令和6年11月21日宣告福岡高等裁判所宮崎支部判決令和4年(う)第40号入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反、公契約関係競売入札妨害被告事件 主文 本件控訴を棄却する。 理由 第1 事案の概要本件は、被告人が、宮崎県日南市副市長として同市の指名競争入札参加者資格等審査委員会、公正入札調査委員会の各委員長を務める中、いずれも入札に先立ち、日南市役所本庁舎で、甲協会会長を務めていた乙株式会社の代表取締役丙に対し、①平成30年1月に「平成29年公共災第346号a 線道路災害復旧工事」の条件付一般競争入札及び「平成29年公共災第343号a 線道路災害復旧工事」の指名競争入札に関し、工事の入札に関する秘密事項である予定価格に近似する概ねの査定決定額を教示した入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(以下「官製談合防止法」という。)違反(原判示第1)、②令和元年11月に「令和元年公共災第148号b 線道路災害復旧工事」の指名競争入札に関し、工事の入札に関する秘密事項である予定価格に近似する概ねの査定決定額及び工法を教示した官製談合防止法違反、公契約関係競売入札妨害(原判示第2)のほか、③丙との間で、日南市発注の公共工事の指名競争入札で指名業者間の談合に参加しない丁株式会社を年度内の指名競争入札の指名業者から排除しようと共謀し、令和2年9月に「c 線道路改良工事」の指名競争入札から同社ほか1業者を除外し、戊有限会社に工事を落札させた官製談合防止法違反、公契約関係競売入札妨害(原判示第3 の指名業者から排除しようと共謀し、令和2年9月に「c 線道路改良工事」の指名競争入札から同社ほか1業者を除外し、戊有限会社に工事を落札させた官製談合防止法違反、公契約関係競売入札妨害(原判示第3)からなる事案である。 そして、本件控訴の趣意は、主任弁護人西田隆二、弁護人船木誠一郎、弁護人甲木真哉、弁護人新福宏共同作成の控訴趣意書と控訴趣意書(補充書)にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する(なお、主任弁護人は、第2回公判において、原判示第1、第2の各事実に関する控訴趣意書第4の2(3)末尾の「事実認定を誤っている」との主張、第4の4(5)末尾の「事実認定及びこれに対する評価を誤っている」との主張は、いずれも法令適用の誤りを前提とした主張であると釈明した。)。 第2 原判示第1、第2の各事実について 1 法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反の主張について論旨は、次のとおりである。すなわち、国家公務員法ないし地方公務員法における公務員の守秘義務違反罪の法定刑が1年以下の懲役又は50万円以下の罰金であるのに対し、官製談合防止法8条違反罪の法定刑は5年以下の懲役又は250万円以下の罰金と重い。そうすると、同条の「秘密」を国家公務員法や地方公務員法が定める「秘密」よりも広く解するのは相当ではなく、少なくとも行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)上の不開示情報でない限り、「秘密」には該当しないというべきである。そして、日南市においては、予定価格や工法は事前に通知・公表されるから、被告人が丙に教示したとされる「概ねの査定決定額」や「工法」は、情報公開法上の不開示情報に当たらず、仮に「秘密」に当たるとしても、「入札に関する秘密」には当たらない。したがって、それらが官製談合防止法 人が丙に教示したとされる「概ねの査定決定額」や「工法」は、情報公開法上の不開示情報に当たらず、仮に「秘密」に当たるとしても、「入札に関する秘密」には当たらない。したがって、それらが官製談合防止法8条にいう「予定価格その他の入札等に関する秘密」に該当し、それらを被告人が丙に教示した行為が、原判示第1の関係では同条に、原判示第2の関係では同条及び刑法96条の6第1項にいう「公正を害すべき行為」に該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。また、各公訴事実は、被告人が、丙に対し、指名競争入札に関する秘密事項である予定価格に近似する概ねの査定決定額(ないしこれに加えて工法)を教示した行為を「入札等の公正を害すべき行為」としているが、日南市では、それ らの情報は入札前に通知・公表されるから、事前に知ることにメリットはなく、公訴事実中の「予定価格と近似する」という記載は、それらの工事情報と入札とを関係付けるように誤導する許されない余事記載である。ところが、原審は、検察官に対し、「予定価格に近似する」ことと「概ねの査定決定額」との関係について釈明を求めたり訴因変更を促したりして入札の公正を害すべき行為の内容を明確にしていないから、その訴訟手続には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある、というのである。 そこで、記録を調査して検討する。 まず、法令適用の誤りの主張については、原判決が説明するとおり、刑法96条の6の罪は、公務としての入札等が適正・円滑に遂行されることや入札等という競争制度によって自由な価格形成が担保されること等を保護しようとする罪である。 また、官製談合防止法8条は、官製談合の防止・排除の趣旨の徹底を図るため、入札等の公正を害すべき行為を行った公務員等の職 競争制度によって自由な価格形成が担保されること等を保護しようとする罪である。 また、官製談合防止法8条は、官製談合の防止・排除の趣旨の徹底を図るため、入札等の公正を害すべき行為を行った公務員等の職務違背性・非違性に着目して、より重い刑罰で処罰するために設けられたものであり、刑法の背任罪と類似する側面を有することなどを踏まえて、法定刑が定められている。このような保護法益や法律の趣旨を踏まえれば、上記各条文の「公正を害すべき行為」は、いずれも入札等が公正に行われることに客観的に疑問を抱かせる行為ないしその公正に正当でない影響を与える行為を指し、官製談合防止法8条にいう「予定価格その他の入札等に関する秘密」とは、競売又は入札の公正を害する具体的危険を生じさせるような秘密情報を指すと解釈すべきであり、国家公務員法や地方公務員法、情報公開法との比較から殊更限定して解釈すべきものとはいえない。そして、日南市の指名競争入札においては、予定価格は指名業者に通知されるまでは公表されないから、それと近似し、それを推知させる「概ねの査定決定額」は、入札の公正維持という点から上記「秘密」に該当することは明らかであり、同じく公表前の「工法」の具体的内容についても、入札前に特定の業者に教示すれば、談合を助長し、入札の公正を害する具体的危険が認められる以上、上記「秘密」に該当するといえる。したがって、 これらを公表前に特定の業者に教示する行為が「公正を害すべき行為」に該当するという原判決の解釈に誤りはない。 また、訴訟手続の法令違反の主張については、上記のとおり、各公訴事実にある被告人が丙に予定価格に近似する概ねの査定決定額や工法を教示した行為は、入札等の公正を害すべき行為に当たるから、原審が、検察官に対し、「予定価格に近似する」ことと「概ねの査定 おり、各公訴事実にある被告人が丙に予定価格に近似する概ねの査定決定額や工法を教示した行為は、入札等の公正を害すべき行為に当たるから、原審が、検察官に対し、「予定価格に近似する」ことと「概ねの査定決定額」との関係について釈明を求めたり、訴因変更を促したりする必要はない。原審の手続に、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反はない。 これに対し、所論は、官製談合防止法8条で刑事罰の対象とする「秘密」は、いわゆる実質秘であり、予定価格が事前に通知・公表される日南市においては、査定決定額や工法は情報公開法上の不開示情報に当たらず、実質秘ではないのに、原判決は、それらが形式秘であるとしか判断しておらず、実質秘であるかどうかを判断していない、という。しかし、上記のとおり、「秘密」の意味については、立法趣旨が異なる情報公開法との関係や、公務員の守秘義務規定にいう「秘密」の意味から限定して解釈すべきものではなく、実質秘であるかどうかを検討する必要もない。 所論は、独自の見解に基づく主張であり、採用できない。 所論は、日南市のように、予定価格が、一般競争入札においては公告時に公表され、指名競争入札においては指名通知時に通知される場合、予定価格や査定決定額ないしその概算額、工法を公表等の前に他の業者に先駆けて知っても落札しやすくなることはないから、入札の公正を害することはなく、談合とも無関係である、という。しかし、原判決が指摘するとおり、それらの情報を他社に先駆けて得た建設業者には、当該工事の受注に向けた事前の調査や調整が可能となり、どの工事に入札するかの選択が容易になり、談合の際に業者間の調整材料として利用できるという利点がある。このように、災害復旧工事の概ねの査定決定額や工法等の情報は、予定価格を公表する日南市にあっても、公表前に特定 札するかの選択が容易になり、談合の際に業者間の調整材料として利用できるという利点がある。このように、災害復旧工事の概ねの査定決定額や工法等の情報は、予定価格を公表する日南市にあっても、公表前に特定の業者に教示すれば、入札等に参加する業者間に有利不利を生じさせ、公正ではない入札等を招き、談合を容易 にさせるおそれがある。現に丙は、原審公判において、原判示第1、第2のいずれの工事の入札においても、被告人から教示された情報を用いて各工事の談合に影響を与え、入札の公正を害したことを認めている。すなわち、丙は、原判示第1の関係では、被告人から概ねの査定決定額の教示を受けた4件の工事のうち、最も高額の346号工事を自分が経営する乙株式会社を中心とする共同企業体で落札する旨談合し、関連する344号工事の談合がまとまらなかった際、343号工事に関する査定決定額を用いて己1株式会社の代表取締役己2を説得し、344号工事の受注希望を取り下げさせるなどして談合をまとめた。また、丙は、原判示第2の関係では、被告人から得た工法に関する情報を用いて、乙が受注した場合に下請けに出す予定の庚1株式会社の庚2に電話し、談合で自社に優先する予定の辛1株式会社の代表者辛2に電話して受注意欲を尋ねるなどした後、自社が受注している。なお、所論は、価額等を事前に知ることが入札で有利になるという丙の原審証言は、具体性がなく漠然とした感覚的な印象にすぎず、入札に対する影響を基礎付けるものではなく、検察官も、丙に、事前公表前に工事金額を知ることが談合の助長に結びつかないことを証言させながら、特定の業者を有利にすると証言させ、あたかもそれらが関連しているかのように誤導した、という。しかし、丙は、原審公判で、検察官から問われて、他の業者に先駆けて公表されていない金額に関するこ させながら、特定の業者を有利にすると証言させ、あたかもそれらが関連しているかのように誤導した、という。しかし、丙は、原審公判で、検察官から問われて、他の業者に先駆けて公表されていない金額に関することを知ることができれば入札で有利になることを肯定し、これは前後の証言内容からすれば、その業者が他の業者に優先して受注額が大きい工事を落札する機会を得られるという趣旨に理解できる。したがって、検察官の質問は誤導ではなく、丙は、入札の関係で何が有利になるのかについて具体的に証言したといえる。 所論は、工法は、予定価格と異なり、どの自治体においても全ての工事の入札に際して公表等されるから、たとえ秘密として取り扱われても、「入札に関する秘密」には該当しない、という。しかし、工法に関する非公表情報は、前記のとおり、原判示第2の工事に関し、丙が被告人から教示されたことにより談合に影響を与え、入札の公正を害するおそれがあるから、入札等の公正を害する具体的危険を生じさ せる情報であり、「入札に関する秘密」に該当するといえる。 所論は、行政の保有する情報である以上、一部の人だけが知ったら問題だから「秘密」(不開示情報)にするという考えは間違っており、入札等の公正が害されるのは、他の業者からの情報開示の求めには応じていないのに一部の業者にだけ教示した場合であって、情報開示を求めた業者だけに教示する場合には公正は害されない、という。しかし、公正を害すべき行為の意味を、情報公開法との比較から限定して解釈すべきではなく、公表前に被告人が丙に対して予定価格に近似する概ねの査定決定額や工法を教示すれば、それらの情報が談合に参加する業者間の受注調整の材料として利用され、談合を助長する危険性がある以上、「秘密」に当たり、入札等の公正を害するといえることは前 似する概ねの査定決定額や工法を教示すれば、それらの情報が談合に参加する業者間の受注調整の材料として利用され、談合を助長する危険性がある以上、「秘密」に当たり、入札等の公正を害するといえることは前記のとおりである。 所論は、原判決は、日南市が発注予定の工事概算額を含む工事情報が丙に伝えられたことについて、事前の準備等の利便を指摘するが、それは工事業者の受注に向けた準備に関する事柄であって、入札行為や談合とは関係がなく、日南市においては、落札できるかどうかは談合で決まり、工事情報を事前に知っていたから落札しやすくなるわけではない以上、工事情報の漏えいが地方公務員法等に抵触するとしても、入札妨害等とは関係がない、という。しかし、前記のとおり、丙は、原審公判において、被告人から教示された情報を用いて、原判示第1の工事について談合をまとめ、原判示第2の工事について談合に参加する他の業者に働き掛けたことを認めているから、入札行為や談合と関係がないとはいえない。 所論は、原判決は、価額等の情報を事前に得る利益を根拠に入札等の公正を害すべき行為に当たるというが、そのような利益は事業上の利益であり、入札行為との関係は否定される、という。しかし、前記のとおり、予定価格を公表する前に特定の業者にそれを推知させる情報を教示すれば、入札等に参加する業者間に有利不利が生じ、公正ではない入札等を招き、談合を容易にさせるおそれがあるから、入札行為との関係は否定できない。 所論は、自治体から査定決定を待たずに応急工事が依頼された災害現場近くの業 者は、災害復旧工事の規模や内容等を事前に正確に把握でき、その工事の入札において他の事業者より情報の点で有利になっても入札から排除されないのであって、そのことは、指名業者間の情報の平等性・公平性までは求めら 害復旧工事の規模や内容等を事前に正確に把握でき、その工事の入札において他の事業者より情報の点で有利になっても入札から排除されないのであって、そのことは、指名業者間の情報の平等性・公平性までは求められず、工事情報が入札に関する秘密として観念されず、入札の公正とも全く関係しないことを示している、という。しかし、応急工事をして災害復旧工事の規模や内容等を事前に把握した結果、その工事の入札において他の事業者より情報の点で有利になるとしても、それは入札に関する秘密の漏えいによるものではない。そのような偶然に生じる事実上の影響をもって、非公開の工事情報を秘密として観念せず、入札の公正と無関係とし、それらの情報漏えいを不問に付すことはできない。 その他所論が主張するところを検討しても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反はない。 いずれの論旨にも理由がない。 2 事実誤認の主張について論旨は、次のとおりである。すなわち、被告人は、丙に各工事に関する概ねの査定決定額等を伝えたが、その際、入札や談合との関係は意識しなかったし、丙を介して他の業者にも情報が伝わると考え、それらが秘密であると認識しなかったから、官製談合防止法8条違反の罪及び刑法96条の6第1項の罪のいずれの故意も認められない。したがって、原判示第1の事実について官製談合防止法8条違反の罪の故意を、原判示第2の事実について同罪及び刑法96条の6第1項の罪の各故意をそれぞれ認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。 そこで記録を調査して検討すると、原判決が、関係証拠により、いずれの事実についても被告人の故意を認めたことに論理則、経験則に反するところはなく、この点に関する補足説明も是認でき、原判決には判 。 そこで記録を調査して検討すると、原判決が、関係証拠により、いずれの事実についても被告人の故意を認めたことに論理則、経験則に反するところはなく、この点に関する補足説明も是認でき、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認はない。すなわち、被告人は、原判示第1の事実について、平成30年1月18日頃から同月23日頃までの間に日南市役所本庁舎の副市長室において、丙 に対し、原判示第1の2つを含むa 線道路に関する4つの災害復旧工事の規模がそれぞれ1億6500万円、1億5000万円、3200万円及び2億8500万円を予定していると教え、予定価格に近似する概ねの査定決定額を教示した。そうすると、原判決が説明するとおり、被告人の行為は、教示した情報の性質、内容、教示の状況等に照らし、官製談合防止法8条にいう「入札等に関する秘密を教示すること…により、当該入札等の公正を害すべき行為」に当たり、そのような行為を被告人が意識的に行っている以上、同条違反罪の故意が認められる。また、被告人は、令和元年11月中旬頃、原判示第2のb 線道路災害復旧工事についても、同じく副市長室において、丙に対し、2000万円以上の法面工事があり、一部に透水性モルタルの工事があると教え、予定価格に近似する概ねの査定決定額及び工法を教示した。そうすると、原判決が説明するとおり、この被告人の行為についても、教示した情報の性質、内容、教示の状況等に照らし、官製談合防止法8条にいう「入札等に関する秘密を教示すること…により、当該入札等の公正を害すべき行為」に当たるとともに、刑法96条の6第1項にいう「偽計…を用いて、…入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為」に当たり、そのような行為を被告人が意識的に行っている以上、各罪の故意が認められる。 こ ともに、刑法96条の6第1項にいう「偽計…を用いて、…入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為」に当たり、そのような行為を被告人が意識的に行っている以上、各罪の故意が認められる。 これに対し、被告人は、原審公判で、いずれについても入札や談合との関係は意識しなかったし、それらが秘密であるという認識もなかったと述べる。しかし、原判決が指摘するとおり、動機や目的はともかく、原判示第1については、丙から災害復旧事業に関する査定について確認された際に、原判示第2については、丙と災害の話をした際にそれぞれ公表前に各工事の概ねの査定決定額等を教示しているから、故意に欠けるところはない。また、被告人は、原審公判で、丙は甲協会の会長であるから、丙を介して他の業者にも情報が伝わると思ったと述べ、特定の業者だけに教示したのではないかのようにも述べる。しかし、被告人の原審供述を前提としても、被告人は、丙に対し、他の業者と情報共有して欲しいと言ったことはなく、結局、以前に丙から被告人が伝えた内容を理事会の場で伝えると聞いたので、その ように思ったというにすぎない。そのような曖昧な供述をもって、特定の業者に教示したものではないという合理的疑いは生じない。しかも、被告人は、当時から甲協会が談合しているかもしれないと思っていたと述べるから、予定価格の公表前に査定決定額を一部の業者に教示すれば、談合を助長し、不公正な入札を招く危険があることを認識していたといえる。 所論は、公訴事実は「入札に関する秘密」を丙に教示したことが入札の公正を害する行為に該当するとされ、談合を唆したり、談合を助長したりする行為として構成されていないから、談合を行っている可能性のある業界団体の長である丙に概ねの査定決定額等を伝えることが談合の助長になるおそれがあるとい 当するとされ、談合を唆したり、談合を助長したりする行為として構成されていないから、談合を行っている可能性のある業界団体の長である丙に概ねの査定決定額等を伝えることが談合の助長になるおそれがあるという原判決の指摘は公訴事実と対応していない、という。しかし、談合を助長する具体的危険性がある以上、入札の公正を害する行為に該当するといえる。 所論は、丙は、被告人から得た情報を役員会で報告した旨原審で明言し、このことは、丙と被告人との間で、当該情報が業界団体への情報提供であって、「秘密」であると認識されていなかったことを示す、という。しかし、この点に関する丙の原審証言は、原判示第1、第2の各事実に関するものではない上、被告人から金額を教えてもらったのは、発注される工事のランクが知りたかったからであり、丙の判断により、役員会でA、B、C各ランクの工事がそれぞれいくつあるかを報告するという趣旨であり、被告人から教示を受けた情報を常にそのまま業界全体に伝えていたという内容ではない。また、被告人の行為が、談合を助長するものである以上、不公正な入札を招く具体的危険があるといえることは前記のとおりであり、被告人は、当時から甲協会が談合しているかもしれないと思っていたから、査定決定額等の工事に関する非公開情報を一部の業者に教示すれば、談合を助長し、不公正な入札を招く危険があること、つまり上記情報が「秘密」に当たることを認識していたといえる。この事実と、丙と被告人との間で当該情報が業界団体への情報提供であると認識していた事実とは何ら矛盾しない。 そのほか所論が主張するところを検討しても、原判決の認定に論理則、経験則に 反するところはなく、所論のいうような事実の誤認はない。 論旨は理由がない。なお、原判決は、原判示第1、第2の各公訴事実のう 張するところを検討しても、原判決の認定に論理則、経験則に 反するところはなく、所論のいうような事実の誤認はない。 論旨は理由がない。なお、原判決は、原判示第1、第2の各公訴事実のうち、落札結果について、被告人の行為との間の因果関係を直ちに認めるには疑問があるので認定しないと説示するが、そもそも、いずれの罪も公の入札に不当な影響を及ぼす行為が行われれば直ちに完成し、入札等の公正が現実に害されたことまでは必要ない。したがって、各公訴事実中の落札結果に関する記載は、事件の明確化と情状の意味での記載にすぎないから、因果関係を厳密に検討してあえて認定しないという取扱いまでは必要ない。 第3 原判示第3の事実について 1 事実誤認の主張について論旨は、次のとおりである。すなわち、「c 線道路改良工事」の指名競争入札の指名業者から丁株式会社が除外されたのは、日南市職員が、入札で落札した業者を次の入札の指名業者から除外するという、いわゆる「1回休みルール」に基づいて指名業者の選定案を作成したからであって、被告人が、年度受注高が1000万円以上となる業者を除外する考え(以下「1000万円ルール」ともいう。)を談合に加わらない同社に適用した事実はない。したがって、被告人が同社を指名業者から除外した事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。 そこで、記録を調査して検討すると、原判決が、関係各証拠により、被告人が、丙と共謀し、日南市発注の公共工事の指名業者間の談合に参加しない丁を指名業者から排除しようと考え、上記工事の指名競争入札の指名業者を決める指名審査委員会に提出する指名業者の選定案をあらかじめ同市の職員に作成させた事実を認めたことに論理則、経験則に反するところはない。したが から排除しようと考え、上記工事の指名競争入札の指名業者を決める指名審査委員会に提出する指名業者の選定案をあらかじめ同市の職員に作成させた事実を認めたことに論理則、経験則に反するところはない。したがって、原判決が、このような被告人の行為が刑法96条の6第1項ないし官製談合防止法8条に該当すると認定したことに判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認はない。 所論は、当時日南市総合政策部財政課の契約係長であった壬1は、原審公判で、 上記指名業者の選定案について、1回休みルールに従って指名業者から除外したと証言し、壬1作成の資料にも、丁に指名欄に丸印が付されていないから、既に指名業者から除外されていたことは明白である、という。しかし、被告人の原審供述等によれば、次のような事実が認められる。すなわち、被告人は、令和2年5月、丙から、談合に協力しない丁の落札が続くので、年度内に一度受注した業者は次から指名しないでほしいと要望され、それは難しいと答えた。しかし、被告人は、同年6月1日、d 線道路改良工事等について、担当職員の間で指名業者の選定案を検討する「指名レク」と呼ばれる会議において、高額な案件を落札した業者を次回以降の指名から外すことを検討すると発言し、同年7月13日、e 線舗装工事等の指名レクにおいて、受注高が1000万円を超えた場合、次回以降の指名から外すことを検討すると発言した。また、被告人は、同年8月に丙から丁を念頭に再び同様の要望をされた際、受注額がある程度の金額になったら指名しないという方法があるかもしれないと発言し、同年9月28日に行われたc 線道路改良工事の入札に参加する指名業者の選定案を検討した指名レクにおいて、舗装Aクラスの入札に関しては受注高が1000万円を超えている丁と癸を指名から外すという趣旨の発言 年9月28日に行われたc 線道路改良工事の入札に参加する指名業者の選定案を検討した指名レクにおいて、舗装Aクラスの入札に関しては受注高が1000万円を超えている丁と癸を指名から外すという趣旨の発言をした。そして、関係証拠によれば、その時点で舗装Aクラス工事の年間受注額が1000万円を超えていた業者は、丁と癸だけであったが、癸は、前回の別の舗装工事の入札の時点で既に受注額が1000万円を超えていたのに指名業者から除外されなかったのに対し、丁は、その工事を落札したことにより受注額が1000万円を超えた、というのである。このような経緯からすると、c 線道路改良工事の指名レクにおける被告人の発言は、丁を念頭に置いたものと理解するほかないから、所論指摘の点を踏まえても、被告人が丙と共謀して丁を指名業者から除外したと認めることに合理的疑いは生じない。 また、所論は、原判決は、丙と立場の異なる壬1、壬2、壬3の供述が整合しているところは信用性が高いというが、被告人が、指名業者から外すのは1000万円以上となる業者とする発言をしたとする点以外は内容が異なるから、それ以外の 整合していない各人の供述からつまみ食いをして事実を認定することは許されず、丁が取りすぎているから指名から外すと供述しているのは壬2のみであるから、そのような事実は認定できない、という。しかし、原判決は、整合していない者らの原審証言の一部を都合良くつなぎ合わせて認定したわけではない。すなわち、原判決は、被告人の言動について、令和2年5月から同年8月までの丙のやり取りについては丙の原審証言に、同年6月から8月頃までに行われた2つの工事の指名レクについては壬1の原審証言に、同年9月28日に行われた原判示第3のc 線道路改良工事の指名レクについては壬1及び壬2の各原審証言 は丙の原審証言に、同年6月から8月頃までに行われた2つの工事の指名レクについては壬1の原審証言に、同年9月28日に行われた原判示第3のc 線道路改良工事の指名レクについては壬1及び壬2の各原審証言に、同年10月下旬に行われた上記工事に続く舗装工事Aランクの指名競争入札における資格審査委員会については壬3の原審証言にそれぞれ基づいて認定している。また、確かに所論が指摘するとおり、被告人が丁は取りすぎているから指名から外すと発言したと証言したのは壬2のみであるが、その点も含め壬1、丙、壬2、壬3の各原審証言がそれぞれ信用できる理由については、原判決が述べるとおりである。 所論は、壬2は、被告人が受注高を理由に丁と癸の2社を指名業者から外すと発言したと証言したが、指名レクにおける会話内容についての記憶が曖昧であり、指名レクに参加した他の3人(壬1、壬4、被告人)は、丁を1回休みルールに基づいて指名から外したとする点で一致し、その点は壬1、壬4の各資料への書き込みから裏付けられるから、壬2は、被告人が特に丁について取りすぎといった話をしていないのに、資料への書き込みからそのように思い込んだと考えられる、という。 しかし、壬2は、原審公判において、指名レクでのやり取りの一言一句までは覚えていないが、記憶ははっきりしていると思うと証言し、証言内容に照らしても、信用性に影響を及ぼすほどに記憶が曖昧であるとはいえない。また、この点に関する壬4の原審証言や被告人の原審供述が信用性に乏しいことは後記のとおりであり、丁を1回休みルールに基づいて指名から外した旨の壬1の原審証言を前提としても、被告人が丁を排除するために1000万円ルールを導入したことと矛盾せず、壬2の原審証言が信用できると認めた原判決の判断に誤りがないことは前記のとおりで あ 1の原審証言を前提としても、被告人が丁を排除するために1000万円ルールを導入したことと矛盾せず、壬2の原審証言が信用できると認めた原判決の判断に誤りがないことは前記のとおりで ある。 所論は、被告人は、指名レクの際、癸が1000万円以上で、かつ、他の指名業者よりも契約金額が非常に高かったから指名から外すと述べただけであり、丁については1回休みルールに基づいて指名から外したという壬1の説明以外には話題に上がっていないという壬4の原審証言は、壬4の資料への書き込みに裏付けられ、信用できる、という。しかし、被告人の発言に関する壬4の原審証言は、原判決が指摘するとおり、壬1、壬2、壬3の各原審証言と整合しない上、肝心の被告人の発言について、捜査段階から供述を変遷させていることがうかがわれるから、資料への書き込みを踏まえても信用性に乏しく、原判決の認定に合理的疑いを生じさせるものとはいえない。 所論は、被告人は、原審公判で、指名レクで、1000万という言葉を発したことを認め、その供述内容は、壬1、壬2、壬3がそれぞれ資料にメモをした内容と矛盾しないから、丁を指名業者から外した理由は1回休みルールである旨の被告人の原審供述が信用できないとはいえない、という。しかし、この点に関する被告人の原審供述が、壬1、壬2、壬3の各原審証言と整合せず、信用性に乏しいことは原判決が指摘するとおりである。そもそも、壬3の原審証言等によれば、被告人は、令和2年10月17日から警察官の取調べを受けた後、同月27日の指名審査委員会において、舗装Aクラスの工事の指名業者の選定に関して受注高が1000万円を超える業者を指名から除外するという取扱いを再検証する旨発言した、というのである。これは、被告人が、丁を指名業者から排除するために1000万円ルール 工事の指名業者の選定に関して受注高が1000万円を超える業者を指名から除外するという取扱いを再検証する旨発言した、というのである。これは、被告人が、丁を指名業者から排除するために1000万円ルールを導入したことに、捜査上問題にされるような違法な点があると認識していたことを示している。 そのほか所論が主張するところを検討しても、原判決の認定には論理則、経験則に反するところはなく、所論のいうような事実の誤認はない。 論旨は理由がない。 2 法令適用の誤りの主張について 論旨は、次のとおりである。すなわち、仮に原判示第3のような事実があったとしても、官製談合防止法9条は、「この法律の運用に当たっては、入札及び契約に関する事務を適正に実施するための地方公共団体等の自主的な努力に十分配慮しなければならない。」と規定しているから、同法8条の解釈運用にあたっては、地方公共団体等の自主的な努力、すなわち地方分権の視点から地方公共団体等の行政裁量に十分配慮することが求められる。そして、被告人が、日南市の副市長として、特定の業者に受注が集中することを避け、受注機会の均等及び地元業者の育成を図ろうと考え、その指標として年度内の受注額を基準としたのは公平かつ明確であり、相当である。したがって、そのような基準を用いて指名業者の選定を行うことは、入札を執行する主体に認められた行政裁量の範囲内の行為であり、被告人が「c 線道路改良工事」の指名競争入札にその基準を適用したことが直ちに刑法96条の6第1項及び官製談合防止法8条に該当するとはいえない。したがって、被告人が同工事の指名競争入札にその基準を適用したことがそれらに該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。 そこで、記録を調査 。したがって、被告人が同工事の指名競争入札にその基準を適用したことがそれらに該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。 そこで、記録を調査して検討すると、指名業者選定の基準を定める行政裁量を認めるとしても、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律1条にある公共工事に対する国民の信頼の確保とこれを請け負う建設業の健全な発達を図るという趣旨に照らして目的が正当であり、内容が合理的なものでなければならない。この点、関係証拠によれば、原判決が認定するとおり、被告人は、丙から、談合に参加しない丁が何度も落札することへの対応として一度受注したら年度内は指名業者から除外する取扱いを求められ、それを断る代わりに年度受注額が1000万円以上となる業者を除外することにした、というのである。このように談合に応じない業者を排除するために年度受注高を基準に指名業者から除外する取扱いは、談合を助長し、入札の公正を害することが明らかであり、その目的が正当であるとはいえない。また、関係証拠によれば、当時、日南市における舗装Aクラスの業者が13社あるのに対し、c 線道路改良工事のように日南市が発注する舗装Aクラスの工事 の発注件数は年平均10件前後しかなく、平成29年からはいわゆる「1回休みルール」が採用されていたから、更に当時1000万円を基準とした指名業者選定の基準を定める必要性も合理性もない。したがって、行政裁量によって正当化される余地などなく、この点に関する原判決の説明も、これと同趣旨に理解することができる。被告人が年度受注額を基準に指名業者を選定した行為は、入札の公正を害するおそれがある以上、刑法96条の6第1項や官製談合防止法8条にいう「公正を害すべき行為」に該当することに変わ することができる。被告人が年度受注額を基準に指名業者を選定した行為は、入札の公正を害するおそれがある以上、刑法96条の6第1項や官製談合防止法8条にいう「公正を害すべき行為」に該当することに変わりはなく、原判決に、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。 所論は、被告人は、日南市の副市長として、受注機会の均等及び地元業者育成を図るため、特定の業者に受注が集中することを避けるため、年度内の受注高が大きくなった業者を指名から除外したが、宮崎県でも採用されているとおり、受注高を基準とすることは公平かつ明確であり、日南市のマンパワーの状況からしても相当であり、行政庁の裁量の範囲内といえる、という。しかし、前記のとおり、被告人の行為は、談合に参加しない業者を排除することにより談合を助長し、入札の公正を害する不当なものであり、当時の日南市における舗装Aクラスの工事の発注状況に照らせば、受注高を基準にする必要性も合理性も認められない。確かに被告人は、原審公判で、受注機会の均等及び地元業者育成のため、特定の業者に受注が集中することを避けるという趣旨であったと盛んに述べるが、その説明は丙からの要望に応える形で提案されたという経過にそぐわず、1000万円という数字にも合理性がないこと等に照らし、信用性に乏しく、後付けの弁解にすぎない。 その他所論が主張するところを検討しても、原判示第3の事実について、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りはない。 論旨は理由がない。 第4 結論よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、主文のとおり判決する。 令和6年11月28日 福岡高等裁判所宮崎支部 裁判長裁判官平島正道 文のとおり判決する。 令和6年11月28日 福岡高等裁判所宮崎支部 裁判長裁判官平島正道 裁判官荒木精一 裁判官足立賢明
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