主文 1 被告は,原告に対し,金120万円及びこれに対する平成11年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金4386万6176円及びこれに対する平成10年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,刑務所職員であった原告が,公務災害の後遺障害等により膝の具合が悪かったにもかかわらず,膝への負担の大きい部署に配属され,かつ,他の刑務所職員らから困難な業務に従事するよう強要されるなど肉体的精神的ないやがらせを受けて退職することを余儀なくされたと主張して,被告に対し,不法行為及び債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき,損害賠償の支払いを求めている事案である。 1 前提となる事実当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲1ないし3,甲8,甲11,甲13,甲17,乙1ないし3,乙4の1ないし3,乙7,乙8)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は,次のとおりである。 (1) 原告は,昭和35年11月17日,刑務所職員として採用され,加古川刑務所勤務を経て,昭和39年3月25日から平成10年4月1日に退職するまでの間,宮崎刑務所に勤務していたものである。(乙3)(2) 原告は,昭和43年4月11日,柔道訓練中に左膝関節内側半月板断裂,外傷性膝関節炎,同膝関節内側々副靱帯断裂の負傷をし,昭和49年2月1日に左足関節機能障害の後遺障害を残して症状固定した。上記負傷は昭和43年4月24日付で公務災害と認定され,原告は国家公務員災害補償法別表に定める障害等級10級10号に該当するとして,障害補償一時金73万0080円を受給し 遺障害を残して症状固定した。上記負傷は昭和43年4月24日付で公務災害と認定され,原告は国家公務員災害補償法別表に定める障害等級10級10号に該当するとして,障害補償一時金73万0080円を受給した(以下「本件公務災害」という。)。(甲1,乙1ないし3)(3) 原告は,昭和39年3月25日管理部保安課勤務を命ぜられ,その後は昭和45年6月15日に管理部教育課(放送係),昭和53年4月1日に管理部保安課(書信担当),平成元年4月1日に管理部教育課(放送係),平成3年4月1日に管理部保安課(書信担当),平成4年1月12日に総務部庶務課(写真・指紋係)の勤務をそれぞれ命ぜられた。これらはいずれも身体的負担が軽いいわゆるデスクワークの部署であり,被告は,前記の公務災害の後遺障害を持つ原告の身体状況に配慮して,原告をこれらの部署に配置したものである。 (乙3)(4) 原告は,平成6年6月6日,処遇部(運動・入浴・捜検係)へ配置換えを命じられた。 (5) 原告は,平成6年8月2日,A病院のB医師(以下「B医師」という。)の診察を受け,同年9月16日付で両側変形性膝関節症・慢性リウマチと診断された。また,原告は,同月10日及び13日,N整形外科医院を受診し,両変形性膝関節症との診断を受けた。 原告は,その後同年10月11日から同年12月10日まで,両膝変形性関節症等の治療のためA病院に入院した。 (甲2,甲3)(6) 原告は,平成7年1月9日,処遇部教育課に配置換えになった。(甲8)(7) 原告は,平成7年1月5日,平成6年6月6日に処遇部へ配置転換された後の業務の肉体的負担により本件公務災害が再発し,両側変形性膝関節炎及び慢性関節リウマチを併発したと主張して公務災害の認定を求めたが,平成7年10月20日,公務との相当因果関係がな へ配置転換された後の業務の肉体的負担により本件公務災害が再発し,両側変形性膝関節炎及び慢性関節リウマチを併発したと主張して公務災害の認定を求めたが,平成7年10月20日,公務との相当因果関係がないとして公務外認定の通知を受けた。 原告は,平成8年9月27日,人事院に対して災害補償審査の申立てをし,平成9年3月25日人事院の公務災害調査を受けたが,同年11月21日,上記審査申立ては棄却された。 (甲11,甲13)(8) 原告は,平成9年12月5日,左膝関節動揺関節,変形性関節症及び左肘滑液包炎の治療のためC整形外科病院に入院し,同病院に入院中の同月16日,被告に対して勧奨退職に応じる意思を明らかにし,平成10年4月1日,勧奨により退職した。(甲17,乙3,乙4の1ないし3,乙7,乙8) 2 本件の争点(1) 配置転換の違法性(原告の主張)ア処遇部へ配置転換したことの違法原告は,本件公務災害の後遺障害により左膝関節動揺関節,変形性関節症に罹患しており,立業に従事することは肉体的に不可能であったため,処遇部の仕事をすることは不適切であり,平成6年6月6日以前は総務部でデスクワークをしていたものである。しかるに,平成6年6月6日,原告は処遇部へ配置転換を命ぜられ,5,6名から2,30名の被収容者の運動を監視しなければならないなど,強靱な体力を要し身体的負担の大きい運動・入浴・捜検係の職務に従事させられた。 イ処遇部から配置転換しなかったことの違法原告は,平成6年8月27日,A病院において変形性関節症に罹患しており立位仕事及び階段昇降は避けた方が望ましいとの診断を受け,同年9月16日ころには,両側変形性膝関節症・慢性関節リウマチにより立位仕事,階段昇降及び長時間立位は避けた方が望ましい旨が記載された ており立位仕事及び階段昇降は避けた方が望ましいとの診断を受け,同年9月16日ころには,両側変形性膝関節症・慢性関節リウマチにより立位仕事,階段昇降及び長時間立位は避けた方が望ましい旨が記載されたA病院のB医師作成の診断書をD処遇部首席(以下「D処遇首席」という。)に対して提出し,他のより負担の軽い配置に転換してくれるよう求めた。したがって,被告は原告をかつて勤務していた総務部庶務課など肉体的負担の軽い配置に転換すべき義務を負うが,D処遇首席は診断書の受け取りを拒否し,被告は,原告の体調に配慮することなく,平成7年1月9日まで漫然と処遇部(運動・入浴・捜検係)の職務を継続させた。 ウ症状の悪化その結果,原告の症状は悪化し,平成6年10月11日には手,足,首等が動かなくなり,同年12月10日までの間A病院に入院することを余儀なくされた。 なお,原告は,早出,当直及び点検礼式の免除を申請し認められていたが,実際には免除を認めない運用がされていた。また,原告は,平成7年1月9日,処遇部企画部門(教育担当)に配置転換されたが,当初は受刑者4,5名を戒護しながら一般工場又は舎房等に官本又は私本を配付及び回収し,また受刑者を入浴及び運動させる図書室工場の勤務を命ぜられたのであり,被告が原告の当時の症状を十分考慮したものとはいえない。 (被告の主張)ア処遇部の職務内容原告は,平成6年6月6日に処遇部処遇部門に配置転換され,運動・入浴・捜検係の業務に従事したが,主として捜検係の業務に従事した。 宮崎刑務所では全職員151人のうち処遇部処遇部門の職員数が93名と多数を占めており,処遇部処遇部門の職務は刑務官の職務の中心をなすものである。このうち,工場担当の職務内容は,1人で数十人の受刑者を受け持ち,受刑者 員151人のうち処遇部処遇部門の職員数が93名と多数を占めており,処遇部処遇部門の職務は刑務官の職務の中心をなすものである。このうち,工場担当の職務内容は,1人で数十人の受刑者を受け持ち,受刑者の逃走防止に努めるのみならず,受刑者による作業が規律をもって円滑に行われ事故が発生しないように監督指導するとともに,作業材料の過不足の確認と保管,機械器具の整備点検などにも万全を期さなければならず,勤務中は工場内を巡回し待機時間以外は立ったまま作業等の監視に当たり,その他にも身上相談や日用品の購入管理など受刑者の生活全般にわたる事項を担当するなど,その勤務内容は複雑かつ多忙であって肉体的精神的負担は重い。 これに対して,原告が担当した運動・入浴・捜検係の職務内容は,拘置監に拘禁されている刑事被告人及び昼夜独居舎房に独居拘禁されている受刑者に運動及び入浴をさせることであり,あわせて被収容者が運動又は入浴のために居室から出房している間に居室の検査(捜検)を行うことである(なお,原告は主として捜検係の職務に従事しており,捜検係の職務は被収容者と直接接触するものではなく,立業とはいえそれほど身体的負担がかかるものではなかった。)。してみると,運動・入浴・捜検係は,規律の維持や逃走防止に努めなければならない点においては工場担当など他の担当と共通するものの,肉体的精神的負担ははるかに少ないというべきである。 イ原告の勤務歴原告は,前記「前提となる事実」(3)記載のとおり,極めて身体的負担の少ない部署だけの勤務を命ぜられてきており,これは通常の刑務官の勤務経験とは著しく異なる。なお,現在原告が罹患している左膝関節動揺関節及び変形性関節症については本件公務災害に起因するものではない。 ウ配置転換の裁量性公務の能率的な遂行を 刑務官の勤務経験とは著しく異なる。なお,現在原告が罹患している左膝関節動揺関節及び変形性関節症については本件公務災害に起因するものではない。 ウ配置転換の裁量性公務の能率的な遂行を図るため,任命権者は,職員の配置転換を行うことができる権限を有しており,職員の配置は任命権者の裁量に委ねられている。したがって,裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用にわたる場合にはじめて当該配置転換が違法と評価される。 被告が,原告に対し,肉体的精神的にさほど負担のかかる業務ではない運動・入浴係への配置転換をしたことは,任命権者の裁量の範囲の逸脱又は濫用に当たらない。 エ被告の対応措置宮崎刑務所長は,原告の免除願いにより早出及び点検礼式を免除し,さらに,平成7年1月9日にはデスクワーク中心の処遇部企画部門(教育担当)に配置転換を命じており,必要な対応措置を執っている。 (2) 職員の暴行(原告の主張)E統括矯正処遇官(以下「E」という。)は,平成7年3月28日,いきなり原告の左手首を護身術の要領で激しくねじった。原告が,「痛い。何をするのか。」と言ったところ,Eは,壁に時計が掛かっていたにもかかわらず,「今何時ですか。時計を見せてください。」といいながら原告の左手首を掴みシャツをめくった。 (被告の主張)否認する。 (3) 無理な職務の強要(原告の主張)ア原告は,前記(1)主張の公務災害の後遺障害に加え,平成8年9月18日,宮崎県立宮崎病院内科において紫斑病との診断を受け,風邪を引くことが致命傷になりかねない健康状態であり,このことは被告も了知していた。 そうであるにもかかわらず,被告の職員らは,原告を仮病扱いし,次のとおりの無理な職務を強要した。 イ原告の上司に当たるF統括矯正処 かねない健康状態であり,このことは被告も了知していた。 そうであるにもかかわらず,被告の職員らは,原告を仮病扱いし,次のとおりの無理な職務を強要した。 イ原告の上司に当たるF統括矯正処遇官(以下「F」という。)は,平成9年10月17日,原告に対し同月25日(土曜日)の矯正展に出勤するように職務命令を行った。原告は,体調が悪いことを理由にいったんは断ったが,結局は出勤を余儀なくされた。 ウ同年11月27日,原告は,当日になって午後5時10分から職務研修が実施されることを知り,その日は病院に治療に行くために早く帰りたいと申し出たが,Fは,「どこの病院に行くのか。命令が出ているんやど。」と厳しく叱責した。 エ G庶務係員は,平成9年11月17日,原告に対し正月出勤をするように職務命令をし,さらに庶務課長も再び同様の命令をしたが,原告は体調が悪いことを理由にこれを断った。 (被告の主張)ア被告が原告に紫斑病の疑いがあるということを認知したのは,平成9年11月27日である。その際に,原告は風邪を引くことが致命傷になるとは述べていない。被告は原告を仮病扱いしたことはない。 イ Fは,平成9年10月17日,原告に対し同月25日の矯正展に出勤するように依頼したが,職務命令をしたものではない。Fは,原告の身体的状況を考慮し,身体的負担の少ないビデオ係を依頼したものであり,原告はこの依頼をいったんは断ったが,後日,依頼に応じて出勤している。 ウ職務研修の実施については,原則として文書又は口頭で事前に各職員に連絡しており,平成9年11月27日に実施された職務研修についても原告に対し事前に連絡している。Fは,原告の病院に行くために早く帰りたいとの申し出に対し,どこの病院に行くのか尋ねるとともに全員が出席するように指示があ 9年11月27日に実施された職務研修についても原告に対し事前に連絡している。Fは,原告の病院に行くために早く帰りたいとの申し出に対し,どこの病院に行くのか尋ねるとともに全員が出席するように指示があるので職務研修に出席するように促しただけである。 エ G庶務係職員は,平成9年11月17日,正月勤務の予定表を作成するため,原告に対して正月出勤が可能かどうかを打診したが,職務命令をしたものではない。そもそも,庶務係職員には原告に対し正月出勤を命じる権限はない。 (4) 給与についての差別的取扱い(原告の主張)平成7年8月ころの超過勤務手当については,他の職員の超過勤務手当の限度額は月約7万5000円であったところ,原告は,他の職員と同様に超過勤務を実施したにもかかわらず月3万円程度しか支給を受けられなかった。 この点について,H主任矯正処遇官は,「原告には超過勤務手当を付けないよう指導されている。」と述べた。 また,平成9年2月5日にも,原告はEの命令により午後5時から午後9時40分まで超過勤務をしたが,超過勤務・休日勤務・宿日直・夜勤命令簿にその旨の記載がされていなかった。 (被告の主張)原告が月3万円程度の超過勤務手当しか受けられなかったのは,単にそれに見合うだけの超過勤務時間しか勤務していなかっただけのことである。また,超過勤務手当を職員に一律に月額7万5000円としていたようなことはないのであって,原告に対して不当な差別的扱いをしていたようなことはない。 (5) 被告の責任原因(原告の主張)ア民法715条の使用者責任刑務所職員らの上記(1)ないし(4)の各行為は,原告の上司としての地位を利用し,主として職務時間中職場内において,職務の一環として又はこれに関連して行われた不法行為で 715条の使用者責任刑務所職員らの上記(1)ないし(4)の各行為は,原告の上司としての地位を利用し,主として職務時間中職場内において,職務の一環として又はこれに関連して行われた不法行為であるから,被告の事業の執行につきされたものであるとして,被告は民法715条の使用者責任を負う。 イ民法709条の不法行為責任刑務所職員らの前記各行為は,原告の上司としての地位を利用し,主として職務時間中職場内において,職務の一環として又はこれに関連して行われた不法行為であるから,被告は全体として民法709条の不法行為責任を直接負う。 ウ国家賠償法1条の責任刑務所職員らの前記各行為は,公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて原告に損害を与えたものであるから,被告は国家賠償法1条の責任を負う。 エ民法415条の債務不履行責任一般に,使用者は,労働契約上,職場において被用者の人格権が侵害され,被用者にとって職場環境が著しく悪化する事態が発生することを未然に防止し,またこのような事態を知ったときには迅速かつ適切に対処し,職場環境を働きやすくする義務を負う。職場内でのいじめやいやがらせは,被害者の人格権を侵害する行為であり,人格権は生命身体とならんで最大限尊重されなければならない基本的権利である。それゆえ,使用者は,業務遂行の過程で,被用者の人格権についても,生命身体と同様に侵害から保護するよう配慮すべき義務(労働環境配慮義務)を負う。 したがって,被告は,刑務所職員らによる原告に対するいじめ・いやがらせを未然に防止し,またこれを知ったときは迅速に当該職員の行為をやめさせるように注意,監督,指導,配置換えなどの適切を講じることによって,原告の苦痛を除去し快適な職場環境を調整すべき義務を負ってい せを未然に防止し,またこれを知ったときは迅速に当該職員の行為をやめさせるように注意,監督,指導,配置換えなどの適切を講じることによって,原告の苦痛を除去し快適な職場環境を調整すべき義務を負っている。被告がこの義務を怠った結果,原告は肉体的精神的に追いつめられ退職に至ったものである。 オ原告は上記アないしエの各責任原因について,選択的に請求する。 (被告の主張)責任原因については全て争う。 (6) 原告の損害(原告の主張)原告は,上記(1)ないし(4)のとおりの刑務所職員らによるいやがらせを受けて肉体的精神的に追いつめられ,平成10年4月1日,定年まで4年を残して退職することを余儀なくされた。したがって,被告は,原告に対し,不法行為又は債務不履行に基づき,次の損害を賠償すべき責任を負う。 ア逸失利益 2986万6176円原告の平成9年度の収入746万6544円の4年分イ慰謝料 1000万円ウ弁護士費用 400万円(被告の主張)原告が定年まで4年を残して勧奨退職に応じて退職したのは,あくまでも原告の健康上の理由による自発的なものであって,原告の主張するような各職員の原告に対する言動があったとしても,これと原告の退職の間に因果関係はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提となる事実に加えて,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりの事実を認定することができる。 (1) 原告は,昭和43年4月11日,柔道訓練中に左膝関節内側半月板断裂,外傷性膝関節炎,同膝関節内側々副靱帯断裂の負傷をし,昭和49年2月1日に,左足関節機能障害の後遺障害を残して症状固定した(本件公務災害)。原告は,平成6年ころには後遺障害にもかかわらず正常に歩行することや階段を昇降することは 副靱帯断裂の負傷をし,昭和49年2月1日に,左足関節機能障害の後遺障害を残して症状固定した(本件公務災害)。原告は,平成6年ころには後遺障害にもかかわらず正常に歩行することや階段を昇降することは可能な状態であり,デスクワークの勤務を行うことには特に支障がなかったが,左膝動揺関節により歩行中に膝が折れることがあり,階段昇降時や長時間歩行をした後などには膝が痛むこともあった。なお,原告は,昭和49年ころから約10年間は,膝に装具を付けていた。 さらに,原告は,平成4年には,右肩関節周囲炎,多発性関節炎,慢性関節リウマチ(疑い),関節痛,平成5年には両手関節痛の病名により通院治療を受けており,手の関節についても痛みがある状態であった。 被告は,原告の上記のような身体的状況を考慮し,本件公務災害後平成6年6月5日までは原告をデスクワークの部署のみに配置したが,刑務官の経歴としてこれは極めて異例なものである。また,原告は本件公務災害後,武道訓練は免除されていた。 平成4年1月12日から平成6年6月5日にかけて原告が従事していた総務部庶務課(指紋写真係)の職務内容は,主に文書を取り扱うデスクワークであり,新規入所者があった場合には指紋採取及び写真撮影を行うというものであった。 (甲1,甲11,甲13,甲23,甲30,甲35,乙1,乙3,証人L,原告本人)(2) 平成6年6月ころ,宮崎刑務所では,給与計算事務を会計課から庶務課に移管しコンピューター化するに当たり,会計課から庶務課へコンピューターを扱うことができる職員を異動させる必要が生じた。そのため,J処遇部長(以下「J処遇部長」という。),K総務部長ら幹部職員は,検討の上,庶務課から処遇部へ原告を異動させ,他の職員を処遇部から会計課へ異動させることにし,平成6年6月6日付で じた。そのため,J処遇部長(以下「J処遇部長」という。),K総務部長ら幹部職員は,検討の上,庶務課から処遇部へ原告を異動させ,他の職員を処遇部から会計課へ異動させることにし,平成6年6月6日付でその旨の配置転換をした(なお,配置転換は刑務所長の権限であるが,実際に配置の原案を作成したのはJ処遇部長らであり,その原案に基づいて刑務所長が配置転換を命じている。以下も同様である。)。その際,J処遇部長らは,原告の体調について,手の調子が悪く字がよく書けないほかは特段他の職員と変わったことはないと認識しており,膝の障害については全く認識していなかった。 (乙16,証人J)(3) J処遇部長及びD処遇首席は,処遇部で欠員のあった保安係に原告を配置しようとし,平成6年6月6日に原告に対して保安係として昼夜間勤務をするように命じたが,原告は公務災害により足が悪いので昼夜間勤務はできない旨答えた。そこで,J処遇部長らは,処遇部教育係の職員を異動させることは難しく,また,原告には前記(1)認定のような手の関節痛があったことから筆記の多い書信係の業務につくことは困難であると判断し,原告を運動・入浴・捜検係に配置することにした。 (甲32,甲35,乙10,乙16,証人J,原告本人)(4) そのころ,処遇部の幹部らが集まるミーティングの席上で,J処遇部長は原告は仮病であると発言をした(証人L,原告本人。証人Lはその旨の発言を聞いたと証言するのに対し,証人Jはそのような発言をしたことはないと証言する。しかし,上記認定のとおり証人Jは原告は手が悪いほかは健康体であると考えていたのであるから,原告が足が悪い旨述べてもそれを容易に信じず,仮病扱いするのは自然な成り行きであることを考慮すると,この点についての証人Jの証言は証人Lの証言に比較して信用性が低い であると考えていたのであるから,原告が足が悪い旨述べてもそれを容易に信じず,仮病扱いするのは自然な成り行きであることを考慮すると,この点についての証人Jの証言は証人Lの証言に比較して信用性が低いものといわざるを得ない。)(5) 原告が担当した運動・入浴・捜検係の仕事は,3名で1組となり(都合により2人ないし5人になることもある),うち2名が拘置監に拘禁されている刑事被告人及び昼夜独居舎房に独居拘禁されている受刑者が居室から出て運動及び入浴をするのを監視し,もう1名がその間に各居室に入り,違反品が持ち込まれていないかなどを点検する作業(監獄法施行規則45条に基づく検査。宮崎刑務所ではこれを「捜検」と称しており,以下では単に「捜検」という。)を行う。原告は,毎日午前8時30分ころから午前11時ころまでと午後1時ころから午後4時ころまでの合計約5時間半,運動・入浴・捜検係の業務を行ったが,原告は捜検を担当することが多かった。それ以外の時間は待機時間であり,書類作成等の業務を行うほか,他の担当が休憩しているときの応援業務も行っていた。 このような運動・入浴・捜検係のうち捜検係は,多数の被収容者を担当し勤務中は工場内を巡回し待機時間以外は立ったまま作業等の監視に当たらなければならない工場担当と異なり,直接被収容者と接触することがないため肉体的精神的負担は比較的軽いが,各居室を歩き回り違反品の持ち込みはないかなどを検査するのであるから,かなりの距離の歩行を要し,デスクワーク中心の庶務業務に比較すれば膝への負担が大きい業務である。また,運動・入浴係は,立った姿勢で被収容者が運動や入浴をするのを監視し,被収容者の身柄の確保,事故防止,規律の維持等に努めなければならず,相当程度負担の大きい職務である。もっとも,運動・入浴・捜検係は,工場担当 係は,立った姿勢で被収容者が運動や入浴をするのを監視し,被収容者の身柄の確保,事故防止,規律の維持等に努めなければならず,相当程度負担の大きい職務である。もっとも,運動・入浴・捜検係は,工場担当に比べれば負担が軽いため,日勤固定配置の職員がいない場合は夜勤前の職員が配置されることが多い。 (甲30,甲32,甲34,甲35,乙10,乙15の1,2,乙16,証人J,原告本人)(6) 原告は,運動・入浴・捜検係の業務に従事するようになった後,平成6年7月8日ころから左膝に痛みを感じるようになり,同年8月2日,A病院を受診した。同病院のB医師は,同月27日,原告の病名を両側変形性膝関節症・慢性リウマチと診断した。また,原告は,同年9月10日及び13日に,N整形外科に通院して両変形性膝関節症の治療を受けた。 原告は,同年9月16日,B医師から,立位仕事,長時間立位,階段昇降は避けることが望ましいとの診断を受け,その旨の記載がされた同医師作成にかかる診断書をD処遇首席に提出し,他の膝への負担の軽い配置に転換してくれるように求めた。 しかし,J処遇部長やD処遇首席は,原告の膝痛の訴えを仮病であると考えていたため,被告は殊更原告を負担の軽い配置に転換するなどの業務軽減措置を執ることはしなかった。 原告の膝の痛みは平成6年10月に入るとさらに悪化したため,原告は同月11日から同年12月10日まで治療のためA病院に入院した。 (甲2,甲3,甲5,甲11,甲32,甲35,甲39,乙16,証人L,証人J,原告本人)(7) 原告は,A病院を退院した後の平成6年12月21日,宮崎刑務所法務技官N医師の診察を受け,同医師は原告を慢性関節リウマチ・両膝関節炎であり立業は不可とする旨の診断書を作成し,原告は同診断書を上司に提出した。 退院した後の平成6年12月21日,宮崎刑務所法務技官N医師の診察を受け,同医師は原告を慢性関節リウマチ・両膝関節炎であり立業は不可とする旨の診断書を作成し,原告は同診断書を上司に提出した。 原告は,平成7年1月4日,宮崎刑務所長に対し,遅出出勤(午前8時30分出勤)にしてほしい旨の免除願いを,同月5日に点検礼式免除願いを提出し,これらはそのころ承認された。 (甲4,甲6,甲7,甲32,甲35,原告本人)(8) 原告は,平成7年1月9日,処遇部教育課に配置換えになり,教育課の責任者である統括矯正処遇官(教育担当)のEから図書計算工場勤務を指示されたが,体調が悪いとしてこれを拒否したため,結局図書計算工場交替勤務に就くことになった。処遇部教育課における原告の業務内容は,被収容者が読む新聞の検閲作業,図書計算工場において担当職員が休憩したり工場巡回に出たりしている間の受刑者の戒護,Eの事務処理の補助等であった。図書計算工場の担当も他の工場担当と同じく受刑者の規律維持,逃走防止等に留意する必要があるが,図書計算工場は他の工場より受刑者の数が少なく(当時は4ないし6名),かつ受刑者も比較的良好な性格の者が多いため,肉体的精神的負担は少ない。他に,原告は,義務教育未修了の受刑者に対する国語算数の教科指導を担当することになった。原告は,1日に1回程度工場等を巡回して私本及び官本の配付及び回収作業をすることがあったが,それ以外は概ね座った姿勢で業務を行うことができた。 宮崎刑務所職員の正規の勤務時間は午前8時30分から午後5時までであるが,処遇部教育課職員は午前8時20分から職員点検が行われる(そのため職員点検に出た者は午前8時20分から同30分までが超過勤務となる。)。原告は,点検免除がされていたため,午前8時20分の職員点検には出 遇部教育課職員は午前8時20分から職員点検が行われる(そのため職員点検に出た者は午前8時20分から同30分までが超過勤務となる。)。原告は,点検免除がされていたため,午前8時20分の職員点検には出ていなかったが,新聞検閲のため午前8時ころに出勤することが多かった。原告が勤務を終えて帰宅するのは,通常は午後5時ころであり,病院への通院等のため他の職員に比較して残業をすることは少なく,膝の痛みのために早退することもあった。また,原告が処遇部教育課に配置換えされたころに,J処遇部長は原告が退院直後であることを考慮し,原告の直属の上司であるEに対して,なるべく原告に超過勤務をさせないようにと注意した。また,原告は,平成7年1月15日,宮崎刑務所長に対して当直免除願いを提出し承認されたため,原則として宿日直勤務はしていない。 (甲9,甲10,甲30,甲32,甲35,甲47の1,2,甲50,甲51の1,甲52の1,乙12,乙13,乙16,乙17,証人L,証人J,証人E,証人F,証人H,原告本人)(9) 平成9年1月下旬ないし2月上旬ころ,Eは,原告に対して受刑者の出所時アンケート結果を急いで集計するように命じ,原告は,同年2月5日,Eに報告した上で午後9時40分ころまでかかって集計を完了し,その翌日に全日の超過勤務時間についてH主任矯正処遇官(以下「H」という。なお,教育担当の主任矯正処遇官は,宮崎刑務所では教育係長と呼ばれることがある。)に申告した。ところが,同年3月28日に原告に対して示された2月分の超過勤務・休日勤務・宿日直・夜勤命令簿(以下「超過勤務命令簿」という。)には,その旨の記載がされていなかったため,腹を立てた原告は押印を拒否して超過勤務命令簿を持ち去った。 なお,宮崎刑務所における超過勤務時間の管理は,① 正規の勤務時 「超過勤務命令簿」という。)には,その旨の記載がされていなかったため,腹を立てた原告は押印を拒否して超過勤務命令簿を持ち去った。 なお,宮崎刑務所における超過勤務時間の管理は,① 正規の勤務時間以外に命令によって勤務した職員は,翌日に各部門の勤務時間管理者(処遇部教育課においてはH)にその旨を申告する,② 勤務時間管理者は申告に基づいて補助簿を作成し,月ごとに庶務課に提出する,③ 補助簿の提出を受けた庶務課は,現実の超過勤務時間全てに超過勤務手当を支給することができるほどの予算がないため,補助簿に記載された超過勤務時間をもとに各人の超過勤務手当を決めて各部門の勤務時間管理者に通知する,④ 各部門の勤務時間管理者はそれをもとに改めて超過勤務命令簿を作成し,それに基づいて超過勤務手当が支給されるというものであった。また,ある日に長時間の超過勤務をした場合に,他の日にも超過勤務を振り分けることも行われていた。その結果,超過勤務命令簿に記載された超過勤務時間は,必ずしも現実の超過勤務時間を反映するものではない。 (甲14,甲15,甲32,甲35,甲57の1,乙12,乙14,乙17,証人E,証人M,証人H,原告本人)(10) 平成8年8月ころ,原告は県立宮崎病院において,特発性血小板減少性紫斑病との診断を受け,同年11月19日ころ,その旨記載された同年9月13日付の診断書をEに対して提出し,自分が難病の紫斑病に罹患しており,風邪を引くことが致命傷になりかねないことを話した。 平成9年4月1日,Eに代わりFが教育担当の統括矯正処遇官となり,原告は,同年6月20日,Fに対しても同旨の内容を告げた。 (甲12,甲32,甲35,乙12,乙13,証人E,証人F,原告本人。なお,証人Fは,平成9年11月27日まで原告が紫斑病であることを知ら 原告は,同年6月20日,Fに対しても同旨の内容を告げた。 (甲12,甲32,甲35,乙12,乙13,証人E,証人F,原告本人。なお,証人Fは,平成9年11月27日まで原告が紫斑病であることを知らなかったと証言するが,同証人の前任者である証人Eは紫斑病という病名自体は記憶していないものの風邪を引くことが致命傷になりかねないという話を聞いたことはある旨証言しており,原告はそれまでも自らの身体の不調を上司に訴え続けていたことをあわせて考慮すると,原告はFが着任して早期に自らの体調について説明しているものと認めるのが相当である。)(11) Fは,平成9年10月17日,原告に対し同月25日(土曜日)の矯正展に出勤するように指示した。原告は,体調が悪いとしていったんはこれを拒否したが,Fは,体調が悪いなら第三者を納得させるような文書を出してくれ,楽なビデオ係にするからなどとしてさらに原告を説得したところ,結局原告はこれを承諾して,同月25日はビデオ係として勤務した。 (甲32,甲35,甲59,乙13,証人F,原告本人)(12) 平成9年11月17日,庶務課職員のG及びM庶務課長(以下「M」という。)は,原告に対して,正月出勤をするように打診したが,原告は体調が悪いとしてこれを拒否した。なお,宮崎刑務所では,正月の勤務割を作成するに際し,体調が悪いなどの事情のある者に対しては事前に庶務課職員が打診をし,その結果を踏まえて勤務割が作成され刑務所長の決裁を受けた上で職員に示されることになっているが,庶務課職員による事前の打診には強制力はなく,職員において自由にこれを拒否することができるものである。 (甲35,乙14,証人M,原告本人)(13) 宮崎刑務所では,同年11月27日の午後5時10分から職員研修があり,Fは,原告を含む教育課の職員 て自由にこれを拒否することができるものである。 (甲35,乙14,証人M,原告本人)(13) 宮崎刑務所では,同年11月27日の午後5時10分から職員研修があり,Fは,原告を含む教育課の職員にその旨を事前に伝え,掲示板にも同趣旨の掲示がされていたが,原告は,当日の夕方に,Fに対して病院にいかなければならないから研修に出席できない旨の申し出をした。Fは,原告に対して,研修は全員出席であるから出席するように言い,どこの病院に行くのかと問いただした。原告は,C整形外科病院に行く旨答え,職務研修の責任者である処遇首席の許可を得た上で職務研修を欠席した。 (甲32,甲35,乙13,証人F,原告本人)(14) 原告は,平成9年12月5日,左膝動揺関節等のためにC整形外科病院に入院した。その後,原告は,左膝の痛みが完治せず体調が悪いことから退職して療養に専念することを決意し,Mに対して,翌春に勧奨退職を希望する旨の手紙を送付した。そこで,Mは,同月16日に原告を見舞い,勧奨退職を希望する意思を確認した上で,その旨の手続を進め,原告は,平成10年4月1日勧奨に応じ退職した。 (甲17,甲32,甲35,乙4の1ないし3,乙5ないし8,乙14,証人M,原告本人) 2 判断前記認定事実に基づき,不法行為ないし債務不履行の成否について検討する。 (1) 争点(1)(配置転換の違法性)についてア国は,公務員に対し,国が公務遂行のために設置すべき場所,施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって,公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負う(最高裁判所第3小法廷昭和50年2月25日判決・民集29巻2号143頁参照。なお,原告は「労働環境配 公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負う(最高裁判所第3小法廷昭和50年2月25日判決・民集29巻2号143頁参照。なお,原告は「労働環境配慮義務」と主張するが,これは安全配慮義務を指すものと善解する。)。 公務員が何らかの疾患を有するときは,国は,当該公務員の疾患が増悪しその生命及び身体を危険にさらすことがないように,当該公務員を当該疾患に関して有害な要因のある業務に従事させてはならない注意義務を負担し,これに違反して当該公務員を当該疾患に関して有害な要因のある業務に配置転換し,又は当該疾患に関して有害な要因のある業務から配置転換せず,その結果当該疾患を増悪させた場合は,安全配慮義務違反に該当するというべきである。 もっとも,国は公務員の配置転換を行う権限を有し,職員をどのように配置するかについては裁量権が与えられているというべきであるから,配置転換が安全配慮義務違反に該当するというためには,当該配置転換が裁量権の範囲の逸脱ないしは裁量権の濫用に当たる場合に限られる。 イそこで,まず平成6年6月6日付で原告を処遇部へ配置転換したことについて,宮崎刑務所長にその裁量権の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用した安全配慮義務違反があるかについて検討する。 (ア) まず,平成6年6月6日時点での原告の健康状態について検討するに,前記認定のとおり,原告は,本件公務災害により国家公務員災害補償法別表に定める障害等級10級10号の認定を受け,昭和49年から約10年間は足に装具をつけていたが,その後は装具を付けていなかったこと,平成6年ころには正常に歩行することや階段を昇降することも可能であったことが各認められることからすると,原告は,少なくとも外観上は立業に従事することが不可 いたが,その後は装具を付けていなかったこと,平成6年ころには正常に歩行することや階段を昇降することも可能であったことが各認められることからすると,原告は,少なくとも外観上は立業に従事することが不可能な状態ではなかったということがいえる。 (イ) そして,原告は,本件公務災害以降平成6年までの間,放送,書信,指紋・写真等のいわゆるデスクワークの業務のみを担当し,刑務官の職務の中心をなす処遇部門の仕事を全くしていない特殊な経歴を有するものであり,他の職員との均衡等の観点から,原告を処遇部門に配置することには合理性がある。 また,前記認定のとおり,運動・入浴・捜検係の業務は,直接被収容者の監督に当たり,かつ相当程度の歩行を要するという点で,原告がそれまで従事していた業務に比べて明らかに肉体的精神的負担の重い業務であることは疑いがないが,処遇部の業務の中では比較的軽易な業務であるということができる。 (ウ) そうすると,J処遇部長等が,原告が立業に従事することも可能な状態であったと判断したことは,後記認定のとおり結果的に誤りであったとはいえ,相応の根拠があるというべきであるから,宮崎刑務所長が,J処遇部長等の案に基づき,原告を平成6年6月6日付で処遇部(運動・入浴・捜検係)に配置転換したことは,いまだ裁量権の逸脱ないし濫用とまではいえない。 ウ次いで,平成7年1月9日まで原告を処遇部(運動・入浴・捜検係)からより膝への負担が軽い業務へ配置転換しなかったことについて,宮崎刑務所長にその裁量権の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用した安全配慮義務違反があるかについて検討する。 (ア) まず,前記認定のとおり,原告は,処遇部(運動・入浴・捜検係)の業務に就いて以降,両膝変形性関節症等が悪化したため,病院を受診し,平成6年9月1 慮義務違反があるかについて検討する。 (ア) まず,前記認定のとおり,原告は,処遇部(運動・入浴・捜検係)の業務に就いて以降,両膝変形性関節症等が悪化したため,病院を受診し,平成6年9月16日ころ,上司であるD処遇首席に対して,立位仕事,長時間立位,階段昇降は避けることが望ましいと記載された診断書(甲2)を提出し,他の膝への負担の軽い配置に転換してくれるように求めたことが認められる(なお,証人Jは,原告から上記診断書が提出されたことを知らない旨証言する。しかし,同証人の証言によれば,同証人は,原告の体調について,手の調子が悪く字が書けないほかは特段他の職員と変わったことはないという程度の認識しか有していなかったというのであるから,同証人ら処遇部幹部職員の認識がその程度であったとすると,原告が手以外の部位の不調を訴えた場合に,同証人やD処遇首席らが原告の訴えを仮病であると考え診断書の内容を軽視するのは自然な成り行きである。また,同診断書は,その体裁からして職場に提出するために作成されたものであることは明らかであり,膝の疼痛に苦しむ原告が同診断書を提出しないということは不自然であるというほかない。したがって,証人Jの前記証言は前記認定を左右するに足りない。)。 そうであると,宮崎刑務所長は,平成6年9月16日の時点で,原告の両膝変形性関節症等の疾患が立業である処遇部(運動・入浴・捜検係)の業務に従事することにより今後増悪する蓋然性が高いことを認識していたか,少なくとも容易に認識できる状態にあったことは明らかである。 (イ) 被告は国家公務員の配置転換について裁量権を有するが,疾患を有する公務員がある業務に従事することにより当該疾患が増悪するおそれがある旨が記載された医師作成の診断書が提出された場合については,その診断 被告は国家公務員の配置転換について裁量権を有するが,疾患を有する公務員がある業務に従事することにより当該疾患が増悪するおそれがある旨が記載された医師作成の診断書が提出された場合については,その診断書の記載内容が一見して不合理であるなど特段の事情がない限り,当該公務員を疾患が増悪するおそれのある業務に従事させる裁量までは与えられていないというべきである。 したがって,平成6年9月16日から後任者の手当てに必要な合理的期間が経過した時点で,宮崎刑務所長は,原告の両膝変形性関節症等の疾患が増悪することがないように,原告を立業である処遇部(運動・入浴・捜検係)の業務から,立業でない他の業務に配置転換すべき安全配慮義務を負担するに至ったというべきである(なお,後任者の手当てに必要な合理的期間については,運動・入浴・捜検係の職務に特殊技能等は必要でないから,長くても1週間程度である。)。 しかるに,宮崎刑務所長は,平成7年1月9日に至るまで原告を膝への負担の軽い業務に配置転換することなく,原告は,その後も処遇部(運動・入浴・捜検係)の業務に従事し続けたため,その結果,原告は両膝変形性関節症等が悪化し平成6年10月11日から約2か月間の入院を余儀なくされたというのであるから,上記不作為について,被告に安全配慮義務違反があることは明らかである。 なお,宮崎刑務所長が原告に対して早出及び点検礼式免除の業務軽減措置を執ったことは認められるが,前記診断書は立業は避けることが望ましいという趣旨であることからすると,これだけの措置では不十分であり,さらに進んで立業以外の業務に配置転換する義務まで負担するものというべきである。 エしたがって,被告は,上記安全配慮義務違反により生じた損害について,賠償する責に任ずる(原告は不法行為責任 り,さらに進んで立業以外の業務に配置転換する義務まで負担するものというべきである。 エしたがって,被告は,上記安全配慮義務違反により生じた損害について,賠償する責に任ずる(原告は不法行為責任と債務不履行責任(安全配慮義務違反)について選択的に請求するので,不法行為の成否については判断しない。)。 (2) 争点(2)(職員の暴行)について原告は,平成7年3月,Eから護身術の要領で左腕をねじる暴行を加えられたと供述し,証人L及び証人Mは,その後原告から同旨の訴えがあったことを聞いたことがある旨の証言をしていることからすると,原告主張にかかる暴行があったことをうかがわせる事情はある。しかしながら,Eはこれを否定しており(証人E),他に上記暴行に関する客観的証拠は全くないことに照らすと,いまだ上記暴行の存在を認めるに足りない。 したがって,職員の暴行を理由とする損害賠償請求は理由がない。 (3) 争点(3)(無理な職務の強要)についてア矯正展及び正月勤務について原告がFや庶務係員らから平成9年10月の矯正展及び平成10年の正月勤務をするように言われたことは前記認定のとおり認めることができるが,これはいずれも事実上の打診であって職務命令とはいえないものである。所長の決裁を得た勤務表が作成される以前の段階で勤務の打診があったとしても,それは原告の都合により拒否する余地があるものであり(正月出勤については現実に拒否している。),そのことが無理な職務の強要として違法性を帯びるものであるとは到底いえない。また,宮崎刑務所長が庶務係員に職務命令をする権限を委任したと認めるに足りる証拠は全くない。 イ職務研修について前記認定のとおり,原告は本来職務研修に参加すべきものであって,原告が職務研修に参加できないと 務係員に職務命令をする権限を委任したと認めるに足りる証拠は全くない。 イ職務研修について前記認定のとおり,原告は本来職務研修に参加すべきものであって,原告が職務研修に参加できないと述べた場合に上司であるFがなぜ参加できないか問いただし,参加するように説得することは当然の対応であり,何ら違法性はない。なお,この説得についても,職務命令であるとは到底いえないものであり(実際に,原告は処遇首席の許可を得た上で職務研修に参加せず病院に行っている),この点からも無理な職務の強要に当たらず違法性がないことは明らかである。 ウしたがって,無理な職務の強要を原因とする損害賠償請求は理由がない。 (4) 争点(4)(給与についての差別的取扱い)について前記認定のとおり,原告は,処遇部教育課に配置換えになった後には,点検礼式免除,宿日直免除等の諸般の業務軽減措置を受けていること,夕方5時以降に通院する必要があり早退をしたこともあったことが認められることに照らせば,原告の超過勤務時間が他の職員より少なかったことは明らかであり,原告の超過勤務手当が他の職員より少額であったとしても,それは実際の超過勤務時間の差を反映したものであると考えられ,原告に対する差別的取扱いがあったことの根拠にはならない。 また,平成9年2月5日に原告が超過勤務を行ったことが超過勤務命令簿に記載されていないとしても,前記認定のとおり,当時宮崎刑務所では現実の超過勤務時間と超過勤務命令簿の記載内容が一致するとは限らない状態にあったというのであるから,これをもって原告に対する差別的取扱いの根拠とすることもできない。 そして,他に,超過勤務手当の支給に関する原告に対する差別的取扱いを認定するに足りる的確な証拠は全くない。 したがって,給与についての 告に対する差別的取扱いの根拠とすることもできない。 そして,他に,超過勤務手当の支給に関する原告に対する差別的取扱いを認定するに足りる的確な証拠は全くない。 したがって,給与についての差別的取扱いを原因とする損害賠償請求にも理由がない。 (5) 原告に発生した損害の額について判断する。 ア逸失利益について前記認定判断のとおり,左膝関節に障害を有する原告が,立業であり相当程度の歩行を要する運動・入浴・捜検係の業務に従事したため,その症状が悪化し入院を余儀なくされたことは明らかである。しかしながら,原告の症状は,平成7年1月に立業ではない処遇部教育課に配置換えになった後にいったん軽減し,その後2年以上が経過した平成9年末から平成10年初めころにかけて再度悪化して入院加療を要するようになり,これに加えて原告は特発性血小板減少性紫斑病,慢性肝炎(B型),高血圧症など本件安全配慮義務違反とは無関係であることが明らかな疾病にも罹患し健康状態がますます悪化した(甲33,甲63)ことが認められる。 そうすると,原告が勤務の継続が困難な状態になり退職したことと,本件安全配慮義務違反との間に相当因果関係があるとは到底いえない。 したがって,原告が定年の4年前に退職したことによる逸失利益は,本件安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害であるとはいえず,運動・入浴・捜検係の業務に従事中に膝の痛みが悪化し,平成6年10月11日から同年12月10日まで約2か月間入院したことについての精神的苦痛に対する慰謝料のみが相当因果関係のある損害ということが相当である。 イ慰謝料について原告の上記精神的苦痛に対する慰謝料としては,本件にあらわれた諸般の事情を総合的に考慮すると,金100万円が相当である。 ウ弁護士 る損害ということが相当である。 イ慰謝料について原告の上記精神的苦痛に対する慰謝料としては,本件にあらわれた諸般の事情を総合的に考慮すると,金100万円が相当である。 ウ弁護士費用について金銭債務の不履行を理由とする損害賠償請求訴訟を提起するために要した弁護士費用は,一般的には,債務不履行による損害に含まれないと解されているが,少なくとも,当該債務が債権者の生命又は身体を保護することを目的とする場合には,同債務の不履行に基づく損害賠償請求については,不法行為に基づく損害賠償請求と同様に扱うのが相当である。したがって,安全配慮義務の不履行を理由とする本件損害賠償請求訴訟においては,弁護士費用も請求することができると解するのが相当である。 そして,本件訴訟の内容,難易度,審理経過及び認容額等に照らすと,原告が本件訴訟追行のため出捐した弁護士費用のうち20万円の範囲について,被告の債務不履行と相当因果関係のある損害と認める。 第4 結論以上のとおり,原告の請求は120万円及びこれに対する支払の催告がされた日の翌日である平成11年11月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限りで理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,仮執行宣言については事案に鑑みて相当でないからこれを付さないことにして,よって主文のとおり判決する。 宮崎地方裁判所民事第2部裁判官中村心
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