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昭和43(う)2379 業務上過失致死被告事件

裁判所

昭和45年1月29日 東京高等裁判所

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15,055 文字

主文 原判決を破棄する。被告人は無罪。理由 本件控訴の趣意は、弁護人山口好一提出の控訴趣意書(ただし、第二点のみ陳述)記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。所論は、要するに、本件事故は、被告人自身が原審公判において供述しているとおり、当日被告人運転の貨物自動車に助手として同乗していたAが被告人に代つてハンドルを握り運転中に惹起したのが真相であるから、被告人は無罪であり、これを被告人の犯行と認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな重大な事実誤認があると主張するものである。よつて、一件記録及び当審における事実取調の結果を総合して考えてみるに、一本件の公訴事実は、「被告人は、自動車運転の業務に従事しているものであるが、昭和四〇年四月一七日午後三時四〇分頃、大型貨物自動車を運転し、下都賀郡a町大字bc番地付近国道を宇都宮方面に向け時速約五五キロメートルで進行中、前方約四〇メートルの道路右端付近に佇立するB(当四年)外三名の幼児を認めたのであるから、幼児等が交通知識に乏しく不測の行動に出がちであることに鑑み、同児等の動向を注視し、機に応じ何時でも停車出来るよう徐行して進行し、事故発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるに拘らず、対向車に注意を奪われ、右幼児等の動向に注意せず、漫然同速のまま進行した過失により、右幼児の中からBがかけ出したのに気がつかず、道路中央線を越えて来たのを約三・七メートル前方に認め、急ブレーキをかけたが間に合わず、自動車右側前部フェンダー及び右側後輪フエンダー前部で衝突した上、同後輪で轢き、よつて頭部挫滅により即死するに至らせたものである。」というにあり、原判決は、Aの司法巡査に対する供述調書、被告人の司法警察員 側前部フェンダー及び右側後輪フエンダー前部で衝突した上、同後輪で轢き、よつて頭部挫滅により即死するに至らせたものである。 を越えて来たのを約三・七メートル前方に認め、急ブレーキをかけたが間に合わず、自動車右側前部フェンダー及び右側後輪フエンダー前部で衝突した上、同後輪で轢き、よつて頭部挫滅により即死するに至らせたものである。」というにあり、原判決は、Aの司法巡査に対する供述調書、被告人の司法警察員 側前部フェンダー及び右側後輪フエンダー前部で衝突した上、同後輪で轢き、よつて頭部挫滅により即死するに至らせたものである。」というにあり、原判決は、Aの司法巡査に対する供述調書、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書その他の挙示の証拠によつて右公訴事実と同一の事実を認定して、被告人を有罪としたものである。<要旨第一>二ところで、右公訴事実に対しては、被告人は、原審第一回公判において「起訴状記載の日時、場所で私の</要旨第一>乗つていた自動車がBさんをひいて即死させたことはまちがいありませんが、そのときは、私が運転していたのではなく、助手のAが運転していて事故を起したのです。」と陳述したのをはじめとして、原審及び当審公判において一貫して同趣旨の弁解をしているという関係にあり、その供述するところは、供述の時々によつて多少の差異、出入りがないわけではないが、これを総合、要約すると、凡そ次のようなことに帰するものである。すなわち、本件事故当日の昭和四〇年四月一七日、被告人は、その雇われ先のC有限会社の業務として、同会社所有の貨物自動車にらつきようを積載し、Aを助手として同乗させて、早朝太田原を出発して東京に赴き、鋼材四トン位を積載して午前一〇時頃帰路につき、途中埼玉県春日部市内の食堂で昼食をとり、午後二時頃同所を出発したが、その際、被告人が用便に立つていた間に、助手のAが運転席に坐つてエンジンをかけ、自分にハンドルを持たせてくれと頼んだので、同人に運転させてa町の事故現場まで行つたところで事故が発生した、被告人は、その際、助手席に横になり送り状を見ていたが、急ブレーキがかかつたので、起き上つて外を見たところ、子供がひかれていた、その後四・五分位してから矢板警察署の白バイが来たが、その間に、Aが、慰籍料や罰金は自分が払らかう名前を貸 送り状を見ていたが、急ブレーキがかかつたので、起き上つて外を見たところ、子供がひかれていた、その後四・五分位してから矢板警察署の白バイが来たが、その間に、Aが、慰籍料や罰金は自分が払らかう名前を貸してくれと両手を合わせて頼み、被告人としては、かねてAを不良じみた男と考えており、同人の頼みをきかなければ暴行あるいは自宅への放火等どんなことをされるかも知れないとも考えたので、これを引き受け、警察官に対し被告人が運転していて事故を起したと述べ、その後検察官に対しても同様に供述したが、捜査官に対する各供述調書に記載されていることは、被告人が白バイが来るまでの間にAから聴取したことに被告人の想像を加えて応答したことや警察官が被害者といつしよにいた子供らから聴取してこらではなかつたかと尋ねることをそのまま肯定したことから成り立つているもので、事実ではない、被告人が公判段階になつて真実のことを述べるつもりになつたのは、Aが、慰籍料及び罰金等は自分で都合するといつていたのに、その約束を実行せず、夜逃げしてしまつたので、そのような人間の身代りになる必要はないと考えるに至つたこと、被告人がC有限会社の専務取締役Dに公判において真実を供述すべきかどうかを相談したところ、同専務がその親族にあたる大宮市在住の現職裁判官等にその意見を求めてくれ、同裁判官等としても身代りになつていることが事実であれば真実のことを述べるべきものであるという意見であると聞かされたことその他被告人の妻及び兄弟等からも真実を述べるように勧められたこと等によるものであるというのである。 いと考えるに至つたこと、被告人がC有限会社の専務取締役Dに公判において真実を供述すべきかどうかを相談したところ、同専務がその親族にあたる大宮市在住の現職裁判官等にその意見を求めてくれ、同裁判官等としても身代りになつていることが事実であれば真実のことを述べるべきものであるという意見であると聞かされたことその他被告人の妻及び兄弟等からも真実を述べるように勧められたこと等によるものであるというのである。そして、右に掲げた被告人の供述内容のうち、助手のAが夜逃げをしたという点は、原審及び当審において取り調べた関係証拠により、同人は、自称A、昭和一九年一〇月一日生れ、関西地方の出身者と認められる者で、Cの寮 右に掲げた被告人の供述内容のうち、助手のAが夜逃げをしたという点は、原審及び当審において取り調べた関係証拠により、同人は、自称A、昭和一九年一〇月一日生れ、関西地方の出身者と認められる者で、Cの寮の一室に起居していたが、本件事故より三カ月半位経過した後である昭和四〇年八月二日、同年七月分の給料の支払を受けた後、同日夜から翌三日朝まての間に、右寮から姿を消して所在不明となり、以後指紋の対照その他の方法によつてその所在を求めても、その所在が明らかとならず、Aが本名であるかどうかも疑われる者であることは、疑を容れない事実であるという関係である。三本件については、事故発生時加害車を運転していたのが被告人であるかAであるかを目撃した者が発見されていないため、当時運転していたのは被告人であり、自分は助手席にいて左側の窓外を脇見していたという供述内容のAの昭和四〇年四月一七日付司法巡査に対する供述調書並びに自己の犯行であることを認める供述内容の被告人の同年四月一七日付司法警察員に対する供述調書及び同年八月二五日付検察官に対する供述調書の各内容を信用するか、被告人の原審及び当審公判における各供述を信用するかに問題はかかることになる。そこで、(1)右のいずれを信用するかについて手がかりとなる客観的事実の有無、(2)被告人が捜査官に対し虚偽の供述をするに至つた動機、原因として説明することが是認できるかどうか、(3)被告人がそのいうとおり自分で事故をひき起したものでも見ていたものでもないとした場合、司法警察員及び検察官に対する各供述調書にみられるような説明、供述をすることができるかどうか、(4)被告人が原審公判に至つてはじめて真実を供述するようになつた動機、原因として供述することが是認できることであるかどうかの四点に分けて、これに検討を加えることとす た動機、原因として説明することが是認できるかどうか、(3)被告人がそのいうとおり自分で事故をひき起したものでも見ていたものでもないとした場合、司法警察員及び検察官に対する各供述調書にみられるような説明、供述をすることができるかどうか、(4)被告人が原審公判に至つてはじめて真実を供述するようになつた動機、原因として供述することが是認できることであるかどうかの四点に分けて、これに検討を加えることとす 供述をすることができるかどうか、(4)被告人が原審公判に至つてはじめて真実を供述するようになつた動機、原因として供述することが是認できることであるかどうかの四点に分けて、これに検討を加えることとする。1 原審及び当審証人Eに対する各証人尋問調書中の供述、当審証人D、同F及び同G(ただし、F証人の分は第三回公判におけるもの)の各供述によれば、C有限会社の社内において、本件事故後一カ月半位経過した頃から、事故をひき起したのは被告人ではなく、助手のAであるとの噂さがひろがつていたことは、疑を容れない事実であると認められるばかりでなく、前掲F証人の供述及び当審証人Hに対する証人尋問調書中の供述によれば、DまたはHが、Aが所在不明になるまでの間に、Aに対し、被告人と同人のいずれがひき起した事故であるかを問い訊した際、同人が、D及びHのいずれに対しても、同人が運転中にひき起したもので、被告人がひき起したものではないことを肯定する趣旨の返答をしたことを認めることができ、右のことは、同人がその所在をくらましたのがDより右のように問い訊された後であることと相まつて、同人、すなわちAの司法巡査に対する供述調書中の供述の信用性を疑わしめるものであると同時に、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書中の各供述が信用性に乏しく、被告人の原審及び当審公判における供述の方を信用すべき有力な証拠となるものといわなければならない。この点については、原審証人D、同G、同Iの各証言は、事故をひき起したのは被告人ではなくてAであるという社内の噂さを耳にしたのは、被告人が起訴された後の昭和四〇年九月に入つてからのことであるとしており、とくにD、青木両証人の場合、当審における各証言内容がこれと甚だしく異なるものであるため、このよらな差異を生じた原因について疑問を持たざ された後の昭和四〇年九月に入つてからのことであるとしており、とくにD、青木両証人の場合、当審における各証言内容がこれと甚だしく異なるものであるため、このよらな差異を生じた原因について疑問を持たざるを得ないのであるが、この点は、当審証人H及び同Eの各証言により、C有限会社としては、本件事故発生直後から、事故をひき起したのが被告人であるか助手のAであるかについて疑問を有しながらも、それが助手のAがひき起したものであることが公表された場合には、保険金の支払を受けることができない虞れがあることから、右の問題に深く立ち入らない態度をとつていたことが窺われることに徴し、前掲各証人の原審における各証言の方が信用できないものといわざるを得ない。 及び同Eの各証言により、C有限会社としては、本件事故発生直後から、事故をひき起したのが被告人であるか助手のAであるかについて疑問を有しながらも、それが助手のAがひき起したものであることが公表された場合には、保険金の支払を受けることができない虞れがあることから、右の問題に深く立ち入らない態度をとつていたことが窺われることに徴し、前掲各証人の原審における各証言の方が信用できないものといわざるを得ない。2 被告人が、原審及び当審公判において、司法警察員及び検察官に対し虚構の供述をした理由として、事故現場においてAより懇請されたこととAが不良じみた男であるため同人の懇請を拒否した場合に報復行為をされることを虞れたことを挙げていることは、前記のとおりであるが、原審証人D、同G、同I並びに当審証人G等、C関係者の各証言によれば、Aは不良風の青年であつたには違いないが、同人が他人に対し暴行等を加えたことを見聞したことはないというのであり、被告人の原審公判供述によれば、被告人としても同人より暴行等を加えられた経験はないというのであるから、たとえ被告人が同人より同人の前歴についていろいろ聞いていたことはあつたとしても、被告人がその際同人より暴行あるいは自宅への放火等の報復行為をされることを虞れたということは、信用できないというべきであるが、当審証人Jの証言及び被告人の当審公判における供述態度によつて窺うことができる、被告人の気の弱い性格に、被告人の司法警察員に対する供述調書中の「勿論助手のAは免許がないので帰りも私 うべきであるが、当審証人Jの証言及び被告人の当審公判における供述態度によつて窺うことができる、被告人の気の弱い性格に、被告人の司法警察員に対する供述調書中の「勿論助手のAは免許がないので帰りも私が運転して云々」の供述及び被告人の原審及び当審公判における各供述によつて認めることができる、事故発生時被告人が運転免許を有しないAにハンドルを持たせたことを自責し、これを隠そうとする気持が働らかないでもなかつたとみられることをも考慮してみると、被告人が、Aにハンドルを持たせたことを隠そうとする気持もあつて、その弁解するように、Aから罰金、慰籍料等の金は自分が支払うから身代りになつてくれと懇請されたため、これを引き受け、各供述調書に見られるとおりの供述をしたということも、首肯できないことではない。 時被告人が運転免許を有しないAにハンドルを持たせたことを自責し、これを隠そうとする気持が働らかないでもなかつたとみられることをも考慮してみると、被告人が、Aにハンドルを持たせたことを隠そうとする気持もあつて、その弁解するように、Aから罰金、慰籍料等の金は自分が支払うから身代りになつてくれと懇請されたため、これを引き受け、各供述調書に見られるとおりの供述をしたということも、首肯できないことではない。その他、当審証人Fの証言によれば、Aが、一、二回ではあるが月三、〇〇〇円位の貯金をしたことを認めることができ、右貯金については、被告人が、右は、Aが被告人との約束に基づき罰金等に充てるための金として積立てたものであるというのに対し、F証人は、本件事故とは関係なく同証人がAに勧めてはじめさせたものであるという差異はあるが、とに角Aが右のように貯金をはじめた事実があるということも、被告人の前記弁解の一概に排斥し難いことを示すものということができる。3 被告人は、本件事故当日作成された司法警察員に対する供述調書において、自分の犯行であることを認め、「時速五五キロメートルで現場にさしかかつたところ、前方約三五・二メートル地点の右前方に四、五人の子供が背を向けていたが、間もなく対向車があつて擦れ違つた瞬間に右前方道路にかけ出した被害者の子供を発見したので、思わずブレーキを踏んだが、私の車の右側前部フェンダー付近へ衝突し云々」と、その具体的状況について供述し、 、間もなく対向車があつて擦れ違つた瞬間に右前方道路にかけ出した被害者の子供を発見したので、思わずブレーキを踏んだが、私の車の右側前部フェンダー付近へ衝突し云々」と、その具体的状況について供述し、同年八月二五日付検察官に対する供述調書においても、「五〇キロメートル前後の速度で走つていたところ、前方約四、五〇メートルの道路右端に子供が三、四人立つているのを認めた」と、多少は異つた供述をした点はあるものの、大体において司法警察員に対すると同旨の供述をし、なお対向車については、それが幌のかかつたジュピターであつたと思うとも供述している。これらの供述は、いずれも、被告人が、その弁解するように、助手席に横になつて送り状を見ていたものではなく、自らが運転していて事故をひき起したればこそ、そのように供述することができたのではないかと疑わせるものではあるが、被告人が、実際に運転していた者ではないのに右のように供述することができた理由として当審公判において説明するところは、先に摘示したとおりであつて、被告人の長い運転経験を有する者であることをも考え合わせてみると、被告人が、実際の体験者ではないのに、そのいうところの理由によつて前記各供述調書に見られるとおりの具体的供述をすることが、絶対にできないことであるとは認められない。 いかと疑わせるものではあるが、被告人が、実際に運転していた者ではないのに右のように供述することができた理由として当審公判において説明するところは、先に摘示したとおりであつて、被告人の長い運転経験を有する者であることをも考え合わせてみると、被告人が、実際の体験者ではないのに、そのいうところの理由によつて前記各供述調書に見られるとおりの具体的供述をすることが、絶対にできないことであるとは認められない。もつとも、この点についての被告人の原審公判における弁解は、必ずしも人を首肯させるに足りるものではないが、これは、被告人の当審公判における供述態度によつて看取することができる、被告人の極端に口下手なことに原因する点が多分にあると認められ、これを重視するのは相当ではないし、事故当日被告人の取調等にあたつた警察官である、原審証人K(一、二回共)、同L、同Mの被告人の当日の態度等に関する各証言も、未だもつて右の点に関する当裁判所の心証を左右 重視するのは相当ではないし、事故当日被告人の取調等にあたつた警察官である、原審証人K(一、二回共)、同L、同Mの被告人の当日の態度等に関する各証言も、未だもつて右の点に関する当裁判所の心証を左右するものではない。4 被告人が、原審第一回公判以後、助手のAがひき起した事故で、被告人はその身代りになつたものであると供述するようになつたことについては、予期に反して被告人に対する処分が罰金刑では済まず、公判請求という結果になり、体刑の宣告を受ける可能性が強くなつて来たため、偶々その頃にはAが所在不明になるという事態が発生していたので、自己の刑責を免れるため、これを奇貨としてその供述を変更するようになつたのではないかという疑問が当然に持たれるが、被告人が、その弁解するとおり、Aの身代りになつたものであるとすれば、そのAが被告人との約束を守らず、突然行方をくらますに至つた場合、被告人がAの身代りになつたことを馬鹿らしいことであると考え、真実を供述する心境になることは、むしろ当然の推移であるというべく、ましてや妻、兄弟等の勧奨がこれに加わつたとすれば、被告人が従前の供述を変更する心境に立ち到つたことは、理解するに難くないことである。もつとも、この点については、Aがその所在をくらましたのは昭和四〇年八月二日夜から翌三日朝にかけてのことであるのに、被告人は、その後二〇日以上を経過した同年八月二五日付検察官に対する供述調書中においても自分がひき起した事故であることを明らかに認める供述をしているのであるから、この点についての被告人の弁明は当らないのではないかという疑問が持たれるが、被告人が当審公判において説明するところによれば、被告人は、Aが所在不明になつた後、どのような態度をとるべきかについて思案しているうちに検察官の取調があつたので、従前どおりに 、その後二〇日以上を経過した同年八月二五日付検察官に対する供述調書中においても自分がひき起した事故であることを明らかに認める供述をしているのであるから、この点についての被告人の弁明は当らないのではないかという疑問が持たれるが、被告人が当審公判において説明するところによれば、被告人は、Aが所在不明になつた後、どのような態度をとるべきかについて思案しているうちに検察官の取調があつたので、従前どおりに いう疑問が持たれるが、被告人が当審公判において説明するところによれば、被告人は、Aが所在不明になつた後、どのような態度をとるべきかについて思案しているうちに検察官の取調があつたので、従前どおりに自分がひき起した事故であることを認める供述をしたというのであつて、一般的には必ずしも首肯できない弁解であるが、被告人の気の弱い性格に即して考えると、首肯できないことではないと認められるばかりでなく、被告人の当審公判における供述によれば、被告人は、本件起訴状謄本の送達を受けた後(記録によれば、右謄本の送達のあつたのは昭和四〇年九月四日である。)、公判において従前捜査官に対し供述して来たことと違う供述をすべきかどうかについて、CのD専務に相談したところ、同専務がその知人である浦和地方検察庁検事O及び同専務の親族にあたる東京高等裁判所判事Nにそのことの可否についての見解を求め、右両者のいずれにおいても被告人が犯人でないことが真実であれば公判においてそのとおりに真実を述べるべきものであるとの見解であることを、D専務から教えられたので、以後その供述を変更することにしたというのであつて、被告人が右に供述することは、原審においてその取調のあつた宇都宮地方検察庁栃木支部検察官事務取扱副検事三浦茂作成の昭和四〇年九月二〇日付捜査報告書及びこれに添付の被告人自筆の供述書その他により、原審において当初指定せられた第一回公判期日は昭和四〇年一〇月八日であつたところ、被告人が、これに先き立つ同年九月二〇日、前記三浦茂副検事に対し、当審公判において供述したところと同旨の申述をし、その結果同副検事の請求により第一回公判期日が同年一一月一五日に変更された事実が認められることに、当審証人D(一、二回共)、同F、同N及び同Oの各証言を総合して、疑を容れないことであると認められる 、その結果同副検事の請求により第一回公判期日が同年一一月一五日に変更された事実が認められることに、当審証人D(一、二回共)、同F、同N及び同Oの各証言を総合して、疑を容れないことであると認められるのであるから、Aが所在不明になつたのが同年八月初旬のことであるにかかわらず、被告人が同年一一月一五日の第一回公判において従前捜査官に対ししていた供述をひるがえしたという関係であつても、これをひるがえすについては、それなりの一般的にも首肯できる理由、動機があつたものというべきである。 が認められることに、当審証人D(一、二回共)、同F、同N及び同Oの各証言を総合して、疑を容れないことであると認められるのであるから、Aが所在不明になつたのが同年八月初旬のことであるにかかわらず、被告人が同年一一月一五日の第一回公判において従前捜査官に対ししていた供述をひるがえしたという関係であつても、これをひるがえすについては、それなりの一般的にも首肯できる理由、動機があつたものというべきである。四以上の次第で、本件については、助手であつたAなる者が所在不明で、これを直接証人として尋問することができない以上、なお断定しかねる点のあることは免れないが、一件記録に当審における事実の取調の結果を加えて考察すれば、原判決が挙示する証拠のうち、Aの司法巡査に対する供述調書並びに被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書中の原判示事実に符合する各供述部分は信用し難いものであつて、Aが運転中に事故をひき起したものであるとする被告人の原審及び当審公判における各供述の方がむしろ信用に値するというべき理由があり、右各供述調書を除いては公訴事実はこれを認めるに由がないのであるから、公訴事実どおりこれを被告人の犯行であると認定した原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認をしたものというべきであり、論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。よつて、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条により原判決を破棄することとし、なお同法第四〇〇条但書に従い当裁判所が自ら判決するが、本件については、当審の段階において検察官よりその追加の請求があつて許可された予備的訴因があるので、以下右予備的訴因について検討を加えることとする。(1) 予備的訴因として主張さ 自ら判決するが、本件については、当審の段階において検察官よりその追加の請求があつて許可された予備的訴因があるので、以下右予備的訴因について検討を加えることとする。(1) 予備的訴因として主張された事実は、「被告人は、自動車運転の業務に従事しているものであるが、昭和四〇年四月一七日大型貨物自動車(栃○―い―○△×□)に助手Aを同乗させ、鉄材を積載して東京より宇都宮方面に向つて運転し、途中埼玉県春日部市付近の食堂で小憩の後、さらに運転進行したのであるが、その際右Aに執拗に要求されて自己の運行管理する前記自動車の運転を右Aに委ね、自らは助手席に同乗して同所より宇都宮方面に向けて進行させたが、被告人としては、右Aが法定の運転資格がなく、運転技術も未熟であることを知悉していたのであるから、こういつた場合当該自動車の運行を管理する自動車運転者としては、路面の状況、交通量、進行速度等諸般の状況に深く注意を払い、右Aの技倆の程度に即し安全な速度と方法による運転を指示し、要すればその運転の中止を命じて自己と交替する等、随時適切な指示、助言を与え、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然助手席に横になり、送り状を見る等して、右Aの運転を放任した過失により、右Aが、同日午後三時四〇分頃栃木県下都賀郡a町大字bc番地先国道四号線上を宇都宮方面に向つて時速約五五キロメートルで進行しつつ、前方約四〇メートル先道路右端付近にB(当時四年)外三名の佇立するのを認めながら、対向車に注意を奪われ、右幼児らの動向に注意を払わず、前記Bが進路前方にかけ出すのを約三・七メートルに迫つてはじめてこれに気づき、急ブレーキをかけるといつた拙劣な運転操作を行い、そのため前記自動車右側前部フェンダーおよび右側後輪フェンダー前部を右Bに 先国道四号線上を宇都宮方面に向つて時速約五五キロメートルで進行しつつ、前方約四〇メートル先道路右端付近にB(当時四年)外三名の佇立するのを認めながら、対向車に注意を奪われ、右幼児らの動向に注意を払わず、前記Bが進路前方にかけ出すのを約三・七メートルに迫つてはじめてこれに気づき、急ブレーキをかけるといつた拙劣な運転操作を行い、そのため前記自動車右側前部フェンダーおよび右側後輪フェンダー前部を右Bに 前記Bが進路前方にかけ出すのを約三・七メートルに迫つてはじめてこれに気づき、急ブレーキをかけるといつた拙劣な運転操作を行い、そのため前記自動車右側前部フェンダーおよび右側後輪フェンダー前部を右Bに激突させたうえ、右側後輪で轢過するに至らせ、よつて同所において同児を頭部挫滅により即死するに至らせたものである。」というにある。(2) そして、右事実のうち、冒頭より自動車の運転をAに委ね自らは助手席に同乗してAが宇都宮方面に向けて進行させたというところまでの事実、Aが運転してa町大字bc番地先国道四号線上を時速約五〇キロメートルで宇都宮方面に向つて進行中、自車の右側前部フェンダー及び右側後輪フェンダー前部をB(当時四年)に衝突させ、右側後輪で轢過し、頭部挫滅により即死させた事実、右Bは外三名位の幼児と右国道右端付近で遊んでいるうち、その兄を呼んで来るため国道の反対側にある自宅に行くつもりでかけ出した際に事故にあつた事実及び右事故発生の際、被告人が助手席に横になつて送り状を見るなどしていて、Aの運転に関与することがなかつた事実は、原審及び当審において取り調べた証拠により認めることができるが、控訴趣意に対する判断において説明したとおりの理由により被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書中の事故発生の具体的状況に関する各供述が信用できないものであるとすれば、司法警察員作成の実況見分調書により、被害者Bに衝突した地点が幅員一〇・一メートルの国道の右端(自動車の進行方向に向つて)より、六・五メートルの地点であり、右衝突地点より二メートル位北方に進んだ地点より一〇・八メートル位の長さの一条のスリップ痕が残されていることが認められることから推して、自動車を運転していたAが、右衝突地点からある程度手前で右被害者が道路中央に向つてかけ出して来るのに だ地点より一〇・八メートル位の長さの一条のスリップ痕が残されていることが認められることから推して、自動車を運転していたAが、右衝突地点からある程度手前で右被害者が道路中央に向つてかけ出して来るのに気付き、急ブレーキをかけたことは間違いないとしても、Aが最初どの地点で被害者の存在を認めたか、その際被害者はどのような状況にあつたかをはじめとして、両者が衝突するに至るまでの具体的状況を認めるに足りる証拠はないことに帰し、本件事故が、直接的にはAの過失によるものかそれとも不可抗力によるものかといらことも明うかではないことになり、予備的訴因の業務上過失致死の事実は、結局、この点において、その証明が十分でないということにならざるを得ない。 ないとしても、Aが最初どの地点で被害者の存在を認めたか、その際被害者はどのような状況にあつたかをはじめとして、両者が衝突するに至るまでの具体的状況を認めるに足りる証拠はないことに帰し、本件事故が、直接的にはAの過失によるものかそれとも不可抗力によるものかといらことも明うかではないことになり、予備的訴因の業務上過失致死の事実は、結局、この点において、その証明が十分でないということにならざるを得ない。(3) それのみならず、本件の場合のように、正規の運転免許を有する運転手が、これを有しない他の者が自己に代つてハンドルを握つて運転することを容認し、右の他の者が運転中に過失によつて事故を発生させた場合、正規の運転免許を有する運転手が、特段の事情のない限り、道路交通法第一一八条第一項第一号の罪の幇助犯の責を負らことは是認されるとしても、右以上に、右の他の者が運転するに任せこれを放任したことが、常に正規の運転免許を有する運転手の業務上の過失にあたり、人身事故の発生した場合に、右運転手が、実際に運転をしていた他の者とは別に、独自の立場において刑法第二一一条の業務上過失致死傷罪の責を負うということは、にわかには是認できないことであるといわなければならない。何となれば、右運転手は、当該自動車の運行を管理する立場にあつたには違いないが、現実に発生した事故との関係においてこれを見た場合、実際に運転をしていない右運転手自身が常に当該事故の発生を予測することができ、これを防止することができる立場にあつたとは限らないし、これを関 いが、現実に発生した事故との関係においてこれを見た場合、実際に運転をしていない右運転手自身が常に当該事故の発生を予測することができ、これを防止することができる立場にあつたとは限らないし、これを関係者の意思の点より見ても、正規の運転免許を有しないのにこれを有する運転手をさし措いて運転をしている他の者は、自己の運転中に発生した事故についての刑事上の責任を自己に負うつもりで運転しているのが、むしろ通常であるということができるからであり、<要旨第二>正規の運転免許を有する運転手がその運行を管理している車の運転を運転免許を有しない他の者に委ねた</要旨第二>後、その運転するままに放任したことについて、刑事上の過失責任を問われるためには、実際に他の者に運転を委ねてみた結果、右他の者の運転技術が拙劣であるとか予想外に飲酒の影響を受けているとかの事実が明らかとなり、その者に運転を継続させることが事故発生につながることが明らかに予想され、その運転を中止させて運転手自らが運転にあたることを相当とするような事情のあつた場合、あるいは、他の者が運転免許を有しないことを理由として自分が運転することを拒んだのに、運転手が強制してこれに運転させたとか、右他の者から特別の依頼を受けたため、もしくは運転手が右他の者の運転を指導すべき職務を有していたとかの理由により、運転手が右の他の者に対し運転について指示、助言等を与えるべき立場にあり、かつまた現実に発生した事故が、運転手の指示、助言あるいは運転手自らがハンドルを操作すること等により避けることができる性質のものであつたとかいうような、特殊な事情のあつたことを必要とするものといわなければならない。 か、右他の者から特別の依頼を受けたため、もしくは運転手が右他の者の運転を指導すべき職務を有していたとかの理由により、運転手が右の他の者に対し運転について指示、助言等を与えるべき立場にあり、かつまた現実に発生した事故が、運転手の指示、助言あるいは運転手自らがハンドルを操作すること等により避けることができる性質のものであつたとかいうような、特殊な事情のあつたことを必要とするものといわなければならない。然るに、本件の場合は、前記(2)において説明したとおり、事故発生の具体的状況を確認することができないのであるから、現実に うような、特殊な事情のあつたことを必要とするものといわなければならない。然るに、本件の場合は、前記(2)において説明したとおり、事故発生の具体的状況を確認することができないのであるから、現実に発生した事故そのものが、被告人においてその発生を予測することができ、被告人のAに対する指示、助言その他の行為によつて避止できる性質のものであつたかどうかがそもそも明らかでないのみならず、当裁判所が信用できるものと認める被告人の原審及び当審公判における各供述によれば、被告人が運転免許を有しない助手のAに運転させるに至つたのは、昼食後春日部を出発する際に、Aが先に運転席を占拠していて、被告人に対し自己に運転させることを執拗に要求したことに因るものであつて、被告人が進んでAに運転させたものではなく、Aは、当時飲酒していたわけでもなく、春日部より事故現場のa町に至るまで所要時間にして一時間四〇分ないし二時間の長距離のところを特段の問題を起すこともなく運転して行くことができた者で、運転技術のとくに拙劣であつた者とは認められず、事故現場は、直線平坦な国道上であつて、運転上特別に注意を払わなければならないような事情がこれにあつたわけでもなく、これを要するに、被告人がAの運転行為を放任しないでこれに介入しなければならないような特殊な事情のあつたことは認められないのであるから、被告人が、当該自動車の運行を管理する立場にあつたにかかわらず、Aの運転するに任せたことが、民事上被害者側から損害賠償責任を問われる原因になることはあるとしても、そのことが刑法第二一一条の業務上過失致死傷罪における過失にあたるということは、是認できないことである。(4) 以上の次第で、予備的訴因として主張された事実は、右のいずれの点よりしても犯罪の証明の十分なものとはいえず、これを容認 であるから、被告人が、当該自動車の運行を管理する立場にあつたにかかわらず、Aの運転するに任せたことが、民事上被害者側から損害賠償責任を問われる原因になることはあるとしても、そのことが刑法第二一一条の業務上過失致死傷罪における過失にあたるということは、是認できないことである。(4) 以上の次第で、予備的訴因として主張された事実は、右のいずれの点よりしても犯罪の証明の十分なものとはいえず、これを容認 失致死傷罪における過失にあたるということは、是認できないことである。(4) 以上の次第で、予備的訴因として主張された事実は、右のいずれの点よりしても犯罪の証明の十分なものとはいえず、これを容認することはできない。結論 本件公訴事実は、結局、犯罪の証明が十分でないことに帰するから、被告人に対しては、刑事訴訟法第三三六条により無罪の言渡をすべきものとし、主文のとおり判決する。(裁判長判事江里口清雄判事上野敏判事横地正義)

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