点について,原告は,本件での使用者貢献度(発明者貢献度)は,自らは発明の実施能力のない大学や研究機関の内規の例と同様に考えるべきであると述べる (甲58)が,そこで掲げられている例は7例にすぎない上,非営利の研究機関と- 85 -営利の製薬企業とを同列に扱うことは相当でないから,原告の主張は採用できない。 (5) 発明者間貢献度ア本件発明に係る化合物のうち最も駆虫活性が高い化合物は本件化合物であり,バイエルは本件化合物に係る発明部分のみを本件ライセンス契約の対象とし,実施している。そして,本件化合物の合成計画を立案し,実際に合成したのは原告 である(その次に駆虫活性が高い化合物(化合物③)についても同様である。)。 もっとも,本件化合物の合成までには平成元年7月頃の研究開発の開始から約4年を要しており,原告の研究開発のみによって実現できたわけでもなく,藤沢薬品における新規駆虫薬の研究開発には,P2ら原告以外の発明者も関与し,その研究開発の結果,原告が本件化合物 開発の開始から約4年を要しており,原告の研究開発のみによって実現できたわけでもなく,藤沢薬品における新規駆虫薬の研究開発には,P2ら原告以外の発明者も関与し,その研究開発の結果,原告が本件化合物を合成したのであり,被告の主張を踏まえ,共同発 明者間の貢献度(原告の貢献度)について検討する必要がある。 なお,被告はP4も共同発明者であると主張している(これに対し,原告はP4が特許公報で発明者として記載されていることを主張するにとどまり,陳述書においては,本件発明の発明者とはいえない旨陳述している(甲43の12頁)。)。しかし,P4が本件化合物に係る発明を含む本件発明の着想に関与したと認められない ことは前記(4)ウで認定・判示したとおりであり,これによると,P4は本件発明の共同発明者であるとは認められない(ただし,P4による評価系の構築等については,使用者貢献の問題として別途考慮している。)。 イ P2が化合物①を合成したことの評価前記認定のとおり,平成3年7月以降,PF1022Aをシード化合物とし たその誘導体の合成研究を開始したものの,なかなかPF1022Aの駆虫活性を超える化合物を創出することはできなかったが,P2が平成3年12月までに化合物①を合成し,これがPF1022Aの約●(省略)●倍の駆虫活性を有したことが,PF1022Aの●(省略)●を種々試みる契機となったものである。 この点,被告は化合物①の評価結果から,駆虫活性が向上する可能性があるとい う,PF1022Aの構造変換の方向性に関する知見を見出したのはP2であると- 86 -主張している。しかし,P2がどのような検討を経て,化合物①を合成したのかが分かる書証は見当たらない。 他方で,原告は,平成3年9月の時点で,化合 る知見を見出したのはP2であると- 86 -主張している。しかし,P2がどのような検討を経て,化合物①を合成したのかが分かる書証は見当たらない。 他方で,原告は,平成3年9月の時点で,化合物①に係る発明に着想していたと陳述し(甲43),その根拠として甲45の図を挙げている。 確かに,甲45の図の「OR」の部分が「H」である化合物がPF1022Aで ある(乙47の16頁のⅠの図の右上段の「a:R=H(PF1022A)」との記載参照)から,PF1022Aの誘導体の合成研究において,この「H」の部分を「OR」と修飾することを記載したということは,この部分を酸素を含む何らかの化合物によって修飾することを着想していたものと認めることができる。しかし,●(省略)●との記載はないから,●(省略)●化合物である化合物①の合成をP 2に指示したとの原告の陳述を認めるに足りる証拠はない。かえって,P2が合成に関する経験・知識を有しており,「化合物を合成する方法論」に興味を有していた(甲37の5頁)ことからすると,甲45の図の●(省略)●とする合成をすることを具体的に検討・着想したのはP2であると推認される。 以上のことを踏まえると,化合物①に係る発明は,原告とP2の共同発明による ものと認めるのが相当である。そして,具体的な修飾方法はP2が検討・着想して実施し,結果的に駆虫活性の高い化合物①を見出し,それが本件化合物を合成する方向性の契機となった経緯に照らせば,P2の検討・着想とその実施は化合物①の発明の完成にとって,また本件化合物の発明にとって,重要な経過であったと認められる。なお,甲45(甲45の図)からすると,原告は,化合物①を合成する当 時,フェニル基の異なる部分を順次修飾する合成計画を立てていたと認められるか 発明にとって,重要な経過であったと認められる。なお,甲45(甲45の図)からすると,原告は,化合物①を合成する当 時,フェニル基の異なる部分を順次修飾する合成計画を立てていたと認められるから,●(省略)●との見通しを持っていたわけではないといえ,化合物①の合成に対する原告の貢献を上記のP2の貢献と比べて特に重視することは相当でない。 ウその他の原告の貢献前記認定のとおり,原告は,平成4年5月8日までに,「D-phLac部分 の誘導体合成計画」と題する書面(甲46)を作成し,その書面に甲46の図を記- 87 -載し,P5と打合せを行い,その計画にしたがって合成研究を進めた結果,化合物③及び本件化合物を合成したのであり,その経過においては,原告以外の発明者の貢献があったことを認めるに足りる証拠はないことに照らせば,以上の発明の完成は原告の貢献によるものと認められる。 エ P2が本件明細書の実施例59,93及び101記載の合成方法等の多 様な合成方法を見出したことの評価前記認定のとおり,P2は,平成4年頃,●(省略)●を見出した。これによって,より多様な誘導体合成が可能になったり,本件化合物を短期間で合成することが可能になったりしたと認められる。 確かに,多様な誘導体合成が可能になるというのも,駆虫活性が高い化合物を見 出すことができる可能性を高めるという点で,有益なことである。また,前記(4)エで判示したとおり,本件においては,他の企業や研究者に先んじて本件化合物にたどり着いたという点が重要であり,本件化合物を短期間で合成することが可能になるというのは,そのような観点から意味のあることである。 しかし,本件明細書59,93及び101記載の製法が原告において本件化合物 が重要であり,本件化合物を短期間で合成することが可能になるというのは,そのような観点から意味のあることである。 しかし,本件明細書59,93及び101記載の製法が原告において本件化合物 を合成することに寄与したとまで認めるに足りる証拠はなく,この発明について本件化合物に係る発明への積極的な寄与があったとまで認めることはできない。また,P2が発明した本件明細書記載の製法は,あくまでも実施例記載の製法にすぎず,特許請求の範囲において明示されているわけではない。したがって,発明者間貢献度を検討するに当たって,以上の製法に関するP2の貢献を大きく評価することは できない。 オ原告,P2及びP3の発明者間貢献度(ア) 前記イ及びエ記載のことは,P2の発明者貢献度を考えるに当たって考慮すべき事情である。 また,PF1022Aの全合成法を早期に完成させたことを本件化合物の合成に たどり着くための発明者貢献として大きく考慮すべきことは前記(4)エのとおりであ- 88 -り,これについては前記認定のとおりP2も発明者である。しかし,本件においてPF1022Aに着目し,本件記事とこれを結び付けたのは原告であり,またPF1022Aの誘導体の合成計画を作成したのも原告であるから,P2が関与したとすれば,PF1022Aの全合成のための作業であると推認され,本件で発明者貢献として評価すべきP2の貢献は一定程度あるものの,原告の貢献の方が圧倒的に 大きいものと認めるのが相当である。 なお,P2は本件明細書の実施例記載の化合物のうち●(省略)●例を合成し,これは本件特許の請求項1ないし6及び12に係る発明を基礎付けるものであり,一定程度貢献が認められるが,本件発明のうち最も重要なのは本件化合物に係る発明であり,本 合物のうち●(省略)●例を合成し,これは本件特許の請求項1ないし6及び12に係る発明を基礎付けるものであり,一定程度貢献が認められるが,本件発明のうち最も重要なのは本件化合物に係る発明であり,本件においてP2やP3が合成した化合物は,あくまでも上記各発明の 実施例の一部にすぎないから,実施例の数だけによって貢献度を推し量ることは相当でない。 (イ) また,P3については,原告が立案した合成計画に基づいて割り当てられた化合物の合成を行い,それにより本件明細書の実施例記載の化合物のうち●(省略)●例を合成し,これは本件特許の請求項1ないし6及び12に係る発明を 基礎付けるものである。しかし,本件化合物の合成にどのような寄与があったのかは明らかでなく,あったとしても,P3が合成した化合物の中に本件化合物を上回る駆虫活性のものがなかったという意味で,原告がPF1022Aの●(省略)●を修飾して本件化合物を合成することに消極的に寄与したという程度にとどまる(なお,実施例の数だけによって貢献度を推し量ることができないことは,上述の とおりである。)。 また,被告は,P3がP6の特許戦略に基づいてPF1022A誘導体の幅広い特許化に貢献したとも主張している。確かに,前記(3)ウ(イ)aで判示したとおり,本件ライセンス契約に基づくロイヤルティ等は別件特許の対価も含むものではあるが,別件特許との比較において,本件特許の寄与度が非常に大きいのであり,発明 者間貢献度として考慮すべき程度は小さい(なお,前記判示のとおり,本件特許の- 89 -寄与度を考えるに当たっても,別件特許の存在を考慮している。)。 (ウ) 以上のことを総合すると,P2とP3の発明者間貢献割合は併せて2割(20%),原告の発明者間貢献割合は8割( - 89 -寄与度を考えるに当たっても,別件特許の存在を考慮している。)。 (ウ) 以上のことを総合すると,P2とP3の発明者間貢献割合は併せて2割(20%),原告の発明者間貢献割合は8割(80%)と認めるのが相当である。 (6) まとめ以上の認定・判示をふまえると,特許法35条3項又はその類推適用に基づ く平成16年4月1日以降に藤沢薬品及び被告が受けるべき利益を基礎とする相当の対価の額は,次のとおり●(省略)●円である。 (計算式) ●(省略)●円×0.075(発明者貢献割合(1-使用者貢献割合0.925))×0.8(原告の発明者間貢献割合)=●(省略)●円(1円未満は四捨五入) 他方で,原告は,被告から本件請求に係る期間に対応する平成15年施行規則に基づく補償金として,平成21年3月に●(省略)●円の支払を受け,これは弁済に当たるから,上記認定の相当の対価の額から控除すべきである。 そうすると,原告が被告に対して請求することができる相当の対価の額は,4728万4116円となる。 なお,原告の被告に対する本件請求権は期限の定めのないものであるところ,原告が被告に対し,平成28年1月25日に本件請求権について請求したことは当事者間に争いがないから,被告はこれによって遅滞に陥ったことになる。したがって,原告が被告に対し,同年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金の支払を請求していることは正当なものといえる。 7 結論以上によれば,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 - 90 -裁判長裁判官 あるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部 - 90 -裁判長裁判官 髙松宏之 裁判官 野上誠一 裁判官 大門宏一郎- 91 -別紙本件特許の特許請求の範囲【請求項1】一般式: (式中,Aは適当な置換基を有するベンジル基または適当な置換基を有していてもよいフェニル基,Aaは適当な置換基を有していてもよいベンジル基または適当な置換基を有していてもよいフェニル基,BおよびDはそれぞれ低級アルキル基,Cは水素または低級アルキル基を意味する)で示される化合物またはその塩。 【請求項2】AおよびAaがそれぞれ環状アミノ,ジ低級アルキルアミノまたは低級アルコキシで置換されたベンジル基,B,CおよびDがそれぞれ低級アルキルである請求項1記載の化合物。 【請求項3】AおよびAaがそれぞれ環状アミノで置換されたベンジル基である請求項2記載の化合物。 【請求項4】AおよびAaがそれぞれモルホリノ,ジメチルアミノ又はメトキシで置換されたベンジル基である請求項2記載の化合物。 【請求項5】AおよびAaがそれぞれモルホリノで置換されたベンジル基,BおよびDが 】AおよびAaがそれぞれモルホリノ,ジメチルアミノ又はメトキシで置換されたベンジル基である請求項2記載の化合物。 【請求項5】AおよびAaがそれぞれモルホリノで置換されたベンジル基,BおよびDがそれぞれイソブチル基,Cがメチル基である請求項1記載の化合物。 【請求項6】AおよびAaがそれぞれアミノ基,ニトロ基又は水酸基で置換されたベンジル基,BおよびDがそれぞれイソブチル基,Cがメチル基である請求項1記載の化合物。 【請求項7】式: - 92 -で示される化合物。 【請求項8】式: で示される化合物。 【請求項9】一般式: で示される化合物またはその塩を環状アルキル化反応に付すことにより一般式: で示される化合物またはその塩を製造する方法。 (式中,BおよびDはそれぞれ低級アルキル基,Cは水素または低級アルキル基,A3はアミノ基またはアミノ基と低級アルコキシ基を有するベンジル基,A5は環状アミノ基または環状アミノ基と低級アルコキシ基を有するベンジル基を意味する)。 【請求項10】一般式: で示される化合物またはその塩をアルキル化反応に付すことにより一般式:- 93 - で示される化合物またはその塩を製造する方法。 (式中,BおよびDはそれぞれ低級アルキル基,Cは水素または低級アルキル基,A3はアミノ基またはアミノ基と低級アルコキシ基を有するベンジル基,A4はモノ若しくはジ低級アルキルアミノベンジル基,またはモノ若しくはジ低級アルキルアミノ基及び低級アルコキシ基を有するベンジル基を意味する)。 【請求項11】一般式: で示される化合物またはその塩をニトロ化反応に付すことにより一般式: で示される化合物またはその塩を製造する方法(式中,BおよびDはそれぞれ低級ア る)。 【請求項11】一般式: で示される化合物またはその塩をニトロ化反応に付すことにより一般式: で示される化合物またはその塩を製造する方法(式中,BおよびDはそれぞれ低級アルキル基,Cは水素または低級アルキル基,A1はベンジル基,A2はニトロ基を有するベンジル基を意味する。)。 【請求項12】請求項1記載の化合物またはその塩を有効成分とする駆虫剤。 【請求項13】請求項7記載の化合物またはその塩を有効成分とする駆虫剤。 以上- 94 -別紙別件特許一覧●(省略)●実施許諾対象特許国一覧●(省略)●付属文書F●(省略)●実施料収入計算表●(省略)●原告作成の図(甲45)●(省略)●原告作成の図(甲46)●(省略)●以上
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