平成17(ワ)28 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年7月27日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文29,167 文字)

平成18年7月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成17年(ワ)第28号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年4月27日判決亡A訴訟承継人兼本人原告B亡A訴訟承継人兼本人原告C原告ら訴訟代理人弁護士貞友義典廣田智子須加厚美同訴訟復代理人弁護士曽和佐知子被告学校法人慈恵大学同代表者理事長D被告E被告F被告G被告ら訴訟代理人弁護士木崎孝主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由(以下では,被告学校法人慈恵大学を「被告大学」といい,原告らの姓及びその余の被告らの名を略す)。 第1請求 被告らは,原告Bに対し,連帯して金4274万4091円及びこれに対する平成15年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告らは,原告Cに対し,連帯して金4274万4091円及びこれに対する平成15年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告大学の開設する病院において娩出された原告ら夫婦の子(承継前原告)が,破水後に重症胎児仮死に陥ったことが原因で,重症新生児仮死の状態で娩出されて重度脳性麻痺による後遺障害を負い,そのために2年余り後に死亡したことに関し,原告らが,上記の重症胎児仮死は,①担当助産師である被告Gにおいて,変動一過性徐脈が出現した時に体位変換等を行うべきであったのに,これを怠ったこと,②担当医師である被告Fにおいて,高度変動一過性徐脈の出現後に内診を行うに当たり,胎胞を破って破水させないよう静かに短時間で行うべきであったのに,これを怠ったこと,③担当医師である被告F及び被告Eにおいて,破水後に高度徐 おいて,高度変動一過性徐脈の出現後に内診を行うに当たり,胎胞を破って破水させないよう静かに短時間で行うべきであったのに,これを怠ったこと,③担当医師である被告F及び被告Eにおいて,破水後に高度徐脈が持続していたのであるから児頭の用手的挙上を行うべきであったのに,これを怠ったこと,これらによる臍帯圧迫によって生じたものであるなどと主張して,被告大学に対しては債務不履行ないし不法行為(使用者責任)に基づき,その余の被告らに対しては不法行為に基づいて,逸失利益等の損害金及びこれに対する出生日からの民法所定の割 合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。 なお,特に断らない限り,以下の月日は平成15年の月日であり,以下の時刻は平成15年12月29日の時刻である。 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。 (1)当事者ア承継前原告亡A(平成15年12月29日生の男児)は,原告B(昭。 和35年生)とその夫である原告Cとの間の子であり,後記のとおり平成18年3月28日に死亡した。 イ被告大学は,東京都狛江市内において「東京慈恵会医科大学附属第三病院」という名称の病院(以下「被告病院」という)を開設している。 。 平成15年12月当時,医師である被告E及び被告F並びに助産師兼看護師である被告Gは,いずれも被告病院産婦人科に勤務していた(なお,被告Fは同月末日をもって退職した。 。)(2)原告Bの被告病院における診療経過等,,,ア原告Bは5月6日に第1子の妊娠が確認されたことから同月21日被告病院を受診して,被告大学との間で出産に関する診療契約を締結した上,以後,被告病院を受診するようになり,11月27日から12月15日までは切迫早産のため入院したが,その後,健康状態は良好で,胎児の発育経過も して,被告大学との間で出産に関する診療契約を締結した上,以後,被告病院を受診するようになり,11月27日から12月15日までは切迫早産のため入院したが,その後,健康状態は良好で,胎児の発育経過も順調であった。9月11日以降の診療は被告Eが担当した。 イ原告Bは,12月27日(土曜,陣痛が生じたことから午後11時過)ぎころ被告病院に入院した(陣痛室に入った。以後,原告Bを担当し。)た医師は,主として被告Fであった。 その後の診療経過の概要は,別紙分娩経過一覧表の「年月日(時刻,)」「分娩経過「陣痛発作・内診所見「検査・処置」欄記載のとおりで」,」,ある(ただし,下線を付した部分を除く。なお,モニター上の時刻は,真実の時刻よりも3分遅れていた。 。) ウ上記診療経過のうち12月29日についてみると,その骨子は以下のとおりである。 午前10時過ぎころから,被告Gが担当助産師となって陣痛室に付き添った。 午前10時25分,34分,36分,41分,47分及び53分の計6回,変動一過性徐脈が出現し,午前10時57分には高度変動一過性徐脈が出現した。 午前11時05分ころ,被告Fが内診をしていたところ,破水した。その破水直後の午前11時06分に児心拍数が急激に落ち込み,以後,そのまま高度徐脈が持続した。 午前11時08分ころ,緊急帝王切開の決定がされ,午前11時41分,,ころから被告Eの執刀により帝王切開が行われて午前11時45分ころAが重症新生児仮死の状態で娩出された。 (3)Aの後遺障害,死亡及びその原因Aは,破水後に重症胎児仮死に陥ったために,重症新生児仮死の状態で出生して重度脳性麻痺による体幹機能障害及び両上肢機能障害の後遺障害(身体障害等級1級)を負うこととなった。 そして,Aは,その重度脳性麻痺の影響によ 症胎児仮死に陥ったために,重症新生児仮死の状態で出生して重度脳性麻痺による体幹機能障害及び両上肢機能障害の後遺障害(身体障害等級1級)を負うこととなった。 そして,Aは,その重度脳性麻痺の影響により,平成18年3月10日ころ肺炎を発症して,同月20日にはDICの状態に至り,最終的には敗血症による多臓器不全により同月28日に死亡した(重度脳性麻痺の後遺障害があったために死亡した。 。)(4)本件で前提となる医学的知見は,別紙医学的知見(以下「別紙知見」という)のとおりである。 。 原告らの主張(1)破水後の重症胎児仮死の原因前記のとおり,Aの死亡は重度脳性麻痺に起因し,かつ,その重度脳性麻 痺は破水後に重症胎児仮死に陥ったことにより生じたものである(したがって,被告側の義務違反と破水後の重症胎児仮死との間に因果関係が認められるならば,その義務違反とAの重度脳性麻痺及び死亡との間の因果関係が認められることになる。 。)その破水後の重症胎児仮死が生じた原因は,次のとおりである。 すなわち,午前10時25分ころから,臍帯下垂又は他の何らかの原因による臍帯圧迫が頻発し,これによる臍帯血流障害が生じていたところ,午前,(,11時05分ころの破水によって臍帯脱出又はそれに準じた状態臍帯が児頭ないしその付近と産道壁の間に挟まれ,強度に圧迫されているが,産道内又は陰裂間にまで懸垂していない状態をいう。以下同じ)が生じたこと。 (破水と同時に急激に児心拍が低下し,その後も体位変換等によっても回復しないという状態は,児頭以外での臍帯の圧迫や捻転では通常生じ得るものではなく,臍帯脱出又はそれに準じた状態が生じたと考えなければ説明がつきにくい)により,あるいは,羊水の流出と児頭の下降が生じたことによ。 り,臍帯圧迫が極度に増悪して,こ 捻転では通常生じ得るものではなく,臍帯脱出又はそれに準じた状態が生じたと考えなければ説明がつきにくい)により,あるいは,羊水の流出と児頭の下降が生じたことによ。 り,臍帯圧迫が極度に増悪して,これによる高度の臍帯血流障害が生じて重症胎児仮死に陥ったものである。 (2)被告Gの義務違反(体位変換等)ア午前10時25分以降,午前11時ころまでの間に変動一過性徐脈が頻発し,特に午前10時36分までの約10分間に3度もの変動一過性徐脈(うち2度は最減少心拍数が70bpmを下回った)が出現したことか。 ら,臍帯下垂又は他の何らかの原因による臍帯圧迫によって低酸素状態にさらされていることが疑われた。 イしたがって,被告Gは,午前10時25分以降,遅くとも午前10時36分の3度目の変動一過性徐脈出現の時点で,速やかに医師である被告F又は被告E(以下,この被告両名を併せて「被告Fら」という)に連絡。 して診療・処置を求め,かつ,医師が到着するまでの間の手当として,酸 素投与のみならず,体位変換及び陣痛抑制(陣痛促進剤投与の中止)の処置を行うべき義務を負っていた。特に,体位変換は,臍帯圧迫の解消のために有効であることから,変動一過性徐脈が出現したときの基本的処置とされている。 しかるに,被告Gは,上記義務に違反し,午前10時57分に高度変動一過性徐脈が出現するまで,被告Fらに連絡しなかった(そのため,変動一過性徐脈出現後に被告Fが始めて来室したのは午前11時ころであった)ばかりでなく,体位変換を実施せず,また,午前10時35分ころ。 には逆にアトニン(陣痛促進剤)を増量した。 ウ義務違反と結果との間の因果関係上記義務が尽くされていれば,臍帯圧迫(体位変換実施義務についてみると,臍帯下垂を含む)が解消されて,その後の変動一過性徐脈の頻発。 ン(陣痛促進剤)を増量した。 ウ義務違反と結果との間の因果関係上記義務が尽くされていれば,臍帯圧迫(体位変換実施義務についてみると,臍帯下垂を含む)が解消されて,その後の変動一過性徐脈の頻発。 という事態は生じなかったといえる(後の午前10時57分に高度変動一,,過性徐脈が出現した時体位変換によって徐脈が回復したことからしてもそういえる。そうであれば,破水を契機として臍帯脱出が生じたり臍。),。 帯圧迫が増悪するということはなく重症胎児仮死に陥ることもなかった(3)被告Fの義務違反①(内診による破水)ア上記(2)アの点に加え,午前10時57分には高度変動一過性徐脈が出現したことからすれば,臍帯下垂又は他の何らかの原因による臍帯圧迫が頻発し,これによる臍帯血流障害が生じていることを認識し得た。 そして,当時の児頭下降度が±0ないし-1と高い位置にあったため,被告Fは,内診実施時,仮に破水した場合には,下垂している臍帯の脱出又はそれに準じた状態が生じ,あるいは,破水に伴う羊水流出と児の位置の変化(児頭下降等)が生じて,その結果,それまでに頻発していた臍帯圧迫が更に増悪して高度の臍帯血流障害が生じる可能性を予見し得た。 ,,,したがって被告Fは午前11時05分ころ内診を実施するに当たり 胎胞を破らないように静かに短時間で実施するなどの適切な手技により行うか,又は,視診(膣鏡)によって胎胞を通して臍帯下垂の有無を確かめるなど内診以外の方法を採るべき義務を負っていた。 しかるに,被告Fは,上記義務を怠り,回旋状況を判断できなかったために通常よりも長い時間をかけて胎胞の上から児頭を触知し続けるなどの不適切な手技により内診を実施した。 イこの点について,被告らは,急速遂娩の方法を選択するために内診が必要であったと主張するが ために通常よりも長い時間をかけて胎胞の上から児頭を触知し続けるなどの不適切な手技により内診を実施した。 イこの点について,被告らは,急速遂娩の方法を選択するために内診が必要であったと主張するが,破水していない段階での急速遂娩の方法は帝王切開術のみであって,経膣分娩のためには人工破膜により破水させる必要があるところ,上記のとおり臍帯圧迫が強く疑われていたから,破水により臍帯圧迫がより強度になる危険が高く,当時,破水を避けるべき状況にあり,経膣分娩を選択するメリットは少なかったのであって,回旋状況を判断するために胎胞の上から長時間触知し続けることが必要不可欠であったとはいえない。 ウ義務違反と結果との間の因果関係被告Fが,上記の適切な手技により内診を実施していれば,内診指による外力が加わった結果として胎胞を破裂させて破水させるということはなく,したがってまた,上記(1)のように破水により臍帯圧迫が増悪して重症胎児仮死の状態に陥るということはなかった。 (4)被告Fの義務違反②(用手的児頭挙上等)ア上記(3)アの点に加え,午前11時05分ころの破水を契機に,それまで生じていた臍帯圧迫が極めて強度になって高度の臍帯血流障害が生じ,体位変換によっても臍帯圧迫が解消ないし軽減されない状態であった。しかも,破水を契機として児頭が下降して児の位置が変化しており,このことが,臍帯圧迫が極めて強度になって高度の臍帯血流障害を生じさせた重要な原因であると考えられた(破水を契機として児頭が下降したことは, 被告Eの原告らに対する説明内容からして明らかである。すなわち,被告Eは,被告Fから破水後の所見について報告を受けていたところ,これに基づいて,後日,原告らに対し「破水した後に,グッと進み頭との間に,臍帯が挟まれていた可能性もある」と説明し ある。すなわち,被告Eは,被告Fから破水後の所見について報告を受けていたところ,これに基づいて,後日,原告らに対し「破水した後に,グッと進み頭との間に,臍帯が挟まれていた可能性もある」と説明したのであり,その「グッと。 進み」とは,児頭が下降したことを意味することが明らかである。 。)したがって,被告Fは,破水後,臍帯脱出が生じていた場合は臍帯の還納を試み,また,臍帯脱出の有無にかかわらず,児頭を用手的に挙上して臍帯の圧迫を防ぐべき義務があった。 しかるに,被告Fは,上記義務を怠り,臍帯還納術ないし児頭の用手的挙上を実施しなかった。 イこの点について,被告らは,用手的児頭挙上を実施した場合,臍帯脱出を助長する危険がある旨主張するが,母体の体位を骨盤高位(トレンデンブルグ体位)として実施すれば,児頭と子宮口との間に間隙が生じても臍帯が子宮口の外へと落ちることはなく,上記危険を容易に防止できる。 また,被告らは,用手的児頭挙上により胎児にストレスをかけて症状を,。 ,増悪させる危険がある旨主張するがそのような具体的危険はないなお本件の臨床経過からすれば,臍帯過捻転や真結節が胎児仮死の要因であるとは考えにくく,常位胎盤早期剥離も,血性羊水,陣痛曲線のさざなみ曲線,腹緊等の所見が全く見られていないことからして考えにくい。 ウ義務違反と結果との間の因果関係被告Fが,破水後,速やかに臍帯還納術ないし用手的児頭挙上を実施していれば,持続性徐脈が回復し,重症胎児仮死を回避し得たといえる。 (5)被告Eの義務違反(用手的児頭挙上等)ア上記(4)ア及びイのとおりであるから,被告Eは,臍帯還納術ないし児頭の用手的挙上を実施すべき義務があった。しかるに,被告Eは,この義務を怠った。 イ義務違反と結果との間の因果関係,,被告Eが速や ア及びイのとおりであるから,被告Eは,臍帯還納術ないし児頭の用手的挙上を実施すべき義務があった。しかるに,被告Eは,この義務を怠った。 イ義務違反と結果との間の因果関係,,被告Eが速やかに臍帯還納術ないし用手的児頭挙上を実施していれば上記(4)ウと同様に,重症胎児仮死を回避することができた。 (6)損害アAにつき生じた損害5771万0993円(ア)死亡逸失利益2279万7934円基礎となる収入を547万8100円(平成15年男子学歴計全年齢平均賃金,就労開始まで16年(ライプニッツ係数10.8377,))就労終了まで65年(ライプニッツ係数19.1610,生活費控除)率を50%として,下記のとおり計算した金員。 547万8100円×(19.1610-10.8377)×(1-0.5)=2279万7934円(イ)入院等医療費用68万7750円Aは,その出生日(平成15年12月29日)から死亡日(平成18年3月28日)まで入院を継続し,その費用を支出した。 (ウ)近親者による付添看護費用324万円原告Bは,平均週3回のペースで,Aの付添看護を余儀なくされた。 かかる近親者の付添看護費用は,Aの後遺障害の重篤さに鑑みれば,少なくとも1日1万円を下らず,その合計は下記の計算のとおりとなる。 1万円×3日×4週×27月=324万円(エ)通院交通費54万4320円平成16年1月から平成18年3月までの間,原告BはAの付添看護のため,原告C及び原告Bの母であるHはAの身の回りの世話等をするため,原告Bは平均週3回,原告Cは最低週1回,Hは最低週2回のペースで,それぞれ国立成育医療センターに通院し,その際の交通費として往復840円を要し,その合計は,下記の計算のとおりとなる。 840円×(3+1+2)日× 告Cは最低週1回,Hは最低週2回のペースで,それぞれ国立成育医療センターに通院し,その際の交通費として往復840円を要し,その合計は,下記の計算のとおりとなる。 840円×(3+1+2)日×4週×27月=54万4320円(オ)おむつ代等の雑費44万0989円Aは,生前寝たきりの状態であったため,その世話のため,おむつ代金18万0989円のほか,おしり拭きの費用等3万円を支出した。また,Aは,同年齢の子に比べて異常に発育したため,特別の衣服を作成する必要が生じ,その費用は23万円を下らない。 (カ)死亡慰謝料3000万円イ原告ら固有の損害(慰謝料)各1000万円ウ損害賠償関係費用777万7189円(ア)弁護士費用777万1099円(イ)診療報酬開示費用6090円エ 結論 原告らは,Aに生じた上記アの損害について法定相続分(各2分の1)の割合に応じて被告らに対する損害賠償請求権を相続し,上記イの損害をそれぞれ被り,かつ,上記ウの損害を上記割合に応じて負担したものであるから,原告らの請求額は,各4274万4091円となる。 被告らの主張(1)上記2(1)(重症胎児仮死の原因)について破水前の内診において臍帯下垂は認められていないし,破水後の内診でも臍帯脱出は認められておらず,臍帯脱出があったことを前提とする原告らの主張には理由がない。 仮に原告らの主張する「臍帯脱出に準じた状態」があれば,帝王切開で児を娩出する際に,術者の手の大きさと児頭の大きさの関係からして,通常は臍帯が術者の手に触れるものであるが,本件では,帝王切開をしたE医師の手に臍帯は触れなかった。そして,児頭下降度が±0となって(原告ら主張の±0ないし-1を前提としても,児頭が骨盤腔に固定・嵌入した後に一) 過性徐脈が出現し始めて では,帝王切開をしたE医師の手に臍帯は触れなかった。そして,児頭下降度が±0となって(原告ら主張の±0ないし-1を前提としても,児頭が骨盤腔に固定・嵌入した後に一) 過性徐脈が出現し始めており,早産,未熟児,骨盤位,横位,羊水過多,早期破水などといった臍帯下垂や臍帯脱出のリスクファクターも特に認められないことなどから,臍帯脱出に準じる状態があった可能性は低い。また,変動一過性徐脈が反復されたことを根拠に臍帯下垂の蓋然性が高いということはできない。 本件の場合,子宮収縮に伴う臍帯の圧迫や捻転といった何らかの臍帯因子により変動一過性徐脈が生じていたところに破水が起き,臍帯の圧迫や捻転による血流の低下がより悪化したものではないかと考えられる。 破水によって羊水が一気に流出すると,臍帯圧迫は,児頭だけでなく,どの部位でも起こり得る。本件において,臍帯の圧迫や捻転が生じた部位は特定できない。 (2)上記2(2)(被告Gの義務違反(体位変換等)について)ア被告Gは,午前10時25分に軽度の一過性徐脈を確認した後,被告Fにその旨連絡(1回目)し,これを受けて来室してモニターを確認するなどした被告Fから,経過監察でOK,アトニン投与も当初の指示どおりに増量でOKなどの指示を受けた。また,その後も午前10時36分及び41分に軽度の一過性徐脈が繰り返されたため,被告Fに状況を報告(2回目)し,これを受けて来室した被告Fが,児の状態はまだ良好であるが今後の経過によっては緊急帝王切開になる可能性もあると判断し,その旨原告Bや家族に説明してダブルセットアップ下で経過を見ていくこととした。 午前10時36分の時点までには,軽度の変動一過性徐脈が3回認められていたが,深呼吸,リラックスを促すことによっていずれも速やかに改善し,アクセレレーション,バ ップ下で経過を見ていくこととした。 午前10時36分の時点までには,軽度の変動一過性徐脈が3回認められていたが,深呼吸,リラックスを促すことによっていずれも速やかに改善し,アクセレレーション,バリアビリティも良好で,胎児の状態は良好と判断でき,高度の変動一過性徐脈が頻発するような状態ではなかったから,陣痛の抑制や強制的な体位変換を必ずしなければならなかったとはい えない。 ,,,現に原告Bが体位を変換したかは不明であるが少なくとも被告Gは一過性徐脈が認められたたびに,体位変換を促していた。 また,児頭も±0と下降しており,経膣分娩が可能と見込まれる状況であったから,アトニンを増量して経膣分娩を促進したことが不適切であったとはいえない。 イ義務違反と結果との間の因果関係争う。 2回目の変動一過性徐脈の際に体位変換を実施していても,その後の変動一過性徐脈が出現しなかった可能性が高いとはいえない。 ,,()また本件では過強陣痛は出現していないのでアトニンの投与増量と胎児仮死との間に因果関係はない。 (3)上記2(3)(被告Fの義務違反①(内診による破水)について)ア本件では,被告Fが臍帯脱出がないことを確認しているし,一過性徐脈は,児頭下降度が±0となって(原告ら主張の±0ないし-1を前提としても,児頭が骨盤腔に固定・嵌入した後に出現し始めており,臍帯下垂)や臍帯脱出のリスクファクターも特に認められない本件の臨床経過からは,臍帯下垂は疑いにくい状態であった。また,変動一過性徐脈が反復されたことを根拠に臍帯下垂の蓋然性が高いと疑うことはできない。 本件の破水は内診の際に発生したものではあるが,当時,既に子宮口全開大で胎胞がパンパンに緊満していて,いつ破水してもおかしくない状態であり,内診中に破水が生じたからと 性が高いと疑うことはできない。 本件の破水は内診の際に発生したものではあるが,当時,既に子宮口全開大で胎胞がパンパンに緊満していて,いつ破水してもおかしくない状態であり,内診中に破水が生じたからといって被告Fの手技の稚拙さのためであるとはいえない。被告Fは,内診指で羊膜を引っ掻いたりしたことはなく,内診所見を得て内診指の力を落としたところ,その後に破水が生じた。 内診の主目的は,高度変動一過性徐脈の出現を受けて急速遂娩の方法を 決定することにあったところ,その判断に必要な児頭降下度・回旋状態といった所見は,内診によってのみ得られるものであり,内診は必要不可欠であった。 イ義務違反と結果との間の因果関係について争う。 仮に,この時点に内診を行っていなかったとしても,数十秒以内に発生していたはずの次の子宮収縮時に破水していた可能性は極めて高い。 (4)上記2(4)(被告Fの義務違反②(用手的児頭挙上)について)ア被告Fは,破水後の内診により臍帯脱出がないことを確認しており,臍帯脱出があったことを前提とする原告らの主張には理由がない。 児頭下降度が±0となって児頭が骨盤腔に固定・嵌入した後に一過性徐脈が出現し始めており,臍帯下垂や臍帯脱出のリスクファクターも特に認められない状況では,臍帯脱出に準じる状態が起こっているとの疑いを持ち得るような状況ではなかった。 用手的児頭挙上は,臍帯脱出があれば臍帯の圧迫を回避するために有効であるが,骨盤腔内あるいは子宮腔内の臍帯圧迫を回避して高度徐脈を解消する効果が明確に期待できるわけではない。そして,破水前後に高度の徐脈が引き起こされる原因として臍帯過捻転,真結節,胎盤早期剥離等も考えられるところ,これらも否定できていない状態であり,かかる状態でむやみに児頭を用手挙上すると,胎盤や胎児にストレ 水前後に高度の徐脈が引き起こされる原因として臍帯過捻転,真結節,胎盤早期剥離等も考えられるところ,これらも否定できていない状態であり,かかる状態でむやみに児頭を用手挙上すると,胎盤や胎児にストレスがかかって,症状の増悪を招くおそれがあるし,仮に臍帯が子宮出口部付近にあった場合には,臍帯脱出を助長する危険性もあった。 したがって,被告Fには,臍帯還納術や用手的児頭挙上を実施すべき義務はなかった。 なお,原告らは,破水を契機として児頭が下降して児の位置が変化したなどと主張しているが,児頭の下降はなかった。 イ義務違反と結果との間の因果関係について争う。 (5)上記2(5)(被告Eの義務違反(用手的児頭挙上)について)ア本件で,臍帯還納術ないし用手的児頭挙上を実施すべき状況ではなかったことは,上記(4)アのとおりである。 また,被告Eが手術室に到着した際には,既に麻酔処置が着手されていたから,麻酔をいったん中止し麻酔体位を内手を挿入できる体位に戻すまでして臍帯還納術,用手的児頭挙上を実施することが,帝王切開術による早期の児の娩出という目的に照らして必要な処置とはいえない。 イ義務違反と結果との間の因果関係について争う。 (6)上記2(6)(損害)について争う。 第3当裁判所の判断 前記前提事実に証拠(甲A10,11,乙A1ないし6,被告F,被告G及び被告E各本人)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。 (1)原告Bが12月27日夜に被告病院に入院した後の被告病院の医師や助産師等による内診の判断は,別紙内診所見一覧表の「日付「時刻「子宮」」口「児頭下降度「展退度「内診した者」の各欄記載のとおりであり,そ」」」の際に臍帯下垂は認めなかった(その内診の判断が客観的事実に合致するか否かについては,後述 表の「日付「時刻「子宮」」口「児頭下降度「展退度「内診した者」の各欄記載のとおりであり,そ」」」の際に臍帯下垂は認めなかった(その内診の判断が客観的事実に合致するか否かについては,後述する。 。)(2)被告Fは,同月28日午後11時ころ,原告らに対し「徐々に分娩進,行しているが,原発性微弱陣痛のためこのままでは分娩に至らない可能性大。 (),。」きい今夜はオスピタン鎮痛剤にて眠り明日から陣発促進する予定。 ,などと説明した同月28日午後11時ころと29日午前3時15分ころにそれぞれオスピタン1Aが筋肉注射されたが,午前0時ころ及び午前3時5 0分ころのモニター上,リアクティブの所見(胎児良好所見)が見られた。 (3)原告Bは,午前8時30分ころからCTGを装着された。 被告Eは,午前9時30分ころ,原告Cに対し「痛みが強く力が入って,しまうので,硬膜外麻酔をして,有効陣痛少ないのでアトニンで陣痛促進する。午後まで様子を見て帝王切開もあり得る」などと説明し,午前9時50分ころ,硬膜外麻酔を実施した。L助産師は,午前10時10分ころから,20mℓ/時から始めて15分ごとに5mℓ/時ずつ増量する予定で,アトニンの投与を開始した。 (4)被告Gは,午前10時20分ころ,アトニンを25mℓ/時に増量し,午前10時35分ころには,30mℓ/時に増量した。 午前10時25分以降,別紙変動一過性徐脈一覧表の「発生時刻「モニ」ター上の時刻「最減少心拍数「持続時間」の各欄記載のとおり,変動一」」過性徐脈が出現したが,午前11時05分ころの破水までは,児心拍の基線,,は概ね120から140bpmの間にありバリアビリティも良好であって午前10時57分に高度変動一過性徐脈が出現するまでは,被告Gが深呼吸やリ ,午前11時05分ころの破水までは,児心拍の基線,,は概ね120から140bpmの間にありバリアビリティも良好であって午前10時57分に高度変動一過性徐脈が出現するまでは,被告Gが深呼吸やリラックスを促したことにより回復した。なお,被告G及び被告Fは,上記変動一過性徐脈について,午前10時57分ころまでは,変動一過性徐脈ではなく,遅発一過性徐脈を疑っていた。被告Gは,午前10時30分ころの内診で,胎胞がパンパン(++)であると判断した。 被告Gは,午前10時36分の一過性徐脈を見て,3ℓ/分で酸素投与を開始した。被告Fは,遅くとも午前10時50分ころまでに来室し,ダブルセットアップ下で陣痛促進を続けることとし,原告B及び家族に対し「徐,脈が出現しているが,回復速やかで予備能は十分あると考える。今後,児の状態が悪化する様なら緊急帝王切開の可能性あり」などと説明して,手術。 承諾書を書いてもらい,手術室に連絡し,また,アトニンを30mℓ/時のまま増量しないよう指示し,その後,陣痛室を離れた(この点について,午 前11時過ぎまで被告Fが来室しなかった旨の原告らの陳述書(甲A10,),,(, があるが他方被告F本人及び被告G本人の供述及び陳述書乙45(以下「被告Fの供述等」という)には,上記の認定に沿う部分があ)。 り,被告Fが上記のような説明をしたことについては,時間については正確性を欠くもののカルテ及びパルトグラム(乙A1,2)の裏付けがあるところ,その内容からして,その説明がされたのは午前10時57分の高度変動一過性徐脈出現の前と考えられること,アトニンが予定と異なり増量されていないことは少なくとも医師の指示があったことをうかがわせることからすると,被告Fの供述等は少なくとも上記の認定の限度では信用性が 一過性徐脈出現の前と考えられること,アトニンが予定と異なり増量されていないことは少なくとも医師の指示があったことをうかがわせることからすると,被告Fの供述等は少なくとも上記の認定の限度では信用性が高いとい,,。)。 えそれらに照らすと上記の原告らの陳述書の記載内容は採用できない被告Gは,午前10時57分ころ,原告Bを仰臥位にさせて導尿を開始し,,,たところ高度変動一過性徐脈を認めたため導尿を中止して被告Fを呼び体位を仰臥位から右側臥位へ変換した。被告Fは,午前11時ころ来室して診察し,高度変動一過性徐脈の回復後に子宮収縮があっても徐脈が出現しないことを認め,急速遂娩も念頭においてしばらく注意深くフォローアップすることとした。 被告Fは,午前11時05分ころ内診を開始し,その際,上記(1)の所見のほか,胎胞(++)の所見を認め,臍帯脱出がないことを確認し,また,児頭の回旋がはっきりわからなかったため内診に通常より長い時間を要し。 。 たこの内診の最中に破水が生じてベッドのシーツがびしょびしょに濡れたその直後,60bpm台まで下降する徐脈が出現したため,被告Fは午前11時06分ころアトニン投与を中止し,被告Gは午前11時07分ころ左側臥位に体位変換した。被告Fは,破水後も内診を続けて児頭下降度などを確認し,その際の所見により,午前11時08分ころ緊急帝王切開を決定して手術室に連絡した。原告Bは,午前11時15分ころストレッチャーに乗せられて手術室に向かい,午前11時20分ころ入室した。 (5)児心拍は,午前11時20分ころ60~70bpm台で,回復せず,その後更に50~60bpm台まで低下し,午前11時40分ころには50bpm台に低下して回復しなかった。被告Fは原告Bに右側臥位を取らせ,その後手術室に到着した被告Eが麻 70bpm台で,回復せず,その後更に50~60bpm台まで低下し,午前11時40分ころには50bpm台に低下して回復しなかった。被告Fは原告Bに右側臥位を取らせ,その後手術室に到着した被告Eが麻酔を施行し,被告Eが執刀医,被告Fが第1助手として午前11時41分ころ下腹部縦切開で帝王切開術を開始した。 なお,被告病院小児科のM医師も,児の蘇生措置を行うため,手術室内で待機していたが,直接術野を見てはいない。被告Eは,児頭が子宮頚部の方へ進入していることを確認し,肩部を子宮体部方向へ持ち上げ,児をできる限り体部方向へ上げた後,午前11時45分ころAを娩出し,手術は午後0時。 ,(,),50分ころ終了した被告Eは羊水は中等量で軽度の混濁緑茶あり臍帯は直径1cm長さ74cmで胎盤の側方に付着して巻絡や真結節なし,胎盤早期剥離の所見なしと認めた。 Aは重症新生児仮死の状態で出生し,そのアプガースコアは,1分0点,5分3点であった。 (6)Aの出生後,M医師は,原告C及びH(原告Bの母)に対し,Aが脳死に近い状態であることなどを説明した。 被告Eは,被告Fから破水後の所見について報告を受けていたところ,平成16年1月4日,原告ら及びHに対し,帝王切開になった経緯などについて説明し,その際,下記のような発言をした。 ①破水の時に臍の緒が先に出ることもあるが,それもなかった。予想に過ぎないが,破水した後に,グッと進み頭との間に臍帯が挟まれていた可能性もある。 ②実際に頭は下がってきており,子宮を開けたら,膣内に児頭が入っていたが,分娩室で吸引分娩にするまで下がってはなかった。 ここで,上記1(1)の内診による児頭下降度についての判断が客観的事実に合致していたか否かなどについて検討しておく。 (1)証拠(甲B1の1)に 室で吸引分娩にするまで下がってはなかった。 ここで,上記1(1)の内診による児頭下降度についての判断が客観的事実に合致していたか否かなどについて検討しておく。 (1)証拠(甲B1の1)によれば,児頭下降度は,内診指で左右の坐骨棘を触れて確認することができ,誰でも同じ判断を下すことができる点で優れているとされていることが認められるところ,上記1(1)の判断は,午前9時30分ころの被告Eの判断(-2cm)を除くと,ほぼ一貫して児頭が下降,,,しているというものでありこの経過に不自然な点はないし5名の助産師1名の看護師,1名の医師(被告F)による判断であるから,その信頼性は高い。 そして,被告E本人は,上記午前9時30分ころの判断につき,硬膜外麻,,酔をする際の確認のためにしっかりと体位を取らず時間もかけずに内診しフローティングはないが赤ちゃんが出るにはちょっと高い位置(±0よりも少し上の位置)であるとの印象を持ったという程度であり,自分の内診所見が一番曖昧であると思われる旨供述し,児頭が逆戻りして上昇した訳ではないことについて一応合理的な説明をしていること,後記(2)のとおり児頭はほぼ嵌入あるいは固定した状態であったことからすると,本件における児頭の下降度は,客観的にも,午前9時30分ころの被告Eの判断を除き,ほぼ別紙内診所見一覧表の「日付「時刻「児頭下降度」の各欄に記載のとお」」り推移したものと認めるのが相当である。 (2)別紙知見2によれば,児頭が±0cmに下降した場合,骨盤腔内に嵌入あるいは固定したというところ,本件では,午前7時45分ころの児頭下降度は±0cm(午前9時50分ないし午前10時30分ころの被告Fの判断を考慮しても,±0ないし-1cm)であり,この時点で児頭はほぼ嵌入あるいは固定したといえる 件では,午前7時45分ころの児頭下降度は±0cm(午前9時50分ないし午前10時30分ころの被告Fの判断を考慮しても,±0ないし-1cm)であり,この時点で児頭はほぼ嵌入あるいは固定したといえる状態になり,午前11時05分ころの破水時までには,児頭は嵌入あるいは固定したといえる状態になったと認められる。 もっとも,別紙知見1(2)によれば,破水が起こっても,児頭が強く産道壁に圧定されている場合は後羊水が流出することはないが,産道壁と児頭の間になお隙間がある場合に後羊水が流出するところ,上記1(4)のとおり破 水時にシーツがびしょびしょになるほど羊水が流出しており,後羊水も流出したものと考えられるから,午前11時05分ころの破水の直前の時点において,児頭が産道壁に強く圧定されたとまでは認められず,児頭と産道壁の間にはなお隙間はあったものと認められる。 破水後の重症胎児仮死の原因(臍帯脱出又はそれに準じた状態の有無)について(1)前記前提事実(3)のとおり,Aが重度脳性麻痺(及びこれによる死亡)に至ったのは破水後に重症胎児仮死に陥ったからであるところ,上記1,2の認定事実(以下,単に「認定事実」という,とりわけ,変動一過性徐脈。)が認められたことや分娩時の所見によれば,その破水後の重症胎児仮死は,臍帯圧迫による臍帯血流障害によって低酸素状態に陥ったことによるものであると認められる。 (2)ここで,原告らは,その臍帯圧迫が生じた原因の一つとして,午前10時25分ころから臍帯下垂が生じていたところ,午前11時05分ころの破水によって臍帯脱出又はそれに準じた状態が生じたことが考えられる旨主張し,その根拠として,破水と同時に急激に児心拍が低下し,その後も体位変換等によっても回復しないという状態は,児頭以外での臍帯の圧迫や捻転で 臍帯脱出又はそれに準じた状態が生じたことが考えられる旨主張し,その根拠として,破水と同時に急激に児心拍が低下し,その後も体位変換等によっても回復しないという状態は,児頭以外での臍帯の圧迫や捻転では通常生じ得るものではなく,臍帯脱出又はそれに準じた状態が生じたと考えなければ説明がつきにくい旨指摘する。 そこで,この点について検討しておく。 (3)確かに,午前11時05分ころの破水時以降に高度の徐脈が出現しており,この時に強い臍帯圧迫が生じたと考えられるところ,証拠(甲B6)によれば,一般的には,このような強い臍帯圧迫を生じるのは臍帯脱出の場合が多いことが認められるが,他方,本件全証拠を検討しても,臍帯脱出ないしそれに準じた状態でなければ生じないとの知見は見当たらず,上記事実から直ちに臍帯脱出ないしそれに準じた状態が生じていたと認めることはでき ない。 かえって,認定事実によれば,原告Bにつき,12月27日から同月29日午前11時05分ころの破水に至るまで,少なくとも5名の助産師,1名の看護師,2名の医師による内診が行われたが,臍帯下垂を認めた者は全くいないし,被告Fは破水後の内診によって臍帯脱出を認めていない。また,別紙知見3(2)によれば,臍帯下垂及び臍帯脱出は,児頭による子宮下部の閉鎖が不完全な場合に生じるところ,認定事実によれば,本件では,臍帯の長さが74cmと過長臍帯であったものの,頭位で(別紙知見3(1)によれば,頭位の場合の臍帯下垂及び臍帯脱出の頻度は0.1ないし0.14%である,羊水も中等量であり,午前8時30分ころにCTGが装着されて。)から変動一過性徐脈が最初に出現したのは午前10時25分であったところ,そのころには,児頭は±0cmか,せいぜい±0ないし-1cmであって,児頭と産道壁の間には後羊水が流出する Gが装着されて。)から変動一過性徐脈が最初に出現したのは午前10時25分であったところ,そのころには,児頭は±0cmか,せいぜい±0ないし-1cmであって,児頭と産道壁の間には後羊水が流出する程度の間隙はあったものの,児頭はほぼ嵌入した状態にあったことからすれば,臍帯下垂や臍帯脱出が生じにくい状況にあったというべきである。なお,原告らの協力医であるN医師も,その意見書(甲B11)において,本件の破水時に臍帯脱出ないしそれに準じた状態が生じたとは特段指摘していない。 以上からすると,本件の臍帯圧迫の原因が,破水前に臍帯下垂があったところ破水により臍帯脱出ないしそれに準じた状態が生じたことによるものであるとは認めるに足りない。 被告Gの義務違反(体位変換等)について(1)原告らは,被告Gにおいて,最初に変動一過性徐脈が発生した午前10時25分以降,遅くとも午前10時36分の3度目の変動一過性徐脈発生の時点で,速やかに被告Fら(医師)に連絡して診療・処置を求め,かつ,医師が到着するまでの間の手当として,酸素投与のみならず,体位変換及び陣痛抑制(陣痛促進剤投与の中止)の処置を行うべき義務を負っていた旨主張 する。 上記主張の義務のうち,速やかに被告Fらに連絡して診療・処置を求めるべき義務についてみるに,その義務が尽くされて速やかに被告Fらが到着すればどのような診療・処置が行われたというのか,主張が必ずしも明確でないが,原告らの主張の全体の趣旨及びL医師の意見書(甲B11)に照らしてみると,結局のところ,上記の酸素投与,体位変換及び陣痛抑制の処置をいうものと解される。 そうすると上記の義務違反の主張については被告Gないし被告Fら以,,(下「被告Gら」という)において上記の酸素投与,体位変換及び陣痛抑制。 の処置を行うべき義 制の処置をいうものと解される。 そうすると上記の義務違反の主張については被告Gないし被告Fら以,,(下「被告Gら」という)において上記の酸素投与,体位変換及び陣痛抑制。 の処置を行うべき義務の違反があったといえるか否かについて検討すれば足りることになる。 (2)変動一過性徐脈の分類についてここで,変動一過性徐脈の分類についてみておく。 変動一過性徐脈の分類として,被告らは日母基準(別紙知見4(3)ア,)原告らは太田基準(別紙知見4(3)ウ)をそれぞれ援用している。ここで,日母基準によれば,一過性徐脈の持続時間が60秒以上であるか,最減少心拍数が60bpm未満のものが高度と分類されるのに対し,太田基準によれば,最減少心拍数が70bpm以下になる場合は安全限界の1項目を満たさないこととなって高度と分類されるところ,これらを本件の変動一過性徐脈に当てはめると,別紙変動一過性徐脈の「日母基準「太田基準」の各欄に」記載のとおりとなる(なお,米国基準(別紙知見4(3)イ)によって本件の変動一過性徐脈を分類した結果も,太田基準と同じである。 。)L医師の意見書(甲B11)によると,太田基準は,判断に迷うことの多い変動一過性徐脈の判断の手がかりとして考案されたもので,利便性が高く利用者も多いが,学会の諸定義には取り入れられてはいないと認められることからすれば,太田基準(あるいは米国基準)によらずに日母基準によって 判断したからといって,それだけで医療水準を下回るとはいえない。 (3)酸素投与について認定事実によれば,酸素投与が開始されたのは3度目に変動一過性徐脈が出現した午前10時36分ころである。 したがって,午前10時25分から午前10時36分ころまでの間に酸素投与を開始すべきであったといえるかが問題であるところ,L医師は, のは3度目に変動一過性徐脈が出現した午前10時36分ころである。 したがって,午前10時25分から午前10時36分ころまでの間に酸素投与を開始すべきであったといえるかが問題であるところ,L医師は,その意見書(甲B11)において,2度目に変動一過性徐脈が出現した時(午前10時34分)には酸素投与を開始すべきであったと指摘する。 しかし,上記の原告らの主張や意見書の見解を裏付ける文献はなく,別紙知見6記載のとおり酸素投与は胎児の低酸素症に対する処置であるところ,別紙知見4(2)記載のとおり軽度の変動一過性徐脈は必ずしも胎児仮死を意味しないものであることも考えると,それが1度ないし2度出現した時点において,胎児仮死を疑い,母体に対し酸素投与を開始すべきと解することも困難である。 そうすると,被告Gらにおいて午前10時36分ころよりも前に酸素投与を開始すべきであったとはいえない。 (4)陣痛抑制について認定事実によれば,陣痛促進剤は,午前10時35分ころに予定どおり25mℓ/時から30mℓ/時に増量され,午前10時50分ころには予定の増加はされずに30mℓ/時のまま維持され,そのまま午前11時06分ころの破水直後まで投与が続けられた。 この点について,L医師は,その意見書(甲B11)において,2度目に変動一過性徐脈が出現した時(午前10時34分)には陣痛促進剤の投与を中止すべきであったと指摘する。 しかし,本件においては,原発性微弱陣痛による分娩の遷延に対し分娩を進行させるために陣痛促進剤が投与されているから,陣痛促進剤の投与を中 止して陣痛を抑制すべき場合というのは,子宮収縮に伴う臍帯の圧迫,血流遮断を緩和し,胎児仮死の危険を避ける必要がある場合と考えられる(甲B7,別紙知見6)ところ,別紙知見4(2)のとおり,高度と判断される変動 抑制すべき場合というのは,子宮収縮に伴う臍帯の圧迫,血流遮断を緩和し,胎児仮死の危険を避ける必要がある場合と考えられる(甲B7,別紙知見6)ところ,別紙知見4(2)のとおり,高度と判断される変動一過性徐脈が繰り返し出現する場合には胎児仮死の疑いがあると判断されるから,そのような場合にはじめて陣痛を抑制すべきと考えられるのであり,「陣痛を促進している時に,高度の変動一過性徐脈が頻発すれば,その投与量を減少させるか,投与を中止して,CTGの改善の有無を見る」との太。 田教授の指摘(甲B3の1)も,この趣旨から出たものと考えられる。 そうすると,上記(2)のとおり,午前10時25分ころから午前11時05分ころまでの間,午前10時57分の変動一過性徐脈を除いて,日母基準において高度と評価される変動一過性徐脈は出現していないから,被告Gらにおいて陣痛を抑制すべき義務があったとはいえないなお別紙知見4(3)。 ,アによれば,日母基準においても,軽度変動一過性徐脈でも最減少心拍数が60から69bpmの場合は要注意とされているところ,本件においても,上記の間に,午前10時57分の高度変動一過性徐脈1回に加えて,そのような徐脈が4回出現してはいるが,それだけで高度変動一過性徐脈が頻発した場合と同様の義務が課されるとまではいえない。 (5)体位変換についてア認定事実のとおり,午前10時57分に高度変動一過性徐脈が出現した時に体位変換がされたところ,それ以前に体位変換を実施すべきであったか否かについて検討する。 この点について,L医師は,その意見書(甲B11)において,2度目に変動一過性徐脈が出現した時(午前10時34分)には体位変換を実施すべきであったと指摘している。 確かに,別紙知見4(4)によれば,臍帯の圧迫は妊婦の体位を変換させることに 11)において,2度目に変動一過性徐脈が出現した時(午前10時34分)には体位変換を実施すべきであったと指摘している。 確かに,別紙知見4(4)によれば,臍帯の圧迫は妊婦の体位を変換させることによって解除・緩和されることがあるし,本件において,体位変換 は,陣痛抑制とは異なり,それ自体によって具体的な弊害があると認めるに足りる証拠はないところ,認定事実によれば,日母基準においても要注意とされる軽度変動一過性徐脈が数回出現したのであるから,体位変換をすることが望ましかったと考えられる(被告G本人も,体位変換を促した旨供述している。 。)しかし,L医師は,その意見書(甲B11)において,最初の変動一過性徐脈(なお,太田基準によれば高度の徐脈である)の出現で直ちに体。 位変換を行う必要があるとは必ずしもいえないが,2度目の変動一過性徐脈が出現した場合には体位変換を行うべきであったと指摘しているとこ,,,ろそのような基準を裏付ける文献はなく本件全証拠を検討してみてもどのような徐脈が何回出現すれば必ず体位変換をしなければならないというような基準が確立していると認めるに足りる証拠はない。そうすると,変動一過性徐脈自体は迷走神経反射によるものであり,それ自体は胎児状態の悪化を意味しない(別紙知見4(2))ところ,本件において,午前10時57分に高度変動一過性徐脈が出現するまでの変動一過性徐脈は,いずれも,日母基準において軽度であって,深呼吸やリラックスを促すこと,()によって短時間で回復しバリアビリティも良好であったこと認定事実をも考慮すると,本件で午前10時57分よりも前に体位変換を実施すべき法的義務があったということはできない。 したがって,仮に本件において午前10時57分ころまでは体位変換が実施されなかったとしても,義 考慮すると,本件で午前10時57分よりも前に体位変換を実施すべき法的義務があったということはできない。 したがって,仮に本件において午前10時57分ころまでは体位変換が実施されなかったとしても,義務違反があるということはできない。 イなお,午前10時57分ころよりも前に体位変換が実施されていたとしても,重症胎児仮死に陥らなかったとは認め難い。 なぜなら,午前10時57分の高度変動一過性徐脈の出現後に仰臥位から右側臥位への体位変換が実施され,その後の陣痛発作時には変動一過性徐脈は出現しなかったにもかかわらず,午前11時05分ころの破水時に 急激に児心拍が低下しているところ,これは破水時に強い臍帯圧迫が生じたことによるものと考えられるのであり,仮に午前10時57分ころよりも前に体位変換が実施されたとしても,その後の破水時にやはり強い臍帯圧迫が生じたであろう可能性を否定することができないからである。 (6)したがって,被告らの損害賠償責任をいう原告らの主張のうち,被告Gの義務違反に係る部分は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。 被告Fの義務違反①(内診による破水について)(1)原告らは,臍帯下垂又は他の何らかの原因による臍帯圧迫が頻発し,これによる臍帯血流の障害が起きていることを認識し得,児頭が高い位置にあったから,仮に破水した場合には,臍帯脱出又はそれに準じた状態が生じ,あるいは,羊水流出と児の位置の変化が生じて,それまでに頻発していた臍帯圧迫が更に増悪して高度の臍帯血流障害が生じる可能性を予見し得たとして,被告Fにおいて,内診を実施するに当たり,胎胞を破らないように静かに短時間に実施するなどの適切な手技により行うか,視診(膣鏡)によって胎胞を通して臍帯下垂の有無を確かめるなど内診以外の方法を採るべき義務があった旨主張 を実施するに当たり,胎胞を破らないように静かに短時間に実施するなどの適切な手技により行うか,視診(膣鏡)によって胎胞を通して臍帯下垂の有無を確かめるなど内診以外の方法を採るべき義務があった旨主張する。 (2)まず,上記3(3)のとおり,客観的に臍帯脱出ないしそれに準じる状態が生じたとは認められないから,原告らの主張のうち,これらが生じたことを前提とする点には理由がない。 また,証拠(甲B1の2,3の1,6)によれば,変動一過性徐脈が生じた場合,内診を実施して臍帯下垂などがないことを確認すべきとされ,さらに,本件では,下記(3)のとおり,児頭の下降度や回旋を確認する必要があったから,原告らの主張のうち,視診(膣鏡)によって臍帯下垂の有無を確かめるなど内診以外の方法を採るべき義務があったとの点は理由がない。 (3)そこで,その余の主張について検討する。 認定事実によれば,午前10時25分から午前10時57分までに変動一 過性徐脈が7回(うち日母基準による高度変動一過性徐脈が1回)出現し,臍帯圧迫が疑われる状況にあり,破水すれば,後羊水も含めて羊水が流出して子宮内の容積が狭くなる可能性があったから,抽象的には,臍帯圧迫が増悪する可能性を認識し得たと解される。したがって,被告Fは,慎重に内診を実施すべき義務を負っていた(甲B9の2参照。 )しかし,認定事実によれば,胎胞について,午前10時30分ころにはパンパン(++,破水直前には(++)と判断されており,相当緊張してい)たことが認められるから,内診時に破水したからといって,それだけで直ちに被告Fの内診手技が医療水準を下回るほど愛護性に欠けていたと認めることはできない。 また,認定事実によれば,被告Fは,午前10時57分に高度変動一過性徐脈の出現を受けて,急速遂娩も視野に入れて通常よ 被告Fの内診手技が医療水準を下回るほど愛護性に欠けていたと認めることはできない。 また,認定事実によれば,被告Fは,午前10時57分に高度変動一過性徐脈の出現を受けて,急速遂娩も視野に入れて通常より長い時間をかけて内診を実施したと認められるところ,証拠(甲B2の3,7)によれば,胎児仮死と診断された時点で,子宮口が全開大で,児頭が十分下降し,固定しているならば,経膣の急速遂娩術を実施すべきとされ,経膣の急速遂娩が可能であれば帝王切開よりも児の娩出までの時間が短い(被告F)ところ,本件では,高度変動一過性徐脈が発生する前の時点で既に子宮口が全開大で,経膣の急速遂娩が可能か否かを判断するに当たり,児頭の降下度や回旋など分娩の進行度を確認する必要があった(L医師も,この点について,特段否定していない。そして,証拠(甲B9の2)によれば,破水前に児の回旋。)状況を確認するのは必ずしも容易ではないともされており,被告Fが,通常より長い時間をかけて内診を実施したとしても,それだけで義務に違反したということはできない。 他に,被告Fの内診手技が愛護性を欠いていたと認めるに足りる証拠はない。 (4)したがって,被告らの損害賠償責任をいう原告らの主張のうち,被告F の義務違反①(内診による破水について)に係る部分は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。 被告Fの義務違反②(用手的児頭挙上等)及び被告Eの義務違反(1)原告らは,被告Fにおいて,破水後,仮に臍帯脱出が生じていた場合は臍帯の還納を試み,また,臍帯脱出の有無にかかわらず,児頭を用手的に挙上して臍帯の圧迫を防ぐべき義務があったと主張する。 しかし,上記3(3)のとおり,客観的に臍帯脱出ないしそれに準じる状態が生じたとは認められないから,原告らの主張のうち,これらが生じたこと 手的に挙上して臍帯の圧迫を防ぐべき義務があったと主張する。 しかし,上記3(3)のとおり,客観的に臍帯脱出ないしそれに準じる状態が生じたとは認められないから,原告らの主張のうち,これらが生じたこと。 ,()を前提とする点には理由がない以下その余の点用手的児頭挙上の義務について検討する。 (2)証拠(甲B2の2)によれば,臍帯脱出が認められる場合に児頭を用手的に挙上すべきとされているのは,児頭と産道壁の間隙からの臍帯圧迫を緩和するためであることが認められる。したがって,臍帯脱出が認められなくとも,児頭と産道壁の間に挟まれる形で臍帯が圧迫されている場合には,児頭を挙上することによって臍帯圧迫を緩和することができると考えられる。 しかし,他方,児頭の挙上によって臍帯脱出を誘発するおそれがあり,これを防ぐには骨盤高位にする必要がある(甲B11)ところ,それらの処置をするためには時間と手間を要し(たとえば甲B8の症例報告のCTGを見るに,骨盤高位にしてから児頭挙上まで約5分程度を要している,その。)分だけ帝王切開により児を娩出する時間がずれこむと考えられることからす,(,れば臍帯脱出又はそれに準ずるような状態であることが確認できずなお証拠(甲B12)によれば,平成3年の時点で潜在性臍帯脱出が出生前に診断されたとする報告はなく,この診断をすべき義務は認めがたい,上記。)3(3)のとおり臍帯脱出が生じにくい状況にあって,臍帯脱出又はこれに準ずるような状態にあることが具体的に想定されたとはいえない本件の臨床経過において,徐脈が出現した経緯だけをもって児頭を挙上すべき義務があっ たと認めることはできない。 (3)この点,L医師は,破水と同時に児頭が下降し,その結果,臍帯圧迫が増悪して持続性徐脈が出現したのであるから,児 した経緯だけをもって児頭を挙上すべき義務があっ たと認めることはできない。 (3)この点,L医師は,破水と同時に児頭が下降し,その結果,臍帯圧迫が増悪して持続性徐脈が出現したのであるから,児頭下降と臍帯の圧迫とは直接の関係があると考えて児頭を挙上すべきであったと指摘している(甲B11。 )ここで,認定事実のとおり,被告Eは,被告Fからの破水後の所見についての報告に基づいて,原告らに対し「予想に過ぎないが,破水した後に,,」,グッと進み頭との間に臍帯が挟まれていた可能性もある旨説明したところこの説明について,原告らは,被告Fの報告が破水後に児頭が下降したという内容であったからこそ,そのような説明がされたものであるかのように主張し,L医師も,お産が進むという表現は,子宮口の開大が進む,又は児頭が産道内を下降するという意味で用いられるとして,原告らの主張に沿う指摘をする(甲B11。しかし,被告E本人は,上記説明につき,お産がグ)ッと進んだ,子宮の収縮がグッと進んで子宮の容積が減ったという意味であると供述しており,また,被告Eが,仮に被告Fから破水後の内診所見を聞いて児頭の下降を知ったとすれば「予想に過ぎないが」という前置きをす,るのは不自然である(なお,被告F本人は,破水後の内診において児頭の下降は認められなかった旨供述している。したがって,上記の被告Eの説。)明をもって,破水により児頭が下降したと認めることはできない。 また,仮に破水により多少児頭が下降していたとしても,例えば,羊水が流出したことによって,子宮の容積が小さくなり,児頭以外の部位において臍帯が強く圧迫された可能性なども考えられ,臍帯脱出又はそれに準じた状態が認められない本件において,破水後に高度徐脈が出現したというだけで臍帯圧迫の増悪が児頭の下降によ なり,児頭以外の部位において臍帯が強く圧迫された可能性なども考えられ,臍帯脱出又はそれに準じた状態が認められない本件において,破水後に高度徐脈が出現したというだけで臍帯圧迫の増悪が児頭の下降によるものであったと認めることはできない。 (4)そして,上記3(3)のとおり本件において臍帯脱出が生じたとは認められ ないところ,臍帯脱出がない場合に児頭を挙上すべきと指摘する文献は,高度変動一過性徐脈を改善するために児頭挙上が4症例中3例で有効であったとする症例報告(甲B8。昭和50年,米国での報告。甲B7の指摘も出典は同じである)のみであり,しかも,その症例はいずれも経産婦で子宮口。 が3ないし6cm開大の事例であって,初産婦で子宮口全開大であった本件に応用できるかは疑問があるし、これだけをもって,わが国の当時の医療水準として,高度変動一過性徐脈が出現した場合に児頭を挙上すべきであるという考えが定着していたとは認めがたく,臍帯脱出が生じていない場合にも児頭を挙上すべき義務があるとはいえない。 したがって、仮に破水により児頭が下降したとしても、被告Fにおいて児頭を挙上すべき義務があったとはいえない。 (5)上記(2)ないし(4)と同様に,被告Eにおいて児頭を挙上すべき義務があったとは認められない。 (6)したがって,被告らの損害賠償責任をいう原告らの主張のうち,被告Fの義務違反②(用手的児頭挙上等)及び被告Eの義務違反に係る部分は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。 以上の次第で,原告らの請求は理由がないというべきであるから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部貝阿彌誠裁判長裁判官水野有子裁判官 井出正弘裁判官 別紙医学的知見 胎胞の形成及び 棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部貝阿彌誠裁判長裁判官水野有子裁判官 井出正弘裁判官 別紙医学的知見 胎胞の形成及び破水等(初産婦(甲B2の4,9の1,10,11))(1)分娩第1期(分娩開始時期から子宮口全開大(約10cm)まで)初産婦ではまず子宮頚管の退展が進行し,子宮膣部が殆ど消失した状態になってから子宮口の開大が進む。子宮口がある程度開大すると,子宮口付近の卵膜は頚管から剥離する。子宮収縮により子宮内圧が上昇すると,羊水はこの卵。 ,,膜と児頭の間に流入するその結果卵膜は羊水をたたえて子宮口から膨隆しこれを胎胞という。 陣痛発作時には,後羊水が児頭と子宮壁との間隙を通って胎胞内に流入して胎胞は緊張し,間歇時にはこれがふたたび還流して胎胞は弛緩する。子宮口の開大が進み,児頭がいよいよ下降して産道壁に強く圧定されるようになると,前羊水と後羊水との交通はなくなり胎胞はたえず緊張したままとなる。 (2)分娩第2期(子宮口の全開大から胎児の娩出まで)陣痛発作時に,ついに卵膜は高まった内圧に耐えられず破綻し,羊水が流出することを破水という。破水が起こっても,児頭が強く産道壁に圧定されている場合は,後羊水が流出することはない(産道壁と児頭の間になお隙間がある場合は,後羊水が流出する。分娩第2期に発生した破水を適時破水という。)が,しばしば分娩第1期後半に起こることもある。破水によって陣痛はさらに増強し,分娩進行が促進されることが多い。分娩準備のために,あるいは陣痛促進のために人工的に破水させ経過をみることもある。 児頭下降度(甲B1の1)児の先進部(児頭)の下降度,あるいは骨盤腔内への嵌入度を表現する基準には,両側の坐骨棘を結んだ線(坐骨棘線, は陣痛促進のために人工的に破水させ経過をみることもある。 児頭下降度(甲B1の1)児の先進部(児頭)の下降度,あるいは骨盤腔内への嵌入度を表現する基準には,両側の坐骨棘を結んだ線(坐骨棘線,spineline(sp )を用いる。胎児の)先進部がちょうど坐骨棘線上なら±0cmとし,これより上にあれば-何cm,下にあれば+何cmと表現する。 児頭が±0cmに下降した場合,骨盤腔内に嵌入あるいは固定したという。 臍帯下垂及び臍帯脱出(甲B2の2,5,12,乙B1)(1)定義,頻度破水前に児頭の側方また下方に卵膜を隔てて臍帯を透見ないし触知する状態を臍帯下垂といい,破水後に産道内又は陰裂間に臍帯が懸垂してきた状態を臍帯脱出という。また,臍帯が児頭と産道壁の間に存在するが,内診で触れない状態を「潜在性臍帯脱出」と定義する文献(甲B12)もある。 全分娩例の約0.22%に起こるといわれ,横位が最も多く(2~5%,)骨盤位がこれに次ぎ(2.5~2.9%,頭位は最も少ない(0.1~0. )14%。 )(2)原因児頭による子宮下部の閉鎖が不完全な場合に生じる。例えば羊水過多症,狭骨盤,広骨盤,水頭症,過小児頭,巨大児,未熟児,子宮内胎児死亡,横位,骨盤位,反屈位,多胎妊娠,前・早期破水,過長臍帯(通常の臍帯の長さは50~60cmであるが,70cm以上を過長臍帯という,臍帯下部付着及。)びメトロイリンテルの脱出の後などの場合に起こりやすい。 (3)症状,診断ア全くの無症状であり診断によってのみこれを認める胎児心拍陣痛図以,。 (下「CTG」という)記録では変動一過性徐脈や遷延徐脈を認めることが。 ある。 イ臍帯下垂の診断外診では,児心音の不規則なこと,または臍帯雑音の存在によってこれを想像する。内診では,卵膜を (下「CTG」という)記録では変動一過性徐脈や遷延徐脈を認めることが。 ある。 イ臍帯下垂の診断外診では,児心音の不規則なこと,または臍帯雑音の存在によってこれを想像する。内診では,卵膜を通して臍帯が透見したり,胎胞内に高度の移動性を有する索状物を触れ,これに拍動を感知して確定する。また,超音波カラードプラにて直接診断することが可能である。 ウ臍帯脱出の診断聴診で比較的確実にこれを疑う。すなわち胎児心音は不規則になり,雑音 を聴取する。陣痛発作に際して心音は著しく緩徐になり,50~60bpmにも低下するが,間欠時に再び回復する。内診を行えば,明らかに臍帯を触知することによって診断は容易である。破水と同時に内診を行い,その後は陣痛のたびに反復して心音を聴き,異常を認めた時には直ちに内診を行う。 (4)臍帯脱出の場合の処置まず骨盤高位として還納を試み,成功すればメトロイリンテル挿入,側臥位を採らせて経過を監視するが,多くは成功しないから,助手をして臍帯を子宮腔内に還入し,内手を挿入して児頭と産道壁の間隙からの臍帯圧迫を用手的に防ぎながら,直ちに帝王切開して児を娩出させる。 変動一過性徐脈(甲B1の2,2の3,3の1・2,4,7,乙B2)(1)定義,頻度子宮収縮に対して,胎児心拍数が減少のはじめから最下点までが30秒未満で15bpm以上の減少を示し,一定の規定をもたない,不規則な胎児心拍数の変動(減少)パターンをいう。 一過性徐脈のなかで最も出現頻度が高く,全分娩の約30から40%の症例では,その経過のどこかで数回は出現している(子宮口5cm開大までの間に約40%,分娩の終了までには83%に認められるとの外国における報告もある。 。)(2)変動一過性徐脈の発生機序,原因心拍数低下のメカニズムとしては,臍帯圧迫に る(子宮口5cm開大までの間に約40%,分娩の終了までには83%に認められるとの外国における報告もある。 。)(2)変動一過性徐脈の発生機序,原因心拍数低下のメカニズムとしては,臍帯圧迫による動脈の血流障害が胎児の血圧上昇を引き起こし,圧受容器を介した迷走神経反射により心拍数が低下すると考えられている。圧迫の程度が軽く静脈の血流のみ障害された時は血圧の低下により一過性の心拍数上昇を示すことがある。そのため変動一過性徐脈ではその始まりや終わりに一過性頻脈を伴う波形がしばしば認められる。臍帯血流の遮断は,ある期間続けば胎児血酸素分圧の低下に繋がり,化学受容器を介した心拍数変化も加わる。 胎児の各部と臍帯の位置は,子宮収縮の度に変化する可能性があり,圧迫の箇所や程度は異なることが多く,したがって一過性徐脈の波形や子宮収縮との時間関係が変化すると考えられている。 (,,,破水後など羊水が少ない場合や何らかの臍帯の異常卵膜付着過長過短過捻転,巻絡など)があれば臍帯圧迫とそれによる臍帯血行の遮断が生じやすく,このような例では変動一過性徐脈は出現しやすい。 変動一過性徐脈は基本的に臍帯圧迫による迷走神経反射によるものであり,それ自体は胎児状態の悪化を意味せず,強い血流遮断が長く続く場合や繰り返し発生する場合は,胎児血酸素分圧が低下して胎児が低酸素状態やアシドーシスに陥る可能性があるから,変動一過性徐脈のうち,高度のものが繰り返し出現する場合にのみ胎児仮死と判断するとされている。 (3)変動一過性徐脈の分類ア日母ME委員会の分類(以下「日母基準」という)。 一過性徐脈の持続時間が60秒未満で,かつ最減少心拍数が60bpm以(,),上ただし60~69bpmは要注意のものを軽度変動一過性徐脈とし一過性徐脈の持 (以下「日母基準」という)。 一過性徐脈の持続時間が60秒未満で,かつ最減少心拍数が60bpm以(,),上ただし60~69bpmは要注意のものを軽度変動一過性徐脈とし一過性徐脈の持続時間が60秒以上であるか,最減少心拍数が60bpm未満のものを高度変動一過性徐脈とする。 イ米国(ACOG)での分類(以下「米国基準」という)。 米国では,最減少心拍数が70bpm未満(または基線より60bpm以),。 上下降し持続時間が60秒以上のものを高度変動一過性徐脈としているウ太田孝夫教授(以下「太田教授」という)提唱の変動一過性徐脈の安全。 限界(以下「太田基準」という)。 下記①ないし④の安全限界の4項目全てを満たせば軽度,これを越えれば高度と判定する。軽度と判定される状態は一過性胎児仮死に該当し,たとえ,,変動一過性徐脈が何時間持続しても新生児仮死となる頻度はきわめて低く急速遂娩の適応にならない。ただし,この安全限界は,胎児胎盤機能は正常 で,子宮内感染のない成熟した胎児の場合に限る。 ①10分間における各一過性徐脈の持続時間の合計が4分以内。 ②胎児心拍数基線細変動が6bpm以上。 ③胎児心拍数基線が120~160bpmの正常範囲内。 ④一過性徐脈の深さが60bpm未満。ただし,最減少心拍数が70bpm以下になる場合を除く。 (4)臍帯圧迫の解除・緩和臍帯の圧迫に対しては,妊婦の体位を変換させることによって解除・緩和されることがある。 なお,分娩時に妊婦を仰臥位にさせると,下大動脈及び腹部大動脈の血管の圧迫により,臍帯血流を障害するから,母体の下大動静脈の圧迫を少なくする意味から,左側臥位の体位を取らせると良いと考えられる。 遅発一過性徐脈(甲B1の3)子宮収縮が開始してから遅れて胎児心拍数がゆるやかに30 血流を障害するから,母体の下大動静脈の圧迫を少なくする意味から,左側臥位の体位を取らせると良いと考えられる。 遅発一過性徐脈(甲B1の3)子宮収縮が開始してから遅れて胎児心拍数がゆるやかに30秒以上かかって減少し,子宮収縮が消失し,基底圧にもどる頃,その胎児心拍数の減少は最高に達し,やがて,戻っていくパターンを遅発一過性徐脈という。この遅発一過性徐脈は,胎盤が子宮収縮によって圧迫をうけたために,胎児への循環血流量が一時的に減少し,胎児には低酸素症が生じたことを意味しているので,これは胎児ジストレスそのものの所見である。 遅発一過性徐脈は単発で出現したり,まれに出現するようなときは,まだ胎児ジストレスとは言わないが要注意で胎児監視を必要とする。毎回の子宮収縮で出現するようになれば,これは胎児ジストレスであり,急速遂娩を考えなくてはならない。 胎児の低酸素症,胎児仮死に対する管理(甲B2の3,7)①母体の体位変換,②陣痛促進剤の投与の中止,③母体に対する酸素投与,④子宮収縮抑制剤の投与などは,胎児の低酸素症の改善に有効である。 胎児仮死と診断されたならば,急速遂娩させることが一番の処置である。上記,,のような治療法によっても子宮内の蘇生が全ての症例にできるわけではないがある程度は試みる。また,急速遂娩するまでの処置として施行すべきである。 アプガースコア(甲B2の1)新生児の呼吸循環及び中枢神経系の状況を判断する指標としてアプガースコアが用いられる。別表の5項目を採点し,8点以上が正常,7~5点がⅠ度仮死,4~1点はⅡ度仮死に相当する。5分後のアプガースコアは,児の中枢神経系障害との相関が高い。 相当する。5分後のアプガースコアは,児の中枢神経系障害との相関が高い。

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