主文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中400日をその刑に算入する。 甲府地方検察庁で保管中のサバイバルナイフ1丁(平成18年領第424号符号1)及び鞘1個(同号符号7)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は, かねてから自分は高校時代の担任教師であったA(当時59歳。以下「被害者」という。)によって人工的に精神病にさせられたなどと思い込み,被害者を恨んでいたが,平成18年3月1日ころ,当時投与を受けていた精神病薬の量が既に致死量に達し,自分は間もなく死亡してしまうなどとも思い込むようになったことから,自分が死亡するにもかかわらず被害者が生き続けるのは許せないなどと考え,被害者を殺害することを決意した。 (罪となるべき事実)被告人は,第1平成18年3月12日午後8時50分ころ,山梨県笛吹市内の路上において,殺意をもって,被害者に対し,所携のサバイバルナイフ(刃体の長さ約25.5センチメートル。甲府地方検察庁平成18年領第424号符号1)で被害者の胸部及び腹部等を多数回にわたり突き刺し,よって,同日午後10時24分ころ,甲府市内のB病院において,同人を右胸腔内出血による失血,右肺刺切による呼吸障害及び胃腸切破による汎発性腹膜炎の競合のため死亡させて殺害し,第2業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時場所において,前記サバイバルナイフ1本を携帯したものである。 なお,被告人は,本件各犯行当時,妄想性障害のため心神耗弱の状態にあったものである。 (証拠)<略>(法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法199条に,判示第2の所為は行為時においては平成18年法律第41号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に,裁判時においては同改正後の同法32条5号,22条にそれぞれ該当するとこ 199条に,判示第2の所為は行為時においては平成18年法律第41号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に,裁判時においては同改正後の同法32条5号,22条にそれぞれ該当するところ,判示第2の罪については経過規定が存しないので同改正後の同法32条5号,22条を適用し,各所定刑中判示第1の罪については有期懲役刑を,判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,判示各罪はいずれも心身耗弱者の行為であるから刑法39条2項,68条3号により法律上の減軽をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役8年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中400日をその刑に算入し,甲府地方検察庁で保管中のサバイバルナイフ1丁(平成18年領第424号符号1)は判示第1の殺人の用に供した物,甲府地方検察庁で保管中の鞘1個(同号符号7)は上記サバイバルナイフの従物であり,いずれも被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれらを没収し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書により被告人に負担させないこととする。 (弁護人の主張に対する判断) 弁護人は,本件各犯行当時,被告人は,統合失調症・妄想性障害により行為の是非善悪を弁別したり,それに従って行動したりする能力を欠いていたものであって,心神喪失状態の下での犯行として無罪である旨主張する。 犯行前後の状況等証拠により認められる犯行前後の状況等は,以下のとおりである(なお,特に記載のない日付については平成18年のものである。)。 (1)被害者に人工的に精神障害にさせられたなどと考えるまでの経過 被告人は,中学校卒業後,昭和54年4月にC ,以下のとおりである(なお,特に記載のない日付については平成18年のものである。)。 (1)被害者に人工的に精神障害にさせられたなどと考えるまでの経過 被告人は,中学校卒業後,昭和54年4月にC高校に進学したが,同校の卒業式を控えた昭和57年2月ころから独りごとや不眠の症状が出現し,同月下旬ころには,学生服を刃物で切って川に流したりするなどの奇行に及ぶようになった。被害者は,当時被告人のクラスの担任教師であり,卒業式の前日も被告人を自宅に泊め,被告人の相談に乗るなどしていた。被告人の症状は卒業式当日も改善せず,その後,同年3月6日,被告人は,精神分裂病(統合失調症)と診断され,精神科の病院に入院した。 被告人は,同病院に約3か月弱の間入院した後に退院し,以後は通院を続けるようになったが,昭和59年10月ころになると,C高校の教師に対する恨みを口にするようになり,昭和61年11月には,木刀を持ってC高校に押しかける事件を起こすなどした。そして,そのころから,被告人は,自分はC高校によって精神障害にされた,卒業式の前日に被害者宅に泊まった際,被害者から何らかの方法で人工的に精神障害にさせられたなどと考え,被害者に恨みを抱くようになった。被告人は,その後も,被害者の転任先の高校に押しかけるなどしたり,被害者を相手に精神病の治療に協力することを求める調停を申し立てたりするなどしていた。 (2)被害者に対する殺害動機を形成するまでの経過被告人は,昭和57年の入退院の後も,精神科の病院への通院を続け,精神病薬の投与を受けていたが,平成18年3月1日,主治医から抗精神病薬を注射してもらった際,これまで感じたことのない強烈な体の重苦しさやだるさを感じた。被告人は,自分が投与された抗精神病薬の量は,かつて書物で読んだことがある量を上回っているのでは 治医から抗精神病薬を注射してもらった際,これまで感じたことのない強烈な体の重苦しさやだるさを感じた。被告人は,自分が投与された抗精神病薬の量は,かつて書物で読んだことがある量を上回っているのではないか,もはや自分は死亡してしまうのではないかなどと勝手に解釈し,さらに,前記のとおり恨みに思っていた被害者について,自分が死んでしまうのに自分を精神障害にした被害者が生きているのは許せない,自分が生きている間に被害者を殺してやろうなどと考えるようになった。 (3)殺害動機形成後,殺害を実行するまでの経過被告人は,被害者の殺害を思い立つと,確実に殺害するためには刃物を使うのがよいなどと考え,3月3日ころ,本件凶器となるサバイバルナイフを購入した。また,被害者の家族を巻き添えにしないようにするとともに,被害者の家族に静止されないようにするため,被害者の家に押しかけるのではなく,携帯電話で被害者を家の外に呼び出した上,殺害する方法をとることとした。さらに,被告人は,3月3日ころ,殺人事件を起こせば勤め先に迷惑がかかってしまうなどと考え,当時アルバイトをしていたパチンコ屋をやめ,3月5日には,当時社員として勤務していたホテルについても退職した。 このような被害者殺害に向けての準備を進める一方,被告人は,実際に人を殺すのは怖い,自分が投与された抗精神病薬の量でも死なずにすむ可能性があるなら,被害者を殺すのは止めようなどと考えたことから,3月8日ころ,抗精神病薬の致死量について複数の医師に電話で問い合わせるなどした。問い合わせを受けた医師らは,いずれも被告人が尋ねた程度の量で死亡の危険が生じるなどとは回答しなかったが,被告人は,医師らからの回答を曲解し,自分は近いうちに確実に死んでしまうなどと思い込み,被害者を殺害する意思を強くした。 3月9日の 人が尋ねた程度の量で死亡の危険が生じるなどとは回答しなかったが,被告人は,医師らからの回答を曲解し,自分は近いうちに確実に死んでしまうなどと思い込み,被害者を殺害する意思を強くした。 3月9日の昼間ころ,被告人は,被害者の殺害を実行に移すため,サバイバルナイフを隠し持って被害者宅へと向かった。しかし,再び人を殺すのが怖くなったことからしばらく被害者宅周辺をさまようなどし,同日午後6時ころ,被害者を呼び出すために携帯電話で被害者宅に電話をかけたが,被害者の家族から,被害者が不在で午後10時ころになるまで帰らないと告げられたことから,その日は被害者を待つことはせず,帰宅した。 3月11日(土曜日)の午前中,被告人は,サバイバルナイフを隠し持って再び被害者宅へと向かったが,被害者宅付近に到着すると,この日も殺害を実行するかについて迷った。被告人は,その後昼過ぎころに被害者宅の様子をう かがったところ,若い男性(被害者の長男)が洗車をしていたことから,被害者を殺害しようにもその男性に取り押さえられ失敗してしまうなどと考え,殺害を断念して帰宅した。 3月12日(日曜日),被告人は,午前4時ころに目を覚まし,その後,夕方ころまでかけて,被害者の殺害を実行するかどうかについて迷い続け,結局,同日午後6時30分ころ,被害者は日曜日であれば家にいるであろうし,次の日曜日まで自分の命が持つかどうかは分からないなどと考え,被害者を殺害するためにバイクに乗って被害者宅へと向かった。被告人は,被害者宅から少し離れた神社にバイクを止めると,まず近くのラーメン屋で食事をとったが,その際,自分の家族のことを考えるなどして再び殺害を実行するかどうかを迷い,同日午後7時20分か30分ころ,ラーメン屋を出てバイクが止めてある神社に戻り,サバイバルナイフを腰に付けるなど とったが,その際,自分の家族のことを考えるなどして再び殺害を実行するかどうかを迷い,同日午後7時20分か30分ころ,ラーメン屋を出てバイクが止めてある神社に戻り,サバイバルナイフを腰に付けるなどして被害者宅へと向かってからも,再び迷いが生じて20分か30分ほど被害者宅の周辺をうろつくなどした。その後,被告人は,被害者を呼び出すべく携帯電話をかけようと被害者宅の近くの街灯の下へと移動したものの,なかなか電話を掛けることができず,しばらくの間,その場に座るなどしていた。すると,同日午後8時50分ころ,被告人の様子を見かけて不審に思った近所の人からの電話連絡を受けて,被害者が,被害者宅から出てきて,被告人に声を掛けてきたことから,被告人は,体格や声などから被害者であることを確認し,今,被害者を殺すしかないなどと被害者に対する殺意を固め,本件犯行に及んだ。 (4)殺害状況等被告人は,被害者を殺害する決意を固めると,立ち上がりざま,腰に付けたサバイバルナイフを鞘から抜き,「なぜ,俺を精神障害にした。」などと叫びながら被害者に近づき,被害者の腹部を狙ってサバイバルナイフを思いきり突き刺し,その後も繰り返し腹をめがけてサバイバルナイフを数回突き刺した。 そのうち,被害者が逃げるように離れたことから,被告人は,被害者を追いか け,路上に倒れた被害者に対し,とどめを刺すべく何度もその体をサバイバルナイフで突き刺した。被害者は,被告人に刺されながら,自宅のほうから見ていた家族に対し,「警察を呼べ。救急車を呼べ。」などと叫んでいたが,そのうち両手で頭を抱えたまま血だらけになって動かなくなったので,被告人は,被害者が死んでしまったか,生きていたとしてももう助からないだろうと考え,その場を離れた。 (5)犯行後の行動被告人は,現場から立ち去る際,不要にな ま血だらけになって動かなくなったので,被告人は,被害者が死んでしまったか,生きていたとしてももう助からないだろうと考え,その場を離れた。 (5)犯行後の行動被告人は,現場から立ち去る際,不要になったサバイバルナイフを犯行現場に面した民家の庭に投げ捨て,警察に自首をしようと考えて携帯電話で110番通報をした。しかし,うまくつながらなかったことなどから,近くのガソリンスタンドに赴いて110番通報を要請し,駆けつけた警察官に逮捕された。 (6)被告人の犯行当時の精神状態D医師作成の鑑定書及び同人の証言(以下,それぞれ「D鑑定」,「D証言」といい,両者を合わせて単に「D鑑定」ということがある。)や捜査段階で行われた簡易鑑定結果(甲26),被告人供述等によれば,被告人は,本件犯行当時,妄想性障害に罹患していたと認められるほか,被告人が長年にわたって被害者によって人工的に精神障害にさせれたなどと思い込んでいた点や,3月1日ころに抗精神病薬の投与量が致死量に達し,自らの死が間近いなどと思い込んだ点は,いずれも妄想性障害に基づく妄想であったと認められる。 被告人の責任能力について以上の各事情及びD鑑定を総合し,被告人の責任能力について検討する。 (1)前記のとおり,被告人は,妄想性障害に基づき,被害者に人工的に精神障害にさせられたという妄想や,自らの死が間近いなどという妄想などを生じ,これを前提として被害者に対する殺害動機を形成したものと認められるところ,この殺害動機の了解可能性を検討すると,恨みの原因となった人工的に被害者に精神障害にされたとの認識を持つに至った思考過程は,通常人からみると全 く了解ができないものである。また,自らの死が間近いとの認識を持つに至った思考過程について見ても,確実な根拠もなく,精神病薬に関する断片的な知識等を元に つに至った思考過程は,通常人からみると全 く了解ができないものである。また,自らの死が間近いとの認識を持つに至った思考過程について見ても,確実な根拠もなく,精神病薬に関する断片的な知識等を元に自己診断をした結果,精神病薬が致死量に達しているなどと勝手に解釈し,信じ込んだというものであって,理解しきれるものではない。そして,被告人が,そのような不自然・不合理な思考過程を経て形成された動機の下,執拗性や残忍性という面で常軌を逸している本件犯行に及んでいることをみれば,被告人は,当時罹患していた妄想性障害に基づく妄想に強く影響された結果として本件犯行を敢行したと認められる。このようにみれば,被告人は,犯行当時,是非善悪を判断する能力やそれに従って行動する能力が相当減退していたと言わざるを得ない。 (2)もっとも,弁護人が主張するように被告人が犯行当時心神喪失の状態にまで陥っていたかどうかについてみると,D鑑定も指摘しているとおり,責任能力の存在をうかがわせる事情として以下の点を指摘することができる。 ア殺害動機を形成する過程で,自ら打算的・功利的な考え方をしていること前記のとおり被告人は,妄想性障害に基づく妄想に強く影響されて殺意を形成し,本件犯行に及んだものではあるが,被告人が,殺害動機を形成する過程に関し,「自分が死ぬと思ったからやった。」,「(自分が死ぬと思う以前には),被害者を恨んでいたが,殺してしまうと自分の身が破滅すると思ったので,殺すことまでは考えていなかった。」,「今回の事件を起こすまでは,自分の将来があるから被害者を殺そうとは考えなかった。死ぬと思ったからやった。」などとも述べていることからすれば,妄想のみから直接的かつ自動的に被害者に対する殺意が導かれたのではなく,被告人において,妄想を前提として自分なりの価値判断 考えなかった。死ぬと思ったからやった。」などとも述べていることからすれば,妄想のみから直接的かつ自動的に被害者に対する殺意が導かれたのではなく,被告人において,妄想を前提として自分なりの価値判断を行い,最終的に自分が死ぬから被害者を殺すという打算的・功利的な考え方をした結果,被害者に対する殺害動機を形成したものとみることができる。そのような限度において,被告人は,人を殺してはならないという規範の問題に直面していたと見ることができる のである。 イ殺害動機を形成した後,最終的に殺害を実行するまでの間,繰り返し逡巡するなどしていることまた,被告人の犯行直前の行動等をみると,前記のとおり被告人は,3月1日に被害者を殺害しようと思い立ってから,3月12日に被害者の殺害に及ぶまでの間,被害者を殺害することについて繰り返し逡巡しており,犯行当日の行動をみても,早朝に目覚めて以降,夕方までかけて殺害を実行するかどうかを悩み,実行を決意した後も,なかなか実行に移すことができず,結局,被害者の方から声を掛けてきたことをきっかけに犯行に及んだという経過が認められる。このような経過からは,犯行当時,被告人の被害者に対する恨みなどの妄想自体は,被告人に強く固着し,訂正不可能な状態に至っていたとみることができるが,被害者に対する殺意については,本件犯行の直前になるまで固定化・確定化しておらず,被告人において,まさに犯行の直前の段階まで,殺人罪に関する規範の問題に直面し,葛藤し続けていたものとみることができる。このことは,被告人自身が,殺害行為に及ぶことを逡巡した理由として,「殺人者になってしまうことが怖かった」,「犯行に及ぶことにより家族に迷惑がかかると思いました。親は地元にいられなくなると思いました。妹は,勤めていた会社を首になってしまうのではない した理由として,「殺人者になってしまうことが怖かった」,「犯行に及ぶことにより家族に迷惑がかかると思いました。親は地元にいられなくなると思いました。妹は,勤めていた会社を首になってしまうのではないかと思いました。自分のやろうとする罪が最大の罪であると思って,迷っていました。」などと繰り返し供述し,自らが行おうとしている行為が殺人罪という犯罪に当たることはもちろん,それが重罰に値し,自分自身や親族等の関係者に対しても大きな影響を及ぼす問題に発展することが相当程度分かっていたことを認めていることによっても裏付けられている。 これに加え,被告人は,前記のとおり,被害者を殺害しようなどと考えた後,実際に犯行に及ぶまでの間,凶器として殺傷能力の高いサバイバルナイフを購入したり,殺害方法として被害者を家の外に呼び出して殺害する方法 をとることを考えてみたり,被害者の息子が在宅する日には殺害の実行に及ぶのを避けてみたり,サバイバルナイフを外からみえないようにすべくコートを着用して被害者宅に向かったり,不審に思われないように被害者宅から離れた場所にバイクを止めたりするなど,被害者の殺害を確実に遂行できるように慎重かつ合目的的な行動をとっている。また,犯行に先立ち,迷惑を掛けるとよくないなどと考え,当時勤めていた職場等を退職するなどしている。これらの行動も,被告人において,自らが行おうとしている行為が罪に問われることを十分に認識していたことの裏返しであると言え,本件犯行当時,被告人が罪の意識等を有していたことをうかがわせる事情となっている。 ウ犯行後も罪の意識を持ち合わせていることをうかがわせる行動をとったり,反省の言葉を述べていること同様に,被告人は,本件犯行直後,自ら警察に110番通報をするなどして自首をしている。この点も,被告人自身が「罪は 意識を持ち合わせていることをうかがわせる行動をとったり,反省の言葉を述べていること同様に,被告人は,本件犯行直後,自ら警察に110番通報をするなどして自首をしている。この点も,被告人自身が「罪は罪で償おうと思って,自首しました。」などと述べているとおり,被告人が犯行当時から罪の意識等を持ち合わせていたことを示している。 また,被告人は,本件犯行後,捜査や公判の段階で,被害者の遺族や自分の家族に申し訳ないことをしたと述べるなどしている。自らの死が間近に迫っているという考えが思い違いであったことを犯行後に認識した上での発言であって,深い反省に基づくものとは言いがたいが,被告人が本件各犯行について一定程度の罪の意識や反省の態度を示しているものであり,犯行当時の罪の意識等の存在を推認させる一事情と言える。 (3)これらの事情をも合わせ見れば,本件は,妄想性障害に基づく妄想に強く影響された了解不能な動機の下に行われた犯行であって,本件当時,被告人が是非善悪を判断する能力やそれに従って行動する能力が著しく減退していたと見るべきではあるものの,未だ妄想によって思考や行動を完全に支配された状態にまでは陥っていなかったのであって,本件犯行当時,被告人に是非善悪を弁 別し,それに従って行動する能力が全く欠けていたとはいえず,被告人は,心身の喪失の状態にはなかったと認めるのが相当である。 (4)弁護人は,被告人の逡巡や功利的な考え方は見せかけのものにすぎず,責任能力の根拠とはならないなどと主張している。しかし,前記のとおり被告人が殺害動機を抱いた後,何度も繰り返し犯行に及ぶことを逡巡していることや,その当時の心境等について被告人自身が明確に記憶,説明できていることなどに照らすと,実際に被告人が殺人罪の規範の問題に直面できていたとみるべきであって,これ 返し犯行に及ぶことを逡巡していることや,その当時の心境等について被告人自身が明確に記憶,説明できていることなどに照らすと,実際に被告人が殺人罪の規範の問題に直面できていたとみるべきであって,これらの逡巡が見せかけのものであるなどという見方が適当でないことは明らかである。 また,弁護人は,被告人の行為は,急性の錯乱状態等による犯行の場合と差異がないなどとも主張している。しかし,前記のとおり被告人が被害者に対する殺意を抱く過程で自分なりの価値判断をしていることや,被告人が被害者に対する殺意を抱いた後,実行に至るまでに繰り返し逡巡している事実に着目すれば,本件を,急性の錯乱状態等の下で妄想等に直接支配されて犯行に及んだような事例と同列に扱うことが適当でないことも明らかである。 よって,弁護人の主張は採用できず,被告人は,犯行時判示のとおり心神耗弱状態にあったものと認定した。 (量刑の理由) 本件は,妄想性障害に基づき,高校時の担任教師(被害者)に人工的に精神障害にされたとの妄想を抱いていた被告人が,さらに自分の死が間近いとの妄想も抱くに至り,自分が死ぬのに自分を精神障害にした被害者が生きているのは許せないなどと考え,被害者の殺害を決意し,被害者をサバイバルナイフで多数回突き刺して殺害した殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案である。 被告人は,被害者に対する殺意を抱くと,刃体の長さが約25.5センチメートルと長く,先端も鋭利な非常に危険で殺傷能力も高いサバイバルナイフを購入し,被害者の殺害に及んでいるし,被害者を呼び出すための携帯電話機等も準備 したり,サバイバルナイフをコートを着て隠したりするなど,事前に発覚しないように慎重に犯行に及んでいるのであって,計画性の認められる犯行である。 その殺害態様も,近寄ってきた被害者に対し, 準備 したり,サバイバルナイフをコートを着て隠したりするなど,事前に発覚しないように慎重に犯行に及んでいるのであって,計画性の認められる犯行である。 その殺害態様も,近寄ってきた被害者に対し,突然,サバイバルナイフを抜いて近づき,腹部を狙ってサバイバルナイフで複数回にわたって思い切り突き刺し,さらに,逃げる被害者を追いかけ,その胸腹部を中心に被害者が動かなくなるまでサバイバルナイフで滅多刺しにしている。被害者の遺体には,頭頚部を除くほぼ全身にわたって極めて多数の刺し傷が見られることからも明らかなように,被告人は,逃げようとする被害者を,容赦なく刺し続けたものであり,確定的な殺意に基づく執拗な犯行で,凄惨かつ残虐極まりない。 もとより被害者には何の落ち度もない。被告人にサバイバルナイフで突然切りかかられるなどした際の被害者の驚きや恐怖,肉体的苦痛には甚だしいものがあったと認められる。被害者は,生徒思いの教育熱心な教師として多くの教え子から慕われ,定年を間近に控えて今後は夫婦で旅行をするなど家族とも充実した時間を過ごそうとしていた矢先に,突如として教え子の一人である被告人によってその命を奪われたものであって,家族を,また被害者を慕う多数の教え子を残して死んでいかなければならなかった被害者の無念は,察するに余りある。 被害者の妻は,上記のような凄惨かつ残虐な犯行を目の当たりにさせられたものであって,その受けた衝撃には計り知れないものがある。同人は,法廷に証人として出廷し,現在の心境や,犯行を目撃した際に受けたショックについて証言した上,被告人に対して極刑を希望しているが,遺族らの処罰感情が非常に厳しいのは当然である。 以上からすれば,被告人の責任は相当重い。 もっとも,前記認定のとおり,本件は,妄想性障害に罹患していた被告人が,被害者 して極刑を希望しているが,遺族らの処罰感情が非常に厳しいのは当然である。 以上からすれば,被告人の責任は相当重い。 もっとも,前記認定のとおり,本件は,妄想性障害に罹患していた被告人が,被害者に人工的に精神障害にさせられたなどといった妄想に強く影響されて犯した犯行であって,心神耗弱状態での犯行と認められるから,被告人に対する刑罰は減軽しなければならない。 また,被告人は,犯行後,自ら110番通報をしたりするなどして自首をしているし,被害者遺族や自らの家族等に深刻な影響をもたらす行為をしてしまったことについては,被告人なりに反省や謝罪の態度を示している。 そのほか,情状証人として出廷した被告人の父親が,被告人に対する今後の監督と治療への協力を約束しているほか,弁護人を通じて,被害者遺族に対して現金500万円及びその所有する全ての不動産の提供を申し出るなどして被害弁償に努めていること,被告人には前科前歴がないことなど,被告人にとって酌むべき事情も認められる。 そこで,当裁判所は,以上の事情を総合考慮し,本件犯行は被害者やその遺族にしてみれば理不尽極まりないものであるが,上記のとおり,妄想性障害に罹患していた被告人が妄想に強く影響されて犯した犯行であり,被告人は犯行時心神耗弱状態にあったことからすれば,被告人の刑事責任は自ずと限られざるを得ず,被告人に対しては,主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑懲役10年,没収)平成19年7月19日甲府地方裁判所刑事部裁判長裁判官渡辺康裁判官矢野直邦裁判官福嶋一訓 申し訳ありませんが、提供されたテキストが不完全であるため、整形を行うことができません。完全なテキストを提供していただければ、整形を行います。
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