平成23(行ケ)10104 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年10月24日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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判決文本文14,610 文字)

平成23年10月24日判決言渡平成23年(行ケ)第10104号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年9月7日判決 原告 X訴訟代理人弁理士永田豊 被告有限会社光漢堂 訴訟代理人弁護士小湊收訴訟代理人弁理士志村尚司 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2010-890016号事件について平成22年11月16日にした審決を取り消す。 第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯被告は,平成12年11月16日,別紙商標目録記載の登録商標(以下「本件登録商標」という。)につき商標登録出願し(以下「本件登録出願」という。),平成1 3年12月28日,設定登録を受けた(第4532622号;指定商品:第10類医療用機械器具,氷まくら,三角きん,支持包帯,手術用キャットガット,吸い飲み,スポイト,乳首,氷のう,氷のうつり,ほ乳用具,魔法ほ乳器,綿棒,指サック,避妊用具,耳栓,医療用手袋,家庭用電気マッサージ器,しびん,病人用便器,耳かき。以下「本件商標登録」という。)(甲27)。 原告は,平成21年11月27日,特許庁に対し,本件商標登録の無効を求めて審判(無効2010-890016号事件。以下「本件審判」 ,病人用便器,耳かき。以下「本件商標登録」という。)(甲27)。 原告は,平成21年11月27日,特許庁に対し,本件商標登録の無効を求めて審判(無効2010-890016号事件。以下「本件審判」という。)を請求し,特許庁は,平成22年11月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月26日に原告に送達された。 2 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は次のとおりである。 (1) 商標法4条1項7号について本件登録商標は,その構成において公序良俗に反するものではなく,また,「ENEMAGRA」の欧文字からなる商標(以下「『ENEMAGRA』の商標」という。)は,被告が我が国において「(前立腺治療器)前立腺,会陰マッサージ器」を販売するための商標として,被告の発案により採択されたものと認められること,上記商標は原告の業務に係る上記商品の商標として広く知られていたものではないこと,被告が本件登録出願を行った経緯を併せれば,本件登録出願が,原告が商標登録を受けていないことを奇貨として行われた剽窃的行為とみることはできず,著しく社会的妥当性に欠けるものとはいえない。したがって,本件商標登録は,商標法4条1項7号に違反してなされたものとはいえない。 (2) 商標法4条1項19号について本件登録出願の時点において,原告が使用していた「エネマグラ」の片仮名文字からなる商標(以下「『エネマグラ』の商標」という。)又は「enemagra」の欧文字からなる商標(以下「『enemagra』の商標」という。)が,原告又は原告製造の「(前立腺治療器)前立腺,会陰マッサージ器」を販売していたパイン ズ社の業務に係る上記商品を表示する商標として,取引者・需要者の間に広く認識されていたと認めるこ う。)が,原告又は原告製造の「(前立腺治療器)前立腺,会陰マッサージ器」を販売していたパイン ズ社の業務に係る上記商品を表示する商標として,取引者・需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。 そして,本件登録商標が他人の商標を剽窃したものであるとか,本件登録出願が著しく社会的妥当性に欠けるものであるとはいえず,他に,本件登録商標が不正競争の目的や不正の目的をもって出願,登録されたものであると認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件商標登録は,商標法4条1項19号に違反してなされたものとはいえない。 (3) 商標法4条1項10号について本件審判は平成22年2月25日に請求されたものであり,本件登録商標は平成13年12月28日に設定登録されたものであるから,本件審判は本件登録商標の設定登録の日から5年を経過した後に請求されたものである。そして,本件登録商標が不正競争の目的で商標登録を受けたものとはいえないから,商標法47条の除斥期間の適用があり,同法4条1項10号に該当する旨の主張については審理することができない。 なお,本件登録出願時に,原告が使用していた前記各商標が原告の業務に係る「(前立腺治療器)前立腺,会陰マッサージ器」を表示する商標として,取引者・需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないから,本件登録商標は同号の要件を欠く。 第3 当事者の主張 1 取消事由に関する原告の主張審決には,商標法4条1項7号規定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」への該当性の判断の誤り(取消事由1),同項10号規定の「需要者の間に広く認識されている商標」への該当性の判断の誤り(取消事由2),及び同項19号規定の「需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正 消事由1),同項10号規定の「需要者の間に広く認識されている商標」への該当性の判断の誤り(取消事由2),及び同項19号規定の「需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするもの」への該当性の判断の誤り(取消事由3)があ り,審決の結論に影響を及ぼすから,違法として取り消されるべきである。 (1) 商標法4条1項7号該当性の判断の誤り(取消事由1)ア原告は,被告に対し,原告経営に係る会社が製造する「(前立腺治療器)前立腺・会陰マッサージ器」(以下「原告製造製品」という。)を日本で販売することを依頼し,原告製造製品について「ENEMAGRA」の商標の使用を認めたが,被告製造に係る「(前立腺治療器)前立腺・会陰マッサージ器」(以下「被告製造製品」という。)について上記商標を使用することは許諾していない。 すなわち,被告は,平成10年10月ころから,原告製造製品を購入し,「ENEMAGRA」又は「エネマグラ」の商標を使用して,日本における販売を開始した。 しかし,被告は,平成11年9月ころから,原告製造製品の販売を止め,被告製造製品に「エネマグラ」や「ENEMAGRA」の商標を使用して,販売を行った。 次いで,被告は,平成12年11月16日に本件登録出願をして,商標登録を得た。 被告による本件登録出願は,本件登録商標を被告製造製品について使用する目的でされたものであるから,原告の許諾を得ない社会的妥当性を欠いた出願である。 イ(ア) 原告は,米国において,原告製造製品に係る技術について,特許を取得し,1997年(平成9年)ころ,米国において,原告製造製品の販売を開始した。なお,被告が,日本において原告製造製品を販売した当時,原告製造製品以外には「(前立腺治療器)前立腺,会陰マッサージ器」は ,1997年(平成9年)ころ,米国において,原告製造製品の販売を開始した。なお,被告が,日本において原告製造製品を販売した当時,原告製造製品以外には「(前立腺治療器)前立腺,会陰マッサージ器」は存在せず,米国製であることを強調して,販売をしていた。 また,原告は,平成12年2月ころ,日本国内において,パインズ社を通じて「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標を使用して,原告製造製品の販売を開始したが,パインズ社のホームページには,原告製造製品が米国製であることの説明がされている。 さらに,原告が平成11年3月に完成させた原告製造製品である「エネマグラ EX」には,原告の経営に係る会社であるHighIslandHealthLLC(以下「HIH社」という。)の頭文字である「HIH」及び原告が有する米国 特許の番号「PATNO 5797950」が刻印されている。 (イ) 被告は,平成11年9月に,原告製造製品の販売を止め,被告製造製品の販売を開始した後も,米国製の「前立腺快癒器」であるかのような表記をして,販売している。 また,被告は,被告製造製品に,原告製造製品と同様に,「HIH」及び「PATNO 5797950」の文字を付しており,被告製造製品が原告製造製品又は正規のライセンス製品であるかのように,取引者・需要者に認識させている。 このような事情の下では,取引者・需要者は,「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標が付された被告製造製品について,原告製造製品と同一の品質を有する原告製造製品又はライセンス製品であると誤認する。 (ウ) 被告が,「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標を使用した被告製造製品に,「HIH」の文字,又は/及び原告の米国特許番号を付した行為は,商品の品質の誤認又は他人の業務に係る 認する。 (ウ) 被告が,「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標を使用した被告製造製品に,「HIH」の文字,又は/及び原告の米国特許番号を付した行為は,商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせ,原告製造製品の信用にただ乗りしようとする不正の目的を有しているといえる。 ウ以上のとおり,本件商標登録は,社会的妥当性を欠き,商標法の予定する秩序に反するものであり,また,被告製造製品に原告製造製品と紛らわしい表示を付して販売する行為は,原告製造製品の販売により築かれた信用を利用しようとする不正の目的が明白で,原告の業務上の信用を傷つけると同時に,公正な商取引の秩序を乱すものであり,本件登録商標は,登録時又はその後の使用に照らすと,商標法4条1項7号に該当するといえる。 (2) 商標法4条1項10号該当性の判断の誤り(取消事由2)ア原告は,平成10年8月ころ,日本で原告製造製品を販売するため,被告と共にインターネットを通じて宣伝を開始した。被告は,同年10月30日,原告製造製品販売のためのホームページを開設し,モニターに原告製造製品を無償で配布して,その使用効果についての感想を集め,その結果をインターネット上に掲載するなど,原告製造商品の宣伝をした。 原告は,平成12年9月6日,被告に対して不正競争防止法2条1項3号に基づく差止請求訴訟を提起したが,同訴訟の過程で,被告は,平成11年9月から本件登録出願の前である平成12年10月5日までの被告製造製品の販売個数が2541個であったと報告しており,また,訴訟の終了後に判明した実際の販売個数は6206個であった。したがって,本件登録出願時においては,「ENEMAGRA」の商標は,既に取引者・需要者に広く知られており,周知となっていたといえる。 前記の 終了後に判明した実際の販売個数は6206個であった。したがって,本件登録出願時においては,「ENEMAGRA」の商標は,既に取引者・需要者に広く知られており,周知となっていたといえる。 前記のとおり,平成12年当時,被告は,被告製造製品を販売していたにもかかわらず,ホームページに,「米国製前立腺快癒器」「U.S.特許番号5797950,世界各国へ特許出願中」「DOLPHINEBIG,はENEMAGRA.COM(Houston)から直接購入も可能です。」等と記載していた。同ホームページに接した需要者は,HIH社製の原告製造製品が販売されていると誤認するはずであるから,本件登録出願時において,「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標は,HIH社製の「前立腺快癒器」を示す商標として需要者に広く認識されていたといえる。 イ被告は,「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標が,取引者・需要者に広く認識されていることを知りながら,あえて被告製造製品に「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標を使用した。 また,被告は,被告製造製品があたかも原告製造製品であるかのように見せるため,「HIH」の文字,又は/及び,原告製造製品の米国特許番号を付しており,商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品との出所の混同を生じさせることを,積極的に意図している。 したがって,被告には不正の目的があるといえる。 ウ以上の事実経緯によれば,本件登録商標は商標法4条1項10号に該当する。 そして,本件登録商標は,不正の目的で商標登録を受けた商標であるから,5年の除斥期間の規定は適用されない。 (3) 商標法4条1項19号該当性の判断の誤り(取消事由3) 前記のとおり,「ENEMAGRA」の商標は,本件登録出願時,周知性を獲得していた。ま の除斥期間の規定は適用されない。 (3) 商標法4条1項19号該当性の判断の誤り(取消事由3) 前記のとおり,「ENEMAGRA」の商標は,本件登録出願時,周知性を獲得していた。また,被告製造製品にも原告製造製品であることを示す「HIH」の文字と米国特許番号を刻印するという被告の行為は,積極的に虚偽の出所表示を行っているというものであり,原告製造製品に関して蓄積された信用にただ乗りすると共に,その蓄積された信用を傷つけるものである。しかも,被告は,品質の誤認又は出所の混同を積極的に生じさせる状況で,本件登録商標を使用している。 したがって,被告の意図は,商標法4条1項19号の「不正の利益を得る目的」に該当する。 また,被告製造製品は原告製造製品よりも品質が劣り,被告は,原告製造製品がそのような粗悪な品質であると需要者に誤認させることで,原告に損害を与えており,同号の「他人に損害を与える目的」があるといえる。 2 被告の反論(1) 商標法4条1項7号該当性の判断の誤り(取消事由1)に対してア被告は,被告からの原告に対する問い合わせに対し,原告が,商標登録はどのように取り扱ってもよいとの態度を示したため,日本において「ENEMAGRA」の商標の使用を確保するため,平成12年4月3日,本件登録商標に正方形の輪郭を付した商標について商標登録出願を行い,その後,これと類似する本件登録商標につき本件登録出願を行った。 被告は,日本国内における商標の使用を確保するため商標登録出願を行ったのであり,出願に当たり,原告の許諾を要するものではない。また,原告の態度にかんがみると,「ENEMAGRA」の商標の使用に関して,原告との間で取り決めをしなければならない理由もない。 したがって,本件登録出願及び本件商標登録が社 を要するものではない。また,原告の態度にかんがみると,「ENEMAGRA」の商標の使用に関して,原告との間で取り決めをしなければならない理由もない。 したがって,本件登録出願及び本件商標登録が社会的妥当性を欠くとの原告の主張は理由がない。 イ 「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標を使用した「前立腺,会陰マッサージ器」は,米国製であるとの認識が,広くかつ強く存在すると認められる 証拠はない。 米国における原告製造製品の名称は,「Pro-State」又は「Aneros」であり,米国及び諸外国において,原告が「ENEMAGRA」の商標を使用したことはない。日本においては,被告が,被告の経営に係る三牧ファミリー薬局のホームページにおいて,「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標を使用して,「(前立腺治療器)前立腺,会陰マッサージ器」の販売を開始し,その後も継続して販売している。 被告製造製品には,「HIH」の文字,又は/及び原告製造製品に係る米国特許番号が付されているが,これらの表示から,「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標が付された被告製造製品が,直ちに原告製造製品であるかのごとく,商品の品質の誤認を生じさせるものではない。 さらに,需要者等が,「ENEMAGRA」の商標を付した被告製造製品を原告製造製品であると誤認していることや,「ENEMAGRA」の商標に蓄積された信用は,原告製造製品を基礎として築かれたということを認めるに足りる証拠もない。 したがって,被告製造製品に「ENEMAGRA」の商標を使用することにより,原告の業務に係る商品と混同を生じているとはいえない。 このように,被告は,被告製造製品と原告製造製品との間で,品質の誤認や出所の混同を生じさせたことはなく,被告に不正の目的はない。 ウ より,原告の業務に係る商品と混同を生じているとはいえない。 このように,被告は,被告製造製品と原告製造製品との間で,品質の誤認や出所の混同を生じさせたことはなく,被告に不正の目的はない。 ウ商標法4条1項7号は,当事者間における私的関係にまで拡大して,商標登録出願を排除するための規定ではない。原告主張の品質の誤認,出所の混同や不正の目的は,原告と被告との間で生じた私人間の紛争に帰すべき事項であって,同項19号所定の要件の有無によって判断されるべきであり,同項7号は関係しない。 (2) 商標法4条1項10号該当性の判断の誤り(取消事由2)に対してア 「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標が,本件登録出願時において,原告の業務に係る商品を表示するものとして周知であったと認めるに足りる証拠はない。 原告が周知の根拠とする本件登録出願時までの販売個数は,被告が販売した個数であり,原告製造製品の販売個数ではない。また,被告開設のホームページからは,「ENEMAGRA」の商標の付された商品が被告の業務に係る商品であると認識されるとしても,原告の業務に係る商品であるとまで認識されることはない。 イ 「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標が原告製造製品の商標であることが周知であったとはいえない以上,被告があえて被告製造製品に上記商標を使用して,品質の誤認,出所の混同を生じることを意図しているとはいえない。 被告製造製品に「HIH」の文字や米国特許番号が付されているとしても,本件登録商標の使用に不正の意図があったとはいえない。 したがって,不正競争の目的があったとはいえず,商標法47条1項の除斥期間の規定が適用されるべきである。 (3) 商標法4条1項19号該当性の判断の誤り(取消事由3)に対して前記のとおり したがって,不正競争の目的があったとはいえず,商標法47条1項の除斥期間の規定が適用されるべきである。 (3) 商標法4条1項19号該当性の判断の誤り(取消事由3)に対して前記のとおり,本件登録出願時において,「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標が,原告の業務に係る商品を表示するものとして周知であったとは認められない。また,前記のとおり,被告には不正の目的がない。 さらに,被告製造製品は原告製造製品よりも品質が劣り,被告が,原告製造製品がそのような粗悪な品質であると需要者に誤認させ,原告に損害を与えているという証拠もない。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,原告の主張は,いずれも失当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 認定事実前記争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 (1) 被告が本件商標登録を受けるに至った経緯ア原告は,1998年(平成10年)8月25日に特許された「前立腺治療器」 に関する米国特許(USP 5,797,950)の発明者である(甲1)。 原告は,HIH社を設立し,同社で原告製造製品を製造して,1997年(平成9年)ころには,米国内で,原告製造製品を販売していた(甲2の1,2の2,8)。 原告は,米国では,原告製造製品に,「Pro-State」という名称を付していた(乙3,6の1)。 原告製造製品には,平成11年3月ころから,HIH社の頭文字である「HIH」,米国製であることを表す「MadeInUSA」,原告が有する米国特許の番号である「PATNo 5797950」の刻印が付されている(甲10の1,10の2)。 イ原告は,日本において原告製造製品を販売しようと考え,平成10年8月ころ,被告代表者 する米国特許の番号である「PATNo 5797950」の刻印が付されている(甲10の1,10の2)。 イ原告は,日本において原告製造製品を販売しようと考え,平成10年8月ころ,被告代表者に対し,原告製造製品の販売を依頼した。被告は,同年10月ころから,被告経営に係る三牧ファミリー薬局の名義で,原告製造製品を輸入して,販売を開始した。(甲3の1ないし3の7,4,5,21,乙1の1ないし1の6,5の1ないし5の4,6の1ないし6の3)被告代表者は,同年8月,原告製造製品の名称を「ENEMAGULA(エネマグラ)」とすることを提案し,これに対し,原告が「ENEMAGRA」とすることを提案し,最終的に被告代表者が「ENEMAGRA」とすることを決め,原告もこれを承諾した。原告と被告は,日本国内では,原告製造製品の販売につき「エネマグラ」や「ENEMAGRA」の商標を使用した。(甲3の3ないし3の7,5,乙1の1ないし1の4,1の6,6の2,6の3)被告代表者と原告とは,メールにより,原告製造製品の販売に関する協議をしていたが,平成11年7月ころ,被告代表者は,原告に,「エネマグラ」の商標登録の必要性について指摘した(乙5の1ないし5の4)。 ウ被告は,平成11年9月ころから,被告製造製品を独自に製造し,「エネマグラ」や「ENEMAGRA」及び「Enemagra」の商標を使用して販売を開始した(甲6,11の1,12の1,14の1,18,19,23)。他方,原告は, 平成12年2月ころからは,パインズ社を通じて,通信販売の方法により,原告製造製品の日本国内の販売を開始した(甲8)。原告製造製品には,「エネマグラ」,「ENEMAGRA」,「enemagra」の名称,又は「アネロス」,「ANEROS」及び「aneros 法により,原告製造製品の日本国内の販売を開始した(甲8)。原告製造製品には,「エネマグラ」,「ENEMAGRA」,「enemagra」の名称,又は「アネロス」,「ANEROS」及び「aneros」の名称を使用した(甲8)。 エ被告は,平成12年4月3日,正方形輪郭内に「ENEMAGRA」の欧文字を横書きしてなる商標につき,前記第2の1の指定商品と同一の商品を対象として,商標登録出願をし,平成13年4月20日,商標登録を受けた(乙4)。さらに,被告は,平成12年11月16日,本件登録出願をし,平成13年12月28日,登録を受けた。 (2) 原告と被告の販売態様等ア原告がパインズ社を通じて販売している原告製造製品には,「エネマグラEX」,「エネマグラEX2」,「エネマグラDX」などがあり,「エネマグラ」,「ENEMAGRA」,「enemagra」の商標が使用されている(甲8)。 イ被告製造製品には,「エネマグラEX」,「エネマグラEX2」,「エネマグラドルフィン」,「エネマグラEXソフト」,「エネマグラEX2ソフト」,「エネマグラドルフィンソフト」,「エネマグラドルフィンEYE」などの名称が付されている。(甲6,8,10の1,11の1,12の1,13の1,14の1,15の1,15の2,18,23)被告は,三牧ファミリー薬局のホームページで被告製造製品の広告を行い,「エネマグラ」,「ENEMAGRA」,「Enemagra」の商標を用いて,「エネマグラは三牧ファミリー薬局の商標登録商品です。」「三牧ファミリー薬局は世界に先駆けて特許製品ENEMAGRAの発売を開始します。」との表示をしている(甲6)。 また,被告製造製品の台紙には,「Enemagra○RProstater」,「U. S.APatentNo.# て特許製品ENEMAGRAの発売を開始します。」との表示をしている(甲6)。 また,被告製造製品の台紙には,「Enemagra○RProstater」,「U. S.APatentNo.#5797950」,「エネマグラ○Rは有限会社光漢堂の登録商標です。」と記載され,被告製造製品には「PATNO 5797950」との刻印が付されており,更にHIH社の頭文字である「HIH」の刻印が付 されているものもある(甲11の1,11の2,12の1,12の2,13の1,13の2,14の1,14の2,18,19,20)。被告製造製品の使用説明書には,「エネマグラ」,「Enemagra」の商標が使用されている(甲19)。 (3) 原告製造製品と被告製造製品の販売状況原告は,平成12年4月から平成13年12月までの間に,パインズ社等に販売するため,原告製造製品を合計2789個,米国から日本に輸入した(甲24)。また,パインズ社は,平成12年5月10日から平成13年12月28日の間に原告製造製品を含む製品の販売により合計1948万8900円の売上を上げているが,その中には,「レクタルシリンジ」,「シリンジ Faultless」,「ID リブリキャント」等,原告製造製品とは異なる洗浄具等の売上も含まれている(甲8,25)。 2 商標法4条1項7号該当性の判断の誤り(取消事由1)について上記の事実を前提として,商標法4条1項7号の該当性について判断する。 (1) 商標法4条1項7号は,商標それ自体が公の秩序又は善良な風俗を害する場合に,これに商標権を付与することは,「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益の保護をすること」との商標法の目的に反することから,商標法所定の保護を与 これに商標権を付与することは,「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益の保護をすること」との商標法の目的に反することから,商標法所定の保護を与えないものとした規定である。もっとも,同号は,上記のような場合ばかりではなく,周知商標等を使用している者以外の者から登録出願がされたような場合においても,商標保護を目的とする商標法の精神に反するなどとの理由で,適用される事例もなくはない。しかし,商標法は,出願に係る商標について,特定の利害を有する者が存在する場合には,それぞれ類型を分けて,商標法所定の保護を与えないものとしている(商標法4条8号,10号,15号,19号参照)ことに照らすと,周知商標等を使用している者以外の者から登録出願がされたような場合は,特段の事情のない限り,専ら当該各号の該当性の有無によって判断されるべきといえる。周知商標等を使用している者が,出願を怠っている場合や他者の出願を排除するための適切な措置を怠っていたよう な場合にまで,「公の秩序や善良な風俗を害する」ものとして,商標法4条1項7号の適用があり得ると解するのは,妥当ではない。 (2) 本件において,原告が,本件登録商標は商標法4条1項7号に該当すると主張する理由は,①原告は被告に対し,「ENEMAGRA」等の商標を原告製造製品について使用することしか認めていないにもかかわらず,本件登録出願は,本件登録商標を被告製造製品に使用する目的で,原告に無断でされたこと,②「ENEMAGRA」等の商標に蓄積された信用は原告製造製品を基礎として築かれたものであり,被告が本件登録商標を被告製造製品について使用する等の行為は,取引者・需要者に対し,被告製造製品が原告製造製品又は原告から正規のライセンスを受けた製品である 製造製品を基礎として築かれたものであり,被告が本件登録商標を被告製造製品について使用する等の行為は,取引者・需要者に対し,被告製造製品が原告製造製品又は原告から正規のライセンスを受けた製品であるかのように,商品の品質について誤認を生じさせ,かつ,原告製造製品と混同を生じさせることを理由とする。 しかし,①については,「ENEMAGRA」等の名称の使用に関する原告,被告間の契約の有無及び内容の存否に係る事情であり,また,②については,商標法4条1項10号,15号又は19号への該当性に係る事情である(原告は,上記事情をもって,同項10号,19号に該当するとの無効事由を別途主張している。)。上記の理由は,いずれも,「公の秩序や善良な風俗を害する」基礎事実と認めることはできず,原告,被告間の契約を巡る紛争等として解決されるべき問題といえる。 したがって,原告主張の事由は,商標法4条1項7号所定の無効事由には該当しない。 (3) また,仮に,商標法4条1項7号の要件を拡張して理解する見解に立ったとしても,以下(下記3及び4の判断を含む。)に述べるとおり,本件登録商標が,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標とはいえない。 原告は,被告使用商標の使用は,需要者をして被告製造製品が米国製の製品であるとの誤認を生じさせると主張する。しかし,被告使用商標からは,当該製品が米国製であるとの表示を認めることはできず,原告の主張は,その前提において失当である。 また,原告は,被告が,被告製造製品が米国製であると表示し,被告製造製品に原告が経営する会社の頭文字である「HIH」の文字及び原告が有する米国特許権の番号「PATNO 5797950」を付していることから,需要者をして,品質の誤認や出所の混同を生じさせると主張する。しかし,商 営する会社の頭文字である「HIH」の文字及び原告が有する米国特許権の番号「PATNO 5797950」を付していることから,需要者をして,品質の誤認や出所の混同を生じさせると主張する。しかし,商標法4条1項7号は,商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものについて,商標登録を受けることができない旨規定するものであるから,上記のような商標の使用以外の方法により品質の誤認や出所の混同を生じさせることがあったとしても,そのことは同号の定める事由に該当することはない。原告のこの点の主張も,主張自体失当である。 3 商標法4条1項10号該当性の判断の誤り(取消事由2)について商標法4条1項10号は,当該登録商標が,登録出願時に,他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であることを要件として規定する。 しかし,本件登録出願がされた平成12年11月16日当時,原告使用商標が原告製造製品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標であったと認定することはできない。 (1) 被告が本件商標登録を受けるに至る経緯,原告と被告の販売態様等は,上記1で認定したとおりである。すなわち,ア被告は,平成10年10月ころから平成11年9月ころまでは原告製造製品を販売し,原告製造製品につき「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」の商標(以下,これらの商標を併せて「当初使用商標」という。)を使用していた。原告製造製品の日本における名称は,被告代表者の発案により,「ENEMAGRA(エネマグラ)」とされた。被告は,平成10年10月ころから,原告製造製品について当初使用商標を使用し,平成11年9月ころから,被告製造製品について,「エネマグラ」,「ENEMAGRA」, GRA(エネマグラ)」とされた。被告は,平成10年10月ころから,原告製造製品について当初使用商標を使用し,平成11年9月ころから,被告製造製品について,「エネマグラ」,「ENEMAGRA」,「Enemagra」の商標(以下,上記3つの商標を併せて「被告使用商標」という。)を使用し,現在まで,その使用を継続している。 イこれに対し,原告は,米国内では「エネマグラ」,「ENEMAGRA」,「Enemagra」の商標は使用していないにもかかわらず,平成12年2月ころ,パインズ社を通じて,日本国内で販売を開始した原告製造製品につき,「エネマグラ」,「ENEMAGRA」,「enemagra」の商標(以下,上記3つの商標を併せて「原告使用商標」という。)の使用を開始した。しかし,原告使用商標の使用は,被告が被告製造製品に被告使用商標の使用を開始した後である。 ウ原告と被告との間で,「ENENAGRA」の商標について,原告製造製品にのみ使用するという明確な合意がされたと認めるに足りる証拠はない。また,被告代表者が,平成11年7月に,原告に対し,「エネマグラ」の商標の登録出願を提案した際にも,原告から異議があったと認めるに足りる証拠もない。 エそして,被告は,平成12年4月3日,本件登録出願に先立ち,正方形輪郭内に本件登録商標と同一の「ENEMAGRA」の欧文字を横書きしてなる商標につき商標登録出願をし,その後,平成13年4月20日には商標登録を受けた。 (2) 原告使用商標の周知性原告は,原告製造製品を,日本国内で販売する前から米国内で販売していたが,米国内では「エネマグラ」や「ENEMAGRA」,「Enemagra」の商標は使用しておらず,日本国内でこれを販売するようになった後も,米国内では上記各商標は使用していない 米国内で販売していたが,米国内では「エネマグラ」や「ENEMAGRA」,「Enemagra」の商標は使用しておらず,日本国内でこれを販売するようになった後も,米国内では上記各商標は使用していない。 他方,被告は,平成10年10月ころから平成11年9月ころまでの間,当初使用商標を使用して,日本国内で原告製造製品を販売していたが,これらの原告製造製品の販売数量を明らかにする証拠はない。また,原告は,平成12年4月から平成13年12月までの間に,パインズ社等に販売するため,日本国内に原告製造製品を合計2789個輸入したが,平成12年4月から原告が本件登録出願を行った同年11月16日までに輸入した製品は442個である(甲24)。 (3) 小括上記諸事情を総合すると,本件登録出願時において,原告使用商標や当初使用商 標が「需要者の間に広く認識されている商標」であったと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。商標法4条1項10号所定の無効事由があるとはいえず,原告主張に係る取消事由2は理由がない。 4 商標法4条1項19号該当性の判断の誤り(取消事由3)について商標法4条1項19号は,当該登録商標が,登録出願時に,他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であることを要件として規定する。 前記のとおり,本件登録出願がされた平成12年11月16日当時,原告使用商標や当初使用商標が原告製造製品を表示するものとして周知であったと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告主張に係る取消事由3も理由がない。 5 結論以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にはこれを取り消すべき違法はない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由が たがって,原告主張に係る取消事由3も理由がない。 5 結論以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にはこれを取り消すべき違法はない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官知野明 別紙商標目録

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