令和4(う)284 保護責任者遺棄致死、詐欺、窃盗

裁判年月日・裁判所
令和5年3月9日 福岡高等裁判所 棄却
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判決文本文10,918 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中110日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 控訴趣意及び本件の概要 1 控訴趣意弁護人德永響の控訴趣意は、保護責任者遺棄致死については被告人とAとの共謀は認められず、詐欺及び窃盗についても実行行為が認められないから、被告人は無罪であるのに、いずれについてもAの証言に信用性を認めて被告人を有罪とした原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、仮に被告人が有罪で あるとしても、被告人を懲役15年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である、というものである。 2 本件の概要⑴ 原判決が認定したところによれば、本件は、Aのママ友であった被告人がAに対し虚言を重ねて現金や預金通帳を交付させ(詐欺)、その預金通帳を使ってAT Mから現金を引き出す(窃盗)という経過の中で、A及びその子供3人の生活全般を実質的に支配していた被告人が、Aと共謀の上、被告人を信じ切っていたAにおいてAの三男(以下「被害者」という。)に十分な食事を与えず、被害者を飢餓死させた(保護責任者遺棄致死)という事案である。 ⑵ 原判決は、被告人がAと平成28年4月頃ママ友として知り合い、親交を深 めていたこと、平成31年1月30日以降、Aが被害者を含む3人の子供を一人で養育していたこと、被告人が、かねてから、Aに対し、ボスと呼称していた人物がAの夫(その後離婚。以下、単に「夫」という。)の浮気調査による高額の費用を立替払している旨及び夫と不倫関係にあった女性に対する慰謝料を支払う必要がある旨の虚言を重ね、その精算や支払のためと称してAの収入のほぼ全てを被告人に交 付させるとともに、ボスに依頼して夫に対する慰謝料請求裁判を 夫と不倫関係にあった女性に対する慰謝料を支払う必要がある旨の虚言を重ね、その精算や支払のためと称してAの収入のほぼ全てを被告人に交 付させるとともに、ボスに依頼して夫に対する慰謝料請求裁判を追行してもらうが、 勝訴するためには、子供らを厳しくしつけ、被告人らから提供される食事のみで質素な生活をしている様子を裁判所に見せなければならず、裁判所に提出するためボスがA方内に監視カメラを設置している旨の虚言を重ねるなどして、食事を含めたA及びその子供らの生活全般を実質的に支配していったことなどを認定した上で、罪となるべき事実として、要旨、次のような事実を認定している。 被告人は、Aと共謀の上、令和元年8月頃から、Aの子供らの食事の量及び回数を減らすなどし、さらに、「罰」と称して多数回にわたり連続して数日食事を一切与えなかったことなどにより、被害者を痩せ細らせ、遅くとも令和2年3月下旬頃には被害者が重度の低栄養状態になっていたのであるから、Aにおいて被害者に十分な食事を与えその生存に必要な保護をすべき責任があったのに、その頃から同年4 月18日午前中までの間、引き続き被害者に十分な食事を与えず、よって、同日午後10時頃、福岡県糟屋郡a町内のA方において当時5歳の被害者を飢餓死させ(保護責任者遺棄致死。原判示第1)、令和元年6月から令和2年6月までの間に、Aに対し、調査費用の精算、慰謝料支払あるいは裁判の書面代又は手続費用として支払う必要があるとうそを言い、14回にわたり、Aから現金合計174万1596円 及びA管理の預金通帳をだまし取り(詐欺。原判示第2、第5ないし第7)、上記預金通帳を使用して、令和元年6月及び8月の2回にわたり、上記a町内の銀行支店に設置されたATMから現金合計24万8000円を引き出した(窃盗。 をだまし取り(詐欺。原判示第2、第5ないし第7)、上記預金通帳を使用して、令和元年6月及び8月の2回にわたり、上記a町内の銀行支店に設置されたATMから現金合計24万8000円を引き出した(窃盗。原判示第3、第4)。 3 原審において、弁護人は、保護責任者遺棄致死事件については、被告人は判 示のうそを言っておらず、食事やしつけに関して指示したこともなく、Aらの生活全般を支配したことはないとして、Aとの間に共謀はないと主張し、詐欺及び窃盗各事件についても、被告人は、判示のうそを言っていないし、通帳や現金をだまし取ってもいない、Aに頼まれてATMから引き出した現金は全てAに渡したと主張して、いずれも無罪を主張した。しかし、原裁判所は、上記2⑵のとおり、全ての 事実を認定して被告人を有罪とした上で、被告人を懲役15年に処した。 第2 事実誤認の控訴趣意について 1 弁護人の主張所論は、原判決はそもそもAの証言の信用性を認めた点で誤っている、というものである。 すなわち、原判決は、A証言の信用性は相当に高く、他方、これと矛盾する被告 人の公判供述については信用できないと判断し、本件詐欺・窃盗のみならず保護責任者遺棄致死についても、被告人が虚言を重ねてAの収入をほぼ全てだまし取るとともに、Aの夫や母ら、公的機関との関係を遮断し、被告人の提供する食事のみで生活しなければならず、第三者に助けを求めるのも困難な状況に陥らせるなどして、Aとその子供らの生活全般を実質的に支配したことを前提として、上記第1の2⑵ のとおり、被告人は、被害者が重度の低栄養状態にあることを認識しながら、Aに対する心理的な支配や指示を解消することなく、食料の定期的な提供をやめるなどして、Aによる被害者の不保護を継続させたと認定し、保護責 、被告人は、被害者が重度の低栄養状態にあることを認識しながら、Aに対する心理的な支配や指示を解消することなく、食料の定期的な提供をやめるなどして、Aによる被害者の不保護を継続させたと認定し、保護責任者であるAとの共謀を認定した。そして、A証言の信用性判断に当たり、その証言の核心部分が被告人とAとの間のSNSのやり取り等やAの多額の収入とそれに反する生活困窮状態 といった客観的な証拠等によって裏付けられていると説示している。しかしながら、①Aが被告人の言葉を事実であると信じるには、信じるに値するだけの根拠が必要であるところ、Aが信じたという被告人の言葉(原判決が虚言と評するもの)は荒唐無稽であるなど信じるに値する根拠が存在しないから、A証言の信用性を認めた原判決は論理則、経験則等に反して不合理である、②原判決は、A証言に依拠して 被告人がAを心理的に支配していた旨認定しているが、被告人はAに被害者を病院に連れて行くよう「保護」を指示するなどしているのにAは不保護を継続したのであるから、A証言の信用性を肯定して被告人による支配を認定した原判決には誤りがある、というのである。 2 当裁判所の判断 ⑴ 原判決は、A証言の信用性は相当高いとした上で、同証言によれば、①被告 人は、Aに対し、虚言を重ね、これを信じたAの収入をほぼ全てだまし取るなどしていた、②被告人は、被害者が重度の低栄養状態に陥った後もAに対する心理的な支配や指示を解消せず、Aと共謀の上、Aに対する被害者の不保護を継続させて死に至らせた、ことがそれぞれ認められるとしている。 上記1の各所論は、Aが、①虚言を信じた点、②被告人に支配されていた点につ き、原判決の認定を論難するものである。 当裁判所は、A証言の信用性を認め、原判示の事実を認定した原判決 としている。 上記1の各所論は、Aが、①虚言を信じた点、②被告人に支配されていた点につ き、原判決の認定を論難するものである。 当裁判所は、A証言の信用性を認め、原判示の事実を認定した原判決の認定・説示には、論理則、経験則等に照らして不合理な点はないと判断した。以下、その理由を説明する。 ⑵ A証言の要旨は、原判決が詳細に摘示するとおりである。若干敷衍すると、 ㋐Aは、被告人から、Aのママ友に関する悪口その他の様々なうそを言われ、だまされていった、㋑Aは、被告人から、夫に関する浮気その他の様々なうそを言われ、それを信じた、㋒Aは、転居先を告げず子供3人を連れて夫と別居し、その後離婚したが、母及び姉とも自ら距離を置くようにして疎遠となる一方、生活苦により被告人から食料の提供を受けるようになった、㋓Aは、被告人からボスが弁護士を依 頼して夫に対する慰謝料請求訴訟を起こそうとしてくれており、勝訴すればまとまった金が手に入る、裁判に勝つためには質素な生活をしているところや子供らを厳しくしつけているところを裁判所に見せなければならず、ボスによってA方には監視カメラが付けられていると言われた、などというものである。 ⑶ 被告人とAとの間のSNSのやり取りには、平成29年4月以降、ママ友に よる悪口、ママ友からの裁判及びママ友に対する裁判並びにこれらへのボスの関与、ボスの調査による夫の浮気の判明、夫及び親族と離婚の話をする際のボスの指示並びに夫に対する慰謝料請求裁判への言及、Aの子供3人に関する厳しいしつけの指示、ボスの知人である弁護士の関与、ボスが費用を支出していること、ボスが監視カメラでAらの生活状況を確認していることなどを明らかに前提とした被告人から のメッセージが、数年間にわたって多数存在している。被告人は、 弁護士の関与、ボスが費用を支出していること、ボスが監視カメラでAらの生活状況を確認していることなどを明らかに前提とした被告人から のメッセージが、数年間にわたって多数存在している。被告人は、原審公判廷にお いて、A自身がボスに相談して夫の浮気調査や裁判をしてもらっていると聞いていた、などと供述しているが、上記メッセージの多くは被告人とボスらが連絡を取り合っていることを前提とした内容であり、他方、Aがこれらの人物と直接連絡していることをうかがわせるメッセージは存在しない。また、Aは、本件各事実の後、被告人に対して疑念を抱くようになり、令和2年7月に被告人との電話等での会話 を複数回録音していたが、その会話の中でも、A「ボス怒ってない? それ気になっとったんよ」、被告人「腹かいとる(当審注:「腹を立てている」の意だと解される。)」、又は、A「私ね、いくらくらい残っとるとボスに返還返済するの」、被告人「かなり残っとるよ」という受け答え等、前述と同様の前提でのやり取りが多数なされている。Aと夫との離婚及び別居の経緯を見ても、Aは、原審公判廷におい て、「ボスのことを言うな、浮気のことを言うな」と被告人から言われていたため、夫がマザコンだから嫌だという理由で夫を含む家族との話合いに臨んだが、夫のみならずAの母や姉からも理解を得られなかったので、転居先を告げずに子供3人を連れて別居したなどと証言しているところ、この証言は、被告人がAに対し「明日の話し合いはボスが調べたのは絶対話に出さんようにって。マザコンだけよ言うの は」というボスの指示を伝えるメッセージによって裏付けられているし、話合いの場ではAから浮気の話は全く出ず、夫がマザコンだから離婚したい旨言われた、離婚に賛成する者はいなかったとのAの夫及び母の各証言とも符 うボスの指示を伝えるメッセージによって裏付けられているし、話合いの場ではAから浮気の話は全く出ず、夫がマザコンだから離婚したい旨言われた、離婚に賛成する者はいなかったとのAの夫及び母の各証言とも符合している。 原判決は、Aの証言の核心部分が、上記SNSのやり取りやAが事件当時スマートフォン上に入力したメモ(Aが自身の当時の気持ちをつづったもの)、上記録音の ほか、Aの収入と生活困窮状態といった客観的な証拠・事情によって強く裏付けられている、Aがそれまで円満な関係を築いていた夫や母、姉に対して突然拒否的な態度を取り始め、夫がマザコンであるなどという不可解な理由で離婚を持ち出した経過や公的機関がAら家族への接触を試みた際に被告人が介入した点についてのA証言も、Aの夫や母、幼稚園の教諭や教育委員会の職員等の証言と合致していると 説示するが、その評価は正当である。 原判決は、それに続けて、何より、A証言は、夫や母、姉とも円満な関係を築いて、幸せな家庭生活を送っていたAが、独断専行で、突然夫や母らとの関係を断とうとしたり、まして子供に食事を与えずに飢餓死させたりしたという経緯を合理的に説明するものである、と説示する。あえてAがこのような行為に及んだ理由は、Aが被告人による度重なる虚言を信じ、被告人に心理的に支配されていたとみる以 外に合理的な説明がつかない。この点を的確に指摘し、A証言の信用性を説示する原判決の判断は正当である。 以上によれば、A証言の信用性が相当に高いと認めた原判決の認定判断には、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、是認することができる。 ⑷ 上記1①の所論(虚言を信じるに足りる根拠が存在しないとの点)について 所論は、Aは「元夫が新たに付き合っているキャバクラの女に渡していた金を月 理な点はなく、是認することができる。 ⑷ 上記1①の所論(虚言を信じるに足りる根拠が存在しないとの点)について 所論は、Aは「元夫が新たに付き合っているキャバクラの女に渡していた金を月10万円ボスに払え。」と被告人から言われ、その言葉に従ったと証言しているが、既に離婚が成立している夫が新たに付き合い始めた女に対し渡していた金について、元妻であるAが支払う理由は誰が考えても一切ない、といった種々の点を指摘して、Aが証言する被告人の虚言はいずれも信じるに値する根拠のない荒唐無稽なもので あるから、それを信じたとするA証言は信用できない、という。 しかしながら、上記⑶で指摘したとおり、被告人とAとの間のSNSには、数年間にわたって、第三者の不当な行動とこれらを発端としたトラブル、裁判等の存在、これらへのボス及びその知人である弁護士の関与、費用等の発生その他の虚偽の内容を前提とした、被告人の多数のメッセージが存在している。そして、Aは、これ らに対し、毎日金策に追われているなど、被告人のメッセージの内容が真実であることを前提としたメッセージを多数送信している。また、上記スマートフォン上のメモ(令和2年1月17日から同年4月17日までの間、カレンダーアプリにAが記録したもの)には、金策ばかりである旨や裁判のため20万円が必要であると言われた旨等の記載が存在している。A証言は、被告人の虚言を信じていたという点 においても、客観的証拠により強く裏付けられている。所論が指摘するように、そ の個々の虚言をみると通常であれば当然には信じ難いものも含まれているが、ママ友の間での陰口の存在という比較的信じ易い事柄を皮切りに、数年間にわたって様々なうそを言われながらそれを信じて行動し、親族らと疎遠になるとともに被告人に生活を依 は信じ難いものも含まれているが、ママ友の間での陰口の存在という比較的信じ易い事柄を皮切りに、数年間にわたって様々なうそを言われながらそれを信じて行動し、親族らと疎遠になるとともに被告人に生活を依存していくというAの様子が客観的証拠からもみてとれる本件において、そのような関係性のある被告人の虚言を信じたというA証言は、そのような関係性 のない相手方からの虚言を信じ得るかという場面と異なり、不自然ではない。なお、上記所論の指摘する「キャバクラの女」の件を見ても、A証言は、被告人からその話をされた際、なぜ自分が払わなければいけないのかと聞いたが、女にはヤクザがついていて、払わないと家に集金に来ると言われた、というもの(この点は「ほんと集金行くようにされても知らんよ。」「今月から女のも家に集金にこらせようかっ て」等の被告人のメッセージと符合する。)、すなわち、荒唐無稽な要求に納得したのではなく、更なる被告人の虚言によって、納得はできないが支払わざるを得ない状況にあることを信じた、というものである。所論は採用できない。 ⑸ 上記1②の所論(被告人からの支配)について所論は、被告人が、令和2年4月14日(被害者が死亡する4日前)にAから被 害者の体調を伝えられた際、Aに対し「おかしいなら病院いかやんし」(20時32分。当審注:「いかやんし」は「いかないといけないし」の意であると解される。)とメッセージを送信している点、その後、Aが被告人から、本当に具合が悪くて言っているのか甘えなのかが分からないのかを問われて、Aが「変やったらまたLINEしにくる。」(当審注:Aの携帯電話機は料金滞納により強制解約となっていた ため、Aは、自宅近くのコンビニエンスストアの無料Wi-Fiを利用して連絡を取っていた。)、「大丈夫やったら、 INEしにくる。」(当審注:Aの携帯電話機は料金滞納により強制解約となっていた ため、Aは、自宅近くのコンビニエンスストアの無料Wi-Fiを利用して連絡を取っていた。)、「大丈夫やったら、せんよ。」と返信している点(いずれのメッセージも21時7分)を指摘し、被告人の上記メッセージは「保護」を指示したものである、また、この場面では被告人からAへ判断が委ねられている、すなわち、ボスの絶対性や被告人に対する信頼、恐怖がAを拘束する場面ではないにもかかわらず、 Aはその後も被害者の不保護を継続しているのだから、恐怖で支配され不保護に及 んだとするA証言の信用性に疑いを生じさせる、という。 しかしながら、所論の指摘する被告人のメッセージ(おかしいなら病院いかやんし)は、被害者の体調不良の様子を訴えるAに対し、被告人が「歩きたくないだけやろーもん」「ほんときついなら食べるわけないやん」(いずれのメッセージも20時28分)等と送信した後、帰宅したら被害者の状態を報告するよう指示する理由 の一つとして送信したに過ぎないもので、これまでの不保護の状態を直ちに解消させるために送信したものではない。また、所論の指摘するAの返信は、その後、被害者に関する報告をするAに対し、被告人が、親なのに具合が悪いのか甘えかを見抜けないのかと責めるメッセージを繰り返し送信した後のものである。これらやり取りは、一連の流れに照らせば、被告人のAに対する影響力を前提とし、またこれ を強めるものであるというほかなく、被告人やAの上記メッセージ等のみを抜き出して「保護」を指示したもの、又はAに判断を委ねたものなどと評価することはできない。所論は採用できない。 所論はその他縷々主張するが、A証言の信用性を左右し得るものは存在しない。 ⑹ 事実誤認を て「保護」を指示したもの、又はAに判断を委ねたものなどと評価することはできない。所論は採用できない。 所論はその他縷々主張するが、A証言の信用性を左右し得るものは存在しない。 ⑹ 事実誤認をいう論旨は理由がない(なお、原判決は、原判示第5別表2番号 4の欺もう文言等の一つとして「全額払わやんよ。女にも払わやんけんね。 (当審注:「払わやん」は「払わないといけない」の意だと解される。)」と認定しているが、令和3年1月26日付け起訴状別表2の「欺もう文言」欄にはこれに類する文言が存在しない。したがって、訴因変更等の措置を採ることなくこれを欺もう文言等として認定することは許されないが、この誤りは、判決に影響を及ぼすものではない。 また、同番号4の「交付場所」欄に「b」とあるのは、「c」の誤記と認める。)。 第3 量刑不当の控訴趣意について 1 原判決は、その「量刑の理由」において、概要、以下のとおり説示する。 量刑の中心となる保護責任者遺棄致死事件について、被害者に長期間飢えの苦しみを与えた犯行態様は余りにも残酷なものである。かけがえのない命や未来が奪わ れたという結果は、取り返しのつかない重大なものである。被害者の体は脂肪がほ とんど残っていないなどの状態で、その肉体的苦痛は想像を絶し、ごく少量の食事しか与えられず、本来頼るべき母親から十分な保護を受けられなかった被害者の辛く悲しい気持ちは計り知れない。 被告人は、Aに様々な虚言を重ねて、その人間関係を断って孤立させ、強い心理的影響下に置いて生活全般を実質的に支配し、周囲に助けを求めることが困難な状 態にAを陥らせた上で不保護を継続させたのであり、巧妙かつ悪質性の高い手口で被害者の不保護を主導したのはほかならぬ被告人である。被告人は、被害者が要保護状態に陥 囲に助けを求めることが困難な状 態にAを陥らせた上で不保護を継続させたのであり、巧妙かつ悪質性の高い手口で被害者の不保護を主導したのはほかならぬ被告人である。被告人は、被害者が要保護状態に陥っていたことを明確に認識しながら、その後もAの収入を根こそぎだまし取った上、第三者から食料をもらってはならないといった指示や支配を解消することなく、Aら家族への定期的な食事の提供を止め、それまで以上にAら家族が食 料を確保することを困難にさせており、その意思決定は非常に強い非難に値する。 被告人は否認しているため動機は必ずしも判然としないが、いずれにせよ、その欲望のままに本件犯行に及んだといえ、酌量の余地は全くない。被害者の遺族らが被告人の厳重処罰を求めるのも当然である。 詐欺・窃盗事件についても、被害総額は198万円余りと相当額に及び、また、 被害者の不保護に至らせた犯行でもあるなど、総じて犯情は重い。 子に対する保護責任者遺棄致死事件の中で、本件は極めて重い部類に属するものといえ、密接に関連する詐欺・窃盗事件の犯情の重さを併せ考慮すると、被告人の刑事責任は懲役15年を下るものではない。 その上で、被告人がなお不合理な弁解やAに責任を転嫁する供述を繰り返し、自 らの責任に全く向き合っていない以上、主文掲記の刑に処するほかない。 2 以上のような原判決の量刑事情の指摘、評価及びこれに基づく量刑判断は、正当である。生まれてからまだ5年しか経っておらず母親しか頼ることができない被害者が、その母親(A)から食事を与えられず、空腹に耐えかねて盗み食いをすれば叱られるなどの仕打ちを受けた挙句、飢餓死したという本件保護責任者遺棄致 死は、悲惨で痛ましい事件である。幼いながらにAらの生活全般に被告人が強い影 響力を持っていると 盗み食いをすれば叱られるなどの仕打ちを受けた挙句、飢餓死したという本件保護責任者遺棄致 死は、悲惨で痛ましい事件である。幼いながらにAらの生活全般に被告人が強い影 響力を持っていると悟った被害者が、死の数日前に母親(A)に対し、被告人を呼んで欲しいと頼んだり、「(病院に)行けるなら行きたい」と頼んだりしたことだけを見ても、被害者の辛く悲しい気持ちは計り知れないとする原判決が正しい評価をしていることがみてとれる。原判決の刑が求刑と同じであることを勘案しても、これが重過ぎて不当であるとはいえない。 所論は、被告人がAに対する心理的影響を与えた方法は暴行や脅迫を用いたものではなく、あくまで虚言を弄したに過ぎず、それも、被告人の妄想の中で思いついた虚言であって、その内容は稚拙かつ容易に虚言と見破ることが可能であった、それにもかかわらず、被告人の稚拙な虚言をAが過度に盲信した点にこそ結果発生の原因の一端があるのであり、被告人の虚言がAの行動を「支配」していたとか、「巧 妙かつ悪質性の高い手口」だとする原判決の評価には誤りがある、という。しかし、被告人の虚言は所論のいうような稚拙なものではない。すなわち、数年間にわたり、様々な人物を登場させながら、周囲の人間に対するAの不信感を煽って、人間関係を断たせていく形で積み重ねられたものであるから、稚拙などとは到底評価できない。Aが虚言を信じた点を批判する所論は採用できない。そして、被告人は、Aの 性格や子供らへの対応等を責め、ボスの憤激を代弁し、Aが見捨てられる可能性を示唆する一方、Aのためにボスにとりなす風を装ったり、夫に対する慰謝料請求訴訟により多額の金が入るなどと甘言を弄したりしながら、Aの心情や行動をコントロールしている。被告人がAを強い心理的影響下に置いていた 一方、Aのためにボスにとりなす風を装ったり、夫に対する慰謝料請求訴訟により多額の金が入るなどと甘言を弄したりしながら、Aの心情や行動をコントロールしている。被告人がAを強い心理的影響下に置いていた、巧妙かつ悪質性の高い手口で被害者の不保護を主導した、とする原判決の評価は、正当である。 所論は、保護責任者であるAは懲役5年の判決を受けているのであるから、その3倍に及ぶ懲役15年の量刑は責任主義の観点から是認できない、という。しかし、被害者に長期間飢えの苦しみを与え、遂には飢餓死に至らしめた、残酷な態様と、被害者の想像を絶する苦痛に照らせば、子に対する保護責任者遺棄致死事件の中で本件が極めて重い部類に属するという原判決の評価は、正当である。同種事案の量 刑傾向を踏まえても、本件保護責任者遺棄致死は、その主導者に対しては10年を 相当に超える懲役刑が当然に想定し得る事案といえる。そして、被告人は、Aを強い心理的影響下に置き、ボスらによる監視を示唆するなどしながら不保護を継続させたほか、Aら家族が食料を確保することを困難にさせるなどしているのであるから、まさに、被告人の行動こそが被害者の苦痛と死の結果を招いたものと評価できる。そのような保護責任者遺棄致死事件に、詐欺及び窃盗事件も併せ考慮すれば、 懲役15年という原判決の量刑は、量刑傾向を逸脱したものであるとはいえない。 被告人に対する責任非難と、保護責任者ではあるものの被告人の強い心理的影響下に置かれていたと認められるAに対する責任非難には、大きな差が存在するのであるから、Aに対する刑との比較を根拠として量刑不当をいう所論は採用できない。 3 量刑不当をいう論旨は理由がない。 第4 結論よって、刑訴法396条、181条1項ただし書、刑法21条により、主文 に対する刑との比較を根拠として量刑不当をいう所論は採用できない。 3 量刑不当をいう論旨は理由がない。 第4 結論よって、刑訴法396条、181条1項ただし書、刑法21条により、主文のとおり判決する。 令和5年3月9日福岡高等裁判所第3刑事部 裁判長裁判官市川太志 裁判官髙橋明宏 裁判官関洋太

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