【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 被告人を懲役六月に処する。 この裁判が確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。 理 由 本件控訴の趣意は、弁
主 文 原判決を破棄する。 被告人を懲役六月に処する。 この裁判が確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。 理 由 本件控訴の趣意は、弁護人木川恵章作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、 これに対する答弁は、検察官清澤義雄作成名義の答弁書記載のとおりであるから、 これらを引用する。 控訴趣意中事実誤認の主張について 所論は、原判決は、被告人が昭和五七年一月一〇日長野県佐久市内のA所有の畑 とこれに隣接する被告人所有の畑との境界に所在する通路上に以前から埋設されて いた自然石五個を掘り起してその場から除去し、さらに同日ころから同年二月初旬 ころまでの間に右通路を耕作して畑とし、もつて境界標を除去するなどして右土地 の境界を認識することができないようにしたと認定したものであるところ、被告人 は、原判示の石を撤去し、かつ通路を耕して畑とした事実は認めるが、右石及び通 路は真正な境界標等でないばかりか、「現に存する境界」又は「事実上ある境界」 でもなかつたし、被告人が右石を撤去し、通路を耕作するにあたつても、それらを 「現に存する境界」とも、また「事実上ある境界」とも考えていなかつたものであ るから、被告人には境界毀損の故意もなかつたものであるとして、原判決には判決 に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。 ところで、原審記録及び当審事実取調の結果によれば、被告人が原判示の各日時 ころ、原判示の行為に及んだことは被告人が捜査及び原審公判の各段階において自 認し、かつ関係証拠によつても優に肯認し得るとこ<要旨第一>ろ、刑法二六二条の 二にいう「土地の境界」とは、法律上あるべき境界ではなく、事実上ある境界を意 味し、</要旨第一>したがつて古くから一般に承認されてきた境界は法律上あるべき 境界と るとこ<要旨第一>ろ、刑法二六二条の 二にいう「土地の境界」とは、法律上あるべき境界ではなく、事実上ある境界を意 味し、</要旨第一>したがつて古くから一般に承認されてきた境界は法律上あるべき 境界と一致していなくても同条によつて保護されることは明らかであるから、原判 示の自然石及び通路が右にいう境界を画する役目を果たしていたものである限り、 被告人の原判示行為は、同条にいう「境界標」及び「境界標に準ずるもの」を移 動、損壊して土地の境界を認識すること能はざるに至らしめたものというほかはな い。 <要旨第二>そこでこのような視点から、原審記録及び当審事実取調の結果を検討 すると、</要旨第二> (一) 原判示の通路は被告人がこれを耕作して畑と化するかなり以前から存 し、当時は芝草様の草に覆われ、ところどころに石が埋設されていたこと (二) 佐久地方においては畑と畑との境界は自然石や通路で画するのが通常で あり、本件の石や通路は、少なくとも外形上はこれを挟んで東側に位置するA所有 の畑と西側に位置する被告人所有の畑との境界の態をなしていたこと (三) 被告人所有の畑とその西側に隣接するB所有の畑との間及びA所有の畑 とその東側に隣接するC所有の畑との間にはいずれも前示(一)記載の通路とほぼ 同様の通路がありこれがそれぞれの境界となつていること (四) 昭和五五年五月ごろまではA所有の畑と被告人所有の畑との境界につい て関係当事者間に表立つた紛争はなかつたが、そのころ佐久市が右畑付近の土地の 国土調査を実施するため当事者間で境界を定めるよう指示したころから両者の間に 紛争が生じ、昭和五六年五月一五日国土調査担当の市職員、被告人及びAほか周辺 土地の所有者らが立ち会いのうえ、現場において境界について協議がなされた際、 当初被告人は原判示通路及び自然石を境界と認めることを が生じ、昭和五六年五月一五日国土調査担当の市職員、被告人及びAほか周辺 土地の所有者らが立ち会いのうえ、現場において境界について協議がなされた際、 当初被告人は原判示通路及び自然石を境界と認めることを拒み、公図をもとにして 境界はより東側である旨主張したが、被告人の叔父にあたるDらから、自然石及び 通路の現状を無視して境界は定められない旨説得され、不承不承通路及び自然石を 基準にした境界の設定に合意し、右合意に従つてポリ杭を打設したが、約二ケ月後 には一方的に右合意の無効を高柳に通告するとともに右ポリ杭を引き抜いてしまつ たこと を認めることができる。ところで、被告人は、原判示通路は当初被告人所有の畑 とA所有の畑との境界をなしていた通路とは異なり、昭和五〇年ごろから漸次Aに より侵奪されて被告人所有の畑の中へと押されて出来上つたものであるというので あるが、前出のDによれば同人がこの土地を知るようになつた昭和二五、六年ごろ から、また被告人の先々代及び先代から依頼されて被告人所有の畑を耕作していた Eによれば同人が耕作するようになつた昭和三九年ごろから、またA所有の畑の東 側に隣接する畑の所有者であるCによれば同人が右の畑を耕作し始めた昭和二一年 ごろから、原判示通路及びそれに埋設されていた自然石の形状、位置には変化がな かつた旨いずれも原審公判廷において証言しているところであつて、被告人の前示 弁解を認めるに足る証拠はない。 以上認定の事実によれば、原判示通路及びこれに埋設されていた自然石は法律上 あるべき境界であつたかどうかはともかくとして、少なくとも世人によつて境界と 認められてきたところの「事実上ある境界」にあたることは明らかであるから、被 告人の原判示所為は刑法二六二条の二の構成要件を充足するというほかはない。 しかも、被告人が原判示の所為に出たのは、原判 と 認められてきたところの「事実上ある境界」にあたることは明らかであるから、被 告人の原判示所為は刑法二六二条の二の構成要件を充足するというほかはない。 しかも、被告人が原判示の所為に出たのは、原判示の通路及び自然石をそのまま にしておくとこれが法律上あるべき境界として確定されることをおそれたがためで あつたことは被告人自身も認めているところであつてみれば、被告人には原判示の 通路及び自然石が前示の「事実上ある境界」にあたり、これを移動、損壊すること によつて事実上ある境界を認識しえなくなることをも知悉していたと認めるに十分 であるから、境界毀損罪の犯意にも欠けるところはない。 したがつて、原判決に事実誤認はなく所論は採用することができない。 控訴趣意中量刑不当の主張について 所論は、仮りに被告人が有罪であるとしても、原判決の量刑は重きに過ぎるとい うものである。 ところで、被告人の本件所為は、本来最終的には民事裁判により確定されるべき 境界につきその手続を無視したばかりでなく、民事裁判が正しく機能する前提を脅 かす行為であることは原判決の指摘するとおりであつて、その意味において被告人 の刑責は必ずしも軽いものとはいえない。また昭和五六年五月市職員の立会のもと に被告人所有の畑とA所有の畑との間に原判示通路を基準として定めようとした境 界線によれば、被告人所有の畑の実測面積がA所有の畑の実測面積に比しそれぞれ の公簿上の面積と対比していわゆる縄のびが少なく、長野地方法務局佐久支局備え つけの旧土地台帳付属地図から算出される両者の面積比によつても被告人所有の畑 の面積がA所有の畑の面積に比して小さくなることも事実ではあるが、右地図は測 量技術等が劣つていた明治二二年ごろ作成されたもので同地図記載の面積と現状の 実面積が相違する場合の多いことが記録のうえからも明らかな A所有の畑の面積に比して小さくなることも事実ではあるが、右地図は測 量技術等が劣つていた明治二二年ごろ作成されたもので同地図記載の面積と現状の 実面積が相違する場合の多いことが記録のうえからも明らかなところであつてみれ ば、前示のような被告人所有の畑の縄のびが少ない等の事情があるからといつて、 直ちに被告人のように原判示通路が法律上あるべき境界と一致しないと考えること は誤りであり、被告人の本件行為が是認されるべきいわれもない。本件の刑事裁判 にあつては、民事裁判による境界の確定とはその手続も境界の概念も異にし、法律 上あるべき境界を確定することを目的とするものではないのであり、右の真正な境 界の確定は民事裁判による早急な解決をまつ以外にないと思料されるが、被告人が 縄のびが少ない等の状況を踏まえて原判示通路を法律上あるべき境界ではないと考 えるに至つた心情等をも考慮すれば、原判決の量刑は重きに失するものといわざる を得ず、この点において論旨は理由があることに帰する。 よつて、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但 書に則り、直ちに当裁判所において自判すべきものと認め、さらに次のとおり判決 する。 原判決の認定した事実に原判決挙示の法令を適用し、その刑期の範囲内において 被告人を懲役六月に処し、刑法二五条一項一号を適用して、この裁判が確定した日 から二年間右刑の執行を猶予し、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法一八一 条一項但書により被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 高木典雄 裁判官 小林充 裁判官 奥田保)
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