平成15(ワ)374 公務災害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成17年9月27日 甲府地方裁判所
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判決文本文37,033 文字)

主文 1 被告は,原告らに対しそれぞれ金3591万6921円及びこれに対する平成15年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告らの負担とし,その2を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告らに対しそれぞれ金6129万6794円及びこれに対する平成9年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 第1項につき仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,国(被告)の機関である社会保険庁に勤務していた公務員であるA(以下「被災者」という。)が平成9年4月5日に自殺したことにつき,被災者の両親である原告らが,被災者が自殺したのは,同庁において被災直前に連日の過重な時間外労働等をしたことなどにより反応性うつ病に罹患したことが原因であり,被告には公務員に対する安全・健康配慮義務に違反した過失があると主張して,被告に対し,安全配慮義務違反による債務不履行ないし国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,逸失利益,慰謝料,弁護士費用から支払済みの遺族補償一時金,退職金を差し引いた各6129万6794円及びこれに対する平成9年4月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。なお,被災者の死亡については,人事院が,公務上の災害に認定すべきである旨の判定をしている。 2 争いのない事実(1) 当事者ア原告Bは,被災者の父,原告Cは,被災者の母である。 イ被告は,平成5年4月1日,被災者を国家公務員として採用し,被告の設置する社会保険庁にて,職員(厚生事務官)として稼 ) 当事者ア原告Bは,被災者の父,原告Cは,被災者の母である。 イ被告は,平成5年4月1日,被災者を国家公務員として採用し,被告の設置する社会保険庁にて,職員(厚生事務官)として稼働させていたものである。 (2) 被災者の経歴,職歴ア被災者は,昭和48年5月4日,原告B,原告Cの間に出生し,平成5年3月31日,山梨学院大学附属高等学校を卒業した後,同年4月1日,社会保険庁に入庁し,同月13日,社会保険業務センター業務部業務第1課支払第6係に配属された。 イ被災者は,平成8年4月1日,社会保険業務センター中央年金相談室相談業務課電話相談係に配属された。同係の構成は,職員13人及び非常勤職員である年金相談専門員(以下「コンサルタント」という。)11人であり,被災者は,下記(ア)記載の本来の業務のほか,(イ)記載の業務も担当していた。 (ア) 電話相談係における業務① 出勤時の職場環境の整備午前9時5分までに,磁気カードを職員とコンサルタントに配布し,午前9時15分までにビデオ24台,プリンター3台及びACD(監督台)の立ち上げ作業を行い,夜間と昼の切替確認を行うなど,18項目の業務② 回付票の内容のチェック及び死亡保留依頼のチェック③ コンサルタントらの休憩時間表の作成,弁当表の配布,消耗品の管理,経費の管理,資料の送付・業務連絡の徹底及び新聞・広告の配布などの雑用的業務(イ) 本来の係業務以外の業務① 管理係の文書のコピー・回覧の配布② 管理係の発行する諸通知,連絡事項等の事務の一部及び第一種指定職員の指定簿の作成作業等の一部③ 年金関係,健康保険関係等業務上必要と思われる新聞記事のチェック,切り抜き作業 ② 管理係の発行する諸通知,連絡事項等の事務の一部及び第一種指定職員の指定簿の作成作業等の一部③ 年金関係,健康保険関係等業務上必要と思われる新聞記事のチェック,切り抜き作業④ 受給者等からの照会に対する年金相談業務及び電話相談係内の庶務的業務ウ被災者は,平成9年4月1日付けで,社会保険業務センター総務部庶務課人事係に配置換えとなった。人事係での業務は,昇給・昇格関係資料の作成であり,その内容は,人事異動通知書作成,職員座席表の作成などであった。人事係では,前任者からの引継書がなく,上記資料等は4月6日から9日の間に作成をしなければならないものであった。 (3) 被災者の自殺と公務災害認定被災者は,平成9年4月5日,飛び降り自殺を図り,同日死亡した。 原告らは,平成9年4月,被災者の死亡につき,社会保険庁に対し,国家公務員災害補償法に基づく公務上の災害と認定するよう申し立てたが,同庁は,平成11年11月22日,公務上の災害ではないと認定した。これについて原告Bは,人事院に対して審査を申し立て,人事院は,平成14年12月17日,被災者の自殺について,公務上の災害と認定すべきである旨の判定をした。 (4) 被告の安全配慮義務人事院規則10-4は,各省各庁の長は,国家公務員法及び人事院規則の定めるところに従い,それぞれ所属の職員の健康の保持増進及び安全の確保に必要な措置を講じなければならないとしており,国は,職員たる国家公務員に対し,国が公務遂行のために設置すべき場所,施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって,公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っている。 くは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって,公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っている。 3 争点(1) 被災者の業務時間,業務内容が過重であったか否か。 (2) 被災者のうつ病の罹患及び自殺が業務によるものか否か。 (3) 被告の安全配慮義務違反の存否及び被災者の自殺と安全配慮義務違反との因果関係の存否。 (4) 消滅時効(国家賠償請求に関する部分)(5) 損害第3 争点に対する当事者の主張 1 業務時間の過重性及び業務内容の過重性について(1) 原告らの主張ア業務時間被災者の時間外労働時間(超過勤務時間)の算定は,実際の労働時間から所定労働時間を控除する方法によるものとし,解錠施錠簿を基本とする。所定労働時間は,午前9時から午後5時15分の8時間15分から,休憩時間1時間を引いたものとする。時間外労働には英語研修も含めるべきである。 被災者の所定労働時間及び超過勤務時間(時間外労働,時間外の語学研修等勤務時間)は,下記のとおりである。 所定労働時間超過勤務時間①平成8年10月  151時間 46時間31分② 11月  145時間 66時間11分③ 12月  111時間45分 64時間41分④平成9年 1月  129時間15分 90時間33分⑤ 2月  130時間30分 66時間09分⑥ 3月  137時間45分 108時間48分⑦直前1週間 36時間15分 60時間35分 2月  130時間30分 66時間09分⑥ 3月  137時間45分 108時間48分⑦直前1週間 36時間15分 60時間35分これらによれば,被災者の死亡直前6か月の時間外労働は,平成8年10月7日から平成9年4月4日で477時間5分となる。 業務時間から導かれる業務の過重性については,労災認定の基準(厚生労働省告示1063号)が,被災直前1か月間の時間外労働時間が100時間を超える場合には,原則として脳心臓疾患について業務起因性が認められ,月平均80時間を超える時間外労働の場合には,原則として脳心臓疾患による死亡は時間外労働によるものであると認定していることを参考とし,本件における被災者の時間外労働時間が月平均79.5時間に及んでいることからしてその業務は,時間において過重といえる。 イ業務内容第2の2(2)記載にかかる業務など全36項目にわたる通常業務自体が過重であったことはもちろんのこと,本来の業務以外の雑用的業務,管理係の担当すべき業務,電話相談係内の人間関係の調整,直接の上司でない上役からの指示による業務の負担など,被災者の業務内容は過重であった。 (ア) 電話相談係在籍時の業務300件に上る回付票のチェックはオンライン稼働中に行う作業で,年金受給者への支払額に直接影響する業務であることから,常に時間を気にしつつ,間違いのないよう気を配る必要があった。雑用的業務についても,弁当の注文をとり,配る作業は,午前10時までという時間制限があり,注文取りの順番,種類,金額の間違えがないよう気を配るなど心理的ストレスの多い仕事である。コンサルタントの休憩時間表の作成も,人間関係に気を配りながら二十数人分の休憩時間表 でという時間制限があり,注文取りの順番,種類,金額の間違えがないよう気を配るなど心理的ストレスの多い仕事である。コンサルタントの休憩時間表の作成も,人間関係に気を配りながら二十数人分の休憩時間表を作成するのは負担であった。ミーティングの資料の作成配布,コピー等についても,資料が多く,作業は煩雑であったし,基礎年金番号制の導入後は,さらに資料が増えた。 毎年11月から翌年3月末までの期間は,年間を通じて最も忙しい時期であるが,ことに,被災者が勤務をした平成8年は,11月の扶養親族等申告書関係の特別体制の実施,12月の基礎年金番号実施,12月から翌平成9年2月末までの所得税申告用の源泉徴収票の発送,確定申告用の証明書発行の依頼電話などの業務に関して問い合わせの電話が殺到し,基礎年金番号の実施については,被災者に質問,相談が集中するとともに,照会内容も難解なものが多かった。年金相談業務においては,直接担当をする係長が不在であり,管理係を担当するD係長が併任をしている状態で,事実上は,被災者が,電話相談係と他の部署との連絡調整など係長業務を行っていたことに加え,平成8年9月30日には,管理係の職員の退職に伴い,被災者の連絡,調整や勤務命令簿,報告書等の作成,相談業務課全体の費用の徴収等などの業務につき,被災者へ業務が集中していた。さらに,被災者は,平成8年12月から英語の語学研修を義務づけられており,期末の3月まで,週2回受講していた。銀行の破綻のため,年金の振込業務一時停止などの緊急の連絡業務が増えたり,平成8年12月特別減税による所得税の還付の実施についての案内,これに関する照会の急増,平成9年4月より三共済の統合に関する法律が実施されることとなったため,その概要の資料の徹底を担当するなど,平成8年12月から平成9年3月まで 税の還付の実施についての案内,これに関する照会の急増,平成9年4月より三共済の統合に関する法律が実施されることとなったため,その概要の資料の徹底を担当するなど,平成8年12月から平成9年3月までの被災者の業務は過重であった。 (イ) 電話相談係における職場環境による過重性電話相談係の中心は,コンサルタントであったが,同人らは,60歳前後の元社会保険庁の女性職員で,年金相談業務の経験豊かなベテランであり,自尊心が高い者も多く,人間関係は複雑であった。昼食の弁当の手配,お茶当番,休憩時間などにおいても,コンサルタントらからの意見や苦情が出て,その調整に苦慮していたし,コンサルタントらをまとめる管理職もいなかったため,被災者が人間関係を円滑にするための気配りをしていた。 (ウ) 人事係における業務の過重性被災者の業務は,人事異動通知書の作成,辞令の作成・整理,新規職員の配属関係作業,マスターファイルの更新,前前任者の昇給ミスの確認及び退職金計算ミスの修正などであったが,人事係の繁忙期は毎年4月であり,被災者の作成すべき書類の中には,4月6日,9日までに作成しなければならないものもあった上,被災者には前任者からの引継書も存在しなかったため,業務を行うのは困難を極めたほか,係長,同僚らも,新たに配属された者であったことから,被災者が頼ることはできなかった。 (エ) その他における業務の過重性被災者は,このような過重な業務を負っていたが,平成8年12月に祖父が死亡した際に,休暇を取るのにも上司に嫌みを言われるなどし,入退院を繰り返していた他の職員の雑用的業務を押しつけられるなど,精神的に追いつめられ強いストレスを負っていた。 (2) 被告の主張ア業務時間について被災者の所定 るなどし,入退院を繰り返していた他の職員の雑用的業務を押しつけられるなど,精神的に追いつめられ強いストレスを負っていた。 (2) 被告の主張ア業務時間について被災者の所定労働時間及び超過勤務時間は下記のとおりであり,時間外労働は,被災直前6か月の平均で59時間,被災直前の1か月で約120時間,被災直前1週間で約50時間である。 所定労働時間超過勤務時間①平成8年11月  160時間 28時間②  同年12月  124時間 55時間③平成9年 1月  143時間 71時間④  同年 2月  144時間 58時間⑤  同年 3月  152時間 94時間⑥  同年3月29日から4月4日まで(死亡直前1週間)40時間 48時間なお,英語研修は任意受講であるから,勤務時間に算定すべきではないが,上記超過勤務時間には英語研修の時間が含まれている。 イ業務内容被災者の通常業務は,前任者と全く同一内容の業務であって,過重なものではなかった。 個々の業務をみても,回付票のチェック作業は,主として記載事項の漏れないし誤りの確認を内容とするものにすぎず,そもそも業務を過重にするような性質のものではないし,平成7年度から平成9年度までの累計件数に照らしても,被災者が担当していた時期は件数が少なく,また,1日300件を超えるということはない。弁当の注文などの雑用的業務は,心理的ストレスの多い仕事とはいえない。 管理係職員1名の退職後は,平成8年10月1日に採用された賃金職員が管理係に配置さ 300件を超えるということはない。弁当の注文などの雑用的業務は,心理的ストレスの多い仕事とはいえない。 管理係職員1名の退職後は,平成8年10月1日に採用された賃金職員が管理係に配置され,平成9年3月24日まで在籍して庶務的な事項を誠実にこなしたのであり,被災者の仕事量は十分軽減された。 休憩時間表は,コンサルタントの人間関係を一旦把握すれば,把握した人間関係を前提として日程調整することが容易であるから,当初多少の苦労はあっても,長期間継続するものではなく,資料等の配付作業は,被災者に複雑困難な判断や専門的判断を求めるようなものではなく,過重性ある業務とはいえない。 基礎年金番号導入による業務については,中央年金相談室の来訪窓口の増設や,仮設電話の設置を行うなど,特別の相談体制を組むことで対応していた。 また,照会等については,電話相談係等に負担がかからないよう,通常の相談業務とは別に,専用の電話番号を高井戸庁舎及び三鷹庁舎に計130回線設置し,委託した電話オペレーター及び職員による特別体制で対応したので,特に被災者の業務が過重になったとはいえない。 2 被災者のうつ病の罹患及び自殺が業務によるものか否か。 (1) 原告らの主張ア被災者は,平成8年11月ころから平成9年1月ころには,度々仕事についての不満や悩みをこぼしており,同年3月25日に人事係に異動になった以降は,また過重な業務を担当する部署であることに精神的ショックを受けていた。このころには,同係の主任であったE主任や交際していたFに仕事についての不満をこぼしたり,被害妄想的な言動や逃げたいなどの発言をしたりするなど,情緒不安定になっており,特に同年4月4日や5日の言動は心配されていた。 これらの被災者の言動は,国際的な診断基 ての不満をこぼしたり,被害妄想的な言動や逃げたいなどの発言をしたりするなど,情緒不安定になっており,特に同年4月4日や5日の言動は心配されていた。 これらの被災者の言動は,国際的な診断基準である「ICD-10」の大項目に照らしてみても,うつ病の各項目に該当し,遅くとも平成9年1月には,中等症以上の反応性うつ病に罹患していたものであり,抑うつ状態はさらに悪化し,自殺時は重症のうつ病であったものである(K医師の意見書同旨)。また,人事院判定書においても,被災者が,平成8年11月ころからうつ状態となり,翌年3月の異動内示後から4月4日にかけて症状が増悪し,反応性うつ病へと進展していったものと推認される旨の指摘がなされている。 イ被災者のうつ病の罹患が業務によるものであること被災者には,うつ病罹患の原因となる個人的な要因,業務以外の要因(家族関係,女性関係)は存在しない。被災者は,業務の量,質,職場環境における強度のストレスによって,反応性うつ病に罹患した。 (ア) 被災者が行っていた業務の負担量は相当に重く,そこから生じる疲労は,その持続期間を考慮すれば,人間の精神・身体両面の慢性的な過労状態を導き,うつ病を惹起するのに十分な程度であった。 また,平成8年9月末以降の管理係の業務の追加,同年11月から翌平成9年3月末までの扶養親族等申告書関係業務に加わった基礎年金番号制の実施に伴う業務の開始,同年1月から3月までの英語研修の実施は,一般的に考えて著しく過重であり,被災者の処理能力,許容範囲を著しく超えるものであったし,被災者の異変が家族によって報告された平成8年11月にも重なっている。被災者は,業務上の負担が数か月にわたって持続したことで,睡眠時間が絶対的に不足し,疲労が回復しないまま業務を続行 のであったし,被災者の異変が家族によって報告された平成8年11月にも重なっている。被災者は,業務上の負担が数か月にわたって持続したことで,睡眠時間が絶対的に不足し,疲労が回復しないまま業務を続行するという悪循環となっていったのであり,業務の量とうつ病の罹患に因果関係があることは明らかである。 (イ) 被災者は,不在の係長に代わって係内のまとめや,D係長の指示により,他課や他係との連絡調整,雑用など,庶務的世話役的業務を担当させられていたが,これらの業務の遂行は,煩雑で,きめ細かい気遣い,配慮が求められたのであり,被災者に多大な心的負担を強いていた上,係員としての本来の責任を超えた業務もあった。被災者が,これらの仕事に対して持続的に感じていたであろう不合理さ,不満等は,心身の疲労とともに心理的ストレスとしてうつ病の原因になったと考えられる。 (ウ) 最年少であった被災者は,ベテランコンサルタントらからの雑務の依存,厳しい苦情を受けていたが,担当係長らは被災者に対応をまかせており,朝の新聞の切り抜き作業などもあって,いわば酷使されていたのである。被災者は,過酷なストレスに満ちた,孤立無援の職場環境で働いていたことも原因となってうつ病に罹患した。 ウうつ病と自殺との因果関係うつ病患者が希死念慮をもつことはもとより多く,その症状の増悪にもかかわらず,必要な治療も休養も得られないまま睡眠不足や身体的疲労を高じ,判断力や現実的検討能力が異常に低下した場合には,自殺行動への強い衝動を制御できなくなり,発作的,衝動的に自殺行為につながる。被災者については,K医師の意見書によれば,「自殺時,希死念慮を伴う重症のうつ病であった。そして,ただでさえ自殺率の高いうつ病において,特に自殺の危険が高まる要因がいくつも重なってい 為につながる。被災者については,K医師の意見書によれば,「自殺時,希死念慮を伴う重症のうつ病であった。そして,ただでさえ自殺率の高いうつ病において,特に自殺の危険が高まる要因がいくつも重なっていた。」とされ,症状として,絶望感,自責感,焦燥感の強いもの,不眠が持続するものなど,環境的に,精神的・社会的援助を家族,友人,近隣,コミュニティーから得にくい状況にあるもの,孤立した状況にあるもの,などが,被災者に認められる危険因子であり,「自殺時,心身の疲労は相当極度のものであり,深夜の電話の件などは,ふだんの本人からは考えられない行動をとった背景には,自我の機能が低下し,自己の感情を制御し行動を選択決定する能力が著しく減弱した,病弱な精神状態を認めることができる。」,被災者は,「本人の主体的な意志によってではなく,業務に起因するうつ病の症状であるところの希死念慮と,同じく正常な判断力を失った異常な精神状態が原因で自殺に及んだことは間違いないものと推断できる。」のである。 よって,被災者の自殺は,業務の過重性を原因としてうつ病に罹患したことに基づく。 (2) 被告の主張被災者の平成8年11月から平成9年1月ころの帰省先での言動やそれ以降の同僚らへの発言等,うつ病に罹患していたかどうかについては不知である。 被災者がうつ病に罹患した事実及び自殺との因果関係については,被災者の業務内容及び業務環境を過度に過重であると評価したことを前提とするものであり,誤りである。 原告らが被災者のうつ病罹患の根拠とするK医師の意見書及び人事院の判定書の記載内容は認めるが,それらの作成あるいは判定時点においては,被災者の勤務状況,日常生活について十分な事実が把握されていたとはいえず,誤った事実を前提に調査した結果に基づいて判 及び人事院の判定書の記載内容は認めるが,それらの作成あるいは判定時点においては,被災者の勤務状況,日常生活について十分な事実が把握されていたとはいえず,誤った事実を前提に調査した結果に基づいて判断されたものであり,業務と被災者の死亡との因果関係を立証したものとはいえず,原告らの主張は理由がない。 3 被告の安全配慮義務違反の存否及び被災者の自殺との因果関係(1) 原告らの主張ア被告は,その職員に対して安全配慮義務を負っているところ,本件では下記の注意義務を負っていたにもかかわらず,被災者に対する業務の従事のさせ方及び労務管理について安全配慮義務違反があった。 ① 被告には,職員に過度な業務を負わせることのないよう,適正な業務配分をし,その他労働条件について定める義務があったのに,被災者に加重な業務が集中することを知りながら,電話相談係,管理係になんら人員の補充・業務の適正な配分を行わず,適正な業務の配分がなされる措置を行わなかった。 ② 職員に心身の疾患が存在すれば,それに応じて疾患の治療ができ,疾患が進行しないよう労働環境を整える義務があったのに,被災者が健康状態を害していることを知りながら,これに応じた労働条件の整備を怠った。 ③ 職員が何らかの疾患に罹患している場合には,その疾患の治療・看護のために必要な措置を施す義務があったのに,被災者のうつ病に対して何らの措置も講じず,適切な治療・看護を施し,あるいは適切な治療・看護が受けることができるようにする義務に違反した。 イ本件における上記の安全配慮義務違反を構成する事実は,具体的には,①被災者の労働時間を把握する資料を有しておらず,長時間労働自体を正確に把握していなかったこと,②長時間労働自体を軽減する措置を講じていないこと,③精神疾患に 義務違反を構成する事実は,具体的には,①被災者の労働時間を把握する資料を有しておらず,長時間労働自体を正確に把握していなかったこと,②長時間労働自体を軽減する措置を講じていないこと,③精神疾患に対応する体制になっていなかったこと,④人事異動について,異動直後に繁忙を極める人事係への異動を行うべきではなかったこと,⑤被災者に十分な休暇を取らせなかったこと,などである。 なお,②について,被告は,賃金職員の採用をしたと主張しているが,被災者の業務を軽減するには全く不十分であったし,被災者が行っていた新聞の切り抜きなど本来業務以外については,当該事務を命じた年金相談指導官に対し,止めさせるよう指示を出すべきであった。コンサルタントとの人間関係については,管理職たるD係長が調整に当たるべきであったのに,それを行っていない。語学研修についても,実施時期が遅れたことで,基礎年金番号制の実施時期で過重な負担がかかっていたのであるから,受講を控えるよう勧めるべきであったし,少なくとも受講するかどうかを確認すべきであった。軽減措置は,平成8年10月以降,平成9年3月31日までの間,いつでも行うべきことであったし,特に被災者が反応性うつ病に罹患したと考えられる平成9年1月以降にあっては,なおさらである。 ③についても,健康診断において,被災者の精神疾患に対応していない。 ④につき,被災者は,電話相談係で平成8年10月以降,繁忙を極めることが分かり切っていたのであるから,異動直後に繁忙を極める人事係への異動は行うべきでなかった。少なくとも,被災者がそのような激務に耐えられるかどうか,聴取するなどの調査を行うべきであった。 ⑤につき,平成9年4月4日,E主任が被災者の言動を聴いた時点では,少なくとも1日中休むことができ とも,被災者がそのような激務に耐えられるかどうか,聴取するなどの調査を行うべきであった。 ⑤につき,平成9年4月4日,E主任が被災者の言動を聴いた時点では,少なくとも1日中休むことができるよう手配すべきであった。被災者の状態は明らかに正常でなかったのに,早急に人事係の同僚や上司に相談するなどの対応をしておらず,精神疾患に対する認識の甘さがあった。 ウ被災者には,採用当時何らの健康上の問題は存在しなかったことはもちろん,親族にもうつ病に罹患した者はおらず,他にうつ病の原因となり得るような事情は存在しない。被災者は,過重な業務の結果,平成9年1月ころ,反応性うつ病に罹患して,その結果自殺するに至ったのであるから,被告の安全配慮義務違反と被災者の自殺との結果の間には,因果関係が存在する。 なお,被災者は,祖父母とは年始に会う程度であり,さして親しい間柄ではなかったのであるから,平成8年12月の祖父の死亡が被災者に精神的ショックを与えたとは言いがたいし,Fと交際を始める前の平成8年7月の別の女性との交際の終了についても被災者には特別に悩んでいる言動はなかった上,これらの出来事は,被災者のうつ病罹患時期及び自殺時期と相当なずれがあるから,被災者の発作的,衝動的な自殺と上記のような個人的事情との因果関係は到底認められない。 エまた,予見の対象は被災者の心身の健康悪化を生む原因となる危険な状態であり,本件でいうならば長時間過重労働そのものである。被告は当該事実を認識していたのであるから,予見可能性は存在した。被告は,被災者の不自然な言動や体重の減少などから,被災者が明らかに反応性うつ病に罹患していることを十分認識していたのであり,健康診断で判明しなかったことをもって,予見可能性がないとはいえない。 (2) 被告 不自然な言動や体重の減少などから,被災者が明らかに反応性うつ病に罹患していることを十分認識していたのであり,健康診断で判明しなかったことをもって,予見可能性がないとはいえない。 (2) 被告の主張ア国が負っている安全配慮義務は,信義則上負担するものであるから,その具体的内容は,公務員の職種,地位,現に遂行する具体的な公務の内容,その具体的な状況等によって定まり,それぞれ異なるべきものである。 本件において,国家公務員災害補償法上の公務起因性が認められているとしても,必ずしも,安全配慮義務違反が存するとはいえない。すなわち,災害補償では,補償の対象となる災害が公務上の災害であること(公務遂行性と公務起因性)が必要であり,使用者の故意,過失は要件となっていないため,故意,過失を要件とする損害賠償とは相違があり,災害補償が認められる場合であっても,安全配慮義務違反による損害賠償請求が認められるためには,過失として,具体的に発生した結果との関係から,義務者である国が,そのような結果が予見できたこと(予見可能性),ある措置を講じていれば結果の発生を回避できたこと(結果回避可能性)が必要である。 ここにいう予見可能性とは,最高裁判所昭和61年12月19日第三小法廷判決集民149号359頁が,「生命,身体に危害を及ぼす可能性を客観的に予測しうる」ときは,「かかる危険が及ぶことのないよう配慮すべき義務を負う」と判示しているとおり,抽象的な予見可能性ではなく,具体的な予見可能性が必要と考えているものと解されるのであり,責任主義の見地からは,予見可能性と共に結果回避可能性まで必要と解すべきである。予見可能性の対象は,過重な長時間労働ではなく,業務の遂行により「疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうこ 見地からは,予見可能性と共に結果回避可能性まで必要と解すべきである。予見可能性の対象は,過重な長時間労働ではなく,業務の遂行により「疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうこと」であり,原告らの主張は失当である。 イ社会保険庁における健康管理及び被災者の健康管理について落ち度がないこと社会保険庁の職員の健康管理については,人事院規則等に基づく各種の健康診断が実施されており,被災者も,平成8年度において,一般定期健康診断を受診していた。その結果,平成8年6月25日の検診において,低色素性貧血及び肥満度マイナス25パーセントを理由に,要精密検査となり,同年10月4日における健診では貧血につき経過観察となっていたが,全体として格別健康状態に異常はみられなかった。 また,被災者の勤務していた高井戸庁舎には医務室が設置されて,日常的に職員の健康管理を行っており,被災者自身も数度にわたって受診をしていた。 業務センター診療室においては,肉体的な健康のみならず,精神面にも配慮し,平成2年ころから,メンタルも含めた健康相談の実施を月1回行っていたが,被災者が健康相談を受けた記録はない。 ウ被災者の業務は,時間的にも内容的にも被災者のうつ病の罹患を予期しなければならないほど過重なものということはできない。 エ被災者の勤務態度は非常にまじめで,不平不満を言わず与えられた仕事をこなしていたため,被災者を優秀な人材として認識していたものの,電話相談係当時,健康面について異常があるとの認識はなかった。被災者のメンタル面での健康相談を受けた記録もなく,不安よりはむしろ積極的,意欲的な姿勢を見せている。 被災者の異常を認識ないし認識し得たのは,平成9年4月4日のE主任あての電話の時点が始 災者のメンタル面での健康相談を受けた記録もなく,不安よりはむしろ積極的,意欲的な姿勢を見せている。 被災者の異常を認識ないし認識し得たのは,平成9年4月4日のE主任あての電話の時点が始めてであった。同年3月末当時における人事係への異動時においては,転勤に伴う通常の不安等の発言は確認できたものの,それ以上の異常は全く確認できていないし,4月4日の被災者の勤務状況や行動から,被災者の異常を知ることはできなかった。結局,被災者の超過勤務状況,健康状態等について,当局は人事係への異動後,自殺前日の平成9年4月4日になるまで認識することはできなかったのであるから,それについての対応を取る暇もなかった。 オ人事院の判定時においては,被災者の生い立ちや両親との関係,良好な関係にあった祖父が平成8年12月に死亡していること,被災者がFとの交際を始める2,3か月前に交際していた女性との交際の終了で悩んでいたらしいとの事実については,十分検討されたとはいえない事情がある。 カ労災認定における考慮項目に照らすと,被災者においては,「職場における心理的負荷」の判断項目は,電話相談係当時においてある程度長時間労働が常態化していたこともあって,該当事項はない。人事係への異動は,仕事内容,仕事量の変化があり,負荷は認められるが,被災者の能力,業務困難性からして,業務が特に過大になったとは認められない。一方で,「職場以外の心理的負荷」の判断項目において,親しい存在であった被災者の祖父の死亡は,配偶者や親の死亡と同様の心理的負荷があったと考えられるし,結婚を考えていた女性との交際の破綻も中程度以上の評価が可能である。 したがって,業務と被災者の死亡との間には因果関係は必ずしも認められない。 4 消滅時効(国家賠償請求部分につい るし,結婚を考えていた女性との交際の破綻も中程度以上の評価が可能である。 したがって,業務と被災者の死亡との間には因果関係は必ずしも認められない。 4 消滅時効(国家賠償請求部分について)(1) 被告の主張原告らが,国家賠償請求権の主張をしたのは,平成15年7月31日付け訴状によってであって,被災者が死亡した平成9年4月5日から3年以上が経過した時点である。国家賠償請求権には,「被害者又は其法定代理人ガ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時ヨリ三年間之ヲ行ハサル時ハ時効ニヨリテ消滅ス」との不法行為の規定(民法724条)が適用されるから,既に時効によって消滅している。被告は,平成16年9月2日の弁論準備手続期日において,時効援用の意思表示をした。 ア起算点の主張について人事院による公務災害の判定は,公務により生じた災害であるか等について判断するものであり,国のした行為が違法であるかについて判断をするものでないことは明らかであるから,人事院の判定があるまで違法であるかどうか判然としないため訴えを提起することが困難であったとする原告らの主張は理由がない。 イ時効の中断の主張について平成16年3月17日に遺族補償一時金が支払われているが,これは公務災害の補償として支払われたものであり,原告らが本件訴訟で請求する債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償請求権の存在を認めて支払ったものとはいえず,承認には当たらない。 ウ権利濫用との主張について災害補償制度と損害賠償制度は,目的,要件,効果等を異にする別個の制度であるから,社会保険庁が公務災害であることを認めなかったからといって,不法行為に基づく損害賠償請求について適時における権利の行使又は時効中断措置を講ずることを不可能もしくは著 を異にする別個の制度であるから,社会保険庁が公務災害であることを認めなかったからといって,不法行為に基づく損害賠償請求について適時における権利の行使又は時効中断措置を講ずることを不可能もしくは著しく困難にさせ,または,これらを不必要と信じさせるような事情があったということはできず,被告による消滅時効の援用が権利濫用に当たるとはいえない。 (2) 原告らの主張ア起算点不法行為一般の消滅時効の起算点は「加害者及ビ損害ヲ知リタル時」であるが,本件については人事院による公務災害の判定がなされるまで加害者の行為が違法であることは判然としなかったのであるから,時効の起算点は平成14年12月25日となり,消滅時効は成立しない。 イ時効の中断平成14年12月25日,人事院による公務災害の判定がなされた後,被告は,原告らに対して遺族補償一時金として平成16年3月17日,合計金1009万3000円を支払っている。これは,公務災害に基づくものであるが,損害の填補として支給されるものであるから債務の弁済があったとみることができる。 ウ権利濫用本件については,事案の性質上原告側で完全に資料の収集を行うことができず,自ずと公務災害の申請を先に行うこととなった。さらに,社会保険庁における公務災害の申請が認められず,人事院に対して再審査請求を行った経緯があり,被告側の事情で公務災害の認定が延びたという事情がある。公務災害の申請を先行させていた上,その認定に時間がかかった本件においては,消滅時効制度の趣旨は妥当せず,被告側で消滅時効を主張するのは権利濫用である。 5 損害(1) 原告らの主張ア逸失利益 7252万4519円被災者の逸失利益としては,下記①ないし④の合計金額が相 ,被告側で消滅時効を主張するのは権利濫用である。 5 損害(1) 原告らの主張ア逸失利益 7252万4519円被災者の逸失利益としては,下記①ないし④の合計金額が相当である。 ① 60歳までの逸失利益被災者の死亡時の年収は399万203円であり,60歳の定年までのライプニッツ係数が16.711287,被災者が独身の男性であったことから生活費控除割合を50パーセントとして計算した3334万0713円(=399万203円×0.5×16.711287)。 ② 定額昇給被災者が死亡時から定年時まで毎年37年間の1年当たり14万377円の定額昇給の合計額にライプニッツ係数で中間利息を控除した3218万2081円(=14万377円×229.254662)。 ③ 退職金被災者において,退職時に支給を受けることができた,退職時の本棒62.7か月分の退職金にライプニッツ係数で中間利息を控除した477万9768円(=46万3600円×62.7×0.16443563)。 ④ 60歳以降の逸失利益被災者が,67歳まで働いて得られたはずの収入は,60歳から64歳までの男子労働者の学歴計年収に基づいて,60歳から67歳までのライプニッツ係数に基づいて中間利息を控除して計算した222万1957円(=467万500円×0.5×0.951486)。 イ慰謝料 5000万円被災者の死亡による精神的苦痛は,5000万円を下らない。 ウ原告らは,被災者の親であり,上記アイの合計金額の2分の1をそれぞれ相続した。 エ既払い額の控除被告は,原告らに対して,遺族補償一時金1009万3000円及び既払い分退職金98万2800 ,被災者の親であり,上記アイの合計金額の2分の1をそれぞれ相続した。 エ既払い額の控除被告は,原告らに対して,遺族補償一時金1009万3000円及び既払い分退職金98万2800円を支払っている。 したがって,原告らは,アないしウの金額より,上記金額を控除した1億1144万8719円を2で除した額(5572万4359円)を,それぞれ債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権として請求する。 オ弁護士費用各557万2435円原告らそれぞれにつき,上記損害額の1割が相当である。 カ被告の過失相殺の主張は,被災者が自ら症状を悪化させたわけでないことからしておよそ過失相殺の事由たり得ない。 また,当該主張は,口頭弁論終結間際になされたものであり,原告らの反論の機会を奪うような段階でこのような主張を行うことは時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。 (2) 被告の主張ア原告ら主張の損害は争う。 現在の公務員の給料や退職金等の減額傾向にみれば,退職時において退職金が確実に得られる蓋然性があったとはいえないし,60歳以降において確実に就労可能で逸失利益が発生する蓋然性があったとはいえない。 また,被告は,国家公務員退職手当法に基づき,98万2800円を原告らに支給しているから,その限度において損害はない。 慰謝料についても,被災者固有の個別的要因に起因する側面は否定できないのであるから,交通事故と差異はないし,むしろ,被災者の故意行為が関与する側面からみれば,本人に生じる精神的苦痛が他の場合に比して特に強いという要素はない。 イ過失相殺仮に,被告に責任が認められたとしても,被災者の業務は過重といえるものではなかっ る側面からみれば,本人に生じる精神的苦痛が他の場合に比して特に強いという要素はない。 イ過失相殺仮に,被告に責任が認められたとしても,被災者の業務は過重といえるものではなかったし,被告は被災者が労務に関して心理的精神的に異常を来していることを知ることはできなかった。また,個人の健康管理は第1次的にはその個人に委ねられているところ,被災者に自覚症状があったのであれば,医療機関等を受診するべきであったし,そのような措置を執ることが困難という事情は見当たらず,まして,業務が過重との認識を有していたのであれば,その削減を求めることができた。 被災者の自殺については,被災者において,うつ病の罹患あるいはその悪化を防止するための措置を講ずべきことを怠った落ち度があるといわざるを得ず,自殺の動機には業務以外の要因もあることから,公平の見地から,民法418条,722条を適用あるいは類推適用して,大幅な過失相殺がされるべきである。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所としては,まず安全配慮義務違反による債務不履行に基づく損害賠償請求について判断する。 上記争いのない事実に証拠(甲1ないし71,乙1ないし25〔書証は全て枝番を含む〕,証人D,同F,原告B本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1) 被災者の経歴等被災者は,原告B,原告Cの二男として出生したが,原告らが離婚し,(一部省略),一時期父方祖父母の下で育てられた後,2歳半ころ養子に出された。原告らはその後復縁し,被災者が中学を卒業するころ,被災者を引き取って一緒に生活するようになり,高校を卒業する年までの約4年間共に生活をし,そのころ,被災者と養親との養子縁組も解消した。 被災者は,高校卒業後の平成5年4月1日,社会保 ころ,被災者を引き取って一緒に生活するようになり,高校を卒業する年までの約4年間共に生活をし,そのころ,被災者と養親との養子縁組も解消した。 被災者は,高校卒業後の平成5年4月1日,社会保険庁に採用され,同日総務部総務課に配属された。同月13日,社会保険業務センターに併任発令され,同年7月には同業務センターに転任となり,業務部業務第1課支払第6係において勤務した後,平成8年4月1日,中央年金相談室相談業務課電話相談係に配属され,平成9年4月1日,総務部庶務課人事係に配置換えとなった。 被災者は,社会保険庁入庁後,寮などで一人暮らしをはじめ,平成8年当時は東京都杉並区内のアパートで一人暮らしをしていた。 (2) 社会保険庁における勤務体制,健康管理等ア所定労働時間について一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する法律(平成6年法律第33号)によれば,職員の勤務時間は,休憩時間を除き,1週間当たり40時間とされており,社会保険庁においては,社会保険庁に勤務する職員の勤務時間に関する訓令(社会保険庁訓第3号)に基づき,勤務時間が定められている。通常,職員の勤務時間は月曜日から金曜日までの午前8時30分から午後5時までであり,午後零時15分から午後零時45分までを休憩時間,午後零時から午後零時15分までの間と午後零時45分から午後1時までの間を休息時間としており,日曜日及び土曜日は週休日である。そして,通常の勤務体制とは別に,時差通勤職員として,第1種職員から第4種職員までが定められており,勤務や休憩休息における開始時間,終了時間に差異がもうけられていた(乙24)。被災者の勤務形態は,月曜日から金曜日までの午前9時から午後5時15分であり,休憩時間は午後零時30分から午後零時45分,これとは別 における開始時間,終了時間に差異がもうけられていた(乙24)。被災者の勤務形態は,月曜日から金曜日までの午前9時から午後5時15分であり,休憩時間は午後零時30分から午後零時45分,これとは別に合計30分の休息時間が定められていた。 社会保険庁における出勤の管理は,各職員毎に作成した出勤簿を勤務時間管理員が管理するものとされており,定時までに出勤したことを証するための押印等を行い,休暇の取得日数及び時間等の必要事項をその都度記入することとされていた(乙23)。 実際には,職員が出勤簿を作成するほか,超過勤務について,超過勤務命令簿を作成し,主務係長や課長が押印をしていたが,事務室の開錠,施錠簿を合わせみると,これに反映されていない超過勤務時間も相当にあったことが認められる。 イ健康管理について社会保険庁における健康管理は,人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持),社会保険庁健康安全管理規程(社会保険庁訓第2号)に基づいて行われており,健康診断は人事院規則10-4の20条,21条に基づき,胸部X線,血圧,検尿,身体計測,問診を実施項目とする一般定期健康診断を全職員に対し年1回,事務処理機器操作職員全員に血圧,視力,聴力,筋機能及び問診を実施項目とする特別定期健康診断を年2回実施していた。 また,高井戸庁舎においては,日常的な職員の健康管理のために,医務室が設置されており,業務センター診療室は,肉体的な健康のみならず,精神面にも配慮し,平成2年ころからメンタルを含めた健康相談を月に1回実施していた。 なお,人事院規則10-4の5条は,組織区分毎に,職員の健康管理に関する事務の主任者として健康管理者を指名するものとしており,社会保険業務センターにおいては総務部庶務課長がこれに該 いた。 なお,人事院規則10-4の5条は,組織区分毎に,職員の健康管理に関する事務の主任者として健康管理者を指名するものとしており,社会保険業務センターにおいては総務部庶務課長がこれに該当し,平成8年から平成9年にかけてはG課長がこの任に当たっていた。 (3) 被災者の担当業務及び勤務状況ア電話相談係における業務被災者が平成8年4月1日から配属されていた電話相談係は,相談業務課の課長,上席相談官のほかに,独任官である年金相談指導官,主任相談指導官等を含む職員13人,コンサルタント11人で構成されており,被災者は,同係における唯一の役席のない係員であった。被災者は,同係の最年少の職員でもあったところ,コンサルタントの中には社会保険庁の職員を定年まで務めたベテランもおり,全員が被災者からみて目上の者であった。同係には専任の係長は不在で,管理係の係長であったD係長が兼任をしていた。したがって,被災者の直属の上司はD係長であり,その上にH課長補佐(平成8年11月以降はI課長補佐)がいて,さらにその上にJ課長がいた。 管理係は,電話相談係,来訪相談係及び文書相談係の連絡調整や,法律改正に伴う業務の取扱いの変更の連絡,その他の庶務的業務を担当する係であったが,電話相談係とはついたてを隔てた同じフロアにあり,平成8年9月に職員1名が退職した後は,H課長補佐(同年11月以降はI課長補佐)とD係長の職員2人,賃金職員2人という構成であった。 電話相談係では,年金加入者等からの問い合わせに対し,20数回線の電話回線で対応し,相談を受け回答するといった業務を行っていたところ,被災者は,毎朝行う磁気カードの配布等職場環境の整備,午前,午後の電話の切り替え,回付票等の確認作業など計18項目の事務のほか,定期的 回線で対応し,相談を受け回答するといった業務を行っていたところ,被災者は,毎朝行う磁気カードの配布等職場環境の整備,午前,午後の電話の切り替え,回付票等の確認作業など計18項目の事務のほか,定期的に行う留守番電話の変更・更新,用紙等の補給や文書の保管などの業務,その他コンサルタントらの休憩時間表の作成,弁当表の配布,消耗品の管理,経費の管理,資料の送付・業務連絡の徹底及び新聞・広告の配布などの雑用的業務を担当し,手が空いた時には受給者等からの電話相談の応対にも当たっていた。コンサルタントらが電話相談を受ける中で生じた年金等の支払いに関する疑問は,業務課支払係に配属された経歴をもつ被災者に寄せられることも多かった。 また,被災者は,D係長の指示を受け,管理係における文書のコピー・回覧の配布,管理係の発行する諸通知,連絡事項等の事務の一部及び第1種指定職員の指定簿の作成作業等の一部を担当していた(甲5,6,13)。 さらに,被災者は,電話相談係のK年金相談指導官(以下「K指導官」という。)から,毎朝新聞5紙を閲覧し,年金関係,健康保険関係等業務上必要と思われる新聞記事の切り抜きをし,午前の電話相談業務の開始前に職員らに配布するよう指示されていたことから,午前7時ころに登庁し,それらの作業を行っていた(甲8ないし甲27,甲33)。K指導官は,アルコールが原因で入退院を繰り返すような人物であり,酒に酔った状態で出勤をするなど勤務中に問題を起こすこともあった者であるが,上記新聞の切り抜き以外にも,被災者に対し,種々の雑務を指示することがあった。被災者が早朝から新聞記事の切り抜きを行っていたことについて,当初,D係長は認識していなかったところ,同じフロアの文書相談係の係長から指摘を受けたため,被災者に朝早く来ることはない旨伝 とがあった。被災者が早朝から新聞記事の切り抜きを行っていたことについて,当初,D係長は認識していなかったところ,同じフロアの文書相談係の係長から指摘を受けたため,被災者に朝早く来ることはない旨伝えたことがあるが,その際,新聞の切り抜き作業が不要であるとか,他の方法で行うよう具体的な指示を出すことはなく,新聞の切り抜きと配布作業はその後も被災者が行っていた。 D係長は管理係長の席で仕事をしていて,電話相談係で仕事をすることはほとんどなく,被災者との個人的な関係もあまりうまくいっていなかった。そのため,被災者は,アルコール問題のあったK指導官への対応ばかりでなく,多数の口うるさいコンサルタントへの対応も全て自分で行わなければならず,はたから見ていて,係の20数名の面倒を一人でみているような状態であった。 平成8年度には,平成八年度における国民年金法による年金の額等の改定の特例に関する法律(平成8年法律第29号)により年金の自動物価スライドが凍結されたことに伴い,年金等の照会や扶養親族等申告書関係の特別体制が組まれたこと,同年12月には,平成8年分所得税の特別減税のための臨時措置法(平成8年法律第18号)に基づく厚生年金保険,船員保険及び国民年金の年金受給者に対する特別減税に関する還付事務を要したこと,さらに同月,翌平成9年1月実施の基礎年金番号制に関して1億人に上る被保険者や年金受給者に対する基礎年金番号の通知が実施されたことなど,種々の政策に関連し,電話相談係においても,通常時期,通常年度に比べて対応を要する事務が増加していた。この点,被災者の業務であった回付票の点検に関してみれば,その作成件数は,平成8年3月が1121件であったのに対し,平成9年1月は654件,同年2月は1394件,同年3月は774件であり していた。この点,被災者の業務であった回付票の点検に関してみれば,その作成件数は,平成8年3月が1121件であったのに対し,平成9年1月は654件,同年2月は1394件,同年3月は774件であり(乙17),処理数が急増したとは認められないものの,一般的な電話相談処理状況についてみれば,平成7年度は前年比1.02倍の33万3517件であるのに比して,平成8年度は34万4789件,平成9年度は36万8044件とやや増加傾向にあった(乙5)。そして,上記法改正や新制度の導入に関連して必要とされる職員間の連絡事務の徹底や,資料の整理,配布などといった庶務的な事務については,被災者が担当していたため,結果的には被災者の業務が量的に増加していた。さらに,平成8年12月から翌平成9年2月末までの所得税申告用の源泉徴収票の発送,確定申告用の証明書発行の依頼電話なども合わさって,そのころは,通常時期と比較して,問い合わせの電話が増加していた上,上記のような新制度の発足等に関し,照会を要したり,即答が難しいような問い合わせがあるなどしたため,被災者においては,コンサルタントからの質問に応じたり,直接に電話に応対するなどの業務も増加していた(甲26の2,甲36,甲37の10,同15ないし25,同27ないし30)。 なお,基礎年金番号制の実施に際しては,通常の相談業務とは別に,専用の電話番号を高井戸庁舎及び三鷹庁舎に計130回線設置し,委託した電話オペレーター及び職員による特別体制を組むなどの対応が採られていた(甲37の9・23,乙20)ものの,電話相談係自体には電話回線の増設はなされず,増員もなされなかった。 イ人事係における業務被災者は,平成9年3月25日に総務部庶務課人事係への異動の内示を受け,4月1日付けで 談係自体には電話回線の増設はなされず,増員もなされなかった。 イ人事係における業務被災者は,平成9年3月25日に総務部庶務課人事係への異動の内示を受け,4月1日付けで,人事係に配属された。人事係は,専任の係長がおらず,N人事業務調整官が庶務係長とともに人事係長を併任していた(同人を,以下「N係長」という。)。そのほか,E,L主任の主任2人,被災者を含む係員2人がいて,計5名で構成されていた。したがって,N係長が被災者の直属の上司であり,その上にM課長補佐,さらにその上にG課長がいた。G課長は,前述のとおり,社会保険業務センターにおける健康管理者でもあった。 人事係は,係長を含む2人が転入者であったほか,同係において,4月は人事異動,昇給昇格に伴う事務の多い繁忙期であった。同係での被災者の業務は,昇給・昇格関係資料の作成であるが,被災者は,昇給対象者であった職員300人のうち,106人分の資料作成を担当しており,主に,職員座席表の作成,級号俸別昇給月別氏名一覧の作成,4月昇給昇格対象者一覧の作成,昇給対象者の昇給昇格調書の作成などを行った。昇給昇格調書の作成は4月9日を締切りとするものであったが,被災者の前任者の異動に際して引継書などは存在しなかった(争いがない。)。 被災者は,人事業務は初めてであり,前任者が地方へ転出したため3月25日からの限られた時間で引継ぎをしなければならなかったこと,引継書がなかったこと,係のほかの職員も急を要する作業があるために十分相談ができるような状態でなかったこと,4月9日を締切りとする仕事があったことなどから,仕事に対する大きな不安を抱え,イライラや寝不足に悩まされながら仕事をしていた。 ウ被災者の業務時間について被災者の所定勤務時 4月9日を締切りとする仕事があったことなどから,仕事に対する大きな不安を抱え,イライラや寝不足に悩まされながら仕事をしていた。 ウ被災者の業務時間について被災者の所定勤務時間は,月曜日から金曜日までの毎日,午前9時から午後5時15分の8時間15分であり,そのうち休憩時間が15分,休息時間が30分となっていた(甲52,乙24)ため,休憩時間を除き,1日8時間が所定労働時間と解される。そして,被災者の被災前6か月間における所定労働時間は,被災者が取得した年次休暇(年次休暇3日,半日休暇2日,忌引き2日),特別休暇等を考慮し,下記のとおりと認められる(乙7の1)。 また,超過勤務時間は,超過勤務命令簿,開錠簿,施錠簿を基本として作成された書面,鍵受払及び登庁者退庁者管理簿等(甲30,31,41,71,乙7の2)を総合すると,少なくとも,下記のとおりと認められる。 被災者の被災前6か月における土曜日や日曜日,祝日の出勤については,平成9年3月29日が確認されているのみである。 なお,被災者が平成8年12月19日から平成9年3月27日までの週2回,午後5時30分から午後7時までに任意受講していた英会話研修は,受講は職員個々の希望によるものとはいえ,研修受講命令書に基づいて受講していたものであり,勤務時間として含めるのが相当である(乙7の3,乙22)。 所定労働時間超過勤務時間①平成8年11月  160時間約28時間②  同年12月  124時間約55時間③平成9年 1月  143時間約71時間④  同年 2月  144時間約58時間⑤  同年 3月 月  124時間約55時間③平成9年 1月  143時間約71時間④  同年 2月  144時間約58時間⑤  同年 3月  152時間約94時間⑥  同年3月29日から4月4日まで(死亡直前1週間)40時間約48時間以上から,被災者の時間外労働は,少なくとも被災直前の1か月で120時間を超え,被災直前6か月の平均でも1か月60時間を超えていた。 (4) 被災者の健康状況,性格等被災者は,入庁時の健康診断で健康上の問題が指摘されたことはなく,高井戸庁舎医務室においては,平成7年6月19日に自然気胸が発見されたほか,同年10月26日から平成9年1月13日までの間に,胃腸炎,鉄欠乏性貧血,上気道炎,咽頭炎等での受診歴があった。また,平成8年6月25日に実施された一般健康診断において,身長174.2センチメートル,体重50.0キログラムで,低色素性貧血,肥満度が-25パーセントであることで精密検査を受けるようアドバイスを受けていた。 しかし,上記自然気胸は,社会保険中央総合病院において左胸腔ドレーン挿入により軽快した後,一旦は再発したが,胸腔鏡下手術が施行された結果,平成7年7月30日には軽快して退院となっており,その他の傷病についても,いずれも治癒していた。貧血については,投薬を継続していたことがうかがわれるものの,上記の健康診断において他に健康上の問題があるとは指摘されておらず,平成8年10月1日付け職員現況調書においても,近況(健康状態等)は良好と自己申告されていた(甲4,42,乙8)。 被災者は,ほとんど飲酒はせず,付き合いで飲み会に参加する程度であった。 8年10月1日付け職員現況調書においても,近況(健康状態等)は良好と自己申告されていた(甲4,42,乙8)。 被災者は,ほとんど飲酒はせず,付き合いで飲み会に参加する程度であった。 なお,被災者には,精神疾患等の病歴はみられず,両親である原告らにも精神疾患等の病歴はみられない。 被災者は,明朗で誠実な性格で,対人関係に気を配るなど繊細で細やかな面があり,真面目で責任感が強い努力家で,仕事についても的確かつ迅速な処理ができる人物として上司からも高い評価を得ていた(乙8)。 (5) 被災者の被災前の状況,言動等ア被災者は,平成8年5月ころ,当時交際していた女性との別れ話が出ていることについて同期の友人らに悩みを打ち明けることがあったが,その夏ころに交際を終了させてから以降,女性関係での悩みをもっている様子はなく,同年12月下旬ころからは電話相談係でコンサルタントをしていたFと交際をするようになった。 イ平成8年11月ころ,被災者は帰省した際,原告Bに対し,職場について,「2人からいじめを受けている,嫌でたまらない,4月まで何とか乗り切る。」旨の話をしたことがあった。 平成8年12月,被災者の父方祖父が亡くなったため,忌引きを取得し,同月12日に帰郷した際,被災者が原告Cに「やめたら社会保険庁はどこまでも追いかけてくる。」との話をしたことがあった。また,このころ,Fらに対し,忌引きを取るに際し,上司から嫌みを言われた旨こぼしていた。 被災者は,平成8年暮れから平成9年正月にかけて帰郷したが,毎年家族で出かけていた初詣にも行きたがらず,食欲もなく,元気がない様子であった。 ウ被災者と食事をする機会の多かったFやその同僚らは,平成9年2月ころには,昼食の折りに座ったまま居眠りを ,毎年家族で出かけていた初詣にも行きたがらず,食欲もなく,元気がない様子であった。 ウ被災者と食事をする機会の多かったFやその同僚らは,平成9年2月ころには,昼食の折りに座ったまま居眠りをしたり,3月ころには,食欲が落ち,疲れた様子の被災者を見ており,Fは,被災者から血便が出たとの身体症状を聞いている。そして,同月25日の人事係への異動の内示から4月1日の配属にかけては,友人らに人事係への異動がいやだとこぼしたり,あいさつに応じないなどの異変もみられ,D係長においても被災者の顔色が悪いと認識していた(乙9,11,13,14)。 エ被災者は,土曜日であった同年3月29日は引継ぎを受けるために休日出勤をしており,同年4月に入ってからは,連日,夜中や明け方近くまで人事係の業務をこなしていた。 被災者は,同月4日午前3時まで超過勤務をして帰宅した後の午前5時30分ころ,人事係のE主任に電話をし,「仕事が気になって眠れない,自分にはやっていく自信がない,何で自分を人事係に持ってきたのか,異動させてほしい。」などと涙声で言ったため,E主任は,異動はすぐにはできないが,仕事は一人でやっているのではない,一段落すれば暇になるからもう少し辛抱するように伝えて励まし,当日は午後から出勤するように伝えた。 被災者は,同日午前7時ころ,Fと電話で話をした。Fは,被災者の様子がいつもと違うことを心配し,午前8時30分ころ,被災者のアパートを訪れた。その際,被災者は,「やめたい,逃げたい,全然眠れない。」などと言いながらも,出勤の支度をはじめ,勤務先にこれから出勤する旨連絡をし,午前10時ころ出勤した。 被災者は,同日午後9時ころ,人事係のL主任と食事をした後,翌5日の午前3時ころまで超過勤務を行い,L主任が車で被災者 はじめ,勤務先にこれから出勤する旨連絡をし,午前10時ころ出勤した。 被災者は,同日午後9時ころ,人事係のL主任と食事をした後,翌5日の午前3時ころまで超過勤務を行い,L主任が車で被災者を自宅アパートまで送り届けた。同日午前3時過ぎころ,被災者はFに電話をして話をしたが,その際,「桜が散ってしまう。」などの発言をしていた。被災者は,電話を切った後,自宅アパート近くのマンション11階から飛び降り自殺を図り,同日,右肺破裂により死亡した(甲1,52)。 (6) 社会保険庁は,平成11年11月22日,被災者の自殺は公務上の災害ではないと認定した。原告Bは,この認定について,平成12年12月25日,人事院に対して審査を申し立て,人事院は,平成14年12月17日,被災者の自殺は公務上の災害と認定すべきある旨の判定をした(甲52)。 人事院は,この判定の中において,被災者の自殺について次のような判断を示している。 「(被災者)本人は,職場での疲れ,イライラ,自信喪失,焦燥感などに睡眠障害なども重なって,同(平成)8年11月ごろからうつ状態となり,翌年3月の異動内示後から4月4日にかけて症状が増悪し,反応性のうつ病へと進展していったものと推認される。」「(被災者)本人を取り巻く職場の状況や著しい業務の繁忙と超過勤務の実態等を併せ考慮すると,本人は,本件反応性うつ病発症の有力な原因に足る過重な強度の精神的又は肉体的負荷を受けていたものと認められる。」「以上要するに,申立人の申立てに係る災害は,業務上の諸事情が重なり,それが原因となった反応性うつ病を発症し,希死念慮を起こして自殺したものと判断するのが相当であり,公務と相当因果関係をもって発生したものと認められるので,実施機関(社会保険庁)は,これを公務上の り,それが原因となった反応性うつ病を発症し,希死念慮を起こして自殺したものと判断するのが相当であり,公務と相当因果関係をもって発生したものと認められるので,実施機関(社会保険庁)は,これを公務上の災害と認定すべきである。」(かっこ内はいずれも当裁判所が付加した。)これを受けて,社会保険庁は,平成15年1月7日,被災者の自殺を公務上の災害と認定し,原告らに対する下記の補償等の給付を決定して,同年3月14日付けでこれを原告らに通知した(乙25,26)。 遺族補償一時金各504万6500円遺族特別給付金各100万9300円遺族特別支給金各150万円遺族特別援護金各580万円葬祭補償原告Bにのみ61万7790円 2 そこで,上記認定事実に基づき,本件争点につき順次検討する。 (1) 業務の過重性及び自殺との因果関係について(争点(1),(2))ア社会保険庁による遺族補償一時金等の支給決定とその本件訴訟における位置づけ社会保険庁は,上記のとおり,国家公務員災害補償法に基づき,被災者の自殺を公務上の災害と認定し,原告らに対する遺族補償一時金等の支給を決定している。すなわち,社会保険庁自身,被災者が公務上死亡したことを認めている。 しかも,これは,同法24条による人事院の審査,判定を受けたものである。 このように,被告国の行政機関である社会保険庁が自ら「公務上の死亡」と認定している被災者の死亡について,本件訴訟において被告がこの認定に反する主張をすることが許されるとするならば,行政機関の決定に対する公の信頼を失わせることになりかねないし,自己の行為に矛盾した態度をとることは許されないという禁反言の原則に反し原告らに対する信義に反することにもなる。したがって,被災者の死亡が公務上のものであることを被 を失わせることになりかねないし,自己の行為に矛盾した態度をとることは許されないという禁反言の原則に反し原告らに対する信義に反することにもなる。したがって,被災者の死亡が公務上のものであることを被告が否定することは原則として許されないといわなければならない。 例外として,社会保険庁の上記の決定に瑕疵があり,これを維持することが公益に反するという事情が認められる場合に限って,被災者の死亡が公務上のものであることを否定することができるというべきである。 上記認定事実に基づき,以上のような観点から検討する。 イ業務の過重性について(ア) 被災者の業務時間について,被災者が継続的に超過勤務をしていたこと,その業務時間は,被災直前の1週間には少なくとも約48時間,被災直前の1か月間には約120時間に上っていることは明らかである。 (イ) 平成8年11月ころから平成9年3月ころまでの電話相談係等における被災者の業務は,前任者の業務内容と比較して量的に増加しており,被災者の置かれていた職場環境や,人間関係等にも照らせば,些細であっても,対応に気配りを要するものやその他の雑多な事務が多く含まれていたといえ,質的にも対応が難しいものがあったと認められる。 (ウ) 被災者が人事係に配置換えになった以降の業務についてみると,異動の内示は平成9年3月25日になされたところ,被災者の前任者が転出するに伴って,被災者は,同日から業務の引継ぎなどのために超過勤務をするようになり,同年4月1日に異動となった後は,締め切りが間近に迫った昇給・昇格関係資料の作成に日々追われていた。さらに,同係では,係長や同僚らが新たに配属された者であった上,前任者からの引継書も残されていなかった。 (エ) このような被災者の業務内容 迫った昇給・昇格関係資料の作成に日々追われていた。さらに,同係では,係長や同僚らが新たに配属された者であった上,前任者からの引継書も残されていなかった。 (エ) このような被災者の業務内容,職場環境や被災者の置かれていた立場,状況に照らせば,当時の業務が被災者にとって相当な精神的,肉体的負担を伴うものであったことは明らかであり,被災者の当時の超過勤務時間を合わせ考えるならば,平成8年11月ころから平成9年4月5日までに被災者が担っていた業務は,被災者にとって過重なものであったというべきである。 ウ被災者のうつ病の罹患及び自殺が業務によるものか否か。 (ア) そもそも被災者の業務は,その時期と業務の内容,当時の被災者の置かれていた職場環境や状況にかんがみれば,量的にも,質的にも過重であったことは前記認定のとおりである。 (イ) また,被告が問題とする,被災者が当時真剣に交際していた女性との交際を悩んでいたとの点については,その時期は,平成8年の5月から遅くとも秋以前のことであること,その後,同年12月にはFと交際をはじめていることからすると,同年11月ころからの抑うつ状態や平成9年3月ころのうつ病の発症の要因として大きな影響を及ぼすものとは認められない。次に,被災者の生い立ちにはやや複雑な事情もみられるが,平成8年から9年当時の家族関係についてみれば,父方祖父が死亡した事実を除き,特段変化を与える事象があったとはみられない。 そして,祖父が平成8年12月に死亡したことについても,被災者は幼児期に上記祖父母方で育てられたことがあったものの短期間のことで,その後養子に出され,高校進学のころには両親の元に戻って生活をしており,祖父母と顔を合わせるのは正月の里帰りのときくらいであったというのであり,その経過に照らせば ことがあったものの短期間のことで,その後養子に出され,高校進学のころには両親の元に戻って生活をしており,祖父母と顔を合わせるのは正月の里帰りのときくらいであったというのであり,その経過に照らせば,祖父の死亡は,悲しい出来事であることは否定できないとしても,被災者のうつ病の発症に大きな要因となったとは考えられない。そうしてみると,被告主張の上記事項が,K意見書や人事院の判定書の検討結果に決定的に影響を与えるようなものとも認められない。 (ウ) そして,被災者の平成8年11月ころから平成9年4月5日に自殺に至るまでの状態,言動などに照らすと,その悩みや心労の原因が社会保険庁における業務に関する事項であったことは明らかであり,既にみたように,うつ病罹患の原因となる個人的な要因,業務以外の要因(家族関係,女性関係)も認められない。 (エ) したがって,被災者の業務内容,職場環境,勤務形態から生じた疲労は,その持続期間を考慮すれば,人間の身体面,精神面の双方に慢性的な過労状態を導くものといえ,うつ病を惹起するのに十分な程度であったものと認められ,被災者は,継続的な業務の負担により,睡眠時間が不足し,食欲がなくなるなどの身体症状が現れ,疲労が回復しないまま業務を続行する中で抑うつ状態が生じ,ついにはうつ病の罹患,発症,さらに自殺へと至ったと認められる。 エ以上の次第で,被災者の自殺を公務上の死亡と認定した社会保険庁の判断に瑕疵があるとは認められないから,被告は,被災者が公務上死亡した事実を否定することは許されない。したがって,本件訴訟においては,被災者が公務上死亡したこと,すなわち,過重な業務のために被災者がうつ病に罹患し,その症状の表れとして自殺をしたという事実を前提としなければならない。 (2) 被告の安全配慮義務違 訟においては,被災者が公務上死亡したこと,すなわち,過重な業務のために被災者がうつ病に罹患し,その症状の表れとして自殺をしたという事実を前提としなければならない。 (2) 被告の安全配慮義務違反の存否及び被災者の自殺と安全配慮義務違反との因果関係の存否について(争点(3))ア国は,国家公務員に対し,公務遂行のために設置すべき場所,施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって,公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているところ,社会保険業務センターにおいて国の履行補助者として業務上の指揮監督権限を有していた被災者の上司は,被災者の勤務の実態,職場環境及び人間関係に伴う心理的負荷や身体的疲労の蓄積の有無,平成9年4月における人事係への異動の妥当性等について的確に把握するべき義務があったといえる。 イ(ア) 原告らは,国は,①被災者の労働時間を把握する資料を有しておらず,長時間労働自体を正確に把握していなかった,②長時間労働自体を軽減する措置を講じていなかった,③精神疾患に対応する体制になっていなかった,④人事異動について,異動直後に繁忙を極める人事係への異動を行うべきではなかったのにこれを行った,⑤被災者に十分な休暇を取らせなかったものであり,国は,被災者の心身の健康悪化を生む原因となる危険な状態,すなわち,本件でいうならば長時間過重労働そのものを予見すべきであり,当該事実を認識していたのであるから,予見可能性,結果回避可能性は存在したと主張する。 これに対し,被告は,社会保険庁においては,各種の健康診断の実施を行い,医務室の設置を行い,メンタルも含めた健康相談を実施しており,職員の健康管理及び被災者の健康管理には落 と主張する。 これに対し,被告は,社会保険庁においては,各種の健康診断の実施を行い,医務室の設置を行い,メンタルも含めた健康相談を実施しており,職員の健康管理及び被災者の健康管理には落ち度がなかったこと,被災者の業務は,時間的にも内容的にも被災者のうつ病の罹患を予期しなければならないほど過重なものということはできず,被災者に健康面での異常はみられず,メンタル面での健康相談を受けた記録もなく,かえって,仕事に対し積極的な姿勢を見せていたのであり,被災者の異常を認識ないし認識し得たのは,平成9年4月4日のE主任あての電話の時点が初めてであったのであり,被災者の超過勤務状況,健康状態等について,当局は人事係への異動後,自殺前日の平成9年4月4日になるまで認識することはできなかったのであるから,それについての対応を取る暇もなく,予見可能性も結果回避可能性もなかったと主張する。 (イ) これに関してD係長は,被災者が担当していた電話相談係における業務は,平成8年12月以降の基礎年金番号制に関わる業務以外は前任者と同じであった,被災者の登庁時間や退庁時間は分からないが,今確認すると超過勤務時間はやや多いように思うこと,しかし,回付票の点検作業などは,量が多い場合には他の職員も手伝いをしており,被災者から1人で処理し切れないと言われたことはなく,管理係の業務については,嘱託職員ではできない残業手当や人事の関係について被災者に数回手伝いをしてもらったことはあるだけであった,新聞の切り抜きについても注意をしたことがあるし,被災者は唯一の係員であったから,気にかけていたし,食事を共にするなどして話をする機会をもっていた,勤務態度等に問題のあるK指導官らに関しては,課長補佐や課長に相談することもしていた旨証言している。 確 であったから,気にかけていたし,食事を共にするなどして話をする機会をもっていた,勤務態度等に問題のあるK指導官らに関しては,課長補佐や課長に相談することもしていた旨証言している。 確かに,社会保険庁においては定期の健康診断が実施されており,被災者には,健康診断で職務に支障を来すような健康上の問題は指摘されておらず,メンタル面での健康相談は受診すらしたこともなかった上,平成8年10月1日付けの職員現況調書にも健康状態に不安を感じている様子はみられず,仕事に向けた意欲が感じられる内容の記載がなされていた。 しかしながら,職員の健康管理は上記体制的な管理に尽きるものではなく,職員に対して業務上の指揮監督権限を有する者は,職員の日常の勤務状況,職場環境,業務の負担量等について,継続的に的確に業務の把握を行い,健康状態等につき管理をする必要があると解される。 被災者に対して業務上の指揮監督をする権限を有する者は,電話相談係に配属中は,J(中央年金相談室相談業務)課長であり,人事係に配属中は,G(総務部庶務)課長であったと解される。これらの者は,国の履行補助者として被災者の業務内容を把握し,負担量や勤務時間が増加していないかを的確に把握し,必要な措置を講ずべき立場にあった者というべきである。しかも,G課長は,社会保険業務センターにおける健康管理者の立場においても,被災者の健康障害を防止すべき立場にあった。 (ウ) そこで検討するに,電話相談係のD係長は,被災者の業務量やその負担感,業務が被災者の心身に及ぼす影響などに対して注意を払っていたとは認められず,被災者の業務を軽減するような具体的措置を講じたこともない。被災者の行っていた早朝の新聞記事の切り抜きに関しても,隣接する係からの指摘を受けて初め す影響などに対して注意を払っていたとは認められず,被災者の業務を軽減するような具体的措置を講じたこともない。被災者の行っていた早朝の新聞記事の切り抜きに関しても,隣接する係からの指摘を受けて初めてこれを知り,D係長が注意をした後も,被災者はこれをやめることなく継続していたところ,D係長は,切り抜きが続けられているのを知りながら,被災者の早朝勤務について特に注意を払うことなく放置していたというのである。また,被災者に指示を与えていたK指導官をはじめとして,勤務態度に問題のある者がいたことはD係長やJ課長らも認識していたのであるが,これらの者に対する指導や働きかけも,被災者の業務量や心理的負荷が軽減されるような形で行われたことは認められない。 これらによれば,J課長はそもそも被災者の勤務実態を的確に把握していなかったにとどまらず,的確に把握しようとしたことすらなかったものといわざるを得ない。平成8年12月以降,電話相談係や管理係の業務は,制度改正等に伴って増加したことや,勤務態度に問題のあるK指導官がいることも客観的に明らかな事実であり,J課長も認識していたのであるから,業務の増加に伴う職員の勤務実態や健康保持に対し,管理職としての通常の注意を払っていれば被災者の状況を認識し得たと認められる。J課長は,それにもかかわらず,被災者の実際の業務の負担量や職場環境などに何らの配慮もすることなく,被災者を漫然と放置していたと認められる。 この点,被告の主張するように,管理係における平成8年9月の正職員の退職後,賃金職員の採用をし,基礎年金番号制の実施においては別に専用の窓口をもうけるなどの施策が採られており,これらは,業務負担量の適正化に効果を期待でき得る措置と認められるものの,被災者が実際に行っていた業務の軽減に結びつ 基礎年金番号制の実施においては別に専用の窓口をもうけるなどの施策が採られており,これらは,業務負担量の適正化に効果を期待でき得る措置と認められるものの,被災者が実際に行っていた業務の軽減に結びついたとは到底認められない。 (エ) さらに,被災者は,電話相談係からの異動を心待ちにしていたことがうかがわれるが,異動先が,異動直後に繁忙期を迎える人事係であったことからショックを受け,友人らに異動が嫌であるとこぼしながらも,間近に迫った業務を処理するため,内示の直後から超過勤務を行っていたのである。 人事係は,被災者の希望していた職種ではないことに加え,当時の人事係の担当者は,体調を崩していたり,精神的に弱っているというようなことがあれば人事係への異動は行わない(乙12)というのであるから,人事係の業務の質,量にかんがみれば,被災者を異動対象とするに当たっては,少なくとも,正確に被災者の心身の状況を把握し,本人への聴取等を実施する必要があったというべきである。しかし,被災者の配属先である相談業務課のJ課長も,異動予定先でかつ人事の担当でもある総務部庶務課のG課長も,そのような配慮をした形跡はない。 (オ) 上記のような状況に照らせば,J課長は,通常の注意をもってすれば,電話相談係における被災者の超過勤務,担当業務及び職場環境の実態を正確に認識することができ,直ちにこれに対する具体的措置を講ずべきことが可能であった。しかし,それらの状況を把握することなく,漫然と放置した結果,被災者に過重な業務を負わせ続けるとともに,J,G両課長は,悪化しつつあった被災者のうつ病に配慮することなく,さらに過重な業務を強いられる人事係への配属換えをしたものと認められる。 そして,被災者が過重な業務を行い続けた結果,被災者の心身 長は,悪化しつつあった被災者のうつ病に配慮することなく,さらに過重な業務を強いられる人事係への配属換えをしたものと認められる。 そして,被災者が過重な業務を行い続けた結果,被災者の心身の健康に悪影響を及ぼしていたことは,遅くとも平成9年3月末ころには認識し得た。したがって,遅くとも平成9年3月末ころに,被災者に心身の健康相談を実施して休暇を取らせたり,異動についての希望聴取を行い,心身の状態に適した配属先への異動を行うなどの対応を採ることは容易であったといえるし,そのような対応を採っていれば,これにより被災者のうつ病の重症化とこれに基づく自殺という結果の発生を避けることは可能であったと認められる。 したがって,被告には,被災者に対する安全配慮義務違反があり,また,被災者の自殺が,業務外の要因によるものでなく,過重な業務との因果関係が認められることは前記のとおりであるから,被災者の自殺については,被告がその責を負うべきである。 (カ) なお,被告は,被災者の異常に気付き得たのは自殺に至る前日の4月4日であり,結果を回避する暇がなかった旨主張している。 しかし,人事係への異動内示があった3月25日のころには,D係長においても,被災者の顔色が悪く,体がやせていることを認識していたのであるし,遅くとも自殺に至る前日には,E主任は,被災者が明らかに異常な精神状態でかけてきたとみられる電話を受けている。したがって,結果回避可能性がなかったという被告の主張を採用することはできない。 (キ) よって,被告には安全配慮義務違反があり,これと被災者の自殺との間には因果関係があると認められるから,被告は安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償義務を免れない。 (3) 損害について(争点(5)) 全配慮義務違反があり,これと被災者の自殺との間には因果関係があると認められるから,被告は安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償義務を免れない。 (3) 損害について(争点(5))上記のとおり,被告は,原告らに対し,被災者に対する債務不履行責任を負うことから,被災者を相続した原告らに,生じた損害を賠償する義務がある。以下,具体的に検討する。 ア逸失利益 5630万9642円被災者の逸失利益としては,証拠(甲53)に基づき,下記①ないし③の合計金額を相当と認める。 ① 60歳までの逸失利益  3334万0713円被災者の死亡時の年収は399万0203円であり,60歳の定年まで37年間,社会保険庁において勤務したであろう蓋然性が認められる。そして,そのライプニッツ係数が16.711287,被災者が独身の男性であったことから生活費控除割合を50パーセントとして計算した金額を相当と認める。 399万0203円×0.5×16.711287=3334万0713円② 定額昇給 1609万1040円被災者は,平成9年人事院「昇格号棒早見表①行政職(-)」によれば,23歳時の年間給与(本俸と期末手当の合計額)は280万3125円であり,60歳の定年時には,799万7100円の年間給与(同上)を得られていた蓋然性が認められる。1年当たりの平均昇給額は,14万0377円であり,60歳の定年まで37年間であるから,その間の昇給を加味したライプニッツ係数229.254662で中間利息を控除し,ここからさらに生活費(50パーセント)を控除した金額が相当である。 0.5×(14万0377円×229.254662)=1609万 ツ係数229.254662で中間利息を控除し,ここからさらに生活費(50パーセント)を控除した金額が相当である。 0.5×(14万0377円×229.254662)=1609万1040円③ 退職金 477万9768円被災者は自殺しなければ,社会保険庁の定年である60歳に至るまでの37年間勤務を継続し,退職時には退職金を受け取ることができた蓋然性が認められる。そして,被災者の退職時の本棒は,46万3600円であったと認められることから,当該本棒に,勤務年数に対応する乗率係数(62.7か月分)を乗じ,さらに,その間のライプニッツ係数により年5分の割合による中間利息を控除した金額が相当である。 46万3600円×62.7×0.16443563=477万9768円④ 60歳以降の逸失利益 209万8121円67歳まで就労可能であることを前提にすると,被災者が60歳から67歳までに働いて得られたはずの収入は,賃金センサス平成15年第1巻第1表企業規模計・産業計・60歳から64歳までの男性労働者の学歴計平均年収441万0200円を基礎収入として採用し,60歳から67歳までの7年間のライプニッツ係数(44年のライプニッツ係数から37年のライプニッツ係数を差し引いたもの)に基づいて中間利息を控除し,ここからさらに生活費(50パーセント)を控除した金額が相当である。 441万0200円×0.5×(17.662773-16.711287)=209万8121円イ慰謝料 2000万円被災者は,死亡当時いまだ23歳の青年であり,業務に真摯に従事した結果,うつ病に罹患して自殺するに至ったことなどの事情を考慮すれば,被災者の イ慰謝料 2000万円被災者は,死亡当時いまだ23歳の青年であり,業務に真摯に従事した結果,うつ病に罹患して自殺するに至ったことなどの事情を考慮すれば,被災者の死亡による精神的苦痛を慰謝するための金額は,2000万円が相当である。 ウ被災者に生じた損害は,上記の合計7630万9642円であるところ,原告らは,被災者の実父母であり,相続により,それぞれその2分の1を取得した。 エ既払額の控除原告らに対し,国家公務員退職手当法に基づき,被災者の退職金98万2800円が支払われていることは当事者間に争いがない。これは上記認定の退職金から控除すべきである。 次に,上記認定のとおり,原告らは,遺族補償一時金として各504万6500円(合計1009万3000円)の支給を受けており,これは上記認定の逸失利益から控除すべきである。 この結果,損害残額は6523万3842円となり,原告らはそれぞれこの2分の1の3261万6921円を被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権として取得した。 オ弁護士費用各330万円原告らは,訴訟の提起,追行に当たり弁護士に依頼せざるを得なかったところ,本件訴訟の内容,難易,審理経過及び認容額等に照らすならば,原告らが本件訴訟追行に要した弁護士費用のうち,原告らそれぞれにつき,330万円が,被告の債務不履行と相当因果関係のある損害と認められる。 カ過失相殺について被告は,本件においては,被災者の側にも落ち度があるとして過失相殺を主張する。しかし,前記のとおり,被災者の自殺はうつ病により正常な判断能力等が著しく阻害された状態で行われたものと認められることに加え,被災者の性格が同種の業務に従事 も落ち度があるとして過失相殺を主張する。しかし,前記のとおり,被災者の自殺はうつ病により正常な判断能力等が著しく阻害された状態で行われたものと認められることに加え,被災者の性格が同種の業務に従事する者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるもの(最高裁判所平成12年3月24日第2小法廷判決民集54巻3号1155頁参照)に当たると認めるに足りる証拠もないから,被災者のうつ病の罹患やその悪化を防止するための措置を怠ったことを理由とする過失相殺の主張は採用できない。 3 国家賠償請求について(争点(4))(1) 国家賠償請求権の消滅時効の起算点は,「損害及び加害者を知った時」である(国家賠償法4条,民法724条)。原告らは,本件については人事院による公務災害の判定がなされるまで加害者の行為が違法であることは判然としなかったのであるから,時効の起算点は人事院の判定がなされた平成14年12月25日であると主張するが,国家公務員災害補償法に基づく公務災害の認定は,公務上の災害であるかどうかを判断するものであり,国のした行為が違法であるかどうかを判断するものではない。したがって,時効の起算点は,被災者の死亡の日である平成9年4月5日と解すべきであり,この日から3年の経過により消滅時効は完成する。本件訴えの提起は時効完成後であり,被告は時効援用の意思表示をしたから,国家賠償請求権は消滅している。 (2) 原告らは,平成16年3月17日に原告らに遺族補償一時金合計1009万3000円が支給されたことをもって,債務の弁済すなわち承認として時効が中断すると主張するが,国家公務員災害補償法に基づく金銭の支給が国家賠償債務の弁済に当たらないことは明らかであり,原告らの主張は採用することができない。 (3) 原告らはまた,被告側の都合で公務災 断すると主張するが,国家公務員災害補償法に基づく金銭の支給が国家賠償債務の弁済に当たらないことは明らかであり,原告らの主張は採用することができない。 (3) 原告らはまた,被告側の都合で公務災害の認定までに時間を要したなどとして,被告が消滅時効を援用するのは権利濫用であるとも主張するが,災害補償制度と国家賠償制度は,目的,要件,効果等を異にする別個の制度であって,公務災害の認定に時間を要したとしても,国家賠償請求について適時における権利の行使又は時効中断措置を講ずることを不可能もしくは困難にさせるものではなく,これらを不必要なものと信ずべき事情があったとも認められないから,被告による消滅時効の援用が権利濫用に当たるともいえない。 (4) そうすると,原告らの国家賠償請求は理由がない。 4 よって,原告らの請求は,被告に対し,安全配慮義務違反の債務不履行に基づきそれぞれ3591万6921円及びこれに対する請求(訴状送達)の翌日である平成15年8月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが,その余の請求はいずれも理由がない。なお,仮執行宣言は相当でないのでこれを付さない。 甲府地方裁判所民事部裁判長裁判官新堀亮一裁判官倉地康弘裁判官青木美佳・

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